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東京地方裁判所 平成7年(ワ)22034号 判決 1997年7月23日

原告

パレ・エテルネル管理組合

右代表者理事長

萩原紀元

右訴訟代理人弁護士

宮川典夫

被告

セイユウ不動産株式会社

右代表者代表取締役

小井戸正雄

右訴訟代理人弁護士

奥田洋一

飯田耕一郎

被告

株式会社天明

右代表者代表取締役

関口隆司

外一名

右二名訴訟代理人弁護士

山口博久

小西輝子

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告セイユウ不動産株式会社(以下「被告セイユウ」という。)は原告に対し一一六一万六〇〇〇円及びこれに対する平成七年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに平成七年一〇月から毎月末日限り九万六〇〇〇円を支払え。

二  被告株式会社天明(以下「被告天明」という。)は原告に対し一五二万五一六一円及びこれに対する平成七年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに平成七年一〇月から毎月末日限り二万円を支払え。

三  被告関口敏郎(以下「被告関口」という。)は原告に対し八五万四八三八円及びこれに対する平成七年一二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、マンションの管理組合である原告が、マンション内の立体駐車場の区分所有者であり又は区分所有者であった被告らに対し、立体駐車場から公道に通じる車路等はマンションの区分所有者全員の共有であるのに、被告らはこれを独占的に使用して不当な利得を得ていると主張して、被告らに対し不当利得の返還を求めた事案である(遅延損害金の始期はいずれも弁済期の経過した後の日である。)。

一  争いのない事実等(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)

1  当事者

(一) 原告は、別紙物件目録の「一棟の建物の表示」欄記載の建物(通称「パレ・エテルネル」。以下「本件マンション」という。)及びその敷地の管理等を行うため本件マンションの区分所有者により設立された権利能力なき社団である。

(二) 被告セイユウは、昭和五七年二月ころ本件マンションを建築、分譲した者であり、被告関口は、本件マンションが分譲されるまで、その敷地の一部を所有していた者である(甲第三号証)。

2  立体駐車場及び車路

(一) 構造

本件マンション内には、二九台の自動車を収容できる別紙物件目録の「専有部分の建物の表示」欄記載の立体駐車場(以下「本件駐車場」という。)が設置されており、専有部分とされている。また、本件駐車場の出入口には車両の方向転換のためのターンテーブルが設置されており、ターンテーブル設置部分から本件マンション前面の公道に至る車路が通じている(別紙図面表示の斜線部分がターンテーブル設置部分及び車路である。以下、両者を併せて「本件車路」という。)。

本件車路は、自動車が公道から本件駐車場に進入するための唯一の通路であり、かつ、天井、床及び両壁によって本件マンションの他の部分と構造上区分されている(甲第九号証の一ないし一三)。

(二) 権利関係

被告セイユウは、本件マンションを建築、分譲した際、本件駐車場を被告セイユウ及び被告関口の共有(被告セイユウ持分二九分の二四、被告関口持分二九分の五)とした。その後、被告関口は、平成元年五月二四日被告天明に対し、本件駐車場の右共有持分全部を売却した。

なお、本件駐車場の駐車料は一台一か月当たり四万円である。

3  管理規約

(一) 旧規約

平成四年七月四日改正前の本件マンションの管理規約(甲第六号証。以下「旧規約」という。)における規定は次のとおりである。

(1) 本件車路を共用部分とし(三条)、本件マンションの区分所有者全員の共有とする(四条一項)。

(2) 本件車路は本件駐車場の区分所有者(占有者を含む。)の専用使用箇所とする(六条)。

(3) 右専用使用につき有償又は無償とする旨の規定は存しない。

(二) 新規約

後記(三)の手続を経て平成四年七月四日に改正された本件マンションの管理規約(甲第一号証。以下「新規約」という。)における規定は次のとおりである。

(1) 本件マンションのうち、住戸番号を付した住戸、躯体部分を除いた天井、床及び壁、玄関扉の鍵及び内壁塗装部分等は、区分所有権の対象となる専有部分とする(七条)。

(2) 専有部分に属さない建物の部分を共用部分とし、本件マンションの区分所有者全員の共有とする(八条、九条)。

(3) 本件車路の専用使用権に関する規定は存しない。

(三) 規約改正手続

原告の創立総会が平成四年七月四日に開催され、右総会において、旧規約の改正が議題とされ、原告の設立、旧規約の廃止及び新規約の制定が議決された(甲第一三号証)。

被告セイユウ及び被告天明において、旧規約の廃止及び新規約の制定を承諾した事実はない。

二  当事者の主張

1  原告

(一) 本件マンシヨンの分譲業者である被告セイユウは、自ら旧規約を作成し、その中で、本件駐車場に被告セイユウと被告関口の区分所有権を設定した上、本件車路を本件駐車場の区分所有者の専用使用箇所とした。そして、被告らは、昭和五七年以降現在まで本件車路を排他的・独占的に無償使用している。

しかし、そもそも、共用部分たる本件車路の維持・管理費用を共有持分に応じて負担している本件マンションの区分所有者全員は、本来、本件車路の使用利益を享受し得べきものである。とすれば、被告ら以外の区分所有者の右使用利益を排除して本件車路を排他的・独占的に使用している被告らは、原告に対し、本件車路の使用料相当額を支払うべきであるにもかかわらずこれを支払わない。したがって、被告らによる本件車路の排他的・独占的な無償使用は法律上の原因がないというべきであり、かつ、被告らの右使用により原告は本件車路を利用できないなどの損失を蒙った。

なお、この理は、新規約上のみならず旧規約上も妥当する。また、新規約上、本件車路の専用使用権は廃止されたが、右は被告らの権利に特別の影響を及ぼさないから、右規約の改正について被告らの承諾は不要である。

(二) 右使用による被告らの利得は、一か月当たり一一万六〇〇〇円(二九台分の駐車料収入合計一一六万円の一割)を下らない。

したがって、本件駐車場の共有割合に応じた各被告の利得額は次のとおりである。

被告セイユウは、昭和六〇年九月一日から一か月当たり九万六〇〇〇円(一一万六〇〇〇円に共有持分割合二九分の二四を乗じた額)を利得しており、平成七年九月末日までの合計利得額は一一六一万六〇〇〇円である。

被告関口は、昭和六〇年一一月一日から平成元年五月二三日まで一か月当たり二万円(一一万六〇〇〇円に共有持分割合二九分の五を乗じた額)、合計八五万四八三八円を利得した。

被告天明は、平成元年五月二四日から一か月当たり二万円を利得しており、平成七年九月末日までの合計利得額は一五二万五一六一円である。

2  被告天明及び被告関口

(一) 東京都が本件車路を本件駐車場の附属建物であると認定して本件車路について区分所有建物と同様の課税をし、被告らがこれに応じて本件車路の固定資産税等を負担していることからすれば、本件車路は専有部分というべきであり、被告らがその所有に係る本件車路を使用することによって、原告に損失が生じることはない。

(二) 仮に、本件車路が専有部分でないとしても、本件車路はそもそも本件駐車場への唯一の通路として設計されていること、被告らが本件車路の固定資産税等を負担していること及び被告らが本件マンションの敷地の固定資産税等を共有持分に応じて負担していることなどからすれば、被告らが本件車路を使用することによって原告に損失が生じることはない。

(三) 被告らは、本件駐車場の駐車料収入を得ているが、本件車路の使用により何らかの収入を得ているわけではない。また、被告らは、本件車路の固定資産税等を負担するなど相応の負担をしている。

したがって、被告らは、本件車路の使用により利得を得ていない。

3  被告セイユウ

(一) 被告セイユウは、旧規約上本件車路の専用使用権を有していた。

原告は、平成四年七月四日本件車路の専用使用権を廃止する旨規約の変更を決議したが、右規約の変更は、被告セイユウの権利に特別の影響を及ぼすべきものであるから建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)三一条一項後段により被告セイユウの承諾を要するにもかかわらず、その承諾を得ないままなされたものであって、無効である。

したがって、被告セイユウは、昭和六〇年九月から現在に至るまで本件車路の専用使用権を有しており、被告セイユウの右専用使用権に基づく本件車路の使用には法律上の原因が存する。

(二) 右2の(一)ないし(三)の主張を援用する。

三  主要な争点

1  被告らの本件車路の無償使用には法律上の原因が存しないとの原告の主張の成否

2  被告らの利得及び原告の損失の存否

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  旧規約における被告らの本件車路に対する権利について

前記争いのない事実等のとおり、被告らは本件駐車場の区分所有者であり(ただし、被告関口は平成元年五月二四日までの区分所有者であり、被告天明は同日以降の区分所有者である。)、旧規約六条は本件駐車場の区分所有者(占有者を含む。以下同じ。)に本件車路の専用使用権を認めている。そして、改正前における旧規約六条の効力を否定すべき事情は窺われない。

したがって、被告らは、旧規約上、本件車路の専用使用権を有することが認められる。

そして、右専用使用権は当然有償であるものとはいえず、これを有償であるというためには少なくとも規約上その額又はその額の決定方法についての規定が存する必要があると解されるが、旧規約上、右のような規定は存しない。したがって、右専用使用権は無償であるというべきである。

2  旧規約改正手続について

(一) 前記争いのない事実等によれば、新規約上、本件車路の専用使用権に関する規定は存しないから、新規約は旧規約における本件車路の専用使用権を廃止する趣旨であると解されるが、右規約の変更について、平成四年七月四日当時本件車路の専用使用権者であった被告セイユウ及び被告天明が承諾した事実は存しない。そこで、被告らの承諾を得ずになされた規約の変更が有効か否かを検討する。

(二) 規約の変更が「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」(法三一条一項後段)に当たるか否かは、規約変更の合理性ないし必要性と影響を受ける区分所有者の蒙る不利益との比較考量により決すべきものと解される。

本件において、前記争いのない事実等によれば、本件車路が本件駐車場と公道を結ぶ自動車用通路として設計・建築されたことはその構造上明らかであり、また、本件車路は公道から本件駐車場へ進入するための唯一の自動車用通路であるから、本件駐車場の区分所有者にとって本件車路の専用使用権は必要不可欠な権利であるといえる。これに対し、本件車路の右構造に照らせば、本件駐車場の区分所有者以外の本件マンションの区分所有者が本件車路を使用する必要性は認められず、他に本件車路の専用使用権の廃止の合理性ないし必要性を基礎付けるに足りる事情が存することの主張立証は存しない(被告ら以外の本件マンションの区分所有者が本件車路の被告らによる専用使用に対し不満を抱いているとしても、このことが専用使用権の廃止の合理性ないし必要性を基礎付ける事情となり得ないことはいうまでもない。)。以上によれば、旧規約を変更して本件車路の専用使用権を廃止する合理性ないし必要性よりも、右専用使用権の廃止により被告セイユウ及び被告天明の蒙る不利益の方が格段に大きいといえる。

(三)  したがって、本件車路の専用使用権を廃止する旨の規約の変更には被告セイユウ及び被告天明の承諾が必要であったというべきであり、右承諾を得ずになされた規約の変更は無効である。

3  法律上の原因について

右1及び2によれば、被告らは、規約変更の前後を問わず、本件車路について無償の専用使用権を有しており、被告らによる本件車路の無償使用は旧規約上の専用使用権に基づくものである。

右のとおり、被告らの本件車路の無償使用には法律上の原因が存する以上、被告らが原告に対し本件車路の無償使用に関し不当利得返還義務を負ういわれはない。

二  右によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官土肥章大 裁判官小野洋一 裁判官馬渡直史)

別紙物件目録<省略>

別紙図面表示<省略>

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