東京地方裁判所 平成7年(ワ)25568号 判決 1997年9月12日
原告
コンビニックス株式会社
右代表者代表取締役
西郷稔彦
右訴訟代理人弁護士
河合弘之
同
船橋茂紀
被告
安田義秋
外一名
被告ら訴訟代理人弁護士
貞友義典
同
古笛恵子
主文
一 被告安田義秋は、原告に対し、二五七〇万七〇〇三円及びうち一二三万九〇九〇円に対する平成六年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による、うち一〇〇〇万円に対する平成六年八月一日から支払済みまで年五分の割合による、うち一四四六万七九一三円に対する平成六年一〇月一日から支払済みまで年一割八分の割合による各金員を支払え。
二 被告安田松義は、原告に対し、一一二三万九〇九〇円及びうち一二三万九〇九〇円に対する平成六年一一月一日から支払済みまで年六分の割合による、うち一〇〇〇万円に対する平成六年八月一日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
三 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は被告らの負担とする。
五 この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 被告安田義秋は原告に対し、二六一八万九七三二円及びうち一二三万九〇九〇円に対する平成六年一一月一日から支払済みまで年六分の割合による、うち一〇四八万二〇四〇円に対する平成六年八月一日から支払済みまで年五分の割合による、うち一四四六万八六〇二円に対する平成六年一〇月一日から支払済みまで年一割八分の割合による各金員を支払え。
二 被告安田松義は原告に対し、一一七二万一一三〇円及びうち一二三万九〇九〇円に対する平成六年一一月一日から支払済みまで年六分の割合による、うち一〇四八万二〇四〇円に対する平成六年八月一日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、コンビニエンスストアチェーンのフランチャイザー(以下「本部」という。)である原告と加盟契約を締結していた被告安田義秋(以下「被告義秋」という。)が、右チェーンから脱退した上、原告と競合する他のコンビニエンスストアチェーンに加盟して経営を継続しているとして、原告が被告義秋とその連帯保証人である被告安田松義(以下「被告松義」という。)に対し、右加盟店契約の解約予告期間分のロイヤルティ料、機器(ポスシステム)レンタル料及び残リース額相当分の看板料、右加盟契約に規定する競業禁止条項違反に基づく損害金の支払を求めるとともに、他の加盟店契約者の原告に対する債務の連帯保証をしたとする被告義秋に対し、その連帯保証債務の履行を求めている事件である。
一 争いのない事実等
1 原告と被告義秋は、平成五年一〇月二九日「コンビニックス・Jマート・CVSフランチャイズシステムチェーン加盟店契約」と題する契約(以下「本件契約」という。)を締結した(甲一)。
また、被告松義は、同日、本件契約に基づき被告義秋が原告に対して負担する債務について連帯保証した。
本件契約二四条の一は、「加盟店は、本件契約の有効期間中といえども、三か月以上の予告期間を設定し、なおかつ当該予告期間が満了する一か月前までは、店舗営業を継続して本件契約に定める条件を遵守した誠実な営業を実行し、残余の一か月間で本件契約並びに本件契約に付随する契約に基づくすべての債権債務を清算することにより、期限の到来をもって本件契約を自由に解除することができるものとします。」として、加盟店である被告義秋の側で本件契約を解除するには、三か月の解約予告期間を設けなければならない旨規定している。
また、本件契約二四条の七は、「加盟店は、加盟店による本件契約の任意解除を行った場合、又は、契約期限満了に伴う加盟店による更新拒絶を行った場合に限り、その後一か年間以内かつ本件契約に基づいて、加盟店が「JマートFSC(コンビニックス・Jマート・CVSフランチャイズシステムチェーンの略称)」事業を営んでいた店舗所在地から、半径五キロメートル以内の地域においては、本部の書面による承諾を得ずに「JマートFSC」事業と類似又は競合するコンビニエンス・ストア事業を営まないことを予め了承するものとします。万が一、加盟店が、この規定に違反して当該期間中かつ当該地域内にコンビニエンス・ストア事業を営んだ場合(表面的な名義人の如何にかかわらず、実質的に加盟店が営んでいるすべての場合を含む)は、加盟店に、不正競争防止法所定の不正競争意思があるものとみなすことを了承するものとします。」と規定している。
2 被告義秋は、平成六年七月二九日付け内容証明郵便にて、平成六年七月三一日をもって原告との間の本件契約を解除することを通知し、平成六年七月三一日をもって原告に対する売上金の入金を打ち切った。
3 原告は被告義秋代理人に対し、平成六年八月八日到達の内容証明郵便において、前記通知により被告義秋が行った解除の効果が生ずるのは、前記1の本件契約二四条の一の規定によって解除の意思表示が到達したときから三か月を経過した平成六年一〇月末日であるとして、三か月間に原告が取得したであろう①平成六年八月ないし同年一〇月分の三か月分のロイヤルティとして一〇八万一五〇〇円(三六万〇五〇〇円×三か月分(ただし、消費税を含む))、及び、②平成六年八月ないし同年一〇月分の三か月分のポスシステムのレンタル料として一五万七五九〇円(五万二五三〇円×三か月(消費税を含む))の各支払等を求めた(甲四)。
4 被告義秋は、原告に対し、平成五年一〇月二九日、原告と早阪國雄(以下「早阪」という。)との間で同日締結された「コンビニックス・Jマート・CVSフランチャイズシステムチェーン加盟店契約」(以下「早阪加盟店契約」という。)と題する書面に基づき、早阪が原告に対して負担するすべての債務を連帯保証する旨の連帯保証人欄に署名した。
二 争点(1ないし4)
1 原告の被告義秋に対する三か月分のロイヤルティ及びポスシステムレンタル料の請求は認められるか。
(原告の主張)
(一) 原告は、フランチャイズ事業によるコンビニエンス・ストアの経営に関する事業等を目的とする株式会社であり、「コンビニックス・Jマート・CVSフランチャイズシステムチェーン」(以下、コンビニックス・Jマート・CVSフランチャイズシステムを「本件システム」という。)の本部である。
被告義秋は、原告との間で、平成五年一〇月二九日本件契約を締結して、本件システムに加盟し、原告のフランチャイジー(以下「加盟店」という。)となり、「コンビニックス・Jマート恵比寿南店(東京都渋谷区恵比寿南二丁目二番二号KTビル一階所在、以下「本件店舗」という。)を経営してきた。
(二) 被告義秋は、平成六年七月二九日付け内容証明郵便にて、平成六年七月三一日をもって本件契約を解除し、本件システムから脱退することを通知し、平成六年七月三一日、本件システムを脱退し、以後、売上金の入金等を一切打ち切った。
(三) 被告義秋は、原告に対し、本件契約の存続期間中は、ロイヤルティとして一か月当たり三六万〇五〇〇円(消費税を含む)及びポスシステムレンタル料として一か月当たり五万二五三〇円(消費税を含む)を支払わなければならないことになっている(本件契約一八条の一(5)エ及びサ)。
また、前記一の「争いのない事実等」1のとおり、本件契約二四条の一によれば、加盟店である被告義秋の側で本件契約を解除するには、三か月の解約予告期間を設けなければならない旨規定しており、これは、即時解除による混乱を回避するために、本部である原告の利益を考慮して定められた規定である。
したがって、前記(二)のとおり、平成六年七月二九日付け内容証明郵便によって被告義秋が行った解除は、予告期間の定めのないものであるから、本来は無効であるはずであるが、仮に、被告義秋のために善解するとしても、被告義秋の行った解除の効果が生ずるのは、解除の意思表示が到達したときから三か月を経過した平成六年一〇月末日となる。
(四) そこで、被告義秋は、原告に対し、原告が取得したであろう平成六年八月ないし同年一〇月分の三か月分のロイヤルティ一〇八万一五〇〇円及びポスシステムのレンタル料一五万七五九〇円の支払義務がある。
(五) なお、被告らは、後記「被告らの主張」のとおり、本件契約は、フランチャイズ契約ではなく、単なる支払委託契約であると主張するが、そもそも、原告と株式会社ニコマート(以下「ニコマート」という。)とは何らの関係もなく、原告は、本部としての機能を有しており、独自の商標及び情報処理システム等を有し、それらを各加盟店に提供し、本部の有する非常に重要なノウハウの一つである商品供給システムを有し、また、各加盟店に対し、例えば週一回の売場情報(商品営業情報)等と併せた店舗経営情報を提供し、各加盟店からそれらの対価としてロイヤルティの支払を受けてきたものである。
そして、被告義秋は、その自由意思に基づいて、原告が設けた熟慮期間経過後に本件契約を締結し、その後、約一年間、本件契約に基づき、商品の供給を受け、フランチャイズシステム等を使用し、収益を上げ続けてきたものである。
(六) また、原告は、後記「被告らの主張」のいうようなベンダーに対する支払を滞った事実はない(被告義秋は、原告と各ベンダーとの支払サイトの変更を支払の懈怠と誤解したものと思われる。)。
更に、佐藤秀雄がニコマート又はニコマートファイナンスの債権を譲り受けたとして、原告の加盟店に取立てを行ったことがあり、原告は、加盟店を防衛(保護)する趣旨で、右債権を佐藤秀雄から買い取り、各加盟店との間で、低廉にて分割払とする旨の便宜を図ったが、右債権の譲受けについて、井坂と大川との間に確執が生じ、大川は任期満了後、原告監査役に再任されなかった。その後、大川は、アゴラスジャパン株式会社(その後、日本リペスコ株式会社に商号変更)という別のコンビニエンス事業を業とする会社を平成六年八月一日に設立し、同社を本部としてコンビニエンス事業を営んでおり、大川と井坂の対立は、単なる経営権争奪の問題にすぎず、被告義秋の脱退を正当化できるものではない。また、右事実により、被告義秋には何らの実害も発生していない。
したがって、原告は何らの義務違反も行っておらず、信頼関係を損なう行為も行っていなかったもので、被告らは即時解除を正当化することはできない。
(被告らの主張)
(一) 原告設立の経緯
(1) 被告義秋は、平成三年六月二日付けにてニコマートとフランチャイズ契約を締結し、それ以降、ニコマートのコンビニエンスストアチェーンフランチャイズシステムの加盟店として、本件店舗所在地において「ニコマート」の商号の下、コンビニエンスストアを経営していた。
なお、コンビニエンスストアチェーンフランチャイズシステム(以下「フランチャイズシステム」という。)とは、コンビニエンスストアチェーン展開において、事業統括の機能を有する主体が本部となり、フランチャイズ契約を締結した加盟店に対し、商標使用許諾権、店舗経営ノウハウの提供、商品仕入先(ベンダー)の推奨、加盟店から本部に対する売上預託金からのベンダーへの支払代行等をする一方、加盟店はその対価として本部にロイヤルティを支払う方式をいう。
(2) ニコマートは、バブル期に行った財テクの失敗などを原因として、平成四年中ころからその経営が悪化し、また、佐藤秀雄がニコマートの取締役に就任した平成五年六月三日前後から、ニコマートの経営陣と暴力団との関係が取りざたされるなど信用不安を招き、平成五年六月二四日第二回目の手形不渡事故を起こし事実上倒産した。
(3) これに先立ち、ニコマートによるベンダー各社に対する支払代行遅延による加盟店への商品供給に支障が多発したため、ベンダー六〇数社は、平成五年二月八日「ニコマートベンダー会」(以下「ベンダー会」という。)を設立し、加盟店から直接売上預託金を受けることになり、加盟店への商品供給体制を確保した。
他方、加盟店のうち、六〇数社もこれに並行して、ニコマートの経営悪化によるフランチャイズシステムへの影響を最小限にくい止めるべく対応策を協議するため、同年三月五日「オーナー有志会」(同年六月一九日「ニコマートオーナー組合」に名称変更。以下「オーナー組合」という。)を結成し、オーナー組合が各加盟店からベンダー会への支払の取りまとめ機能を有することになった。
(4) このようにして、一旦はベンダー会とオーナー会の協力による商品供給体制が確保されたが、両組織はベンダー、加盟店の寄り合い所帯にすぎず、各加盟店からの売上預託金の取りまとめ、支払代行等の業務を専門とするものでないため、ニコマートの経営悪化、倒産という危機時期にあって、両組織の構成員が自らの日々の業務に手一杯であるのに、更に両組織のみで商品供給体制を維持することはかなりの負担であった。
このような時期に、不動産取引仲介を業とする菱宏株式会社の代表取締役である井坂宏志(以下「井坂」という。)から支払代行を業とする新会社を設立し、井坂が新会社の代表取締役に就任する旨提案があり、ベンダー会及びオーナー会ともにこれを了承した。
このようにして、平成五年八月三日原告が設立された。
(二) 本件契約の内容
(1) 原告は、法人登記簿上の会社の目的として、フランチャイズ事業によるコンビニエンスストアの経営に関する事業等を記載し、本件契約上フランチャイズシステムの本部たり得るノウハウを有するように装ってはいるが、その実体は、単に各加盟店がニコマートとフランチャイズ契約関係にあった当時樹立されていた商品供給体制を前提として支払代行業務を行う機能しか有していない。
そして、本件契約の文面によると、原告はフランチャイズシステムに関するノウハウを有し、それを加盟店に提供するかのごとくであるが、本件契約締結後、被告義秋が平成六年七月二九日付けで本件契約解除の通知をするまで、原告から被告義秋を始めとした各加盟店に右ノウハウが提供された事実は全くない。
思うに、フランチャイズシステムとは、本部と加盟店がそれぞれ独立した事業体として契約を結び、本部が加盟店に商標(看板)の使用を認めたり、店舗経営のノウハウを提供して経営指導を行ったりする一方、加盟店はその見返りとして金銭を支払うものをいう。ノウハウの提供として、ニコマート時代にそうであったように、システムマニュアル、オペレーションマニュアル、モデルレイアウト表、商品陳列マニュアル、販売(鮮度)保証期間一覧、商品分類一覧表、発注台帳兼商品リスト(オーダーブック)などが各店舗に交付されるが、原告が被告義秋に交付したのは、右の発注台帳兼商品リスト(オーダーブック)のみであった。また、本部は、ポスシステムなどを通じて集積した情報を分析し、また、マーチャンダイザーが生産地などをまわり、新商品や仕入ルート開発などを行い、それらの結果得られた商品の陳列、仕入れ、管理等の方法、価額の設定を含む販売方法、売れ筋情報等の経営にかかわる情報が文書あるいはスーパーバイザー(SV)を通して各加盟店に指導がされる。この情報分析指導がまさに本部が加盟店に提供するノウハウである。
ところが、原告においては、原告との契約によりコンピューター発注の取りまとめをしていた富士総研に集積された情報をそのまま各加盟店に送付するだけで、その情報を分析した事実もなく、マーチャンダイザーが新商品開発等に当たった事実もなく、また、スーパーバイザーと称する者も月に一回程度来店するものの、原告役員に対する愚痴をこぼすだけで、指導は全くされておらず、逆に、被告義秋から、スーパーバイザーの石上らに対し、コンビニエンスストア経営のための基礎知識を教えるほどであった。
かかる実体の原告は、到底フランチャイズシステムの本部と評価できるものではない。
(2) そうすると、被告義秋が原告と本件契約を締結したことは事実であるが、前記のような原告の実体からすると、本件契約はフランチャイズ契約といえるものではなく、被告義秋が本件システム(コンビニックスフランチャイズシステム)なるものに加盟して、原告の加盟店になったとはいえない。すなわち、名義の如何にかかわらず、実体上本部の機能を有しない原告と被告義秋がフランチャイズ契約関係に入ることは不可能であるし、本部が存在しないフランチャイズシステムがあろうはずはなく、そのようなシステムに被告義秋が加盟し、原告の加盟店となることなどおよそあり得ないからである。
(三) 解約予告期間の不要
(1) 民法は、契約関係にある当事者間において債務不履行が存するとき、不履行当事者になお履行の機会を与え可及的に契約関係を維持すべく、他方当事者が解除権を行使するに、原則として相当期間の存した催告をすることを要求している(民法五四一条)。本件契約二四条の一の規定も右趣旨によるものである。
しかし、当事者を契約関係に拘束しておくことが酷であるほどに、当事者間の信頼関係が破壊された場合には、もはや契約関係維持に努めることは無意味であるので、例外的に催告を要せず解除権が認められるが、次のとおり、既に、平成六年七月末には、原告、被告間における本件契約関係維持に不可欠な信頼関係は完全に破壊されていたといえる。
① 原告は各加盟店に対して、その依頼された発注、納品、支払の集団的処理の窓口としての役目も果たさなくなった。
すなわち、原告と被告義秋間の本件契約締結直後の平成五年一二月から既に原告においてベンダーに対する支払の滞りがあり、被告義秋は度々ベンダー各社から苦情を聞かされ、被告義秋が個別に、又は、オーナー組合として原告に右懈怠の是正を申し入れるも一向に改善される気配はなかった。被告義秋は、売上金はすべて原告に入金しているにもかかわらず、原告がその支払を怠ったために、平成六年四月から、グリーンデイリーから野菜、果物の納品が全くなくなってしまった。
② また、平成六年四月には、当時原告監査役で、同時にオーナー組合の理事でもあった大川孝允(以下「大川」という。)が原告の平成五年八月二日ないし平成六年三月三一日を決算期とする計算書類を監査したところ、ニコマート倒産直前の短期間ニコマート取締役の地位にあった佐藤秀雄に対する不明な送金書類、及び、計算書類の附属明細書中の勘定科目明細「未払金」欄に計上された同人に対する「債権譲受残」二三一〇万円という記載を発見した。
原告は、建前上、暴力団との関係が取りざたされていたニコマートとは資金的に一切関係ないものとして設立されたものであったため、右記載に驚いた大川が、原告の当時の経理担当部長であった佐草右造(以下「佐草」という。)に問い質したところ、ニコマートが加盟店らに対して有するとする複数債権につき、それを取得したとする佐藤秀雄から原告が代金八五六〇万円で譲り受け、平成五年一一月三〇日四二五〇万円、同年一二月一三日二〇〇〇万円を支払い、平成六年六月一一日二三一〇万円を支払うことになっていることが判明した。
大川は、佐草に対し、右債権譲受けの契約書の提出を求めたが、提出されず、佐草の説明によれば、契約締結日は第二回目の代金支払日である平成五年一二月一三日よりも後の平成六年四月一九日ということであった。
このような不明朗な債権譲受けは、原告設立において、ニコマートと一切の資金関係を持たないとしていた建前に反するものであるため、大川が右決算期の計算書類に署名することを拒むと、原告は大川を監査役から解任した。
被告義秋は、平成六年五月に入り、オーナー組合の理事でもあった大川から前記の原告の不明朗な経理の事実を知らされ、かつ、大川から早晩原告との契約を解除する意思であることを告げられた。これは、監査役として原告の内部者であり、またオーナー組合の理事として加盟店らの代表者でもある者が、原告との契約関係を継続することを見限ったことを意味し被告義秋の原告に対する信頼を大きく喪失させた。
(2) そうであるから、被告義秋が本件契約を解除するのに、相当期間の存した催告は不要であり、本件契約二四条の一の適用はない。
そして、被告義秋は、平成六年七月二九日付け解除通知において、同月三一日をもって本件契約を解除する旨の意思表示をしているのであるから、同日の経過をもって契約解除の効果が生じたといえ、原告に対し、解約予告期間分のロイヤルティ及びポスシステムレンタル料の支払義務はない。
2 原告から被告義秋に対する看板の残割賦代金額相当額の請求は認められるか。
(原告の主張)
原告は、本件契約期間中(平成五年一一月一日から平成一一年七月三一日)、被告義秋が本件システムに加入していることを前提として、本件店舗に設置するために、第三者から看板を割賦で購入し、被告義秋に使用させていた。原告は、看板代金を、本件契約の継続期間中徐々に回収償却する予定で被告義秋に代わって同被告のために購入したものであったが、被告義秋は、右期間中であるにもかかわらず、本件契約の解除を主張して、平成六年八月分以降の売上金等の送金を停止し、本件システムを脱退し、また、その際、原告からの貸与にかかる看板を破棄してしまった。
そして、平成六年七月末日時点での原告の第三者に対する残割賦代金は四八万二〇四〇円(一万六〇六八円×三〇回)であり、右金額は、被告義秋の行った看板の破棄の結果、原告が被った損害である。
(被告らの主張)
本件契約締結直前に原告によって開催された契約説明会において、井坂から「看板は無料である。」旨説明がされていた。
ところが、原告は、平成六年二月に入り、突然、被告義秋に対し、看板につき業者とリース契約を締結したので転借人欄に署名するよう要求し、リース代金の記載されていない物件受領書をファクシミリ送信してきた。しかし、被告義秋は、右の要求は当初の合意と異なることから、その署名を拒絶した。
したがって、平成六年七月末日時点で、原告の第三者に対する残割賦代金が四八万二〇四〇円であったとしても、それは被告義秋には何ら関係のないことで、右金額が被告義秋の行った解除の結果原告が被った損害となるとの原告の主張は失当である。
また、原告は、被告義秋が無償貸与された看板を破棄したと主張するが、そのような事実はなく、平成六年八月一日午前零時ころ、原告従業員及び原告依頼の業者が本件店舗を訪れ、看板を外して回収し持ち去っている。
3 原告の被告義秋に対する競業禁止違反による損害賠償は認められるか。
(原告の主張)
(一) 前記一の「争いのない事実等」1のとおり、本件契約二四条の七によれば、「加盟店は、加盟店による本件契約の任意解除を行った場合、又は、契約期限満了に伴う加盟店による更新拒絶を行った場合に限り、その後一か年間以内かつ本件契約に基づいて、加盟店が「JマートFSC」事業を営んでいた店舗所在地から、半径五キロメートル以内の地域においては、本部の書面による承諾を得ずに「JマートFSC」事業と類似又は競合するコンビニエンス・ストア事業を営まないことを予め了承するものとします。」と規定している。
(二) ところが、被告義秋は、本件システムからの脱退直後から、原告の競争業者である株式会社新鮮組本部(以下「新鮮組」という。)に属し、本件店舗の所在場所であった東京都渋谷区恵比寿南二丁目二番二号KTビル一階において、コンビニエンスストアを経営し、右条項に規定された加盟店の競業禁止義務に明確に違反している。
因みに、新鮮組(東京都中央区湊一丁目七番三号所在)は、関東地域において、弁当の販売業とコンビニエンス業を行っている会社であり、平成七年一二月時点において、コンビニエンス専業店一六店舗、弁当販売専業店五店舗、コンビニエンスと弁当販売の兼業店一八店舗の合計三九のチェーン店舗を有する会社であり、原告とは完全に競争関係に立つ会社である。
(三) 前記一の「争いのない事実等」1のとおり、本件契約二四条の七は、更に、「万が一、加盟店が、この規定に違反して当該期間中かつ当該地域内にコンビニエンス・ストア事業を営んだ場合(表面的な名義人の如何にかかわらず、実質的に加盟店が営んでいるすべての場合を含む)は、加盟店に、不正競争防止法所定の不正競争意思があるものとみなすことを了承するものとします。」と規定する。
そして、不正競争防止法五条一項は、「不正競争によって営業上の利益を侵害されたものが、故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害したものに対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、その営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額と推定する。」と損害賠償額を予定している。右規定は、本件契約について類推適用できる。
(四) 被告義秋が、本件店舗の所在場所において従前どおりコンビニエンス事業を継続することにより受けている利益は一年当たり一〇〇〇万円を下らない。
(五) したがって、右違反の結果、被告義秋は、原告に対し、少なくとも一〇〇〇万円の競業禁止違反による損害賠償義務がある。
(六) なお、後記「被告らの主張」のとおり、被告らは、本件契約は、フランチャイズ契約ではなく、単なる支払委託契約であると主張するが、前記争点1の「原告の主張」のとおり、原告は本部としての実体を有しており、被告義秋は、原告に対し、本件契約の競業禁止規定違反により、損害賠償義務がある。
(被告らの主張)
(一) 本件契約二四条の七は、加盟店が契約の任意解除ないし更新拒絶を行った場合、当該加盟店にその後一年間、半径五キロメートル以内の地域での競業を禁止し、その違反の場合の制裁につき規定している。
そして、このような競業禁止、制裁規定は、通常フランチャイズシステムのノウハウを持った本部が、当該加盟店がフランチャイズシステムから離脱した後、速やかに同一地域を商圏とする別の加盟店をてん補することにより、当該フランチャイズシステムを表象する商標の、当該地域内における消費者に対する認知度を維持し、またその有するフランチャイズシステムのノウハウを加盟店に提供することの対価としてのロイヤルティ収入を確保することを可能ならしめるために設けられるものである。
(二) ところが、前記争点1の「被告らの主張」のとおり、本件契約において、原告は単なる支払代行の受託者にすぎないのであり、認知度を維持すべき商標は持たず、また、加盟店に提供すべきフランチャイズシステムのノウハウも有していない。このような者を受託者とした支払委託契約において、委託者が契約を任意解除又は更新拒絶した場合、委託者が同一地域において同一ないし同種の営業を継続することに受託者は利害を有さないのであるから、このような場合に受託者が委託者に競業避止義務を課し、その違反に制裁を加えるなどということは全く合理性がない。
本件契約書中には、各加盟店が従前ニコマートを本部とする加盟店であったという経緯により、便宜上、典型的フランチャイズ契約の書式を借用して作成されたため、右のような競業禁止規定が存在するにすぎず、同規定は例文規定として何ら法的拘束力を有さない。
(三) また、被告義秋は、本件店舗所在地において「新鮮組本部」なるものに属していることはない。原告から脱退後、被告義秋は体調を崩し、一時働けなくなったこともあり、妻に各種手続をすすめてもらったので、本件店舗所在地にある現在の店舗は公的にも原告の妻が代表となっている。
4 被告義秋の早阪債務についての連帯保証の成否及びその効力
(原告の主張)
(一) 原告は、早阪との間で、平成五年一〇月二九日付けで早阪加盟店契約を締結したが、その際、被告義秋は、原告との間で、右契約に基づき早阪が負担するすべての債務を保証する旨の連帯保証契約(以下「本件連帯保証契約」という。)を締結した。
(二) 早阪は、平成六年九月末日に原告の加盟店を脱退したが、その時点での早阪の原告に対する支払債務額(貸越金累計額)は一四四六万八六〇二円であった。また、右契約においては、遅延損害金を年一八パーセントとする約定がある。
(被告らの主張)
(一) 被告義秋は、原告と早阪間の平成五年一〇月二九日付け契約書上の連帯保証人欄に署名した。
しかしながら、これは、当時、井坂の巧みな言動により、ニコマートの元加盟店であった加盟店らが一店も余すところなく原告と支払委託契約を結ぶことが重要であるという機運が醸成されており、適当な連帯保証人が見つからず契約書上の連帯保証人欄が空欄のままになっている加盟店に対しては、他の加盟店の経営者が形式的に署名することによって取りあえず契約を成立させようという合意が、原告の加盟店らの間でされたことによるものである。そして、右署名に当たって、原告役員である室田は、形式的な契約である旨強調していた。
(二) したがって、形式的には、原告と被告義秋間に早阪を主債務者とする本件連帯保証契約が存するかのごとくであるが、右契約は、原告、被告義秋間で、債務負担の意思なくされた虚偽のもので無効である。
第三 争点に対する判断
一 争点1(原告から被告義秋に対する三か月分のロイヤルティ及びポスシステムレンタル料の請求の可否)について
1 証拠<省略>によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 被告義秋は、平成三年六月ころ、ニコマートとフランチャイズ契約を締結し、それ以降、本件店舗所在地において、ニコマート恵比寿南店を経営していた。
しかし、ニコマートは、コンビニエンス事業以外の財テクの失敗で大きな損失を被ったことから資金的にいき詰まるようになり、平成四年一〇月ころ、主要取引先に代金決済の繰延べを要求してニコマートの信用不安が表面化し、その後、平成五年六月二四日、二回目の不渡りを出して事実上倒産した。
ニコマートが経済的にいき詰まるようになってから、ニコマートから商品供給先(ベンダー)への代金支払が遅延するようになり、そのためベンダーから各ニコマート加盟店への商品供給等にも支障が生じるようになったため、平成五年二月八日ころ、取引先はベンダー会を設立し、各加盟店の要請及びニコマートの了承の下、ニコマートに代わって、加盟店からの売上預託金の入金を受け、各加盟店への商品供給を行う体制が採られるようになった。また、これに応ずる形で、被告義秋を含む各加盟店は、同年三月五日ころ、オーナー有志会(同年六月一九日ころ「ニコマートオーナー組合」に名称変更)を設立し、ベンダー会と協力して、商品発注供給、代金支払の体制を確保した。
ところが、ベンダー会とオーナー組合による右商品供給体制は、両者にとってその負担が大きいものであったことから、従来のニコマートの役割(本部機能)を果たすものとして、ベンダー会の中心メンバーであった株式会社小網の山崎専務から、オーナー組合に対して、不動産関係会社の代表者である井坂の紹介があり、井坂が本部機能を果たす新会社を設立することになった。(<書証番号略>)
(二) 平成五年八月三日、井坂が代表者となり原告が設立され、被告義秋を含む都内のニコマート元加盟店らは、同年八月二日、設立中の原告と仮契約を締結した。当時の原告の説明によれば、原告は、今後、旧ニコマートチェーンとは異なったコンセプトに基づく別途のコンビニエンスストアチェーンシステムの構築・拡大展開を目指すが、それまでは、ニコマートとの間で締結した契約に基づき暫定的に旧来のニコマート・コンビニエンスチェーンの商標、サービスマーク及びポスシステムの使用を継続するとのことであった(<書証番号略>)。
そして、平成五年一〇月二九日、被告義秋は原告と、本件店舗に関して本件契約を締結し、その他、被告義秋を含む元ニコマート加盟店約四〇店舗が本件契約と同内容の契約を原告と締結した。なお、本件契約締結に当たっての説明会において、サン企画の佐藤義俊から、原告がコンビニエンスストアチェーンの構築・拡大展開を図っていく旨の説明がされていた。
本件契約においては、本部である原告は、「商品構成、商品開発、商品調達等業務の一連のシステムとしての提供。ポスシステム運用による市場動向を把握した経営効率の追求。独特な店舗内外のデザイン、カラーコントロール及び造作、レイアウト、屋内外の看板その他の標識にかかる設計と仕様の提供並びにこれらのメンテナンス。商品管理、店舗施設管理と商品及びサービスの提供。加盟店従業員への教育、トレーニング方法。統一された経営管理システムの運用による他店舗又は他の加盟店との経営状況の比較対照による経営改善策の導入方法。」等を事業システムとして展開することになっている。
また、本件契約においては、本部と加盟店間に継続して発生する賃借勘定を決済する方法として、ニコマートでも採用されていた、次のような方法(オープン・アカウント制度)によることが決められている。
① 加盟店は、すべての売上げ及び加盟店が受領した仕入れリベート等を、所定のポスターミナルに正確に入力、登録する。
② 加盟店は、前記登録に基づく毎日の売上金等の収入合計額に、現金過不足額をプラスマイナスした現金有り高の全額を、翌日の午後三時までに、本部が指定する銀行口座に振り込み送金する。
③ 前項の規定にかかわらず、加盟店は、事務用品費・消耗品費等の事業経費で一か月につき五万円を超えない範囲の現金支払分については、前項の振り込み送金額から自主的に差し引くことができる。
④ 本部は、前各項によって加盟店から送金された加盟店の売上金等の受託を受け、この中から、本部指定ベンダー各社からの商品仕入代金及び役務委託料金、ポスシステムの利用料金、指定資機材のリース料金、本部への支払ロイヤルティ、オープン・アカウントを通じた本部からの貸付金に関する弁済元利金等の加盟店が負うべき債務等を、加盟店に代わって、それぞれの約定決済期日毎に、それぞれの債権者に支払う。
(三) 被告義秋は、本件契約のオープン・アカウント制度の規定に従い、本件店舗の売上等を原告の銀行口座に振り込み送金し、原告は、右仕入代金を各加盟店から振り込み預託を受けた右金銭からベンダーへの支払を行っており、原告設立当時は、月末締めの翌月末払いであったベンダーへの支払条件も、原告の信用が徐々に増すとともに緩和され、支払期間が延長されるようになったが、理由もなく、原告からベンダーへの支払が遅滞したということはなかった(なお、被告らは、原告が支払を怠ったため、平成六年四月から、ベンダーであるグリーンデイリーから野菜、果物の納品がなくなったと主張し、被告義秋は同趣旨の供述をするが、証人佐草は、原告の仕入先として、グリーンデイリーから別の業者に切り替わったものであり、グリーンデイリーへの支払が滞ったことはないと証言しており、その他、原告からグリーンデイリーへの支払遅滞を認めるに足りる客観的な証拠は全く存在せず、右被告らの主張を認めるに足りない。)。
一方、原告は、ニコマート時代にニコマートが契約していた富士総研と契約し、ニコマート時代とほぼ同様に、各加盟店は、原告から受ける商品情報などを参考に、富士総研にコンピューター端末を使って発注し、富士総研はこれを取りまとめてベンダーに発注し、ベンダーから各加盟店に商品が納品される、富士総研は各店舗からの情報を取りまとめて原告に送付する、原告は右情報を分析するなどして、更に商品情報などを含んだ売場情報を週一回の割合で各店舗に送付するというシステムが採られたほか、原告は、各加盟店に対し、各店舗の会計情報や営業情報の提供を行っていた(<書証番号略>)。また、原告は四名のスーパーバイザーを任命し、これらの者が、およそ週一回の割合で加盟店を訪問したり電話したりして、原告が作成した商品情報などを元に、売場情報の有効活動、商品の陳列配置指導、加盟店オーナーの悩みを聞くなどしていた(なお、被告らは、スーパーバイザーからの指導は全くされていなかったと主張し、証拠(<書証番号略>)によれば、スーパーバイザーの活動が被告義秋が期待したほどのものでなかったことが認められるものの、スーパーバイザーの業務も行われていたことが認められ、本件全証拠によってもスーパーバイザーからの指導が全くなかったとは認めることができず、これをもって、本件契約の予告期間を経ない解除を正当化する事由となるものとは認めがたい。)。
また、原告は、数名の加盟店オーナーも参加した検討決定の結果による販売促進活動として、キャンディー、消しゴム、塩、健康茶等の配布、垂れ幕の設置なども実施した。
また、原告は、「Jマート」という登録出願中の商標を有し、その看板を各加盟店に設置している(<書証番号略>)。
(四) ところが、ニコマートの信用不安が発生後、倒産するまでの間に、ニコマートの取締役になったこともある佐藤秀雄が、ニコマート又はニコマートの関連会社であるニコマートファイナンスが元ニコマート加盟店に対して有した債権を譲り受けたと主張し、当時の原告加盟店となった者に取立てを行ったことがあった。原告は加盟店を防衛する趣旨で、右債権を佐藤秀雄から譲り受けることにしたが、その決定の過程で、井坂と原告経営に参画していた佐藤義俊との間で意見が対立し、これをきっかけとして佐藤義俊は原告から離れてしまった。
大川は、加盟店オーナー代表として、原告の監査役に就任しており、当初、右債権譲受けを了承していたにもかかわらず、佐藤義俊が原告から離れたころになって、右債権譲受けについて問題とし出し、平成六年三月二九日ころ、佐藤義俊の原告からの去就について原告に説明を求める申入れを、被告義秋も加わったオーナー有志の中心となって行い(<書証番号略>)、その後、大川は、原告との本件システムから脱退し、平成六年八月一日に設立された原告と競合するコンビニエンス業を行うアゴラスジャパン株式会社に佐藤義俊とともに参加した。
2 以上の事実によれば、原告と被告との本件契約は、コンビニエンス事業のフランチャイズ契約の性質を有するものであったといえ、また、被告ら主張のような本件契約を解約予告期間を経ずに被告義秋から一方的に解除することも認めるに足りる事情は認められないことから、被告義秋は、原告に対し、本件契約に基づき、解除通知を受けたときから三か月間である平成六年八月ないし同年一〇月分のロイヤルティ一〇八万一五〇〇円(三六万〇五〇〇円×三か月(ただし、消費税を含む))及びポスシステムレンタル料一五万七五九〇円(五万二五三〇円×三か月(消費税を含む))、合計一二三万九〇九〇円並びにこれに対する平成六年一〇月末日が経過した翌日である平成六年一一月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払義務がある(<書証番号略>)。
二 争点2(看板残割賦代金相当額の支払義務の有無)について
1 証拠<省略>によれば、本件契約締結に当たっての説明会において、井坂は、ニコマート元加盟店からのロイヤルティ一か月三五万円(消費税別)の説明において、右ロイヤルティには看板代も含むと説明していたことが認められる。
井坂の右説明どおりであれば、確かに、加盟店が途中で脱退した場合には、それ以降、ロイヤルティ収入から看板のリース料(<書証番号略>)を支払うことができなくなるという事情が認められるが、しかし、一方、本件契約には、加盟店からの解約は三か月の予告期間をおけば可能であることが規定されており、その後の一年間の競業禁止なども規定されているが、看板料の残リース代金が存在する場合の支払については何らの規定もされておらず(<書証番号略>)、そうすると、本件契約においては、中途解約の場合に看板料の残リース代金が存在しても、それは、結局、原告の責任で清算するものとなっていたものと解せざるを得ず、その他、看板の残リース代金を被告義秋が負担すべきとする約定を認めることはできない。
また、証拠<省略>によれば、本件店舗の原告からの看板は、平成六年八月一日午前零時すぎころ、原告従業員と原告の依頼を受けた業者が本件店舗から外して持ち去っていることが認められ、本件全証拠によっても、被告義秋が右看板を破棄したと認めることもできない。
よって、被告義秋に本件店舗看板の残割賦代金相当額の支払義務を認めることはできない。
三 争点3(競業禁止違反による損害賠償義務の有無)について
1 証拠<省略>によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 被告義秋は、遅くとも、平成六年五月ころには、原告と競合するコンビニエンスストアシステムの本部である新鮮組の開発部次長江川雅巳(以下「江川」という。)と会い、江川に対して原告の不満を告げたことがあり、江川の個人的な知り合いの青果物配送業者に青果、果物の本件店舗の仕入れを打診したことがあった(<書証番号略>)。
(二) 被告義秋は、平成六年七月二九日付けで、原告に対し、その代理人である伊東隆弁護士により、本件契約を平成六年七月三一日をもって解除し、原告のポスシステム機器及び看板の引取りを依頼しているが(<書証番号略>)、右伊東弁護士は、当時新鮮組の顧問弁護士であった。
(三) 原告が、平成六年八月一日午前零時すぎ、本件店舗からポスシステム機器及び看板を外して持ち去った後、同日の日中のうちに、本件店舗には新鮮組チェーンの看板が設置され、営業が開始された(<書証番号略>)。
(四) 本件店舗は、ニコマート時代、所有者からニコマートの関連会社である株式会社ニコマートハウジングが賃借し、同社から被告義秋が転借する形となっていたが、その後、被告義秋は店舗所有者から直接賃借する契約に切り替えていた。
(五) 新鮮組との本件店舗所在地でのフランチャイズ契約は、被告義秋経営の本件店舗が原告加盟店であったときから、右店舗業務に従事していた被告義秋の妻が当事者となって、平成六年八月一日締結されており、被告義秋は、新鮮組の加盟店となった右店舗の営業に従事している。
以上の事実によれば、被告義秋は、実質的に、本件システムからの脱退直後から、原告の競争業者である新鮮組本部に属し、本件店舗の所在場所において、コンビニエンスストアを経営し、本件契約二四条七項に規定された加盟店の競業禁止義務に違反しているものと認めることができる(なお、前記一のとおり、本件契約はフランチャイズ契約の性質を有していると認めることができる。)。
2 証拠(<省略>)及び弁論の全趣旨によれば、被告義秋が経営していた本件店舗は、原告との加盟店の中でも成績優良店であり、被告義秋が本件契約を破棄して同一所在地で新鮮組チェーンのコンビニエンスストアを営業することにより損害を被ったことが認められ、また、原告加盟店から脱退時ころの本件店舗の月間売上高は約一六〇〇万円であり、原告から脱退後の本件店舗所在地での新鮮組チェーン店舗売上は、周辺への競合店の進出により約二〇パーセント減少したが、それでも、被告義秋が、本件契約により、実質的に本件店舗所在地において従前どおりコンビニエンスストアを経営していることにより受けているとみなし得る利益は年間一〇〇〇万円を下らないものと認められる。そして、本件契約二四条七項は、加盟店が同条項の競業避止義務に違反したときは、不正競争防止法所定の不正競争意思があるものとみなすことを規定している。(<書証番号略>)
以上の事実によれば、被告義秋は、本件契約の競業禁止規定違反及び不正競争防止法五条の規定により、原告に対し、一〇〇〇万円の損害賠償金及びこれに対する契約義務違反があった平成六年八月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
四 争点4(本件連帯保証の成否及び効力)について
1 証拠(<省略>)によれば、平成五年一〇月二九日、本件契約と同内容の早阪加盟店契約締結の際、被告義秋は、早阪が早阪加盟店契約により原告に対して負担する債務のすべてを連帯保証する旨の連帯保証人として署名押印し、原告との間で本件連帯保証契約を締結したことを認めることができる。
もっとも、被告義秋は、適当な保証人が見つからない加盟店に対しては、他の加盟店の経営者が形式的に署名することによって取りあえず契約を成立させようとの合意が原告らの加盟店らの間でされ、原告役員である室田も形式的な契約である旨強調していたとして、本件連帯保証契約は、原告と被告義秋間で、債務負担の意思なくされた虚偽のもので無効であると主張し、被告義秋は、本件連帯保証契約の前に、原告の室田専務が「この契約書は形式的なものだから。」と述べたので、簡単に署名したと供述する。
しかしながら、室田その他原告担当者が、本件連帯保証契約が形式的なもので、法的効力がないものと述べたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、かえって、被告義秋は、その本人尋問において、本件連帯保証契約締結に当たり、早阪は被告義秋に「利益はある」と言って書類を見せてくれたと供述し、右供述は、本件連帯保証契約締結当時の被告義秋や早阪が、連帯保証人には連帯保証義務があることを認識していた事実を示唆するものといえること、更に、被告義秋は、その後、室田に対し、本件連帯保証契約義務を免除することを依頼し、平成六年三月二〇日ころ(甲八(合意書)の日付は二〇日くらい遡らせて作成された)、原告と被告義秋との間で、原告は被告義秋に対し、「本件連帯保証契約責任を免除し、その債務について請求しない。ただし、原告に責任がなく本件契約が解除された場合は、被告義秋の本件連帯保証契約に基づく債務は遡って復活する。」旨を内容とする合意が成立しており(<証拠省略>)、被告義秋は、本件連帯保証契約に基づく責任を負うことを認識して原告と交渉していたものと推測され、以上の事実等に照しても、被告義秋の主張は採用できない。
2 そして、証拠(<書証番号略>)及び弁論の全趣旨によれば、本件連帯保証契約が担保する早阪の原告に対する債務額は一四四六万七九一三円(平成六年一月三一日時の債務額九五九万〇七〇二円からその後の弁済額を減じた平成七年四月二七日時の残額七九九万〇七〇二円、及び、平成六年二月一日以降分についての同年九月三〇日までの債務額が六四八万五三六六円、同年一〇月三一日までの債務額が六四七万七二一一円。右七九九万〇七〇二円と六四七万七二一一円の合計が一四四六万七九一三円)となること、早阪は、平成六年九月末日に原告の加盟店から脱退したことが認められる。また、早阪加盟店契約二四条六は、契約解除の日以降年一八パーセントの割合による遅延損害金を付する旨約している(<書証番号略>)。
したがって、被告義秋は、本件連帯保証契約に基づく保証債務の履行として、一四四六万七九一三円及び早阪が原告加盟店から脱退した翌日である平成六年一〇月一日から約定の年一八パーセントの割合による遅延損害金の支払義務がある。
第四 結論
したがって、原告に対し、被告義秋は、①三か月の解約予告期間相当額のロイヤルティ及びポスシステムレンタル料合計一二三万九〇九〇円及びこれに対する平成六年一一月一日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金、②競業禁止違反による損害一〇〇〇万円及びこれに対する平成六年八月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金、③本件連帯保証契約に基づく一四四六万七九一三円及びこれに対する平成六年一〇月一日から支払済みまで年一八パーセントの割合による遅延損害金の各支払義務を負い、被告松義は、本件契約に基づく被告義秋の原告に対する主たる債務の連帯保証人として、右①及び②の債務についての連帯保証債務を負うことになる。
(裁判官本多知成)