東京地方裁判所 平成8年(ヨ)21256号 決定 1997年5月28日
主文
一 債務者は、債権者に対し、金一三〇万円及び平成九年六月から平成一〇年三月まで毎月二五日限り金六五万円を仮に支払え。
二 債権者のその余の申立てをいずれも却下する。
三 申立費用は債務者の負担とする。
理由
第一 申立ての趣旨
一 債務者が債権者に対してなした平成八年五月二〇日付け休職処分の効力を仮に停止する。
二 債務者は、債権者に対し、平成八年五月から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二五日限り金一八四万一九〇三円を仮に支払え。
第二 事案の概要
本件は、債権者が傷害罪で刑事訴追を受けたため、債務者により休職に付されて賃金の支払を受けられなくなったところ、右休職の無効等を主張して、休職の効力の仮の停止と賃金の仮払を求めている事案である。
一 前提となる事実(疎明資料の記載のないものは争いのない事実)
1 債務者は、定期航空運送事業等を業とする株式会社であり、債権者は、昭和四六年五月に操縦士訓練生として債務者に入社し、昭和五〇年一一月に副操縦士資格操縦士に昇格し、平成四年六月に機長資格操縦士に昇格した。また、債権者は、全日本空輸乗員組合(以下、組合という)に所属しており、平成七年八月一日に執行委員に選出されて法廷対策委員会委員長を担当している。乙山春子(以下、春子という)は、昭和六二年四月一日に債務者に入社し、平成七年七月三一日に退職した元客室乗務員である。
2 債権者は、平成八年四月一七日、春子に対して傷害を負わせたという被疑事実により、同年四月二二日に逮捕され、同年四月二四日に起訴され、同日罰金一〇万円の略式命令を受けて釈放された。債権者は、同年五月七日に略式命令に対して正式裁判の請求を行い、右事件(以下、本件刑事事件という)は現在当庁において係属している。
本件刑事事件の公訴事実は、「被告人は、平成八年四月一七日午後一一時一〇分ころ、東京都大田区羽田空港二丁目八番六号羽田東急ホテル三階エレベーターホール付近において、春子(当二九年)に対し、その両肩を両手で掴んで床上に引き倒す暴行を加え、よって、同女に安静加療約一〇日間を要する頚部捻挫、腰部打撲、頭部外傷等の傷害を負わせたものである。」というものであり、債権者は、「私が起訴状記載の日時・場所で、エレベーターに乗ろうとして、ボタンを押してエレベーターが着くのを待っていたところ、春子さんが私とエレベーターの間に立ちふさがり、通すまいとするので、私は両手を春子さんの両肩にかけ、左脇にどけるようにしながらすり抜けて、エレベーターの前に進みました。起訴状に書かれている「引き倒す」という事実はありません。ただ、その際に、春子さんは二~三歩右前方に歩いた後、自分でカーペット上に倒れました。また、春子さんは頭部などは打っていないし、負傷するような倒れ方ではありませんでした。」と主張して無罪を争っている。
3 債務者は、債権者に対し、平成八年四月二五日に乗務停止の措置をとり、同年五月二〇日、刑事訴追を受けたことを理由に就業規則三七条五号及び三九条二項により無給の休職に付し(以下、本件休職という)、同年五月二五日以降の賃金を支払っていない。
債務者の就業規則三七条には、「社員が次の各号に該当するときは休職させることがある。(中略)5、業務以外の事由で刑事上の訴追を受けたとき」と規定しており、就業規則三九条二項には、「休職者に対する賃金に関してはその都度決定する」と規定している。
4 債務者の賃金形態は、原則として月給制であり、賃金支給日は毎月二五日である。債務者における運行乗務員の賃金は、固定部分と乗務時間によって変動する部分がある。債権者が平成八年五月二〇日以前の三か月間に支給された賃金は、指名ストライキによる不就労として減額された分を減額がなかったものとして計算すると、二月二五日支給分が一八〇万七三一五円、三月二五日支給分が一八五万七一七六円、四月二五日支給分が一八六万一二一八円で、その平均が一八四万一九〇三円である。
5 債務者の就業規則は、懲戒処分として、譴責、減給(但し総額は賃金締切期間の賃金の一〇分の一を超えない)、出勤停止(但し一週間以内)、降転職(始末書をとり降級、職種変更又は異動を行う)、諭旨退職(退職願を提出するように勧告し、これがなされないときは懲戒解雇とする)、懲戒解雇を定めている。
二 争点
1 本件休職が有効か否か
2 保全の必要性
三 当事者の主張
(債権者の主張の要旨)
1 本件刑事事件の公訴事実が、時間・場所ともに業務外のもので、債務者の業務とは無関係であり、内容的にも軽微な事案であるうえ、休職の時点で在宅事件として審理されていたのであるから、本件休職は、就業規則三七条五号及び三九条二項の解釈適用をなすにあたって、合理的な裁量の範囲を逸脱して運用されたもので無効である。債権者は、引き続き労務を提供しているものの、債務者がその受領を拒否しているもので、民法五三六条二項により賃金請求権を失わない。
2 本件休職が有効であるとしても、賃金を支払わないとする決定は無効である。すなわち、就業規則三九条二項は、休職中の賃金について、要件効果とも白紙規定で無効であるし、規定自体は有効であるとしても、無給休職の労働者の権利・生活に対する侵害の重大性、業務休職や一時帰休の場合に関する労働基準法の定め、国家公務員や地方公務員との比較、債務者における私傷病長欠、育児・介護休職との対比、懲戒処分の種類や重さ等との比較において、無給とすることは重きに失し無効である。
3 本件休職は、平成八年五月二〇日の時点で有効であったとしても、少なくとも平成九年二月二四日以降無効となった。就業規則三八条では起訴休職の場合に休職期間を判決確定までとしているが、これは最長期間を示すもので、右時期にはこれを維持すべき要件を欠いている。
4 仮に本件休職に付随して、賃金不支給とすることが出来る場合があるとしても、不支給とされる賃金は労務提供に対応する部分に限られ、従業員としての地位に対応する部分は不支給とはなし得ないというべきであるところ、従業員たる地位に対応する固定額の基本給は六五万九四七九円(本俸四二万二三七九円、役資格手当二万三〇〇〇円、家族手当四万〇五〇〇円、住宅手当二万二〇〇〇円、乗務手当保障のうちの地上勤務者特別手当相当分一五万一六〇〇円)であり、少なくとも右をも不支給とする限度で、合理的裁量の範囲を逸脱している。
5 債権者は、休職中は航空機に乗務できない状況にあるが、運航乗務員の資格と技能を維持するためには、航空法等の法令上、あるいは事実上、運航乗務を継続することが必要であり、そのためには、本件休職を停止することを内容とする仮処分命令を得る必要がある。
6 債権者は、債務者からの賃金のみによって生活し、妻及び就学中の未成年の二人の子供の生活をも維持する必要があるところ、過去一年間の家計支出総額は一一六四万三七七三円、一か月の平均は九七万〇三一五円であり、賃金仮払いの仮処分命令を得る必要がある。
(債務者の主張の要旨)
1 起訴休職について規定する就業規則三七条五号及び三九条二項の制度目的は、定期航空運送事業を営む会社として高度な公共性を有する債務者において、職場秩序の維持、企業の対外的信用の保持、労務提供上の障害への配慮等にあるところ、本件休職は、以下の理由を考慮すれば、合理的かつ相当なものというべきである。
(一) 本件刑事事件の公訴事実の真偽を問わず、債権者を運航乗務に就けることは、女性に対する傷害事件で逮捕された機長を引き続き勤務させることが企業の社会的常識にかなうのかという点で、債務者がマスコミ各社の報道による社会的批判の対象となることを意味し、債務者の社会的信用を失墜させるものであった。
(二) 債権者は、単なる一従業員という立場ではなく、航空機内の最高責任者として業務に従事するもので、指揮監督下にある者の模範となるべきものであるから、刑事事件の被疑者の立場で労務を提供して指揮監督を行うことは適切ではない。
(三) 本件の被害者が元客室乗務員であるため、債権者の指揮監督下に入る客室乗務員としては、元の同僚に暴力をふるった上司の下での就労による信頼関係の維持は困難であるから、職場の動揺を防ぎ、秩序を維持するためには、債権者を運航乗務に就けることはできない。また、保安要員である客室乗務員の信頼を得られないことは、絶対的な安全性を要求される航空機の運航において重大な障害であり、この点からも債権者を運航乗務に就けることはできない。
(四) 債務者の業務が航空機の安全な運航を絶対とするものであり、運航乗務員はこれに直接携わるものであるところ、本件刑事事件は、債権者と客室乗務員との間の不倫に端を発した週刊誌で取り上げられるような事件であり、家庭内不和によるストレス、さらには乗務員組合の強力な支援を受けて債権者が無罪を争っている事件であり、このための活動等には相当のストレスや感情昂進を生じさせていることが予想される事件であるから、債務者は、債権者から心身共に安定かつ誠実な労務提供を受けることは困難であり、債権者を運航乗務に就けることはできない。
(五) 航空機の運航においては運航乗務員と客室乗務員がチームで乗務するものであり、乗務員の宿泊先が同じであることが一般的であるところ、本件における債権者は機長であり、本件の被害者は元客室乗務員であり、これらの職場における男女関係は、解雇に相当する場合も存する。
2 債務者が本件休職に付随して債権者を無給としたことは、賃金が労務提供の対価であるところ、債権者から何らの労務提供も受けていないのであるから当然のことである。なお、債務者は、債権者が運航乗務員として採用されたものであることから、これを地上勤務等に就けることもできない。また、本件休職は業務とは何ら関連のない私的事由により発生したものであり、債務者には何ら帰責事由もないから、労働基準法二六条による休業手当を支給すべき場合にもあたらない。
3 航空法上機長に要求される基本的資格は、定期運送用操縦士、計器飛行証明、航空無線通信士であるが、これらはいずれも終身有効の資格であって債権者は現在も保有している。右以外に定期航空運送事業に供する航空機の機長として乗務するためには、定期技能審査、定期路線審査、航空身体検査等の審査等に合格する必要があるが、実施期限を徒過して審査を受けられないものがあるため、現在債権者は、運航乗務員として乗務できない状況になっている。したがって、運航乗務を継続するための本件休職の効力停止の仮処分の必要性はない。また技能劣化の債権者の主張については、復帰訓練を受ければ、その合格率は一〇〇パーセントであるから、何ら問題とはならず、この点からも保全の必要性はない。
4 債権者が組合から月額三五万五八二六円ないし三六万九五二九円の補償給付を受けていること、カンパとして月額三〇万円を得ていること、企業年金の残高が六八一万三六〇〇円あること、過去一〇年間の債権者の年収と同世代の国民平均年収との差額の累計は一億円を超えること、地方税の支出は平成九年六月以降は平成八年の所得についての課税の支払いであるから、前年の支出に比べて大幅な減額となること、教育費の支出のうち入学金の支出は一回限りであること、交通費は休職中であるからかからないこと等を考慮すると、仮払についての保全の必要性もない。
第三 当裁判所の判断
一 債務者は、就業規則で従業員が起訴されたときは休職させる場合があり、賃金はその都度決定する旨を定めている(前提となる事実3)。しかしながら、従業員が起訴されたとしても、必ずしも労務の給付が不可能になるわけではなく、有罪判決が確定するまでは無罪の推定を受けるわけであるから、右規則を理由に起訴された従業員を債務者が自由に休職に付すことが出来るものではなく、これには合理的制約が存すると言うべきである。そして具体的には、起訴された従業員が引き続き就労することによって、債務者の対外的信用が失墜し、又は職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがある場合、あるいは当該従業員の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがある場合でなければならず、更に休職によって被る従業員の不利益の程度(休職期間、賃金支給の有無等)が起訴の対象となった事柄が真実であった場合に行われる可能性のある懲戒処分の内容と比較して明らかに均衡を欠く場合ではないことを要し、一旦休職に付されたとしても、これらの要件を欠くに至った場合には復職させる必要があると言うべきである。債務者の起訴休職に関する定めは、右のように解する限りにおいて効力を有するというべきであり、これらの要件を欠いているにもかかわらず起訴休職に付した場合には、使用者の責に帰すべき事由による履行不能として、従業員は反対給付である賃金請求権を失わないものと認められる。
二1 本件休職の効力について検討するに、後記認定判断(三1及び2)のとおり、債権者が平成九年三月以前の賃金仮払及び休職の効力停止を求めている点については保全の必要性がなく、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、ここでは、平成八年五月二〇日に債権者が本件休職に付された時点で仮にこれが有効であったとしても、平成九年四月の段階で、なお債務者が債権者を休職として扱い、賃金をも支払わないことが適法であるか否かについて判断する。
2 平成九年四月の段階で債権者を復職させることが、債権者の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがあるか否かを検討する。本件刑事事件では右時点で債権者が身柄の拘束を受けているわけではなく、公判期日への出頭も有給休暇の取得により十分に可能である(前提となる事実2)から、債権者が労務を継続的に給付するにあたっての障害は存しないものと認められる。また、債務者の業務は、航空機の運航であるから、絶対的な安全性が要求されるものであり、運航乗務員のストレスや感情昂進といった心理的影響が時に運航の安全に重大な支障をきたす可能性のあることは一応認められ、本件刑事事件に至る発端を考慮すれば債権者に家庭内不和によるストレスを生ずる可能性があり、無罪を争うための活動により一定のストレスや感情昂進を生ずる可能性のあることも一応認められるものの、右時点で本件の発生日時から既に約一年を経過していること等を考慮すれば、これらが運航乗務員に日常生ずる可能性のあるストレスや感情昂進の程度を超えて影響を与える可能性を疎明するに足りる資料は存しない。したがって、右時点で債権者を復職させることが、債権者の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがあるものとは認められない。
次に、右時点で債権者を復職させることが対外的信用を失墜し、又は職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがあるか否かを検討する。前記前提となる事実及び《証拠略》によれば、債務者は定期航空運送事業を営む公共性を有する会社であること、平成八年四月二二日ころから捜査当局が債務者東京空港支店等に臨場して従業員らに事情聴取等をしていたこと、同月二四日以降債務者広報室には報道機関各社からの取材が相次ぎ、「もし傷害で逮捕されたパイロットを予定どおり乗務させるということになれば安全上のことも含めて会社の常識を問わざるをえない」等と申し述べた記者がいたこと、平成八年一二月には週刊誌に「逮捕された『不倫』『暴行』機長の『支える会』を作った全日空労組の恥」と題する、債権者と春子との在職中の関係、客室乗務員間での評判等を内容とする記事が掲載されたこと、債権者は機長として航空機内の最高責任者としての業務に従事する者であること、本件の被害者が元客室乗務員であったことが一応認められる。しかしながら、前記前提となる事実及び《証拠略》によれば、本件刑事事件の公訴事実の内容は、安静加療一〇日間を要する頚部捻挫等の傷害で、その態様も素手で被害者の肩を掴んで倒すというものであり、当初は罰金一〇万円の略式命令を受けたものであること、本件は時間・場所・内容とも債務者の業務とは何ら無関係の男女関係のもつれが原因で生じたものであり、被害者も元客室乗務員ではあるが債務者を退職して既に八か月以上経過した後の出来事であること、平成九年四月の時点では本件の発生日時から既に約一年が経過しており、その間債権者が無給の休職に付されていたことが一応認められる。そして、これらの事実を考慮すると、右時点で債権者を復職させることによる対外的信用の失墜のおそれ及び職場秩序の維持への障害が生ずるおそれは、仮に存するとしてもごく小さなものに過ぎないものというべきである(なお、刑事事件の被疑者の立場で機長として指揮監督を行うことが適切ではないとの債務者の主張は、右公訴事実の内容等に照らして採用できず、元の同僚に暴力をふるった上司の下での就労による信頼関係の維持は困難であるとの債務者の主張は、右のとおり本件が時間・場所・内容とも債務者の業務とは何ら無関係に生じたものであること等に照らして採用できない)。そして、債権者の無給の休職が右時点で既に一一か月に及んでいる点は、本件刑事事件の有罪が確定した場合に債権者が付される可能性のある懲戒処分の内容(右認定の諸事情を考慮すると解雇は濫用とされる可能性が高く、他の懲戒処分の内容も、降転職は賃金が支給されるものであるし、出勤停止も一週間を限度としており、減給も賃金締切期間分の一〇分の一を超えないことになっている)と比較して、著しく均衡を欠いているというべきである。
したがって、少なくとも平成九年四月の時点で、なお債務者が債権者を無給の休職に付していたことは、その合理的根拠を欠くものであるから、債権者は少なくとも右の時期以降、賃金請求権を失わないものと認められる。
三 保全の必要性について検討する。
1 賃金仮払の仮処分の必要性について判断するに、平成九年三月分以前の賃金(審尋打切り前の過去の賃金分)の仮払については、仮に被保全権利が存するとしても、過去の賃金分の支払を受けなければならない必要性についての疎明がないから、この点についての債権者の主張は理由がない。そこで、平成九年四月分以降の賃金についての仮払の必要性について判断する。債権者は、妻及び未成年の二人の子供の生活を債務者からの賃金のみによって維持しており、平成九年二月五日から三月二四日の支出の状況をみると、公租公課が約三一万円、光熱費等が約六万円、ローンの支払が約一〇万円、交際費が約三万円、教育費が約八九万円、食費が約一一万円、その他の生活費が約一一万円で合計が約一六一万円であること、右には約六三万円の臨時的出費である予備校の入学金が含まれていること、地方税は一か月約二三万円を支出しているが平成八年分についての支払は所得額が少ないので大幅に減額となること、その他預貯金の状況及び平均的労働者の支出水準等を総合考慮すると、毎月六五万円が必要であると一応認められるので、毎月六五万円(平均賃金一八四万一九〇三円)の範囲で賃金の仮払の必要性が認められる(なお債務者は債権者が組合等からの支援等を受けている点を主張しているものの、これをもって保全の必要性が認められなくなるものではない)。なお、仮払期間については、審尋の全趣旨を総合して平成九年四月分から平成一〇年三月分までの範囲で必要性を認めるのが相当である(平成一〇年四月分以降については将来の事情変更の可能性を考慮する必要がある)。
2 休職の効力停止の仮処分の必要性について検討するに、本決定発令以前については、そもそも賃金の仮払を命ずる以上にかかる処分を発すべき必要性は認められない(賃金仮払の必要性も認められない平成九年三月以前については、当然休職の効力停止の仮処分の必要性もない)。また、本決定発令後については、債権者は、運航乗務員としての資格を維持するためには運航乗務を継続する必要があるし、長期間運航業務に就かなければ技能が低下する旨を主張するが、運航乗務員としての資格の面でいえば現在でも復帰訓練と復帰審査を経なければ運航乗務員として乗務できない状況にあるし、右審査の合格率は例年一〇〇パーセントであること(乙一1ないし6、審尋の全趣旨)等を考慮すれば、現段階で賃金の仮払を命ずる以上にかかる処分を発すべき必要性は認められない。
四 以上によれば、本件申立ては、主文第一項記載の賃金の仮払を命ずる限度で理由があるので、事案の性質上担保を立てさせないでこれを認容し(平成九年四月分及び五月分の一三〇万円については履行期到来済み)、その余の申立てを却下する。
(裁判官 片田信宏)