大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成7年(ワ)2630号 判決

原告 ヴェーダテック株式会社

右代表者代表取締役 マニ・エス・スブラマニアン

右訴訟代理人弁護士 上柳敏郎

同 小島延夫

被告 トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社

右代表者代表取締役 吉越浩一郎

被告 尾山和明

右両名訴訟代理人弁護士 平川純子

同 鈴木修

同 磯部健介

右両名訴訟復代理人弁護士 城山康文

同 小張裕司

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一  被告トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社は、原告に対し、四七〇〇万円及びこれに対する平成六年一〇月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告に対し、各自一一〇〇万円及びこれに対する平成七年三月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、「被告トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社における本件会計システムのソフトウエア開発は、原告の責任により、失敗した」などと原告を誹謗中傷する等の名誉毀損、信用侵害にあたる行為をしてはならない。

第二事案の概要

一  本件は、被告トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社(以下「被告会社」という。)との間で被告会社の会計システムに関するソフトウエア開発についての請負契約を締結した原告が、被告会社に対し、請け負ったソフトウエアを完成したと主張して、請負残代金四七〇〇万円及びこれに対する完成日より後であると主張する平成六年一〇月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、被告会社及び被告尾山和明(以下「被告尾山」という。)に対し、被告尾山の行った原告に対する名誉毀損行為を原因とする損害一一〇〇万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成七年三月九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払及び名誉毀損行為、信用侵害行為の禁止を求める事案である。

二  前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠と弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

1(一)  原告は、コンピューターのソフトウエア及びハードウエアの設計、製造、販売、仲介並びに輸出入、その設計及び利用に関する指導及びコンサルタント等を業とする会社であり、もと有限会社であったが、平成九年までに株式会社に組織変更された。

(二)  被告会社は、女性用下着等の衣料品の輸出入、販売等を業とする株式会社である。

(三)  被告尾山は、被告会社のシステム部長であった者である。

2  原告と被告会社は、平成五年九月一四日、被告会社の会計システムに関してのソフトウエア開発について次のとおり請負契約を締結した(以下「本件請負契約」という。また、本件請負契約に係る甲第三号証の開発契約書を「本件請負契約書」という。)。

(一) 代金 合計九四〇〇万円

(二) 代金支払方法 契約実行開始〇・五か月後 一〇〇〇万円

契約実行開始一か月後 一〇〇〇万円

契約実行開始二か月後 一〇〇〇万円

契約実行開始三か月後  八〇〇万円

契約実行開始四か月後  九〇〇万円

ジー・エル(原語では「GL」。この項では以下「GL」と表記する。)のアルファーバージョン(以下「αバージョン」という。)完成時

一〇〇〇万円

エー・アール(原語では「AR」。この項では以下「AR」と表記する。)とエー・ピー(原語では「AP」。この項では以下「AP」と表記する。)のαバージョン完成時

一一〇〇万円

GLのべータバージョン(以下「βバージョン」という。)完成時 五〇〇万円

ARとAPのβバージョン完成時 一〇〇〇万円

GLとARとAPのプロダクションバージョン完成時 一一〇〇万円

αバージョンは、当該のソフトウエアパッケージが、「リクワイアメンツ・ドキュメント」(原語では、「Requirements Document」。以下、甲第三号証において使用されているこの「リクワイアメンツ・ドキュメント(Requirements Document)」のことを特に「RD」と呼称する。)に記載されている機能のうち五〇パーセント以上が動くことを明確にデモで示したときに開発完了とする。

βバージョンは、当該のソフトウエアパッケージが、RDに記載されている機能のうち七五パーセント以上が動くことをユーザーが実際に使用して確認したときに開発完了とする。

プロダクションバージョンとは、契約書2・1条に記載されている受領試験を実行し、当該ソフトウエアの正式な受領が認められたときに開発完了とする。

(三) 定義

(1) 「機能追加」(原語では「Enhancement)とは、エムエフジー/プロ(トレードマーク)ソフトウエアツール(以下「MFG/PRO」という。)を、被告会社が希望する仕様項目ないし追加項目を組み込むために、修正することをいう。右仕様項目ないし追加項目は、原告により開発されるコンピューター・プログラムおよび関連書類であり、添付書類1表A第1部に詳細が示されるものである。

(2) 「顧客特定機能追加・拡張」(原語では「Customization)とは、「機能追加」以外に、原告によりなされるコンピューター・プログラム及び関連書類の開発のことであり、添付書類1表A第2部に詳細が示されるものである。

(3)  「GL」とは、総勘定元帳機能のことである。「機能追加」の関連においては、MFG/PRO総勘定元帳パッケージの顧客特定機能追加・拡張及び機能追加を意味する。「顧客特定機能追加・拡張」の関連においては、総勘定元帳機能実行のために本契約において開発されるヴェーダテック・ソフトウエア・ツールのことを意味する。(以下、総勘定元帳機能のことを「GL」と表記する。)

(4)  「AR」とは、売掛金勘定機能のことである。「顧客特定機能追加・拡張」の関連においては、売掛金勘定機能実行のために本契約において開発されるヴェーダテック・ソフトウエア・ツールのことを意味する。(以下、売掛金勘定機能のことを「AR」と表記する。)

(5)  「AP」とは、買掛金勘定機能のことである。「顧客特定機能追加・拡張」の関連においては、買掛金勘定機能実行のために本契約において開発されるヴェーダテック・ソフトウエア・ツールのことを意味する。(以下、買掛金勘定機能のことを「AP」と表記する。)

(甲第三号証)

3  本件請負契約は、平成五年九月一四日に実行が開始され、原告は、被告会社から平成六年一月一四日までに、契約実行開始四か月後までの代金として合計四七〇〇万円に消費税分を付加した額を受領した。

4  被告会社は、平成六年九月一五日付け内容証明郵便により、原告に対し、本件請負契約を解除するとの意思表示をした。

三  争点

1  本件請負契約が原則としてMFG/PROを無修正のまま使用することを内容とするものであったか。

2  原告によるGLのαバージョン開発が完了したといえるか。

3  被告会社の不安の抗弁が認められるか。

4  被告尾山が原告の名誉を毀損し又は信用を侵害するような行為を行ったか。

四  争点に関する当事者の主張

1  争点1(本件請負契約が原則としてMFG/PROを無修正のまま使用することを内容とするものであったか)について

(一) 原告の主張

(1)  本件請負契約の業務内容は、被告会社の会計システム(GL、AR、AP等の分野を含む。)についてMFG/PROを活用し、被告会社の利用に適したソフトウエアを作成することであった。

そして、本件のGLのようにMFG/PROをほぼ無修正で導入することが可能である場合には、不必要な修正をすることなくユーザーのニーズに合致するようにパッケージソフトを活用していくことがソフトウエア開発会社に求められているが、それは以下の理由からも明らかである。

第一に、本件においては、被告会社の時間とコストの問題から、できるだけ少ないコストで、早期に新しい会計システムを立ち上げることが必要であった。

第二に、修正が少ない場合には、システムがどう作られているかがわかりやすく、当該ソフトウエアのバージョンアップが容易であり、バグが生じる可能性が少なく、変更部分についてはソフトウエアの品質がパッケージの品質より下がる可能性があるのに、そのおそれを少なくすることができ、ユーザーの学習、利用が容易であり、問題が生じたときにパッケージの開発会社に質問することができる等の利点がある。

第三に、MFG/PROをそのまま活用できるようにするだけでも、ギャップ分析、データ処理、レポート書式の設定等大変な手間と労力が必要であり、その対価として本件の開発費用は合理的である。

第四に、第一フェーズの開発にあたったアンダーセン・コンサルティング社(以下「アンダーセン」という。)もGLについてMFG/PROを無修正で導入することが望ましいと考えていた。

(2)  本件請負契約における開発範囲は、本件請負契約書によって決定しており、RDは、開発範囲の確定とは無関係であり、αバージョン及びβバージョンの完了と最終的検収手続の際の判断基準にすぎない。

原告が本件請負契約上果たすべき義務は、甲第三号証の本件請負契約書とそれに基づいて具体的な判定基準を定めた甲第五号証によって明白である。RDの確定と本件ソフトウエアの開発は同時並行的になされており、RDが確定しないと本件ソフトウエアの開発ができないという事情はなかった。

(二) 被告会社の主張

(1)  本件請負契約の内容は、甲第三号証の本件請負契約書に明記されているとおり、GLについては、MFG/PROの基本パッケージを変更改善し、かつ右の基本パッケージに含まれていない機能を追加開発することであり、AP及びARについては、MFG/PROの基本パッケージを用いるのではなく、被告会社の利用に適したソフトウエアを新規開発することであった。

すなわち、MFG/PROは、アメリカにおいて開発されたパッケージソフトウエアであり、アメリカでの会計処理のため十分な機能を保有していたので、被告会社は、このMFG/PROのGL部分の基本的に優れた機能を生かして我が国独自の商法、法人税法、消費税法に対応させ、また専用請求書発行などの機能を追加し、さらに被告会社の要求にあわせた改良を行った上で被告会社の会計処理に導入、使用することを決定した。そして、GLについての機能の追加、既存機能の改良等は、MFG/PROに精通しているとの触れ込みであった原告に依頼することにし、AP及びARについては、MFG/PROのパッケージソフトウエアを利用せずに原告が独自に開発することとなったのである。

(2)  本件のようなソフトウエア開発において、具体的な変更改善及び追加開発の内容を決めるためには、まず開発者と顧客によって開発内容の詳細な要件定義が行われることになる。顧客は自己の業務に精通しているがソフトウエアに関する知識がなく、一方、開発者はソフトウエアに精通しているが顧客の業務内容、顧客が何を望んでいるかについての知識がないため、顧客と開発者との共同作業として詳細な要件定義を確定する作業が不可欠だからである。本件請負契約においては、当初の三か月間はこの要件定義の作業に充てられることとなっていたが、原告担当者である菊地亨(以下「菊地」という。)の作業分担の遅れ、原告スタッフの知識、経験の不足が原因となってその作業は遅々として進まなかった。

原告は、本件請負契約締結から五か月が経過してもRDを作成しなかったが、菊地は、被告会社に対して、原告の財政的な窮状を訴え、GLのαバージョンのデモの実施を懇情してきた。そこで、被告会社は、RDの提出を後日の課題とし、被告会社の要求した開発が原告によってどれだけ行われているのかを見るために、GLαバージョンのデモを実施することにした。しかし、デモにおいて示された内容は、ほとんどMFG/PROのオリジナルパッケージと同じものであり、原告が開発した内容はわずかであった。

2  争点2(原告によるGLのαバージョン開発が完了したといえるか)について

(一) 原告の主張

(1)  甲第三号証の本件請負契約書に添付された仕様書(以下「フィーチャーズリスト」という。)に記載された内容は、甲第五号証において具体化され置き換えられた。甲第五号証には、「Requirements Document」との表題が付され、その合意内容においては、「本契約九章で求められるすべての今後の試験および検収は本書によるものとする」として、同合意書のR1頁からR24頁が本件請負契約にいうRDであることが明らかにされている。

原告は、RDを当初の約定どおり平成五年一二月末日までに完成させており、平成六年三月七日の時点でその後同年五月一四日に合意した甲第五号証とほとんど異ならないものを既に被告会社に提出していた。提出が同年三月七日となったのは、人手不足であること及び決算期と重なることを理由として同年三月まではRDの案を渡されても検討できないことなど被告会社の事情に起因する。

(2)  そして、GLのαバージョンが完成したかどうかは、甲第五号証に記載された機能があるかどうかで一義的に決定されるべきであり、被告会社も甲第六号証において「手」のマークによって示されたサブ機能(九九のうち六三)が存在することを争っていない。すなわち、デモにおいてRDに示された機能のうち五〇パーセント以上が動くことを被告会社も認めているのである。

(3)  被告会社がGLのαバージョン完成を認めていることは、次の事実からも明らかである。

第一に、被告会社の安西課長(以下「安西」という。)は、平成六年五月二七日、本件請負契約で求められているGLのαバージョン完成の必要条件が満たされていることについて、「各機能は機能要件リストの内容が存在していることは認定する」と手書きしたフィードバックシートを原告に提出した。

第二に、社長報告会において、被告会社のユーザー側は、GLのαバージョンについて一応完了したと認めた。

第三に、被告会社の原田晋一部長(以下「原田」という。)が起案した文書において「1994年5月14日に締結されたリクワイアメンツ・ドキュメントに記載された要求を実現するための機能のうち50パーセントを含む機能が示されたことを確認する」と記載されている。

第四に、原告が、五月三一日、原田らに対し、開発途中の消費税についてデモを実施し原告が日本特有の経理処理についても開発能力を有することを示したところ、被告会社は、GLのαバージョンの完了を確認して、それ以降は具体的な支払の手続に入った。

第五に、原田は、六月三日、菊地に対して、「印鑑がそろえば、すぐに支払えるように準備している。部下にもすぐに振り込めるように準備しておくように言っておく。」、「佐藤常務は、情報システムの主幹部門であるシステム部の印鑑を得てからでないとサインしたくないと言っている。」と述べた。

(二) 被告会社の主張

(1)  平成六年五月一八日に実施されたデモにおいては、MFG/PROのGLモジュールそのものが示されたにすぎず、被告会社が要求していた変更改善や追加開発がなされている痕跡はなかった。

(2)  原告は、サイドマネージャーとして配備されるはずであった菊地の作業割当の遅れ、原告スタッフのプログラミング、経理及び会計基準についての知識や経験の不足が原因となって、RDを期限までに作成することができなかった。しかし、原告は、被告会社に対し、GLのαバージョンのデモができなければ会社が倒産してしまい、開発が続けられなくなる、GLのαバージョンはその時点でユーザーの満足がほぼ得られるものであるなどとデモの実施を懇願してきたため、被告会社は、現実的な暫定的方策を考え、デモのために最低限用意すべき資料(機能リスト、画面及び帳票レイアウト、業務フロー)の提出を原告との間で合意するとともに、乙第五号証の機能リストにこれらの内容をできる限り集約して原告が完成済みと主張するGLのαバージョンをみることにした。甲第五号証の機能要求リストは、このような状況の下において、しかも本件請負契約書に定めるRDの完成不能という状況を受けてGLのαバージョンのデモのために取りあえず合意した内容をとりまとめた書面にすぎなかった。甲第五号証の内容は、到底RDと呼べるような代物ではなく、GLのαバージョンの完成は契約上RDに記載されている仕様のうち少なくとも五〇パーセントを超える部分について開発が完成していることをデモで明示することが条件であったが、原告はそもそもデモの時点に至ってもRDを作成できなかったのであるから、五〇パーセントの完成を明示したと主張することの前提自体を欠いている。

(3)  被告会社がGLのαバージョンの完成を承認したことはなく、それは以下の事情から明らかである。

第一に、安西は、GLのαバージョンのデモの当日、菊地に対して、「何が変わったんだ。」と憤りの声をあらわにした。

第二に、原告作成の平成六年五月二七日付け確認書に対し、被告会社の佐藤昭夫常務取締役(以下「佐藤」という。)は同書面の「GLαバージョンが完成した」との表現に難色を示し、その回答を拒否した。

第三に、安西が作成したフィードバックシートに「存在していることは認定」、「検証のうえあわせて判定する」との記載があることは事実であるが、これは原告によるデモの結果がオリジナルのMFG/PROのパッケージに含まれている機能と何ら異ならなかったためにいわば助け船として記載されたものである。

第四に、平成六年五月三一日、佐藤及び原田が菊地と面会し、プロジェクトを原告が完了できるかどうか不安であるので日本に特殊なもの、例えば消費税についての開発状況を見せて欲しいと発言したのは事実であるが、この発言は、GLのαバージョンのデモの結果、原告による開発の形跡が全く認められなかったことから本来ならばGLのαバージョンは未完成との裁定を下すべきであったのに、被告会社も原告に対して既に四七〇〇万円の支払を行っていたことから、本件開発プロジェクトを頓挫させないためにされたにすぎない。また、そもそも消費税についての機能は、本件請負契約の機能項目に当初から含まれていたものであり、被告会社は、デモに際してもその機能を示すように求めていた。

3  争点3(被告会社の不安の抗弁が認められるか)について

(一) 被告会社の主張

本件請負契約は、ソフトウエアの開発契約であり、GLについてはMFG/PROのソフトウエアの修正、変更を、AP及びARについてはコンピュータープログラム等の新規開発を契約内容としていたが、原告がGLのαバージョンの完成を主張し中間金一〇〇〇万円を請求してきた平成六年六月の時点において、原告は本件請負契約に定められた仕事を行っておらず、原告には仕事完成の意思も能力もなく、現在においてもその状況は変わらない。このような状況において、被告会社が開発代金の先払いを強要される理由がないことが取引上の信義則及び公平の原則に照らし当然のことであり、被告会社による支払拒絶は正当である。

(二) 原告の主張

被告会社の主張は争う。本件の後、原告は、MFG/PROの開発元であるクアッド社(以下、アルファベット表記により「qad社」と表記する。)からMFG/PROの日本語化及び日本版の開発を全面的に依頼され、さらにその導入支援も担当しており、多数の実績を上げてきているのである。

4  争点4(被告尾山が原告の名誉を毀損し又は信用を侵害するような行為を行ったか)について

(一) 原告の主張

(1)  被告尾山は、本件ソフトウエア開発に必要なデータの提供を遅らせ、開発に必要な人員の配置をせず、開発に必要なコンピューターの購入を遅らせ、機種をヒューレットパッカードからシークエントに変更した。

(2)  被告尾山は、本件ソフトウエア開発に関与した原告従業員に対し、原告をやめて、被告会社で、またはその委託で働くよう働きかけた。

(3)  被告尾山は、被告会社のユーザーである会計部門がほとんど了承したGLのαバージョンの完了承認とその代金支払について横槍を入れ、その代金支払を拒否し、契約書にないドキュメントの提出などを要求してきた。

(4)  被告尾山は、被告会社内において、原告は能力がない、MFG/PROは日本ではだめである等の根拠のない風評を流し、原告の名誉と信用を毀損した。

(5)  被告尾山は、被告会社のシステム開発の第一フェーズで行われたシステムが機能停止したときに、原告が行ったサポートについて虚偽の事実を述べたり、その代金支払を妨害したりした。

(6)  被告尾山は、平成六年八月三日、原告の重要な業務提携先であるqad社のアジア太平洋事務所に対し、「ヴェーダテックの契約違反で会計プロジェクトは中止している。ヴェーダテックは、同プロジェクトの中心的従業員を解雇し、もはや同プロジェクトを継続する能力はない。」などと虚偽の事実を記載した文書を送付した。

(7)  被告尾山は、被告会社が原告を裁判所に提訴した事実はないにもかかわらず、「被告会社が、原告を裁判所に提訴した。」などの事実無根の発言を関係者に対し行った。

(二) 被告らの主張

原告の主張はすべて争う。

第三争点に対する判断

一  証拠(甲第三ないし第九号証、第一一号証、第一二号証の二、第一二号証の四、第二六、第二七号証、第三三ないし三五号証、第三七号証、第五八、第五九号証、第六二号証、第六五ないし第六七号証、第六九、第七〇号証、第七二、第七三号証、乙第三号証の一、二、第四ないし第一〇号証、第一三、第一四号証、第一六ないし第一八号証、第二八、第二九号証並びに証人菊地亨、証人原田晋一、証人佐藤昭夫、証人ソウマスンダランの各証言及び原告代表者、被告尾山和明本人の各尋問の結果。ただし、甲第二七号証、第三三ないし第三五号証、第六九、第七〇号証、第七二、第七三号証及び証人菊地亨、証人ソウマスンダランの各証言及び原告代表者尋問の結果のうち後記採用しない部分は除く。)と弁論の全趣旨に前記前提事実を総合すれば、以下の事実が認められ、甲第二七号証、第三三ないし第三五号証、第六九、第七〇号証、第七二、第七三号証及び証人菊地亨、証人ソウマスンダランの各証言及び原告代表者尋問の結果のうち、この認定に反する部分は採用することができない。

1  被告会社は、従来ワングというコンピューターシステムを使用していたが、メインコンピューターが古くなったこと、システムソフトウエアの更新ができなくなったこと、ワング社が事実上倒産したことなどを契機として新しいコンピューターシステムを導入することにし、平成四年二月、ユニックスマシーンであるヒューレットパッカード九〇〇〇シリーズとMFG/PROとを基本として情報システムを新しく開発することが決定された。開発の内容は、販売、購買、在庫システムを開発する第一フェーズ(第一局面)と、情報系中心の経理、人事、生産管理システムを開発する第二フェーズ(第二局面)とに分けられ、開発費用は第一フェーズ約六億円、第二フェーズ約四億円とされた。

MFG/PROは、「プログレス」というリレーショナル・データベース・ソフトウエアを基本にしてアメリカのqad社によって開発された基幹業務統合アプリケーションソフトウエアパッケージであり、被告会社が導入を決定した時点ではヨーロッパを含めて約四〇〇の導入事例があるとされていた。MFG/PROは、一般的な会計システム標準を満たす機能は十分に備えていたものの、日本の諸法律の下で必要とされる固有の機能を必ずしも備えておらず、また被告会社の親会社である外国法人と会計規準を異にした連結決算機能、経営管理上の要請から要求される固有の予算管理機能等のMFG/PROが具備していない機能が被告会社においては必要とされていたため、被告会社の要求を満たすためには、MFG/PROの機能改善及び追加が必要不可欠であった。

第一フェーズにおけるプログラミング作業については、販売、購買のプログラミング作業をアンダーセンが担当し、在庫に関しては被告会社の管理下においてイニシャル株式会社(以下「イニシャル」という。)が担当することになり、アンダーセンは、MFG/PROパッケージソフトウエアを活用してシステムソフトウエアを構築していくことになった。当初、平成五年五月にシステムテストを完了する計画であったが、基本設計の終了が遅れたためシステム導入は平成六年一月に変更された。

なお、被告会社経理部長として被告会社のユーザー側の立場にあった原田は、平成五年五月、アンダーセンからGLについてMFG/PROの概要デモを受け、被告会社が目指しているシステムにするためには、MFG/PROのそのままの状態ではとても使用に耐えられず、大幅な修正及び追加が必要であると認識した。

2  被告会社は、平成五年七月六日、アンダーセンと第二フェーズ開発方針についての打ち合わせを行ったが、アンダーセンが第一フェーズの開発においてあまり成功していなかったことなどの理由から同社を会計システムの担当候補から外すことにした。

そこで、被告会社は、MFG/PROの修正及び開発を外部のソフトウエアハウスに委託するため、同年八月一七日、原告、フューチャーシステムコンサルティング株式会社(以下「フューチャー」という。)、イニシャルの三社による会計システムのプレゼンテーション(説明会)を開催した。このプレゼンテーションにおいては、MFG/PROのGLのモジュールをカスタマイズすることが条件とされていた。

三社による同一条件でのGLシステム開発の見積合わせ額は、イニシャルが一八〇〇万円、原告が二〇〇〇万円、フューチャーが二八〇〇万円であったが、被告会社システム部の開発要員がすべて第一フェーズの開発に全工数を割いていたので、被告会社には会計システムの物理的開発余力がなかったこと、原告がアメリカからプログレスに精通した開発者をいつでもまた何人でも招聘できる力があると豪語していたこと、原告がMFG/PROの会計パッケージに精通している開発者も用意できると主張していたことなどの理由から、被告会社は、同年八月二五日、原告に対して会計システムの開発を発注することを決定した。

3  原告と被告会社は、平成五年九月一四日、本件請負契約を締結した。

本件請負契約の内容は、原告においてMFG/PROの機能改善及び機能固有化を行って被告会社の要求に合致した会計システムであるGLを開発すること、AR及びAPについてはMFG/PROを使用せずに原告がソフトウエアを特注(カスタムメイド)で開発することであった。

被告会社は、本件開発契約において原告に対して要求する改善及び開発事項をまとめ、原告及び被告会社が検討を重ねてフィーチャーズリスト(原語では「FEATURES LIST」)が作成され本件請負契約書に添付された。このフィーチャーズリストにはMFG/PROのオリジナルパッケージには搭載されていない機能が掲載されていた。もっとも、被告会社は、MFG/PROに関する専門的知識に乏しかったため、MFG/PROのどこをどのように変更及び開発すべきかを具体的に原告に要求することができず、被告会社の原告に対する発注から本件契約締結までが二週間程度しかなかったこととも相まって、被告会社の概括的な要望事項を取りあえずまとめてフィーチャーズリストに掲載することしかできなかった。そのため、本件請負契約においては、その後に、専門的知識を有する原告が契約の目的である開発内容を詳細に記載したRDを作成期限を三か月として作成することが予定された。そのRD(前記のとおり原語は「Requirements Document」であり、日本語に訳し換えると、「要求事項書」とも「要件定義書」とも訳し得る。)とは、フィーチャーズリストに記載されている契約締結当初にユーザーから出された要求をパッケージとの関係を踏まえて詳細化、具体化した設計仕様書のことであり、本件請負契約においてその作成はMFG/PROについて深い理解のある原告の責務とされた。

現に、原告の従業員で本件システム開発に深く関わった菊池及びソウマ・スンダラン(以下「ソウマ」という。)も、RDとは、フィーチャーズリストの内容をより具体化して詳細についてまで定めたものであると理解していた。

そして、前記第二の二2(二)のとおり、RDは、本件請負契約で定められた代金の支払方法にも密接に関連付けられており、例えば、原告側のソウマ、原告代表者も、RDがαバージョン、βバージョンの機能チェックに重要な役割を果たすべきことを認識していた。

なお、会計システムのプレゼンテーションに参加したフューチャー、イニシャルから提出された基本設計に関する提案書においても、開発者の作業範囲の項目として、「ユーザー要求の確認」、「パッケージ機能の確認」、「修正・追加機能の確認」等の項目が挙げられており、作業基準の項目として、プログラミング、各種テスト、各種請求権と並んで、「要件定義」が掲げられていた。

そして、本件請負契約書に添付されたGLのフィーチャーズリストには、コア・パッケージとして、「日記帳」、「月決算」、「貸方借方残高チェック」、「貸借試算表」、「前期終了前に今期に入力する機能」、「部門別減価消却/経費配分」等が、その他の仕様として、「ユーザーのIDによるレポート管理」、「ユーザーによる報告書発行」等が記載されていた。

4  原告は、本件請負契約を締結するに際し、被告に対して、契約当時日本電気の社員であった菊地を原告の社員として採用し本件開発プロジェクトの当初からフルタイムタイムサイドマネージャーとして参画させること、MFG/PROに熟知した開発能力のある技術者を配備することを確約した。

しかし、実際に、菊地が本件開発プロジェクトに参画したのは、平成六年に入ってからであり、菊地が正式にサイドマネージャーに任命されたのは、同年五月三〇日であった。

また、RDの作成作業は、原告の実質的なサイドマネージャーの不在等の事情が原因となって遅々として進まず、その作成期限である平成五年一二月末日が経過しても原告からRDは提出されなかった。

なお、RDの作成の前提となり、原告により作成することが合意されていた新業務フロー(MFG/PROを被告会社の業務に合うように修正及び開発していくために、被告会社の現行業務を理解した上でこれから行う新業務の流れを図面にまとめたもの)についても原告から被告会社に対して満足のいくものが提出されない状態であった。

5  被告尾山は、平成五年一二月頃、本件会計プロジェクトの開発マシンを、ヒューレットパッカードからシークエントに変更した。これは、ヒューレツトパッカードのマシンは発注から納品までに三か月が必要であったのに対し、シークエントのマシンは発注後約一か月で納品が可能であったためであった。

6  平成六年一月六日、本件開発の進捗状況を報告するために会計プロジェクトプレゼンテーションが行われた。

しかし、原告は、大ざっぱなフローチャートの記載されたドラフトしか用意せず、このプレゼンテーションにおいて一般的な説明に終始したため具体的開発内容が明らかにされず、被告会社からは不満が出された。例えば、データ入力については、業務サイクルごとにどのような方法で入力業務を行うのか、入力情報にはどのようなものが必要かが明らかにされず、レポート出力についてはどのようなレポートを出力する必要があるのか、各レポートにはどのような情報が必要なのかが明らかにされなかった。

その後、同年一月一〇日の会計システムプロジェクト会議において、被告会社のユーザー側及びシステム側から原告に対し、現況の体制、スケジュールなどについて不満が述べられた。

7  原告は、平成六年三月七日、被告会社に対して、機能リスト(乙第五号証。以下、乙第五号証を「機能リスト」と呼称する。)を提出した。提出された機能リストの内容は、もともとMFG/PROに存在していた機能を羅列したものにすぎず、MFG/PROのユーザーマニュアルにおける操作要領の目次のようなものであった。そのため、原田は、その後の原告との定例ミーティングにおいて、菊地に対して「ところでこの間のあれは何だったの。」と尋ねたところ、菊地は、機能リストを用いてGLのαバージョンのデモを行うつもりである旨答えたため、原田は驚いて「あれをユーザーリクワイアメントにするの。嘘でしょう。」と発言した。

その後、原告は、被告会社に対して、機能リストに基づいてデモを行いたいと申し出たが、原田は、「要件定義書もできていないのにデモをやる状況ではない。」と原告の要求を拒否した。

被告会社においては、新しいコンピューターシステムを新年度である平成七年一月から稼働させることが必須の命題とされており、そのためには少なくとも三か月前までには並行ラン(従来のシステムと新システムを並行して動かしながら業務を行い新システムに問題がないかをチェックする行程)を行う必要があり、遅くとも平成六年九月ないしは一〇月頃までには一応開発が完成した状態になっていなければならなかったため、この当時原田は、「こんなことでは終わらない。」と危機感を募らせていた。

原田にデモの申し出を断られた後も、菊地は、RDの完成にはかなりの時間がかかることを素直に認めた上で、一三か月という開発期間を考慮すると、RDの完成はさておきGLのαバージョンを開発するためのプログラミングを完成させるしかない、GLのαバージョンの完成を条件とする中間代金の支払がないと会社が資金繰りに窮し、開発を続けられなくなるなどと原田に対してデモの実施を懇願した。

この原告からの要請を受けて、被告会社は、本件請負代金九四〇〇万円のうち既に四七〇〇万円を原告に対して支払っていたため、原告の開発が完成することを期待し、本件請負契約におけるRDの重要性を十分に認識しつつも開発スケジュール等を考慮して、RDの完成を後回しにして、とりあえずGLのαバージョン完成確認のためにその当時提出されていた機能リストに修正を加えてGLのαバージョンのデモのチェックリストとして使用する方法を考え付いた。

同年三月三一日の会計システムプロジェクト定例会議において、ユーザーから機能リストの承認について、機能リストだけでは本来ユーザーが求めているものかどうかの判断ができないため、このままでは承認はできない、詳細な機能記述書を提出してほしいなどの意見が出されたが、被告会社は、正式な要件定義書作成を後回しにしてデモを実施して、GLのαバージョンが完成しているかどうか判断することを決定した。そして、被告会社と原告は、原告から提出された機能リストに修正を加えてGLのαバージョンのチェックリストとして使用することを合意した。被告会社が機能リストに修正を加えればチェックリストとして用いてGLのαバージョンのデモを行うことができると判断したのは、菊地が「αバージョンとは各モジュール単位で機能の五〇パーセント程度の完成度があり、その時点でユーザーの満足がほぼ得られるものである。」と発言したことを考慮してのことであった。

なお、同年三月三一日付け会計システムプロジェクト定例会議の議事録には、「機能リストは契約書に添付されるものではない。またβバージョン完成迄に添付されなければならない要件定義書の原型となる。」との記載がある。

そして、同年四月七日の定例会議において、現状の機能リストでは被告会社がフィーチャーズリストで求めている要求事項がどこに記載されているのか明らかでないため、ユーザーの理解を助けるために、原告と被告会社は、機能リストを修正した機能要求リスト、新業務フロー図、画面レイアウト及び帳票レイアウトのいわゆる「三点セット」(以下「三点セット」という。)を原告が被告会社に対して提出すること及びその内容を機能リストのサブ機能欄、補足説明欄に集約し記述することを合意した。そのため、被告会社は、機能リストを修正したものと画面レイアウト等を合わせてRDに代わる役割を果たすものであると認識していた。

同年三月下旬頃から、機能リストをデモにおけるチェックリストとして耐え得るようなものに改訂する作業が始められたが、GLについては、MFG/PROにどのような機能があるのかを理解する必要があったので、被告会社は、原告に対して、「オリジナルのMFG/PROでいいから、デモを見せて欲しい。」と要求した。そこで、同年四月一一日、パッケージのどの部分を機能改善及び固有化するのか、何が機能追加の対象となるのかを見るために、開発が加えられていないオリジナルのMFG/PROパッケージソフトウエアの概要デモが一、二時間行われた。

8  平成六年五月一四日に機能リストを修正した機能要求リストの添付された開発契約書改訂版の合意書面(甲第五号証。以下では、端的に甲第五号証を「機能要求リスト」と呼称する。)に署名がされた。この日に署名がされたのは、デモの日付が予め同年五月一八日に決定されていたため、同年五月一四日の週までに機能要求リストを完成させなければ間に合わなかったためであった。なお、同年五月一八日というデモの期日については、原告が資金繰りが逼迫しているため早期にデモを実施してほしいと懇願したこと、原告が倒産したら被告会社が既に支払った四九〇〇万円が水泡に帰すこととなってしまうこと、完成予定から逆算すると並行ランを平成六年九月ないしは一〇月に行う必要があることなどの事情を考慮して決定されたものであった。

機能要求リストは署名がされた同年五月一四日当日においても改訂作業が続けられているような状況であり、被告会社にとっておよそ満足ができる内容といえるものではなかった。具体的には、機能要求リストにはフィーチャーズリストに記載された機能の多数が漏れていたし、原告が提出することで合意されていた画面レイアウト、帳票レイアウト等についても機能要求リストの署名の際には原告から提出されず、結局遅くともデモの当日までに提出するということにされた。

なお、本件での証人尋問においても、原告における担当者である証人菊地亨及び同ソウマスンダランは、機能要求リストとフィーチャーズリストの対応関係について曖昧な供述を繰り返し、証人菊地亨は、機能要求リストにはフィーチャーズリストのいくつかの機能が記載されていないことを認めている。

しかし、原告の財務事情、開発スケジュール等の事情があり、菊地が署名に先立ち機能リストとフィーチャーズリストを実際に手にとって「分散入力に始まるフィーチャーズリストに記載されたユーザーの要望は、機能リストに記載された勘定コードに始まる一連の機能により実現されます。フィーチャーズリストの各項目をどの機能を使って実現するのかという観点から考えてみると、機能リストはフィーチャーズリストの要望をカバーしているといえます。関連づけられないのはユーザー努力も必要な月次決算を二、三日でアウトプットするという要望くらいしかありません。」という旨の発言をしたことから、被告は、これらを考慮して署名した。

9  平成六年五月一八日に、GLのαバージョンのデモ(以下「本件デモ」という。)が行われた。しかし、本件デモの内容は、平成五年五月に被告会社がアンダーセンから見せられたもの、平成六年四月一一日に被告会社が原告から見せられたものとほとんど変わらないものであった。具体的に原告による開発行為の跡が見られたのは、貸借残高の表示を変更したこと、カスタムレポートについて二列表記を三列表記に変更したことのみであった。

そのため、被告会社からは、本件デモの最中に「これは一体何に使うの。」などの質問がなされたものの、原告は明確な回答をしないまま本件デモを進めた。また、安西は、本件デモを見て、菊地に対して、「一体どこが変わったのか。」と発言した。

10  本件デモを見た被告会社のユーザー代表及びシステム部の意見は、本件デモはMFG/PROのオリジナル機能を確認しただけに終わっており、ユーザー要求を実現する開発行為があったとは到底考えられず、GLのαバージョンは存在しない、というものであった。しかし、被告会社は、GLのαバージョンの完成を全面的に否定してしまうと本件請負契約に係るプロジェクト(以下「本件プロジェクト」という。)が頓挫してしまうことになってしまうが、既に被告会社が四七〇〇万円という金額と多くの時間と労力を投入している以上、今さら本件プロジェクトを頓挫させるわけにはいかないと考えて、原告から提出を要求された同年五月二七日付け「ユーザーの御感想及び改善要求事項」には、「αバージョンの判定について」、「1 各機能は機能要件リストの内容が存在していることは認定する。」と記入したが、他方で、「2 レポートについてユーザーより提出しているサンプルと同一のものの提出」、「3 改善要求に対する回答」、「2、3の回答を検討したうえで、AP、ARのαバージョン検証のうえGLと合せ判定したい。」とも記載した。

これに対し、菊地は、被告会社常務取締役で管理本部長の佐藤に対して、「開発継続のためにαバージョンが完成したと認めて欲しい。そして一〇〇〇万円を払って欲しい。原告は財政的に窮していて社員の給与支払いも満足にできません。もしこの一〇〇〇万円の支払がないと倒産します。」と懇願した。

そのため、被告会社社長及び佐藤らは、事態を重く見て討議を行い、MFG/PROはGLに必要な基本性能を備えているのだから、原告に開発能力さえあるのならば開発の遅れを覚悟してでも開発を継続するけれども、開発能力がないならば厳しい判断をするしかないし、原告の開発能力を確認するために消費税計算のデモとAP及びARのαバージョンのデモを要請するという結論を出した。これは、消費税計算については、これがMFG/PRO基本ソフトウエアにない機能であったため追加開発されていれば原告の開発能力を確認することができると考えられたためであり、AP及びARのαバージョンについては、作業日程によればGLのαバージョンの完成の二か月後にAP及びARのαバージョンのデモが予定されていたためこの時点において相当程度開発が進んでいると考えられたためであった。すなわち、被告会社は、既に原告に支払った四七〇〇万円を無駄にしないために、原告に対する救済措置として消費税計算のデモとAP及びARのαバージョンのデモを要求することを考え出したのであった。

11  被告会社は、平成六年五月三〇日の社長報告会において、原告に対して、消費税計算のデモと、AP及びARのαバージョンのデモの実施を要請したが、原告は、AP及びARのαバージョンのデモについては、まだ完成していないという理由で拒否した。また、原告は、同年五月三一日、消費税計算のデモを実施したが、同年五月一八日に行われた本件デモと同様に、仮払消費税への対応が全くなされておらず、購入品に含まれる消費税相当額を控除するのに必要なAPとのインターフェイス機能も考慮されていないという状態であった。

12  原告は、平成六年五月二七日付け及び同年五月三一日付けGLのαバージョンデモの完成承認についてのサインシートを作成し、被告会社に署名を求めたが、被告会社はその要求を拒み、これらに署名をしなかった。また、被告会社の原田は仮に被告会社側で認められるとしたらとして仮定的に同年六月一日付けGLのαバージョンデモの完成承認についてのサインシートを起案したが、結局、被告会社としての了解には至らず、被告会社は、これにも署名をすることを拒み署名をしなかった。

同年六月六日被告会社社長ら原被告担当者が出席した社長報告会において、GLのαバージョンについて、被告会社ユーザー側からは、本件プロジェクトの頓挫を避けようとする配慮から不完全ながら一応完了と認められるとの意見が出されたが、被告会社システム側からは、原告の開発能力に疑問があるため、開発当初に合意されているはずの最小限のドキュメントの提出が原告との間で合意されない限り、GLのαバージョンの完了は認められないとの意見が出された。

これに対して、原告は、いかなるドキュメントの提出も開発計画には記述されていないとしてその提出を拒絶し、同年六月二〇日、菊地が本件開発作業の休止を宣言し、同年六月二二日以降、原告の開発スタッフがプロジェクトルームに姿を見せなくなった。

なお、同年六月二〇日の社長報告会議事録には、原告が完了したと言っているαバージョンに対して、被告会社として完成されていないと思われる部分をまとめる、との記載がある。

13  被告会社は、原告に対して、GLに関するαバージョンが完成したものとは認められない旨の同年六月三〇日付け内容証明郵便を送付した。

14  被告尾山は、qad社アジア太平洋事務所のジョン・ドーダンから「会計プロジェクトについて何か助けることはないか。」と尋ねられたため、平成六年八月三日、qad社アジア太平洋事務所に対して、「ヴェーダテックの契約違反で会計プロジェクトは休止している。ヴェーダテックは同プロジェクトの中心的従業員を解雇し、もはや同プロジェクトを継続する能力はない。」という趣旨の文書を送付した。

15  被告会社は、原告に対して、平成六年九月一五日付け内容証明郵便により、本件請負契約を解除するとの意思表示をした。

二  争点1(本件請負契約が原則としてMFG/PROを無修正のまま使用することを内容とするものであったか)について検討する。

1  前記一の認定事実と前記前提事実によれば、被告会社は、従来使用していたシステムソフトを新しいものに変えるためMFG/PROの採用を決定したこと、その採用決定当時、MFG/PROは世界的には多数の導入事例があったが、日本固有の制度に対する機能は必ずしも備えていなかったため被告会社の要求を満たすためには大幅な機能改善、追加が必要であり、被告会社のユーザー側は事前にGLに関してMFG/PROのデモを受け、大幅な修正を加えなければ目指すシステムとなりえないと認識していたこと、受注予定の競合三社のプレゼンテーションの際に被告会社から各社に配布された書面及び本件請負契約書には、本件開発においてGLについてMFG/PROを機能改善、追加することを前提とした記載が存在していること、本件では、発注者の被告会社が専門的知識に乏しいため機能改善、追加に関する具体的な要望がフィーチャーズリストとして提出され、原告によりRDが三か月以内に作成されることが予定されたが、フィーチャーズリストに掲載されている内容はもともとMFG/PROには搭載されていない機能であること、被告会社側はMFG/PROのオリジナルパッケージとほとんど変わっていない機能リストを見て「要件定義書もできていないのにデモをやる状況ではない。」と言って、原告のデモを行いたいという申し出を拒否したこと、被告会社の想定するRDは期限までに原告から提出されず、代りに被告会社の要求機能を理解するために三点セットを提出する合意がされたことが明らかである。

したがって、本件請負契約の合意内容は、GLについてはMFG/PROに、被告会社の希望に沿って必要な変更をし、修正を加えることにあったというべきであって、原則としてMFG/PROを無修正のまま使用することが合意されたとは認められない。

2  もっとも、原告は、ソフトウエアの開発においてはできる限り変更修正を加えないことが望ましく、本件請負契約においてもGLについてMFG/PROを無修正のまま導入することが予定されていたと主張し、甲第二三、第二四号証、第三三ないし第三五号証、第六九、第七〇号証、証人菊地亨及び証人ソウマスンダランの各証言、原告代表者尋問の結果中にはこの主張に沿う供述が存在する。

しかし、既に認定したとおり、甲第三号証、乙第一七号証をはじめとして、原告が被告会社の要求に従ってMFG/PROを変更し、また修正を加えることが予定されていることが明確に記載されている文書が存在している。また、被告会社が被告会社の目指すべきシステムを構築するためにはMFG/PROに変更、改善を加えなければならないと認識していたのみならず、原告側の菊地及びソウマもRDとは、MFG/PROのオリジナルパッケージには搭載されていない機能が記載されているフィーチャーズリストの内容をより具体化して詳細についてまで定めたものであると理解していたこと、本件デモの後、被告会社からは、一体どこが変わったのかなどの質問がなされたり、本件デモはMFG/PROのオリジナル機能を確認しただけに終始し開発行為があったとは到底考えられないなどの感想が述べられたことが認められる。したがって、右の各供述のうち、本件請負契約ではGLについてMFG/PROを無修正のまま導入することが予定されていたとする部分は採用できない。

そして、甲第二四号証によりアンダーセンからGLについてはMFG/PROを無修正で導入することが望ましいとの意見が提出されたことが認められるとはいっても、結局、被告会社は、アンダーセンとそのような内容の請負契約を締結するには至っていないから、この供述記載によって原告と被告会社の間においてGLについてMFG/PROを無修正で導入することを内容とする請負契約が締結されたことを認めることはできない。

以上によれば、原告の主張は採用することができず、右1の認定を覆すことはできない。

三  争点2(原告によるGLのαバージョン開発が完了したといえるか)について検討する。

1(一)  まず、GLのαバージョンが完成したかどうかを判断する前提として、原告は、フィーチャーズリストに記載された内容は機能要求リストに置き換えられたと主張するので、この点について検討する。

(二)  前記一の認定事実と前記前提事実によれば、本件請負契約においては、被告会社が要望する改善及び開発事項をフィーチャーズリストにまとめ、それを前提として専門的知識を有する原告がGLに関するRDを平成五年一二月までに作成することが予定されていたこと、被告会社のみならず原告側担当者の菊地、ソウマらも、RDとはフィーチャーズリストの内容をより具体化して詳細についてまで定めたものであると認識していたこと、ところが、原告から提出された機能リストは、MFG/PROにもともと備わった機能を羅列したものにすぎず、その後署名された機能要求リストもその内容は機能リストとほとんど変わっておらず、機能要求リストにはフィーチャーズリストに記載された機能の多数が漏れていたこと、原告の機能リストに基づいてデモを行いたいとの申し出に対しては、被告会社側は要件定義書もできていないのにデモをすべき状況でないと言ってこれを拒否したこと、その拒否後も、原告側は被告会社側にRDの完成はさておきGLのαバージョンを開発するためのプログラミングを完成させて中間代金の支払を受けないと資金繰りに窮し開発を続けられなくなると懇願したこと、そこで、被告会社はとりあえずRDの作成を後回しにし、当時原告から提出されていた機能リストに修正を加えてGLのαバージョンのチェックリストとして使用しデモを実施することを決定し、原告と合意したこと、原告が提出した機能リストにおいては被告会社がフィーチャーズリストにおいて求めている要求事項との対応関係が不明確であったため、三点セットの提出が原告と被告会社との間で合意されたこと、そのため被告会社は、機能リストを修正したもの、画面レイアウト等を合わせてRDに代わる役割を果たすものと認識したこと、しかし、結局、機能要求リストに署名がされた時に至っても原告からは画面レイアウト等は提出されず、当日まで改訂作業が続けられて署名はされたものの、機能要求リストは被告会社の満足できるものではなかったこと、証人菊地亨及び証人ソウマスンダランも、機能要求リストとフィーチャーズリストの対応関係について明確な供述をすることができないことが明らかである。

そうすると、機能要求リストは、本件デモにおいてGLのαバージョンのチェックリスト、すなわち暫定的にGLのαバージョンを検収する基準として作成されたにすぎないことが明らかであり、フィーチャーズリストに記載された内容が機能要求リストに置き換えられたとはいえない。

(三)(1)  もっとも、機能要求リストには、「Requirement Document」との表題が付され、「後記R1ないしR24頁が本契約添付書類1表A第1部および表A第2部に記載された仕様の要約をカバーする機能の詳細を示すものである」との記載が存在する。

しかし、前記(二)において詳述したところ、殊に関係担当者がRDとはフィーチャーズリストの内容を詳細化、具体化したものであると認識していたのに、機能リストはMFG/PROに備わった機能を羅列したもので、機能要求リストの内容もそれとほとんど変わっておらずフィーチャーズリスト記載の機能の多くが漏れていたこと、三点セットの提出が合意され、機能リストを修正したもの、画面レイアウト等がRDに代わる役割を果たすものと認識されていたのに、画面レイアウト等が機能要求リスト署名時に提出されなかったことなどに鑑みれば、右の表題、記載があるからといって、フィーチャーズリストに記載された内容が機能要求リストに置き換えられたということは無理である。

(2) また、証人菊地亨は、機能要件リストにはフィーチャーズリストの機能がほぼ含まれていると考えてよい、フィーチャーズリストの内容を甲第五号証に反映しようとしていた、フィーチャーズリストの機能のうち月次決算のスピードアップ及びユーザーインターフェース以外の機能については甲第五号証に盛り込まれていると認識していたと供述する。

しかし、機能要求リストからはフィーチャーズリストに記載された機能の多数が漏れていたことは前述のとおりであり、本件証人尋問において証人菊地亨が機能要求リストとフィーチャーズリストの対応関係について曖昧な供述を繰り返しており、他方で、同証人も、フィーチャーズリストに記載された機能の中には機能要求リストに記載されていないものが存在することを認めているのであるから、右の証人菊地亨の証言を採用することはできない。

2(一)  次に、GLのαバージョンが完成したかどうかについて検討する。

(二)  前記一の認定事実と前記前提事実によれば、本件請負契約書において、「αバージョンは、当該のソフトウエアパッケージが、RDに記載されている機能のうち五〇パーセント以上が動くことを明確にデモで示したときに開発完了とする。」と定義されていること、原告及び被告会社はともに、RDとはフィーチャーズリストの内容をより具体化して詳細についてまで定めたものを指し、結局GLのαバージョン完成の判定基準がフィーチャーズリストの内容の五〇パーセント以上が動くことが明確にデモで示されたときであると認識していたことが明らかにされている。

他方でまた、本件請負契約において、RDの作成はMFG/PROについて深い理解のある原告の責務とされており、作成期限は平成五年一二月末日であったが、期限を過ぎてもRDは提出されず、結局想定されていたRDは原告から提出されなかったものの、被告会社は、開発期間、原告の財務状況等を考慮して、RDの作成を後回しにして、当時提出されていた機能リストに修正を加えたものをチェックリストとして使用しデモを実施することを決定したこと、原告と被告会社は、被告会社の理解を助けるために三点セットの提出を合意し、原告は機能要求リストを提出して署名に至ったが、原告からは機能要求リストと同時には画面レイアウト等の提出はなかったこと、その機能要求リストもフィーチャーズリスト記載の機能の多くを欠いていたこと、本件デモの後、被告会社から、MFG/PROのオリジナル機能確認以上にユーザー要求を実現する開発行為があったとは考えられないことを指摘し、GLのαバージョンは存在しないとする意見、質問等が出され、被告会社は、原告に開発能力がないのならば開発を中止するとの結論を出したこと、原告は、本件デモの後、GLのαバージョンの完成承認についてのサインシートを何度か作成して被告会社に署名を求めたが、被告会社は一貫してこれらに署名をしなかったことが明らかである。

そして、本件デモにおいてフィーチャーズリストの内容の五〇パーセント以上が動くことが示されたことを直接窺わせる証拠は全く見当たらない。

したがって、本件において、RDに記載されている機能のうち五〇パーセント以上が動くことが明確に本件デモで示されたとは認められず、GLのαバージョンが完成したということはできない。

(三)(1)  この点に関し、原告は、甲第九号証、第一二号証の二等被告会社がGLのαバージョンが完成したことを認めた書面が存在していると主張する。

確かに、乙第二八号証によれば、被告会社の原田は、甲第九号証の平成六年六月一日付サインシートを起案したことが認められるし、乙第二八号証により被告会社担当者が記載をしたと認められる甲第一二号証の二には、「αバージョンの判定について」、「1 各機能は機能要件リストの内容が存在していることは認定する」との記載があることが認められる。

しかし、前述したように、本件デモの後被告会社から、MFG/PROのオリジナル機能確認以上にユーザー要求実現の開発行為があったとは考えられないと指摘し、GLのαバージョンは存在しないとするなどの意見が出されたこと、それにもかかわらず、被告会社は、本件デモの後、GLのαバージョンの完成を否定すると本件プロジェクトが頓挫してしまい、既に投入した資金等が水泡に帰することを避けるために、原告から感想等の記載を要求された「ユーザーの御感想及び改善要求事項」と題する書面(甲第一二号証の二)に、右の「αバージョンの判定について」、「1 各機能は機能要件リストの内容が存在していることは認定する」との記載をしたものの、他方で、同時に同書面に、「2 レポートについてユーザーより提出しているサンプルと同一のものの提出」、「3 改善要求に対する回答」、「2、3の回答を検討したうえで、AP、ARのαバージョン検証のうえGLと合せ判定したい」とも記載し、その後の討議においても、原告に開発能力があるならば開発を継続するが、そうでないならば開発を中止するとの結論を出したこと、被告会社は、本件デモの後、原告から数回にわたりGLのαバージョンの完成承認についてのサインシート(甲第九号証を含む。)に署名を求められたが、一貫してこれらに署名することを拒絶して署名をしなかったため、甲第九号証の署名欄には結局被告会社担当者の署名を得られていないことを考え併せると原告が指摘する書面によっても、被告会社がGLのαバージョンの完成を認めたとは評価することができない。

(2) また、原告は、GLのαバージョンが完成したかどうかは甲第五号証に記載された機能があるかどうかで一義的に決定され、被告会社も甲第六号証において「手」のマークによって示されたサブ機能が存在することを争っていないと主張する。

しかし、既に認定したように、フィーチャーズリストに記載された内容が機能要求リストに置き換えられたとはいえないし、機能リストはMFG/PROに備わった機能を羅列したもので、機能要求リストの内容もそれとほとんど変わっていなかったことが認められる。

したがって、原告の右の主張は理由がない。

四  以上によれば、本件においてGLのαバージョンが完成したとは認められず、その余の点について判断するまでもなく、原告の請負残代金の支払請求は理由がない。

五  争点4(被告尾山が原告の名誉を毀損しまたは信用を侵害するような行為を行ったか)について検討する。

1  前記一の認定事実と前記前提事実によれば、被告尾山は、納期が短かったため、本件会計プロジェクトの開発マシンを、ヒューレットパッカードからシークエントに変更したこと、被告尾山はシステム部長としてGLのαバージョンの完成が認められないと考えたため、社長報告会においてその旨報告したこと、被告尾山は、ジョン・ドーダンから「会計プロジェクトについて何か助けることはないか。」と尋ねられたのに対して、「ヴェーダテックの契約違反で会計プロジェクトは休止している。ヴェーダテックは同プロジェクトの中心的従業員を解雇し、もはや同プロジェクトを継続する能力はない。」という趣旨の文書を送付したことが明らかである。

しかしながら、そもそも右の被告尾山の各行為が原告の名誉及び信用を毀損するものとは考えられないし、右の範囲の各行為の一部により名誉又は信用毀損の余地があるとみた場合にも、前記一ないし三において認定説示したところによれば、被告尾山の行為には違法性、有責性がないというべきである。そして、他に原告が主張するような原告の名誉及び信用を毀損する行為を被告尾山が行ったと認めるに足りる証拠はない。

2  したがって、原告の被告尾山の名誉毀損行為を原因とする損害賠償請求及び名誉毀損行為、信用損害行為の禁止請求は理由がない。

六  以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 成田喜達 裁判官 高宮健二 裁判官 阿閉正則)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!