東京地方裁判所 平成6年(ワ)21208号 判決 1998年3月20日
東京都小平市小川町一丁目三三〇番地の六
原告
株式会社エー・ユー・イー研究所
右代表者代表取締役
安達義雄
右訴訟代理人弁護士
中山徹
同
中薗繁克
群馬県邑楽郡大泉町大字吉田一四一九番地
被告
中央電子工業株式会社
右代表者代表取締役
山崎知寿
右訴訟代理人弁護士
高村一木
同
野上邦五郎
同
杉本進介
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金一億円及びこれに対する平成六年一一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
原告は、主として電子機器及び音響機器の部品の開発研究並びに製造販売を業務とする会社であり、被告は、各種音響機械器具及び同部品の製造販売を業務とする会社である。
2 原告の実用新案権
原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有していた。
(一) 考案の名称 カートリッジ
(二) 出願年月日 昭和五四年八月三一日
(三) 出願公告年月日 昭和六二年八月四日
(四) 出願公告番号 実公昭六二-三〇三八三号
(五) 登録年月日 昭和六三年五月一六日
(六) 実用新案登録番号 第一七二八九二六号
3 本件実用新案権の登録請求の範囲
本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲は、別紙実用新案公報(以下「本件公報」という。)の該当欄記載のとおりである。
4 本件考案の構成要件(分説)
(一) 発電機構が内蔵され、前記発電機構に連係する伝達子を有したカートリッジ本体に、
(二) カンチレバー用凹所内に揺動自在に突出するカンチレバーを保持した針ホルダが嵌着され、
(三) 前記伝達子が前記カンチレバーに当接せしめられるカートリッジであつて、
(四) このカートリッジは、合成樹脂で形成された針ホルダ1aのカンチレバー用凹所3aの一端壁に可撓性を有し、且先端に針17aが埋設されたカンチレバー5aが同時成形され、
(五) 前記カンチレバー5aは細手の基部5bと、針17aが埋設され、かつ基部5bより太い先端部5cと、前記基部5bより太く前記先端部5cより細く前記伝達子と当接可能な伝達子当接部5eとを有してなることを特徴としたカートリッジ。
5 本件考案の作用効果
(一) 本件考案においては、針と共にカンチレバーを針ホルダに同時成形するから、針をカンチレバーに付設する作業、針ホルダにダンパを埋設する作業及び前記ダンパにカンチレバーを侵入させ保持させる作業が省かれるので、<1>部品点数を低減するから材料コストを低廉にでき、<2>製造工数を大幅に削減するから組立性が著しく良好となり、製造が容易で量産性に富み、<3>材料コストを低減すると共に量産性を向上できるから、大幅なコストダウンが可能となり汎用性を増大できる。
(二) カンチレバーの先端部を次第に太くなるように形成し、針を有する先端部の質量を大にしたもので、合成樹脂によりカンチレバーを形成しても先端部の振動性を充分に押さえ得る。
6 被告の行為
被告は、昭和六〇年一月ころから現在に至るまで、別紙目録記載のカートリッジ(以下「被告製品」という。)を製造販売している。
7 本件考案と被告製品との対比
(一)(1) 被告製品は、別紙目録の「構造の説明」(1)ないし(3)記載のとおりの構成を有するが、右(1)ないし(3)の構成は、本件考案の構成要件(一)ないし(三)をそれぞれ充足する。
(2) 被告製品は、別紙目録の「構造の説明」(4)記載のとおりの構成を有するものであるが、本件考案の構成要件(四)における「針17aが埋設されたカンチレバー5aが同時成形され」との文言は、「カンチレバー5aと針ホルダ1aの同時成形のときに針17aも同時に埋設される」と限定して解釈すべき必然性はなく、カンチレバーと針ホルダの同時成形のときに、針が同時に埋設される場合もその前後に埋設される場合も、いずれも含まれるものと解すべきである。
よって、被告製品は、本件考案の構成要件(四)を充足する。
(3) 被告製品は、別紙目録の「構造の説明」(5)ないし(7)記載のとおりの構成を有するものであるが、被告製品も、細手の基部5bより太い先端部5cと、基部5bより太く先端部5cより細く伝達子と当接可能な伝達子当接部5eとを有してなるカートリッジであるから、本件考案の構成要件(五)を充足することは明らかである。
(二)(1) 被告製品は、針と共にカンチレバーを針ホルダに同時成形するものと評価することができるものであり、針をカンチレバーに付設する作業が省かれるといって差し支えないものである。したがって、被告製品も、針をカンチレバーに付設する作業が省かれるという本件考案と同一の効果を有する。
(2) 被告製品は、カンチレバーの先端部を次第に太くするよう形成されているため、「先端部の振動を押さえ得る」という本件考案と同様の作用効果を有していることな疑いの余地がない。
(三) よって、被告製品は、本件考案の技術的範囲に属する。
8 被告の責任等
被告は、被告製品を製造販売することが本件実用新案権を侵害することを知り、又は知り得たのに過失によりこれを知らないで、被告製品を製造販売したものであるから、被告は、原告の蒙った損害を賠償する責任がある。
9 原告の蒙った損害
(一) 被告は、昭和六二年八月四日から平成六年八月三一日までの間、次のとおり少なくとも総売上高三二億四〇万円相当の被告製品を製造販売した。
(1) 昭和六二年八月四日から同六三年二月末まで
数量 二九五万個 売上高 二億一二四〇万円
(2) 昭和六三年三月一日から同年一二月三一日まで
数量 八〇〇万個 売上高 五億七六〇〇万円
(3) 昭和六四年一月一日から平成六年八月三日まで
数量 三三五〇万個 売上高 二四億一二〇〇万円
(二) 被告は、少なくとも右売上高合計の三〇パーセントにあたる九億六〇一二万円の利益を上げているので、原告は少なくとも右金額と同額の損害を蒙ったものと推定される。
10 結語
よって、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償として、右損害金の内金一億円及びこれに対する不法行為の後であり訴状送達の翌日である平成六年一一月一九日かち支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし4は認める。同5については、原告が主張する本件考案の作用効果の趣旨が本件明細書に記載されていることは認める。
2 請求原因6のうち、被告が別紙目録記載のカートリッジを昭和六〇年一月ころから同六三年三月ころまで製造販売していたことは認めるが、同六三年四月以降も製造販売しているとの点は否認する。
3 請求原因7(本件考案と被告製品との対比)について
(一)(1) 同7(一)(1)は認める。
(2) 同7(一)(2)は争う。
被告製品では、針ホルダ1aとカンチレバー5aが同時成形された後、カンチレバーの先端の針穴に針を圧入して固定しているのであるから、被告製品は本件考案の構成要件(四)を充足しない。
(3) 同7(一)(3)は争う。
本件考案の構成要件(五)における「より太い」「より細い」とは、別紙目録第10図のように断面積の大小のみを意味するのではなく、先端部5cが伝達子当接部5e「より太く」とは、先端部5cが伝達子当接部5e「より質量も大」であることを伴う場合をいい、それ以外の場合は含まないと解されるべきである。
被告製品においては、別紙目録の「構造の説明」(7)記載のとおり、先端部5cは伝達子当接部5eよりも体積は少なく、したがって質量も少ないから、本件考案の構成要件(五)を充足しない。
(二) 同7(二)は争う。
4 請求原因8及び9は争う。
三 被告の主張
1 構成要件(四)の非充足性
構成要件(四)における「針17aが埋設されたカンチレバー5aが同時形成され」との趣旨は、その文言自体から、カンチレバー5aと針ホルダ1aの同時成形のときに針17aも同時に埋設される趣旨であることが明らかである。
また、原告が主張するとおり、本件明細書には、この構成の作用効果として「本件考案においては、針17aと共にカンチレバー5aを針ホルダ1aに同時形成するから、針をカンチレバーに付設する作業……が省かれる」と記載され、文字通りの意味に理解されるべきことを裏書きしているのであるから、前記文言は、カンチレバー5aと針ホルダ1aの同時成形のときに針17aも同時に埋設される趣旨であると解されるべきである。
他方、被告製品は、カンチレバーと針ホルダが同時成形された後に針を付設しているのであって、本件考案の出願前から一般に実施されていた方法を採用しているに過ぎない。
2 構成要件(五)の非充足性
(一) 本件明細書は、構成要件(五)における「太い」「細い」との構成の作用については、「一方カンチレバー5aは細手の基部5bを包有しており、充分な可撓性を有しているから、カートリッジ本体に針ホルダ1aが装着され、発電機構に連係する伝達子が伝達子当接部5eに当てられれば、針17aに受ける振動を有効に伝達子に伝え得る。加えてカンチレバー5aは先端部5cに向かって次第に太くなるよう設け、針17aを埋設する先端部5cの質量を大にするから、合成樹脂によりカンチレバー5aを形成しても先端部5cの振動性を充分に保証できる。」(本件公報第四欄三行ないし一二行)と記載し、効果については、「(d)カンチレバーの先端部を次第に太くなるように形成し、針を有する先端部の質量を大にしたもので、合成樹脂によりカンチレバーを形成しても先端部の振動性を充分に押え得る。」(本件公報第四欄二二行ないし二五行)と記載している。
一方図面をみると、第4図では、先端部5cに対する伝達子当接部5e、基部5bが径において三対二対一、長さは基部だけが僅かに短く、先端部と膨大部5dを含む伝達子当接部とはほぼ同じ長さに描かれている。
以上が、構成要件(五)の文言を説明する全てであって、本件考案のカンチレバーは基部と伝達子当接部と先端部とから成るが、基部が最も細く、先端部に向かって次第に太くなるようにするのであるから、伝達子当接部が基部より長さ方向全体に亘って太くなるようにし、先端部は伝達子当接部より長さ方向全体に亘って太くなるようにし、そうすることによって各部分の質量も基部より伝達子当接部、伝達子当接部より先端部の順に大きくなるようにするという構成が提示されているとみるべきである。
(二) また、原告は、本件考案の出願審査において拒絶査定を受け、審判請求理由補充書(乙第二号証の2)で、本件考案の構成上の特徴として、「<2>カンチレバー5aは先端部5cに向かって次第に太くなるように構成されている」点をあげ、審査における拒絶査定に引用された第一、第二いずれの引用例にもこの点の記載はないと主張し、「カンチレバー5aは先端部5cに向かって次第に太くなっているということは、針17aの部分が適当に重く、強度があるということであり、レコードをトレースすべく針17aをレコード面に載せた場合に安定、つまり外部振動等に対し針17aの浮き上りを防止し得る利点があります。」とその作用効果を強調している。
(三) 以上のように、本件明細書及び審判請求理由補充書においては、一貫して、本件考案における「カンチレバーは先端部5cに向かって次第に太くなるように構成し先端部5cの質量を大にする」と記載されており、先端部5cの質量という以上、この部位の(断面積)×(長さ)に相当する数量が対比の対象になっている。
したがって、伝達子当接部5eが先端部5c「より細い」という本件考案の要件、すなわち先端部5cが伝達子当接部5e「より太い」とは、先端部5cが伝達子当接部5e「より断面積が大」であるだけでなく「より質量も大」であることを伴う場合を言い、それ以外の場合を含まないと解すべきである。
(四) 被告製品は、別紙目録の「構造の説明」(7)記載のとおり、先端部5cが伝達子当接部5e「より断面積が大」であるだけでなく「より質量も大」であるとはいえないから、本件考案の構成要件(五)を充足しない。
3 仮定抗弁(公知技術の抗弁)
仮に、被告製品が本件考案の構成要件を全て充足するものであるとしても、被告製品は、先端部5cの針を埋設した部分の断面積が伝達子当接部5eのB-B断面の断面積より大きいとはいえ、その大きさの程度はきわめて僅かであり、本件考案にとって公知技術である乙第四号証の1・2記載の考案の構成と同じであるといってよく、被告製品はこの公知技術を実施したにすぎないものであるから、本件考案の技術的範囲に属するものではない。
四 原告の反論
1 構成要件(四)について
本件明細書で、構成要件(四)の作用効果として、「本件考案においては針17aと共に、カンチレバー5aを針ホルダ1aに同時成形するから、針をカンチレバーに付設する作業……が省かれる。」と記載したのは、従来、カンチレバーへの針の取付けは、カンチレバーを針ホルダに取り付けた後の別個独立した改まった困難な作業であって、カートリッジ自体の構造が複雑化し製造原価も高くなる等の欠点を有していた(乙第四号証の1)のに対し、本件考案では、カンチレバーへの針の付設が容易にできるため、従来技術の観点からすれば、その作業は改まった別個独立の作業と見るほどのこともなく、かかる意味での付設作業は省かれるものとしてその作用効果を強調したものに過ぎない。
このことは、本件出願経過における意見書差出書(乙第一号証の5)で、「引用例は、いずれも本願のように針ホルダ1aのカンチレバー用凹所3aの一端壁に針17aを有するカンチレバー5aを同時成形するものでなく」と記載され、同時成形されるのは先ずはカンチレバーと針ホルダであり、また、審判請求理由補充書(乙第二号証の2)の「針ホルダ1aのカンチレバー用凹所3aの一端壁に可撓性を有し、且先端に針17aが埋設されていると共に、細手の基部5bが一体成形されたカンチレバー5aが同時成形されている。」との記載中、「共に」とは「共に一体成形する」という意味ではなく、「埋設され、また」の意味に解されるものであり、針が埋設される時期については何ら触れられていないことからも明らかである。
したがって、本件考案の構成要件(四)における「針17aが埋設されたカンチレバー5aが同時成形され」との文言は、「カンチレバーと針ホルダ1aの同時成形のときに針17aも同時に埋設される」と限定して解釈すべき必然性はない。
2 構成要件(五)について
本件考案は圧電型カートリッジに関するものであって、質量制御の電磁型カートリッジとは異質のものであり、圧電型カートリッジでは、録音盤の溝に針を従順に従わせるための制御(コントロール)は、カンチレバーの剛性(強度)を如何に実現するかを問題とするステフネス制御が採られるのであるから、圧電型に属する本件考案において、質量による制御を問題とすることは意味はない。
問題なのは、カンチレバー全体の形状であって、前記審判請求理由補充書において、「カンチレバー5aは先端部5cに向かって次第に太くなっているということは、……強度があるということであり、レコードをトレースすべく針17aをレコード面に載せた場合に安定、つまり外部振動等に対し、針17aの浮き上がりを防止し得る利点があります。」とあるのも、被告が引用する本件明細書の記載も、ステフネス制御を説明したものである。「先端部の質量を大にする」というのは、先端部の質量(ボリュームあるいは嵩)が増し、針の部分に強度(剛性)が生じさせるためのカンチレバーの形状、ひいては先端部の形状が大になることを説明したものであって、「質量」とは重さの意味ではなく、右形状の結果としてのボリューム(嵩)の意味である。
本件考案においては、カンチレバー5a全体としてみたとき、細手の基部5bから伝達子当接部5eを経由して先端部5cに至る間、次第に断面積が大きく若しくは同一に形成されることで針圧を高め、しかも、剛性、安定性が得られるという構成になっていることが肝要なのである。
第三 証拠
本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1ないし4及び被告が別紙目録記載のカートリッジを製造販売していたことは、当事者間に争いがない。
二 被告製品と本件考案の対比
1 被告製品が、本件考案の構成要件(一)ないし(三)を充足することは、当事者間に争いがない。
2 そこで、被告製品が、本件考案の構成要件(四)を充足するか否かにつき検討する。
(一)(1) 構成要件(四)は、「このカートリッジは、合成樹脂で形成された針ホルダ1aのカンチレバー用凹所3aの一端壁に可撓性を有し、且先端に針17aが埋設されたカンチレバー5aが同時成形され、」というものであって、「針17aが埋設されるカンチレバー5a」とはなっていないから、右記載が、先端に針17aが埋設されたカンチレバー5aと針ホルダ1aが同時成形されることを意味していることは、その文言からも明らかであると解される。
(2) 本件明細書の考案の詳細な説明でも、従来のカートリッジは、<1>「カンチレバー5の基端を針ホルダ1に埋設したダンパ4により保持する構成をとるものであり、針ホルダ1にダンパ4を埋設することが煩雑である上、カンチレバー5を前記ダンパ4に適確に侵入させねばならず、部品点数が増大すると共に製造工数が多くなり、量産に不向きで且コスト高になっていた。」(本件公報第三欄七行ないし一三行)としてその問題点を挙げ、これに引き続いて、<2>「本考案は上記の欠点を除去し部品点数並びに製造工数を低減せしめ、組立性が良好で量産に適し、大巾なコストダウンを図り得るカートリッジを提供することを目的とする。」(本件公報第三欄一四行ないし一七行)と記載されるとともに、<3>「本考案においては針17aと共に、カンチレバー5aを針ホルダ1aに同時形成するから、針をカンチレバーに付設する作業、針ホルダにダンパを埋設する作業並びに前記ダンパにカンチレバーを侵入させ保持させる作業が省かれる。」(本件公報第三欄三四行ないし第四欄二行)、<4>「本考案のカートリッジによれば、(a)部品点数を低減するから材料コストを低廉にできる。(b)製造工数を大巾に削減するから組立性が著しく良好となり、製造が容易で量産性に富む。(c)材料コストを低減すると共に量産性を向上できるから、大巾なコストダウンが可能となり汎用性を増大できる。」(本件公報第四欄一三行ないし二一行)として、その作用効果が強調されているが、右<3>の記載は、針と共にカンチレバーを針ホルダに同時成形するから、従来技術における三つの作業、すなわち、「針をカンチレバーに付設する作業」、「針ホルダにダンパを埋設する作業」、「ダンパにカンチレバーを侵入させ保持させる作業」を省くことができ、これにより前記<1>の問題点を解決して同<2>の目的を達成し、<4>の効果を奏することができることを示しているものと解するほかないから、構成要件(四)の文言上の解釈は、右<3>の記載とも一致する結果となっている。
しかも、本件明細書の添付図面(原本の存在及びその成立に争いのない乙第一号証の2)を見ると、従来の構成のカートリッジを示す第1図ないし第3図における針の付設状況は、針の頭部(針の非先端部)がカンチレバーから突出して記載され、針の頭部を押してカンチレバーに圧入された様が窺えるのに対し、本件考案のカートリッジを示す第4図では、針はカンチレバーの約半分程の深さに埋め込まれ、針と共にカンチレバーを針ホルダに同時成形した状況が図示されており(カンチレバーと針ホルダのみを同時成形した後に、針の先端部を押して埋設できるものとは考えられない)、かかる図面の記載も、本件考案が、針17aと共にカンチレバー5aと針ホルダー1aが同時成形されることを必須の構成としていること裏付ける結果となっている。
(二) 他方、被告製品は、別紙目録の「構造の説明」(4)のとおり、「このカートリッジは、合成樹脂で形成された針ホルダ1aのカンチレバー用凹所3aの一端壁に可撓性を有し、且先端に針穴を有するカンチレバー5aが同時成形され、成形後にカンチレバーの先端の針穴に針を圧入して固定」するものであるから、被告製品は、カンチレバーへの針の付設時期を本件考案のそれと異にしており、構成要件(四)を充足しないものと解される。
(三) この点原告は、構成要件(四)は、カンチレバーと針ホルダの同時成形のときに、針17が同時に埋設される場合もその前後に埋設される場合も含まれるものと解すべきであり、前記(一)(2)<3>の本件明細書の記載は、本件考案ではカンチレバーへの針の付設が容易にできるため、従来技術の観点からすればその作業は改まった別個独立の作業と見るほどのこともなく、かかる意味での付設作業は省かれるものとしてその作用効果を強調したものに過ぎないと主張する。
しかしながら、仮に従来の構成のカートリッジに、原告が指摘するような針付設上の欠点(前記第二の四1)が見られたとしても、カンチレバーへの針の付設が容易にできることと針をカンチレバーに付設する作業が省かれることとは全く別の事象であるから、「その作用効果を強調したものに過ぎない」として両者を同一視することはできないし、本件明細書には、カンチレバーと針ホルダを同時成形することにより、カンチレバーへの針の付設が容易になることを示唆する記載すらも見当たらず、本件明細書における考案の詳細な説明の項で前記(一)(2)の<1>ないし<4>ような記載がなされている以上、本件公報を見た当業者が、本件考案が属する技術分野における技術常識に照らし、「針の付設が省かれる」とは「針の付設が容易にできる」ことを意味し、構成要件(四)には、カンチレバーと針ホルダの同時成形の後に針が埋設される場合も含まれるものと判断できるとは思われない。
実用新案の技術的範囲は、願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定められるのであるから、原告が本件考案を本件明細書に記載された構成のものとして出願している以上、この点に関する原告の主張はいずれも理由がない。
(四) したがって、被告製品は構成要件(四)を充足しない。
3 以上によれば、その余の構成要件を検討するまでもなく、被告製品は本件考案の技術的範囲に含まれないから、本件実用新案権の侵害を理由とする原告の損害賠償請求は認められない。
三 よって、原告の請求は理由はないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 八木貴美子)
<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告
<12>実用新案公報(Y2) 昭62-30383
<51>Int.Cl.4H 04 R 1/00 識別記号 庁内整理番号7314-5D <24><44>公告 昭和62年(1987)8月4日
<54>考案の名称 カートリツジ
審判 昭61-10535 <21>実願 昭54-119014 <35>公開 昭56-41806
<22>出願 昭54(1979)8月31日 <43>昭56(1981)4月17日
<72>考案者 安達義雄 小平市学 東町54-17
<71>出願人 株式会社 エーユーイー研究所 小平市小川町1-330-6
<74>代理人 弁理士 高山敏夫 外1名
審判の合 体 審判長 浜野哲郎 審判官 今村辰夫 審判官 横田芳信
<56>参考文献 実開 昭52-35202(JP、U) 実公 昭48-23681(JP、Y1)
実公 昭52-2402(JP、Y2)
<57>実用新案登録請求の範囲
発電機構が内蔵され、前記発電機構に連係する伝達子を有したカートリツジ本体に、カンチレバー用凹所内に揺動自在に突出するカンチレバーを保持した針ホルダが嵌着され、前記伝達子が前記カンチレバーに当接せしめられるカートリツジであつて、このカートリツジは、合成樹脂で形成された針ホルダ1aのカンチレバー用凹所3aの一端壁に可撓性を有し、且先端に針17aが埋設されたカンチレバー5aが同時成形され、前記カンチレバー5aは細手の基部5bと、針17aが埋設され、かつ基部5bより太い先端部5cと、前記基部5bより太く前記先端部5cより細く前記伝達子と当接可能な伝達子当接部5eとを有してなることを特徴としたカートリツジ.
考案の詳細な説明
本考案はカートリツジに関する.
従来この のカートリツジは第1図乃至第3図に示す如く構成されている.即ち図において1は針ホルダで透孔2を有するカンチレバー用凹所3が形成されており、前記カンチレバー用凹所3の一端壁にはダンパ4が埋設されている.前記ダンパ4にはカンチレバー5の基端が挿入・保持され、カンチレバー用凹所3内において揺動自在に突出せしめられている.また前記針ホルダ1のカンチレバー用凹所3と反対側には係合凹所5が区画され、前記係合凹所6内に係止ピン7が内設されており、更に前記針ホルダ1の一端には鎌首状に延びる係合突起8が延設されている.
一方前記針ホルダ1が装着されるカートリッジ本体9には周知の如く発電機構が内装されており、且前記係合凹所6に適合可能な隅部10を有すると共に、前記隅部10近傍に、前記針ホルダ1の透孔2を経て前記カンチレバー5を押下げ可能な伝達子11が付設されており、前記伝達子11は発電機構の素子12に連接せしめられていて、カンチレバー5の揺動を発電機構に伝達することにより機械的振動を電気信号に変換するよう設けられている.また前記カートリツジ本体9の、伝達子11より上位の側壁には前記係止ピン7を係入し得るピン係入凹部13が設けられている.更に前記カートリツジ本体9の下面には前記係合突起8を係入可能な係合洞孔14が形成されており、前記係合洞孔14の入口部上面には支点突起15が下向きに膨設され且入口部下面には前記鎌首状の係合突起8の先端部を係止可能な係止突起16が上向きに膨設されている.
しかして、いまカートリッジ本体9の係合洞孔14に対し、針ホルダ1の鎌首状の係合突起8の先端を侵入せしめ、前記係合突起8上面に支点突起15が当接したとき、針ホルダ1の後端を回転させれば、針ホルダ1の係合凹所6にカートリツジ本体9の隅部10が嵌入する.またこれと同時に係合突起8の先端部が係止突起16と係止し、且係止ピン7がピン係入凹部13に嵌入すると共に、伝達子11によりカンチレバー5が押圧されて、カートリツジ本体9に針ホルダ1が緊密に装着されることになる.
しかしながら上述の構成においてはカンチレバー5の基端を針ホルダ1に埋設したダンパ4により保持する構成をとるものであり、針ホルダ1にダンパ4を埋設することが煩雑である上、カンチレバー5を前記ダンパ4に適確に侵入させねばならず、部品点数が増大すると共に製造工数が多くなり、量産に不向きで且コスト高になつていた.
本考案は上記の欠点を除去し部品点数並びに製造工数を低減せしめ、組立性が良好で量産に適し、大巾なコストダウンを図り得るカートリツジを提供することを目的とする.
以下図面に沿つて本考案を説明する.第4図に示すように本考案においては合成樹脂製の針ホルダ1aに設けられたカンチレバー用凹所3aの一端壁に一体に、カンチレバー5aが突設されており、前記カンチレバー5aの先端17aが埋設されている.また前記カンチレバー5aはその基部5bが先端部5cに比べ細手に形成されており、充分な可撓性が持たせられている.更に前記細手の基部5bに隣接して膨大部5dが設けられると共に、前記基部5bより太い反面、針17aを保持する先端部5cより細い伝達子当接部5eが前記膨大部5dと先端部5cとの間に形成されている.尚針ホルダ1aの他の構成、延いては前記針ホルグ1aが嵌着されるカートリツジ本体の構成は実質的に第1図乃至第3図に示す構成と同様になすことが好ましい.
しかして本考案においては針17aと共に、カンチレバー5aを針ホルダ1aに同時形成するから、針をカンチレバーに付設する作業、針ホルグにダンパを埋設する作業並びに前記ダンパにカンチレバーを侵入させ保持させる作業が省かれる.一方カンチレバー5aは細手の基部5bを包有しており、充分な可撓性を有しているから、カートリツジ本体に針ホルダ1aが装着され、発電機構に連係する伝達子が伝達子当接部5eに当てられれば、針17aに受ける振動を有効に伝達子に伝え得る.加えてカンチレバー5aは先端部5cに向つて次第に太くなるよう設け、針17aを埋設する先端部5cの質量を大にするから、合成樹脂によりカンチレバー5aを形成しても先端部5cの振動性を充分に保証できる.
上述のように構成された本考案のカートリツジによれば、
(a) 部品点数を低減するから材料コストを低廉にできる.
(b) 製造工数を大巾に削滅するから組立性が著しく良好となり、製造が容易で量産性に富む
(c) 材料コストを低減すると共に量産性を向上できるから、大巾なコストダウンが可能となり汎用性を増大できる.
(d) カンチレバーの先端部を次第に太くなるように形成し、針を有する先端部の質量を大にしたもので、合成樹脂によりカンチレバーを形成しても先端部の振動性を充分に押え得る.
等々の顕著な実用的効果を実現する.
図面の簡単な説明
第1図は従来のカートリツジの一部を断面で示す側面図、第2図は同組立説明図、第3図は同部分断面図、第4図は本考案のカートリツジの部分断面図である.
1a……針ホルダ、3a……カンチレバー用凹所、5a……カンチレバー、5b……基部、5c……先端部、5d……膨大部、5e……伝達子当接部、17a……針.
第3図
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第4図
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第1図
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第2図
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目録
被告製品は、別紙図面第1ないし第10図及び説明に示されるカートリツジ(商品名ピックアップカートリツジCZ-800にしてAの刻印がなく、Φマークが凹状に打刻された1号型〔型番が1乃至8まで存在するもの〕及びΦマークが凸状に打刻された2号型〔型番が1乃至10まで存在するもの〕のカートリツジ。但し、1号型のうち型番4、5及び7のカートリツジを除く)である。
図面の説明
第1図 カートリツジの全体図
第2図 カートリツジの斜視図
第3図 カートリツジの一部を断面で示す側面図
第4図 カートリツジの組立説明図
第5図 針ホルダの全体図
第6図 針ホルダの斜視図
第7図 針ホルダの部分断面図
第8図 針ホルダの断面斜視図
第9図 カンチレバーの拡大図
第10図 カンチレバーの部分断面図
符号の説明
1a 針ホルダ
3a カンチレバー用凹所
5a カンチレバー
5b 基部
5c 先端部
5e 伝達子当接部
6 係合凹所
7 係止突起
8 係止突起
9 カートリツジ本体
10 隅部
11 伝達子
12 発電機構素子
13 突起係入凹部
14 係合洞孔
16 突起係入凹部
17 針
構造の説明
別紙図面第1ないし第10図に示すように
(1) 発電機構が内蔵され、前記発電機構に連係する伝達子11を有したカートリツジ本体9に、
(2) カンチレバー用凹所内3aに揺動自在に突出するカンチレバー5aを保持した針ホルダ1aが嵌着され、
(3) 前記伝達子11が前記カンチレバー5aに当接せしめられるカートリツジであつて、
(4) このカートリツジは、合成樹脂で形成された針ホルダ1aのカンチレバー用凹所3aの一端壁に可撓性を有し、且先端に針穴を有するカンチレバー5aが同時成形され、成形後にカンチレバーの先端の針穴に針を圧入して固定し、
(5) 前記カンチレバー5aは、細手の基部5bと、針17が圧入され、かつ基部5bより太い先端部5cと、前記基部5bより太く前記先端部5cより細く前記伝達子11と当接可能な伝達子当接部5eとを有してなり、
(6) 前項における「細い」「太い」は、第10図のA-A、B-B、C-C断面の断面積を対比して、断面積の大なるものをより太い、断面積の小なるものをより細いとするものであって、
(7) 体積については、第10図のア-アより先端部5cを含む部分の体積は、ア-アとイ-イに挟まれた伝達子当接部5eを含む部分の体積よりは小さく、イ-イより基部5bを含む部分の体積よりは大なる、
カートリツジ
第1図
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第2図
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第3図
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第4図
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第5図
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第6図
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第7図
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第8図
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第9図
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第10図
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実用新案公報
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