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東京地方裁判所 平成6年(行ウ)245号 判決

原告

株式会社土井商行

右代表者代表取締役

土井章男

原告

有限会社土井ビル

右代表者取締役

土井章男

原告

土井章男

右原告ら訴訟代理人弁護士

布留川輝夫

被告

東京都江戸川都税事務所長 白戸毅

右指定代理人

友澤秀孝

宮本治樹

鈴木朗

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  争点1(義務付け訴訟の適用性)について

1  請求7ないし12に係る訴えは、被告に対して、本件各土地に係る特別土地保有税の納付税額を〇円とする減額更正をすることを求めているものであり、右訴えが、行政庁の公権力の行使を求めるいわゆる無名抗告訴訟の一類型である義務付け訴訟であることは明らかである。

ところで、行政事件訴訟法が抗告訴訟として取消訴訟、無効等確認訴訟及び不作為の違法確認訴訟を法定した上、公権力の行使に関する救済方法としては取消訴訟を中心としている趣旨に照らせば、行政庁の第一次判断を待つことなくその公権力の行使を求める義務付け訴訟が例外的に許されるのは、<1>行政庁に第一次判断権を行使させるまでもないほど処分要件が一義的に明確に定まっており、裁量の余地がないなど、第一次判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないこと(明白性)、<2>事前審査を認めないことによる損害が大きく、事前救済の必要性が顕著であること(緊急性)、<3>他に適切な救済手段がないこと(補充性)といった要件を満たす場合に限られるものと解すべきである。

2  原告らは、本件各土地に係る特別土地保有税に関しては、地方税法六〇五条の二による減免がなされるべきであるとして、納付税額を〇円とする減額更正を求めるものである。

ところで、地方税法六〇五条の二は、「市町村長は、天災その他特別の事情がある場合において特別土地保有税の減免を必要とすると認める者その他特別の事情がある者に限り、当該市町村の条例の定めるところにより、特別土地保有税を減免することができる。」と定めており(なお、同法七三四条一項により、都は、その特別区の存する区域において、特別土地保有税を課するものとされ、この場合には、都を市とみなして右規定が準用されることになり、減免をする者は都知事となるが、同法三条の二及び本件条例四条の三の規定により、特別土地保有税に関する都知事の権限が被告に委任されている。)、これを受けて、本件条例一五四条一項は、特別土地保有税の減免につき「次の各号の一に該当する土地又はその取得のうち、知事において必要があると認めるものに対して課する特別土地保有税の納税者に対しては、規則で定めるところにより、当該特別土地保有税を減免する。」とし、その一号で「災害その他これに類する事由により区画又は形質が変化し、著しく価値を減じた土地」を、同二号で「公益のため直接専用する土地その他の土地で規則で定めるもの」を規定しており、本件規則三五条二項は「本件条例一五四条一項二号に規定する規則で定めるものは、次の各号に掲げる土地とする。」とし、その一号は「公益のため直接専用する土地」を、同二号は文化財保護法五七条一項に規定する埋蔵文化財を包蔵する土地で一定の要件を満たすものを、同三号は「前二号に掲げるもののほか、特別の事情があると認められる土地」と規定している。また、同条三項は、「前項に規定する土地に係る特別土地保有税の減免は、当該事情を考慮して知事の認める割合により減免する。」と規定している。

これらの規定からすれば、地方税法六〇五条の二の特別土地保有税の減免の対象となる土地については、結局、その要件としては「特別の事情」というような極めて抽象的な要件を定めているにすぎず、当該土地につき減免の対象土地と認めるか否かについては、被告の裁量にゆだねているものと解さざるを得ないし、また、減免の対象土地と認めた場合の減免の割合についても被告の裁量にゆだねていることは明らかである。

そうすると、本件各土地が地方税法六〇五条の二の減免対象土地であるとして、被告に納付税額を〇円とする減額更正を求める義務付け訴訟は、少なくとも、前記1の<1>に記載した明白性の要件を欠く不適法な訴えといわざるを得ない。

3  これに対し、原告らは、本件通達に照らせば、本件各土地について、地方税法六〇五条の二に定める特別の事情があることは明らかであり、本件各土地に係る特別土地保有税の減免をなすべきことは一義的に明らかである旨主張する。

なるほど、〔証拠略〕によれば、原告ら主張のとおりの内容の本件通達が存在しており、本件通達が自治省税務局長から各都道府県総務部長及び東京都総務・主税局長あてになされた特別土地保有税の免除制度等の取扱いに当たって留意すべき事項を示し、適切な運営についての指導を求める通達であることが認められるところである。しかしながら、本件通達が、特別の事情に該当するものとして当該土地に係る特別土地保有税を減免して差し支えないとしているのは、土地の所有者の責に帰することのできない事情により公法上の建築制限である行政庁の開発許可、建築確認等の手続に相当の日数を要したために基準日までに建設等に着手することができない場合であるところ、〔証拠略〕によれば、本件各土地の一部については、都営地下鉄新宿線の地上駅から地下への導入口ないしその直近に位置するため、東京都の区分地上権が設定され、右区分地上権の特約として、木造以外の建物等を築造する場合における地上権者との事前協議及び書面による同意や鉄道施設に加わる建物等の荷重についての制限等が定められて、これが登記されており、右のような制約のある土地であることを認識し得る状況で、原告土井商行らが、本件各土地を取得したことが認められ、私法上の制約というべき右区分地上権の特約による建築規制を満たすために相当の日数を要したとしても、これが、本件通達に掲げる土地所有者の責に帰することのできない公法上の建築規制の手続に相当の日数を要した場合と全く同視し得るか否かについて疑問があるのみならず、仮に、右のような事情が本件通達に掲げる事情に該当することがあるとしても、本件通達は、特別の事情についての解釈基準を示す通達にすぎず、これによって直ちに被告の有する裁量権を法律上覊束するものでないことは明らかであるから、本件通達の存在によって、本件各土地が減免対象土地に該当することが一義的に明白であり、行政庁の第一次判断権を考慮する必要がないとする原告らの主張は採用することができない。

4  以上によれば、請求7ないし12に係る訴えは、その余の点について判断するまでもなく、義務付け訴訟として許容される要件を欠く不適法な訴えといわざるを得ない。

二  争点2(本件各否認処分の違法性)について

1  地方税法五八五条以下に規定する特別土地保有税は、土地の取得及び保有に伴う費用を増大させることにより、土地の投機的な取得を抑制するとともに、土地の供給を促進することを目的として創設されたものであるが、投機目的で取得され、保有されている土地か否かの判断が困難であることなどから、当初は、当該土地の利用の有無を問わず一律に課税されることになっていたものである。しかし、その後、既に社会通念上相当程度の水準の利用がなされ、最終的な需要に供されていると認められるような土地についてまで特別土地保有税を課することは適当でないという考慮から、そのような場合には、いったん発生した納税義務を免除することとし、昭和五三年の法改正により地方税法六〇三条の二の納税義務の免除制度が設けられたものである。そして、右免除制度の趣旨からすれば、未利用の土地はもとより、将来の売買を見越して仮の利用に供されているにすぎない土地についても右免除制度の対象とすべきでないことになるが、具体的な個々の土地について、最終的な需要に供されているか、将来の売買を見越して仮の利用に供されているかの判断は困難であるから、その具体的運用における不公平を避けるため、同項は前者であることが明確なもののみを対象とすることとして一定の外形的、客観的基準を導入し、かつ、個別具体的に課税庁の認定にかからせる方法によることとしたものである。すなわち、同条一項一号は、当該土地上の建物又は構築物の構造、利用状況等が恒久的な利用に供される建物又は構築物に係る基準として政令で定める基準に適合することを要件とし、右基準として、同法施行令五四条の四七第一項一号は、その構造及び工法からみて仮設のものではないことを、同項二号は、その利用が相当の期間にわたると認められることを定めており、また、地方税法六〇三条の二第七項、五八六条四項は、右の判定は、基準日の現況によるものとしているのである。

右のような免除制度の趣旨やその規定に照らせば、当該土地が地方税法六〇三条の二第一項一号の免除対象土地に該当するか否かは、専ら、基準日において、当該土地上に右免除要件の基準に適合する建物又は構築物が存在するか否か、あるいは、少なくとも右の基準に適合する建物又は構築物が建築途上にあるか否かという外形的事実に基づいて客観的に判断されるべきものと解するのが相当である。したがって、右の基準に適合する建物又は構築物が基準日に現実に全く存しない場合においては、たとえ、このような建物又は構築物を建設する具体的な計画が進行中であり、所有者が投機目的で当該土地を所有するものでないことがうかがえるとしても、それのみでは当該土地を同号の免除対象土地に該当するものとはいえないというほかない。。

これを本件についてみれば、本件各土地は、基準日である平成四年一月一日時点では、更地であり、建物等の建築工事にも着手していなかったのであるから、地方税法六〇三条の二第一項一号の土地に該当しないというべきである。

2  これに対し、原告らは、基準日において、本件各土地上に建物等の着工がなされなかったのは、本件各土地の一部に東京都に対する区分地上権が設定されており、その特約に基づく事前協議に日数を要したという事情によるものであり、こうした事情が東京都にとって明らかとなっている以上、本件各土地の有効利用の目的は客観的、外形的に明らかであるから、免除対象土地に該当する旨主張するようであるが、前記のとおり、免除対象土地に該当するか否かは基準に適合する建物又は構築物の有無という外形的事実によって客観的に判断されるべきものであって、そうした外形的事実が全くないにもかかわらず、土地所有者の意図が課税庁にとって明らかであるか否かによって右判断が左右されるものではないというべきであるから、原告らの主張は失当である。

また、原告らは、基準日経過後の土地の利用状況を加味して、基準日における着工の有無を判断することは許され、本件においては、基準日経過後の土地利用状況からみて、基準日時点における着工があったものというべきである旨主張するが、前示のとおり、地方税法が基準日を設けた上、免除対象土地に該当するか否かを基準日における現況により判定するものとしている趣旨からすれば、基準日前後の利用状況を基準日における外形的事実についての判断の補助的事実として勘案することは格別、基準日における外形的事実が全く存しないような場合にまで、基準日経過後の利用状況のみから基準日における着工の有無を判断するということは、法が基準日を設けた趣旨にそうものでないことは明らかであるというべきであるから、原告らの右主張は失当である。

さらに、原告らは、本件各土地については地方税法六〇五条の二の減免事由があることが明らかであり、原告らは被告職員らの誤った教示により右減免の申請をすることなく、本件免除申請をしたものであるから、信義則ないし禁反言の原則により、免除認定を否認すべきではない旨主張するかのようである。しかしながら、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法規関係においては、信義則ないし禁反言の原則の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者の平等、公平という要請を犠性にしてもなお租税法規に適合する処分による課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するというような特別の事情が存する場合に初めて右法理の適用が考慮されるものというべきであるところ、本件各土地について地方税法六〇五条の二の減免事由があることが明らかであるとする原告らの主張には直ちには首肯し難いものがあることは前記のとおりであるし、仮に、原告ら主張の事実が認められるとしても、同条の減免制度と同法六〇三条の二の免除制度は別個の制度であり、原告らが改めて減免申請をすることができるか否かについて、誤った教示の有無が考慮されることがあり得るか否かは格別、原告ら主張の事実をもって、法律上免除制度が適用されない本件各土地について、なおこれを適用しなければならないような特別の事情があるとまではいえないというべきであり、本件各否認処分が違法であるといえないことは明らかである。

3  以上のとおりであるから、本件各否認処分は適法であり、本件各否認処分の取消しを求める原告らの請求は理由がないというべきである。

三  よって、本件訴えのうち、請求7ないし12に係る訴えは、いずれも不適法であるから、これを却下することとし、原告らのその余の請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとする。

(裁判官裁判長 秋山壽延 裁判官 竹田光広 岡田幸人)

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