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東京地方裁判所 平成8年(ワ)10218号 判決 1998年6月29日

原告

釋英勝こと

西田昇

右訴訟代理人弁護士

高木佳子

桑野雄一郎

被告

株式会社フジテレビジョン

右代表者代表取締役

日枝久

被告

株式会社共同テレビジョン

右代表者代表取締役

坊城俊周

被告

中村樹基

右三名訴訟代理人弁護士

本橋光一郎

荻野明一

中島龍生

右三名訴訟復代理人弁護士

下田俊夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告らは、原告に対し、共同して、別紙6記載の謝罪広告を、株式会社朝日新聞社発行の朝日新聞、株式会社毎日新聞社発行の毎日新聞、株式会社読売新聞社発行の読売新聞の各全国版社会面に、縦二段抜き、横七センチメートル、見出しはゴチック体1.5倍活字、本文及び記名は明朝体一倍活字、宛名は明朝体1.5倍活字を使用して各一回掲載せよ。

二  被告らは、原告に対し、各自金一一二二万円及びこれに対する平成八年六月一五日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いがない事実等

1  原告は、「釋英勝」のペンネームを用いて、「ハッピーピープル」という題名の下に一連の短編漫画を創作、発表している漫画家である。

原告は、昭和五九年二月ころ、「先生、僕ですよ」という題名の短編漫画(以下「本件著作物」という。)を創作し、これは、右「ハッピーピープル」第七話として、株式会社集英社が同年三月一日に発行した週刊漫画雑誌「ヤングジャンプ」一二号に掲載された。

また、本件著作物は、同社発行の単行本「ハッピーピープル」第二巻に収録されたが、右単行本は、昭和五九年一二月二五日に初版が発行され、その後、増刷された。

本件著作物の内容は、別紙1記載のとおりである。

2  株式会社フジテレビジョン(以下「被告フジテレビ」という。)は、被告株式会社共同テレビジョン(以下「被告共同テレビ」という。)と共に、「地獄のタクシー」という題名のテレビドラマ(以下「本件番組」という。)を製作し、これは、被告フジテレビが平成七年一〇月四日午後九時三分から放映した「世にも奇妙な物語・秋の特別編」中の一作品として放映された。被告中村樹基(以下「被告中村」という。)は、本件番組の脚本を執筆した。

本件番組の内容は、別紙2記載のとおりである。

(右1の事実は、甲一、二、原告本人及び弁論の全趣旨により認める。右2の事実は争いがない。)

二  本件は、原告が、「本件番組は、本件著作物を翻案したものであるから、本件番組を製作、放映することは、原告が本件著作物について有する翻案権を侵害するとともに、原告の著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害する。本件番組の製作、放映に関与した被告フジテレビ及び被告共同テレビの従業員並びに被告中村には、故意又は少なくとも過失があったから、共同不法行為が成立する。」として、被告らに対し、次の損害の賠償を求めるとともに、名誉回復の措置として謝罪広告を求めるものである。

1  翻案権侵害による損害(原告が翻案権行使につき通常受けるべき金額) 二〇万円

2  著作者人格権の侵害による損害(慰謝料) 一〇〇〇万円

3  弁護士費用 一〇二万円

4  合計 一一二二万円

三  本件番組が本件著作物を翻案したものであるかどうかについての当事者の主張は次のとおりである。

1  原告

(一) 本件番組は、別紙3記載のとおり、本件著作物とは、題材、ストーリーの内容、ストーリーの展開、場面の流れ、映像等の各点において、同一であるか又は類似しているのであって、本件番組は、本件著作物とは、著作物としての本質的同一性を有している。

(二) 右の本件番組と本件著作物との同一性及び類似性に加えて、(1)本件著作物は、昭和五九年に発表されたもので、これを掲載した「ヤングジャンプ」の発行部数は九二万部、これを収録した単行本「ハッピーピープル」第二巻の発行部数は一七万部余りであり、本件著作物は、平成七年一〇月当時「恐怖」を描いた作品として広く知られていたこと、(2)被告フジテレビ及び被告共同テレビにおいて本件番組の製作に関与した従業員や被告中村は、番組の題材を探す目的で、「恐怖」を描いた作品に日常的に目を通していたはずであり、本件番組製作の過程で出されたアイデアには、本件著作物や原告の他の作品に出てくるアイデアがあること、(3)被告フジテレビは、平成四年に、「ヤングジャンプ」に掲載された原告著作に係る「ハッピーピープル」中の他の作品(「声が聞こえる」)を、原告の許諾を得た上翻案して、「世にも奇妙な物語」中の一作品として放映したことがあったこと、(4)被告フジテレビは、「ヤングジャンプ」に掲載された他の作品(「復讐クラブ」)を翻案して、「世にも奇妙な物語」中の一作品として放映したことがあった上、同被告が「世にも奇妙な物語」中の一作品として放映した作品(「運命の赤い糸」)について、「ヤングジャンプ」に掲載された作品(「糸」)の翻案権侵害が問題になったことがあったこと、(5)本件番組には、不自然な設定や脚本と齟齬する部分があるが、これらは、別紙4記載のとおり、本件番組が、本件著作物を基にこれを改変して製作したために生じたものであり、被告中村は、「少年ジャンプ」に掲載された他の作品(「アウターゾーン・血と爪」)を翻案してテレビドラマとする際にも、同様の不合理な改変を行っていることを総合すると、本件番組は、本件著作物に依拠して製作されたものというべきである。

(三) したがって、本件番組は、本件著作物を翻案したものである。

2  被告

(一) 本件番組と本件著作物とは、別紙5記載のとおり異なっており、本質的同一性を有しているものではない。

「等身大化したネズミが復讐する」という、本件著作物のような話は、既に多くの人によって作品化されており、それを原告のみが独占することができるというものではない。また、原告が本件著作物と類似すると主張する本件番組の画像は、いずれも、広く知られた古典的な手法によって撮影されたもので、特徴的な画像ということはできない。

(二) 本件番組の製作の過程において、本件番組の製作に関与した者は、誰も本件著作物を知らなかったから、本件番組は、本件著作物に依拠して製作されたものではない。

第三  当裁判所の判断

一  本件番組が本件著作物を翻案したものかどうかについて判断する。

1 本件番組が本件著作物を翻案したものということができるためには、被告らが、本件著作物に依拠して、本件番組を製作し、かつ、本件著作物の表現形式上の本質的特徴を本件番組から直接感得することができることが必要である。

そこで、まず、本件著作物の表現形式上の本質的特徴を本件番組から直接感得することができるかどうかについて判断する。

2  前記第二の一の争いがない事実と証拠(甲一、二、四、一八、検甲一)により認められる本件著作物と本件番組の各内容に基づき、本件著作物と本件番組とを対比すると、次のようにいうことができる。

(一) 本件著作物と本件番組との基本的なストーリー及びテーマの対比

本件著作物において主人公の医師は、「モルモットの皮膚にメスを入れる、これはもう一種の快楽だもんな。」と言って、笑顔で麻酔をせずにモルモットの解剖をしたり、首を切られたモルモットが何メートル走るかを賭けの対象にして、笑顔でモルモットの首を切り落とすなど、実験動物を残虐に扱うことを楽しんでいる人物として描かれている。そして、本件著作物では、そのような主人公が、麻酔をせず解剖したモルモットに、逆に解剖され、殺されるというストーリーになっている。

これに対し、本件番組では、豪林は、部下の医師の意見を聞かず患者の脚の切断を命じたり、実験に使っているネズミに与える新薬の濃度を増やすことを命じ、そのネズミの持ち主である少年の懇願にもかかわらず、そのネズミに薬を注射して殺したりする人物で、「医は金である。」、「患者もネズミも同じ実験動物である。」、「医者は神で、多少のことは許される。」などと公言してはばからない人物、すなわち、医師のモラルを忘れ、人間や動物の命を軽視する傲慢な医師として描かれている。そして、本件番組では、そのような豪林が、かつての患者の亡霊から心臓などを返すよう迫られたり、ネズミに脚を切断され、最後に地獄へ行くタクシーに乗せられて去っていくというストーリーになっている。

以上述べたところからすると、本件著作物の基本的なストーリーは、実験動物を残虐に扱い、それを楽しんでいる主人公が、残虐に扱った実験動物から、自分が動物に対してしたのと同じようなことをされ、殺されるというものであるのに対し、本件番組の基本的なストーリーは、医師のモラルを忘れ、人間や動物の命を軽視する傲慢な医師が、患者や動物から恐ろしい目にあわされ、地獄へ連れ去られるというものであって、本件番組は、動物の命を軽視した医師が動物から恐ろしい目にあわされるという点では、本件著作物と共通しているものの、それのみをテーマとするものではなく、医師としての基本的なモラルを欠く医師が罰せられるという、本件著作物には見られない重要な点を含んでいる。

(二) ストーリーの流れの対比

(1) 本件著作物においては、初めの部分で、主人公がモルモットを残虐に扱うところが描かれている。他方、本件番組においても、ネズミの命を軽視する豪林の姿が描かれている。しかし、本件著作物において、主人公がモルモットに対して行うのは、笑みを浮かべながら、麻酔をかけずに解剖する、首を切り落とすといった行為であり、殊に首を切り落とすという行為は、明らかに行う必要のない、ことさらに残虐な行為であって、それによって、実験動物を残虐に扱い、それを楽しむという主人公の性格が明確に描写されている。これに対し、本件番組において、豪林がネズミに対して行うのは、実験のために薬を注射するという行為であり、豪林にはそのことを楽しむ様子はなく、少なくとも外形的には、新薬開発のための実験ということができる行為であり、豪林の他の行為(部下の医師の意見を聞かず患者の脚の切断を命じる、少年の懇願を聞かないといった行為)とあいまって、豪林の、医師のモラルを忘れ、人間や動物の命を軽視する傲慢な姿が描かれているといえる。したがって、そこにおいて描かれている医師の行為やそれに現れている性格は、異なっているといえる。

(2) 次に、本件著作物においては、主人公は眠り、目を覚ますと、実験の対象とされている人間や頭を切られて殺されている人間を見、自身も手術台の上で動けないようにされており、ネズミによってがん細胞を注射されるという体験をする。これに対し、本件番組においては、豪林が、同僚の医師と飲みに行った帰りに、一人タクシーに乗り、病院に帰ったところ、かつての患者の亡霊から心臓などを返すよう迫られる。以上を比べると、主人公又は豪林が奇妙な世界へ入っていくという点は共通しているが、その入り方は、本件著作物においては、主人公が眠ることによって奇妙な世界へ入っていくのに対し、本件番組では、豪林がタクシーに乗ることによって奇妙な世界へ入っていくのであり、タクシーが番組のタイトルになるなど、重要な役割を果たしている。また、その後の体験の内容も、右認定のとおり明らかに異なっている。

なお、本件著作物では、主人公が眠る前に、「ペットじゃないぞ。モルモットなんだぞ。実験で殺すために飼ってんだぞ。バカメ。ひと思いにやっちゃったって同じこっちゃネエか。」と、主人公の考えが述べられる。これに対し、本件番組では、豪林が、同僚の医師やタクシーの運転手に対して、「医は金である。」、「患者もネズミも同じ実験動物である。」、「医者は神で、多少のことは許される。」などと自分の考えを述べるが、本件著作物では、主人公が自己の実験動物に対する残虐な行為を正当化するものとして、実験動物に対する考えを述べるに過ぎず、主人公対実験動物という関係から主人公の性格が描かれているのに対し、本件番組では、豪林は、医師の在り方全般について意見を述べ、豪林の、医師のモラルを忘れ、人間や動物の命を軽視する傲慢な姿が描かれるのであって、人物を描く視点が異なっているというほかない。

(3) 次に、本件著作物においては、①主人公は、一旦は目を覚ますが、再び眠り、目を覚ますと、手術台の上で動けないようにされている、②ネズミの医師が、今朝主人公によって麻酔なしで解剖されたネズミであることを告げ、「麻酔は」と聞かれても「必要ない。」と答え、「人間の肌にメスを入れるのって一種の快楽なんですよね。」と、主人公が言ったのと同じことを言いながら、麻酔なしに主人公の腹部をメスで切り始める、③主人公は、目を覚ますが、精神安定剤を飲まされて再び眠り、目を覚ますと、ネズミに腹部を切り開かれており、ネズミに眉間にメスを突き刺されて、殺される。これに対し、本件番組では、豪林は、殴られて気を失い、気がつくと、手術台の上で動けないようにされており、ネズミの医師が、「新薬実験のため患部を摘出する。」と言い、「麻酔は」と聞かれても「ネズミに麻酔など贅沢だ。」と答え、麻酔もせずに、チェンソーで脚を切断し始め、「ネズミ一匹の命で何万人救われるかもしれん。医学進歩のためにはネズミの命なんて安いもんだ。」「新しい治療を試みれば時には失敗だってある。医者は神だ。多少のことは許される。」と、豪林が言ったのと同じことを言う。

以上を比べると、主人公又は豪林が手術台の上で動けないようにされていること、ネズミの医師に手術されること、ネズミの医師は「麻酔は」と聞かれて必要ない旨答え、主人公又は豪林が先に言ったのと同じことを言うこと、以上の各点において、本件著作物と本件番組は共通している。しかしながら、本件著作物では、主人公は、自分が解剖したネズミから解剖されるのであり、ネズミは、右のように述べて、主人公を残虐に扱うことを楽しんでいるように見えるのに対し、本件番組では、ネズミは豪林が殺したネズミとは特定されておらず、ネズミは豪林によって脚を切断されたわけではないから、必ずしもネズミが豪林に対して自分がされたのと同じ行為をするという設定にはなっていない上、ネズミは、医師の在り方全般に対する意見を述べ、視聴者に、そのような意見に従って行動する者は、報いを受けるという印象を与える。

また、相手からされたのと同じ行為をする際に相手が以前に言ったのと同じ言葉を述べて、その行為の意味を説明する手法は、それ自体としては、目新しいものではないと考えられる上、ネズミが述べる内容も右のとおり全く異なっている。

(4) 次に、本件著作物においては、主人公が死亡し、それは、自殺であったとして、主人公の体験が夢の中の出来事であったかのように読者に印象づけるが、その後、ネズミが姿を現わし、主人公の体験が現実である可能性を示唆して物語が終わるのに対し、本件番組では、豪林は、タクシーの中で目を覚まし、今までの体験が夢であったと一瞬視聴者に思わせるが、脚に触れた手に血が付いていることによって、豪林の体験が実は現実であったとの印象を視聴者に与え、その後、豪林は、タクシーで地獄に連れ去られる。

以上を比べると、主人公又は豪林の体験を一瞬夢であったと思わせておいて、最後には現実であったとの印象を与える点は、同じであるということができるが、証拠(甲一二)と弁論の全趣旨によると、夢と思ったが実は現実であったという話は、従前から多くの作品において採用されている手法であると認められる。そして、一瞬夢であったと思わせておいて、最後には現実であったとの印象を与える具体的な話の筋立ては、本件著作物と本件番組では、右のとおり、全く異なっている。また、本件著作物は、主人公の死で終わるのに対し、本件番組では、豪林がタクシーで地獄に連れ去られるという設定で終わっており、異なっている。

(三) 画像の対比

本件著作物と本件番組を比べた場合、最初が病院の全景から始まる点、主人公又は豪林が手術台の上で手術用のライトに照らされて目を覚ます点、主人公又は豪林が服を着たままベルトで手術台に固定されている点、主人公又は豪林が手術台の上にいるとき、当初は、医師たちの顔は見えず、後にネズミの顔を大写しにすることによって医師の正体がネズミであることを読者又は視聴者に分からせる点、以上の各点において、共通する部分が見られる。しかし、証拠(甲五の一ないし六、乙一、証人岩田祐二)と弁論の全趣旨によると、話の始めに建物全体を見せる手法、手術台の上で目を覚ます際に手術用のライトに照らされる手法、正体を見えないようにしておいて、後に正体を明らかにして、驚きや感動を与える手法は、広く用いられている映像表現であると認められる。また、主人公又は豪林が服を着たままベルトで手術台に固定されている姿や大写しになったネズミの顔は、本件著作物と本件番組を比べた場合、似ているということができるが、証拠(被告中村樹基)によると、実際の手術でも体を固定することはあるものと認められるから、手術台に体を固定されている姿は、必ずしも本件著作物特有のものとはいえず、ネズミの顔も、実際のネズミの顔を基にしている以上、ある程度似ることは避けられない。

3  以上の対比を基に翻案権侵害について判断する。

(一)  証拠(甲一二)と弁論の全趣旨によると、動物が人間の姿になって人間を襲うという話は、以前から多くの映画や漫画に取り上げられたが、ネズミが人間のような姿になって手術をするという話は、本件著作物より前には存せず、これは原告の創作に係るものと認められ、この点で本件著作物と本件番組は類似するといえる。しかし、原告の創作に係る右のような話は、それ自体としては、アイデアに過ぎないものといわざるを得ないのであり、その点が似ているからといって、直ちに本件著作物の表現形式上の本質的特徴を本件番組から直接感得することができることにはならない。

(二)  もっとも、本件著作物と本件番組を対比した場合、右2で認定したとおり、ストーリーや画像において似ている点があるものと認められる。

しかし、右2(一)のとおり、本件番組と本件著作物とはテーマが異なり、そのため、本件番組は、基本的なストーリーにおいて本件著作物には存在しないものが含まれるているし、本件著作物の主人公と本件番組の豪林とはその人物の描き方も相違している。また、ストーリーの流れも、具体的な表現を捨象した粗筋を見れば、主人公又は豪林が非現実の世界に入り込み、そこで等身大化したネズミから手術されるという点で同じであるが、右粗筋を具体的に表現したものとして本件著作物と本件番組を比較すれば、右2(二)のとおり大部分は異なっており、ネズミの医師が主人公又は豪林を手術するという部分には、似ている部分があるが、そこにおけるせりふやその場面から感得される印象は異なっている。さらに、画像についても似ている点があるが、右2(三)のとおり、いずれも必ずしも本件著作物特有の表現と言い難いものである。以上を総合すると、本件著作物の表現形式上の本質的特徴を本件番組から直接感得することができるとまでいうことはできない。

二  よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官森義之 裁判官榎戸道也 裁判官中平健)

別紙1

家城大学病院の研究医である主人公(氏名は明らかでなく「先輩」「あいつ」等の愛称で呼ばれている男性である。以下「甲」とする。)が、同病院研究室で麻酔をかけずにネズミの解剖を行っている。甲の隣でネズミの体を押さえている甲の後輩の研究医は、甲に対しネズミに麻酔をかけることを懇願するが、甲はそれを一笑に付す。後輩の研究医が「少しでも苦痛を与えないのが研究医の良心じゃないんですか。」と非難するのに対しても、「良心、ハハハ、関係ないね。モルモットの皮膚にメスを入れる、これはもう一種の快楽だもんな。」と解剖を続ける。

そのとき、別のネズミを使って実験をしていた別の研究医が、ネズミに手を噛まれて悲鳴を上げる。それを見て、甲は、「そいつは質が悪いんだよな。」と言い、研究医の手を噛んだネズミを摘み上げると、「どうだ、何メートル走るか賭ける奴はいないか。」と周囲の研究医に尋ねる。質問の趣旨がわからずけげんそうな顔の研究医達の前で、甲は傍らのメスを掴むと、「俺は五〇センチだ。」と言うなり一気にメスを振りおろしてネズミの首を切り落とす。一歩も動かず絶命したネズミを見て、甲は「チェッ。元気のない奴め。」と言い、おびえた表情で見つめる研究医達に対して仮眠する旨を告げて研究室を後にする。

甲が立ち去った後、甲の行為を激しく非難する女性の研究医たちに対して、男性の研究医である落合が甲の立場を弁護する。甲が横になっている仮眠室は研究室の隣室らしく、甲にはそれが筒抜けである。甲は女性研究医の言葉を「ペットじゃないぞ。モルモットなんだぞ。実験で殺すために飼ってんだぞ。バカメ。ひと思いにやっちゃったって同じこっちゃネエか。」と笑い流し、やがて眠ってしまう。

「ハアハアゼエゼエ」という何者かの荒い息に甲が目を覚ますと、傍らに頭髪を半分剃られ、無数の電極やチューブを体に差し込まれた上半身裸の男が立っている。後ろ手に縛られ、かろうじて立っている衰弱したその男は、甲に対し、ひと思いに殺してくれ等と訴えている。驚いてベッドから起き上がろうとして、甲は、自分が手術台らしい台の上にベルトで固定されていることに気づく。突然女性の悲鳴がして、目を向けると、隣の手術台に横になっている女性が助けを求めている。甲は自分の置かれている状況がまだ理解できない。しかし、その女性は手術台の両脇に立っている手術着を着た二人の医師(実はネズミ)が腹部に麻酔注射をすると、やがて眠ってしまう。ようやく自分が手術室にいることだけは認識できた甲の目の前で、女性に麻酔注射をした医師は、その女性の頭皮をメスで切った後、頭髪ごと引き抜き、むき出しになった頭部を鋸で切断した後、その首を切断して何の躊躇もなくゴミ箱に捨てる。医師が、「失敗だ。」、「次はどれにしますか。」と言いながら切断した首を捨て、マスクを外すと、人間だと思っていたその医師は実はネズミであった。ネズミは、愕然とする甲に考える余地を与えず、甲をモルモットにしようと甲の首を押さえ甲のシャツを破いてしまう。甲は、夢だと思うことにより恐怖を克服しようとするが、混乱したまま、やがてネズミによって眉間にがん細胞を注射される。

後輩の研究医に肩をたたかれ、目を覚ますと、甲は仮眠室のベッドにいる。甲は、やっぱり夢だったのかといったんは安堵し一服しようとして、ふと手元を見ると両手首に圧迫による痣があり、自分では脱がなかったはずの服が傍らに破られてあり、さらに眉間にイボ(実は初期の皮膚がん)が出来ていることを知り、自分の見た夢が現実だったのではないかと思い始める。しかし、治療室で落合に皮膚がんを治療してもらっているうちに、そのまま甲は治療台の上で再び眠ってしまう。

突然点灯したライトの眩しさに甲が目を開けると、ネズミの医師が甲の顔をのぞき込み、落合の治療により治癒した甲の眉間のがん細胞を触っている。悲鳴をあげた甲は、先刻と同じように手術台にベルトで固定されている。自分の夢が現実かもしれないと恐れている甲の前で、ネズミの医師達は、がん細胞が破壊された原因を探るため、甲を解剖することにする。執刀を申し出たネズミがあり、そのネズミは、執刀の許可に対して不気味な笑みを浮かべ、甲に対し、自分が今朝甲によって麻酔なしで解剖されたネズミであることを告げる。そして「人間の肌にメスを入れるのって一種の快楽なんですよね。」と甲がネズミに対して言った言葉と同じことを言いながら麻酔なしに甲の腹部をメスで切り始める。

叫び声を上げる甲は、落合と後輩の研究医に起こされ、目を覚ます。再び夢であったかと一瞬思う甲であったが、腹部に切り傷があり血痕があるのに気づき、やはり現実なのだと確信する。落合は腹部の傷はポケットに入っていたメスによるものでメスの血糊と血痕の符合を見せ安心させようとするが、甲にはもはや自分の経験が夢とは思えず、落合に対し、興奮した口調で、ネズミに解剖されて殺されてしまうから自分を寝させないようにと訴える。落合は、甲が変な夢でも見たのであろうと笑っているが、再び睡魔に襲われた甲が、眠るまいとしながらも、何か抵抗しがたい別の力も加わって自分の脚にメスを突き立てる異常な行為を見て、徹夜続きで精神的におかしくなっているのだろうと思い、甲を熟睡させるため精神安定剤を飲ませ、眠らせる。

顔に何かの液体が垂れてきて甲が目覚めると、何者かが手にした臓器が目の前にある。激痛を感じた甲が自分の体を見ると、腹部が先程のネズミの医師たちによって切り開かれ、内蔵がむき出しになっている。ネズミは、甲の内蔵に何ら抗体を作る特別なものがないと分かると、続いて脳を調べることにする。ネズミは、「助けてくれ。」と懇願する甲に対し、笑いながら、「大丈夫ですよ。簡単には死なないようにやりますから。」と言うなり、甲の眉間にメスを突き刺す。

甲の眠っている治療室から甲の鋭い叫びがしたため落合が様子を見に中に入ると、甲がメスを手にして体中切り裂かれた姿で死んでいる。

その後の落合ら同僚研究医二人の会話を通じて、甲の死因が自らの行為に良心の呵責を感じたことによる自殺であり、全ては甲の夢であったことが匂わされるが、最後に誰もいないはずの治療室が突然音をたてて開く。そのドアの方向を二人が振り向くと、ネズミが姿を現わし、「おい、またモルモットが逃げているぞ。」と言って、現実である可能性を示唆して物語は終わる。

別紙2

豪林総合病院の院長である主人公の豪林修が、診療室で若い医師の沢に対して「クビだ。」と強い口調で言っている。沢は豪林から脚の切断手術を命ぜられている車いすの高齢の女性患者の脚が治療により回復の兆候を見せており、手術を見合わせることを説明しようとするが、豪林はこれを無視して、傍らにいる助手の近藤にその患者の脚の切断を命ずる。異を唱えようとする患者の言葉を無視して、豪林は実験スペースに向かう。実験スペースでは助手の野田が耳に白い模様のあるネズミに新薬のテストをしている。豪林は野田に新薬の濃度を増やすよう命じ、ネズミが死ぬかもしれないという野田の言葉に対し、「やってみんことにはわからんだろうが、どうせネズミの命だ。」と言い放つ。そこに自分のペットのネズミを病院に持ち込んだ少年の入院患者が看護婦と共に現われ、野田が新薬のテストに使っているネズミが自分の逃げたペットネズミであると豪林に訴える。しかし、豪林は少年を払いとばし、「医学進歩のために死ねるなら、ネズミも本望だ」と言って少年のペットネズミに注射を打ち、その結果死んでしまったネズミを少年に放り投げる。

場面が変わり、深夜の裏通りで酔っ払った豪林が野田、近藤らを連れて歩いている。豪林は自分の医は仁ではなく金である等の病院経営や医学に対する考えを大声で話す。やがて助手が豪林のためにタクシーを拾いに行き、一人残された豪林の目の前に風変わりでレトロなタクシーを拾いに行き、一人残された豪林の目の前に風変わりでレトロなタクシー「HELLCAB」が止まり、ドアが開く。豪林は助手たちを呼ぶが返事がないため一人で乗り込んでしまう。顔がよく見えずどこか不気味なタクシーの運転手は、豪林の職業が医師であると言い当てる。なぜ分かったのかと聞く豪林に対し、運転手は、豪林に死の匂いがするからだと答える。それを聞いて豪林は、自分の病院には重症の患者が多いし、新しい治療を試みれば時には失敗があると説明し、一人の患者、一人のネズミの命で何万人もの命が救えるかも知れず、医学の進歩とはそういうものであり、自分にとっては患者もネズミも同じ実験動物であると述べる。そして、医者は現代の神であり、多少のことは許されると語る。運転手から何か大切な物を忘れてないかと尋ねられ、豪林は財布を忘れていたことに気づき、運転手に病院に向かうよう指示する。病院に着いてタクシーを待たせて走っていく豪林に対し、運転手は忘れたのは財布などではないでしょうとつぶやく。

豪林が病院に入ると、宿直看護婦が誰もおらず、呼んでも誰も返事をしない。突然電話が鳴り、豪林が取ると、「いたい、いたい」と苦しそうな人の声がする。電話の主は分からず不気味である。豪林は、ふざけるなと叫んで電話を切るが、さすがに気味が悪くなってくる。その後、豪林が診療室に入り、財布を探していると、廊下をこちらに向かって歩いてくる何者かの足音が聞こえ、それが診療室の前で止まる。

豪林が思い切ってドアを開けると、そこには誰もいない。気のせいかと振り返ると、青白い顔の患者が立っている。患者が、「心臓が鼓動を感じない。」と言ってシャツをまくり上げると、心臓のあたりが丸く背中まで刳り抜かれている。それを見て、それが二年前に死んだ患者であることに気付いた豪林が、患者を突き飛ばし、診療室から飛び出すと、半透明の亡霊患者が廊下にあふれていて、豪林に対して、豪林の指示で切除された腕、腎臓、脚を返すよう訴えながら近寄ってくる。「医学のために犠牲はつきもんだ。」と言いながら手術室に逃げ込んだ豪林は、何者かに、後頭部をハンマーで殴られ、気を失う。

気がつくと、豪林は手術台にベルトで固定されている。豪林が驚いていると、医師、助手、看護婦らしき数人(実はネズミ)が近寄ってきて、そのうちの一人の医師が新薬実験のため患部を摘出すると言う。その医師は叫んでいる豪林を「うるさいネズミだ。」と呼び、「ネズミに麻酔など贅沢だ。」と言って、麻酔もせず、「ネズミ一匹の命で何万人救われるかもしれん。医学進歩のためにはネズミの命なんて安いもんだ。」と言うなり、豪林の右脚を切断し始める。隣にいた看護婦から、患部は左脚じゃなかったかと指摘され、その医師は、「新しい治療を試みれば時には失敗だってある。医者は神だ。多少のことは許される。」と、豪林が先に言った言葉と同じことを言い、それを受けて全員が大笑いする。その顔がネズミの顔になっている。それを見て豪林が絶叫する。

絶叫する豪林が気づくと、タクシーの中に座っている。豪林は「夢だったのか。」とつぶやき一瞬ほっとするが、運転手に夢の話をしながら脚を見てはっとし、脚に触れた手が血塗れになっているのに気づき、再び絶叫する。運転手は、豪林が医者でありながら命を粗末にした報いを受けるのだとし、このタクシーの行く先は地獄であると告げる。タクシーを探している助手たちに向かって窓を叩きながら助けを求める豪林を乗せたままタクシーは霧の中に消えてゆく。タクシーの行く手には「死」があることを暗示することで終わる。

別紙3

題材

本件著作物

本件番組

実験用動物であるモルモットの命の尊さを忘れた医師が、等身大化した

実験用動物のモルモットによって逆に実験台にされ、その結果殺される。

医学の進歩のためには実験動物はもちろん、患者の命すら実験台と考え病院経営をする院長が、実験動物のように扱った患者の亡霊に襲われ、また等身大化した実験用動物のネズミによって足を切断され、最後に地獄行きのタクシーに乗せられて姿を消すことにより死が暗示される。タクシーに乗り、病院に戻ると患者の亡霊に襲われ、等身大化したネズミによって足を切断されるという奇妙な世界に入り、目を覚ますと再びもとのタクシーに乗っているが、脚は現実に切断されており、夢か現実かわからないまま最後にはタクシーに乗ったまま地獄に送られてしまう。

医師が睡眠を取ることにより等身大化したモルモットにより実験台にされるという夢の世界に入り、目を覚ますと現実に戻っているが、次第にそれが夢か現実かわからなくなり、最後には現実にモルモットによって殺されてしまう。

ストーリーの内容

本件著作物

本件番組

(豪林とネズミの関係)       (豪林と患者の関係)

家城大学病院の研究医である主人公は、同病院研究室で麻酔をかけずにネズミの解剖を行っている。

豪林総合病院の院長である豪林は、患者の脚の切断の指示に異議を唱えようとする沢医師に対してクビだと叫んでいる。

主人公は、後輩の研究医から麻酔をかけることを懇願されても無視して解剖を続ける。

豪林は沢から治療により回復の兆候が見られることから切断手術を見合わせることを懇願されてもこれを無視して別の者に脚の切断を命じる。

ネズミを使って新薬の実験をしている医師に対して、豪林は新薬の濃度を上げるよう命じる。 これ以上濃度を上げるとネズミが死んでしまうと言われても、無視して実験をするよう指示する。

(後に主人公が麻酔なしでネズミに実験動物として解剖され、殺される伏線となっている。)

(後に主人公がネズミに実験動物として扱われる伏線となっている。)

(後に主人公が足を切断される伏線となっている。)

他の研究医がネズミに手を噛まれる。

看護婦と共にペットのネズミを探している少年が登場し、新薬を注射されようとしているネズミが探しているネズミだと言う。

主人公はそのネズミを摘み上げると、一気にメスを振り下ろしてネズミの首を切り落として殺してしまう。

豪林はそのネズミを摘み上げると、自ら注射を打ち殺してしまう。

死んだネズミをそのままにして、主人公は研究室を出る。

死んだネズミを放り投げると、豪林は部屋を出る。

仮眠室で横になった主人公は、眠りにつき、夢の世界へ入って行く。

若い医師・助手と飲みに行った帰り、豪林は一人でタクシーに乗り、奇妙な世界に入って行く。

同上

その過程で、主人公の残虐な行為を非難する研究医の言葉に対し、ネズミの命を軽視した主人公の性格を示す独白が語られる。

その過程で、若い医師・助手やタクシーの運転手に対し、金と名誉に執着し命を軽視した豪林の性格を示す発言がなされる。

やがて眠りに落ちた主人公が目を覚ますと、傍らに実験動物のように扱われている人間や、目の前で無残に殺される人間が現れるという恐怖の

体験をする。

タクシーで病院に戻った豪林は、自分が実験動物のように扱った患者の亡霊に襲われるという恐怖の体験をする。

その後、主人公が等身大化した手術着を着たネズミによって実験動物にされる夢の世界と現実の世界が交互に繰り広げられる。

主人公は恐怖の体験をする夢の世界から逃れるため眠るまいとするが、他人に精神安定剤を飲まされ、意に反して眠ってしまう。

豪林は恐怖の体験をする病院から逃げ出そうとするが、何者かに頭を殴られ、意識を失ってしまう。

目を覚ました主人公は、等身大化した手術着を着た医師によって実験動物として扱われる。

目を覚ました豪林は、等身大化した手術着を着た医師によって実験動物として扱われる。

実はそれは等身大化した、冒頭で主人公が麻酔なしで解剖していたネズミであった。

実はそれは等身大化したネズミであった。

主人公はネズミにやめてくれと頼むが、解剖されてしまう。

豪林はネズミにやめてくれと頼むが、麻酔なしで足を切断されてしまう。

その際、主人公がネズミについて発した言葉がネズミから主人公に対して反復される。

その際、豪林がネズミに対して発した言葉がネズミから主人公に対して反復される。

主人公を解剖するネズミは、「麻酔は?」と尋ねられ必要ないと答える。

豪林の足を切断するネズミは「麻酔は?」と尋ねられ必要ない旨答える。

このネズミは冒頭で主人公が麻酔なしで解剖していたネズミであり、この解剖が立場の逆転した状況のものであることが強調される。

冒頭で足の切断を指示した豪林が、足を切断されてしまうという意味での立場の逆転が描かれる。

同僚の研究医が駆けつけると手にメスを握った主人公が無残な姿で死んでいる。

豪林が気が付くとタクシーの中にいる。

研究医の会話で主人公は良心の呵責を感じたことによる自殺であったことが語られる。

(主人公の恐怖の体験が主人公の夢であったと読者に印象づける。)

(豪林の恐怖の体験が豪林の夢であったと視聴者に印象づける。)

その直後に等身大化したネズミが研究医館の前に現れる。

その直後に自分の足が現実に切断されていることに気づいた豪林は、タクシーの運転手から地獄に連れて行かれることを告げられる。

(主人公の恐怖の体験が現実であったかもしれないと読者に印象づける。)

(豪林の恐怖の体験が現実であったと視聴者に印象づける。)

ストーリーの展開・場面の流れ

本件著作物

本件番組

1

病院の全景(昼間)から主人公の性格が描写される第三研究室の場面に入る。

病院の全景(夜間)から豪林の性格が描写される診察室の場面に入る。

主人公と研究医の会話、ネズミを殺す行為を通じて主人公の性格が描かれる。

豪林と病院の医師との会話、ネズミを殺す行為を通じて豪林の性格が描かれる。

このシーンは後に主人公が等身大化したネズミによって実験動物として殺される伏線となっている。

このシーンは後に豪林が患者の亡霊に襲われ、また等身大化したネズミによって実験動物として足を切断される伏線となっている。

ネズミを殺した後主人公は第三研究室から出て行き、この場面が終わる。

ネズミを殺した後豪林は診察室から出て行き、この場面が終わる。

2

主人公が仮眠室で眠ろうとしている場面が描かれる。

酒を飲んだ豪林が医師と共に路上を歩き、タクシーに乗るまでの場面、そしてタクシーの中で運転手と会話する場面が描かれる。

この場面は、もう一度主人公の性格を強調すると共に、物語を自分の考えに対する自信に満ちあふれた主人公が夢か現実か分からない世界で恐怖の体験をする場面へと導く役割を果たしている。

この場面は、もう一度豪林の性格を強調すると共に、物語を自分の考えに対する自信に満ちあふれた豪林が病院で恐怖の体験をする場面へと導く役割を果たしている。

3

眠りについた主人公の目の前に、突然頭髪を半分剃られ、無数の電極やチューブを体に差し込まれた上半身裸の男や手術着を着た二人の医師(実は等身大化したネズミ)によって無残に殺されてしまう女性が現れる。

豪林が病院に戻ると、誰もおらず、病院の雰囲気がいつもと違っている。不気味な電話や足音の後、豪林の目の前に、然心臓辺りが丸く背中まで刳り貫かれている患者や、豪林の指示で切断された腕、腎臓や足を返すよう訴える患者が現れる。

いずれも実験動物のように扱われている人間の姿である。

いずれも豪林が実験動物のように扱った人間・患者達である。

主人公が目を覚ますと現実の世界に戻っているが、再び眠りに入ると手術室で等身大化したネズミによって実験動物として扱われる世界に戻っている。

主人公は、この世界から逃れようとするが、同僚の研究医によって精神安定剤を注射され。意に反して眠りに入ってしまい、自分が殺される次の場面へ追い込まれていく。

主人公は患者たち、そしてこの世界から逃れようとするが、何者かに頭を殴られ、意に反して意識を失ってしまい、自分が足を切断される次の場面へ追い込まれて行く。

4

目を覚ました主人公は、手術室(等身大化したネズミによって実験動物のように扱われる世界)に戻っている。

目を覚ました豪林は、手術室(等身大化したネズミによって実験動物のように扱われる世界)にいる。

そして、主人公は必死に命乞いをするが、等身大化したネズミに笑われながら解剖され、メスを頭に突き立てられてしまう。

そして、豪林は必死に命乞いをするが、等身大化したネズミによって足を切断されてしまう。

5

主人公の悲鳴と共に同僚の研究医のいる部屋に場面が移る。同僚が主人公のところに駆けつけると、手術台の上で主人公が体を切り裂かれ、手にメスを持った姿で死んでいる。

主人公の悲鳴と共にタクシーの車内に場面が移る。豪林は自分がタクシーの中にいることに気づき、夢だったのかとつぶやくが、本当に自分の足が切断されていることに気づき、夢ではなかったことを知る。

何日かが経過した研究室の場面で、研究医達が主人公の死因が自殺であったことを語っている。そんな研究医の前に主人公の夢の世界に現れた等身大化したネズミが登場して、物語は終わる。

振り返ったタクシーの運転手に自分が地獄に連れていかれることを告げられ、助けを求める豪林を乗せたタクシーが霧の中に消えてゆき、物語は終わる。

映像・演出面の類似点・反転している点

本件著作物

本件番組

最初のシーン

昼の病院の全景から始まる。

夜の病院の全景から始まる。

主人公が殺すネズミを摘み上げるシーン

摘み上げられた白いネズミが、向かって左向きに描かれている。

摘み上げられた黒いネズミが、向かって右向きに描かれている。

主人公が目を覚ますシーン

眠った主人公が突然点灯した手術用ライトの眩しさに目を覚ませられる。

眠った主人公が突然点灯した手術用ライトの眩しさに目を覚ませられる。

目を覚ました主人公が起き上がろうとすると、ベットにベルトで固定されている。

目を覚ました主人公が起き上がろうとすると、ベットにベルトで固定されている。

ベットに固定されている主人公は、仰向けで、向かって左に頭を向けた状態で描かれる。

ベットに固定されている主人公は、仰向けで、向かって右に頭を向けた状態で描かれる。

主人公は服を着たままである。通常は服を着たまま手術台にいるというのは不自然だが、ネズミによって破かれる服が、この場面が現実であったかもしれないと後に思わせるための小道具として利用されるため、このような演出になっている。

主人公は服を着たままである。通常は服を着たまま手術台にいるというのは不自然だが、このような演出になっている理由は明確でない。

主人公を実験動物のように扱う医師(実はネズミ)の登場シーン

手術着を着て、顔をマスクで隠しているため、顔は分からない。

画面上、手の部分しか描かれないため、顔は分からない。

主人公もそれがネズミとは分からないことが自然な設定となっている。

豪林にはそれがネズミとは分からないことは不自然な設定となっている。

その医師が等身大化したネズミであったことを表すシーン

マスクをとったネズミの顔をアップで描く。

場面上突然ネズミの顔をアップで描く。

ネズミは向かって右を向いている。光は向かって右方向からあたっている。

ネズミは向かって左を向いている。光は向かって左方向からあたっている。

主人公が実験動物とされるシーン

他のネズミが、「麻酔は」と聞くが、ネズミは麻酔なしで主人公を解剖してしまう。

他のネズミが「麻酔は」と聞くが、ネズミは麻酔なしで豪林の足を切断してしまう。

「麻酔は」と尋ねるのはオスである。

「麻酔は」と尋ねるのは女性の声である。

別紙4

本件番組における不自然な設定や脚本と齟齬する部分について

一 本件番組の脚本において、舞台は、本件著作物と同様に、大学病院であったが、本件番組では、総合病院が舞台となっている。そして、その総合病院では、新薬開発のための実験が行われているが、臨床と研究が区別されている医学の分野において、一般の総合病院において新薬開発のための実験を行っているのは不自然であり、また、診察室が診療用スペースと実験用スペースに分けられているというのも不自然である。これは、本件番組が、本件著作物を基に、舞台となる場所のみを変えたために生じた現象であるというべきである。

二 豪林が手術台で目をさます場面は、脚本では、薄明かりの中、目をさますことになっているが、本件番組では、本件著作物と同様に、手術用のライトに照らされて目をさましている。また、脚本では、豪林が手術台で目をさました際に頭を万力のような器具で固定されていることになっているが、本件番組では、本件著作物と同様に、頭は固定されていない。これらは、本件番組が、本件著作物を基に製作されたことを示している。

三 脚本では、豪林が手術台で目をさました際の服装は特に指定されていないが、本件番組では、豪林は、手術着を着たり、裸ということはなく、普通の服を着ている。これは、本件著作物と同じであるが、手術台で普通の服を着ているということは通常はないから、このことは、本件番組が、本件著作物を基に製作されたことを示している。

四 本件番組において、実験動物であるネズミの復讐を描くとしても、本件著作物と同様にネズミが等身大化し、擬人化される必然性はない。また、豪林は、患者を冷たく扱う医師であるから、患者から復讐されるならともかく、ネズミから復讐されるというのは、不自然であり、ネズミは脚を切断されたわけではないから、脚を切断するというのは、ネズミの復讐になっていない。さらに、本件番組では、ネズミは、「新薬実験のために患部を摘出する。」と言って、脚を切断するが、患部を摘出するために脚を切断するというのも、不自然である。これらは、本件番組が、本件著作物を基に、それを改変して製作されたことを示している。

五 本件番組では、豪林が脚を切断される際にチェンソーが使われており、脚本には、「ギコギコ」という擬音が記載されているが、脚を切断する際にチェンソーを使うのは不自然である。本件著作物では、人間がネズミに頭を手術用の鋸で切られる場面があり、その場面に「キィコキィコ」という擬音が記載されている。本件番組は、本件著作物とは手術の道具を変えたために不自然なものとなったのであり、しかも、擬音は、ほぼそのまま残っている。これらのことは、本件番組が、本件著作物を基に製作されたことを示している。

六 本件番組の題名は「地獄のタクシー」であり、タクシーが登場するが、豪林が奇妙な体験をする場所である病院へは、豪林は、自らの意思で赴くのであり、タクシーが案内するわけではない。また、豪林は、奇妙な体験をした後タクシーの中で目ざめるが、豪林がいつタクシーの中で眠ったかはっきりしない。このように、タクシーと豪林の奇妙な体験との結びつきは不自然であり、このことは、本件番組は本件著作物を基に製作されたものであって、タクシーは付加的に加えられたものであることを示している。

本件番組の初めのころに脚を切断される老婦人も後には登場せず、この人物も付加的に加えられたものである。

別紙5

一 基本的ストーリーの相違

本件著作物の基本的ストーリーは、実験動物は実験で殺されるためのものだから、ひと思いに殺しても同じであるとの考えの下で、一種の快楽として実験ネズミを切り刻む大学病院の研究医が、眠っている間に、人間大のネズミから逆に残酷な実験、手術をされて殺されてしまうというものである。他方、本件番組は、医師のモラルを忘れ、金銭欲と名声欲に走り、人間や動物の命を軽視する傲慢な総合病院の院長が、神に代わって悪しき者を罰するという地獄のタクシーによって奇妙な世界である自己の病院へ運ばれ、そこで手術ミスをして死なせた患者の亡霊から襲われたり、簡単に殺してしまったネズミから手術を受けて脚を切断されたうえ、地獄のタクシーによって地獄へ連れ去られるという基本的ストーリーをとる。両者を比較すると、等身大の実験動物から復讐又は逆襲されるという展開がある点で似た部分はある。しかし、この部分は、ありふれた表現であって創作性が認められないものである。その上、この部分は、本件著作物においては、基本的ストーリーとなっていると言えるであろうが、本件番組においては、院長が罰として病院の犠牲者らを通じて受ける恐怖や復讐の中のひとつのエピソードに過ぎないものであって、この部分を取り出してこれが本件番組の基本的ストーリーであると決め付けるのは針小棒大というものである。

本件番組においては、ネズミから脚を切断された院長は、悲鳴を上げて助けを呼ぶなかで、おぞましい顔を現した運転手の運転する地獄のタクシーによって、永遠の罰を受けるという地獄へ連れ去られて、ストーリーのクライマックスが来る展開となるのであって、ネズミから復讐を受けて終わるものではない。

二 テーマの相違

本件著作物のテーマは、「動物実験」又は「そのひどさ(残酷さ)」にあり、本件著作物には、純粋に実験のためというよりも実験者の快楽のためと思われるが、残酷な動物(人体)に対する実験やその頭部を一刀のもとに切断するようなシーンが繰り返し出てくる。これに対し、本件番組においては、最初の部分で、院長が新薬実験中のネズミについて、「(新薬の)濃度を増やしてみろ。」、「どうせネズミの命だ。」と言うシーンと、続いて少年のペットのネズミに自ら注射をして、「医学進歩のために死ねるならネズミも本望だ。」と言うシーンが出てくるが、ここでは「動物実験のひどさ(残酷さ)」といった印象を受けるというよりも、むしろ院長の患者や部下に対する態度とあいまって、院長の傲慢で人や動物の命を粗末にする性格についての印象を強く受ける。ほかに、本件番組に「動物実験の残酷さ」を感得できる展開もないので、本件番組から、「動物実験の残酷さ」という本件漫画のテーマを直接感得できるものではない。本件番組のテーマは、医の仁術を忘れて算術に走った典型的悪徳医師を神に代わる者(地獄のタクシー)が奇妙な世界となった病院や地獄に連れて行って罰する、広く言えば、勧善懲悪がそのテーマであることは明らかである。

三 登場するもの及びそのキャラクターの相違

本件著作物には、研究医、その同僚男女数名、実験用ネズミと等身大のネズミが登場する。これに対し、本件番組に登場するのは、ストーリーテラーから始まり、地獄のタクシーとその運転手、院長、その部下、実験用ネズミ、ペットのネズミ、脚を切られる患者の老婆、ネズミを殺される少年患者、多数の患者の亡霊、等身大のネズミなどバラエティに富んでいる。登場するものは、すべて、本件番組のテーマからみて必要不可欠なものである。まず、ストーリーテラーは、シリーズ番組である「世にも奇妙な物語」に毎回登場し、ドラマの一番初めにテーマを述べて視聴者の興味を喚起し、最後に締めくくりをするために不可欠の存在であるし、地獄のタクシーやその運転手は、神に代わって、奇妙な世界となった病院へ連れて行ったり、最後に地獄へ院長を連れ去ったりする者で、院長を罰するという基本テーマからして、必須の存在である。また、院長の性格を浮き彫りにするためには、院長を取り巻く部下、老人患者、実験用ネズミ、少年患者及びそのペットのネズミなどが、必要かつ有用な存在である。さらに、奇妙な世界において院長に対し病院の犠牲者による復讐を通じて恐怖を与えるには、病院の犠牲者たる患者の亡霊や手術医の格好をしたネズミなどを登場させることは自然であるし、これらも必要かつ有用な存在である。

本件著作物において、研究医は、実験動物は実験で殺されるためのものだから、ひと思いに殺しても同じであるとの考えの持ち主で、一種の快楽として(表情にも喜びを浮かべて)実験ネズミを切り刻む行動を取る。これに対し、本件番組において、院長は、自己の金銭欲や名声欲が満たされたときには喜びや快感を覚えるのであろうが、ネズミを切り刻む行為に喜びを感じるといった印象はどうしても感得できない。

別紙6

謝罪広告

平成七年一〇月四日フジテレビジョン及び同系ネットワーク局において放送された『世にも奇妙な物語・秋の特別編』の中の『地獄のタクシー』は、貴殿の漫画作品『先生 僕ですよ』(『ハッピーピープル』第二巻・集英社刊収録)を無断で利用し、その内容を改変したものであることを認めます。これにより、貴殿の著作権及び著作者人格権を侵害し、多大のご迷惑をおかけしたことを謝罪いたします。

今後前記映画作品は、再放映いたしませんし、これを小説化したり二次的作品化することはいたしません。

平成 年 月 日

株式会社 フジテレビジョン

株式会社 共同テレビジョン

脚本家 中村樹基

釋英勝殿

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