大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成7年(ワ)16561号 判決 1997年12月25日

甲・乙事件原告

株式会社マイルポスト

右代表者代表取締役

榊原史博

右訴訟代理人弁護士

磯貝英男

新居和夫

石田裕久

河東宗文

奥野雅彦

丸山敦朗

甲事件被告

株式会社トラベルコンサルタンツ

右代表者代表取締役

田中照泰

甲事件被告

田中照泰

乙事件被告

株式会社トラベルマネジメント

右代表者代表取締役

田中照泰

右三名訴訟代理人弁護士

野方重人

主文

一  乙事件被告株式会社トラベルマネジメントは乙事件原告に対し、同被告が毎月二回発行する雑誌「TM」の本文第二頁の半面を用い、別紙一記載の文案の謝罪広告を二回にわたり、うち一回は日本語文、他一回は英語文をもって掲載せよ。

二  乙事件被告株式会社トラベルマネジメント及び甲事件被告田中照泰は甲・乙事件原告に対し、連帯して、金九〇万円及びこれに対する平成七年四月三〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲・乙事件原告の甲事件被告株式会社トラベルコンサルタンツに対する請求並びに乙事件被告株式会社トラベルマネジメント及び甲事件被告田中照泰に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、甲・乙事件原告に生じた費用の五分の二と甲事件被告株式会社トラベルコンサルタンツに生じた費用並びに乙事件被告トラベルマネジメント及び甲事件被告田中照泰に生じた費用の五分の二は同原告の負担とし、甲・乙事件原告に生じた費用の五分の三と乙事件被告株式会社トラベルマネジメント及び甲事件被告田中照泰に生じた費用の五分の三は右被告らの負担とする。

五  この判決第二項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

(甲事件)

1  甲事件被告株式会社トラベルコンサルタンツ(以下「被告コンサルタンツ」という。)は甲・乙事件原告(以下「原告」という。)に対し、同被告が毎月二回発行する雑誌「TM」の本文第二頁の全面を用い、別紙二記載の文案の謝罪広告を、連続六回にわたり、うち二回は日本語文、他の四回は英語文をもって掲載せよ。

2  被告コンサルタンツ及び甲事件被告田中照泰(以下「被告田中」という。)は原告に対し、連帯して、金三〇〇〇万円及びこれに対する平成七年三月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(乙事件)

1  乙事件被告株式会社トラベルマネジメント(以下「被告マネジメント」という。)は原告に対し、同被告が毎月二回発行する雑誌「TM」の本文第二頁の全面を用い、別紙二記載の文案の謝罪広告を、連続六回にわたり、うち二回は日本語文、他の四回は英語文をもって掲載せよ。

2  被告マネジメントは原告に対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する平成七年三月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、雑誌TM誌の記事で名誉を毀損されたと主張する原告が、同誌の発行者であると主張する被告マネジメント及び被告コンサルタンツに対し謝罪広告の掲載を、右両社及びTM誌の発行責任者である被告田中に対し損害賠償として、三〇〇〇万円及び民法所定の遅延損害金の支払いをそれぞれ求めているものである。

二  基礎事実(括弧内に証拠を摘示したほかは、当事者間に争いがない。)

1  原告は、旅行関連事業の調査・戦略企画を主な営業とする株式会社である。

被告コンサルタンツは、海外観光・旅行関連事業の代理業務及びこれに関連する印刷物の出版・販売を主な営業とする株式会社である。

被告マネジメントは、出版業及び広告代理業等を主な営業とする株式会社であり、「TM」との名称を付した海外観光・旅行関連の雑誌(TM誌)を毎月二回制作、発行している。

被告田中は、被告マネジメントと被告コンサルタンツの代表取締役の一人であり、TM誌の発行責任者である。

2  TM誌一九九五年二月上旬号と同月下旬号の各本文第二頁全面を用いて、日本語文で、いずれも被告田中の署名入りで、「トラベルジャーナルの虚偽広告に抗議」と題する記事(以下「本件抗議記事」という。)が掲載され、その中で、原告が訴外株式会社トラベルジャーナル(以下「ジャーナル社」という。)の依頼により同社に一九九二年八月に提出した「『旅行業界誌(紙)の読者指向』今あなたが必要とする旅行業情報」と題する調査報告書(以下「本件調査報告書」という。)について、具体的にそれが原告作成にかかる報告書であることを表示した上で、本件調査報告書は「その調査方法も極めてずさんかつ客観性に欠けるものである」と記載されていた(以下「本件記事」という。)。

3  原告は、被告コンサルタンツに対し、平成七年三月二四日付け内容証明郵便で、①名誉・信用を毀損されたことによる精神的損害として七日以内に三〇〇〇万円の支払い、②郵便到達後の直近の日に発行されるTM誌に連続して二回にわたり、同誌の二頁に前記各記事と同じポイント以上の活字で、同誌一九九五年二月上旬号及び同月下旬号に本件調査報告書につき「その調査方法も極めてずさんかつ客観性に欠けるものである」と記載したのは誤りである趣旨の訂正記事の掲載、及び③右郵便到達後七日以内に原告に対し、TM誌に本件調査報告書は「その調査方法も極めてずさんかつ客観性に欠けるものである」と記載したのは誤りである趣旨の謝罪を表明する文書の交付の三点を求める催告を行った。

ところが、右郵便到達後の三月二七日以降も、TM誌の同年三月上旬号から四月下旬号にかけて、それぞれの本文の頁全面を用いて、今度は海外の顧客を対象に前記2の記事と同一内容の英訳記事が掲載された。

三  争点

1  本件記事の真実性

(被告らの主張)

(一) 本件調査報告書には、以下のとおり、随所に調査結果の信憑性を疑わせる杜撰な記載がある。

(1) 本件調査報告書には、「調査表郵送日」「回答有効期限」の両欄に平成四年と記載されているだけで、月日の記載が欠落している。調査報告書は、調査の結果を示す唯一の資料であり、調査時点の明記は調査自体の信頼性にとって必須の要件である。

(2) 以下のとおり、調査の対象を表す重要な用語の意義が不明であったり、その使用方法が曖昧であるため、調査全体が極めて曖昧なものになっている。

ア 調査対象者は、一般旅行業の旅行会社に勤務し、海外旅行を主な業務とする、ヤング又は中間管理職の立場にある旅行業界人を条件に、原告が所有するリスト及び業界紳士録からアタックサンプルを抽出したとするが、「一般旅行業」の意味の確定がされておらず、曖昧なままである。

イ 右の「ヤング層」の年齢範囲の確定がされておらず、曖昧なままである。仮にジャーナル社との間で取り決めがあったとしたら、調査報告書に記載するのが調査の基本である。

ウ 右の「業界紳士録」が何を指しているか不明である。原告は、「旅行業便覧」の記載等をまとめたと主張するが、右便覧なるものが不明であり、「等をまとめた」結果何を指すか、いかなる範囲の人物を指すのか不明である。調査対象たる母集団の確定をおろそかにしている本件調査が極めて杜撰であることは明らかである。

エ 「管理職でないサンプル」との用語の使用方法は稚拙で一般的でない。「非管理職」という表現が適切である。

オ 中間管理職の分類の中に「社長」の記載を欠いている。

カ 「主たる職域を営業(……)とするサンプル」、「職域が営業(……)に関わりがあるとするサンプル」との記載があるが、「職域」という用語は曖昧であり、「職種」とすべきである。これも「管理職でないサンプル」と同様、母集団の確定のため曖昧な表現は調査自体の信頼性を損なうものである。

(3) 以下のとおり、表示されている調査結果を導き出すための重要かつ基本的な数値の間違いがある。調査結果を数値をもって示しているこの種調査における数値の正確性は調査の生命線ともいえるほど重要なものである。

ア 回収率16.6パーセントの数値が、アタックサンプル数二四四八名、有効サンプル数四一六名から算出される数値16.99パーセントと食い違う。

イ 「管理職でないサンプル」の割合16.7パーセントの数値が、「役職」欄の「役職なし」から「主務」の項までの各項の数値を合算した数値14.6パーセントと大きく食い違う。原告は、明らかに若年で未経験と判断される者は意図的に除外したためではないかと考えると主張するが、もしそうであれば、報告書に明記すべきである。

ウ サンプルの会社所在地について、「首都圏」の割合が40.9パーセントと記載されているが、埼玉県と神奈川県の数値の記載がなく、記載されている東京都と千葉県の数値を加えると40.8パーセントとなり、食い違う。

エ 同じく会社所在地の「関西」について、片方は兵庫県の記載があるが、もう一方にはなく、兵庫県の数値をどう処理したか不明である。

(4) さらに、次のとおりの初歩的ミスがある。

ア 「支社町」は「支社長」の間違いである。

イ 主要業界紙・誌を挙げた欄三箇所において「トラベルマネジメント」とすべきを「トラベルマネージメント」としている。

(二) 以上のように、本件調査報告書は、調査報告書として基本的な信頼を失わせるような重大な欠陥があり、調査結果の信憑性に疑いがあるばかりか、調査の実施の有無にさえ疑いがある。仮に本件調査報告書の資料になった何らかの調査が実施されていたとしても、その調査自体も「極めて杜撰であった」と評することができる。

(三) ところで、被告マネジメントがTM誌に本件記事を掲載するに至ったのは、ジャーナル社がその発行にかかるジャーナル誌に掲載した「読者の選んだナンバーワン」と題する同社の広告において、あたかも旅行業界においてジャーナル誌がTM誌の約四倍の閲読率を有するかのごとき虚偽の比較記事広告を一九九四年五月三〇日号から一九九五年一月一六日号までの間合計二八回もの多数回にわたり繰り返し掲載したことに端を発したものである。すなわち、右記事広告の内容は旅行業界人全体を対象にその閲読率を調査した結果に基づきジャーナル誌の閲読率を82.5パーセント、その他の業界誌の閲読率を最も高いものでも21.9パーセントとするものであるが、右21.9パーセントを示している業界誌がTM誌を指していることは明らかであり、右比較記事広告がTM誌の営業妨害を意図して行われたことは明らかであった。右に表示された両誌の閲読率の数値は、旅行業界の従来の認識に反しているばかりか、社団法人日本ABC協会が実施した一九九二年一年間の一回の平均発行部数についての調査結果(ジャーナル誌一万〇七七〇部、TM誌八九一五部。以下「協会調査結果」という。)と著しく乖離し、客観的事実に反する虚偽の数値と思料された。そこで、被告コンサルタンツがジャーナル社に厳重に抗議したところ、同社代表取締役森谷哲也(以下「森谷」という。)は、誤った記事の掲載について謝罪の意思を表明するとともに、右記事広告は原告の調査に基づいて作成した旨の回答をし、原告作成の本件調査報告書の写しを交付した。そこで、被告らにおいて右写しの記載内容を検討したところ、「定期的に閲読すると答えたサンプルは」と題する欄が設けられ、そこにジャーナル誌82.5パーセント、TM誌21.9パーセントの記載があり、ジャーナル社が行った比較記事広告の虚偽の数値は右記載の数値をそのまま採用したものであることが判明した。そこで、さらに、被告らが本件調査報告書(写し)の記載内容を検討した結果、目に止まった個所だけでも(一)に述べたとおり種々の杜撰な調査を表す記載を発見したため、本件記事の掲載を行ったものである。なお、原告は、協会調査結果が有償、無償の区別をしていないので、数字を比較できないというが、閲読率は各誌の知名度、普及度を示すものであるから、有償、無償を問わず、どのくらい広く、頻度高く読まれているかを比較すべきである。原告の実施した本件調査も無償誌を含めて有償、無償の区別なく閲読率を比較していると考えられるのである。

以上のとおり、本件調査報告書には適正な調査を疑わせるような調査方法の杜撰な点が多数あり、被告マネジメントが掲載した本件記事は真実を述べたものであり、原告を誹謗中傷したものではない。

(原告の主張)

(一) 原告は、平成四年、ジャーナル社から委託を受け旅行業界の閲読に関する調査を行ったものである(以下「本件調査」という。)が、その内容はジャーナル誌との合意により取り決めたものである。そもそも、アンケート調査の対象、方法等は、調査の目的によって規定されるものであるところ、本件調査の目的は、「海外旅行業務に従事する若年スタッフ、中間管理職の読者」が「どのような情報を必要とし、如何に取得しているか」等について調査し、今後のジャーナル誌の「編集、取材の指針の一助とすることを目的」としたものであって、その結果を広告に使用することを目的としたものではない。そして、本件調査により、回答者の82.5パーセントがジャーナル誌を閲読しており、次順位の旅行誌の閲読率が24.5パーセントである等の結果を得たことから、「トラベルジャーナル誌は他誌を大きくリードして高い認知と普及率を示している」と評価したもので、その評価は正当である。

(二) 被告らの指摘は、単に報告書の記載について一部不明確な点あるいは誤記があることを言っているに過ぎず、調査報告書の記載の正確性の問題を実施された調査自体の信憑性の問題にすり替えて論じているものである。また、本件調査報告書は、調査の依頼者であるジャーナル社に対して調査結果を報告するための資料として交付されたもので、元来外部に対して公表されることを全く想定していないものであり、調査事項や用語の記載についても同社と原告との合意あるいは了解に基づいて行ったものであり、第三者である被告らが読んで不明確な点、曖昧な点があるのは当たり前である。

以下個別に反論する。

(1) 報告書写しに月日の記載がないのは、ジャーナル社から依頼があったため、これに応じて報告書を作成、交付したからに過ぎない。

(2)ア 「一般旅行業」は、旅行業法に明確な定めがあり、あえて規定する必要は全くない。

イ 「ヤング層」については、ジャーナル社との間で、一九歳から三〇歳までと取り決めていた。

ウ 「業界紳士録」は、旅行業便覧の記載等をまとめて表現したものである。

エ 「管理職でないサンプル」が仮に表現として稚拙であっても、調査自体の信頼性とは関係ない。

オ 「中間管理職」の分類の中に「社長」の記載が欠けているのは、そもそも社長は中間管理職ではないし、回答者の中に社長はいなかったからである。

カ 「職域」と言うか「職種」と表現するかは、単に用語の問題に過ぎない。

(3)ア 回収率の差は、後に有効サンプル数のカウントに変動があったことが原因ではないかと考えられるが、誤差としては僅かであり、調査の信頼性に影響が出るものではない。

イ 管理職でないサンプルの割合の数値16.7パーセントは、役職に就いていると回答したものすべてをカウントしたものであり、各役職欄に記載された数字の合計がこれと食い違っているのは、明らかに若年で未経験と判断できる者は意図的に除外したためではないかと考えられる。

ウ 会社所在地については、首都圏と関西圏では、大都市のある都府県に集中する傾向が著しいため、各圏域ごとの特性を反映させるためにはそれぞれ最多の都府県と最少の都府県を取り出してその数値の合算で代替した方が適切であると考え、首都圏では東京都と千葉県の数値の合計で代替し、関西圏では大阪府と京都府の数値の合計で代替した結果、一見被告らの指摘するような食い違いが生じたものであり、何ら調査の信頼性を損なうものではない。

(4) 被告ら主張の誤記は調査自体にとっておよそ本質的なものではない。

(三) 被告ら主張の協会調査結果では、ジャーナル誌については厳密に有償発行部数だけをカウントしているのに対し、TM誌について発表した部数については有償発行部数に限定された数値ではないのであるから、ジャーナル誌と比較するのは、本来異なるカテゴリーの数字を無理矢理比較の対象とするもので、およそ適切さを欠いている。被告らがTM誌に本件記事を掲載するのを踏み切った根底にはこのような誤った事実認識があったのであり、このような誤った認識を前提に分析、検討したため、本件記事となったのである。要するに、被告らは、誤った事実認識をもとにジャーナル誌の比較記事広告を攻撃し、その過程で右比較広告記事に正当性はないとするため、さしたる合理的根拠もないのに本件調査報告を杜撰で客観性がないと決めつけたもので、違法であることは明らかである。

2  損害

(原告の主張)

原告は、旅行関連事業の調査・戦略企画を主な営業とするものであるが、TM誌は、いわゆる業界誌の一つとして、旅行業に携わる経営者や管理職層を読者に持ち、原告の顧客の多くも定期講読しているので、同誌に本件記事が掲載・頒布されたことにより、原告はその名誉・信用を著しく傷つけられたものであり、その精神的・経済的損害は三〇〇〇万円を下らない。

3  謝罪広告の相当性

(被告ら)

本件記事のうち原告に関する部分はいわば書き手の包括的な評価を表した極めて抽象的なものであり、虚偽の事実の摘示といえないし、仮に虚偽の事実の摘示といえるにしても、読者に対する影響力は極めて微細な程度にとどまること、本件抗議記事は、ジャーナル社の行った虚偽広告に抗議するもので、原告の本件調査報告書に関する記載部分は相対的に記事としての重みが低いこと、原告が求める別紙二の謝罪広告文案のうち、本件調査が多くの時間と労力をかけた、客観的かつ精確に行われた調査であり、本件記事は被告らの誤解に基づくものとの部分は事実に反するものであり、本件において謝罪広告を命じるのは相当でない。

4  被告コンサルタンツの責任

(原告)

TM誌は、被告コンサルタンツが発行するものである。

仮に被告コンサルタンツがTM誌を発行していないとしても、被告コンサルタンツと被告マネジメントは事実上同一会社であるから、被告コンサルタンツも責任を免れない。また、被告コンサルタンツは、本件記事が原告に対する誹謗中傷であることを知りながら本件のTM誌を販売したものであるから、民法七〇九条により損害賠償責任を負うものである。

(被告ら)

TM誌は、被告コンサルタンツとは法律上も事実上もそれぞれ独立した法人である被告マネジメントが発行するものであり、被告コンサルタンツは、TM誌を販売しているに過ぎず、記事の内容の真偽を確かめる立場にない。

第三  当裁判所の判断

一  本件記事掲載に至る経緯について

1  甲第一号証の一、二、第三号証、乙第二、第三号証及び被告コンサルタンツ・被告マネジメント代表者兼被告本人田中の尋問の結果(以下単に「被告田中の尋問の結果」という。)によれば、ジャーナル社は、ジャーナル誌の一九九四年五月三〇日号から一九九五年一月一六日号まで合計二八回にわたり、同誌の閲読率は82.5パーセントであり、その他の業界誌は最も高いものでも21.9パーセントであるとの比較広告を掲載したこと、右「その他の業界誌で最も閲読率が高いもの」とはTM誌であることが業界においては明らかであること、TM誌の発行人である被告田中は、右数字が社団法人日本ABC協会が実施した一九九二年一年間の一回の平均発行部数についてのジャーナル誌一万〇七七〇部、TM誌八九一五部との協会調査結果と大きく食い違うことから、ジャーナル社に厳重に抗議したところ、同社代表取締役森谷は、右記事広告は原告の調査に基づいて作成したものであると回答し、原告作成の本件調査報告書の写し(乙第二号証)を交付したこと、被告らにおいて、右写しの記載内容を検討したところ、「定期的に閲読すると答えたサンプルは」と題する欄が設けられ、そこにジャーナル誌82.5パーセント、TM誌21.9パーセントの記載があり、ジャーナル社が行った比較記事広告の数値と一致し、右広告は、右調査結果の数値をそのまま採用したものであると考えられたこと、そこで、被告は、TM誌一九九五年二月上旬号と同月下旬号の各本文第二頁全面を用いて、日本語文で、いずれも「トラベルジャーナルの虚偽広告に抗議」と題して本件記事を含む別紙三のとおりの本件抗議記事を掲載したことがそれぞれ認められる。

2  甲第三、第九号証、原告代表者尋問の結果によれば、原告は、昭和六二年から三年おきにジャーナル社からジャーナル誌の改善のため、読者のニーズを汲み上げること等を目的とする調査を依頼されており、本件調査もその三回目の調査として、平成四年に、ジャーナル社から委託を受け、旅行業務に従事する中間管理職等を対象として旅行業界誌の閲読に関する調査として行ったものであること、したがって、その内容はジャーナル誌との合意により取り決めたものであり、目的は、「海外旅行業務に従事する若年スタッフ、中間管理職の二階層」が「業務遂行の上で、どのような情報を必要とし、如何に取得しているか、業界紙・誌にどのような情報を期待しているか、既存の業界紙・誌にどのような評価を下しているか」について調査し、今後のジャーナル誌の編集、取材の指針の一助とすることを目的としたものであること、なお、原告は、右のようにジャーナル社から定期的に調査を依頼されているものではあるが、同社から戦略企画の依頼はされておらず、同社との取引が原告の売上に占める割合も総売上の五パーセントを超えない程度であることがそれぞれ認められる。

二  争点1について

1  甲第三号証によれば、本件調査報告書は、「『旅行業界誌(紙)の読者指向』 今あなたが必要とする旅行業情報 調査報告書 一九九二年八月」と題し、「第一部 調査実施の概要」「第二部 調査表と単純集計結果」「調査結果の分析」に分かれている全部で約一二六頁の報告書であり、「第一部調査実施の概要」冒頭には前記の調査目的が記載され、ついで、調査対象者及び抽出方法、アタックサンプル数、調査事項等々が説明されていることが認められる。

2  被告らは、本件調査が杜撰であるとして種々主張しているので、以下その主張するところに従って順次検討してみることとする。

(一)(1) 「調査表郵送日」「回答有効期限」の両欄に平成四年と記載されているだけで、月日の記載が欠落しているとの点については、甲第三、第九号証、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告の調査報告書には、もともと月日の記載があったが、ジャーナル社の要求で月日の記載のない報告書写しを提出し、その写しが被告田中に渡されたことが認められ、本件調査自体に問題があったわけではないことが認められる。

(2)ア 「一般旅行業」の意味については、当時の旅行業法(平成七年法律第八四号による改正前のもの)四条三項に明確に規定されていたものであり、曖昧ではない。

イ 甲第九号証、原告代表者本人尋問の結果によれば、「ヤング層」の年齢範囲については、ジャーナル社との間で一九歳から三〇歳までと具体的に取り決められていたことが認められ、本件調査自体に問題があったとは認められない。

ウ 甲第九号証、原告代表者本人尋問の結果によれば、「業界紳士録」とは、「(海外)旅行業便覧」の記載等をまとめたものであることが認められるが、「等」の内容が明らかでなく、必ずしも一義的に明確とは言い難い。

エ 「管理職でないサンプル」との用語はむしろ、「非管理職」とした方が表現として適切であろうが、本件調査自体に問題があったとは言い難い。

オ 中間管理職の分類の中に「社長」の記載を欠いているとの点については、むしろ「社長」は中間管理職には当たらないものと考えられる。

カ 「職域」という用語は、あるいは被告らが主張するように「職種」とした方が適切であるとしても、これをもって本件調査自体に問題があったとは言い難い。

(3)アイ 甲第三号証によれば、回収率16.6パーセントの数値が、アタックサンプル数二四四八名、有効サンプル数四一六名から算出される数値16.99パーセントと食い違い、また、「管理職でないサンプル」の割合16.7パーセントの数値が、「役職」欄の「役職なし」から「主務」の項までの各項の数値を合算した数値14.6パーセントと食い違うことが認められる。原告は、後者について、明らかに若年で未経験と判断される者は意図的に除外したためではないかと考えると主張するが、もしそうであれば、そのように報告書に明記すべきであると考えられる。

ウエ 甲第三号証によれば、サンプルの会社所在地の「首都圏」の割合が40.9パーセントと記載されているが、埼玉県と神奈川県については個別の記載がなく、東京都と千葉県の数値を加えると40.8パーセントとなること、及び会社所在地の「関西」について、兵庫県の記載があるが、同県については個別の記載はないことがそれぞれ認められるが、弁論の全趣旨によれば、本件調査においては、会社所在地について、首都圏と関西圏では、各圏域ごとの特性を反映させるためにそれぞれ最多の都府県と最少の都府県を取り出しその数値の合算で代替した方が適切であると考えて、首都圏では東京都と千葉県の数値の合計で代替し、関西圏では大阪府と京都府の数値の合算で代替した結果一見前記のように食い違いが生じたようになっているものであることが認められるので、本件調査自体に問題があったとはいまだ認め難い。

(4) 被告らの指摘する誤字は、本件調査自体に問題があったことを窺わせるものとはいえない。

(二) なお、原告は、本件調査は、主要業界誌の閲読頻度について、ジャーナル誌82.5パーセント、他紙で最も率が高いもの24.5パーセント、TM誌21.9パーセントの数字を得、これから、ジャーナル誌は他誌を大きくリードして、高い認知と普及度を示しているとするところが、協会調査結果の数字と大きく食い違い、本件調査が杜撰であることを示しているかのような主張もするが、前記認定事実及び甲第三号証によれば、協会調査結果は有償のものも無償のものも含めて全発行部数自体を比較したものであるのに対し、本件の調査対象は、一般旅行業の旅行会社に勤務し、海外旅行を主な業務とする、ヤング(一九歳から三〇歳まで)または中間管理職の立場にある旅行業界人を対象にして原告が適宜抽出したものであること、TM誌は、もともと旅行業に携わる経営者や管理者層を主な読者として持っていること(争いがない。)及び右回答は、「定期的に閲読する」業界誌を問われたものであることからすると、本件調査のような数字の出ることもあり得ることと考えられ、右数字自体から本件調査が杜撰で、客観性に欠けるものと断ずることはできない。

3 以上を総合すると、被告らの指摘する事実には首肯すべき点もなくはないが、本件調査自体が極めて杜撰で、客観性に欠けるものとは到底認めることはできないものというべきである。要するに、被告らは、ジャーナル社の比較広告記事を攻撃するに急なあまり、不用意に原告の本件調査自体までを極めて杜撰で、客観性に欠けると決めつけてしまったものといわざるを得ない(甲第六号証によれば、被告代理人自身、基礎事実3記載の催告に対し、本件記事の「その調査結果も極めて」とある箇所を「その調査結果の引用の仕方が極めて」と訂正の上掲載することとしたと原告に対し通知していることが認められる。)。

三  争点2について

1  甲第九号証及び原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は、前記のとおり、旅行関連事業の調査・戦略企画を主な営業とする会社であるところ、いわゆる業界誌の一つとして、旅行業に携わる経営者や管理職層を読者に持ち、原告の顧客の多くも定期講読しているTM誌に本件記事が掲載・頒布されたことにより、その名誉・信用を著しく傷つけられ、現在も回復していないことが認められる。

2  もっとも、甲第一号証の一、二からすると、本件抗議記事は、見出しとして「トラベルジャーナルの虚偽広告に抗議」と大書し、その内容も、一貫してトラベルジャーナルに対する批判、抗議を記載したものであり、本件調査報告書について触れている部分も、第三段落において報告書のデータは引用するのに古すぎる上、調査の実施時期を明示していないとする避難、第四段落においても、本件記事のほかは、右広告記事に本件調査の母集団を明示せず、あたかも旅行業界全体を広く対象にした調査であったかのように広告していることに対する非難、第五段落において本件調査後廃刊になった業界誌があるのに本件調査結果を引用することに対する非難、第六段落においてジャーナル社が英文メディアデータにも同じ古いデータを流用していることに対する非難、第七段落において右英文メディアデータに実名を挙げていること及び訳語に対する非難が書かれていることが認められ、結局本件抗議記事自体はジャーナル社に対する非難、抗議であり、本件調査自体についてはただ本件記事の部分のみが批判の対象としていることが認められ、その表現も具体的な事実、根拠を摘示しない抽象的なものであるといえ、前後の文脈からしても原告にそれほどの損害をもたらしていないように見えないでもない。

しかしながら、本件記事は、本件調査は「極めてずさんで客観性に欠ける」と極言している上、甲第二号証の一、二、四、第九、第一〇号証、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告代表者は、平成七年三月九日被告田中と会って調査の詳細を説明したところ、同被告は、原告がそれなりの調査をしていることは理解したので、今後の記事から原告の批判は除外すると約束したこと、ところが、その後も、TM誌は、同年三月上旬号、下旬号、四月下旬号のそれぞれの本文第二頁、第一八頁及び第二八頁の各全面を用いて、今度は海外の顧客を対象に前記日本文の記事と同一内容の英訳記事を掲載し(ただし、甲第二号証の三によれば、四月上旬号六九頁では、一旦は、「the method of quoting the study results was careless and lacked objectivity」としたことが認められる。)、海外の大使館や観光局等を顧客とする原告は大きな打撃を被ったことが認められる。もっとも、原告は、本件記事が掲載されたため、平成七年度は前年度に比べて売上が三〇〇〇万円減少したと主張し、代表者尋問においてもその旨供述するが、被告らの要求にもかかわらず客観的な資料の提出を拒んでいること等からして、そのままには信用できない。

3 以上認定の事実、特に本件記事と本件抗議記事の関係、被告田中らは、原告代表者から本件記事の不適切なことを指摘され、改善を約したのにその後も同一(ただし英文で)の記事を数回にわたり掲載したこと、原告の被った現実損害等を総合すると、原告の本件記事によって被った有形的、無形的損害に対する賠償額は九〇万円と認めるのが相当である。

四  争点3について

以上の事実からすると、名誉回復の措置として、被告マネジメントに対し別紙一のとおりの謝罪広告を、TM誌に本文第二頁の半面(文章の長さ等から半面で足りると考えられる。)を用いて二回連続して、一回は日本文で、一回は英文で掲載することを命じるのが相当である。

五  争点4について

甲第一号証、乙第一、第三号証及び被告田中の尋問の結果によれば、被告マネジメントと被告コンサルタンツは本店所在地を同じくし、代表者等役員も相当数が共通であるが、業務内容、従業員、経理を別とする別法人であること、被告コンサルタンツは、TM誌の販売に携わってはいるが、その内容には関与していないことが認められるので、本件につき責任があると認めることはできない。

六  結論

以上によれば、原告の本訴請求のうち、被告マネジメントに対し主文一項のとおり謝罪広告を命じ、被告マネジメント及び被告田中に対し連帯して九〇万円及びこれに対する一連の不法行為の後であると認められる平成八年四月三〇日以降(一九九四年四月下旬号は遅くとも同年四月末日までには発行されたものと推認される。)支払い済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるので認容することとし、その余はいずれも理由がないので棄却することとして、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官滿田明彦)

別紙二、三<省略>

別紙一訂正とお詫び

本誌「TM」では、本年二月上旬号より数回にわたって、「トラベルジャーナルの虚偽広告に抗議」と題し、株式会社トラベルジャーナル発行の「トラベルジャーナル」誌に掲載された、「読者が選んだナンバーワン」と題する比較広告の内容に虚偽がある旨抗議してきました。

本誌は、その中で、株式会社トラベルジャーナルの比較広告の根拠となった、株式会社マイルポスト作成の「旅行業界誌(紙)の読者指向」調査について、その調査方法が極めて杜撰かつ客観性に欠けるものである旨言及しました。

しかしながら、株式会社マイルポストの調査自体に対する右非難は事実に基づかないものでした。

そのため、本誌では、数回にわたって本誌に掲載してきた抗議文のうち、「株式会社マイルポスト作成の、旅行業界誌(紙)の読者指向調査報告が、その調査が極めてずさんかつ客観性に欠けるものである。」という記載部分を削除、訂正するとともに、株式会社マイルポストの信用を傷つけ、営業上も多大な損害を与えたことに対し、ここに深くお詫び申し上げます。

Correction and Apology

Since February 1995,we at Travel Management had been regularly in-serting protest articles in our maga-zine“TM”accusing Travel Journal Inc.of printing a false advertisement entitled“No. 1 Choice with Readers”in their trade paper“The Travel Journal”.

Our protest articles specifically refer to a market research study conduct-ed by Mile Post Inc.entitled“Readers' Antennae for Travel Trade Publications”.In that article,we accused Mile Post of conducting research that was flawed,careless,and lacking in objectivity.

However,this accusation of the Mile Post's research itself was unfounded.We hereby withdraw all of our state-ments criticizing Mile Post's research methodology,as published several times in TM.Furthermore,we would like to apologize to Mile Post for any loss of business or dam-age of public image that this article may have coused.

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例