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東京地方裁判所 平成7年(ワ)12276号 判決 1998年3月25日

第一事件原告

東京海上火災保険株式会社

被告

有限会社田山商事運輸

第二事件原告

有限会社田山商事運輸

被告

有限会社谷田川運送

主文

一  第一事件被告兼第二事件原告有限会社田山商事運輸は、第一事件原告東京海上火災保険株式会社に対し、金一〇六万二四二七円及びこれに対する平成七年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第二事件被告有限会社谷田川運送は、第一事件被告兼第二事件原告有限会社田山商事運輸に対し、金一五〇万七八三四円及びこれに対する平成六年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  <1>第一事件原告東京海上火災保険株式会社の第一事件被告兼第二事件原告有限会社田山商事運輸に対するその余の請求、<2>第一事件被告兼第二事件原告有限会社田山商事運輸の第二事件被告有限会社谷田川運送に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用のうち、<1>第一事件につき生じたものは、これを一〇分し、その三を第一事件原告東京海上火災保険株式会社の負担とし、その七を第一事件被告兼第二事件原告有限会社田山商車運輸の負担とし、<2>第二事件につき生じたものは、これを一〇分し、その七を第一事件被告兼第二事件原告有限会社田山商事運輪の負担とし、その三を第二事件被告有限会社谷田川運送の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  第一事件について

第一事件被告兼第二事件原告有限会社田山商事運輸(以下「田山商事」という。)は、第一事件原告東京海上火災保険株式会社(以下「東京海上」という。)に対し、金一五一万七七五四円及びこれに対する平成七年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第二事件について

第二事件被告有限会社谷田川運送(以下「谷田川運送」という。)は、田山商事に対し、金五八三万五〇〇〇円及びこれに対する平成六年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実及び容易に認められる事実

1  前川国光運転の自家用普通貨物自動車(訴外金子運輸有限会社(以下「訴外金子運輸」という。)保有。以下「訴外金子車」という。)、小野寺梅夫運転の業務用大型貨物自動車(田山商事保有。以下「田山車」という。)、内田清一運転の業務用大型貨物自動車(谷田川運送保有。以下「谷田川車」という。)は、この順序で走行していたところ、平成六年一二月二〇日午前三時四五分ころ、千葉県成田市東和田四三五番地先路上において、訴外金子車、田山車及び谷田川車が、それぞれの前車に追突した(以下「本件交通事故」という。)。

2  東京海上は、谷田川運送と対物賠償保険を含む自動車保険契約をしていたため、訴外金子運輸に対し、訴外金子運輸の損害に相当する保険金一五一万七七五四円を支払った(甲第一号証、第三号証、第四号証、弁論の全趣旨)。

二  争点

1  東京海上及び谷田川運送の主張

(一) 本件交通事故は、田山車が訴外金子車に追突して訴外金子車に全損の損害を与えた後、谷田川車が田山車に追突したものである。

(二) すなわち、谷田川車が田山車に追突したことにより訴外金子車に更なる損害を与えていないから、訴外金子運輸に対し損害賠償義務を負うのは、田山商事であって、谷田川運送ではない。

そのため、東京海上は、訴外金子運輸に対し、谷田川運送との保険契約に基づく保険金を支払う義務を負わない。

それにもかかわらず、東京海上は、保険金支払義務あるものと誤信して一五一万七七五四円の保険金を支払ってしまい、これにより田山商事は、訴外金子運輸に対する損害賠償義務を免れた。

したがって、田山商事は訴外金子運輸に対する一五一万七七五四円の損害賠償につき不当利得しているから、東京海上は、田山商事に対し、不当利得返還請求権に基づき、保険金相当額一五一万七七五四円の支払を求める。

(三) また、本件交通事故の態様(前記(一))からすると、谷田川運送が田山商事に対し負う損害賠償義務は、田山車の後部に生じた修理代四五万七五二六円にとどまる。

2  田山商事の主張

(一) 本件交通事故は、谷田川車が田山車に追突したため、田山車が、前に押し出され、訴外金子車に追突したものである。

すなわち、訴外金子運輸に対し損害賠償義務を負うのは、谷田川運送であって、田山商事ではない。

したがって、東京海上が訴外金子運輸に対し谷田川運送との保険契約に基づく保険金を支払っても、田山商事が不当利得していることにはならない。

(二) 田山商事は、本件交通事故により、次の損害を受けた。

(1) 修理代 三〇〇万七三三二円

(2) 休車損害 二四二万七六六八円

本件交通事故前三箇月の売上が三七三万四八七四円、経費率が三五パーセント、田山車の修理に要した期間が三箇月であるから、休車損害は、二四二万七六六八円となる。

(3) 弁護士費用 四〇万〇〇〇〇円

第三当裁判所の判断

一  本件交通事故の態様について

1(一)  訴外金子車を運転していた前川国光は、<1>訴外金子車の前を走行していたトラックが急ブレーキで停車したため、訴外金子車も急ブレーキを掛けて停車したところ、前車と衝突すれすれの所で停車した。<2>その直後、田山車に追突されたため、訴外金子車は前車に追突した。<3>更にその直後、田山車に再度追突された。と証言し(同人の証人調書五項・六項・八項・九項)、谷田川車を運転していた内田清一も、田山車が突然停止したのでブレーキを掛けたが田山車に追突した。と証言しており(同人の証人調書四項・一二項)、これらの証言からすると、まず田山車が訴外金子車に追突し、次に谷田川車が田山車に追突したため、田山車が、前に押し出され、再度訴外金子車に追突したと認められる。

なお、甲第七号証及び第八号証も同趣旨である。

(二)  ところが、田山車を運転していた小野寺梅夫は、田山車の前を走行していた訴外金子車の制動灯を見てブレーキを掛けたが、訴外金子車と田山車が更に接近したため強くブレーキを掛けたところ、田山車が、停止する寸前に谷田川車に追突されたため訴外金子車に追突したと証言する(乙第三号証、同人の証人調書三項・五項・一二項・一三項・一六項。なお、乙第四号証にも同趣旨の記載がある。)。

しかしながら、田山車の破損の程度が、後部よりも前部の方が大きいこと(小野寺梅夫の証人調書四項)からすると、田山車が前車である訴外金子車に追突した衝撃が、田山車の後車である谷田川車に追突された衝撃よりも強かった(小野寺梅夫の証人調書八項)といえるから、まず田山車が訴外金子車に衝突し、次にブレーキを掛けて減速した谷田川車が田山車に追突したものと考えられる。

また、訴外金子車の運転者である前川国光は追突の衝撃を二度感じている(前記(一))から、田山車を運転していた小野寺梅夫が証言するように、まず谷田川車が田山車に追突し、次に田山車が訴外金子車に追突したとするなら、前川国光は追突の衝撃を一度しか感じないはずであり、小野寺梅夫の右証言は不合理である。かえって、前川国光の右証言からすると、まず田山車が訴外金子車に追突し、次に谷田川車が田山車に追突したため、田山車が、前に押し出されて、訴外金子車に再度追突したとするのが合理的である。

(三)  したがって、本件交通事故の態様は、まず田山車が訴外金子車に追突し、次に谷田川車が田山車に追突したため、田山車が、前に押し出されて訴外金子車に再度追突したものと認められる。

3(一)  しかし、最初に田山車が訴外金子車に追突したことにより、訴外金子車が全損になったとまで認める証拠はない。

(二)  ところで、訴外金子車の運転者前川国光は、二度、田山車に追突されたときの衝撃がほぼ同じであると証言する(同人の証人調書八項)。

しかし、田山車の破損の程度が、後部よりも前部の方が大きいこと(小野寺梅夫の証人調書四項)からすると、一度目に田山車が訴外金子車に追突したことにより訴外金子車が受けた衝撃は、二度目に田山車が、谷田川車に追突されたため、前に押し出され、訴外金子車に再度追突したことにより訴外金子車が受けた衝撃よりも強かったといえ、訴外金子車の損害は、一度目に田山車が追突したことによるものの方が大きいと考えられる(小野寺梅夫の証人調書八項参照)。

(三)  以上のことを総合すると、最初に田山車が訴外金子車に追突したことにより訴外金子車に生じた損害は全体のうちの七割、次に谷田川車が田山車に追突したため、田山車が、前に押し出されて訴外金子車に再度追突したことにより訴外金子車に生じた損害は全体のうちの三割とするのが相当である。

二  各請求について

1  東京海上の田山商事に対する不当利得返還請求権について

田山商事が訴外金子運輸に与えた損害は全体のうちの七割であり、東京海上の保険契約者である谷田川運送が訴外金子運輸に与えた損害は全体のうちの三割である(前記一3(三))ところ、東京海上は、訴外金子運輸に対し、訴外金子運輸の損害一五一万七七五四円全額に相当する保険金を支払った(前記第二の一2)から、田山運輸は、一五一万七七五四円の七割に相当する一〇六万二四二七円につき不当利得していることになる。

したがって、田山運輸は、東京海上に対し、不当利得返還請求権に基づき、金一〇六万二四二七円及びこれに対する平成七年七月一六日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払うべき義務を負う。

2  田山商事の谷田川運送に対する損害賠償請求権について

(一) 最初に田山車が訴外金子車に追突したことにより訴外金子車に生じた損害は全体のうちの七割であり、次に谷田川車が田山車に追突したため、田山車が、前に押し出されて訴外金子車に再度追突したことにより訴外金子車に生じた損害は全体のうちの三割である(前記一3(三))から、田山車が受けた衝撃も訴外金子車が受けた衝撃と同様と考えられる。

そのため、谷田川車が田山車に追突したため、田山車が、前に押し出されて訴外金子車に再度追突したことにより受けた損害は、全体のうちの三割とするのが相当である。

したがって、谷田川運送は、田山商事に対し、民法七〇九条に基づき、田山商事の受けた損害のうち三割を賠償すべき義務がある。

(二)(1) 修理代 九〇万二一九九円

ア 田山車は、本件交通事故により、三〇〇万七三三二円の修理代を要した(乙第一号証の一ないし三、第八号証)。

ところで、立会損害調査報告書(甲第五号証)は、田山車の損害が後部の修理代四五万七五二六円のみとするが、田山車は、訴外金子車に追突した後、谷田川車に追突されたため前に押し出され、訴外金子車に再度追突している(前記一1(一))から、谷田川車に追突されたため訴外金子車に再度追突されたことにより田山車の前部に損傷が生じなかったとまではいえない。

そのため、谷田川車が追突したことによる田山車に生じた損害は、田山車の後部の生じた損害に限られない。

イ したがって、損害となる修理代は、三〇〇万七三三二円の三割((一))に相当する九〇万二一九九円である。

(2) 休車損害 四〇万五六三五円

ア 本件交通事故前三箇月の田山車に係る売上は三七三万四八七四円、経費率が三五パーセント、田山車の修理に要した期間が三箇月であることが認められる(乙第二号証、第五号証、第九号証、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一ないし四、第一二号証の一ないし三、第一三号証から第一五号証まで、小野寺梅夫の証人調書七項、鈴木常朗の証人調書二項ないし六項・八項・一〇項ないし一五項)。

ところで、経費率の三五パーセントには人件費が含まれていないところ、田山車の運転者小野寺梅夫は、田山車の修理期間中、田山商事で他の仕事をしていた(鈴木常朗の証人調書六項・一八項)から、休車損害を算定する際、右人件費も控除すべきである。

そして、三箇月間の人件費は、四三〇万二二〇〇円(賃金センサス平成六年第一巻第一表の運輸・通信業(民・公営計)、企業規模一〇人から九九人まで、学歴計、男子労働者の全年齢平均の賃金額である。)の一二分の三に相当する一〇七万五五五〇円とすべきである。

イ したがって、休車損害は、次の数式で求められた一三五万二一一八円の三割(前記(一))に相当する四〇万五六三五円となる。

3,734,874×(1-0.35)-1,075,550=1,352,118

(3) 弁護士費用 二〇万〇〇〇〇円

弁護士費用は、本件訴訟の経緯及び認容額からすると二〇万円とするのが相当である。

(三) したがって、谷田川運送は、田山商事に対し、民法七〇九条に基づき、金一五〇万七八三四円及びこれに対する平成六年一二月二〇日(本件交通事故日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払うべき義務を負う。

三  結論

よって、<1>東京海上の請求は、田山運輸に対し、金一〇六万二四二七円及びこれに対する平成七年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限りで理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、<2>田山商事の請求は、谷田川運送に対し、金一五〇万七八三四円及びこれに対する平成六年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限りで理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 栗原洋三)

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