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東京地方裁判所 平成6年(ワ)25402号 判決 1996年6月24日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

被告は、原告に対し、金二五〇七万五〇〇〇円及びこれに対する平成七年一月一三日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が被告との間で平成二年一〇月二二日に締結したゴルフクラブ入会契約において、被告は原告に対し、<1>平成四年一一月にゴルフ場を開場すること、<2>付帯施設であるホテル、プール等の施設を建設すること、<3>会員の種類は名誉会員、特別会員、正会員(個人及び法人)、平日会員(個人及び法人)の四種類のみとすることをそれぞれ契約したにもかかわらず、被告は、<1>ゴルフ場を平成七年四月二六日まで開場せず、<2>ホテル等の施設の建設を一方的に取り止め、<3>特別個人正会員、特別法人正会員等の新たな種類の会員を創設、募集し、また正会員の会員資格を二分割したことが、本件契約の債務不履行に当たるとして、原告は同年一月一二日の訴状の送達、予備的に平成八年四月一六日の本件口頭弁論期日において右契約を解除し、被告に支払った預託金等の支払を求め、被告は、原告がゴルフ会員権を三井ファイナンス株式会社(以下「三井ファイナンス」という。)に対して譲渡担保に供したから、原告には当事者適格がないとし、原告主張の解除原因をいずれも争っている事案である。

一  争いのない事実等

1 原告は、被告との間で、平成二年一〇月二二日、以下の内容のゴルフクラブ入会契約(以下「本件契約」という。)を締結し、被告が建設を予定して会員募集を開始した御宿ゴルフ倶楽部(千葉県夷隅郡御宿町所在、以下「本件倶楽部」という。)の個人正会員となった。

(一) 原告は、被告に対し、入会金二五〇万円及びこれに対する消費税七万五〇〇〇円の合計金二五七万五〇〇〇円を支払う。

(二) 原告は、被告に対し、預り保証金二二五〇万円を預託する。右預り保証金は、会員資格取得の日から一〇年間据置くものとし、利息をつけない。

(三) 原告は、(一)及び(二)記載の金員の支払を完了したときは、正会員としての資格で、所定の休日を除き、被告の所有し経営するゴルフコース及びこれに付帯する諸施設を利用することができる。

2 原告は右預り保証金を調達するために、三井ファイナンスから同額の金員を借り受け、被告が原告の右債務につき保証し、原告は被告が代位弁済した際の求償金請求権を担保するために、預り保証金の預り証を被告に差し入れた。

3 被告は、パンフレット等にコースの完成予定時期として平成四年一一月と記載したが、コースの開場が遅延し、平成七年四月二六日に会員が支障なくゴルフをプレーすることができるようになった。

4 本件契約当時の本件倶楽部の会員の種類は、名誉会員、特別会員、正会員(個人及び法人)、平日会員(同)の四種類であった。

5 被告は、平成四年五月ころ、右四種類以外の種類の会員として、特別個人正会員及び特別法人正会員(以下これらを「新種会員」という。)を創設し、入会金及び預託保証金の合計金三五〇〇万円(入会金の消費税別)で募集を開始し、また正会員から新種会員への変更申込みも受理した。なお、新種会員は以下のような資格及び権限を有するサブ登録者一名を登録することができることとされた。

(一) サブ登録者は、正会員の入会資格に準ずる者とし、個人の場合は正会員の配偶者又は一親等以内の親族の者、法人の場合は同一法人内に属する者とする。

(二) サブ登録者は、個人、法人正会員がプレーしない営業日に限り、諸施設利用に関し会員に準じて利用することができる。

(三) サブ登録者は、本件倶楽部主催の競技会その他諸行事への参加、本件倶楽部のハンディキャップの査定、機関誌等の配布を受けることができない。

6 被告は5と同時期に、週日会員(個人及び法人)、家族会員、ソシアル会員及び平日の他に土曜日もプレーできる平日会員(以下「新平日会員」という。)を創設したが、週日会員とは4の平日会員の名称を変更しただけであり、会員としての権利内容は4の平日会員と同一である。

7 被告は、平成七年一二月、以下のとおり同八年二月一日から正会員資格を二分割する旨決定し、それに伴い、正会員の最終募集員数を一八〇〇名とした。

(一) 二分割によって新たに生じた会員券をA券、B券とし、それぞれ預かり保証金額の半額に相当する額を表示する。

(二) A券は従来の会員の名義とし、B券については平成八年二月一日から二年間(二口以上の正会員資格が分割した場合は、二口目以降のB券に相当するD、F、H券は四年間)無記名会員券として扱い、その間パス券持参者は誰でも正会員として扱われる。またB券についてもA券の会員の希望により第三者への名義書換も行う。

(三) 分割を希望しない正会員は、そのままの地位にいることができる。

8 原告は、被告に対し、平成七年一月一二日、本件訴状の送達により、本件契約を解除する旨の意思表示をし、予備的に平成八年四月一六日の本件口頭弁論期日において、7の決定が本件契約上の重大な義務違反であるとして、本件契約を解除する旨の意思表示をした。

二  争点

1 原告に当事者適格があるか。

2 本件倶楽部の開場遅延が解除原因となるか。

3 本件倶楽部の付帯施設であるホテルの建設等が本件契約の内容となっていたか。ホテルの建設等付帯施設工事の遅延又は中止が解除原因となるか否か。

4 本件倶楽部の会員を契約当初の四種類に限定することが本件契約の内容となっていたか。新たな種類の会員の創設、募集及び正会員資格を二分割したことが解除原因となるか否か。

第三  争点に対する判断

一  争点1(当事者適格)

《証拠略》によれば、原告は本件倶楽部の会員権購入のため、平成二年一〇月二二日に二二五〇万円を借り入れ、被告に右債務の保証を委託し、被告が発行した入会金預託証書を債務を完済するまで被告に差し入れた事実は認められるが、原告が三井ファイナンスとの間で本件倶楽部の会員権について譲渡担保契約を締結した事実を認めるに足りる証拠はないから、原告に当事者適格がないとの被告の主張には理由がない。

二  争点2(開場遅延)

1 本件倶楽部の開場時期

原告は、平成四年一一月又はそのころに本件倶楽部を開場することが本件契約の内容となっていたと主張し、甲七には、コース概要として「完成予定平成四年一一月予定」との記載があり、甲九にも同様の記載がある。

しかし、右各証拠においてはいずれも「コース概要」と「クラブハウス及びホテル概要」とを明確に区別した記載がなされており、その上で「コース概要」の表題の下に「完成予定」として「平成四年一一月予定」の記載がなされていること、一般にゴルフコースの完成とゴルフクラブの開場とは区別することができ、《証拠略》によれば、コースが完成しても芝の活着等のため、ゴルフ場として利用できるようになるには半年程度の期間が必要であることが認められるのに鑑みれば、右記載は本件倶楽部のコースの完成予定時期についての記載であるとみるのが相当であり、本件倶楽部の開場時期についての記載と直ちに認めることはできない。したがって、右の記載から平成四年一一月をもって原、被告間に本件倶楽部の開場時期についての合意がされたと認めることはできない。

ただし、ゴルフクラブに入会しようとする者にとって、開場時期は重大な関心事であり、入会するか否かを決定する重要な要素である。《証拠略》によれば、被告が本件契約前の平成二年七月ころに行なった被告の会員を募集する会社に対するレクチャーにおいて、本件倶楽部の開場予定は平成五年春である旨説明し、募集の際にもその旨説明するよう指導していること、右レクチャーには原告の入会を勧誘した三井不動産販売株式会社も参加していること、本件契約が締結された平成二年一〇月ころに発行された本件倶楽部縁故会員募集概要に平成五年春開場予定との記載があることが認められ、また、右認定のとおり、コース完成予定時期から約六か月後にはゴルフ場としての利用が可能になることを考えれば、本件契約時においては、本件倶楽部の開場時期が平成五年五月ころであることを原、被告間で予測し合意していたとするのが相当である。

2 本件倶楽部の開場遅延が解除原因となるか

(一) 前記争いのない事実と《証拠略》から認定できる事実は、以下のとおりである。

(1) 被告は、昭和六一年一二月ころから本件倶楽部の建設計画を構想し、平成元年五月ころまでには本件倶楽部の具体的な建設計画を立て、用地を取得し、平成二年六月一日までにコースの工事について必要な許認可を、平成三年四月二〇日にクラブハウス及び付帯施設についての建築確認を取得した。

(2) 被告は、本件倶楽部の建設費用として約二三六億円の見積りを立て、自己資金約四〇億円、借入金約三〇億円、残りは会員権販売代金で調達する予定であった。被告は平成二年七月ころに会員募集用のパンフレットを作成し、最終募集人数一二〇〇名のうち、同年八月ころから特別縁故会員(募集金額二五〇〇万円、募集人数三〇〇名)、一〇月から縁故会員(同三三〇〇万円、五〇〇名)の募集を開始した。ところが特別縁故会員については予定の人数が集まったものの、社会的経済状況の悪化も影響して、縁故会員については二〇〇名程度しか集まらず、約一二〇億円の資金調達しかできずに、予定していた資金を調達することができなかった。

(3) 被告は、長期信用銀行から一五〇億円の融資の約束を取りつけていたが、行政庁による総量規制等の社会的事情の変化により、実際に受けることのできた融資額は一三億円に過ぎなかった。

(4) 被告は平成三年六月一四日、佐藤工業株式会社(以下「佐藤工業」という。)に対し、工事完成時期を平成五年一月三一日、報酬は出来高払いとの約定で、クラブハウス及び付帯施設工事の仮注文を出し、佐藤工業はそのころ工事に着工した。

(5) (2)及び(3)のような事情により、被告の資金調達が困難となったことから、被告は平成四年一月ころに資金調達と建設計画の見直しを行い、入会が容易な新たな会員資格を創設したり、新たな融資の実行を受けられるように事業計画を練り直して縮小するとともに、クラブハウス及び付帯施設工事を第一期工事と第二期工事に分け、第一期工事において開場に必要な施設を建設することとしたが、それに伴い設計を変更するとともに、行政庁の許認可も新たに取得する必要が生じ、被告が設計変更後の建築確認を取得したのは同年九月九日であった。

(6) 同年九月ころ、出来高に対する被告と佐藤工業との認識の相違から被告が佐藤工業に対する報酬の支払を停止したことを原因として、佐藤工業が工事を中断し、以降数回にわたって折衝がなされ、被告から佐藤工業に対して第一期工事分約二三億八〇〇〇万円、第二期工事分のうち七億円が支払われたにもかかわらず、工事がほとんど進行しなかったことから、被告は平成六年七月二二日、佐藤工業との契約を解除した。

(7) 被告は同年八月四日に建設業者を株式会社吉原組(以下「吉原組」という。)に変更したが、佐藤工業の撤去作業の遅れから、吉原組が工事を再開したのは同年一〇月になってからであった。クラブハウス棟の第一期工事分は平成七年二月ころ完成したが、第二期工事予定であるホテル棟については未だ建設資金を確保しておらず、完成の目処は立っていない。

(8) コース工事については、当初平成四年一一月の完成を予定していたが、実際にコースがほぼ完成したのは平成五年一一月であった。

(9) 本件倶楽部が開場しゴルフ場として利用できるようになったのは、平成七年四月二六日であった。

(10) 被告は、平成五年七月に会員に対し、工事進行の概況について、一〇番、一一番ホールが遅れている他は、コースの造成、芝張り工事が完了していること、クラブハウスについては七月一日から工事を再開することを報告し、平成六年四月には同年五月の竣工予定が遅延すること、完成予定時期が確定次第会員に報告することを通知し、同年二月一日には平成七年五月に開場する予定であることを通知した。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

(二) 右認定の事実から、本件倶楽部の開場遅延が解除原因となるか否かについて判断する。

(1) ゴルフ場の建設には広大な用地と莫大な資金を必要とし、各種の法令上の制約及び事実上の障害が多く、用地の取得、行政庁の許認可及びゴルフ場の建設工事等に相当長い期間を必要とすることは一般に知られており、その間、種々の事情の変化が生ずるおそれもあるため、開場予定時期を事前に確定することは容易でなく、企業が定めた開場予定時期についても多少の遅延がありうることは入会者としてもこれを予想すべきである。しかし、ゴルフクラブに入会する会員の本来的な目的はゴルフ場を会員として利用できることにあるから、ゴルフ場を開く企業は、ゴルフ場の建設が困難であることを理由に、入会契約において入会者と合意した開場時期が無意味になる程度にゴルフ場の開場を遅延させた場合には、履行遅滞の責任を負うこととなる。

そして、ゴルフ場の開場の遅延が社会通念上止むを得ないものとして許される期間の範囲は、右遅延の原因、右原因がゴルフ場を開く企業にとって予想できたか、右原因が右企業の責に帰すべき事由により発生したものかといった観点から総合的に判断すべきである。

そこで以下、本件倶楽部の開場の遅延が、社会通念上止むを得ないものとして許される期間の範囲内であるといえるか否かを検討する。

(2) 前記認定のとおり、本件では、被告が会員募集用のパンフレットを作成した平成二年七月ころまでには用地取得を終え、コースの工事についての許認可も受け終わっており、また翌年の四月にはクラブハウス及び付帯施設についての建築確認も取得しているのであるから、この点についての障害は除去されていた。

(3) したがって、本件ではゴルフ場建設工事による遅延が問題になることとなるが、前記認定の事実からすると、遅延の原因は、<1>被告の資金調達が計画どおりにできなかったこと、<2>佐藤工業がクラブハウス及び付帯施設についての工事を中断したこと、<3>コースの工事が遅れたこと、の三点にある。このうち<3>のコースの工事は平成五年一一月には完成しており、当初の完成予定時期である平成四年一一月から約一年遅れたにとどまっていることから、原、被告間で合意した開場時期を無意味にするほどの遅延とは認められないが、<1>については実際に調達できた資金額が当初の予定を大幅に下回ったことが認められ、また<2>について佐藤工業が工事を中断したのは、被告と佐藤工業との工事代金の支払いをめぐる争いに原因があるものと認められるところ、これには資金調達が予定どおりできなかったことが専ら影響を与えているものと推察される。

(4) この点について、被告は右資金調達が予定どおりできなかった原因として、当初いわゆるバブル経済による好景気の継続を前提として本件ゴルフ場の建設計画を立てていたところ、予想外のバブル経済の崩壊により会員募集状況が悪化し、また金融機関からの追加融資が困難となったため、当初の計画が頓挫したことを主張し、原告は、ゴルフ場を開く企業はかかる景気変動についても予測し、それに対応して資金調達をなす義務があったと主張する。

(1)のとおり、ゴルフ場建設工事には通常相当長い期間を必要とし、その間に種々の事情の変化が生ずるおそれもあることから、ゴルフ場を開場しようとする企業には、ゴルフ場完成までの通常の景気変動についてはこれをある程度予測した上で開場予定時期を決定し、資金調達を行うことが要求されているのであり、景気変動による資金調達計画の頓挫を当然に開場遅延の正当理由とすることは許されない。

しかし、前記バブル崩壊による国内景気の急激な悪化は、通常の景気変動とは性質を異にした景気変動であったことは公知の事実であり、資金調達ができなかったことには行政庁による総量規制等の事情もあったのであるから、ゴルフ場の経営を主たる業務とする被告にとって、これらの事情は通常予測しえない事情であったということができる。

(5) 被告は、かかる景気変動の影響により資金調達に困難が生じた後には、前記認定のとおり資金調達及び建設計画の見直しを行って計画を縮小し、ゴルフ場建設の中断を回避すべく尽力し、平成七年四月には、ゴルフ場を利用することができるまでに至ったことが認められ、会員に対しても工事の遅れを報告してその理解を得られるようにしていたのであり、これらの事情を考慮すれば、本件倶楽部の開場の遅延は、社会通念上許される期間の範囲内であるということができる。

(三) 以上により、本件倶楽部の開場遅延を理由とする原告の解除の主張については理由がない。

三  争点3(ホテル建設が本件契約の内容となっていたか、ホテル建設の遅滞又は中止が解除原因となるか)

1 二(二)(1)で認定した事実及び《証拠略》によって認められる事実は、以下のとおりである。

(一) 本件倶楽部のある千葉県夷隅郡御宿町はいわゆるリゾート地であるが、東京都からは遠隔の地にあり、原告のように東京都内に住所地を有する会員にとっては、本件倶楽部を利用する際は通常の場合宿泊を伴うものである。

(二) 被告の入会募集のパンフレット等には、本件倶楽部の付帯施設として、室内プール、ジャグジー、アスレチックジムや三つのレストランを備えた高級ホテル(以下「本件ホテル」という。)の建設が予定されている旨の記載があり、原告としては右のようなホテルが建設されることを重視して本件倶楽部への入会を決定した。

(三) ところが、前記二記載のような事情によりクラブハウス及び付帯施設の建設が遅延し、第二期工事として予定されているホテル棟の建設については現在においても完成の目処が立っていない。

(四) なお、クラブハウス棟については本件倶楽部の開場時である平成七年四月二六日には完成しており、そこには最大四二名まで宿泊可能な客室一一室が備わっている。

2 本件倶楽部のような預託金会員制のゴルフクラブの会員は、その本質的な権利として、預託金返還請求権と施設利用権とを有しているが、このうち施設利用権とは、ゴルフ場を一般の利用者に比べて有利な条件で継続的にゴルフを行うために利用する権利をいうものと考えられるから、ゴルフ場の付帯施設にすぎないホテルの建設がゴルフクラブ入会契約の本質的内容となっているものと解することはできない。しかし、本件のように会員募集のパンフレットにホテルの建設についての記載がある場合には、その記載が入会するか否かを決定する重要な要素となる場合も考えられること、また本件の原告のように、宿泊施設がない限り本件倶楽部の会員としての利用が事実上不可能又は極めて困難となる者にとっては、少なくとも宿泊施設の存在を前提として本件契約を締結したものと考えられることからすれば、本件契約においては、前記施設利用権に付随して、会員に本件倶楽部を有効に利用させるために、一定の規模を備えた宿泊施設を整備することが契約の内容となっているものというべきである。

3 そこで、原告が本件契約を解除しうるような被告の債務不履行があったか否かについて判断する。

前記認定のように、被告が本件倶楽部の開場と同時に完成させたのは第一期工事により建設されたクラブハウス棟だけであり、ホテル棟については右開場時においては全く完成の目処が立っていなかったのであるが、《証拠略》によれば、クラブハウス棟にも客室、レストラン、浴室等会員が快適にプレーをするための必要最小限度の設備は備わっており、また会員による客室の利用についてその利用ができないなどの不自由が発生した事実は認められないことに加え、前記認定のとおり右工事の遅延は必ずしも被告の責に帰すべき事由によるものとは認められないことから考えれば、本件においては被告の債務不履行は存在しないものというべきである。

4 以上により、本件ホテル建設の遅滞又は中止を理由とする原告の解除については理由がない。

四  争点4(会員の種類の限定が本件契約の内容となっていたか、新たな種類の会員の創設、募集又は会員資格の分割が解除原因となるか)

1 この点原告は、被告が本件契約において本件倶楽部の会員の種類を名誉会員、特別会員、正会員、平日会員の四種類とすることを明確に約したのであるから、右種類以外の種類の会員を創設、募集することは本件契約上の義務違反となると主張する。

《証拠略》によれば、本件契約締結当時の会則には会員の種類として右四種類の会員の記載しかないことが認められるが、右記載が本件契約の内容となり、被告は新たな種類の会員の創設、募集をしない義務を負っていることを認めるに足りる証拠はない。前記のとおり原告が有するのは被告に対する預託金返還請求権、施設利用権及びそれに付随する権利に限られ、《証拠略》によれば、右の権利に抵触しない会則の規定については、被告の取締役会の決議により改廃が可能(会則第二四条)と認められるから、本件において被告が会則を変更して新たな種類の会員を創設、募集したことは何ら本件契約の義務違反となるものではない。

2 原告は、被告が新種会員及び新平日会員を創設、募集したこと、正会員から新種会員への変更を認めたこと又は正会員資格を二分割したことにより、本件倶楽部の会員権の経済的価値を低下させ、又は会員数の実質的な増加によって本件倶楽部の従来の会員の利用を阻害するために施設利用権の侵害となる旨主張する。しかし、会員権の経済的価値については、前記のとおり原告がその維持を求める権利を有するものではない以上、侵害の有無が問題となる余地はないものと考えられるし、また施設利用権の問題についても、原告の主張は結局将来の侵害のおそれをいうのみであって、会員数の実質的な増加によって本件倶楽部の従来の会員の利用が阻害されたことを認めるに足りる証拠はない。

3 以上により、新たな種類の会員の創設、募集又は会員資格の分割を理由とする原告の解除についても理由がない。

(裁判官 小野洋一)

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