東京地方裁判所 平成7年(ワ)17965号 判決 1998年3月30日
原告 財団法人日本船舶振興会
右代表者代表理事 曽野綾子
右訴訟代理人弁護士 井波理朗
同 太田秀哉
同 柴崎伸一郎
同 太田惺
同 竹田穰
被告 加賀孝英
右訴訟代理人弁護士 佐藤博史
右訴訟復代理人弁護士 渡辺智子
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金三三〇〇万円及び内金三〇〇〇万円に対する平成七年九月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、週刊誌「フライデー」に掲載された原告の元会長である故笹川良一の葬儀費用に関する記事によって、原告の社会的評価が低下したとして、原告が右記事を執筆した被告に対し、無形損害(三〇〇〇万円)及び弁護士費用(三〇〇万円)の賠償を求めた事案である。
一 前提事実
以下の事実は、当事者間に争いがないか、又は、括弧書きで摘示した証拠及び弁論の全趣旨により認められている。
1 原告は、モーターボートその他の船舶の製造、海難防止、海事思想の普及、観光に関する事業等の振興に資することを目的として設立されたモーターボート競走法二二条の二に定める財団法人である。
被告は、執筆業を職業とする者である。
2 被告は、株式会社講談社が発行する週刊誌「フライデー」平成七年九月二二日号に、原告の元会長であった故笹川良一の本葬(以下「本件葬儀」という。)に関し、左記の記述を含む記事(以下「本件記事本文」という。)を執筆した(甲第一号証)。
記
さて九月一四日、笹川の本葬が東京港区・増上寺で執り行われる。ここに提示したのはその葬儀の極秘内部文書である。
<故笹川良一殿 ご本葬要項>
そんなタイトルで始まる計九枚の文書。内容はなかなか興味深い。『報道本堂内シャットアウト』らしいが、シャットアウトは本堂だけではない。問題はその費用の中身なのである。
関係者によると、その内訳は--。
*会場・祭壇約一億一千万円
*お布施二千万円
*VIP五〇〇万円
*新聞広告(五大紙、九月四日掲載)二千三〇〇万円
*雑費三五〇万円
*予備費七〇〇万円
計一億六千八五〇万円
なんと約一億七千万円の葬儀!
さらに「費用は振興会、モーターボート競走会連合会、笹川家の三者間で約五千万円ずつ分担」(同関係者)という。
額も額だが、驚くのはその詳細。VIPとは「カーター元大統領を呼ぶための費用」、そして予備費とは「宮家をよぶための費用」だというのだ。
(中略)
しかし、その振興会の金はもともとは国庫納付金で、国が公的に使用すべき公金。そんなふうに私的に使っていいのか。
五日朝、自宅前で陽平を直撃すると、
「これは税金ではなくて、お客さまから預かったお金。故人は報酬を受けておりませんでした。葬儀代ぐらいはいいでしょう、ということで理事会のみなさんに承諾いただきました」
そして、カーター元大統領招請費用は、
「いやいや、カーターさんだけでなく、世界各国からおみえになる。外国の方々への依頼は特別に出しておりません。カーターさんも自主的にお越しくださる」
と、とぼけるが、関係者によれば「笹川平和財団で今、呼んでいる最中」と、自主的ではないことをいっているのだ。
ところで、宮家への七〇〇万円は?
「献花だけは頂戴いたしますが、それはないですよ」
「故人の意向でできるだけ簡素なものにする」と、陽平はいうが、参加者「約一万人くらい」、費用約一億七千万円という規模が質素であるはずもない。
3 株式会社講談社は、週刊誌「フライデー」編集部において、本件記事本文に「極秘内部文書入手!『五〇〇万円でカーターを招く』笹川良一本葬の不可解」との見出し(以下「本件見出し」という。)を付して(本件記事本文と本件見出しをあわせて「本件記事」という。)、平成七年九月八日、これを掲載した同誌平成七年九月二二日号を発売し、不特定多数の者が本件記事を閲読した。
二 争点
1 本件記事が原告の社会的評価を低下させるか。
(原告の主張)
(一) 本件記事は、原告が、カーター元大統領及び宮家を本件葬儀に招請するため、それぞれ五〇〇万円及び七〇〇万円の謝礼金を支払うことを計画し、その計画を記した文書を外部に対して極秘に作成、所持し、原告の理事長である笹川陽平も、取材に対して虚偽を述べるなどして右計画を秘匿しながら、原告の関連団体である笹川平和財団を介してカーター元大統領との間で右招請の交渉を行っているとの印象を与える。結婚式、披露宴等の慶事と異なり、葬儀や告別式に際し、主催者が関係者に対して多額の謝礼金を支払って出席を依頼することは、社会習慣や倫理に反するので、原告がそのような破廉恥な行為を内密に計画しているとの印象を与える本件記事は、原告の社会的評価を低下させるというべきである。
(二) 本件記事は、被告の署名記事であって、被告は、「フライデー」編集部が付けた本件見出しについても承認しているから、被告は、本件見出しによって原告の名誉を毀損したことに対しても、不法行為責任を負う。
(被告の反論)
(一) 本件記事本文において、原告がカーター元大統領及び宮家に対してそれぞれ五〇〇万円及び七〇〇万円の謝礼金を支払うことや、そのような計画を記した文書が存在することが指摘されていることは、否認する。
本件記事本文は、「故笹川良一殿 ご本葬要項」と題する内部文書が存在すること、本件葬儀の予算において、「VIP」の項目に五〇〇万円が、予備費に七〇〇万円が計上されていること、前者はカーター元大統領が本件葬儀に参列するために要する費用に、後者は、宮家が本件葬儀に参列するために要する費用にあてられるものであることを記述したにすぎない。このような事実の摘示は、原告の社会的評価を低下させるものではない。
仮に、本件記事が読者に原告の主張するような印象を与えるものであったとしても、読者は、必ずしも、原告の行為が不当であると評価するとはいえないから、本件記事は、原告の社会的評価を低下させない。
(二) 被告は、本件見出しを付すことに何ら関与しなかったのであるから、被告がその掲載による不法行為責任を問われることはない。
2 本件記事による名誉毀損につき違法性が阻却され、又は故意・過失が否定されるか。
(被告の主張)
(一) 原告は、公益の増進を目的とする財団法人であって、原告が負担する本件葬儀の費用に関する本件記事は、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的は専ら公益を図ることにある。
(二)(1) 外国の要人が本件葬儀に参列するために必要な費用として五〇〇万円が予算に計上されていたこと、外国の要人の象徴的存在としてカーター元大統領が本件葬儀に参列する予定であったことは真実であるから、カーター元大統領を呼ぶための費用に関して本件記事本文が摘示した事実は、その重要な部分につき真実性の証明があったということができる。また、予備費として七〇〇万円が予算に計上されていたこと、原告は、本件葬儀に宮家からの参列があった場合を想定して、それにかかわる費用が発生した場合には予備費で対応することを予定していたことは真実であるから、宮家を呼ぶための費用に関して本件記事が摘示した事実についても、真実性の証明があったということができる。
(2) 被告は、平成七年八月二五日に行われた本件葬儀の準備を目的とする会議に出席した実行委員の一人から、原告を含む本件葬儀の主催者が、本件葬儀の予算において、「VIP」の項目に五〇〇万円を、予備費に七〇〇万円を計上しているが、前者は、カーター元大統領を呼ぶための費用であり、後者は、宮家を呼ぶための費用であるとの情報の提供を受けた上、本件葬儀に関する内部資料の提供を受けた。このように、右情報は、本件葬儀の詳細について知り得る人物から提供されたものであり、かつ、右人物によって過去にもたらされた数多くの情報が全て正しかったことから、被告は、右情報に信憑性があると判断した。さらに、被告は、右会議に出席した別の原告関係者一名及び他の原告関係者数人に対しても、右情報が事実であることを確認した上、陽平に対しても、「フライデー」編集部編集者において、インタビュー取材を行なったが、右情報の真実性に疑いを抱かせるような応答はなかった。
したがって、本件記事本文が摘示した事実の一部について真実と認められないとしても、被告において真実であると信ずるにつき、相当な理由があったというべきである。
(原告の反論)
(一) 本件記事が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあることについては争わない。
(二) カーター元大統領は、平成七年八月九日、原告に対し、本件葬儀に出席する意向を連絡しており、同月一八日には、カーターセンターとアメリカ合衆国大使館が、カーター元大統領の宿泊先、配車、SPの手配を済ませたことを原告に連絡していたのであるから、本件葬儀の主催者は、謝礼はもとより、カーター元大統領の日本滞在費を負担する予定はなかった。また、秩父宮妃が同月二五日に死亡し、本件葬儀が執り行われる九月一四日がその服喪期間中に当たるので、原告担当者は、宮家が本件葬儀に参列することはないと考えていた。右のような点で、被告が提供を受けたと主張する情報の内容は、真実に反する部分があり、不正確である。
しかも、被告に情報を提供した者は、実行委員ではなく、原告又は陽平に対して批判的な者であることがうかがわれる上、陽平は、インタビュー取材に対し、右情報の内容に反する真実の情報を提供したのであるから、被告は、右情報の内容が真実に反することを確認すべきであった。それらにもかかわらず、被告は、何ら追加取材をしなかったのであるから、本件記事の内容は、真実に反することはもちろん、被告が本件記事において摘示した事実を真実であると信ずるにつき、相当な理由があったとはいえない。
第三証拠
証拠の関係は、本件記録中の証拠関係目録のとおりである。
第四争点に対する判断
一 本件記事が原告の社会的評価を低下させるか。
1 本件記事は、本件葬儀の予算において、「VIP」の項目に五〇〇万円が、予備費に七〇〇万円がそれぞれ計上されていることを摘示した上、「VIP」とは『カーター元米大統領を呼ぶための費用』、そして予備費とは『宮家をよぶための費用』だというのだ。」との記述をするほか、右各予算項目に計上された金員について、「五〇〇万円でカーターを招く」、「カーター元大統領招請費用」、「宮家への七〇〇万円」などと記述するものであることは前記のとおりであるが、本件記事中に、右各金員が、それぞれカーター元大統領及び宮家に対する謝礼金であることをうかがわせる記述は存在しない。また、本件記事は、「極秘内部文書」との表現を用いてはいるが、その文書の記載内容についての具体的な記述はない。
右のように、本件記事は、右各金員をカーター元大統領及び宮家に対して本件葬儀への参列を要請するための諸費用として記述したものであって、原告が主張するような本件葬儀への参列に対する謝礼金として記述したものではない上、カーター元大統領及び宮家に対して右各金員を謝礼金として支払う計画を記した文書を外部に対して極秘に作成、所持しているとの事実を摘示したものでもない。
したがって、本件記事は、原告が主張するような事実を摘示するものではないというべきである。
2 しかしながら、本件記事は、本件葬儀の予算に関する前記のような記述のほか、笹川平和財団がカーター元大統領に対して本件葬儀に参列することを要請しているとの趣旨の関係者の談話を紹介している。これらによれば、本件記事は、原告を含む本件葬儀の主催者が、カーター元大統領に対し、本件葬儀への参列を要請し、その参列に係る諸費用として、「VIP」の予算項目に五〇〇万円を計上しているとの事実を摘示したものと認めるのが相当である。また、本件記事は、原告を含む本件葬儀の主催者が、宮家に対して参列を要請する行為をしているとの点については、具体的な事実を何ら記載していないものの、「宮家をよぶための費用」という前記記載に照らすと、原告を含む本件葬儀の主催者が、本件葬儀への宮家の参列を実現するために何らかの働き掛けをしており、そのための諸費用として、予備費に七〇〇万円を計上しているとの事実を摘示したものとみるのが相当である。
そして、原告を含む本件葬儀の主催者が、カーター元大統領や宮家に対し、本件葬儀への参列を要請し、又は、その参列を実現するために何らかの働き掛けをしているという事実自体は、原告の社会的評価を低下させるものとはいえないが、本件記事においては、カーター元大統領や宮家の本件葬儀への参列に係る諸費用の予算への計上に関する右の事実の摘示に加えて、公金をその活動の財源とする原告が、本件葬儀のような私的な行事について多額の費用を負担することを許すべきでないとの論調の供述がされていることによって、読者に対し、公金をその活動の財源とする原告が、私的な行事である本件葬儀に際し、他の本件葬儀の主催者と共に、カーター元大統領及び宮家の本件葬儀への参列を実現するために右のような多額の予算を計上するという不当な行為を行っているという印象を与えるものといえる。
したがって、本件記事により、原告の社会的評価が低下することを否定することはできないというべきである。
二 本件記事による名誉毀損につき違法性が阻却され、又は故意・過失が否定されるか。
そこで、本件記事による名誉毀損につき違法性が阻却され、又は、被告の故意・過失が否定されるかどうかについて判断を進める。
本件記事が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったことは、当事者間に争いがないから、本件記事に摘示された事実がその重要な部分について、真実であることの証明があるかどうか、仮に右事実が真実であることの証明がないとしても、被告において右事実を真実と信ずるにつき、相当な理由があったかどうかを判断する。
1 後記各証拠のほか、甲第四、第五、第二八、第三九号証、乙第八号証、証人尾形武壽の証言、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 原告の財源、支出等
原告は、都道府県及び自治大臣が指定する市町村から、モーターボート競走における勝舟投票券発売による売上金の一部の交付を受け、これにより、モーターボートその他の船舶の製造、海難防止、海事思想の普及、観光に関する事業等に対して、必要な資金の融通その他の補助を行い、又は、これを右事業等の振興を目的とする業務を行うために必要な経費に充てている(モーターボート競走法二条、一九条、二二条の五、七及び九)。
(二) 本件葬儀の準備に携わった関係者等
平成七年七月一八日、原告の元会長であった笹川良一が死亡し、原告は、翌一九日、原告の関係者に対し、良一が死亡したこと、通夜、密葬の日程・場所、本件葬儀の日程・場所等を知らせる書面をファックス送信した(甲第一二号証の二)。
良一が関連する各団体の親睦団体である水心会は、笹川家の了解を得て、良一の本葬を右関連各団体と笹川家の合同葬として執り行うこととし、水心会幹事会は、本件葬儀の準備を目的として、葬儀の大綱を協議、決定する実行委員会及び葬儀の具体的な企画立案を行う担当責任者会議を設けた。
実行委員会は、社団法人大阪府モーターボート競走会副会長蔭山幸夫を実行委員長とし、原告を含む五団体の各役員一名を実行副委員長とする六名(以下、右六名を「実行委員」という。)で構成された(甲第二二号証)。
担当責任者会議は、右六団体を含む八団体の総務部長クラスの職員九名(以下、右九名を「担当責任者」という。)で構成された(甲第二三号証)。
(三) 本件葬儀の準備の経過、その費用等
(1) 担当責任者は、平成七年八月初めころから、葬儀の形式、規模、手順、費用等本件葬儀の要項について、会場と祭壇の設営を依頼した株式会社牧野総本店を交えて検討し、右要項をまとめた文書を起案し、討議するなどした上、実行委員会に上程するという手順で準備を進めていった。
右準備の過程で、八月上旬に、「故笹川良一殿 御本葬要項」と題し、二〇項目にわたる本件葬儀の大綱を記載した書面、「故笹川良一殿 お別れ式進行スケジュール表」と題し、本件葬儀の次第、時刻、参列者の入場予定、摘要等が表に記載された書面、「故笹川良一殿 各係分担表」と題し、各係の担当内容、担当人数等が表に記載された書面二枚(以下、右の四枚の書面を「本件要項草案」という。)、「実行委員」と題する名簿、「担当責任者」と題する名簿(以下「担当責任者名簿」という。)が作成され(甲第二二、第二三、第三七号証)、右書面は、八月一一日に開かれた担当責任者会議において、本件葬儀の準備に携わる関係者に配布された。
(2) 水心会幹事連絡部会、実行委員会及び担当責任者会議の全体の会議(以下「本件会議」という。)が、八月二五日午前一〇時三〇分から正午ころまで、担当責任者会議が同日午後から、いずれも笹川記念会館六階連合会会議室において行われた。
本件会議には、実行委員及び担当責任者が出席したほか、担当責任者を補佐する各団体の課長クラスの者、牧野総本店社員等一〇数名が同席するなど合計約三〇名が出席し、本件会議の出席者に対して、「故笹川良一殿 合同葬実施運営要項」と題する冊子(以下「運営要項」という。)が配布された。
運営要項は、<1>「故笹川良一殿 御本葬要項」と題し、二一項目にわたる本件葬儀の大綱を記載した書面、<2>「故笹川良一殿 お別れ式進行スケジュール表」と題し、本件葬儀の次第、時刻、参列者の入場予定、摘要等が表に記載された書面、<3>「故笹川良一殿 各係分担表」と題し、各係の担当団体、責任者等が表に記載された書面四枚等で構成されていた(甲第二九号証の一から一四)。運営要項のうち、「故笹川良一殿 御本葬要項」、「故笹川良一殿 お別れ式進行スケジュール表」及び「故笹川良一殿 各係分担表」と題する各書面は、本葬要項草案の各同一表題の書面とそれぞれ書式は類似するが、その記載内容が修正され、新たに「(特別参列者・宮家・カーター元大統領他)」、「拝礼後控え室で挨拶をお聞き頂く(カーター元P・宮家)」及び「特別対応カーター元大統領・★三名・原告 宮家担当・★三名・原告」がそれぞれ記載されるなど、本件葬儀にカーター元大統領及び宮家の出席が予定されていることをうかがわせる記述が加わった(甲第二九号証の一から一四、第三七号証)。
本件会議では、運営要項等の書面に基づき、本件葬儀の形式、手順、日程等について、全般的・概括的な説明があったが、その中で、カーター元大統領が本件葬儀に参列する予定であること、宮家が参列した場合を想定して対応を決めておく必要があることが説明された。そして、本件葬儀に係る費用に関しては、次のような予算案が示された。
会場と祭壇一億〇九〇〇万円
お布施二〇〇〇万円
VIP五〇〇万円
新聞広告二三〇〇万円
雑費三五〇万円
予備費七〇〇万円
合計一億六七五〇万円
右「VIP」の予算項目に計上された五〇〇万円は、本件葬儀に参列する外国の要人について、本件葬儀の主催者が日本滞在中の滞在費(交通費、宿泊費、食事及び雑費)を負担するという方針の下に計上されたものであり、宮家が参列し、それに関連して経費を支出する場合は、予備費を使用して対応することが予定されていた。
経費の負担者については、原告、社団法人全国モーターボート競走会連合会、笹川家等の五者で各三〇〇〇万円ずつの計一億五〇〇〇万円、社団法人日本モーターボート選手会ほか計七団体で各二五〇万円ずつの計一七五〇万円を負担することになる旨が説明され、了承がされた。
(3) 実行委員、担当責任者、本件葬儀各係責任者等は、八月三一日午後一時三〇分から、増上寺で、現場打ち合わせを行なった。
また、同日、本件葬儀の費用予算及びその負担者について、八月二五日に説明された内容が一部変更された。
(4) 原告は、九月一日、理事会において、本件葬儀にモーターボート関連団体、笹川家等とともに主催者として参加すること及び左記の本件葬儀予算総額一億六一〇〇万円(概算額)のうち約二分の一に相当する八〇〇〇万円を限度として本件葬儀の費用を負担することに決定した(甲第六号証の一から四)。
記
葬儀費用総額一億六一〇〇万円
(内訳)
祭壇関係七七〇〇万円
天幕等設営関係三二〇〇万円
御布施二〇〇〇万円
外国要人関係五〇〇万円
雑費五〇〇万円
新聞広告関係一九〇〇万円
予備費三〇〇万円
(5) 本件葬儀は、予定どおり、九月一四日、増上寺で挙行された。
(四) カーター元大統領と本件葬儀とのかかわり
(1) 良一が死亡した平成七年七月一八日、笹川平和財団職員の皆川がアメリカ合衆国アトランタに出張し、カーターセンターにおいて会議に出席していたこともあって、良一の訃報は、日本にいた同じ笹川平和財団職員の宮本から電話で皆川に連絡され、皆川からカーターセンターに伝えられた。右のような経緯から、当初、カーターセンターとの間では、宮本がカーター元大統領の本件葬儀への参列の有無に関する電話連絡に当たっていた。
原告は、翌一九日、良一の外国の友人及び原告の外国関係者に宛てて、良一が死亡したこと、通夜、密葬、本件葬儀の日程・場所等を知らせる書面をファックス送信し、右書面をカーターセンターにも送信した(甲第一一号証の一及び二、第一二号証の一)。
(2) カーター元大統領特別補佐官ジェームス・M・フラッシャー三世は、八月九日、原告に対し、前記宮本宛に、右ジェームスがカーター元大統領と共に本件葬儀に参列する意向であること、両名が九月一三日東京到着予定の航空便で来日し、翌一四日に本件葬儀に参列した後、同日中に出発予定の航空便で離日する予定であること、葬儀参列の際の慣習儀礼、式典予定、主な参列予定者、原告からカーター元大統領に対する依頼事項に関する詳細について、カーター元大統領のアシスタント役を務めている日本人スタッフの吉岡との間で今後連絡を取り合って欲しいことなどを通知する書面をファックス送信した(甲第一六号証)。
原告は、これを受けて、以後、原告の国際部職員である楢林欣也に吉岡との連絡を担当させることにした。楢林は、吉岡と電話連絡を取った上、八月一七日、吉岡に対し、カーター元大統領に三分から五分程度の弔辞を述べることを依頼したいこと、その正式な依頼状を原告理事長である陽平からカーター元大統領に宛てて発送すること、本件葬儀におけるカーター元大統領の行動予定、拝礼の仕方、服装に関する連絡事項等を通知し、あわせて、カーター元大統領の旅程及び宿泊先の手配について楢林まで通知することを依頼する書面をファックス送信した(甲第一七号証)。
そして、吉岡は、翌一八日、楢林に対し、カーター元大統領の来日に際し、アメリカ合衆国大使館が配車、SPの手配をし、カーター元大統領の側が宿泊の手配をすること、カーター元大統領の本件葬儀における服装に関する連絡事項等を通知する書面をファックス送信した(甲第一八号証)。その直後に、吉岡が楢林に電話を入れた際、楢林が、カーター元大統領の宿泊先について尋ねたので、吉岡は、アメリカ合衆国大使館に宿泊する予定である旨を返答した。
(3) カーター元大統領は、九月一三日、来日し、アメリカ合衆国大使公邸に宿泊した上(甲第一九号証の一から三)、翌一四日、本件葬儀に参列し、弔辞を述べた後(甲第二〇号証の二)、同日中に離日した。カーター元大統領来日中の配車、SPの手配は、アメリカ合衆国大使館が行った。
本件葬儀には、外国人要人として、カーター元大統領が参列したほか、世界保健機関事務局長中嶋宏を含む合計二〇名が参列した。
本件葬儀に参列した外国要人については、カーター元大統領及び他の用件で日本滞在中であった一名を除き、その日本滞在費を本件葬儀の主催者が負担したが、カーター元大統領の来日及び宿泊費用は、カーターセンターが負担した(甲第一九号証の一から三)。
(五) 宮家と本件葬儀のかかわり
(1) 三笠宮家、常陸宮家、秩父宮家及び高松宮家は、平成七年七月二〇日及び二一日にそれぞれ執り行われた良一の通夜及び密葬に、それぞれ供花を届けた。そこで、担当責任者等は、当初は、宮家が本件葬儀に参列する可能性があると考えていた。しかし、八月二五日、秩父宮妃が死亡し、本件葬儀が執り行われる日がその服喪期間中に当たることとなったこともあり、結局、本件葬儀には、三笠宮家、常陸宮家、秩父宮家及び高松宮家から供花があったが、参列はなかった。
(2) なお、本件葬儀の主催者が、宮家に対して本件葬儀への参列を要請するための具体的な働き掛けをしたことや、本件葬儀に関し、宮家に対し、経費その他の名目の如何を問わず、金員を支払ったことについては、これを認めるに足りる証拠はない。
(六) 被告の取材経過
(1) 被告は、平成二年から、政官界を専門とするフリーのジャーナリストとして執筆活動を行ってきたが、特に、原告が設立以来笹川家によって私物化されてきたことをテーマとして、「笹川一族の崩壊」と題する記事(「文芸春秋」平成六年六月号、七月号の二回連載)を始めとする記事を数誌に執筆してきており、右執筆のための取材活動を通して、被告の取材に協力的な原告関係者数人と知り合いになっていた。
(2) 被告は、平成七年八月二八日、右のような知り合いの一人であって、本件会議に出席した本件葬儀の実行委員又は担当責任者(以下「情報提供者」という。)から、電話で連絡を受け、要旨以下のとおりの情報を得た(以下「本件情報」という。)。
<1> 水心会幹事連絡部会、実行委員会の会議が、同月二五日午前一〇時三〇分ころから、笹川記念会館六階連合会会議室で行われ、蔭山幸夫(大阪府モーターボート競走会会長代行)を委員長とする合計六名の委員及び原告を含む六団体の各総務部長クラスの者が出席した。
<2> 右会議において、次のような本件葬儀予算が示された。
会場と祭壇一億〇九〇〇万円
お布施二〇〇〇万円
VIP五〇〇万円
新聞広告二三〇〇万円
雑費三五〇万円
予備費七〇〇万円
合計約一億七〇〇〇万円
<3> 本件葬儀には、VIPとしてカーター元大統領を呼ぶことにし、そのホテル代等の費用の予算として五〇〇万円を計上しており、また、宮家も参列するようであり、宮家の参列にかかわる費用を予備費として七〇〇万円を計上している。
<4> 葬儀費用については、午前中の話し合いでは、原告、全国モーターボート競走会連合会、笹川家等の計五者が各三〇〇〇万円を負担し、残余を水心会が負担することになっていたが、午後になって訂正され、原告、全国モーターボート競走会連合会及び笹川家の計三者が各五〇〇〇万円を負担することに決まった。
なお、被告は、本件情報が提供された際、情報提供者に対し、カーター元大統領一人を招請するために五〇〇万円の予算が計上されているのかどうかを質問したところ、情報提供者からは、これを肯定する返答があった。
(3) 被告は、本件情報が真実であるかどうかを確かめるため、情報提供者に対し、本件葬儀に関連する資料の提供を依頼した。そこで、情報提供者は、被告に対し、八月一一日に本件葬儀の準備に携わる関係者に配布された本葬要項草案及び担当責任者名簿を含む合計九枚の文書(以下「本件文書」という。)をファックス送信した。さらに、被告は、本件情報が真実であることを確認するため、他の原告関係者数人に対しても、本件情報について問合わせを行い、確認を得た。
(4) 被告は、九月四日、前記(1)記載のような知り合いの一人であって、本件会議に出席した別の原告関係者から、本件会議では、「VIP」の予算項目に計上された五〇〇万円は、カーター元大統領を呼ぶためにかかる経費として話し合われ、宮家を呼ぶために費用がかかることについては、競走会自体にそういう慣例があるので、お金を用意するために話し合われたとの説明を受けた。
(5) また、被告は、「フライデー」編集部編集者兼記者である山室秀行から、同人が、同月五日、自宅から出てきた陽平に対して行ったインタビューの取材原稿を受け取ったが、右取材内容は、要旨以下のとおりであった。
<1> 山室が、陽平に対し、原告が本件葬儀の費用のうち五〇〇〇万円を負担する予定であると聞いたが、公金を財源とする原告の資金をこのように私的に使用することは問題ではないかと質問すると、陽平は、「いやいや、これはお客さまから預かったお金です。故人は報酬を受けておりませんでした。葬儀代ぐらいはいいでしょう、ということで理事会の皆さんに承認を頂きました。概算でそれぐらいということです。」と返答した。
<2> 山室が、陽平に対し、本件葬儀の主催者が、カーター元大統領を呼ぶために五〇〇万円を用意していると聞いたが、右事実はあるのかと質問すると、陽平は、「カーターさんだけでなく、世界各国からお見えになります。WHOの中嶋さんなどもいらっしゃいます。ま、私は葬儀委員ではないので……。外国の方々への出席の依頼は特別に出しておりません。カーターさんも自主的にお越し下さるとおっしゃってくれました。」と返答した。
<3> さらに、山室が、陽平に対し、本件葬儀の主催者が、宮家を呼ぶために七〇〇万円を用意していると聞いたが、右事実はあるのかと質問すると、陽平は、「献花だけは頂きますが、それはないですよ。故人の意向でできるだけ簡素な葬儀にするんですよ。」と返答した。
(6) 被告は、右取材を受けて、再度、情報提供者に対して、本件情報を確認したところ、情報提供者は、本件情報は間違いなく、陽平は、カーター元大統領が本件葬儀に出席することを望んでおり、笹川平和財団の職員に命じて、スケジュール調整を行っている旨を述べた。
(7) 被告は、以上のような取材をもとに、本件情報が真実であると信じて、本件記事本文を執筆した。
2(一) 原告が、都道府県、自治大臣の指定する市町村からモーターボート競走の勝舟投票券発売による売上金の一部の交付を受け、その目的に係る事業を行っていることは、前記認定のとおりであって、原告の活動は右のような公的資金によって支えられているということができる。そして、本件葬儀は、モーターボート関連団体等のほか、笹川家も主催者に加わった合同葬であって、良一の個人葬も兼ねていたことは、前記認定のとおりであって、本件葬儀が笹川家の私的行事の側面を有することは否定することができない。
(二) 原告又は笹川平和財団の職員等とカーターセンター、カーター元大統領のアシスタント役等との間の本件葬儀に関する連絡の経緯及び運営要項の記載内容は、前記認定のとおりであって、これによれば、原告が、カーターセンターに対し、本件葬儀の日程を通知し、笹川平和財団職員を介して、カーター元大統領の本件葬儀への参列の有無に関する連絡を取った上、カーター元大統領側の交渉担当者である同元大統領のアシスタント役に対し、カーター元大統領が弔辞を述べることを依頼し、その旅行日程及び宿泊先の手配について尋ねるなどしてカーター元大統領が本件葬儀に参列することに支障のないよう連絡、調整を重ねるとともに、本件葬儀に際しては、原告職員の三名の担当者において、カーター元大統領を「特別対応」と称する待遇で応接することを予定していたことが認められる。原告の右のような対応にかんがみれば、原告は、カーター元大統領に対し、本件葬儀への参列を要請していたとみることができる。そして、前記認定の本件会議における説明内容によれば、本件会議が行われた平成七年八月二五日の時点で、カーター元大統領が本件葬儀に参列する予定であったこと、本件葬儀の予算案では、「VIP」の項目に五〇〇万円が計上されていたこと、原告がモーターボート関連団体、笹川家等とともに本件葬儀の費用を負担する予定であったことが認められる。
右事実関係によれば、本件記事がカーター元大統領の本件葬儀への参列に関連して摘示した事実のうち、原告を含む本件葬儀の主催者が、カーター元大統領に対し、本件葬儀への参列を要請していること、及びカーター元大統領の本件葬儀への参列が予定されていることを前提として「VIP」の項目に五〇〇万円の予算が計上されたことについては、真実性の証明があったものといえる。
しかし、前記認定によれば、カーター元大統領以外にも複数の外国の要人が本件葬儀に参列したこと、本件葬儀の予算案の「VIP」の項目に計上された五〇〇万円は、これらのカーター元大統領以外の要人の滞在費等の支出にもあてることが予定されていたものと認められ、右五〇〇万円の予算が専らカーター元大統領の本件葬儀への参列に係る費用として計上されたものであるとまでは認め難く、その限りで、本件記事がカーター元大統領の本件葬儀への参列に関連して摘示した事実の一部について、真実性の証明に欠ける点があるものといわざるを得ない。
(三) また、前記認定の本件会議における配付資料及び説明の内容によれば、本件会議が行われた平成七年八月二五日の時点では、本件葬儀に宮家が参列する可能性があったこと、同日、示された本件葬儀の予算案には、予備費として七〇〇万円が計上されていたこと、宮家の参列に関連して経費を支出する場合は、予備費を使用して対応する予定であったこと、原告がモーターボート関連団体、笹川家等と共に本件葬儀費用を負担する予定であったことが認められる。しかし、原告を含む本件葬儀の主催者が、宮家に対して、本件葬儀への参列を要請するための具体的な働き掛けをしていた事実や宮家に対する金員の支払の事実を認めるに足りる証拠がないことは、前記のとおりである。
右事実関係によれば、本件記事が、宮家の本件葬儀への参列に関連して摘示した事実のうち、宮家が本件葬儀に参列した場合には、その参列に係る諸費用にあてることを想定して予備費に七〇〇万円を計上したことがあったという限度では真実性の証明があったものということができるが、その余の点では、真実性の証明に欠けるものというほかない。
3 そこで、本件記事が、カーター元大統領及び宮家の本件葬儀への参列に関連して摘示した事実のうち、真実性の証明が尽くされていない部分について、被告がこれを真実であると信ずるにつき、相当な理由があると認められるかどうかについて検討を進める。
(一) 被告は、本件葬儀の準備に携わる実行委員又は担当責任者であって、本件会議にも出席した情報提供者から、本件葬儀費用予算において、カーター元大統領のホテル代等の費用として五〇〇万円を計上しているとの内容を含む本件情報の提供を受けたこと、情報提供者は、被告の質問に対して、右五〇〇万円は、カーター元大統領一人を招請するための予算である旨の返答をしていたこと、情報提供者は、本件葬儀の準備に携わる関係者に配布された本件文書を所持し、これを被告に送付したこと、被告は、本件会議に出席した別の原告関係者からも、本件会議では、「VIP」の項目に計上された五〇〇万円は、カーター元大統領を呼ぶためにかかる経費として話し合われたとの情報の提供を受けたことは、前記認定のとおりである。そして、情報提供者が本件文書を所持していたことに加え、本件葬儀費用予算に関する情報について最も正確に知り得る立場にあった複数の関係者から、同じような趣旨の情報がもたらされたのであるから、被告がその情報に信憑性があると判断したことに相当な理由がある。また、元国家元首というカーター元大統領の社会的地位に照らせば、同人が葬儀に参列する場合の諸費用を、葬儀の主催者が負担し、その額が、五〇〇万円といった高額なものになることがあり得ると考えることも、あながち不相当であるとはいえない。
したがって、被告において、「VIP」の項目に計上された五〇〇万円の予算がカーター元大統領の参列に係るものであると信ずるにつき、相当な理由があったというべきである。
もっとも、被告は、原告の理事長であった陽平に対するインタビュー取材の原稿を読むことによって、陽平が、VIPとしてカーター元大統領以外の者も本件葬儀に参列する予定であることを話したことを知っていたものであるから、被告が、「VIP」の項目に計上された五〇〇万円にカーター元大統領以外の要人の参列に係る費用も含まれるのではないかとの疑念を抱き、更に取材をすべきであったとみる余地もないわけではない。しかし、右インタビューに際して、陽平は、五〇〇万円の予算がカーター元大統領の本件葬儀への参列に係るものであることを否定する発言をしていないことは前記認定のとおりであって、被告が複数の原告関係者から前記のような情報を得ていたことや、五〇〇万円の予算の中にカーター元大統領以外の外国の要人の本件葬儀への参列を想定して計上された部分があるということが本件記事の掲載による原告の社会的評価の低下とのかかわりにおいてさほどの重要性を持つとはいえないことを考慮すると、「VIP」の予算項目に計上された五〇〇万円のうちカーター元大統領の参列に係る部分のいかんにつき、被告が更に取材を重ねなかったことをもって、その取材が不十分であるとまではいえない。他に、前記判断を左右するに足りる証拠はない。
(二) また、被告は、前記のような情報提供者から、宮家の参列にかかわる費用を予備費として七〇〇万円の予算を計上しているとの内容を含む本件情報の提供を受けた上、本件会議に出席した原告関係者からも、本件会議において、宮家を呼ぶために費用がかかることの説明があったとの情報の提供を受けたことは、前記認定のとおりである。そして、宮家が本件葬儀に参列する場合に、その主催者が、宮家に参列してもらえるように関係諸官庁等と折衝を行い、その参列に支障のないように様々な調整や準備を行う必要のあることは明らかである。(ちなみに、証人尾形の証言によれば、本件葬儀に当たって、原告の職員は、予定どおりに宮家から供花を得ることができるかどうかについてさえ、宮家に確認をしていることが認められるのであって、宮家の本件葬儀への参列を実現するためには、原告側からの連絡や日程調整等の働き掛けが必要であることは明らかといえよう。)宮家の参列にかかわる予算の計上に関する右情報を得た被告が、原告を含む本件葬儀の主催者が、宮家の参列を実現するために何らかの働き掛けを行っていると考えることには相当の理由があるものということができる。そして、その場合に要する費用が、本件葬儀の主催者が予備費に計上した七〇〇万円といった高額なものになることがあり得ると考えることは、本件情報の信憑性をも考慮すると、不相当であるとはいえない。
したがって、被告において、原告を含む本件葬儀の主催者が、本件葬儀への宮家の参列を実現するために何らかの働き掛けをしており、そのための諸費用として予備費に七〇〇万円の予算が計上されていると信ずるにつき、相当な理由があったというべきである。
4 以上によれば、本件見出しを含め、本件記事において摘示された事実は、その多くの部分につき、真実性の証明があったものとして、違法性が阻却されるだけでなく、真実性の証明に欠ける部分についても、被告において、これを真実であると信ずるにつき相当な理由があったということができるから、その故意又は過失が否定されるものというべきである。
三 よって、原告の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 瀧澤泉 裁判官 綿引万里子 裁判官 片山智裕)