東京地方裁判所 平成7年(ワ)22913号 判決 1998年9月18日
東京都品川区東大井一丁目九番三七号
原告
株式会社加藤製作所
右代表者代表取締役
加藤正雄
右訴訟代理人弁護士
野上邦五郎
同
杉本進介
同
冨永博之
右補佐人弁理士
御園生芳行
香川県高松市新田町甲三四番地
被告
株式会社タダノ
右代表者代表取締役
多田野久
右訴訟代理人弁護士
吉原省三
同
小松勉
同
松本操
同
三輪拓也
右補佐人弁理士
小橋信淳
同
佐藤香
同
大浜博
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、金一一億八九七六万円及びこれに対する平成七年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が、被告によるラフテレーンクレーンの製造販売が原告の有していた特許権の侵害に当たるとして、被告に対して損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 原告の特許権
(一) 原告は、その存続期間満了まで、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有していた。
発明の名称 トラッククレーンにおけるアウトリガ
出願日 昭和五二年九月七日
公告日 平成二年三月二七日
登録日 平成四年五月二九日
登録番号 第一六六五九三七号
特許請求の範囲 別紙「特許出願公告公報」写しの該当欄記載のとおり
(以下、右出願公告公報掲載の明細書についての手続補正事項を掲載した別紙「特許法第六四条の規定による補正の掲載」による補正後の明細書を、「本件明細書」という。)
(二) なお、本件特許権は、昭和五二年(一九七七年)九月七日の特許出願(以下「原々出願」という。)を特許法四四条一項の規定により分割して出願された特許出願(以下「原出願」という。)を再度右規定により分割して出願されたものである。
2 本件発明の構成
A 車体フレーム下側の横方向に設けた二重樋状案内部材の両案内路の互いに対向する一端部上側位に、
B 端縁が当該車体巾一杯に延びる筒状アームを配し、
C 該筒状アームの基部を前記車体フレームの側壁部に固着すると共に、
D 前記筒状アームの底板下面が、前記両案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形状をなす水平ビーム頂壁の受面として構成され、
E かつ、前記筒状アームの底板端部に、前記水平ビーム端部に突設された伸縮支脚上部の遊嵌可能な外開き切欠を形成すると共に、
F 該外開き切欠まわりの側板下部に、前記水平ビーム頂壁の受面を有する補強片を一体状に設けたこと
G を特徴とするトラッククレーンにおけるアウトリガ。
3 本件発明の作用効果
本件発明の作用効果は、以下のとおりである。
(一) 作用
車体フレームの下部横方向に設けた二重樋状案内部材の案内路に挿入した水平ビームを、互いに反対方向に伸長させた後、水平ビーム端部の伸縮支脚を伸長させ、車体を地上に支承してクレーンによる荷役作業をし、また、伸縮支脚を収縮させた後、水平ビームを収縮させる等、従来のトラッククレーンにおけるアウトリガと同様な作用をする外、水平ビームの伸縮時に、水平ビームの端部に設けた伸縮支脚が、車体フレームの側壁部に溶着され、車体巾一杯に延びる筒状アームの底板端部に形成された外開き切欠内に嵌入して車巾内に格納され、しかも、筒状アームの底板端部の外開き切欠まわりの側板下部に、一体状に設けられた前記水平ビーム頂壁の案内面付補強片により、筒状アーム端部の曲げ剛性が確保され、水平ビーム伸長時の負荷による筒状アーム端部の下向極圧が、車巾一杯に延びる側板下部の補強片により支承される。
(二) 効果
(1) 底板端部に外開き切欠を有し、端部が車巾一杯に延びる筒状アームの基部を車体フレーム側部に設けたから、端部に伸縮支脚付き水平ビームを車巾内に格納できる。
(2) 筒状アーム端部の側板下部に、水平ビーム頂部の受面付補強片を一体状に設けたから、筒状アームの底板端部に外開き切欠を設けたにもかかわらず、筒状アーム端部の充分な曲げ剛性を確保できる。
(3) アウトリガの最小縮小巾の増大を招くことなく、筒状アーム端部の曲げ剛性を確保できるから、水平ビームの伸長時における伸縮支脚の最大スパンを従来例より増大でき、トラッククレーンの限界転倒モーメントを増大し、安全荷役作業領域が増大する。
(4) また、筒状アームを水平ビームの頂壁上側に位置させると共に、その底板端部に外開き切欠を設け、かつ、同底板又はその側板下部を水平ビーム頂部の受面ないしガイドとする外は、筒状アームの外形を、水平ビームの断面形状の制約を受けることなく構成できるから、その設計自由度が向上する。
4 被告の行為
被告は、平成二年四月から平成七年五月まで、別紙物件目録一記載のラフテレーンクレーン(以下「イ号物件」という。)を製造販売した。また、被告は、平成七年六月から、別紙物件目録二記載のラフテレーンクレーン(以下「ロ号物件」という。)を製造販売している(以下、イ号物件及びロ号物件を併せて「被告物件」ともいう。)。
5 被告物件(イ号物件及びロ号物件)の構成
A 車体フレーム下側の横方向に車体幅一杯に延びた「底板3と両側の側板4と中央仕切り板5と水平板(蓋体)78」からなる二重筒状体9を有し、右二重筒状体9内を水平ビームが伸縮案内されるようになっていて、二重筒状体の互いに対向する水平板(蓋板)延出し部分78Aの上側位に、
B 車体幅一杯に延びる底のないサポート15が水平板(蓋板)延出し部分78Aと一体に溶接固着されている。
C サポート15の基部側端縁を車体フレーム2の側壁部2Aに溶接固着している。
D 底のあいたサポート15の下にある水平板(蓋板)78の下面が、二重筒状体9内の案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形を成す水平ビーム頂壁の受面として構成されている。
E 水平板(蓋板)厚板部7の端部には、水平ビーム16の端部に突設された伸縮支脚17が遊嵌可能な外開き開口部18Aを形成している。
F 右外開き開口部18Aのまわりにある水平板(蓋板)厚板部7と、肉厚サポート先端部内側縦板12A、サポート先端部外側縦板12B、サポート先端部内側縦板12Aの内側下部にある溶接部19が一体となって溶接固着されている。
G アウトリガにつき右構成を有するトラッククレーン
(なお、被告は、Aについて、製品化したアウトリガ構成要素としての二重筒状体9は、底板3と両側の側板4と中央仕切板5と水平板(蓋板)78とを一体に溶接結合して、断面四角筒状の二列の、水平ビームが伸縮案内される案内路を形成してなり、車体フレームの下面に溶接接合されている旨、Bについて、製品化したアウトリガ構成要素としてのサポート15と二重筒状体9は、サポート15をその下側の二重筒状体9の水平板(蓋板)延出し部分78Aに溶接固着することで一体に構成されたものである旨、Cについて、製品化したアウトリガ構成要素としてのサポート15は車体フレーム2の側壁部2Aにだけではなく、二重筒状体9の上板構成材をなす水平板(蓋板)延出し部分78Aとも一体に溶接固着されているものである旨、それぞれ付加主張する。)
二 争点
(原告の主張)
1 被告物件の構成と本件発明の構成の対比
以下のとおり、被告物件は、本件発明のすべての構成を充足する。
(一) 被告物件の構成Aと本件発明の構成Aの対比
被告物件の構成Aにおける「二重筒状体」は、以下の理由から、本件発明の構成Aにおける「二重樋状案内部材」に当たる。
(1) 「二重筒状体」と「サポート」との関係について
被告物件の構成Aの「二重筒状体」は、その上に底のないサポートが溶接固着されているが、これは、二重樋状部の上に水平板(蓋板)が溶接固着され、その上に更に底のないサポートが溶接固着されているとみることができる。そして、その構成は二重樋状部の上の水平板(蓋板)を底板とするサポートが溶接固着されていると考えられるから、被告物件の「二重筒状体」と「サポート」が溶接固着されている構成には「樋状」の構造を含んでいると考えられる。
本件発明は、「特許請求の範囲」の記載によると「二重樋状案内部材」とその上の「筒状アーム」が分離していなければならないものではなく、これらが一体となっているものを排除するものでもない。本件発明の実施例も、「二重樋状案内部材」と「筒状アーム」はかすがい状支持部材で上下方向の距離が変わらないように維持されており、両者が別々に別れているわけではない。したがって、本件発明において「二重樋状案内部材」と「筒状アーム」が別の部材として記載されていても、それを理由に「二重樋状案内部材」と「筒状アーム」が分離していなければならないわけではない。
(2) 「二重樋状案内部材の頂部が開放されていること」について
本件特許権の無効審判(以下、単に「無効審判」ということもある。)で、原告は、本件発明の「二重樋状案内部材」は「頂部の開放された断面長方形状のもの」であると述べた。しかし、本件発明の「二重樋状案内部材」が「頂部が開放する」ものといっても、「二重樋状案内部材」の上つまり頂部に何の部材もないことを意味するわけではない。本件発明の実施例においてもそのすぐ上には筒状アームがあり、「二重樋状案内部材」は筒状アームで蓋がされた状態になっていて、しかも「かすがい状支持部材」により蓋が外れない状態になっている。したがって、本件発明において「頂部が開放されている」といっても、それは「二重樋状案内部材」自体の構造についての記述であり、その上に蓋がされていて、その蓋が固定されていても「二重樋状案内部材の頂部が開放されている」といってよい。そしてその中には、「二重樋状案内部材」に蓋がされていて、その蓋が外れないようになっているものも含まれるから、被告物件のように「二重筒状体」の上にサポートがあり、サポートと水平板(蓋板)延出し部でその下の樋状部材に蓋がされた状態になっているものでも、その中に「二重樋状案内部材」を含む。
(3) 水平ビームの案内部材が「樋状」であることについて
本件発明が水平ビームの案内部材を「樋状」にしたのは、案内部材が水平ビームを案内するとともに、水平ビームの直上に筒状アームを設けて筒状アームで水平ビームの極圧Rを直接受けるようにするためである。
被告物件の「二重筒状体に底のないサポートが溶接固着されたもの」も水平ビームの案内部材の直上に水平板(蓋板)とサポートが設けられていて、これらにより水平ビームからの極圧Rを直接受けている点で本件発明と変わるところがない。
したがって、被告物件の二重筒状体とサポートが溶接固着されたものも、その中に「樋状」の構成を有しているというべきである。
(4) 被告物件の「二重筒状体」と従来技術の「水平基筒」との関係
被告物件の二重筒状体は上に蓋がされており、本件発明の樋状案内部材ではなく、従来技術の水平基筒に当たるとの被告の主張は、次のとおり失当である。
すなわち、従来技術の「水平基筒」には、水平ビームを車巾内に収納するとともに極圧Rを車巾端部で支えるという考えはなく、したがって車巾端部に外開き開口部もなく、極圧Rを車巾端部で支えるためのサポートもない。ところが、被告物件は水平ビームを車巾内に収納できるように車巾端部に外開き開口部を形成しており、さらに極圧Rを車巾端で支えるために二重筒状体の上に補強部を有するサポートを設けているから、被告物件の二重筒状体は従来技術の「水平基筒」とは全く別物である。
また、従来技術の水平基筒は、その上に何もないので極圧は水平基筒の上蓋だけで受けているのに対し、被告物件は、二重筒状体の上に底のないサポートがあってこれらが一体に溶接固着されており、二重筒状体の水平板(蓋板)とサポートが一体となって極圧Rを受けているのであり、被告物件の右構成はむしろ本件発明の樋状案内部材の上に筒状アームのある構成と解することができる。
(5) 極圧Rのかかり方について
本件発明は、極圧Rが筒状アームだけに伝えられて、二重樋状案内部材には伝えられないのに対し、被告物件のような二重筒状体とサポートが溶接固着されているものでは、二重筒状体の側板に極圧Rの一部がかかり、この点で両者は異なるという被告の主張は、次のとおり失当である。
すなわち、極圧Rが筒状アームだけに伝えられて、二重樋状案内部材に伝えられないというのは、二重樋状案内部材と筒状アームがかすがい状支持部材で支えられている本件発明の実施例については妥当するかもしれないが、かすがい状支持部材を必須の構成としない本件発明については、極圧Rが二重樋状案内部材に一切伝えられないわけではない。
本件発明は、「外開き切欠を有する車巾端部で極圧Rを支えること」に特徴を有しているのであるから、被告物件が外開き開口部を有する車巾端部で極圧Rを支えている以上、そこで支えられた極圧Rの一部が「二重筒状体」の側板に伝えられたとしても、それによって外開き切欠を有する車巾端部で極圧を受けるという特徴が失われるわけではない。よって、支えられた極圧Rがその後どのように伝わるかはそれほど重要なことではない。
被告物件は二重筒状体の側板に極圧Rの一部がかかるというが、二重筒状体の側板に少しぐらい多くの極圧Rがかかったとしても、それによってサポート自体を不要にできるというものでもなく、被告物件のものも補強部材を有するサポートがなければ、極圧Rを車巾端部で支えることはできない。したがって、被告物件において本件発明の作用効果が失われるものではない。
二重樋状案内部材と筒状アームがかすがい状支持部材で支持している実施例のようなものと、被告物件のような二重筒状体とサポートを溶接固着したものとでは、水平ビームの案内部材の側板に水平ビームからの極圧Rが多少多く伝えられるというだけの違いがあるだけであり、それ以外に両者にはほとんど違いはない。しかもその違いですら右のとおり本件発明の作用効果にはほとんど影響のないものであるから、本件発明の案内部材が樋状であるからといって、樋状の上に筒状アームが溶接固着されるものを一切排除するものと考えられない。
(6) 原々出願、原出願の明細書の記載について
本件明細書及び原々出願、原出願の明細書の実施例には、樋状案内部材とその上の筒状アームが直接溶接固着されたものが記載されていないが、その実施例において「樋状案内部材」と「筒状アーム」は上下方向の距離が変わらないように維持されており、しかも本件発明はかすがい状支持部材を有するものに限定されているわけではなく、またかすがい状支持部材にかわるものとしては「バンドで支える方法」や「案内部材を直接本体フレームに固着する方法」等いろいろの方法が周知であることを考えると、かすがい状支持部材に替わる手段として、右のような周知手段を用いることは当然に本件発明に含まれると考えてよい。
(7) 本件発明の筒状アームの位置について
本件発明の構成Aの中に「二重樋状案内部材の両案内路の互いに対向する一端部上側位」に筒状アームが存在するという文言があるが、「上側位」というのは二重樋状案内部材の一端部の上の方向にあるというものであり、二重樋状案内部材の上にあることを示しているのであって、この二重樋状案内部材の一端部の「上の側部」つまり「上の横」にあるという意味ではない。
本件明細書では、「上側位」は「上側(うえがわ)」の位置を意味している。明細書中にも「筒状アームを水平ビームの頂壁上側に位置させると共に」(本件特許公報11欄23~24行)の記載があるが、この「上側」は上の方という意味であり「上の横」という意味と解することはできない。同明細書には「筒状アームの底板端部の外開き切欠より内側位に」(本件特許公報11欄11~12行)との記載があり、「内側位」は明らかに「内側の位置」を意味していることから考えても「側位」という文言が横方向という意味に用いられているとは考え難いことである。したがって、「上側位」は「上側の位置」とを意味していると解釈するのが自然である。
仮に、筒状アームが二重樋状案内部材の一端部の「上の側部」つまり「上の横の位置」にあるというのであれば、筒状アームは二重樋状案内部材の一端部の真上には存在していないと考えられるところ、本件発明の実施例の図面においても筒状アームはその基部側ではあるが、二重樋状案内部材の端部の真上にも存在するのであるから、そのようなものを二重樋状案内部材の端部の「上の横」にあるということはできない。
そして被告物件のサポートと水平板(蓋板)延出し部は二重筒状体の端部の上側にあることは明らかである。
(二) 被告物件の構成Bと本件発明の構成Bの対比
被告物件の構成Bにおける「水平板(蓋板)延出し部」と「サポート」は、以下のとおりの理由から、本件発明の構成Bにおける「筒状アーム」に当たる。
(1) 被告物件のサポートの底部について
被告物件のサポートは、その下にある水平板(蓋板)延出し部と一緒になって水平ビームからの極圧Rを車巾端部で支えようとするものであり、そのために設けられているものであって、これがなければ水平ビームからの極圧Rを車巾端部で支えることはできない。したがって、被告物件のサポートはその下にある水平板(蓋板)延出し部と一緒になって本件発明の筒状アームと同じ役割を果たしている。
被告物件のサポートに底板がないが、サポートの直下には水平板(蓋板)延出し部があり、これらは溶接固着されて直接水平ビームからの極圧Rを支えているのであり、その意味で水平板(蓋板)延出し部がサポートの底板としての役割を果たしている。
(2) 被告物件の「サポートの頂板に外開き開口部があること」について
被告物件のサポートは頂板の先端部に外開き開口部があるが、サポートはその下にある水平板(蓋板)延出し部と一体になって筒状アームの構成をなしている。
本件発明の筒状アームもその底板の先端には外開き切欠があるのであり、先端に外開き開口部を有するからといって筒状でないとはいえない。
本件発明の「筒状アームはその外形が水平ビームの断面形状の制約を受けることなく構成できるから、その設計自由度が向上する」(本件公報6頁12欄2~5行)というものであり、水平ビームからの極圧Rを車巾端で十分に支えられるようになっていればよいから、被告物件の水平板(蓋板)延出し部と一体に溶接固着されているサポートは、この頂板の先端部に外開き開口部があっても、極圧Rを十分支え得るものであり、本件発明の筒状アームといってよい。
(三) 被告物件の構成A及びBと本件発明の構成A及びBの対比
仮に、前記(一)、(二)の主張が認められないとしても、被告物件の構成A及びBにおける「サポート」と「二重筒状体」を一体にしたものは、以下のとおりの理由から、本件発明の構成A及びBにおける「筒状アーム」及び「二重樋状案内部材」に当たる。
(1) 本件発明の目的、構成、作用、効果、「筒状アーム」及び「二重樋状案内部材」が設けられた理由等から考えると、本件発明の筒状アームと樋状案内部材を一体にしたものも、本件発明のものに含まれると考えられる。
そして、被告物件の「サポート」と「二重筒状部材」とは上下に一体に溶接固着されているものであり、しかも「サポート」にはその下に底板がないので、「サポート」と「二重筒状部材」を上下に一体に固着させると、二重筒状部材の上にある水平板はサポートの底板ともなっている。よって、被告物件のサポートと二重筒状部材とは一体のものとして、本件発明の筒状アームと二重樋状案内部材とが上下に一体に固着したものと同じ構成を有しているとともに本件発明の作用、効果も有しているから、この構成は本件発明の筒状アームと樋状案内部材の構成を有している。
(2) 本件発明の目的は、「水平ビームを収納するときは、水平ビームを車巾内に収納できるようにして、水平ビームを延ばすときは、できるだけ遠くに延ばすことができるようにする」というものであるが、本件発明の「筒状アーム」と「樋状案内部材」とを一体にしたものも、水平ビームを収納するときは、車巾内に水平ビームを収納でき、又水平ビームを延ばすときも、充分遠くまで延ばすことができるから、本件発明の目的を達することができる。
本件発明の構成においては「筒状アーム」は「樋状案内部材」の「上側位に配」するものであって、しかも「筒状アームの底板下面が水平ビーム頂壁受面として構成され」ているものであり、特に「筒状アーム」と「樋状案内部材」とを別体にしなければならないという限定はされていない。しかも「樋状案内部材」の上に「筒状アーム」があり、「筒状アームの底板下面が水平ビーム頂壁の受面となっている」というのであるから、筒状アームと水平ビームの(樋状)案内部材が一体となっているものを特に排除している趣旨とは考えられない。
本件発明の作用、効果は、「水平ビームを車巾内に収納できるとともに、筒状アームの底板端部に外開き切欠を設けたにもかかわらず、筒状アームの端部の充分な曲げ剛性を確保できる」というものであるが、「筒状アーム」と「樋状案内部材」とを一体にしたものも別体のものと同じく、水平ビームを車巾内に収納できるとともに、筒状アームの端部に充分な曲げ剛性を確保できるという効果を有している。
「筒状アーム」はその底板端部に外開き切欠を有するとともに側板下部に補強片を設けて底板端部において充分な曲げ剛性を確保しているというものであるが、このような「筒状アーム」がその下の「樋状案内部材」と一体となったとしても、右のような筒状アームの特徴が失われるわけではないのであって、別体となっているものと何ら差異はない。
「樋状案内部材」は水平ビームを案内する部材であるが、それが樋状をなしているのは、水平ビーム頂壁からの極圧Rを案内部材の上にある筒状アームの底板に直接伝えるためであるが、樋状案内部材がその上の筒状アームと一体のものとなったとしても、水平ビームからの極圧Rはその上の筒状アームの底板に直接伝えられるのであり、一体となったからといって、樋状案内部材の役割を果たさなくなるわけではない。また「樋状案内部材」の上に「筒状アーム」が一体に固着されているものも、その中に樋状の構成を有しているといってよいのであり、樋状だからといって、その上に蓋がされるものを一切排除するものではない。
以上のように、本件発明の「筒状アーム」と「樋状案内部材」を一体としたものものも、本件発明の目的、作用、効果はすべて有しており、しかも「筒状アーム」も「樋状案内部材」もその役割を果たしているのであるから、「筒状アーム」と「樋状案内部材」とを一体にしたものも本件発明のものに含まれると考えてよい。
(3) 確かに、原告は、無効審判における再答弁書で、「極圧Rを…二重樋状案内部材を介することなく…筒状アームの車体一杯に延びる底板端部の外開き切欠まわりの補強片で受承し、同筒状アームを介して車体フレームへ伝達することにより、二重樋状案内部材の肉厚を増すことなく」と述べた。
しかし、筒状アームと樋状案内部材を一体にしたものは、樋状案内部材に極圧Rが伝えられるから、本件発明の技術的範囲に入らないと解釈すべき理由はない。
すなわち、原告が無効審判で述べているのは、本件発明のものは水平ビームの案内部材が樋状をしているので、極圧Rは案内部材に遮られることなく、直接筒状アームの底板に伝えられて、車巾端部で支えられるということである。そして筒状アームと二重樋状案内部材が一体となったものでも、水平ビームからの極圧Rは水平ビームの案内部材で遮られることなく筒状アームの底板に直接伝えられて、筒状アームで支えられるのであり、原告の無効審判の主張は原告の本件訴訟の主張と何ら矛盾するものではない。
そして筒状アームと樋状案内部材が一体になっているものも「極圧Rは二重樋状案内部材を介することなく直接筒状アームに受承されて、筒状アームを介して車体フレームに伝達される」という特徴を有しているのであり、したがって筒状アームと樋状案内部材が一体となっているものも、本件特許の無効審判手続における原告の主張と矛盾するところはない。
(四) 被告物件の構成Cと本件発明の構成Cの対比
被告物件の構成Cの「サポートの基部側端縁が車体フレームの側壁部に溶接固着する」は、以下のとおりの理由から、本件発明の構成Cの「該筒状アームの基部を前記車体フレームの側壁部に固着する」に当たる。
(1) 被告物件のサポートと水平板(蓋板)延出し部が溶接固着されたものは、前記のとおり、本件発明の筒状アームに相当するものであり、その基部側端縁が、車体フレームの側壁部に溶接固着されていて、それにより水平板(蓋板)厚板部に加わる水平ビームの頂壁からの極圧をサポートを通して車体フレームに伝えて、車体フレームに支えさせるようにしたものであり、その作用は本件発明の筒状アームの基部が車体フレームの側壁部に固着しているのと同じである。
(2) 被告物件では、筒状アームに相当するサポートの下に溶接固着されている水平板(蓋板)が、車体フレームの下部に溶接固着されているが、本件発明の実施例も筒状アームの底板は車体フレームの下部に溶着されている(本件特許公報8欄3~4行)のであり、そうすると、筒状アームの底板に当たる水平板(蓋板)が車体アームの下部に溶接固着されているからという理由だけから、サポート(有底サポート)が車体フレームの側壁部に固着されていないということはできない。
(五) 被告物件の構成Dと本件発明の構成Dの対比
被告物件の構成Dの「サポートの下にある水平板(蓋板)の下面がその案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形をなす水平ビーム6頂壁の受面として構成され」は、以下のとおりの理由から、本件発明の構成Dの「筒状アームの底板下面が、前記両案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形をなす水平ビーム頂壁の受面として構成され」に当たる。
(1) 水平板(蓋板)はその外側延出し部分の上にサポートが直接溶接固着された構成となっていて、これらが一体構造をなしているので、右の水平板(蓋板)延出し部はこの一体構造体の下部にある板状のものとして、この一体構造体の底板ということができる。
(2) 水平板(蓋板)が、水平ビームの頂壁の受面として構成されているのは水平板(蓋板)が、二重筒状体の上にある蓋板だからではなく、水平板(蓋板)のうちの水平板(蓋板)延出し部78Aの上にサポートがあり、これらにより水平ビームの頂壁からの極圧を受けて、この極圧を車体フレームに伝え、車体フレームで支えるようにしているからである。水平板(蓋板)延出し部の上にサポートがなければ水平板(蓋板)は水平ビームの頂壁からの極圧を車体巾端部で受けて支えることはできないはずである。
(六) 被告物件の構成Eと本件発明の構成Eとの対比
被告物件の構成Eは、「水平板(蓋板)厚板部7の端部に水平ビーム16の端部に突設された伸縮支脚17の遊嵌可能な外開き開口部18Aを形成する」というものである。一方、右水平板(蓋板)厚板部7は、前述のごとく、本件発明の筒状アームの底板に相当するものであり、その端部に水平ビーム端部に突設された伸縮支脚上部の遊嵌可能なU字状の外開き開口部つまり切欠部を形成するものであるから、この構成は、本件発明の構成Eの「筒状アームの底板端部に前記水平ビーム端部に突設された、伸縮支脚上部の遊嵌可能な外開き切欠を形成する」を充足する。
(七) 被告物件の構成Fと本件発明の構成Fとの対比
被告物件の構成Fは、「外開き開口部18Aのまわりにある水平板(蓋板)厚板部と肉厚サポート先端部内側縦板12A、サポート先端部外側縦板12Bとサポート先端内側縦板12Aの内側下部にある溶接部19が一体となって溶接固着されている。」というものである。これらのうち少なくとも前記サポートの両側部の下部に位置している「水平板(蓋板)厚板部7、肉厚サポート先端部内側縦板下部、サポート先端部外側縦板下部、サポート先端部内側縦板の内側下部にある溶接部」は、外開き開口部18Aのまわりにあって、一体となって水平ビームの頂壁の受面である水平板(蓋板)厚板部7の下面に働く極圧を分散させて、それを支えるようになっているので、これらを一体として水平ビームの頂壁の受面を有する補強片ということができる。よって、この構成は、本件発明の構成Fの「外開き切欠まわりの側板下部に、水平ビームの頂壁の受面を有する補強片を一体状に設けた」を充足する。
(八) 被告物件の構成Gと本件発明の構成Gとの対比
被告物件のものもトラッククレーンのアウトリガであり、本件発明のものもトラッククレーンにおけるアウトリガというものであるから、両者はその点で同一である。
2 本件特許出願との関係について
本件特許出願は、前記のとおり、その原々出願から分割出願された原出願からさらに分割出願されたものである。右分割の経緯に照らしても、本件発明の技術的範囲を、限定的に解釈すべき理由はない。
(一) かすがい状支持部材を必須の要件とすべきかについて
本件発明は「かすがい状支持部材」を必須の構成とするものではない。このことは本件特許の必須の構成のみを記載している「特許請求の範囲」に「かすがい状支持部材」の構成が記載されていないことからも明らかである。確かに、右原々出願の発明も原出願の発明も「かすがい状支持部材」を必須の構成としている。しかし、そうであるとしても本件発明の「特許請求の範囲」に記載されていない以上、「かすがい状支持部材」は必須の構成ではない。
「かすがい状支持部材」を必須の構成とする原々出願及び原出願の発明は、原々出願及び原出願の「特許請求の範囲」に記載されている発明であり、一方原々出願や原出願から分割出願できる発明は、原々出願や原出願の明細書に記載されていさえすれば足り、「特許請求の範囲」に記載されている発明に限定されるものではないからである。
確かに、本件発明の実施例は「かすがい状支持部材」を有するものが記載されているが、水平ビームを支承する役割のものは「かすがい状支持部材」に限られるわけではなく、バンドを用いる方法や水平ビームの案内部材を車体フレームに直接固着する方法等、周知自明の方法が様々考えられるから、本件発明が「かすがい状支持部材」を必須の構成としないものであっても何ら問題はない。
(二) 水平ビームからの極圧について
(1) 極圧Qについて
以上のとおり、本件発明は、「かすがい状支持部材」を必須の構成とするものではないから、水平ビームからの極圧Qは「かすがい状支持部材」で支えられなければならないわけではなく、極圧Qを支える部材が明細書中に明示されていないとしても何ら問題はない。本件発明は水平ビームを収納するときはそれを車巾内に収納し、水平ビームを延ばすときは、それをできるだけ長く延ばせるようにすることを目的とするものであり、極圧Qをどのような方法で支承するかを発明の目的とするものでないからである。
前記のとおり、「かすがい状支持部材」に代わるもので水平ビームが支承される場合として、バンドを用いる方法や案内部材を車体フレームに直接固着するような方法等が周知であるが、このような手段においても、極圧Qは当然に支えられているのであるから、極圧Qを支承する具体的な方法を、逐一、明示しなければならないわけではない。
(2) 原々出願の「二重樋状案内部材」の強度保持機能について
原々出願の明細書には、二重樋状案内部材は強度保持機能を有していないと記載されているが、原々出願から分割された本件発明の「二重樋状案内部材」は、以下の理由から、強度保持機能を有しないものに限定されない。
原々出願の明細書中に「二重樋状案内部材」が強度保持機能を有しないと記載されているのは原々出願の「特許請求の範囲」に記載されている発明(「かすがい状支持部材」を必須の構成とする発明)についてである。本件発明は、前記のとおり、かすがい状支持部材を有するものに限定されないから、「二重樋状案内部材」に強度保持機能がないものに限定されない。
しかも、かすがい状支持部材を有するもので、二重樋状案内部材と筒状アームがかすがい状支持部材で固定されている原々出願の発明であっても、前述のごとく、水平ビームの極圧Rの一部は筒状アームとかすがい状支持部材を通して二重樋状案内部材を上方に変形するのであって、その意味では二重樋状案内部材には水平ビームからの極圧Rが一切伝わらないわけではなく、全く強度保持機能がないわけではない。
3 公知技術との関係について
被告は、公知技術に照らして、本件発明の技術的範囲を限定的に解釈すべきであると主張するが、右主張は以下のとおり失当である。
(一) 本件明細書に記載されている従来技術の「水平基筒」は、車巾端部に外開き開口部もなく、その上にサポートもないのであって、水平ビームを収納する際には、水平ビームを車巾内に収納できるものではなく、しかも水平ビームを延ばすときにもできるだけ遠くへ延ばして支えられるように車巾端部で極圧Rを支えるような構造ではないから、従来技術の水平基筒と被告物件の二重筒状体とは全く異なるものである。
(二) 乙第七号証の一の二七六頁のクレーン車の図面(以下「引用例1」という)について
被告物件は、以下のとおり、引用例1で示された公知技術を用いたものではない。
すなわち、引用例1のものは伸縮支脚を収納する外開きのあるところまで、サポートに相当するものが延びていないために水平ビームからの極圧Rを車巾端部より伸縮支脚の直径分だけ内側で支えている。しかるに極圧Rを車巾端部で受けるか、車巾端部より伸縮支脚の直径程度(10数センチメートル)内側で受けるかの違いはアウトリガの性能にきわめて重大な影響を及ぼすものである。つまりアウトリガでクレーン作業中にクレーン車を安定させるためには少しでも外側で極圧Rを受けることが必要であり、10数センチメートルでも内側で受けることになるとクレーン車で安定的に作業できる限界荷重がかなり小さくなってしまう。したがって、引用例1は被告物件のサポートのように車巾端部まで延びていないから、被告物件のサポートと引用例1のものとではその作用効果が大きく異なる。
しかも引用例1のものは水平ビームの案内部材が二重になっていないので、水平ビームの長さが車巾の半分しかなく、したがって長く延ばすことができない。つまり引用例1のものは、本件発明のものや被告物件のものと比べてそれほど大きい荷重のものを持ち上げるようなものでない。
(三) 乙第一一号証の一の右上のクレーン車の写真(以下「引用例2」という)について
本件発明は、以下のとおり、引用例2の右側中央の水平ビームとその根元部の構成とは同じではない。
そもそも、引用例2の右上写真に示されたクレーン車については、「車体フレーム下側の横方向に存在する二重樋状の案内部材」、「端縁が車体巾一杯に延びる筒状アーム」、「筒状アームらしきものの底板に切欠」、「筒状アームらしきものの側板下部の補強片」があるかどうか不明である。
仮に、引用例2に「車巾端まで筒状アームが延びており、その底板の車巾端部に外開き切欠が設けられているという技術」が開示されているとしても、それは、水平ビームの先端の支脚が本件発明のもののように油圧等により伸縮するものではなく、ネジで上下するものである。そのために引用例2は本件発明のように水平ビームの伸縮支脚により車体全体を地面から持ち上げて支えるのではなく、車体の両側に水平ビームの支脚を延ばしてクレーン車が傾くのを防ぐためにこれで支えるというだけのものである。したがって本件発明のものとは支える力が大きく違う。つまり引用例2のものは支える力が小さいために、補強片も付ける必要がなく、水平ビームの案内部材も二重にする必要がない。このようなものであるから水平ビームの案内部材の上に設けられている三角形状の切欠のある部材も水平ビームの案内部材が先端で極圧Rを支えるためのものかどうか疑わしい。
したがって、前記のとおり開示されていたとしても、それは本件発明とは異なった技術であり、それによって、本件発明の技術的範囲を限定的に解釈すべき理由にならない。また、実施例に限定して解釈すべき理由もない。
4 損害額
被告は、次のとおりイ号物件及びロ号物件を製造販売した。アウトリガの寄与率(利用率)は三分の一、実施料率は四%が相当である。よって、原告は、少なくとも、本件特許権の実施料相当額である一一億八九七六万円の損害を蒙った。
(一) 被告は、平成二年四月から平成七年五月まで、トラッククレーン「トラッククレーンTR-五〇〇M」(イ号物件)を合計一一七六台製造販売し、その売上合計額は、八四六億七二〇〇万円であるから、実施料相当額は、一一億二八九六万円となる。
(二) 被告は、平成七年六月から平成七年八月まで、トラッククレーン「TR-五〇〇M-Ⅲ」(ロ号物件)を合計六〇台製造販売し、その売上合計額は、四五億六〇〇〇万円であるから、実施料相当額は、六〇八〇万円となる。
(被告の反論)
1 被告物件の構成と本件発明の構成の対比
(一) 被告物件の構成Aと本件発明の構成Aの対比
被告物件の構成Aにおける「二重筒状体」は、以下の理由から、本件発明の構成Aにおける「二重樋状案内部材」に当たらない。
(1) 「二重筒状体」と「サポート」との関係について
被告物件の二重筒状体9は、本件発明の二重樋状案内部材に該当しない。被告物件には、本件発明でいうところの「二重樋状案内部材」は存在しない。
被告物件における二重筒状体9は、底板3と両側側板4、4と中央仕切板5とを構成部材の一部としているが、前記したように製品化された二重筒状体9は、上記構成部材3、4、5の他に、水平板(蓋板)78を一体に溶接結合して断面四角筒状の二列の案内路を形成してなるものである。
この製品化したアウトリガ構成要素としての二重筒状体9は、部材名称のとおり筒状であって、原告主張のような「樋状部材」は存在していない。
(2) 「二重樋状案内部材の頂部が開放されていること」について
頂部が開放されたものと蓋が固定されて筒状となったものとは、構造も作用効果も異なる。本件発明においては、「二重樋状案内部材」は、「頂部の開放する断面長方形状の」、すなわち「蓋」がされることのない「樋状」のものでなければならない。原告は、本件特許の無効審判において、この点を主張し、それによって本件特許が無効とされることを免れてきたものである。したがって本件においても、原告は、無効審判の中でした主張と矛盾する主張をすることはできない。
(3) 案内部材が樋状であることについて
本件発明において水平ビームの案内部材を樋状にしたのは、案内部材と筒状アームとを分離し、案内部材は「単に水平ビーム3の引込み、張り出し時における支持部材18、18の振れ止め及び摺動案内と、トラッククレーンKの路上走行時における水平ビーム3の振れ止めをする」に止まるようにするためである(公報9欄12~16行)。したがって、サポート15と二重筒状体9が一体となっている被告物件は、この構成を有しない。
(4) 被告物件の「二重筒状体」と従来技術の「水平基筒」との関係について
水平基筒の上蓋の上部に極圧Rを受けるための補強材を設けることは、公知である。すなわち昭和五四年五月発行のメカニカル ハンドリング
二七六頁(乙七の一)、実開昭五〇-二三八一〇号公開公報(乙一三)、特公昭四七-四六七三一号(乙一四)等にその例が見られ、このうち乙第一四号証の例は、上部補強材が水平基筒の端部に及んでいる。さらに昭和四一年九月発行のエンジニアリング アンド コンストラクション
ワールド 四六頁(乙一一の二)には、水平基筒が車巾一杯に設けられ、その端部にまで補強材の及んでいるトラッククレーンが示されている。したがって被告物件は、これら公知技術の構造と変わらない。
(5) 極圧Rのかかり方に関する主張について
本件発明の構成をみると、Aの構成は「車体フレーム下側の横方向に設けた二重樋状案内部材の両案内路に互いに対向する一端部上側位に」となっており、Bの構成は「端縁が当該車体巾一杯の延びる筒状アームを配し」となっている。そしてこの筒状アームが極圧Rを受けることになる。したがって特許請求の範囲の解釈として、右Aの部材とBの部材とは別個のものと解するのが相当である。
そして本件発明の実施例においても、極圧Rが二重樋状案内部材に伝えられない構造となっているのである。
この点に関し、原告は実施例の構造においても極圧Rは二重樋状案内部材に伝えられないわけではないと主張している。しかし、極圧Rがかすがい状支持部材を押し上げる力は、極圧Qがかすがい状支持部材を押し下げる力と相殺されることになるので、極圧Rは二重樋状案内部材にほとんど作用しない。このことは本件発明の明細書にも「アウトリガの使用時に二重樋状案内部材23の中央隔壁板23bに発生する応力は極めて小さい」(公報10欄6~8行)と記載(原々明細書では応力零と記載)されていることからも明らかである。
なお、右の点については、更に、原々出願の公告公報である特公昭六〇-三三六九六号公報の7欄9~17行において、 「又前述のようにかすがい状支持部材18の上端が水平ピン19でアーム7の基部に枢着されているため、アウトリガ負荷によってアーム7が上方に撓んでも、該アーム弾性線の傾斜が支持部材18を介して案内部材23に伝達される恐れはない。従って両側の支持部材18、18間を案内部材23で固着連結していても案内部材23には該アウトリガ負荷が殆ど作用しないから、該案内部材を肉薄の軽重量のものとすることができる。」と記載されていることからも明らかである。
(6) 原々出願、原出願の明細書の記載について
原告が主張している原々出願、原出願との関係については、二重筒状体をバンドで支える方法や直接本体フレームに固着する方法では、本件発明の目的を達成することはできないし、本件発明の構成を得ることもできない。すなわち、原告主張のような方法によると、「二重筒状体」にはどうしても極圧Rや極圧Qがかかり、「荷重を支持しない」という本件発明における「二重樋状案内部材」は存在する余地がない。なお、本件特許明細書ではかすがい状支持部材以外に極圧Q支持手段が開示されておらず、これに替わる自明の手段もないことは後述のとおりである。
(7) 筒状アームの位置について
本件発明のAの構成のうち「上側位」については、以下のとおり、上の側部すなわち上方側方を指すものと解すべきである。
まず、明細書には、「筒状アームを水平ビームの頂壁上側に位置させると共に、その底板端部に切欠を設け………」(本件特許公報11欄23~24)と記載されている。ここでは、水平ビームの上側に筒状アームを設けるということを記載しているにすぎず、水平ビームとの関係では筒状アームは上側となるのは当然であり、原告の主張の根拠にならない。
次に、「その」は、筒状アームのことを指すところ、筒状アームの切欠の下に二重樋状案内部材があるのであれば、同部材の端部が切欠の直下まで延び、さらにその底板にも切欠部を設けなければならないにもかかわらず、明細書には何も記載されていない。したがって、右の記載は、筒状アームの切欠の下には二重樋状案内部材が存在しないことを前提としていると解されるのである。
また、「内側位」(本件特許公報11欄11~12行)の意味については、「側位」も「上側位」の場合の「側位」と同様、「横の方」を意味するというべきであり、全体としては「内方向で横の方」と解釈できる。この点からも、本件発明のAの構成における「上側位」という文言を「上方向で横の方」の意味に解することに何らの不自然さもない。
そして単に上部に設けるのであれば「上方に」とか「上側に」とか記載すればよいのに本件特許請求の範囲には「上側位」と記載されており、実施例の構造と右に指摘した明細書の他の部分の記載からしても、右の記載の意味は「上方の側方」と解されるのである。
(二) 被告物件の構成Bと本件発明の構成Bの対比
被告物件の構成Bにおける「水平板(蓋板)延出し部」と「サポート」は、以下の理由から、本件発明の構成Bにおける「筒状アーム」に当たらない。
(1) 被告物件のサポートの底部について
被告物件においては、サポート15、二重筒状体9が一体となって、フレーム2に水平ビームの頂壁の極圧を伝えている。
被告物件におけるサポート15は「端縁が車体巾一杯に延び」ているが、製品化したアウトリガ構成要素としてのサポート15と二重筒状体9は、サポート15をその下側の二重筒状体9の水平板(蓋板)延出し部分78Aに溶接固着することで一体構造物としている。そして二重筒状体9の案内路に伸縮可能に挿入された水平ビーム16の頂壁はアウトリガの作動時に、水平板(蓋板)78の下面を受面とする。この際に、二重筒状体9の水平板(蓋板)78は、上側のサポートにも溶接結合されていることから、水平板(蓋体)78の下面に作用する極圧(極圧R)は、<1>上側のサポート15に対しては、水平板(蓋板)厚板部7を介して押し上げ力として作用し、<2>またサポート下側の二重筒状体9に対しては、二重筒状体9の端部に引き上げ力として作用し、二重筒状体9の水平板(蓋板)78、側板4、中仕切板5、底板3に応力を生じさせる。右<1>、<2>の極圧分散の結果、全体として水平ビーム16の頂壁からの極圧(極圧R)は、二重筒状体9と、サポート15の二部材に分担されて車体フレームに伝達されるものである。
したがって、水平板(蓋板)延出し部は本件発明の底板とは異なるものである。
(2) 被告物件の「サポートの頂点に外開き開口部があること」について
被告物件は、サポート上板にも外開き開口部18Cが設けられていて、サポート先端側が二叉状になっており、筒状ではない。
すなわち、被告物件におけるアウトリガ端部構成は、乙第七号証の一におけるアウトリガ端部構成を原型とし、これに左右各列の二重縦板(各12A・12B)を継ぎ足したものであり、左右両列の二重縦板の間の開口部18Cは単なる縦板間の空間部であって、本来筒状体であるべきものの一部を切り欠いて形成された「切欠」ではない。
そして本件発明においては、筒状アームによって極圧Rを受けるため、その形状がこれに耐え得る筒状となっているものである。
(3) そもそも本件発明のBの構成における「筒状アーム」は、水平ビーム頂壁からの極圧(極圧R)を、二重樋状案内部材から分離独立して受承(実際には極圧Qを受承させる部材がなければ極圧Rも受承させることはできないが)する役割のものである。
これに対し、被告物件におけるサポート15は、下側の二重筒状体9の水平板(蓋板)延出し部分78Aに溶接固着することで、二重筒状体9と一体に構成されたものであり、水平ビーム頂壁からの極圧(極圧R)を、二重筒状体9とサポート15とに分散させるものであって、このように一方の分散極圧を車体フレームに伝える役割のサポート15と、本件発明の筒状アームとは、その役割を異にし、構成、機能の異なる部材である。
したがって、被告物件は本件発明のBの構成を欠く。
(三) 被告物件の構成A及びBと本件発明の構成A及びBの対比
被告物件の構成A及びBにおける「サポート」と「二重筒状体」を一体にしたものは、本件発明の構成A及びBにおける「筒状アーム」及び「樋状案内部材」に当たらない。
そもそも、本件発明には、以下の理由から、筒状アームと樋状案内部材が一体になっているものは含まれないので、原告の主張は、前提において失当である。
すなわち、<1>「樋状案内部材」の「樋状」という構成から考えて、その上に蓋がされたようなものは「樋状」といえない、<2>本件発明の樋状案内部材は「頂部が開放されている」ものであるとしているから、樋状案内部材の上に筒状アームが一体になって蓋をしているものは、樋状案内部材とはいえない、<3>本件発明の樋状案内部材は樋状という以上、この案内部材には極圧Rがかからないものであり、筒状アームと樋状案内部材を一体にしたものは、樋状案内部材に極圧Rがかかるので本件発明のものといえない、<4>本件発明のものは、樋状案内部材の肉厚が厚くならず軽量化が図れるとされているのであるから、筒状アームと樋状案内部材が一体のものが含まれることはない、<5>本件発明の二重樋状案内部材には極圧Rがかからないからこの案内部材は水平ビームの案内機能のみを有し、強度保持機能がないものであるのに対し、筒状アームと樋状案内部材が一体のものには樋状案内部材に極圧Rがかかり、この案内部材は強度保持機能を有する点において異なる等の理由から、筒状アームと樋状案内部材を一体にしたものは本件発明には含まれず、原告の主張は、前提において失当である。
(四) 被告物件の構成Cと本件発明Cの対比
被告物件の構成Cの「サポートの基部側端縁を車体フレームの側壁部に溶接固着する」は、以下のとおりの理由から、本件発明の構成Cの「該筒状アームの基部を前記車体フレームの側壁部に固着する」に当たらない。
(1) 被告物件におけるサポート15は「基部側端縁が車体フレームの側壁部に溶接固着される」だけでなく、二重筒状体9の上板構成材をなす水平板(蓋板)延出し部78Aに対して一体構造物として溶接結合されているものである。
本件発明における「筒状アーム」は、二重樋状案内部材に伸縮ガイドされる水平ビーム頂壁からの極圧(極圧R)を二重樋状案内部材から分離独立して受承させるものであり、二重樋状案内部材とは独立した部材であるから、本件発明におけるCの構成は「筒状アームを車体フレームの側壁部にのみ溶接固定する」という趣旨と解される。
これに対し、被告物件におけるサポート15は、車体フレームの下面に溶接されている水平板(蓋板)延出し部分78Aを介して下側の二重筒状体9と上側のサポート15とが一体構造物とし溶接結合され、水平ビーム頂壁からの極圧(極圧R)を、二重筒状体9とサポート15とに分散させて車体フレームに伝える構成であり、この極圧分離のためにサポート15は、車体フレーム2にだけではなく、二重筒状体9の上板をなす水平板(蓋板)延出し部78Aに対しても溶接固着されている。したがって被告物件は、本件発明のCの構成に対しても相違がある。
(2) 原告は、被告物件においては二重筒状体9が車体フレームの下面に溶接固着されていることに関連して「本件特許発明の実施例のものも筒状アームの底板は車体フレームの下部に溶着されるようになっている(本件特許公報8欄3~4行)」と述べ、これをもって被告物件と本件発明の共通点の一つとして主張するが、右公報記述部分は、原々出願に係る明細書にはなく、新規補正事項であって、当該記述部分を本件発明の特徴の一部として主張する場合には、要旨変更の疑い(本件特許について出願日遡及効が否認される)を生じるものである。
(五) 被告物件の構成Dと本件発明の構成Dの対比
被告物件の構成Dの「サポートの下にある水平板(蓋板)の下面がその案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形をなす水平ビーム頂壁の受面として構成され」は、以下のとおりの理由から、本件発明の構成Dの「筒状アームの底板下面が、前記両案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形をなす水平ビーム頂壁の受面として構成され」に当たらない。
本件発明における構成Dは、水平ビームを伸縮可能に案内する二重樋状案内部材を、頂部が開放された樋状にして、水平ビーム頂壁からの極圧(極圧R)を、筒状アームの底板下面に独立して負担させるためのものである。
これに対し、被告物件では、前記したように、二重筒状体の上板構成材となる水平板(蓋板)厚板部7の下面を、水平ビーム頂壁の受面となし、この水平板(蓋板)の下面に作用する極圧(極圧R)を、前記<1>、<2>に分散させ、二重筒状体9とサポート15とに分散させて車体フレームに伝達させる構成であって、サポート15にのみ独立して負担させる構成ではない。
したがって、被告物件は本件発明のDの構成を有していない。
(六) 被告物件の構成Eと本件発明の構成Eの対比
水平板(蓋板)厚板部7が、本件発明における筒状アームの底板に相当するとの点は否認するが、右厚板部7の端部に、水平ビーム16の端部に突設された伸縮支脚17の遊嵌可能なU字状の外開き開口部18Aを形成してある点は認める。
(七) 被告物件の構成Fと本件発明の構成Fの対比
本件発明における構成Fは、「<1>該外開き切欠まわりの側板下部に」、「<2>前記水平ビームの頂壁の受面を有する補強片」を一体状に設けることである。そしてその具体的態様は、本件発明の公報第5図に示されるとおりであり、同図の14、15が補強片である。右<1>における「側板下部」という場合の「側板」とは「筒状アームの側板」と解され、右<2>における「補強片」とはこの「筒状アームの側板」とは別構成をなす「補強片」のことであると解される。
一方、被告物件におけるサポート15は、基部側縦板13にはもちろんのこと、先端部内縦板12A・12A及び先端部外縦板12B・12Bのいずれにもその下部に一体的に設けられた「補強片」なるものは存在しない。
右のとおり、被告物件においては、水平板(蓋板)外開き開口部18Aの側板下部には、補強片に相当するものは存在しないので、右<1>の構成を有していない。また水平ビーム頂壁の受面は水平板(蓋板)厚板部7であって、補強片に相当するもので受けている構造ではないから、右<2>の構成も有していない。
したがって、被告物件は本件発明のFの構成を有していない。
(八) 被告物件の構成Gと本件発明の構成Gの対比
被告物件を本件発明との対比に当たり、トラッククレーンと称することについては、あえて争わない。
2 本件特許出願との関係について
本件特許出願における分割の経緯に照らして、本件発明の技術的範囲を以下のとおり、限定的に解釈すべきである。
(一) かすがい状支持部材を必須の要件とすべきかについて
(1) 本件発明の出願経過からして、本件発明が産業上利用し得る発明として成立するためにはかすがい状支持部材が必須であり、本件発明は、本来特許法二九条一項にいう産業上利用することのできる発明に当たらず、したがって本件特許は本来的に無効である。
(2) 本件明細書においては、この「極圧Q支承手段」としては「かすがい状支持部材18」のみが唯一の実施例として開示されているにすぎない。請求の範囲では「かすがい状支持部材」が含まれていないのに、実施例には「かすがい状支持部材」がなければ「トラッククレーンのアウトリガ」として機能しない(産業上利用することのできない)ものしか開示されていない。本件明細書では、「かすがい状支持部材」以外にこの「極圧Q支承手段」をいかに構成したらよいのかが、当業者が容易に理解し得る程度に記述されていない。
本件発明において、「極圧Q支承手段」として「かすがい状支持部材」以外に一切の開示がなく、しかもそれ以外のものを明細書から読みとることのできない現在の明細書の状態においては、「極圧Q支承手段」として「かすがい状支持部材」以外の何らかのものを想定し、それが特許請求の範囲中にあるものと理解するなどということはできない。
原告は、水平ビームを支承する役割のものは「かすがい状支持部材」に限られるわけではなく、バンドを用いる方法や水平ビームの案内部材を車体フレームに直接固着する方法等、周知自明の方法がいろいろあるから、本件発明は「かすがい状支持部材」を必須の構成としないものであっても何も問題はない旨主張するが、具体的にどのような構造のものを想定してそのようにいっているのか、それが周知自明であるというのにはいかなる根拠があるのか等については何ら明らかにするところがない。
(3) 本件発明は、特願昭五二-一〇六七九号を原々出願とし、これから分割された特願昭五五-六二七八一号を原出願として分割された。そして本件発明が出願された昭和六三年九月九日当時においては、原出願は特公昭六一-二二六七九号として出願公告されていた。したがって、本件発明は原出願の右公報の明細書に記載された発明の範囲を超えることができず、かつ原々明細書に開示された発明の範囲を超えることができない。
原出願も原々出願もトラッククレーンのアウトリガに関するものであって、その実施例は一つである。そしてトラッククレーンのアウトリガとして機能するためには、原々出願及び原出願の発明双方共にかすがい状支持部材が必須である。そして、右に述べたように「かすがい状支持部材」に替り得る自明の手段はない。
原出願については、出願公告後昭和六三年六月二三日付の拒絶理由通知書によって次のような拒絶理由が発せられた。「特許請求の範囲に本願発明の必須構成と認められる「かすがい状支持部材」が記載されていないので、発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないものと認められる。(本願唯一の実施例によると、本発明の目的効果を達成するために極圧Rと極圧Qを受ける手段として、Rはアーム7の側板で、Qはアーム7に枢着された“かすがい状支持部材”を設け、これらによりビーム3の張出量を大きくできる点が特徴と認められ、また上記“かすがい状支持部材”を設けることにより水平ビーム支持部材は肉薄の二重案内樋で軽重量とすることが可能になると認められる。したがって、上記「かすがい状支持部材」をアーム7に枢着することは必須構成と認められる。)」。出願人はこれを受けて昭和六三年九月九日付補正書で特許請求の範囲を補正し、かすがい状部材を発明の構成の一つとして明記するにいたった。
本件分割出願に係る本件発明では、特許請求の範囲にかすがい状部材が記載されていないため、形式的には技術的範囲が広くなり、極圧Qを支承する手段は何でもよいかのようにみえるが、分割出願の性質からして、原々出願、原出願の明細書に開示された範囲、もしくはこれから自明の範囲を超えることはできない。よって本件発明において本来的に必須の要素とされるべき「かすがい状支持部材」の存在しない被告物件は、本件発明の技術的範囲に属するものではない。
(二) 水平ビームからの極圧について
(1) 極圧Qについて
本件発明はトラッククレーンのアウトリガであり、極圧Qを支承する手段が必須である。そして本件明細書はもちろん、原々明細書及び原明細書には、かすがい状支持部材以外に極圧Qを支持する手段は記載されていない。
そして本件発明における「二重樋状案内部材」は、原々出願における案内部材(二重案内樋)のことであるが、この部材は「アウトリガ使用時の強度保持機能を持たせず」とされている。したがって、この効果を奏するためには、原告が主張する「バンドを用いる方法や案内部材を車体フレームに直接固着するような方法」では、目的を達することができない。右の効果を奏する手段として、かすがい状支持部材に替る極圧Qを支承する方法で自明の手段は見当らない以上、極圧Qを支承する方法はこれに限られる。
(2) 原々出願の「二重樋状案内部材」の強度保持機能について
原告は、本件発明のものは「かすがい状支持部材」を有するものに限定されないから、本件発明のものは「二重樋状案内部材」に強度保持機能がないものに限定されるわけではないと主張する。
しかし、本件発明にいう二重樋状案内部材は、原々出願の案内部材(二重案内樋)と同じものであり、原々出願において案内部材(二重案内樋)に強度保持機能のないことが明記されている。
また、本件発明が分割出願である以上、特許請求の範囲から「かすがい状支持部材」の記載を外しても、原々出願及び原出願の明細書に開示されている「二重樋状案内部材」の技術上の属性(すなわち「強度保持機能」を有しない、という属性)を変質させることはできない。
(3) 原告は、無効審判における答弁の中で、「二重樋状案内部材」について、次の<1>ないし<6>のような趣旨を述べている。したがって、「本件発明のものは『二重樋状案内部材』に強度保持機能がないというものに限定されるわけではないのである」、「水平ビームの極圧Rの一部は筒状アームとかすがい状支持部材を通して二重樋状案内部材を上方に変形する」等、過去の原告自らが述べた趣旨に反する主張を本訴において行うことは信義則に照らして許されない。
<1> 水平ビーム頂壁からの極圧Rは「二重樋状案内部材」を介することなく車体フレームへ伝達される。
<2> 本件発明は、極圧Rを従来例のアウトリガのように水平基筒を介して車体フレームに伝達させるものとは異なる。
<3> 本件発明における「二重樋状案内部材」では(従来例の水平基筒の頂板に当るものがないから)その頂部では極圧Rを受承しない。
<4> 本件発明における「二重樋状案内部材」は、原々出願の図面記載の符号23の付された部分であって、同明細書中の「案内部材(二重案内樋)」を指すことは明白な事実であり、・・・・・・従来のアウトリガの水平基筒の頂板対応部を欠如するものである。
<5> 被請求人(原告)は、二重樋状案内部材(本件発明)と水平基筒(従来例のアウトリガ)とを峻別し・・・・・・両者を混同する主張をしない。
<6> 本件特許明細書・・・・・・に関する限り、頂部の開放しないものが本件発明の二重樋状案内部材に当る旨の記載は全くなされておらず、また、そのような誤解を招く記載はない。
3 公知技術との関係について
公知技術に照らして、本件発明の技術的範囲を解釈するならば、以下のとおり、被告物件は、本件発明の技術的範囲に属さない。
(一) 引用例1については、「水平ビームを収容する水平基筒を車体巾と同巾に設け、水平基筒の上板部に開口部を設けて、水平ビームの先端に設けられた伸縮支脚を車体巾内に収容するようにした、トラッククレーンにおけるアウトリガ」は本件発明の原々出願前に既に公知であった。
すなわち、<1>本件発明のものも、乙第七号証の一のものも、いずれも極圧Rは、車体幅一杯に位置する部分(本件発明では「筒状アームの外端部」、乙第七号証の一のものでは「ビーム案内部材」の外端部)に負荷されていること、<2>確かに、引用例1では、サポートが車体幅一杯に延びていない分だけ「被告物件」の場合より「極圧R」に対する耐性が小さいが、「極圧R」が「ビーム案内部材」の外端部に負荷されていることは明らかである。
(二) 引用例2について、昭和四一年発行のエンジニアリング アンド コンストラクション ワールド 四六頁(乙一一号証)には、ハイドロコンのヘブリディーンというトラッククレーンにおいて、水平基筒が車幅いっぱいに設けられ、その先端部までサポートに相当する補強部材が延びている構成が示されている。しかも、その伸縮支脚が車幅内に収容できるように、補強部材には外開き開口部が設けられており、また伸縮支脚が車幅内に収容されるのであるから、水平基筒の上板にも外開き開口部が設けられていることは明らかである。なお、水平基筒の下板に外開き開口部が設けられているかどうかは定かではないが、本件発明においても「二重樋状案内部材」の下部に外開き開口部を設けることは要件とされていないのであるから、この点は本件発明との対比上問題とならない。
また、引用例2について、ハイドロコンのヘブリディーン15トン型のカタログ(乙一二号証)には、右に述べたアウトリガの構造がより鮮明に示されている。さらに、乙第一三号証は実開昭五〇-二三八一〇号公開公報であり、乙第一四号証は特公昭四七-四六七三号特許公報であるが、水平ビームを収容する水平基筒の端部にまで、補強部材が延びている構造が示されている。
(三) 以上のとおり、本件発明は、引用例1、2で示された公知の構成を技術的範囲に含むと解すべきではない。本件発明における、従来技術と異なる点は、筒状アームと二重樋状案内部材を分離し、二重樋状案内部材に応力がかからないようにしたことと理解すべきである。
第三 争点に対する判断
一 原告の主張1(一)及び(三)について検討する。すなわち、<1>被告物件の構成Aにおける「二重筒状体」が、本件発明の構成Aにおける「二重樋状案内部材」に当たるか否か、及び<2>被告物件の構成A及びBにおける「サポート」と「二重筒状部林」を一体にしたものが、本件発明の構成A及びBにおける「筒状アーム」及び「二重樋状案内部材」に当たるか否かについて判断する。
1 本件発明の構成Aは、「車体フレーム下側の横方向に設けた二重樋状案内部材の両案内路の互いに対向する一端部上側位に、」というものである。特許請求の範囲において、これに続く記載は、「端縁が当該車体巾一杯に延びる筒状アームを配し、該筒状アームの基部を前記車体フレームの側壁部に固着すると共に、前記筒状アームの底板下面が、前記両案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形状をなす水平ビーム頂壁の受面として構成され、」というものである。確かに、特許請求の範囲における記載では、二重樋状案内部材と筒状アームとの結合関係については、必ずしも明らかに記載されていない。
しかし、本件明細書の発明の詳細な説明欄の記載、本件特許権の無効審判の過程における原告の主張に照らすならば、本件発明の構成Aは、二重樋状案内部材が筒状アームと一体に結合される結果、強度保持機能を有するような構成のものは含まれないものと解すべきである。
2 本件明細書の発明の詳細な説明の記載
(一) 「発明が解決しようとする課題」の項には、次の記載がある。
(1) 「従来のトラッククレーン等の特殊車両におけるアウトリガにあっては、水平ビーム30端部の伸縮支脚4に発生する反力Pを水平基筒31、箱状ブラケット32、ブラケット33を介して車体フレーム1側に伝達する構成のものであり、しかも、・・・張出し時における水平ビーム30と水平基筒31間に発生する強大な曲げモーメントに耐え、それを車体フレーム1側に伝達可能にする必要があり、各部、殊に、水平基筒31全体を肉厚にする必要があり、その結果、アウトリガ全体の重量増を招くことになり、これは近時の・・・車軸荷重の制限強化に照らし、好ましくないという問題があった。
もっとも、特殊車両におけるアウトリガを、その水平ビームを伸張させた際、水平ビームの内端部により下方に押圧されて水平基筒の底壁部に発生する極圧を分散させるため、バンド又はコ字状金具等の補強手段を、伸長時の水平ビーム内端の当接する水平基筒底壁の外側に構じた(原文のまま、以下同じ)ものは、・・・等に一応示されてはいるものの、これらの従来例の何れにも、水平基筒の端部側に補強手段を構ずることについては何等の配慮がなされておらず、まして、この水平基筒の端部に対応する・・・筒状ブラケット32の端部側に発生することになる極圧R対策は構じられていないという問題があった。
すなわち、・・・従来の特殊車両におけるアウトリガにあっては、水平ビーム30を支承する水平基筒31全体の肉厚を増すか、又は、水平ビーム30を伸長させた状態において、その内端の当接部近傍の底板外側部まわりにバンド又はコ字状金具等の補強片を配することにより、水平基筒30の中央部の曲げ剛性等を如何に増加させるかの対策が構じられていたに留まり、・・・」(本件明細書4欄16行~5欄9行)
(2) 「この発明は、このような従来例に鑑み、・・・により、アウトリガを車体フレームから取外すような煩わしさを伴なうことなく、前記のような課題を解決できるトラッククレーンにおけるアウトリガを提供しようとするものである。」(本件明細書5欄34行~6欄2行)
(二) 「実施例」の項には、次の記載がある。
(1) 「前記水平底板9の基部は車体フレーム1の下面に溶着される。この底板9と協働して水平ビーム3を摺動自在に支持するかすがい状支持部材18の上部開放端が、筒状アーム7基部の側板10、11にピン19により止着される。」(本件明細書8欄3~7行)
(2) 「23は車体フレーム1の両側のかすがい状支持部材18、18に支持させた水平ビーム3の、少くと共(原文のまま)、底部を案内する案内路23D、23Dを構成する二重樋状案内部材で、該二重樋状案内部材23により両端のかすがい状支持部材18、18が剛に連結される。」(本件明細書8欄17~22行)
(3) 「なお、本件発明者の調査によれば、このアウトリガの使用時に、二重樋状案内部材23の中央隔壁板23bに発生する応力は極めてちいさいから、この二重樋状案内部材23にはアウトリガの使用時における強度保持機能を持たせる必要はなく、単に水平ビーム3の案内機能や水平ビーム3伸縮時における支持部材18の揺れ止め機能等を持たせるだけの軽量に構成でき、この実施例のものでは、従来例のように、水平ビームに係る荷重を、一旦水平ビームの支持基筒(二重樋状案内部材)により受止めた後、これを更に車体フレームに伝達するものに比し、トラッククレーン等の重量をかなり(5%程度)軽減でき、しかも、伸縮支脚4、5を含めた水平ビーム3、3の長さを、車体横巾一杯にすることができる。」(本件明細書10欄6~20行)
(三) 以上の記載を前提に検討する。
「発明が解決しようとする課題」の項で、従来のアウトリガについて、「張出し時における水平ビーム30と水平基筒31間に発生する強大な曲げモーメントに耐え、それを車体フレーム1側に伝達可能にする必要があり、各部、殊に、水平基筒31全体を肉厚にする必要があり」、「従来の特殊車両におけるアウトリガにあっては、水平ビーム30を支承する水平基筒31全体の肉厚を増すか、又は、水平ビーム30を伸長させた状態において、その内端の当接部近傍の底板外側部まわりにバンド又はコ字状金具等の補強片を配することにより、水平基筒30の中央部の曲げ剛性等を如何に増加させるかの対策が構じられていたに留まり、」等の記載があることに鑑みれば、本件明細書において、解決すべき課題を有する従来技術のアウトリガとしては、水平ビームからの強大な曲げモーメントを、水平基筒の肉厚を増すなどの方法により水平基筒で支承してから、ブラケットを通じて車体フレームに伝達する構造のものが念頭に置かれていたものであることが明らかである。
また、本件明細書の「発明の詳細な説明」欄の実施例における記述では、二重樋状案内部材と筒状アームとの結合関係に関し、明確な説明がされている。右欄によれば、車体フレーム1の下面に基部が溶着された水平底板9とかすがい状支持部材18とが協働して水平ビーム3を摺動自在に支持し、二重樋状案内部材23により両端のかすがい状支持部材が剛に連結されるものであること、二重樋状案内部材23の中央隔壁板23bに発生する応力は極めて小さいから、二重樋状案内部材23にはアウトリガの使用時における強度保持機能を持たせる必要はなく、単に水平ビーム3の案内機能や水平ビーム3伸縮時における支持部材18の揺れ止め機能等を持たせるだけの軽量に構成でき、従来例のように、水平ビームに係る荷重を、一旦水平ビームの支持基筒(二重樋状案内部材)により受け止めた後、これを更に車体フレームに伝達するものに比し、トラッククレーン等の重量をかなり軽減できること等の記載があることに鑑みれば、右実施例としては、明確に、二重樋状案内部材にはアウトリガ使用時の強度保持機能を持たない、単に水平ビームの案内機能や水平ビーム伸縮時における支持部材の揺れ止め機能等を持たせるだけの軽量な構成が記載されているものである。
以上のとおり、本件明細書における、<1>解決すべき課題を有していた従来技術のアウトリガの構成、及び<2>水平二重樋状案内部材と筒状アームとの結合関係についての唯一の明確な記載である実施例についての各記載を参酌すれば、本件発明の構成Aは、二重樋状案内部材が筒状アームと一体に結合される結果強度保持機能を有するような構成のものを含まないものと解すべきである。
3 本件特許権の無効審判の過程における原告の主張
(一) 原告は、本件特許権の無効審判事件の再答弁書の中で、被請求人として、「二重樋状案内部材」について次のような主張をしていることが認められる(乙九)。
<1> 「本件特許発明の解決課題は二重樋状案内部材をどのように車体フレームへ装着するべきかにあるのではなく、水平ビームからの極圧Rを従来のアウトリガの水平基筒に代わる二重樋状案内部材を介することなく、基部を車体フレームに固定した筒状アームの車体巾一杯に伸びる底板端部の外開き切欠まわりの補強片で受承し、同筒状アームを介して車体フレームへ伝達することにより、二重樋状案内部材の肉厚を増すことなく、換言すればアウトリガの重量増を招くことなく、しかも、アウトリガを車体フレームから取外すことなく水平ビームを車体巾一杯に伸長させてアウトリガの安定性向上を図る一方、伸縮ビームを車体巾内に伸縮可能にする点にあり、」(2頁20~28行)。
<2>「本件特許発明は二重樋状案内部材をどのように車体フレームへ取付けるべきかを解決課題とするものではなく、水平ビームの頂壁からの極圧Rを二重樋状案内部材を介することなく、基部を車体フレームに固定した筒状アームの車体巾一杯に伸びる底板端部の外開き切欠まわりの補強片で受承し、当該筒状アームを介して車体フレームへ伝達することにより、アウトリガとしての安定性が高く、軽量なものを提供することを解決課題とするものである。」(5頁8~13行)
<3>「本件特許発明の解決課題は二重樋状案内部材を車体フレーム側に如何様に取付けるべきかの点にはなく、通常のアウトリガに発生する極圧P、Q、R中の極圧Rを、第9~12図に示す従来例のアウトリガのように水平基筒を介して車体フレームに伝達させるものとは異り、同極圧Rを従来例の水平基筒に対応する二重樋状案内部材を介することなく、基部を車体フレームの側壁に固定した筒状アーム(特許請求の範囲記載の構成)の車体巾一杯に延びる底板端部の外開き切欠まわりの補強片で受承し、該筒状アームを介して車体フレームに伝達させるようにしたものであって、」(9頁1~8行)
<4>「本件特許発明においてはアウトリガにおける極圧P、Q、Rのうち、極圧Rをその特許請求の範囲に記載した、基部を車体フレームに固定した筒状アームの車体巾一杯に延びる底板端部の外開き切欠まわりの補強片で受承し、該筒状アームを介して車体フレームへ伝達させるようにしたものであり、係る構成の採用により水平ビームの案内部材としての「二重樋状案内部材」が従来の水平ビームの案内部材としての水平基筒とは異り、その頂部が欠落して開放する構成となり、この二重樋状案内部材では(従来例の水平基筒の頂板に当るものがないから)その頂部では前記極圧Q[Rの誤りと認められる。]を受承せず、筒状アームの底板端部の外開き切欠まわりの補強片で受承し、同筒状アームを介して車体フレームへ伝達するもので、その結果アウトリガを従来例より軽量に構成可能にする等の効果を奏させたものである。」(10頁7~17行)
<5>「本件特許発明における二重樋状案内部材は、本願特許出願についての原々及び原特許出願の願書に最初に添付された図面記載の符号23の付された部分であって、それらの願書に最初に添付された明細書中における「案内部材(二重案内樋)」を指すことは明白な事実であり、また、この二重樋状案内部材ないし案内部材(二重案内樋)が、水平ビームの案内機能を奏するものであって、この二重樋状案内部材は従来のアウトリガの水平基筒の頂板対応部を欠除するものであるから、アウトリガにおける極圧P、Q、R中の極圧Rが、この二重樋状案内部材には伝達さ[れ]ず、」(12頁8~15行)
<6>「請求人は、被請求人が二重樋状案内部材と水平基筒(例えば、第11、12図の符号31を付したもの)とを混同しているかのような主張をされるようであるが、本件特許発明の実施例を示す図面と明細書の発明において、二重樋状案内部材(本件特許発明)と水平基筒(従来例のアウトリガ)とを峻別していることは明らかで、また、被請求人は答弁書及び再答弁書においても両者を混同するような主張をしない。」(12頁24行~13頁1行)
<7>「本件特許明細書中における「二重樋状案内部材23は肉薄の断面が長方形状をなす軽重量のものとして構成され」が、「二重樋状案内部材23は肉薄の断面が『頂部の開放する』長方形状をなす軽重量のものとして構成され」の趣旨であることは答弁書において述べた通りであり、厳密にはこの記載に多少明瞭性を欠くきらいのあることは否定できないとしても、本件特許明細書及び添付図面に示す本件特許発明の実施例に関する限り(前記の多少明瞭性を欠くきらいのあることを否めない記載のあることは別として)、頂部の開放しないものが本件特許発明の二重樋状案内部材に当る旨の記載は全くなされておらず、また、そのような誤解を招く恐れのある記載はない」(16頁8~16行)
(二) 以上のとおり、原告は、本件発明は、極圧Rを従来例のアウトリガのように水平基筒を介して車体フレームに伝達させるものとは異なり、二重樋状案内部材は、従来例の水平基筒の頂板対応部を欠如するものであるから、その頂部では極圧Rを受承せず、水平ビーム頂壁からの極圧Rは、二重樋状案内部材を介することなく車体フレームへ伝達されるものであり、本件特許明細書においては、頂部の開放しないものが本件発明の二重樋状案内部材に当る旨の記載は全くなされていない旨を明確に述べている。
このような原告の無効審判における主張は、本件発明の構成Aには、二重樋状案内部材が筒状アームと一体に結合される結果強度保持機能を有するような構成のものが含まれないという前記の解釈を裏付けるものということができる。
4 これに対し、原告は、次のように、「筒状アーム」と「樋状案内部材」とを一体にしたものも、本件発明の技術的範囲に含まれると考えてよい旨主張するが、以下に検討するとおり、右主張は、前提において理由がない。
(一) 原告は、「樋状の案内部材」とその上にある「外開き切欠きを有する筒状アームの底板」とが一体に固着されて、「筒状アームの底板」によって案内部材に蓋がされている部材も、本件発明の「樋状」の構成を有しているというべきであると主張する。すなわち、極圧Rの伝達について、本件発明の「二重樋状案内部材」が「樋状」の構成を有しているからといって、水平ビームの極圧Rがこの「二重樋状案内部材」に一切伝えられないわけではなく、水平ビームからの極圧Rが二重樋状案内部材に伝えられないというのは本件発明の実施例においてのことであり、本件発明自体の作用効果ではない(現に、本件発明の実施例のものにおいても、二重樋状案内部材に極圧Rの一部が伝えられる。)旨主張する。
しかし、前記のとおり、<1>「発明が解決しようとする課題」の項の記載に鑑みれば、解決すべき課題を有する従来技術のアウトリガとしては、水平ビームからの強大な曲げモーメントを、水平基筒の肉厚を増すなどの方法により水平基筒で支承してから、ブラケットを通じて車体フレームに伝達する構造のものが念頭に置かれていたものであることが明らかであること、<2>二重樋状案内部材と筒状アームとの結合関係に関する唯一の記載である「実施例」に、明確に、二重樋状案内部材にはアウトリガ使用時の強度保持機能を持たせない、単に水平ビームの案内機能や水平ビーム伸縮時における支持部材の揺れ止め機能等を持たせるだけの軽量な構成が記載されていることからすれば、本件発明の構成Aの二重樋状案内部材は、その上の筒状アームと一体に固着結合される結果強度保持機能を有するような構成のものを含まないものと解すべきである。
原告は、本件発明の実施例のものにおいても、極圧Rの一部が二重樋状案内部材に働く旨主張するが、そのような点を前提としても、前記の解釈を左右しない。
(二) 原告は、無効審判請求事件の再答弁書の記載について、水平ビームの頂壁からの極圧Rを外開き切欠を有する筒状アームの底板端部で直接受け、この水平ビームの頂壁と、外開き切欠を有する筒状アームの底板の間に案内部材が介在しないということを述べたにすぎない旨主張する。
しかし、再答弁書中の前記のような各記載に鑑みれば、本件発明における「二重樋状案内部材」は、アウトリガを従来例より軽量に構成可能にする等の効果を奏させるため、従来例の水平基筒の頂板対応部を欠除するものであって、その頂部では極圧Rを受承せず、水平ビーム頂壁からの極圧Rは、二重樋状案内部材を介することなく車体フレームへ伝達されるものであることを明確に述べているものというべきである。したがって、右記載が、水平ビームの頂壁と、外開き切欠を有する筒状アームの底板の間に案内部材が介在しないという当然のことを述べたにすぎないとする原告の主張は採用できない。
5 以上のとおりの本件発明の構成Aについての解釈を前提として、これと被告物件の構成Aとを対比する。
被告物件の構成Aは、「車体フレーム下側の横方向に車体幅一杯に延びた『底板3と両側の側板4と中央仕切り板5と水平板(蓋体)78』からなる二重筒状体9を有し、右二重筒状体9内を水平ビームが伸縮案内されるようになっていて、二重筒状体の互いに対向する水平板(蓋体)延出し部分78Aの上側位に、」というものであり、これに続く構成としては、「車体幅一杯に延びる底のないサポート15が水平板(蓋板)延出し部分78Aと一体に溶接固着されている。サポート15の基部側端縁を車体フレーム2の側壁部2Aに溶接固着している。底のあいたサポート15の下にある水平板(蓋板)78の下面が、二重筒状体9内の案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形を成す水平ビーム頂壁の受面として構成されている。」というものである。
以上の構成によれば、被告物件においては、水平ビームからの極圧Rは、まず一度すべて二重筒状体の一部を構成する水平板(蓋体)に伝えられてから、さらに、サポートを経て車体フレームに伝えられることが明らかである。
したがって、被告物件の構成Aにおける二重筒状体は、水平ビームの案内機能や水平ビーム伸縮時における支持部材の揺れ止め機能等を持つだけではなく、極圧Rを支承する強度保持機能を有するものである。 したがって、本件発明の構成Aに、二重樋状案内部材が筒状アームと一体に結合される結果強度保持機能を有するような構成のものが含まれないことは、前記のとおりであるから、被告物件の構成Aは、本件発明の構成Aを充足しない。
二 以上のとおり、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件請求は、理由がない。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 沖中康人)
<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告
<12>特許公報(B2) 平2-12781
<51>Int. Cl.5B 60 S 9/12 B 66 C 23/78 識別記号 C 庁内整理番号 6637-3D 8408-3F <21><44>公告 平成2年(1990)3月27日
発明の数 1
<56>発明の名称 トラツククレーンにおけるアウトリガ
<21>特願 昭63-225259 <55>公開平1-195162
<22>出願 昭52(1977)9月7日 <43>平1(1989)8月7日
<52>特願 昭55-62781の分割
<72>発明者 山本克宏 埼玉県大宮市日進町2の70の1
<71>出願人 株式会社加藤製作所 東京都品川区東大井1丁目9番37号
<74>代理人 弁理士 御園生芳行
審査官 田中英穂
<57>特許請求の範囲
1 車体フレーム下側の横方向に設けた二重樋状案内部材の両案内路の互いに対向する一端部上側位に、端縁が当該車体巾一杯に延びる筒状アームを配し、該筒状アームの基部を前記車体フレームの側壁部に固着すると共に、前記筒状アームの底板下面が、前記両案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形状をなす水平ビーム頂壁の受面として構成され、かつ、前記筒状アームの底板端部に、前記水平ビーム端部に突設された伸縮支脚上部の遊嵌可能な外開き切欠を形成すると共に、該外開き切欠まわりの側板下部に、前記水平ビーム頂壁の受面を有する補強片を一体状に設けたことを特徴とするトラツククレーンにおけるアウトリガ。
2 前記底板端部の外開き切欠まわりの側板下部に、一体状に設けた補強片の下縁が下方に延長され、前記水平ビームの頂壁側面のガイド片を構成したことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のトラツククレーンにおけるアウトリガ。
3 前記筒状アームの底板端部の外開き切欠より内側位に、該筒状アームの底板、頂板、側板を連結する隔壁板を溶着したことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のトラツククレーンにおけるアウトリガ。
発明の詳細な説明
(産業上の利用分野)
この発明は、トラツククレーンにおけるアウトリガに関するものである。
(従来の技術)
従来のトラツククレーン等の特殊車両におけるアウトリガとしては、例えば、第9図ないし第12図に示すようなものがある(類似構造のものについては、実公昭50-39538号公報参照)。
このものは、トラツククレーンKの車体フレーム1の狭小部1Aの下側に、中央壁31Aを共通にする一対の水平基筒31、31を配し、該水平基筒31、31の左右両側上部に固定した吊金具32A、32Aを有する箱状ブラケツト32、32を、車体フレーム1の狭小部1Aに溶着したブブラケツト33、33にビン34、34着すると共に、前記水平基筒31、31に、端部に伸縮支脚4、4を有し、互いに逆方向に伸縮する一対の水平ビーム30、30を設けたものである。
このトラツククレーンKを目的とする荷役作業場所に移動させた後、水平ビーム30、30を伸長させると共に、伸縮支脚4、4を伸長させてトラツククレーン1を地面Gに支承し、伸縮ブーム28を伸縮させると共にその起伏角θを調整し、かつ、クレーン基台29をその中心Oまわりに回動させ、図示しないウインチによりローブ28Aを巻き上げ、下げして荷役作業をするもので、水平ビーム30、30の先端に加わるアウトリガ負荷P(第11図ではその反力を示す)により、水平ビーム30、30に曲げモーメントが発生し、水平ビーム30、30と水平基筒31、31との重なり部分(長さD)の両端付近に極圧Q、Rが発生し、これが箱状ブラケツト32、32、ピン34、34、ブラケツト33、33を介して車体フレーム1に伝達される。
そして、この水平ビーム30の長さをMとすれば、前記各極圧Q、Rの作用個所におけるモーメントの釣合により、
PM=RD
P(M-D)=QD
∴R=P+Q
となり、極圧Rは極圧Qよりアウトリガの反力Pたけ大きくなる。
また、このようなトラツククレーンKにおける荷役作業可能な限界モーメント曲線は、第10図のように伸縮ブーム28が、車体の後(同図右)側に位置する場合35より、車体側方(同図の上下側)に位置する場合38が小さくになり、この横方向限界モーメント38が、当該トラツククレーンの限界モーメントとされるのが通常である。
なお、図中、36は運転室、37はエンジン、Aは水平ビーム30、30の伸長時における伸縮支脚4、4の間隔、Bは車巾、Hは車高である。
また、前記実公昭50-39538号公報には、水平ビーム30、30の端部に伸縮支脚4、4を回動可能に装着したアウトリガについて記載されているが、ここでは省略した。
また、トラツククレーンの車体端部に取付けられ、連結ピンの嵌合穴を有する互いに平行なアウトリガラグと、該平行なアウトリガラグ間に挿入可能で、連結ピンの嵌合穴を有するジヤツキシリンダ付アウトリガ本体と、車体に支持され、両側に油圧で出没可能な連結ピンを有する油圧シリンダとからなり、油圧シリンダで連結ピンを出没させることにより、車体フレームに対してアウトリガを装脱可能とし、走行時には車体フレームから取外して車巾の増加を防ぐ一方、クレーン作業時には車体フレームに取付け、その限界転倒モーメントを大きくするものの着脱を迅速に行えるもの(実開昭51-38817号公報参照)も知られている。
なお、特殊車両におけるアウトリガの水平ビームを伸長させた状態において、負荷により水平ビームの内端が下降して、水平案内筒の底壁部を下方へ押圧する極圧Qを分散させるため、水平基筒の底壁下部まわりにバンド掛けしたもの(特公昭45-26247号公報参照)、トラツククレーンの水平基筒の底壁下側(この公報には、デイフアレンシヤルギヤケースの両側部位に設けたものが図示されている)から、その前後壁部にかけて帯状補強片を溶着したもの(実開昭50-23810号公報参照)、水平基筒(機体)の中央部底板下側に広巾の補強板を溶着したもの(実公昭45-30483号公報参照)、アウトリガ本体(水平基筒)の底板下位と同底板前後の側壁中央近傍位まで延びるコ字状の補強部材を溶着したもの(実開昭50-67511号公報参照)等も知られている。
(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、前記第9図ないし第12図に示すようなの従来のトラツククレーン等の特殊車両におけるアウトリガにあつては、水平ビーム30端部の伸縮支脚4に発生する反力Pを、水平基筒31、箱状ブラケツト32、ブラケツト33を介して車体フレーム1側に伝達する構成のものであり、しかも、車体横方向の限界転倒モーメント38の増大を図るため、張出し時における水平ビーム30と水平基筒31間に発生する強大な曲げモーメントに耐え、それを車体フレーム1側に伝達可能にする必要があり、各部、殊に、水平基筒31全体を肉厚にする必要があり、その結果、アウトリガ全体の重量増を招くことになり、これは近時の道路交通法規による車軸荷重の制限強化に照らし、好ましくないという問題があつた。
もつとも、特殊車両におけるアウトリガを、その水平ビームを伸長させた際、水平ビームの内端部により下方へ押圧されて水平基筒の底壁部に発生する極圧を分散させるため、バンド又はコ字状金具等の補強手段を、伸長時の水平ビーム内端の当接する水平基筒底壁の外側に構じたものは、例えば、前記特公昭45-26247号公報、実公昭45-30483号公報、実開昭50-23810号公報、実開昭50-67511号公報等に一応示されてはいるものの、これらの従来例の何れにも、水平基筒の端部側に補強手段を構ずることについては何等の配慮がなされておらず、まして、この水平基筒の端部に対応する前記第9図ないし第12図に示した筒状ブラケツト32の端部側に発生することになる極圧R対策は構じられていないという問題があつた。
すなわち、前記第9図ないし第12図に示したものを含め、従来の特殊車両におけるアウトリガにあつては、水平ビーム30を支承する水平基筒31全体の肉厚を増すか、又は、水平ビーム30を伸長させた状態において、その内端の当接部近傍の底板外側部まわりにバンド又はコ字状金具等の補強片を配することにより、水平基筒30の中央部の曲げ剛性等を如何に増加させるかの対策が構じられていたに留まり、水平基筒30の端部や、これに対応する筒状ブラケツト32の端部に切欠きを設ける等、同部の強度低下に結び付くことになるような示唆は全く見られず、その結果として、アウトリガの重量増を招き、ひいては、トラツククレーン等の荷役能力の低下を招くという問題があつた。
また、水平基筒31内に水平ビーム30を格納させて、水平ビーム30端部に設けた伸縮支脚4を車巾B内に納めようとすると、水平基筒31の長さEが、車巾Bから少なくとも伸縮支脚4の外径dの2倍を引いた長さとなる(第10図のアウトリガでは、車体フレーム1の両側に凹部を形成した狭小部1Aに、水平ビーム30端部の伸縮支脚4が収納される)ため、これに応じて水平ビーム30、30の最大伸長量が減小し、その伸長時における両側伸縮支脚4、4の最大間隔Aが、例えば、前記実開昭51-38817号公報に記載されたアウトリガを着脱可能にすることにより、水平基筒31の長さを車巾Bにしたものより減小することになり、ひいては、トラツククレーンKの限界転倒モーメントが相対的に減小し、荷役作業時、殊に、伸縮ビーム28の起伏角θの小さい範囲におけるトラツククレーンKの支承安定性が低下するという問題があつた。
この発明は、このような従来例に鑑み、特殊車両のアウトリガの水平ビームを支承する二重樋状案内筒の端部に、前記水平ビームの頂壁に当接する受面を備える底板を有する筒状アームを設けると共に、該筒状アームの底板端部に、前記水平ビームの収縮時に、その端部に設けた伸縮支脚の上部が遊嵌する外開き切欠を設け、かつ、該外開き切欠まわりの側板下部に、前記側板下部に前記水平ビーム頂壁の受面を有する補強片を一体状に設けることにより、アウトリガを車体フレームから取外すような煩わしさを伴なうことなく、前記のような課題を解決できるトラツククレーンにおけるアウトリガを提供しようとするものである。
(課題を解決するための手段)
この発明は、前記のような従来例の課題を解決するため、車体フレーム下側の横方向に設けた二重樋状案内部材の両案内路の互いに対向する一端部上側位に、端縁が当該車体巾一杯に延びる筒状アームを配し、該筒状アームの基部を前記車体フレームの側壁部に固着すると共に、前記筒状アームの底板下面が、前記両案内路に伸縮可能に挿入され、断面が長方形状をなす水平ビーム頂壁の受面として構成され、かつ、前記筒状アームの底板端部に、前記水平ビーム端部に突設された伸縮支脚上部の遊嵌可能な外開き切欠を形成すると共に、該外開き切欠まわりの側板下部に、前記水平ビーム頂壁の受面を有する補強片を一体状に設けたものであり、また、前記底板端部の外開き切欠まわりの側板下部に、一体状に設けた補強片の下縁が下方に延長され、前記水平ビームの頂壁側面のガイド片を構成したものであり、さらに、前記筒状アームの底板端部の外開き切欠より内側位に、該筒状アームの底板、頂板、側板を連結する隔壁板を溶着したものである。
(作用)
この発明は、前記のような構成を有するから、車体フレームの下部横方向に設けた二重樋状案内部材の案内路に挿入した水平ビームを、互いに反対方向に伸長させた後、水平ビーム端部の伸縮支脚を伸長させ、車体を地上に支承してクレーンによる荷役作業をし、また、伸縮支脚を収縮させた後、水平ビームを収縮させる等、従来のトラツククレーンにおけるアウトリガと同様な作用をする外、水平ビームの収縮時に、水平ビームの端部に設けた伸縮支脚が、車体フレームの側壁部に溶着され、車体巾一杯に延びる筒状アームの底板端部に形成された外開き切欠内に嵌入して車巾内に格納され、しかも、筒状アームの底板端部の外開き切欠まわりの側板下部に、一体状に設けられた前記水平ビーム頂壁の案内面付補強板により、筒状アーム端部の曲げ剛性が確保され、水平ビーム伸長時の負荷による案内アーム端部の下向極圧が、車巾一杯に延びる側板下部の補強板により支承される。
また、前記外開き切欠まわりの側板下部に、一体状に形成され、水平ビームの頂面の受面付補強片の下部から下方に延び、同部の曲剛性を増大するガイド片により、前記水平ビームの頂壁側部がガイドされ、横ぶれなく伸縮する。
(実施例)
以下、この発明に係るトラツククレーンにおけるアトリガの実施例を、第1図ないし第8図を参照して説明する。なお、第9図ないし第12図に示した従来例と共通する部分には、同一名称及び同一符号を用いる。
第1図ないし第8図において、1は大型トラツククレーンの車体フレームで、該車体フレーム1の前後は、それぞれ適宜の車輪懸架装置を介して車輪2で地面G上に支承される。3は長方形断面の筒状水平ビームで、その先端には油圧により伸縮する伸縮支脚としての油圧シリンダ4が固着され、該油圧シリンダ4のシリンダロツド5の下端に接地板6が着脱自在に装着される。この水平ビーム3は2個一組が互いに逆向きに、車体フレーム1下側に、後述の二重樋状部材23により、横方向に摺動自在に支承される。
7、7は筒状アームで、該筒状アーム7、7は、その基部が車体フレーム1の左右(第2図)両側壁部にそれぞれ溶着され、その端部が車体の横巾一杯に突出する。両筒状アーム7、7は共に、頂板8、底板9、側板10、11を互いに溶着して筒状に構成され、その長手方向の中間に補強用の隔壁板12が溶着され、これにより筒状アーム7の車体フレーム1へ溶着される基部側が、曲げ剛性の高い箱状に構成される。13は前記隔壁板12位より先端側の底板9に設けた外開き切欠で、該切欠13には、水平ビーム3の頂面より上方へ突出する油圧シリンダ4が遊嵌する。
筒状アーム7の側板10、11は、第5図にのように水平ビーム3の両側壁の直上に位置する。また、筒状アーム7の隔壁板12より先端側の側板10、11の下端には、水平ビーム3の頂面に当接する受面14A、15A付補強片14、15が一体状に設けられ、また、この補強片14、15の下縁外側から、水平ビーム3の頂部側壁のガイド片14B、15Bが下方へ突設される。16は前記側板11の隔壁板12取付部分と頂板8とに溶着したブラケツトで、該ブラケツト16は同時に車体フレーム1に溶着される。17はアーム7の先端に突設され、隣接する水平ビーム3の伸縮反力を受け止める支持梁である。
前記水平底板9の基部は車体フレーム1の下面に溶着される。この底板9と協働して水平ビーム3を摺動自在に支持するかすがい状支持部材18の上部開放端が、筒状アーム7基部の側板10、11にピン19により止着される。20は前記ピン19を囲んで両側板10、11間を補強連結する套管である。
各かすがい状支持部材18、18は、第6図ないし第8図のように、水平ビーム3の支持用底辺部分18a、18aの両端にそれぞれ水平案内用の竪杆部分18b、18bを直立固定してなり、両側竪杆部分18b、18bの水平ビーム3張出部分側にそれぞれブラケツト21、21を突出固着し、該ブラケツト21、21の先端に案内ローラ22、22が軸着される。23は車体フレーム1の両側のかすがい状支持部材18、18に支持させた水平ビーム3の、少くと共、底部を案内する案内路23D、23Dを構成する二重樋状案内部材で、該二重樋状案内部材23により両端のかすがい状支持部材18、18が剛に連結される。23a、23bは二重樋状案内部材23の底板及び側壁で、中央の側壁23bは共通のものとして構成される。
なお、この実施例では、第3図のように筒状アーム7の頂板8が、かすがい状支持部材18、18基部の取付部分より、その先端に至るに従つて順次下降するように構成されているから、同アーム7の曲げ剛性は隔壁板12の所まで次第に小さくなり、該隔壁板12より先はアーム7先端の方への曲げ剛性の減小に対して、補強片14、15による剛性増加分だけ曲げ剛性が加算されるが、切欠13部からは同曲げ剛性が、同切欠き13に相応する量、先端に至るに従つて次第に減小する。即ち、この筒状アーム7の曲げ剛性は、切欠13凹設部分とそれに続く箱状基部側との間に曲げ剛性の急増する部分が設けられているから、最も大きな曲げ剛性を受ける筒状アーム7の底板9端部の外開き切欠13凹設部分に発生する応力が、この曲げ剛性増加部分により分散して円滑に車体フレーム1へ伝達され、また、筒状アーム7の先端とかすがい状支持部材18の取付部分に作用する互いに逆方向の力を該筒状アーム7内で相殺し得る。
各かすがい状支持部材18、18は、第6ないし第8図に示すように、水平ビーム3案内用の両側竪杆部分の水平ビーム張出側にそれぞれブラケツト21を溶着突出させ、該ブラケツト21の先端にはそれぞれ水平ビーム3の底面支持する案内ローラ22、が枢支され、車体フレーム1両側のかすがい状支持部材18、18間には、少なくと共水平ビーム3の底部を案内する二重樋状案内部材23の両端を溶着して互いに連結される。
二重樋状案内部材23は肉薄の板で断面が長方形状をなす軽重量のものとして構成され、単に水平ビーム3の引込み、張出し時における支持部材18、18の振れ止め及び摺動案内と、トラツククレーンKの路上走行時における水平ビーム3の振れ止めをする。
各水平ビーム3、3の先端内部と、該水平ビーム3、3を支持する筒状アーム7と反対側の筒状アーム7から突出する片持梁17の端部に固着したブラケツト24との間に、複動型油圧シリンダ25の両端がそれぞれ枢着26、27され、水平ビーム3を第3図の格納状態と第4図の張出状態との間で摺動し得るようにし、水平ビーム3の張出完了時のストツバは、油圧シリンダ25内又は水平ビーム3と支持部材18間に設ける。
次に、この実施例の作用を説明する。
まず、トラツククレーンKを路上走行させる場合には、第3図のように下部から接地板6を取外し、シリンダロツド5を油圧シリンダ4内に収縮させた後、先端の油圧シリンダ4が筒状アーム7底板9端部の外開き切欠13内に嵌入するまで、油圧シリンダ25を縮小させて水平ビーム3引込ませ、水平ビーム3をトラツククレーンKの車巾B内に格納する。
トラツククレーンにより荷役作業をする場合には、油圧シリンダ25を伸長させて水平ビーム3、3を張出した後、シリンダロツド5の下部に接地板6を取付け、油圧シリンダ4によるシリンダロツド5の伸長により接地させて、このアウトリガにより車体フレーム1を地上Gに支承した後、通常のクレーン作業をする。
伸長した水平ビーム3、3端部の伸縮支脚4、4に反力Pを発生するクレーン作業時の負荷により、車体フレーム1の側壁1B、1Bに基部を溶着された筒状アーム7端部に発生する極圧Rは、同端部及びその側板10、11下部に一体状に溶着された補強片14、15の受面14A、15Aを介して筒状アーム7、7の箱状基部側に伝達され、さらに車体フレーム1へ伝達される。
なお、本件発明者の調査によれば、このアウトリガの使用時に、二重樋状案内部材23の中央隔壁板23bに発生する応力は極めてちいさいから、この二重樋状案内部材23にはアウトリガの使用時における強度保持機能を持たせる必要はなく、単に水平ビーム3の案内機能や水平ビーム3伸縮時における支持部材18の振れ止め機能等を持たせたせるだけの軽量に構成でき、この実施例のものでは、従来例のように、水平ビームに係る荷重を、一旦水平ビームの支持基筒(二重樋状案内部材)により受止めた後、これを更に車体フレームに伝達するものに比し、トラツククレーン等の重量をかなり(5%程度)軽減でき、しかも、伸縮支脚4、5を含めた水平ビーム3、3の長さを、車体横巾一杯にすることができる。
その上、張出し時の水平ビーム3と筒状アーム7及びかすがい状支持部材18との重なり部分の長さDは筒状アーム7の強度増大により短く構成し得るから、水平ビーム3を多段テレスコーブ型にした従来例、(例えば、特開昭51-4729号公報参照)に比べて、水平ビーム3、3の伸長時におけるその支承部との重なり部分の長さが短かくなり、しかもその構造が簡易化するから、所要の張出量を有するアウトリガを、その重量増を招く恐れなく提供できる。
(発明の効果)
この発明は、前記のような構成を有し、作用をするから、次のような効果が得られる。
(1) 底板端部に外開き切欠を有し、端部が車巾一杯に延びる筒状アームの基部を車体フレーム側部に設けたから、端部に伸縮支脚付水平ビームを車巾内に格納できる。
(2) 筒状アーム端部の側板下部に、水平ビーム頂部の受面付補強片を一体状に設けたから、筒状アームの底板端部に外開き切欠を設けたにもかかわらず、筒状アーム端部の充分な曲げ剛性を確保できる。
(3) アウトリガの最小縮小巾の増大を招くことなく、筒状アーム端部の曲げ剛性を確保できるから、水平ビームの伸長時における伸縮支脚の最大スパンを従来例より増大でき、トラツククレーンの限界転倒モーメントを増大し、安全荷役作業領域が増大する。
なお、筒状アームの底板端部の外開き切欠まわりの側板下部に一体状に設けた受面付補強片の外側下縁に下方へ延びるガイド片を形成すれば、このガイド片による水平ビームの伸縮時における横ぶれが防止できる外、このガイド片の延設により筒状アーム端部の曲げ剛性が一層増大する。
また、筒状アームの底板端部の外開き切欠より内側位に、筒状アームの底板、頂板、側板内側に溶着される補強用隔壁板を設ければ、基部を車体フレームに溶着したことと併せて、筒状アームの基部側が箱状となり、その曲げ剛性が増大する。
なお、筒状アームの基部を補強用隔壁板の溶着により、また、端部をその側板下部の補強片の溶着によりそれぞれ補強したから、底板端部に外開き切欠を設けたにもかかわらず、筒状アーム全体の曲げ剛性が増大し、同一曲げ剛性の筒状アームを従来例により薄肉に構成でき、アウトリガを軽量に構成できる。
また、筒状アームを水平ビームの頂壁上側に位置させると共に、その底板端部に外開き切欠を設け、かつ、同底板又はその側板下部を水平ビーム頂部の受面ないしガイドとする外は、筒状アームの外形を、水平ビームの断面形状の制約を受けることなく構成できるから、その設計自由度が向上する。
図面の簡単な説明
図面はこの発明に係るトラツククレーンにおけるアウトリガの一実施例を示すもので、第1図はその要部を一部を切除して示す平面図(第3図のY-Y断面図)、第2図はその平面図、第3図はアウトリガ格納時の縦断正面図(第2図のX-X線図)、第4図はそのアウトリガの張出時の縦断面図、第5図は第4図のZ-Z断面図、第6図及び第7図はその水平ビーム支持部材の正面図及び平面図、第8図は第6図のW-W断面図、第9図及び第10図は従来のトラツククレーンハ側面図及び平面図、第11図はそのアウトリガの正面図、第12図は第11図のU-U断面図である。
1……車体フレーム、1B……側壁、3……水平ビーム、4、5……伸縮支脚、7……筒状アーム、9……底板、12……隔壁板、13……切欠、14、15……補強片、14A、15A……受面、14B、15B……ガイド片、23……二重樋状案内部材、23D……案内路。
第1図
<省略>
1……車体フレーム
1B……側壁
3……水平ビーム
4……油圧シリンダ(伸縮支脚)
7……筒状アーム
9……底板
12……隔壁板
13……切欠
14、15……補強片
23……二重樋状案内部材
第2図
<省略>
第3図
<省略>
第4図
<省略>
第5図
<省略>
1……車体フレーム
1B……側壁
3……水平ビーム
4……油圧シリンダ(伸縮支脚)
7……筒状アーム
9……底板
12……隔壁板
13……切欠
14、15……補強片
14A、15A……受面
14B、15B……ガイド片
23……二重樋状案内部材
第6図
<省略>
第7図
<省略>
第8図
<省略>
23……二重樋状案内部材
23D……案内路
第10図
<省略>
第9図
<省略>
1……車体フレーム
1B……側壁
3……水平ビーム
4……油圧シリンダ(伸縮支脚)
第11図
<省略>
第12図
<省略>
1……車体フレーム
1B……側壁
4……油圧シリンダ(伸縮支脚)
第2部門(5) 特許法第64条の規定による補正の掲載 平4.8.27発行
昭和63年特許願第225259号(特公平2-12781号、平2.3.27発行の特許公報2(5)-11〔406〕号掲載)については特許法第69条の規定による補正があつたので下記のとおり掲載する。
特許第1665937号
Int. Cl.5 B 60 S 9/12 B 66 C 23/78 識別記号 庁内整理番号 8510-3D 7309-3F
記
1 第2欄21行「クレーン」を「クレーンK」と補正する。
2 第3欄19行「小さくに」を「小さく」と補正する。
3 第5欄31行「伸縮ビーム」を「伸縮ブーム」と補正する。
4 第5欄36行「案内筒」を「案内部材」と補正する。
5 第6欄39行、第6欄42行「補強板」を「補強片」と補正する。
6 第6欄41行「案内アーム」を「筒状アーム」と補正する。
7 第7欄34行「第5図にの」を「第5図に示す」と補正する。
8 第11欄21行「従来例により」を「従来例より」と補正する。
9 第12欄16行「クレーンハ」を「クレーンの」と補正する。
物件目録(一)
一、 左の「構造の説明」及び「図面」の構造のアウトリガを有する「TR-五〇〇M」と称するトラッククレーン(ラフテレーンクレーン)
1、 構造の説明
(1) 筒状体について
車体フレーム2の下側に、水平ビーム16の出入案内路となる一方の端縁が車体幅一杯に延びている二重筒状体9を横方向に固着して設けている。この二重筒状体9は、二重筒状体9と等長で両端が水平板(蓋板)厚板部7、中間が水平板(蓋板)薄板部8からなる水平板(蓋板)78と、同一長の底板3と、両側の側板4と、中央に側板4と並行に設けた中仕切板5が一体的に溶接されて形成されており、水平ビーム16を収容案内する断面四角筒状の二列の案内路を形成している。
二重筒状体9の底板3、側板4、中仕切板5は、それぞれ主体3A、4A、5Aとその一部に溶接された補強材3B、4B、5Bからなっている。
二重筒状体9は、車体フレーム2の下面の両サイド部分に水平板(蓋板)78を溶接することで、車体フレーム2に一体的に固着されており、互いに対向する端部が車体フレーム2の側壁部2Aよりも横方向に突出して、一方の突出端縁が車体幅一杯に対応する長さとなっている。
(2) サポートについて
車体フレーム2の両側に延びている水平板(蓋板)78の車体フレーム側方延出部分(以下「水平板(蓋板)延出し部分78A」という)は、その上にある底のあいたサポート15と一体的に溶接固着されている。
サポート15は6枚の縦板、すなわち車体フレーム側(基部側)の2枚の縦板13、13と、先端側の4枚の縦板12A、12B、12A、12Bを有し、さらにそれらの基部側縦板13、13と先端側縦板12A、12B、12A、12Bの間を区画する1枚の隔壁11と、6枚の縦板13、13、12A、12B、12A、12Bを一体的に結合する頂板10とを有しており、それらを一体的に溶接して構成されている。先端側の左右各2枚の縦板12A、12Bは、内側の縦板12Aが外側の縦板12Bより肉厚とされている。
このサポート15は、水平板(蓋板)厚板部7の全部及び水平板(蓋板)薄板部8の一部すなわち、水平板(蓋板)延出し部分78Aの上面に、サポート基部側縦板13及びサポート先端部内外縦板12A、12Bの下辺を全長にわたり一体的に接合するように溶接固着するとともに、サポート15の先端部側15Bの端縁を二重筒状体9の先端上部に溶接固着した垂直端板21に衝き合せ溶着して、サポート15を二重筒状体9の水平板(蓋板)78上に一体的に溶接固着しており、この状態でサポート15の基部側1、5Aの端縁を車体フレーム2の側壁部2Aに、溶接固着してある。なお水平板(蓋板)厚板部7と先端内縦板12Aの溶接部19は、水平板(蓋板)厚板部7の外開き開口部18Bの内縁にまで至っている。そして固着状態における垂直端板21を含むサポート先端部側15Bの先端は、車体巾一杯に対応する長さとなっている。
(3) 水平ビーム頂壁の受面
水平ビームー6は、二重筒状体9の案内路に出入り可能に挿入収容され、断面が長方形をなしている水平ビーム16の頂壁は、水平板(蓋板)78の下面を受面としている。そしてこの水平板(蓋板)78の厚板部7は、サポート15の長さの約三分の二にわたる先端側にあり、かつ水平板(蓋板)の上には底のあいたサポート15が一体的に溶接固着されている。
(4) 外開き開口部
サポート頂板10と水平板(蓋板)厚板部7と筒状体底板3の各端部には、水平ビーム16の端部に突出された伸縮支脚17が、遊嵌収容可能な外開き開口部18C、18A、18Bを形成してある。
(5) 作動
車体フレーム2の下方横方向に設けた二重筒状体9の案内路に収容してある水平ビーム16を、互いに反対方向に伸長させた後、水平ビーム16の端部に設けた伸縮支脚17を伸長させ、車体を支承してクレーンによる荷役作業を行なう。
その際接地反力(P)は伸縮支脚17に、水平ビーム16の尾端下部を支える上向の力(Q)は二重筒状体底板3の上面の水平ビーム16の尾部との接触部に、水平ビームの頂壁を支える下向きの力(R)は、水平板(蓋板)厚板部7の下面の水平ビーム16の頂壁との接触部に生じる。
クレーンの使用後は、伸縮支脚17を縮め、水平ビーム16を二重筒状体9内に収容する。その際伸縮支脚17は、サポート頂板10、水平板(蓋板)厚板部7、二重筒状体底板3の各外開き開口部18C、18A、18Bに収容されて、車体巾内に収容されるようになっている。
2、 図面の説明
第1図 本件トラッククレーン(ラフテレーンクレーン)の全体図
第2図 アウトリガを不使用の状態にした斜視図
第3図 アウトリガを使用状態にした斜視図
第4図 アウトリガの水平ビームを除いた部分の斜視図
第5図 第4図に示す部分の正面図
第6図 第5図のX-X線に沿う断面図
第7図 第4図に示す部分の構成部材を一部分解して示す斜視図
第8図 第4図に示す部分の構成部材を分解して示す斜視図
第9図 アウトリガを使用した状態の正面図
3、 図面の番号の説明
1 アウトリカ
2 車体フレーム
2A 車体フレームの側壁部
3 底板
3A 底板主体
3B 底板補強材
4 側板
4A 側板主体
4B 側板補強材
5 中仕切板
5A 中仕切板主体
5B 中仕切板補強材
6 欠番
78 水平板(蓋板)
78A 水平板(蓋板)延出し部分
7 水平板(蓋板)厚板部
8 水平板(蓋板)薄板部
9 二重筒状体
10 サポート頂板
11 隔壁
12 欠番
12A サポート先端部内縦板
12B サポート先端部外縦板
13 サポート基部側縦板
14 欠番
15 サポート
15A サポート基部側
15B サポート先端部側
16 水平ビーム
17 伸縮支脚
18 外開き開口部
18A 水平板(蓋板)外開き開口部
18B 底板外開き開口部
18C 頂板外開き開口部
19 溶接部
20 欠番
21 垂直端板
第1図
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第2図
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第3図
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第4図
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第5図
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第6図
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第7図
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第8図
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第9図
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物件目録(二)
一、 左の「構造の説明」及び「図面」の構造のアウトリガを有する「TR-五〇〇MⅢ(CREVO五〇〇)」と称するトラッククレーン(ラフテレーンクレーン)
1、 構造の説明
(1) 筒状体について
車体フレーム2の下側に、水平ビーム16の出入案内路となる一方の端縁が車体幅一杯に延びている二重筒状体9を横方向に固着して設けている。この二重筒状体9は、二重筒状体9と等長で両端が水平板(蓋板)厚板部7、中間が水平板(蓋板)薄板部8からなる水平板(蓋板)78と、同一長の底板3と、両側の側板4と、中央に側板4と並行に設けた中仕切板5が一体的に溶接されて形成されており、水平ビーム16を収容案内する断面四角筒状の二列の案内路を形成している。
二重筒状体9の底板3、側板4、中仕切板5は、それぞれ主体3A、4A、5Aとその一部に溶接された補強材3B、4B、5Bからなっている。
二重筒状体9は、車体フレーム2の下面の両サイド部分に水平板(蓋板)78を溶接することで、車体フレーム2に一体的に固着されており、互いに対向する端部が車体フレーム2の側壁部2Aよりも横方向に突出して、一方の突出端縁が車体幅一杯に対応する長さとなっている。
(2) サポートについて
車体フレーム2の両側に延びている水平板(蓋板)78の車体フレーム側方延出部分(以下「水平板(蓋板)延出し部分78A」という)は、その上にある底のあいたサポート15と一体的に溶接固着されている。
サポート15は6枚の縦板、すなわち車体フレーム側(基部側)の2枚の縦板13、13と、先端側の4枚の縦板12A、12B、12A、12Bを有し、さらにそれらの基部側縦板13、13と先端側縦板12A、12B、12A、12Bの間を区画する1枚の隔壁11と、6枚の縦板13、13、12A、12B、12A、12Bを一体的に結合する頂板10とを有しており、それらを一体的に溶接して構成されている。先端側の左右各2枚の縦板12A、12Bは、内側の縦板12Aが外側の縦板12Bより肉厚とされている。
このサポート15は、水平板(蓋板)厚板部7の全部及び水平板(蓋板)薄板部8の一部すなわち、水平板(蓋板)延出し部分78Aの上面に、サポート基部側縦板13及びサポート先端部内外縦板12A、12Bの下辺を全長にわたり一体的に接合するように溶接固着するとともに、サポート15の先端部側15Bの端縁を二重筒状体9の先端上部に溶接固着した垂直端板21に衝き合せ溶着して、サポート15を二重筒状体9の水平板(蓋板)78上に一体的に溶接固着しており、この状態でサポート15の基部側15Aの端縁を車体フレーム2の側壁部2Aに、溶接固着してある。なお水平板(蓋板)厚板部7と先端内縦板12Aの溶接部19は、水平板(蓋板)厚板部7の外開き開口部18Bの内縁にまで至っている。そして固着状態における垂直端板21を含むサポート先端部側15Bの先端は、車体巾一杯に対応する長さとなっている。
(3) 水平ビーム頂壁の受面
水平ビーム16は、二重筒状体9の案内路に出入り可能に挿入収容され、断面が長方形をなしている水平ビーム16の頂壁は、水平板(蓋板)78の下面を受面としている。そしてこの水平板(蓋板)78の厚板部7は、サポート15の長さの約三分の二にわたる先端側にあり、かつ水平板(蓋板)の上には底のあいたサポート15が一体的に溶接固着されている。
(4) 外開き開口部
サポート頂板10と水平板(蓋板)厚板部7と筒状体底板3の各端部には、水平ビーム16の端部に突出された伸縮支脚17が、遊嵌収容可能な外開き開口部18C、18A、18Bを形成してある。
(5) 作動
車体フレーム2の下方横方向に設けた二重筒状体9の案内路に収容してある水平ビーム16を、互いに反対方向に伸長させた後、水平ビーム16の端部に設けた伸縮支脚17を伸長させ、車体を支承してクレーンによる荷役作業を行なう。
その際接地反力(P)は伸縮支脚17に、水平ビーム16の尾端下部を支える上向の力(Q)は二重筒状体底板3の上面の水平ビーム16の尾部との接触部に、水平ビームの頂壁を支える下向きの力(R)は、水平板(蓋板)厚板部7の下面の水平ビーム16の頂壁との接触部に生じる。
クレーンの使用後は、伸縮支脚17を縮め、水平ビーム16を二重筒状体9内に収容する。その際伸縮支脚17は、サポート頂板10、水平板(蓋板)厚板部7、二重筒状体底板3の各外開き開口部18C、18A、18Bに収容されて、車体巾内に収容されるようになっている。
2、 図面の説明
第1図 本件トラッククレーン(ラフテレーンクレーン)の全体図
第2図 アウトリガを不使用の状態にした斜視図
第3図 アウトリガを使用状態にした斜視図
第4図 アウトリガの水平ビームを除いた部分の斜視図
第5図 第4図に示す部分の正面図
第6図 第5図のX-X線に沿う断面図
第7図 第4図に示す部分の構成部材を一部分解して示す斜視図
第8図 第4図に示す部分の構成部材を分解して示す斜視図
第9図 アウトリガを使用した状態の正面図
3、 図面の番号の説明
1 アウトリガ
2 車体フレーム
2A 車体フレームの側壁部
3 底板
3A 底板主体
3B 底板補強材
4 側板
4A 側板主体
4B 側板補強材
5 中仕切板
5A 中仕切板主体
5B 中仕切板補強材
6 欠番
78 水平板(蓋板)
78A 水平板(蓋板)延出し部分
7 水平板(蓋板)厚板部
8 水平板(蓋板)薄板部
9 二重筒状体
10 サポート頂板
11 隔壁
12 欠番
12A サポート先端部内縦板
12B サポート先端部外縦板
13 サポート基部側縦板
14 欠番
15 サポート
15A サポート基部側
15B サポート先端部側
16 水平ビーム
17 伸縮支脚
18 外開き開口部
18A 水平板(蓋板)外開き開口部
18B 底板外開き開口部
18C 頂板外開き開口部
19 溶接部
20 欠番
21 垂直端板
第1図
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第2図
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第3図
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第4図
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第5図
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第6図
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第7図
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第8図
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第9図
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特許公報
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特許公報
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