東京地方裁判所 平成6年(ワ)9490号 判決 1998年7月17日
東京都中野区東中野四丁目二七番二七号九〇一
原告
加地永都子
東京都豊島区池袋二丁目二三番一七号
同
根岸能之
東京都豊島区池袋二丁目二三番一七号
同
根岸亮
東京都世田谷区大原一丁目五九番二四号
P・M・ゼストクルーズこと
同
暉峻由紀子
東京都世田谷区上北沢四丁目一九番一二号一〇五
P・M・ゼストクルーズこと
同
浜烈子
原告ら訴訟代理人弁護士
佐藤和利
同
森川文人
右訴訟復代理人弁護士
奥田克彦
東京都中央区築地二丁目一四番一号
被告
株式会社海竜社
右代表者代表取締役
下村のぶ子
右訴訟代理人弁護士
鹿野琢見
東京都中野区中野二丁目一二番八号四〇一
被告
東畑朝子
右訴訟代理人弁護士
鹿野美紀
主文
一 被告東畑朝子は、原告加地永都子に対し、二七万五六七四円及びこれに対する平成五年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告東畑朝子は、原告根岸能之に対し、七八三七円及びこれに対する平成五年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告東畑朝子は、原告根岸亮に対し、七八三七円及びこれに対する平成五年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告東畑朝子は、原告暉峻由紀子に対し、二万五八八八円及びこれに対する平成五年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告東畑朝子は、原告浜烈子に対し、二万五八八八円及びこれに対する平成五年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
七 訴訟費用は、被告東畑朝子に生じた費用の八分の七、原告らに生じた費用及び被告株式会社海竜社に生じた費用を原告らの負担とし、被告東畑朝子に生じたその余の費用を被告東畑朝子の負担とする。
八 この判決は、第一項ないし第五項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告加地永都子に対し、各自一〇三万一二五〇円及びこれに対する平成五年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告根岸能之に対し、各自五一万五六二五円及びこれに対する平成五年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告らは、原告根岸亮に対し、各自五一万五六二五円及びこれに対する平成五年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 被告らは、原告暉峻由紀子に対し、各自一三四万七五〇〇円及びこれに対する平成五年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 被告らは、原告浜烈子に対し、各自一三四万七五〇〇円及びこれに対する平成五年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
6 被告らは、共同して、別紙広告目録記載の謝罪広告を一回掲載せよ。
7 訴訟費用は被告らの負担とする。
8 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告加地永都子及び訴外根岸悦子は、医師でありカリフォルニア大学メディカルセンター産科・婦人科・生殖科学科助教授であるアメリカ人サジャ・グリーンウッド著「メノポウズ・ナチュラリー」一九八九年版(以下、「メノポウズ・ナチュラリー」一九八九年版を「原著八九年版」という。)を翻訳した「のびのび更年期(副題 メノポウズ・ナチュラリー)」(以下「原告著作物」という。)を共同で著作し、原告暉峻由紀子及び同浜烈子は、原告加地及び訴外根岸悦子から、原告著作物につき、出版権の設定を受け、昭和六三年一一月二〇日、原告著作物を出版した。
「メノポウズ・ナチュラリー」は、その後、内容を一部改めたうえ、平成四年(一九九二年)、改訂版が出版された(以下、「メノポウズ・ナチュラリー」一九九二年版を「原著九二年版」という。)。
2 訴外根岸悦子は、平成三年一月二四日、死亡し、原告根岸能之及び同根岸亮が、その著作権を相続した。
3 被告東畑朝子は、「更年期からの素敵ダイエット」(以下「被告書籍」という。)を著作し、被告株式会社海竜社(以下「被告海竜社」という。)は、平成五年四月二四日、被告書籍を出版した。
4(一) 被告東畑は、原告著作物に依拠して被告書籍を著作した。
被告東畑は、原著九二年版を参考にして被告書籍を著作したものであり、原告著作物に依拠して被告書籍を著作したものではないと主張する(後記二4(二))。しかし、原著九二年版には、改訂により、原著八九年版とは内容、表現の異なった部分がある。別紙1ないし7の「原告らの主張」欄の「依拠に関する主張」欄記載のとおり、原著九二年版にはなく、原告著作物のみにある表現が被告書籍には用いられており、他方、原著九二年版にのみあり、原告著作物にはない表現は被告書籍には用いられていないから、被告東畑が原告著作物に依拠して被告書籍を著作したことは明らかである。
(二) 被告書籍には、別紙1、4、7ないし30の部分について、別紙1、4、7の「原告らの主張」欄の「複製又は翻案に関する主張」欄及び別紙8ないし30の「原告らの主張」欄記載のとおり、原告著作物と同一又は類似の表現がある。
(三) したがって、被告東畑が被告書籍を著作し、被告海竜社がこれを出版したことにより、原告加地、同根岸能之及び同根岸亮が原告著作物に対して有する複製権が侵害され、複製権が侵害されなかったとしても翻案権が侵害され、また、原告暉峻及び同浜が原告著作物に対して有する出版権が侵害された。
5 被告らは、被告書籍の出版に際し、原告加地の氏名を表示せず、これにより、原告加地が原告著作物に対して有する氏名表示権が侵害された。
6(一) 被告東畑及び同海竜社には、原告加地、同根岸能之及び同根岸亮の複製権、翻案権、原告暉峻及び同浜の出版権、原告加地の氏名表示権を侵害するについて、故意又は少なくとも過失がある。
(二) 被告東畑が被告書籍を著作した行為と、被告海竜社がこれを出版した行為は、関連共同している。
7(一) 原告加地、同根岸能之及び同根岸亮らの著作権者と原告暉峻及び同浜らの出版権者は、著作権者と出版権者の利益の配分割合を五対一四とすることを約した。
また、著作権者である原告加地、同根岸能之及び同根岸亮らの間の利益の配分割合は、二対一対一であり、出版権者である原告暉峻及び同浜の間の利益の配分割合は、一対一である。
(二)(1) 民法七〇九条、著作権法一一四条一項に基づき著作権者及び出版権者が損害賠償を請求する場合は、被告らが侵害行為により受けた利益の額が損害の総額と推定され、原告各自の被った損害の額は、右利益の額を右(一)の割合に基づき割り振った金額である。
(2) 被告海竜社が原告著作物の著作権等の侵害行為により受けた利益は、被告書籍の売上げ総額である三八六万四一〇〇円であり、これは、侵害行為によって原告らが被った損害の額と推定される。
そこで、原告各自の被った損害は、原告加地については、右の額の三八分の五に当たる五〇万八匹三四円、原告根岸能之及び同根岸亮については、それぞれ、右の額の七六分の五に当たる二五万四二一七円、原告暉峻及び同浜については、それぞれ、右の額の一九分の七に当たる一四二万三六一六円である。
(3) 被告東畑が原告著作物の著作権等の侵害行為により受けた利益は、被告海竜社から被告東畑に支払われた印税の額である八六万二五〇〇円であり、これは、侵害行為によって原告らが被った損害の額と推定される。
そこで、原告各自の被った損害は、原告加地については、右の額の三八分の五に当たる一一万三四八六円、原告根岸能之及び同根岸亮については、それぞれ、右の額の七六分の五に当たる五万六七四三円、原告暉峻及び同浜については、それぞれ、右の額の一九分の七に当たる三一万七七六三円である。
(三)(1) 民法七〇九条、著作権法一一四条二項に基づき著作権者が損害賠償を請求する場合は、通常使用料相当額が損害の総額とざれ、原告加地、同根岸能之及び同根岸亮の各自が被った損害の額は、右通常使用料相当額を右(一)の割合に基づき割り振った金額である。
(2) 原告加地、同根岸能之及が同根岸亮がその著作権の行使につき通常受けるべき金額は、書籍の売上げ総額の一〇パーセントであり、被告書籍の予想売上げ総額は八七五万円であるから、その一〇パーセントに当たる八七万五〇〇〇円が通常使用料相当の損害の総額である。
そこで、原告加地が被った損害の額は、右総額の二分の一に当たる四三万七五〇〇円であり、原告根岸能之及び同根岸亮が被った損害の額は、それぞれ、右総額の四分の一に当たる二一万八七五〇円である。
8 原告加地は、氏名表示権の侵害により精神的損害を受けたものであり、その慰謝料としては五〇万円が相当である。
9 原告らは、本訴の提起及び追行を本件原告ら訴訟代理人に委任し、弁護士費用の支払を約したが、右費用のうち四三万二五〇〇円が、被告らによる不法行為と相当因果関係のある損害であり、これを原告五名で按分した八万六五〇〇円が、各原告の損害である。
10 原告らの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求の遅延損害金の起算日は、被告らが被告書籍を出版し、原告著作物の著作権等を侵害した日である平成五年四月二四日であり、原告らは、被告らに対し、同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
11 原告加地が、前記5のとおり氏名表示権を侵害されたことについて、原告加地の名誉を回復するためには、別紙広告目録記載の謝罪広告を一回掲載することが必要である。
12 よって、原告らは、被告らに対し、次のとおり求める。
原告加地は、民法七一九条、七〇九条、著作権法二一条、二七条(主位的に二一条、予備的に二七条)、一一四条一項、二項(主位的に一一四条一項、予備的に一一四条二項)、民法七一〇条、著作権法一九条一項に基づき、被告ら忙対し、複製権又は翻案権侵害の損害である五〇万八四三四円、氏名表示権侵害の損害である五〇万円及び弁護士費用八万六五〇〇円の合計一〇九万四九三四円の一部請求として、前記第一、一請求の趣旨(以下、単に「請求の趣旨」という)1のとおり金員の支払を求め、著作権法一一五条に基づき、請求の趣旨6のとおり謝罪広告の掲載を求める。
原告根岸能之は、民法七一九条、七〇九条、著作権法二一条、二七条(主位的に二一条、予備的に二七条)、一一四条一項、二項(主位的に一一四条一項、予備的に一一四条二項)に基づき、被告らに対し、請求の趣旨2のとおり金員の支払を求める。
原告根岸亮は、民法七一九条、七〇九条、著作権法二一条、二七条(主位的に二一条、予備的に二七条)、一一四条一項、二項(主位的に一一四条一項、予備的に一一四条二項)に基づき、被告らに対し、請求の趣旨3のとおり金員の支払を求める。
原告暉峻は、民法七一九条、七〇九条、著作権法八〇条一項、一一四条一項に基づき、被告らに対し、出版権侵害の損害である一四二万三六一六円及び弁護士費用八万六五〇〇円の合計一五一万〇一一六円の一部請求として、請求の趣旨4のとおり金員の支払を求める。
原告浜は、民法七一九条、七〇九条、著作権法八〇条一項、一一四条一項に基づき、被告らに対し、出版権侵害の損害である一四二万三六一六円及び弁護士費用八万六五〇〇円の合計一五一万〇一一六円の一部請求として、請求の趣旨5のとおり金員の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実のうち、原著九二年版が出版されたことは認め、その余は不知。
2 同2の事実は不知。
3 同3の事実は認める。
4(一) 同4の事実のうち、原告著作物と被告書籍に、別紙1ないし30の各記載があることは、認める。
(二) 同4(一)のその余の事実は否認する。
被告東畑は、原著九二年版を参考にして被告書籍を著作したものであり、原告著作物に依拠して被告書籍を著作したものではない。この点に関する被告らの主張は、別紙1ないし7の「被告らの主張」欄記載のとおりである。
(三) 同4(二)のその余の主張は争う。
(1) 別紙1、4、7ないし30の「被告らの主張」欄記載のとおり、被告書籍の別紙1、4、7ないし30の部分は、原告著作物と同一又は類似の表現ではないし、原告著作物の著作権等を侵害するものではない。
(2) 原告著作物と被告書籍は、版を異にするとはいえ、同じ原著に依拠するものであるから、本件は、単に原告著作物に依拠した著作権侵害の問題ではなく、同じ原典を翻訳した二つの書物の間で著作権侵害があるかどうかという問題である。
原典を同じくするならば、プロットも文章も同様のものになるであろう。また、具体的に個々の訳文、訳語を比較検討してみると、双方が同じ原典に依拠していることにより生じ得るであろうと予想される程度を超えた一致が見られる場合があるが、その場合でも、全体として文体、語調に違いがあれば、全体としての著作権の侵害は認められない。本件においては、被告書籍は、全体として原告著作物とは違いがあるので、原告著作物全体に対する著作権侵害はない。
一つの著作物の一部分に対する著作権侵害が成立するためには、その部分が独創性又は個性的特徴を備えていることが必要であるが、原告らが侵害を主張する原告著作物の対比部分は、原告著作物と被告書籍が同じ原典に依拠するものであることを考えると、いずれの部分も独創性又は個性的特徴を備えているとはいえないから、原告著作物の一部分に対する著作権侵害もない。
(四) 同4(三)の主張は争う。
5 同5の主張は争う。
6(一) 同6(一)の事実は否認する。
(二) 同6(二)の事実は否認する。
7(一) 同7(一)の事実は不知。
(二)(1) 同7(二)(1)の主張は争う。
(2) 同7(二)(2)のうち、被告書籍の売上げ総額が三八六万四一〇〇円であることは認め、その余の主張は争う。
被告海竜社は、被告書籍の出版により、六〇万九八六〇円の赤字が出たものであり、被告書籍の出版によって利益を得ていない。
(3) 同7(二)(3)のうち、被告海竜社から被告東畑に支払われた印税の額が八六万二五〇〇円であることは認め、その余の主張は争う。
被告東畑は、被告書籍を執筆するために印税の四〇パーセントの費用がかかったので、被告書籍の執筆により得た利益は、五一万七五〇〇円である。
原告らが原告著作物の著作権等を侵害すると主張する部分は、被告書籍の中の五パーセントに過ぎないから、仮に侵害が認められたとしても、その損害は、被告東畑の右利益の額の五パーセントに当たる二万五八七五円である。
(三)(1) 同7(三)(1)の主張は争う。
(2) 同7(三)(2)の主張は争う。
8 同8の主張は争う。
9 町9のうち、原告らが本訴の提起及び追行を本件原告ら訴訟代理人に委任し、弁護士費用の支払を約したことは不知であり、その余の主張は争う。
10 同10の主張は争う。
11 同11の主張は争う。
12 同12の主張は争う。
理由
一 請求原因1の事実のうち、原著九二年版が出版されたことは当事者間に争いがない。甲第一号証、第三号証、第六号証の一、六、一三、一五、二七、第八号証、第九号証及び弁論の全趣旨によると、請求原因1のその余の事実が認められる。
二 弁論の全趣旨によると、請求原因2の事実が認められる。
三 請求原因3の事実は、当事者間に争いがない。
四 請求原因4について
1 原告著作物と被告書籍に、別紙1ないし30の各記載があることは当事者間に争いがない。
2 依拠について
(一) 被告東畑は、被告書籍を著作するに当たって原告著作物に依拠したことを否認し、被告書籍は原著九二年版を参考にして著作したと主張し、同被告は、同被告本人尋問において、同旨の供述をする。
(1) そこで、まず、別紙1ないし7の部分について、右の点を検討すると、次のとおりである。
<1> 別紙1の部分について
甲第八号証、第九号証及び弁論の全趣旨によると、原著八九年版の該当個所の記述は、a year after it(終わった後の一年)であったが、原著九二年版の該当個所は、a year or two after it(終わった後の一、二年)と、幅をもつ記述に変更されたことが認められるところ、被告書籍の別紙1の部分には原著九二年版の該当個所のようには書かれておらず、原告著作物と同様に、「終わった後の一年」と書かれている。
被告東畑は、同被告本人尋問において、産婦人科医に確かめて、「終わった後の一年」と記載したと供述する。しかし、更年期がどのような期間をさすかということは、被告書籍の別紙1の部分のうちで最も重要な事項の一つであるから、被告東畑が原著九二年版の該当個所を参照していたとすれば、更年期が最後の月経が終わった後の一ないし二年をさすという右原著の記述をあえて変えたものとは考えられず、むしろ、その部分を忠実に被告書籍に記載したであろうと考えるのが自然である。また、宅し、原著九二年版を参照していたにもかかわらず、被告書籍のように書いたとすれば、右原著の記述を変えた方がよいと判断するための根拠となる医学的情報を得ていたはずであるが、被告東畑の供述によれば、産婦人科医に確かめたという程度の根拠しか示されておらず、医学的情報を、原著以外のどのような書物から得たかという点についても明確な指摘がない。そうであるとすれば、原著九二年版を参照していたにもかかわらずなお右原著の記述を変えて被告書籍を書いたとは認められず、被告東畑の前記供述は、信用することができない。
<2> 別紙2の部分について
甲第八号証、第九号証及び弁論の全趣旨によると、原著八九年版の該当個所には、娘との関係、医者に行きホルモン剤を処方されたが、乳房が痛んだり頭痛がしたという記述があるが、原著九二年版の該当個所では、これちの記述は削除され、「体は疲れ緊張し、落ち込んでしまった」という記述に変更されたものと認められるところ、被告書籍の別紙2の部分には、原告著作物と同様に、娘との関係、医者に行きホルモン剤を処方されたが、乳房が痛んだり頭痛がしたということが書かれている。
被告東畑は、同被告本人尋問において、更年期の母親が娘にあたるということ又は医師にホルモン剤を処方されて乳房が張ったり頭痛がしたということは、更年期の逸話としてよくあり、被告東畑自身の着想により、そのような逸話を被告書籍に挿入した旨の供述をする。しかし、更年期の母親が娘にあたるということ又は医師にホルモン剤を処方されて乳房が張ったり頭痛がしたということが更年期の逸話としてあり得るとしても、原著九二年版を参照したうえで、その「体は疲れ緊張し、落ち込んでしまった」という記述の代わりに右のような逸話を挿入するということは、通常容易に想起し得るとは考えられないから、被告東畑の前記供述は、信用することができない。
<3> 別紙3の部分について
甲第八号証及び弁論の全趣旨によると、原著八九年版の該当個所には、「最近では癌の危険をできるだけ少なくするため、月の最後の一〇日間はエストロゲンのほかにプロゲスティンも加えたほうがよいことが明らかになっている」という記述があったが、原告加地は、訴外根岸悦子と相談のうえ、当時の実情に合わせ、原著では一〇日間となっていた日数を、一〇日ないし一四日としたことが認められる。甲第九号証及び弁論の全趣旨によると、原著九二年版の該当個所では、癌の種類が子宮癌と特定されており、日数については、毎月一〇日間と書かれ、月の最後のという限定はなくなっており、さらに、プロゲスティンを毎日服用する女性もいるということが付け加えられて記載されていることが認められる。しかるところ、被告書籍の別紙3の部分には、原告著作物と同様に、癌の種類は特定されておらず、日数について「月の最後の十~十四日間」と書かれており、プロゲスティンを服用する女性もいるということは書かれていない。
被告東畑は、医師の意見などを聞いて、日数を「十~十四日間」とし、癌を子宮癌に特定しなかったと主張する。しかし、甲第二号証によると、被告書籍の別紙3の部分は、「ホルモン剤はやせるけれど危険」という表題のもとに、ホルモン剤の発癌性を指摘し、その危険を防止するためにプロゲスティンを加えることがよいとされていると述べている部分であることが認められ、どのような種類の癌の危険性があるか、発癌の危険性を防止するためにどのようにプロゲスティンを服用するのがよいかは、右部分において重要な事項であるから、被告東畑が原著九二年版を参照していながら、右のように異なる記述をするとは考えられず、被告東畑の右主張を採用することはできない。
<4> 別紙4の部分について
甲第八号証、第九号証及び弁論の全趣旨によると、原著八九年版の該当個所には、「ほてりの感じは二~三分でおさまる」、「人によっては一時間も続く」という記述があるが、原著九二年版の該当個所では、原著八九年版の「二~三分」が「一~五分」に変更され、「人によっては一時間も続く」という記述は削除されていることが認められるところ、被告書籍には、原告著作物と同様に、ほてりの続く時間として「二~三分」と書かれ、「人によっては一時間も続く」と書かれている。
被告東畑は、同被告本人尋問において、同被告自身がほてりが一時間続き、他にもそのように言う者がいたことから「人によっては一時間続く」ということを書いたと供述するが、「一~五分」という原著九二年版の記述を「二~三分」と書き換え、原著九二年版にない「人によっては一時間も続く」ということを書き加えたことの理由としては極めて曖昧であり、同被告の右供述は、信用することができない。
<5> 別紙5の部分について
甲第九号証及び弁論の全趣旨によると、原著九二年版の該当個所には、別紙5の該当部分の後に、「ほてりで眠れないという問題があるときは、日中運動をして、夜暖かい風呂に入り、夕食のときアルコールやカフェインを避け、寝る前に牛乳かヨーグルトをとると、眠れないという問題はやわらぎます。ほてりは、まだ月経がある期間に始まることが多いのです。特に月経中に起こります。」という内容の記述があることが認められる。しかし、被告東畑がフードドクターであり栄養学の専門家であるからといって、被告東畑が原著九二年版を参照していた場合には、右記述を被告書籍に必ず書くとまで認めることはできない。したがって、被告書籍に右記述がなかったとしても、そのことは、被告東畑が原著九二年版を参照していないということの根拠にはならない。
<6> 別紙6の部分について
甲第八号証及び弁論の全趣旨によると、原著八九年版の該当部分には、原告著作物の別紙6の部分と同旨の記述があったことが認められ、甲第九号証及び弁論の全趣旨によると、原著九二年版の該当部分には、「白人女性の約二五パーセントが重い骨粗髪症にかかります。アジア人女性の方が白人よりいく分リスクが小さく、いちばん危険が少ないのはラテン系と黒人の女性です。黒い肌と太くて丈夫な骨とは相関関係があると考えられています。」という記述があることが認められるところ、被告書籍の別紙6の部分には、原著九二年版の該当個所の内容は書かれておらず、黒人以外の女性の二五パーセントが骨粗鬆症にかかるという、原告著作物と同じ趣旨の記載がされている。
被告東畑は、被告書籍の「黒人以外の女性」という部分は、原著九二年版の「白人女性」、「アジア人女性」、「ラテン系の女性」という記述を言い換えたものである旨を主張する。しかし、前記のとおり、原著九二年版の該当個所は、「白人女性の約二五パーセントが重い骨粗鬆症にかかります。」という記述であるから、それを参照していながら、「黒人以外の女性はその二十五%が重い骨粗鬆症にかかると言われます。」と記述することは不自然であって、被告東畑の右主張は、採用することができない。また、被告東畑は、同被告本人尋問において、白人、アジア人、黒人ということは一種の差別であり、書きたくないから、「黒人以外」と書いた旨供述している。しかし、被告東畑が人種で区別したくないという考えを持っているとしても、原著九二年版に「白人女性」と書かれているところを殊更書き換えて「黒人以外の女性」としたというのは不自然であって、被告東畑の右供述を信用することはできない。
<7> 別紙7の部分について
甲第八号証及び弁論の全趣旨によると、原著八九年版の該当個所において、表は、線で上下に分けられており、線の上側に重要な項目が記載されており、線の下側にあまり重要でない項目が書かれていること、遺伝的、医学的要因の最初の項目は、「黒人以外の人種に属している」であることが認められ、甲第九号証及び弁論の全趣旨によると、原著九二年版の該当個所の表においては、重要な項目とそうでない項目の区別がされず、遺伝的、医学的要因の最初の項目は、「白人(又はアジア人)」であることが認められるところ、被告書籍の別紙7の表は、原告著作物の表と同様に、あまり重要でない項目に*印が付けられ、遺伝的の医学的要因の最初の項目が「黒人以外の人種に属している。」と書かれている。
被告東畑は、同被告本人尋問において、同被告の考えで、重要でないと思われる項目に*印を付けたと供述している。しかし、被告東畑の供述によっても、重要な項目とそうでない項目をどのような基準で分けたかについては明らかではなく、それにもかかわらず、どの項目が重要か否かについて、原著八九年版の判断と被告東畑の判断が一致するのは不自然であるし、甲第八号証及び弁論の全趣旨によると、そもそも原著八九年版においても、重要な項目とそうでない項目は、線の上下に書き分けることにより区別されており、*印であまり重要でない項目を示すことは、原告加地らが工夫したところであると認められるから、原告著作物を参照せず、原著九二年版を参照しただけで同様の工夫を着想したというのも不自然であって、被告東畑の前記供述は、信用することができない。
(2) 弁論の全趣旨によると、原著八九年版に記載されておらず原著九二年版にのみ記載されている部分で、原告著作物には記載されておらずかつ被告書籍に記載されている部分は、存在しないことが認められる。
(3) 以上によると、被告東畑が原著九二年版を参照したと認めることはできず、右認定の各事実(右(1)<5>を除く)は、被告書籍が原告著作物に依拠して作成されたことを推認させるということができる。
(二) 右(一)で述べたところに、後記3(一)ないし(三)のとおり、被告書籍には、表現が原告著作物と同一の部分があることを合わせ考えると、被告東畑は、原告著作物に依拠して被告書籍を著作したものと認められる。
3 表現の同一性又は類似性について
(一) 被告書籍が原告著作物の複製権を侵害したものであると認められるためには、被告らが原告著作物に依拠して被告書籍を作成し、かつ、その被告書籍が、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであることが必要であり、また、被告書籍が原告著作物の翻案権を侵害したものであると認められるためには、被告らが原告著作物に依拠して被告書籍を作成し、かつ、原告著作物における表現形式上の本質的な特徴を被告書籍から直接感得することができることが必要である。そして、出版権者は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもって、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有するものであるから、被告書籍によって複製権が侵害される場合には、同時に出版権も侵害されるものと認められる。
(二) ところで、甲第一八号証及び弁論の全趣旨によると、原告著作物は、日本の読者の理解を容易にするために、原著八九年版の原文をそのまま翻訳することなく、別の語句に言い換えたり、右原著にない語句を補ったりした部分があるものの、全体としては、原文にほぼ忠実に翻訳しているものと認められる。そうであるとしても、翻訳に当たっては、多くの訳語の中から、語句を選択し、その順序や配列を考えて行うことが必要であり、そこに創作性が認められるから、原告著作物は、全体として創作性を有するものであるが、原告著作物の創作性は、主に、以上のような語句の選択、配列にあるということができる。全体の構成、論理の展開、説明の方法などについては、原告著作物は、原著八九年版に依っているのであるから、原告著作物にそのような点について創作性を認めることは困難である。そこで、以上のような観点から、別紙1、4、7ないし30の部分につき、被告書籍の該当部分が、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるか、又は原告著作物における表現形式上の本質的な特徴を直接感得させるといえるかどうかについて検討することとする。
(1) 被告書籍の該当部分と原告著作物の表現の類似性が高いと考えられるところについて検討する。
<1> まず、原告著作物と被告書籍の別紙1の部分を対比する。
被告書籍の別紙1の部分の「更年期がくると実際に何が起こるのでしょうか。」、「英語でメノポウズ(menopause)といいますが」、「つまり閉経ということ」、「最終月経前の二~三年と、終わったあとの一年をさして」、「卵巣から出るホルモンの量が次第に減少し、それにつれて月経は不規則になるのですが、やがてなくなります。」という部分は、原告著作物の別紙1の部分の「更年期がくると実際何が起こるのでしょうか。」、「英語のメノポウズ(menopause」、「つまり閉経ということば」、「最後の月経までの2~3年と終わったあとの1年を合わせた」、「卵巣からでるホルモンの量が減るにつれて、月経は不規則になり、やがてなくなります。」という部分と、語句の選択、配列に共通性が認められ、被告書籍の別紙1の部分は、それらの共通性が認められる部分がほとんどを占めているから、被告書籍の別紙1の部分は、原告著作物の内容及び形体を覚知させるに足りるものであるということができ、それを複製したものと認められる。
<2> 次に、原告著作物と被告書籍の別紙7の部分を対比する。
原告著作物の別紙7の部分の個条書きの表題は、「遺伝的・医学的要因」と「ライフスタイル上の要因」であり、被告書籍の別紙7の部分の個条書きの表題は、「遺伝的の医学的要因」と「ライフスタイル上の要因」、であり、表現はほぼ同一である。
原告著作物の別紙7の部分の遺伝的・医学的要因の項目のうち、一番目の「黒人以外の人種に属している」、四番目の「やせている(とくに背が低い場合)」、七番目の「腎臓透析を行なっている」、ライフスタイル上の要因の項目のうち、一番目の「アルコール摂取量が多い」、三番目の「運動不足」、八番目の「出産の経験がない」は、被告書籍の別紙7の部分においても、全く同一である。
その他の項目についてみると、原告著作物の別紙7の部分の遺伝的・医学的要因の項目は、二番目が「過去に大事には至らなかった程度の骨折をしている」、三番目が「骨粗鬆症の女性が親類にいる」、六番目が「慢性下痢や胃ないし小腸の一部を外科手術でとっている」、八番目が「コルチゾンを常用している」、九番目が「甲状腺剤(1日2グレイン以上)やジランチン(抗てんかん剤)ないしアルミニウム含有の制酸剤を常用している。」であるのに対し、被告書籍の別紙7の部分の遺伝的の医学的要因の項目は、二番目が「過去に骨折している(大事に至らない程度のもの。)。」、三番目が「骨粗鬆症の女性が家族、親類にいる。」、六番目が「慢性下痢、胃や小腸の一部を外科手術でとっている。」、八番目が「コルチゾン(副腎皮質ホルモン)を常用している。」、九番目が「甲状腺剤やジランチン(抗てんかん剤)、アルミニウム含有の制酸剤を常用している。」である。また、原告著作物のライフスタイル上の要因の項目は、二番目が「たばこをすう」、四番目が「食生活でのカルシウム分不足」、五番目が「日光や食事や錠剤からとるビタミンDの不足」、六番目が「高蛋白の食生活」、七番目が「高塩分の食生活」、九番目が「カフェイン摂取量が多い(1日5杯以上)」であるのに対し、被告書籍のライフスタイル上の要因の項目は、二番目が「タバコを吸う。」、四番貝が「食事中のカルシウム不足。」、五番目が「日光や食事、錠剤からのビタミンDの不足(ビタミンDはカルシウムの吸収をよくする)。」、六番目が「高たんぱく質の食事。」、七番目が「高塩分の食事。」、九番目が「カフェインの摂取量が多い(一日五杯以上)。」である。これらの表現を比較すると、語句の順序の入換え、語句の加除、同意義語への置換えなどが見られるが、これらがあったとしても、語句の選択、配列は、大部分において共通しているということができるから、各項目とも、表現はほぼ同じである。
また、原告著作物の別紙7の部分の末尾には、「(*印はその他のものほど重大な要因ではありません)」と記載されており、遺伝的・医学的要因の九番目の項目及びライフスタイル上の要因の九番目の項目の各末尾には「*」が付されているのに対し、被告書籍の別紙7の部分の末尾にも、「(*印は、その他のものほど重大な要因ではない)」と記載されており、遺伝的の医学的要因の九番目の項目及びライフスタイル上の要因の九番目の項目の各末尾には「*」が付されており、この部分についても、原告著作物と被告書籍の表現は、ほぼ同じである。
したがって、被告書籍の別紙7の部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるから、それを複製したものと認められる。
なお、甲第二号証によると、被告書籍の別紙7の表の前には、「サジヤ・グリーンウツド博士はその原因を次のようにあげています。」と記載されていることが認められるが、サジヤ・グリーンウツドのどの著作からの引用か示されておらず、また、原告著作物からの引用であることの表示もないから、被告書籍の別紙7の部分は、公正な慣行に合致する引用とは認められない。
<3> 次に、被告書籍の別紙12の部分の「ふつう生理が終わったあと二週間は体の動きは活発です。この時期に体の活動を刺激するエストロゲン(女性ホルモン)が一番多く分泌されます。そして排卵が終わり、卵巣からプロゲステロンが分泌されはじめると、活動がにぶり、食欲が出て食べる量がふえます。」という部分と原告著作物の別紙12の部分の「月経のある年代の女性についての調査では、月経が終わったあとの2週間が、からだの動きが活発になっています。この時期にからだの活動を刺激するエストロゲンがいちばん多くなるからです。排卵が終わり卵巣からプロゲステロンも分泌されはじめると、活動がにぶり、食べる量はふえます。」という部分を対比する。
甲第一八号証及び弁論の全趣旨によれば、原告著作物の右部分の「からだの活動を刺激する」という表現は、もともと原著になく、訴外根岸悦子が加筆したものであることが認められるが、被告書籍には、この表現が、「からだ」という語を「体」という漢字に置き換えただけでそのまま使用されている。また、原告著作物と被告書籍の右部分のその余についても、語句の選択、配列はほとんど共通しているものと認められ、被告書籍の右部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるから、それを複製したものと認められる。
<4> 次に、被告書籍の別紙18の部分の「骨粗鬆症にかかった骨は、ちょっとした刺激で折れやすく、曲がりやすく、あるいは圧縮されやすくなりますから、痛みや運動障害をひき起こすのです。」という部分と原告著作物の別紙18の部分の「骨粗鬆症にかかると、骨は折れたり曲がったり、あるいは圧縮されやすくなるため、痛みや運動障害を引き起こします。」という部分を対比すると、被告書籍の右部分は、「ちょっとした刺激で」というところ以外は、原告著作物の右部分と語句の選択、配列をほとんど共通にするから、被告書籍の右部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであって、それを複製したものと認められる。
<5> 次に、被告書籍の別紙19の部分の「体内に摂取カルシゥムが増加して、血液中から骨へ入ってくると、骨はかたく、強く、太くなります。」という部分と原告著作物の別紙19の部分の「カルシウムが増加して血液中から骨に入れば、骨は堅く強くそして太くなります。」という部分を対比する。
甲第一八号証及び弁論の全趣旨によれば、原告著作物の右部分の「血液中から骨に入れば」という表現の原著の該当個所は、enter the bones from the blood streamであり、直訳すれば「血流から骨に入る」という表現であったところ、原告加地は、これを「血液中から」と意訳したこと、また、原告著作物の右部分の「堅く」という表現の原著の該当個所は、denserであり、「骨密度が高い」という意味であったが、原告加地は、これを「堅い」と意訳したことが認められるが、被告書籍の右部分には、これらの表現がそのまま使用されている。さらに、原告著作物と被告書籍の右部分のその余についても、語句の選択、配列をほとんど共通にするから、被告書籍の右部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであって、それを複製したものと認められる。
<6> 次に、被告書籍の別紙22の部分の「活力がわいてくる、体重が安定する、髪の毛にもツヤがでる、抜け毛が止まる、顔色がよくなる、歯ぐきからの出血が止まる、便秘が解消する、といった具合です。」という部分と原告著作物の別紙22の部分の「活力がわいてくるし体重も安定し、髪の毛のツヤも増して抜け毛は止まり、顔色がよくなって歯ぐきの出血もなくなるうえに、便秘もなおります。」という部分を対比する。
甲第一八号証及び弁論の全趣旨によれば、原告著作物の右部分の「活力がわいてくる」という表現の原著の該当個所は、Energy increasesであり、普通であれば「元気が出てくる」、「エネルギーが増す」と訳されるが、原告加地が工夫して「活力がわいてくる」と訳したこと、原告著作物の右部分の「顔色がよくな」るという表現の原著の該当個所は、skin looks betterであり、普通であれば顔と限定せずに「肌(又は皮膚)のつやがよくなる」と訳されるが、原告加地が「顔」ということばを補い、「顔色がよくなる」と訳したことが認められるが、被告書籍の右部分には、これらの表現がそのまま使用されている。さらに、原告著作物と被告書籍の右部分のその余についても、語句の選択、配列をほとんど共通にするから、被告書籍の右部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであって、それを複製したものと認められる。
<7> 次に、被告書籍の別紙23の部分の「食事を低脂肪に変えることは、第二の人生を元気に送るために、非常に大切なことです。それは自己啓発をし、関心を怠らない必要があるとはいえ、活力に満ち病気に対する抵抗力がつくという点で、非常にやりがいのあることでよう。子どもの時から低脂肪食を始めるのが最善としても、更年期から始めても遅くはありません。心臓病の危険性が高くなるのは更年期からですし、低脂肪食、運動はそれまで以上に重要になります。」という部分と、原告著作物の別紙23の部分を対比する。
甲第一八号証及び弁論の全趣旨によれば、原告著作物の右部分の「自己啓発」という表現の原著の該当個所は、self-educationであり、普通であれば「独学」と訳されるところ、原告加地が工夫して「自己啓発」と訳したことが認められるが、被告書籍の右部分には、この表現がそのまま使用されている。原告著作物と被告書籍の右部分のその余についても、語句の選択、配列をほとんど共通にするから、被告書籍の右部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであって、それを複製したものと認められる。
なお、被告書籍の別紙23の部分のうち、「カリフォルニア大学助教授のサジャ・グリーン・ワツド氏のアドバイスは、」という部分は、原著の著者であるサジャ・グリーンウツドの著作からの引用であることを示すものとも解されるが、サジャ・グリーンウツドのどの著作からの引用か示されておらず、また、原告著作物からの引用であることの表示もなく、さらに、被告東畑の著作した文章と引用部分との区別が明らかでないから、被告書籍の別紙23の部分は、公正な慣行に合致する引用とは認められない。
<8> 次に、被告書籍の別紙24の部分の「健康を保つため、塩分をできるだけひかえ、その代わりに玉ねぎ、にんにく、レモンジュース、ハーブ、スパイスなどで食物に風味づけをしなさい」という部分と原告著作物の別紙24の部分の「健康をたもつため、塩分をひかえ、その代わりに玉ネギやニンニク、レモンジュース、ハーブ、スパイスなどで食物に風味をつけたほうがよい」という部分を対比すると、これらの部分は、語句の選択、配列をほとんど共通にするから、被告書籍の右部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであって、それを複製したものと認められる。
なお、被告書籍の右部分は、前後に、「アメリカ人は、」、「と言っていますが」と書かれているが、原著の著者であるサジヤ・グリーンウッドの著作からの引用であることは示されておらず、また、原告著作物からの引用であることも表示されていないから、公正な慣行に合致する引用とは認められない。
<9> 次に、被告書籍の別紙28の部分の「カフェインは女性の乳房にできる良性のしこりにも関係する」、「胸の特定の細胞成長因子を刺激するらしく、生理の前になるとしこりが大きくなって乳房の痛みを増すのです。カフェインをやめると四-六カ月でしこりが殆ど消えることがあります。」という部分と原告著作物の別紙28の部分の「カフェインは女性の胸房にできる良性のしこりに関係があるといわれます。どうやら胸房にある特定の細胞成長因子を刺激するらしく、月経の前になるとしこりが大きくなって乳房の痛みを増すのです。胸房にしこりのある女性がカフェインを断つと、4~6カ月でしこりはほとんどなくなることがよくみられます。」という部分を対比すると、原告著作物の「胸房」、「月経」ということばが被告書籍において「乳房」、「生理」ということばに置き換えられている他は、語句の選択、配列をほとんど共通にするから、被告書籍の右部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであって、それを複製したものと認められる。
なお、被告書籍の別紙28の部分には、「と、アメリカのサンジャ・グリーンウッド博士は言っています。」、「博士によると」という記載があり、原著の著者の名前が示されているが、サジャ・グリーンウツドのどの著作からの引用か示されておらず、原告著作物からの引用であることの表示もないから、公正な慣行に合致する引用とは認められない。
<10> 次に、被告書籍の別紙30の部分の「エストロゲンが充分にないと、骨のカルシウムは骨化より早い速度で溶けでくるのです。そこで骨は、もろくなり、折れやすくなってしまいます。なぜエストロゲンが骨を強くするか、まだ確かなことはわかりませんが、妊娠中にカルシウムが減りすぎないように骨を守り、授乳が終わって次の妊娠までに骨の再カルシウム化(骨化)を急速にすすめるためのメカニズムと考えられています。その時期には、必ずエストロゲンのレベルが高くなっているからです。」という部分と原告著作物の別紙30の部分の「エストロゲンがもはやたっぷりとはないとなると、骨のカルシウム分は骨化よりもはやい速度でとけます。そのため女性の骨は軟化し、もろくなり折れやすくなるのです。なぜエストロゲンが骨をじょうぶにするという重要な役目をもつのでしょう。確かなことはわかりませんが、おそらく妊娠中にカルシウムが減りすぎないよう骨を守り、授乳が終わってから次の妊娠までに骨の再石灰化をはやくすすめるためのメカニズムといえるでしょう。この時期になると体内のエストロゲンのレベルは高くなるのです。」という部分を対比すると、これらの部分は、語句の選択、配列をほとんど共通にするから、被告書籍の右部分は、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものであって、それを複製したものと認められる。
(2) 別紙1、4、7ないし30の部分のうち、右(1)<1>ないし<10>において検討した部分以外においても、原告著作物と被告書籍の間に、全体の構成、論理の展開、説明の方法を共通にし、又は文節若しくは単語の単位において語句を共通にするところが存在する。
しかし、前記のとおり、原告著作物は、全体の構成、論理の展開、説明の方法などは、原著八九年版に依っており、原告著作物にその部分について創作性を認めることは困難であるから、全体の構成、論理の展開、説明の方法に共通性があっても、それをもって原告著作物の複製、翻案であるとはいえない。また、文節又は単語の単位において見た場合には、原告著作物と被告書籍の語句が共通しているところが存するし、その中には、甲第一八号証及び弁論の全趣旨によれば、原告加地又は訴外根岸悦子が独自の工夫をして翻訳した部分と認められるもの(例えば、別紙9の「明るい更年期観」、別紙10の「更年期以降の元気」、別紙16の「からだのいうことに耳を傾け」など)も存する。しかし、そのような文節又は単語については、それのみでは、著作物性を認めることはできないから、それらが共通であるからといって、直ちに原告著作物の複製、翻案であるとはいえず、前後の文も含めて考えなければならない。
そうすると、別紙1、4、7ないし30の部分のうち、右(1)<1>ないし<10>において検討した部分以外は、共通する語句が一部に存在するとしても、ある程度まとまった部分として見た場合には、語句の選択、配列が異なっており、原告著作物の内容及び形式を覚知させ又は原告著作物の表現形式上の本質的な特徴を直接感得させるに足りるとはいえない。
(三) 以上によれば、右(二)(1)<1>ないし<10>のとおり、被告書籍の別紙1及び7の部分の全部、被告書籍の別紙12、18、19、22、23、24、28、30の部分の各一部は、原告著作物を複製したものと認められる。
4 したがって、被告東畑が被告書籍を著作し、被告海竜社がこれを出版したことにより、原告加地、同根岸能之及び同根岸亮は、原告著作物に対して有する複製権を侵害され、原告暉峻及び同浜は、原告著作物に対して有する出版権を侵害されたものと認められる。
五 前記四2及び3のとおり、被告書籍は、原告著作物に依拠して著作され、一部原告著作物を複製したものであるから、被告書籍中に、原告著作物の著作者である原告加地の氏名が表示されるべきであるところ、甲第二号証によると、原告加地の氏名は、被告書籍中に表示されていないものと認められる。
したがって、被告東畑が被告書籍を著作し、被告海竜社がこれを出版したことにより、原告加地が原告著作物に対して有する氏名表示権が侵害されたものと認められる。
六 被告書籍のうち、原告らの複製権、出版権、氏名表示権を侵害する個所(以下「侵害部分」という。)は、前記四3(二)(1)<1>ないし<10>、(三)のとおりであり、甲第二号証及び弁論の全趣旨によると、被告書籍のうち、侵害部分は、行数に換算して約二パーセントであるが、被告書籍は、更年期の女性に起こる身体的変化や症状を示し、それを医学的に説明したうえで、食事を中心とした対処法を明らかにすることを内容としており、被告東畑の専門とする栄養学に基づく食事療法等を記述する前提として、更年期に関する医学的所見は、被告書籍の中で重要な位置を占めており、その部分に侵害部分が存することが認められるから、このようなことも考慮すると、被告書籍に対する侵害部分の寄与率は、五パーセントとするのが相当と認められる。
七1 以上の事実によると、被告東畑は、被告書籍の一部に、原告著作物に依拠し、原告著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものを執筆したことについて、そのような認識があったものと認められるから、前記四4、五の侵害行為につき故意があったものと認められる。
2(一) 被告海竜社(その代表者又は社員)が、被告書籍の一部に原告著作物を複製した部分があることを、被告書籍の出版前に認識していたことを認めるに足りる証拠はない。
(二) 被告海竜社(その代表者又は社員)は、出版社として、書籍の出版に当たり、他人の著作権、著作者人格権、出版権を侵害しないように注意する義務がある。
ところで、甲第一号証、甲第六号証の一ないし二五、二七、第一五号証、第一八号証及び弁論の全趣旨によれば、原告著作物は、昭和六三年に初版七〇〇〇部が出版され、その後増刷されたこと、原告著作物の書評が昭和六三年から平成元年にかけて雑誌等に掲載されたこと、原告著作物は、平成三年に日本で出版された書籍を紹介した日本書籍総目録に掲載されたこと、以上の各事実が認められる。これらの事実によると、原告著作物は、一定部数発行され、雑誌等で紹介されたことは認められるものの、一般に広く知られた書物であったとまでは認められないから、被告海竜社(その代表者又は社員)が平成五年に被告書籍を出版する際に原告著作物の存在を容易に知り得たとまでは認められない上、前記六のとおり、侵害部分の被告書籍に対する割合はわずかであることをも考慮すると、被告海竜社(その代表者又は社員)が、被告書籍の出版前に被告書籍の一部が原告著作物の複製権、出版権又は氏名表示権を侵害することを認識することができたとまでは認められない。
したがって、被告書籍の出版によって、原告著作物に関する複製権、出版権及び氏名表示権を侵害することについて、被告海竜社に過失があったとまでは認められない。
八 被告東畑が、被告書籍を著作したことにより、被告海竜社から八六万二五〇〇円の印税の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。
被告らは、被告東畑が被告書籍を執筆するために印税の四〇パーセントの費用がかかった旨を主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はない。
被告書籍に対する侵害部分の寄与率は、前記六のとおり五パーセントであるから、右印税の金額の五パーセントに当たる四万三一二五円が、複製権及び出版権の侵害による損害の額と推定され、本件においては、右推定を覆すに足りる事情は認められないから、四万三一二五円が右損害の額と認められる。
九1 弁論の全趣旨によると、原告加地、同根岸能之及び同根岸亮の著作権者と原告暉峻及び同浜の出版権者は、著作権者と出版権者の利益の配分割合を五対一四とすることを約したこと、著作権者である原告加地、同根岸能之及び同根岸亮の間の利益の配分割合は、二対一対一であり、出版権者である原告暉峻及び同浜の間の利益の配分割合は、一対一であること、以上の各事実が認められるから、損害も右の割合に従って、原告加地は三八分の五、同根岸能之及び同根岸亮はそれぞれ七六分の五、原告暉峻及び同浜はそれぞれ一九分の七として割り振るのが相当であると認められる。
2 そうすると、複製権の侵害による損害は、原告加地につき五六七四円、原告根岸能之及び同根岸亮につき、それぞれ、二八三七円、出版権の侵害による損害は、原告暉峻及び同浜につき、それぞれ、一万五八八八円であることが認められる。
一〇 甲第一八号証及び弁論の全趣旨によると、原告加地は、被告らによる氏名表示権の侵害により精神的損害を受けたことが認められ、被告書籍に対する侵害部分の寄与率などを考慮すると、その慰謝料としては二〇万円が相当である。
一一 甲第一八号証及び弁論の全趣旨によると、原告らは、本訴の提起及び追行を本件原告ら訴訟代理人に委任し、弁護士費用の支払を約したことが認められるが、右費用のうち一〇万円が、被告らによる不法行為と相当因果関係のある損害と認められ、このうち各原告が被った損害は、原告加地につき七万円、原告根岸能之及び同根岸亮につき、それぞれ、五〇〇〇円、原告暉峻及び同浜につき、それぞれ、一万円であると認められる。
三1 以上によると、損害の合計額は、原告加地について、複製権侵害の損害である五六七四円、氏名表示権侵害の損害である二〇万円及び弁護士費用七万円の合計二七万五六七四円であり、原告根岸能之及び同根岸亮につき、それぞれ、複製権侵害の損害である二八三七円及び弁護士費用五〇〇〇円の合計七八三七円であり、原告暉峻及び同浜につき、それぞれ、出版権侵害の損害である一万五八八八円及び弁護士費用一万円の合計二万五八八八円であることが認められる。
2 原告らの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求の遅延損害金の起算日は、不法行為の結果発生時、すなわち被告書籍が出版された平成五年四月二四日であると認められ、原告らは、被告らに対し、同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
一三 著作権法一一五条は、著作者は、著作者人格権を侵害した者に対して、著作者の名誉若しくは声望を回復するために適当な措置を請求することができると規定しているが、右規定にいう著作者の名誉若しくは声望とは、著作者がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち、社会的な名誉声望を指すものであって、人が自分自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まれないところ、原告加地の社会的な名誉声望が、被告書籍の著作及び出版によって、毀損されたものと認めるに足りる証拠はない。したがって、謝罪広告を求める請求は認められない。
一四 よって、原告らの被告東畑に対する請求は、主文第一項ないし第五項掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却し、被告海竜社に対する請求は、理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)
広告目録
一 広告の内容
盗用についての謝罪文
私(東畑)は貴著「のびのび更年期」の内容の三五頁を何の断りもせず、「更年期からの素敵ダイエット」に使用し、出版しました。
このため貴殿らの著作者人格権と著作権を侵害し、かつ名誉を毀損し、ご迷惑をおかけしました。ここに深くお詫び申し上げます。
私(下村)は貴殿らからの通知を得るまで、ノーチェックのまま、一九九三年四月から同書を市場に流布し、貴殿らの著作権を侵害し、かつ名誉を毀損し、ご迷惑をおかけしました。ここに深くお詫び申し上げます。
東京都中野区中野二丁目一二番八号千光ハイム四〇一
東畑朝子
東京都中央区築地二丁目九番二号
株式会社 海竜社
右代表者代表取締役
下村のぶ子
東京都中野区東中野四丁目二七番二七号九〇一
加地永都子殿
東京都豊島区池袋二丁目二三番一七号
根岸能之殿
東京都豊島区池袋二丁目二三番一七号
根岸亮殿
東京都世田谷区大原一丁目五九番二四号
P・M・ゼスト・クルーズこと
暉峻由紀子殿
東京世田谷区上北沢四丁目一九番一二号一〇五
P・M・ゼスト・クルーズこと
浜烈子殿
二 広告の条件
1 掲載紙及び掲載場所
「朝日」「毎日」「読売」の各新聞朝刊の全国版社会面下欄及び「週間読書人」「図書新聞」婦人民主新聞「ふえみん」の一面下欄、月刊誌「図書館雑誌」の図書紹介頁
2 広告の大きさ
横 五センチメートル
縦 六・五センチメートル
別紙 1
原告著作物
(12ページ)
更年期がくると実際何が起こるのでしょうか。厳密にいうと英語のメノポウズ(menopause=メンストルエーションの終了の意)つまり閉経ということばは、最後の月経だけをさします。しかしふつうには、このことばは最後の月経までの2~3年と終わったあとの1年を合わせた移行期について用いられます。卵巣からでるホルモンの量が減るにつれて、月経は不規則になり、やがてなくなります。
被告書籍
(21ページ)
ところで更年期がくると実際に何が起こるのでしょうか。更年期のことを英語でメノポウズ(menopause)といいますが、メノは月経、ポウズは閉止を意味します。つまり閉経ということですね。実際には、最終月経前の二~三年と、終わったあとの一年をさして更年期といっています。生理機能としては卵巣から出るホルモンの量が次第に減少し、それにつれて月経は不規則になるのですが、やがてなくなります。
原告らの主張
依拠に関する主張
原著八九年版の該当個所の記述は、a year after itであったが、原著九二年版の該当個所では、a year or two after itと、幅をもつ記述に変更された。そこで、被告東畑が原著九二年版を見ていたならば、「終わった後の一~二年」となるはずである。しかし、被告書籍の別紙1の部分には、原告著作物と同様に、「終わった後の一年」と書かれている。
複製又は翻案に関する主張
被告書籍の別紙1の部分の「ところで更年期がくると実際に何が起こるのでしょうか。」、「生理機能としては卵巣から出るホルモンの量が次第に減少し、それにつれて月経は不規則になるのですが、やがてなくなります。」という部分は、原告著作物の別紙1の部分の文を一〇〇パーセント使った構成ということができ、語句がすべて使われ、<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。全くの同文となるのを避けるため、「ところで」、「生理機能としては」などの語句を加えて、少しニュアンスを変えている。
被告らの主張
被告東畑は、同被告自身やその多くの友人の経験から、更年期は、大体「最後の月経より一年」というのが一般的だと考え、一年という数字を書いた。
別紙 2
原告著作物
(14ページ)
仕事の最中にほてったりすると、ひとの目ばかり気になって。娘とはしょっちゅうぶつかるし。かかりつけの医者にすすめられて女性ホルモン(エストロゲン)の錠剤を飲んでみたけれど、乳房がすご一く痛んで、頭の中がもやもやしただけでした。そうこうするうち、仕事仲間にヨガ教室を紹介されたんです。
被告書籍
(24~25ページ)
その上に、仕事をしていてもイライラしてきてヘマばかり。ええ、周囲の眼も気になりました。帰宅すると娘にあたっては嫌がられて、もういいことは少しもありません。医者に行きましたら、女性ホルモン(エストロゲン)をすすめられました。使ってみたら、乳房が張ったり頭痛がしたり、かえってよくありませんでした。そのころお友達に誘われて、ヨガの教室へ通うようになったのですね。
原告らの主張
依拠に関する主張
原著八九年版の該当個所には、娘との関係、医者に行きホルモン剤を処方されたが、乳房が痛んだり頭痛がしたという記述があったが、原著九二年版の該当個所は、これらの記述は削除され、「体は疲れ緊張し、落ち込んでしまった」という記述に変更された。そこで、被告東畑が原著九二年版を見ていたならば、娘との関係、医者に行きホルモン剤を処方されたが、乳房が痛んだり頭痛がしたという記述はないはずである。しかし、更年期の症状、娘との関係、医者に行きホルモン剤を処方されたが、乳房が痛んだり頭痛がしたためヨガ教室へ行ったという全体の構成と文の配列は、原告著作物の別紙2の部分と被告書籍の別紙2の部分で同一である。
被告らの主張
被告東畑は翻訳しているわけではないから、「メノポウス・ナチュラリー」に書かれている一言一句を正確に翻訳することに意義を見出しておらず、あくまでも自分の理解を述べている。娘にあたるという話、医者に行ってホルモン剤を勧められたがかえって不快になったという話、医師にホルモン剤等を処方されて、軽快する場合もあるが、多くは、乳房が張ったり頭痛がしたという話は、話題になったり雑誌等に書かれたりすることが多い。
別紙 3
原告著作物
(24ページ)
最近では癌の危険をできるだけ少なくするため、月の最後の10-14日間はエストロゲンのほかにプロゲスティンも加えたほうがよいことが明らかになっています。プロゲスティンを服用すれば、ある程度の体重増加も起こりえます。
被告書籍
(29ページ)
ホルモン剤は、一見簡単なようですが、別の危険もあります。エストロゲンだけを用いることは、発ガンのリスクを高めるのです。その危険防止のために、月の最後の十~十四日間にプロゲスティンを加えることがよいとされています。
原告らの主張
依拠に関する主張
原著八九年版の該当個所には、「最近では癌の危険をできるだけ少なくするため、月の最後の一〇日間はエストロゲンのほかにプロゲスティンも加えたほうがよいことが明らかになっている」という記述があったが、原告加地は、訴外根岸悦子と相談のうえ、当時の実情に合わせ、原著では一〇日間となっていた日数を、一〇日ないし一四日とした。原著九二年版の該当個所では、癌の種類が子宮癌と特定されており、日数については、月の最後のという限定はなくなっており、プロゲスティンを毎日服用する女性もいるということが記載されている。そこで、被告東畑が原著九二年版を見ていたとすれば、被告書籍では、癌の種類が子宮癌と特定されており、日数については、月の最後のという限定はなくなっており、プロゲスティンを毎日服用する女性もいるということが記載されているはずである。しかし、被告書籍の別紙3の部分には、原告著作物と同様に、「癌の危険性をできるだけ少なくするため」、「月の最後の一〇~一四日間プロゲスティンを加えるほうがよい」という内容が書かれており、プロゲスティンを毎日服用する女性もいるということは書かれていない。
被告らの主張
月経の開始、終了、更年期などは個人差の多いことがらであり、プロゲスティンの服用を「一〇日間」と限定しない方が適当であると考えた。被告東畑は、殊に数字で表すことに関しては、なるべく正確を期すべく配慮しており、この点についても周囲の医師らに確認をとったところ、一〇日間という者もあれば約二週間という者もいたので、「十日~十四日間」と幅をもたせた。また、エストロゲンの服用による危険として、「子宮癌」と特定しているのをやめて、単に「癌」としたのは、子宮癌のみならず卵巣癌、乳癌その他の発生率も高め得るという学者、医師の意見を配慮したからである。原告加地や訴外根岸悦子の意見が、被告東畑の周囲の医師らの意見や学会の多数説と偶然一致したものである。
別紙 4
原告著作物
(56ページ)
ほてり(潮紅=ホットフラッシュ)は青春のにきびのようなものです。女性は誰でもある年齢になれば、ホルモンの変化というプロセスを経ます。その表われの一つがほてりです。人生もここまできたら、ユーモアのセンスを失わずオープンに話し合って、自分自身に、またおたがいに素直になることが必要でしょう。
更年期が近くなると、女性は温度に敏感になります。暑さ寒さを以前より感じゃすくなって、セーターをひんぱんに着たり脱いだりしている自分に気がつきます。月経が止まると8割ぐらいの女性がほてりを経験しはじめます。突然カーッと熱くなるのです。ほてりに見舞われると、顔や上半身あるいはからだ全体が熱くなってほてります。ふつうこの感じは2~3分でおさまりますが、もっと長く続くこともあります。なかには1時間も続くという女性もいます。汗もでてきますが、その量は少ないことも多いこともあります。
被告書籍
(94ページ)
ほてり(潮紅=ホットフラッシュ)は、ほとんどすべての人に見られる代表的な症状です。ホルモンの変化というプロセスの表われのひとつがほてりといってもよいでしょう。ふつう、ほてりの感覚は、二~三分でおさまりますが、人によっては一時間も続くことがあります。
原告らの主張
依拠に関する主張
原著八九年版の該当個所には、「ほてりの感じは二~三分でおさまる」、「人によっては一時間も続く」という記述があったが、原著九二年版の該当個所では、「二~三分」が「一~五分」に変更され、「人によっては一時間も続く」という記述は削除された。そこで、被告東畑が原著九二年版を見ていたならば、被告書籍には、「一~五分」と書き、「人によっては一時間も続く」ということは書かなかったはずである。しかし、被告書籍には、原告著作物と同様に、「ほてりの感じは二~三分でおさまる」、「人によっては一時間も続く」ということが書かれている。
複製又は翻案に関する主張
被告書籍の別紙4の部分の「ほてり(潮紅=ホットフラッシュ)は、ほとんどすべての人に見られる代表的な症状です。」という文は、原告蓍作物の別紙4の部分の「ほてり(潮紅=ホットフラッシュ)は青春のにきびのようなものです。女性は誰でもある年齢になれば、ホルモンの変化というプロセスを経ます。その表われの一つがほてりです。」という部分と<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告らの主張
ほてりというのはさあっと立ち上ってすぐ収まり、大体時間にして二、三分のこともあれば、一時間近く続くものもあり、このことは、日本では通説的にいわれているし、被告東畑自身も含めた大勢の女性の経験にも合致する。
別紙 5
原告著作物
(58ページ)
幸いこうした重い症状がいつまでも続くということはほとんどなく、半年か1年すればまた安眠できるようになります。
ほてりがいちばんひどく頻度も高いのは、たいてい更年期に入った最初の2年間です。
被告書籍
(97~98ページ)
ほてりというこの症状のでるのは、せいぜい半年か一年です。二年も続く人はめったにありません。ほてりがひどく、頻度の高いのは、多くは更年期に入った最初の二年くらいと言われています。
原告らの主張
依拠に関する主張
原著八九年版の該当個所には、原告著作物の別紙5の部分と同様の内容の記述があったが、原著九二年版の該当個所には、更に、「ほてりで眠れないという問題があるときは、日中運動をして、夜暖かい風呂に入り、夕食のときアルコールやカフェインを避け、寝る前に牛乳かヨーグルトをとると、眠れないという問題はやわらぎます。ほてりは、まだ月経がある期間に始まることが多いのです。特に月経中に起こります。」という内容の記述があった。この原著九二年版の記述は、フードドクターであり且つ栄養学の専門家でもある被告東畑が決して見逃すことのない重要な情報であるから、被告東畑が原著九二年版を見ていたとすれば、原著九二年版の右記述を被告書籍に書いたはずである。しかし、被告書籍の別紙5の部分には、原著九二年版の右記述は書かれていない。
被告らの主張
被告東畑が、原告らが指摘する原著九二年版の記述を削除したのは、右記述は、さして新しい情報と思われなかったし、被告書籍の文脈にあっては、削除部分をそのまま引用するのではかえって文章全体の調和を乱すと考えたからである。削除部分には、「寝る前に牛乳かヨーグルトをとるとよい」とのアドバイスがあるが、食後に歯を磨いた後に食べ物、殊にヨーグルト等の乳酸の多い食品をとることは、虫歯の原因になることが多く、良いことではないし、被告東畑自身好きなことではなかったから、引用しなかった。
別紙 6
原告著作物
(128ページ)
更年期が過ぎてエストロゲンのレベルが下がると、白人、アジア人、褐色人種の女性の25パーセントが重い骨粗鬆症にかかります。黒人女性にはこの症状はめったにみられませんが、その理由はよくわかりません。黒人は人種的に骨太ですから、骨折に対しては強みがあります。
被告書籍
(85ページ)
更年期が過ぎて、エストロゲンのレベルが下がると、黒人以外の女性はその二十五%が重い骨粗鬆症にかかると言われます。黒人にあまり重症の骨粗鬆症は見られないのは、もともと黒人は人種的に骨太であることと、太陽によくあたることのためと考えられます。
原告らの主張
依拠に関する主張
原著八九年版の該当個所には、原告著作物の別紙6の部分とほぼ同様の内容の記述があったが、原著九二年版の該当個所は、「白人女性の約25パーセントが重い骨粗鬆症にかかります。アジア人女性の方が白人よりいく分リスクが小さく、いちばん危険が少ないのはラテン系と黒人の女性です。黒い肌と太くて丈夫な骨とは相関関係があると考えられています。」と変更された。そこで、被告東畑が原著九二年版を見ていたとすれば、同原著と同様な内容の記述があるはずである。しかし、被告書籍の別紙6の部分には、原告著作物の別紙6の部分の「白人、アジア人、褐色人種の女性」という部分が「黒人以外の女性」とされ、黒人に骨粗鬆症の症状が見られない理由として、太陽によくあたるためという理由が加えられている以外は、原告著作物の別紙6の部分と同じ内容が書かれている。被告書籍の別紙6の部分の「黒人以外の女性」という表現は、原著九二年版の「白人女性」という語を言い換えたというのはいかにも不自然であり、原告著作物の別紙6の部分の「白人、アジア人、褐色人種の女性」という表現を言い換えたものである。
被告らの主張
White womenを「黒人以外の女性」ということばに置き換えてあるならば不自然であるが、被告東畑はWhite women, Asian women,Latin womenについて概括的に語るべく「黒人以外の女性」と書いたのであって、不正確という非難についてはいざ知らず、不自然というのはまったく当を得ていない。被告東畑は、そもそも人間を人種でくくって語ることは日頃避けており、殊に戦時中や在米中の経験などから、「アジア人」ということばを使うことには抵抗があり、使用できなかった。できることなら「黒人」ということばさえ使用を避けたかったが、肌の色の違いが骨粗鬆症の発生に影響している事実は語らないで済ませられず、簡単に触れることにした。
別紙 7
原告著作物
(130~131ページ)
遺伝的・医学的要因
黒人以外の人種に属している
過去に大事には至らなかった程度の骨折をしている
骨粗鬆症の女性が親類にいる
やせている(とくに背が低い場合)
更年期を早く迎えた(40歳前に)
慢性下痢や胃ないし小腸の一部を外科手術でとっている
腎臓透析を行なっている
コルチゾンを常用している
甲状腺剤(1日2グレイン以上)やジランチン(抗てんかん剤)ないしアルミニウム含有の制酸剤を常用している*
ライフスタイル上の要因
アルコール摂取量が多い
たばこをすう
運動不足
食生活でのカルシウム分不足
日光や食事や錠剤からとるビタミンDの不足
高蛋白の食生活
高塩分の食生活
出産の経験がない
カフェイン摂取量が多い(1日5杯以上)*
(*印はその他のものほど重大な要因ではありません)
被告書籍
(86~88ページ)
遺伝的の医学的要因
黒人以外の人種に属している。
過去に骨折している(大事に至らない程度のもの)。
骨粗鬆症の女性が家族、親類にいる。
やせている(とくに背が低い場合)。
更年期を早く迎えた(四十歳前に)。
慢性下痢、胃や小腸の一部を外科手術でとっている。
腎臓透析を行っている。
コルチゾン(副腎皮質ホルモン)を常用している。
甲状腺剤やジランチン(抗てんかん剤)、アルミニウム含有の制酸剤を常用している。*
ライフスタイル上の要因
アルコール摂取量が多い。
タバコを吸う。
運動不足。
食事中のカルシウム不足。
日光や食事、錠剤からのビタミンDの不足(ビタミンDはカルシウムの吸収をよくする)。
高たんぱく質の食事。
高塩分の食事。
出産の経験がない。
カフェインの摂取量が多い(一日五杯以上)。*
(*印は、その他のものほど重大な原因ではない)
原告らの主張
依拠に関する主張
原著八九年版の該当個所の表は、線で上下に分けられており、線の上側に重要な項目が記載されており、線の下側にあまり重要でない項目が書かれていた。原告著作物においては、縦書きであったため、線によって分けるのではなく、印を付けることにより分ける工夫をした。これに対し、原著九二年版の該当個所の表においては、重要な項目とそうでない項目の区分はされていない。また、遺伝的、医学的要因の最初の項目は、原告著作物の表では、「黒人以外の人種に属している」であり、原著八九年版でも同様の記述がされていたが、原著九二年版では、「白人(又はアジア人)」と変更された。そこで、被告東畑が原著九二年版を見ていたとすれば、重要な項目とそうでない項目を区別せず、遺伝的の医学的要因の最初の項目が「白人(又はアジア人)」と書かれたはずである。それにもかかわらず、被告書籍の表は、あまり重要でない項目を印を付けることによって分けており、遺伝的の医学的要因の最初の項目は、「黒人以外の人種に属している」としている。
複製又は翻案に関する主張
被告書籍の別紙7の表は、原告著作物の別紙7の表と<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>構成が同一である。
被告らの主張
被告東畑は、原著九二年版の表をそのまま翻訳して引用しようとしたのであるが、被告書籍が縦書きであることを考慮して、便宜のため縦書きにした。
White(or Asian)ethnicityの訳として「黒人以外の人種」という表記をしたのは、別紙6の「被告らの主張」欄において述べたのと同じ理由からである。「アジア人」ということばを避けたかったために、「白人またはアジア人」という表記ではなく「黒人以外」と表記した。
ここに掲げられている骨粗鬆症の要因は、決してサジャ・グリーンウッド博士の独自の見解ではなく、むしろ学会の通説に近いものである。また、「甲状腺剤その他の使用」、「カフェインの摂取」が他の要因に比べて重大ではないというのは、医療関係者の間では常識である。「甲状腺剤その他の利用」は、骨粗鬆症への影響力も低いが、そもそも日本人はあまり常用する人がいないので、その点でも重要でない。この部分については、被告東畑としては、表になっている方が読者に便宜であるから引用したが、その際に、医療関係者の間での常識として*印による補足説明を行った。被告東畑は、サジャ・グリーンウッド博士が原著九二年版で「甲状腺剤その他の使用」、「カフェインの摂取」が他の要因に比べて重大でないとしていないこと(すべて並列で要因を列挙している点)に対して、同博士の積極的な意思を読み取らず、同博士の説明を補足するつもりで*印による説明を行った。
別紙 8
原告著作物
(12ページ)
5人のうち4人はこの時期に、顔がほてるとか寝汗をかく、膣がかわくといった更年期の徴候が現われます。更年期はふつう48歳から52歳のあいだですが、もっと早くくることも多いし、遅くなることもあります。
ほかの動物にはない更年期が、なぜ人間にはあるのかはわかっていません。文化人類学者は、私たち人間にとって更年期は有益な働きをしてきたのだといっています。遅く生まれた子どもを育て、文化や知識を伝えるときのストレスや危険から、女性を解放するのが更年期だからです。
被告書籍
(22ページ)
五人のうち四人は、この時期に顔がほてる、寝汗をかく、膣が乾くといった徴候を感じます。更年期はほかの動物にはありませんが、なぜ人間だけにあるかはわかっていません。しかし、何度も言いますが、それは女性を解放するために通るべき期間と考えてください。そう考えると、更年期の意味がはっきりしてくるでしょう。
原告らの主張
被告書籍の「五人のうち四人は、この時期に顔がほてる、寝汗をかく、膣が乾くといった徴候を感じます。」という文は、原告著作物の「5人のうち4人はこの時期に、顔がほてるとか寝汗をかく、膣がかわくといった更年期の徴候が現われます。」という文の算用数字を漢数字に、「現れます」を「感じます」に変えただけのものである。共通する「顔がほてる」ということばは、原著のhot flashに当たることばで、ホットフラッシュとは、ウエストから胸、首、顔、上腕部へとカッとほてりが上がっていくのであって、顔だけがほてるわけではない。しかし、原告著作物が翻訳された昭和六三年の時点では、hot flashに適切な訳語がなく、分かりやすさを考慮して、わざわざ「顔が」と付け加えたもので、ホットフラッシュを「顔がほてる」と訳すことに独自性がある。したがって、被告書籍の「五人のうち四人は、この時期に顔がほてる、寝汗をかく、膣が乾くといった徴候を感じます。」という文は、原告著作物の「5人のうち4人はこの時期に、顔がほてるとか寝汗をかく、膣がかわくといった更年期の徴候が現われます。」という文と、<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>構成のすべてが同一である。
原告著作物の「ほかの動物にはない更年期が、なぜ人間にはあるのかはわかっていません。」という文の「ほかの動物にはない」という部分は、原著では、単にanimalと記載されていたが、人間も動物であるという原告加地独自の人間観から、「ほかの」ということばを付け加えて、ほかの動物には更年期はないと強調した個所である。被告書籍の「更年期はほかの動物にはありませんが、なぜ人間だけにあるかはわかっていません。」という文は、原告著作物の「ほかの動物にはない更年期が、なぜ人間にはあるのかはわかっていません。」という文と、<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>構成のすべてが同一である。
被告らの主張
1 算用数字を漢数字にしたのは、日本語の縦書きの文章を書く時の約束事であるからである。
2 原告らは「顔がほてる」という訳を原告ら独自のものと主張するが、「ホットフラッシュ」については、「顔がほてる」という訳は極めて一般的な訳語である。
この語の訳として「のぼせ」、「紅潮」、「ほてり」のいずれも使い得るが、「顔が紅潮し」、「顔がほてる」ことが多いのであって、「体が紅潮」したり、「体がほてる」ことは稀なことだから、被告東畑としては「顔がほてる」とする方が適切と考えている。また、被告東畑は、二〇年程前の著作物で「冷え性の人はのぼせ症もあるので」と記したが、「冷え性の人は顔がほてることが多いので」と記した方がわかりよかったと反省して以来、「顔がほてる」という言いまわしをするようにしている。「ほてり(紅潮=ホットフラッシュ)」については、ホットフラッシュについてよく分からないと言う人が周囲にいたので、わざわざ記したものである。なお、被告東畑の知人の複数の医師に見解を求めたところ、特に更年期の場合、「ほてり」といえば「顔のほてり」ということであった。被告東畑以外にも「ほてり」を「顔のほてり」と解する人は大勢いる。雑誌「週刊朝日」の裏表紙の広告記事、旺文社の小型の国語辞典、読売新聞の記事、毎日新聞の記事などの一般人を対象とする印刷物にも日常的に「顔のほてり」、「ホットフラッシュ」という用語が使用されている。
3 被告東畑が、原著のanimalということばについて、「ほかの動物」と、「ほかの」ということばを入れたのは、原告らと同様に、人間も動物であると考えているからである。それ故に、被告東畑は、その後の語句human beingについても、「人間」と訳せばよいところを「人間だけ」とより強調して書いた。
別紙 9
原告著作物
(13ページ)
一九六〇年代以降、西欧社会でも、女性の権利や役割について、女性自身の考え方が大きく変わりました。社会生活のあらゆる面で女性はずっと活発になったし、自分に何が必要か、どの方向をめざすのかについて、自覚するようになったのです。それにともなって、女性のヘルスケア(健康管理)もめざましく変わりました。子どもをどの時期にもつか、産むか産まないかは自分で決めたい、自分のからだをよく知り、自分自身の健康や病気は自分で判断したいという女性の要求もその一つです。
40代、50代にさしかかった何百万人もの女性が、更年期の新しいイメージをさがしています。これまでの更年期の女性に対する暗いイメージに代わる、現実的で明るい更年期観がほしいのです。どうすれば健康にあふれ、落ち着きのある中年期を送れるか、いろいろな方法を女性たちが知れば、新しい更年期のイメージも花ひらくにちがいありません。
被告書籍
(24ページ)
ここ二十年くらいは、女性の考え方の変化に伴って女性のヘルスケア(健康管理)が変わってきました。子どもを生むか、生まないか、いつ生むかは自分で決める。自分の体をよく知って、自分白身の健康や病気を自分で判断したいという要求が高まってきたのです。健康を得るためのインフォームド・コンセント(説明と同意)を更に進め、インフォーム・ド・チョイス(選択)の時代になったのです。
四十代、五十代にさしかかった女性たちは、よりよい更年期のイメージを探し、変えようとしています。これまでの暗い、いやなイメージを捨て、もっと明るい更年期を迎えようとしています。健康に満ち満ちた、落ち着きのある更年期を送ることへの探求です。
原告らの主張
原告著作物の「女性のヘルスケア(健康管理)」ということばと「現実的で明るい更年期観」ということばは、原告加地が工夫して訳した部分である。原告著作物の「現実的で明るい更年期観」に対応する部分は、原著では、a realistic and positive outlookであり、直訳すれば、「現実に即した積極的な態度」となり、特にpositiveは、「前向き」とか「肯定的、建設的」の意味が強く、この語を「明るい」と訳すには無理があるが、従来暗いイメージを伴っていた「更年期」ということばを、原告著作物の題名の「のびのび更年期」のように積極的に変えていこうという姿勢から、あえて「明るい」と訳した。このように原告加地が工夫して訳した部分が二個所とも被告書籍と一致する。
被告書籍の「ここ二十年くらいは」という部分は、原告著作物の「一九六〇年代以降」という部分を短くまとめた表現に変えたものであり、被告書籍の「いつ生むか」、「要求が高まってきたのです」という部分は、それぞれ、原告著作物の「どの時期にもつか」、「要求もその一つです」という部分を言い換えただけであり、それ以外の部分についても、被告書籍の別紙9の部分は、原告著作物の別紙9の部分と<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>構成のすべてが同一である。
被告らの主張
ヘルスケアということばは、健康や栄養指導にかかわってきた者にとっては日常語であり、訳を付す必要のないことばである一方、一般的には完全に日本語化しているわけではないので、括弧書きで日本語を付したものである。ヘルスケア(健康管理)という表示方法は、原告著作物、被告書籍のみならず、他の書物でもよく見かける一般的なものである。
原告らは、positiveを「明るく」と訳したのは原告らの独創であると主張する。しかし、少なくとも更年期を「明るくとらえよう」とするのは原告らの独創ではない。今日、更年期を「いやな時期」、「がまんしなければ」という思想は消滅しつつあり、「明るい更年期」にしようという風潮がすすんでいる。「明るい更年期」という日本語は、「メノポウズ・ナチュラリー」全編を読めば自然に浮がぶフレーズであり、また現に日本で一般的な用語として使用されている風潮からいっても、原告ら独自の工夫ということはできない。なお、原告らは、「明るい更年期観」と訳しており、「明るい更年期」とはかなり語感が異なる。
別紙10
原告著作物
(15ページ)
有名な文化人類学者のマーガレット・ミードは、PMZ“Post-menopausal zest=更年期以降の元気”ということをいっています。これまで私が出会った女性の中には、PMZにあふれるひとも、まったく意欲を失ったひともいます。意欲を失ったひとでも、長い時間をかけて自分を再発見し、立ち直ることでPMZをみいだしたひともいます。この本でPMZへの近道をいっしょにみつけましょう。
被告書籍
(58ページ)
現代を代表するアメリカの思想家、マーガレット・ミード女史は「更年期後の元気(PMZ)」と言っています。Zはzestの頭文字、元気を意味することばで、人生の楽しみ、刺激、あふれる喜びをもたらすものです。私たちは年をとっても、いえ、年輪を重ねてこそ元気のあふれる自分づくりをしたいものだと思います。
原告らの主張
マーガレット・ミードのPMZは、原告著作物において初めて「更年期以降の元気」と日本語に訳された。zestには、どの辞書を見ても、「元気」という意味は見当たらない。原告加地は、「意欲」又は「元気」という語でPMZのもつニュアンスを伝えようと悩んだあげくに「元気」という訳語を採用した。被告書籍は、「Zはzestの頭文字、元気を意味することばで」と、断定しており、原告著作物と<1>語句の選択において同一性が認められる。ちなみに、樋口恵子監訳の「沈黙の季節」(飛鳥新社刊)では、PMZは、「閉経後の歓喜」(32ページ)と訳されている。
被告らの主張
zestということばの訳語として、辞書には、「情熱」、「熱心」ということばが載っているが、被告東畑は、知人のイギリス人に相談し、cheerfulの意味があることを教えられ、「元気」と訳した。
別紙11
原告著作物
(22~23ページ)
更年期になると私たちの容姿はどうなるのでしょうか。ホルモンの変化で太って、しわがふえ、動作もにぶるうえに、性的魅力がなくなるのでしょうか。
必ずしもそうではないのです。たとえば25歳で卵巣を摘出した女性は若くして更年期を迎えるわけですが、ホルモンがなくなってもやはり25歳にみえます。私たちの容姿を変えるのは更年期ではなく、年をとるというプロセスなのです。どのように年をとるかはひとによってまちまちです。遺伝的要因が働いてはいますが、容姿がどうなるかは健康と幸福が大きな要因になると思われます。私たちはみな年をとるし、年相応にみえるわけですが、心身のあり方しだいで、多かれ少なかれ美しく年をとるということが可能なのです。容姿についていくつかの問題を考えてみましょう。
被告書籍
(27ページ)
一方では、体が太ってくるというのにしわがふえるのはなぜとつぶやき、性的魅力が失われていくことを恐れます。
それもこれも、女の抱えている更年期という生理的変化のためと思っている人が思いの外多いことにびっくりさせられたことがありました。まず、そのようなことはないとはっきりと申し上げましょう。更年期、つまり閉経したから太るということではありません。例えば二十代で手術をし、卵巣を除いた女性は、若くして閉経し更年期を迎えることになりますが、だからといって、老化するということはないはずです。健康が回復すれば、再び若さあふれる容姿となり、溌剌と毎日が送れます。容姿を変えるのは、閉経という生理現象ではなく年齢による変化、プロセスなのです。しかし、そのスピードや状態は人によってまちまちです。遺伝も関係しますが、やはり大きな要素は健康状態とその人の心の持ち方(幸福感)といえましょう。それが美しく年を重ねることができるか、できないかの分岐点なのですね。
原告らの主張
原告著作物の「性的魅力がなくなる」ということばは、原著のsexually unappealingということばを、原告加地が独自に訳したものであり、これはそのまま被告書籍に使われている。被告書籍の「一方では、体が太ってくるというのにしわがふえるのはなぜとつぶやき、性的魅力が失われていくことを恐れます。」という部分は、原告著作物の「更年期になると私たちの容姿はどうなるのでしょうか。ホルモンの変化で太って、しわがふえ、動作もにぶるうえに、性的魅力がなくなるのでしょうか。」という部分と<1>語句の選択、<2>語句の配列が同一である。
被告書籍の「例えば二十代で手術をし、卵巣を除いた女性は、若くして閉経し更年期を迎えることになりますが、だからといって、老化するということはないはずです。」という文は、原告著作物の「たとえば25歳で卵巣を摘出した女性は若くして更年期を迎えるわけですが、ホルモンがなくなってもやはり25歳にみえます。」という文と<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様が同一である。
被告書籍の「容姿を変えるのは、閉経という生理現象ではなく年齢による変化、プロセスなのです。しかし、そのスピードや状態は人によってまちまちです。遺伝も関係しますが、やはり大きな要素は健康状態とその人の心の持ち方(幸福感)といえましょう。それが美しく年を重ねることができるか、できないかの分岐点なのですね。」という部分は、原告著作物の「私たちの容姿を変えるのは更年期ではなく、年をとるというプロセスなのです。どのように年をとるかはひとによってまちまちです。遺伝的要因が働いてはいますが、容姿がどうなるかは健康と幸福が大きな要因になると思われます。私たちはみな年をとるし、年相応にみえるわけですが、心身のあり方しだいで、多かれ少なかれ美しく年をとるということが可能なのです。容姿についていくつかの問題を考えてみましょう。」という部分と、<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告らの主張
争う。
別紙12
原告著作物
(23~24ページ)
月経のある年代の女性についての調査では、月経が終わったあとの2週間が、からだの動きが活発になっています。この時期にからだの活動を刺激するエストロゲンがいちばん多くなるからです。排卵が終わり卵巣からプロゲステロンも分泌されはじめると、活動がにぶり、食べる量はふえます。からだが妊娠にそなえているわけです。月経のあとは体重が少し減り、月経前にふえるという女性が多いのは、こうしたホルモンの影響によるものです。ピルを使っている女性は、1ヵ月間ずっとエストロゲンといっしょにプロゲスティン(プロゲステロンに似たホルモン剤)を服用しているわけですから、体重がふえるのがふつうです。
では更年期についてはどうでしょう。この時期になるとエストロゲンの分泌レベルは急激に低下し、プロゲステロンはホルモン分泌システムからほとんどでなくなります。からだの活動を刺激するエストロゲンの微妙な影響が失われるだけでなく、食欲を増進し動作をにぶくするプロゲステロンの作用もなくなるわけです。この2種類のホルモンが最終的にはわずかに上下しながら、体重のレベルを維持する役目を果たしていたのです。更年期を過ぎるとこの効果はなくなりますが、といってホルモン上、体重がふえ続ける理由もまったくありません。
私たちは自分の判断で、食べ物と体操のバランスをとる必要があります。これは必ずしも、あとは一生厳しいダイエットをするということではありません。からだによい食べ物(穀類・野菜・果物・脱脂乳製品など)をたくさん食べ、とりすぎるとよくない食べ物(脂肪・砂糖・精製した粉・こってりした肉)はできるだけ減らすことです。せっせと歩いたり屈伸運動その他の運動にはげむことも大切です。こうしたことが自然に行なわれる社会では、多くのひとたちが更年期を過ぎると、太るよりむしろやせていきます。
更年期を過ぎてエストロゲンを使っている女性のばあい、このホルモンが体重にどう影響しているか調査した結果がでています。エストロゲンを服用していない同年齢の女性よりも、体重がかなり減少しています。ただしこの調査は、高年齢でエストロゲンだけを服用し、プロゲスティンの助けはかりていない女性が対象です。最近では癌の危険をできるだけ少なくするため、月の最後の10-14日間はエストロゲンのほかにプロゲスティンを加えたほうがよいことが明らかになっています。プロゲスティンを服用すれば、ある程度の体重増加も起こりえます。
被告書籍
(28~29ページ)
さてここで、よく質問を受けるホルモンと体質のことについて、ご説明しましょう。ふつう生理が終わったあと二週間は体の動きは活発です。この時期に体の活動を刺激するエストロゲン(女性ホルモン)が一番多く分泌されます。そして排卵が終わり、卵巣からプロゲステロンが分泌されはじめると、活動がにぶり、食欲が出て食べる量がふえます。正確に計ると、体重は生理のあと少し減り、前には少しふえるわけで、これは女性の体が妊娠に適していることを示しているのですね。ですからピルを使うということは、一カ月間ずっとプロゲスティンといってプロゲステロンに似たホルモンを服用することになりますので、体重がふえやすいのです。
更年期には、エストロゲンの分泌は急激に減り、プロゲステロンはほとんど分泌されなくなります。体の活動を刺激し、活発にする働きを持つエストロゲンの作用がなくなるわけですから、少しは太るでしょうけれど、更年期をすぎても太り続けるということはないはずです。
更年期以降、エストロゲンを使っている女性の場合には、使っていない女性に比べて体重がかなり減少します。ただし、この調査は、高年齢でエストロゲンを服用し、プロゲスティンは用いていない女性が対象です。プロゲスティンを服用すると、ある程度の体重増加が起こります。
そうなると、更年期以降太りたくないし、活動的でありたいと思えば、エストロゲンを服用すればよいと考えられます。欧米では、エストロゲンを使うことが日本よりずっと多くなりました。最近、日本でもタレントの方たちの中には、「食事だ、運動だって、いろいろできないから、ホルモン療法で乗りきるわ」と言われる方もいます。
ホルモン剤はやせるけど危険!!
ホルモン剤は、一見簡単なようですが、別の危険もあります。エストロゲンだけを用いることは、発ガンのリスクを高めるのです。その危険防止のために、月の最後の十~十四日間にプロゲスティンを加えることがよいとされています。
原告らの主張
被告書籍の「この時期に体の活動を刺激するエストロゲン(女性ホルモン)が一番多く分泌されます。そして排卵が終わり、卵巣からプロゲステロンが分泌されはじめると、活動がにぶり、食欲が出て食べる量がふえます。」という部分は、原告著作物の「この時期にからだの活動を刺激するエストロゲンがいちばん多くなるからです。排卵が終わり卵巣からプロゲステロンも分泌されはじめると、活動がにぶり、食べる量はふえます。」という部分と<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。原著のこの部分の該当個所は、一文であったが、原告加地は、これを二文に分けたものであり、被告書籍は、その工夫をそのまま利用している。しかも、「この時期にからだの活動を刺激する」という部分は、原著にはなく、訴外根岸悦子が加筆した部分である。
原告著作物の「プロゲステロンに似たホルモン」という部分は、訴外根岸悦子の加筆した部分であるが、被告書籍には、同じ記述がある。
被告らの主張
被告書籍の「この時期に体の活動を刺激するエストロゲン(女性ホルモン)が一番多く分泌されます。そして排卵が終わり、卵巣からプロゲステロンが分泌されはじめると、活動がにぶり、食欲が出て食べる量がふえます。」という部分について、原告らは、原著で一文であったものをに二文にしたのは原告らの工夫である旨を主張するが、非制限的関係詞(この場合はwhen)で文章が連結されている場合、二文にして訳すというのは極めて通常のことである。
被告書籍の「この時期にからだの活動を刺激する」、「プロゲステロンに似たホルモン」という部分は、いずれも読者の便宜を図るため、産婦人科医の説明をそのまま付記したものである。
被告書籍の「十日~十四日間」という部分については、別紙3の「被告らの主張」欄のとおりである。
別紙13
原告著作物
(58ページ)
幸いこうした重い症状がいつまでも続くということはほとんどなく、半年か1年すればまた安眠できるようになります。
ほてりがいちばんひどく頻度も高いのは、たいてい更年期に入った最初の2年間です。それ以後はからだがしだいにホルモン分泌のレベル低下に順応し、新しいバランスをみいだします。そうなればほてりはやわらぎ、回数も減るし度合も弱くなります。とはいえ、女性の3分の1は更年期後も9年ぐらいカッと熱くなる感じをもち続けています。
あるとき、グループでほてりについて話し合った。デザイナーのマリーは仕事がら外見がとても大事なので、ほてりが気になってしかたがなかったという。医者がエストロゲンの錠剤を処方してくれたのでほてりが止まり、マリーの心はすっかり晴れた。
サラは、ほてりがくるならしょうがないと心を決めたという。そこで職場に小さな扇風機をもちこみ、いつでも使えるようにした。同僚の若い女性たちからわけを聞かれたのでほてりのことを説明したところ、よくわかってもらえた。
被告書籍
(96ページ)
ジャネットはあきらめ派。初めは職場で扇子を使っていたのですが、それでは間に合わなくなって小さな扇風機を持ち込みました。まわりの若い同僚はよく理解してくれたので助かったと話してくれました。恐らく、彼女たちは未経験のことでも、何れは自分たちもという感じで納得してくれたのでしょう。
バーニーは、ちょっと神経質なタイプ。特に一度気にしだすといっそうひどくなります。困りはてて婦人科に行きました。エストロゲンを処方してもらって助かったと話しました。「気にしないで、早く医師のところへ行けばよかったのよ。ほてりが静まっただけでなく、気分的にとてもすっきりしたわ。おかげで落ち着いて生活ができ、うれしかったわ」
バーニーは、くり返しくり返し、エストロゲンで救われたと強調しました。バーニーに限らず、気にするのは悪化させるもとなのです。それほど大したほてりでなくても、気にしていると、ますますひどく感じるようになります。
(97ページ~98ページ)
ほてりというこの症状のでるのは、せいぜい半年か一年です。二年も続く人はめったにありません。ほてりがひどく、頻度の高いのは、多くは更年期に入った最初の二年くらいと言われています。
原告らの主張
被告書籍の別紙13の部分は、原告著作物の別紙13の部分と、例の入れ換えはあるが、<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告らの主張
ジャネットもバーニーも実在の人物である。表現の同一性については争う。
別紙14
原告著作物
(62~63ページ)
人間のからだには、体内の温度を平均37度にたもっておくためのメカニズムがいくつかあります。外の温度が低いと、からだがぶるぶるとふるえ鳥肌がたちます。ふるえることで筋肉が収縮して熱をだします。また鳥肌がたつのは、血液の流れを体内の奥の組織にむけ外界の寒気にさらさないようにするためで、からだが血液のあたたかさをたもっているしるしです。外の温度が高ければ、汗をかいてほてります。これは汗が蒸発し、皮膚の下の血液の熱を外へ逃がし、涼しくするためです。
ほとんどのひとは、極端に暑くなるか寒くなるかしないかぎり、こうしたメカニズムにめったに気がつきません。ところが更年期の女性は、熱にたいして過敏に反応し、カーッとほてって汗をかくのです。その直後は当然のことながら体温は少し下がります。そこで、いま脱いたばかりのセーターをまた着こむことになるのです。
被告書籍
(100~101ページ)
さて、ほてりを理解するためにもう少し体のメカニズムを考えてみましょう。ご存じのように私たちの体温は、いつも三十七度弱に保たれているのですが、そのためにいろいろな調節をしています。寒くてふるえるということも、ふるえることで筋肉が収縮して熱を出すのですね。汗をかくのも、その汗の蒸発によって皮膚の下を流れている血液の熱を外に逃がす働きなのです。
そうした体の仕組みについては、日常私たちはとくにいろいろ考えることがありません。ところが更年期になると、多くの女性は熱に対して敏感に反応します。ほてって汗をかきます。汗をかくとその直後は少し体温が下がります。そのため、セーターを脱いだり、着たりしなくてはならず、はたから見れば、「オーバーねえ。そんなに暑かったり、寒かったりするの?」ということになってしまいます。
原告らの主張
原告著作物の「皮膚の下の血液の熱を外へ逃がし」という部分の該当個所は、原著ではblood in the skin surfaceであり、直訳すれば「皮膚の表面の血液」であるが、原告加地の判断により、「皮膚の下」と訳したものである。被告書籍では原告著作物と同じ表現が用いられている。
被告書籍の「ふるえることで筋肉が収縮して熱を出すのですね。」、「汗をかくのも、その汗の蒸発によって皮膚の下を流れている血液の熱を外に逃がす働きなのです。」、「ところが更年期になると、多くの女性は熱に対して敏感に反応します。ほてって汗をかきます。汗をかくとその直後は少し体温が下がります。そのため、セーターを脱いだり、着たりしなくてはならず」という部分は、原告著作物の「ふるえることで筋肉が収縮して熱をだします。」、「汗が蒸発し、皮膚の下の血液の熱を外へ逃がし」、「ところが更年期の女性は、熱にたいして過敏に反応し、カーツとほてって汗をかくのです。その直後は当然のことながら体温は少し下がります。そこで、いま脱いたばかりのセーターをまた着こむことになるのです。」という部分と、<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様が同一であり、被告書籍の別紙14の部分は、原告著作物の別紙14の部分と<4>全体の構成が同一である。
被告らの主張
surfaceということばは、確かに「表面」という意味である。しかし、血液は血管の中を流れているのだから、表面といっても薄い皮膚の下の血管の中を流れているに決まっているし、「皮膚の表面の血液」と書いたら、人によっては皮膚の表側を流れる血液、つまり出血と誤解するかもしれないから、「皮膚の下」とした。
別紙15
原告著作物
(63~64ページ)
更年期になると、このホルモン分泌の支配機能が隣のサーモスタットに作用してバランスをくずさせるため、体温調節の働きを弱めるのかもしれません。そこでほてりや汗をかいて体温調節をはかろうとするのではないでしょうか。
しかし、実際のところはもっとこみ入っています。遺伝上の理由とか卵巣切除によって、10代や20代そこそこで更年期を迎えた女性には、ほてりはほとんど起こらないのです。これらの女性のばあい、ほてりがみられるのは、エストロゲンをある期間服用したあと、それをやめたときだけです。エストロゲンにすっかりなれたからだから急にこのホルモンが失われることが、ほてりをひき起こすひきがねになるようです。何年かしてエストロゲンが急速になくなった影響が薄れると、ほてりの回数も減り、その度合も弱くなります。
脳の働きとほてりの関係についてされた研究でも、ほてりがノルエピネフリンと名づけられた神経伝達物質によって促進されることが判明しています。この物質が脳の体温調節中枢に影響をおよぼすのです。カフェインを飲むとほてりが生じたり、ストレス解消になることをやるとほてりが減るというひとがいるのも、これで説明がつくでしょう。つまりカフェインは体内のノルエピネフリンを発散させ、またストレスが低下すればノルエピネフリンの量も減るわけです。
被告書籍
(101~102ページ)
なぜこうした現象が起こるのでしょうか。ホルモンのバランスが損なわれると、体温調節の働きは弱まるかもしれません。しかし、十代、二十代の女性が何かの理由で卵巣を切除した場合(病気や遺伝上の理由から)、当然生理は終わります。つまり生理的には更年期を迎えるわけですが、彼女たちはほとんどほてりを感じないと言っています、ほてりを感ずるとすれば、エストロゲンなどを用いたホルモン療法をして、それをやめた直後だけと言われます。
大脳の働きとほてりの関係も、だんだんと解明されています。多量にカフェインを摂るとほてりが起こったり、ストレス解消になること(運動、趣味、楽しみなど)をすると、ほてりが解消するという人もいます。ほてりが大脳の働きや神経系の働きと無関係でないことの証拠です。
何れにせよ、ほてりのある時に楽に過ごす工夫を考えなくてはなりません。それには、できることからするというのはどうでしょうか。
原告らの主張
原告著作物の「更年期になると、このホルモン分泌の支配機能が隣のサーモスタットに作用してバランスをくずさせるため、体温調節の働きを弱めるのかもしれません。」という部分の「弱める」は、原著のsetting it lowerという部分に当たり、直訳すれば「(サーモスタット)の目盛りを下げる」すなわち「体温調節の働きが、ちょっとした刺激で動き出すために過敏になる」ということであるが、分かりやすくするために「働きを弱める」としたものである。被告書籍の「ホルモンのバランスが損なわれると、体温調節の働きは弱まるかもしれません。」という部分は、前段は「ホルモンのバランスが損なわれる」と書き換えているが、後段は「体温調節の働きは弱まる」という原告著作物と同じ表現を用いており、<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告書籍の「十代、二十代の女性が何かの理由で卵巣を切除した場合(病気や遺伝上の理由から)、当然生理は終わります。つまり生理的には更年期を迎えるわけですが、彼女たちはほとんどほてりを感じないと言っています。」という部分は、原告著作物の「遺伝上の理由とか卵巣切除によって、10代や20代そこそこで更年期を迎えた女性には、ほてりはほとんど起こらないのです。」という部分と語句の配列は違うが、<1>語句の選択、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告書籍の「ほてりを感ずるとすれば、エストロゲンなどを用いたホルモン療法をして、それをやめた直後だけと言われます。」、「大脳の働きとほてりの関係も、だんだんと解明されています。多量にカフェインを摂るとほてりが起こったり、ストレス解消になること(運動、趣味、楽しみなど)をすると、ほてりが解消するという人もいます。」という部分は、原告著作物の「これらの女性のばあい、ほてりがみられるのは、エストロゲンをある期間服用したあと、それをやめたときだけです。」、「脳の働きとほてりの関係についてされた研究でも、ほてりがノルエピネフリンと名づけられた神経伝達物質によって促進されることが判明しています。この物質が脳の体温調節中枢に影響をおよぼすのです。カフェインを飲むとほてりが生じたり、ストレス解消になることをやるとほてりが減るというひとがいるのも、これで説明がつくでしょう。」という部分と、<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告らの主張
被告東畑は、原著に書かれた「サーモスタットの目盛りが下がる」ということは、減少、低下、すなわち弱まるという意味と解釈した。
別紙16
原告著作物
(69ページ)
なによりもからだのいうことに耳を傾け、どんな療法であれ、バランスがくずれていやな感じがしたら中止することです
被告書籍
(104ページ)
快適な健康の条件はやはり何よりも第一に、自分の体の状態をよく知ることなのですね。アメリカ人は言っています。「自分の体の言うことに耳をかたむけなさい。いやな感じがしたり、体調がくずれたら、どんな療法でもやめることです」
原告らの主張
原告著作物の「からだのいうことに耳を傾け」という部分の該当個所は、原著ではlisten to the wisdom of your bodyとなっており、直訳すれば「自分の体の知恵に耳を傾けよ」であり、「体の知恵」ということばから原告著作物と同じ訳である「体の言うこと」という表現が当然に出てくることはない。
被告書籍の別紙16の部分は、原告著作物の別紙16の部分と文章の配列は変わっているが、<1>語句の選択、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告らの主張
原告らの主張は、「体の知恵」を「体のいうこと」と訳したのは原告らの創作であるということであるが、それは見解の相違である。被告東畑は、「自分の体の知恵」、「内なる声」と考えるうちに、「自分の体の言うこと」というフレーズを思いついた。「天の声」とも思ったが、政治家でもあるまいしと思い、「自分の体のいうこと」に落ちついた。
別紙17
原告著作物
(89ページ)
早期閉経にはこのような問題がありますが、別の側面からみると、得することもあります。乳癌の危険性がずっと小さくなるのです!閉経が早ければ早いほど、乳癌にかかる率が低くなります。残念ながら、長期にわたってエストロゲン療法を続けている女性には、これは必ずしもあてはまりません。
被告書籍
(52~53ページ)
早期の閉経は、このように、いろいろな問題があるのですが、反面メリットもあります。乳ガンに対するリスクがずっと少なくなるのです。もっとも、長くホルモン(エストロゲン)療法を続けている人にとって、これはあてはまりません。
原告らの主張
被告書籍の別紙17の部分は、原告著作物の別紙17の部分と、表現が同一又は類似である。
被告らの主張
争う。
別紙18
原告著作物
(126ページ)
更年期を過ぎると、女性は骨粗鬆症(オステオポロシス=骨の量の減少または骨格組織の萎縮)にかかりやすくなります。これは骨が強さを失って骨折しやすくなる状態です。“オステオン”はギリシャ語で骨のこと、“ポロシス”は小さな孔ないし空洞がたくさんあるという意味です。骨粗鬆症にかかると、骨は折れたり曲がったり、あるいは圧縮されやすくなるため、痛みや運動障害を引き起こします。
被告書籍
(82~83ページ)
更年期にかかるとそろそろ、そして更年期をすぎるといっそう、女性は骨粗鬆症にかかりやすくなります。骨粗鬆症は英語ではオステオポロシスといいますが、“オステオン=骨”、“ポロシス=小さな孔や空洞のたくさんあること”のギリシャ語から作られた言葉です。文字通り、孔だらけ、スだらけの骨、強さを失って骨折しやすくなった骨を意味します。骨粗鬆症にかかった骨は、ちょっとした刺激で折れやすく、曲がりやすく、あるいは圧縮されやすくなりますから、痛みや運動障害をひき起こすのです。
原告らの主張
原告著作物が発行された昭和六三年(一九八八年)ころには、骨粗鬆症という概念はまだ普及していなかったため、原告著作物では、骨粗鬆症について、「骨粗鬆症にかかる」と、あたかも外に原因があるものに「かかって」生じた症状であるかのような表現をしている。骨粗鬆症という概念が普及した後には、一般に「骨粗鬆症になる」というところである。
被告書籍の別紙18の部分は、原告著作物の別紙18の部分と<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告らの主張
骨粗鬆症が昭和六三年から一般的になったことは認めるが、同年と現在でその程度に決定的な差はなく、また、外からの原因による病気については「かかる」といい、そうでない場合は「なる」と表現すべきであるとも一概にいえないから、被告東畑が「骨粗鬆症にかかる」という表現を使用していることをもって、同被告が原告著作物の著作権を侵害したことの根拠とはならない。
別紙19
原告著作物
(126~127ページ)
なぜ女性が年をとると骨粗鬆症にかかりやすくなるのでしょう。私たちの骨は一生を通じてたえずつくり直されています一みためには堅くても、骨は不活性器官ではないのです。ある一定のときがくると、骨にふくまれるカルシウムは外にとけだして血液中のカルシウム分を補給しますが、その過程で骨は弱くなります。こうしたことは食べ物からとるカルシウム分が少なすぎたり、からだをあまり動かさないときに起こります。減量のためのダイエットはしばしばカルシウム不足をまねき、骨を弱める原因となるのです。
カルシウムが増加して血液中から骨に入れば、骨は堅く強くそして太くなります。これはからだを使うとか体操をしているとき、またカルシウムがたっぷり入ったものを食べたときにみられます。
被告書籍
(83ページ)
ではなぜ女性が骨粗鬆症を起こすのでしょうか。いうまでもなく骨は生きものです。きちんとカルシウムを補給していかないと、いつかはなくなってしまいます。血液中に含まれているカルシウムは、私たちの体調を整えているのですが、カルシウムの摂取が少ないと当然減少します。そうすると、骨からすばやくカルシウムが溶け出して補給してくれるのですが、その過程で骨は弱くなっていくのです。食事によるカルシウムの補給が少なすぎたり、体を動かさなかったりすることが原因です。
体内に摂取カルシウムが増加して、血液中から骨へ入ってくると、骨はかたく、強く、太くなります。
原告らの主張
原告著作物の「血液中から骨に入れば」という部分の該当個所は、原著ではenter the bones from the blood streamであり、直訳すれば、「血流から骨に入る」である。それを「血液中から」としたのは、原告加地が工夫したところである。また、原著のそれに続く部分はmaking them denser,stronger and largerであり、これを原告著作物においては「堅く強くそして太くなります」と訳しているが、denserは、「骨密度が高い」という意味であり、現在のように病院で「骨密度測定器」により骨密度が日常的に測られていることを思えば、「堅く」よりもむしろ「骨密度が高い」と訳されるべきところである。しかし、被告書籍においては、「血液中から骨へ入ってくる」、「骨はかたく、強く、太くなります。」と、原告著作物と同じ表現を用いている。したがって、被告書籍の別紙19の部分は、原告著作物の別紙19の部分と<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告らの主張
原著を直訳すれば「血流から骨に入る」かもしれないが、「血流」ということばは一般にはなじみがないので、被告東畑は、「血液中のカルシウムが骨に入る」又は「取り込まれる」ということばを用いた。
「骨密度が高い」という表現を使用しなかったのも、同様の理由である。骨密度に関していえば、スポーツクラブに骨密度測定器が置かれるようになったのは、早くても平成五年(一九九三年)のころからであり、NHKなどで取り上げるようになったのは平成六年(一九九四年)以降が多い。したがって、被告東畑が被告書籍を著作した平成五年の初頭のころには、「骨密度が高い」という表現は一般的でなかった。
別紙20
原告著作物
(127ページ)
エリカは骨がもろくなり、骨粗鬆症になるのではないかと心配していた。彼女の母親が年とともに背が低くなり、少し歩くと背中の痛みを訴えていたからだ。「エストロゲンを飲むのはいやだし、どうしたらいいかしら。カルシウムをたくさんとって菜食主義の食事にすればいいと聞いたけど」とエリカ。「その点はあなたのいうとおりよ」私は答えた。「それに毎日体操するのもいいのよ」「何年も体操なんてしたことないのに」「歩くことから始めてみたら」とすすめる。「早足で毎日30分歩いてごらんなさい。週末にはダンスでもハイキングでも自分がほんとうに楽しめるものをみつけること。最初はゆっくりでいいから、続けることが大事よ」
カルシウムはさまざまな働きをするミネラルです。骨や歯をじょうぶにするほかに、血液や体液にとけこみ、筋肉の収縮、心臓の働き、神経インパルスの伝達、血液凝固システムを助けます。体内には多くの腺状システムがあり、骨や消化器官からカルシウムをだしたり入れたりしながら血液中のカルシウム分を調整し、安定させているのです。
被告書籍
(83~84ページ)
友子さんは五十三歳、いつも背中の痛みを訴えています。「ゆうべも背中が痛くて眠れなかったんです。更年期のせいでしょうか。友達はエストロゲンを摂っているというのですが、私も摂ってみようかしら」眉間にしわを寄せて、顔色もさえない友子さんです。私は、「それより前にね、カルシウムをたっぷり摂って体を動かすことを考えてほしいですね。体操でも、歩くことでもいいからとにかく体を動かすこと。そして一日に一時間は外へ出て陽に当たること」とおすすめしました。
一日一時間といわず、三十分でもよいのです。さっさと歩いてください。気持ちもスッキリしますし、体が軽くなります。あるいは週末にダンスをするようになって健康をとりもどした直子さん、ハイキング仲間と月一度の会に参加するのが愉しみになったと報告するのは定代さん。体を動かすことは自分を活性化することなのです。
カルシウムは、骨や歯を作るだけでなく、血液や体液の中に溶け込んでいて、筋肉を収縮させる、心臓の働きを順調にする、神経系の伝達、血液凝固のシステムを助ける、といった具合に、さまざまの大切な働きをしています。その血液・体液中のカルシウムは、いつも骨から補われているのです。骨は血液や体液にとっては、強力な銀行というわけですが、骨にしてみれば、もしカルシウムを補給してもらえなかったら、貯金はどんどん減り、穴だらけ、スだらけになってしまうということになるわけです。
原告らの主張
被告書籍の別紙20の部分は、原告著作物の別紙20の部分と若干シチュエーションは変えられているものの、取り上げられているテーマである「エストロゲン、カルシウム、体操、歩くこと、30分、ダンス、ハイキング」などはすべて同じであり、<1>語句の選択、<2>語句の配列、<4>全体の構成が同一である。被告書籍の別紙20の部分と原告著作物の別紙20の部分の共通のテーマである「背中の痛み」は、原著ではback painと書かれており、正確には「腰痛」と訳すべきであるが、これを「背中の痛み」と訳したのは、原告著作物の誤訳である。
被告らの主張
取り上げられているテーマである「エストロゲン、カルシウム、体操、歩くこと、三〇分、ダンス、ハイキング」が同じであるのは、原著九二年度版にも全く同様の例示があるからである。
被告東畑は、back painは「背中の痛み」であり、「腰痛」にあたる英語はlumbagoであると理解しており、産婦人科及び整形外科の複数の医師にback painについて尋ねたが、いずれも同様の意見であった。また、骨粗鬆症にかかった人の中には足腰の痛みを訴える人もいるが、背中、特に肩胛骨の下側の痛みを訴える人も多いから、文脈からも「背中の痛み」でよい。
別紙21
原告著作物
(133~134ページ)
飲酒がすぎると骨粗鬆症や骨折が起こりやすくなります。アルコールは骨の細胞に直接作用し、新しい骨の成長を妨げるのです。アルコールの飲みすぎは卵巣にとって有害で、若い女性では排卵が間遠になるとか月経不順の原因となるほか、バストが小さくなります。更年期の女性で大酒を飲むひとは、卵巣からでるホルモンが少なくなる可能性があります。その結果、ほてりとか膣の乾燥、骨のカルシウム分が大幅に減るといった問題にぶつかるでしょう。酒量が多いひとは食事に気をつかわないことも多く、骨のカルシウム分損失という問題はさらに大きくなります。このほか、アルコールを飲みすぎると、ころんだり骨折したり事故にあうはめになります。年をとった女性が腰を折るのは、アルコールやトランキライザーを飲んでいてころんだことが原因になるばあいが多いのです。
たばこも骨粗鬆症を助長します。第一にたばこをすうと血液や組織内のエストロゲンのレベルが下がってはやく更年期を迎えます。いくつかの調査で更年期後の喫煙者の骨折率がひじょうに高いことが判明しています。
被告書籍
(88~89ページ)
アルコールは更年期症状の一つであるほてりの原因になったりしますが、骨の細胞にも直接に作用し、新しい骨の成長をさまたげます。また卵巣やホルモンのバランスにも影響を与えます。とくに更年期になって、多量のお酒を飲む人は、卵巣から分泌されるホルモンを抑制するので有害と言われるのです。ホルモンが抑制するとほてりや膣の乾燥、骨のカルシウムの減少といったことに現われます。それに、大酒呑みは、食事がおろそかになりがちですから、カルシウムの摂取も少なくなります。そんなわけで、更年期のお酒は心したいものです。
タバコの害については度々述べましたが、ここでも声を大きくして言わねばなりません。喫煙はエストロゲンのレベルを下げるという報告があるのです。更年期後の喫煙者に骨折が多いという調査もあるくらいです。いずれにせよ、タバコに関してよいデータは、みつけるのに困ります。
原告らの主張
被告書籍の別紙21の部分は、原告著作物の別紙21の部分と<1>語句の選択、<2>語句の配列、<4>全体の構成が同一である。
原告著作物の「膣の乾燥」という部分は、原著においてvaginal soreness(膣の痛み)と書かれていたところをあえて「膣の乾燥」と訳したものである。
被告らの主張
産婦人科医によれば、膣の痛みの原因は、膣の乾燥であり、このような話は雑誌のコラムなどにもたびたび見かけるし、相談者から直接の経験談として聞くこともあり、「膣の乾燥」と訳すことに創作性はない。
別紙22
原告著作物
(144ページ)
食事を変えると、健康上のいろいろな問題が、じょじょに解決されていくことに気がついていくでしょう。活力がわいてくるし体重も安定し、髪の毛のツヤも増して抜け毛は止まり、顔色がよくなって歯ぐきの出血もなくなるうえに、便秘もなおります。
被告書籍
(108ページ)
よい食事とは特別変わったものではありません。バランスのとれたよい食事をすることによって、私たちの健康は維持され、問題は少しずつ解決されていきます。活力がわいてくる、体重が安定する、髪の毛にもツヤがでる、抜け毛が止まる、顔色がよくなる、歯ぐきからの出血が止まる、便秘が解消する、といった具合です。
原告らの主張
原告著作物の「活力がわいてくる」という部分の該当個所は、原著ではEnergy increasesであり、普通なら「元気が出てくる」、「エネルギーが増す」と訳すところであるが、原告加地が工夫して「活力がわいてくる」と訳した。原告著作物の「顔色がよくな」るという部分の該当個所は、原著ではskin looks betterであり、普通なら、顔と限定せずに、「肌(皮膚)のつやがよくなる」と訳すところであるが、原告加地が、分かりやすくするために「顔色」とした。被告書籍においては、これら原告加地の独自の訳の部分も、原告著作物と同じ表現を用いてる。したがって、被告書籍の別紙22の部分は、原告著作物の別紙22の部分と<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告らの主張
原告らは、Energy increasesについて、「元気が出てくる」、「エネルギーが増す」と訳すべきところ、「活力がわいてくる」と訳したのは原告らの独創であると主張する。しかし、被告東畑にも「活力がわいてくる」程度の訳は思いつく。被告東畑が殊更に「エネルギーが増す」と書かなかったのは、最近の女性はエネルギー、カロリーなどのことばに敏感で、エネルギーが高いというのは即高カロリーと勘違いしがちであるので、それに配慮した。被告東畑は、本当は「活性化する」と書きたかったのだが、あまり平易なことばではないので、「活力がわいてくる」とした。
皮膚の色つやといっても、通常見るのは何といっても顔であって、顔色を問題にする。顔色は健康状態を知るための重要な手掛りである。また、原著では、部位を特定せずにskinといっているが、髪の毛と歯茎の話の間に出た話なのであるから、顔の皮膚の話と解するのは自然である。顔の皮膚のつやがよくなるということは、「顔色がよくなる」ということである。
別紙23
原告著作物
(160ページ)
低脂肪食に変えることをおすすめするのは、第二の人生を元気におくるためにひじょうに大切なことだからです。自己啓発をし用心を怠らない必要があるとはいえ、活力に満ち病気に対する抵抗力がつくという点で、ひじょうにやりがいのあることです。子どものときから低脂肪食を始めるのが最善にちがいありませんが、中年になってからでも遅くはないのです。心臓病の危険性が高くなるのは更年期後ですし、できるだけ脂肪分の少ない食事(それと運動)はそれまで以上に重要になります。
被告書籍
(141ページ)
カリフォルニア大学助教授のサジャ・グリーン・ワッド氏のアドバイスは、食事を低脂肪に変えることは、第二の人生を元気に送るために、非常に大切なことです。それは自己啓発をし、関心を怠らない必要があるとはいえ、活力に満ち病気に対する抵抗力がつくという点で、非常にやりがいのあることでしょう。子どもの時から低脂肪食を始めるのが最善としても、更年期から始めても遅くはありません。心臓病の危険性が高くなるのは更年期からですし、低脂肪食、運動はそれまで以上に重要になります。
原告らの主張
原告著作物の「自己啓発をし用心を怠らない必要」という部分の該当個所は、原著ではIt requires self-education and vigilanceである。self-educationは独学であるが、被告書籍は、原告著作物と同じ「自己啓発」ということばを使っている。また、vigilanceには「関心」という意味はないにもかかわらず、被告書籍には「関心を怠らない」と書かれている。被告書籍の別紙23の部分は、原告著作物の別紙23の部分と<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告らの主張
self-educationを直訳すれば「独学」かも知れないが、偏った知識の習得というマイナスの面をもつ「独学」ということばを避け、プラスのイメージの強い「自己啓発」ということばを使った。広告などにも「自己啓発」ということばが多い。
「関心」ということばが適切でないという指摘については認める。被告東畑は、「用心」と思って「用心」と書いたつもりでいたが、「関心」となっているのは誤植であろう。
別紙24
原告著作物
(163~164ページ)
食卓塩(塩化ナトリウム)やMSG(グルタミン酸モノナトリウム=化学調味料)、それに多くのパック食品に入っているナトリウムは、高血圧や骨粗鬆症の一因となります。最近の研究では、塩化ナトリウムの塩素部分も血圧上昇の要因になりうることがわかりました。健康をたもつため、塩分をひかえ、その代わりに玉ネギやニンニク、レモンジュース、ハーブ、スパイスなどで食物に風味をつけたほうがよいというのは、たいていのひとにあてはまります。
被告書籍
(169ページ)
一日に摂る食塩の量は一〇グラム以下にしてほしいのですが、今は十一・三~四グラムは摂っています。たとえ一グラムでも、塩分の摂りすぎは、やはりよくありません。
その理由は、MSG(グルタミン酸モノナトリウム=風味調味料)や多くのパック食品には、食塩でないナトリウムが入っているからです。食塩やナトリウムの摂り過ぎは、高血圧だけでなく、胃ガンや骨粗鬆症の原因にもなるのですから、健康に自信のある人でも、更年期には減塩をおすすめします。
塩分をひかえるのは、一種の味覚改善をすることですから、一見難しいことのようですが、塩を減らすことだけに心を向けるのではなく、むしろおいしいものを作ろうと心がけるようにすれば、さほど難しいことでないことを感じます。アメリカ人は、「健康を保つため、塩分をできるだけひかえ、その代わりに玉ねぎ、にんにく、レモンジュース、ハーブ、スパイスなどで食物に風味づけをしなさい」と言っていますが、これは私たちにもすぐ実行できるアドバイスです。
原告らの主張
原告著作物の「MSG(グルタミン酸モノナトリウム=化学調味料)」という部分は、原告著作物が発行された昭和六三年当時は、目新しい情報であったので、原告著作物においては、わざわざアメリカにおける略語「MSG」を記載した。
被告書籍の発行された平成五年であれば、風味調味料というだけで十分であるのに、被告書籍においては、原告著作物と同じく「MSG」という表記をしている。また、原告著作物の「パック商品」の該当個所は、原著ではpackaged foodであるが、加工食品とすれば通用するにもかかわらず、被告書籍においては、「パック商品」という原告著作物と同じ表現を用いている。
被告書籍の「MSG(グルタミン酸モノナトリウム=風味調味料)や多くのパック食品には、食塩でないナトリウムが入っているからです。食塩やナトリウムの摂り過ぎは、高血圧だけでなく、胃ガンや骨粗鬆症の原因にもなる」、「「健康を保つため、塩分をできるだけひかえ、その代わりに玉ねぎ、にんにく、レモンジュース、ハーブ、スパイスなどで食物に風味づけをしなさい」」という部分は、原告著作物の「食卓塩(塩化ナトリウム)やMSG(グルタミン酸モノナトリウム=化学調味料)、それに多くのパック食品に入っているナトリウムは、高血圧や骨粗鬆症の一因となります。」、「健康をたもつため、塩分をひかえ、その代わりに玉ネギやニンニク、レモンジュース、ハーブ、スパイスなどで食物に風味をつけたほうがよい」という部分と、<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告らの主張
MSGということばを使ったのは、原著九二年版にMSG(monosodiumu glutamate)ということばがあったからそのまま書いたに過ぎず、それ以上に深い意味はない。また、グルタミン酸モノナトリウムはいわゆる「味の素」であり、化学調味料の典型であるが、最近は化学調味料は嫌われて自然の調味料が好まれるので、「化学調味料」とはいいにくく、「風味調味料」とした。なお「風味調味料」といういい方は、食品、栄養関係者の間では一般的に使用されている。
英語のpackaged foodを、通常は、「加工食品」又は「加工済食品」とはいわず、少なくとも料理、栄養関係の人々は「パック食品」という。パッケージツアーをパック旅行というのと同じである。packaged foodの中には、電子レンジやトースターを使用し、又は熱湯につけることですぐ食べられるいわゆるレトルト食品の「加工食品」(例えばシチュー)と、「素材」(例えば、ゆでた人参や馬鈴薯)がある。ゆでたり乾燥させただけのものも全て「加工済」であり「加工済食品」であると解する人もいるかもしれないが、栄養食品関係の者は、「加工済食品」と「素材」は区別し、ゆでたり乾燥させただけのものを「加工済食品」とはいわない。したがって、被告東畑は、packagedの意味を「パックされた」と解しており、「加工された」とは解していない。被告東畑は、多数の主婦や栄養士に「パック食品」という言い方をするかどうかを尋ねてみたところ、ごく普通に使用しているとのことであった。
別紙25
原告著作物
(167~168ページ)
更年期およびその後の飲酒については、マイナス面がいくつかあります。アルコールがほてりのひきがねになるかもしれません。年長の女性にみられる骨粗鬆症や骨折は、いくつかの理由から飲酒に関係があるとされてきました。アルコールを過度にとると、新しい骨の生成が妨げられるのです。酒びたりのひとはカルシウム分の多いものを食べないことが多いうえに、尿から排泄するカルシウム分がふえるのです。運動不足になりがちで、すぐころびます。アルコールは卵巣にも悪い影響をおよぼすので、更年期はさらにやっかいなことになります。それまで大酒を飲んでいた女性が中年になって断酒すると、たいてい気分がずっとさわやかになるものです.中身のないカロリーばかりのアルコールの代わりに、基本的栄養がたっぷりの健康食品を食べるようになれば、栄養も改善されます。それ以外にもからだの不調一疲れすぎとか筋肉や関節の痛みがなくなり、髪の毛や皮膚、歯ぐきの問題も解消することもめずらしくありません。
最近、アメリカやヨーロッバで行なわれた研究では、飲酒と乳癌との関係が明らかにされています。ある調査では、週に3回以下のごく軽い飲酒でも乳癌の危険性が増しています。1回に飲む量は、ワインならば、約120ミリリットル、ビールは約280ミリリットル、強い酒の場合は25ミリリットルです。
被告書籍
(172~173ページ)
更年期やそれ以降の方の飲酒は、マイナス面がいくつかあることも知っておいていただきたいと思います。一つはアルコールがほてりの原因になる場合もあるということ。また、骨粗鬆症の原因としてアルコールをあげる人もいます。過度のアルコールが、新しい骨の生成を妨げると言われているのです。なぜならば、大酒飲みと言われる人たちは、どうしてもカルシウムの摂取が少なくなるからです。飲酒によって尿から排泄するカルシウムも増加します。その上、運動不足も重なれば、カルシウムは、いっそう吸収・吸着が悪くなるのです。卵巣に対しても、少量のアルコールなら血行をよくするとか、ホルモンの分泌を刺激するでしょうが、多量のアルコールはさまざまの悪い影響を与えるのでしょう。
それまで多量に飲んでいた人が更年期になって禁酒すると、たいてい、気分がさわやかで、体調がよくなります。もちろん、同時に合理的な食事をしなくてはなりません。
栄養がよくなれば、体調もよくなるし、肌や髪の毛なども美しくなり、ゆるんだ歯ぐきもひきしまってくるでしょう。
最近、欧米では飲酒と乳ガンの関係が明らかになりつつあります。週に三回以下の飲酒でも乳ガンの危険がふえるというのです。一回に飲む量は、ワインで一〇〇~一二〇ミリリットル。ビールなら三〇〇ミリリットル、ウイスキーやブランデーは、二五ミリリットル、日本酒一二〇ミリリットルくらいが適量とされています。この量は、アルコールにして十グラム。これなら全く大丈夫と言えましょう。
原告らの主張
被告書籍の別紙25の部分は、原告著作物の別紙25の部分と、全体として<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告らの主張
争う。
別紙26
原告著作物
(160~161ページ)
ふつうの白い蔗糖(サトウキビなどからとる結晶質の二糖類)やそのバリエーションである果糖(はち蜜や果物にふくまれる単糖類)は、ケーキやクッキー、清涼飲料水、アイスクリーム、キャンディ、コールドシリアル、そのほかさまざまなパック食品に添加されています。健康食品にもはち蜜やメープルシュガー、糖蜜が使われているものが多いのです。こうした糖分はいずれも虫歯や欠け歯を悪化させるうえ、カロリーは高くても栄養分はゼロです。最近の統計では、アメリカ人はなんと年に平均58キログラムもの砂糖を食べているのです。カロリー総摂取量の約5分の1を砂糖とシロップが占めています。カロリーの40パーセントが脂肪、20パーセントが砂糖となれば、この国に太りすぎで慢性病にかかりやすいひとが多いのもうなずけます。
被告書籍
(144ページ)
さて油脂と並んで健康の敵とされている砂糖についてです。
アメリカ人のように一日の摂取カロリーの二十パーセントが砂糖ということはないにしても、日本人の砂糖の摂取量は昔からみると二倍になりました。
砂糖の害が指摘されるようになって甘味をひかえる人はふえましたが、料理の砂糖はひかえたつもりでも、ついついお菓子を食べてしまったり、甘くないと安心していると、砂糖が少ないのではなく、甘味のおさえ方が上手でだまされていたなんていうこともあります。ちなみに、アイスクリームやコーラをぬるくして召し上がってごらんなさい。甘たっるくて食べられたものではありません。冷たさ、そして酸味(レモンなど)、苦み(チョコレート、コーヒーなど)によって、甘味がおさえられているのです。
さてその砂糖ですが、一般には白砂糖や果糖(果物やハチミツに含まれる、ふつうの砂糖も果糖とぶどう糖からできている)は目の敵にされ、ハチミツや三温糖・黒砂糖などは、ヘルシーフードとされています。
原告らの主張
被告書籍の「アメリカ人のように一日の摂取カロリーの二十パーセントが砂糖ということ」、「白砂糖や果糖(果物やハチミツに含まれる、ふつうの砂糖も果糖とぶどう糖からできている)」の部分は、原告著作物と表現が類似している。被告書籍の別紙26の部分は、原告著作物の別紙26の部分と全体の構成が同一である。
被告らの主張
被告書籍の「白砂糖や果糖(果物やハチミツに含まれる、ふつうの砂糖も果糖とぶどう糖からできている)」という部分は、一般的に白砂糖や果糖は健康の敵であると目の敵にされ、蜂蜜や三温糖はヘルシーフードのごとくいわれるが、実際は同じものであるとの警告をするために説明を付したものであり、原告らが蔗糖や果糖に説明を付した趣旨と異なる。
別紙27
原告著作物
(165~166ページ)
高血圧を薬でなおすのは、疲労感とかめまい、性欲減退など好ましくない副作用を起こしがちです。また、現在高血圧治療に使われている強力薬は、長期間に予期しない副作用をひき起こす可能性もあります。こうした薬を必要とするひとたちもいますが、医学界ではもっかその使い方の再検討が行なわれています。塩分と脂肪を滅らし、アルコールはごく少量にとどめて、野菜、果物、カルシウムをたくさん食べ、運動をし、ヨガや瞑想、バイオフィードバック(生体自己制御)などのリラックス法を実践すれば、薬を使わなくても見事に血圧を下げることができるひとは多いのです。
果物や野菜にはカリウムがたっぷりふくまれており、血圧を下げるプログラムには欠かせません。カリウムはナトリウム同様、生命に不可欠の要素ですが、高血圧には正反対の働きをします。高カリウム、低ナトリウムの食事をとると血圧はおおむね下がります。カリウムの多い野菜は、冬カボチャ、豆類、ジャガイモ、菜っ葉類、それにいろいろな果物です。
被告書籍
(170~171ページ)
血圧が高いのに、どうしても減塩できない人や減塩の効かない人に、血圧を下げる薬が使われていますが、この薬はともすれば副作用を起こします。疲労感とか、めまい、性欲減退などの副作用が多く、それらは更年期症状と相乗されていっそう気分を悪化させたり、体調を損なったりしがちです。
血圧は薬だけにたよるのではなく、食べものと運動で下がるのです。人間には自然治癒の力があるのですもの.野菜や果物をたっぷり食べ、カルシウムを不足しないようにしましょう。適度の運動をし、上手に休養してください。そうすれば肥満している人はやせることができ、血圧が下がり、体調を整えることができます。アメリカでは、これらに加えて、ヨガ、瞑想、バイオフィードバック(生体自己制御)などのリラックス法を実践することがすすめられています。
カリウムがたっぷり含まれている野菜や果物は血圧を下げるためには欠かせない食品です。カリウムとナトリウムは私たちの体には欠かせない無機質で、血圧には互いに反対の働きをするのが特徴とされます。高カリウム、低ナトリウムの食事をすると、血圧はおおむね下がります。高ナトリウム、低カリウム食では血圧が上がるのは、多くの人が経験してきました。カリウムの多い野菜は、豆類やじゃが芋、かぼちゃ、青菜など。そしていろいろの果物です。
原告らの主張
被告書籍の別紙27の部分は、時々文章を倒置しているが、原告著作物の別紙27の部分と、全体として<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告らの主張
争う。
別紙28
原告著作物
(170~171ページ)
興奮剤のカフェインは、コーヒーや紅茶、緑茶、チョコレート、各種清涼飲料水、それにある種の医薬品に入っています。カフェインはからだにさまざまな影響をおよぼすので、やはり慎重に扱う必要のある元気回復薬です。アメリカ社会では、おとなになるとたいてい毎日カフェインを飲んでおり、その刺激性にある程度中毒しています。カフェインが切れると、程度の差こそあれ禁断症状に見舞われ、疲労、頭痛、イライラ、不安などに悩まされます。この症状は1~4日間続きますが、その後は完全に消えます。
カフェインの効果を楽しみ、コーヒーやお茶の味が好きだというひとはたくさんいます。中年になっても“安全”な薬なのでしょうか。更年期の女性にはどのようなプラスとマイナスがあるのでしょう。
カフェインが使われるのは、疲れをとり、心身ともに活発になるよう刺激を与えるからです。カフェインがきいてくると、考えがどんどんわくし、話す量もふえるものです。精神労働でも肉体労働でも、カフェインで集中力や持続力が増すひとは多いのです。
カフェインが作用していると、瞑想やリラックス法などはやりにくくなります。そしてカフェインをとりすぎると、緊張がつのってイライラすることがあります。カフェイン常用者は怒りっぽく、不機嫌で、刺激に対し過剰反応を示します。動悸がはやまり、胸にドキドキする不整脈を感じるかもしれません。血圧も上がります。睡眠も浅くなって疲労がぬけません。こうなるともっとカフェインを飲み、問題を長びかせかねません。こうした薬の効果は、年とともに顕著になっていきます。
カフェインは胃腸管の平滑筋を刺激するので、ひとによっては下痢をします。そのため、炎症性の腸疾患(潰瘍性大腸炎あるいはクローン病)などの持病があるひとにはカフェインは禁物です。慢性便秘に悩むひとはカフェインを緩下剤として使います。しかしホールグレイン(全粒穀類)や豆、野菜、添加用ブラン(ふすま)など高繊維の食事にすれば、同じ効果が得られます。
コーヒーは血清コレステロールの増加に関係があるとされているので、心臓病ともっながりがあるかもしれません。
更年期の女性はしばしば、カフェイン入りの飲み物を飲むとほてりがくるといいます。これはカフェインで新陳代謝がはやまり、体温が上がるためかもしれません。ほてりに悩んでいるときは、カフェインを減らせばかなりらくになるはずです。
カフェインは女性の胸房にできる良性のしこりに関係があるといわれます。どうやら胸房にある特定の細胞成長因子を刺激するらしく、月経の前になるとしこりが大きくなって乳房の痛みを増すのです。胸房にしこりのある女性がカフェインを断つと、4~6カ月でしこりはほとんどなくなることがよくみられます。
被告書籍
(174~175ページ)
カフェインはコーヒーだけでなく、茶、チョコレート、ときには清涼飲料水やある種の医薬品にも入っています。お茶の場合は、カフェインと言わず、テインと言われますが、本質的には同じです。カフェインは、元気づけの薬に違いありませんが、用い方をあやまると、興奮剤として私たちの体に悪影響を与えます。カフェイン中毒になると、カフェインが切れると禁断症状に見舞われ、疲労、頭痛、イライラ、不安感などに悩まされます。もちろん一生続くというわけではなく、どんなに長くても四日くらいで消えますが……。
カフェインは上手に用いれば、疲労回復になり、心身ともに活発になるように刺激を与え、集中力や持続力がついてきます。そういえば、アメリカの軍隊で用いられた最初の飲み物がコーヒーであったと聞きますが、さもありなんと納得できます。カフェインはまた緩下剤としても効果的です。しかし逆にいえば、腸の働きを刺激するわけですから、潰瘍や腸の病気にはよくないのは申すまでもありません。
ところで更年期の女性にとって、カフェインはどのように作用するのでしょうか。カフェイン飲料を飲むとほてりがくるという人が少なくありません。やはり興奮剤の効果、あるいは刺激でしょう。ほてりのある時にカフェインを減らせば、かなり違ってくるはずです。
また、カフェインは女性の乳房にできる良性のしこりにも関係すると、アメリカのサンジャ・グリーンウッド博士は言っています。博士によると、胸の特定の細胞成長因子を刺激するらしく、生理の前になるとしこりが大きくなって乳房の痛みを増すのです。カフェインをやめると四~六カ月でしこりが殆ど消えることがあります。
原告らの主張
被告書籍の「カフェインは女性の乳房にできる良性のしこりにも関係すると、アメリカのサンジャ、グリーンウッド博士は言っています。博士によると、胸の特定の細胞成長因子を刺激するらしく、生理の前になるとしこりが大きくなって乳房の痛みを増すのです。カフェインをやめると四~六カ月でしこりが殆ど消えることがあります。」という部分は、原告著作物の「カフェインは女性の胸房にできる良性のしこりに関係があるといわれます。どうやら胸房にある特定の細胞成長因子を刺激するらしく、月経の前になるとしこりが大きくなって乳房の痛みを増すのです.胸房にしこりのある女性がカフェインを断つと、4~6カ月でしこりはほとんどなくなることがよくみられます。」という部分の「胸房」を「乳房」に、「月経」を「生理」に書き換えただけである。
被告書籍の別紙28の部分は、原告著作物の別紙28の部分と<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告らの主張
争う。
別紙29
原告著作物
(14ページ)
ベルはいいたいことがたくさんありそうだった。そこで、まずその話をじっくり聞くことにした。
「私にとって更年期は最初とてもつらかったんです。夜中に顔がカッとほてって目がさめると、もちろん眠れません。仕事の最中にほてったりすると、ひとの目ばかり気になって。娘とはしょっちゅうぶつかるし。かかりつけの医者にすすめられて女性ホルモン(エストロゲン)の錠剤を飲んでみたけれど、乳房がすご一く痛んで、頭の中がもやもやしただけでした。そうこうするうち、仕事仲間にヨガ教室を紹介されたんです。そのときから何もかもはっきりみえてきました。どうしたらからだをリラックスさせることができるか。生まれて初めてわかったって気がします。からだの調子がよくなってきたのでエストロゲンはやめて、代わりにビタミンをとりはじめました。顔のほてりはいまでも起こるけど、全然気になりません。ヨガ教室でずいぶんいろいろなことを学んだし、30のころより元気になった感じです」
ベルはヨガのポーズをとって、どれほどからだが柔軟になったかみせてくれた。血圧も高くないし、脈拍も正常で乱れていないのに私は感心した。
被告書籍
(24~25ページ)
幸子さんは言っています。「私も体がほてったり頭がのぼせたり、とてもつらくって夜中に目覚めると、たいてい朝までまんじりともしない夜がよくありました。そんな日が続くと昼間はそれこそ眠くて、眠くて。その上に、仕事をしていてもイライラしてきてヘマばかり。ええ、周囲の眼も気になりました。帰宅すると娘にあたっては嫌がられて、もういいことは少しもありません。医者に行きましたら、女性ホルモン(エストロゲン)をすすめられました。使ってみたら、乳房が張ったり頭痛がしたり、かえってよくありませんでした。そのころお友達に誘われて、ヨガの教室へ通うようになったのですね。教室の雰囲気がとてもよくて、第一皆さんとても熱心で明るくて積極的なの。ちょっとお年を召した方もたくさんいらっしゃいます。通っているうちにどんどん自分が変わっていくのがわかりました。きちんと三食摂るようになり、特に野菜とビタミンに気をつけました。長年の悩みだった便秘もよくなったし、顔のほてるのはまだ少し続いているけれど、あまり気にしないことにしています。
太って、お尻もお腹も貫禄たっぷりだった幸子さんでしたのに、体がひきしまって姿勢もよくなり、歩き方もさっそうとしてきました。血圧も不安定だった二年前とはすっかり変わって120/80と理想的です。血色もよくなり、しみもうすくなりました。
原告らの主張
被告書籍の幸子さんの例は、原告著作物のベルの例の書き換えである。被告書籍の「その上に、仕事をしていてもイライラしてきてヘマばかり。ええ、周囲の眼も気になりました。帰宅すると娘にあたっては嫌がられて、もういいことは少しもありません。医者に行きましたら、女性ホルモン(エストロゲン)をすすめられました。使ってみたら、乳房が張ったり頭痛がしたり、かえってよくありませんでした。そのころお友達に誘われて、ヨガの教室へ通うようになったのですね。」という文章は、被告が参考にしたという原著九二年版にはなく、原告著作物をそのまま利用している。
被告書籍の別紙29の部分は、原告著作物の別紙29の部分と<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告らの主張
争う。
別紙30
原告著作物
(127~129ページ)
更年期になると女性のエストロゲンのレベルが急激に下がります。エストロゲンは多くの機能をもっていますが、たえず石灰沈着(骨化)を行なって、骨の強さを保持することも重要な役割です。エストロゲンがもはやたっぷりとはないとなると、骨のカルシウム分は骨化よりもはやい速度でとけます。そのため女性の骨は軟化し、もろくなり折れやすくなるのです。なぜエストロゲンが骨をじょうぶにするという重要な役目をもつのでしょう。確かなことはわかりませんが、おそらく妊娠中にカルシウムが減りすぎないよう骨を守り、授乳が終わってから次の妊娠までに骨の再石灰化をはやくすすめるためのメカニズムといえるでしょう。この時期になると体内のエストロゲンのレベルは高くなるのです。
更年期が過ぎてエストロゲンのレベルが下がると、白人、アジア人、褐色人種の女性の25パーセントが重い骨粗鬆症にかかります。黒人女性にはこの症状はめったにみられませんが、その理由はよくわかりません。黒人は人種的に骨太ですから、骨折に対しては強みがあります。骨粗鬆症にかかりやすい女性は、ころんだり、またはもっとささいなきっかけで手首を折ることもあります。これはふつう50代で起こります。60代になると脊椎のカルシウムが失われた結果、背中が痛くなり、脊椎が“曲がる”とかひどく圧縮されることになります。背が低くなるとか背中が曲がってしまうかもしれません。70歳までに脊椎が曲がる女性は約20パーセントいますが、ひどい痛みとか機能障害はほとんどありません。こうした状態に気づかないばあいが多いのです。骨の問題でいちばん重大なのはたいてい70歳を過ぎてから大腿部のつけ根や大腿骨の骨折、ふつういわれる腰の骨折という事態が起こるという問題です。白人の女性では年をとってから腰を骨折する人が15パーセントにのぼり、さらにそのうち10分の1の患者が骨折の併発症で亡くなっています。しかも、回復しても痛みはないのに歩けなくなることが多いのです。黒人やラテン系の女性のばあいは、腰の骨折の危険性はさほど高くありません。
骨粗鬆症のために歯がなくなることもあります。これは50歳を過ぎると男性より女性に多く、またたばこをすうひとによくみられます。骨粗鬆症にかかった女性は、あごの骨格が弱くなるため、歯がゆらぎやがてとれてしまうのです。
被告書籍
(84~86ページ)
女性が更年期にこの状態になりやすいのは、女性のエストロゲンのレベルが急に下がった時が問題になるわけです.エストロゲンは、いろいろな働きの中でも、特にカルシウム沈着作用が大きな役割を持っています。絶やさずカルシウム沈着(骨化)を行って、骨の強さを保持しているのです。エストロゲンが充分にないと、骨のカルシウムは骨化より早い速度で溶けてくるのです。そこで骨は、もろくなり、折れやすくなってしまいます。
なぜエストロゲンが骨を強くするか、まだ確かなことはわかりませんが、妊娠中にカルシウムが減りすぎないように骨を守り、授乳が終わって次の妊娠までに骨の再カルシウム化(骨化)を急速にすすめるためのメカニズムと考えられています。その時期には、必ずエストロゲンのレベルが高くなっているからです。
更年期が過ぎて、エストロゲンのレベルが下がると、黒人以外の女性はその二十五%が重い骨粗鬆症にかかると言われます。黒人にあまり重症の骨粗鬆症は見られないのは、もともと黒人は人種的に骨太であることと、太陽によくあたることのためと考えられます。
この時期の女性は、ちょっとしたことで手首を折ったり、足の小指を骨折したり、背中が痛み、脊椎が曲がったり、圧縮されたり、背が低くなったり、腰が曲がったりという症状は、珍しいことではありません。七十歳を過ぎると、こうした症状は、更にはっきりあらわれてきます。大腿部のつけ根や大腿骨の骨折、腰の骨折などが起こったり、歯がもろくなり、次々と歯を失うという状況も起こります。骨粗鬆症にかかると、あごの骨格が弱くなるので、歯がゆらゆらしてきて、すっぽりぬけてしまったりします。
こうした状況は、カルシウム不足、運動不足の人に起こりやすいのは当然としても、タバコを吸う人にもよく見られ、女にとってやはりタバコの害の大きさを痛感します。
原告らの主張
被告書籍の別紙30の部分は、被告書籍の「提案7」「骨は運動が好き。カルシウムが好き」の第一項目の「もっと骨を大切にしましょう」の小見出し「女性の更年期に多いのはなぜ?」の全文に当たる。被告書籍の別紙7の部分の表は、これに続くものであり、別紙30の部分と合わせると、前記「提案7」の半分以上は原告著作物の引写しである。
被告書籍の「黒人以外の女性はその二十五%が重い骨粗鬆症にかかると言われます。黒人にあまり重症の骨粗鬆症は見られないのは、もともと黒人は人種的に骨太であることと、太陽によくあたることのためと考えられます。」という部分は、原告著作物と同じ<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成をとっているのであって、被告書籍の別紙30の部分は、原告著作物の別紙30の部分と<1>語句の選択、<2>語句の配列、<3>表現態様、<4>全体の構成が同一である。
被告らの主張
争う。