東京地方裁判所 平成6年(行ウ)269号・平6年(行ウ)324号 判決
甲・乙両事件原告
平澤三之助(X1)
同
平澤初美(X2)
同
福田次子(X3)
右三名訴訟代理人弁護士
福田浩
甲・乙両事件原告
福田浩(X4)
甲事件被告
東京都調布市長 (Y1) 吉尾勝征
右訴訟代理人弁護士
大輪威
同
久々湊道夫
乙事件被告
(調布市長) 吉尾勝征(Y2)
同
土方三郎(Y3)
同
佐藤義広(Y4)
同
齊郷秀一(Y5)
同
澤井健隆(Y6)
同
渡辺進二郎(Y7)
同
一ノ瀬久義(Y8)
同
山田恒夫(Y9)
同
砂田正(Y10)
同
谷戸栄昭(Y11)
同
河野明和(Y12)
同
板倉敏之(Y13)
同
山沢竹司(Y14)
同
秋輪秀世(Y15)
同
鈴木信孝(Y16)
同
鈴木廣和(Y17)
右一六名訴訟代理人弁護士
大輪威
同
久々湊道夫
乙事件被告
鉄建建設株式会社 (Y18)
右代表者代表取締役
高橋浩二
右訴訟代理人弁護士
高西金次郎
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 甲事件について
1 下水道法は、公共下水道を初めとする下水道の整備を図り、都市の健全な発達及び公衆衛生の向上に寄与することを目的として(一条)、公共下水道事業を地方公共団体に行わせることとしているが(三条、四条)、地方公共団体が下水道を設置し、当該下水道によって下水を排除すべき区域、すなわち排水区域を指定して、当該下水道の供用が開始された場合には(九条、二条七号)、当該下水道の排水区域内の土地所有者等には排水設備の設置義務が課され(一〇条)、その結果、排水区域内の住民は、当然に右公共下水道の使用を強制されることになる。よって、右下水道の使用に当たって、管理者である地方公共団体の承諾や許可を要するものではないから、公共下水道の使用関係は契約に基づくものとはいえない。このように、公共下水道の使用関係は、その発生に契約を予定せず、供用開始とともに当然の使用が予定されているのであるから、使用義務を課された者がその対価を支払うべき関係が当然に生じるものではない。しかしながら、公共下水道の使用関係は、一面では、一定の区域内での下水排除という利益のための公共施設の利用関係でもあり、公共下水道の維持管理に係る経費については、その一部をこれによって便益を享受している使用者に負担させることが実質的に費用負担の公平に合致することから、公共下水道管理者に条例で定める使用料を徴収する権能が与えられている(二〇条)。よって、公共下水道の使用料は、支払時期、料金額、延滞金の発生等を含め、右条例に委ねられているのである。
ところで、下水道法が公共下水道への排水設備の設置を義務づけているのは、建築物又は土地の所有者等であり(一〇条)、その結果、その使用を強制されるのは、排水区域内の土地又は建物を使用する住民ということになるが、都市の健全な発達及び公衆衛生の向上のために、排水区域内の下水を当該公共下水道に排除すべしとの要請は、排水区域内での建築工事等によって下水が生じた場合にも変わるものではない。そこで、本件条例は、土木建築に関する工事の施工に伴う排水のために公共下水道を使用する場合その他公共下水道を一時使用する場合をも含めて、使用料の徴収を定めているのである(一二条、一三条)。そして、一時使用の場合であっても公共下水道の使用を強制されることになる点に変わりはないのであるから、この場合に公共下水道の使用関係を契約に基づくものと解するのは相当でない。とすれば、調布市下水道条例施行規則三二条に規定する下水道一時使用申請書の提出も、契約の申込みではなく、行政事務を円滑ならしめるための通知であり、使用料についても、本件条例に従って算定されることになると解すべきである。そして、本件条例中には、使用料支払義務者がその納付を遅延した場合に課されるべき延滞金等を定めた規定は見当たらない。また、地自法二三一条の三第二項が、普通地方公共団体の長は、同条一項所定の使用料その他の歳入について同項の規定による督促をした場合においては、条例の定めるところにより手数料及び延滞金を徴収することができるとしていることからみても、条例に延滞金等の定めがない場合にまで普通地方公共団体がこれを当然に徴収できると解することはできない。
これに対し、原告らは、本件下水道使用料は実質的には下水道の無断使用に基づく損害賠償債権である旨主張する。しかしながら、排水区域内で生じた下水を排除するための公共下水道の使用関係は契約に基づくものとはいえないから、「無断使用」を論ずべきものではなく、また、右下水を公共下水道以外に放流することは、かえって公共下水道を設置した目的に反することになるのであるから、本件での公共下水道の使用を不法行為ということはできない。原告らの主張は、地下水の湧出を招いた被告鉄建の建築工事への不服をいうものであるとしても、右湧水等を公共下水道へ排除することを不法行為とする理由となるものではない。
2 原告らは、市が被告鉄建から徴収することを怠っているとする債権の法的性質を下水道の無断使用に基づく民法上の損害賠償債権であると主張しているが、右に説示したとおり、市が被告鉄建に対して右のような損害賠償債権を有すると解する余地はなく、本件条例中には、使用料支払義務者がその納付を遅延した場合に課されるべき延滞金等を定めた規定は存しないのであるから、原告らの請求一の1ないし3に係る請求は理由がないというべきである。また、本件条例二四条には、偽りその他の不正な手段により使用料を免れた者は、その徴収を免れた金額の五倍に相当する金額以下の過料を科すると定めているが、この過料は講学上にいう行政上の秩序罰に該当するものであり、過料を科するか否かは財務会計上の行為ということはできないから原告らの請求一、4記載の訴えは適法な監査請求を経ていないものであり、また、第二、一、7及び11記載の事実に照らせば、出訴期間(地自法二四二条の二第二項)を徒過したものであって、不適法なものというべきである。
二 もっとも、原告らの主張を善解すれば、原告らの請求一、1及び2は、市が被告鉄建に対して本件条例に基づく下水道使用料債権を有しているにもかかわらず、被告市長がその行使を怠っているとして、右怠る事実の違法確認を請求しているものとみる余地もあるので、念のため、右のような主張として、その当否について次に検討する。
1 本件下水道使用料について
市における下水道使用料の算定方法は、既に摘示したとおり、水道水を使用したときは水道の使用水量がその排出量とみなされるが(本件条例一六条一項)、水道水以外の水を使用したときは、その水の使用の態様その他の事情を考慮して市長が認定した使用水量が汚水の排出量とみなされる(同条二項)というものであり、後者の場合、より具体的には、動力的揚水設備による場合について、必要に応じ世帯人口、業態、揚水設備、使用状況その他の事実を考慮してその使用水量を認定するなどとされている(調布市下水道条例施行規則三三条四号)。
右のように、本件条例上、使用水量の認定については本来的に推計によることが予定されており、水量の認定についても市長の裁量的判断に委ねられていることが明らかである。しかしながら、被告市長は、市に対してその事務を誠実に執行すべき職務上の義務を負い(地自法一三八条の二)、財務会計上の行為をするに当たって被告市長が負う誠実執行義務も財務会計法規上の義務の一内容をなすものと解されるし、本件条例上、使用水量の認定と右認定に基づく下水道使用料の徴収とはいずれも市長の権限とされていて、他の者の関与は予定されていないのであるから、使用水量の認定自体は非財務会計上の行為であるとしても、その認定が明らかに不合理な推計によっており、これを前提に算出される下水道使用料が合理的な推計に基づき使用水量を認定した場合のそれと比較して明らかに過少であると認められれば、市長は合理的な推計方法によって使用水量の認定をし直し、これに基づく適正な下水道使用料を徴収すべき財務会計上の義務があるものと解すべきである(最高裁昭和六〇年九月一二日第一小法廷判決・判例時報一一七一号六二頁、同平成四年一二月一五日第三小法廷判決・民集四六巻九号二七五三頁各参照)。よって、使用水量の認定が明らかに不合理であって、その結果、合理的な推計によって使用水量を認定した場合に徴収し得る下水道使用料の一部が未収に終わっているものと認められる場合には、特段の事情がない限り、市長には右差額部分について違法に右債権の行使を怠る事実があるというべきこととなる。
2 まず、雨水控除の要否についてみるに、雨水が下水道に流入する経路は一様ではないが、既に摘示したとおり、公共下水道の使用料の徴収については条例の定めに委ねられているところ、本件条例一四条は汚水についてのみ使用料を定め、同条例二条(2)は同条例にいう汚水について下水道法二条一号にいう「汚水」をいうとし、同法二条一号は、「汚水」を生活又は事業に起因し、若しくは付随する廃水であるとして雨水と区別して規定しているのであって、汚水排出量の認定方法(本件条例一六条、一七条)に照らしても、本件条例上、下水道使用料の対象となる汚水量の認定において雨水量は含まれないものとして扱われていると解すべきである。また、下水道法二〇条二項一号が、下水道使用料を定める場合の原則について、下水の量及び水質その他使用者の使用の態様に応じて妥当なものであることと定めていることからみても、さらに、雨水排除による利益は公共下水道の使用者以外の者に及ぶことからみても、汚水量の認定において雨水量を除外することを不当とすることはできない。そして、本条例において、他に雨水を含む下水について使用料を徴収すべき旨を定めたと解すべき規定は存在しない。
これに対し、原告らは、被告鉄建が市に住民税を納付する立場にないこと等を理由に、本件下水道使用料は雨水分の控除をせずに算定すべきであると主張するが、既に説示したとおり、下水道法の目的は、排水区域内の下水を公共下水道に排除させることにあり、このことは住民税の納付とは別個の問題であるし、本件条例上、住民以外の下水道使用者からは雨水分の下水道使用料も徴収するとの定めはないから、右主張は採用することができない。
3 そこで、被告市長による使用水量認定の合理性についてみるに、〔証拠略〕によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 本件工事は、A、B及びCの三棟の建物について行われ、地表からの掘削深度は、A棟が一次及び二次掘削で合計七・四メートル、B棟が一次掘削のみで四・六メートル、C棟が一次ないし三次掘削で合計一〇・三メートルであった(各棟の配置の概要は別紙図面のとおりである。)。(〔証拠略〕)
(二) 本件現場付近は、地表から約三メートルないし九メートルの深度に砂礫層が所在し、その下には固結シルト又は固結粘土層が存在する。
本件工事に先立って行われたボーリングによる地盤調査では、本件現場付近の孔内確認泥水位は地表から約五・四メートル(本件の出水箇所付近)ないし七・四メートルの範囲に分布しているとの結果が得られた。通常、地下水位は泥水位よりも深い深度に分布するものとされている。(〔証拠略〕)
なお、本件工事の現場は、地元では「ハケ上」と呼ばれ、四二〇メートル南に所在する布田崖線南側の「ハケ下」と呼ばれる地域との高低差が約六メートルあるが、「ハケ上」では「ハケ下」に比べて地下水の湧出する深度は深いとされている。(〔証拠略〕)
(三) 平成五年一〇月二一日ころ、本件工事のC棟掘削現場で地下水が湧出していたのは、砂礫層の最下部から約一メートルないし〇・七メートル上部の地点であった。(〔証拠略〕)
前記(二)記載の事実と右事実とを総合すると、本件現場における湧水の水位は、本件現場内においても場所による差異があるものの、地表から約七・五メートル程度の深度にあるものと認められ、砂礫層の浸透性は右深度付近において著しく減衰し、右深度以下では、湧水の滲出又は流出が生じる可能性が認められる。
(四) 本件現場においては、平成五年七月ころから掘削工事が開始され、第一次、第二次の掘削に続き、同年八月二三日から同年九月一一日まで、日曜日を除いて、B棟及びC棟部分の第二次掘削工事、矢板入れ工事が行われ、降雨に際しては随時ポンプによる排水が行われた。本件における下水道料金の算定期間の初日である同年八月三〇日には、A棟の二次掘削部分に滞留水があったため、ポンプによる排水が行われた。(〔証拠略〕)
なお、この水の性質について、被告市長は同月二六日及び翌二七日の雨水であるとし、原告らは、盛夏であること及び砂礫層の浸透性に照らして、滞留雨水とは考えられないとするが、既に湧水の浸出等があったとしても、前記(一)ないし(三)の各事実に照らせば、当該部分の砂礫層の浸透性は著しく減衰していたものと解されるから、数日前の大雨の滞留を肯定することにも合理性がある。
(五) C棟の三次掘削は平成五年九月二一日に開始されたが、大坪所長は、同月二四日及び翌二五日に、二インチ管の排水ポンプ三台で計八時間ずつ排水を行ったにもかかわらず水位が思うように低下せず、作業にも支障を来したことから、地下水が湧出しているのではないかとの疑問を持ち、一旦掘削を中止して同月二七日に重機をC棟の掘削現場から搬出した。その後、被告鉄建は、A棟及びB棟の第二次掘削箇所では、滞留水を随時排水しながら作業を進めたが、C棟部分における第三次掘削作業については、新たに四インチ管の排水ポンプ三台を借り受けた上で、同年一〇月一三日に重機をC棟掘削現場に再搬入し、翌一四日から同月二五日まで掘削を行った。そして、同月一三日以降は作業の必要に応じて排水ポンプ台数を調整しつつ、昼夜の排水作業をするようになった。(〔証拠略〕)
右事実によれば、第三次掘削による湧水の水位以下への掘削が開始されたことにより湧水の浸出が始まり、また、その後の遅くとも同月一三日ころには、本件現場内に大量の湧水の流出をみるに至ったものと認められる。
(六) 平成五年一一月一二日、被告鉄建は、C棟の掘削面外周にある山留杭に沿って、底面から約二メートル程度の高さにコンクリートを打設した(地中梁コンクリート打設工事)。(〔証拠略〕)
この工事によって、右地中梁以下の滞留水は作業上の支障とはならなくなるから、排水の必要性も従来より減じたものと推認される。
(七) 平成五年一二月八日、被告鉄建は、C棟の山留杭に沿って、地表から約三メートルの深度までコンクリートを打設した(B1F壁コンクリート打設工事)。同年一一月一三日から一二月一三日までの間も、排水量は減少したものの、昼夜にわたって排水が継続された。しかしながら、右コンクリート打設工事により湧水の作業場内への流入は阻止され、排水の必要性は大幅に消失し、右工事が終了した後の同月一四日以降は湧水の排出はされていない。(〔証拠略〕)
(八) その後、平成五年一二月二〇日及び翌二一日にもポンプによる排水が行われていることは、被告鉄建も自認するところである。
なお、前記(四)ないし(七)の事実はいずれも、被告鉄建の社員が作成した陳述書によるものであるが、その内容は、工事記録(〔証拠略〕)と符合し、また、同年八月三〇日から同年一〇月一二日までの期間については、排水モーターの稼働日について原告らの主張と相違があるものの、原告らが大量排水に着目したとする日(同年一〇月一三日)及びその後については原告次子の認識した事実(〔証拠略〕)とも大筋において矛盾しないものといえる。
(九) 本件で使用された排水ポンプは水中サンドポンプAタイプの口径二インチ及び四インチのものであり、また、排水ホースはサニー・ホース五〇メートルが使用された。右排水ポンプの揚水は、本件において排水ポンプを被告鉄建に対して貸与したレンタル業者によれば、口径二インチのもので毎時七・四立方メートル、口径四インチのもので毎時一八・六立方メートルである。(〔証拠略〕)なお、最有効率の揚水量は、口径二インチのもので毎分〇・二五立方メートル(毎時一五立方メートル)、口径四インチのもので毎分二・〇立方メートル(毎時一二〇立方メートル)である(〔証拠略〕)が、同レンタル業者が発行しているカタログ(〔証拠略〕)によれば、現実の揚水量、水流の配水管等との摩擦損失を所定の算式(ダーシー式)をもって揚程に換算した数値(損失揚程)を現実の揚水高さ(実揚程)に加算した数値を揚程として性能曲線(グラフ)から求めることができるところ、レンタル業者の示した各数値は、排水管を口径一〇センチメートル、長さ五〇メートルのサニー・ホース、揚水量を毎分二・三四立方メートルとしてダーシー式に代入して求めた損失揚程を実揚程一〇・四メートルに加算し、これを各機種の能力曲線(グラフ)に当てはめたものであることが認められる。
もっとも、ダーシー式は必要揚水量が分かっているときに損失揚程を求める式、すなわち、損失揚程を揚水量の関数とする式であるから、揚水量を所与のものとして損失揚程を求め、それに基づいて性能曲線上の揚水量を求めるという方法は循環論法である旨の原告らの指摘は一理あるというべきであり、ダーシー式に算入すべき揚水量以外の数値が判明している場合の揚水量の理論値は、該当機種の性能曲線と排水量以外の数値から求められる損失揚程曲線の交点から求めるべきものとも解される(〔証拠略〕)。そして右理論値は、本件各機種の最有効率の能力ではないとしても、被告主張の揚水量を上回るものと推認される。
(一〇) 本件現場における地下水は、平成五年一〇月二五日ころにおいても常時湧出していたわけではなく、本件既出使用料の算定に当たっては排水中とされている時間中でも、実際にはほとんど現場に水が溜まっていなかったことがある。(〔証拠略〕)。
(一一) 本件工事中、被告鉄建は、作業をしない場合や、作業をする場合でもその内容によって支障がない場合には、現場からの排水をしないことがあった。(〔証拠略〕)
(一二) 平成六年七月一五日付け監査結果を受けて、市では、本件既出使用料金の基礎となった排水量について以下のとおり算定した(別表(三)参照)。
(1) 大坪所長から提出された排水量に関する報告書を基に、滞留水の状態からその量を概算することができるもの(以下「本件滞留水」という。)については、滞留部分の面積(A棟三五八平方メートル、B棟五五二平方メートル、C棟二九六平方メートルで、合計一二〇六平方メートル)に、滞留した雨水の水位を乗じてその排水量を算定する方法を採用し、その余の排水については、排水ポンプの一日当たりの延べ稼働時間を割り出し、これに排水ポンプの一時間当たり排水量(二インチ管は七・四立方メートル、四インチ管は一八・六立方メートル)を乗じて被告鉄建の平成五年八月三〇日から同年一二月二一日までの総排水量を算出した。なお、本件滞留水のうち、C棟掘削現場に係るものは、同年九月一四日、同年一二月二〇日及び同月二一日の各排水である。
(2) 控除すべき雨水量については、平成五年八月二六日から同年一二月一三日までの雨量に、掘削現場の面積一二〇六平方メートルを乗じて算出した(別表(七))。雨量は、本件現場から約六〇〇メートル離れた調布市役所の屋上にある計測器で算定したものである。なお、雨量の計測期間に同年八月二六日から同月二九日までを加えたのは、同月二六日及び翌二七日に台風一一号の関係で一五五ミリメートルの降雨があり、同月三〇日の排水は右降雨によるものと判断したためである。
(一三) 下水道使用水量を測定するにはメーターを設置する方法も考えられるが、一般に建築現場での排水等ではメーターに土砂が詰まる可能性があり、必ずしも数値の正確性を担保し得ないおそれがある。
4 右事実関係に基づき、本件既出使用料に関する被告市長の推計が、その裁量権の範囲を逸脱するものであるかどうかを検討する。
(一) まず、原告らが主張する推計は、<1> 本件の放水中に含まれる汚水は地下水脈からの湧水によるものであるから、平成五年八月三〇日から同年一二月一三日まで並びに同月二〇日及び翌二一日の全一〇七・五日間にわたり、汚水が排出され続けた、<2> 右排水は二四時間中間断なく持続した、<3> 排水ポンプは三台であり、その各揚水能力は一時間当たり六〇立方メートルであり、排水は常時全能力で行われたとの事実を前提とするものである。しかしながら、まず、右<1>及び<2>についてみるに、〔証拠略〕によれば、同年八月三〇日から原告ら居宅付近のマンホールからの流水音が持続し、近隣住民の生活の平穏を乱すようになったこと、そのため、被告鉄建がマンホールをゴムシートでふさぐ等の対策を講じたこと、その後も原告次子が随時ポンプの作動状態に注意していたことが認められ、同年一〇月一三日以降約二か月間に渡って、昼夜の排水がされたことは前記認定のとおりであり、本件既出使用料の推計の基礎とされた被告鉄建の提出資料の内容に沿う丙第二号証によっても、排水期間中の排水量は決して軽微な量ではなかったことが認められるが、右〔証拠略〕によっても、排水音の程度は日によって相違があり、原告次子がマンホールへの排水音がとてもうるさく、これは大変だと感じたのは同年一〇月一三日であって、被告鉄建が本格的に第三次掘削箇所からの排水を開始した時期とも一致することが認められるのであるから、本件期間中の掘削の位置、深度、作業内容に関係なく、同一の態様、水量の排水が常時間断なく継続されたとすることは困難であり、かえって、湧水はその水位以上に滞留するものではないところ、排水の目的は作業を阻害する水の排出にあるのであって、前記認定に係る本件作業経過に照らせば、原告次子の供述等を前提としても、右期間中の排水作業の態様、規模は、作業の有無、内容等を考慮したものと推定することが合理的であり、右の区別をすることなく同一の態様で排水を持続する必要があり、右期間中一貫して同一の態様で排水ポンプが稼働していたことを推計の基礎とすることは困難である。また、右<3>については、前記3(九)において認定したとおり、本件工事において使用された排水ポンプの揚水能力は、被告市長の主張を上回っていたものと推認されるが、〔証拠略〕によれば、二インチ管は本件現場の実揚程のみを前提としても、一時間あたりの揚水量は約二一立方メートルに止まり、六〇立方メールには遥かに及ばないのである。
(二) そこで、被告市長の推計についてみると、前記4において認定した事実、〔証拠略〕を総合し、前記2及び3において説示した諸点に照らして判断すれば、本件既出使用料金に係る使用水量の推計については、その方法に明らかに不合理な点はないものと認めることができ、被告鉄建の提出した排水量に関する数値は、排水ポンプの能力を過少に評価していると認められるが、排水中の滞留水の減少、作業の進行又は作業の内容による排水の必要量の変化等をも考慮すれば、これを基礎として認定した使用水量が明らかに不合理であるとはいえず、推計の方法も、滞留水の状態からその量を概算できるものについてはそれにより(平成五年一二月二〇日及び翌二一日の下水道使用料は、この計算によるものである。)、その余の持続的排水については時間当たり排水量と排水時間の積により総排水量を算出し、さらに、これから雨水相当分を控除するというものであるから、既に説示した雨水の取扱いに照らして相応の合理性を有するものということができる。したがって、被告市長の本件既出使用料の認定には、排水態様、作業経過等に照らせば、明らかに不合理であるとすべき点はなく、本件汚水が事業用の洗浄用水等ではなく主として湧水の排水であることをも考慮すれば、本件既出使用料に係る使用水量の認定が結果的に真実の排水量と異なるとしても、被告市長の使用水量の認定が明らかに不合理であるということはできない。また、ポンプの排水能力が過少評価されているとしても、被告市長の認定値を超える排水がされたと認めるに足りる証拠はないというべきである。
なお、原告らは、本件工事の現場に降った雨水が蒸発も浸透もしないとして全て控除するのは不合理であるとも主張する。しかしながら、本件現場の浸透性が減衰していたことも考えると、蒸発又は浸透による水量を考慮しないことが、市長の推計の方法における裁量を違法ならしめるものと解することはできない。
5 したがって、本件既出使用料の算定に明らかに不合理な点はないから、原告らの請求一の1及び2記載のいずれの請求についても、その理由のないことが明らかである。
三 乙事件について
1 地自法二四二条の二第一項各号列記以外の部分及び同項四号は、住民が当該地方公共団体に代位してその職員に対し損害賠償の請求をするためには、同法二四二条一項所定の住民監査請求を適法に経由し、その請求に係る違法な行為又は怠る事実について行う場合であることを要件としている。ところで、地方公共団体等の行っている事務一般について特に内容に制限なく行うことができるとされている事務監査請求については、同法一二条二項、七五条にその要件効果が定められており、これとは別に同法二四二条一項は、住民監査請求ができる場合について、当該普通地方公共団体の職員等に違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担があると認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実があると認めるときと規定し、同法二四二条の二第一項は、右監査請求に係る違法な行為又は怠る事実につき住民訴訟の類型を定めているのであるから、住民訴訟の対象となる地方公共団体職員等の行為は、同法二四二条一項所定の各財務会計上の行為に限られることが明らかである。
この点につき、原告らは、実際に悪事を働いた職員が財務会計上の権限を欠くが故に責任を免れるのは公平ではないとも主張するが、非財務会計上の行為を行う職員が普通地方公共団体に違法に損害を与えた場合にはその職員に対して損害賠償請求権が生じ、当該普通地方公共団体の財産である右損害賠償請求権の行使が財務会計上の行為であることも考えれば、地自法二四二条に規定する住民監査請求及び同法二四二条の二に規定する住民訴訟が財務会計上の行為を対象にしていることを不当とする理由はないというべきである。
2 ところで、原告らは、本訴請求の根拠法条及び被告らの財務会計上の行為を明らかにすべき旨の当裁判所の釈明に対して、前に第二、三記載のとおり被告市職員ら及び被告吉尾に対する損害賠償請求権の根拠法規を地自法二四二条の二第一項四号前段であるとしつつ、その違法行為としては、被告土方を除く被告市職員らについて「本件工事における排水量を適切に認定する義務を怠ったこと」、被告吉尾及び同土方について「被告市職員らが行った職務について指揮監督する義務を怠ったこと」とそれぞれ主張し、被告鉄建に対する請求の根拠法規を同号後段であるとし、同号後段にいう「当該行為」又は「怠る事実」は、「被告市職員らが被告鉄建の放水量の点検を怠ったこと」であると主張する。したがって、当裁判所としては、原告らの主張に即して検討を加えるべきところ、被告土方を除く被告市職員らの「本件工事における排水量を適切に認定する義務」は、それ自体において財務会計上の行為ではなく、その「職務について指揮監督する義務」も財務会計上の行為ということはできず、また、被告鉄建を相手方とする被告市職員らの被告鉄建の放水量の点検も、その義務違反が一般の不法行為と評すべき場合があることは格別、右義務は財務会計上の義務ではなく、この義務を怠ることが同号後段の「怠る事実」に該当しないことは明らかである。
よって、原告らの右各被告らに対する地自法二四二条の二第一項四号前段及び後段を根拠とする損害賠償の訴えは、いずれも地自法上の住民訴訟の類型にない訴えというべきところ、地自法二四二条の二所定の住民訴訟は、行政事件訴訟法五条にいう民衆訴訟に当たり、法律に定める場合においてのみ許容されるものであるから、損害賠償を求める原告らの請求二記載の各訴えは、いずれも不適法というべきこととなる。
3 なお、原告らの請求二を本件条例に基づいて発生する下水道使用料債権の徴収を怠る事実に関する当該職員及び相手方に対する損害賠償請求と善解したとしても、被告市職員らは右徴収権を有しないことは既に説示したとおりであり、被告吉尾及び被告鉄建に対する損害賠償請求権を認めるに足りないことも二に説示したとおりである。
第四 結論
以上のとおりであるから、原告らの甲事件に係る訴えのうち過料を科さないことの違法確認を求める訴えは却下し、同事件に係るその余の請求はいずれも棄却し、乙事件に係る訴えはいずれも却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九三条及び八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 鈴木里枝子)