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東京地方裁判所 平成7年(特わ)1302号 判決 1995年9月18日

裁判所書記官

村瀬雅春

本店所在地

東京都足立区関原三丁目四五番七号

有限会社岩本解体

(右代表者代表取締役 岩本清水)

本籍

東京都足立区関原二丁目一〇八五番地

住居

同都同区関原三丁目四五番七号

会社役員

岩本清水

昭和六年一〇月二四日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官沖原史康、弁護人遠藤雄司各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社岩本解体を罰金一九〇〇万円に、被告人岩本清水を懲役一〇月に処する。

被告人岩本清水に対し、この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社岩本解体(以下「被告会社」という)は、東京都足立区関原三丁目四五番七号に本店を置き、家屋及び鉄骨解体工事の請負等を目的とする資本金五〇〇万円の有限会社であり、被告人岩本清水(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空外注費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八一九四万〇四九〇円(別紙1の修正損益計算書及び修正製造原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成三年五月三一日、同区栗原三丁目一〇番一六号所在の所轄西新井税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四二五万八三一七円で、これに対する法人税額が一一三万三七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第一〇三三号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二九九〇万八九〇〇円と右申告額との差額二八七七万五二〇〇円(別紙5のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五八〇三万二八五九円(別紙2の修正損益計算書及び修正製造原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成四年六月一日、前記西新井税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二九〇万三七九九円で、これに対する法人税額が七五万九八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二〇九四万八九〇〇円と右申告額との差額二〇一八万九一〇〇円(別紙5のほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五二一四万六四七七円(別紙3の修正損益計算書及び修正製造原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成五年五月三一日、前記西新井税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二五一万一〇九四円で、これに対する法人税額が六七万三〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一八七六万四七〇〇円と右申告額との差額一八〇九万一七〇〇円(別紙5のほ脱税額計算書参照)を免れ

第四  平成五年四月一日から平成六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三一一八万〇二七七円(別紙4の修正損益計算書及び修正製造原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成六年五月三一日、前記西新井税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一二万六〇四七円で、これに対する法人税額は、所得税額を控除すると納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の4)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一〇八八万九三〇〇円(別紙5のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書

一  谷口京子、岩本信男及び岩本すみ子(二通)の検察官に対する各供述調書

一  杉浦竜博の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官作成の外注費調査書、役員賞与調査書、給料手当調査書、受取利息調査書、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書、役員賞与損金不算入額調査書及び事業税認定損調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  登記官作成の登記簿謄本

判示第一、第二の事実について

一  大蔵事務官作成の雑収入調査書

判示第一の事実について

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成七年押第一〇三三号の1)

判示第二、第三、第四の事実について

一  大蔵事務官作成の福利厚生費調査書

判示第二の事実について

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成七年押第一〇三三号の2)

判示第三の事実について

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成七年押第一〇三三号の3)

判示第四の事実について

一  大蔵事務官作成の期首仕掛品棚卸高調査書及び控除所得税額調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成七年押第一〇三三号の4)

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社

判示第一ないし第四の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)

2  被告人

判示第一ないし第四の各所為につき、法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人につき、懲役刑

三  併合罪の処理

1  被告会社

刑法(刑法は、平成七年法律第九一号附則二条一項本文により、同法による改正前のもの。以下、同様。)四五条前段、四八条二項

2  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)

四  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、家屋及び鉄骨解体工事の請負等を目的とする被告会社が、四事業年度にわたり合計七七九〇万円余の法人税を免れた事案であるが、ほ脱税額は少なくなく、ほ脱率も通算約九六・八パーセントと高率である上、その手口は、知人に報酬を支払い架空の請求書や領収書を発行させるなどの方法により、架空外注費を計上して収益を圧縮するという計画的かつ悪質なものであり、脱税の動機をみても、被告人は、将来の経営悪化等に備え資金の確保を図りたかったなどと述べているが、そのような事情があるにせよ違法な手段による蓄財が許容される訳ではなく、格別斟酌するに値しないものであって、これらの諸点からすると被告人及び被告会社の刑事責任は重いというべきである。しかしながら、他方、被告会社はその後修正申告の上本件に関する本税、延滞税等を完納していること、被告人は本件各犯行を認めその非を深く反省していること、本件後、被告会社は経理担当者を雇い入れ、経理の適正化を図っていること、被告人には前科前歴が全くないことなど、被告人及び被告会社のために有利に斟酌すべき諸事情も認められる。そこで、当裁判所は、以上のほか一切の情状を考慮し、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社・罰金二五〇〇万円、被告人・懲役一〇月)

(裁判官 平木正洋)

別紙1

修正損益計算書

<省略>

修正製造原価報告費

<省略>

別紙2

修正損益計算書

<省略>

修正製造原価報告費

<省略>

別紙3

修正損益計算書

<省略>

修正製造原価報告費

<省略>

別紙4

修正損益計算書

<省略>

修正製造原価報告費

<省略>

別紙5

ほ脱税額計算書

有限会社岩本解体

<省略>

有限会社岩本解体

<省略>

有限会社岩本解体

<省略>

有限会社岩本解体

<省略>

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