東京地方裁判所 平成7年(ワ)19139号 判決 1997年9月08日
原告
株式会社 デルマークラブ
右代表者代表取締役
鶴巻智徳
右訴訟代理人弁護士
田中耕輔
同
松本憲男
同
吉田正史
被告
財団法人日本軽種馬登録協会
右代表者理事
杉山克己
右訴訟代理人弁護士
谷正男
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、一八五〇万〇四一九円及びこれに対する平成七年一二月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
第二 事案の概要
一 本件は、原告が、競争馬の輸入代行業者に自己が外国で購入した競争馬の輸入・血統登録の手続を委任した際、右代行業者との間で紛争が起きたとして、右血統登録機関である被告に対し、右血統登録証明書を直接原告に交付するように求めたところ、被告がこれを承諾したにもかかわらず、右証明書を右代行業者に交付してしまったことが債務不履行にあたるとして、あるいは、被告は、原告が右競争馬の所有者であることを認識し、または、認識すべきであったから、無権代理人たる右代行業者に右証明書を交付してはならないのに、これを交付してしまったことが不法行為にあたるなどとして、原告がこれにより、右代行業者との紛争処理に手間取り、競争馬のデビューが遅れるなどして被った損害一八五〇万〇四一九円及びこれに対する不法行為の後(訴状送達の日の翌日)である平成七年一二月二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
二 前提事実等(証拠等の引用がないものは、当事者間に争いがない。)
1 当事者等
(一) 原告は、昭和五〇年八月七日に設立された、競争馬の所有、育成、競争参加及び牧場の経営等を業とする株式会社であり、日本中央競馬会に馬主登録をしているものである。被告は、昭和四六年七月一日に設立され、軽種馬の登録を行い、もって、軽種馬の改良増殖及び資源の涵養並びに競馬の公正な施行に資することを目的とし、家畜改良法三二条の二第一項に基づき、家畜(軽種馬)につき、その血統、能力又は体型を審査して一定の基準に適合するものを登録する事業(家畜登録事業)を行う公益財団法人である(甲五、乙二一ないし二四)。競争馬を中央競馬の競争に出走させるためには、日本中央競馬会に馬名登録をする必要があり(競馬法第一四条)、日本中央競馬会に馬名登録をするためには、被告の発行した血統登録証明書等の書類が必要となっている(日本中央競馬会競馬施行規定第一三条、第一四条)。
(二) 西澤鐵藏(以下「西澤部長」という。)は、平成元年一一月一日から平成八年六月末日までの間、被告において登録部長の職にあったものである(乙二五、証人西澤鐵藏)。
(三) 株式会社ホースマンインターナショナル(平成六年ないし平成八年当時の代表者代表取締役武田恒和。以下「ホースマン」という。)は、馬の輸入及び販売等を業とする会社である(甲一四、乙二〇)。
2 原告の本件馬購入とホースマンに対する輸入・登録代行の委託、被告に対する血統登録申込
(一) 原告は、平成六年九月、米国において、BBAアイルランド株式会社から、エーピーウッドマン号(一九九二年〔平成四年〕四月二七日生。以下「本件馬」という。)を代金等合計二八万一一五一ドル(当時の為替レート一ドル一〇七円一〇銭によれば、日本円で三〇一一万一二七二円)で買い受け、そのころ、ホースマンに対し、本件馬の輸入・登録の代行を委託し、ホースマンは、同年一二月五日、本件馬を日本に輸入し、所定の関税を納付した(甲六ないし八、乙一五の二、証人岡田瑞穂、同西澤鐵藏)。
(二) ホースマンは、被告に対し、平成六年一二月一四日、輸入馬である本件馬につき、所定の必要書類(ただし、本件馬の輸出国の輸出証明書を除く。)及び手数料を添えて血統登録申込(以下、「本件申込手続」という。)をなした。
3 ホースマンと原告とのトラブルの発生と原告の被告に対する本件馬の血統登録証明書の交付要求、被告のホースマンに対する右証明書の交付
(一) 原告は、平成六年秋ころ、ホースマンの輸入代行業務の報酬額が他の輸入代行業者に比べて著しく高額であることを知り、また、本件馬が輸送途上において前二脚を腫らすという事故が発生したにもかかわらず、ホースマンが原告に満足な報告もせずに誠意ある対応をしなかったことから、ホースマンに対する報酬残額の支払を一時停止していた(甲八)。
(二) 原告は、ホースマンが対抗措置として、本件馬の血統登録証明書等の必要書類(以下「本件証明書等」という。)を盾にとって原告に対し無理矢理報酬を支払わせようとするのではないかとの危惧を抱いた。そこで、平成七年三月ころ、原告代表者の鶴巻智徳(以下「鶴巻社長」という。)が、被告の西澤鐵藏登録部長に電話をし、本件証明書等の原告への交付を要求し、次いで同年四月三日、原告の岡田瑞穂営業部長が西澤部長方を訪問し、同様に本件証明書等の交付を要求した(甲八、乙二五、証人岡田瑞穂、証人西澤鐵藏)。
(三) しかし、西澤部長は、平成七年四月六日、名義上登録証明の申込者となっているホースマンに対し、平成七年四月六日、本件証明書等を交付した。
4 原告とホースマン間の紛争と仮処分命令申立事件における和解
平成七年四月二六日、原告は、東京地方裁判所に、ホースマンに対する本件証明書等の引渡を求める仮処分命令申立をなし(東京地方裁判所平成七年(ヨ)第二〇九一号)、同年六月二三日の審尋期日において、ホースマンが原告に謝罪すること、原告がホースマンに対し報酬残額を減額した金員等を支払うことなどを内容とする和解が成立し、ホースマンから本件証明書等の交付を受けた(甲四、八、一五、証人岡田瑞穂)。
三 争点
1 被告が原告に対して本件証明書等を交付するとの約定をしたか(債務不履行の主張)
2 被告がホースマンに対し本件証明書等を交付したことが、原告に対する不法行為となるか(不法行為の主張)
(一) 本件申込手続の当事者は誰か(被告が、原告を本件申込手続の当事者であると認識していたか否か)
(二) 被告は、ホースマンを無権代理人と知りながら、本件証明書等を交付したか否か
(三) 被告には、原告とホースマンの紛争を知ったあとに、事実確認等をする義務があったか
3 損害の有無及び損害額
四 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告の原告に対する本件証明書等交付約束の有無)
(一) 原告の主張
(1) 鶴巻社長及び岡田社長が、前記二3(二)のとおり、本件証明書等の原告への引渡を要求した際、鶴巻社長らは、原告が本件馬の所有者であり、代理人であるホースマンとの間で前記の紛争が生じ、ホースマンに対する委託契約を解除した旨を説明したところ、西澤部長は、本件証明書等を原告に対して交付する旨約束した。
(2) しかるに、被告は、前記二3(三)記載のとおり、本件証明書等をホースマンに交付したものであるから、債務不履行責任を負うべきである。
(二) 被告の主張
原告の主張は否認する。
2 争点2(一)(二)(本件申込手続の当事者は誰か、ホースマンに対する本件証明書等の交付が無権代理人に対する故意の交付となるか)
(一) 原告の主張
(1) 被告は、ホースマンが輸入競争馬の我が国への輸入代行業者であり、本件申込手続においても所有者の代理人として手続を代行しているにすぎないことを十分承知していた。したがって、原告は、本件申込手続において本人として申込をしているものである。
(2) 鶴巻社長及び岡田部長は、西澤部長に対し、原告が本件馬の所有者であり、原告がホースマンに対する申込代行契約を解約した旨説明し、西澤部長は、原告が本件馬の所有者であること及びホースマンが無権限であることを知っていた。
(3) しかるに、被告は、前記二3(三)記載のとおり、ホースマンに対して本件証明書等を交付してしまったのであって、これによって生じた後記4(一)記載の原告の損害について不法行為責任を負うというべきである。
(二) 被告の主張
(1) 被告は、前提事実等1記載のとおりの目的を有する公益法人であり、血統登録及び繁殖登録制度は、専ら血統及び繁殖の用に供しうる馬であることを証明するためのものであって、当事者間の私的利害関係に属する馬の所有権の帰属問題について認定すべき業務権限を有しない。また、被告は、馬の所有権の帰属に関して実質的審査権限を有するものではない。被告としては、血統登録申込者以外の者が馬の所有権を主張しても、その者が裁判上真実馬の所有者であることを証明するかあるいは血統登録申込者の同意を得るのでなければ、その者に血統登録証明書を交付することはできないが原告はこれを行っていない。
(2) したがって、被告が本件馬の血統登録申込者であるホースマンに対して本件証明書等の書類を交付したことは当然であって何ら原告に対する不法行為とはならない。
3 争点2(三)(本件証明書等交付の際の原告に対する連絡義務の有無)
(一) 原告の主張
(1) 被告は、我が国唯一の軽種馬の血統に関する審査認定団体であり、被告が発行する血統登録証明書等の書類が日本中央競馬会の馬名登録に必要とされるものであり、競争馬にとって極めて重要な書類であることを十分承知しており、その取扱いには最大限の注意を払うべきである。
(2) 原告は、被告に対し、本件馬の所有者が原告であり、ホースマンが原告の代理人として本件馬の血統登録申込手続を行っていること、原告とホースマンの間に紛争の生じていることを説明したのであるから、被告としては、右のような紛争の存在を慮って、原告やホースマンに対し、更に事実関係を確認し、委任状を取る等の手段を講ずることや、原告とホースマンがそろったときに本件証明書等を交付する等の適切な対応を取るべきであるにもかかわらず、漫然と前提事実等4記載のとおりホースマンに対し本件証明書等の書類を交付した注意義務違反がある。
(二) 被告の主張
原告の右主張は争う。
4 争点3(損害の有無及び数額)
(一) 原告の主張
原告が被告の債務不履行ないし不法行為によって被った損害は、以下の合計一八五〇万〇四一九円である。
(1) 本件馬の入廐・出走が約三か月遅れたことによる損害
① 三ヶ月分の飼育費用 九〇万円
② 無形損害 四〇〇万円
本件馬の競争馬としての年齢は、平成七年をもって「明け四歳馬」であり、放牧場で無為な期間を過ごしていた時期が、競争馬としては資質や気性等を一番充実させる重要な時期であり、馬の格や競争馬としての人気を高めるためにも極めて重要な時期であるのに、この期間を無為に過ごしたことによって、本件馬は、競争馬として、いわゆる致命的なケチが付いた馬となったのであり、馬主をはじめとする競馬関係者に極端に嫌われることになり、種馬としての価値も低くなってしまうことになるという無形の損害を被った。
この損害は、原告の投資額約四〇〇〇万円の一〇分の一に相当する約四〇〇万円と評価するのが相当である。
③ 得べかりし賞金及び出走手当金相当額 一〇〇〇万円
本件馬が、入廐・出走できなかった三か月間にレースに出走していれば、優良血統馬であることから、優秀な成績を上げ、多額の賞金を獲得していた可能性が極めて高い。本件馬が、仮に三か月間を無為に過ごすことなく、順調にレースに出走していたならば、本件馬の昇り盛りの時期であっただけに、最低でも一〇〇〇万円程度の賞金及び出走手当金を獲得できたはずであり、右相当額は原告にとっての損害となる。
(2) ホースマンとの和解による支払金相当額 二九〇万〇四一九円
原告は、ホースマンの報酬額請求に対しては支払う必要はないにもかかわらず、被告が本件証明書等をホースマンに交付してしまったため、やむなく、前記二4記載の仮処分命令申立事件において、損害の拡大を避けるため、右記金額を支払うという和解をせざるを得なかった。ホースマンへの右支払額は損害となる。
(3) 弁護士費用 七〇万円
(二) 被告の主張
否認ないし争う。
第三 争点に対する判断
一 争点1(被告の原告に対する本件証明書等交付約束の有無)について
1 甲八(証人岡田瑞穂作成の陳述書)及び証人岡田瑞穂の証言中には、原告主張に沿う部分が存在している。
2 これに対し、証人西澤鐵藏は、鶴巻社長及び岡田部長の要請に対し、「両当事者間でよく話し合って了解のもとに二人で登録証明書を取りに来ればいいだろう。」と話した旨証言している。
3 そして、以下の理由によれば、証人西澤鐵藏の証言はより自然であり、これと対比して前記1の各証拠は採用できず、他に西澤部長が原告に対し本件証明書等を交付する約束を行ったと認めるに足りる証拠はない。
(一) 本件申込手続は、ホースマンの名義でなされ、原告からの委任状など一切添付されていなかったのであるから、被告が受領している書類から原告が本件申込手続の申立人であると認めることはできない状況であったこと(乙一五の一、二、証人西澤鐵藏第一一回一ないし三頁)。
(二) 原告が、被告に対し、本件証明書等の交付を求めた段階で、ホースマンによる申込行為は依然として維持された状態のままであり、鶴巻社長らは、原告が本件馬の所有者であること及びホースマンが本件証明書等の受領権限を喪失していることを客観的に資料に基づいて証明しようとしなかったのであるから、公益団体において公証業務を担当する立場にある西澤部長が、本来の申込者を無視して、原告に対する本件証明書等の引渡を約束するとは考えがたいこと(甲八、乙二五)。
(三) 原告の主張によれば、本件証明書等がホースマンに引渡されるかどうかは多額の費用を投じて購入した本件馬の命運にかかわる重大事であるから、西澤部長が本件合意に違反したとすれば、西澤部長に対し厳しい追及があって然るべきであるのに、証人岡田は、右約束違反と主張する日時の直後である平成七年四月一〇日に西澤部長と面談しながら、この点を何ら追及しなかったと陳述しており(甲八)、右はまさに不自然というべきであること(乙一九も右の点から同様に不自然である)。
4 したがって、被告が原告に本件証明書等を引渡す約束をしたと認めることはできず、原告の争点1に関する主張には理由がない。
二 争点2(一)(本件申込手続の当事者が原告であると認められるか)について
1 前記のとおり、本件申込手続は、ホースマンが自己の名をもって行ったものであり、その際には、本件馬の所有者が原告であることを被告に対して明示せず、かつ、原告からの委任状等代行権限を示す書類を被告に示していないことが認められるから、原則として、本件申込手続の主体(当事者)はホースマンである(民法一〇〇条本文)。そうすると、本件申込手続の当事者が原告であると認められるためには、被告が、ホースマンによる申込行為が原告のためにするものであることを知り又は知りうべき場合に限ることになる(民法一〇〇条但書)。
2 たしかに、以下の事実によれば、被告が、血統登録申込みをする者が常に申込に係る馬の所有者であるとは限らないことを認識していたものと推認できる。
(一) 被告が血統登録申込者の関税支払の事実の確認に利用している株式会社北村回漕店作成のファクシミリ送信書類には、関税を支払った血統登録申込者が輸入商社である旨明記されていること(乙四ないし七の各二、乙九ないし一三の各二)。
(二) 血統登録証明書発行後、日本中央競馬会から被告に送付される馬名登録簿の写しには日本中央競馬会に登録された馬主の氏名として血統登録申込者とは異なる者の氏名が記載されているものもあること(乙二ないし一五の各三、乙一六ないし一八の各四)。
(三) 原告が、「A.P」と冠する名前を持つ馬を多く所有しており、本件馬の名前も「A.P」を冠していること(乙三ないし六の各三、八ないし一一の各三、一三の三)。
3 しかしながら、以下の事実に照らせば、被告が、本件申込手続において原告が申込の当事者であることを知り又は知りうべきであったと認めることはできない。
(一) 被告は、輸入馬の血統登録申込みを受理するに当たっては、財団法人日本軽種馬登録協会登録規程六条二号に定める関税を納入しているか、血統登録申込書に同規程八条所定の書類が添付されているかのみを形式的に審査するだけであって、現実に申込者が馬の所有者であるか否かを審査する書類は何ら提出させていないこと(甲一、二)。
(二) 被告は一年間に約一万一五〇〇件に上る血統登録申込と二五〇〇件に上る繁殖登録申込を受理しており、これを処理している被告の職員数は僅か約一五名にすぎず、いちいち真実の所有者の確認を行っている余裕があるとは認められないこと(証人西澤鐵藏第一一回五頁)。
(三) 馬名登録簿写しは、被告が血統登録証明書を発行した後に馬名登録が行われた馬について日本中央競馬会から送付されてくるにすぎず、同じ申込者による別の血統登録申込みが常に同一の登録馬主の所有に係る馬についてなされたものであるとまでは認識できないこと(証人西澤鐵藏第一二回五頁)。
(四) 本件申込手続においても、ホースマンは自己の名で関税を支払った上、所定の書類を添えて血統登録申込をしており(乙一五の一、二)、被告はこれを審査した結果、要件を満たした申込があると認めていること。
(五) 被告が、登録手続に際して申込者とは別に当該馬の所有者の存在を覚知し、これを確実に特定できたとすれば、同人から委任状を徴求するなどして手続を進めるのが然るべきであるところ、被告がこれをしていないこと。
4 よって、原告の争点2(一)の右主張は理由がない。
三 争点2(二)(ホースマンに対する本件証明書等の交付が無権代理人に対する故意の交付となるか)について
1 前記二において検討したとおり、本件申込手続における申込者はホースマンであり、ホースマンは被告に対する血統登録申込を取り下げていないのであるから、被告はホースマンに対して本件証明書等を交付すべきである。原告は、本件申込手続における当事者ではないのであるから、被告に対し、直接本件証明書等の交付を求める法律上の権限を有さず、ホースマンとの関係でその引渡を求めうるに過ぎない。
2(一) ところで、原告は、鶴巻社長及び岡田部長が西澤部長に対し、本件馬の所有者が原告であることを告知したのであるから西澤部長は本件馬の所有者が原告であることを知っていた旨主張し、証人岡田瑞穂も同様の証言を行っている。
(二) 血統登録申込と証明書の発行手続は、家畜の改良増殖目的のために登録制度を設けるという公益目的のためではあるものの、基本的には、家畜登録事業者である被告と登録申込者との間で交わされる私的な契約関係と解すべきである(乙二三)。そして、一般論として、契約における当事者は、意思表示の申込と承諾の段階において確定するのであるから、前記二において検討したとおり、本件申込手続における当事者はホースマンと被告ということになる。
ところで、被告の登録規程(甲一)第八条は、「馬の所有者」が登録申込を行うとしており、かつ、同規程は農林大臣の承認を受けた後に施行するとしているので、同規程上、被告は、「馬の所有者」でない者からの血統登録申込は受け付けることができないとの内部規制に服しているということができる。そこで、被告が登録申込を受けた後、申込者が「馬の所有者」でないことが判明した場合には、被告としては申込者に対して登録を拒否し、あるいはすでに行われた登録を取り消す権限を有することになる(同規程二九条)。
しかしながら、右のような規程はあくまでも登録拒否ないし取消を被告の権限として認めているに過ぎず、これを越えて、被告が真実の馬の所有者を調査したうえ、真実の馬の所有者に登録証明書を交付すべき義務があると解することはできない。
(三) したがって、被告が、本件申込手続の受付後、原告から「原告が本件馬の所有者である。」との申入れを受けたとしても、被告において積極的に事実関係を調査の上、もしホースマンが「本件馬の所有者でない」と認めた場合にホースマンに対して本件証明書等の交付を拒否する権限を有しているとは認められるが、これを越えて、原告に対する関係で、ホースマンに対して本件証明書等を交付しない義務又は原告に対し本件証明書等を交付すべき義務を負担しているということはできない。
3 よって、原告の争点2(二)に関する主張には理由がない。
四 争点2(三)(本件証明書等交付の際の原告に対する連絡義務の有無)について
1 前記認定事実によれば、原告は、本件登録申込手続における当事者とは認められないのであるから、被告は、法律上、本件証明書等をホースマンに交付するに際し、原告に通知する義務を負うものではない。
2 よって、原告の争点2(三)に関する主張には理由がない。
第四 結論
以上の次第であるから、原告の請求はいずれも理由がない。
(裁判長裁判官鬼澤友直 裁判官齋藤繁道 裁判官原司)