東京地方裁判所 平成6年(ワ)15522号 判決 1994年12月12日
原告
吉田隆雄
被告
株式会社ひのき会
右代表者代表取締役
坂井稔
右訴訟代理人弁護士
齋藤則之
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成六年八月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和五七年九月二四日から被告に雇用されたが、被告は、昭和五八年二月一八日、原告を正当な理由なく解雇し、かつ、解雇予告手当を支払わなかった。
2 原告は、違法な右解雇により次の就労先が決まるまでの二か月間、賃金(月額二二万円)相当額の得べかりし利益(合計四四万円)を失い、かつ、多大の精神的苦痛を受けたのであって、右精神的苦痛に対する慰謝料としては三四万円が相当である。
3 よって、原告は、被告に対し、労働基準法二〇条の解雇予告手当二二万円と、不法行為による逸失利益四四万円及び慰謝料三四万円、以上合計一〇〇万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成六年八月一六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
(認否)
1 請求原因1のうち、原告が昭和五七年九月二四日から昭和五八年二月一八日まで被告に雇用されたことは認めるが、その余の事実は否認する。
原告は、昭和五八年二月一八日、被告を円満退職したものである。
2 請求原因2の事実は否認し、損害額は争う。
(主張)
1 仮に原告が解雇予告手当の請求権を有するとしても、右昭和五八年二月一八日から二年が経過したのであるから、右請求権は時効により消滅した(労働基準法一一五条)。
2 仮に原告が不法行為に基づく逸失利益・慰謝料請求権を有するとしても、右昭和五八年二月一八日から三年が経過したのであるから、右請求権は時効により消滅した。
3 そこで、被告は、本件訴訟において、右各消滅時効を援用する。
三 被告の主張に対する認否及び原告の反論
(認否)
右主張は争う。
(主張)
原告は、被告に対し、平成四年六月四日、賃金不払いの件と題する書面により金員の支払を請求しており、また、解雇された後、断続的に右解雇の無効も主張してきたのであるから、時効は完成していない。
四 原告の反論に対する被告の認否
原告が平成四年六月四日被告に対し書面で金員の支払を請求したこと(ただし、損害賠償金九〇万円の請求)は認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。
理由
一 請求原因1のうち、原告が昭和五七年九月二四日から昭和五八年二月一八日まで被告に雇用されたことは当事者間に争いがない。
二 被告は、消滅時効の主張をしているので、原告の請求原因についての判断は暫くおき、まずこの点について検討する。
原告は、昭和五八年二月一八日、被告に解雇されたと主張しているのであるから、その請求にかかる解雇予告手当請求権は、仮にこれが発生したものとしても、二年の経過をもって時効により消滅したことが明らかであり(労働基準法一一五条)、また、違法解雇(不法行為)による逸失利益・慰謝料請求権も、仮にこれが発生したとしても、三年の経過をもって時効により消滅したことが明らかである(民法七二四条)。そうすると、原告の本件請求は排斥を免れないといわなければならない。
もっとも、原告は、平成四年六月四日、被告に対し、賃金不払いの件と題する書面により金員の支払を請求したほか、断続的に右解雇の無効も主張してきたのであるから、時効は完成していないと反論している。しかし、右書面による請求は、その主張から判断すると、右消滅時効完成後の請求であることが明らかであるから、その請求内容を検討するまでもなく、時効中断の事由とはならないし、また、仮に原告が被告に対して断続的に解雇無効の主張をしていたとしても、そのことが本件請求債権について時効の完成を妨げる事由となるものではない(なお、原告が平成六年八月三日に至って本件訴えを提起したことは当裁判所に顕著である。)。
そして、被告が本件訴訟において右各消滅時効を援用したことは当裁判所に顕著である。
三 よって、原告の本件請求は、その余の点について触れるまでもなく理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 小佐田潔)