東京地方裁判所 平成7年(刑わ)2334号・平7年(刑わ)1668号・平7年(刑わ)1869号・平7年(刑わ)1314号・平7年(刑わ)2565号 判決
主文
被告人を懲役四年六月に処する。
未決勾留日数中一五〇日を右刑に算入する。
訴訟費用中、平成八年一月二六日及び同年二月一九日に証人A1に支給した分の各二分の一、同年三月一二日、同年四月五日及び同年五月二一日に同証人に支給した分、平成一〇年九月三日及び同年一〇月九日に証人A2に支給した分並びに証人A3、同A4、同A5、同A6、同A7、同A8、同A9、同A10及び同A11に支給した分は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一 東京都港区虎ノ門<番地略>に本店を置く安全信用組合の代表理事として同信用組合における業務全般を統括し、顧客に組合資金を貸し付けるに当たっては、関係法令並びに同信用組合の定款及び貸出規定等の定めを遵守するはもとより、あらかじめ貸付先の営業状態、資産等を精査するとともに、確実にして十分な担保を徴して貸付金の回収に万全の措置を講ずるなど同信用組合のため職務を誠実に遂行すべき任務を有していたB1(以下「B1」という)及び同信用組合の専務理事として代表理事であるB1を補佐して業務を執行処理し、右同様の任務を有していたB2(以下「B2」という)と共謀の上、
一1 別表一記載のとおり、平成四年七月三一日ころ及び同年八月七日ころの二回にわたり、前記安全信用組合本店において、被告人、B1及びC1株式会社(以下「C1」という)等の利益を図る目的をもって、B1及びB2の前記任務に背き、C1には債務の返済能力がなく、同会社が特段の資産を有しないため十分な担保を徴求することができないことから、同会社に貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、何ら担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、同会社に対し合計四億七〇〇〇万円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え
2 同年八月一一日ころ、前記安全信用組合本店において、B1及びC1等の利益を図る目的をもって、B1及びB2の前記任務に背き、C1に貸付けを行えば前同様その貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、何ら担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、同会社に対し四億八〇〇〇万円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え
二1 別表二の1記載のとおり、同年六月二九日ころ及び同年七月二日ころの二回にわたり、前記安全信用組合本店において、被告人、B1及び株式会社D(以下「D」という)等の利益を図る目的をもって、B1及びB2の前記任務に背き、Dには債務の返済能力がなく、同会社が特段の資産を有しないため十分な担保を徴求することができないことから、同会社に貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、何ら担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、同会社に対し合計三九億円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え
2 別表二の2記載のとおり、同年九月二四日ころ及び同年一〇月一三日ころの二回にわたり、前記安全信用組合本店において、B1及びD等の利益を図る目的をもって、B1及びB2の前記任務に背き、Dに貸付けを行えば前同様その貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、何ら担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、同会社に対し合計二億二〇〇〇万円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え
三1 別表三の1記載のとおり、同年七月六日ころ及び同年八月三一日ころの前後三回にわたり、前記安全信用組合本店において、被告人、B1及び株式会社E(以下「E」という)等の利益を図る目的をもって、B1及びB2の前記任務に背き、Eには債務の返済能力がなく、同会社が特段の資産を有しないため十分な担保を徴求することができないことから、同会社に貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、何ら担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、同会社に対し合計二八億七〇〇〇万円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え
2 別表三の2記載のとおり、同年七月一三日ころ、同年一一月九日ころ及び同年一二月三〇日ころの前後三回にわたり、前記安全信用組合本店において、B1及びE等の利益を図る目的をもって、B1及びB2の前記任務に背き、Eに貸付けを行えば前同様その貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、何ら担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、同会社に対し合計三億六五〇〇万円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え
四 別表四記載のとおり、平成五年七月一六日ころから平成六年六月二九日ころまでの間、前後三五回にわたり、前記安全信用組合本店において、被告人及び株式会社F(以下「F」という)の利益を図る目的をもって、B1及びB2の前記任務に背き、Fが事実上休眠状態にあり特段の資産を有しないため債務の返済能力がなく、既存の貸出債権額が同会社等から徴していた株式等の担保の価値を著しく超過しているため、更に同会社に貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、十分な担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、同会社に対し合計三五億八〇〇〇万円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え
第二 東京都港区新橋<番地略>に本店を置く東京協和信用組合の代表理事として同信用組合における業務全般を統括し、顧客に組合資金を貸し付けるに当たっては、関係法令並びに同信用組合の定款及び貸出規定等の定めを遵守するはもとより、あらかじめ貸付先の営業状態、資産等を精査するとともに、確実にして十分な担保を徴して貸付金の回収に万全の措置を講ずるなど同信用組合のため職務を誠実に遂行すべき任務を有していたものであるが、
一 別表五記載のとおり、平成四年七月八日ころから平成五年一月二八日ころまでの間、前後四回にわたり、前記東京協和信用組合本店において、被告人及びC1の利益を図る目的をもって、自己の前記任務に背き、C1には債務の返済能力がなく、同会社が特段の資産を有しないため十分な担保を徴求することができないことから、同会社に貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、十分な担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、同会社に対し合計一二億五〇〇〇万円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え
二 平成四年一〇月一六日ころ、前記東京協和信用組合本店において、被告人及びG1株式会社(以下「G1」という)の利益を図る目的をもって、自己の前記任務に背き、G1には債務の返済能力がなく、同会社の所有する東京都立川市高松町<番地略>所在の借地権付建物には先順位の根抵当権が設定されていて担保余力がなく、同会社がその他特段の資産を有しないため十分な担保を徴求することができないことから、同会社に貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、十分な担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、同会社に対し一六億円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え
三 別表六記載のとおり、平成五年四月三〇日ころから同年五月二五日ころまでの間、前後五回にわたり、前記東京協和信用組合本店において、被告人及びH1株式会社(以下「H1」という)の利益を図る目的をもって、自己の前記任務に背き、H1には債務の返済能力がなく、同会社の所有する東京都小平市学園西町<番地略>所在の土地、建物には先順位の根抵当権が設定されていて十分な担保余力がなく、同会社がその他特段の資産を有しないため十分な担保を徴求することができないことから、同会社に貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、十分な担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、同会社に対し合計一三億四〇〇〇万円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え
四 別表七記載のとおり、平成五年六月二九日ころから平成六年四月四日ころまでの間、前後五回にわたり、前記東京協和信用組合本店において、被告人及び株式会社I1(以下「I1」という)の利益を図る目的をもって、自己の前記任務に背き、I1には債務の返済能力がなく、同会社が特段の資産を有しないため十分な担保を徴求することができないことから、同会社に貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、十分な担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、同会社に対し合計二〇億九〇〇〇万円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え
第三 前記第二のとおりの東京協和信用組合のための任務を有していたものであるが、
一 ゴルフ場の経営等を目的とする株式会社J2の代表取締役として同会社の業務全般を統括するとともに同会社経営のゴルフ場をJ3株式会社(以下「J3」という)に譲渡するなどしたJ4(以下「J4」という)及びJ3の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたJ5(以下「J5」という)と共謀の上、別表八の1記載のとおり、平成五年一二月二日ころ及び平成六年三月一四日ころの二回にわたり、前記東京協和信用組合本店において、J4、J5及びJ3等の利益を図る目的をもって、自己の前記任務に背き、J3には債務の返済能力がなく、同会社が特段の資産を有しないため十分な担保を徴求することができないことから、同会社に貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、十分な担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、同会社に対し合計一二億円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え
二 J5と共謀の上、別表八の2記載のとおり、平成六年一月二八日ころ及び同年二月一日ころの二回にわたり、前記東京協和信用組合本店において、J5及びJ3の利益を図る目的をもって、自己の前記任務に背き、J3に貸付けを行えば前同様その貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、十分な担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、同会社に対し合計六〇〇〇万円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え
第四 前記第二のとおりの東京協和信用組合のための任務を有していたものであるが、ゴルフ場の経営等を目的とする株式会社K1(以下「K1」という)の代表取締役として同会社の財務及び経理を統括していたK2及び衆議院議員であるとともに同会社の経営に参画していたK3と共謀の上、別表九記載のとおり、平成六年六月一日から同年一二月一日までの間、前後二三回にわたり、前記東京協和信用組合本店において、K1等の利益を図る目的をもって、自己の右任務に背き、K1には債務の返済能力がなく、同会社の所有する埼玉県比企郡都幾川村大字西平字振矢<番地略>所在のゴルフ場の土地、建物には十分な担保余力がなく、同会社が他に特段の資産を有しないため十分な担保を徴求することができないことから、同会社に貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、十分な担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、同信用組合から同会社に対し合計一九億一九〇〇万円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え
第五 K2、K3及び前記第一のとおりの安全信用組合のための任務を有していたB1と共謀の上、別表一〇記載のとおり、平成六年六月二三日から同年七月六日までの間、前後六回にわたり、前記安全信用組合本店において、K1等の利益を図る目的をもって、B1の右任務に背き、K1には債務の返済能力がない上、同会社の所有する前記ゴルフ場の土地、建物には十分な担保余力がなく、同会社が他に特段の資産を有しないため十分な担保を徴求することができないことから、同会社に貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、十分な担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、同信用組合から同会社に対し合計八億一〇〇〇万円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え
たものである。
(証拠の標目)<省略>
(争点に対する判断)
第一 安全からC1、D、E及びFに対する貸付けについて(判示第一関係)
一 本件に関する背景事情等
関係証拠によれば、以下の事実が認められる。
1 被告人の東京協和信用組合への経営関与状況等
被告人は、経営が悪化し、決算承認指定組合に指定されていた東京協和信用組合(以下「東京協和」という)の再建への協力を求められ、昭和五七年五月に東京協和の理事に就任し、その後、昭和五八年五月に副理事長に、更に昭和六〇年五月には理事長に就任した。
被告人は、自己の経営する株式会社イ・アイ・イーインターナショナル(以下「イ・アイ・イーインター」という)を中心とした企業グループ(以下「イ・アイ・イグループ」という)及び知人等から東京協和に多額の預金を集めるとともに、東京協和からイ・アイ・イグループ各社に多額の貸付けを行うことにより、東京協和の経営の建て直しを図った。しかしながら、預金及び貸付けの急激な拡大により、東京協和の預金受入先及び貸出先がイ・アイ・イグループ各社に集中するなど、いわゆる大口信用集中の状態が生じ、同一人に対する法定貸出限度額を超える貸付けがなされるようになった。そのため、東京都は、昭和六三年以降も引き続き東京協和を決算承認指定組合に指定するとともに、大口規制違反を早期に解消するように指導していたが、その後も右違反は解消されず、平成四年度から六年度にかけても、同グループに対して東京協和の法定貸出限度額(約一一億八〇〇〇万円から約一二億九〇〇〇万円)を超える貸付けがなされていた。
2 被告人とB1の関係等
被告人は、B1が昭和五五年に安全信用組合(以下「安全」という)の常務理事に就任した当時、安全と同じビルにおいて、イ・アイ・イグループの中のイ・アイ・イ株式会社の副社長として執務をしており、当時、同社と安全との間で取引があったことなどから、B1と親しく交際するようになった。安全は、株式会社日本長期信用銀行(以下「長銀」という)が昭和六一年ころにイ・アイ・イグループの主要取引金融機関となるまで、同グループのメインバンク的な役割を果たしていた。
他方、B1は、不動産の取引、管理、運営等を目的とする株式会社B3(以下「B3」という)を中核とし、株式会社B5、株式会社B4、株式会社B7を含むグループ企業を実質的に経営しており、B3は、昭和六一年ころから、被告人の経営するB6株式会社(以下「B6」という)等のノンバンクから貸付けを受けて多数の不動産を購入し、被告人は、B1の依頼で、昭和六一年ころから平成三年ころまで、B3の役員を務めていた。
このようにして被告人とB1及び安全との関係は密接なものとなり、イ・アイ・イグループは、安全からも多額の貸付けを受けたが、それが法定貸出限度額(安全の平成四年度から六年度においては約五億六〇〇〇万円から約八億三〇〇〇万円)を大幅に超過していたことから、東京都は、毎年のようにB1らに対して大口規制違反の早期解消を指導したが、なかなか解消されなかった。
3 イ・アイ・イグループの経営状況及び長銀の同グループへの関与状況等
被告人は、昭和五二年にリゾート開発を目的としたイ・アイ・イ開発株式会社(昭和六三年に商号を「株式会社イ・アイ・イーインターナショナル」に変更)の代表取締役に就任し、同社を中心としたイ・アイ・イグループを形成して国内外のリゾート開発事業等を行うようになった。被告人は、長銀等の金融機関からの借入れにより資金を調達し、短期間のうちにオーストラリア、ハワイ等の太平洋地域におけるリゾート開発事業を中心とする海外の大規模開発を次々と手がけるようになったが、他方でイ・アイ・イグループの借入金の額は増大し、徐々にその資金繰りが悪化していった。さらに、バブル経済の崩壊による株価の下落、不動産市況の悪化等により、イ・アイ・イグループの資金繰りは急速にひっ迫していった。
資金繰りに窮した被告人は、平成二年一〇月ころ、長銀に支援を要請し、それに対し、長銀は、他の金融機関四行と協力してイ・アイ・イグループを支援することにし、平成三年一月、イ・アイ・イーインターにA2を副社長として派遣するなどし、同年四月からいわゆる第一次リストラ計画を開始した。
しかしながら、右計画は十分な成果を上げることができず、平成四年一月ころには、ほか四行の協力が得られないため、長銀は、単独でイ・アイ・イグループを支援する状態になり、新たに第二次リストラ計画を立て、同年七月から開始することとした。なお、イ・アイ・イーインターの同年七月期の当期未処理損失は、約四九七億円に上っていた。
被告人は、第二次リストラ計画において、イ・アイ・イグループの全ての借入金の利払いが停止されることとなっており、東京協和にとっては大口債務の利払いが受けられない事態となることから、同グループに属するイ・アイ・イーインター、株式会社イ・アイ・イリゾート(以下「イ・アイ・イリゾート」という)、株式会社イ・アイ・イサンクチュアリーコーブ、株式会社イ・アイ・イハワイ及び株式会社イ・アイ・イアソシエイツの東京協和からの借入金を被告人個人において代位弁済することを考え、東京協和と安全から被告人関連会社等への貸付けを利用して合計約五四億円を調達し、同年七月三日、代位弁済を行った。
長銀は、第二次リストラ計画を実施したものの、イ・アイ・イグループ再建の可能性が乏しいとみて、法的な整理に移行することとし、被告人に和議の申立てを持ちかけたが、被告人がこれを拒絶したため、平成五年七月、出向者をイ・アイ・イグループ各社から引き揚げさせ、支援を打ち切った。その後、被告人は、自力で同グループの再建を図らねばならないことになった。なお、イ・アイ・イーインターの同年七月期の当期未処理損失は、約七九四億円に達していた。
4 被告人個人の借入れの状況等
被告人は、安全から、平成二年一〇月ころから一二月ころにかけて自己名義や知人の営む会社名義で絵画の購入資金約二三億円を、平成三年一二月ころから平成四年六月ころまでの間に土地購入資金として約一七億五〇〇〇万円をそれぞれ借り入れた。また、被告人の親族名義及び親族の経営する会社名義の安全に対する借入金等の利払いが滞ったことから、B1の要請により、平成四年初めころから、それらについても利払いをしなければならなくなった。
そして、イ・アイ・イグループのリストラ開始後は、長銀側から、被告人個人の必要資金は東京協和ではなく安全から調達するよう求められたこともあって、安全から多額の借入れを重ね、安全の被告人個人に対する貸出残高は、平成四年七月ころには五〇億円を超えるようになった。このため、B1から東京都の検査で指摘を受けるので借入残高を減らすよう要請されていた。
そのほかにも、被告人は、東京協和や知人からの借入金の元利払い、被告人関連会社への必要資金の貸付け、知人に購入を勧めた株式売買の損失補てん、自宅やオーストラリアのリゾート地の購入のためのローンの返済、交際費等にも資金を必要としていた。
このように多額の負債を抱える一方、被告人は、個人資産として、自宅のほか、土地、株式を保有していたが、これらの不動産及び株式はすべて被告人個人又は被告人関連会社の債務の担保に差し入れられており、自由に処分できない状態であった。
二 C1、D、E関係(判示第一の一ないし三)
1 弁護人の主張
B1が安全の代表理事として、判示の任務を有していたこと、安全からC1、D及びE(以上の三社を「C1ほか二社」と総称する)に対して判示の各貸付けが実行されたことに争いがないところ、弁護人は、右各貸付けは、B1らが安全の利益を図るために行ったものであって、図利目的がなく、損害発生の認識もなく、しかも任務違背の事実もないから、同人らの行為が背任罪に該当するものではないとし、さらに、被告人は、C1ほか二社の経営には何ら関与しておらず、B1との共謀もなく、共犯者としての責任を問われるいわれはないとして、被告人は無罪である旨主張している。
2 主張に対する判断
(一) C1に対する貸付けについて(判示第一の一)
(1) C1の開発状況、貸付状況等
A15(以下「A15」という)、B1、B2、J5及び被告人の各検察官調書等の関係証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア) C1の開発状況等
C1は、平成二年七月、J5によってJ6株式会社(平成五年七月に株式会社J7と商号を変更。以下商号変更の前後を問わず「J7」という)の子会社として、ゴルフ場C6の開発を目的として設立されたが、J5は、建設資金がなかったので、平成三年一一月ころ、被告人にC1の買取りを持ちかけた。
ところで、B1は、前記一2のように、B3グループを経営して、B6等から貸付けを受けて多数の不動産を購入していたが、バブル崩壊により購入物件の売却ができず、B3は、平成三年六月期には、借入残高が約六一一億円、当期未処理損失は約一五〇億円にものぼり、借入金や利払い資金として安全から多額の借入れをしており、同グループの他の企業も同様に経営が悪化していた。
そこで、被告人は、B1に対し、C1が安全から借入れをしてB3等のB1関連の会社に転貸し、その資金でB3等が安全からの借入れを返済をすれば、債務の付替えができるなどとして、C1の株式の購入を勧めたところ、B1もこれを了承した。そして、平成三年一二月、B3とJ7との間で、B3がJ7に対して用地買収費、地元対策費、株式譲渡代金及び報酬として合計三五億円を支払ってC1を購入するとともに、J7が右ゴルフ場の用地確保、開発のための許可申請等の業務を遂行する旨の業務協定が締結された。
C1は、平成二年一一月に開発工事の事前承認を受けていたが、そのゴルフ場建設予定地では、すでに同年暮れころから地権者を中心として建設反対の運動が起こり、平成三年一〇月には地権者のうち一〇〇名が土地を売却しない旨の誓約書を宇佐市長に提出し、平成四年四月に国土利用計画法に基づく土地売買等の届け出がなされたものの、個人所有地の地権者八三名のうち六〇名分しか提出できない状態で、その後も買収はほとんど進まず、買収に同意した者に対しても手付金を払ったのみで建設予定地の所有権は取得されておらず、許認可取得のための手続もほとんど行われないままになって、現在に至っている。
(イ) C1に対する貸付状況等
<1> 被告人は、平成四年七月下旬ころ、被告人らにおいて月末に必要な資金を調達するため、B1に対し、安全からC1ほか二社のいずれかを通じて一億五〇〇〇万円を貸し付けて欲しい旨依頼し、B1はC1を通じて貸付けする旨答えた。そして、B1は、B2に指示して、同月三一日、安全からC1に一億五〇〇〇万円を貸し付けた(別表一の番号1)。
右貸付金は、安全のC1名義の預金口座から直ちに全額被告人名義の預金口座に入金された上、被告人個人、親族及び被告人関連会社の安全からの借入金の利払い、被告人関連会社や知人等に対する貸付け及び株式の損失補てん並びに被告人個人の納税資金等に充てられた。
<2> 被告人は、同年八月上旬ころ、自己が知人に依頼して保有してもらった株式の損失補てんのための資金を調達するため、C1を利用することとし、B1に対し、安全からC1に対する三億二〇〇〇万円の貸付けを依頼した。そこで、B1は、B2に指示して、同月七日、安全からC1に三億二〇〇〇万円を貸し付けた(別表一の番号2)。
右貸付金のうち三億円が安全の被告人名義の預金口座に入金された上、被告人の知人経営のB8に支払われた。
<3> 被告人は、同月一〇日ころ、前記(ア)のJ7との業務協定に基づく土地の買収費等について、J5のB1に対する要請を受けたB2から支出の是非について確認されたことから、安全において支出するように要請した。そこで、B1は、B2に指示して、同月一一日、安全からC1に四億八〇〇〇万円を貸し付けた(判示第一の一の2)。
右貸付金のうち、二億三〇〇〇万円はC1からJ7に振り替えられ、J7においてその業務のために費消され、五〇〇〇万円がB18に支払われた。
<4> 判示第一の一の各貸付けは、いずれも返済期日に返済がなかったことから借換えがなされた。その後、平成六年九月六日に、安全から被告人が実質的に経営する株式会社B9(以下「B9」という)に一五〇億円の貸付けがなされ、その一部がB3に振り替えられた上、更にC1に振り替えられ、判示第一の一の各貸付けの返済に充てられた。安全の右一五〇億円の債権は、平成七年三月二〇日、株式会社東京共同銀行(以下「東京共同銀行」という。その後株式会社整理回収銀行に組織変更)に譲渡され、その後、更に社団法人東京都信用組合協会(以下「都信協」という)に譲渡されたが、現在まで返済はされておらず、判示第一の一の各貸付けは実質的に返済されていない。
(2) C1の返済能力、担保
(ア) 返済能力
J5の検察官調書等によれば、C1は、平成三年五月以降、事業収益は全くなく、固定資産も所有していなかった。また、前記(1)(ア)のとおり、判示第一の一の各貸付けが行われる以前にゴルフ場建設の反対運動が起こり、用地取得が進捗していない状況にあり、本認可を得られる見通しが立っていなかった。なお、安全のC1への貸付残高は、本件貸付け開始時点で、既に法定貸出限度額を大幅に超える約五二億円となっていた。
弁護人は、将来の会員権販売や事業収益によって貸付けの返済が十分期待できる状況にあった旨主張するが、本認可の時期も明確でないゴルフ場の将来の収益を予測することは極めて困難というべきであるから、C1において判示第一の一の各貸付けを返済する能力を有していたとは認められない。
(イ) 担保
A15の検察官調書等によれば、判示第一の一の各貸付けにおいて、安全は、C1から特に担保を徴求していない。
(3) 被告人、B1らの損害発生の認識及び図利目的
(ア) 損害発生の認識
前記(2)のとおり、C1には判示第一の一の各貸付けの返済能力がなく、何らの担保設定もなされていないところ、被告人及びB1らは、C1の開発に関与していて、J5らからその開発状況について報告を受けるなどして、いずれも右事情を十分認識していたのであるから、かかる状態において多額の貸付けを行えば、安全に貸倒れ等の損害が発生する危険が高いとの認識を有していたと認められる。
(イ) 図利目的
<1> 判示第一の一の各貸付け全体について
C1は、返済能力がなく、担保もないにもかかわらず、高額の貸付けを受けることができたのであるから、判示第一の一の各貸付けがC1及びその実質的経営者であるB1の利益になったことは明らかである。
<2> 別表一の番号1、2の各貸付けについて
別表一の番号1、2の各貸付けの使途をみると、C1に貸し付けられた金員がほぼそのまま被告人名義の預金口座に振り込まれ、貸付金の大半が被告人や被告人関連会社等のために使われているから、右貸付けは、主としてそれらの者のために行われたというべきである。
この点、弁護人は、その一部が安全に還流していることをもって安全のための貸付けであった旨主張するが、貸付金全体からみればごく一部が還流しているにすぎないのであって、全体として安全の利益を図ったとは到底認められない。
<3> 判示第一の一の2の貸付けについて
B1、B2及び被告人の各検察官調書等によれば、B1は、B3とJ7との業務協定に基づき、J5からC6の開発に伴う諸経費の支払いを求められると、B2を介して被告人と事前に相談した上で、貸付けを決定し、その旨B2に指示して、C1に対して貸付けを実行した。また、右貸付金は、C1名義の預金口座に入金された後、右ゴルフ場の開発のためJ7等の必要経費に充てられており、安全に対する債務の返済に充てられたものはなかった。そして、右貸付けにより、設立から間が無く、特段の資産を有さず、いまだ事業を行うに至っていないC1への貸付金のみが安全に残される結果となった(なお、後記D及びEのJ7関連の各貸付態様も、同様である)。
そうすると、判示第一の一の2の貸付けも、右のように、安全の利益のためになされたものではなく、J7、C1及びその実質的経営者であるB1の利益のためになされていることは明らかである。
なお、公訴事実には、このほかに被告人個人の利益を図る目的も掲げられているが、被告人は、右J7関連の貸付けによって直接的な利益を得ておらず、ほかに被告人個人の利益を図る目的まであったと認めるに足る証拠はない。
(4) 小括
以上のように、B1は、安全の代表理事としての任務に違背し、返済能力のないC1に対して、担保も徴求することなく、それゆえ安全に損害が発生する危険が高いことを認識しつつ、被告人、C1、その実質的経営者であるB1等の利益を図る目的(一部については、C1及びB1等の利益を図る目的)で、判示第一の一の各貸付けを行ったもので、B1の行為は背任罪に該当する。
弁護人は、C1の開発は被告人とB1との共同事業ではなく、両名の間に共謀もないから、被告人において共同正犯の責任を負わない旨主張しているが、被告人は、C1をB3において購入する際に関与したのをはじめとして、その後も、C1の開発に関与し、その実態を十分認識していた上、別表一の番号1、2の各貸付けにおいては、被告人自身深く関与しており、判示第一の一の2の貸付けについても、被告人の了承の下に行われていることなどの事情からすれば、被告人に共同正犯としての責任が優に認められる。
(二) Dに対する貸付けについて(判示第一の二)
(1) Dの開発状況、貸付状況等
B1、B2、A15、J5及び被告人の各検察官調書等の関係証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア) Dの開発状況等
Dは、平成二年七月、株式会社B10により、Dゴルフクラブを開発することを目的として設立された。J5は、平成三年秋ころ、株式会社B10の代表者からDの購入を持ちかけられ、J7においてDを取得し、C1と同様にB3に転売しようと考え、平成四年一月ころ、被告人を介してB1にDの購入を持ちかけた。B1は、C1と同様に、B3等の安全に対する債務の付替えにもDが利用できることから、B3においてDを購入することとした。そして、同月末、B3とJ7の間において、B3が用地買収費等合計二五億二〇〇〇万円を支払ってDを取得するとともに、J7が用地確保等を行う旨の業務協定が締結された。
Dは、平成三年二月には大分県から事前承認を受けていたが、平成四年三月ころ、設計変更のため、代替地を確保し、農地転用許可を受けたり、新たに事前承認を受け直さなければならなくなるなどの問題が生じ、平成五年一二月になってようやく計画変更後の事前承認を受けたものの、一部の地権者、隣地所有者、水利組合等の利害関係者らの同意が得られておらず、平成六年二月の着工期限までに着工できる見込みがなかったことから、同年一月、三年間の期限延長申請をして許可を得た。しかし、平成七年七月段階でも、林地開発許可申請や農地転用許可申請には至っておらず、手付金を支払ったものの残代金の支払いをしていないため、建設予定地の所有権を取得しておらず、現在も本認可を得ておらず、着工していない。
なお、被告人は、J7がDの事業主体となった後、それが事前承認後の地位の承継に当たるとしてゴルフ場建設予定地の町長らから問題にされたことから、平成四年一二月、同町長らに対し、被告人とB1の二人で責任をもってゴルフ場建設をやる旨説明するとともに、同月一一日、Dが計画中の開発事業について町の活性化に役立つよう全面的に援助、協力する旨の被告人、B1、B3連名の念書を作成している。
(イ) Dへの貸付状況等
<1> 被告人は、平成四年六月下旬ころ、いずれもイ・アイ・イグループに属する株式会社I8(以下「I8」という)とB11株式会社(以下「B11」という)の安全に対する借入れをDに付け替えるため、B1に対し、安全からDに対する三一億円の貸付けを依頼した。そこで、B1は、B2に指示して、同年六月二九日、安全からDに三一億円を貸し付けた(別表二の1番号1)。
右貸付金のうち、二九億五〇〇〇万円がDからB3に転貸された上、さらに、B3から、一六億円がI8に、一三億五〇〇〇万円がB11に転貸され、右一六億円はI8の安全に対する元利払いに、右一三億五〇〇〇万円のうち、四億円がB11の安全に対する元利払いに、残り九億五〇〇〇万円が東京協和に対する元利払いにそれぞれ充てられた。その結果、安全には二〇億円が還流した。
<2> 被告人は、平成四年七月初めころ、前記一3の代位弁済スキームを実施するための資金として、B1に対して安全からDに八億円の貸付けを要請した。そこで、B1は、B2に指示して、同月二日、安全からDに八億円を貸し付けた(別表二の1番号2)。
右貸付金八億円のうち、約七億六〇〇〇万円が安全の被告人名義の預金口座に入金され、さらに、それが東京協和の被告人名義の預金口座に振り替えられ、被告人は、こうして調達した資金と他から調達した資金の合計約五四億円を使って、イ・アイ・イグループの東京協和からの借入金を代位弁済した。右貸付金のうち安全に対する債務の弁済に充てられたものはなかった。
<3> 被告人は、平成四年九月一八日ころ、前記(ア)のJ7との業務協定に基づく土地の買収費等について、J5のB1に対する要請を受けたB2から確認されたことから、安全において支出するように要請し、それに基づいてB1がB2に指示して、同月二四日、安全からDに一億一〇〇〇万円を貸し付けた(別表二の2番号1)。
右貸付金は、安全のD名義の預金口座からJ7名義の預金口座に振り替えられ、J7においてその業務のために費消された。
右と同様に、同年一〇月一三日にも、安全からDに一億一〇〇〇万円が貸し付けられ、J7に振り替られて費消された(別表二の2番号2)。
<4> 別表二の各貸付けは、いずれも返済期日に返済がなかったことから借換えがなされ、その後都信協に債権譲渡されたが、それらについてもごく一部を除いて返済がなされていない。
(2) Dの返済能力、担保
(ア) 返済能力
J5の検察官調書等によれば、Dは、平成三年五月以降事業収益がなく、不動産等も所有していなかった。前記(1)(ア)のとおり、判示第一の二の各貸付けが行われる以前にゴルフ場の設計変更、代替地の確保等の問題が生じており、本認可を得られる見通しが立っていなかった。
このように本認可の時期も明確でないDの将来の収益を予測することは極めて困難というべきであるから、Dにおいて判示第一の二の各貸付けを返済する能力を有していたとは認められない。
(イ) 担保
A15の検察官調書等によれば、判示第一の二の各貸付けにおいて、安全はDから特に担保を徴求していない。
(3) 被告人、B1らの損害発生の認識及び図利目的
(ア) 損害発生の認識
前記(2)のとおり、Dには判示第一の二の各貸付けの返済能力がなく、何らの担保設定もなされていないところ、被告人及びB1らは、Dの開発に関与していて、J5らからその開発状況について報告を受けるなどして、いずれも右事情を十分認識していたのであるから、かかる状態において多額の貸付けを行えば、安全に貸倒れ等の損害が発生する危険が高いとの認識を有していたと認められる。
(イ) 図利目的
<1> 判示第一の二の各貸付け全体について
Dは、いまだ開発途上のゴルフ場で、さしたる資産も有しておらず、返済能力も不十分不確実であったと認められ、Dが有望な企業であるとの弁護人の主張は前提を欠いており、かかる状態にもかかわらず判示第一の二の高額の各貸付けを受けられたことが、D及びその実質的経営者であるB1の利益になったことは明らかである。
<2> 別表二の1番号1の貸付けについて
右貸付けに関しては、被告人関連会社に流出した資金が最終的に安全への債務返済に二〇億円、東京協和への債務返済に九億五〇〇〇万円充てられている。しかし、債務の付替えによって従前の債権が優良債権に代わったような場合であればともかく、本貸付けのように、貸付金が被告人関連会社の安全及び東京協和に対する債務返済の資金等に使われている一方で、安全に回収不確実な債権三一億円が発生したにすぎないような場合には、最も利益を受けたのは被告人関連の会社であって、安全の利益を図る目的が主たるものであったとはいえない。
また、弁護人は、安全から東京協和に流れている分についても、他の貸付けで東京協和から安全に流れている分とも併せて考慮し、安全に還流した場合と同様に評価すべきである旨主張するが、安全と東京協和とはそれぞれ独立した金融機関であり、そのような貸付けが理事長同士の情誼関係に基づき、十分な審査も行われずに実行されていた実態からすれば、これを安全に還流したものと評価することはできない。
<3> 別表二の1番号2の貸付けについて
被告人は、第二次リストラ計画による東京協和及び安全に対する利払い停止の措置に対して、イ・アイ・イグループの債務を代位弁済する一環として、別表二の1番号2の貸付けを行ったが、弁護人は、この代位弁済とこれに関連する資金操作は、利払い停止により不利益を被る両信用組合のために行われたものであり、その一環として行われた右貸付けも両信用組合の利益のために行われたものであると主張している。
しかし、右代位弁済による債務の付替え先であるDも返済能力がなく、無担保であって、利払いの能力もないのであるから、前記<1>のようにDに利益があったことは明らかである。また、その使途をみれば、結局のところ、被告人が経営するイ・アイ・イグループの東京協和に対する債務が減少しているから、それらの会社の利益のためにも別表二の1番号2の貸付けがなされたものというべきである。さらに、安全と東京協和とはそれぞれ独立した金融機関であり、東京協和において従前のイ・アイ・イグループへの貸出しを回収したことが安全の利益にならないことは前記<2>のとおりである。
<4> 別表二の2の貸付けについては、前記(一)(3)(イ)<3>の場合と同様であり、安全の利益のためになされたものではなく、J7、D及びその実質的経営者であるB1の利益のためになされていることは明らかである。
(4) 小括
以上のように、B1らは、安全の代表理事としての任務に違背し、返済能力のないDに対して、担保も徴求することなく、それゆえ安全に損害が発生する危険が高いことを認識しつつ、被告人、D、その実質的経営者であるB1等の利益を図る目的(一部については、D及びB1等の利益を図る目的)で、判示第一の二の各貸付けを行ったもので、B1の行為は背任罪に該当する。
そして、被告人は、DをB3において購入する際に関与したのをはじめとして、その後も、Dの開発に関与し、その実態を十分認識していた上、別表二の1の各貸付けにおいては、被告人自身深く関与しており、別表二の2の各貸付けについても、被告人の了承の下に行われていることなどの事情からすれば、被告人に共同正犯としての責任が優に認められる。
(三) Eに対する貸付けについて(判示第一の三)
(1) Eの開発状況、貸付状況等
B1、B2、A15、J5及び被告人の各検察官調書等の関係証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア) Eの開発状況等
Eは、平成四年六月、J7の子会社として、B12を開発することを目的として設立された。J5は、右ゴルフ場がDの予定地に近接していたため、共通会員権の販売も可能になると考え、被告人を介してB1にEの設立と資金の提供を持ちかけた。
B1は、Eも、C1等と同様に、B3等の安全に対する債務の付替えにも利用できることから、B3においてEを購入することとし、J5がEを設立した上、同年七月ころ、B3とJ7の間で、B3が用地買収費等合計二五億二〇〇〇万円をJ7に支払ってEを取得するとともに、J7が用地確保等を行う旨の業務協定が締結された。
しかし、大分県においては、事前指導要綱において、ゴルフ場開発は県土面積のおおむね一パーセント以内で実施することとされており、例外的に建設予定地の市町村において特に要望する場合に開発ができるものとされていたところ、同年六月にEが事前協議を申請した時点で、すでに右一パーセント枠を超えていたため、Eは、近隣地区住民の同意を得ることなどの条件を満たすことを求められて、事前承認を受けるのが困難な状況になり、平成五年一二月になってようやく事前承認を受けた。しかし、その後、平成七年七月段階でも、Eは、近隣地区住民の反対等により、林地開発許可申請ができず、農地転用許可も下りていない上、手付金を支払ったものの残代金の支払いをしていないため建設予定地の所有権取得もなされておらず、現在も事業が中断している。
(イ) Eへの貸付状況等
<1> 被告人は、平成四年七月初めころ、B1から被告人個人に対する安全の貸付けが五〇億円を超えており、東京都の検査で指摘される旨聞いたことから、その一部をEに付け替えるために、B1に安全からEに対する一五億五〇〇〇万円の貸付方を依頼した。そこで、B1は、B2に指示して、同年七月六日、安全からEに一五億五〇〇〇万円を貸し付けた(別表三の1番号1)。
右貸付金は、金利を除いた全額が安全の被告人名義の預金口座に入金され、うち一五億円余りが、被告人個人や株式会社L等の被告人関連会社等の安全に対する債務の返済に充てられた。
<2> 右と同じころ、被告人は、B3がイ・アイ・イグループに属するB6に負っていた未払金利を支払うため、B1に安全からEに一二億円を貸し付けるよう依頼した。これを受けて、B1は、B2に指示して、同月六日、安全からEに一二億円を貸し付けた(別表三の1番号2)。
右貸付金は、B3のB6に対する債務の返済に使われ、さらに、それはB6の東京協和に対する債務の返済に使われた。
<3> 被告人は、同年七月一〇日ころ、前記(ア)のJ7との業務協定に基づく土地の買収費等について、J5のB1に対する要請を受けたB2から確認されたことから、安全において支出するように要請し、それに基づいてB1がB2に指示して、同月一三日、安全からEに一億六〇〇〇万円を貸し付けた(別表三の2番号1)。
右貸付金は、EからJ7に振り替えられ、J7においてその業務のために費消された。右と同様に、同年一一月九日に一億円(別表三の2番号2)、同年一二月三〇日に一億五〇〇万円(別表三の2番号3)が、安全からEに貸し付けられ、J7に振り替えられて費消された。
<4> 被告人は、同年八月三〇日ころ、被告人個人及び被告人関連会社の安全に対する利払いに充てるための資金を調達するため、B1に対し、安全からEに対する一億二〇〇〇万円の貸付方を依頼した。そこで、B1は、B2に指示して、同月三一日、安全からEに一億二〇〇〇万円を貸し付けた(別表三の1番号3)。
右貸付金は、安全の被告人名義の預金口座に入金され、更に被告人個人及び被告人関連会社等の安全に対する債務の返済に充てられたほか、被告人の納税資金として費消された。
<5> 別表三の各貸付けは、返済期限が到来したが返済されないものについて借換えがなされるなどした後、前記(一)(1)(イ)<4>のように、平成六年九月六日、安全からB9に貸し付けられた一五〇億円がB3を経てEに振り替えられ、これを使って返済された形になったが、右一五〇億円の債権は、その後、東京共同銀行を経て都信協に譲渡されたものの、現在まで返済されておらず、実質的に、別表三の各貸付けは返済されていない。
(2) Eの返済能力、担保
(ア) 返済能力
J5の検察官調書等によれば、Eは、平成五年五月以降事業収益が全くなく、不動産等の固定資産も所有していなかった。前記(1)(ア)のとおり、本件各貸付けが行われる以前に大分県のゴルフ場面積が県の面積の一パーセントを超えたため、事前承認を受けるのが困難な状況になり、実際に事前承認を得たのは平成五年一二月のことであったから、判示第一の三の各貸付けが行われた時点では、いつ本認可が得られるか分からず、現在においても開業の具体的な見込みは立っておらず、将来の収益を予測することは極めて困難であるというべきであって、Eにおいて判示第一の三の各貸付けを返済する能力を有していたとは認められない。
(イ) 担保
A15の検察官調書等によれば、判示第一の三の各貸付けにおいて、安全はEから特に担保を徴求していない。
(3) 被告人、B1らの損害発生の認識及び図利目的
(ア) 損害発生の認識
前記(2)のとおり、Eにおいて判示第一の三の各貸付けを返済する能力はなく、何らの担保設定もなされていなかったことも明らかであり、被告人及びB1らは、Eの開発に関与していて、J5らからその開発状況について報告を受けるなどして、いずれも右事情を十分認識していたのであるから、かかる状態において多額の貸付けを行えば、安全に貸倒れ等の損害が発生する危険が高いとの認識を有していたと認められる。
(イ) 図利目的
<1> 判示第一の三の各貸付け全体について
弁護人は、前記のC1の場合と同様の理由から、Eの場合も、被告人は、安全を害する目的を有していなかった旨主張している。
しかし、Eについても、いまだ開発途上のゴルフ場で、さしたる資産も有しておらず、返済能力も不十分不確実であったと認められ、Eは有望な企業であるとの弁護人の主張は前提を欠いており、かかる状態にもかかわらず判示第一の三の高額の各貸付けを受けられたことが、E及びその実質的経営者であるB1の利益になったことは明らかである。
<2> なお、弁護人は、別表三の1番号1、2の貸付けは、イ・アイ・イグループの第二次リストラによる東京協和や安全に対する利払停止を回避するための措置であり、別の債務の返済等として両信用組合に還流しているので、両信用組合の利益となっている旨主張している。
しかし、番号1の貸付けについては、付替えによって従前の債権が優良債権に代わったような場合であればともかく、本件のように、貸付金の大半が被告人の安全に対する債務返済の資金等に使われている一方で、安全に回収が不確実な債権が発生したにすぎないような場合には、最も利益を受けたのは被告人個人であって、安全の利益を図る目的が主たるものであったとはいえない。
また、番号2の貸付けについては、その貸付けの使途をみれば、貸付金の全てが被告人の経営するB6の会社の債務返済の資金等に使われており、右貸付けがB6及びその代表者である被告人の利益のためにも行われたというべきである。なお、右貸付金は、最終的に東京協和に流れているが、これについて、これを安全に還流した場合と同様に評価できないことは前記(二)(3)(イ)<2>のとおりである。
<3> 別表三の1番号3の貸付けについては、一億二〇〇〇万円の貸付けの半分以上が、被告人の納税資金や被告人が知合いの会社に保有を依頼した株式が値下がりしたことによる損失の補填等に使われ、安全に還流した約四八〇〇万円についても、被告人個人や親族、被告人関連会社の安全に対する利払いに充てられており、右貸付けで最も利益を受けたのは、被告人個人やその親族、被告人関連会社である一方、安全は不良貸付額が約四八〇〇万円から一億二〇〇〇万円に増大しているのであって、右貸付けが、安全の利益のためではなく、Eの利益のためであるとともに、被告人個人や親族、被告人関連会社の利益のためにもなされたことは明らかである。
<4> 別表三の2の貸付けについては、前記(一)(3)(イ)<3>の場合と同様であり、安全の利益のためになされたものではなく、J7、E及びその実質的経営者であるB1の利益のためになされていることは明らかである。
(4) 小括
以上のように、B1は、安全の代表理事としての任務に違背し、返済能力のないEに対して、担保も徴求することなく、それゆえ安全に損害が発生する危険が高いことを認識しつつ、被告人、E、その実質的経営者であるB1等の利益を図る目的(一部については、E及びB1等の利益を図る目的)で、判示第一の三の各貸付けを行ったもので、B1の行為は背任罪に該当する。
そして、被告人は、EをB3において購入する際に関与したのをはじめとして、その後も、Eの開発に関与し、その実態を十分認識していた上、別表三の1の各貸付けにおいては、被告人自身深く関与しており、別表三の2の各貸付けについても、被告人の了承の下に行われていることなどの事情からすれば、被告人に共同正犯としての責任が優に認められる。
(四) まとめ
以上によれば、判示第一の一ないし三のC1ほか二社に対する各貸付けについて、B1において任務違背があったことのみならず、被告人及びB1らにおいて、安全に損害が発生する危険が高いことを認識しており、安全以外の者の利益を図る目的があり、共謀も認められるのであって、被告人に背任罪の成立が認められる。
なお、弁護人は、判示第一の一ないし三の各貸付けは、プロジェクトの収益からその回収を図るいわゆるプロジェクトファイナンス的な要素が極めて強く、担保が不十分であっても単純に任務違背とはいえない旨主張しているが、安全の融資事務取扱要領一三条二項によれば、法人からの借入申込みで資金使途が法人の事業目的以外のものであるときは融資してはならない旨規定されているところ、判示第一の一ないし三の各貸付けは一部を除き大半が貸付先の事業には使用されておらず、安全は、プロジェクトに由来するリスク以上のリスクを背負わされている。また、安全の貸出規定四条一項では、貸出しに当たっては、借り主の人物、資産、信用状態を調査するほか、一般経済情勢及び借り主の属する業界の状況を調査するとともに、借り主の業容、貸出金の使途、返済資源、回収時期を中心とする借り主の資金計画を十分検討しなければならない旨規定されており、仮に判示第一の一ないし三の各貸付けがプロジェクトファイナンスであるとすれば、通常の場合にも増して、収益や資金調達の計画等について精査する必要があるのに、これについて安全内部において検討された形跡はうかがわれず、C1ほか二社の返済能力について確たる見通しをもっていたとは到底いえないのであって、B1に任務違背があったことは明らかである。
三 F関係(判示第一の四)
1 弁護人の主張
B1が安全の代表理事として判示の任務を有していたこと、安全からFに対して判示の各貸付けが実行されたことに争いはないところ、弁護人は、判示第一の四の各貸付けがされた当時休眠状態にあったFには、返済能力がなかったとしながら、右各貸付けはFを利用した安全から被告人への迂回融資であるから、Fの返済能力を問題にするのは無意味であり、被告人の返済能力を問題とすべきであるところ、B1らは、被告人の返済能力を高く評価しており、そのような状況下で行われた右各貸付けについて、B1らに安全に対する加害目的も、損害発生の認識もないから、B1らに背任の犯意はなかった旨主張し、さらに、被告人は、個人で返済するのはもちろんのこと、将来的にはFの新事業の収益によっても安全に返済する意図を有していたし、長銀関係者もFへの貸付けを知っていたが、問題の貸付けとして取り上げられた形跡は全くなく、長銀も容認していたのであるから、このことは、被告人が背任の犯意を有していなかったことを裏付けるものであるとして、被告人は無罪であると主張する。
2 主張に対する判断
A15、B1、B2及び被告人の各検察官調書等の関係証拠によれば、以下の事実が認められる。
(1) Fの経営状況、貸付状況等
(ア) Fの経営状況等
Fは、平成元年六月、イ・アイ・イーインターの子会社として、山梨県明野村における娯楽施設の建設を目的として設立されたが、平成二年一二月、被告人が長銀等からの緊急支援を受ける事態になったことから、Fは、その事業遂行を断念して事実上休眠状態に入り、その後は全く事業を行っていなかった。
(イ) Fへの貸付状況等
前記一4のように、被告人は、個人的に毎月多額の資金を必要としていたが、安全からの借入れが大口貸出規制の限度を超えていることから、安全から直接自分名義で貸付けを受けることが困難な状況であったため、安全からFへの貸付けを利用して資金を調達しようと考え、その旨B1に依頼した。B1は、右依頼を了承し、B2に指示して、平成五年七月一六日から平成六年六月二九日までの前後三五回、合計三五億八〇〇〇万円を安全からFに貸し付けた(判示第一の四、別表四番号1ないし35)。
被告人は、右各貸付けにより安全のF名義の預金口座に入金された金員を、直接払い戻したり、被告人名義の預金口座に振り替えるなどして、被告人個人、親族及び被告人関連会社の借入金の元利払い、知人等への貸付け及び株式等の損失補てん並びに被告人個人の交際費、ローンの支払い等に支出し、安全に対する債務の返済に充てられたのは約一一億円であった。
判示第一の四各貸付けのうち、別表四番号の五〇〇〇万円の貸付けについては、三〇〇〇万円が返済されたが二〇〇〇万円は未だに返済されず、その余の貸付けについては、返済期限が到来したが返済されないものについて借換えがなされるなどしたものの、ごく一部を除き大半が返済されていない。
(2) Fの返済能力、担保
(ア) 返済能力
前記(1)(ア)のように、Fは、平成三年以降、休眠状態で、全く事業を行っておらず、また、特段の資産を有していなかったから、返済能力がなかったことは明らかである。
被告人は、公判において、将来、Fで事業を行って返済するつもりであった旨述べているが、判示第一の四の各貸付けの時点から現在に至るまで、具体的な事業計画の策定等はなされていないのであって、単なる期待、願望にすぎず、やはり返済能力はなかったというほかない。
また、被告人個人において返済するとの点についても、前記一4の被告人個人の借入れの状況や資産に対する担保設定状況からすれば、判示第一の四の各貸付けの当時、被告人に十分な返済能力がなかったことは明らかである。
(イ) 担保
<1> K5の未発行会員権
被告人は、平成四年一一月ころ、担保として額面額四〇〇万円のK5(以下「K5」という)の預託金の支払われていない会員権(以下「未発行会員権」という)の証書五〇枚を差し入れた。
最近の実情として、ゴルフクラブ経営会社が、資金調達の手段として未発行会員権証書を名義書換承諾書等とともに金融業者に担保として差し入れて貸付けを受けることがあり、右証書等が担保権の実行によって第三者に移転されたときに、右第三者を通常の会員権の取得者と同等に取り扱う例があることもうかがわれる。したがって、未発行会員権を担保に供することは一般的には不可能でないと考えられる。
しかし、一般に、ゴルフ会員権は、その取引価格がゴルフクラブ経営会社の資産内容、経営状況、会員数、経済情勢等に影響されるものであり、また、株式のように市場が大きく買い手を見つけることが比較的容易な場合に比して、少数の者による売買取引であることから、買い手を見つけることはより困難であるとともに、その確実な価値を評価することは困難である。さらに、担保は、貸付先の経営が悪化し、倒産等の危機に瀕したときにこそ必要であるのに、ゴルフ会員権は、ゴルフクラブ経営会社の経営が悪化し、倒産等の危機に瀕しているような場合に、あえてそれを取得しようとする者を見つけ出すことは困難である。これらのことからすると、ゴルフ会員権は、もともと換価性が確実であるとはいい難く、担保としての価値は、さほど高くないといわざるを得ない。
この点、安全において、担保取得評価基準として、担保物件は市場性に富み、換価性が高く、かつ、取得後の管理が容易であるなど、担保としての適格性を備えていることが必要である旨が定められているとともに、担保が有価証券の場合、融資事務取扱要領六四条、理事長通達等で、市場性のある公社債又は株式を担保として貸出しを行うことを前提としており、ゴルフ会員権を担保とすることを予定していないとみられるのも、かかるゴルフ会員権の換価性の低さを反映したものとうかがわれる。
そして、K5の未発行会員権については、更に以下のような事情も存する。
関係証拠によれば、バブル経済の崩壊によりゴルフ会員権相場は多少の上昇下降を繰り返しながら全般的に右肩下がりの状態を続け、市場に流通するK5の会員権の多くが大幅に額面割れをしており、回復の兆しはみられなかった。この点、弁護人は、K5の額面額四〇〇万円の会員権価格は、平成五年九月ころで四三〇万円、平成六年二月ころには四八〇万円まで値を上げており、担保差し入れ時点で額面額をはるかに上回る価値があったものと推測される旨主張している。しかし、証人A16の公判供述等によっても、平成五年秋以降のK5の会員権の取引指標の動きは、一時的に上昇することはあるものの全般的な傾向としては下落傾向にあったことが明らかである。
加えて、後記第四の四3のような、K1の通常の会員権及び他の貸付けの際に担保とされた未発行会員権の数等からすると、K5の未発行会員権は、極めて担保価値が乏しく、判示第一の四の各貸付けの担保として不十分であったというべきである。
<2> B13所有の土地、建物
A15、A17及びA18の各検察官調書等によれば、平成六年六月三日以降の貸付け(別表四番号ないし)について、安全の貸出稟議書に、被告人が代表取締役であるB13所有の土地、建物が担保として記載されている。しかし、実際に右土地、建物に対する極度額三五億円の根抵当権設定の契約書が作成されたのは、本件各貸付けが実行された後の平成六年六月三〇日であった。
また、右土地、建物は、平成三年六月時点でB14株式会社により約四八億六九〇〇万円と査定されており、安全の融資事務取扱要領六六条において、「不動産担保に関しては(根)抵当権を設定する。(根)抵当権は原則として第一順位の(根)抵当権を設定できるものに限る」旨規定されていたところ、別表四番号31ないし35の貸付けの時点で、極度額合計四六億五〇〇〇万円の先順位の根抵当権が設定されていて担保余力が乏しかった。
さらに、右極度額三五億円の根抵当権は登記留保の状態であったばかりか、安全は、平成六年七月一一日からの東京都の検査の直前の七月八日になって右土地、建物の権利証を一時的に受領したものの、同月二一日に検査が終了した後の同年八月八日には権利証を返還しており、B13の取締役会議事録に担保提供の期限が設定日より一年限りとされていたなど、実効性のある担保とは到底いえない。
これらのことからすると、右三五億円の根抵当権が判示第一の四の各貸付けの担保として不十分であることは明らかである。
<3> 株式会社B15所有の土地
A15、K2、A19及びA6の各検察官調書等によれば、以下の事実が認められる。
すなわち、安全においては、平成五年八月上旬ころ、株式会社B15(以下「B15」という)所有の土地について一三億六〇〇〇万円の根抵当権設定契約をしているが、右土地は、ゴルフ場建設用地として総額一四億円あまりで取得したものであるところ、反対運動にあって平成二年五月ころ開発を断念し、その後利用の目処もないまま放置された状態になっており、右土地取得代金等を賄うためB16銀行から借り入れた二六億円を担保するため、順位一番の根抵当権が設定される約定となっていた。
そして、A15ら安全の融資担当者において、右一三億六〇〇〇万円の根抵当権設定契約に当たり、形だけの担保と考えて実地調査もしておらず、根拠もなく一応三〇億円ないし五〇億円と評価したものの、右土地には、Fの一三億六〇〇〇万円の根抵当権以外にも、被告人個人やイ・アイ・イケミカル株式会社等の被告人関連会社数社等に対する関係で同時期に担保設定されることとなっており、Fの分も含めた根抵当権の極度額は合計約一〇〇億円に近くなっていたのであって、担保余力がないことが一見して明らかであった。
また、設定された根抵当権は登記留保とされていたばかりか、平成五年八月二六日に一時権利証を預かったものの、その後返却しているなど、実効性のある担保とは到底いえない。
これらのことからすると、右一三億六〇〇〇万円の根抵当権が判示第一の四の各貸付けの担保として不十分であることは明らかである。
<4> B17の株式三万一〇〇〇株
被告人は、平成五年一〇月二二日、Fに対する貸付金の担保として右株式を提供したが、右株式の時価は一億五〇〇〇万円程度にすぎなかった。
<5> 以上によれば、提供された担保は、いずれも判示第一の四の各貸付けの担保としては不十分であったと認められる。
(3) 被告人、B1らの損害発生の認識及び図利目的
(ア) 損害発生の認識
Fが休眠状態となっていたことはB1も知っており、同社に返済能力がないことは、被告人はもちろんB1も認識しており、また、前記のように多額の債務があった被告人個人に返済能力がないことも当然認識していたと認められる。
また、B13の土地、建物については、被告人がその代表取締役であって、同社の経営状況、右土地、建物の取得原価、先順位担保権の内容等を知っていたから、担保余力が乏しいことを知っており、また、登記留保になっているなど、実効性のある担保でないことも十分認識していたとみられる。
さらに、B15の土地についても、K2の検察官調書(甲一四五)等によれば、被告人は、K2からゴルフ場開発を断念したB15の土地の処分を相談されるなどして、右土地が利用されていない価値の乏しいものであることを知っていた上、右土地にF以外にも被告人個人や被告人関連会社の根抵当権も設定していたから、担保余力が乏しいことを知っており、また、登記留保になっているなど、実効性のある担保でないことも十分認識していたものと認められる。
そして、B1も、これらの担保を形式的なものととらえており、実効性のある担保とは考えていなかったと認められる。
このように、被告人らは、Fや被告人個人に返済能力がなく、担保も不十分なものであることを十分認識しており、かかる状態において多額の貸付けを行えば、安全に貸倒れ等の損害が発生する危険が高いとの認識を有していたと認められる。
(イ) 図利目的
前記(2)のように、Fは、返済能力がなかった上、十分な担保もないにもかかわらず、判示第一の四の高額の各貸付けを受けられたのであるから、それがFの利益になったことは明らかである上、各貸付けの使途の大半が被告人の個人的に必要な資金を調達するためのものであって、被告人及びFの利益を図る目的があったことは明らかである。
(4) 小括
以上の事情からすれば、安全からFに対する貸付けに関し、B1らの任務違背の存在は明らかであり、被告人らにおいてその犯意、図利目的に欠けるところはないから、背任罪が成立し、被告人は背任の共同正犯としての責任を負うと認められる。
なお、弁護人は、従前、長銀が、安全を含めたイ・アイ・イグループを管理してリストラを実施しており、その円滑な実施のため、被告人に対して、個人的に必要な資金を安全から調達するよう求め、安全からFへの貸付けを容認していたから、被告人にはかかる貸付けについて背任の犯意がなく、判示第一の四の各貸付けについても犯意がなかった旨主張しているが、後記第二の五のように、そもそも長銀が安全を管理していた実態は認められず、単に長銀が安全からFへの貸付けについて知悉していたからといって、直ちにその貸付けが適法なものであるといえないことは明らかである上、判示第一の四の各貸付けは、いずれも、長銀がイ・アイ・イグループの支援から撤退した後に、長銀と無関係になされたものであって、弁護人の主張は理由がない。
第二 東京協和からC1、G1、H1及びI1に対する貸付けについて(判示第二関係)
一 本件に関する背景事情等
前記第一の一を引用する。
二 C1関係(判示第二の一)
1 弁護人の主張
被告人が東京協和の代表理事として判示の任務を有していたこと、東京協和からC1に対して判示の各貸付けが実行されたことに争いはないところ、弁護人は、東京協和からC1に対する本件各貸付けは、被告人が東京協和の利益を図るために行ったものであって、図利目的がなく、また、十分な返済能力及び担保があると考えていたのであり、被告人には損害発生の認識もなく、しかも任務違背の事実もないから、背任罪に該当するものではないとして、被告人は無罪である旨主張している。
2 主張に対する判断
(1) C1の開発状況、貸付状況等
A2(以下「A2」という)、J5及び被告人の各検察官調書等の関係証拠によれば、以下の事実が認められる。
C1の開発状況は、前記第一の二2(一)(1)のとおりであるところ、被告人は、毎月多額の資金を個人的に必要としており、被告人個人又はイ・アイ・イグループに属する会社が貸付けを受けることは困難な状況であったことから、C1への貸付けを利用して必要な資金の調達を図ろうと考え、東京協和の貸出金規程五六条において、貸出しは稟議決裁を確認の上、当該貸出しに必要な一切の書類及び担保を徴求し、その適否を精査した後実行する旨規定されているにもかかわらず、被告人において貸出先、貸出金額、期限、担保等を全て決定した上で、事前に稟議を経ることなく、いわゆるトップダウンの方式により、平成四年七月八日から平成五年一月二八日までの間、前後四回にわたり、C1に対して合計一二億五〇〇〇万円の貸付けを行った(判示第二の一、別表五番号1ないし4)。
被告人は、東京協和のC1名義の預金口座に入金された各貸付金を、被告人個人、親族及び被告人関連会社の借入金の元利払い、被告人関連会社への貸付け、知人等に対する貸付け及び株式の損失補てん並びに被告人個人の交際費やローンの支出に充てるなどした。東京協和に対する従前の債務の弁済に充てられたのは約一億五八〇〇万円であった。
判示第二の一の各貸付けは、平成五年の東京都の検査で第[3]分類(最終の回収又は価値について重大な懸念が存し、したがって損失の発生が見込まれるが、その損失額を確定し得ないもの)とされ、その後、平成六年七月七日、被告人の依頼で、C2株式会社(以下「C2」という。同年八月以降は「株式会社C7」と商号変更)が、その経営するC3の土地に二〇〇億円の根抵当権を設定(登記留保)して東京協和から新たに約一四二億円を借り入れ、これをC1等八社に転貸し、C1はそれを判示第二の一の合計一二億五〇〇〇万円の貸付けの返済に充てた。右約一四二億円の債権のうち、約二一億円は同年一〇月末に株式会社C7が他の金融機関から借り入れた資金で返済されたものの、残りの約一二一億円は、同年一二月に被告人が東京協和の理事長を辞任した後、都信協に移管された。
2 C1の返済能力、担保
(ア) C1に返済能力がないことは前記第一の二2(一)(2)で認定したとおりである。
(イ) 担保
A2の検察官調書等によれば、次の<1>、<2>の事実が認められる。
<1> C5の会員権
平成四年七月八日の貸付け(別表五番号1)に際して、ゴルフ場等の共通会員権証書である右会員権証書(額面額一四四〇万円)三〇枚が担保として差し入れられているが、東京協和においては、その貸出金規程二〇五条が、貸付けの担保として「有価証券については市場性のある株式及び公社債に限る」と定めていることからすると、そもそも右のような会員権を担保とすることを予定していないものとみられる上、差し入れられた右会員権証書は、未発行会員権でありかつ発行元である株式会社C4(以下「C4」という)が債権者の反対にあって平成三年一一月ころには既にその販売を断念していたような価値のないものであった。
<2> C6のゴルフ会員権
被告人は、平成四年七月中旬ころ、<1>の会員権の販売を断念したC4からその返還を求められたことから、B1に依頼してC6のゴルフ会員権証書(額面額五六〇万円)を印刷させ、同年九月中旬ころ、その未発行会員権証書一五〇枚を新たに担保として差し入れたが、右ゴルフクラブは当時完成の目途が立っておらず(前記第一の二2(一)(1)(ア)参照)、その換価処分は極めて困難であった。
以上によれば、右各担保の担保価値が判示第二の一の各貸付けの担保としていずれも不十分なものであったことは明らかである。
(3) 被告人の損害発生の認識及び図利目的
(ア) 損害発生の認識
前記(2)のとおり、C1に返済能力がなく、さらに、提供された担保がいずれも判示第二の一の各貸付けの担保としては不十分であったことは明らかである。
A2の検察官調書等によれば、被告人は、平成三年一一月末から一二月初めころには、C4がC5の会員権の発行を断念したことを知っていたなど、判示第二の一の各貸付けに際し、いずれも前記(2)の事情を十分認識していたのであるから、かかる状態において多額の貸付けを行えば、安全に貸倒れ等の損害が発生する危険が高いとの認識を有していたと認められる。
(イ) 図利目的
C1は、返済能力がなく、極めて不十分な担保しかないにもかかわらず、合計一二億五〇〇〇万円もの高額の貸付けを受けることができたのであるから、判示第二の一の貸付けがC1の利益になったことは明らかである。
また、右の各貸付けの使途が、被告人個人、親族及び被告人関連会社の借入金の元利払い、被告人関連会社への貸付け、知人等に対する貸付け及び株式の損失補てん並びに被告人個人の交際費やローンの支出に充てられ、その債務を減少させている一方、東京協和に還流したのは一二億五〇〇〇万円のうち約一億五八〇〇万円にすぎず、東京協和は新規に約一〇億九二〇〇万円もの不良債権を増加させていることなどからすると、判示第二の一の各貸付けは、主として被告人らのためになされたものであって、東京協和のためになされたとはいい難い。
したがって、本件においては、被告人及びC1の利益を図る目的があったと認められる。
(4) 小括
以上によれば、被告人は、東京協和の代表理事としての任務に違背し、返済能力のないC1に対して、十分な担保も徴求することなく、それゆえ東京協和に損害が発生する危険が高いことを認識しながら、被告人及びC1の利益を図るため、判示第二の一の貸付けを行ったことが認められ、被告人が背任罪の責任を負うことは明らかである。
三 G1関係(判示第二の二)
1 弁護人の主張
被告人が東京協和の代表理事として判示の任務を有していたこと、東京協和からG1に対して判示の貸付けが実行されたことに争いはないところ、弁護人は、東京協和からG1に対する本件貸付けは、被告人らが東京協和及び安全の利益を図るために行ったものであって、図利目的がなく、また、十分な返済能力及び担保があると考えていたのであり、被告人には損害発生の認識もなく、しかも任務違背の事実もないから、背任罪に該当するものではないとして、被告人は無罪である旨主張している。
2 主張に対する判断
(1) G1の設立経緯、貸付状況等
A2、A13、A14(以下「A14」という)、A12及び被告人の各検察官調書等によれば、以下の事実が認められる。
(ア) G1の設立経緯等
被告人の前任として東京協和の代表理事であったA12は、M株式会社(以下「M」という)をはじめとする企業グループ(以下「Mグループ」という)でパチンコ店やゲームセンター等の事業を行っており、東京協和から事業資金の貸付けを受けるとともに、平成二年一一月ころ、被告人の紹介で、安全からもM等名義で合計八億円余りの貸付けを受け、安全への担保として、立川駅近隣のゲームセンター(以下「立川店」という)に極度額一〇億円の第一順位の根抵当権を設定した。
その後、A12が株取引等に失敗し多額の負債を抱えるなどして、Mグループの経営は悪化し、平成四年夏には債務の返済能力を失って事実上の倒産状態になった。
パチンコのチェーン店経営の構想を抱いていた被告人は、同年八月にG2株式会社(以下「G2」という)及びその子会社のG3株式会社(以下「G3」という)を設立し、G3において、A12やMグループが東京協和に対して負っていた約二五億円の債務を引き受けるとともに、Mから三鷹駅前のパチンコ店(以下「三鷹店」という)及び西荻窪駅前のゲームセンターの店舗(以下「西荻店」という)を譲り受け、パチンコ店として新装開店させた。さらに、被告人は、同年一〇月、G3の子会社としてG1を設立し、Mから立川店を約五億九四〇〇万円余りで買い受け、店舗を新築してパチンコ店をG1で経営することを計画したが、その後、経営効率化のため、立川店もG3で経営することとした。
(イ) G1への貸付状況等
被告人は、平成四年一月ころから、友人が経営するペーパーカンパニーの株式会社G4(以下「G4」という)に名義を借りて東京協和から被告人個人の必要とする資金を調達していたところ、Mが安全から借りていた前記(ア)の八億円余りについて、B1から保証債務の履行を求められたことから、右Mの債務をG4に付け替えることとし、同年六月二九日、東京協和からG4に手形割引で六億円を貸し付け、同年七月二八日にも同様の方法で三億九〇〇〇万円を貸し付け、それらをMに転貸させて安全に対する債務を返済させ、これに伴い、東京協和は、G4に対する債権の担保として、安全が立川店の建物と借地権に設定していた前記(ア)の極度額一〇億円の根抵当権の譲渡を受けた。
被告人は、この他にも、同年七月三日、G4の名義を使って東京協和から九億五〇〇〇万円の手形貸付けを受けるなどしたことから、G4の東京協和に対する残債務は、同年一〇月一六日時点で合計二一億円となり、そのうち二〇億円は被告人がG4に名義を借りたものであった。そして、これらの債務の担保として町田市及び横須賀市所在の土地、建物を共同担保として極度額一億二〇〇〇万円の根抵当権が設定されていたが、右不動産には評価額を上回る先順位担保権が設定されていて担保余力がなく、実質的な担保は、時価合計四億七〇〇〇万円余りのB11等の株式と、立川店の建物と借地権に設定されていた右極度額一〇億円の根抵当権のみであった。
その後、被告人は、貸出先、貸出金額、期限、担保等を全て自ら決定した上で、事前に稟議を経ることなく、いわゆるトップダウンの方式により、同年一〇月一六日、東京協和からG1に対して一六億円の貸付けを行った(判示第二の二)。
被告人は、判示第二の二で貸し付けられた一六億円のうち、六億円を東京協和のG4名義の預金口座に入金させ、これを安全のG4名義の預金口座に入金させて、G4の安全に対する債務の返済等に使った。また、残りの一〇億円については、当初、被告人は、G4が前記の手形割引により東京協和に対して負担した九億九〇〇〇万円の手形債務の返済に当てるためと説明して部下に貸出しを指示しており、A2の判断で、東京協和でG1名義の通知預金が設定されたが、被告人は、手形の決済資金は別に用意するなどとして、順次払い戻しをし、最終的に、一〇億円のうち五億八〇〇〇万円がG4の東京協和に対する手形債務の決済資金に使われたものの、残りは被告人の知人に対する株式の損失補てん、被告人関連会社の出資金、運転資金及びノンバンクに対する利払資金並びにイ・アイ・イーインターの従業員への貸付け等に使用された。
その後、前記二2(1)のように、平成六年七月七日、被告人の依頼で、C2が、東京協和から一四二億円を借り入れ、これをG1等八社に転貸し、G1はそれを判示第二の二の一六億円の貸付けの返済に充てた。前記のように、右約一四二億円の債権のうち、約二一億円は返済されたものの、残りの約一二一億円は、都信協に移管され、平成七年九月時点でその利払いすらされておらず、その後も、G3において、後記のH1に対する債務の分と併せて、月々約一五〇〇万円を支払っているにとどまっている。
(2) G1の返済能力、担保
(ア) 返済能力
被告人は、当初、立川店の経営を目的としてG1を設立したものの、立川店もG3で経営することに改め、G1は、平成五年九月ころ以降、新築の店舗をG3に月一〇〇〇万円で賃貸するだけの会社になった。
G1の年間の営業損益は、平成五年八月期は約六一〇万円の損失、平成六年八月期も約三二七〇万円の利益しかなく、当期未処理損失は、平成五年八月期は約一億四二〇万円、平成六年八月期は約三〇〇〇万円であった。
加えて、判示第二の二の貸付けの時点で、立川店を新築することが前提とされていたのであるから、右貸付けに当たっては、近い将来負担することが予定されている負債についての返済も考慮した上で、返済の可否を判断すべきところ、G1は、平成五年五月ないし六月ころ、立川店の新築費用として、G5信用組合から新築中の立川店を担保に四億円の貸付けを受けることとなり、立川店の新築完了後、同年一〇月にその実行を受け、その後は、その弁済として毎月元本六七〇万円と年率七・五パーセントの利息の割賦弁済(平成六年三月の初回支払時元利計九二九万円)をしなければならなくなった。
また、G1は、立川店の新築後、平成六年一月に、登記費用が捻出できないため、東京協和から五〇〇万円の貸付けを受けてようやく右登記をしたような状況であった。
これらのことからすると、G1においてその営業利益から一六億円を完済することは極めて困難であったと認められる。
なお、弁護人はG3とG1が一体となって返済する予定であった旨主張するが、A20の検察官調書等によれば、G3自体も、平成四年九月時点で、東京協和及び全信組連から合計三二億円以上を借り入れていたほか、G7からも相当額を借り入れており、その後も東京協和からの借入れが増加していた上、G3、有限会社G6(以下「G6」という)等のグループ企業が平成六年の一年間に支払わなければならなかった借入金元本は、判示第二の二の一六億円の貸付けに関するものを除いて、合計約一五億八〇〇〇万円であったのに対し、その間の同グループの経常損失は約一億二七〇〇万円にのぼり、平成七年一月から七月までに返済すべき同様の借入金元本は合計約一五億円であるのに対し、同時期の経常利益は約一億一七〇〇万円にすぎず、右利益も借入利息をほとんど支払わなかったことによるものであった。これらのことからすると、G3等のグループ企業がG1に融通できる金員は乏しかった上、実際にも、同グループがG1の債務を返済した事実は認められず、グループ全体としても返済能力はなかったものと認められる。なお、G1は効率が悪いため現在閉鎖されており、前記(1)のように、G3において、H1の債務の分と併せて月々約一五〇〇万円を支払っているにとどまっている。
(イ) 担保
<1> 立川店の建物及び借地権
A2、A22の各検察官調書等によれば、以下の事実が認められる。
すなわち、立川店の借地権の価格は、平成四年四月時点での不動産鑑定士の鑑定評価で五億五〇〇〇万円であり、同年七月の東京協和の担保評価でも、旧建物及び借地権は、担保掛目を考慮しない状態で借地権が五億八〇〇〇万円で建物は無価値と評価されていた。
また、前記(1)(イ)のように、東京協和のG1に対する判示第二の二の一六億円の貸付けは、当初は、G4の東京協和に対する債務を返済するものとして被告人から指示がなされたものの、実際には、東京協和のG1名義の預金口座に一〇億円が留保されて、四億円余りが順次被告人の知人に対する株式の損失補てん等に使われたことから、東京協和は、G4に対する債権保全のため、同社を債務者とする前記(1)の極度額一〇億円の根抵当権を維持する必要があり、右根抵当権をG1を債務者とする根抵当権に変更しなかった。
ところが、G1がG5信用組合から前記(ア)の四億円を借り入れた際、右根抵当権の順位を譲渡し、G1を債務者とする根抵当権を設定する必要が生じたことから、被告人は、G4に対する新たな債権保全措置を講じないまま、右根抵当権をG1を債務者とするものに変更するよう指示した。しかし、その後、G1を債務者とする右根抵当権の設定登記がされたのは、判示第二の二の一六億円の貸付け実行後一年以上経過した後の平成六年一月になってからであり、しかも第二順位であった。
また、G5信用組合が、立川店の新築後まもない平成五年一〇月にG1に右四億円の貸付けを行った際の担保評価は、借地権が約三億五六〇〇万円、新築建物が約七七〇〇万円(なお、建築費と内装費の合計は約三億八〇〇〇万円)の合計約四億三〇〇〇万円にすぎなかったところ、G5信用組合が極度額四億円の第一順位の根抵当権を設定したため、担保余力はほとんどなかった。
これらのことからすると、立川店の建物及び借地権には建物の建て替えの前後を問わず担保余力が乏しく、貸付け実行後一年もの間根抵当権の債務者の変更や設定登記がなされていないなど、担保としての実効性も乏しく、担保として不十分であった。
<2> 三鷹店の建物及び借地権
A2の検察官調書等によれば、以下の事実が認められる。
すなわち、東京協和の平成四年二月当時の担保評価では、三鷹店の建物及び借地権の合計が約二四億三〇〇〇万円であった。しかし、設定されたのは第六順位の極度額六億円の根抵当権であり、先順位が極度額合計三四億一〇〇〇万円であり、担保余力はなかった。
その後、三鷹店の旧建物は取り壊され、平成六年九月ころ、建築費約八億円、内装費及び設備費等約四億円をかけて新築された。
弁護人は、この点を捉えて、三鷹店の新築建物と借地権の担保価値は、従前の評価額の約二四億三〇〇〇万円に建築費等の約一二億円を合計して三六億円以上あり、他方、先順位根抵当権のうち、第一順位G7の五億円の根抵当権については、西荻店も共同担保に入っており、先順位の債権額から差し引くべきである旨主張している。
しかし、A21の検察官調書によれば、G7は、平成七年七月、五億円の貸付けをするに際し、三鷹店の借地権及び新建物の担保価値を一二億四九〇〇万円と評価しているところ、バブル崩壊後の経済状況を考慮したとしても、三鷹店の建物が新築された平成五年一〇月ころに弁護人の主張するように合計三六億円もの担保価値があったとは到底考え難い。また、前記<1>のように、G5信用組合において、立川店の新築建物を評価するに当たり、建築費及び内装費をそのまま上乗せせず、約五分の一程度にしか評価していないことからも、建物新築による価値の増加はその費用を大幅に下回るものとみられる。
そうすると三鷹店の新築建物の建築費等約一二億円をそのまま上乗せして担保価値を三六億円と評価することは合理性がなく、先順位根抵当権の極度額合計三四億円余りを超える担保価値はなかったというべきである。
これらのことからすると、三鷹店の建物及び借地権には建物の建て替えの前後を問わず担保余力が乏しい上、平成五年一月一九日まで設定登記がなされていないなど、担保としての実効性も乏しく、担保として不十分であった。
<3> Nの会員権
ゴルフ会員権は、東京協和の貸出金規程において、担保とすることが予定されていなかった上、Nの会員権の平成四年一〇月当時の相場価格は約六〇〇ないし七〇〇万円で、四口分で合計二千数百万円程度にすぎず、一六億円の被担保債権の極く一部を担保するにすぎなかった。
<4> このようにいずれも担保として極めて不十分なものであった。
(3) 被告人の損害発生の認識及び図利目的
(ア) 損害発生の認識
被告人は、G3やG1等を設立して三鷹店や立川店を取得し、その実質的な経営や建物の建替えを行うなどしていたから、前記(2)(ア)のようにG1がその営業利益等によって判示第二の二の貸付けを返済する能力はない上、右貸付けの担保が極めて不十分なものであることを十分認識していたものと認められ、かかる状態において多額の貸付けを行えば、東京協和に貸倒れ等の損害が発生する危険が高いとの認識を有していたと認定できる。
(イ) 図利目的
G1は、返済能力がなく、極めて不十分な担保しかないにもかかわらず、一六億円もの高額の貸付けを受けることができたのであるから、判示第二の二の貸付けがG1の利益になったことは明らかである。
また、右貸付けの使途が被告人個人、親族及び被告人関連会社の借入金の元利払い、被告人関連会社への貸付け、知人等に対する貸付け及び株式の損失補てん並びに被告人個人の交際費やローンの支出に充てられ、それらの者の債務を減少させている一方、東京協和に還流したのは一六億円のうち約五億八〇〇〇万円余りにとどまり、また、五億円余りがG4を通じて株式会社G8及び株式会社G9の安全への返済に充てられていたとしても、安全は別機関であり、株式会社G8等は被告人が資金調達やプロジェクト開発等に利用していた会社であって、結局、東京協和は新規に約一〇億二〇〇〇万円もの不良債権を増加させていることなどからすると、判示第二の二の貸付けは、主として被告人らのためになされたものであって、東京協和のためになされたとはいい難い。
したがって、本件においては、被告人及びG1の利益を図る目的があったと認められる。
(4) 小括
以上によれば、被告人は、東京協和の代表理事としての任務に違背し、返済能力のないG1に対して、十分な担保も徴求することなく、それゆえ東京協和に損害が発生する危険が高いことを認識しながら、被告人及びG1の利益を図るため、判示第二の二の貸付けを行ったことが認められ、被告人が背任罪の責任を負うことは明らかである。
四 H1関係(判示第二の三)
1 弁護人の主張
被告人が東京協和の代表理事として判示の任務を有していたこと、東京協和からH1に対して判示の各貸付けが実行されたことに争いはないところ、弁護人は、東京協和からH1に対する貸付けは、被告人が東京協和の利益を図るために行ったものであって、図利目的がなく、また、H1には十分な返済能力があったのであり、被告人には、損害発生の認識もなく、しかも任務違背の事実もないから、同人の行為が背任罪に該当するものではないとして、被告人は無罪である旨主張している。
2 主張に対する判断
(1) H1の設立経緯、貸付状況等
A2、A13、A14及び被告人の検察官調書等の関係証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア) H1の設立経緯等
被告人は、パチンコ店の経営を拡大するため、H2株式会社が所有し、その子会社のG6が営業していた小平のパチンコ店(以下「小平店」という)を取得することにし、平成五年一月、右小平店の土地、建物の所有管理等を目的として、G2の子会社としてH1を設立した。同年二月ころ、G3においてH2から小平店の土地、建物及びG6への出資持分、その経営権を代金一二億七五〇〇万円で買い受け、その代金は、東京協和がG6に貸し付けた一三億五〇〇〇万円から支払い、G6は、その担保として小平店の土地、建物に右借入金額を極度額とする第一順位の根抵当権を設定した。その後、被告人は、同年四月、小平店の土地、建物の所有権等をG3からH1に移転し、以後、H1は同店舗をG6に月約一〇〇〇万円で賃貸することとなった。
(イ) H1への貸付状況等
被告人は、株式売買の資金やイ・アイ・イグループの借入返済等に充てるための資金の調達を図ろうと考え、被告人において貸出先、貸出金額、期限、担保等を全て決定した上で、事前に稟議を経ることなく、いわゆるトップダウンの方式により、平成五年四月三〇日から同年五月二五日までの間、前後五回にわたり、東京協和からH1に対して合計一三億四〇〇〇万円の貸付けを行った(判示第二の三、別表六番号1ないし5)。
H1に貸し付けられた合計一三億四〇〇〇万円は、同社の事業資金とされたわけではなく、四億八五〇〇万円がH3の株式取得代金として支払われたほか、イ・アイ・イグループに対する貸付け及び被告人個人の諸経費の支払いに充てられた。その結果、東京協和に対する債務の返済に充てられたのは約二億二九〇〇万円にとどまった。
その後、前記二2(1)のように、平成六年七月七日、被告人の依頼で、C2が、東京協和から一四二億円を借り入れ、これをH1等八社に転貸し、H1はそれを判示第二の三の合計一三億四〇〇〇万円の貸付けの返済に充てた。前記のように、右約一四二億円の債権のうち、約二一億円は返済されたものの、残りの約一二一億円については、都信協に移管され、平成七年九月時点でその利払いすらされておらず、その後も、G3において、G1の債務の分と併せて月々一五〇〇万円を支払っているにとどまっている。
(2) H1の返済能力、担保
(ア) H1の返済能力
H1は固有の事務所、従業員を持たず、小平店の土地、建物以外には特段の資産もなく、前記のように小平店の店舗をG6に月約一〇〇〇万円で賃貸するだけの会社であり、年間の営業損益は平成五年一二月期が約二四〇万円の損失、平成六年一二月期が約四四六〇万円の利益であり、当期未処理損失は平成五年一二月期が二二五六万円、平成六年一二月期が約一六九〇万円と、設立後、毎期損失を計上していた。
ところで、H1は、小平店を取得した際、H1が設立されたばかりで信用がなかったことから、その取得資金を前記(1)(ア)のようにG6が東京協和から借り入れをした資金から一三億一〇〇〇万円を転借していたため、その元利金をG6に支払わなければならなかった。このため、G6からの賃料収入も実質的にほぼ相殺される形となっていた。
これらのことからすると、H1において、判示第二の三の合計一三億四〇〇〇万円の貸付けを完済することは極めて困難であったと認められる。
弁護人は、H1とG6は合併することになっており、両者とG3が一体となって返済する予定であった旨主張するが、前記三2(2)(ア)のように、G3自体も、平成四年九月時点で、東京協和及び全信組連から合計三二億円以上の借入れをしていたほか、G7からも多額の借入れをしており、その後も東京協和からの借入れが増加していた上、G3及びG6等のグループ企業が一定の期間内に支払わなければならない債務の元本額とその間の営業利益との比較からしても、右グループ企業においてH1に融通できる金員は乏しかった上、実際にも、同グループがH1の債務を返済した事実は認められず、グループ全体としても返済能力はなかったものと認められる。なお、前記のように、G3において、G1の債務の分と併せて月々約一五〇〇万円を支払っているにとどまっている。
(イ) 担保
被告人は、判示第二の三の貸付けに際し、小平店の土地、建物を担保として差し入れ、右土地、建物に極度額一〇億円の第二順位の根抵当権を設定した。東京協和の平成五年四月九日当時の右土地、建物の担保評価は、一四、五億円程度と評価されていたが、既に東京協和からG6に対する貸付けに関し、極度額一三億五〇〇〇万円の先順位抵当権が設定されていたため、右土地、建物には担保余力は実質的になかった。
なお、弁護人は、東京協和における小平店の土地、建物の担保評価はH2からの一二億七五〇〇万円の取得価格(営業権譲渡代金を含む)をもとにしているところ、H2が売り急いだため、低めの売買価格となったもので、本来は一五ないし一六億円の価値があった旨主張している。しかし、弁護人の主張どおりであったとしても先順位根抵当権の分を差し引けば大幅な担保不足であったことには変わりない上、H4の検察官調書によれば、一五億円程度の値段で引き合いはあったものの、バブル崩壊により金融機関から不動産業界への貸付けがされにくくなっており、結局どの買い主も買収資金の調達ができなくて売買がまとまらず、当時の地価相場や小平店の売上高からみて一二億七五〇〇万円の売買価格は妥当な価格と判断したというのであるから、小平店の土地、建物を一五億円を超える金額で処分することは極めて困難であったというべきであり、弁護人の主張は当たらない。
(3) 被告人の損害発生の認識及び図利目的
(ア) 損害発生の認識
被告人は、G3やH1等を設立して小平店を取得し、その実質的な経営にも参画していたから、前記(2)のようにH1がその営業利益等によって判示第二の三の貸付けを返済する能力はない上、右貸付けの担保が極めて不十分なものであることを十分認識していたものと認められ、かかる状態において多額の貸付けを行えば、東京協和に貸倒れ等の損害が発生する危険が高いとの認識を有していたと認定できる。
(イ) 図利目的
H1は、返済能力がなく、極めて不十分な担保しかないにもかかわらず、一三億四〇〇〇万円もの高額の貸付けを受けることができたのであるから、判示第二の三の貸付けがH1の利益になったことは明らかである。
そして、右各貸付けの大半がいずれも被告人の関連先へ流出しその債務を減少させている一方、東京協和に還流しているのは一三億四〇〇〇万円のうち約二億二九〇〇万円にすぎず、東京協和は新規に約一一億一一〇〇万円もの不良債権を増加させていることなどからすれば、右貸付けは、主として被告人らのためになされたものであって、東京協和のためになされたとはいい難い。
したがって、本件においては、被告人及びH1の利益を図る目的があったと認められる。
(4) 小括
以上によれば、被告人は、東京協和の代表理事としての任務に違背し、返済能力のないH1に対して、十分な担保も徴求することなく、それゆえ東京協和に損害が発生する危険が高いことを認識しながら、被告人及びH1の利益を図るため、判示第二の三の貸付けを行ったことが認められ、被告人が背任罪の責任を負うことは明らかである。
五 株式会社I1関係(判示第二の四)
1 弁護人の主張
被告人が東京協和の代表理事として判示の任務を有していたこと、東京協和からI1に対して判示の各貸付けが実行されたことに争いがないところ、弁護人は、東京協和からI1に対する各貸付けは、被告人が東京協和の利益を図るために行ったものであって、図利目的がなく、また、十分な担保が提供されていたのであり、被告人には損害発生の認識もなく、しかも任務違背の事実もないから、被告人の行為が背任罪に該当するものではないとして、被告人は無罪である旨主張している。
2 主張に対する判断
(1) I1の経営状況、貸付状況等
A2、A13、A14及び被告人の検察官調書等によれば、以下の事実が認められる。
(ア) I1の経営状況等
I1は、昭和五九年二月一五日、前身となる会社がイ・アイ・イーインターの子会社として設立されたが、専用の事務所も、専属の従業員もなく、これといった事業は営んでおらず、被告人が被告人関連会社の必要資金や株式の買い付け資金を調達する窓口として利用していたにとどまり、平成二年一一月、被告人は、知人が経営し、イ・アイ・イグループの資金調達に協力するなどしていたI2株式会社(以下「I2」という)にI1の全株式を譲渡した。ただ、その後も被告人が実質的に支配していた。
東京協和からI1に対する貸付けは、東京都の平成元年の検査の時点で一四億三八〇〇万円に達し、その後、東京都から大口貸出しの解消の指導を受けたことから、被告人の指示で債務の付替えをし、平成三年の検査の時点においては、約八億四六〇〇万円まで減少した。被告人は、その後平成四年七月にも、同様に債務の付替えをし、七億五六〇〇万円の貸出残高を、I2等五社の債務とともに、被告人が設立したペーパーカンパニーである株式会社I3に付替えをした。
(イ) I1への貸付状況等
被告人は、前記(ア)のような債務の付替えによって東京協和のI1に対する貸出残高がゼロになっていたことから、I1を被告人個人あるいは被告人関連会社の資金調達に利用することとし、被告人において貸出先、貸出金額、期限、担保等を全て決定した上で、事前に稟議を経ることなく、いわゆるトップダウンの方式により、平成五年六月二九日から平成六年四月四日までの間、前後五回にわたり、東京協和からI1に対して合計二〇億九〇〇〇万円の貸付けを行った(判示第二の四、別表七番号1ないし5)。
被告人は、I1に貸し付けられた合計二〇億九〇〇〇万円のうち、一〇億八〇〇〇万円をI2が東京証券短資名義で東京協和から借り入れていた借入金の返済のためI2へ転貸し、約四億四〇〇〇万円をI4株式会社(以下「I4」という)及び日本エム・アイ・シー株式会社(以下「I5」という)の株式取得代金として支払ったほか、被告人個人や親族及び被告人関連会社の借入金の返済、知人等に対する貸付け並びに被告人個人の諸経費の支払いに充てた。その結果、東京協和に対する債務の返済に充てられたのは約一一億円にとどまった。
その後、前記二2(1)のように、平成六年七月七日、被告人の依頼で、C2が、東京協和から一四二億円を借り入れ、これをI1等八社に転貸し、I1はそれを判示第二の四の合計二〇億九〇〇〇万円の貸付けの返済に充てた。前記のように、右約一四二億円の債権のうち、約二一億円は返済されたものの、残りの約一二一億円については、都信協に移管され、平成七年九月時点でその利払いすらされていない。
(2) I1の返済能力、担保
A2の検察官調書等によれば、以下の事実が認められる。
(ア) I1の返済能力
I1は、イ・アイ・イグループが長銀等の支援のもとリストラを行うようになってからは資金調達ができず、新たな株式投資もできなくなったため、事実上休眠状態になった。I1は、事業活動をせず、固有の事務所、従業員を持たず、所有する土地、建物は担保に差し入れられており、平成四年以降はいずれも毎期損失を計上し、当期未処理損失は平成六年一一月期が約八〇億八〇〇〇万円に達しており、極度の債務超過の状態であった。また、I1は、別表七番号3の貸付けの時点で、従前の貸付けの利払いも延滞していた。
これらのことからすると、I1において判示第二の四の合計二〇億九〇〇〇万円を完済することは極めて困難であったと認められる。
(イ) 担保
<1> イ・アイ・イリゾートへの求償権
被告人は、平成五年六月二九日の一二億円の貸付け(別表七番号1)を行う際、東京協和の専務理事であったA2らに対し、前記第一の一3の代位弁済により被告人がイ・アイ・イリゾートに対して取得した求償権を担保にするように指示したが、結局、担保設定されないまま貸付けが行われた。
しかし、当時、イ・アイ・イグループが利払いをも止めなければならないような状態であったことからすると、イ・アイ・イリゾートに対する求償権を行使しても、実際に支払いを受けることは極めて困難であり、担保としてほとんど無価値とみるのが相当である。
<2> 株式
被告人は、平成五年一〇月二九日、別表七番号2の貸付けの際に、I4の未公開株式五〇万株(時価合計約一億五〇〇〇万円)を根担保として差し入れた。
その後、平成六年三月一五日、別表七番号3の貸付けの際に、東証二部上場のB11の株式二三万四〇〇〇株、同じく東証二部上場のI7株式会社(以下「I7」という)の株式五万株及び店頭登録株のI5の株式八万四〇〇〇株(時価合計約一億六〇〇〇万円)を根担保として差し入れた。
そして、同月二四日ころ、別表七番号4の貸付けに伴い、I5の株式一五万株及びI7の株式二八万七〇〇〇株(時価合計約二億九〇〇〇万円)を根担保として差し入れた。
さらに、同年四月四日、別表七番号5の貸付けの際に、B11の株式一万三〇〇〇株及びI7の株式九〇〇〇株(時価合計約五〇〇万円)、未公開株のB6の株式二〇〇株及びI8のゴルフ会員権証書二枚(額面額一〇〇〇万円及び七四〇万円のもので、時価は合計で約一〇〇〇万円程度)を根担保として差し入れた。
しかし、右の根担保に提供された株式及び会員権は、時価合計でも約六億一五〇〇万円にすぎず、そもそも被担保債権の一部しか保全し得ない上、B11、I7、B6及びI8はいずれもイ・アイ・イグループに属しており、同グループの経営危機が表面化した平成二年一一月以降、B11及びI7の株価は下落し続けており、B11及びB6については、平成四年七月に金融機関に対する利払いを停止し、業績の回復の見込みもないため、その株式の価値も極めて乏しいものである。
そして、東京協和の担保規程によれば、二部上場株式の担保掛け目は七割、店頭登録株のそれは四割とされており、右の各株式の評価額は、合計で時価の半額程度のものとなり、担保価値は更に低くなる。
<3> これらのことからすると、右各担保は、判示第二の四の貸付けの担保として、いずれも担保価値が不十分なものであった。
(3) 被告人の損害発生の認識及び図利目的
(ア) 損害発生の認識
A2の検察官調書によれば、被告人は、A2から、求償権等は担保にならないと指摘され、担保については後で考える旨答えており、求償権が担保にならないことは知悉していた。また、被告人は、A2から、一億五〇〇〇万円で取得するI4の株式では担保不足である旨指摘され、その際、I4が株式を公開すれば値上がりは三倍どころではないなどと答えているが、株式公開の準備が進められているというにとどまり、近い将来確実に株式公開がなされるという具体的な予定ではなく、値上がり幅についてもそのときの市場の状況によって大きく異なるから、単なる期待、願望の域を出ないものであることは明らかであり、将来の不確定な見込みに基づいて担保評価することができないことは被告人も十分認識していたと認められる。また、B11やI7の株価が更に下落し続けるおそれがあることは、イ・アイ・イグループを総括していた被告人には十分予想できることであったと認められる。
そうすると、被告人は、判示第二の四の各貸付けに際し、I1に返済能力がない上、担保も不十分なものにすぎないことを十分認識していたのであるから、かかる状態において多額の貸付けを行えば、東京協和に貸倒れ等の損害が発生する危険が高いとの認識を有していたと認められる。
(イ) 図利目的
I1は、返済能力がなく、極めて不十分な担保しかないにもかかわらず、二〇億九〇〇〇万円もの高額の貸付けを受けることができたのであるから、判示第二の四の貸付けがI1の利益になったことは明らかである。
そして、右各貸付けがいずれも被告人個人や被告人関連会社へ流出してその債務を減少させている一方、東京協和に還流しているのは二〇億九〇〇〇万円のうち約一一億円にとどまり、東京協和は新たに約九億九〇〇〇万円もの不良債権を増加させることになったのであるから、右貸付けによって最も利益を受けたのは被告人個人や被告人関連会社であって、東京協和の利益を図る目的が主たるものであったとはいえない。
したがって、本件においては、被告人及びI1の利益を図る目的があったと認められる。
(4) 小括
以上によれば、被告人は、東京協和の代表理事としての任務に違背し、返済能力のないI1に対して、十分な担保も徴求することなく、それゆえ東京協和に損害が発生する危険が高いことを認識しながら、被告人及びI1の利益を図るため、判示第二の四の貸付けを行ったことが認められ、被告人が背任罪の責任を負うことは明らかである。
六 東京協和と長銀及び東京都との関係について
1 長銀との関係について
弁護人は、東京協和と安全は長銀の管理下におかれ、長銀撤退前になされた貸付けはいずれも長銀が了解していたものであるから、起訴にかかる各貸付けのうち右撤退前のものについて任務違背はなかったし、右管理下において被告人には任務違背の認識はなかったと主張する。
確かに、関係証拠によれば、弁護人が指摘するように、長銀は、被告人の要請に応えて、平成二年七月に長銀系列下の会社から合計一五億円を出資し、同年一〇月にA8を東京協和の顧問の肩書で出向させ、さらに、イ・アイ・イグループ再建のため、右A8を、イ・アイ・イーインター関連事業第二部長に就任させ、同人をして東京協和及び安全の資金繰りをチェックさせた事実が認められる。
しかしながら、他方で、関係証拠によれば、イ・アイ・イーインターにはA1をはじめとして二〇名以上の長銀関係者が常駐して同社の業務の遂行に当たっていた一方で、東京協和及び安全には長銀の関係者は常駐していなかった。右のA8による両信用組合に対するチェックの方法は、主に、毎夕、貸出先別の貸出残高等の当日の入出金状況を電話等で事後的に確認していたにすぎず、個々の貸出案件の当否を事前に審査することはなく、また、そもそも、貸出しに関する稟議書には長銀関係者の押印欄がなかったように、事前に各貸付けをチェックするシステムはなかったことが認められる。
長銀と二信組の関係はこの程度のものであって、長銀において二信組を管理する任務を負うものではなく、長銀が、判示第一、第二の各貸付けについて、その貸出しを事前に了解していたとまでは認められない。弁護人の主張は前提を欠いているというべきである。
2 東京都との関係について
(一) 東京都の監督状況
協同組合による金融事業に関する法律及び同法律が準用する銀行法により、東京都知事が都下の信用組合を指導監督することとされており、そのため、東京都には労働経済局商工計画部の下に信用組合課を置いて信用組合の指導監督の事務を所掌させていた。
信用組合課では、年一回各信用組合に検査員を派遣して業務財産状況の検査を実施し、検査の結果明らかになった各組合の問題点を示達書にまとめて提示し、各組合に対してその示達書に示された問題点についての対応を回答書の形で都知事に提出させていた。
(二) 東京都の監督と被告人の責任について
弁護人は、東京都は検査を通じて東京協和と安全の貸付けについてその内容を把握していたはずであり、長銀撤退後は、長銀と同様に業務内容を掌握し、監督していたのであるから、このような東京都の監督の下で任務に違背するのは不可能であるし、被告人には任務違背の認識はなかった旨主張する。
しかし、東京都には東京協和や安全から全ての情報が入っていたわけではない上、事後的に各貸付けの内容を知り得るにすぎなかったのであって、事前に右貸付けの内容を了知することはなかった。また、関係者の供述その他関係証拠によれば、被告人が検査対策のため無価値な担保を設定するなど各種工作を行っていた事実が認められ、被告人が東京都に対し貸付けの実行を隠蔽しようとしていた事実もうかがわれる。
このように、東京都の監督はあくまで後見的なものであり、東京都の監督により被告人の責任が影響を受けるとは到底認め難い。
第三 J3に対する貸付けについて(判示第三関係)
一 弁護人の主張
本件当時、被告人が東京協和の代表理事として判示の任務を有していたこと、被告人の決定に基づき、同信用組合がJ3に対し判示の各貸付けを行ったことは争いがないところ、弁護人は、以下の点から被告人は無罪である旨主張しており、被告人も、公判でこれに沿う供述をしている。
1 J3に対する本件各貸付けは、J3がその貸付けの際に営業権を取得したゴルフ場J1(以下「J1」という)の営業収益約一億円、年会費収入約一億二〇〇〇万円、名義書換料収入約一億五〇〇〇万円の合計三億七〇〇〇万円の年間収益によって返済が可能であった。
2 J3に対する本件各貸付けの担保として、J3がJ1の土地、建物に有している極度額一〇億円の根抵当権について、J3と東京協和の間に停止条件付根抵当権譲渡契約が締結されており、加えて、J1の額面額六八〇万円のゴルフ会員権証書二〇〇枚も担保として差し入れられていたから、十分な担保があった。
また、J1の営業権は約五二億円の価値を有するものであり、東京協和がその支配下にあるJ3を使って右営業権の譲渡を受けたことは、同信用組合にとって極めて有利な経済取引であり、債権保全措置として十分なものであった。
3 被告人は、J3には各貸付けの返済能力があり、十分な担保もあると考えていたから、損害発生の認識がなかった。
また、J3に対する本件各貸付けは、東京協和の回収を確実にしつつ、株式会社J2(以下「J2」という)を中核とする企業グループ(以下「J2グループ」という)の再建を図り、同グループに対する東京協和の貸倒れを防止し、同信用組合の利益を図るためになされたもので、被告人に図利目的はなかった。
二 J3の設立経緯、貸付状況等
J4、J5、A2及び被告人の各検察官調書等の関係証拠によれば、以下の事実が認められる。
1 J4は、J2の代表取締役であり、J2グループの業務を統括していたところ、平成四年八月ころ、J2グループが、K7株式会社においてニューヨークで開発していた○○ゴルフクラブを買収する際、東京協和から資金援助を受けたことなどから、被告人と業務上の協力関係をもつようになり、同信用組合からJ2グループへの資金援助を受ける一方、同信用組合に大口預金者を紹介するなどして、被告人と相互の依存関係を深めていった。
J5は、前記のように、J7等の代表取締役であり、ゴルフ場開発等の事業を行っていたが、平成三年末ころ、J7の子会社が行っていたゴルフ場開発事業を被告人らが引き継いだことなどから、被告人と親交をもつようになり、また、平成五年一月ころ、被告人らと共同でゴルフ場開発を進めていた際に、被告人の勧めによって、J4を開発事業会社の代表者に据えたことなどから、同人と知り合った。
2 J4は、J1を平成三年一一月に正式オープンさせたが、その経営会社であるJ2は、財務状況が芳しくなく、平成二年三月期以後連続して経常損失を計上し、当期未処理損失も平成四年三月期が約一四億五〇〇〇万円、平成五年三月期が約一七億九〇〇〇万円と悪化し、その借入金残高は、平成三年末に約一二六億円、平成四年末に約一五三億円に達していた。一方、J2グループ全体の経営状態も思わしくなく、平成五年になってからは、開発中のゴルフ場等のゴルフ会員権が売れなくなったことなどから、同年夏ころには、資金繰りが急激に悪化し、いわゆる街金融等からの高利の借金が多額になるに至った。
そして、J2の借入金残高は、本件直前の平成五年一一月末には街金融等だけでも約三五億三〇〇〇万円余りとなり、総額では約一八〇億七〇〇〇万円にも達し、倒産の危機に陥っていた。なお、主要取引金融機関である東京協和に対する借入金残高は、平成五年一一月末の時点で、J2が一四億二八五〇万円、J2グループ全体では合計七一億七八五〇万円にのぼっていた。
3 被告人は、平成五年八月ころ以降、J4から、J2の倒産を回避するために、高利の借入金の返済に必要な資金として、約三〇億円の貸付方を再三頼まれたものの、当時、J2が、多額の借金を重ねて倒産の危機に瀕しており、東京協和からの貸付金の返済も滞っていたことから、右依頼を断っていた。
その後、被告人は、J1自体は利益を上げていたことから、「J2は、J1について、土地、建物は従来どおり所有するが、営業権を新たに設立する会社(後のJ3)に譲渡する。東京協和は、新会社に二〇億円を貸し付け、新会社は、これをJ1の営業権譲受代金としてJ2に支払う」との融資スキーム(以下「J3に対する融資スキーム」という)を考え、平成五年一〇月ころ、J4にその内容を説明した。
J4は、高利の借入金の返済に必要な三〇億円の貸付方を重ねて懇願したが、被告人は、三〇億円もの貸付けは無理であるとして拒絶した。ここに至り、J4は、J1の営業権を一時手放して東京協和から新会社経由で二〇億円の貸付けを受けるほかはないと考え、右J3に対する融資スキームを了承した。
4 被告人は、前記第一の一3のように、平成五年一〇月当時、長銀の支援が打ち切られた中でイ・アイ・イグループの再建をはかっている状況にあったことから、被告人自身が表面に出ずに、J5に新会社の経営を任せることとし、同月中旬ころ、同人にその話を持ちかけた。その後、J4から当時のJ1の収支実績表と収支予想表を入手し、これらをJ5にも見せた。
J5は、右新会社の経営に当たることを了承し、同年一一月二二日、J7から資本金として二〇〇〇万円を拠出して、J3を設立し、代表取締役に就任した。
この間、被告人及びJ4は、J1関係の収入の分配につき協議するとともに、J1の営業権譲渡契約の内容につき、「J3は、J2に対し、J1の営業権及び営業用動産等の資産の対価として一〇億円を支払い、J1敷地及びクラブハウスの賃貸借契約の保証金として一〇億円を預託するほか、更に協議の上一〇億円を貸し付ける」ことなどを決めて、契約書案を作成した。J5は、同月下旬ころ、右契約書案を見てその内容を把握した。
5 ところで、新設されたJ3の資産は、J1の営業権及び営業用動産等のみというのが実態であった。また、J1の敷地のうち約六割が借地であり、残りの約四割がJ2の所有地(以下「J2所有地」という)であったところ、J2所有地の大部分(約九七パーセント)及びクラブハウス等の建物(以下「J2建物」という)には、J8株式会社(以下「J8」という)を抵当権者とする極度額六〇億円の第一順位抵当権、J9株式会社(以下「J9」という)を根抵当権者とする極度額一〇億円の第二順位根抵当権(J2所有地の約二パーセント余りについては第一順位)及び株式会社J10を抵当権者とする極度額三億円の第三順位抵当権が設定されていた。
そこで、被告人は、「J3に対する融資スキームに基づく貸付金の一部をJ9に回して、J2のJ9及び株式会社J10に対する各債務の弁済に充てる。J9が、右根抵当権をJ3に譲渡する。J3とJ2との間で停止条件付根抵当権譲渡契約を締結し、J3の東京協和に対する債務不履行を停止条件として、J3がこれらの根抵当権(極度額一〇億円の共同担保。以下「J3根抵当権」という)及びJ2所有地、建物の賃借権を東京協和に譲渡する」という計画を考え、J4及びJ5に対し、前記契約案に付随して右計画の概略を説明し、両名の了解を得た。
なお、被告人は、同年一二月一日ころ、J4から、J2の借金返済予定日を記載した一覧表を入手し、これをJ5にも見せたが、右一覧表には、同社が、暴力団関係も含め多数の金融業者から巨額の借金をしており、連日の如く多額の借金を返済しなければならない状況が記載されていた。
6 被告人は、平成五年一二月初めころ、J3に対する貸付けを当初予定した二〇億円から一〇億円に変更し、残りの一〇億円分については別途検討することとした。そして、被告人は、同月二日ころ、J4及びJ5に対し、今回の貸付けについては一〇億円にとどめる旨連絡した上、部下に指示して東京協和からJ3に対する一〇億円の貸付けを実行させた(別表八の1番号1、返済期限平成八年一二月一〇日、利率年七パーセント。以下、本件の各貸付けにつき、順に「J3に対する第一ないし第四貸付け」という)。
被告人は、J4及びJ5に指示して、平成五年一二月二日ころ、前記5の根抵当権譲渡契約を締結させた。さらに、被告人は、同日ころ、J4から、J1の未発行会員権証書(額面額六八〇万円)二〇〇枚を、同信用組合のJ3に対する貸付金債権の担保として、同信用組合に差し入れさせた。
J3は、同日ころ、J2との間で、同社からJ1の営業権を譲り受ける旨の契約を結び、その後順次、右貸付金一〇億円の大半をJ1の営業権譲渡代金名目で同社に支払い、同社はその金員を高利の借入金の返済等に充てた。
7 被告人は、J4から要請された二〇億円の資金援助のうち、残りの一〇億円分をJ3に対し重ねて貸し付けた場合、東京都から厳しい指摘を受ける恐れがあったことから、東京協和からJ7に一〇億円を貸し付け、同社がJ3に転貸し、更にJ3がその資金をJ2に回す計画を考え、平成五年一二月中旬ころ、J5に右計画を説明してその了承を得た。そして、右計画に従って、東京協和からJ7に対して、同月一四日に六億円、同月一七日に四億円がそれぞれ貸し付けられ(以下「J7経由貸付け」という)、その大半が最終的にJ2にわたった。
8 平成六年一月中旬ころ、J5は、J2から、それまで同社が支払ってきたJ1敷地の借地部分の賃借料を、J3が負担すべきであるとして、四〇〇〇万円の支払を請求され、被告人に相談したところ、J4との間ではJ3が支払うよう話がついていると説明され、不本意ながらこれを了承したものの、当時J3にはこれを支払うだけの十分な資金的余裕がなかったため、被告人に対し、東京協和からの貸付けを依頼した。被告人は、これを承諾し、追加担保を徴求することなく、部下に貸付手続をとらせ、同月二八日ころ、同信用組合からJ3に対し四〇〇〇万円を貸し付け(別表八の2番号1、返済期限同年七月二九日、利率年七パーセント)、同社はこれをJ2に支払った。
9 また、J3は、平成六年一月初めころ、J2から、J1の営業権譲渡契約書に記載されていない備品等があるとして、その代金一億五〇〇〇万円余りの支払を請求された。J5は、右の点はJ1の営業権譲渡の対象であると考え、J2側と交渉を重ねたがまとまらず、被告人に相談したところ、被告人から、J4との間で二〇〇〇万円を支払うことで話がついたと聞かされ、これを了承した上、被告人に対し、東京協和からの貸付けを依頼した。被告人は、これを承諾し、追加担保を徴求することなく、部下に貸付手続をとらせ、同年二月一日ころ、同信用組合からJ3に対し二〇〇〇万円を貸し付け(別表八の2番号2、返済期限同年七月二九日、利率年七パーセント)、同社はこれをJ2に支払った。
10 J2は、前記6、7のとおり、東京協和からJ3への貸付けを利用して約二〇億円の資金援助を受け、高利の借入金の返済に充てたものの、これだけでは高利の借入金を完済できず、また、J1の営業権を手放したことにより収入も減少したことから、平成六年三月に入ると再び資金繰りに窮するに至った。このため、J4は、同月初めころから再三にわたり被告人に右窮状を訴え、更に一億円の資金援助を申し入れた。
これを受けて、被告人は、東京協和からJ3に一億円を貸し付け、同社がJ2に転貸するという資金援助を行うことにし、同月九日ころ、J4及びJ5を自己の事務所に呼び寄せた上、J5に対し、右方策への協力を依頼した。J5は、これを了承するとともに、当時J7関係等で支払う必要のあった保険料約八六〇〇万円等を上乗せして一億円を借り入れようと考え、被告人に対し、右事情を説明して一億円の貸付方を依頼した。被告人はこれを承諾し、J4も、J5との相乗りに異議を述べなかった。そして、被告人は、部下に貸付手続をとらせ、同月一四日ころ、同信用組合からJ3に対し二億円を貸し付けた(別表八の1番号2、返済期限平成七年三月一四日、利率年七パーセント)。J3は二億円から同信用組合に対する利息等を差し引いた金額の半額を保険会社への保険料の支払い等に充て、その余をJ2に転貸し、同社はこれを金融業者等への返済に充てた。被告人は、右貸付けに際し、J4からJ1の未発行会員権証書(額面額四〇〇万円)三五枚を担保として差し入れさせた。
11 その後、J4は、被告人の雇われ社長と思っていたJ5がJ3の実権を握ろうとしていると危惧を抱き、J1の営業権を取り戻そうと考え、被告人に相談したところ、被告人は、平成六年六月ころ、J2グループがJ3を子会社にしてJ1の営業権を取り戻す案を考え、そのため、東京協和からJ2グループの株式会社J11に融資して、その資金を前記J7経由貸付けの返済に充てるとともに、J5の保有するJ3の株式の買取代金に充てて、J3を買収するという方策を立てた。その後、J4は、兄の担保協力を得て、右の融資を受け、同年九月ころ、J3の代表取締役に就任し、J1の営業権を取り戻した。
12 J3は、第一期(平成六年一〇月期)から、営業損失約九九八三万円、経常損失約二億二八一七万円という大幅な赤字を計上しており、資産合計約一三億五〇八九万円に対し、負債合計約一五億五九〇七万円(うち一二億六〇〇〇万円が東京協和からの本件借入金)と、債務超過の状態にあった。そして、結局、J3は、東京協和からの本件各付けの合計一二億六〇〇〇万円の貸付金を返済期限までに全く返済することができず、東京協和の右債権は、東京協和の解散に伴い、東京共同銀行に移管された。
なお、J2は、平成七年三月二二日及び同月三〇日に手形不渡りを発生させたことにより、同年四月四日銀行取引停止処分を受け、平成八年九月一八日破産宣告を受けた。J4は、右手形不渡りが発生したころ、J2の債権者であるJ12株式会社に対し、J3根抵当権を譲渡している。
三 J3の返済能力
1 弁護人は、J3には年間約三億七〇〇〇万円の収益が見込めたから、返済能力があった旨主張している。
(一) 弁護人の主張の前提となる収益のうち、営業収益のほか年会費収入約一億二〇〇〇万円については、証拠上、J3の収入として認められる。しかしながら、以下のとおり、名義書換料収入は、関係者間で当初よりJ2の収入とされていたと認められる。
(1) 被告人及びJ4は、検察官調書において、J1の営業による収益、年会費収入はJ3に帰属し、名義書換料収入をJ2に分配することを合意していた旨明確に供述している。右各供述は、名義書換料収入がJ1の営業権が譲渡された当初からJ3に全く入金されていない上、同社の損益計算書に名義書換料収入の勘定科目すら設定されておらず、また、J3において異論をとなえた形跡もなく、他方で、J2への入金が継続され、同社が従前どおり会員台帳を管理し、名義書換手続等の事務手続を行っていたことなど客観的事実に符合している。また、被告人自身、公判(第七一回)で、名義書換料収入は常識的には資産会社であるJ2に帰属すべきだと思う旨供述していることなどからすると、被告人及びJ4の右検察官調書の各供述は、十分信用できる。
(2) 他方、被告人は、公判において、名義書換料収入をJ3の収入とする旨J4との間で合意していたと供述し、J4及びJ5も、公判においてこれに沿う供述をしているが、前記の客観的事実等に反するものであって、到底信用し難い。特に、被告人は、捜査段階の供述を変更した理由につき、「従前は勘違いして供述していた」旨あいまいな供述をしているところ、J3に対する融資スキームを考案した者として重要な収入分配の点について勘違いするとは考え難い。また、被告人は、公判で「名義書換料は、J3に入金されており、J3の損益計算書に載るのが当然と思う」旨供述していたところ(第三六回)、実際にはJ2に入金され、その損益計算書に記載されている旨指摘されるや「名義書換料は、いったんJ2に入金された後、J3に振り替えられることになっていた」旨、合理的な理由なく供述を変更している。このように、名義書換料収入の帰属に関する被告人の公判供述は、場当たり的というほかなく、その意味でも信用できない。
(3) なお、弁護人は、J5が、被告人からJ1の収支実績表を見せられながら収入について説明を受けた際、その表に「年会費一・二オク、名義変更料一・五オク」などと記載した旨主張しているが、右記載は、J5がJ3の年会費収入と名義書換料収入について説明を受けたという以上に、それらがいずれもJ3に帰属することまで意味するものではない。また、弁護人は、J5の公判供述(第八三回)をもとに、営業権譲渡後、名義書換を取り扱うためのコンピューターをJ2からJ3に移す段取りをしていたなどとも主張しているが、J5は、自らの公判で、名義書換料収入はJ3に帰属することになっていた旨供述するとともに、J2において名義書換手続にコンピューターを使っていたとも供述していたのであるから、その移転の段取りがされていた旨その時点で供述していてしかるべきであるのに、当公判廷において初めてその旨供述するに至ったのであり、右公判供述は信用性に疑問を抱かざるを得ない。
(4) これらのことからすると、名義書換料収入はJ3に帰属しておらず、J2に帰属していたものと認められる。
(二) そして、営業収益の点に関しては、平成五年ころに作成されたJ1の平成六年三月期の収支予想表によれば、営業利益は六四二〇万円余りで、前年度の実績八三六〇万円余りを下回るものであり、被告人自身も、公判(第三六回)で、平成六年ころから一般的にゴルフ場の経営が下降傾向になっていたとか、いずれ回復するとは思っていたが、J1の収益が悪化していることは把握していた旨自認しており、このように、営業利益が減少傾向にあったことも加味すると、J3の年間の営業利益は、七〇〇〇万円以上は見込めない状況にあったとみるのが相当である(実際のJ3の状況は前記二12のとおり赤字であった)。
(三) そうすると、本件当時のJ3の年間収益は、年会費収入と営業収益を併せて多くとも二億円程度にとどまるものと認められる。
2 ところで、東京協和としては、J3に対する貸付けに当たって、その返済能力を判断するには、同社が同時期に負担することが確実な高額債務についても、当然考慮に入れるべきところ、J3は、同社に対する第一貸付けにより一〇億円の貸付けを受けたほか、ほぼ同じころ、一〇億円のJ7経由貸付けを受けており、約三年後に合計二〇億円を返済すべき債務を負担している。もっとも、東京協和が、J3に直接返済を求めることができるのは、J3に対する第一貸付けのみであるが、後者の一〇億円の負担も同社の返済能力を減ずるものというべきである。
そうすると、J3が今後三年間に見込める収益は、前記のように多くても合計約六億円程度にとどまるのであって、この収益で元本のほかに、それに対する年利七パーセントの支払いや法人税の納付等も並行して行わなければならないことを考慮すると、二〇億円の債務はもちろん、J3に対する第一貸付けの一〇億円を返済することは困難であったというべきである。
3 なお、弁護人は、J3に対する第一貸付けは、当初から、三年の返済期限が到来した時点で、契約を切り替えることになっていた旨主張しているが、J5は、公判(第八三回)で、本件各貸付けについて、「一〇年くらいあれば十分返済できると思っていた。そのことについて被告人と詳しく話したことはない」旨供述しており、被告人とJ5の間で、三年の返済期限が到来した時点で契約を切り替えることにつき、書面はおろか口頭でも、返済期限までに返済できなければ何年延長するといった合意をしていないことは明らかであって、弁護人の右主張は前提を欠いている。
4 また、弁護人は、J1の会員権販売による収益も返済原資となる旨主張しているが、そもそも入会金収入はJ3には帰属していない。そして、バブル崩壊後、経済の低迷状態にあった平成五年から平成六年にかけては、ゴルフ会員権の販売は一般的に困難となっていたところ、J3の場合、一八ホールのゴルフ場の適正会員数一八〇〇名を大幅に超える約二六〇〇名の会員を有していたので、その会員権の販売がより困難であったことは明白である。したがって、右の収益を返済原資として期待することはできなかったというべきである。
5 以上によれば、J3には、同社に対する第一貸付けを返済する能力はなく、その後なされた同社に対する第二ないし第四貸付けについては、それにもまして返済能力がなかったと認められる。
なお、J3に対する本件各貸付けは、J7への一億円を除いて、結局のところ、J2の第三者への債務返済や費用等として使われているが、J3への融資スキームが、多額の負債を抱えてその返済に窮していたJ2の負債整理の手段として考案されたものであることからすれば、J2において、J3に対する本件各貸付けを返済する能力がなかったことは明らかである。
四 担保価値等
1 J1の土地、建物の担保価値
(一) J3根抵当権の担保価値
(1) 関係証拠によれば、J2所有地の大部分及びJ2建物に対する極度額六〇億円の第一順位根抵当権者であったJ8は、二回にわたり、不動産鑑定業者にJ2所有地、建物の価格を算定させているが、その結果は、いずれも収益還元法により、平成六年二月時点で四〇億円、平成七年七月時点で三〇億四〇〇〇万円であった。
この点、弁護人は、J8が算定させた平成七年七月時点の鑑定において、参考価格として、建設費から求められた積算価格が一〇七億円、現状の会員権相場から求められた価格が七五億三〇〇〇万円との記載があることから、評価法によってはJ2所有地、建物は七五億円から一〇七億円の価値があったと見る余地がある旨主張する。
しかし、J3に対する第一貸付けがなされた平成五年末ころには、バブル崩壊による不動産相場の大幅な下落が続き、回復の兆しも見られなかった時期であり、原価法、つまり建設費から求められた積算価格をもとに評価する方法によっては、貸付け時点のJ2所有地、建物の価値を正しく評価できないというべきである。また、会員権相場から求められた価格についても、後にも論ずるように、公表されていない多数の未発行会員権が存在することや会員権の発行主体であるJ2が高利貸しから多額の負債を抱えて倒産の危機に瀕していることなどが前提にされておらず、かかる事実が公になれば会員権価格が大幅に下落する可能性が高く、右価格をそのまま担保評価額とすることはできない。
このように、J3に対する第一貸付け後間もない時点でのJ2所有地、建物の鑑定評価額が約四〇億円であるのに対し、右貸付け直前の平成五年一一月末におけるJ8の第一順位の根抵当権の被担保債権額は五三億円余であったから、このこと自体で、本件当時、J2所有地、建物には担保余力がなかったというべきである。
(2) 加えて、J2は約二〇〇億円の預託金を集めていたところ、J2所有地、建物の担保評価に当たっては、同社が右預託金の返還債務を負担していることを考慮すべきである。
この点、弁護人は、J2所有地、建物の担保価値を評価するに当たり、一般債権にすぎない預託金返還債務の総額を差し引く必要はない旨主張する。
確かに、法律上は、J2所有地、建物を競落、あるいは買収した者が、J1の会員に対し預託金返還義務を負うとはいえない。しかし、J2所有地、建物に抵当権等を設定していたJ8、J9、株式会社J10等の関係者や東京協和のA2らの検察官調書によれば、同人らは、ゴルフ場の敷地、建物を担保評価する際には、ゴルフ場の預託金総額を差し引くべきであり、J3に対する本件各貸付けがなされた当時もそれが実務慣行であり、J1は約二〇〇億円の預託金を集めていたから、その意味でもJ2所有地、建物には担保余力がないと認識していた旨一致して供述している。そして、競落人等がその預託金返還債務を引き継がず、旧会員の権利を認めないということになれば、紛争の発生が当然想定されるのであって、そうすると、銀行や信用組合のような金融機関が、旧会員との紛争という事態となるような貸付けを避けようとすることもまた当然のことというべきである。
これらのことからすると、J2所有地、建物の担保評価に当たって、預託金返還債務額を全額差し引くかどうかはともかくとして、J3に対する第一貸付けの時点で、少なくとも、預託金返還債務の存在を考慮して低めに担保評価すべきとする金融実務が定着していたと認められる。
(3) 以上によれば、J2所有地、建物に担保余力はなかったと認められる。
(二) 停止条件付根抵当権譲渡契約の担保としての実効性
前記二5、6のように、J4及びJ5は、被告人の指示により、J3とJ2の間で、J3に対する第一貸付けの債務不履行を停止条件として、J3根抵当権を東京協和に譲渡する旨の本件根抵当権譲渡契約を締結している。
しかし、そもそもJ3根抵当権の極度額は一〇億円であるから、本件各貸付けが完了した時点では、本件各貸付金合計一二億六〇〇〇万円のうち二億六〇〇〇万円分の貸付金債権が保全されていない。
また、被告人は、本件根抵当権譲渡契約を締結しても、同信用組合が根抵当権者として登記されなければ、同信用組合の権利を第三者に対して対抗できないにもかかわらず、順位保全のための根抵当権移転仮登記を行っていないばかりか、J3に対する第一貸付けの債務不履行という停止条件が成就した際に、同信用組合が直ちに根抵当権移転の本登記を行うことができるよう、J2から権利証等の必要書類を預かるなどの措置も講じておらず、その結果、現実に、J4は、同信用組合に無断で、J3根抵当権を、J2の債権者であるJ12株式会社に譲渡している。
この点、弁護人は、登記留保された担保が有効なものであるか否かは、義務者であるJ3が東京協和の利益を害するような根抵当権の処分をなし得るか否かという点にあり、J3は東京協和の理事長である被告人の支配下に置かれており、東京協和の利益に反する処分を行うおそれはなかったのであるから、登記留保であっても担保として有効であると主張している。
しかし、J3は、J5が経営するJ7が資本金を出資し、J5が被告人の雇われ社長であるにせよ代表取締役を務めているのであるから、J5が被告人に無断で東京協和の利益に反する行為をする可能性は否定できず、本件営業権を取り戻した後とはいえ、現実にJ4はJ12にJ3根抵当権を譲渡している上、被告人が理事長であるからといってJ3と東京協和の間に客観的に利害相反が生じないとはいい切れず、弁護人の主張は当たらない。
以上によれば、仮にJ2所有地、建物に担保余力があったとしても、その担保余力が東京協和のために確保されていないのであるから、本件根抵当権譲渡契約が締結されたことをもって、実効性のある担保が確保されていたとは認め難い。
2 未発行会員権
(一) 本件各貸付けの担保として、J1の未発行会員権証書が、東京協和に差し入れられているが、前記第一の三2(2)(イ)<1>のように、未発行会員権を担保に供することは一般的には不可能ではないものの、通常に発行されたゴルフ会員権であっても、もともと換金性が確実であるとはいい難く、担保としての価値はそれほど高く評価し得ないところである。
(二) そして、J1の未発行会員権については、更に以下のような事情も存する。
すなわち、関係証拠によれば、いわゆるバブル経済の崩壊によりゴルフ会員権相場は全般的に下落状態を続け、J1の通常に発行された会員権の相場も、バブル経済最盛期には二五〇〇万円くらいまで上っていたが、平成五年一二月ころには三五〇万円程度にまで暴落しており、回復の兆しはみられなかった。加えて、J1の会員権の預託金返還義務を負うJ2は、本件当時、前記二2のとおり倒産の危機に陥っており、そのため、同社は、未発行会員権を乱発し、高利貸し等の金融業者に担保として差し入れられていたものが約二〇〇〇枚にも上っていたところ、J1の会員数は、平成五年一一月末当時、実際の会員数だけでも公表数一四三〇名を超える約二六〇〇名に上り、右未発行会員権証書約二〇〇〇枚分を合わせると、一ホール一〇〇名として算出した場合の適正会員数合計一八〇〇名を相当大幅に超過することになり、このような事情が公になれば、J1の会員権価格は、通常に発行されたものを含めて急落することは必至であったとみられる。
さらに、実際にも、東京協和に担保として差し入れられた本件未発行会員権証書二三五枚は、現在に至るまで一枚も換価処分できていない。そして、被告人でさえも、公判(第三五回)において、「未発行会員権証書が一〇〇〇枚、二〇〇〇枚も乱発されると、有効なゴルフ会員権といえるかどうかは多少疑問が残る」旨供述している。
なお、J5は、自らの公判で、J1の未発行会員権証書八〇枚をJ7が担保に取って、平成六年三月から九月にかけて、J13を通じて処分し、約二億九〇〇〇万円の貸金を回収している旨供述している。しかし、被告人が未発行会員権の販売実体として供述するところによれば、「会員名義欄に実際には預託金を払い込んでいない人間の名前を書いて、そこから裏書譲渡という形を取る」「会員名義欄に名前が記入されていないと担保流れの会員権だということが客に分かると客が嫌だというおそれもある」といったものであり(乙一〇〇)、東京協和のような公共性のある金融機関としては、右のように担保流れの未発行会員権であるとの事実を伏せたまま換価処分を行うことは、後日取得者との間で紛争を招く恐れがあるので、避けなければならないというべきであるから、J5の供述する未発行会員権の処分事例があったとしても、J3に対する本件各貸付けの担保として東京協和に差し入れられた未発行会員権証書二三五枚も同様に換価処分が可能であったとはいい難い。
(三) 以上によれば、J1の未発行会員権の担保価値は、極めて低いものというべきである。
3 本件営業権譲渡と東京協和の債権保全
弁護人は、前記のように、本件営業権譲渡がなされたことにより東京協和の債権保全が図られたと主張している。
しかし、本件営業権を取得したのはJ3であるところ、関係証拠によれば、東京協和は、その内部でJ3の経営に関する議論を全くしておらず、J3に出資をしたり、役職員の派遣もしていないのであって、J3は、結局のところ、東京協和とは別個の会社にすぎず、東京協和においてJ3を支配しているとはいえない(なお、前記1(二)のように、J3と東京協和との間に利害相反の可能性も否定できない。)。
また、弁護人は、本件営業権は五二億円の価値があると主張するが、予想される年間収益から算出した計算上の数字にすぎず、その計算に当たっては、J3が同社に対する第一貸付けとJ7経由貸付けの合計二〇億円の債務を負担しており、今後得られる収益ではそれを返済することが困難であることなどは考慮されていないのであって、本件営業権が実際には五二億円で換価処分できないことは明らかである。
さらに、本件営業権が弁護人の主張するような価値あるものであるとすれば、J5や同人を使ってJ3を経営していた被告人が、同社の営業権をわずか一〇億円でJ4に戻しているのは、不合理というほかない。
これらのことからすると、J3が本件営業権を取得したことをもって東京協和の債権保全が図られたとは到底認められない。
4 以上によれば、J3に対する本件各貸付けには、極めて不十分な担保しかなかったと認められる。
五 被告人の損害発生の認識及び図利目的
1 損害発生の認識
関係証拠によれば、本件貸付けによる損害発生に関して、被告人には、次の(一)ないし(三)の事情が認められる。
(一) 被告人は、J3に対する融資スキームを考案するに当たり、前記二4のように、J4からJ1の収支実績表等を入手し検討するなどして、その財務状況を熟知していたから、その営業権を譲り受けるJ3において、その収益によって同社に対する本件各貸付け合計一二億六〇〇〇万円を返済する能力がないことは当然認識し得た。
(二) 次に、担保に関して、被告人は、J3に対する本件各貸付けの際、J2所有地、建物に六〇億円の先順位根抵当権が設定されていることを知っていた。そして、J2所有地、建物に十分な担保余力が残っていれば、J2において、その担保余力を利用して銀行等の金融機関から融資を受ければよいところ、被告人は、J2が高利貸し等から借入れせざるを得ない窮状にあることを知っていた。加えて、被告人は、ノンバンクが抵当権に基づいてゴルフ場を競売にかけた際、旧会員の預託金返還請求権の評価をめぐって争いになった事例を知っており、ゴルフ場の土地、建物の担保評価において、預託金返還請求権の存在を無視することができないことも知悉していた。したがって、仮にJ2所有地、建物にいくらかの担保余力があるとしても、一〇億円ものJ3に対する第一貸付けを担保するだけの余力がないことを認識していた。さらに、被告人は、前記根抵当権譲渡契約によって条件付きで東京協和が取得する根抵当権について、未登記であることなどのため、これが実効性のある担保といえないことも認識していた。
(三) 一方、ゴルフ会員権については、被告人は、東京協和の理事長として、同信用組合の貸出金規程においてゴルフ会員権を担保とすることを予定していないことを了知していた。また、被告人は、多数のゴルフ場の経営に関与した者として、J3に対する本件各貸付けの時点で、ゴルフ会員権の全般的な相場もJ1の会員権の相場も著しく下落していることを知っていた。さらに、被告人は、J1の会員権の発行主体であるJ2の経営者であるJ4から窮状を訴えられ、同社の状況が倒産寸前で、J3に対する本件各貸付けで差し入れられたもの以外にも大量の未発行会員権証書が融資元に担保差入れされており、これらの事実が公になればJ1の会員権の価格が更に大幅に下落するおそれがあることを知っていた。そして、これらのことから、本件未発行会員権の担保価値が極めて低いものであることを認識していた。
以上(一)ないし(三)の事情等によれば、被告人は、東京協和からJ3に対する本件各貸付けがなされる際、同社にそれらの貸付けを返済する能力がなく、かつ、それらの貸付けに極めて不十分な担保しかなく、それらの貸付けが回収不能となる危険が高いことを認識していたと認められる。
2 図利目的
(一) 前記三、四のように、J3は、返済能力がなく、かつ、極めて不十分な担保しかなかったのであって、通常の金融機関からは合計一二億六〇〇〇万円もの貸付けを受けることが不可能であったにもかかわらず、同社に対する本件各貸付けを受けることができたのであるから、J3及びその経営者J5にとって経済的利益となることは明らかである。また、J4の求めにより、J3に対する第一貸付けの全部及び第四貸付けの半分がJ2の負債整理に費消されているところ、同社は高利貸し等から多額の負債を抱えて倒産寸前で、通常の金融機関等からそうした負債整理の資金を調達することは不可能であったのであるから、J3に対する右の各貸付けについては、同社から資金援助を受けたJ2及びその経営者J4等にとっても経済的利益となったことが明らかである。これに対して、東京協和は、J3に対する本件各貸付けにより、合計一二億六〇〇〇万円が同信用組合から流出し、回収が極めて困難な不良債権を抱えるに至ったのであり、経済的な利益はない。
(二) 弁護人は、J3に対する本件各貸付けは、J2グループの再建を図り、同グループに対する東京協和の貸倒れを防止し、同信用組合の利益を図るためになされたものである旨主張し、被告人も公判でこれに沿う供述をしている。
しかし、関係証拠によれば、被告人は、本件当時、J4からJ2関係の財務関係資料を見せられて、同社が高利の借入金の返済に窮し、倒産寸前の状態にあることを認識していた一方で、J4から、高利の借入金の返済には三〇億円の資金が必要である旨訴えられていたのに、J3に対する第一及び第四貸付け並びにJ7経由貸付けによる合計約二一億円の資金しか提供しておらず、J2グループを再建する方策を具体的に検討し、東京協和の貸倒れを防止するための措置を講じた形跡はうかがわれない。
また、弁護人は、被告人が、東京協和の犠牲を省みず、J4の救済を図るのであれば、J3に対する融資スキームのような複雑なスキームを用いる必要はなく、J1の営業権を三〇億円と評価してJ3に三〇億円を貸し付ければよいところ、貸付金額を二〇億円にとどめているから、被告人の主目的はJ2の救済ではなかった旨主張している。
確かに、被告人が東京協和の損害の危険性をできるだけ少なくしようとしていたことはうかがわれるが、貸付金額を二〇億円にとどめたり、その二〇億円を一〇億円ずつJ3に対する第一貸付けとJ7経由貸付けに分けて複雑な形で貸付けをしたのは、J3一社に対して二〇億円、三〇億円といった巨額の貸付けを行った場合、東京都から大口貸出しについて厳しい対応をされる可能性が高かったため、これを避けようとしたことによるとみられるのであって、J2の利益を図る目的がなかったことを意味するものとはいえない。
(三) そうすると、J3に対する本件各貸付けに際して、被告人が東京協和の利益を考慮していたとしても、付随的なものであって、主として東京協和の利益を図るために行ったとは到底いい難い。J3に対する第一及び第四貸付けについては、主としてJ3、J2、J5及びJ4等の利益を図る目的で、同第二及び第三貸付けについては、主としてJ3及びJ5の利益を図る目的でなされたことは明らかである。
六 結論
以上によれば、J3に対する本件各貸付けは、いずれも、同社に返済能力がなく、十分な担保もない状態でなされたものであり、被告人は、かかる状態で右各貸付けを実行することが、東京協和の代表理事としての任務に違背するものであり、同信用組合にそれだけの損害が発生する危険が高いことを認識しながら、J3に対する第一及び第四貸付けについては、J3、J5及びJ4等の利益を図る目的で、同第二及び第三貸付けについては、J3及びJ5の利益を図る目的で、各貸付けを行ったもので、被告人に背任罪が成立することが優に認められる。
第四 K1に対する貸付けについて(判示第四、第五関係)
一 弁護人の主張
本件当時、被告人が東京協和の代表理事として、B1が安全の代表理事として判示の各任務を有していたこと、東京協和及び安全がK1(以下「K1」という)に対し判示第四、第五の各貸付けを行ったことは争いがないところ、弁護人は、以下の点から被告人は無罪である旨主張しており、被告人も、公判でこれに沿う供述をしている。
1 K1は、経営するゴルフ場K5のプレイ収入や名義書換料収入によって年間三億円ないし四億円の利益が見込め、また、従来発行していなかったK5の平日会員権を新たに発行することによってその預託金を返済原資に充てることもでき、判示第四、第五の各貸付けの返済能力があった。
2 判示第四、第五の各貸付けの担保としてK5の土地、建物及び株式会社K6(以下「K6」という)の土地並びにK5及びK6の未発行会員権証書が担保として差し入れられており、十分な担保があった。
また、K1の営業権は約四二億円ないし五七億円の価値を有するものであり、東京協和がその営業権を支配下に置いたことは、債権保全として十分なものであった。
3 被告人は、K1には判示第四、第五の各貸付けの返済能力があり、十分な担保もあると考えていたから、損害発生の認識がなかった。
また、被告人がK1に対する判示第四、第五の各貸付けを行った主目的は、その新規回収を確実にしつつ、東京協和のK1等に対する従来の債権の担保を強化し、K1等を立て直すことによって、これらに対する債権を健全化し、東京協和の利益を守ることにあった。
二 K1及びその関連会社の経営状況並びに貸付状況等
K2、A15、A2、A13、B1、B2及び被告人の各検察官調書等の関係証拠によれば、以下の事実が認められる。
1 被告人は、昭和四二、三年ころ、父の紹介により衆議院議員であったK3と知り合い、昭和五一年に被告人がK3の居住するマンションに転居したことを契機として、K3と家族ぐるみで親しく交際する間柄となった。被告人は、K3から知人の財界関係者や金融業者等を紹介してもらい、それらの者から調達した資金で株取引を行ったり、B6を設立して金融業を営み、あるいは、東京協和に協力預金をしてもらうなどする一方、東京協和等からK3に株取引の資金等として巨額の貸付けをするなどし、K3と相互の経済力や人脈を利用し合う関係を深めていった。また、被告人は、K3との交際を通じて、その実姉であり、K1の代表取締役であるK2とも知り合った。
2 K2及びK3の実弟であるK4は、K7株式会社(以下「K7」という)及びK6等を経営していたが、K6のゴルフ場開発に際して集めた一六〇億円余りの預託金の多くを投下して展開した海外事業に失敗し、多額の損失を出すなどして、K7及びK6の経営を極度に悪化させ、平成三年八月ころからは、K6のゴルフ場の建設請負代金の支払いが遅延するようになり、同年一一月には造成工事請負会社が工事を一時中断する事態が発生した。
K3は、K6のゴルフ場建設予定地が自己の選挙地盤内にあったこともあって、K7及びK6等の経営の立て直しを図ろうとして、平成四年四月ころ、K2にK7等の財務状況の調査を指示した。
K2は、財務調査の結果、K7に約二〇〇億円、K6に約八〇億円の負債があり、倒産の危機にある深刻な事態に立ち至っていることを知って、これをK3に報告し、同人は、そのころ、このような状況を被告人に説明し、両社の債務の返済資金等を東京協和から貸付けをしてほしい旨依頼した。
これに対して、被告人は、K7、K6その他のK3姉弟が経営しあるいは経営に関与する企業(以下「K3グループ」という)の中では唯一収益を上げているK1を受皿にすることでK3グループへ貸付けをすることを承諾して、同年五月から貸付けを開始し、さらに、安全のB1にも事情を説明して協力を求め、同年七月から安全によるK1に対する貸付けも開始された。
しかし、その後もK7、K6等の状況は改善せず、同年八月にはK6の造成工事請負会社が工事から撤退し、工事は完全に止まった。
3 このような状況下で、K3グループの資金繰りの受け皿となったK1の債務も急増し、短期借入金の残高が平成四年一月期の約八億二〇〇〇万円から平成五年一月期には一九億四〇〇〇万円となり、手形の振出しや裏書による債務も増加した。
また、従前K3らがK6名義で有限会社K8から借り入れていた多額の債務の返済が滞ったことから、K1は、平成五年八月に右借入金の連帯保証人になって、その後毎月小切手で確実に五〇〇〇万円ずつ返済しなければならなくなり、K1の財務状態は、悪化の一途をたどるようになった。
このような中で、K1の東京協和及び安全に対する返済が滞るようになり、同年一〇月ころには利息の支払いも滞るようになったため、被告人は、K3やK2から再三貸付けの申込みがあったにもかかわらず、K1に対する新規貸付けを中止し、安全においても同様にこれを中止した。
このため、K1は、いわゆる街金融から高利の金を調達するようになり、K1をはじめK3グループの資金繰りは更に悪化した。
4 一方、東京協和のK1に対する貸付残高は、平成五年八月ころには一六億円を超えており、法定貸出限度額を大幅に超過していたが、東京協和では、同年七月三〇日を検査基準日とする東京都による検査においてこの点の指摘を受け、また、K1を含むK3グループに対する債権の多くが担保不足であるとして、その回収について通常の度合いを超える危険を含むと認められる第[2]分類の評価を受け、これらの改善を求められるとともに、新規貸付けをしないようにとの示達がされ、被告人は、東京都に対する関係で担保徴求等の改善策を迫られていた。
5 K3は、K7、K6等が巨額の負債を抱え倒産の危機に陥った状況下で、平成六年三月下旬ころから四月上旬ころ、被告人に対し、「このままでは倒産してしまう。助けてくれ。K7とK6の資金繰りのために東京協和からK1に金を出してくれないか。いい方法を考えて金を出してくれないか」などと貸付けの依頼を再び行った。
これに対し、被告人は、東京都からの前記4の示達によって、担保徴求等の改善策をとる必要があることもあって、K1の経営権を一時的にイ・アイ・イグループで引き取って東京協和から金を出す方法しかないと考え、K3に対して、右方策、条件を伝え、その際、一時的にせよK2にはK1を辞めてもらいたい旨、貸し出すのは二〇ないし三〇億円が限度である旨、安全の方にも協力してもらう旨などを述べ、併せてK2に対する説得を依頼した。被告人の構想を聞いたK3は、被告人の考えているとおりにして欲しい旨依頼した。
被告人は、その後、K2を呼び、「K3と話したが、K1を一時的にイ・アイ・イグループで引き取り、経営権の譲渡を受けた上で東京協和から金を出すしかない。そうすれば、K7の資金繰りも助けられる。この事態を解決するにはその方法しかない。K1は一時的に預かるだけで、用が終われば返す」旨述べた。そのころ、被告人は、K2からK7等の負債を整理するために当面必要となる資金が二、三〇億円程度であることを聞き、同人に対し、K1の直接債務や保証債務の額、手形及び会員権証書の差し入れ状況を調査するよう指示した。
被告人は、K2の右調査結果をもとに、同人とともに、K1の負債のうち緊急を要し優先的に返済すべきものについて返済計画を検討したが、その過程で同人に対し、経営陣から退いてもらいたい旨を伝えて説得し、さらに、同年四月下旬ころには、「K1の経営権を譲り受ける際に債務を引き継ぐが、こちらが引き受けることができるのは東京協和と安全の今までの二〇億円も含めて五〇億円が限度です。貸し付けるニューマネーは三〇億円くらいになるので、幾らかは安全からも貸してもらうようにする。会員の預託金については、正規に発行している分はこちらで引き受ける」などと述べて、自己の構想についてK2から合意を取り付けた。
6 一方、被告人は、平成六年五月中旬ころ、安全の代表理事であるB1に対し、右の融資構想を説明し、「ニューマネーで三〇億円を融資することにする。安全には一五億円くらいの担保を設定する。ニューマネーは協和で二〇億円くらい出すので、安全の方からも一〇億円くらい出してほしい」などと述べて協力を要請し、B1は、それまでの被告人との協力関係もあって、これを受け入れることを承諾した。
被告人は、同月下旬ころ、東京協和のA2らに対し、K1に対する救済策と一五億円ないし二〇億円の融資案を説明したが、A2は、K1にこれ以上の新規貸出しをするのは問題がありすぎるとして反対の姿勢を示した。これに対し、被告人は、債務を整理させるためには新規貸出しもやむを得ない旨述べて、融資構想を進めることにした。
7 K1に対する本件貸付け開始時である平成六年六月ころのK1の負債は、借入金が約三四億五〇〇〇万円、担保として差し入れた債務保証手形の額が約八億八〇〇〇万円、K5の未発行会員権証書を担保として差し入れて連帯保証している保証債務が約一三億九九〇〇万円、融通手形の額面額合計が約一五億三六〇〇万円に上っており、その他西山牧場等に対する債務約二〇億円を合わせると、その総額は約九二億六五〇〇万円に達していた。
また、東京協和及び安全によるK1等のK3グループに対する貸付額は、東京協和のそれが同年五月末で約二八億四五〇〇万円(うちK1に対する分は約一八億四五〇〇万円)に上り、安全のそれが同年三月末で約一一億五六五〇万円(うちK1に対する分は約一億六六五〇万円)に上っていた。被告人は、右のような財務状況について十分知悉していた。
8 被告人は、自己の構想がK3、K2、B1らに了承されたことや、K2から平成六年五月末に一億円の貸付けをしてもらいたいと懇願されたことから、とりあえず基本合意書を作成した上で、東京協和から資金を出すこととし、同月三一日、K1の代表取締役であるK2と株式会社K9(以下「K9」という)の代表取締役である被告人の間で基本合意書を取り交わした。
基本合意書には、<1>K1はK9にK5の経営権及び付帯資産を譲渡する、<2>K9は対価としてK1の総額五〇億円の債務を引き受け(一部は現金払い)、さらに、K5の会員に対する預託金を原則として引き受ける、<3>K1は全役員の辞任届及び全株式を平成六年七月一五日までにK9に交付する、<4>K9とK1はK5の経営権及び付帯資産の譲渡に伴う全ての手続を同日までに完了する、<5>K9は同年五月三一日に手付金一億円をK1に支払うことなどが記載されていた。
このうち<2>の五〇億円は、東京協和及び安全からの新規貸付金三〇億円と既存貸付金二〇億円を意味しており、一部現金払いとは、五〇億円のうち三〇億円を新規に貸し付けるという意味であって、東京協和及び安全の承諾等の債務者変更のための手続はなされておらず、K9がK1の債務を引き受けるという実質はなく、東京協和及び安全に対する返済義務はあくまでK1が負っていた。
9 被告人は、基本合意書作成後、東京協和の部下に指示して、平成六年六月一日から同年一二月一日までの間、別表九記載のとおり二三回にわたり、K1に対し、合計一九億一九〇〇万円を貸し付けた。
右貸付金の大半は、前記高利貸しへの弁済、東京協和に対する既存の債務や本件貸付けに対する利払い、K1がK8に対して振り出した小切手の決済などのK1の債務の返済や、K7、K6等K3グループの他社の債務の返済に充てられた。この債権については、全く返済がなされないまま、東京協和の解散に伴い、東京共同銀行に移管された。
東京協和では、右貸付けが行われるまでに、K1からK6のゴルフ場建設予定地に対する極度額三億四〇〇〇万円の根抵当権の設定を受けていた(登記留保)ほか、K5発行の未発行会員権証書二五二枚、K6発行の未発行会員権証書四〇枚を担保として徴求していた。なお、本件貸付け開始後、K5の土地、建物について極度額三〇億円の根抵当権の設定を受けたものの、登記留保であった。
10 他方、B1も安全の部下に指示し、平成六年六月二三日から同年七月六日までの間、別表一〇記載のとおり六回にわたり、K1に対し、合計八億一〇〇〇万円を貸し付けたが、これも、前記の高利貸しへの弁済、K8に対する小切手の決済など、K1ほかK3グループの債務の返済に充てられた。この債権については、全く返済がなされないまま、安全の解散に伴い東京共同銀行に移管された。
安全では、右貸付けが行われるまでにK1から、K5の未発行会員権証書三〇枚を担保として徴求していた。なお、右貸付け開始後、K5の土地、建物について極度額一五億円の根抵当権の設定を受けたものの、登記留保であった。
11 判示第四、第五の各貸付けが順次行われている間の平成六年七月、被告人は、K2を通じてK1の全株式の交付を受けたが、右株式のうち被告人、K9で負担すべき三二万株分については代金が支払われず、基本合意書の内容とは異なり、K1の全役員の辞任は実行されず、K2は、その後もK1の代表取締役の地位にとどまり、K1を含むK3グループ全体の資金繰りを行っており、判示第四、第五の各貸付けも、必要が生じる都度、K2自身が具体的な手続をし、その過程で、K1の手形を使って借入れを行うなどした。
三 K1の返済能力
1 弁護人は、K1の平成六年一月期の営業利益は約三億九七〇〇万円であり、K5は年間約八億円のプレイ収入が見込め、名義書換を開始したことによってその収入も安定的に見込める状況であったことから、K1は年間三億円ないし四億円の利益が見込めた旨主張している。
2 まず、K1の年間営業損益をみると、平成元年一月期は約三億三〇〇〇万円の営業損失を計上しており、平成二年一月期は約一億二〇〇〇万円、平成三年一月期は約一億一〇〇〇万円、平成四年一月期は約六八〇〇万円、平成五年一月期は約一億二〇〇〇万円、平成六年一月期は約三億九〇〇〇万円、平成七年一月期は約四億三〇〇〇万円の営業利益を計上している。
平成六年一月期の営業利益は約三億九〇〇〇万円と前期に比べて約二億七〇〇〇万円増加しているが、売上高のうち、ゴルフ場営業の本来の収入であるプレイ収入、売店収入、レストラン収入の合計は前期とほぼ同じことからすると、右営業利益の増加は本社売上高が約三億二〇〇〇万円増加したことによるもので、同様に、平成七年一月期の営業利益は、平成五年一月期に比して約三億一〇〇〇万円増加しているが、プレイ収入、売店収入、レストラン収入の合計が約一億円も減少していることからすると、営業利益の増加は本社売上高が約五億一〇〇〇万円と平成五年一月期に比べて約四億二〇〇〇万円増加したことによるものと認められる。
そして、右の各本社売上高の増加は、平成五年九月から解禁された名義書換による収入によるものと認められるところ、これはそれまで名義書換を待っていた会員が集中して名義書換を行ったことによるもので、恒常的な営業利益の増加とは考え難い。被告人自身も、名義書換開始後の一、二年間は書換えが多いことを認めた上、年間の名義書換料収入の見込みとして、捜査段階においては約一億円、当公判廷においては約一億五〇〇〇万円と供述している。
また、名義書換開始前の営業利益は、多いときでも約一億二〇〇〇万円であったことからすると、名義書換料収入について被告人が当公判廷で供述する一億五〇〇〇万円として、その分がそのまま営業利益を増加させたとしても、K1の平成七年一月期以降期待しうべき営業利益は最大限年間二億七〇〇〇万円程度であり、プレイ収入、売店収入、レストラン収入の合計額が減少傾向にあったことからすれば、より少ない営業利益しか見込めなかったと認められる。
3 これに対して、K1は、東京協和と安全から新規に行われる判示第四、第五の各貸付け合計約二七億二九〇〇万円について返済するとともに、従前両信用組合から貸付けを受けていた合計約二〇億円についても、同様に返済をしなければならならず、その年利は七パーセントないし九・五パーセントであった。そうすると、K1は、年利七パーセントで計算しても、新旧合計約四七億円余りの債務について、年間約三億三〇〇〇万円もの利払いをしなければならないのであり、前記2のように営業利益が最大限年間約二億七〇〇〇万円程度しか見込めなかったことからすると、その全額を返済に充てたとしても新旧両債務の利払いすらできないことになる。
4 そればかりか、判示第四、第五の各貸付けが行われた当時、K1の会員権はすでに半数以上が額面割れしており、平成一〇年五月の償還期限に、預託金返還請求が現実になされることは十分予想され、多額の返済原資を確保する必要もあった。
また、被告人及びK2らは、三〇億円あればK1の早急に返済しなければならない債務を整理できるとしているが、平成六年六月ころには、街金融等からの約二〇億円の借入れのほか、K8からの借金だけでも約一五億円あり、それを交渉によって待ってもらって三〇億円の枠に収めるというのであるから、三〇億円を超過する分についても、可及的に速やかに返済しなければならないことに変わりはなく、判示第四、第五の各貸付けの返済が完了するまで、他の債務を何も返済しないわけにはいかないのである。
5 弁護人は、K5の平日会員権を新たに発行することによってその預託金を返済原資に充てることもできた旨主張するが、被告人は、これに沿う供述をする一方で、その具体的な見通しは全く立っていなかったとも供述しているのであって、単なる期待、願望の域を出ないものといわざるを得ない。
6 以上に加えて、現実的にも、判示第四、第五の各貸付けの返済がなされていないことからすると、K1には右各貸付け総額二七億二九〇〇万円についての返済能力はなかったと認められる。
四 担保価値等
1 K5の土地、建物の担保価値
(一) 根抵当権の担保価値
東京協和及び安全では、判示第四、第五の各貸付けに当たって、東京協和については平成六年八月二日ころ、安全については同年七月六日ころ、K5の土地、建物にそれぞれ極度額三〇億円と一五億円の根抵当権を設定する旨の契約をしている。
弁護人は、被告人は、本件当時、K5の土地、建物について一二〇億円から一五〇億円の価値があると考えており、C3の不動産について平成一〇年に決定された競売の最低売却価格が六八億円を超えていたから、それとの比較で一二〇億円から一五〇億円という評価は不当なものではない上、平成元年一月にB16銀行が評価した約六二億一三〇〇万円という金額を前提にしても、同行の九億八〇〇〇万円の先順位根抵当権の被担保債権の残債は二億円であり、まもなく右根抵当権は抹消されることになっていたから、判示第四、第五の各貸付けの担保として設定された各根抵当権には十分な価値があったと主張している。
しかし、一二〇億円から一五〇億円という金額は、専門家による不動産鑑定の結果ではなく、C3の最低売却価格との比較にしても、最低売却価格で競落する者がなければ、その価格を下げて更に競売手続を続けることになるのであり、最低競売価格をもってそれだけの換価価値があるとはそもそもいえない上、C3よりもK5の方が価値が高いとする根拠も、単にゴルフ場としてのグレードが高いというにとどまり、一二〇億円から一五〇億円という金額が具体的な根拠によって導き出されたものとは到底いい難い。
一方、K5の土地、建物に設定された根抵当権は、判示第四、第五の各貸付けのみでなく、それ以前の東京協和からK1に対する合計約一八億四五〇〇万円の貸付け及び安全からK1に対する合計約一億六六〇〇万円の貸付けをも被担保債権とするものであり、被担保債権の総合計額は約四七億円余りに上る。
そして、K5の土地、建物については、バブル最盛期の平成元年一月時点で、約六二億一三〇〇万円と評価されているものの、証人A6の当公判廷における供述によれば、右評価額は預託金返還債務の存在を考慮に入れていない状態のものである上、判示第四、第五の各貸付けがなされた平成六年当時は、バブル崩壊により不動産価格が全般的に大幅に下落していた時期であって、K5の土地、建物についても、同様に価格が下落していたものと容易に推認される。
また、K1はK5の土地の約三割しか所有しておらず、根抵当権が設定されたのはその土地と建物であるところ、競売がなされた場合、競落人としては、競落部分だけでは単なる山林、原野としての価値しかないから、残り七割の借地部分とともにゴルフ場用地として利用でき、K5の営業が続けられることを前提にするものと想定され、また、借地部分の利用継続のために、地主らに借地契約の継続のための金銭を支払う必要が生ずることも考えられ、その分、競落価格も低くなることが予想される。
さらに、弁護人は、K5の土地、建物の担保評価に当たって、一般債権にすぎない預託金返還債務の総額を差し引く必要はない旨主張するが、総額を差し引くかどうかはともかくとして、預託金返還債務の存在を考慮して低めに担保評価すべきものとする金融実務が定着していたことは、前記第三の四1(一)(2)認定のとおりである。この点、K5の土地、建物の担保評価に最も利害関係を有していたK2も、検察官調書において、ゴルフ場の土地、建物を競売によって取得しゴルフ場事業を継続しようとする者が、既存の会員を無視して預託金返還債務を切り捨てようとすれば、既存の会員との間で深刻なトラブルが発生し、ゴルフ場経営自体が立ち行かなくなるおそれが十分予想されるから、こうした土地、建物を競落する者は預託金返還債務を引き継ぐことを前提にせざるを得ず、金融機関が担保評価する場合にも預託金返還債務を控除するのは当然である旨供述しているが(甲四三八)、他のゴルフ場の例も挙げて具体的かつ明確に説明されており、十分信用できるものである。そして、K1が会員から集めた預託金の合計額は、判示第四、第五の各貸付けの当時、約二一五億円にも及んでいた。
これらのことからすると、K5の土地、建物の担保価値については、消極的評価要素が多く、本件の二七億二九〇〇万円もの債権を担保するだけの十分な担保力が存在するとは到底認め難い。
(二) 根抵当権の担保としての実効性
前記二9、10のように、判示第四、第五の各貸付けに当たりK5の土地、建物に設定された根抵当権は、いずれも登記留保とされ、未登記である。
この点、弁護人は、K1は既に被告人の支配下に入っていたから登記留保にしてもリスクは全くなかった旨主張している。
しかし、前記二8のように、K9がK1を引き取るに当たり、平成六年七月一五日までにK2が代表取締役を辞任することになっていたにもかかわらず、結局、同人はその後も代表取締役の地位にとどまって実印も保管し続けていた。また、被告人は、同年九月の東京協和と安全がイ・アイ・イグループに対する多額の不良債権を抱えている旨の新聞報道がきっかけとなり、同年一二月に東京協和の理事長を辞任した後、平成七年二月に、K2から、K1は自分が責任を持って経営するから株券や手形小切手帳を返してくれと求められたのに対して、直ちにこれに応じているのであるから、K1が被告人の支配下にあったとの弁護人の主張は前提を欠いている。
そればかりか、関係証拠によれば、K2は、本件貸付けが開始された後、K5の不動産の一部の登記済証を安全に持ち込み、所要の手続を経た後、これを東京協和に届けたが、残余の不動産の登記済証はB16銀行に担保として差し入れられたままの状態であり、また、その後、K10信用金庫から貸付けを受けるに当たり、東京協和から取り戻した登記済証等を用いてK10信用金庫を根抵当権者とする極度額五億円の根抵当権の設定登記をしていることが認められる。
これらのことからすると、K5の土地、建物にある程度の担保余力があったとしても、その担保余力が東京協和や安全のために確保されていないのであるから、右根抵当権設定契約が締結されたことをもって、判示第四、第五の各貸付けに対する実効性のある担保が確保されていたとは認め難い。
2 K6の土地
前記二2のように、K6は、平成四年八月に施工業者が造成工事を中断して撤退しており、ゴルフ場完成の見通しは現在に至るまで立っていないのであるから、その建設予定地は、ゴルフ場用地としてではなく、単なる山林、原野として評価するしかない上、K6の建設予定地の取得価格は約二三億円であるのに対し、平成六年六月時点で、右土地に、K11銀行、K12株式会社、K10信用金庫、J8及びK13株式会社により合計一一五億円の先順位根抵当権が既に設定、登記されていたから、K6の土地に担保余力がなかったことは明らかである。
3 K5及びK6の未発行会員権
前記第一の三2(2)(イ)<1>のように、未発行会員権を担保に供することは一般的には不可能ではないものの、通常に発行されたゴルフ会員権であっても、もともと換金性が確実であるとはいい難く、担保としての価値はそれほど高くないと考えられる上、バブル経済の崩壊によりゴルフ会員権相場は全般的に右肩下がりの状態を続け、市場に流通するK5の会員権の多くが大幅に額面割れをしており、回復の兆しはみられなかった。
加えて、K2の検察官調書等によれば、K5には通常の形で募集した会員が、公表数は一五〇〇名であるところ、実際には既に約四〇〇〇名にのぼっていた上、その未発行会員権証書は、総計二千数百枚にも及び、一ホールの適正会員数一〇〇名として算出した場合の合計一八〇〇名を大幅に超えており、このような事情が公になれば、K1の会員権価格は、通常に発行されたものを含めて急落することは必至であったといえる。さらに、実際にも、判示第四、第五の各貸付けの担保として差し入れられた未発行会員権証書は、現在に至るまで一枚も換価処分できていない。
また、K6の未発行会員権については、前記二2のようにその完成の見通しは現在に至るまで立っていないのであり、このようなゴルフ場の会員権を市場で処分することが困難であることは明らかである。
これらのことからすると、K5及びK6の未発行会員権の担保価値はいずれも極めて低いものというべきである。
4 K5の経営権と東京協和の債権保全
弁護人は、前記のように、東京協和が、事実上、K1の営業権(基本合意書上は「K5の経営権」とされている)を取得しており、これは東京協和の債権保全のため極めて重要な価値がある旨主張している。
しかし、K5の経営権を取得したのはK9であるところ、東京協和は、K9に出資をしたり、役職員を派遣したりもしておらず、K9は被告人個人の関連会社にすぎず、東京協和においてK9を支配しているとはいい難い。
また、弁護人は、K5の経営権は、営業利益を三億円ないし四億円、金利(収益還元法における資本還元率の意味と思われる)七パーセントとした場合、約四二億円ないし五七億円の価値があったと主張する。
しかし、K5の営業利益が最大限二億七〇〇〇万円程度しか見込めなかったことは前記三2のとおりである上、K5の営業利益は、K1が東京協和及び安全に対して負担する新旧債務合計約四七億円余りの返済原資に充てられることになっているところ、その利払いすら困難な状態であることなどは考慮されていないのであって、K5の経営権が実際には約四二億円ないし五七億円といった価格で換価処分できないことは明らかである。
5 以上によれば、K1に対する判示第四、第五の各貸付けには、極めて不十分な担保しかなかったと認めるのが相当である。
五 被告人の損害発生の認識及び図利目的
1 損害発生の認識
(一) K1の返済能力についての認識
被告人の検察官調書等関係証拠によれば、以下の事実が認められる。
被告人は、K3の依頼により、平成四年四月以降、K7やK6等の救済のため、K1を受け皿として東京協和から貸付けを行ったり、B1に依頼して安全からも同様の貸付けに協力してもらうようになったが、そのころまでに、被告人は、K1が約二〇〇億円の預託金を集めており、K5のゴルフ場及びレストランの運営利益が年間一億円程度であることなどを知悉していた。
なお、前記三2のように、被告人は、平成五年九月から開始された名義書換に関する収入について、恒常的に期待できる金額を約一億五〇〇〇万円と見積もっていた旨供述している。
また、被告人は、平成五年秋までに、K1が、K6等の救済のため、直接借入れをしたり、K8を初めとする多数の債権者に対して多額の保証債務を負担したり、融通手形を振り出すなどしていることなどを知り、K1の財務状態が著しく悪化していることを知っていた。そして、被告人は、同年一〇月ころには、K1が東京協和への利払いすらできない状況に陥ったため、新規の貸付けを拒むに至っていた。
さらに、被告人は、K3らから新規貸付けの再開を求められた際、K2に対し、K1の債務の実情を調査するよう指示し、その調査結果をもとに、その返済計画を検討しているが、そのとき、K1の財務状態が更に悪化していることを知り、その債務を整理するには七〇億円くらい必要であると見込んでいた。
加えて、被告人は、K1の二〇〇億円を超える預託金について、据え置き期間経過後の預託金の返還圧力が高いことを予想しており、その返還請求に備えるための資金を確保しなければならないことも知っていた。
これらのことからすると、被告人は、判示第四、第五の各貸付けが行われる時点で、K1において右各貸付けを返済する能力が極めて乏しい状態にあることを十分認識していたと認められる。
(二) 担保価値についての認識
被告人の検察官調書等関係証拠によれば、以下の事実が認められる。
(1) 被告人は、平成五年一〇月以降、東京協和からK1に対する新規貸付けを中断していた際、K3やK2に、「担保もないのに貸せない」などと言って断っており、また、同年終わりころには、同人らから、K6等の資金繰りのため暴力団絡みの街金融から借入れをしたりしていることなどを聞いており、これらのことだけでも、被告人が、K1に対する判示第四、第五の各貸付け当時、K6にもK1にも通常の金融機関から貸付けを受けるための担保がないことを知悉していたと認められる。
(2) そして、K1に対する判示第四、第五の各貸付けの担保とされたもののうち、K5の土地、建物に関しては、被告人は、K5の土地のうち、担保に供されたK1所有地が約三割にすぎず、残り約七割の土地は借地であって、右所有地の取得原価が約六〇億円にとどまり、右所有地単独では利用価値が乏しいことを知っていた上、前記第三の五1(二)のように、被告人は、ゴルフ場の土地、建物の担保評価において、預託金返還請求権の存在を無視することができないことを知っており、K2から、K1の負担する預託金返還債務が二〇〇億円を超えると聞いていたから、K1の判示第四、第五の各貸付けの当時、K5の土地、建物にそれほどの担保価値を見出せないことを認識していたものと推認される。さらに、被告人は、東京協和からの判示第四の貸付手続に当たって、K5の土地、建物に設定する根抵当権を登記留保にするよう担当者に指示したり、安全からの判示第五の貸付手続に当たっても、B1に同様に設定する根抵当権につき登記留保にするよう依頼しており、右各根抵当権が実効性のある担保といえないことを認識していたと認められる。
(3) また、K6の土地に関しては、被告人は、平成二年ころまでに、K6の土地に、第一順位としてK11銀行の極度額一〇億円の根抵当権、第二順位としてK12の極度額一〇億円の根抵当権、第三順位としてJ8の極度額六〇億円の根抵当権が先順位で設定されていることを知っていた上、K6が自社の債務の返済資金を調達することができないため、平成四年五月以降、東京協和からK1を受け皿としてK6等の債務返済資金を供給していたのであるから、K1に対する判示第四、第五の各貸付けの時点で、K6の土地に担保余力がないことを認識していたと認められる。
(4) さらに、前記第二の二2(2)(イ)<1>のとおり、被告人は、東京協和の貸出金規程においてゴルフ会員権を担保とすることを予定していないことを知っており、また、K1に対する判示第四、第五の各貸付けの時点で、ゴルフ会員権の全般的な相場が下落していることも知っていた上、K3やK2から、K1の通常に発行された会員権証書が約四〇〇〇枚に上ることや、K1が債務者となっているほとんどの借入れについて、K5の未発行会員権証書が担保として差し入れられており、その数が合計二七〇〇枚にも上ると聞いており、かかる事実が公になればK5の会員権価格が大幅に下落することも知っていたから、K5の未発行会員権の担保価値が極めて低いものであることを認識していた。また、K6の未発行会員権に関しても、被告人は、K6が未完成のまま放置されており、完成の見込みがないことを知っていたから、K6の未発行会員権に換価価値がないことも認識していた。
(三) 以上により、被告人は、K1に対する判示第四、第五の各貸付けがなされる際、同社にそれらの貸付けを返済する能力がなく、かつ、それらの貸付けに十分な担保がなく、それらの貸付けが回収不能となる危険が高いことを認識していたと認められる。
2 図利目的
(一) 前記三、四のように、K1は、返済能力がなく、かつ、極めて不十分な担保しかなかったのであって、通常の金融機関からは合計二七億二九〇〇万円もの貸付けを受けることが不可能であったにもかかわらず、東京協和から判示第四の合計一九億一九〇〇万円、安全から判示第五の合計八億一〇〇〇万円もの高額の貸付けを受けることができ、その大半は、K1の債務の返済に充てられているのであるから、K1に対する判示第四、第五の各貸付けが、K1の利益になったことは明らかであり、また、K1から債務返済の資金援助を受けたK3グループの他社等にとっても経済的利益になったことが認められる。これに対して、東京協和及び安全は、K1に対する判示第四、第五の各貸付けにより、それぞれ、合計一九億一九〇〇万円、合計八億一〇〇〇万円が組合から流出し、回収が極めて困難な不良債権を抱えるに至ったのであり、経済的な利益はない。
(二) これに対して、弁護人は、被告人の意図は、あくまでも東京協和のK1等に対する債権の担保を強化し、K1等を立て直すことによって、これらに対する債権を健全化し、東京協和の利益を守ることにあったのであり、もし、東京協和の犠牲を省みず、K1等の救済を図ろうとしたのであれば、平成五年一〇月以降も、親しい関係にあったK3やK2の新規貸付けの求めを拒むことなく、これに応じていたはずであるし、K9においてK1の株式を取得したり、K2を役員から外すなどして、K1を被告人において支配するといった複雑な方法を取るまでもなく、単純な迂回融資等によって容易にK1に貸付けをすることができた旨主張している。
しかし、K1のように、既存の貸付けの利払いすらできない相手に対しては、そのまま追貸しをすればその分も返済がなされない危険性が高いのであるから、真実被告人が東京協和の利益を図ることを主たる目的と考えていたとすれば、追貸しの求めに応ずることなく、平成五年一〇月までの既存の債権の担保として、K5の土地、建物に根抵当権を設定すればよいはずであるし、仮に、追貸しをするとしても、通常の貸付けの場合以上に、実効性のある確実な債権保全措置を講ずべきである。
しかるに、関係証拠によれば、被告人は、K1に対する判示第四の貸付けに当たって、K5の土地、建物の先順位抵当権の設定状況を調査したり、専門家による不動産鑑定を行うなど、正確な担保余力を把握するための方策をとっていない。また、被告人は、K2が登記を汚すことを嫌っているとか、登記をすると世間に被告人とK3の関係を取りざたされることになるといった個人的な理由で、K5の土地、建物に設定した根抵当権を登記留保とし、必要に応じて登記し得るような体勢も取っていなかったばかりか、K1がK10信用金庫から五億円の貸付けを受ける際に、K2の求めにより、極度額五億円の先順位根抵当権の設定登記をすることを了承している。
また、東京協和の利益を図るため、K2を役員から外すなどしてK1を被告人の支配下に置いたとの点も、前記二11のように、実際にはK2はなお代表取締役を続けており、実印まで保管していたのであって、K9がK1を完全に支配している実態はなかった上、東京協和がK9を支配していた実態もなかったのであるから、弁護人の主張は前提を欠いている。
これらの事実は、被告人が東京協和の代表理事としての責務よりも情実を優先させたことを端的に示すものといえ、被告人がK1をK9において引き取ることにしたのも、現状のままではK1への新規貸付けが困難であって、K5の土地、建物に根抵当権を設定するなどして既存の事実上の無担保貸付けを改善したような外形を整えるとともに新規貸付けを実行することにすれば、東京都の検査への対応がしやすくなるとの思惑に基づくものとみられる。
そうすると、K1に対する判示第四、第五の各貸付けの主たる目的は、東京協和の利益を図ることではなく、K1等の利益を図ることにあったと認められる。
六 B1の損害発生の認識及び図利目的
B1の検察官調書によれば、B1が、安全からK1に対する判示第五の各貸付けを行うに当たり、K1がそれ以前の安全に対する債務の利払いすらできない状態であり、多額の債務を抱えて財務状態が著しく悪化していて、判示第五の各貸付けを返済する能力がないことを知悉しており、また、K5の土地、建物及びK6の土地にさしたる担保価値がなく、登記留保となっていて実効性のある担保といえず、K5やK6の未発行会員権も担保価値が極めて低いものであって、十分な担保がないことを知悉しており、したがって、判示第五の各貸付けを行えばそれが回収不能となる危険が高いことを認識していたことが認められる。
また、やはり、B1の検察官調書によれば、B1は、財務状態が著しく悪化し、通常の金融機関から貸付けを受けることが困難なK1にとって、判示第五の各貸付けを受けられることが利益になる一方で、安全にとっては、不良債権が増大するにすぎないことを認識しながら、前記第一の一2のような従前からの被告人との密接な関係に基づいて被告人の依頼に応じたもので、安全の利益のためではなく、主としてK1等の利益のために判示第五の各貸付けを行ったことが認められる。
七 結論
以上によれば、K1に対する判示第四、第五の各貸付けは、同社に返済能力がなく、十分な担保もない状態でなされたものであり、被告人は、かかる状態で右各貸付けを実行することが、自己の東京協和の代表理事としての任務やB1の安全の代表理事としての任務に違背するものであり、両信用組合にそれだけの損害が発生する危険が高いことを認識しながら、K1等の利益を図る目的で、自ら部下に指示して貸付けを実行し、あるいは、B1に働きかけて、同人と共謀の上、安全からの貸付けを実行したことが認められ、被告人に背任罪が成立することが明らかである。
(法令の適用)
被告人の判示第一及び第五の各所為はいずれも平成七年法律第九一号による改正前の刑法六五条一項、六〇条、二四七条に、判示第二の各所為はいずれも同法二四七条に、判示第三及び第四の各所為はいずれも同法六〇条、二四七条に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の二の別表二の1番号1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役四年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一五〇日を右刑に算入し、訴訟費用のうち、平成八年一月二六日及び同年二月一九日に証人田中重彦に支給した分の各二分の一、同年三月一二日、同年四月五日及び同年五月二一日に同証人に支給した分、平成一〇年九月三日及び同年一〇月九日に証人A2に支給した分並びに証人A3、同A4、同A5、同A6、同A7、同A8、同A9、同A10及び同A11に支給した分は、刑事訴訟法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させることとする。
(量刑理由)
一 本件は、東京協和の代表理事であるとともに、イ・アイ・イグループの経営者であった被告人が、同信用組合の代表理事としての任務に違背して、返済能力のないゴルフ場経営会社やパチンコ店経営会社等に対し、十分な担保を徴求することなく、合計九四億五九〇〇万円を不正に貸し付け(判示第二ないし第四事実)、また、同業者として親交のあった安全の代表理事であるB1らと共謀の上、B1らの安全の代表理事等としての任務に違背して、同様に返済能力のないゴルフ場開発会社や休眠会社等に対し、十分な担保を徴求することなく、合計一二六億九五〇〇万円を不正に貸し付け(判示第一、第五の事実)、両信用組合に対し、総額で二二一億五四〇〇万円の損害を与えたという巨額融資背任事件である。
二 事案ごとの経緯、態様をみると、判示第一の事案は、被告人が、安全のB1らと共謀の上、被告人、B1、C1ほか三社等の利益を図る目的で、前後四八回にわたり、合計一一八億八五〇〇万円の不正貸付けを行ったものであるが、被告人は、九州のゴルフ場開発会社C1ほか二社が返済の困難な債務の付替え先などとして利用できるとの目論見から、被告人と同様に経営会社の多額債務を抱えてその処理に窮していたB1に対し、右C1ほか二社の取得をもちかけ、同人に依頼して、安全から右三社に融資をさせ、また、自らが設立して休眠会社となっていたFにも融資をさせ、これらの資金を被告人個人や被告人関連会社等の債務の返済や債務の付替えなどに使用している。また、判示第二の事案は、被告人が、被告人、G1ほか三社の利益を図る目的で、前後一五回にわたり、合計六二億八〇〇〇万円の不正貸付けを行ったものであるが、被告人は、前記C1やパチンコ店経営会社として新たに設立したG1及びH1、あるいは、自己の経営する赤字会社I1を利用して、東京協和からこれらの四社に貸付けを行い、判示第一の場合と同様に、右資金を被告人関連の債務の返済や債務の付替えなどに使用している。判示第三の事案は、被告人が、ゴルフ場開発事業等で親交のあったJ4、J5と共謀の上、J4、J5、J3等の利益を図る目的で、前後四回にわたり、合計一二億六〇〇〇万円の不正貸付けを行ったものであるが、被告人は、ゴルフ場等の開発、経営が破綻して資金繰りに窮したJ4から多額の融資懇請を受け、融資の方法として、J5に依頼してJ3を設立させ、東京協和がJ3に貸付けをし、同社がそれをゴルフ場の営業権買取代金の名目でJ4の経営会社に交付して同社の債務の返済に充てるという形をとることを考案し、貸付けを実行している。判示第四及び第五の事案は、被告人が、親密な関係にあった代議士K3及びその姉K2(判示第五事実については更にB1)と共謀の上、ゴルフ場経営会社であるK1等の利益を図るため、東京協和から前後二三回にわたり合計一九億一九〇〇万円、安全から前後六回にわたり合計八億一〇〇〇万円の各不正貸付けを行ったものであるが、被告人は、関連会社の多額の債務返済に窮したK3らの依頼を受け、融資の方法として、東京協和ないし安全がK1に約三〇億円を新規貸付けするとともに、K1の経営権を被告人経営のK9が引き取り、その対価として、同社が、K1の東京協和及び安全に対する新旧債務全てを引き受けるという形をとることを考案し、貸付けを実行している。
このように、被告人は、判示第一、第二の事案においては、複数の会社を融資の受け皿あるいは債務の付替え先として巧みに使い、判示第三ないし第五の事案においては、前記のような複雑な貸付方法を考案しており、また、いずれも無担保あるいは十分な担保を徴求することなく、返済能力のない会社に多数回にわたり巨額の貸付けを行っており、その任務違背の程度も著しく、犯行態様は巧妙悪質というべきである。
そして、被告人は、前記のように、いずれの貸付けについても、その方法を自ら考案した上、判示第二ないし第四の東京協和からの貸付けに当たっては、信用組合の貸出金規程に従うことなく、被告人自ら貸出先、貸出金額、期限、担保等を全て決定した上で、事前に稟議を経ないで、いわゆるトップダウンの方式により貸付けを行い、判示第一、第五の安全からの貸付けに当たっても、B1に貸付けをするよう働きかけて実行させたのであって、本件各貸付けについていずれも主導的、中心的な役割を果たしている。
また、各貸付けの使途をみると、判示第一、第二の事案においては、前記のように、その多くが被告人個人の債務返済やその親族の債務の利払い、イ・アイ・イグループ等被告人関連会社の債務返済等に充てられており、判示第三ないし第五の事案においては、親密な関係にあった共犯者らのため、その経営にかかる倒産寸前の会社の債務返済等に充てられているのであって、このように被告人が金融機関の長としての責任ある公的立場を忘れ、自己ないし親密な関係者らの利益を優先させたことは、公私を混同したものとして厳しく非難されなければならない。結果として、本件による損害額は、前記のように総額二二一億五四〇〇万円もの巨額に上っており、現在までに返済されているのは、判示第一事実関係が約七億円、判示第二事実関係が三五億円余り、判示第五事実関係が五〇〇万円にとどまり、判示第三、第四事実関係については返済がなされていない。
さらに、東京協和及び安全に不良債権が滞積して破綻状態に陥ったため、日銀等の出資により東京共同銀行が設立されて両信用組合の事業が引き取られ、預金保険機構及び一般金融機関等が同行に資金援助するとともに、都信協が多くの不良債権を引き取り、これに東京都及び長銀等が資金援助することによって、その破綻処理が実行されたものであるが、本件は、両信用組合の破綻の重大な要因となっており、両信用組合の組合員に多大の不安を与えたばかりか、ひいては巨額の公的資金の導入を余儀なくさせたもので、我が国の金融システム全般に対する信頼を揺るがせた責任は重大である。
これらのことからすると、被告人の刑事責任は重いというべきである。
三 他方、被告人は、本件損害に関して、前記のように合計約四二億円を返済したほか、整理回収銀行(旧東京共同銀行)あるいは都信協との間で、今後、判示第一事実関係について二八億円余り、判示第二事実関係について八億五〇〇〇万円余りを分割弁済する旨の和解を成立させ、判示第五事実関係についても約一億三〇〇〇万円の債務弁済契約を締結しており、都信協に対しては自己の経営する会社の株式を追加で担保差し入れしているなど損害回復のための努力をし、また、破綻処理に際し、東京協和の一般組合員に対して出資証券を買い取る措置をとるなどしており、一定の評価をすることができる。また、判示第三ないし第五の事案については、経営会社の倒産の危機に瀕した共犯者らから再三依頼を受けたことが契機となっており、被告人の個人的な利益を図ったものとはいえない。さらに、被告人には前科前歴がなく、バブル崩壊によりイ・アイ・イグループが経営危機に陥るまでは、同グループの発展を担い、また、東京協和の代表理事として、悪化していた財務状態を回復させ、信用組合としての維持発展に尽力してきたなど、被告人のために酌むべき事情も相当程度認められる。
四 しかし、前記のような本件の規模、損害額、任務違背の程度、動機及び目的、被告人が果たした役割、金融システム全般に与えた影響等の諸事情にかんがみると、有利な事情を考慮しても、その刑事責任を軽視することはできず、主文のとおりの実刑に処するのが相当と判断した。
(裁判長裁判官 池田耕平 裁判官 保坂直樹 裁判官 下津健司は差支えのため署名押印できない。裁判長裁判官 池田耕平)