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東京地方裁判所 平成7年(ワ)7243号 判決 1996年2月13日

第七二四三号事件原告

ベサニー・デイ・ウエイ

ほか三名

第二二九二三号事件原告

グラデイス・ウエイ・シングルトン

被告

三井海上火災保険株式会社

主文

一  被告は、平成七年(ワ)第七二四三号事件原告ベサニー・デイ・ウエイに対し金四八五万一〇八二円、同モニカ・デイ・ウエイに対し金一八六万五八〇一円、同アンソニー・エム・ウエイに対し金一七四万一四一四円、同ベツキー・エリザベス・ウエイに対し金一二四万三八六七円、及びこれらに対する平成七年五月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、平成七年(ワ)第二二九二三号事件原告に対し金四八万六一三六円及びこれに対する平成七年一二月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  平成七年(ワ)第七二四三号事件原告ら及び平成七年(ワ)第二二九二三号事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、被告の負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

一  平成七年(ワ)第七二四三号事件

被告は、平成七年(ワ)第七二四三号事件原告らに対し、金一〇一八万八三〇〇円及びこれに対する平成七年三月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  平成七年(ワ)第二二九二三号事件

被告は、平成七年(ワ)第二二九二三号事件原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成七年一二月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用の被告の負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、直進車両と対向右折車両とが衝突し、右折車両に同乗していた被害者(米軍人)が死亡したことから、その相続人等が直進車両の自賠責保険会社を相手に保険金請求(損害賠償の直接請求)をした事案である。

二  争いのない事実

1  本件交通事故の発生

事故の日時 平成五年四月一六日午前四時四〇分ころ

事故の場所 沖縄県浦添市牧港二丁目五〇番地先国道五八号線交差点

関係車両 (1) 訴外ジヨージ・バスケス(以下「訴外バスケス」という。)が運転する普通乗用自動車(沖縄五三Y五一七〇。以下「バスケス車」という。)

(2) 訴外長嶺一也(以下「訴外長嶺」という。)が運転する普通乗用自動車(沖縄五九て一九八五。以下「長嶺車」という。)

被害者 ユージン・シー・ウエイ三世

事故の態様 訴外長嶺が長嶺車を運転して前記交差点に直進進入したところ、対向車線から訴外バスケスが運転し、右折しようとしたバスケス車と衝突し、バスケス車に同乗していた被害者が死亡した。

2  責任原因

(1) 訴外長嶺は、前方不注視等の過失がある。

(2) 長嶺車は、訴外長嶺の父長嶺秀次の所有であるところ、被告は、長嶺秀次と自賠責保険契約を締結していた(証書番号C九〇六―一一八五―〇)。

3  身分関係

平成七年(ワ)第七二四三号事件原告ベサニー・デイ・ウエイ(以下「原告ベサニー」という。)は、被害者の妻であり、同モニカ・デイ・ウエイ及び同アンソニー・エム・ウエイは、被害者と原告ベサニーとの間の子であり、同ベツキー・エリザベス・ウエイは、被害者とその先妻訴外パトリシア・アン・イングラムとの間の子であり、平成七年(ワ)第二二九二三号事件原告は、被害者の母親である。

4  損害の填補

平成七年(ワ)第七二四三号事件原告らは、被告及びバスケス車の自賠責保険会社であるシグナ保険株式会社から、文書料二六〇〇円及び諸雑費八〇〇円を含め、合計三九六二万三四〇〇円の填補を受けた。なお、同金員については、被告とシグナ保険株式会社が折半した(被告の負担額は、一九八一万一七〇〇円である。)。

三  本件の争点

1  損害額

(一) 原告ら

(1) 逸失利益 一億〇一〇三万円

被害者は、米軍キヤンプキンザー所属の海兵隊員であり、年額二万一七一四・九ドルの給与を得ていたところ、米国の連邦政府公務員の給与は年平均六パーセント上昇するから、三〇歳から六七歳までの中間年齢である四八歳の給与六万一九七四・三ドル(二万一七一四・九ドルに一・〇六の一八乗を乗じた額)を基礎とし、軍人であるから生活費控除率を二〇パーセントとし、一ドル当たり九八・八〇円として、三七年の新ホフマン方式により算定した後に、万円未満を切り捨てた額である。

(2) 慰謝料 二〇二〇万円

平成七年(ワ)第七二四三号事件原告らは、被害者本人及び同原告らの慰謝料として一九二〇万円を、また、平成七年(ワ)第二二九二三号事件原告は、同原告の慰謝料として一〇〇万円を請求する。

(3) 葬儀費用 五五万円

平成七年(ワ)第七二四三号事件原告らの負担分である。

なお、平成七年(ワ)第七二四三号事件原告らは、フロリダの裁判所で本件損害賠償請求権について、原告ベサニーが五〇パーセントを取得し、残額を同事件原告モニカ・デイ・ウエイが三九分の一五、同アンソニー・エム・ウエイ三九分の一四、同ベツキー・エリザベス・ウエイが三九分の一〇の割合でそれぞれ取得する旨の遺産分割を行つた。

(1) 被告

逸失利益について、被害者の昇給の可能性を争う。また、生活費控除としては三五パーセントが相当である。

2  好意同乗減額

(一) 被告

バスケス車に同乗していたのは被害者をはじめいずれも射撃訓練に向かう米国軍人であり、被害者は、同車両について固有の運行利益を有していた。そして、本件事故は、信号により交通整理の行われている交差点のバスケス車右折、長嶺車直進の衝突事故であり、訴外バスケスの方が過失割合が大きい。このような場合には、信義則、公平の原則又は過失相殺の類推適用により、損害額につき相応の減額をすべきである。

(二) 原告ら

被害者は、公務遂行のためバスケス車に同乗していたことはなく、固有の運行利益を有していたものでない。また、被害者は、訴外バスケスと身分上又は生活上一体をなす関係にはなく、さらには、同訴外人の過失を容認したり加功したものでもないから、好意同乗減額の主張は失当である。

第三争点に対する判断

一  損害額について

1  葬儀費用 五五万円

弁論の全趣旨によれば、平成七年(ワ)第七二四三号事件原告らは、被害者の葬儀のために相当の金額を支出したことが認められるが、その具体的な支出金額を知る証拠はない。そこで、同原告らが主張し、かつ、自賠責保険基準である五五万円に限つて、これを認めることとする。

2  逸失利益 三九八二万七七〇六円

甲五、六、一二の1ないし4、一七によれば、被害者は、一九六二年一二月五日生まれの米軍沖縄第三支援大隊本部所属の海兵隊員であり、死亡当時三〇歳で年額二万一七一四・九ドルの給与を得ていたこと、一九七〇年代においては、米国の連邦政府公務員の給与は年平均六パーセント上昇していたこと、米国海兵隊本部の司令部経理中隊は、被害者がその階級に関係なく毎年最低二・六パーセントの昇給が見込まれたと証明していることが認められる。

そうすると、原告主張の年平均六パーセントの昇給は、その参照とする資料の年代が古くて将来確実ということができないが、毎年最低二・六パーセントの昇給については、米軍の証明もあり、確実であるということができる。

そこで、原告ら主張の方式に従い、三〇歳から六七歳までの中間年齢である四八歳において被害者が得るであろう給与である三万四四六一ドル(二万一七一四・九ドルに一・〇二六の一八乗である一・五八七を乗じた額)を基礎に被害者の逸失利益を算定することとする。

生活費控除については、被害者の家族構成に鑑み、三〇パーセントとするのが相当である。この点、原告らは、被害者が軍人であるから控除率を二〇パーセントに止めるべきであると主張するが、本件全証拠によるも特別配慮すべき事由は見出せない。そして、ライプニツツ方式により中間利息を控除し、原告ら主張のとおり一ドル当たり九八・八〇円として換算すると、次の計算どおり、被害者の逸失利益は、前示金額となる。

3万4461ドル×0.7×16.711×98.80円=3982万7706円

3  慰謝料 二〇二〇万円

被害者にとつて外国である日本において死亡したこと、被害者の家族構成、原告らの被害者に対する身分的な地位、その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、被害者の死亡に関する慰謝料としては次のとおりと認めるのが相当である。

(1) 被害者本人分及び平成七年(ワ)第七二四三号事件原告ら分を合計して 同原告ら主張どおり一九二〇万円

(2) 平成七年(ワ)第二二九二三号事件原告分 同原告主張どおり一〇〇万円

二  好意同乗減額について

1  甲二、三、一七、乙二ないし九に前示争いのない事実を総合すれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、片側三車線の道路と片側二車線の道路との信号により交通整理の行われる交差点であり、片側三車線の道路は時速五〇キロメートルに制限されている。訴外長嶺は、長嶺車を運転し、片側三車線の道路の中央の車線を時速約九六キロメートルの速度で走行し、対面青信号に従つて右交差点に直進進入した。他方、訴外バスケスは、その妻、被害者及び他の海兵隊員一名を同乗させてバスケス車を運転し、片側三車線の道路の対向車線を走行し、右交差点で右折したため、長嶺車に側面衝突された。

被害者は、許可された自由時間中にバスケス車に同乗していた。

2  右認定事実によれば、本件事故は、訴外バスケスが直進車両を優先させるべきであるにもかかわらず右折を敢行したこと、及び訴外長嶺の制限速度を約五〇キロメートル毎時上回る速度での走行が原因となつていることは明らかである。しかし、右認定事実からは、被害者が訴外バスケスの右過失行為に加功したり、又はこれを認容していたものと推認するのは困難である。その他、本件全証拠によつても、本件事故に関して被害者の加功又は認容を認め得る事情は認められない。

ところで、被告は、被害者が射撃訓練に向かうためバスケス車に同乗したと主張し、甲一六によれば、その旨が報道されていることが認められるが、甲一七によれば、被害者の自由時間中に生じた事故であることは明らかである。

さらに、被害者が訴外バスケスと身分上又は生活上一体をなす関係にあつたことを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、被害者は、バスケス車に単に同乗していたに過ぎないというべきであり、このような場合にまで好意同乗減額をするのは相当ではないから、被告の主張には理由がない。

三  損害の填補及び相続

1  平成七年(ワ)第七二四三号事件原告らが、被告及びバスケス車の自賠責保険会社であるシグナ保険株式会社から、文書料二六〇〇円及び諸雑費八〇〇円を含め、合計三九六二万三四〇〇円の填補を受けたことは当事者に争いがない。そうすると、前認定判断の葬儀費用、被害者の逸失利益、被害者及び同原告らにかかる慰謝料の右填補後の総額は、次の計算どおり、一九九五万七七〇六円となる。

(55万+3982万7706+1920万)-(3962万3400-3400)=1995万7706

2  甲一一の1、2によれば、平成七年(ワ)第七二四三号事件原告らは、フロリダの裁判所で本件損害賠償請求権について、原告ベサニーが五〇パーセントを取得し、残額を同事件原告モニカ・デイ・ウエイが三九分の一五、同アンソニー・エム・ウエイが三九分の一四、同ベツキー・エリザベス・ウエイが三九分の一〇の割合でそれぞれ取得する旨の遺産分割を行つたことが認められる。したがつて、同原告らの相続後の損害額は、それぞれ次のとおりとなる。

(1) 原告ベサニー 九九七万八八五三円

(2) 平成七年(ワ)第七二四三号事件原告モニカ・デイ・ウエイ 三八三万八〇二〇円

(3) 同アンソニー・エム・ウエイ 三五八万二一五二円

(4) 同ベツキー・エリザベス・ウエイ 二五五万八六八〇円

四  按分

平成七年(ワ)第七二四三号事件原告らが相続した被害者の損害賠償金は「三 2」のとおりであり、また、平成七年(ワ)第二二九二三号事件原告の損害賠償金は一〇〇万円であるところ、被告が支払うべき保険金の残額は一〇一八万八三〇〇円であつて、両事件原告らの債権額のほうが多額であるから、右保険金の残額を原告らの債権額に按分比例してこれを認容することとする。そうすると、原告らが被告に対して請求し得る金額は次のとおりとなる。

(1)  原告ベサニー 四八五万一〇八二円

(2)  平成七年(ワ)第七二四三号事件原告モニカ・デイ・ウエイ 一八六万五八〇一円

(3)  同アンソニー・エム・ウエイ 一七四万一四一四円

(4)  同ベツキー・エリザベス・ウエイ 一二四万三八六七円

(5)  平成七年(ワ)第二二九二三号事件原告 四八万六一三六円

第四結論

よつて、原告らの本訴請求は、被告に対し、原告ら各人につき右に示した金額及びこれらに対する本件訴状送達の翌日である、平成七年(ワ)第七二四三号事件原告らにつき平成七年五月一六日、平成七年(ワ)第二二九二三号事件原告につき平成七年一二月二二日から、支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが(平成七年(ワ)第七二四三号事件原告らは平成七年三月二八日からの遅延損害金の支払いを求めるが、同原告らが同月二七日に被告に請求したことを認めるに足りる証拠はない。)、その余の請求は理由がないからいずれも棄却すべきである。

なお、訴訟費用の負担につき民訴法九二条ただし書を適用した。

(裁判官 南敏文)

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