東京地方裁判所 平成7年(ワ)2328号 判決 1995年7月24日
原告
大泉享平
被告
カルビー株式会社
右代表者代表取締役
松尾雅彦
右訴訟代理人弁護士
山口邦明
右訴訟復代理人弁護士
宇野正雄
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、五〇〇万円を支払え。
第二 事案の概要
一 前提となる事実
1 被告はアルミ蒸着ラミネートフィルム製の袋入りの「カルビーポテトチップス」(内容量一〇〇g)を製造販売している(争いがない。)。
2 原告(昭和八年一二月一四日生)は、平成六年八月五日午後五時ころ肩書住所の原告宅の居間において、孫の増山涼子(平成六年一月一一日生の乳児)が手に持っていたカルビーポテトチップスの未開封の袋(以下「本件袋」という。)の角が原告の右目に当たり、角膜上皮剥離、外傷性虹彩炎の傷害を受けた(以下「本件事故」という。)。
本件事故の状況は次のとおりである。
涼子は、その母親(原告の娘)らと買物から帰宅し、本件袋を手に持ち(事故後原告が娘から聞いた説明では、買物袋の中にあった本件袋を涼子が自分で掴んで手に持っていたようである。)、居間の座布団の上にお座りをし、一人で遊んでいた。原告が涼子のそばに這い寄って顔を近づけ「お帰り」と声をかけたところ、たまたま涼子が手を振る動作をしたため、その手に持っていた本件袋の角が原告の右目に当たった。
(甲一、二、原告)
二 原告の主張
1 本件事故は被告の製品の包装に安全性が確保されていないために生じたものであり、本件袋には菓子袋としての安全性を欠いた欠陥があるから、被告は本件事故によって原告が被った損害を賠償する義務がある。
2 原告は、前記傷害により、通院治療費二万五二〇〇円、通院交通費八万八三二〇円、通院中の逸失利益六一万四九〇四円(年収七二四万円、就労不可能日三一日間)、通院慰謝料五〇万円、後遺症による逸失利益二七九万五三六四円(後遺障害等級表一四級相当、労働能力喪失五%、事故当時六〇歳)、後遺症に対する慰謝料九七万六二一二円、合計五〇〇万円の損害を被った。
第三 判断
一 証拠(検甲一)によれば、本件袋は、その上下が約三mm間隔の波形(波の高さ約一mm)になっているが、右波形の先端部分や袋の上下の閉じた部分の角が特に鋭利な形状になっているものとは認められず、一般の消費者が安全にその中身を食べることのできる包装になっていることが認められる。
前示第二の一2の事実によれば、本件事故は、生後六〜七か月の乳児がたまたまその目に入った本件袋を手に掴み、お座りをし、一人遊びをしていたところ、原告が孫をあやすつもりで、その子の目の高さに顔を近づけた際に偶発的に発生したものであり、原告自身予期しない事故であったことが認められる。
我々の日常の経験では、本件袋のような材質・形状の包装は軽量で形の壊れやすいスナック菓子等食品類の包装に比較的多く用いられているが、本件袋についていえば、自らその中身のポテトチップスを食べることのない生後六〜七か月の乳児が袋を手に持って遊ぶことを通常予想して製造販売されるものとはいえないのみならず、本件袋が消費者の手で開封されるまでの間に、菓子袋本来の用法とは無関係の本件事故のような事態をも予想して包装の材質・形状を工夫したものでなければ、その製品には安全性を欠いた欠陥があるというべきでもない。
そうでなければ、およそ事故が発生した以上、その製品にはそのような事故が発生する危険を伴う欠陥があったということになりかねない。
二 以上のとおり、本件袋に原告主張の欠陥があると認めることはできないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。
(裁判官石川善則)