東京地方裁判所 平成6年(ワ)19468号 判決
原告
株式会社尚徳
右代表者代表取締役
河西璋八
右訴訟代理人弁護士
内田清
右訴訟復代理人弁護士
東條正人
原告補助参加人
インターリース株式会社
右代表者代表取締役
安田昭治
右訴訟代理人弁護士
山下俊六
柘賢二
柘万利子
二村浩一
被告
日本火災海上保険株式会社
右代表者代表取締役
廣瀬淸
右訴訟代理人弁護士
野口政幹
鈴木祐一
西本恭彦
水野晃
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用のうち、補助参加によって生じた分は補助参加人の負担とし、その余の分は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 被告は、原告に対し、金三億四二二九万〇二五七円及びこれに対する平成六年三月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用の被告の負担と仮執行の宣言
第二 事案の概要
一 本件は、パチンコ店を所有する原告が、被告を保険者としてパチンコ店に火災保険を掛けていたところ、同店が火災にあったことから、保険金の支払いを請求した事案である。
二 争いのない事実
以下の事実は、当事者間に争いがない。
1 原告は、被告との間で、平成三年一二月二二日に、保険代理店を営む石川敏夫(以下「石川」という。)を通じて、「有限会社ワイエスケイ企画」の名義で、原告所有の群馬県邑楽郡邑楽町大字中野一三一〇番地一に所在するパチンコ店「レビン」(以下「本件パチンコ店」という。)につき、次の内容の普通火災保険契約を締結した。
(1) 保険金額 三億三五〇〇万円
(2) 保険の目的 本件パチンコ店内のパチンコ機械、営業用什器備品・補給装置・コンピュータ・ネオン、内部造作・室内装、商品、家財一切
(3) 保険期間 平成三年一二月二二日から一年間
(4) 保険料 一ヶ月八万七〇二〇円
(5) 支払時期 保険金の支払時期は、催告の日から三〇日以内とする。
その後、右保険は同一内容で更新され、本件パチンコ店は、平成四年一二月二二日から一年間についても付保された(右更新後の保険契約のことを「本件第一の保険契約」という。)。
2 原告は、被告との間で、平成五年一二月一六日に、石川を通じて、「有限会社ワイエスケイ企画」の名義で、本件パチンコ店につき、次の内容の保険契約二つを締結した(以下において、この二つの保険契約を合わせて、「本件第二の保険契約」という。)。
(一)(1) 保険の種類 店舗総合保険
(2) 保険金額 二億二〇〇〇万円
(3) 保険の目的 本件パチンコ店
(4) 保険期間 平成五年一二月一六日から平成六年一二月一六日まで
(5) 支払時期 保険金の支払時期は、催告の日から三〇日以内とする。
(二)(1) 保険の種類 普通火災保険契約
(2) 保険金額 一億四五〇〇万円
(3) 保険の目的 本件パチンコ店内のパチンコ機械、営業用什器備品・補給装置・コンピュータ、ネオン、内部造作・室内装
(4) 保険期間 平成五年一二月一六日から平成六年一二月一六日まで
(5) 支払時期 保険金の支払時期は、催告の日から三〇日以内とする。
3 本件第一、第二の保険契約ともに、保険契約者及び被保険者の名義はいずれも「有限会社ワイエスケイ企画」であるが、右商号の有限会社は存在せず、原告が実質的に被保険者である。
4 原告は、経営不振のため、本件パチンコ店を平成五年六月二〇日から休業していたが、本件パチンコ店は、平成五年一二月二〇日午前三時三〇分頃、火災に遭った(以下「本件火災」という。)。
5 原告は、平成六年二月一四日に被告に対し、保険金請求の前提となる書類の一部を提出して、保険金支払いの催告をした。
6 原告は、本件第一の保険契約に基づく保険金請求権につき、株式会社トーショー(以下「トーショー」という。)のために質権を設定している。
また、補助参加人は、トーショーに対する債権の担保のため、トーショーから、右質権について転質の設定を受けている。
三 本件の争点
1 本件火災の原因
(一) 原告
本件火災の原因は不明である。
なお、原告は、本件パチンコ店を平成五年一二月一五日に飯島保(以下「飯島」という。)が代表者である株式会社アイ・ティー・エムに月額二五〇万円で賃貸したところ、右会社が、自己の過失により火災になった場合に備えて火災保険を付けることを提案した。そこで、原告は、石川に要請したところ、従来どおり、有限会社ワイエスケイ企画の名義で保険契約をするように示唆されて本件第二の保険契約を締結した。その後、飯島が、夜間に本件パチンコ店の手入れをしているときに、原告から保険金を取得する意図で放火したか、又はたばこの火の不始末等により失火させたことが考えられる。
(二) 被告
本件火災は、原告の意を受けた者が故意にした放火によるもので、本件はモラルリスクケースに該当する。
すなわち、本件火災現場の状況に照らして本件パチンコ店に関連を有する者が放火した蓋然性が著しく高いこと、原告は、本件火災当時、合計で約九億円近い債務をトーショー等に対して負っていたこと、原告は本件パチンコ店経営を休業した後は、これを売りに出し、株式会社アイ・ティー・エムに賃貸していないこと、本件パチンコ店の開店準備行為をすることなく、本件第二の保険契約を締結したこと、右契約は、本件第一の保険契約と重複すること、本件火災は、本件第二の保険契約の締結から四日後、かつ、本件第一の保険契約の終期の二日しかない日時に発生していること、原告代表者は、平成五年一一月ころ、飯島に対して本件パチンコ店の放火の準備行為をしたことを話したり、放火を働きかけたり、さらに、火災の前日の同年一二月一九日に、飯島に対し本件パチンコ店への入室時間を確認しており、原告代表者の本件火災の前後の行動に不審な点が多々あることから、右事実が優に推認される。
2 保険契約の失効又は公序良俗違反の有無
(一) 被告
保険契約者である原告の代表者が、飯島に放火を慫慂するなどして、危険を著しく増大させたから、本件第一の保険契約は、商法六五六条に基づき、右慫慂をした平成五年一一月頃に失効した。また、原告において保険金を不正に取得する目的があったことや、前記の事情から、本件第二の保険契約は、公序良俗に反して無効である。
(二) 原告
否認する。
3 保険金の額
(一) 原告
本件パチンコ店の本件火災による焼失時の価格は次のとおり合計三億四二二九万〇二五七円である。
① 建物、内装、設備 一億五四一一万〇三五三円
② ネオン 九七〇万二六〇〇円
③ パチンコ機械 五一四〇万二一五〇円
④ コンピュータ 一億二七〇七万五一五四円
(二) 被告
争う。
4 保険金請求権の移転等
(一) 被告
原告は、平成九年六月一九日付けの内容証明郵便をもって、質権が設定されている保険金以外のすべての保険金を佐々木雅健に譲渡し、その旨を通知した。
また、原告には、質権の設定された本件第一の保険契約上の保険金の受領権限はない。
(二) 原告
原告と佐々木雅健との間の保険金請求権の譲渡契約は、平成九年七月一五日に合意解約され、同年八月二七日内容証明郵便をもって被告に対してその旨を通知した。
また、保険金請求権に質権が設定されていても、原告は、被告に対して給付請求をし得る。
第三 争点に対する判断
一 本件火災の原因について
1 乙一によれば、本件火災の消防後に現場検証をした館林消防本部予防課保安係の斉藤消防指令補は、本件パチンコ店のホール内の焼損状況から本件火災の出火場所を、本件パチンコ店の西側出入口から東に約三メートル、北側壁面から約一メートルの所に約一メートルの高さで山積みされていた不用物(パチンコ台一二、三台、新聞雑誌等)と断定したこと、右不用物の焼け跡の中央部から東寄りの位置に裏返しとなった灰皿が存在するが、右灰皿内にはたばこの吸殻は見分されなかったこと、右出火箇所内にあった約三〇センチメートルの高さに束ねられた新聞紙及びウーロン茶の空缶の浮遊検査をしたところ、いずれからも油等は確認できなかったこと、このような現場の状況や関係者の供述から、斉藤消防指令補は、本件出火の原因として、放火、たばこ及び電気関係が考えられるとして、その一つ一つにつき検討し、右不用物存在場所には電気を使用する器具がないことから、電気関係が原因であることを否定したこと、たばこについては、飯島が右消防本部の調査時に灰皿を不用物上に置き、出火当日たばこを吸いながら作業をしていたと供述していることから、出火原因の可能性を認めつつ、なお、灰皿が裏返しとなっていたこと、たばこの吸殻が見分されなかったこと、表面の新聞紙が主に片側面だけが炭化し深い炭化箇所が見分されないこと、飯島がたばこを買いに行った際に短時間に出火していることから、たばこが原因であることも否定したこと、放火については、本件火災当時、本件パチンコ店の西北角にある事務所の扉の鍵が開いていたことから外部からの第三者の進入は可能としつつ、飯島に放火の動機が見あたらないことから、これも否定し、自然発火も、それに至る物件が見あたらないとして否定し、結局、本件火災の原因は不明であるとしていることが認められる。
2 次に、乙一、四、証人飯島によれば、飯島は、本件出火当時の本人の行動につき、館林消防本部及び被告代理人野口弁護士に対する説明並びに証人尋問において、いずれも、「本件パチンコ店には一二月二六日から二八日にかけて開店する予定であり、同月一八日から店内のパチンコ機種の整理作業を行っていた。同日作業をしたときに、パチンコ台及び新聞雑誌等を山積みした。一九日の午後一一時ころに本件パチンコ店に来て機械の調整作業を行っていた。途中、二〇日午前二時頃にパトカーに乗った警察官が訪れ、約一五分程度話していた。警察官が帰ってから約一時間作業したが、たばこが切れたので、同日午前三時頃、本件パチンコ店から約五〇メートル西側の自動販売機に買いに行った。右外出するときは、店内の明かりは点けていたし、鍵は事務所の扉部分のみ開けていた。自動販売機の存在する場所には、畳の敷かれた部屋があり、そこでコーヒーを飲んだり新聞等を見たりして約三〇、四〇分休憩した後に本件パチンコ店に戻ったら、店の明かりが消えていた。そうする内に非常通報により確認のために来た警備会社セコムの係員と行き合い、本件火災を知った。なお、飯島はたばこ好きで、一日キャビンを五、六箱は吸い、時々食わえたばこをすることがある。」と供述又は証言していることが認められる。
3 乙二一によれば、野々村鑑定事務所の野々村代表は、本件パチンコ店内にあった不用品の除去後の床の焼け具合も考慮すると、出火場所は右不用品のあった場所であると断定できるとし、出火原因につき、電気と自然発火についてはその要素はないことから消極的に解し、たばこについても、火のついた吸い殻が束ねた紙類の上に直接落下、接触したとしても発火して延焼する可能性が通常極めて低く、吸い殻のみが燃え尽きて立ち消える公算のほうが大であることや、前示の斉藤消防指令補が指摘する点も考慮して、たばこが原因であることを否定し、消去法的に、放火の可能性のみが残り、しかも、事務所の出入口の扉しか開いていなかったことから、利害関係のない第三者が侵入しての放火の可能性は極めて低いと鑑定していることが認められる。
4 以上の資料に基づき検討すると、本件火災の原因としては、出火場所における灰皿の存在から飯島によるたばこの火の不始末から生じた失火の可能性と、付近に火の気のないことから、利害関係の有する第三者による放火の可能性が考えられるが、他の原因は考え難いというべきである。このうち、たばこの火の不始末については、飯島がキャビンを吸っているところ、たばこのフィルタの焼跡すら見分されていないから、その可能性は極めて低く、結局、放火の可能性が極めて高いということができる。
二 原告代表者の関与の有無
1 甲五、一五の1、2、原告代表者によれば、原告代表者は、平成五年一二月二〇日午前四時ころ、山梨県の自宅にいたところ、飯島及びセコムからの電話による通報で本件パチンコ店が火災に遭っていることを知り、急いで高速道路を走り、午前七時三〇分ころ現場に駆けつけたことが認められ、原告代表者自身が本件パチンコ店を放火又は失火していないことは明らかである。
2 被告は、原告代表者が第三者に指示して本件パチンコ店を放火させたと主張するが、右事実を認めるに足りる直接の証拠はない。そこで、本件火災を巡る間接的な事実を検討する。
(一) 原告の財産状況
乙四、一九、二〇の1ないし3、証人飯島、原告代表者(一部)によれば、原告は、飯島に対して一三〇〇万円程度の債権を有し、これを弁済するように求めていたが、飯島は右の外に米沼憲雄(以下「米沼」という。)から六〇〇〇万円程度借金する等の状態で、原告に対する弁済能力がなかったこと、このため、原告代表者は、平成五年六月頃、飯島に米沼を紹介してもらい、借金を申し込む等した結果、米沼から手取りで二二五〇万円を借り受ける等し、その担保として、米沼のいとこである福山一夫に本件パチンコ店の土地建物の権利証、印鑑証明書、営業許可証、廃業届けを交付したこと、原告代表者は、右二二五〇万円から一二〇〇万円を原告に投資し、その後も米沼から三〇〇万円ないし五〇〇万円程度の金員を短期で借り受けていたこと、特に平成五年六月当時は、原告はパチンコ店を閉店していて、経常収支が赤字であり、経営状態が極めて悪かったことが認められる。右認定に反する原告代表者の代表者尋問における供述は、非論理的で採用し得るものではない。
そうすると、原告は、平成五年六月頃からは、経営資金に窮していたものというべきである。
(二) 飯島への賃貸又は再開の有無
原告代表者は、代表者尋問において「平成五年六月に本件パチンコ店を閉店した後に、その売却先を探したが見つからず、岡部商事を介して業者と賃借の話を進めていた。その旨を飯島に話したところ、飯島から、賃貸に供した場合、買主が現れても、借主に相当の金を渡さなければ出ていかないが、その点、飯島において賃借すれば、売買の話が纏まると直ちに出ていくし、営業しているほうが店を売り易いと言われて、飯島に賃貸することとした。甲一の賃貸借契約書は、このための契約書であり、保険契約締結を目的としたものではない。被告による調査のときに飯島に委託依頼した旨を述べたのは、飯島から、本件パチンコ店を賃借していることが判明すると債権者が押し掛けてくるので賃貸借契約書を外部に出さないで欲しいと言われたからである。」と供述し、その陳述書(甲五)もこれに沿う。
他方、飯島は、証人尋問において「平成五年一一月ころ、原告代表者から本件パチンコ店の開店の話を持ちかけられ、同年一二月にこれを承諾した。話の内容は、飯島がパチンコ台の調整、パチンコ玉の磨き及び従業員の手配を行い、原告代表者が景品の手配、開店広告等を行うというものである。開店により得た利益は、原告のトーショーに対する毎月二五〇万円の金利の支払いに優先して充て、経費を除いた利益は原告に渡すとの内容であった。甲一の賃貸借契約書は、保険契約締結を目的としてものである。」と証言し、乙四(飯島の被告代理人に対する供述録取書)はこれに沿う。
よって検討すると、パチンコ店を再開するためには、景品の調達等のために相当の先行投資を要するところ、乙二、九、原告代表者によれば、飯島は原告らに対して多額の借金を負っていて資金的に窮しており、かつ、原告代表者はそのことを認識していたこと、原告代表者は、被告による調査のときに、本件パチンコ店を飯島に賃貸したことを一切説明せず、むしろ、右飯島証言に沿う説明を行い、甲一の賃貸借契約書も提示していないことが認められる。また、証人飯島によれば、飯島は、パチンコ台の調整を行っていたのみで、景品の調達等の準備行為を一切行っていなかったことが認められる。さらに、原告代表者が供述する条件で飯島に賃貸するのであれば、賃貸借契約に、原告が本件パチンコ店を第三者に売却した場合、借主は直ちに本件パチンコ店を明け渡すとの条項が挿入されるのが通常と考えられるところ、甲一の賃貸借契約書にはそのような条項が存在しない。また、甲一一、一二、証人飯島、原告代表者によれば、本件火災の後に、原告代表者と飯島とは、川田弁護士事務所で、同弁護士からできるだけ開業準備をしていたことを示す証拠を収集するように言われ、関係者からの原告宛ての報告書の雛形を示され、これに基づき、原告代表者は、平成六年一月一六日、カサイ酒販を訪ねて甲一一の証明書の作成を依頼したが、これらの報告書あるいは証明書は原告宛てのものであって飯島宛てではないことが認められる。以上の事実は、いずれも原告が主張する飯島に対する賃貸借契約の存在に否定的であり、却って、右飯島証言を裏付けるものである。そうすると、右飯島証言を採用し、甲一の賃貸借契約書は保険契約締結を目的としたものと認定すべきであり、右原告代表者の供述及びこれに沿う甲五は採用しがたく、他に、飯島に対する賃貸借契約の成立を認めるに足りる証拠はない。
(三) 本件第二保険契約締結の経緯
原告代表者は、代表者尋問において「飯島は、賃貸借契約締結に当たり、本件パチンコ店に何かがあったときは補償することができないので、自分が保険料を支払うから、自分名義で火災保険に入りたいといって、石川の事務所に自ら電話し、また、甲一の賃貸借契約書にも署名押印した、しかし、石川は、本件パチンコ店が原告名義の土地建物であることから、飯島名義では保険加入はできないと断り、結局、有限会社ワイエスケイ企画の名で本件第二の保険契約を締結した。保険金額は飯島と石川が相談して決めた。」と供述し、その陳述書(甲五)はこれに沿う。
他方、飯島は、証人尋問において「原告代表者は、本件パチンコ店に飯島の名で保険を掛けることを希望し、そのために必要であるとして、甲一の賃貸借契約書に署名押印を求めた。原告代表者は、重複保険を掛けた理由につき、飯島に対して、本件第一の保険契約上の保険金請求権にはトーショーのために質権が設定されていて原告に保険金が入らないことから、本件第二の保険契約を締結したいと話していた。」と証言し、乙四はこれに沿う。
よって検討すると、前示のとおり本件パチンコ店の飯島に対する賃貸借契約が認め難いこと、飯島が失火した場合等の責任を追及されるのに備えるのであれば、甲一の賃貸借契約書上の借主である株式会社アイ・ティー・エム名で損害賠償保険を掛けるのが通常と考えられること、既に本件第一の保険契約が締結されていることから、飯島が失火しても原告はその損害を右契約上の保険金で補填することができ、さらに本件第二の保険契約を締結する実益に乏しいこと、このことから、原告が重複して本件第二の保険契約を締結した理由は原告自身が保険金を得るためであったと推認されることから、右飯島の証言どおり、原告は、本件第一の保険契約上の保険金請求権に質権が設定されていて原告に保険金が入らないことから、本件第二の保険契約を締結したものと認めるのが相当である。
(四) 本件火災前後の原告代表者の言動
飯島は、乙四の供述録取書及び証人尋問において「原告代表者は、本件パチンコ店の開店の話をしているときに、甲西町にあるパチンコ店が火災にあって保険金が出た話を行い、『俺もジェットヒーターを持って行ってレビンに火をつけようかな』とか、『ダルマストーブを蹴飛ばせば燃えるんじゃないかな』と真剣に話し、また、飯島に『やってくれないか』と持ちかけた。さらに、それまでは無かったのに、平成五年一二月一九日の昼頃、原告代表者から、当日の飯島の入店予定時間を尋ねると共に、入店時に連絡するようにと電話があった。そこで、当日午後一〇時頃、乗用車の中から携帯電話で、原告代表者にこれから入店する旨を通知した。」と供述し、及び証言する。また、乙一九、証人得丸泰孝によれば、米沼は、平成七年六月一五日に、被告代理人野口弁護士に対し、「原告代表者は、米沼に対し、平成五年一二月六日を過ぎた頃に、近い内に纏まった金の入る目途がついてので借金を返済できると話し、また、平成六年二月初め頃に、『実は、保険金が入る。火を点けたのは私だ。保険金は二月頃入るから、それまで待ってくれ。』と話した。さらに、同月末頃に、原告代表者から、飯島を追い込んで山梨にいられないようにしてくれ、協力してくれたら保険金の中から一億円くらいの礼をするからと言われた。」と供述したことが認められる。そして、飯島も、証人尋問においてこれに沿う証言をし、乙四もこれに沿う。
他方、原告代表者は、代表者尋問及び甲五の陳述書において、飯島は米沼に対しこれらの話をしたことをすべて否定する。
そこで検討すると、まず、甲四の1、2、一八によれば、米沼は、右供述をした当時、原告代表者から債務不存在確認訴訟等を提起され、訴訟の係属中であったことが認められ、当該訴訟では原告代表者と敵対関係にあったということができるが、なお、原告代表者に対して債権を有していて、原告が保険金を得ることは共通の利益となるのであり、被告代理人に対し原告の保険金請求が否定されるような事実を創り上げて供述するとは思えないことから、採用し得るものである。また、飯島は、自己が失火責任を問われないために虚偽の事実を証言していると考えられなくはないが、仮に原告から失火責任を問われた場合は、本件第二の保険契約はそのために締結したものであると主張し、むしろ、右契約に基づく保険金には原告と利害を共通するものとなることが考えられ、飯島も、虚偽の証言をすべき理由に欠けるということができ、飯島の右証言及び米沼の右供述を採用すべきである。
3 右認定事実及び前示争いのない事実によれば、原告代表者は、原告の経営が苦しくなって数ヶ月を経た平成五年一一月ころに、飯島に対して本件パチンコ店の放火をほのめかす発言をし、本件第一の保険契約の付保期間が満了する一週間前の同月一五日に、右契約上の保険金請求権に質権が設定されていて原告に保険金が入らないことから、本件第二の保険契約(うち保険金額が一億四五〇〇万円の普通火災保険契約は、本件第一の保険契約と重複する。)を申し込み、翌日の一六日にこれを締結したのである。そして、本件第一の保険契約の付保期間が満了する二日前であり、かつ、本件第二の保険契約が締結されてから三日後に本件火災が発生しており、その時間的な関係から、本件火災が保険金取得を目的として発生したとの疑義を強く抱かしめる。しかも、原告代表者は、本件火災の日の前日である同月一九日には、飯島に本件パチンコ店の入店時間を問い合せ、本件火災の後には、米沼に自己が本件火災に関与したことを話しているのである。さらに、証人飯島及び原告代表者によれば、原告は、飯島にパチンコ台の調整をさせながら、その他の開店準備については、内装の見積もりを取ったことを除き、具体的に行っていないことが認められる。
このような事実関係及び前示認定判断のとおり本件火災は放火による可能性が極めて高いことから、原告代表者は、保険金取得を目的として、本件パチンコ店の放火を第三者に依頼し、その第三者が放火を実行したものと考えられなくはない。もっとも、乙一、証人飯島によれば、飯島及びセコム株式会社の担当者共に、本件火災当時、本件パチンコ店の付近に不審な第三者や自動車等の存在を確認していないことが認められ、右事実関係のみから、直ちに原告代表者が放火を第三者に依頼し、その第三者が放火を実行したものと断定するのは困難と言わなければならない。
三 保険契約の失効又は公序良俗違反の有無
右二の2に示した事実関係、特に、飯島に対する本件パチンコ店の放火をほのめかす等の発言、本件第二の保険契約締結の目的及びうち一億四五〇〇万円分が本件第一の保険契約と重複する事実、本件火災の発生日時と本件第一の保険契約の付保期間が満了日及び本件第二の保険契約の締結日との関係からすれば、原告は、本件第二の保険契約を保険金の不正取得を目的として締結したものであると推認することができる。そして、保険会社がこのような目的で締結された火災保険の支払いに応じることは保険制度の悪用を許し、いたずらに保険事故によって利益を得ようとする射幸心を助長することにもなるのであって、保険第二の保険契約は公序良俗に反して無効というべきである。
また、本件第一の保険契約についても、保険契約者である原告の代表者が、飯島に放火を慫慂するなどして、危険を著しく増大させたということができ、右契約は、商法六五六条に基づき、右慫慂をした平成五年一一月頃に失効したものというべきである。
四 そうすると、原告の本件請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官南敏文)