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東京地方裁判所 平成7年(ワ)10710号・平11年(ワ)623号 判決

第一・第二事件原告 角田龍治

右訴訟代理人弁護士 森永友健

第一・第二事件被告 千代田火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 鳥谷部恭

第一事件被告 セゾン自動車火災保険株式会社

右代表者代表取締役 金井朋紀

第一事件被告 アメリカン・ホーム・アシュアランス・カンパニー

右日本における代表者 横山隆美

第一事件被告 大東京火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 小澤元

第一事件被告 同和火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 永田峻陽

第一事件被告 エイアイユーインシュアランスカンパニー(エイアイユー保険会社)

右日本における代表者 吉村文吾

第一事件被告 チューリッヒ・インシュアランス・カンパニー

右日本における代表者 マヌエル・アンジェロ・アイヒマン

第一事件被告 日動火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 佐藤義和

右八名訴訟代理人弁護士 東谷隆夫

同 岩田光史

同 鹿士眞由美

同 滝野俊一

第一事件被告補助参加人 安田火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 有吉孝一

右訴訟代理人弁護士 南出行生

同 辻佳宏

右南出訴訟復代理人弁護士 北澤龍也

主文

一  第一事件原告の請求をいずれも棄却する。

二  第二事件被告は、第二事件原告に対し、一四九万〇八五〇円及びうち一〇〇万円に対する平成九年七月一四日から、四九万〇八五〇円に対する平成九年七月二九日からそれぞれ支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、第一、第二事件を通じ、これを一〇分し、その九を第一事件原告の負担とし、その余を第二事件被告の負担とする。

四  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

(以下においては、被告千代田火災海上保険株式会社を「被告千代田火災」、被告セゾン自動車火災保険株式会社(旧商号・オールステート自動車・火災保険株式会社)を「被告セゾン自動車火災」、被告アメリカン・ホーム・アシュアランス・カンパニーを「被告アメリカン・ホーム」、被告大東京火災海上保険株式会社を「被告大東京火災」、被告同和火災海上保険株式会社を「被告同和火災」、被告エイアイユーインシュアランスカンパニー(エイアイユー保険会社)を「被告エイアイユー」、被告チューリッヒ・インシュアランス・カンパニーを「被告チューリッヒ」、被告日動火災海上保険株式会社を「被告日動火災」と呼称し、これらを併せて「被告ら」という。)

第一請求

一  第一事件

1  被告千代田火災は、原告に対し、一七七万二〇〇〇円及びこれに対する平成六年四月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告セゾン自動車火災は、原告に対し、九四万八〇〇〇円及びこれに対する平成七年六月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  被告アメリカン・ホームは、原告に対し、七〇万円及びこれに対する平成七年六月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

4  被告大東京火災は、原告に対し、一三一万円及びこれに対する平成七年六月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

5  被告同和火災は、原告に対し、三一〇万四三三三円及びこれに対する平成七年六月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

6  被告エイアイユーは、原告に対し、一五三万五〇〇〇円及びこれに対する平成七年六月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

7  被告チューリッヒは、原告に対し、三〇一万六〇〇〇円及びこれに対する平成七年六月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

8  被告日動火災は、原告に対し、九一〇万八〇〇〇円及びこれに対する平成七年六月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  第二事件

主文第二項と同じ

第二事案の概要

本件は、原告が、損害保険契約を締結していた被告らに対し、保険金支払事由に該当する事故により受傷した旨主張して、各保険金の支払を求め(第一事件)、さらに、被告千代田火災に対し、その保険契約の一部につき、満期が到来した旨主張して、満期返戻金等の支払を求めている事案である。

一  請求原因

(第一事件について)

1 保険契約の締結

原告は、保険会社である被告らとの間で、別紙保険契約目録記載一ないし八のとおり保険契約を締結した(以下、併せて「本件各保険契約」という。なお、同目録記載の各保険契約については、「本件保険契約一1」などと呼称する。)。

2 本件事故の発生

原告は、平成五年六月五日午後四時ころ、東京都新宿区西落合四丁目一六番六号付近の路上において、原告の所有する原動機付自転車(新宿区か九四二七)のエンジンをかけるため、右足でスターターを踏み込んだところ、サンダルが脱げて右足を滑らせ、右かかとを路面に打ち付け、バイクと共に転倒した(以下「本件事故」という。)。

3 原告の受傷

原告は、本件事故により、右足踵骨骨折、右足関節捻挫、腰椎捻挫の傷害を負い、その治療のため、次のとおり入、通院を余儀なくされた。

(一) 平成五年六月五日ないし同年八月五日まで伊東医院に入院

(二) 同年八月七日ないし同年一〇月二三日まで二之沢草津病院に入院

(三) 同年一〇月二五日ないし同年一二月三〇日まで伊東医院に通院(通院実日数四八日)

4 保険金の算定

被告らは、本件各保険契約に基づき、右3の原告の受傷について、次のとおり保険金を支払う義務を負っている。

(一) 被告千代田火災関係(合計一七七万二〇〇〇円)

(1)  本件保険契約一1に基づく積立家族傷害保険金一五三万五〇〇〇円

10,000(入院一日当たりの保険金額)×140(入院日数)+5,000(通院一日当たりの保険金額)×27(通院実日数)=1,535,000

(2)  本件保険契約一2に基づく長期総合保険金二三万七〇〇〇円

1,500(入院一日当たりの保険金額)×140(入院日数)+1,000(通院一日当たりの保険金額)×27(通院実日数)=237,000

(二) 被告セゾン自動車火災関係(九四万八〇〇〇円)

本件保険契約二に基づく普通傷害保険金九四万八〇〇〇円

6,000(入院一日当たりの保険金額)×140(入院日数)+4,000(通院一日当たりの保険金額)×27(通院実日数)=948,000

(三) 被告アメリカン・ホーム関係(七〇万円)

本件保険契約三に基づく普通傷害保険金七〇万円

5,000(入院一日当たりの保険金額)×140(入院日数)=700,000

(四) 被告大東京火災関係(一三一万円)

本件保険契約四に基づく所得補償保険金一三一万円

300,000(一か月当たりの補償保険金)×4(就労不能月数)+300,000(一か月当たりの補償保険金)×{18(就労不能月数)-7(免責期間)}÷30=1,310,000

(五) 被告同和火災関係(合計三一〇万四三三三円)

(1)  本件保険契約五1に基づく家族傷害保険金九二万一〇〇〇円

6,000(入院一日当たりの保険金額)×140(入院日数)+3,000(通院一日当たりの保険金額)×27(通院実日数)=921,000

(2)  本件保険契約五2に基づく所得補償保険金二一八万三三三三円

500,000(一か月当たりの補償保険金)×4(就労不能月数)+500,000(一か月当たりの補償保険金)×{18(就労不能月数)-7(免責期間)}÷30=2,183,333

(六) 被告エイアイユー関係(一五三万五〇〇〇円)

本件保険契約六に基づく普通傷害保険金一五三万五〇〇〇円

10,000(入院一日当たりの保険金額)×140(入院日数)+5,000(通院一日当たりの保険金額)×27(通院実日数)=1,535,000

(七) 被告チューリッヒ関係(三〇一万六〇〇〇円)

本件保険契約七に基づく家族傷害保険金三〇一万六〇〇〇円

20,000(入院一日当たりの保険金額)×140(入院日数)+8,000(通院一日当たりの保険金額)×27(通院実日数)=3,016,000

(八) 被告日動火災関係(合計九一〇万八〇〇〇円)

(1)  本件保険契約八1に基づく普通傷害保険金二二三万五〇〇〇円

15,000(入院一日当たりの保険金額)×140(入院日数)+5,000(通院一日当たりの保険金額)×27(通院実日数)=2,235,000

(2)  本件保険契約八2に基づく積立ファミリー交通傷害保険金二三七万円

15,000(入院一日当たりの保険金額)×140(入院日数)+10,000(通院一日当たりの保険金額)×27(通院実日数)=2,370,000

(3)  本件保険契約八3に基づく住宅総合保険金二三七万円

15,000(入院一日当たりの保険金額)×140(入院日数)+10,000(通院一日当たりの保険金額)×27(通院実日数)=2,370,000

(4)  本件保険契約八4に基づく自動車総合保険金二一三万三〇〇〇円

{6,000(入院一日当たりの自損事故保険金額)+7,500(入院一日当たりの搭乗者傷害保険金額)}×140(入院日数)+{4,000(通院一日当たりの自損事故保険金額)+5,000(通院一日当たりの搭乗者傷害保険金額)}×27(通院実日数)=2,133,000

5 よって、原告は、被告らに対し、本件各保険契約に基づき、前記第一の一のとおり保険金の支払を求める。

(第二事件について)

1 保険契約の締結

原告は、保険会社である被告千代田火災との間で別紙保険契約目録記載一1及び2記載のとおり、本件保険契約一1及び2を締結した。

2 保険期間の満了及び満期返戻金(主位的請求原因)

本件保険契約一1は平成九年七月一三日午後四時に、本件保険契約一2は同月二八日午後四時に、それぞれ保険期間が満了した。

本件保険契約一1の満期返戻金は一〇〇万円、本件保険契約一2の満期返戻金は五〇万円である。

よって、原告は、被告千代田火災に対し、本件保険契約一1に基づく満期返戻金一〇〇万円及び本件保険契約一2に基づく満期返戻金五〇万円から最終回分の月払い保険料九一五〇円を控除した四九万〇八五〇円並びに右各金員に対する各満期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3 解約返戻金(予備的請求原因)

仮に、被告千代田火災による本件保険契約一1及び2の解除が有効であるとすれば、本件保険契約一1については一〇四万二九七〇円(補償保険料二〇万七四七〇円、積立保険料八三万五五〇〇円)、本件保険契約一2については四九万一六五〇円(積立保険料一四万三九五〇円、支払保険料返金分三四万七七〇〇円)の解約返戻金が発生する。

よって、原告は、被告千代田火災に対し、本件保険契約一1及び2の解除に基づく解約返戻金一五四万四六二〇円のうち一四九万〇八五〇円及びこれに対する商事法定利率年六分の割合による遅延損害金について、主文第二項記載のとおりの支払を求める。

二  抗弁(本件保険契約八4を除く本件各保険契約の解除)

1  本件保険契約八4を除く本件各保険契約には、別紙保険約款一覧表一記載のとおり、約款上、保険契約者及び被保険者には告知義務(その内容は、同一覧表記載A又はBのとおりである。)ないし重複保険契約に関する通知義務(その内容は、同一覧表記載Cのとおりである。)があること、そして、保険契約者及び被保険者が右義務に違反した場合には保険契約を解除できることが定められている。

2  原告は、本件保険契約八4を除く本件各保険契約を締結する際に作成した保険契約申込書において、重複保険契約の有無が記載事項になっているにもかかわらず、本件保険契約三の申込書に被告セゾン自動車火災及び被告大東京火災と、本件保険契約七の申込書に被告アメリカン・ホームと、本件保険契約八1の申込書に被告日動火災住宅総合保険と、本件保険契約八3の申込書に被告日動火災家族傷害保険(ただし、この保険契約は締結されていない。)とそれぞれ記載したのみで、それ以外の保険契約を締結していることを告知しなかった。

3  また、原告は、本件保険契約八4を除く本件各保険契約を締結した後、他の保険契約を締結する際に、あらかじめ又は遅滞なく、書面をもってその旨を申し出て承認を請求しなかった。

4  被告らは、平成六年三月ころ、原告が右2で告知していたもの以外にも重複保険契約を締結していることを知るに至った。

そこで、被告らは、原告に対し、平成六年四月一九日、告知義務違反及び重複保険契約の締結により、本件保険契約八4を除く本件各保険契約(ただし、本件保険契約八3については交通傷害担保特約のみ)を解除する旨の意思表示をした。

5  したがって、第一事件につき、被告らは、右解除に係る本件各保険契約については、原告に対する保険金支払義務を負わない。

また、第二事件につき、被告千代田火災は、原告に対する満期返戻金の支払義務を負わない。

三  主たる争点及びこれに対する当事者の主張

1  本件事故の偶然性の有無

(被告らの主張)

傷害保険において保険金が支払われるためには、被保険者にとって予知できない原因から傷害の結果が発生したこと(偶然性)が必要であるが、次のような事情に照らせば、本件事故について偶然性の立証がされているとは言い難い。

(一) 本件事故の状況

本件事故は原告が単独で起こしたものであり、目撃者がいなかった。

そして、原告の主張する本件事故の状況には、不自然な点が多々ある。すなわち、原告がバイクで外出した目的があいまいである。バイクの運転や茶道の稽古に行くのには不向きなつっかけのサンダルを履き、事故当時どうしてもバイクに乗って行かなければならない状況ではなかったのに数十回もキックペダルを踏み込んだというのである。また、原告は両手でバイクを押さえてキックペダルを踏み込んだというのに、後ろにのけ反って倒れ、尻餅をついたというのである。

(二) 原告の受傷機序

原告は、バイクのキックペダルを踏み外して右足踵骨を骨折したというが、そのようなことで本件傷害が生じたものかどうか、また、それが偶然の事故によるものであるか否かについては、鑑定の結果によっても確定されていない。

(三) 治療経過

原告は、本件事故によって生じた右足踵骨骨折により、前記一3のとおり一四〇日間入院し、実日数で四八日間通院したというが、このような長期間の入院や頻繁な通院の必要性はなかった。特に、温泉病院である二之沢草津病院への入院については全く必要性がなかった。

傷害保険は定額保険であり、通院よりも入院の方が補償される金額が高くなっているところ、本件では、保険金の受領額を増やすために必要以上に入院期間を長くし、かつ通院日数を増やした疑いがある。

(四) 多数の保険契約の締結

原告は、本件訴訟において被告ら保険会社八社に対して一三種類の保険契約に基づき保険金の請求をし、補助参加人との間でも保険契約を締結しているが、このほかに、判明しているだけでも生命保険会社八社との間で一五種類の保険契約を締結している。また、全国労働者共済生活協同組合連合会及び財団法人KSD中小企業経営者福祉事業団の各共済にも加入しており、その他に日本生命保険相互会社の保険と簡易保険にも加入していた。

このように二〇社以上三〇種類以上の多数の保険契約を締結することは通常では考えられない。しかも、原告は受動的な立場で勧誘されて保険に入っていたというわけではなく、自ら積極的に保険に加入していたものであるが、その動機について合理的な説明はされていない。

また、本件事故当時に原告が支払っていた保険料は、判明しているだけで、月払いの合計が月額二八万七七五五円、年払いの合計が年額三一万六一七二円であり、そのほかに平成四年七月に一括払いで一一二万二五二〇円の保険料を支払っている。

さらに、原告は、本件各保険契約並びに補助参加人及び日本火災海上保険株式会社との間の各保険契約により、入院一日当たり合計一七万二六〇〇円、通院一日当たり合計九万五四〇〇円、所得補償一か月当たり合計八〇万円の各保険金の支払を受けることができることになる。さらに、原告は、判明しているだけで、本件事故に基づき別紙保険契約一覧表の「本件事故に対する保険金支払額」欄記載のとおり九九〇万六〇〇〇円の保険金を既に受領しているのである。

(五) 原告のバイクによる事故歴

原告は、平成三年一二月二七日にバイクの転倒事故を起こし、右手背部じん帯損傷等の傷害を負ったとして、同日から平成四年四月二三日まで入通院し、保険金を受領している。

また、原告は、昭和五九年九月にもバイクの転倒事故を起こし、右手関節骨折の傷害を負ったとして、同月一五日から昭和六〇年一月二八日まで入院し、保険金を受領している。

右二つの事故と本件事故とは、いずれもバイクの単独事故であること、傷害の程度としてはさほど重いものでないこと、不必要ないし不相当な長期間の入院をしていること、複数の傷害保険に加入していることなどの点において共通しており、不自然な事故歴である。

(六) 原告の経済状況

原告は、現住所で角栄電器の名称で家電製品の販売をしているが、いわゆる個人商店であり、また、現住所の土地及び建物は原告所有のものではない。

また、原告は、東京都中野区上高田五丁目二九番地八の建物を元妻である長門敏子の母キミヨと各二分の一の持分で共有しているが、右建物には、原告を債務者、王子信用金庫を債権者として、極度額一億〇四〇〇万円の根抵当権が設定されている。そして、原告は、王子信用金庫から昭和六二年九月二九日に六五〇〇万円、昭和六三年三月三一日に二五〇〇万円、六〇〇万円及び一五〇〇万円を借り入れており、毎月の返済額は七一万七一九四円であったが、平成三年三月には残高不足のためその返済が遅滞し、その後も二五〇〇万円の借入金については、同年一月、五月、七月及び九月に残高不足のため返済が遅滞している。このため、王子信用金庫は、平成七年五月一二日、東京地方裁判所に原告に対する貸金請求訴訟を提起し、平成九年一〇月二九日、東京高等裁判所において元金五一八八万三五八三円の支払を命ずる判決が確定した。原告は、右訴訟において、王子信用金庫が強引な勧誘を行って、原告に返済不能の過剰な借入れを強要した違法な融資であって、権利の濫用に当たる、金利変更となったため原告にとって全く返済不可能な状況に追いやられた、昭和六二年当時、原告の収入は三〇〇万円くらいであり、王子信用金庫に一〇〇〇万円ほどの残債務があり、返済できずに何度も繰り返し書換えをしていた旨の主張をしている。

加えて、原告は別の金融機関からも六〇〇〇万円くらい借りていたというのであり、前記(四)のとおり、少なくとも月額二八万七七五五円以上の保険料を支払わなければならなかったことも考えれば、本件事故当時の原告の経済状況がかなり逼迫していたことは明らかである。

(原告の主張)

原告の伊東病院及び二之沢草津病院への入院期間は相当なものであった。

また、多数の重複保険契約があることについても、本件事故当時既に二回以上更新されている契約がほとんどであって、しかも大部分は勧誘されるまま契約したものである。

加えて、原告が本件事故に遭ったことと原告の当時の経済状況との間に因果関係はない。また、原告が本件事故当時、経済的に逼迫していた事実はない。すなわち、原告は、王子信用金庫の口座に毎月の返済額七一万七一九四円を入金し、遅滞することなく引き落されていたが、王子信用金庫が平成三年一二月分から右引落しをしなくなったものである。しかるに王子信用金庫が同年四月二〇日をもって期限の利益を失ったと主張し、両者の間で係争になったため、貸金の返済がされていないにすぎない。なお、原告はその後も平成四年二月まで右毎月の返済金を右口座に入金していた。さらに、原告は、家電製品の販売のほか、第一種電気工事士の資格を活かして電気工事の請負を行っていたのであり、経営の主力は電気工事の方に移っていたのである。

2  重複保険契約の告知義務、通知義務違反による契約解除の有効性

(原告の主張)

(一) 重複保険契約が存在するというだけで、保険会社が保険契約を解除し、保険金支払義務を免れることができる旨の約款は、保険約款がいわゆる附合契約とされていること、傷害保険の分野では重複無告知保険が少なくないこと、保険事故発生時までに保険会社が保険契約者から多額の保険金を受領していることなどに照らして、公序良俗に反し、無効である。

(二) 保険会社には重複保険契約の告知義務及び通知義務があることを保険契約者に説明すべき義務があるところ、被告らが右説明をしなかったため原告はこれらを知らなかったのであるから、被告らは、本件各保険契約を解除することができない。

(三) 原告の保険金請求は、詐欺等不法な目的によるものではない。

また、被告同和火災の家族傷害保険及び所得補償保険は契約日が同じであり、被告日動火災の普通傷害保険、住宅総合保険及び積立ファミリー保険は契約日が同一ないし近接しており、被告千代田火災の積立家族保険及び長期総合保険は契約日が近接している。しかるに、原告がこれらの申込に当たって他の保険契約があることについて告知しなかったにもかかわらず、そのまま申込が受理されているのである。こうしたところからすると、原告の不告知は、被告らが間接正犯的に行ったものともいえる。

したがって、被告らの解除は、信義則違反ないし権利の濫用に当たり無効である。

(四) よって、被告らによる本件各保険契約の解除は無効というべきである。

(被告らの主張)

(一) 保険約款に定められた告知義務、通知義務の趣旨は、第一に不法に利得を得る目的で重複保険契約が締結される事態を防ぐこと、第二に被保険者が各保険者から全体として損害額を上回る保険金の支払を受ける事態を防ぐこと、第三に保険事故発生の場合に損害の調査や責任の範囲の決定を他の保険者と共同して行うことを可能にすることにある。

他方、重複契約の事実は保険契約者しか知り得ない上、その告知、通知は保険契約者にとって過重な負担となる手続でもない。

したがって、保険契約者に対し重複保険契約の告知義務、通知義務を課することには十分合理性があるというべきであり、公序良俗に反するものではない。

(二) 原告は保険について詳しい知識を有していたと考えられ、告知義務に関する約款について説明を受けなかったので知らなかったということはあり得ない。

すなわち、原告は、本件事故に至るまでに、非常に数多くの保険契約を締結し、契約更新もしている。そして、原告は、昭和四八年一月に日本団体生命保険株式会社と保険契約を締結しているが、その際の保険会社の担当者は、本件事故当時原告の経営する電気店の従業員であった長門洋子である。原告は、昭和四八年当時、長門洋子と友達であったというのであり、長門洋子は原告の元妻である長門敏子の姉である。

加えて、保険契約申込書には重複保険契約の質問項目が設けられており、原告は一部の保険契約の締結に当たって右質問項目について回答を記載しているのであるから、原告は、告知義務、通知義務があることを十分認識していたものである。

なお、告知義務、通知義務については保険約款に明確に記載されており、保険契約申込書には重複保険契約の質問項目が設けられているのであって、それ以上に保険者に対して告知義務、通知義務に関する説明義務を課す法的根拠は存在しないというべきである。

第三当裁判所の判断

一  前提となる事実

原告が被告らとの間で別紙保険契約目録記載のとおり本件各保険契約を締結したことについては、当事者間に争いがない。

また、証拠(乙五二ないし六四)によれば、本件各保険契約には、別紙保険約款一覧表二記載の各約款上、各被告は、被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に被った傷害に対して、約款に従い保険金を支払う旨の規定があることが認められる。

二  本件事故の偶然性の有無(争点1)について

損害保険契約においては、生命保険契約の場合と異なり、偶然なる一定の事故により生ずる可能性のある損害を填補することを目的とするものであり(商法六二九条、六七三条参照)、現に、本件各保険契約においても、各約款上、保険者は被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に被った傷害に対して約定の保険金を支払う旨規定されているところである。こうしたところからすると、被保険者の傷害が急激かつ偶然な外来の事故によって生じたものであることについては、本件各保険金請求権の発生要件の一つとして保険契約者である原告において主張立証すべきものと解される。

そこで、以下、右観点に立って検討する。

1  本件事故の発生状況

(一) 本件事故の発生状況に関する原告の本人尋問における供述の要旨は次のとおりである。

原告は、平成五年六月五日午後四時ころ、東京都新宿区西落合にある角栄電器店から、一〇年位前から使っている五〇ccのファミリーバイクに乗って、エアコンのカタログを近所に配ったり、東京都新宿区高田馬場にある道場に茶道の稽古に行ったりするため出掛けた。バイクが走行中に突然エンストした。何度かそのままの状態でキックペダルを踏み込んだ。それでもエンジンがかからないので、スタンドを立て、車体を前後に揺らしてから、数回キックペダルを踏んだ。ガソリンがもうないのじゃないかと思った。それでもなかなかエンジンがかからなかったので、車体を前後に揺らして右足で数十回ペダルを踏んでいたところ、苛立ってきて力が入り過ぎたのか、履いていたサンダルが脱げてしまい、キックペダルから足が滑って路面に右足踵を打ちつけ、尻餅をつくような格好で後ろ向きに転倒した。右足踵が痛かったが、ともかく立ち上がった。自分の店に戻る途中、従業員の長門洋子が買い物に出るところでちょうど来たので、肩を貸してもらって角栄電器店に戻った。その後、長門洋子に伊東医院へ連絡してもらい、角栄電器店で伊東医師の往診を受けた。

このように、原告の供述によれば、本件事故は、原告がバイクのエンジンを無理にかけようとしてキックペダルを踏んでいた際に、足が滑って路面に右足踵を打ちつけたために起きたものであるというのである。

(二) ところで、原告の陳述書(甲三)中には、本件事故当日にバイクで出掛けた理由について、空調関係のパンフレットを近所に配りながら買い物に出掛けた旨記載されているのに対し、原告は、その本人尋問において、茶道の稽古に行くために出掛けた旨、右陳述書の記載と異なる供述をしている。

また、原告の右(一)の供述によれば、原告は、角栄電器店に戻った後、長門洋子に伊東医院へ連絡してもらい、角栄電器店で伊東医師の往診を受けたというのであるが、原告が全国労働者共済生活協同組合に提出した傷害事故発生通知書(乙七三の7)中には、本件事故後、子供に連絡を取って自宅に帰り、伊東医師に往診を依頼したとの記載が見られ、原告の右供述と異なっている。

(三) また、原告の右(一)の供述中には、次のとおり不自然な点が多々見られる。

すなわち、原告は、本件事故当時、バイクを運転して茶道の稽古に行くつもりであったというのであるが、つっかけのサンダルを履いていたというのである。また、角栄電器店を出発する際にはバイクのエンジンがすぐに始動したが、その後すぐにエンストし、車体の裏にあるゲージを見てもガソリンはなく、数十回バイクのキックペダルを踏み込んでもエンジンはかからなかったというのであるが、本件事故時にガソリンがなかったにもかかわらず、その直前にはバイクのエンジンがすぐに始動したということは考えにくい。さらに、本件事故の際、数十回もバイクのキックペダルを踏み込んだというのであるが、車体の裏にあるゲージを見てガソリンはないと認識していたにもかかわらず、そのような行動に出るということは、通常は考えられない。加えて、キックペダルから足を滑らせて路面に右足踵を打ちつけた後、尻餅をつくような格好で後ろ向きに転倒したというのであるが、他方で、原告はキックペダルを踏み込む際に両手でバイクを押さえていたというのであり、そのような体勢から右のように転倒するということもまた考えにくい。

(四) 右(二)及び(三)で説示したところにかんがみると、本件事故の発生状況に関する原告の右(一)の供述は、その内容において不自然な点が多く、その信用性について疑問が残るといわざるを得ない。

2  原告の受傷機序

(一) 原告は、前記1(一)のとおり、バイクのキックペダルを踏み外して右足踵骨を路面に打ちつけた際、右踵骨を骨折した旨供述する。

(二) 鑑定の結果によれば、平成五年六月五日に原告の右踵骨に骨折(転位のない骨折)があったことが認められる。

そして、右骨折の受傷機序について、鑑定人池田和男作成に係る鑑定書には、高所よりの転落が大部分を占めるが、踵骨が薄い骨皮質の殻で覆われた海綿骨でできているため、低所からの転落でも受傷しうる、バイクのキックペダルを踏み込もうとして加速度のついた右足が路面と衝突する状態は低所からの転落と違わないので、転位のない程度の踵骨骨折の発生する可能性は否定できない旨記載されている。また、JR東京総合病院の整形外科医である松本悟作成に係る鑑定書と題する文書(乙一八)には、一般的に踵骨骨折の発生機序は高所より落下して踵部を強く打ちつけた場合がほとんどで(文献等では九五パーセント以上)、長軸に働く力により距骨が踵骨を圧迫するために骨折が生じる、しかし、直接踵に外力が加わっても骨折を生じる場合もあるが、症例的には少ない旨記載されている。さらに、証人伊東は、一般的には非常に強い衝撃を受けないとあまり踵骨骨折にはならないが、必ずしも全てがそうではない旨証言している。

(三) 右(二)によれば、踵骨骨折は、高所から転落した場合のように強い衝撃が踵骨に加わった場合に生じることがほとんどで、原告が右(一)で供述するような受傷機序で生じることは、あり得ないわけではないが、その可能性は低いものと判断される。

3  原告の治療経過

(一) 証拠(乙五ないし八)によれば、原告は、前記2(二)の右足踵骨骨折により、平成五年六月五日から同年八月五日まで六二日間伊東医院に入院し、同月七日から同年一〇月二三日まで七八日間二之沢草津病院に入院し、同月二五日から同年一二月三〇日まで四八回伊東医院に通院したことが認められる。

(二) しかしながら、鑑定の結果によれば、原告の入院期間について次のとおり判断される。すなわち、本件のような整形外科的外傷における入院適応としては、全身状態の管理が必要となるような重症外傷の場合、緊急あるいは近日中に手術を要する外傷の場合、長時間の持続点滴など通院では不可能な処置が必要な場合、歩行不能で自宅において食事、用便における他人の介助が充分得られない場合等が考えられる。本件については、看護日誌(乙五)に平成五年六月八日「トイレ歩行」、同月一二日「松葉杖も使用になれ、無理なく歩行されている」との記載があることに照らせば、少なくとも右同日の時点で入院の絶対適応はなくなっている。こうしたことに、本件においては、ギブスの適合性、安全性の観察期間や退院に伴う準備期間として最大限考慮しても、許容される入院期間は三週間までが妥当である。また、二之沢草津病院において行われたリハビリ治療、すなわち関節可動域訓練、筋機能回復訓練、起立歩行訓練及び温泉浴のうち、温泉浴を除く訓練については、外来通院で十分可能なものであり、入院までして施行する必要はなかった。また、温泉浴についても、その必要性に疑問がある。

これに対して、当時二之沢草津病院の医師であった松岡敏夫作成にかかる回答書(甲一三)中には、原告の入院期間は適当であり、決して過剰なものではなかった旨の記載がある。しかしながら、右回答書自体にも、温泉浴について、入院した患者に対してはほとんど施行している、その効果については科学的に説明することが困難である旨記載されているところである。そして、同病院の入院録(乙八)中には、入院時の踵骨骨折の状態や入院後の症状の変化に関する記載があまり見られず、整形外科的治療効果の評価がなされた形跡もない(鑑定の結果)。こうしたことにかんがみれば、右回答書の記載をもってしても、原告の同病院への入院が適当であったと認めることはできないというべく、右鑑定の結果に消長をきたさない。

また、原告は前記(一)のとおり、平成五年一〇月二五日から同年一二月三〇日まで、ほぼ毎日のように伊東医院に通院しているが、右期間の診療経過を伊東医院の診療録(乙七)によって検討してみても、右診療録中には、痛みないし疼痛についてのみ簡単な記載が見られるだけで、症状の変化はほとんど見られない。このことに、鑑定の結果を併せ考慮すれば、右期間の診療は、あまり治療効果のない理学療法を漫然と続けていたものというほかない。

(三) 右(二)で説示したところによれば、右(一)の原告の入通院は、必要以上に長期間の入院ないし通院であったというべきである。

4  多数の保険契約の締結

(一) 証拠(乙六五の5、六六の1ないし6、六七の1ないし6、六八の1ないし3、六九の1ないし5、七〇、七一の1、2、七二の1ないし8、七三の1、5、6、七五、丙五、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

原告は、本件において被告ら保険会社八社に対して一三種類の保険契約に基づき保険金の請求をしているが、このほかにも、別紙保険契約一覧表のとおり、本件事故当時、補助参加人との間でも二種類の保険契約を締結していたほか、生命保険会社等九社との間で一七種類の保険契約を締結し、全国労働者共済生活協同組合連合会及び財団法人KSD中小企業経営者福祉事業団の各共済にも加入していた。そして、その他にも日本生命保険相互会社の保険や郵便局の簡易保険にも加入していた。

他方、本件事故当時に原告が支払っていた保険料は、別紙保険契約一覧表の「保険料」欄記載のとおりである。その額は、月払いの合計が月額二六万六六四五円、年払いの合計が年額三八万〇八九二円であり、そのほかに平成四年七月に一括払いで一一二万二五二〇円を支払っている。

その結果、原告は、本件事故当時、別紙保険契約一覧表の「保険金額」の各欄記載のとおりの保険に加入していたことになる。そして、その保険金の額は、入院一日当たり合計二三万七六〇〇円、通院一日当たり合計九万七四〇〇円、所得補償一か月当たり合計八〇万円となっており、入院中の一か月(三〇日間)の保険金は、所得補償も含めると総額で七九二万八〇〇〇円となっていた。

そして、原告は、本件事故により、既に、別紙保険契約一覧表の「本件事故に対する保険金支払額」欄記載のとおり、生命保険会社八社並びに全国労働者共済生活協同組合連合会及び財団法人KSD中小企業経営者福祉事業団から合計九九〇万六〇〇〇円の保険金を受領している。

(二) このように、原告は、本件事故当時、保険会社二〇社以上との間で三〇種類以上の保険契約を締結していたのであり、そのための保険料の額及び入、通院した場合に支給される保険金の額も、著しく多額になっていたのである。

ところで、原告は、右保険契約の締結は、代理店等から勧誘を受けて行ったものであり、原告が積極的に行ったものではない旨主張しているが、証拠(甲一五、原告本人)によれば、本件保険契約二、三及び七は原告が新聞広告を見て直接各保険会社に申込みを行ったものであることが認められ、別紙保険契約一覧表記載のとおり右各保険契約を締結した当時も既に多数の保険契約を締結していたことからすると、原告は積極的に保険契約の締結を行っていたものと判断される。

5  原告の保険事故歴

(一) 証拠(丙一、二)によれば、原告は、本件事故の一年半ほど前の平成三年一二月二七日午後五時ころ、東京都新宿区西落合二丁目において、一方通行の下り坂を原付バイクで運転、走行中に、T字路手前でブレーキをかけたところ、雪のためスリップして大きく転倒する事故により、右手背部靭帯断裂、右手腕関節捻挫・皮下出血、右膝部・右足関節捻挫・皮下出血、腰椎捻挫の傷害を負い、同日から平成四年二月一八日まで五四日間伊東医院に入院し、同月一九日から二七日までの間同医院に六回通院し、同月二八日から同年四月二三日まで五六日間熱海温泉病院に入院したとして、平成四年九月九日、補助参加人に対して入通院の申告を行ったこと、そして、原告は、その際、右事故が単独事故であったことを理由に、交通事故証明書が入手不能である旨の理由書(丙二)を補助参加人に対して提出したことが認められる。

そして、前記4(一)掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、右事故により、別紙保険契約一覧表の「前回事故に対する保険金支払額」欄記載のとおり、被告セゾン自動車火災、被告同和火災、被告エイアイユー、補助参加人のほか、生命保険会社等四社及び財団法人KSD中小企業経営者福祉事業団から保険金合計一四〇一万七一〇〇円を受領したことが認められる。

(二) また、証拠(乙六五の8、10、原告本人)によれば、原告は、昭和五九年九月にもバイクの転倒事故を起こし、右手関節骨折の傷害を負い、同月一五日から昭和六〇年一月二八日まで入院したとして、同年三月四日、日本団体生命保険株式会社から保険金一八万円を受領したことが認められる。

(三) 右(一)及び(二)で認定した事故と本件事故とを比較してみると、いずれもバイクの単独事故によって発生したものであるとされていること、いずれも傷害の程度は、四肢の損傷、骨折等であって重篤なものではないこと、いずれについても一一〇日ないし一四〇日という長期間の入院をしていることなどの点で共通しているものと評し得るところである。

6  本件事故当時の原告の経済状況

(一) 証拠(甲二四、乙四、七六、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告の経済状況について次の事実が認められる。

原告は、角栄電器店の名称で家電製品の販売をしている(争いのない事実)。資産としては、東京都中野区上高田五丁目二九番地八の建物を、原告の元妻であった長門敏子の母長門キミヨと各二分の一の持分で共有しているが、右建物には、原告を債務者、王子信用金庫を根抵当権者として、極度額一億〇四〇〇万円の根抵当権が設定されている(乙四、弁論の全趣旨)。

原告は、王子信用金庫から、昭和六二年九月二九日に六五〇〇万円、昭和六三年三月三一日に二五〇〇万円、六〇〇万円及び一五〇〇万円を借り入れた。右借入金に対する毎月の返済額の合計は七一万七一九四円であったが、平成三年一月末の段階で、返済口座の残高不足のため右借入金の一部の返済が遅滞し、その後、同年三月、五月、七月及び九月にも、右借入金の一部について残高不足のため返済が遅滞した(甲二四)。

ところで、原告は、王子信用金庫が平成七年五月一二日に原告に対して提起した貸金請求訴訟において、右借入れは、王子信用金庫が強引な勧誘を行って原告に返済不能の過剰な借入れを強要したものであって、権利の濫用に当たる旨主張し(乙七六中の平成八年一一月二一日付け準備書面)、金利が変更されたため原告にとって全く返済不可能な状況に追い込まれた、昭和六二年当時の原告の年収は三〇〇万円くらいであり(乙七六中の本人調書)、王子信用金庫に一〇〇〇万円ほどの残債務があり、返済できずに何度も繰り返し書換えをしていた(乙七六中の平成八年九月六日付け陳述書)旨供述ないし陳述している。

そして、原告は、本件の本人尋問において、別の金融機関からも借入れをしており、本件事故当時も右借入金債務があった旨供述している。

(二) 右(一)で認定、説示したところに、前記4(一)のとおり、原告は、本件事故当時、少なくとも月額二五万九二九五円以上の保険料を支払わなければならなかったことをも併せ考慮すれば、右保険料の支払は、本件事故当時の原告の経済状況に照らして不相当なものであったといわざるを得ない。

なお、原告は、家電製品の販売以外にも電気工事の請負を行っていたのであり、本件事故当時は、経営の主力は電気工事の方に移っていた旨主張するが、これを裏付けるに足る証拠は提出されていない。また、原告は、不動産の賃料収入が月額一二〇万円以上あった、さらに貸金、証券、ファンド等による収入もあった、本件事故当時、原告の月収は二〇〇万円程度であった旨供述しているが、この点について的確な裏付け証拠が提出されていない本件においては、原告の右供述はにわかに信用することができない。

7  以上1ないし6で説示したところによれば、本件事故の発生状況に関する前記1(一)の原告の供述はたやすく信用できないというべきである。そして、以上説示したところに、弁論の全趣旨を総合すると、本件事故に至る経過、本件事故発生当時の状況、本件事故発生後の入、通院の状況等には不自然な点が多く、結局、原告の本件における右踵骨骨折が偶然の事故によって生じたものであることについて、未だ十分な立証が尽くされていないといわざるを得ない。

この点に関し、原告は、本件事故当時既に二回以上更新されている契約がほとんどである旨主張するが、以上説示したところに照らせば、原告の右主張事実をもってしても、右判断を左右することはできない。

8  以上の次第であるから、第一事件における原告の保険金請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

三  重複保険契約の告知義務、通知義務違反による契約解除の有効性(争点2)について

1  第二事件において、原告は、被告千代田火災に対し、本件保険契約一1及び2の満期返戻金の支払を求め、これに対し、被告千代田火災は、本件保険契約一1は重複保険契約の告知義務ないし通知義務違反により、本件保険契約一2は重複保険契約の告知義務違反により、いずれも解除されているから満期返戻金の支払義務はない旨主張している。

そこで、以下、重複保険契約の告知義務違反を理由とする解除の有効性について検討する。

2  本件保険契約一1及び2の各約款(乙五二、五三)には、別紙保険約款一覧表一記載一1及び2のとおり、保険契約締結の際に、保険契約者又は被保険者が故意又は重大な過失によって、保険契約申込書の記載事項について被告千代田火災に知っている事実を告げず又は不実のことを告げたときは、被告千代田火災は書面により保険契約を解除することができると定められていることが認められる。

また、原告が、本件保険契約一1及び2を締結する際、他の保険契約の有無が申込書の記載事項になっているにもかかわらず、他の保険契約があることを告知しなかったこと、原告が、本件保険契約一1及び2を締結した後、他の保険契約を締結する際に、遅滞なくその旨を申し出て承認を請求しなかったこと、被告千代田火災が、原告に対し、平成六年四月一九日、告知義務違反及び重複保険契約の締結を理由に、本件保険契約一1及び2を解除する旨の意思表示をしたこと、以上の事実については当事者間に争いがない。

3  原告の故意又は重過失について

(一) 原告は、保険会社には重複保険契約の告知義務があることを保険契約者に説明する義務があるところ、被告らが右告知義務があることやこれに違反すれば解除されうる旨の説明を行わなかったため、原告はこれらを知らなかった旨主張する。

(二) しかしながら、本件保険契約一1の契約申込書(乙四〇の1)には、「5 ★ご質問欄」に、「同種の危険を担保する他の保険契約がありますか。」との質問があり、「あり」又は「なし」に丸印を記入し、「あり」の場合には、保険会社名、保険種類、満期日、保険金額をそれぞれ記入するようになっている。また、右申込書の左欄外には「(ご注意)」として、「1 この申込書の記載事項(特に★欄)が事実と相違した場合は保険金が支払われないことがあります。」、「2 『ご質問欄』の同種の危険を担保する他の保険契約には、積立ファミリー交通傷害保険、積立女性保険、普通傷害保険、家族傷害保険、こども総合保険、交通事故傷害保険(定期預金等に付随して加入した契約を含みます)、ファミリー交通傷害保険、夫婦ペア総合保険、新積立女性保険、所得補償保険、積立生活総合保険、積立安心生活傷害保険、積立いきいき生活傷害保険等をご記入ください。」、「3 『同種の危険を担保する他の保険契約』等が申込書該当欄に記入しきれない場合は申込書裏面にご記入ください。」との記載がされている。

また、本件保険契約一2の更改申込書(乙三九)には、「4 ★同種の他の保険契約」欄の「あり」又は「なし」に丸印を記入し、「あり」の場合には、保険会社名、保険種類、満期日、保険金額等をそれぞれ記入するようになっている。また、右申込書の左欄外には「(ご注意)」として、「1 この申込書の記載事項(特に★欄)が事実と相違した場合は保険金が支払われないことがあります。」、「   2 『同種の他の保険契約』の欄には、長期総合保険、住宅火災保険、住宅総合保険、普通火災保険、店舗総合保険、団地保険、積立団地保険、積立動産総合保険、積立生活総合保険等をご記入ください。該当欄に記入しきれない場合は申込書裏面にご記入ください。」との記載がされている。

さらに、原告は、本件保険契約三の申込書(乙四二)には被告セゾン自動車火災及び被告大東京火災と、また、本件保険契約七の申込書(乙四七)には被告アメリカン・ホームと保険契約を締結している旨記入していることが認められる。

加えて、前記一及び二4の認定事実及び証拠(甲二六ないし三三)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各保険契約の締結に至るまでの間、多数の保険契約を締結しており、保険契約の更新も繰り返し行っていたこと、また、保険金の請求も二回以上行っていたことが認められる。そして、原告は、昭和四八年一月に日本団体生命保険株式会社と保険契約を締結しているが、その際の保険会社の担当者は、本件事故当時、原告の経営する角栄電器店の従業員であった長門洋子であり、同人は、昭和四八年当時から、原告の友人であり、また、原告の元妻である長門敏子の姉であるというのである(乙六五の11、12、原告本人、弁論の全趣旨)。

(三) 右(二)で認定した事情に照らせば、原告は保険について詳しい知識を有していたものと考えられ、重複保険契約についての告知義務があることを原告は十分認識していたものというべきである。右告知義務に関する約款について説明を受けなかったので知らなかったという原告の主張は採用できない。

そうすると、保険契約者たる原告は、故意に同種の危険を担保する他の保険契約の存在を告知しなかったものというべく、被告千代田火災の本件保険契約一1及び2の解除の主張は理由がある。

(四) ところで、前記2のように、傷害保険約款において、保険契約の締結に際して保険契約者又は被保険者に対して重複保険契約の事前の告知義務が定められている趣旨は、重複保険による保険金額の総額が不相当に高額になる場合には、保険事故を招致して保険金を取得しようとする危険が高いところから、保険契約締結の前に重複保険契約に関する情報を開示させ、道徳的危険が高いと判断される場合には、保険契約の締結を拒否したり、保険契約を解除したりすることにより、重複保険による保険金額の総額が不相当に高額になる事態を避けることにあるものと解される。他方、保険約款は、その具体的内容について契約当事者が認識していたか否かを問わず、特段の意思表示がない限り当然に契約内容となって当事者を拘束するいわゆる附合契約とされている上、保険契約の解除は、保険事故が発生した後においてもすることができるとされているところである。こうしたことにかんがみると、重複保険契約の告知義務違反を理由とする保険契約の解除の効力については、慎重に判断することが求められるものというべきであるが、本件においては、右(二)のとおりの事情が認められるというのであるから、右(三)のとおり判断されるというべきである。

4  解除権の濫用について

(一) 原告は、本件保険契約一1及び2は各契約日が近接しているにもかかわらず、これらの申込に当たって重複保険契約があることについて告知しなかったのにそのまま申込が受理されているところからすると、原告の不告知は、被告らが間接正犯的に行ったものといえるとして、被告千代田火災の解除は信義則違反ないし権利の濫用に当たり無効である旨主張する。

しかしながら、前記3(二)のとおり、本件保険契約一1の契約申込書(乙四〇の1)の左欄外の注意書きには、右申込書において告知すべき同種の危険を担保する他の保険契約として、積立ファミリー交通傷害保険、普通傷害保険、家族傷害保険、所得補償保険等が掲げられているが、その中に本件保険契約一2の長期総合保険は含まれてはいない。

他方、右注意書き及び本件保険契約一2の更改申込書(乙三九)の左欄外の注意書きの記載に照らすと、本件保険契約一1の締結に際しては、本件保険契約八1及び2の各契約が、また、本件保険契約一2の締結に際しては本件保険契約八3の契約が、それぞれ告知すべき保険契約に該当することが認められる。ところが、本件保険契約一1及び2の各申込書には原告の印鑑が押捺されているが、右告知すべき保険契約についての記載は一切されていないのである。

こうしたところからすると、原告の前記主張は採用できない。

(二) さらに、前記二のとおり、本件事故に至る経過や本件事故当時の状況には不自然な点が多く、原告の右踵骨骨折が偶然の事故によって生じたものであると認めることができないことにかんがみれば、被告千代田火災において重複保険契約の不告知を理由として保険契約を解除することは解除権の濫用とならないものというべきである。

5  まとめ

(一) 以上によれば、被告千代田火災による本件保険契約一1及び2の解除は有効であり、第二事件につき、被告千代田火災は、原告に対する満期返戻金の支払義務を負わないものというべきである。

(二) 次に、解約返戻金の請求(予備的請求原因)については、被告千代田火災は本件保険契約一2を解除した後も右契約に応じた保険料を原告から徴収しており(弁論の全趣旨)、また、被告千代田火災の代理人作成に係る通知書(甲五四)中にも、本件保険契約一1及び2について解約返戻金が発生している旨の記載がされているところである。こうしたことに、被告千代田火災において、解約返戻金の支払を免れ得る根拠につき格別の主張をしていない本件においては、被告千代田火災は、原告主張のとおり、本件保険契約一1について一〇四万二九七〇円(補償保険料二〇万七四七〇円、積立保険料八三万五五〇〇円)、本件保険契約一2について四九万一六五〇円(積立保険料一四万三九五〇円、支払保険料返金分三四万七七〇〇円)の各解約返戻金の支払義務を免れないというべきである。

第四結論

よって、原告の請求は、第二事件について、被告千代田火災に対し、その請求のとおり、本件保険契約一1及び2の解除に基づく解約返戻金一五四万四六二〇円のうち一四九万〇八五〇円及びうち一〇〇万円に対する平成九年七月一四日(本件保険契約一1が解除された平成六年四月一九日の後の日である。)から、四九万〇八五〇円に対する平成九年七月二九日(本件保険契約一2の保険料最終支払日の後の日である。)から各支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金井康雄 裁判官 藤田広美 裁判官 大森直哉)

保険契約目録

一 被告千代田火災と原告との間の保険契約

1 保険の種類  積立家族傷害保険

保険証券番号 一五六〇三一〇八六九

被保険者   原告

保険契約日  平成四年七月一三日

保険期間   平成四年七月一三日から同九年七月一三日まで

保険金額(原告本人の傷害の場合。以下同じ。)

入院一日当たり一万円

通院一日当たり五〇〇〇円

満期返戻金  一〇〇万円

保険料及び払込方法 一一二万二五二〇円の一時払い

2 保険の種類  長期総合保険

保険証券番号 一八〇〇〇一〇六七一

被保険者   原告

保険契約日  平成四年七月一〇日

保険期間   平成四年七月二八日から同九年七月二八日まで

保険金額   入院一日当たり一五〇〇円

通院一日当たり一〇〇〇円

満期返戻金  五〇万円

保険料及び払込方法 毎月九一五〇円の月払い

二 被告セゾン自動車火災と原告との間の保険契約

保険の種類  普通傷害保険

保険証券番号 三三一一五五五一〇一

被保険者   原告

保険契約日  平成五年二月一九日

保険期間   平成五年二月一九日から同六年二月一九日まで

保険金額   入院一日当たり六〇〇〇円

通院一日当たり四〇〇〇円

保険料及び払込方法 毎月二九二〇円の月払い

三 被告アメリカン・ホームと原告との間の保険契約

保険の種類  普通傷害保険

保険証券番号 K五八七五九六

被保険者   原告、角田龍太郎、角田龍次郎

保険契約日  平成五年三月七日

保険期間   平成五年三月七日から同六年三月七日まで

保険金額   入院一日当たり五〇〇〇円

保険料及び払込方法 毎月五五二〇円の月払い

四 被告大東京火災と東京都電機商業組合との間の保険契約

保険の種類  所得補償保険

保険証券番号 七五三三-八一五四〇-二

被保険者   原告

保険契約日  平成四年八月二五日

保険期間   平成四年九月一日から同五年九月一日まで

保険金額   就労不能一か月当たり三〇万円(免責七日)

保険料及び払込方法 毎月八〇一〇円の月払い

五 被告同和火災と原告との間の保険契約

1 保険の種類  家族傷害保険

保険証券番号 二九九二四五四五一三-三

被保険者   原告

保険契約日  平成五年二月一六日

保険期間   平成五年二月一六日から同六年二月一六日まで

保険金額   入院一日当たり六〇〇〇円

通院一日当たり三〇〇〇円

保険料及び払込方法 毎月五〇八〇円の月払い

2 保険の種類  所得補償保険

保険証券番号 二九九二四五四五一二-五

被保険者   原告

保険契約日  平成五年二月一六日

保険期間   平成五年二月一六日から同六年二月一六日まで

保険金額   就労不能一か月当たり五〇万円(免責七日)

保険料及び払込方法 毎月一万六九五〇円の月払い

六 被告エイアイユーと原告との間の保険契約

保険の種類  普通傷害保険

保険証券番号 F四四一〇二八

被保険者   原告、長門洋子、角田龍太郎、角田龍次郎

保険契約日  平成四年一〇月七日

保険期間   平成四年一二月一日から同五年一二月一日まで

保険金額   入院一日当たり一万円

通院一日当たり五〇〇〇円

保険料及び払込方法 毎月一万三五三〇円の月払い

七 被告チューリッヒと原告との間の保険契約

保険の種類  家族傷害保険

保険証券番号 〇九一五七〇五一

被保険者   原告

保険契約日  平成四年一二月二三日

保険期間   平成五年一月一〇日から同六年一月一〇日まで

保険金額   入院一日当たり二万円

通院一日当たり八〇〇〇円

保険料及び払込方法 毎月一万八八九〇円の月払い

八 被告日動火災と原告との間の保険契約

1 保険の種類  普通傷害保険

保険証券番号 三八六〇三九一二

被保険者   原告

保険契約日  平成四年六月二四日

保険期間   平成四年六月二七日から同五年六月二七日まで

保険金額   入院一日当たり一万五〇〇〇円

通院一日当たり五〇〇〇円

保険料及び払込方法 三万六二〇〇円の一時払い

2 保険の種類  積立ファミリー交通傷害保険

保険証券番号 六〇二九一二九二

被保険者   原告

保険契約日  平成三年六月二七日

保険期間   平成三年六月二七日から同一三年六月二七日まで

保険金額   入院一日当たり一万五〇〇〇円

通院一日当たり一万円

満期返戻金  二〇〇万円

保険料及び払込方法 毎月一万九九五〇円の月払い

3 保険の種類  住宅総合保険

保険証券番号 三八六〇三九二〇

被保険者   原告

保険契約日  平成四年六月二四日

保険期間   平成四年六月三〇日から同五年六月三〇日まで

保険金額   入院一日当たり一万五〇〇〇円

通院一日当たり一万円

保険料及び払込方法 八万七七〇〇円の一時払い

4 保険の種類  自動車総合保険

保険証券番号 七四四一六五八六

被保険自動車 原動機付自転車(新宿か九四二七)

保険契約日  平成四年七月一五日

保険期間   平成四年七月一五日から同五年七月一五日まで

保険金額   自損事故保険 入院一日当たり六〇〇〇円

通院一日当たり四〇〇〇円

(但し、入、通院の合計一〇〇万円が限度)

搭乗者傷害保険 入院一日当たり七五〇〇円

通院一日当たり五〇〇〇円

保険料及び払込方法 毎月三〇七〇円の月払い

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