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東京地方裁判所 平成7年(行ウ)284号 判決 1997年10月28日

原告

矢野穂積

被告

鈴木俊一

被告

青島幸男

右両名訴訟代理人弁護士

山下一雄

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告鈴木俊一は、東京都に対し、二二二億七二七二万九〇〇〇円及びこれに対する平成八年一月一五日から支払済みまで、年五分の割合による金員を支払え。

二  被告青島幸男は、東京都に対し、四四億六七八一万八〇〇〇円及びこれに対する平成八年一月三〇日から支払済みまで、年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、東京都の住民である原告が、東京都知事(以下「都知事」という。)の地位にあった、あるいは現にその地位にある被告らに対し、被告らが各都知事在職中の期間に、平成九年東京都条例第一一号(以下「本件改正条例」という。)による改正前の職員の給与に関する条例(昭和二六年東京都条例第七五号)(以下「旧給与条例」という。)一三条の規定に基づき東京都職員(以下「都職員」という。)に支給した特殊勤務手当(以下「本件手当」という。)は、給与条例主義に反する違法な公金の支出に当たり、違法な本件手当の支出により、東京都に対して本件手当相当額の損害を被らせたとして、地方自治法二四二条の二第一項四号により、東京都に代位して、損害賠償金として、被告鈴木俊一(以下「鈴木」という。)に対しては平成六年七月分から平成七年四月分までの特殊勤務手当予算総額二二二億七二七二万九〇〇〇円及びこれに対する平成八年一月一五日(被告鈴木に対する本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、被告青島幸男(以下「被告青島」という。)に対しては平成七年五月分及び同年六月分の特殊勤務手当予算総額四四億六七八一万八〇〇〇円及びこれに対する平成八年一月三〇日(被告青島に対する本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  当事者

原告は東京都の住民であり、被告鈴木は平成六年七月一日から平成七年四月二二日までの期間において、被告青島は翌二三日から同年六月三〇日までの期間において、それぞれ都知事の地位にあった。

2  東京都における職員の特殊勤務手当に係る条例等の定め(乙第一ないし第一一号証)

(一) 旧給与条例一三条は、著しく危険、不快、不健康又は困難な勤務その他著しく特殊な勤務で、給与上特別の配慮を必要とし、かつ、その特殊性を給料で考慮することが適当でないと認められるものに従事する職員に対し、その勤務の特殊性に応じて特殊勤務手当を支給するものとし(一項)、支給額については、当該職員の給料の一〇〇分の二五を超えない範囲(ただし、職務の性質により特別の必要がある場合は、この限りではない。)において定め(二項)、また、同手当の種類、支給される職員の範囲及び支給額については、任命権者が人事委員会の承認を得て定める(三項)としていた。

なお、学校職員については、別途、平成九年東京都条例第二〇号による改正前の学校職員の給与に関する条例(昭和三一年東京都条例第六八号)一五条において、特殊勤務手当に関する規定が置かれていたが、右条例に基づき学校職員に支給された特殊勤務手当は本件手当には含まれない。

(二) 東京都が都職員に対して支給した特殊勤務手当は、別表(一)(特殊勤務手当名一覧)記載のとおりであるが、そのうち、旧給与条例に基づく各特殊勤務手当の種類、支給範囲、支給額及び支給方法については、次の各規則、規程によって定められていた(以下、右各規則、規程を「本件各規則等」と総称する。)。

(1) 知事部局関係の特殊勤務手当については、東京都職員の特殊勤務手当に関する規則(昭和三五年東京都規則第一三九条)二条において、別表(一)の記載中「知事部局」の欄掲記の1ないし36の各手当の種類、支給範囲及び支給額を別表(二)ないし(八)記載のとおり規定し、東京都清掃業務従事職員特殊勤務手当支給規程(昭和三四年訓令甲第五九号)二条において、同37の清掃業務従事職員特殊勤務手当の支給範囲及び支給額を別表(九)記載のとおり規定し、小笠原業務手当支給規程(昭和四三年訓令甲第一八〇号)二条において、同38の小笠原業務手当の支給範囲及び支給額を別表(一〇)記載のとおり規程し、海外事務所勤務手当支給規程(平成二年訓令第六号)二条、三条において、支給対象職員及び支給額を規定していた。

(2) 東京都教育委員会関係の特殊勤務手当(別表(一)記載中「教育委員会」の欄掲記のもの)については、東京都教育委員会職員の特殊勤務手当に関する規則(昭和四一年教育委員会規則第四号)二条において、各手当の種類、支給範囲及び支給額を別表(二)記載のとおり規定していた。

(3) 東京都人事委員会関係の特殊勤務手当(別表(一)記載中「人事委員会」の欄掲記のもの)については、東京都人事委員会事務局職員の特殊勤務手当支給規程(昭和三六年人事委員会訓令甲第二号)二条において、各手当の種類、支給範囲及び支給額を別表(一二)記載のとおり規定していた。

(4) 警視庁関係の特殊勤務手当(別表(一)記載中「警視庁」の欄掲記のもの)については、警視庁職員特殊勤務手当支給規程(昭和三七年訓令甲第八号)二条において、各手当の種類、支給範囲及び支給額を別表(一三)記載のとおり規定していた。

(5) 東京消防庁関係の特殊勤務手当(別表(一)記載中「消防庁」の欄掲記のもの)については、東京消防庁職員特殊勤務手当支給規程(昭和三七年東京消防庁訓令甲第一五号)二条において、各手当の種類、支給範囲及び支給額を別表(一四)記載のとおり規定していた。

(三) 東京都議会は、平成九年第一回東京都議会定例会において、本件改正条例を可決成立させ、特殊勤務手当の種類、支給される職員の範囲及び支給額について、旧給与条例一三条三項では、任命権者が人事委員会の承認を得て定めるとしていたのを、新給与条例一三条三項では、別に条例で定めることと改め(これによる改正後の条例を、以下「新給与条例」という。なお、旧給与条例一三条一項、二項は改正の対象とされていない。)、本件改正条例附則三項において、施行日前に旧給与条例に基づいて支給した給与は新給与条例に基づいて支給したものとみなす旨規定した上、新たに、東京都職員の特殊勤務手当に関する条例(平成九年東京都条例第一二号。以下「都職員手当条例」という。)、東京都教育委員会職員の特殊勤務手当に関する条例(平成九年東京都条例第二二号。以下「教育委員会職員手当条例」という。)、警視庁職員の特殊勤務手当に関する条例(平成九年東京都条例第四四号。以下「警視庁職員手当条例」という。)及び東京消防庁職員の特殊勤務手当に関する条例(平成九年東京都条例第四七号。以下「消防庁職員手当条例」という。)を制定し(以下、右新たに制定された特殊勤務手当に関する条例を総称して、「本件各手当条例」という。)、いずれも平成九年四月一日から施行することとした。

(四) 本件各手当条例は、いずれも、地方公務員法二四条六項及び新給与条例一三条三項の規定に基づき、職員(都職員手当条例にあっては給与条例の適用を受ける都職員のうち、東京都教育委員会、警視庁及び都消防庁に所属する職員を除くすべての職員、教育委員会手当条例にあっては東京都教育委員会に所属する職員、警視庁職員手当条例にあっては警視庁に所属する職員、消防庁職員手当条例にあっては東京消防庁に所属する職員)の特殊勤務手当に関する事項を定めることを目的とし(各一条)、特殊勤務手当の種類(都職員手当条例にあっては別表(一)の記載中「知事部局」の欄及び同「人事委員会」の欄各掲記のもの、教育委員会職員手当条例にあっては同「教育委員会」の欄掲記のもの、警視庁職員手当条例にあっては同「警視庁」の欄掲記のもの、消防庁職員手当条例にあっては同「消防庁」の欄掲記のもの)を掲げ(各二条)、各特殊勤務手当の種類ごとに、支給対象者、支給範囲を概括した支給事由並びに支給対象ごとの上限支給額及びその範囲内において支給額を、人事委員会規則(別表(一)の記載中「人事委員会」の欄掲記のものについて)で、あるいは、人事委員会の承認を得て東京都規則(教育委員会職員手当条例にあっては教育委員会規則)で定める旨の規定(都職員手当条例三ないし四三条、教育委員会職員手当条例三ないし一三条、警視庁職員手当条例三ないし二七条、消防庁職員手当条例三ないし一九条)、特殊勤務手当の支給方法に関する規定(都職員手当条例四四条、教育委員会職員手当条例一四条、警視庁職員手当条例二八条、消防庁職員手当条例二〇条)、特殊勤務手当の支給範囲、支給方法その他条例施行に関し必要な事項についての規則への委任規定(都職員手当条例四五条、教育委員会職員手当条例一五条、警視庁職員手当条例二九条、消防庁職員手当条例二一条)を設け、各附則二項において、本件各手当条例施行の日前に旧給与条例一三条の規定に基づいて職員に支払われた特殊勤務手当は、本件各手当条例により支払われたものとみなす旨規定している。

3  本件手当の支給

被告鈴木は平成六年七月分から平成七年四月分まで、被告青島は平成七年五月分及び同年六月分、いずれも都知事として、都職員に対し、旧給与条例一三条に基づき、本件手当を支給した(ただし、その具体的支給額については争いがあり、被告らは、学校職員に対する特殊勤務手当を含めて別表(一五)記載のとおりであると主張する。)。

4  原告による監査請求(甲第一号証の一)

原告は、平成七年七月一二日、東京都監査委員に対して、本件係争期間中に、旧給与条例一三条に基づき支給された本件手当が、給与条例主義に違反する違法、無効のものであるとして、本件手当支給額相当額の東京都の損害の補填と違法な公金支出の差止めを求める監査請求をしたが、同監査委員は、同年九月二七日、右監査請求を棄却する旨の監査結果を原告に対して通知し、原告は、同年一〇月二七日、本件訴えを提起した。

二  争点

1  旧給与条例一三条及び本件各規則等が給与条例主義に違反するか否か。

(原告)

旧給与条例一三条三項は、特殊勤務手当の種類、支給される職員の範囲及び支給額については任命権者が人事委員会の承認を得て定めると規定し、地方自治法二〇四条三項、二〇四条の二、地方公務員法二四条六項、二五条一項が条例で定めることを義務付けている特殊勤務手当の種類、支給される職員の範囲及び支給額を条例上規定していないので、右各規定が定める給与条例主義に違反し、旧給与条例一三条及び本件各規則等に基づいてなされた本件手当の支給は違法な公金の支出である。

(被告ら)

旧給与条例一三条の規定は、国家公務員法六三条により給与法定主義が採用されている国家公務員の特殊勤務手当について、その種類、支給される職員の範囲、支給額等についてすべて人事院規則に委ねている一般職の職員の給与に関する法律一三条の規定に準じて整備されたものである。給与条例主義下においても、その原則が否定されない限度において、条例制定権を有する議会が他の機関に細則の決定を委ねることは必ずしも許されないものではなく、給与の決定は技術的で複雑な側面を有し、その細かい運用は具体的実情に応じて行う必要があること、また、その具体的運用については職員団体との交渉等の必要があることから、専門機関である人事委員会やその実情に通じた長の規則に委ねることは許されると解すべきである。旧給与条例一三条は、特殊勤務手当の支給限度額を定めた上、人事行政の専門機関である人事委員会の承認を要件としており、給与条例主義が求める職員の給与の保障、職員給与の民主的統制の趣旨を損なうものではない。

2  本件改正条例の附則三項及び本件各手当条例の各附則二項(以下「本件各附則」と総称する。)により、本件手当支給が適法なものとなるか否か。

(被告ら)

本件各附則により、本件手当は新給与条例及び本件各手当条例に基づいて支出されたものとみなされるのであるから、本件手当の支出には給与条例主義違反の違法はない。

(原告)

(一) 労務の提供の対価として当然に支払われることが前提となる給料表に基づく本俸たる給料や勤務時間外の労働時間を基礎として客観的に算定される超過勤務手当と異なり、特殊勤務手当は支給の額及び支給方法が一定しておらず、本件手当は被告らの裁量権の濫用によって恣意的に違法支出されたのであるから、本件手当の支給に新給与条例及び本件各手当条例を遡及適用することは許されない。

(二) 仮に、本件手当の支給に新給与条例及び本件各手当条例が遡及適用されるとしても、地方自治法二〇四条三項の規定により条例で定めなければならないとされている手当の額及びその支給方法について、新給与条例一三条三項は「別に条例で定める」と明確に規定しているにもかかわらず、本件各手当条例においては、支給額について、最高限度額は設定されているものの、実際の支給額は規則において定めることとされ、常に任命権者の裁量に委ねられており、議会の議決という民主的統制の下に置かれているわけでもなく、支給方法についても、併給を許す場合が規則に委任されており、その結果、清掃業務従事職員については、新給与条例一三条二項が規定する特殊勤務手当の上限である当該職員の給料の一〇〇分の二五を超える不当に高額の特殊勤務手当が支給される結果となっているのであって、なお、給与条例主義に反し、違法というべきである。

三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三  争点に対する判断

一  旧給与条例一三条及び本件各規則等が給与条例主義に違反するか否か(争点1)について

1  地方自治法二〇四条三項、二〇四条の二、地方公務員法二四条六項、二五条一項によれば、普通地方公共団体の職員に対する給料、手当及び旅費の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならず、また、いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく条例に基づかずに支給することができないこととされている(給与条例主義)。右の法律の各規定の趣旨は、右給与等の種類、額及び支給方法という基本的な内容については法律又は条例に具体的根拠を要することとし、条例制定を通じて、給与の決定を住民の代表である議会のコントロールの下に置き、地方公共団体における給与の適正かつ公正な支給を確保するという点にあるものと考えられる。

2  この観点からすれば、旧給与条例一三条は、特殊勤務手当の支給額の上限を定め(二項本文)、人事委員会の承認にかからしめていた(三項)としても、特殊勤務手当の種類、支給される職員の範囲及び支給額を、任命権者の決定に委ねていた点で、給与条例主義を定めた地方自治法二〇四条三項、二〇四条の二、地方公務員法二四条六項、二五条一項に違反するおそれが極めて強いものであったというべきである。

二  本件各附則により、本件手当支給が適法なものとなるか否か(争点2)について

1  本件各附則は、新給与条例及び本件各手当条例の施行日前に給与条例に基づいて支給された特殊勤務手当を、新給与条例及び本件各手当条例に基づいて支給されたものとみなすというものであり、要するに、給与条例主義違反の疑いのある旧給与条例に基づく本件手当を含む特殊勤務手当の支給を、すべて適法なものとしようとする趣旨の規定であると解される。

2  一般に、行政法規を含む民事法の遡及適用は、それにより国民の権利を侵害せず、また、国民に義務を課するものでもない場合には許されるとして差し支えないものと考えられるところ、本件各附則による新給与条例及び本件各手当条例の遡及適用は、本件手当の支給対象者である都職員等にとっては、これまでに支給された本件手当の法的根拠が付与され、その返還義務を免除されるという積極的利益を受けるものであるから、何らその権利が侵害されるものではなく、義務を課されるものでもないのであり、許されるものというべきである。

また、東京都議会は、本件改正条例の可決成立、本件各手当条例の制定により、被告らが都知事としてした本件手当の支給自体を是認し、給与条例主義違反の点については、これを遡って適法なものとしたものと解するのが相当であるところ、給与条例主義が、地方公共団体における給与の適正かつ公正な支給を確保すべく、その支給につき議会のコントロール等を及ぼすためのものである趣旨に照らせば、東京都議会自らが本件手当支給についての明確な条例上の根拠を与えるべく、本件各附則を含む本件改正条例及び本件各手当条例を制定した以上、本件手当の支給が給与条例主義に違反する違法なものであったとしても、この違法は遡って治癒されたものと解すべきである(最高裁判所平成五年五月二七日第一小法廷判決・裁判集民事一六九号八九頁参照)。

3  これに対し、原告は、特殊勤務手当は支給の額及び支給方法が一定しておらず、本件手当は被告らの裁量権の濫用によって恣意的に支出されたものであるから、本件手当の支給に新給与条例及び本件各手当条例が遡及適用することは許されないと主張する。しかし、前記のとおり、本件手当は、本件各規則等に基づき、一定の基準に従って支給が行われたものであり、支給の額及び支給方法が一定していなかったとか、被告らの裁量権の濫用によって恣意的に支出されたといった事情は窺われない。

したがって、この点についての原告の右主張は採用することはできない。

4  また、原告は、仮に、本件手当の支給に新給与条例及び本件各手当条例が遡及適用されるとしても、本件各手当条例は地方自治法二〇四条三項の規定により条例で定めなければならないとされている手当の額及びその支給方法の決定を規則に委任しており、なお、給与条例主義に反すると主張する。

たしかに、立法技術的には、本件各規則等の内容である別表(二)ないし(一四)と同様のものを本件各手当条例の別表とすることも可能であり、この方法によることが給与条例主義の前記の趣旨により一層合致するものと解されるのに、本件各手当条例は特殊勤務手当の種類、右種類ごとの支給対象者、支給事由及び支給対象ごとの上限支給金額を定めているものの、支給範囲の細目及び具体的な支給額は規則に委任していることからすれば、給与条例主義の趣旨に十分に沿うものであるとはいい難いというべきである。しかし、証拠(乙第一ないし第五号証、第七ないし第九号証、第一一号証)及び弁論の全趣旨によれば、本件各手当条例が規定する支給事由ごとの上限支給金額の大半は、別表(二)ないし(一四)記載の各支給範囲に対応する支給額のうち最高額のものと一致し、その余のものは右最高額を上回る金額であること、本件改正条例は本訴提起後に給与条例主義の徹底を図る趣旨で提出、可決されたものであって、給付内容の実質的改正を目的とするものではないことが認められ、右事実によれば、本件各手当条例における上限支給金額は単に委任の範囲を規定したものではなく、現実の給付額を前提にその最高額を記載したものであり、また、本件各手当条例も別表(二)ないし(一四)と同様の具体的な給付を前提に、法形式上規則への委任を行ったものということができるから、給与条例主義の徹底においてなお不十分なところがあるとしても、右委任の趣旨の限度においては、既に説示した給与条例主義に実質的に反するものではないということができる。

また、新給与条例及び本件各手当条例に基づく支出に給与条例主義に反する点があるとしても、本件手当は既に特定の支給範囲について特定の手当として支給されたものであり、本件各附則は、本件手当について、条例の形式をもって、その適法性の根拠を与えたものというべきであるから、本件手当は、その額及び支給方法を含めて条例の根拠を得たものということができる。

5  なお、原告は、本件各手当条例においては、特殊勤務手当の併給を許す場合が規則に委任されており、その結果、清掃業務従事職員については、経過規定の適用により、新給与条例一三条二項が規定する特殊勤務手当の上限である当該職員の給料の一〇〇分の二五を超える不当に高額の特殊勤務手当が支給される結果となっているとも主張するが、証拠(乙第一一号証)によれば、本件各手当条例は、いずれも、特殊勤務手当の支給方法として、当該条例が規定する特殊勤務手当の対象業務のうち二以上の業務に従事した場合には、規則で定めるものを除き、最高額の定めのある業務に応じた特殊勤務手当のみを支給する旨規定していることが認められ、右事実に照らせば、本件各手当条例は、特殊勤務手当の併給に関し、例外的な場合についてのみ規則に委任しているものというべきであって、右規則への委任の程度は、給与条例主義の趣旨を没却するようなものとはいい得ないものというべきであり、仮に、原告が主張する違法性の有無が問題となるとしても、そのこと自体をもって、本件手当の支出が条例の根拠を欠くことにはならないというべきであるから、この点についての原告の主張は失当というべきである。

三  以上によれば、本件手当の支給は、結局、本件各附則を含む給与条例改正条例及び本件各手当条例の制定、施行により、遡って条例上の根拠が付与され、適法な支出と位置づけられるに至っているものというべきである。

第四  結論

以上の次第であるから、その余の点につき判断するまでもなく、原告の本件請求は、いずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官富越和厚 裁判官團藤丈士 裁判官水谷里枝子)

別紙<省略>

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