東京地方裁判所 平成6年(ワ)15028号 判決 1994年12月26日
アメリカ合衆国 ニューヨーク州
ニューヨーク市 フィフス アベニュー 一一〇七
原告
ザポロ/ローレン コンパニー
右副代表者
ビクター・コーエン
右訴訟代理人弁護士
松尾眞
右同
難波修一
右同
兼松由理子
右同
上野達夫
右同
内藤順也
右同
鳥養雅夫
東京都大田区山王四丁目一三番三号
有限会社ケートップス
被告
右代表者代表取締役
菊地康喜
右訴訟代理人弁護士
田中信人
主文
一 被告は、別紙被告標章1ないし3記載の各標章を含む標章を付した商品を販売してはならない。
二 被告は、別紙被告標章1ないし3記載の各標章を付した商品を廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成六年一〇月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
五 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
一 原告は、主文第一項ないし第四項と同旨の判決及び仮執行宣言を求め、請求原因として次のとおり述べた。
1 不正競争防止法に基づく請求
(一) 原告の営業及びその商品
原告は、「Polo」、「Polo by Ralph Lauren」、「POLO」、「Polo Ralph Lauren」、「POLO RALPHLAUREN」、ポロ競技者が馬上にある図形及びこれらを組み合わせた標章等を商標として付した衣料品、皮革製品、日用品、装身具、香水、眼鏡等の商品を総合的に製造、販売、ライセンスすることを業としており、「ポロ ラルフ ローレン」の呼び名のトータルファッションメーカーとして、全世界に著名な企業である。
(二) 原告の使用標章
原告は、別紙原告標章1(「Polo」の文字からなる標章)、同原告標章2(「Polo」の文字を大きく記載しこれを四角で囲み、その下段に「by Ralph Lauren」の文字を記載してなる標章)、同原告標章3(馬上にあるポロ競技者を描写した図形。通称「ポロプレイヤーマーク」)を原告の衣料品(紳士服、婦人服、スポーツウエア、ニットウエア等)、靴、鞄、ベルト等の皮革製品、装身具、香水、眼鏡等について、原告の商品を表示するものとして使用している。
原告の販売する衣料品に関して述べると、原告標章1は、原告の販売する特定のシャツ、セーター等の前面に刺繍、印刷されるという方法で使用され、原告標章2は、原告の販売するポロシャツ等の襟首部分の織ネームに付される、原告の販売する衣料品に付けられた紙製タグに付される、衣料品を一つずつ入れるビニール袋の前面に印刷されるという各方法で使用され、原告標章3は、原告の販売するポロシャツ等の左胸部分に刺繍されるという方法で使用されている。
(三) 原告の使用標章の周知性
(1) 原告は、一九六〇年代から、原告の製造、販売、ライセンスにかかる衣料品等ファッション商品に、「ポロ(Polo)」ブランドと称される別紙原告標章1ないし3の標章(以下、これらの標章を総称して「原告標章」という。)を付し、全世界に販売している。
(2) 日本においては、既に昭和四〇年代から、「ポロ(Polo)」ブランド商品が市場に普及していたが、特に昭和五一年に西武百貨店が独占的ライセンシーとなり、「ポロ(Polo)」ブランドを付した商品の製造、販売、ライセンスを開始し、以後多額の費用を投下し、全国的に店舗を展開するほか、広告宣伝活動を行い、その品質の向上に努めた結果、原告標章は、遅くとも昭和五九年には、原告の商品を示す標章として、我が国需要者の間で周知性を獲得した。
(四) 被告の営業
被告は、衣料品の企画、加工、製造販売及び輸出入等を目的とする会社である。
(五) 被告の使用標章
(1) 被告は、別紙被告標章1(「Polo」の文字を大きく記載し、その下段に小さく「British Brave Bros.」の文字を記載してなる標章)を織ネームに付して、これを商品の襟首に縫い付け、同被告標章2(馬上にあるポロ競技者を描写した図形)を左胸に刺繍して付し、更に同被告標章3(「Polo」の文字を大きく記載し、間隔を空けて、下に小さく「by」の文字と「British Brave Bros.」の文字を上下二段に記載してなる標章)を付した紙製タグを結び付けたポロシャツ、セーター及びトレーナーを販売している(以下、これらの三つの標章を総称して「被告標章」という。)。
(六) 原告標章と被告標章との類似性
(1) 被告標章1について
原告標章1は「Polo」の文字のみから構成されている。また、原告標章2については、「Polo」は周知標章であること、ラルフ・ローレンの名はポロのデザイナーとして著名のものとなっていたことから、「Polo」の部分及び「by Ralph Lauren」の部分のそれぞれが要部であると言い得る。
これに対し、被告標章1は、「Polo」の文字と「British Brave Bros.」の文字を上下二段に表示したものである。このうち、上段の「Polo」の文字は下段の「British Brave Bros.」の文字に比べてより大きくかつ太く書かれ強調されていること及び「British Brave Bros.」の文字が何を意味するかは一般には全く知られていないことに鑑みると、「Polo」の部分が取引者、需要者の印象、記憶、連想等を喚起する要部といえる。
したがって、原告標章1、2と被告標章1とはその全体又は要部において外観、称呼、観念を共通にし類似している。
(2) 被告標章2について
原告標章3は、馬上の人が棒状のものを右上方に振りかざすポロ競技者を描写したものである。これに対し、被告標章2も同様に、馬上の人が棒状のものを右上方に振りかざすポロ競技者を描写したものである。
原告標章3と被告標章2とを対比すると、馬上の人が棒状のものを右上方に振りかざすポロ競技者を描写した点で、外観上全くと言ってよいほど同一である。また、両者はともに著名標章としての「ポロプレイヤーマーク」と称呼され、「ポロ(Polo)」ブランド又は「ポロプレイヤーマーク」と観念される。
したがって、原告標章3と被告標章2とは類似している。
(3) 被告標章3について
原告標章1が「Polo」の文字のみから構成されていること及び原告標章2については、「Polo」の部分及び「by Ralph Lauren」の部分のそれぞれが要部であることは前記(1)のとおりである。
これに対し、被告標章3は、「Polo」の文字を大きく記載し、間隔を空けて、下に小さく「by」の文字と「British Brave Bros.」の文字を上下二段に記載してなる標章である。このうち「Polo」の文字が他の文字に比較して圧倒的に大きく太いこと、「Polo」の文字が真ん中に書かれ、その余の文字が下方に細く目立たない態様で書かれていること、「by British Brave Bros.」は、「ブリティッシュ ブレイヴ ブロスによる」という意味であって、商品表示というより付加的に付されたむしろ販売者の名称を表すものであること、「British Brave Bros.」が何を意味するかは一般には全く知られていないことに鑑みると、「Polo」の部分が被告標章3の要部であると言える。
したがって、原告標章1、2と被告標章3とはその全体又は要部において外観、称呼、観念を共通にし類似している。
(七) 混同のおそれ
被告が被告標章を付して販売している商品の種類は、ポロシャツ、セーター、トレーナーであり、いずれも原告の商品と共通し、いずれの商品も、小売店において、広く一般消費者を対象として販売されている。しかも、被告標章1は、襟首の織ネームに付される点で原告標章2と同一であり、被告標章2は、商品の左胸に刺繍して付されている点で原告標章3と同一であり、被告標章3は、商品に結び付けられた紙製タグに付される点で原告標章2と同様であり、いずれの被告標章も、その同一又は類似する原告標章と添付態様、添付位置、大きさが共通している。
その結果、被告の商品を市場で見かけたり購入したりした取引者、需要者からの問い合わせが、原告及びそのライセンシーである株式会社ポロ ラルフ ローレン ジャパンになされている。
仮に、被告標章1及び被告標章2から直接「ポロ バイ ラルフ ローレン ブランド」が看取されず、「ポロ ブリティッシュ ブレイヴ ブロス」ブランドが看取されるとしても、デザイナーズブランドの業界においては、主たる一部の名称を共通にする親子(兄弟)ブランドが存在するのが普通であるから、「馬上にあるポロ競技者を描写した図形」が共通であることを併せ考えると、被告の商品を原告の親子(兄弟)ブランドと誤認されるおそれがある。
以上によれば、被告標章を付した被告の商品は、原告標章を付した原告の商品と出所の混同を招来するおそれがある。
(八) 営業上の利益を害されるおそれ
被告標章を付した被告の商品が販売されることにより、ラルフ・ローレンのデザインにかかる商品として我が国も含めて世界的な信用を獲得してきた原告の商品のブランドイメージが傷つけられ、原告標章を付した原告の商品の販売が阻害され、原告は営業上の利益を害された。
(九) 故意又は過失
被告は、被告標章を付した被告の商品の販売が前記のとおりの不正競争となることを知りながら、又は、過失によりこれを知らないで、これを販売したものである。
なお、原告は、本件訴え提起前に、被告を債務者として、被告標章1ないし3の各標章を付した商品の販売の差止め等を求める仮処分の申立てをし(東京地方裁判所平成五年(ヨ)第二五一五号)、平成五年一一月二二日、右差止め等を認める仮処分決定が発せられたが、被告はそれにもかかわらず、右仮処分決定に違反して、被告標章1ないし3を付した商品を販売しているものである。
(一〇) 損害
被告は、平成五年一月から平成六年七月までの間に、被告標章1ないし3を付したポロシャツ、セーター及びトレーナーを販売したが、そのうちポロシャツの販売数は少なくとも一万枚を下らない。
ポロシャツの販売価格は一枚二五〇〇円を下らず、その利益率は少なくとも三〇パーセントはあるものと認められるから、被告が被告標章1ないし3を付した商品を販売したことによって挙げた利益は五〇〇万円を下らない。
したがって、右額が原告の被った損害と推定される。
(二) よって、原告は、不正競争防止法二条一項一号、三条、四条、五条、平成五年法律第四七号附則二条に基づいて、被告に対し、被告標章1ないし3を付した被告の商品の販売の差止め、廃棄を求めるとともに、原告の被った損害の一部として、金五〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成六年一〇月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 商標法に基づく請求
(一) 原告の商標権
原告は、次の商標権を有している(以下、「原告商標権」といい、その商標を「原告商標」という。)。
登録番号 第二四六八四二七号
出願日 昭和四八年九月二六日
出願公告日 平成元年八月八日
登録日 平成四年一〇月三〇日
商品の区分 第一七類(平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令一条別表の区分)
指定商品 被服、その他本類に属する商品
その構成は別紙原告商標目録記載のとおり
(二) 被告の行為
被告は、被告標章2がその左胸部分に付されたポロシャツ、セーター、トレーナーを初めとする衣料品を販売している。
(三) 原告商標と被告標章2との類似性
原告商標は、馬上の人が棒状のものを右上方に振りかざすポロ競技者を描写したポロプレイヤーマークと「RALPHLAUREN」の文字を二段に並べたものである。前記のとおりポロプレイヤーマークのデザインが著名なものであること、「RALPHLAUREN」の文字の大きさは小さいものとは言えず、その名前はポロのデザイナーとして周知のものであったことに鑑みると、原告商標においては、ポロプレイヤーマークの部分と「RALPHLAUREN」の部分とが、ともに要部であると言い得る。
被告標章2は、ポロプレイヤーマークと酷似する図形の標章であり、ポロプレイヤーマークを要部とする原告商標と被告標章2とは類似する。
(四) 損害
被告は、平成五年一月から平成六年七月までの間に、被告標章2を付したポロシャツ、セーター及びトレーナーを販売したが、その販売によって被告が挙げた利益は五〇〇万円を下らない。したがって、右額が原告の被った損害と推定される。
(五) よって、原告は、被告標章2についての不正競争防止法に基づく請求と選択的に、商標法三六条、三七条に基づいて、被告標章2を付した被告の商品の販売差止め、廃棄を求めるとともに、民法七〇九条に基づき、原告の被った損害の一部として、金五〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成六年一〇月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告及び被告訴訟代理人は、適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しないし、最初になすべき口頭弁論期田に陳述したものとみなすことのできる答弁書その他の準備書面も提出しないから、請求原因1(一)ないし(一〇)の事実を明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。
右事実によれば、被告は、被告標章1ないし3を付した商品のみならず、被告標章1ないし3を含む標章を付した商品をも販売するおそれがあるものと認められる。
三 以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第二九部
(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 高部眞規子 裁判官 大須賀滋)
被告標章 1
<省略>
被告標章 2
<省略>
被告標章 3
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原告標章 1
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原告標章 2
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原告標章 3
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原告商標目録
<省略>