東京地方裁判所 平成7年(行ウ)211号 判決 1996年8月29日
主文
一 被告が原告に対し平成七年六月二三日付けでした総務局知事室の平成四年度ないし平成六年度の一般需用費のうち会談、懇談会等における飲食費用の支出に関する公文書(請書、見積書、起案文書、支出命令書、請求書及び支払金口座振替依頼書)の非開示決定(平成七年一〇月二七日付け決定による一部取消し後のもの)のうち、債権者の口座及び債権者の印影を非開示とする部分を除くその余の部分を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文と同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、東京都(以下「都」という。)の区域内に存する事務所に勤務する者であり、平成七年四月二五日、被告に対し、東京都公文書の開示等に関する条例(以下「条例」という。)六条に基づいて、総務局知事室の平成四年度ないし平成六年度の食糧費(一般需用費のうち会談、懇談会、懇親会等における飲食費用)の支出に関する一切の資料につき公文書の開示を請求した。
2 右請求に係る公文書としては、随時の会議、懇談会(以下「会議等」という。)の際の飲食に要する経費に関し、一件ごとに「請書」、「見積書」、「起案文書」、「支出命令書」、「請求書」、「支払金口座振替依頼書」を一括して表紙に文書番号を付したもの一六四件(以下、一括して「本件文書」という。)が存在する、被告は、平成七年六月二三日、本件文書は条例九条二号、五号、七号及び八号の各非開示条項に該当するとして、本件文書を全部開示しない旨の決定をした(以下「本件決定」という。)。
3 その後、被告は、平成七年一〇月二七日、原告に対し、本件文書について、実施年月日、支出金額、支出内訳及び出席者数のみを部分開示する旨決定し、その限度で本件決定は一部取り消された。
4 しかしながら、本件文書について右開示した以外の部分(以下「非開示部分」という。)を非開示とする本件決定(すなわち、右平成七年一〇月二七日付け決定による一部取消し後の本件決定。以下、右一部取消しの後の本件決定を単に「本件決定」という。)は、債権者の口座及び債権者の印影を非開示とする都分を除き、条例の解釈適用を誤ったもので違法である。
よって、原告は、本件決定(債権者の口座及び債権者の印影を非開示とする部分を除く。)の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし3の事実は認める。
2 同4は争う。
三 抗弁
1 条例九条によれば、開示請求に係る公文書に同条各号所定の情報が記録されているときは、当該公文書の開示をしないことができるとされているところ、本件文書には、会議等の名称、開催の目的、実施年月日、会議等の場所、出席者数、支出金額、支出内訳、債権者名などが記載されており、その非開示部分(会議等の名称、開催の目的、会議等の場所、債権者名)については、次のとおり、条例九条各号に定める非開示事由があるから、本件決定は適法である。
2 条例九条二号該当性
本件文書には、会議等に出席した相手方の肩書及び氏名は記載されていないが、その非開示部分を開示すると、記載されている会議等の名称、開催の目的、会議等の場所、債権者名などの情報と他の情報(例えば、新聞等の関連情報や債権者、その従業員等を取材、調査することにより得られる情報)とを組み合わせることによって、当該会議等に出席した相手方の肩書、氏名を特定することが可能となり、特定の個人が識別されるおそれがあるというべきである。
3 条例九条四号該当性
本件文書に係る会議等はすべて知事又は副知事主催のものであるが、被告は、現在、警察庁の警護対象者とされており、会議等の相手方も同様である場合もあることから、会議等の日時及び場所が事前に開示されると、警護体制に大きな支障が生じ、人の生命、身体、財産又は社会的な地位の保護、犯罪の予防、犯罪の捜査その他公共の安全と秩序の維持に支障が生ずるおそれがある。そして、知事ら主催の会議等は、都が当面する重要な課題や施策に係るものであり、内密性を有するため、その開催場所がある程度限定されざるを得ず、同じ場所が反復して使用されがちであることから、会議等の開催後にあっても、会議等の場所及び債権者名を開示すると、将来の会議等の出席者の生命、身体に対する危害を生ずるおそれがある。
4 条例九条五号・七号・八号該当性
本件文書に係る会議等は、都が抱えている様々な政策的、政治的問題や課題等について、国、関係地方公共団体、関係各団体等との間で、協議・意見交換をし、協力を求めるとともに、都政の最終的な意思決定に資するために行われたものであって、前記のとおり、非開示部分を開示すると、当該会議等に出席した相手方の肩書、氏名を特定することが可能であることから、その者と会議等を行った事実や会議等の内容が公となる可能性があり、その結果、会議の内容に利害関係を有する第三者あるいは都民等に様々な憶測を生じさせ、無用の誤解や混乱を惹起することとなり、ひいては、都と右国や関係地方公共団体等との協力関係、信頼関係が損なわれることになる(五号)ほか、当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に支障が生ずる(七号)とともに、関係当事者間の信頼関係が損なわれ、当該事務事業又は将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生じるおそれがある(八号)。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1のうち、本件文書の非開示部分について条例九条所定の非開示事由があることは争うが、その余の事実は認める。
2 同2は争う。
本件文書に記載されている情報は、公務員の公務に関するもので、私生活とは無関係であり、これを公開してもプライバシーの侵害とはならないから、条例九条二号の非開示事由には該当しないし、そもそも、会議等に出席した相手方の肩書及び氏名が記載されていないのであれば、それらの個人が識別される可能性はない。
3 同3は争う。
条例が非公開決定について理由付記を要するとした趣旨に鑑みると、被告は、本件決定の通知書に非開示理由として記載しなかった条例九条四号該当性について、本訴において新たに主張することは許されないというべきである。
4 同4は争う。
本件文書は、都と飲食店との間の飲食代金の支払に関して作成された起案文書や支出命令書等であって、そこに記載されている情報は、都と国等との間における協議、協力等により実施機関が作成し、又は取得した情報(条例九条五号)には当たらないし、また、都又は国等の事務事業に係る意思形成過程において、都と国等との間における審議、協議等に関し実施機関が作成し、又は取得した情報(同条七号)、あるいは監査、検査等実施機関が行う事務事業に関する情報(同条八号)にも当たらないから、右各号の非開示事由に該当するとの被告の主張はその前提を欠いている。
第三 証拠〔略〕
理由
一 請求原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。
そして、〔証拠略〕によれば、条例九条は、開示請求に係る公文書に同条各号所定の情報が記録されているときは、当該公文書の開示をしないことができるとしており(この点は当事者間に争いがない。)、同条二号には「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人が識別され得るもの」、同条四号には「開示することにより、人の生命、身体、財産又は社会的な地位の保護、犯罪の予防、犯罪の捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障が生ずるおそれがある情報」、同条五号には「都と国、地方公共団体又は公共的団体(以下「国等」という。)との間における協議、協力等により実施機関が作成し、又は取得した情報であって、開示することにより、都と国等との協力関係又は信頼関係が損なわれると認められるもの」、同条七号には「都又は国等の事務事業に係る意思形成過程において、都の機関内部若しくは機関相互間又は都と国等との間における審議、協議、調査、試験研究等に関し、実施機関が作成し、又は取得した情報であって、開示することにより、当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に支障が生ずると認められるもの」、同条八号には「監査、検査、取締り、徴税等の計画及び実施要領、渉外、争訟、交渉の方針、…その他実施機関が行う事務事業に関する情報であって、開示することにより、…関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるもの」がそれぞれ定められていることが認められる。
二 そこで、本件文書が右各号の非開示条項に該当するかどうかについて検討する。
1 本件文書に会議等の名称、開催の目的、実施年月日、会議等の場所、出席者数、支出金額、支出内訳、債権者名などが記載されていることは、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 都の総務局知事室は、知事及び副知事の秘書に関すること等の事務を分掌しており、本件文書は、知事又は副知事が主催する会議等の際の飲食に要する経費に関するもので、請書、見積書、起案文書、支出命令書、請求書及び支払金口座振替依頼書から成り、そのうち、請書、見積書、請求書及び支払金口座振替依頼書は、いずれも債権者が都宛てに作成、提出したものであって、債権者の住所氏名、契約金額、その内訳などが記載されているほか、請書には契約の目的も記載されている(ただし、具体的にどのような記載がされているかは定かでない。)。起案文書は、会議等の開催に伴い飲食費等の経費を支出することの決裁を求めるもので、同文書には、件名(会議等の名称)、起案日、会議等の日時、場所、目的、出席人数、予定経費額、契約の相手方(債権者名)などが記載され、また、支出命令書には、件名(会議等の名称)、発行日、支出金額、債権者名などが記載されているが、いずれにも、出席者についての記載はなく、会議等の相手方の肩書や氏名は記載されていない。
(二) 被告は、原告の本件文書の公開請求に対し、一旦は全面的に非開示としたものの、その後、平成七年一〇月一三日、新たに、会議費に関する公文書の統一的な開示基準(以下「開示基準」という。)を定め、事業に関連する随時の協議、打合せの際の飲食に関する起案文書、見積書、請書(契約書)、請求書、支出命令書、口座振替依頼書又は領収書については、実施年月日、支出金額、支出内訳、出席者数は常に開示するものとし、また、会議等の名称、会議等開催の目的、都の出席者についても、原則としてこれを開示するとの取扱いを決めた。
(三) 被告は、平成七年一〇月二七日、本件文書について一部開示することとしたが、これも右開示基準に基づいて実施されたものである。
2 本件文書の条例九条二号該当性について
本件文書に、会議等に出席した相手方の肩書及び氏名の記載がないことは前記認定のとおりであるが、被告は、これらの記載がなくても、非開示部分が開示されると、会議等の名称、開催の目的、会議等の場所、債権者名などの情報と他の情報とを組み合わせることによって、特定の個人が識別される可能性があると主張する。
ところで、条例九条二号にいう「特定の個人が識別され得るもの」には、当該情報によって特定の個人を直接識別できるもののほかに、一般人が通常入手し得る他の関連清報と組み合せせることにより特定の個人を識別することができる情報をも含むものと解すべきであるが、しかし、出席者数しか記載されていない本件文書にあっては、会議等の名称、開催の目的が開示されたからといって、具体的な個々の出席者を特定、識別し得ることにならないことは明らかであり(仮に、会議等の名称、開催の目的から、当該事務に関係する省庁名や団体名、さらにはその部局をある程度推測できたとしても、そのことから直ちに具体的にその会議等に出席した個々人を特定、識別できることになるということはできない。)、また、新聞等の報道による関連情報と照合することで会議等の相手方を推測し得る場合も全くないとはいえないものの、本件文書に係る会議等がすべてそのような方法で出席者を識別し得る場合であるとは考え難いし、少なくとも、本件においては、これを認めるに足りる証拠は存在しない。
また、被告は、会議等の開催場所や債権者名を開示すると、債権者やその従業員等に取材や調査をして、出席した相手方の肩書、氏名を特定することが可能となる旨主張するが、それらの会議等が知事等の主催であり、出席する相手方も相応の地位にある者であることを考慮に入れても、日々多数の顧客に接している債権者やその従業員等が、必ずしも過去に行われた特定の会合の出席者を識別し、記憶できているとは限らないし、証人中村憲司の証言も、取材や調査等を行うことにより、特定の個人が識別されるおそれがあるとの一般的・抽象的な懸念を述べるだけであって、本件において、個々の会議等につき、被告が主張するような方法で特定の個人を識別し得ることについての証明はない。
右のとおりであるから、被告の前記主張は採用することができず、他に本件文書の非開示部分に条例九条二号に該当する情報が記録されていることを認めるに足りる証拠はない。
したがって、条例九条二号に該当することを理由に本件文書の開示を拒否することはできない。
3 本件文書の条例九条四号該当性について
被告が、本件訴訟において、本件決定の通知書の付記理由として記載されていなかった条例九条四号の非開示事由該当性を新たに主張することが許されるかどうかはともかく、本件文書は、既に開催済みの過去の会議等に関するものであるから、事前の開示とは異なり、その開催場所等を開示したとしても、警護上の支障が生ずることはないし、また、将来の警護等に特段の支障を来すとも考え難く、非開示都分を開示することによって、人の生命、身体の保護や犯罪の予防などに支障を生ずるといえないことは明らかであって、本件文書の非開示部分に条例九条四号に該当する情報が記録されているということはできない。
被告は、知事ら主催の会議等は内密性を有するため、開催場所がある程度限定されざるを得ず、過去に行われた開催場所を開示すると、将来の会議等の出席者の生命、身体に対する危害を生ずるおそれがある旨主張するが、内密性を有することから直ちに開催場所が限定されることになるともいえないし、過去に行われた会議等の開催場所が判明したからといって、将来行われる会議等が、いつ、どこで開催されるのかが分かるわけではないのであるから、被告の右主張は失当というほかない(なお、前掲〔証拠略〕によれば、開示基準は、会議等の場所及び債権者名を非開示とする理由として、これらを開示することにより、債権者等に対する問合せなどから相手方の氏名が識別される可能性があり、その結果相手方との信頼関係が損なわれるおそれがあると説明しており、会議等の出席者の生命、身体の保護や犯罪の予防などの見地から非開示とすることとしたものではないことが明らかである。)。
したがって、本件文書の非開示部分に条例九条四号に該当する情報が記録されていると認めることはできず、同号に該当することを理由に本件文書の開示を拒否することはできない。
4 本件文書の条例九条五号・七号・八号該当性について
(一) 被告は、本件文書の非開示部分を開示すると、当該会議等に出席した相手方が識別され、その者と会議等を行った事実や会議等の内容が公となる可能性があり、その結果、関係者や都民等に様々な憶測を生じさせ、無用の誤解や混乱を惹起し、ひいては条例九条五号、七号及び八号所定の支障が発生する旨主張する。
(二) そこで、まず、条例九条五号該当性について検討するに、同号は、「都と国等との間における協議、協力等により実施機関が作成し、又は取得した情報」と規定していることから明らかなように、国等との協議、依頼、照会などその協力関係ないし信頼関係に基づいて作成され、又は取得された情報について非開示とすることを許容しているものであるところ、本件文書は、会議等の際の飲食に要する経費に関するもので、その内容は、前記認定のとおりであり、それ自体は国等との協議、協力等により作成したものでも、取得したものでもないというべきであるから、本件文書が条例九条五号に該当する旨の被告の主張は、その前提を欠き失当であるといわざるを得ない。
したがって、本件文書の非開示部分に条例九条五号に該当する情報が記録されているとは認められず、同号に該当することを理由に本件文書の開示を拒否することはできない。
(三) 次に、条例九条七号該当性について検討する。
前記認定のとおり、本件文書中、起案文書には件名(会議等の名称)、会議等の目的が、支出命令書には件名(会議等の名称)がそれぞれ記載されており、右記載から当該会議等が都のいかなる事務に関して行われたものであるかは明らかになるといえるが、それ以上に、本件文書が当該会議等の内容についてまで記録しているものでないことは明らかである。
そして、本件文書の非開示部分を開示したとしても、必ずしも当該会議等に出席した特定の個人が識別されることになると速断することができないことは、前示のとおりであり、また、被告の前記主張は、右非開示部分を開示することによって、どのようにして会議等の内容が公となる可能性があるというのか定かでないばかりか、具体的にどのような憶測を招き、誤解と混乱を生じることとなるのかも明らかでない上、そもそも会議等の内容が記録されているわけではない本件文書が開示されたからといって、被告が主張するような憶測や誤解・混乱といった事態が生ずるとは通常考え難いというべきであるし、本件においては、そのような事態が生ずる可能性があることの的確な立証もない(証人中村憲司も、本件文書の非開示部分が開示されると、会議の内容について憶測が生じたり、特定の立場の者のある種の行動を生じさせたりするとの一般的・抽象的な危惧を述べるだけで、具体性に欠けており、被告の前記主張を裏付ける立証として不十分であるといわなければならない。)。
なお、証人中村憲司は、本件文書に係る会議は知事又は副知事という都の最高レベルの者が主催する会議であるから、政治性、内密性を帯びた重要な会議であると推測され、非開示都分が開示されると、国や都の事務事業に支障が生ずる旨証言する。確かに、知事又は副知事が主催する会議等の中には、その協議等の内容について秘匿すべきであるとされるものが比較的多いであろうことは推測できないではないが、しかし、そのことは必ずしも会議等の開催それ自体までを一切秘密にしなければならないことを意味するものではないというべきであって、証人中村憲司の証言によっても、本件において、会議等の開催自体を秘匿しなければならない具体的な必要性(本件文書に係る会議等について、会議等の名称や目的すら明らかにしてはいけない客観的な理由)を裏付ける事実を認めることはできず、非開示部分を開示することにより国や都の事務事業に支障が生ずるとの事情は窺われない。
そうすると、本件文書に記録されている情報が、条例九条七号にいう「意思形成過程において、…都と国等との間における審議、協議…等に関し、実施機関が作成し、又は取得した情報」に当たるとしても、これを開示することにより、当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に支障が生ずると認めることはできず、同号に該当することを理由に本件文書の開示を拒否することはできない。
(四) 被告は、条例九条八号該当性についても主張するが、本件文書の非開示部分を開示することにより、必ずしも会議等に出席した相手方が特定、識別されることになると速断することはできないこと、右開示をした場合、関係者に様々な憶測を生じさせ、無用の誤解や混乱を惹起する旨の被告の主張が抽象的であって、これを裏付けるに足りる的確な証拠もなく、採用できないことは前示のとおりである。したがって、右非開示部分が開示されると、会議等の相手方が識別され、憶測や誤解・混乱が生じることを理由に、関係当事者間の信頼関係が損なわれ、当該事務事業又は将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生じるおそれがあるとする被告の主張は、失当である。
そして、他に本件全証拠を検討しても、本件文書の非開示部分を開示することによって、条例九条八号にいう「関係当事者間の信頼関係が損なわれる」とか、あるいは「当該事務事業又は将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生じるおそれ」があるとの事情を認めるに足りる証拠はない(証人中村憲司は、非開示部分の開示により、当事者間の信頼関係を損ねたり、都政全体あるいは特定の事務事業の運営に支障が生じ、事務事業の目的が損なわれるおそれがあると述べるが、一般的・抽象的であって、具体性に欠けるものであり、右証言をもって、被告主張の条例九条八号該当性を肯認することはできない。)。
したがって、本件文書の非開示部分に条例九条八号に該当する情報が記録されていると認めることはできず、同号に該当することを理由に本件文書の開示を拒否することはできない。
5 以上検討したとおりであって、本件文書の非開示部分は、いずれも被告主張の非開示条項に該当しないというべきであるから、これを開示しなかった本件決定(債権者の口座及び債権者の印影を非開示とする部分を除く。)は違法であり、取消しを免れないというべきである。
三 よって、本件請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 岸日出夫 德岡治)