東京地方裁判所 平成7年(ワ)9216号 判決 1999年9月20日
原告
株式会社シマノ
右代表者代表取締役
【A】
右訴訟代理人弁護士
野上邦五郎
同
杉本進介
同
冨永博之
被告
ダイワ精工株式会社
右代表者代表取締役
【B】
右訴訟代理人弁護士
山根祥利
同
原山邦章
右訴訟復代理人弁護士
近藤健太
右補佐人弁理士
【C】
同
【D】
同
【E】
同
【F】
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、金一億九〇七九万六四〇〇円及び内金七二〇万円に対する平成七年五月二一日から、内金一億八三五九万六四〇〇円に対する平成九年三月一二日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、スピニングリールを製造、販売した被告の行為が原告の有していた実用新案権を侵害すると主張して、原告が被告に対し、損害賠償の支払を請求した事案である。
一 争いがない事実
1 原告の実用新案権
原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有していた。
(一) 登録番号 第三〇〇二〇一四号
(二) 考案の名称 スピニングリール
(三) 出願日 平成三年五月一四日
(四) 登録日 平成六年七月六日
(五) 本件考案に係る実用新案登録請求の範囲
別紙登録実用新案公報の実用新案登録請求の範囲中の請求項1記載のとおり
本件考案の実用新案登録出願については、平成五年法律第二六号による改正後の実用新案法の規定の適用を受ける旨の届出がされている。
2 本件考案の構成要件
本件考案の構成要件を分説すると、次のとおりである。
A 釣竿に装着されるスピニングリールであって、
B ハンドルを有し、釣竿に装着可能なリール本体と、
C 前記リール本体の前部に回転自在に支持され、回転軸を挟むように対向して配置された第1アーム部及び第2アーム部と、
D 前記第1アーム部に装着され糸案内部を有する第1揺動アームと、
E 前記第2アーム部に装着された第2揺動アームと、
F 前記第1揺動アームから前記第2揺動アームにわたって設けられ前記両揺動アームとともに揺動して糸解放姿勢と糸巻き取り姿勢とをとり得るベールとを有し、
G 前記ハンドルによって回転させられるロータと、
H 前記第1アーム部と第2アーム部との間に配置されたスプールと、
I 前記ロータの前記リール本体側で、糸巻き取り姿勢のベールが位置する側に重心が位置するように配置された第1バランサと、
J 前記第1バランサより前方側で、糸解放姿勢のベールが位置する側に重心が位置するように配置された第2バランサと、
K を備えたスピニングリール
3 被告の行為
被告は、別紙物件目録(一)ないし(七)記載のスピニングリール(以下、順に「イ号物件」ないし「ト号物件」といい、あわせて「被告各物件」という。)を業として製造、販売している。
4 被告各物件の構成及び対比
被告各物件の構成は以下のとおりである。被告各物件は、本件考案の構成要件A、B、D、E、F、G、H及びKを充足する。
(一) イ号物件ないしホ号物件
a 釣竿に装着されるスピニングリールであって、
b ハンドルを有し釣竿に装着可能なリール本体と、
c1 前記リール本体の前部に回転自在に支持され、ロータの回転軸の両側に対向し、かつロータの回転軸芯Xを外れたオフセット線X’(物件目録添付図面第3図X線に対しベール糸解放姿勢側にLmm平行移動した位置)にその中心を結んだ線が通るように配置されている第1アーム部及び第2アーム部と、
c2 前記第1アーム部の前端部に装着され、先端に鋼製ベアリングを内装した糸案内部を有する合成樹脂製第1揺動アームと、
c3 前記第2アーム部の前端部に装着された亜鉛ダイカスト製第2揺動アームと、
c4 前記第1揺動アームから前記第2揺動アームにわたって設けられ両揺動アームと共に揺動して糸解放姿勢と糸巻取姿勢とを取り得るベールとを有し、前記ハンドルによって回転させられるロータと、
d 前記第1アーム部と前記第2アーム部との間に配置されたスプールと、
e 前記ロータの本体前壁のベール糸解放姿勢側に位置する周縁部(物件目録添付第4図χ線上、3時の位置を0度として、所定の角度の範囲内)に配置された重りBと、
f 前記ロータの本体後端部内周縁に設けられた溝のベール糸巻取姿勢側に位置する溝内(物件目録添付第4図χ線上、3時の位置を0度として、所定の角度の範囲内)に配置された円弧状の重りAと、
g 前記第1アーム部の後端部内に配置された重りDと、を備えたスピニングリール
(二) ヘ号物件及びト号物件
e 前記ロータの本体前壁のベール糸解放姿勢側に位置する周縁部(物件目録添付第4図χ線上、3時の位置を0度として、所定の角度の範囲内)に同じ重量で配置された重りB及びCと、
なお、aないしgのうち、eを除くその他の構成は、(一)と同様である。
(三) 以下、イ号物件ないしホ号物件の「構成e」における「重りB」、及びヘ号物件及びト号物件の「構成e」における「重りB及びC」を一括して指す場合には、被告各物件の重りBという。
5 警告
原告は、平成六年一二月一四日、被告に対し、へ号物件のうち製品名「EMBLEMーZ 三五〇〇i」について、技術評価書を提示して警告した。また、その余の被告各物件についても、別途警告書を送付し、右警告書は平成九年四月一八日に、被告に到達した。
二 争点
1 被告各物件は、構成要件C、I及びJを充足するか。
(原告の主張)
被告各物件はいずれも、以下のとおり、本件考案の構成要件C、I及びFを充足する。
(一) 構成要件Cの充足性
被告各物件は、構成要件Cを充足する。
被告各物件は、第1アーム部及び第2アーム部が、ロータの回転軸の両側に対向して配置されており、構成要件Cの「回転軸を挟むように対向して配置された第1アーム部及び第2アーム部と」との構成を具備している。
軸芯方向視で、アーム部それぞれを非対称位置に配置することは、軸芯に沿う方向視でのバランスを取るための手段の一つとして、従前から行われていた。被告各物件は、これを前提として、軸芯に直交する方向視でのアンバランスをも解決するために、本件考案が開示している位置関係にある二つのバランサを設けたものであり、本件考案の技術思想をそのまま適用している。
(二) 構成要件Iの充足性
被告各物件は、構成要件Iを充足する。
被告各物件の構成fにおける「重りA」はベールの糸巻き取り姿勢側にあり、その重心も糸巻き取り姿勢のベールが位置する側にある。また、重りAは、ロータの本体後端部、すなわち、ロータのリール本体側内周縁に設けられた溝内に配置され、その重心もロータのリール本体側にある。重りAは、ロータの重心の位置を調整しており、バランサの役割を果たしている。したがって、被告各物件の構成fにおける重りAは、本件考案の構成要件Iの「第1バランサ」に該当するので、被告各物件の構成fは構成要件Iを充足する。
(三) 構成要件Jの充足性
被告各物件は、構成要件Jを充足する。
被告各物件の構成eにおける「重りB」はベールの糸解放姿勢側にあり、その重心も糸解放姿勢のベールが位置する側にある。また、重りBの重心は重りAの重心より前方側にある。重りBは、ロータの重心の位置を調整しており、バランサの役割を果たしている。したがって、被告各物件の構成eにおける重りBは、本件考案の構成要件Jの「第2バランサ」に該当するので、被告各物件の構成eは構成要件Jを充足する。
なお、ヘ号及びト号物件における「重りB及びC」は、その合成重心の位置に重心がある一つの重りと等価であるので、同様に構成要件Jを充足する。
(被告の反論)
被告各物件はいずれも、以下のとおり、本件考案の構成要件C、I及びFを充足しない。
(一) 構成要件Cの充足性
被告各物件は、構成要件Cを充足しない。
本件明細書の記載によると、本件考案が解決すべき課題の対象とするアンバランスは、ベール、揺動アーム、糸案内部等の重量に起因するもののみであり、これ以外にアンバランス要素がないことを前提としている。したがって、構成要件Cは、ロータの回転軸芯を通る直交線上の位置に一対のアーム部が配置される構成に限られ、オフセット構成を含まないものと解すべきである。
他方、被告各物件は、ロータの回転時のバランスを取りつつ重量の増加を抑えるという目的のために、一対のアーム部を、ロータの回転軸芯に対し糸解放姿勢のベールが位置する側に一定距離オフセットさせて配置する構成を採用しているので、被告各物件の構成c1は、構成要件Cを充足しない。
(二) 構成要件I及びJの充足性
被告各物件は、構成要件I及びJを充足しない。
本件考案の明細書(以下「本件明細書」という。)には、二つのバランサの配置のみでロータの回転時のアンバランスを抑えることが開示されており、付加的バランス手段である第1バランサ及び第2バランサ以外のバランサあるいはバランス手段の組み合わせによる配置構成は想定されていない。
被告各物件は、ロータの回転時のバランスを取りつつ重量の増加を抑えるという目的のために、一対のアーム部を、ロータの回転軸芯に対し糸解放姿勢のベールが位置する側に一定距離オフセットさせて配置するという、部材重量利用型バランス手段と、「重りA」、「重りB」及び「重りD」という、本来の機能部材以外のバランサを配置する付加的バランス手段を組み合せて、一つのまとまった複合的アンバランス解消手段を採用したものである。したがって、被告各物件におけるバランス手段は、本件考案におけるバランス手段とは相違する。被告各物件においては、オフセット構成及びバランサが組み合わされて、複合的なアンバランス解消手段が採られているのであり、そのいずれを欠いても、ロータ回転時のアンバランスを解消させることは不可能である。
したがって、被告各物件の構成f及び構成eにおける「重りA」及び「重りB」は、本件考案の構成要件I及びJの「第1バランサ」及び「第2バランサ」に該当しない。
2 損害額はいくらか。
(原告の主張)
へ号物件のうち製品名「EMBLEMーZ 三五〇〇i」についての平成六年七月六日から平成七年三月末日までの間の販売額は七二〇〇万円であり、その余の被告各物件についての平成七年一月一日から同年一二月三一日までの間の販売額は合計一八億三五九六万四〇〇〇円である。これらの製品の利益率は、販売価格の少なくとも一〇パーセントを下らない。
したがって、被告は、被告各物件の販売により合計一億九〇七九万六四〇〇円の利益を得ており、原告は同額の損害を被った。
(72,000,000+1,835,964,000)×0.1=190,796,400
(被告の反論)
原告の主張は争う。
第三 争点に対する判断
一 構成要件I及びJの充足性
被告各物件の構成f及びeが、それぞれ本件考案の構成要件I及びJを充足するか否かについて検討する。当裁判所は、被告各物件の構成fにおける「重りA」及びeにおける「重りB」は、順に本件考案の構成要件Iにおける「第1バランサ」及び構成要件Jにおける「第2バランサ」に該当しないので、それぞれの構成要件を充足しないと判断する。その理由は以下のとおりである。
1 「第1バランサ」(構成要件I)及び「第2バランサ」(構成要件J)の意義について
(一) 本件実用新案登録請求の範囲には、確かに「前記ロータの前記リール本体側で、糸巻き取り姿勢のベールが位置する側に重心が位置するように配置された第1バランサと、」「前記第1バランサより前方側で、糸解放姿勢のベールが位置する側に重心が位置するように配置された第2バランサと、」と記載されているのみであって、「バランサ」という文言が用いられている以外に格別の限定はない。しかし、本件考案は、スピニングリールにおけるロータ回転時におけるアンバランスを修正するための解決手段を提供するものであることに照らすならば、右各「バランサ」の意義を解釈するに当たり、請求の範囲以外の部分の記載を参酌することが必要となる。
そして、後記の理由によれば、本件考案においては、<1>本件明細書の考案の詳細な説明の【作用】欄に「両バランサによって回転時のアンバランスを抑えて円滑な巻き取り操作が行える。」とされ、専ら、一対のバランサ(第1バランサと第2バランサ)の相対的な配置関係のみが言及されていること、<2>【考案が解決しようとする課題】欄に、「従来から、ベール重量も含めたアンバランスを解消するようにバランサを配置したり、あるいは1対のアーム部それぞれの相対位置を設定すること(軸芯方向視でアーム部それぞれを非対称位置に配置)等が行われている。」と記載されている点に照らすと、一対のアーム部の相対位置を非対称に配置すること等のアンバランス解消手段と本件考案におけるアンバランス解消手段とを別個の技術思想と解していること、<3>本件明細書における唯一の実施例において、専ら、二つのバランサの配置によりアンバランスを解消する例が示されていることに照らすならば、本件考案の構成要件Iにおける「第1バランサ」及び構成要件Jにおける「第2バランサ」は、相互の合理的な配置によって回転時のアンバランスを抑えるために設けられた重りを指すというべきであって、他のアンバランス解消手段と複合的に組み合わされた場合の重りを含まないと解すべきである。
以下、この点を詳述する。
(二) 本件明細書の考案の詳細な説明のうち【作用】欄の記載
本件明細書の考案の詳細な説明欄には、スピニングリールにおいては、従前、軸芯に沿う方向視での重量のバランスは図られていたが、軸芯に直交する方向視での重量のバランスが図られていなかったこと、その結果、例えば長期にわたる使用によりロータ4の支持系にガタツキが生じた場合、高速で巻き取り操作した際にロータ4が大きく振動し、円滑な巻き取り操作が行いにくいという問題点が生じていたこと、そのため、【作用】欄に「本考案に係るスピニングリールでは、糸巻き取り姿勢のベールが位置する側に第1バランサが配置されるので、ベール及び1対のアーム部に設けられた各部材の合成重心が比較的前部に位置するものの、これらと第1バランサとの合成重心がリール本体側に偏位する。このため、第2バランサを第1バランサが設けられた側と逆側である糸解放姿勢のベールが位置する側に設けることができ、両バランサによって回転時のアンバランスを抑えて円滑な巻き取り操作が行える。」(0009欄)、【考案の効果】欄に「第1及び第2バランサを設けているので、リールを前方から平面的に見た場合の重量バランスが良好になるとともに、回転軸芯を挟んで対向する側のそれぞれの重心の軸方向での距離的ギャップが少なくなり、回転時のアンバランスが抑えられ円滑な巻き取り操作が行える。」(0015欄)と記載されている(甲二、枝番号は省略する。以下同様とする。)。
右記載を参酌して総合判断すると、スピニングリールにおいては、従前、軸芯に沿う方向視での重量のバランスは図られていたものの、軸芯に直交する方向視での重量のバランスが図られていなかったことに対して、本件考案は、「第1バランサ」と「第2バランサ」を合理的に配置することにより、軸芯に直交する方向視での重量のバランスを図り、回転時のアンバランスを抑えて円滑な巻き取り操作が行えるようにしたものと解される。
そうすると、本件考案は、軸芯に直交する方向視で、揺動アーム、糸案内部等の部材の合成重心とのバランスが図られるような重量及び位置に配置するための手段として、「第1バランサ」を「前記ロータの前記リール本体側で、糸巻き取り姿勢のベールが位置する側に重心が位置するように」配置し、「第2バランサ」を「第1バランサより前方側で、糸解放姿勢のベールが位置する側に重心が位置するように」配置するという技術思想を示しているのであるから、本件考案は、回転時のアンバランスを、専ら「第1バランサ」及び「第2バランサ」の合理的な配置によって解決しようとするものであって、回転時のアンバランスを解消するための別の手段を複合的に組み合せることによってアンバランスを解決することは、およそ想定していないと解するのが相当である。
(三) 本件明細書の考案の詳細な説明のうち【考案が解決しようとする課題】欄の記載及び実施例の記載
また、本件明細書の考案の詳細な説明欄中の【考案が解決しようとする課題】欄には、「スピニングリールは、比較的小さい重量ながらベールを備えている。このため、従来から、ベール重量も含めたアンバランスを解消するようにバランサを配置したり、あるいは1対のアーム部それぞれの相対位置を設定すること(軸芯方向視でアーム部それぞれを非対称位置に配置)等が行われている。」(0006欄)と記載されている(甲二)。右記載によれば、軸芯方向視で、一対のアーム部を非対称位置に配置すること、すなわちアーム部をオフセット配置することが、従来行われていたアンバランス解消方法の一つとして取り上げられ、そうすると、アーム部をオフセット配置することは、本件考案における技術思想とは別個のアンバランス解消方法として捉えられていると解するのが相当である。
さらに、本件明細書に記載されている唯一の実施例には、「第1バランサ10の重心位置はWである。また、ベール3、揺動アーム8及びラインローラ9の重量に起因する合成重心位置はWであり、これらと第1バランサ10との合成重心位置はWとなる。そこで、合成重心位置Wに対し、回転軸芯Xを挟んで対向する位置、すなわちロータ4の前壁4aに、ベール3、揺動アーム8、ラインローラ9及び第1バランサ10のロータ回転時の遠心力を相殺する重量の第2バランサ11(重心位置W)が設けられている。」(0013欄)との構造が示され、専ら、第1バランサ及び第2バランサの合理的な配置によって、ベール、揺動アーム及びラインローラの重量に起因するアンバランスを解消しようとする技術思想が開示されている。
なお、本件考案は、極めて容易に考案することができるとまでは解されないが、本件剛体回転子において、いかなる不釣り合いを持っていても、回転中心線に垂直な平面のうち、任意に選んだ二つの平面に重りをつけることによって解消させるという考えは、周知であるのみならず、極めてありふれたものであると解される(乙一)。
(四) 以上を総合すれば、本件考案は、軸芯に直交する方向視で、揺動アーム、糸案内部等の部材の重量によって生じる回転時のアンバランスに対して、専ら、「第1バランサ」及び「第2バランサ」の、実用新案登録請求の範囲の記載どおりの合理的な配置によって解消しようとするものであるから、本件考案の構成要件Iにおける「第1バランサ」及び構成要件Jにおける「第2バランサ」は、相互の合理的な配置によって回転時のアンバランスを抑えるための重りを指すというべきであって、他のアンバランス解消手段と組み合わせた場合の重りを含まないと解すべきである。
2 被告各物件の構成と本件考案の構成要件I及びJとの対比
被告各物件は、「重りA」が「ロータの本体後端部内周縁に設けられた溝のベール糸巻取姿勢側に位置する溝内に円弧状に配置され」(構成f)、また、「重りB」が「ロータの本体前壁のベール糸解放姿勢側に位置する周縁部に配置されている」(構成e)。確かに、重りAは、糸巻き取り姿勢のベールが位置する側にその重心が位置するように配置され、また、重りBは、重りAより前方側で、糸解放姿勢のベールが位置する側に重心が位置するように配置され、ロータの重心の位置を調整しているということができる。
他方、被告各物件は、「重りA」及び「重りB」とは別に「重りD」が「第1アーム部の後端部内に配置」され、また、「第1アーム部」及び「第2アーム部」が、「リール本体の前部に回転自在に支持され、ロータの回転軸の両側に対向し、かつロータの回転軸芯Xを外れたオフセット線X’にその中心を結んだ線が通るように配置」されている(構成3a)。被告各物件が、一対のアーム部を、ロータの回転軸芯に対し糸解放姿勢のベールが位置する側に一定距離オフセットさせて配置するという構成を選択したのは、ロータの回転時のバランスを取りつつ重量の増加を抑えるために、ロータの構造を工夫して、部材の重量を利用して、偏重心を与え、アンバランスを抑制する方法を用いたものと理解することができる。そうすると、被告各物件においては、回転時のアンバランスを解消するために、「重りA」、「重りB」、「重りD」の配置を工夫することによって解消する手段、及び、一対のアーム部を軸芯方向視で非対称位置に配置することによって解消する手段の両者を、複合的に組み合わせたものということができる。
ところで、前記のとおり、本件考案は、軸芯に直交する方向視で、揺動アーム、糸案内部等の部材の重量によって生じる回転時のアンバランスに対して、専ら、「第1バランサ」及び「第2バランサ」の合理的な配置によって解消しようとするものであって、本件考案の構成要件Iにおける「第1バランサ」及び構成要件Jにおける「第2バランサ」は、相互の合理的な配置によって回転時のアンバランスを抑えるための重りを指し、他のアンバランス解消手段と組み合わせた場合の重りを含まないと解すべきであるから、被告各物件における「重りA」及び「重りB」は、いずれも、それぞれ構成要件Iの「第1バランサ」及び構成要件Jの「第2バランサ」に該当しない。
この点、原告は、ロータの回転軸芯に偏重心を与えてもなお残存するアンバランスを所与の前提と考えれば、被告各物件は、構成要件I、Jを充足すると主張するが、前記判断の経緯に照らし採用の限りでない。
したがって、被告各物件における構成f及びeは、本件考案における構成要件I及びJを充足しない。
二 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件請求は理由がないので、これを棄却する。
(口頭弁論終結日 平成一一年五月二七日)
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 石村智)
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