大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成7年(刑わ)2600号 判決 2000年3月16日

主文

被告人を懲役四年に処する。

未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入する。

訴訟費用中、証人a1、同a2、同R、同a3、同A、同B、同a4及び同a5に支給した分は被告人の負担とする。

理由

(犯罪事実)

被告人は

第一の一 実質的に経営していた株式会社甲通商(以下「甲通商」ともいう。)の債務の返済資金等に窮し、いずれも被告人の秘書であるとともに、財団法人乙厚生文化財団(以下「乙財団」ともいう。)の常務理事であり同財団の財産管理業務に従事していたA、甲通商等の資金借入れ事務等を担当していたB、同Cの三名と共謀の上、平成四年四月八日、東京都港区新橋<番地略>所在の丁信用組合(以下「丁」ともいう。)本店において、株式会社V(代表取締役J。)名義で丁から一億八〇〇〇万円を借り入れるに当たり、ほしいままに、右借入れの担保とするため、Aにおいて業務上預り保管中の乙財団の基本財産である同財団名義の丁発行の金額一億八〇〇〇万円の定期預金証書一通を同信用組合貸付担当者に交付して右借入金のために質権を設定し、もって、横領し

二 平成七年六月一七日、東京都千代田区永田町<番地略>所在の衆議院予算委員会において、証人として法律により宣誓の上証言するに際し、真実は、平成四年四月上旬ころ、同区<番地略>所在の当時の自宅において、Bに対し、乙財団の基本財産である定期預金を担保に丁から融資を受けるよう指示して同人らとともに前記第一の一記載の犯行を行い、さらに、平成七年五月下旬ころ、同区永田町<番地略>所在の被告人事務所において、当時乙財団の理事長であったPに対し、前記第一の一記載の犯罪事実について告訴しないでほしい旨依頼したのにかかわらず、丁からV名義で借入れを行うに際して、乙財団の基本財産である定期預金を担保に供したことに関し、「自分は関与しておらず、事前に自分に対し何らかの報告があれば流用も未然に防げた。同財団の基本財産の流用については、実弟のFが同財団の常務理事であるAとともに自分に無断で行った。P理事長に同財団の基本財産の流用について告訴しないでほしいと依頼したことはない。」旨、虚偽の陳述をし、もって、偽証し

第二 昭和六三年ころから、アメリカ合衆国の首都ワシントン近郊に、二〇〇万平方メートル以上の土地を確保し、そこに国際経済学部等を設置する四年制大学でアジア・太平洋研究所や宿泊施設、ビジネスセンター等の付属施設を設備し、国際的な政治・経済・文化等の交流の拠点となるようなW国際大学を設立する旨のW国際大学建設事業を構想、企画し、その推進を図っていたが、右のような企画に見合った大学建設が不可能になり、その事業計画が既に実質的に頓挫しているにもかかわらず、これが実現可能なものとして、K工業大学を経営する学校法人L学園(以下「L学園」ともいう。)からW国際大学運営事業の預託基金名下に金員を詐取しようと企て、被告人の秘書として右W国際大学建設事業に従事していたDと共謀の上、被告人において、平成四年四月二三日、東京都港区浜松町<番地略>所在のK工業大学東京事務所において、L学園理事長Qに対し、真実は、右建設事業は、確実にその用地を取得するめども立たず、大学施設等の建設資金調達の当てもないため実質的に頓挫しており、また、右W国際大学とJ・W大学との提携による研修・修学等に関する協定も成立していないのに、右W国際大学用地取得及び大学施設建設資金の調達のめどが立っていて、平成七年までには同大学を開校でき、かつ、右J・W大学との右協定も成立しているように装い、「W国際大学建設の土地を既に取得し、大学の建設資金は財界からの寄付で賄うめども立っており、現地では既に大学建設に取り掛かるところまでいっている。W国際大学は、J・W大学とも提携することとなっている。K工業大学から支出してもらう金は預託基金であり、土地取得代金や大学建設資金などの事業費とは全く別のもので、その元本はプールして運用し、運用によって得た利益をW国際大学の運営費に充てる。預託期限が来て要請があれば、全額を返還する。これまでに他からも資金を集めており、K工業大学も参加するのであれば、他から集めていた資金と一緒にK工業大学の預託基金もアメリカに送らなければならないので、早急に決断してほしい。」旨虚構の事実を申し向け、さらに、Dにおいて、平成四年五月一五日、情を知らない元国立大学学長らを同道して、熊本市池田<番地略>所在のK工業大学に赴き、同大学の教職員会議室において、Q及びL学園の理事らに対し、前同様に装い、「W国際大学の建設計画に必要な土地は全部確保しており、校舎等の建築資金は財界からの寄付を集めてそれを充てることになっており、この資金のめども立っていて、現在では大学の建設に取り掛かる段階に来ている。計画は順調に進んでおり、平成七年九月にはW国際大学をオープンさせる予定である。W国際大学は、J・W大学と提携しており、基金を預託してもらえば、同大学の教育施設で学んだり、研究したりすることができる。預託基金はアメリカに送金し、建築費とは別にプールして管理運用し、それによって得られた利益を大学の運営費に充てる。預託基金は、一二年後に預託期限が来て要請があれば、きちんとお返しする。」旨虚構の事実を申し向け、Qらをしてその旨誤信させ、よって、平成四年六月八日、L学園所有の一億六九〇〇万円を、東京都千代田区麹町<番地略>所在の住友銀行麹町支店の被告人が管理する財団法人W国際政策交流財団名義の普通預金口座に振込送金を受けて、これを騙取し

第三 前記甲通商、丙商事株式会社(以下「丙商事」ともいう。)及び株式会社M厚生文化事業団(以下「M事業団」ともいう。)の債務の返済資金等に窮し、財団法人M厚生文化財団(以下「M財団」ともいう。)の理事長として同財団の財産を管理する業務に従事していたE、丙商事の代表取締役F、M事業団の代表取締役Gの三名と共謀の上、平成五年三月二二日、丁本店において、M事業団が丁から二億円を借り入れるに当たり、ほしいままに、右Eにおいて業務上預り管理中のM財団所有にかかる埼玉県東松山市箭弓町<番地略>所在の土地(時価約二億二〇〇〇万円相当)に、債務者をM事業団、根抵当権者を丁とする極度額二億円の根抵当権設定契約を締結した上、同年四月二日、同市加美町<番地略>所在の浦和地方法務局東松山支局において、右契約に基づき、右根抵当権設定の登記を完了し、もって、同土地を横領し

第四 前記第三記載のとおり、M事業団等の債務の返済資金等に窮し

一  丁の代表理事として同信用組合における業務全般を統括し、顧客に組合資金を貸し付けるに当たっては、関係法令並びに同信用組合の定款及び貸出規程等の定めを遵守するのはもとより、あらかじめ貸付先の営業状態、資産等を精査するとともに、確実にして十分な担保を徴して貸付金の回収に万全の措置を講ずるなど同信用組合のため職務を誠実に遂行すべき任務を有していたH、Gの二名と共謀の上、別表一記載のとおり、平成六年六月一日から同年一二月一日までの間、前後二三回にわたり、丁本店において、M事業団等の利益を図る目的をもって、Hにおいて、前記任務に背き、丁の同一人に対する平成六年度の法定貸出限度額が一二億九二二四万八〇〇〇円に制限されていたのに、既にM事業団に対する貸付額が右限度額を超えていた上、同会社には債務の返済能力がなく、同会社の所有する埼玉県比企郡都幾川村大字西平字振矢<番地略>のゴルフ場の土地及び建物には十分な担保余力がなく、同会社が他に特段の資産を有しないため十分な担保を徴求することができないことから、同会社に貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、十分な担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、丁からM事業団に対し合計一九億一九〇〇万円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え

二  東京都港区虎ノ門<番地略>に本店を置く戊信用組合(以下「戊」ともいう。)の代表理事として同信用組合における業務全般を統括し、顧客に組合資金を貸し付けるに当たっては、関係法令並びに同信用組合の定款及び貸出規程等の定めを遵守するのはもとより、あらかじめ貸付先の営業状態、資産等を精査するとともに、確実にして十分な担保を徴して貸付金の回収に万全の措置を講ずるなど同信用組合のため職務を誠実に遂行すべき任務を有していたI、G、Hの三名と共謀の上、別表二記載のとおり、平成六年六月二三日から同年七月六日までの間、前後六回にわたり、同信用組合本店において、M事業団等の利益を図る目的をもって、Iにおいて、前記任務に背き、同会社には債務の返済能力がない上、同会社の所有する前記ゴルフ場の土地及び建物には十分な担保余力がなく、同会社が他に特段の資産を有しないため十分な担保を徴求することができないことから、同会社に貸付けを行えばその貸付金の回収が危ぶまれる状態にあることを熟知しながら、十分な担保を徴せず、貸付金の回収を確保するための万全の措置を講ずることなく、戊からM事業団に対し合計八億一〇〇〇万円を貸し付け、もって、同信用組合に同額の財産上の損害を加え

たものである。

(証拠)<省略>

(争点に対する判断)

本件において、弁護人は、前記各犯罪事実の成立につきそれぞれ後記のように争い、被告人は無罪であるとして、多岐にわたる主張を展開し、被告人も概ねこれに沿う供述をする。

そこで、以下これらの点について、関係証拠に照らし、当裁判所の判断を示すが、まず本件に関係する多数の会社等につき検討し、これを前提に各犯罪事実ごとに必要な限度で補足して説明することとする(なお、本件は捜査段階の供述調書、公判調書中の供述部分及び公判廷の供述が極めて多数混在するので、以下においては、特に識別する場合を除いて、これらを単に供述と総称する。)。

第一  関係会社等の概要

関係証拠によれば、およそ以下の事実を認めることができる。被告人並びにG、H及びFら関係者の供述中、これに反する部分は、関係証拠により認められる客観的事実関係にそぐわず、不自然、不合理な点が多く、信用することができない。

一  財団法人乙厚生文化財団

1 乙財団は、仕事と余暇の調和のとれたゆとりある勤労者生活の実現を図り我が国の経済社会の活力の維持増進に寄与するため国内及び国際社会における勤労者の労働環境及び余暇活動に関する調査研究等の事業を行うことを目的として、被告人の発案、主導により平成三年一二月に設立された公益性を有する財団法人である(甲一四、一九等)。

2 乙財団の理事長は、設立時より平成四年六月三〇日まで田中次郎、同日から平成六年四月一九日まで鈴木三郎、同日から平成七年六月二二日までPが就き、常務理事には設立時から同年四月二七日までAが就いていた。

3 乙財団の設立時の資産総額二億円のうち、一億八〇〇〇万円は基本財産とされ、平成四年三月三〇日以降、丁本店の乙財団名義の定期預金として保管され、その証書はAが財団理事長印等とともに業務上保管していた。

乙財団基本財産は、寄附行為八条により、事業遂行上やむを得ない理由があって、理事会で理事現在員数の三分の二以上の議決等の所要の手続を経た場合にのみ、その一部を処分し、又は全部若しくは一部を担保に供することができるとされていた。

二  財団法人M厚生文化財団

1 M財団は(当初、財団法人M社会スポーツセンターとして設立され、昭和五六年にM厚生文化財団と名称変更された。以下においては名称変更の前後を問わず、「M財団」と表記する。)、社会体育及び文化教養を普及振興することなどを目的とし、社会体育施設及び文化教養施設の設置及び管理運営等の事業を行う公益法人であり、埼玉県東松山市内においてNスイミングスクールを経営しているほか、同県久喜市内においてもスイミングスクールを経営するなどしている(このため、本件記録上では「プール財団」と称されることもある。)。

2 M財団は、被告人が主導して設立したものであり、被告人自身設立時から平成元年五月三一日まで同財団の理事を務めるなどしていた。また、Eが昭和五三年三月一〇日付けで同財団の理事長に就任し、判示第三の時点でも理事長であった(甲五五等)。

3 M財団の財産は、寄附行為八条により、法人の資産、すなわち、基本財産及び運用財産のいずれについても理事長が管理するものとされ、また、寄附行為一四条、二七条及び二八条により、運用財産について新たな義務の負担又は権利の放棄のうち重要なものを行おうとするときは、理事会においてあらかじめ評議員会の意見を聞いた上、理事現在員数の三分の二以上の者が出席する理事会において、出席理事の過半数の議決をもって決しなければならないとされていた。

三  丁信用組合

丁は、組合員に対する資金の貸付けや手形の割引、組合員の預金又は定期積金の受入れ等の事業を行う信用協同組合であり、Hが昭和五七年五月二二日非常勤の理事に就任し、昭和五八年五月に副理事長に、昭和六〇年五月二五日代表理事理事長に就任し、その業務を統括し、各種融資等についても実権をふるっていたが、同人は平成六年一二月九日に理事長を辞任した。

丁の同一人に対する法定貸出限度額は、自己資本の額等によって毎年変化するが、平成二年以降は、概ね一〇億円から一三億円であり、平成六年度は約一二億九〇〇〇万円であった。

四  戊信用組合

戊は、組合員に対する資金の貸付けや手形の割引、組合員の預金又は定期積金の受入れ等の事業を行う信用協同組合であり、Iが父の後を受けて昭和五八年六月代表理事理事長に就任し、平成六年一二月九日に辞任するまで理事長であった。IはかねてHと親しい間柄にあり、その尽力で大口預金を獲得するなどの協力を受けていた。

戊の法定貸出限度額も丁同様に各年によって異なるが、概ね四億円から八億円前後であり、平成六年度は約八億三〇〇〇万円であった。

五  株式会社甲通商

甲通商は有価証券の保有運用、株取引を主な事業目的として、被告人が昭和六一年一二月二三日に設立した会社であり、被告人が実質的に経営していた。

被告人は甲通商名義で株取引を行うのみならず、秘書名義も用いて株取引を行っていたが、多額の損失を出し、平成二年後半ころからは、株取引を徐々にやめ、保有株式の売却を始めるなどしたものの、その総勘定元帳等をみても、少なくとも平成三年以降の甲通商の財務状態は多額の債務を抱えるなどして極めて悪く、判示第一の犯行時には、その返済資金等に窮していた。

六  丙商事株式会社

1 丙商事は昭和四五年五月ころ、被告人らの母親がセメント、生コンの販売を業として設立し、Fが取締役に就任していたが、同人は、昭和四九年四月に代表取締役に就任した。

丙商事は、昭和五九年ころから埼玉県比企郡小川町において、その子会社(当初は株式会社Y地建(以下「Y地建」ともいう。)との共同出資で設立。)である株式会社PRカントリー倶楽部(以下「PR」ともいう。)の手で同名義のゴルフ場開発を手がけたほか、昭和六二年ころから平成二年ころまでのいわゆるバブル経済期に、アメリカやカナダでのゴルフ場等の買収等の海外投資を行ったが、いわゆるバブル経済の崩壊によってそれらの投資事業は失敗に終わり、多額の損失を被るに至った。

2 平成四年四月ころ、Fの兄である被告人は丙商事とPRの経営状態が悪化していることを知ってその再建に乗り出し、実姉のGに対し丙商事等の負債の調査を指示した。その結果、丙商事は本来の生コン販売部門の業績が落ち込み、融通手形を発行するなどしており、また、PRは複数の銀行からの多額の借入れがあり、PRカントリー倶楽部ゴルフ場の預託金として集めた一五〇億円以上の資金もほとんど残っていない状況であったこと、そればかりか、Fが多額の資金を投下して展開した海外事業が失敗し、それらの経営状態は極度に悪化し、丙商事が約二〇〇億円、PRが約八〇億円の負債を有し、倒産の危機に瀕した深刻な事態に陥っていることが判明した。これを知った被告人は、昭和四二、三年ころに知り合い、昭和五一年に同じマンションに住むようになったことを契機に家族ぐるみで親しく交際していたHに対して、丁からの資金援助を依頼し、以後、M事業団を受け皿として、丁及び戊から融資が開始された。

七  株式会社M厚生文化事業団

M事業団は、被告人が中心となって設立した後、休眠状態にあった株式会社Z政経文化会館を、昭和五七年に株式会社M厚生文化事業団と商号変更したものであり、被告人の知人の大手建設会社元役員が名目上の代表取締役に就任し、H、G、Y地建グループの加藤四郎が取締役となった。そのきっかけとなったのは、被告人が埼玉県比企郡都幾川村の村長から、村興しとしてゴルフ場を同村に開発してほしい旨要請され、これを受けて被告人がゴルフ場開発に乗り出したことにあった。その後、昭和五九年四月には、Gが代表取締役に就任した。

M事業団は、前記ゴルフ場の開発としてMKカントリー倶楽部の建設を手がけ、昭和六三年同ゴルフ場が正式にオープンし、以後同社は同ゴルフ場の経営等を主として行っていた。

八  株式会社I・I・I及び同グループ

株式会社I・I・I(昭和六三年一一月にI・I・I開発株式会社から商号変更。以下「I・I・I」ともいう。)は、リゾート開発事業等を展開する株式会社で、昭和五二年一一月からHが代表取締役に就任した。Hは、株式会社日本長期信用銀行(以下「長銀」ともいう。)等からの借入れで資金を調達し、I・I・Iを持株会社として多数の企業を傘下に収め、I・I・Iグループを形成して、ゴルフ場開発、オーストラリアのボンド大学の設立など国内外での大規模な開発事業を行うとともに、ゼネラルリース株式会社を設立するなどして金融業をも営んでいた。同グループは、実質的にはH個人の判断で、被告人個人に対し、あるいは被告人が実質的に経営する会社を名義人とする巨額の貸付け、資金援助を行っていたが、いわゆるバブル経済の崩壊等の影響で資金繰りが急激に悪化し、平成三年一月ころには長銀等の管理下に入った。

第二  判示第一の一について

一  関係証拠によれば、B、Aらが、乙財団の基本財産である同財団名義の一億八〇〇〇万円の定期預金について、所要の手続をとらず勝手に丁からVへの融資(以下、第二及び第三において「本件融資」ともいう。)の担保に供するため業務上横領した事実(以下、第二において「本件事実」ともいう。)は明らかであるところ、弁護人は、被告人が本件事実に関し、Aら三名と共謀した事実はない旨主張する。すなわち、本件事実は当時資金繰りを担当していたBが第三者から示唆を受けて本件融資を受けることを実行したのであり、被告人には事前にも事後にも何らの報告・相談はなく、被告人とBとの間で平成四年四月の富士証販株式会社(以下「富士証販」ともいう。)への返済が話題になったことはあったが、その内容は「Bから富士証販への返済の話があり、被告人が『延期してもらえ』と話したところ、Bから『乙財団の預金があるのですが』という話が出たので、被告人はそれを聞いて乙財団の預金があることを思い出し、その上で『(弁護士の)中鉢先生にちょっと相談してみてもらえないかな。(富士証販への返済として)乙財団の預金を使うのは難しいだろう』と話した」に過ぎず、乙財団の預金を担保にするといった話は一切出ていないというのであり、被告人もこれに沿う供述をする。

二  この点に関し、本件当時、甲通商や関連会社の資金繰りを担当していたBは、捜査段階(甲一九等)において、被告人の関与につき概ね次のように供述する。

被告人は富士証販から甲通商名義で借入れをしていたが、そのうち二億五〇〇〇万円の支払期日が平成四年四月一〇日となっており、その期日が迫ってきたので、同月初めころ、被告人に資金繰りの報告をした際、この支払いにつき相談すると、被告人は「うーん。そうだなー。乙の金を使っちゃうわけにはいかないしなー。」と言い、「はぁ。」と相づちをうつと、続けて「乙の定期を担保に金を借りられないか。」と言った。そこで、「定期を担保にするんだったら貸してくれるんじゃないですか。」と言うと、被告人は「じゃあ、丁に行って交渉してみてくれ。」と言って、乙財団の定期預金を担保に丁から金を借りるように指示した。

その後、Aに対し、乙財団の定期預金を担保に丁から一億八〇〇〇万円借りることを頼み、併せて被告人が了解済みであることを告げると、Aはこれを即座に了承したが、丁と借入れの交渉をすると、甲通商や関連会社への貸出を断られた。そこで、被告人に電話し、受け皿になる別の会社が必要であるとして指示を仰いだところ、被告人は「そうか。それじゃあ、Gに相談しろ。」と言った。Gに相談し、V名義で丁から借入れを受けられることとなったので、被告人に電話してその旨報告したところ、被告人は「ああ、そうか。分かった。」と答えた。

そこで、丁からのV名義での借入手続を進めたが、丁の担当者から借入手続に乙財団の理事会が定期預金の担保提供を承認した議事録が必要であると言われたことから、Cに議事録を作るように依頼した。その際、Cから被告人に話してあるか尋ねられ、被告人が了解済みであることを告げて、了解を得た。その後、Aにも議事録作成への協力を頼んだ。こうして、借入れに必要な関係書類を全部そろえて、同月八日に丁で借入手続を行い、V名義口座に入金された借入金のうち一億七五〇〇万円を払い戻して、富士証販に送金した。

乙財団理事会の議事録を偽造して丁に提出することについては、事前に被告人に了解をとることはしていない。そもそも借入れを指示したのが被告人であるから、そのために必要な書類の偽造が被告人の意思に反することはなく、あえて了解をとるまでもないと考えたからである。

三  Bの右供述の内容は、本件融資に関する被告人の関与について明確に述べるところを含め、非常に具体的かつ詳細で、それ自体として極めて合理的で自然なものである上、本件融資に関する豊富な各種資料等に裏付けられているばかりか、関係証拠から認められる当時の客観的経緯、状況等にも符合しており、A、Cらの供述ともよく相応する。さらに、Bは、被告人が関与した点のみではなく、議事録作成に関して被告人に事前に報告して了解を得ていなかったことなど、本件事実に関する一連の経過の中で被告人が関与していない点についても、きちんと識別して具体的に供述している。

加えて、Bは当公判廷に証人として出廷した際にも、事実を争う被告人の面前で、被告人の関与について捜査段階の供述とほぼ同様の供述をし、その供述の趣旨は弁護人の詳細、執拗な尋問によっても揺らいでおらず、弁護人が被告人とBのやりとりの内容等として主張する点に関する尋問に対しても、明確にこれを否定している(公判調書(供述)群六四八四丁、六四八五丁、六四八七丁、六四九〇丁等(以下単に「公判調書〇丁」と記載する。))。

なお、被告人の衆議院予算委員会での証人喚問に向けて、被告人方で準備をした際、中鉢弁護士が同席していたかに関する供述等については、当公判廷と捜査段階で矛盾しているようにもみえるが、Bは、当公判廷において、本件につき忘れようと努力しており、細かい相違点などは今は指摘できず、調書をご覧いただきたいというのが実態である旨率直に供述しており(公判調書六五五九丁)、その心情は十分理解できるところであって、いずれにせよ被告人の関与の有無とは事柄の性質、重大性について大きく異なる事項についてのものに過ぎず、これをもって、前記被告人の関与についてのB供述の信用性に影響を与え得るようなものではない。

以上によれば、被告人の本件融資への関与についてのBの前記供述は、弁護人が不自然で信用できないと主張するところを考慮しても(その検討内容は後記四参照)、十分信用することができ、これと相互に合致、補完し合うA、Cらの供述内容、その他の関係証拠をも総合すると、被告人がBに対し乙財団の定期預金を担保に本件融資を行うことを指示し、B及び同人を介して順次成立したA、Cとの共謀に基づき、本件事実を犯したものと証拠上優に認められる。

四  これに対し、弁護人は、被告人が本件事実に関与していないとして種々主張するので、必要な範囲で付言する。

1 弁護人は、被告人としては、富士証販に対する返済は誠意をもってお願いすれば支払いを延期等してもらえるものと認識しており、平成四年四月の段階で返済資金調達の必要性自体を認識していなかったから、本件融資を指示する動機がなかった旨主張し、被告人もこれに沿う供述をする。

しかしながら、富士証販代表取締役であった上原邦久によれば、富士証販から甲通商に対する融資については、その返済が借替えを繰り返して事実上延期される事態が続いていたため、平成四年四月当時は、事実上返済を延期するにしても、いったんは返済期日に全額を払ってもらわないと、再貸付けはできない、それもできないのなら手形を交換に回して取り立てる旨強硬な態度を示していたことが認められ(甲二一七)、この点についてはBの方でも、富士証販は一度決済しないと再度の借入れはできないところである旨同様の認識を持っていたものと認められる(甲一九、公判調書六四八五、六四八六丁等)。

そして、被告人の関連会社の資金繰りを担当していたBとしては、いつどういった支払いが生じるのかについて被告人に報告する義務があり(甲一九、公判調書六四八四丁等)、実際平成四年四月分の資金繰りについても、同月初めに被告人と打合せを行っており(甲一九、公判調書六四八二丁等)、その際には、客観的にも富士証販からの借入れの支払いを無条件に延期等してもらうことはできず、借替えのためには返済期日である平成四年四月一〇日までにいったん全額返済することが必要な状況であって、Bはこのことを把握した上で被告人に対して、資金繰りの相談に及んでいることが認められる。

これらの事実に鑑みれば、被告人に返済資金を調達しなければならないとの認識自体がなかったとは到底認められず、弁護人の主張は理由がない。

2 弁護人は、預金を担保として第三者名義で融資を受けるという本件のような煩雑な方法を、政治家である被告人が自ら考案したとは考えられない旨主張し、被告人も本件融資のような方法は理解できないと供述する。

確かに、関係証拠によれば、乙財団の基本財産である定期預金は、平成三年一一月に住友銀行に入金されてから同年一二月には払い戻され、甲通商に貸し付けられていたが、平成四年三月末日が乙財団の決算期であるため、同月三〇日にようやく返済され、丁本店に乙財団名義の定期預金として設定されたものであることが認められる。しかしながら、本件定期預金は従前と異なり、丁に預金協力する趣旨で定期預金を設定したものと理解できるところ(甲八〇等)、未だ入金、設定したばかりの状況であったこと、Bが富士証販の返済につき相談した際に、被告人が乙の金を使っちゃうわけにはいかないしな、あるいは乙財団の定期預金を崩しちゃうわけにいかないしな、との趣旨のことを答えるなどして、乙財団の定期預金を解約することに抵抗を感じていた実情が窺われること、たとえ担保に供したままであったとしても定期預金自体は残しておけば、財団の決算期にあらためて定期預金を設定する必要がないとみられることなどを併せ考えれば、被告人が定期預金を解約することなく、担保として提供する方法を考え、指示したとみることも何ら不自然とはいえない。なお、第三者名義で融資を受ける事態に至ったのは、被告人の指示後、実際に借入手続を行うに際して丁側から甲通商等に対しては融資できない旨断られたところから、結果的に本件融資のような形態となったものであって、当初から被告人がその旨指示したものではないことが証拠上明らかである。

3 また、弁護人は、本件融資に関して、被告人から乙財団常務理事であったAやCに直接指示したはずであるのに、そのような事情がないのは不自然である旨主張する。

しかし、関係証拠によれば、Aは本件以前の財団基本財産流用に関しても、具体的状況を詳細に把握しておらず、被告人から直接指示された形跡もない上、本件融資に関しても、A及びCは、Bから被告人了解済みのことであるとして依頼されるや、直接被告人から指示されたり、その意向を確認するまでもなく、これに応じて所要の手続や事務協力を行い、本件融資を円滑に実現させているのである。本件当時は、主としてBが資金繰りを行うようになってから二か月程度しか経っておらず、被告人とBとの関係、同人の立場その他の客観的状況に照らして、そもそもBが被告人の指示を受けずに独断で本件融資を企図、実行するものとは考えられないし、また被告人の了解、指示の有無については、AやCらが被告人に確認すれば直ちに事実が明らかになるのであるから、あえてBがそのような事柄につき嘘をついてまで本件事実を犯したものとは到底みることができない。結局、およそ本件当時の被告人事務所関係者の間では、Bが供述するような態様で事務が執り行われていたものとみるのが自然であって、弁護人の主張には理由がない。

4 なお、弁護人は、B供述の信用性に関して、このころの資金需要としては富士証販への返済以外にも様々なものがあるのに、何故被告人が富士証販に関してのみ、わざわざ指示しなければならないのか、合理的な理由がない旨主張する。

しかしながら、本件当時、富士証販への返済についてだけ特に念頭においていたわけではないことはB自らが述べるところであり(公判調書六五三二丁等)、しかも平成四年四月から五月にかけての資金繰りに関してBが作成した一覧表(甲一九添付資料一〇等)によれば、同年四月一〇日の富士証販への返済までの資金需要は、せいぜい一七〇〇万円程度のもので、十分調達可能であったこと、富士証販以後の大口の資金需要は同月二五日までないことが認められるのであるから、同月初めころの打合せにおいて、被告人が富士証販への返済について特に指示したとしても、何ら不自然、不合理ではない。

以上のとおりであり、右認定に反する被告人の供述は、本件事実当時、被告人の置かれていた経済的状況、Bらとの関係等からしても、不自然、不合理な点が多く、Bの供述等に照らし、信用することができず、そのほか、弁護人の主張に鑑み、関係証拠を子細に検討しても、その主張はいずれも理由がない。

第三  判示第一の二について

一  関係証拠によれば、被告人が平成七年六月一七日、衆議院予算委員会において、証人として法律により宣誓の上、判示第一の二事実記載の趣旨の陳述をした(以下「本件証言」という。)ことは明らかであるところ、弁護人は、①乙財団の基本財産の流用に被告人が関与していないとの部分(以下「①部分」という。)については、事実を証言したものであり何ら偽証に該当せず、②乙財団の基本財産の流用をFが行ったことを肯定した部分(以下「②部分」という。)については、被告人は、証言直前の関係者からの事情聴取の結果、本件融資はFの関わりの中で実行されたものと認識し、その認識のとおりに証言したものであるから、偽証罪を構成せず、③Pに告訴しないでほしい旨依頼したことはないとの部分(以下「③部分」という。)については、衆議院予算委員会による告発の対象となっておらず訴訟条件が具備されていないから、判決の対象からは外されるべきであり、また、被告人がPに対して告訴しないでほしいと依頼した事実は一切なく、証言は真実を述べたものであり偽証は成立していない旨主張し、被告人も概ねこれに沿う供述をする。

二  ①の主張について

この点については、前記第二のとおり、被告人が本件融資に関与していたこと、Bが被告人に対し本件融資に関連して報告等をしていたことが証拠上優に認められ、事実を証言したもので偽証には該当しないとする弁護人の主張は理由がない。

三  ②の主張について

証拠によれば、②部分の証言内容は、「乙厚生文化財団の基本財産の流用については実弟のFさんが証人(被告人を意味する。)に無断で流用をやった、そういうふうに私は理解をしたのですが、証人の認識もそれと同じでよろしゅうございますか。」との質問に対し、「大変残念なことでございますけれども、そういう事実経過でございます。」と証言しているのであり、その趣旨は、被告人が本件融資に何ら関与していないことを前提にした上で、Fが被告人に無断で本件融資を実行したと認識しているというのである。そうすると、前記第二で説示したとおり、被告人が本件融資に密接に関与していることは明らかであり、ましてFが被告人に無断で本件融資を行ったという事実関係でもないことは、被告人としても十分承知していたはずのところであるから、その余の点について検討するまでもなく、Fが被告人に無断で乙財団の基本財産を流用したことを認める右証言が虚偽であることは明らかである。弁護人主張のように、②部分を①部分と分断した上で、②部分につき被告人がどのように認識していたかを別途検討する余地はない。

弁護人の②部分に関する主張は、その前提を欠くものであって理由がない。

なお、念のため付言するに、B、A及びCの各供述等の関係証拠によれば、被告人は本件証言に備え、その二日くらい前にB、A、Cらを被告人方に呼び集め、本件融資はFがAに乙財団の定期預金の流用を依頼し、Aが一人でこれに応じたもので、被告人は全く関与していなかったことにする旨、口裏合わせを指示した経緯が認められ、この点からしても、被告人が虚偽であることを十分認識しながら①、②部分の証言をしたことは明らかである。

四  ③の主張について

議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律六条一項違反の罪については、同法による一個の宣誓に基づく同一の証人尋問の手続においてされた数個の虚偽陳述は、一罪を構成するものと解されるところ、右の数個の陳述の一部分について議院等の告発がされた場合、その告発の効力は一罪を構成する他の陳述部分についても及ぶものと解するのが相当である(最高裁判所平成四年九月一八日第三小法廷判決・刑集四六巻六号三五五頁)。そして、証拠によれば、①ないし③部分はいずれも同一の証人尋問手続における陳述であり、そのうち①、②部分について、衆議院予算委員会が虚偽であるとして告発していることが認められるから、その告発の効力は③部分にも及ぶものというべきであり、弁護人の主張には理由がない。

五  ③の主張について

1 平成七年五月当時、乙財団理事長であったPの捜査段階(同年一一、一二月時点)の供述によれば、Pは、被告人が乙財団の理事長印等を約束に反して返還しないことからその返還を求めるとともに、乙財団の基本財産である定期預金が勝手に、財団と無関係な借入金の担保に差し入れられていたことに関して、捜査当局から事情聴取を受け、告訴の意思を尋ねられるなどしていたところ、同年五月下旬ころ、突然永田町にある被告人事務所に呼ばれ、同事務所で、被告人から「Pさん、あんまり手荒なことはしないで貰えませんか。私は良いとしてもPさんが手荒なことをすると、あなたが可愛がってるHちゃんの罪が重くなってしまう。」と言われ、これに対し、Pが「手荒なことをするなとは、告訴をするなということですか。」と言うと、被告人は「そういうことです。告訴はしないでくれませんか。」と言った、というのである。

2 また、同月二九日ころ、Pから乙財団の理事長印、定期預金証書等の返還を求めることなどを依頼された今井三義弁護士(以下「今井」という。)は、当公判廷で、そのころ、Pから被告人ないし被告人側から言ってきている内容として聞いたところでは、乙財団が被告人を「告訴するといったことはしないでほしい。」(公判調書七二八五丁)、「自分を告訴するというようなことはしないでほしい、話合いで穏便に解決することではないか。」(同七二八七丁)、「告訴しないで欲しい、円満に話合いで解決しましょう。」(同七二九九丁)等と言ってきているということであり、また、同年六月九日に被告人が理事長印等を預けていた小川憲久弁護士(以下「小川」という。)の事務所で、今井も立ち会って被告人と話し合った際には、Pから、印鑑等の返還時期がはっきりしないのであれば、告訴も考えざるを得ない、と言ったところ、被告人は「告訴をするのなら仕方ないのかも分からないけど、そんなことじゃなくて、そんなに事を荒立てないで穏便に話合いで解決しましょうよ。」旨を言っていた(同七二九三丁、七三〇四丁等)などと供述している。

今井の右供述は、事実を争う被告人の面前でPから依頼を受けて代理人として活動した経緯、状況を具体的に述べるもので、その内容も合理的で自然である上、必ずしも被告人に不利な方向でばかり証言しているわけでもなく、記憶が明確なところとあいまいなところを一定の理由を示すなどして誠実に証言しており、その供述内容は十分信用できる。そして、今井が、平成七年五月末ころ、Pからマスコミ関係者を通じて乙財団の理事長印等の返還のために依頼を受けた弁護士であり、Pが右のような依頼者と弁護士の関係にある今井に対して、親しくしているマスコミ関係者も介在するなかで、あえて虚偽の事実を告げるとは考えにくいことなどからすると、今井供述中のPの発言内容についても、大筋において事実として信用することができる。

なお、弁護人はPの発言に関する今井供述につき、伝聞証言であって証拠能力がない旨主張するが、前示したところに加えて、Pが既に死亡していること(甲三二五)、今井の証言に際して弁護人が伝聞証言との異議を出した証言事項は一か所のみであり(公判調書七二八五丁)、その異議も棄却されていること等からすると、弁護人の主張には理由がないというべきである。

3 以上のとおり、今井供述中に現れた平成七年五、六月当時のPの言動は十分信用できるところ、これと比較検討するに、それから約半年後にされた捜査段階におけるP供述の内容は概ねこれと一致しており、このことはPの供述の信憑性を裏付けるものである。

また、今井が直接体験したところによっても、同年六月九日の小川弁護士の事務所における話合いにおいて、告訴を考えざるを得ないとのPの話に対し、被告人は話合いをしながら穏便に解決しようと答えているのであって、これはその直前の同年五月下旬に、表現方法等は異なるものの、被告人から同趣旨の話があったとするP供述を裏付けるものといえる。

なお、弁護人は、被告人の右発言は告訴しないで欲しいとの趣旨ではないと主張するが、今井が合理的かつ詳細に供述するPと被告人のやりとりの経緯に照らせば、同発言は、被告人が理事長印等の返還時期を明確にしなかったため、Pが刑事告訴の件を持ち出したのに対応して、被告人が述べたものであって、会話の流れからしても弁護人の主張するようにみることはできない。

さらに、Pの供述内容が、それ自体として詳細かつ合理的なものであること、Pの供述が被告人の衆議院での証言後にされたもので、被告人の証言内容との食違い等を十分意識した上でのものであること等の事情を併せ考えると、弁護人がその信用性について種々論難する点につき十分考慮、検討しても、Pの前記供述はこれを信用することができる。

4 これに対し、弁護人は、H、小川、Rは、三者とも被告人がPに告訴しないで欲しいと依頼したことを聞いたことはない旨供述しており、これらの供述はいずれも十分に信用できると主張する。

しかしながら、Hの公判廷供述は被告人との人的関係等を考慮すれば必ずしも信用できない上、証拠上、被告人とPとの本件関係にHが密接にかかわる状況にもなかったことが認められるから、本件に関連していえば、たとえHが被告人からPに依頼した事情を承知していなかったとしても、Pの供述の信用性が大きく減殺されるとはいえない。

また、小川は、平成七年五月初めころ、被告人から乙財団の理事長印等を預かるように依頼された弁護士であり、乙財団に関しては被告人の依頼を受けるまで承知しておらず、当初のいきさつについてもよく分かっていないものと窺われる。さらに、小川の公判廷供述をみても、最も強く印象付けられ、詳細な記憶が残っていてもしかるべきと思われる平成七年六月九日の自分の事務所における話合いについてすら、甚だあいまいな内容の供述にとどまっており、その結果双方で議論したとしながら結局どうなったかは思い出せないとするなど、前記今井供述と比較して明らかに不合理なものとなっていて、その信用性は乏しい。

さらに、RはPの実の娘であって、確かに弁護人主張のとおり、本来的にはことさら被告人に有利な証言をするものとは思われない間柄にあるところ、Rの公判廷供述によれば、被告人が平成七年五月一〇日午後八時ころ、Rの家を訪ねてきたが、そのときは子供の話しかしなかったし、Pの告訴の件は全く出なかった、また、同月下旬ころ、Pから、被告人に告訴しないでくれと依頼された旨の話は聞いていない、というのである。しかしながら、前示のとおり信用性の高い今井の供述によれば、Pは今井に対し、被告人がRの家に来て、告訴しないよう依頼する趣旨と思われる金員を置いていったなどとも話しており、Pが今井に対して、実娘に関するありもしない話をするとは到底思われない。また、平成七年五月ころに、被告人とPとの間で、目的や真意はともかくとして、告訴に関するやりとりが行われたこと自体は被告人も認めており、客観的に明らかであるところ、当時一日に三回くらいの割合でRと電話連絡を取りあっていたPが、今井らに親しく話していた被告人とのやりとりについて、Rに限っては全く話さなかったというのも、かなり不自然であるし、RがよくPから愚痴めいたことを聞かされていたとするにもかかわらず、Rだけが周囲の関係者が一致して述べるところに反して、Pが被告人と対立していたことは全くない旨供述するのも不可解というほかない。そして、関係証拠によれば、Rは被告人とは右日時までは数回挨拶程度の話をしただけで、被告人がR方を訪ねたのもこの時が初めてであること、一方、平成七年五月一〇日は、本件等に関連して、被告人の関係する会社等に対する捜索等の強制捜査が着手されるという当日であり、乙財団の基本財産流用疑惑についてPが事情を聴取されていることなども新聞で取りざたされていた時期であることが認められる。そうすると、当然被告人の動向も注目されていた筋合いのところ、そのような時期に被告人がわざわざRの家を訪ねているにもかかわらず、その用件についてRが述べるところは不自然極まりなく、結局Rの供述は到底信用することができないというほかない。加えて、Pにおいて、Rが公判廷供述同様の供述を捜査機関にしていることを承知した上で、それまでの供述内容を維持しているばかりか、Rがそのような供述をする事情についても一定の理由を示していること(甲三一八)等に鑑みれば、R供述をもって、P供述の信用性を左右するものではない。

5 そのほか、弁護人が主張するところを十分に考慮しても、Pの供述はこれを信用することができ、これによれば被告人がPに対して、告訴しないでほしい旨依頼した事実が認められ、被告人の③部分の証言は、弁護人主張のように真実を述べたものとはいえず、被告人は虚偽の陳述をしたものと認められる。

六  以上のとおりであり、右認定に反する被告人の供述は、当時の客観的情勢にそぐわない不自然、不合理な点が多く、B、Pらの供述等に照らしても、信用することができず、そのほか、弁護人の主張に鑑み、関係証拠を子細に検討しても、その主張はいずれも理由がなく、判示第一の二の事実は十分認められる。

第三  判示第二の事実について

一  関係証拠上、L学園がK工業大学を経営していること、Dが本件犯行当時被告人の秘書として、その命を受けW国際大学建設事業に従事していたこと、被告人とQが平成四年四月二三日に判示場所で面会したこと、Dが翌五月一五日に元国立大学学長らを同道して判示場所でL学園の理事らに説明会を行ったこと、同年六月八日、L学園所有の一億六九〇〇万円が、財団法人W国際政策交流財団名義の普通預金口座に振込送金されたことは、いずれも明らかであるところ、弁護人は、本件当時、W国際大学事業は頓挫しておらず実現可能であり、右面会及び説明会の際に被告人らがQらに対してした説明には虚偽の事実はなく、Qにも誤信はないのであって、被告人には詐欺の欺罔行為も故意もなく無罪であると主張し、被告人も同内容の供述をする。

二  弁護人は、本件について、とりわけ判示事実に沿うQの供述内容の信用性を強く争うところ、確かに、判示第二記載の被告人及びDの各発言内容並びにそれを信じて預託金が拠出されたか否かについては、両者の発言をともに直接聞き、預託基金(関係証拠によれば、当初は預託金と称していたのを、元本保全の印象を与えて集めやすくするために預託基金との名称で資金提供を求めるようになった経緯が窺われるものの、本件においては、時期を前後しながら両方の名称が使用されているので、以下においては、供述を引いた部分以外については、「預託金」という。)拠出の決定の中心となったQの供述が最も重要であるから、まず同人の供述の信用性につき検討する。

1 Qは、公判廷において、被告人及びDの発言内容等につき、以下のように供述する。

平成三年に知人の紹介で被告人と知り合い、同年一二月ころ永田町にある被告人の事務所でW国際大学の話を聞いた。翌平成四年二月、被告人にK工業大学で講演をしてもらったお礼に行った際に、W国際大学事業に預託金を拠出して欲しいとの話が初めてあった。その後、被告人側から、大学のパンフレットなどが送られてきていたところ、被告人から電話があり、同年四月二三日、K工業大学の東京事務所で、被告人と面会する約束をした。当日、被告人は、Dを伴って同事務所を訪れ、次のような内容の説明をした(本件犯行において欺罔行為とされる説明の内容は、大別すると①大学の建設用地の確保、②大学校舎等の建設資金調達のめど及び進捗状況、③J・W大学との提携、④預託金の使途及び返還等に分けられるので、以下においては、便宜これらに応じて、Qの供述内容を示す。)。

① W国際大学建設の土地取得について

土地は、もう既に確保しています(公判調書一三六五丁)、土地はもう既に取得をしている(同一三六六丁)、土地は既に確保しておると。いわゆる、取得していると(同一三七二丁)

② W国際大学建設の資金及び進捗状況について

建物も企業からの寄付が確実になりました。そういう事業資金が出て、もう、仕掛かるばかりです(公判調書一三六五丁)、大学の建設については企業その他から寄付を集めて、それで建設する(同一三六六丁)、企業からの寄付はほとんど、もう、集まる段階にきた。大学建設に今すぐにでも取り掛かる(同一三六七丁)、企業と財界から集めた寄付金は、土地の取得費、それから、校舎建築費の事業資金として使う(同一三六九丁)、企業とか財界からの寄付も集まって、今すぐからでも校舎建築に取り掛かる段階だ(同一三七二丁)、平成六年の九月には竣工して開校する運びになる(同一三七三丁)

③ J・W大学との提携について

J・W大学と提携する段階になりました。ほかにも一、二校提携した(公判調書一三七〇丁)、J・W大学と提携をすることになっている。J・W大学と提携することになりました(同一三七六丁)

④ 預託金について

預託基金なので、元本はプールして運用し、その利息で学校の年間の経常に使用させてもらう。よって、預託基金についての利息は国際大学の方で使用するので、拠出された大学には、利息はお返ししません(公判調書一三六七丁)、預託基金については、土地取得資金や大学建設資金などの事業費には使わない。大学から返還の請求があった時に、お返しします、安心でしょう。元本がプールして残っているから、返還請求があれば返しますよ、だから、安心でしょう。W国際大学で一二年間預かり、返還請求があったときにはお返しいたします。ただし、一年前に返還の請求をして下さい(同一三六八丁)、返還請求がなかったら、続けてそのまま継続する(同一三六九丁)、W国際大学に、一二年間、お預かりして、その利息で大学の年間の経常費は使わせてもらうので、元本には手をつけませんので、そのまま残りますから、大学から返還請求があった場合にはお返しします(同一三七三丁)、預託基金はアメリカのW国際大学にドル建てで送金する。財界から集まった寄付金と一緒に、アメリカに送金する(同一三六九丁)、事業資金と預託基金を一緒に送金するから、早く決心して、参加してほしい(同一三七〇丁)

また、被告人は、敷地が広いからゴルフ場もできますからなどと言い、二二〇万平方メートルに及ぶ敷地全体の図面や各種施設等の計画図を見せた。被告人の説明を聞いて、素晴らしい構想のW国際大学が今すぐにでもできること、預託金が元本はそのまま返還してもらえること、J・W大学と提携することなどから魅力を感じ、前向きに検討しようと考えた。この時点では預託金が二〇〇万ドルでどうかと言われており、額の大きいことが支障になると思われたが、役員会等に諮りたいと言うと、よろしくお願いしますと言われた。

その後、平成四年五月一五日に、K工業大学で説明会が行われることとなり、同日、Dが元国立大学学長らとともにやってきて、QをはじめとするL学園の理事らに対し、以下のような説明を行った。

① W国際大学建設の土地取得について

土地は、二二〇万平方メートル取得している(公判調書一三八一丁)

② W国際大学建設の資金及び進捗状況について

大学の建物の建設予定については、すぐでも取り掛かる。事業資金については企業からと財界から寄付は集まる。寄付はほとんど希望どおりに集まりにかかっている。集まるめどがついてる(公判調書一三八二丁)、W国際大学プロジェクトは順調である。W国際大学のオープンは平成七年の九月になる(同一三八一丁)、土地の取得、確保、大学建設に取り掛かる状態にある、事業資金は財界からの寄付で、その調達についてはめどがついているというようなことについては、Dは被告人の言葉と全く同じような言葉だった(同一三八三丁)

③ J・W大学との提携について

J・W大学と提携ができた。他の大学とも提携している(公判調書一三八四丁)、K工業大学は「工科経営」だし、J・W大学にはすべての学部があるので、特に工科、理工科系統の関連はよくできるはず、学生もJ・W大学に送ることができますので、大きなメリットになります。K工業大学のパンフレットにJ・W大学の名前を使ってもいい(同一三八四、一三八五丁)、J・W大学・アジア太平洋研究センターを窓口として、J・W大学との提携になります(同一五二二丁)

④ 預託金について

学校それぞれから出していただいた預託基金はプールして、それを運用して、その利息で学校の年間の経常費に使わせてもらう。元本はなくなりませんから。預託基金は事業資金には使わない。企業と財界から集まった寄付金を、土地の取得費それから建築費の事業資金に使います。預託基金はそれには使いません。一二年間大学から出していただいた預託基金は、W国際大学にプールして、そして運用して、その利息でW国際大学の年間の経常費に充てたい(公判調書一三八三丁)、大学からの返還の請求があったときには、一年前に返還請求があれば、一二年後にお返しする(同一三八四丁)

また、Dは、W国際大学と言っていたし(公判調書一三八一丁)、W国際大学は、W国際政策交流財団の下部組織の国際教育文化フォーラムの中に設置いたしますと説明し(同一三九〇丁)、この説明会で配布されたW国際政策交流財団の事業概要という説明資料(甲三五添付資料⑭)とは別の説明をしたことはなかった(同一三九一丁、一五二一丁)。資料にはW国際大学の名前はないが、L学園とK工業大学の関係と同様に、学校法人に相当するのがW国際政策交流財団であると思った(同一三九〇丁)。J・W大学との提携については、配布資料の事業概要に、同大学のことが説明された上で、日本の教授陣がこの海外施設で研修・研究できると記載されていたので、Dの説明どおりにアジア太平洋研究センターを窓口にして、J・W大学自体とも交流できると理解した(同一五七七丁)。

右説明会の後、平成四年五月二七日、K工業大学の理事会が開かれた。理事の大半は説明会に出席しており、欠席していた理事には説明資料を見せるなどして説明したが、W国際大学が平成七年九月に開校されること、建設用地は取得済みで、建設に取り掛かる段階にきていること、預託金の元本は保存され、一二年後には返還されること、J・W大学と協定が提携されていることなどについて、誰からも疑いは出されず、被告人やDの説明内容が事実であることを前提として、拠出額についてだけ一三〇万ドルに減額した上で預託金拠出が決定され、平成四年六月八日、W国際政策交流財団名義の口座に一億六九〇〇万円を振込送金した。

被告人やDの右①ないし④の説明を信じていたから、預託金を出したもので、そのいずれかが事実と違っていたら、預託金は拠出していない。

2 右Qの供述は、自ら経験した被告人らの発言内容や預託金拠出決定の経緯について、時として憤りを示すなど(公判調書一四一〇丁等)率直な態度で、具体的かつ詳細に述べるものであって、弁護人の執拗かつ詳細な反対尋問に対してもさほど揺らいでおらず、被告人らの説明内容等にかかわる主要部分の供述内容は一貫していて、関係証拠から認められる本件当時の客観的状況にもよく符合するまことに自然なものであり、特段不合理な点はない上、本件前後に被告人らから送付されたパンフレットや説明会に使用された資料等の豊富な客観的証拠に裏付けられていることなどからして、高い信用性を有する。そして、Qは平成七年一一月半ばころ、被告人にだまされたことを知り、その後間もない翌月二一日に、L学園理事長として被告人を詐欺罪で刑事告訴していることが認められるが(同一四一四丁等、甲二八五)、その告訴に至る経緯に不自然な点はなく、Qの意図に反して告訴したような事情は認められないところ、このようなQの動向は、その供述内容が事実であることによく相応するものということができる。

3 また、被告人の説明振りを直接見聞するとともに、自ら説明を行うなどしたDは、当公判廷において事実を争う被告人の面前で、前記Q供述の①ないし④のような説明が事実に反していること、被告人の指示でQらをだますことになると分かっていながら、そのような虚偽の説明をしたことなど、Qの前記供述と概ね一致する供述をしている。Dの供述は、それ自体として一貫しており、特に不自然、不合理な点は見受けられず、弁護人の反対尋問に対しても主要部分の供述内容に揺らぐところはない。何より、その供述内容の多くは、本件当時の実情のみならず、その前後の経緯を含めて、当時作成された豊富な客観的資料やこれに記載された内容等により裏付けられていて、極めて高い信用性を持つと評価できる上、折々に被告人の発言を聞いて感じた心情等も含めて、Dの同僚で同じくW国際大学建設事業に携わっていた被告人の秘書Sの捜査段階における供述内容(甲三八、二六九ないし二七三)ともよく符合している。

弁護人は、Dの供述は、従犯的立場にある共犯者の供述であって主犯とされる被告人に不利な方向で責任を押し付けているなどとして、全く信用性に欠けると縷々主張する。確かに、弁護人主張のように、Dは本件において共犯者として掲げられていながら、逮捕、起訴ともされていないものである。しかし、被告人も公判廷で認めるように、Dは国会議員であった被告人の秘書中、その末端に位置する若輩者であり、被告人の指示するままに動いていたことを基調とするDの供述内容は、当時の同人の置かれた立場によく相応し、無理のない自然かつ合理的なものというべきであるし、被告人の意向に逆らうことが困難であったDの本件への関与の度合いに照らすと、同人が不起訴になったからといって、とりわけ不自然というわけではない。そして、Dの当公判廷における供述内容をつぶさに検討すると、必ずしも一方的に被告人にとって不利益となるような点のみを供述しているわけではないし、捜査段階と同様の供述をしていると推測されるところ、Dは取調べ初期の段階から、起訴、不起訴に関わらず市議会議員選挙への立候補は相当でないと取調べ検察官に指摘されながら、率直に自己の本件詐欺への関与も含めて供述しているのであって、このような本件の共犯者として起訴される可能性が必ずしも否定できない段階からされていた供述の内容はむしろ信頼できるものである。その余の弁護人の主張に照らしても、関係証拠によれば、D供述の信用性を失わしめるものはなく、その供述はこれを信用できる。

そうすると、Dの右供述は、それ自体として被告人の本件犯行への関与を証するものであり、併せてQ供述と相まって、その供述内容の信用性を補強するものといえる。

4 以上によれば、Qの前記供述は、それ自体信用性があり、D供述とも一致していて、その供述に裏付けられている上、その他の関係証拠とも合致していることから、十分信用することができる。

これに対して、弁護人は、Qは預託金がその元本を保存される性質のものでないことやW国際大学の事業内容、進捗状況等すべてを承知しており、預託金の趣旨について、元本はプールして運用し利息を経常費に使うと説明され、それを信じたなどといった同人の供述には信用性が全く認められないとして、その理由につき縷々主張するので、以下検討する。

(一) 弁護人の主張の主要な理由は、平成四年七月の参議院議員選挙への出馬を考えていたQは、その資金捻出のため、被告人との間で、被告人からの選挙資金協力を預託金拠出の交換条件とすることを事前に了解し、すべてを承知の上でL学園からの預託金一億六九〇〇万円の拠出に応じ、平成四年六月一二日ころに、右送金した金員の中から三八〇〇万円を選挙資金として被告人から受け取っていたところ、これらの事実を隠し通そうとして、詐欺の被害者を装い右のような供述をしたものであるから、このような点に鑑みればQ供述はおよそ信頼するに値しないというものである。

確かに、関係証拠によれば、弁護人指摘の時期に、Qが被告人から現金三八〇〇万円を受け取ったこと、しかるにQはこの点につき、平成八年一〇月に行われた第一三ないし一五回公判においては供述しておらず、同年六月七日に羽柴弁護人らがK工業大学にQを訪ねた際にも否定し、ようやく平成一〇年一一月の第六八回公判に至って初めて供述するに至ったことが認められ、右のような供述の経緯を見る限り、弁護人主張のような疑いを容れる余地があるかの如きである。

しかしながら、弁護人主張のようにQが被告人と交換条件で預託金を拠出し、選挙資金として預託金の一部の返還を受けていたような事情が実際にあり、それが明らかになったとすれば、Q自身が背任等の刑事責任すら問われかねないのであって、しかもいったん告訴すれば、それに伴い事実関係が徹底的に糾明されることは必至の状況にあったのであるから、それにもかかわらずQが前記のように本件を刑事告訴するとは考えにくい。また、被告人自身、右のような預託金の一部を返還する旨の約束があったことにつき何ら具体的な供述をしていないばかりか、前記Qの二回目の証言が行われた後の公判において、振り込まれた預託金の中からQに三八〇〇万円を渡したのは結果としてそうなってしまったということで、預託金の中からカンパしましょうというストレートなものの考え方は必ずしも持っていなかった(公判調書七三八八丁)と供述し、さらに、Qから選挙資金の援助を依頼されたことはない(同七五二八丁)、Qに渡した陣中見舞いは返してもらえると思っていた(同七五三一丁)とまで述べているのである。このような事情に加えて、Qも三八〇〇万円は預託基金の一部ではなく別の方の金を用立てしてきたと思い、被告人もそのように言っていたと明確に述べていること(同六九一三丁)などからすると、被告人からQに渡った三八〇〇万円が客観的にはL学園から送金された預託金の一部であるとしても、あらかじめ預託金の中から三八〇〇万円を返還するといった了解ないし約束が被告人とQの間にあったとは認められない。また、預託金拠出が選挙資金と交換条件であったと窺わせるに足りる証拠もない。

弁護人の右主張は、前提を欠く。

なお、Qが三八〇〇万円の授受につき必ずしも積極的に供述しなかったのは、被告人との間でこの点につき誰にも言わないとの約束を交わしたこと、金銭の性質、その授受状況等からして公言しうる性格のものではないと認識していたであろうこと等が考えられ、この点に関するQの説明も一応首肯するに足りるものであるから、これをもって直ちにQ供述の信用性が全般的に害されるとはいえない。また、たとえ預託金の拠出と三八〇〇万円の授受が何らかの関連性を有していたとしても、だからといってQがW国際大学建設事業につきどのように認識していたかや、被告人及びDの発言がどのようなものであったかについてのQ供述が虚偽であることに必ずしも結びつくものではない。

弁護人の主張する点は、関係証拠に照らし、Q供述の信用性を左右しうるようなものではない。

(二) また、弁護人は、Qは、羽柴弁護人らが平成八年六月七日にK工業大学を訪ねた際に、預託金につき質問を受け、預託金を別の方に利用するとかしないとかいう話は聞いておらず、被告人と預託金を使ってはならない旨の約束もしていないなどと発言しており(甲三二九、弁五八。なお、平成八年押第一九九四号の10)、これに反するQの当公判廷における供述は信用できないと主張する。

検討するに、弁五八等により認められる弁護人とQの話の経緯をみてみると、Qは、当初被告人から三八〇〇万円の金銭を受け取ったか否かに関連して預託金の性格を尋ねられ、金銭の授受につきこれをかたくなに否定し、その後金銭の授受の有無自体は別論として預託金の性格を尋ねられ、預託金の趣旨を聞くことが弁護人の意図である旨明確に告げられた上での当初の質問に対しては「預託金として受け取って一二年後にお返ししますと。」「但し、利息については、事業の運用に使わさせてもらってということでしたね。」と答え、その後、「元本に一切手をつけてはいけないということではない」旨にとれる発言をし、さらに、雑談を交えつつも弁護人の見解を交えた質問が続き、「預託金は、別の方に利用するとか、しないとかというような話は聞いていない。」「約束したのは協定書にあること以上でも以下でもないことは間違いない。」などと応答している状況が認められる。また、右面談は午前一一時三〇分から始められているが、同日、Qは午前一二時から予定されている現職理事の葬儀に出席しなければならず、極めてあわただしい状況の下で面談が行われた様子が顕著に認められる。そして、Qは、右面談の模様を録音したテープの内容が示された後の平成一〇年一一月における第六八回公判で、預託金につき弁護人に対して公判供述とは異なるかのような発言があった理由につき、弁護人の発言に対し、ああ、そういうことなんですね、と相づちをうったものが、弁護人の言い分を肯定するようにとられている旨それなりの理由を述べるとともに(公判調書六九一七丁以下)、あくまで真意は元本は使ってはいけないということであり、そうでなければ利息が生じない旨明言している(同六九一九丁)。前者の点については、右テープの存在、内容が証拠上現われる以前の平成八年一〇月における第一五回公判において既に、羽柴弁護人は非常にやかましいと印象を述べ(同一五八八丁)、弁護人は被告人の弁護であって、当時の模様からしても、私の方としては歓迎すべき人でもないので、向こうから言われると、そこで議論しても始まらないので、適当に聞いており、一方的に話されるから、ああそういうものですかというふうに聞いていた旨(同一五七八丁以下)、概ね弁五八のやりとりに相応するとともに、第六八回公判での供述にも沿う趣旨の供述をしていることからして、にわかに単なる後からの弁解として否定し難いものがある。また、後者については、元本を費消すれば利息の生じる余地がないことは、Qが述べるとおりであって、前記面談に際して、当初から利息は事業運用に使える旨わざわざ述べていることからすると、Qの述べるところは同人なりに大筋において一貫しているとも評価できる。

そうすると、右のような、弁護人とQとの面談の状況、Qが三八〇〇万円を受け取っていながらこれを否定し、この点について留保しつつ弁護人側の意見を交えた質問がされるなどしたやりとりの経緯、Qの弁護人に対する発言についての当公判廷における説明等を併せ考えると、Qの発言内容には、それ自体不明確な点がある上、Qが弁護人の言う質問を十分に理解していないか、あるいは理解しつつもこれに迎合した返答をしたことも十分に考えられる状況であったといえ、弁五八に関する弁護人の主張をもってしても、Qの公判廷供述の信用性が必ずしも弾劾されるものではない。

以上のとおりであって、弁護人が、Q供述の信用性に関して主張するその余の点を考慮しても、Qの供述の信用性は左右されず、この点の弁護人の主張は理由がない。

5 右のように、その信用性が肯定できるQ供述からすれば、その他の関係証拠をも併せ考慮すると、被告人及びDが判示第二記載のような発言をしたことを認定することができ、また、一億六九〇〇万円もの巨額な預託金が拠出されていることに照らすと、仮に預託金の拠出と被告人のQに対する選挙協力との間にいくばくかの関連性があったとしても、Qが被告人らの発言を信じ、被告人が当初から計画していたようなW国際大学が設立されるものと信用したからこそ、預託金の拠出が決定されたことは優に認められる。

三  次に、弁護人は、被告人らの前記①ないし④の発言内容はいずれも事実に沿った説明であり虚偽というべきものではなく、被告人らの発言は欺罔行為とはいえず、被告人には欺罔の故意はないと主張するので、被告人らの発言が欺罔行為といえるか及び被告人に説明が虚偽であることの認識があったかにつき検討する。

1 ①W国際大学建設の土地取得、②W国際大学建設の資金調達及び進捗状況について

(一) 関係証拠によれば、以下の事実が認められる。

(1) 被告人は、アメリカ合衆国の首都ワシントン郊外に、日米学生の教育を通じた交流の拠点として、将来国際社会に対応して政治・経済・文化等の各分野で指導力を発揮できる人材の育成を目標として、国際経済学部等を設置する四年制大学で、アジア・太平洋研究所等の付属機関を有するW国際大学の設立を計画した。W国際大学はアメリカの正式な学位を授与することができるもので、五〇〇エーカー(約二〇〇万平方メートル)を超える敷地内に、教育文化施設・宿泊施設・コンベンションセンター・ゴルフ場等のスポーツ施設、さらにビジネスセンター等の付属施設を備えるものであった(構想は様々に変化し、大学院やコンファランス・センター、大規模商業施設を含むものとなったりした。)。

(2) 被告人は、平成元年二月一七日、W国際大学及びW国際教育文化財団を設立し、同年九月二五日には、ゼロックス・リアルティ社(以下「ゼロックス」という。)との間で、大学建設用地としてバージニア州ラウデン郡内の五九八エーカーの土地を代金四四〇〇万ドルで売買する旨の契約を締結し、I・I・Iからの融資により、平成二年二月までに八八〇万ドルの土地代金を支払ったものの、その後、土地使用目的の変更認可の手続であるリゾーニング時に支払うこととされていた一三二〇万ドルの支払いにも苦慮し、ゼロックスに対して支払期日の延期等を申し出るようになった。やがて平成三年一月にはI・I・Iが長銀を始めとする銀行団の管理下に入り、I・I・IからW国際大学への十分な資金援助が受けられなくなり、被告人らは、同年春ころから、民間企業やさらには学校法人に対してW国際大学への寄付等を依頼するようになったが、その依頼に応じるところはなかった。この間、被告人は、ゼロックスに対して代金支払いの延期を申し出るなどしつつ、遅れがちながら土地代金を支払っていたが、平成四年三月、I・I・Iは一五〇万ドルの送金を最後にW国際大学プロジェクトから完全に手を引いた。土地の残代金は平成四年四月二三日の時点で約九〇〇万ドルであった。同年五月初旬、被告人がゼロックスと交渉し、五二エーカーの土地を契約対象から外して残代金を四五〇万ドルとすることで基本的に合意し、さらに被告人が残金の支払いにつきなるべく延ばすように交渉すると、ゼロックス側は、支払時期は平成七年一二月末とするが、その利息として年間一〇パーセントを四半期毎に分割して支払ってほしい旨応答し、被告人はこれを了解した。右交渉の結果、平成四年五月一五日の時点では土地代金の残額は約四五〇万ドルとなっていた。

(3) 被告人は、多数の企業や学校法人等に寄付や預託金等種々の名目で資金協力を依頼していたが、W国際大学の構想には賛同されることはあっても、本件犯行時点において、預託金はいずれの大学等からも確保されておらず、企業からの寄付金も集っていない状況であった。

また、被告人自身も、本件犯行当時、巨額の負債を抱えていて、資金繰りに苦慮している状態であった。

(二) 右の事情からすると、本件犯行当時、被告人が土地取得に必要な残額代金及び利息の支払いに必要な資金を調達する具体的なめどはなかったのであるから、その資金調達は極めて困難であり、まして、その後の施設等に要する巨額の建設資金の調達は、一層不可能であったといえ、計画は順調にすすんでいなかったといわざるを得ない。

なお、この点に関し、S、Tは当公判廷において、W国際大学が実現可能であったかのような供述をする。しかしながら、Sの実現可能と供述する根拠は、極めて抽象的であいまいなもので、その具体的根拠を上げることもできず(公判調書六一二丁等)、証拠上認められる、土地代金の支払いばかりか、事務所経費の捻出についてさえ困窮していた当時の客観的状況にそぐわない不合理なもので、単なる希望ないし期待を述べたものに過ぎないといわざるを得ない。また、Tのいう資金確保の見込みもあくまで後記(三)のような意味での可能性に過ぎない。のみならず、Tが実現可能であったと述べるのは、当初の構想を見直し、縮小された内容のものについてであり、W国際大学計画を見直さない場合の実現可能性については、むしろ客観的には難しいという趣旨の供述内容と理解されるのであって、かえって、実質的には被告人らが発言する内容のW国際大学の実現は困難であることを認めたものとして、前示認定を裏付けるものと評価できるのである。

また、被告人は、これまでに他からも資金を集めている旨発言したことが認められるが、丁からの資金援助が得られないことがほぼ確実となった後は、そのような事実がないことは証拠上明らかである。

結局、「土地を取得した」「建設に取り掛かる段階にきている」「建設費用は財界からの寄付で賄うめどがたっている」「計画は順調にすすんでいる」などの被告人らの発言は客観的事実に反した虚偽のものと認められ、被告人らの発言、説明は欺罔行為といえる。

そして、被告人らが右の客観的状況につき認識していたことは証拠上明らかであり、後記のようにW国際大学設立の可能性があると思っていた旨の被告人の弁解には理由がないから、右行為についての被告人らの欺罔の故意も認めることができる。

(三) これに対して、弁護人は、被告人個人の債務状況とW国際大学建設事業とを直結して考えるのは構造的に誤りである旨主張するが、D、S、今村勝征らの供述によれば、W国際大学の資金調達は被告人自身がほぼ単独で行っており、土地代金支払いの延期交渉に際して被告人個人の保証が重要な要素を占めたり、W国際大学への出資に関し被告人の保証を求められることもあったこと等からも見て取れるように、被告人の信用、資金調達能力がW国際大学への出資実現の可能性を大きく左右するものであることは明らかであって、弁護人の右主張は理由がない。

また、弁護人は、Hが一、二年のうちに態勢を立て直し、被告人は再びその支援を受けられると思っていたし、国内及び台湾、フィリピン等に被告人に協力してW国際大学に資金提供を行う可能性のある個人、団体が多数いたと具体名をあげて、資金調達の可能性があり、W国際大学の設立が実現可能で、虚偽の事実はないと主張し、被告人及びUもこれに沿うかのような供述をする。しかしながら、Uの供述は、それ自体として海外から具体的かつ現実的な資金調達の当てがあったことを示すものと理解するには困難であるし、被告人が実際に多数の企業、学校法人や個人に拠出金の依頼をしていた事実はあるものの、被告人らが協力を依頼するに際して説明していたW国際大学の構想は当初の構想のものであり、ほとんどの者は土地を取得し大学建設に取り掛かる段階に至れば資金拠出をするとか、他の者が拠出するのであれば協力するというものであったことなどに照らせば、右U及び被告人らの供述を前提としても、本件犯行当時の実際の状況を知った上で、現実に資金援助を申し出る者がいたかは極めて疑問である。結局、被告人が資金を必要としている時期にあっても、いずれの個人、団体からも、実際には何らの資金提供がなかったこと等からも看て取れるように、その資金提供の可能性は、まさに「可能性がある」という以上のものではなく、具体的な資金援助のための条件や方法が取り決められるようなものはなかったのであるから、被告人らがQらに対して発言したような内容のW国際大学が設立可能であった根拠として考慮し得るほどの現実性があったものとは到底いうことができない。弁護人の主張する点を考慮しても、右認定に影響を与えるものではない。そして、関係証拠により認められる本件以降の経緯、すなわち、その後特段の事情変化はないのに、土地代金を完済することができず、結局、それまで多額の金員を投入していたにもかかわらず、土地に関する権利を失うに至ったことは、以上の説示内容によく相応するものであって、前記認定の正当性を実質的に補強する事情ということができる。

さらに、弁護人は、被告人らが土地を「購入した」とか「所有している」といった類の表現でなく「確保した」等の表現を用いていることは、八割以上の代金が既に支払われているなどの事態の推移に則した的確な表現をしているもので、虚偽の事実ではないと主張する。しかしながら、被告人らは、「土地を取得した」などとも発言しており、これが大学用地を何らの留保なく取得した意味で用いられていることは、Dらの供述に照らして明らかなところである。そして、本件犯行に至るまでの経緯、被告人らの他の発言内容等をも併せ考慮すれば、右のような被告人らの発言はQらに対してW国際大学の土地が確定的に取得されていると思わせるに十分なものであり、それが現実に反していることは前述のとおりである。また、たとえ八割以上の代金が既に支払われていたとしても、その後の支払いの当てもなく、確定的な取得のめどもない以上、被告人らの発言が事態の推移に則した的確な表現でないことは明らかであり、弁護人の主張は理由がない。

2 ③W国際大学とJ・W大学との提携について

(一) 弁護人は、平成四年六月に調印された「財団法人W国際政策交流財団とK工業大学の提携に伴う協定書」(甲二九添付資料14)には、提携先が「J・W大学の国際関係大学のアジア太平洋研究センター」と明記されていること、平成四年五月に配布された資料等にも同様の記載があることなどから、被告人は正確に事実をK工業大学側に伝えており、Qらはこれを十分に理解していたと主張し、被告人の説明には虚偽の事実はなく、欺罔の故意はないと主張する。

(二) 確かに、関係証拠によれば、平成四年四月末ころ、W国際教育文化財団及びW国際政策交流財団とJ・W大学G・S東アジア研究センター(J・W大学の付属機関。以下「G・Sセンター」という。)との間で、両財団がG・Sセンターに対し、平成四年に一〇万ドル、平成五年に二〇万ドル、平成六年に二〇万ドルの合計五〇万ドルを寄付し、J・W大学の国際関係大学の学長らの承認を得ることを条件として、W国際教育文化財団が提携する日本の学校の学生・教職員の研修等に関し協力を求めうる旨の内容の覚書が調印された事実が認められる。

しかしながら、J・W大学自体との提携が成立していないことは明らかであるところ、前示のように被告人らは口頭ではJ・W大学との提携と発言していること、それまでに被告人らが行っていた説明の内容、平成四年五月一五日の説明会でJ・W大学の名をK工業大学のパンフレットに載せられるかとの質問がされ、できる旨答えていること(公判調書一三八五丁等)などに鑑みれば、被告人らの発言、説明は、提携先がG・SセンターではなくJ・W大学と認識させるに足るものである。また、本件当時は、覚書が締結されただけで、それによっては未だ提携が正式調印され効力が発生したものではなく、覚書にはそのための条件が付されているにもかかわらず、K工業大学に示した資料の記載ではそのような条件は明示されておらず、J・W大学に学生や教員を派遣し得る提携が既にされているかのような説明振りとなっている。しかも、D自らが、右条件とされる寄付の支払いが実際にされるか疑問であると認識していたことも認められる(同六七丁)。

以上のほか、後記(三)のような経緯でQらとの話が進んできたことなどにも鑑みると、資料上には提携先はJ・W大学自体ではなくG・Sセンターとの記載があるからといって、Qらがそのように認識できるものとは到底みることができず、むしろ、このような資料を配布しつつも、J・W大学との正式調印がなされ提携が成立する、あるいは、成立しているかのような発言、説明をしていることからして、被告人らの発言は客観的事実に反した虚偽のものといえ、その行為は欺罔行為と認められる。

なお、弁護人は、被告人の方からK工業大学側へ送付した協定書案が順次変更されていることは、被告人が事態の推移に応じて正確な情報をK工業大学側に伝えていたことを示すとも主張する。もっとも、被告人自身は当初の協定書案はDらが勝手に作成、送付したものである旨強調しているのであるが(公判調書七五一五丁以下)、いずれにせよ、関係証拠上明らかなとおり、協定書案の名称等の変遷はともかくとして、この間の被告人らの口頭発言等を含めた実質的な説明内容の大半が虚偽に及ぶものである以上、その主張は理由がない。

(三) そして、被告人らは、平成三年一二月ころ、Qから、K工業大学が工科系の大学で、W国際大学が工科系大学でないことを指摘されると、被告人において、近くにJ・W大学があるのでそこらあたりとコンタクトをとることにしたらいいと話し、それを受けるなどして、平成四年四月二三日、同年五月一五日に前記のような発言をしたこと、Qは被告人にJ・W大学との提携に魅力を感じている旨告げていること(公判調書一三七四丁等)などからして、Qらにとっては工科系の学部を含む大学であるJ・W大学自体との提携こそが望むところであり、その実現が預託金拠出における重要な動機になっていることを十分に認識していたものと認められ、被告人には欺罔の故意が認められる。

なお、検察官は、被告人は、J・W大学と提携できないことはもちろん、そもそもG・Sセンターと提携するつもりも全くなかった旨主張するが、Dの供述によれば、本件当時、被告人は、大学は寝泊りするところでも作っておけばいい、あとはキムさん(G・Sセンター所長のこと)のところへ送り出せばいいからという旨の発言をしていた(公判調書五七丁)というのであり、現実にはその後G・Sセンターに対して寄付等がされていないなどの経過はあるものの、この段階では被告人に全く提携の意思がなかったとまでは認めることができない。

3 ④預託金について

(一) 弁護人は、預託金の性質は、これをプールして運用により得た利益のみをW国際大学のために使うというものではなく、元本の使用は当然に許容され、その方法については制限がないところ、被告人は、預託金をW国際大学建設事業のための借入金の返済等、その事業のために使用しているのであるから、被告人らの預託金についての説明に虚偽はなかった旨主張し、被告人もこれに沿う供述をしている。

(二) しかしながら、右供述を前提にすれば、前示のとおり、被告人らに判示第二記載のような発言、説明があったと認められる以上、その発言内容自体が被告人の認識とは異なるものであって、虚偽であることはそのこと自体からして明らかである。

また、被告人やDは、L学園拠出にかかる預託金を他から集めていた資金と一緒にアメリカへ送る旨説明しているところ、他から資金が集まっているような状況になかったことは前示のとおりである上、必ずしもアメリカに送金するつもりではなかったことも被告人らが預託金を使うつもりであったことからすれば明らかであって、この点においても被告人らは虚偽の事実を述べたものと認められる。現に、Dの公判廷供述、Sの捜査段階の供述等によれば、Dらさえ、本件当時、被告人がその説明に反してL学園からの預託金を他の用途のために勝手に費消してしまうのではないかとおそれ、Tからもその点について指摘されていた状況が認められるのであって、弁護人の主張は理由がないというほかない。

以上によれば、被告人らの預託金に関する発言、説明は欺罔行為に該当し、また、被告人らの認識に照らせば、その発言、説明が虚偽であることも十分承知していたものと認められるのであって、欺罔の故意があったことも明らかである。

なお、弁護人は、L学園の理事らの中には預託金が建設費用に使用されると認識していた者もおり、Qらにおいて、預託金の元本使用に制限がないことに誤信はなかったと主張するが、Qが被告人らの発言どおりの内容のものとして預託金を認識していたことは前示のとおりであり、説明会における理事らの質問内容をみても、その主要な関心は元本返済の確保にあり、このことは理事会の議事内容をみても同様であって(甲三五添付資料①5)、到底弁護人主張のようにみることはできない。この点については、W国際大学建設事業等に対する疑念が生じてきた平成六年一〇月に、L学園からの預託金の管理状況を問う質問に対して、Dが被告人の指示を受けて、書面で、貴校よりの預入れ後に財団を通じて大学本部に送金してある旨明らかな虚偽の回答をしていること(公判調書一六四丁)からも、弁護人主張のような実態であれば、この段階に至って、あえてこのような回答をするとは考えられないから、被告人らが預託金について前示認定のように説明し、Qらが同様に認識していたことが裏付けられる。

4 被告人の欺罔の故意について

(一) 以上のように、被告人らの発言はいずれも客観的事実に反した虚偽のものといえ、被告人はこれを認識していたものと認められるが、被告人はW国際大学の設立は可能であり、また、W国際大学の設立計画の経緯に従った報告をしていた旨供述するので、この点付言する。

被告人は縷々供述するも、要するにその内容は、W国際大学設立のプロジェクトはその状況に応じて計画を変更ないし見直して来ており(弁護人も平成三年当時から既に、当初の計画を変更し、計画を修正しつつあった旨主張する。)、それぞれその段階に応じて順調に進行しており、最終的にはW国際大学が実現できるものであったが、被告人が起訴されるなどの状況になったことから計画の遂行が不可能になってしまったというものである。

(二) しかしながら、本件では、QらL学園関係者に対する欺罔の有無は、Qらにおいて被告人らの説明が真実と信じたからこそ、預託金拠出をした経緯が明らかなところからして、被告人らが発言、説明したような内容のW国際大学が実際に設立可能であるか否かによって決せられるものである。仮に、これを変更ないし見直ししたとするのであれば、それに応じた発言、説明がされるべきところ、被告人らの発言、説明の前提及びその内容は、被告人が当初から計画していたようなW国際大学構想、少なくとも本件犯行時点では既に被告人が設立を断念していた計画の内容から動いていない。そして、変更、見直しされた内容の計画では、一億六九〇〇万円という巨額の預託金が拠出されなかったと認められる以上、被告人らが修正、見直ししたという内容でのW国際大学の設立が可能であったかどうかは問題とならない。確かに、弁護人主張のように、W国際大学についての微妙な表現の違いや主体の変更等が図られていることは証拠から認められるが、それらの相違は、被告人らの説明とも相まって考察すると、一般通常人からすれば従来のW国際大学建設事業が弁護人らの主張のように変更されていることを窺わせるものではない。加えて、Dらが供述する被告人の説明、指示内容やその他の関係証拠に照らすと、被告人らは修正、見直しされた計画内容をあえてQらに説明しなかったものと認められ、前示のように信用できるQ供述をみても、Qらが本件当時認識していたW国際大学は弁護人らが主張する修正、見直しされたW国際大学ではないのであるから、被告人に欺罔の故意がなかった旨の弁解は到底容れることができない。

5 以上の諸点に鑑みれば、その余の弁護人の主張を十分に考慮検討しても、平成四年四月及び五月の段階で、判示第二記載の被告人及びDの発言した内容のW国際大学建設事業は既に頓挫していたものといわざるを得ず、これを十分に認識した上での被告人らの判示第二記載の行為は、右内容が事実であることがQらにおいて本件預託金を支出するにおいて決定的な重要事項であったことからして、詐欺罪を構成するものと認められる。

なお、弁護人は、修正、見直された計画であっても、Qの目的は達成できた旨を種々主張するが、関係証拠に照らせば、その立論の前提とする事実関係自体に無理がある上、前示のとおり、被告人らが虚偽の事実を申し向けて、その旨Qらが誤信して本件預託金を拠出したものである以上、本件詐欺罪の成立に影響はない。その他、弁護人の主張に鑑み、仔細に検討しても、判示認定を動かすに足りるものはない。

また、検察官は、そもそもW国際大学の事業が本件当時既に頓挫し、被告人にはW国際大学の実現の意思はなかった旨主張する。確かに、証拠上、本件当時において、被告人の当初来の計画は頓挫し、実行が不可能であった事実が認められる。しかしながら、本件犯行以降にあっても、修正、見直しされたW国際大学の事業計画は細々とはいえ、なお動きを見せていたのであり、被告人が、当面何らかの教育施設を作り、いつかはW国際大学の名のもとに開校をしたいとの願望を有していたことまで、完全に否定することはできないので、判示のとおり認定した次第である。

四  本件に関する起訴状第二記載の事実は、Qのみが被欺罔者として掲げられ、一見、QからL学園の金員を騙取したかのようにも見受けられる。しかしながら、起訴状第二の事実には、「L学園から……預託金名下に金員を騙取しようと企て」などと記載されており、この記載からは処分者がL学園である趣旨も見て取れ、被害金員自体も「L学園所有」と明記されているのである。また、検察官は冒頭陳述において、被告人はDに対し「L学園関係者に対してW国際大学への預託基金の拠出を強力に働きかけるように指示した。」(冒頭陳述書三七頁)、「DはL学園から預託金名下に金員を騙取しようとする被告人の意図を知りながら、右指示に従うことを決意した。」(同三八頁)、平成四年五月一五日「教職員会議室において、Qらに対し」虚構の事実を説明し、「Qらは、被告人やDの右説明内容が真実であるものと信用した。そこで、Qらは、……L学園の理事会において、……支出に応じる旨決定し」(同三八、三九頁)などと主張しているところ、弁護人において、冒頭陳述書の右記載につき何ら異議を述べることなく、その後第二回、第三回公判期日における弁護人意見陳述においても、この点については何ら意見を述べていない。さらに、弁護人も認めるように、検察官は第二回公判以降、冒頭陳述書記載の右事実に従った立証を行い(付言すれば、証人尋問も本件事実から進められている。)、これらの点についても、被告人・弁護人側に十分な反対尋問、反証の機会は与えられていた。

そうすると、右冒頭陳述書記載の事実関係が訴因の内容を補充するものとして実質的には審理の対象となっていたということができ、その点を認定しても被告人の防禦の利益を損なうところはないと認められるので、当裁判所は判示第二のとおり認定したものである。

この点について、弁護人は、平成一〇年四月三〇日付け更新意見書を援用するなどして、本件起訴状第二の事実の訴因は、被欺罔者であるQが被告人らの欺罔行為による誤信に基づいて、財産上の被害者であるL学園の所有金を処分したという被欺罔者・処分者と財産上の被害者とが異なる構成をとっており、このような場合に詐欺罪が成立するためには、QにL学園の所有資金を処分しうる権能又は地位がなければならないが、Qにはそのような権能又は地位はないから、検察官の主張自体が失当でその余の点を論ずるまでもなく無罪が言い渡されるべきであると主張し、また判示のような認定をするには、訴因変更手続が必要であるとも主張するものの如くであるが、これについては前記説示のとおりであって、弁護人の主張はその前提を欠き理由がない。

五  以上のとおりであって、被告人が当初からの計画とは異なる形での事業展開等を考えていたことは窺えるものの、判示第二で認定した発言内容に沿うW国際大学建設事業は実質的に頓挫していたものといわざるを得ず、これに反する被告人らの言動が詐欺の実行行為に該当することは右検討したとおりであり、右認定に反する被告人の供述は、関係証拠から認められる客観的事実関係にそぐわず、不自然、不合理な点が多く、信用することができず、弁護人のその余の主張を十分に検討しても、判示第二の事実が認められる。

第五  判示第三の事実について

一  関係証拠上、判示第三の犯行当時、丙商事及び甲通商が債務の返済資金等に窮しており、その債務返済を実質的に引き受ける関係にあったM事業団についても事情はほぼ同様であったこと、E、F、Gらの業務内容、判示第三記載の土地(以下第五において「本件土地」という場合はこの土地を指す。)に関して判示第三記載の根抵当権が設定されたことが認められるところ、弁護人もこれらの点については特に争わず、①横領の客体たる本件土地の他人物性が欠如していること、②Eに本件土地についての業務上の占有者たる地位が欠如していること、③本件土地担保提供行為に被告人の関与がないことなどからして、被告人は無罪であると主張し、被告人もこれに沿う供述をする。

二  ①本件土地の他人物性について

弁護人は、前所有者から本件土地を購入したのはM財団ではなく、被告人が、自宅の建替え等のための用地として、本件土地購入代金を全額出捐して購入したもので、その後の管理、使用も被告人側が行っており、ただ登記名義が被告人とM財団との間の通謀虚偽表示によってM財団名義になっているだけであり、横領の客体とされる本件土地は実質的には被告人の所有物であるから他人物性が欠如すると主張する。

関係証拠に照らして検討するに、本件土地の所在場所が被告人の東松山市の自宅と地続きである一方、M財団が経営するNスイミングスクールからは大人の足でも一〇分ないし二〇分程度歩行することを要する位置にあり、会員の駐車場としてはスクールからかなり離れていること、M財団にとっての本件土地の必要性、購入の原資、利用状況等に関するEの同人自身が被告人とされた法廷における供述内容(弁九一、九二)等に鑑みれば、本件土地がM財団の駐車場用地としての利用を予定されていたとは認め難く、むしろ、関係証拠からは、被告人が将来的に自宅建替え用地等として利用しようと意図していたことが窺える。

しかしながら、同じく関係証拠によれば、本件土地の売買契約は、昭和六一年八月に前所有者とM財団を当事者として締結されていること(甲五六添付資料②)、右契約書上は一億〇六四〇万円とされている購入資金(なお、Eは、自らの法廷ではそのほかに契約外の金を含み、一億四〇七二万円と述べている。弁九一)のうち、八〇〇〇万円はM財団名義のあさひ銀行からの借入金が当てられ、三〇〇〇万円はM財団名義の株取引による利益より捻出された旨金銭出納帳(甲三二二)に記載されていることが認められる。そして、埼玉県教育委員会教育長からM財団に宛てた昭和六二年二月二七日付けの通知において、法人が保有する土地についての保有目的を明確にするよう指導された際、M財団は、「取得した土地については、文化的施設、体育的広場また駐車場として使用したい」と保有目的を示して、教育委員会に対して本件土地がM財団の所有であることを前提とした回答をしているところ、右指導の後にも土地の登記名義を被告人に回復させようとの動きはみられない。また、平成四年一二月に被告人が本件土地を担保に使わせて欲しい旨Eに頼んで断られていること、本件根抵当権の設定に至る経緯において、まず、FがEに担保提供を頼んで断られ、次に、FがGを通じて被告人にEの説得を依頼していること、それにより被告人がEに担保提供を依頼していること、被告人の依頼に対してEが本件土地を売却してその代金を回すことは可能であると述べ、被告人がこれを承知したことなどの事情が認められる。

そうすると、M財団が本件土地の所有者であることが対外的に示され、被告人ら本件関係者間においても、M財団が本件土地の所有者であることを前提とした行動がとられているのであって、さらに被告人所有の土地をM財団名義であると通謀虚偽表示すべき特段の理由や必要性も見当たらないことをも勘案すると、仮に、被告人がいずれは本件土地を自宅の建替え用にと考え、購入原資を負担していたとしても、右の経緯、事実関係等に鑑みれば、もはや弁護人主張のように通謀虚偽表示として土地の名義のみがM財団に属していたものとはいえず、本件土地の利用状況について検討するまでもなく、その所有権はM財団に帰属していたものとみるのが相当であり、また、Eのみならず被告人自身も同様の認識を有していたと認められる。

これに対して、被告人は、本件土地は、被告人が自宅の建替え用地として購入したと供述し、Eも自身の公判廷においてその旨供述する。しかし、Eは、本件土地をM財団名義にし、いずれ被告人が自分の家を建てるときには財団から「買い取る」といった話があったことや本件土地が、M財団名義で取得され、その資産に上がって計上されてきたもので、財団の資産の一部であると認識していたことなどをも同時に供述し(弁九一、九二。供述の信用性については後述する。)、端的に担保として提供することに非常に抵抗していたのは、本件土地が財団の財産の一部で、財団のものだとの意識があったからである旨も述べていること(弁九二―証拠書類群二一〇五二丁(以下単に「記録〇丁」と記載する。))、被告人も、登記名義をM財団にした理由について、「取りあえず、ちょっと預かっておいてちょうだいと、こういう感じ」と供述する(公判調書六四五四丁)だけで、説得的な理由が示されていないばかりか、前示のとおり本件土地を使わせてくれるようにEに依頼して断られた経緯を自ら認めていること(同六六一六丁、七〇八六丁。真実被告人自身の所有物であるとすれば、極めて不可解である。)などに照らすと、被告人の右供述等をもって本件土地が被告人の所有であると認めることはできない。

三  ②本件土地についてのEの占有の有無について

弁護人は、本件土地の登記名義人がM財団であり、Eが本件当時のM財団の理事長であることを認めつつ、本件土地の実際の利用、管理はすべて被告人が行っていたので、Eは本件土地の事実上の管理、支配を行っておらず、同人に業務上の占有者たる地位を認めることには疑問があると主張する。

しかしながら、横領罪における占有については、その犯罪の性質上、濫用の可能性がある支配力の有無が問題とされるべきであり、事実上支配する場合のみならず、法律上物に対する支配力を有する場合も含まれるから、不動産においては登記簿上所有権者として表示されている者が占有者にあたるというべきである。そして、法人所有の不動産においては法人の代表者もまたその不動産の占有者と認められるのは当然であり、さらに、関係証拠によれば、M財団については、寄附行為により、その資産は理事長が管理することとなっていること、現にM財団の資産管理全般については理事長のEにおいて行っており、本件土地の権利証、財団理事長印等についても、財団本部事務所の同人が執務する部屋にある金庫内に保管し、その使用に当たっては同人の許諾が必要とされていたこと(弁九二、甲四一、四三等)などからすれば、本件においては、本件土地の事実上の管理支配にかかわらず、本件土地の所有者であるM財団の理事長のEに本件土地の占有があることは優に認められる。

弁護人の主張は理由がない。

四  ③本件土地担保提供行為への被告人の関与の有無について

弁護人は、被告人の本件への関与を窺わせる証拠は、被告人の関与を供述したF及びGの捜査段階における供述並びにEの捜査段階及び同人自身の公判における供述であるが、これらはいずれも信用することができず、被告人、F及びGの当公判廷における供述が信用できるもので、それによれば、被告人は本件に関与していないと主張する。

そこで、以下において、本件の共犯者とされるF、G及びEの供述の信用性につき検討する。

1 Fは捜査段階において、本件への被告人の関与につき、平成五年二月ころ、Eに対し本件土地を一時的に担保に使わせてくれるように頼んだが取り合ってくれなかったので、被告人の方からEに話をしてもらおうと思い、Gに対し被告人に言ってくれるように頼んだ旨供述している(甲六二)。

また、Gは捜査段階において、本件への被告人の関与につき、以下のように供述する。

Fから前示同人の供述と同内容の依頼があり、Gはこれを受けて被告人に「FがEさんに箭弓町の土地を使わせて欲しいと言っているようだけど、Eさんに代議士からも頼んでみてくれませんか。」とお願いした。被告人は「わかった。俺の方からもEさんに言ってみる。」と承知した。そして、被告人から「Eさんが土地を売ってもいいと言っている。Gちゃんの方でいい方法を考えてくれ。」という連絡を受けた。その後、Gが己野家にと交渉している過程で、被告人に対し「己野の方で財団の土地を買うという形を取らせてくれて、その代金を丁から融資してもらい、そのお金をこちらの方に回してもらうということで話がつきそうだから、己野の方に迷惑をかけないという念書を入れるので、あなたもその保証人になって下さい。」と言ったところ、被告人は「それは良かった。保証人の件もGちゃんの言うとおりにする。」と答えた。その後、借入名義人を己野精機からM事業団に変更したことについては、そのころGが被告人に説明していると思う(甲一四五)。

これに対し、F及びGは、当公判廷に証人として出廷した際には、両者ともに、被告人の関与を全面的に否定し、真実は、Eの方からFに対して、本件土地を処分して、その金でPRカントリー倶楽部ゴルフ場の会員権を買う方法で融資をしても良いとの提案が出たのを受けて、FがGに対し、EがM財団の持っている土地を売却して、そのお金なら貸してあげてもいいよと言っているので、その土地の売り先がどこかないかという話を持ってきたに過ぎない旨供述し(公判調書五三七〇丁、五七七三丁等)、被告人の関与を認めていた捜査段階の供述と異なる供述をする。

そこで、関係証拠に照らし検討するに、F及びGの捜査段階における被告人の関与についての供述内容は、具体的かつ詳細で、Eの供述や己野花子の供述(甲四九)など他の証拠とも符合している上、その内容は、被告人、G、F及びEの人的関係、経済状況、本件までの経緯等に鑑みるに、十分合理的なものである。また、Gは、被告人とGしか知り得ない事実等を詳細に供述しており、しかも、その調書(甲一四五)が作成された際には事前にGの弁護人が接見しているのであって、取調べ状況にも特段の問題はないこと等に照らし、その信用性が高度に担保される状況にあったといえる。加えて、G及びFに、同人らの兄弟であり、その当時現職の国会議員であった被告人に対して、あえて虚偽の事実を供述してまで、不利益を蒙らせなければならないような理由は証拠上全く見当たらない。

これに対し、F及びGの各公判廷供述は、いずれも合理的な理由を示すことなく捜査段階の供述から変遷している上、その内容をみても、Eが、被告人の要請は拒絶しておきながら、本件土地のような高額な物件をにわかに資金繰りのため進んで提供したとすることや、被告人所有の土地としながら、その処分について、あるいは被告人が借入れに関する念書の保証人となることについて、被告人に一切話をしていなかったとすることなど、不自然、不合理なところが多く、客観的状況にそぐわない無理がある内容のものといわざるを得ず、さらにGにおいては、それ自体としても矛盾するところを含む供述内容となっている。また、F及びGは、当公判廷において、捜査段階のような内容の調書に署名した理由として縷々述べるが、これらはいずれも信用できない。両名とも、自らが被告人とされた法廷では、本件犯行につき事実を認め、とりわけFは被告人の関与についても供述しているのであって(Fにつき、公判調書五四八八丁以下、五四九三丁以下、甲三一九等。Gにつき、公判調書五七九八丁、五八〇七丁)、それにもかかわらず前言を翻しているのは、起訴後にその事実を全面的に争っている被告人の面前で供述するにあたっては、被告人との間柄からしても、自らが被告人の本件関与の発端をつくり、その結果被告人が関与した状況などにつき、被告人に不利な供述をし難い状況にあったことによるものと推認される。

以上からすると、本件への被告人の関与についてのF及びGの捜査段階における各供述はこれを十分信用することができ、これに反する同人らの当公判廷における各供述は信用できない。

2 次に、Eは、本件への被告人の関与について、捜査段階において、概ね以下のように供述している。

平成五年二月ころ、Fが本件土地を一時的に使わせてくれるように頼んできたが、相手にしなかったところ、何日かした同月下旬ころ、被告人から被告人の自宅であったマンションに呼び出され、「あの財団の土地を何とかして担保にできないか。とにかく今資金繰りが大変だから何とかして欲しい。俺も資金繰りのために一生懸命動いているからEさんも協力してくれ。いざという時は俺が責任を取るから。」などと言って、本件土地を担保提供してくれるよう強く求められた。これに対しEは、担保提供はできないが、本件土地を誰かが買ってくれれば、その代金を回すことができるかもしれないと答えた(甲五六)。

また、自らの法廷においては、「(本件当時)被告人代議士からの要請が強く、もう何とかしなければならない状態であった」(弁九一―記録二一〇二五丁)、「(本件土地について)担保に使わせてほしいということは、代議士から言ってきたわけですよね。」(弁九二―同二一〇四八丁)、「(本件土地を担保として提供するのは被告人の資金繰りのためだと)分かってます。」(同―同二一〇五二丁)などと供述している。

右のようにEは、捜査段階、本件犯行に関する自身の刑事責任が問われた公判段階と一貫して、被告人の関与を認める供述をしており、その内容は関係証拠により認められる本件に至る経緯、本件当時の客観的状況、さらに被告人らとEとの人的関係等に照らすに、合理的で自然なものである。とりわけ、平成四年以来、同人が本件土地を金策に使用したいとの依頼を受けながら、これを拒絶していたことは客観的に明らかな事実であり、それが一転して本件土地の利用を容認し、本件犯行に至った経緯として、被告人からの強い要請を理由に挙げて具体的に述べるところは、極めて自然で真実性に富み、高い信用性を有する。そして、自身の公判廷において、捜査段階で被告人の関与を供述するに至った経緯について、逮捕された当初は、本件について被告人の依頼があったことを否認していたが、「本当に親切にお取調べを受けさせていただ」いた(弁九一―記録二一〇三一丁)取調べ検察官に説得されて納得し、被告人の依頼があったので自分が本件のような行為をせざるを得なかったと認めるに至った旨率直かつ具体的に供述(弁九二―記録二一〇四三丁、二一〇六一丁等)し、また、捜査段階の供述の中で必ずしも真実でない部分として三点あるとしながら、その中には被告人の関与の点を含めておらず、むしろ被告人の関与を明確に認めていることなどを併せ考えると、被告人の関与についてのEの供述はこれを十分信用することができる。

なお、Eは捜査段階において、本件土地の利用目的がNスイミングスクールの駐車場であった旨供述しているものの、そのような事情は認め難いところであるから、右供述が、被告人の関与についての前記供述の信用性に与える影響につき、念のため付言しておく。

この点につき、Eは自身の公判廷において、前示のように逮捕当初被告人の依頼については否認していたものの、取調べ検察官に説得されて事実を供述するに至ったが、土地利用目的等については検察官にいくら話しても取り合ってもらえなかった旨供述し(弁九二―記録二一〇五〇丁等)、また、この点については、被告人のことを言った時点では、「話の過程で、順次、何もかもいっぺんに言えなくて、順々の過程の中で、その土地は実はこうですという段階で出てきたんだと思います」などと供述している(同―同二一〇六三丁)。さらに、このような供述の経緯につき、当初は被告人の姉がEの妻であったことや、M財団と国会議員である被告人の関わりが問題となることが心配されたこと等から事実を話せなかったが、検察官に説得されて話すことにはしたものの、やはり被告人の両親のこと等を考えると、あまり被告人に不利になることを言ってはまずいという心情もあったと率直に述べている。

そして、法律の専門家ではないEが、どのように話すのが最も被告人に有利になるかという点について明確に認識していたとは考えにくいこと、公判廷では本件についての被告人からの依頼の点と本件土地購入の経緯の点につき峻別して、その供述に至る経緯を供述していることなどを併せ考えれば、本件土地の使用目的等に関する供述部分が必ずしも信用できないからといって、直ちに被告人の関与について述べるところの信用性までを揺るがすものとはいえない。

3 以上のように、被告人の関与について述べるF及びGの捜査段階における各供述並びにEの捜査段階及び同人自身の公判における各供述は、いずれもこれを信用することができ、関係証拠を勘案すると、被告人がE、F及びGの三名と共謀の上、本件犯行を敢行したものと認めるに十分である。

これに対し、被告人は、本件に関与したことはなく、本件土地に担保権が設定されていたことも捜査段階になってから知った旨供述するが、被告人の本件土地に対する関わり、本件当時の経済的状況、EやF、Gらとの関係等に照らすと、本件担保設定において、被告人の関与がなかったとすることは極めて不自然であり、その供述は信用できない。

五  その余の主張について

1 弁護人は、M財団は本件土地を手放したものの、引き替えにPRカントリー倶楽部のゴルフ会員権を得たことから損害は発生していないし、M財団は被告人がオーナー的立場として支えてきたものであるとして、本件土地の処分につき、法が介入し刑事罰を加える必要性は乏しく可罰性が存しない旨主張する。

しかし、関係証拠に照らせば、そもそも損害が発生していないとの主張自体前提を欠くことが明らかである上、公益法人の財産を勝手に担保提供する行為が社会的相当性を著しく欠くことも明らかであるから、弁護人の主張は理由がない。

2 弁護人は、仮に本件が犯罪に該当するとしても、EはM財団の理事長として対外的な財産処分権限を有していることからして、業務上横領罪ではなく背任罪を構成すると解されるべきである旨主張する。

しかし、本件土地に根抵当権の設定等をすることは、本件土地の価値、M財団の規模等に鑑みれば、M財団の寄附行為一四条所定の新たな義務の負担のうち、重要なものに該当すると認められるから、Eは理事会の議決等所要の手続を経て初めて本件土地に根抵当権の設定等をすることができるにとどまり、これをそのような正規の手続を経ずして単独で行ったEの行為は、理事長の権限を逸脱し、無権限で所有者でなければできないような処分をしたものとして、業務上横領罪が成立すると解するべきである。

なお、M財団においては必ずしも理事会が適正に開催されていなかった事情も窺われるが、そうだとしても、判示第三の行為がEの権限に属する行為であったか否かの判断に何ら影響を及ぼすものではない。

弁護人の主張には理由がない。

六  以上のとおり、弁護人の前記主張はいずれも結論において理由がなく、右認定に反する被告人供述は信用できず、その余の主張を子細に検討しても同様であって、判示第三の事実はこれを認めることができる。

第六  判示第四の一及び二について

一  関係証拠上、判示第四認定事実のうち、H及びIの任務、両名の決定、指示に基づき、丁及び戊からM事業団に対する各貸付けが行われたこと(貸出実行に際して、一定時期までの利息が天引きされた分もあるが、これも貸付額に含まれるものである。以下第六において「本件融資」という。)並びに丁の同一人に対する平成六年度の法定貸出限度額及び本件融資時点でM事業団に対する貸付額が既に右限度額を超えていたことについては明らかと認められ、弁護人も特に争わない。

その上で、弁護人は、概ね以下のような主張をして、被告人は無罪であるとし、被告人もこれに沿う供述をする。

すなわち、本件融資当時、丁のM事業団に対する貸付額は約一八億五〇〇〇万円に及んでおり、Hは、Gからの度重なる新規融資依頼を拒否していたが、そのまま拒否し続けることでM事業団が倒産し、既貸付分が貸倒れとなることを危惧し、その解決策を検討した結果、M事業団を、丙商事、PRから切り離し、金融機関サイドの管理下における独自の再建を図るため、Hが経営する会社でM事業団の株式をY地建グループ等から取得し、Gを経営から排除して、M事業団をHの管理下においた上で、一〇〇億円を超える担保余力を有すると考えたMKカントリー倶楽部ゴルフ場の土地及び建物(以下「本件不動産」という。)に根抵当権を設定する等して、M事業団の債務整理のために低利の新規貸付を行って長期返済を可能とし、既存の貸付金についても本件不動産に担保を設定し、貸付金の健全化を図るというスキーム(以下「本件スキーム」という。)を発案し、M事業団の再建にとって当面返済が必要とされる債務を選定し、そのために約三〇億円の追加融資が必要と判断した。また、Hは、以前から戊に支援を申し入れられていたこともあり、M事業団、丙商事などに対して多額の事実上無担保の債権を抱えていた戊を本件スキームに加え、戊に約一〇億円の追加融資をさせ、それで丙商事、株式会社ムツミトレーディングカンパニーの債務を返済させるとともに、右追加融資及び戊のM事業団に対する既存の貸付金一億六六五〇万円についても本件不動産に担保設定することを思いつき、戊のIに話を持ちかけ同意を得た。そして、M事業団の経営権をHの経営する会社に譲渡する基本合意書を締結するなどし、丁及び戊からの本件融資が行われた。本件スキームは十分合理性を有しており、その実行により、M事業団の再建が図られ、債務の長期的返済が可能になること、また、担保不十分であった既存の貸付金が担保十分な優良債権に代わり、貸付金の健全化が図られることから、当時の丁及び戊にとって最善の方策であり、丁及び戊には本件スキームを実行しなければならない必要性があった。

したがって、本件スキームの実行である本件融資については、①M事業団は本件融資を返済する十分な能力があったこと、②本件不動産に担保が設定されているが、これには本件融資をまかないうる十分な担保価値があったこと、③本件不動産のほか、融資の担保として丁及び戊に供されていたMKカントリー倶楽部の預託金が払い込まれていない会員権(以下「未発行会員権」という。)には担保価値があったことからして、背任罪の構成要件としての「損害」が存在しないし、④仮にそうでないとしても、Hは、その経営裁量の枠内で丁の利益を図るために本件融資を行ったものであって、同人の主観面で損害の故意が認められず、この点はIも同様であり、また、⑤本件スキームは、HとG、Y地建との間で協議、合意され実行に移されたものであるから、被告人とこれらとの間に共謀はなかったし、さらに、⑥被告人は、本件融資の事実自体を認識しておらず、仮に、本件融資についての認識を持ち得たとしても、被告人はこれが背任にあたるなどと認識できるはずもなかったから、いずれの面からしても被告人は無罪であるというのである。

そこで以下検討するが、その他にも弁護人は縷々主張するところ、それらの点については、必要な範囲で併せて検討する。

二  ①M事業団の返済能力

弁護人は、本件スキームを実施に移した直前の平成六年一月期におけるM事業団の営業利益は約四億円であり、これによれば本件融資の返済は十分に可能であった旨主張する。

この点を検討するに、M事業団の決算報告書等の関係証拠によれば、同事業団の営業利益は、平成四年一月期は約六八〇〇万円、平成五年一月期は約一億二〇〇〇万円、平成六年一月期は約三億九〇〇〇万円、平成七年一月期は約四億三〇〇〇万円であったことが認められる(甲八二、一八一等)。

また、営業利益の増減に直結する売上高を見てみると、その内容はMKカントリー倶楽部のプレイ収入、売店収入、レストラン収入及び本社売上高からなっており、その期毎の増減状況をみると、プレイ収入、売店収入及びレストラン収入は平成四年一月期と平成五年一月期ではほぼ増減はなく、平成五年一月期と平成六年一月期では約二〇〇〇万円の減収、平成六年一月期と平成七年一月期では約八〇〇〇万円の減収となっている。さらに、本社売上高は平成四年一月期と平成五年一月期では約一〇〇〇万円の減収、平成五年一月期と平成六年一月期では約三億二〇〇〇万円の増収、平成六年一月期と平成七年一月期では約九〇〇〇万円の増収となっていることが認められる。

右のような増減に、売上原価並びに販売費及び一般管理費の増減を併せみれば、平成六年一月期以降の営業利益の増収は、専ら本社売上高の増収によるものであることが見て取れる。そして、右の各期の本社売上高が増収した要因をみると、MKカントリー倶楽部では平成五年九月から会員権の名義書換が解禁されたところ、その名義書換収入が平成五年九月から平成六年一月まで三一七件で三億一七〇〇万円、平成六年二月から平成七年一月まで四六三件で四億六三〇〇万円であることからすると(Gの供述、公判調書一六〇九丁以下)、平成五年九月からMKカントリー倶楽部の会員権の名義書換が解禁されたことによる収入の発生と認められる。

しかし、平成五年九月以降の約五か月間に生じた平成六年一月期の名義書換による収入と年間を通じて生じ得た平成七年一月期の名義書換による収入との比較、平成八年一月期の名義書換数が前年よりさらに減少していること(Gの供述、公判調書三二一四丁)、Hにおいても、名義書換が始まった最初の一年とか二年は名義書換が多く、その後名義書換の件数は普通少なくなると認めた上で(甲三〇六―記録一八三〇一丁、公判調書三三九八丁)、M事業団における年間の名義書換による収入の見積もりにつき、捜査段階では山田五郎(以下「山田」ともいう。)の見込みとして約一億円(甲一三三)、Gの法廷では約一億二〇〇〇万円(甲三一〇―記録一八六一九丁)、当公判廷では約一億五〇〇〇万円(公判調書三三九八丁)と供述しているにとどまることなどに照らせば、年間の名義書換による恒常的収入の見積もりは最高でも一億五〇〇〇万円程度であると認められ、平成六年一月期からの増収は名義書換手続が開始されるまで名義書換を待っていた会員が集中して名義書換請求を行ったことによるもので、今後も恒常的に同程度の名義書換収入が見込まれたものとは認められない。

さらに、関係証拠によれば、本社売上高以外のM事業団の収入は前記のように平成五年一月期から年々減収していること、M事業団は本件融資以前の収益では既存の債務の返済がほとんど困難な状態にあり、平成五年一〇月以降は丁、戊いずれからの借入金についても、元本はもとより利息の支払いすら滞っていたこと、実際にも本件融資による債務については少なくとも平成九年一一月七日の段階では全く返済できずにいる(甲三三一等)ことが認められる。

これに対して、弁護人は、MKカントリー倶楽部の立地条件や会員数等を考慮すれば、会員権の流動性が高く、常時相当多くの名義書換が見込まれ、右のような名義書換による収入の増加は一時的なものではなく、本件スキームの実施に当たり、名義書換による増収を含んだ平成六年一月期の営業利益をもとにM事業団の返済能力を見込んだことは合理的な根拠に基づくと主張するが、右認定に反し本件融資前後の客観的状況にも沿わず、採用できない。弁護人は、平成六年一月期の営業利益より平成七年一月期の営業利益の方が増加していることなどを立論の根拠とするが、前示のとおり営業利益増の主たる要因である名義書換収入が前者は約五か月分であるのに対し、後者は一年分であること、その後減少傾向に転じていることなどの事情を無視するもので理由がない。

また、弁護人は、Hが経営することにより、同人関連グループのゴルフ場との相互利用を図るなどの積極策や合理化を行うことで売上増が可能であったこと、長期金利を年七パーセントから四パーセントまで下げて長期返済による回収を図る予定であったこと、平日会員権の発行による収入が見込まれたこと及び新規融資による債務の圧縮などによって、債務の返済が可能になるはずであったと主張するが、これらの打開策について、本件融資時はもとより、その後においても具体的に検討された形跡はなく、実際上その見通しも立っておらず、それらが現実にどの程度の増収に結びつくかは疑問であったというほかない。所論は抽象的な一般論にとどまるに過ぎない。

そして、本件融資開始時点である平成六年六月ころにM事業団が負っていた債務総額は、関係証拠によれば、保証債務等を含めると九〇億円を超え、そのうち丁及び戊に対する既存債務の合計額だけでも約二〇億円あり、さらに本件融資の合計額が約二七億円に及ぶところ、それらの金利が年七ないし9.5パーセントであるため、M事業団が丁及び戊に対する債務の利息を支払うだけで、最低でも三億数千万円が必要であって、返済を丁及び戊に限るという非現実的な想定によったとしても、その利息支払いすら困難であったといわざるを得ない。これに加えて、その他にも債務が多数存在し、本件融資だけでは到底完済できないことなどを併せ考慮すれば、弁護人の主張する返済能力の根拠等には理由がなく、M事業団に本件融資の返済能力はなかったと認められる。

三  ②本件不動産の担保設定及び担保価値

1 弁護人は、本件不動産は一〇〇億円を超える価値があり、本件融資について十分な担保余力があったし、Hはそのことを前提として本件スキームを策定、実行した旨主張する。

関係証拠上、本件融資以前のM事業団の丁及び戊からの借入金総額は約二〇億円に及び、しかもそれらが実質的には無担保貸付けであったため、丁及び戊両組合は、平成五年七月三〇日を基準日とする東京都と大蔵省による合同検査において、いずれもM事業団に対する貸付けが担保不足の状態であることを指摘され、債権確保上の諸条件が満足に充たされないため、あるいは信用上疑義が存する等の理由により、その回収について通常の度合いを超える危険を含むと認められる債権と査定されて、改善のため担保徴求するよう指示されている状態にあり、そのためGに対して追加担保の提供を強く求めていたものの、Gから拒否されていた状況が認められる。

そうすると、弁護人主張のような事情であるとすれば、Hにとっては、本件融資に当たって丁(及び戊)がM事業団に対して有する貸付金債権保全のため、本件不動産につき根抵当権を設定し登記をすることが何よりも優先されるべきはずのところ、関係証拠によれば、Hはそうすることが容易にできたにもかかわらず、何らそのような行動に出ていない。すなわち、まず、丁や戊とM事業団との間の根抵当権設定契約自体、少なくとも平成六年七月五日までは締結されていない。それまでに、丁から三回で二億円、戊からは四回で三億一〇〇〇万円の融資が既に実行されている。また、本件融資を開始する前の時点で、本件不動産のうち、約六割の土地の登記済権利証は株式会社住友銀行(以下「住友銀行」という。)丸ノ内支店に預けてあり、その余の分の権利証についてM事業団が保有していたところ(甲一五〇)、前者についても、住友銀行に依頼すれば返還は十分可能であり、現にGが平成六年八月二四日、小川信用金庫に先順位の根抵当権を設定するため、権利証の返還を依頼し、同日返還を受けている経緯もある(公判調書四二四五丁以下)のに、本件融資に関しては、根抵当権の登記設定のために返還を求めたり、登記設定に障害が生じないようにするための措置をとるなどした事実は一切認められない(同四二四八丁)。そして、現にM事業団が保管していた権利証についてすら、ようやく同年七月五日にGが戊に持ち込み、その後、丁にも届けられたものの、これらにつき根抵当権の登記設定はされておらず、差し入れられた権利証も、そのまま手元で保管することなく、平成六年度の東京都及び大蔵省の合同本検査終了後、Hの指示でGに返還され、その後はGの方で管理している。逆に、前示のとおり、同年八月にM事業団が小川信用金庫から貸付けを受けるに当たり、丁や住友銀行から一時返還を受けた登記済権利証等を用いて小川信用金庫を根抵当権者とする極度額五億円の根抵当権の設定登記がされるに至っている。

以上の取扱いが、不動産担保については登記設定すべきであり、やむを得ずそうできない場合には、いつでも設定できるように権利証等の必要書類を徴収保管しておくべきであるとの組合貸付金規程に反することはもとよりであるが、Hらは、金融業に関与する者として、登記をしなければ第三者に対抗できないことを十分に認識しながら、あえて登記を設定しなかったばかりか、権利証等の必要書類を徴収するなどして、根抵当権を実効あらしめるための万全の措置を講ぜず、かえって、その後には本件根抵当権に優先する第三者の担保設定さえ許容しているのであって、これらの事情に照らすと、H、Iらが捜査段階で一致して述べているように(甲一三三、一四一等)、Hらは本件不動産には担保余力がないことを十分承知していて、そもそも丁及び戊のために本件不動産に根抵当権を設定する意思などなく、東京都等による検査対策のため、担保徴収の形式を整えるようにしたものに過ぎないと認めるのが相当である。Hらが本件融資開始に先立ち、本件不動産につき、不動産鑑定その他の、正確な担保余力を確認、把握するための調査、評価等を行っていないこと、丁における本件融資手続をみても、事務担当者が貸付金の担保として根抵当権設定契約を結ぶと指示されたのが八月に入ってからで、権利証も形だけの担保として一時預かったに過ぎず、Gの求めに応じてすぐに返却している上、貸出禀議書等の関係書類上、本件不動産が担保として記載されるのは八月中旬以降であること(甲一一一等)、戊が根抵当権設定契約を結んだ直後の七月六日の貸付けを最後として、以後は再三の依頼にもかかわらず追加融資を断っていることなどは、右認定を裏付けるものである。なお、以上の事情については、Gもよく承知していたことは、その捜査段階の供述(甲一四四、一四六等)に加えて、平成五年から本件融資前にかけて、GがM事業団に対する追加融資を丁関係者に懇願するなどした際、逆に追加担保を入れるように求められた折に、入れられる担保がない旨回答していること(公判調書五二七九丁以下甲九二等)などからも十分認められる。

これに対し、弁護人は、登記設定がされなかった理由について次のように主張する。すなわち、Hは本件不動産に対する根抵当権の登記設定を行うつもりで事務担当者にもそのように指示していたが、住友銀行に差し入れていた権利証の返還が遅れてしまっているうちに、マスコミが二信組(丁及び戊を指す。)の経営問題で取材を行っていることが判明したため、登記設定をすると癒着などでマスコミに騒がれるおそれがあるとの懸念から平成六年七月下旬に登記留保の方針に変更した。その段階では、M事業団はHの完全な管理下に入っており、登記留保のままでリスクは全く存在しないと考えていた。その後、同年九月一七日付けの新聞でいわゆる二信組問題が公になり、Hは自らの進退問題も含む騒動に巻き込まれ、それ以降は本件不動産の担保設定も含め個別問題の処理をしているどころではなく、登記留保のまま登記が怠られてしまった。このようにいうのである。

しかし、Hないしその関連会社はもとより丁や戊とは別の存在であり、丁等がこれを支配するという実態にもなかったのであるから、H個人の管理下に置かれたからといって、直ちに丁や戊の担保が保全されているということにはならず、また、弁護人の指摘するところが真に登記設定できない事情になるものでもないから、そもそも弁護人の主張には無理がある上、前示認定した事実関係に照らせば、弁護人主張のような客観的経緯、状況であったとは認められないし、これに加えて、関係証拠によれば、戊においては、既に七月四日の借入申込書から本件不動産につき登記留保の記載がされていること(甲一四一等)、弁護人主張の日時以降も丁からの貸付けが、六回二億四九〇〇万円にわたって繰り返されていることなどが認められるのであるから、到底弁護人主張のような事情で登記設定がされなかったものとは認められない。

付言するに、仮に本件根抵当権が真意に基づくもので現に登記設定されていたとすれば、丁及び戊としては本件融資の返済がされない場合には、これを実行して回収を図るということになるが、それでは丁及び戊にとってはなにがしかの貸付金の回収を図りうる余地があるとしても、M事業団はMKカントリー倶楽部を失うばかりか二〇〇億円を超える預託金の返還に応じなくてはならなくなる。HがM事業団の経営権をあえて取得し、自己の傘下に置くという以上、H及びGらが現実に右のような担保の実行を考えていたとは考えられず、弁護人主張のスキームを前提としても、そもそも本件不動産に対する根抵当権はおよそ実行の余地のない担保であったといえる。

右のような点からしても、本件当時、H及びGらが、M事業団が解体されることを前提とした本件不動産に対する担保設定を真意で行おうとしていたものとは認められない。

以上によれば、そもそも本件不動産に対する根抵当権を本件融資の担保とみる余地はないといわなければならない。

2 なお、弁護人は、本件不動産が本件融資の担保とされていることを前提にして、本件不動産には十分な担保価値があったと主張する。

その主張が前提を欠くことは、前記1のとおりであるが、念のため、この点について検討する。

弁護人は、本件不動産のようなゴルフ場の担保価値を評価するに当たって、検察官が主張するように預託金の金額を差し引くのは誤りである旨強調するところ、確かに法律論としては、弁護人主張のとおり、本件不動産を任意売買あるいは競売によって取得した者が、MKカントリー倶楽部の会員に対して預託金返還義務を負うものではない。しかしながら、関係証拠に照らすと、H、I、Gら、さらには多数の金融実務関係者が、捜査段階で、実例を挙げるなどしてその趣旨を述べているように、本件当時においては、ゴルフ場の土地、建物を取得する者は、ゴルフ場を経営することを目的とするものであるところ、旧会員の利益や権利を無視して新たに募集した会員のためだけにゴルフ場運営を図ろうとすると、旧会員との間で様々な紛争が生じ、結果として円滑な経営ができなくなるおそれがあるので、実際上は預託金返還義務を引き継ぐものと考えて、金融機関がゴルフ場の土地、建物の担保価値を評価するに当たっては、その分低めに評価するのが無難であるとの金融実務が一般に存在していたものと認められるのである。金融機関が新旧会員の紛争に巻き込まれかねない事態を避けたいと考えたとしても不思議ではないし、何よりも融資時の担保評価に際して、対象物件の法律的にみた客観的価値と同額で評価しなければならない必然性はなく、むしろ各種の危険負担を考慮した上で手堅く担保価値を算定する取扱いは合理的ともいえるのであるから、預託金返還債務額を全額差し引くことの相当性はともかくとして、右のような取扱いが合理性を欠くとか、誤っているとはいえない。

そして、関係証拠によれば、本件不動産については、バブル経済の時期であった平成元年一月時点で約六二億一三〇〇万円と評価されていたものの、その後本件融資時点までには、いわゆるバブル経済崩壊の影響を受けて、その不動産としての価格が下落していたものとみられる上、M事業団の預託金返還債務は約二一五億円に及んでいたことが認められるのである。しかも、担保に供することとされていたM事業団所有の本件不動産は、MKカントリー倶楽部の敷地の三割弱に過ぎない(甲三四八等)。このような消極的評価要素が多いことからすると、本件不動産の担保価値は、到底Hらが公判廷で述べるように一〇〇億円を超えるなどとは認め難い。現に、本件融資後の社会、経済情勢の変化が含まれるとはいえ、平成一〇年一一月に競売手続のため不動産鑑定士から浦和地方裁判所熊谷支部に提出された鑑定評価書の評価額は、約一二億六七〇〇万円にとどまっている(甲三四八)。なお、弁護人は、右鑑定手法は誤りであるとか、丁の内部資料も本件不動産に担保価値があることを前提としているなどとも主張するが、本件不動産を競売等で取得したからといって、法律上当然に借地部分を継続使用できるものとはいえないし、後者については上田太郎の捜査段階の供述に照らすと、担保余力がないことを前提として形の上だけでも担保を設定しようとしたものであることが明らかである(甲九二)から、いずれも理由がない。

以上によれば、本件不動産の本件融資時点における客観的な担保価値は必ずしも明らかにはできないものの、本件融資当時、関係者が概ね一様に本件不動産には担保余力がないと判断していたことは合理的なところであり、少なくとも丁及び戊からの本件融資にかかる担保として十分なものとはいえないことは明らかである。

さらに付言すれば、仮に弁護人の主張するように本件不動産が本件融資の担保として担保価値があるとすると、丁及び戊は本件融資以前からM事業団に対する融資が担保不足と指摘されていたのであるから、本件不動産を追加担保に供するように強く求めるのが普通であろうし、追加担保としていれば新規融資を拒否する必要もないはずであるが、そのようなことは実際にはされていなかったこと、また、MKカントリー倶楽部の実情をよく承知しているはずのY地建のY会長がM事業団株式の過半数を二億円で売却に同意していることなどの、証拠上認められる関係者の本件融資前後の行動状況も右認定によく相応するものである。

四  ③未発行会員権等の担保価値

弁護人は、未発行会員権の証書は、ゴルフ場を経営する事業会社によって発行されたものであって、これを担保として受け入れた者は換価処分することができるのであり、その場合これを取得した者はゴルフ場経営会社に対して預託金返還請求権を含めたゴルフ場会員権を正規に主張しうるので、未発行会員権につき、その現実の換価可能な金額に見合った担保価値が認められるのは当然であると主張する。

確かに、未発行会員権を担保に供することは一般的には可能であり、現実にもこれが担保とされていることも認められる。また、弁護人が主張するように、未発行会員権を担保として受け入れた者は、これを第三者に売却することによってその回収を図ることも可能であり、その取得者がゴルフ場会員権を正規に主張することも可能な場合もあると認められる。

そこで、本件融資における未発行会員権に担保価値があったのかを検討する。

まず、関係証拠によれば、本件融資以前から、これらの未発行会員権は、M事業団に対する貸付けの担保として丁及び戊に差し入れられており、それにもかかわらず東京都等の検査においては担保不足と指摘され、また丁及び戊の関係者もM事業団に対する貸付けは実質的に無担保融資と意識していた実情が認められるのである。

もっとも、Hは当公判廷において、MKカントリー倶楽部の未発行会員権につき、最低でも担保価値としては四〇〇万円を見込めたとする。しかしながら、関係証拠によれば、MKカントリー倶楽部の預託金払込み済の会員権ですら、バブル崩壊後の平成六年六月当時、その取引価格は大幅な額面割れをして四〇〇万円程度であったばかりか、MKカントリー倶楽部は既に四〇〇〇名以上の会員がいたにもかかわらず、さらに未発行会員権が総計三〇〇〇枚以上担保として各方面に差し入れられていたことが認められる。このような事情に鑑みれば、たとえ未発行会員権の取得者が預託金返還請求権を含めたゴルフ場会員権を正規に主張できるとしても、そもそもその会員権としての価値は極めて低く、その換価処分も実際上は困難であって、また、預託金が返還される確実性も低いといわざるを得ない。

また、PRの未発行会員権については、そもそもゴルフ場完成の見通しが立っておらず、これに担保価値を見い出すことが困難であることはいうまでもない。

このような事情からすると、本件未発行会員権の担保価値は極めて低く、到底本件融資の担保としての価値を見い出すことができないというべきである。

なお、本件融資については、その他にもPRのゴルフ場建設予定地に対する極度額三億四〇〇〇万円の根抵当権がその担保とされているが、関係証拠によれば、PRは平成四年八月に工事が中断され、平成五年九月には工事請負業者が契約を解除して撤収しており、その完成の見通しは立っておらず、既に平成六年六月の時点で一〇〇億円を超える先順位根抵当権が設定、登記されていたことが認められるので、これに担保余力がなかったことは明らかである。

五  ④H及びIの損害発生の認識、図利目的

弁護人は、たとえ本件融資に際して担保として提供された本件不動産等の担保価値が十分でなかったとしても、Hらは丁及び戊の利益を図って本件融資を実行したものである旨主張する。

しかしながら、これまで認定、説示してきたところからすると、H及びIは、それぞれが捜査段階で供述しているように、M事業団に債務の返済能力がないこと、本件融資に相応する担保提供はなく、本件不動産に対する根抵当権設定等は、東京都等の検査対策として単に形式を整えるに過ぎないものであることなどをいずれも承知していたものと認められ、Hらの言動はそれを前提としたときによく理解できるものであるから、弁護人の主張は前提を欠くというべきであるが、念のため、背任罪の成立要件である損害発生の認識及び図利目的の観点から、検討すると、次のとおりである。

1 これまで認定説示してきたところに加えて、Hの捜査段階における供述等の関係証拠によれば、以下の事実が認められる。

Hは、平成四年五月ころから、M事業団を受け皿とした融資を丁から行い、また、同年七月からはIに依頼して戊からも融資してもらうなどしていた。その後、M事業団が多額の負債を抱え、丁及び戊に対する返済が滞るようになり、利息の支払いも滞るようになったため、Hは平成五年一〇月ころ、緊急なものを除いてM事業団に対する融資を中止し、戊もこれを中止した。

右時点でM事業団の丁に対する借入金残高は一七億円を超え、丁の法定貸出限度額を大幅に超過している状態であり、平成五年度の東京都と大蔵省の丁に対する合同検査において、その点を指摘され改善を求められていた。また、同検査においては、丁、戊ともに、M事業団への貸出が事実上無担保である旨指摘され、その債権は被告人関連企業として一緒に類別された丙商事、PR等の関連会社に対する債権と同様に、分類査定において、債権確保上の諸条件が満足に充たされないため、あるいは、信用上疑義が存する等の理由により、その回収について通常の度合いを超える危険を含むと認められる債権が分類される「第Ⅱ分類」との評価を受けていた。

そのような状況の下で、平成六年三月下旬ころから四月上旬ころ、被告人から融資の要請を受けた際、HはGに対して、M事業団の債務の実情や財務実態を調査して示すように指示し、その調査結果をもとにM事業団の債務につき返済計画を検討したりしていた。

2 以上のような事実関係によれば、HはM事業団に返済能力がないことを十分認識していたものと認められる。

また、HはPRの土地に関しては数十億円の極度額の先順位根抵当権が設定されており、また、そもそもPRが自社では債務返済をできないために、M事業団を受け皿として資金を供給していたのであって、平成五年夏ころに工事が中断していたことをも承知していたのであるから、右土地やその未発行会員権に担保価値がないことを十分に認識していたと認められる。

さらに、MKカントリー倶楽部の会員数等も把握していたものと認められることなどからすると、前示のように、その未発行会員権に担保価値がないことについて認識していたと認められ、また前示のとおり、本件不動産に対する担保設定はそもそも真意に基づかないものと認められるところ、十分な担保価値がないことについての認識も十分あったと認められる。

そうすると、Hは本件融資を実行すれば、その貸付金の回収が著しく困難な状態に陥り、丁に貸付金と同額の損害を与える危険が大きいことも十分認識していたものと認められる。

3 また、Iについてみると、同様にこれまで認定説示したところのほか、関係証拠により認められる本件融資当時、既に戊がM事業団に一億六〇〇〇万円を超える貸付けをしており、その債務が分類査定において「第Ⅱ分類」の評価を受け、M事業団からは利息の支払いも停止していたため、新規融資を止め、内容証明を送付するなどして債務の返済を迫っていた状況に加えて、H及びIの捜査段階における供述内容並びにI自身の法廷における認否等を総合すれば、Iが判示第四の二の貸付けを行うに当たり、M事業団に返済能力がなく、また、M事業団提供の各担保に担保価値がないこと等をよく認識していたことが認められる。

そうすると、H同様にIにも損害発生の認識があったことは明らかである。

4 そして、関係証拠によれば、Hがそれにもかかわらず本件融資に踏み切ったのは、長年家族ぐるみの親密な交友関係にあり、これまでも経済的に種々協力してきた被告人やGから、丙商事等の窮状を訴えて丁からの融資を繰り返し要請されたことや、これを断ることにより丙商事等が倒産してしまえば、自らの独断で行ってきた丁や自らが主宰するI・I・Iグループからの丙商事等に対する貸付け、さらにはIに頼み込んで戊から行ってもらっていた同様の貸付けによる巨額の債権の回収不能が決定的となって明らかになる事態をおそれたことなどを理由とするものであると認められる。また、Iについては、従前から密接な協力関係にあったHからの依頼によるところが大きいと認められる。加えて、前示のとおり、返済能力がなく、十分な担保余力もない状態のM事業団が本件融資のような多額の貸付けを受けられたこと自体、同社の利益というべきところ、その貸付金の使途を見ても、主としてGの判断により、その折々のM事業団等の必要性、優先度に対応した債務返済等に充てられていて(甲一五一、一八八、一八九、一九一等)、丁や戊に対する従来の債務返済に優先して充てられたといえるような実態にはない。このような本件融資がM事業団等に対する資金援助であって、その利益になることは論を待たず、これに対して丁は合計一九億一九〇〇万円、戊は合計八億一〇〇〇万円が組合から流出し、その回収が極めて困難となっている結果を招いている。H及びIが前記のような認識のもとで、通常の金融機関からは到底高額の融資を受けることができない状態にあったM事業団に対して本件融資を行ったことからすると、Hについては本件融資全てにつき、Iについては判示第四の二の融資につき、その主たる目的は丁ないし戊の利益を図ることではなく、M事業団等の利益を図ることにあったものと認められる。

これに対し、弁護人は、Hの公判廷供述等に依拠して、本件スキームが丁及び戊のために必要であったと主張するが、関係証拠上認められる当時の客観的状況や関係者の動向などは、その主張に全くそぐわない。例えば、そうであるならば、少なくとも実効性のある確実な債権保全措置が早急に講じられるべきところ、実際には本件不動産につき根抵当権設定に向けたきちんとした手続等はとられておらず、結局根抵当権を当初から設定するつもりはなく、HやIらが捜査段階で一致して述べるように、単に東京都等の検査へ対応するため、形式的に担保としたものに過ぎないと認められるのである。また、Hは本件スキームに照らして、M事業団を丙商事等から切り離し、経営権を完全にH側の管理下に置くべきところ、本件融資は丙商事等の債務返済に当てられるなどしており、Gにおいても、本件融資実行後の事情等が手伝ってとはいえ、依然として実質的に経営権を行使し得る状況を許容されていたこと、現実の貸出利率を低利融資とするような動きもみられないことなど、当時の客観的状況に照らすと、弁護人の主張とは相容れない事情が多く、その理由がないことは明らかである。

六  ⑤被告人の共謀及び⑥被告人の認識等

弁護人は、本件スキームはHとG、Y地建との間で協議、合意し、遂行されたもので、被告人は何らの関与もしておらず、M事業団に丁等から融資がされること自体知らなかったのであり、被告人にはGやHとの共謀の事実はない、また、仮に、右融資を認識していたとしても、被告人は、具体的な融資額、返済条件、担保設定及びM事業団の財務内容等については知らなかったのであるから、本件融資がHらの任務に違背する融資であり、信用組合に損害を与えるものであるとの認識を有しておらず、それが背任に当たることを認識できるはずもない、さらに、仮に被告人がHに融資を依頼したとしても背任の共同正犯になるものではない旨主張する。

そこで、この点につき検討する。

1 被告人(乙三)並びにH(甲一三三等)及びG(甲一四九等)の捜査段階における各供述及びその他の関係証拠等によれば、被告人の本件融資への関与に至る経緯、関与の状況等については、概ね以下のような事実が認められる。

被告人は、平成四年三月下旬ころ、当時のあさひ銀行東松山支店長から丙商事とPRの経営状態が極度に悪化していることを知らされ、同年四月ころから、Gに丙商事やPRの経営状態を調査するように指示するとともに、Gらを指示するなどしてその資金繰りの指揮をするようになったところ、両社には約二八〇億円の債務があって倒産の危機に瀕していることが分かり、Hに実情を説明して丁からの融資を依頼した。Hは、被告人及びその親族が関係する企業中で唯一収益をあげていたM事業団を受け皿にすることで融資を承諾し、同年五月から丁による融資が開始された。さらに、Hは、Iにも事情を説明し、同年七月から戊による融資も開始された。

しかし、その後も丙商事、PR等の状況は改善せず、M事業団の債務は急増する一方で、平成五年一〇月には、丁からM事業団に対する貸付残高が法定貸出限度額を大幅に超過した上、その返済はもとより利息の支払いも滞るようになったため、Hは、新たな融資を原則として中止し、戊も同様の状態になったことから、新たな融資を中止した。

平成六年三月下旬から四月上旬ころ、被告人は、Hを被告人の事務所に呼び出し、Hに対し、「このままでは倒産してしまう。助けてくれないか。Hちゃん、PRの取引の件が何とかなるまでの間、丙とPRの資金繰りのために丁から何とかしてM宛に金を出してくれないか、いい方法を考えて金を出してくれないか。」という趣旨のことを言って再度融資を依頼した。これに対し、Hは、「Mの経営権を一時的に引き取って、丁から金を出す方法しかないですよ。この前、山田さんが三〇億円位でMを引き取ると言っていましたが、Mの内情を知れば、山田さんでも誰でも、Mを買い取ることは無理だと言うでしょう。事情をよく知っている僕が、僕のグループでMを一時的に引き取って、丁から融資するしか方法はないですよ。ただし、これには一時的にでもせよ、GさんにMを辞めてもらって、僕の方でMを管理させてもらえないと金は出せないですよ。Gさんがいると、また手形を切ったりしますから。」という内容のことを言った。これに対し、被告人は、「Hちゃん、それでいいからやってくれないかい。」と応えた。そこで、Hは、「ほんとだったらこんな融資はできないんですよ。今はもう東京都だってうるさいし、新規貸付けは大変なんですよ。東京都がうるさいのでこの方法でも出すのは二〇から三〇億円が目一杯ですよ。」などと言い、併せてGに対して一時的にでもM事業団を手放すことになることをよく話しておくように被告人に依頼し、その了承を得た上でこのような形態での融資の実行につき今後Gとさらに詰める旨被告人に伝え、さらに、被告人に対し、戊の方からも融資を出してもらう旨述べた。

以上の話を聞いて被告人は、Hに対し、改まった口調で、「Hさんの考えているとおりにお願いします。よろしく頼みます。」などと答え、Hの構想どおりに行ってくれるように依頼した。

その後、被告人は、Gに対し、「Hちゃんと話したが、HちゃんはMKを引き取れれば、支援をしていいと言っている。一時的なものでMKは返してくれると言っている。Gちゃん、みんなを助けると思って言うことを聞いてよ。」旨のことを言って、Hの依頼した内容に沿ってMKを手放すことに躊躇するGを説得した。

一方、HもGに対して右融資のための方策を説明し、これに応ずるよう説得したが、Gは「分かりました。代議士から聞いていますから。」と答え、以後両名で具体的諸手続につき詰めていった(なお、本件融資開始後もGがM事業団の代表取締役の地位にとどまって経営を続けている実情があるが、これは同人がHに対し、緩やかな形態での経営移行を求めるとともに、後記のとおり、Hの指示に従うことを約束したことなどによるものであり、いずれにしても、融資開始後の状況であって、そのような事情があるからといって、右認定の相当性を排斥するものではない。)。

また、同年四月下旬ころ、Gは被告人に対し、M事業団を身売りすることを決めたことや、その見返りに丁から五〇億円の融資を受けること等を伝えた。

さらに、同年五月三〇日ころ、被告人がGとともに、I・I・I本社社長室を訪れ、「Mへの融資の件はよろしくお願いします。」と言って、新規貸付を早く実行するように頼んできたので、Hは、「全体の枠は決まっていますので、後のことはGさんと相談しながらやっていきます。」と答え、その後Gと事務手続を詰めた上で、同年六月一日から貸付を実行した。

Gは、M事業団の株式売買契約書を締結した後も、M事業団の役員としてとどまり、小川信用金庫から借入れをするなどしたため、同年八月上旬ころ、Hは、被告人及びGを呼び、「Gさんには、こっちの言うとおり動いてもらわないと困ります。丁も戊もただでさえ大変なのに、約束にない借入れを申し込んできたり、新たな手形や会員権を切って、これ以上Mの負担を大きくするようなことがあれば、僕としても、もう面倒は見切れません。これ以上負担が増えるのならMへの融資はできません。」と言ったところ、被告人は「色々とすいません。」といい、続いてGに対し、「H会長の言うとおりにやらなきゃ駄目じゃないか。約束どおりしなきゃ駄目じゃないか。」などと言い、Gは今後は約束違反をしない旨返事をした。

2 これに対し、弁護人は、被告人の捜査段階の供述(乙三)の趣旨を争うとともに、H及びGの捜査段階における各供述の信用性を争い、H及びGも当公判廷において、いずれも本件への被告人の関与を否定する供述をしている。そこで、これらの捜査段階での供述の信用性につき検討する。

まず、被告人並びにH及びGの前示認定に沿う各供述は、多数の関係証拠から認められる当時の客観的経緯、状況によく符合し、その内容も合理的で自然なもので、それ自体として信用性が認められる。この点、弁護人は、逆に本件当時の前提状況に相応しないと主張しているが、その主張するような事実関係になかったことは、これまで認定説示してきたところ及び関係証拠に照らし明らかである。そして、被告人らは、それぞれの立場から本件犯行に関わり、各自の関与状況もその態様、程度も全く異なっており、また捜査段階における供述内容をみても、各自の思惑に従ってか、相互に関する事柄についても他の場面などでは様々に相違する供述をしているものである。このように立場を異にし、それぞれに影響されることなく供述している三名の供述内容が、本件犯行に対する被告人の関与という観点から見たとき、前示1のように、迫真性を持って相互によく整合し、加えてその内容とする三者のやりとりの経緯や状況が極めて自然なものであることからすると、この点に関する各供述は、相互に裏付けあって高度の信用性があるものというべきである。

個々の供述についてみるに、まず、Hの捜査段階における供述についてみると、Hの捜査段階における取調べ状況に関する当公判廷及びG法廷における供述によれば、検察官の取調べ状況に何ら問題はなかったものと認められ、むしろH自ら、事実の解明に協力していた旨述べている。実際、その捜査段階における供述内容はHと被告人しか知り得ない状況などについて、具体的かつ詳細に述べるものであるところ、当時の客観的状況にもよく整合する自然なもので、丁や戊の関係者らの供述内容及びそこから窺われる当時のHの行動状況に無理なく符合している。また、Hと被告人、Gとの従前の交友関係等に照らして、Hがあえて被告人らを陥れる虚偽の供述をするとも思われない。さらに、Hには捜査段階から弁護人がついており頻繁に接見していたにもかかわらず、当公判廷においては、接見時には事件の話はしなかった旨述べるなど不自然、不合理な弁解をしており、自ら被疑者として刑事責任を問われているのに、任意に事実でない供述をしたとする理由についてはあいまいな供述しかしていない。加えて、Hは自身の法廷における罪状認否では、本件融資をした目的、意図に関して、被告人から資金繰りに困っているので融資してほしい、何とかしないと倒産してしまう旨懇願されたと述べて、被告人からの積極的な働きかけがあったことを率直に認めていたのに(甲三〇二)、Gの法廷においては被告人の関与をあいまいに供述し、当公判廷においては被告人の関与を明確に否定するに至っており、その変遷は記憶の喚起の程度を超えた不自然なものといわざるを得ない。当公判廷で、従前被告人の関与を認める供述をしていた事情として説明するところも、不自然、不合理な点が多く、到底合理的な理由を述べているものとは認められない。Hは被告人と古くからの友好関係にあり、事実を争う被告人の面前では、その意に反して真実を供述しにくい状況にあったものと推認されるのである。

以上の諸事情からすれば、Hの捜査段階の供述は十分に信用することができ、同人のこれに反する当公判廷における供述は信用できないというべきである。

次に、Gの捜査段階における供述についてみると、Gの捜査段階での供述のうち、被告人の関与について述べる部分は、被告人とGしか知り得ない事実等についても供述しているところ、その供述内容は他の関係証拠、とりわけHの捜査段階の供述内容と相互に概ね相応しており、信用性を補強しあっている。また、Gは逮捕前から弁護人が付いており、勾留中も度々接見して、事件への対応方針も相談するなど、供述内容について助言を受けている上、取調べ状況にも問題がなかったことは証拠上明らかであって、基本的に捜査段階の供述の信用性が担保される状況にあったといえる。その被告人の関与部分の供述内容についても、Gは、逮捕される直前にもM事業団の専務取締役が検察庁で事情聴取を受けるに際して、MKはGが中心でやっていたので、被告人がやっていたんじゃないよ、よく頭に入れておきなさいよと指示するなど(公判調書四五一一丁以下、四五三九丁以下、甲一七四)、逮捕前から被告人に責任が及びかねない事柄についてはきめ細かく配慮していた事情が窺えるのであって、被告人との間柄からしても、あえて自己の記憶に反して被告人を陥れるような虚偽の事実を述べるものとは思われないし、その内容に特段不自然、不合理というべきところはない。なお、Gは当公判廷において捜査段階のような内容の調書に署名した理由として縷々述べるが、本件につき全く関与しておらず、しかも、兄弟であり現職の国会議員である被告人について、自らも刑事責任を問われる結果となるのに、あたかも本件において極めて重要な役割を演じたかのような全く虚偽の事実が記載された調書に署名するなどした理由にはなり得ず、その点の公判廷供述は不合理で信用できない。その余の点に関する公判廷供述にも、不自然な変遷や多数の関係証拠から認められる客観的状況とそぐわない不合理な点が多く、全体として信用し難いところがある。

以上のような事情に照らすと、Gの捜査段階における供述はこれを信用することができ、これに反する当公判廷における供述は信用できないというべきである。

さらに、被告人の捜査段階の供述(乙三)について検討すると、弁護人は、被告人は捜査段階から一貫して本件犯行に関与したことを否認しており、被告人の捜査段階の供述には被告人の本件関与を裏付ける供述は全く存在せず、被告人が、「Hに会って、何かいい方法を考えてよ」とHに融資を依頼したとする点は時期を混同するもので、本件の関与とは関係はなく、また、「みんなを助けると思って言うことをきいてよ」などと言ってGを説得したとしたする点については、その際にはGに拒否され、その後の経過には関与せず、Gから事後的な報告を受けたことを同時に述べているのであるから、結局は関与がなかったことを供述しているものであると主張し、被告人も公判廷で二つの事柄が一つに結びつくとは解釈しなかったなどと弁解している(公判調書七七四三丁等)。

しかしながら、被告人の弁解内容はそれ自体として非常にあいまいでにわかに信用し難い上、検察官調書(乙三)の全体的な記載内容やその中での日時の流れ等からして、当該供述は、被告人において一連のものとして述べていることが明らかであり、前後の文脈に照らしても、被告人の公判廷供述のように解する余地はないというべきである。そして、被告人の捜査段階の供述中、Hに懇願したとの点は、前記のとおり信用できるHの供述とも合致している上、Hが中断していたM事業団への融資を再開することになる動機の一つとして十分な合理性がある。また、Gを説得した点については、Hが被告人にGによく話しておいて欲しいと要請した点に対応するもので極めて自然な成り行きであるし、GがM事業団の経営権を手放すに至った理由としても納得できるものである。しかも、Gの供述には、被告人に右のように説得されたとの場面はみられないから、右供述が検察官の誘導や創作であるとは考えられず、弁護人も右発言自体の存在を否定していない。背任の認識を否定することを明言し、取調べ状況にも何ら問題のない状況の下で、被告人がこのように具体的に述べているところは、被告人がはしなくも、本件融資に至る過程におけるGらとの実際のやりとりの状況を供述したものとみるのが相当であり、その信用性は十分認められる。

そうすると、被告人の右発言等は、H及びGの供述と併せ鑑みると、被告人が本件に関与した具体的な点を供述しているとみられるのであって、弁護人の主張には理由がない。

3 右認定の事実から認められる被告人の関与状況に鑑みると、被告人がHやGと同程度に本件融資の実施に当たって、その具体的内容や方法等の詳細についてまで認識していたものとは認められない。

しかしながら、被告人は、M事業団は丁及び戊への元利金の返済が滞り、平成五年一〇月からは、度重なる融資の依頼にもかかわらず、Hから、担保もないし、東京都もうるさいから、もう貸せませんよ、などと言われて貸付けを拒否され、緊急なものを除いて新規融資が中止されていた状況等から、丁及び戊からの更なる融資は現実には困難であることを認識した上で、Hに対し、執拗に丙商事やPRのための貸付けを懇願したことが認められるばかりか、その際にHから前示のように、本来であれば追加融資はできないことなどを告げられているのである。そうすると、それまでの借入れを重ねては、結局債務総額が増大する結果となっていた経緯に照らしても、本件のような融資により、丁及び戊に損害が生じ、これはM事業団やひいては被告人らの利益にしかならないことは十分に認識し得たと認められ、被告人においても、丁及び戊への損害発生の認識と図利目的があったことが認められる。

また、被告人は、本件融資に至る経緯、状況からして、G、H及びIがこれらにつき認識し、それぞれに丁及び戊における損害発生の認識と図利目的があったことをも十分認識していたものと認められる。

4 これに対して、弁護人は、被告人は本件融資の借主でもない第三者であるから、仮にHに対して融資依頼を行ったとしても、本件背任の共同正犯たり得ない旨主張する。

確かに、被告人は、M事業団の役員等ではなく、日常の業務に携っていたわけでもない。しかしながら、関係証拠により認められる本件融資に至る経緯やその中での被告人の関与状況、すなわち、被告人が平成四年ころから丙商事等の再建のために資金調達に乗り出し、Gに協力を依頼して、指揮を取っていたこと、被告人がM事業団の債務について多額の個人保証をするなどして資金調達を行っていたこと、本件融資についても、まず被告人がHに積極的に融資してくれるように依頼し、これに応じて不正貸付を決意し、その方策を説明したHに対し、その際一時的にせよM事業団の経営権をHに渡すことを条件とすることを自ら了承し、その後の戊からの融資も含めた細かな実務手続はHとGに任せることとするとともに、経営者の地位にあったGを説得してその旨合意させ、Gが本件融資の実行に当たって具体的な融資手続を行うなどしていることなどに鑑みれば、被告人は、M事業団にとって単なる第三者ではなく、とりわけ、M事業団を受け皿とする金融受け入れについては、共通の利益を持ち、強い支配力を発揮しうる地位にあったことが認められる。また、本件融資によってM事業団が受領した金員中、約一四億円が、被告人が個人の用途に費消したり個人保証するなどしていた被告人に直接関連する債務の支払いに充てられており(甲一五一、一八八等)、被告人は現に具体的利益を得ているものと評価できる。そのほか、被告人が本件融資に関わった経緯、果たした役割、M事業団の存続が被告人自身の債務に直接影響すること、かねてからHと極めて親しい間柄にあり、度々経済的援助を依頼して、その協力を得てきたもので、その主宰するI・I・Iグループが被告人らに多額の融資をしているという本件融資担当者との関係、さらに右HのIに対する影響力や、Iが現にそれまでのHとの密接な協力関係等から、Hの要請を断りづらく、これに応じていることなど、関係証拠より認められる諸事情に照らすと、被告人の関与は、単なる融資申込みを超え、その任務に反することを認識しながら、Hに働きかけて不正貸付けの決定、実行を要請し、さらにGに協力させるなどして、これを実現させたものと評価するのが相当であって、本件融資の実現に当たって重要な役割を果たしたものということができ、被告人は、本件背任の共同正犯の責任を負うものと認めるのが相当である。

七  以上検討してきたように、M事業団には本件融資の返済能力はなく、また本件融資にはその余の担保を併せ考えても極めて不十分な担保しか存せず、H及びIはこれらの点を十分に認識していながら、あえてM事業団等の利益のために本件融資をしていたことが認められる。そして、被告人は、関係証拠上、本件全体を通じてこれに関与し、背任の図利目的や故意を持って、判示第四の一においてはH、Gと、判示第四の二においてはI、H、Gと、単なる融資申込者の立場を超えて関与し、共謀の上で、本件融資を実行させたものと評価することができる。右認定に反する被告人の供述は、関係証拠から認められる客観的事実関係や関係者の供述内容に照らして信用することができず、弁護人のその余の主張を十分に検討しても、右結論は左右されない。

したがって、被告人は判示第四の罪責を負うものというべきである。

第七  結語

以上の次第であって、判示各事実はその背景となる事実、動機その他の詳細な事実関係等において、検察官が主張するものと異なるところがあるものの、被告人が各犯行の責任を負うという範囲では、結論に何ら影響を与えるものではない。

よって、被告人が本件各事実につき有罪であることは明らかであり、弁護人の主張はいずれも採用できない。

(法令の適用) <省略>

(量刑事情)

一  本件は、被告人が、乙財団の常務理事の地位にあった被告人の秘書らと共謀の上、右常務理事が業務上管理していた財団名義の定期預金証書一通(金額一億八〇〇〇万円)を丁から資金の融資を得るため、同信用組合に交付して質権を設定し、これを横領したという業務上横領の事案(判示第一の一)、衆議院予算委員会において判示第一の一等の事実につき宣誓の上虚偽の陳述をし、偽証したという議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律違反の事案(判示第一の二)、被告人の秘書と共謀の上、被告人が企画していた国際大学建設等の海外事業が当初より構想していた計画に沿っては実現できない状況にあるにもかかわらず、順調に進展しているかのような説明等をして学校法人理事長らを欺罔し、その学校法人から一億六九〇〇万円を詐取したという詐欺の事案(判示第二)、義兄であるM財団の理事長、実姉及び実弟と共謀の上、右理事長が業務上管理していた財団所有の土地(時価約二億二〇〇〇万円相当)に丁から資金の融資を得るため、根抵当権を設定してその登記手続を行い、これを横領したという業務上横領の事案(判示第三)、丁及び戊の代表理事並びに実姉と共謀の上、各代表理事の任務に違背して、両信用組合から実姉が代表取締役を務める会社に対し、総額二七億円を超える巨額の不正貸付けを行い、両組合に同額の財産上の損害を与えたという背任の事案(判示第四の一及び二)である。

二  判示第一の二を除くその余の事案は、平成四年から六年にかけて、いずれも各犯行当時、被告人個人の事業展開や株式投資の失敗により生じた多大の債務、あるいは被告人の実弟や実姉が代表取締役を務めていた関連会社が負った膨大な債務の返済等に当てるための資金繰りに追われる中で、なりふり構わず資金を調達しようとして、多数の関係者を巻き込んで起こした利欲目的の明確な犯行であり、その総額は実に約三三億円に及ぶ。

これを個々の事案について見ていくと、業務上横領(判示第一の一及び第三)については、被告人は、自らが主導した設立の経緯、その後の活動状況等からして、各財団の公益性を十分に認識していたはずであるのにこれを無視し、被告人あるいは親族の経営する会社の資金繰りのため、高額な財団財産を担保に供して横領したものであって、公益法人を私物化するに等しい動機に酌量の余地はなく、その背信的な犯行は強く非難されなければならない。被告人は、判示第一の一においては、定期預金を担保として融資を受けることを自ら思いつき、資金調達の任に当たっていた秘書に借入先を示すなどしてその実行を指示し、三名の秘書を巻き込んで犯行に及び、また、判示第三においては、財団所有の土地を利用して資金を得ることに反対していた財団理事長の義兄を説得して犯行に引き入れ、横領行為を犯すに至らせたものであり、いずれについても、その犯行の中で重要な役割を占めている。加えて、M財団は、結果的に判示第三にかかる土地の所有権を、ほとんど価値のないゴルフ会員権と引き替えに失っており、その結果は重大である。

また、詐欺(判示第二)については、被告人は、当初より企画していたような壮大な構想の大学建設計画が実質的に頓挫していたにもかかわらず、まず、自ら地方で大学を経営する学校法人の理事長に話を持ちかけ、さらに、秘書に指示して資料を度々送付したり、わざわざ当該大学まで出向いて説明会を開くなどして、繰り返し内容虚偽の事実を告げて右理事長らを欺罔し、執拗に預託基金名義の金銭の拠出を求め、学校法人から一億六九〇〇万円を騙し取ったものであり、その巧妙かつ執拗な態様は悪質である。被告人は、欺罔行為の一部を自ら行っている上、その余についても、あらかじめその内容を共犯者たる秘書と綿密に詰めて、実行方を指示するなどしており、犯行の中心的な役割を果たしている。学校法人が詐取された被害額は巨額に及ぶところ、未だ一億円以上が現実に返済されていない。さらに、被告人らは、事態を取り繕うため、右犯行により取得した金銭の使途等についても、再三にわたり学校法人側に虚偽の事実を伝えるなどしており、犯行後の情状も悪い。

さらに、背任(判示第四)については、各信用組合は組合員の利益を第一に追求すべきものであるところ、被告人は、これらに与える影響を一顧だにせず、実姉が代表取締役を務める会社の資金等を得ようと本件犯行に及んでおり、その自己中心的な動機に酌量の余地はない。また、被告人は、親密な関係にあった信用組合の代表理事が新たな融資を拒んでいたのに対し、関連会社等の多額の債務返済に苦しむ窮状を訴えて、その任務に違反する融資の依頼を重ね、右共犯者に不正行為を決意させた上、同人が考案した融資方法に従った計画を実行するため実姉の説得に当たるなど、強い支配力を示して本件犯行に関与しており、不正貸付けの実現に果たした役割は小さくない。本件犯行により各信用組合は巨額の損害を被っており、その結果は極めて重大であるが、貸付先のM事業団からは何ら返済されておらず、被告人の手による被害弁償も皆無である。

そして、議院証言法違反(判示第一の二)についてみると、被告人は、判示第一の一の犯行が国政調査により明らかになることを避けるべく、衆議院予算委員会への出頭を求められるや、あらかじめ右犯行に関わった秘書らを呼び集めて、他の者に責任を転嫁し被告人は全く関与していなかった旨口裏を合わすなどの策を弄した上で、同委員会において、事前に準備したところに従って偽証し、さらには、右犯行に関する刑事告訴を避けようと財団理事長を説得した点についても偽証を重ねたものであり、その行為は憲法が保障する国政調査権の機能を蔑ろにするもので、犯情は極めて悪い。しかも、被告人自身、その権限を行使していた議院の一員であったことにも照らすと、厳しい非難を免れないものというべきである。

以上のほか、被告人が、本件各犯行当時、国民の代表者たる現職国会議員の地位にありながら、その責任ある公的な立場を顧みることなく自己中心的な犯行を次々と敢行したものであって、現職国会議員の犯罪として社会的にも大きな衝撃を及ぼしたものであること、しかるに、当公判廷においても、自らの関与を否定するなどして責任逃れともいうべき弁解に終始し、必ずしも各犯行における自己の責任を真摯に自覚して反省しているものとは認められない態度が見受けられることなどの事情を併せ考えると、被告人の刑事責任は重い。

三  他方、判示第一の一については、被告人は財団財産を業務上占有する地位にないこと、既に信用組合からの借入金は全額返済され、本件定期預金証書が返還されたことで被害回復済みであること、財団から寛大な判断を求める上申書が提出されていること、判示第二については、前示のとおり、被害者らに発言したような内容の大学建設計画は実質的に頓挫していたものの、はるかに小規模なものとはいえ、何らかの施設を建設するなどして、計画自体は継続させようとの意思を有しており、それなりに進展していた点も認められること、学校法人との間で被害金額の返済につき合意が成立し、五八〇〇万円が既に返済されていること、欺罔された学校法人の理事長は最終的に被害金の返還さえされれば寛大な処分でかまわない旨供述し、同法人からは寛大な判決を求める上申書が提出されていること、判示第三については、前示のとおり、担保の設定された土地が犯行当時は財団の所有物であったとはいえ、その取得資金は被告人が捻出していた事情が窺われること、被告人は本件土地につき業務上占有する地位にないこと、財団から温情ある処分を求める上申書が提出されていること、判示第四については、被告人の懇願に対して具体的な融資計画を考え出し、実行に当たったのは共犯者であり、被告人はその具体的計画、実行には深く関わっていないこと、背任罪における身分を有せず、むしろ各信用組合から融資を受ける側の立場にあったこと、戊からM事業団への貸付金につき、Hとその債権を承継した社団法人東京都信用組合協会との間で債務弁済契約が締結されていることが認められる。

また、本件各犯行の一部については、海外投資に失敗して丙商事の経営難を招いた実弟や、その実弟を援助しようとして多額の債務を抱えるに至った実姉がそれぞれ代表取締役をしていた会社の救済を図ろうとした面があったことは否定できないものがあり、犯行によって得た資金の相当部分はそれらの債務の弁済等に充てられている。

加えて、被告人は、これまで長年にわたり国会議員として国政に携わり、労働大臣を務めるなどして国民のために貢献してきた実績があること、前科前歴がないこと、本件各犯行がマスコミ等により広く報道され、衆議院議員総選挙に立候補することを断念するなどし、それなりに社会的制裁を受けていることなど、被告人のために酌むことができる事情も認められる。

そこで、以上の諸事情を総合考慮し、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役六年)

(裁判長裁判官・井上弘通、裁判官・野口佳子、裁判官江口和伸は差支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官・井上弘通)

別表<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例