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東京地方裁判所 平成8年(ワ)1133号 判決 1998年10月30日

東京都中野区中野六丁目一四番一四号

原告

北辰工業株式会社

右代表者代表取締役

北中克己

右訴訟代理人弁護士

水野正晴

東京都港区元赤坂一丁目二番七号

被告

鹿島建設株式会社

右代表者代表取締役

宮崎明

右訴訟代理人弁護士

橋元四郎平

木澤克之

藤原浩

鈴木道夫

石島美也子

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、原告に対し、金三億七八六〇万円及びこれに対する平成八年一月二五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告は、別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を、朝日新聞全国版、毎日新聞全国版、読売新聞全国版、日本経済新聞全国版、産経新聞全国版、日経産業新聞に、表題及び当事者名は二号活字、その他は三号活字として、各一回掲載せよ。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1(一)  北中克己(以下「北中」という。)は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲第1項記載の特許発明を「本件工法発明」といい、特許請求の範囲第2項記載の特許発明を「本件装置発明」という。また、本件工法発明と本件装置発明を併せて「本件各発明」という。)を有していた。

特許番号 第一二六六四三九号

発明の名称 支持真柱建込み工法および支持真柱建込み装置

出願日 昭和五五年五月三〇日

公告日 昭和五九年一〇月一二日(昭五九-四二一四三)

登録日 昭和六〇年五月二七日

特許請求の範囲第1項

「地盤中にケーシングを圧入し、そのケーシング内を掘削し、その底部に鉄筋コンクリート基礎を打設してから、直交するレールを介して前後および左右に移動調節自在にして、かつ三六〇度回転調節自在な支持真柱建込み装置を地上に設置し、この装置を貫通して支持真柱を前記ケーシング内に吊り下げて支持真柱の下端部を前記打設コンクリート中にどぶづけし、前記支持真柱建込み装置上に設けたジャッキにより支持真柱を高低調節自在に支承すると共に、前記貫通部に設けた起倒自在でかつ基部が摺動自在なガイドローラ付きアームよりなる真柱ガイド装置により支持真柱を挟持し、この支持真柱建込み装置と、支持真柱とケーシング間に配置した複数組の調節ジャッキにより支持真柱の芯出しを行った後、前記打設コンクリートの養生を行うことを特徴とする支持真柱建込み工法。」

特許請求の範囲第2項

「ベースフレーム上に敷設したレールを介して一方向に移動自在にして固定位置が調節できる下部台車を設け、この下部台車上に敷設したレールを介して下部台車の移動方向と直交する方向に移動自在にして固定位置が調節できる上部台車を設け、この上部台車上に三六〇度回転自在にして固定位置が調節できる回転台を設け、この回転台上に支持真柱支承用ジャッキを設けると共に、起倒自在なガイドローラ付きアームの基部を放射方向に移動自在にして固定位置が調節できるようにした複数組の真柱ガイド装置を設けてなる支持真柱建込み装置。」

(二)  北中は、原告に対して本件特許権を譲渡し、平成六年一二月一九日、その旨の登録がされた。

2(一)  本件工法発明の構成要件を分説すると次のようになる(以下「本件方法発明<1>」のようにいう。)。

<1>a 地盤中にケーシングを圧入し、

b そのケーシング内を掘削し、

c その底部に鉄筋コンクリート基礎を打設してから、

<2> 直交するレールを介して前後および左右に移動調節自在にして、かつ三六〇度回転調節自在な支持真柱建込み装置を地上に設置し、

<3> この装置を貫通して支持真柱を前記ケーシング内に吊り下げて支持真柱の下端部を前記打設コンクリート中にどぶづけし、

<4>a 前記支持真柱建込み装置上に設けたジャッキにより支持真柱を高低調節自在に支承すると共に、

b 前記貫通部に設けた起倒自在でかつ基部が摺動自在なガイドローラ付きアームよりなる真柱ガイド装置により支持真柱を挟持し、

<5>a この支持真柱建込み装置と、支持真柱とケーシング間に配置した複数組の調節ジャッキにより支持真柱の芯出しを行った後、

b 前記打設コンクリートの養生を行うことを特徴とする支持真柱建込み工法。

(二)  本件装置発明の構成要件を分説すると次のようになる(以下「本件装置発明<1>」のようにいう。)。

<1> ベースフレーム上に敷設したレールを介して一方向に移動自在にして固定位置が調節できる下部台車を設け、

<2> この下部台車上に敷設したレールを介して下部台車の移動方向と直交する方向に移動自在にして固定位置が調節できる上部台車を設け、

<3> この上部台車上に三六〇度回転自在にして固定位置が調節できる回転台を設け、

<4> この回転台上に支持真柱支承用ジャッキを設けると共に、

<5> 起倒自在なガイドローラ付きアームの基部を放射方向に移動自在にして固定位置が調節できるようにした複数組の真柱ガイド装置を設けてなる支持真柱建込み装置。

3  被告は、別紙物件目録記載の装置(以下「イ号装置」という。)を常盤産業株式会社に製造させ、これを使用して、別紙物件目録記載の方法(以下「イ号方法」という。)を行っている。

4  イ号方法及びイ号装置の構成上の特徴を分説すると次のようになる(以下「イ号方法<1>」又は「イ号装置<1>」のようにいう。)。

(一) イ号方法

<1>a 地盤の表層側にだけスタンドパイプを圧入し、

b そのスタンドパイプの下方をリバース工法により支持層に当たるまで掘削して杭孔を形成し、

c 掘削によって形成された杭孔の底部にコンクリートを打設する。

<2>a 直交する上部及び下部レールによりX-Y方向に移動自在に支持架台が支持されるとともに、回動調整油圧シリンダにより支持架台が最大回動中心角±八度のわずかな角度範囲で回動調節自在な構真柱建込機(イ号装置)を、クローラクレーンを用いて杭孔に対応する作業床上に位置合せして設置する。

b イ号装置の支持架台上に設置された真柱ガイド装置に予め装着されたゲージ枠及び水糸を用いて、ゲージ枠の中心が芯墨の中心(イ号装置をセットすべき所定の位置)と一致するように芯合せてして支持架台をセットする。

c 支持架台のセット後に、イ号装置からゲージ枠及び水糸を取り除く。

<3>a イ号装置の支持架台上に固定された真柱ガイド装置のガイドアームを立てて開口を大きくとった状態で、支持真柱をスタンドパイプから杭孔内に徐々に吊り下げていき、支持真柱の下端部を打設コンクリートに挿入させる直前で各ガイドアームを倒してガイドローラを支持真柱に挟持させることなく緩く接触させ、その後は、回転フリーのガイドローラに案内されて支持真柱の下端部が打設コンクリート中にどぶづけされる。

b このとき、支持真柱は、常に芯出しされた状態で杭孔に挿入されて打設コンクリート中に吊り下げられ、どぶづけされる。

<4>a イ号装置の支持架台上に設けられたジャッキにより、支持真柱を所定の高さに調節自在に支承する。

b このとき、支持架台に基部が起倒自在に固定された片持梁状のガイドアームの自由端部にガイドローラを備えた真柱ガイド装置により支持真柱をガイドして振れ止めする。

<5> 真柱ガイド装置により支持真柱をガイドした状態で打設コンクリートの養生を行う支持真柱の建込み方法。

(二) イ号装置

<1> ベースフレーム上に敷設した下部レールを介して一方向に移動自在にして固定位置が調節できる下部台車を設ける。

<2> この下部台車上に敷設した上部レールを介して下部台車の移動方向と直交する方向に移動自在にして固定位置が調節可能な上部台車を設ける。

<3> この上部台車上に回動調整油圧シリンダにより量大回動中心角度±八度のわずかな角度範囲で回動調整自在に位置調節できる支持架台を設ける。

<4> この支持架台上に、構真柱支承用ジャッキを設ける。

<5>a 支持架台上に複数組の真柱ガイド装置を設け、

b この真柱ガイド装置は片持梁状ガイドアームの基部が支持架台に固定されて起倒自在に支持され、ガイドアームの自由端部にガイドローラが回転自在に設けられる。

c ガイドアームは基部側アームブロックとアーム長固定用の中間アームブロックとガイドローラ支持用の先端側アームブロックとをボルト締めで一体に組み立てて構成され、予め用意された複数種の中間アームブロックの中から使用する構真柱の型状・寸法に対応した特定の中間アームブロックを選択して組み立てることにより、組み立てられたガイドアームのアーム長が所要長に設定される支持真柱建込機。

5  建物の基礎工事において地盤を掘削するための方法として、ベノト工法とリバース工法がある。ベノト工法は、坑壁を保護するケーシングチューブを圧入し、チューブ内の土砂を掘削、排土する方法であり、リバース工法は、表層部のスタンドパイプと坑内水の水圧によって坑壁を保護しつつ、掘削し、土砂を坑内水とともに地上へ排出する方法である(乙七)。

二  本件は、原告が、被告に対し、本件特許権侵害を理由とする不法行為による損害賠償として、三億七八六〇万円及びこれに対する平成八年一月二五日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、信用回復の措置として謝罪広告を求めた事案であり、争点は、イ号方法が本件方法発明の技術的範囲に属するかどうか、イ号装置が本件装置発明の技術的範囲に属するかどうかということと原告の損害である。

三  イ号方法が本件方法発明の技術的範囲に属するかどうかに関する当事者の主張

1  原告の主張

本件方法発明とイ号方法を比較すると、次のとおり、イ号方法は、本件方法発明の技術的範囲に属する。

(一) 本件方法発明<1>とイ号方法<1>は、同一である。本件方法発明<1>aのケーシングは表層付近に存すれば足りるから、イ号方法<1>aのスタンドパイプは右「ケーシング」に該当する。また、イ号方法では、スタンドパイプの下方のみを掘削しているのではなく、スタンドパイプ内も掘削しているから、右「ケーシング」内も掘削しているということができる。本件方法発明は、ベノト工法のみを対象としたものではなく、リバース工法も対象とするものである。

(二) 本件方法発明<2>とイ号方法<2>は、同一である。イ号方法では、支持架台は、最大±八度しか回動しないが、本件方法発明<2>の「三六〇度回転調節自在」は、回転台が所定の中心点の周りを所定角度回動することを意味するから、最大±八度しか回動しないとしても、右「三六〇度回転調節自在」を充足する。イ号方法<2>b及びcは、補助的な工程であるから、これらの工程があることは、本件方法発明<2>とイ号方法<2>が同一であることを妨げるものではない。

(三) 本件方法発明<3>とイ号方法<3>は、同一である。イ号方法<3>は、支持真柱建込み装置を貫通して支持真柱をケーシング内に吊り下げて支持真柱の下端部を打設コンクリート中にどぶづけしていることにほかならない。

(四)(1) 本件方法発明<4>aとイ号方法<4>aは、同一である。

(2) 本件方法発明<4>bとイ号方法<4>bは、本件方法発明では、真柱ガイド装置のガイドローラ付きアームの基部が摺動自在であるのに対し、イ号方法では、摺動自在でない点が違っている。しかし、本件方法発明において、真柱ガイド装置のガイドローラ付きアームの基部を摺動自在としたのは、ガイドローラ間の間隔を調節する機能を真柱ガイド装置に持たせて、種々の支持真柱に対応することができるようにしたためであるところ、イ号方法においては、これと同一の機能を、手間がかかるとともに調節自由度の低い中間アームブロックの交換という極めて不自然な方法(イ号装置<5>c)で実現しており、このような置換は、当業者にとって容易であった。そして、そのような違いがあっても、イ号方法は、「支持真柱をガイドローラでガイドする真柱ガイド装置を設けた回転台を、直交する上部及び下部レールによりX-Y方向に移動調節自在にするとともに、所定の中心点の周りに回動自在にする」という構成を有しているために、支持真柱の建込み精度の向上が達成されるから、本件方法発明と基本的な技術思想を共通にしている。したがって、イ号方法は、本件方法発明の不完全利用であるか又は均等であるということができる。

(3) 本件方法発明<4>bとイ号方法<4>bは、右(2)の点を除いて同一である。イ号方法においては、真柱ガイド装置のガイドローラは、支持真柱と接触し(イ号方法<3>a)、支持真柱をガイドして振れ止めする(イ号方法<4>b)のであるから、このことは、支持真柱を挟持していることにほかならない。

(五) 本件方法発明<5>とイ号方法<5>は、同一である。イ号方法において、どぶづけ後の芯出しを全く行わないとは考えられない。

2  被告の主張

(一) 本件方法発明<1>について

ベノト工法では、ケーシングを用いてその中を掘削するが、リバース工法では、ケーシングを用いない。リバース工法で用いられるスタンドパイプは、ケーシングとは、用途、機能を全く異にするものである。本件方法発明<1>は、ベノト工法について記載したものであるから、リバース工法であるイ号方法<1>とは、同一ではない。

(二) 本件方法発明<2>について

本件方法発明では、支持真柱建込み装置は、三六〇度回転調節自在なものでなければならないが、イ号方法では、±八度回動するにすぎないから、イ号方法<2>は、本件方法発明<2>の「三六〇度回転調節自在」の要件を充足しない。

また、イ号方法では、芯出しをするために、ゲージ枠や水糸が用いられる(イ号方法<2>b、c)のに対し、本件方法発明では、これらを用いることは、示唆さえもされていないから、この点も異なる。

したがって、本件方法発明<2>とイ号方法<2>は、同一ではない。

(三) 本件方法発明<3>について

本件方法発明<3>では、支持真柱をケーシング内に吊り下げるが、イ号方法<3>では、ケーシング内に吊り下げないから、異なっている。

また、本件方法発明<3>では、支持真柱を打設コンクリート中にどぶづけしさえすれば足りるが、イ号方法<3>では、予め芯出し状態に設置された溝真柱建込機に支持真柱を貫通させてどぶづけし、芯出しを完了するという構成になっているから、異なる。

したがって、本件方法発明<3>とイ号方法<3>は、同一ではない。

(四) 本件方法発明<4>について

(1) 本件方法発明<4>とイ号方法<4>の同一性について

本件方法発明では、真柱ガイド装置のガイドローラ付きアームの基部が摺動自在であるのに対し、イ号方法では、ガイドアームの基部は固定されている。

また、本件方法発明では、真柱ガイド装置が支持真柱を挟持するが、イ号方法では、挟持することはない(イ号方法<3>a)。

したがって、本件方法発明<4>とイ号方法<4>は、同一ではない。

(2) 不完全利用について

本件方法発明は、支持真柱を打設コンクリートにどぶづけした後に支持真柱を移転調節しながら芯出し作業を行うものである。これに対し、イ号方法では、予め芯出しした状態で支持真柱を吊り下げ、どぶづけするものである。このように、本件方法発明とイ号方法では、技術思想が根本的に異なる。

本件方法発明において真柱ガイド装置のガイドローラ付きアームの基部が摺動自在であることは、本件方法発明をどのような支持真柱にも適用することができるようにするためであって、必要不可欠な構成である。

まだ、本件方法発明では、真柱ガイド装置の操作の誤りによって支持真柱の芯出しや設置作業に致命的な欠陥が生じるおそれがあるが、イ号方法では、そのようなおそれはないから、イ号方法は本件方法発明より効果が劣るということはできない。

したがって、イ号方法は、本件方法発明の不完全利用ではない。

(3) 均等について

本件方法発明において真柱ガイド装置のガイドローラ付きアームの基部が摺動自在であることは、右(2)のとおり必要不可欠な構成であるから、本件方法発明の本質的部分である。

また、本件方法発明とイ号方法では、技術思想が根本的に異なり、本質的構成を異にするから、置換可能性や置換容易性を検討するまでもなく、均等は成立しない。

(五) 本件方法発明<5>について

イ号方法においては、どぶづけ後の芯出しを行わないし、そのため、調節ジャッキを必要としないから、本件方法発明<5>はイ号方法<5>と同一ではない。

四  イ号装置が本件装置発明の技術的範囲に属するかどうかに関する当事者の主張

1  原告の主張

本件装置発明とイ号装置を比較すると、次のとおり、イ号装置は、本件装置発明の技術的範囲に属する。

(一) 本件装置発明<1>とイ号装置<1>、本件装置発明<2>とイ号装置<2>は、それぞれ同一である。

(二) 本件装置発明<3>とイ号装置<3>は、同一である。イ号装置では、支持架台は、最大±八度しか回動しないが、本件装置発明<3>の「三六〇度回転自在」は、回転台が所定の中心点の周りを所定角度回動することを意味するから、最大±八度しか回動しないとしても、右「三六〇度回転自在」を充足する。

(三) 本件装置発明<4>とイ号装置<4>は、同一である。イ号装置では、支持架台上に構真柱支承用ジャッキが設けられているから、回転台上に支持真柱支承用ジャッキが設けられているといえる。

(四)(1) 本件装置発明<5>とイ号装置<5>は、本件装置発明では、真柱ガイド装置のガイドローラ付きアームの基部が放射方向に移動自在であるのに対し、イ号装置では、移動自在でない点が違っている。しかし、本件装置発明において、真柱ガイド装置のガイドローラ付きアームの基部を移動自在としたのは、ガイドローラ間の間隔を調節する機能を真柱ガイド装置に持たせて、種々の支持真柱に対応することができるようにしたためであるところ、イ号装置においては、これと同一の機能を、手間がかかるとともに調節自由度の低い中間アームブロックの交換という極めて不自然な方法で実現しており、このような置換は、当業者にとって容易であった。そして、そのような違いがあっても、イ号装置は、「支持真柱をガイドローラでガイドする真柱ガイド装置を設けた回転台を、直交する上部及び下部レールによりX-Y方向に移動調節自在にするとともに、所定の中心点の周りに回動自在にする」という構成を有しているために、支持真柱の建込み精度の向上が達成されるから、本件装置発明と基本的な技術思想を共通にしている。したがって、イ号装置は、本件装置発明の不完全利用であるか又は均等であるということができる。

(2) 本件装置発明<5>とイ号装置<5>は、右(1)の点を除いて同一である。

2  被告の主張

(一) 本件装置発明<3>について

右三2(二)で述べたのと同様の理由により、イ号装置<3>は、本件装置発明<3>の「三六〇度回転自在」の要件を充足しない。

(二) 本件装置発明<5>について

右三2(四)(1)で述べたのと同様の理由により、イ号装置<5>は、本件装置発明<5>の「ガイドローラ付きアームの基部を放射方向に移動自在にして」の要件を充足しないし、右三2(四)(2)(3)で述べたのと同様の理由により、不完全利用ではなく、均等でもない。

五  原告の損害に関する当事者の主張

1  原告の主張

原告が平成七年度に支持真柱建込み装置を使用して施工した工事の工事代金額合計は、九億三九八〇万円である。原告は、支持真柱建込み装置を七台保有しているところ、被告は、イ号装置を六台保有しているので、被告は、一年間に、右工事代金額の七分の六に相当する額の工事代金を、イ号装置を使用して施工した工事によって取得することができる。

本件各発明の実施料相当額は、工事代金額の五パーセントが相当である。

そうすると、平成二年八月三一日から平成八年一月三〇日までの五年五か月間における実施料相当額は、二億二一五二万円となり、平成八年一月三〇日から平成一一年一〇月二二日までの三年九か月間における実施料相当額は、一億五七〇八万円となるので、その合計は三億七八六〇万円となり、これが、原告が本件特許権侵害行為によって被った損害額となる。

2  被告の主張

原告の主張を争う。

第三  当裁判所の判断

一  まず、イ号方法が本件工法発明の構成要件<2>の「三六〇度回転調節自在」を充足するかどうか、イ号装置が本件装置発明<3>の「三六〇度回転自在」を充足するかどうかについて判断する。

1(一)  証拠(甲三六の二、乙一ないし六)と弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(1) 北中が本件特許権について出願をした際における特許請求の範囲は、次のとおりであった。

特許請求の範囲第1項

「地盤中にケーシングを圧入し、そのケーシング内を掘削し、その底部に鉄筋コンクリート基礎を打設してから、前後および左右に移動調節自在にして、かつ回転調節自在な支持真柱建込み装置を地盤上に設置し、この装置を貫通して支持真柱を前記ケーシング内に吊り下げて支持真柱の下端部を前記打設コンクリート中にどぶづけし、前記支持真柱建込み装置と、支持真柱とケーシング間に配置した複数組の調節ジャッキにより支持真柱の芯出しを行った後、前記打設コンクリートの養生を行うことを特徴とする支持真柱建込み工法。」

特許請求の範囲第2項

「ベースフレーム上に一方向に移動自在にして固定位置が調節できる下部台車を設け、この下部台車上に下部台車の移動方向と直交する方向に移動自在にして固定位置が調節できる上部台車を設け、この上部台車上に回転自在にして固定位置が調節できる回転台を設け、この回転台上に放射方向に移動自在にして固定位置が調節できる複数組の真柱ガイド装置を設けてなる支持真柱建込み装置。」

(2) 右出願に対して、特許庁審査官は、拒絶理由通知書を発した。その内容は、右出願に係る発明は、特開昭四八-一五三一一号公報に記載された発明(以下「本件引用例1」という。)、特公昭五三-三五三六三号公報に記載された発明(以下「本件引用例2」という。)に基づいて容易に発明することができたものと認められるというものであった。

(3) 本件引用例1は、地下柱の建込み方法及び建込み装置に関するものである。本件引用例1では、ケーシングチューブを用いて地下孔を掘削し、地下孔の底部に基礎コンクリートを充填した後、ケーシングチューブの上部にブラケットを固定し、その上に自在板を取り付け、更にその上にジャッキと井桁状の位置決め枠を載置し、位置決め枠の中央部に、円孔を有する角形板体並びに貫通孔及び切り込みガイドを有する位置決め用テンプレートを設置し、リブ付きガイドパイプを、リブを右切り込みガイドに嵌入し右貫通孔を通って降下させ、ガイドパイプをその下にある鋼管柱と結合することによって、正しい位置に地下柱を建て込む方法及びそのための装置が開示されていた。右自在板は、正確な位置決めを可能にするために回動するようになっていたが、その範囲は、右自在板に切られた長孔の範囲であり、回動する範囲は限られたものであった。

本件引用例2は、地下柱の建込み方法に関するものである。本件引用例2では、地表に独立に自立して設置される固定台と、固定台の水平レベルを調整する水平レベル調整手段と、固定台の中央部に形成された鋼管柱を垂直方向に案内するための外枠内枠とからなり、外枠内枠の水平面内の直交する二方向の移動及び水平面内の回転を行う手段を設け、外枠内枠の水平面内において位置調節を可能としたことを特徴とする地下柱の建込み装置が開示されていた。右装置において、右回転は、鋼管柱を建て込む前又は建て込んだ後に行われるが、固定台上の対向する軸受本体を相反する方向へ移動させることによって行われるもので、その回転する範囲は限られたものであった。

(4) 右拒絶理由に対して、北中は、手続補正書を提出して、特許請求の範囲を、前記第二の一1(一)記載のように補正した。そして、意見書を提出して、本件引用例1、2においては、わずかな角度回動することが開示されているのみであるが、本件各発明においては、三六〇度回転自在であるから、そのような三六〇度回転自在である構成は、本件引用例1、2にはない旨主張した。

(5) そして、特許請求の範囲が前記第二の一1(一)のとおりである本件特許権が成立した。

2(一)  前記第二の一1(一)のとおり、本件方法発明は支持真柱建込み工法の発明であり、本件装置発明は本件方法発明に直接使用する支持真柱建込准装置の発明であるところ、特許請求の範囲第1項(本件方法発明)には、支持真柱建込み装置を貫通させて支持真柱を吊り下げ、コンクリートにどぶづけした後に芯出しを行う旨記載されており、本件特許権に係る公報(以下「本件公報」という。甲一)の発明の詳細な説明においても、支持真柱建込み装置を貫通させて支持真柱を吊り下げ、コンクリートにどぶづけした後に芯出しを行う工法が記載されているのみであり、本件公報中には、支持真柱建込み工法として、支持真柱建込み装置を貫通させて支持真柱を吊り下げる前に芯出しを行う旨の記載は一切ない。

(二)  また、本件各発明においては、支持真柱建込み装置が三六〇度回転自在であることが構成要件とされており、本件方法発明においては、支持真柱建込み装置によって支持真柱を挟持することが構成要件とされているが、これらの構成は、支持真柱建込み装置を貫通させて支持真柱を吊り下げる前に芯出しを行わず、吊り下げた後に芯出しを行うために必要な構成であるといえる。なぜならば、支持真柱建込み装置を貫通させて支持真柱を吊り下げる前に芯出しを行わず、吊り下げた後に芯出しを行う場合には、支持真柱を支持真柱建込み装置で挟持し、それを前後左右に移動したり三六〇度回転させたりすることが必要であると考えられるからである。

(三)  さらに、本件公報には、本件各発明は、従来工法ではケーシング孔の中心に真柱の芯が合致するようにしか施工できなかったが、本件各発明によればケーシング孔内のどのような偏心位置にでも真柱を建て込むことができ、施工が容易であるうえに工期が著しく短縮するという効果がある旨の記載がある。従来工法は、前記の本件引用例1及び2のような工法であると解されるところ、右各引用例の公報(乙三、四)によると、右各引用例の地下柱建込み工法は、掘削孔の中心に地下柱を建て込む工法であること、しかも建込み装置の地下柱ガイド部はわずかな範囲で直交する二方向に移動し回動するのみであり、その構成からすると、地下柱を建込み装置を貫通させて吊り下げ、コンクリートにどぶづけする前に芯出しをする建込み工法であること、以上の事実が認められる。そして、以上の事実に右(一)、(二)の各事実を総合すると、本件各発明の右効果は、従来工法では支持真柱の吊り下げ・どぶづけ前に芯出しをしていたものを、本件各発明の工法及び装置では、支持真柱の吊り下げ・どぶづけの後に芯出しをすることとし、そのために必要な構成を備えたことによる効果として記載されているものと認められる。

3  右1、2で述べたところからすると、本件方法発明の構成要件<2>の「三六〇度回転調節自在」、本件装置発明<3>の「三六〇度回転自在」という構成要件は、支持真柱建込み装置を貫通させて支持真柱を吊り下げる前に芯出しを行わず、吊り下げた後に芯出しを行うことを前堤として、そのために必要な構成として特許請求の範囲に記載されたものであって、装置がわずかに回動するにすぎない先行技術と本件各発明との違いを明らかにするものであると認められる。そして、支持真柱建込み装置がわずかに回転するにすぎないのであれば、支持真柱を吊り下げる前に芯出しを行わず、吊り下げた後に芯出しを行うことはできないものと考えられる。したがって、本件方法発明の構成要件<2>の「三六〇度回転調節自在」、本件装置発明<3>の「三六〇度回転自在」は、文字どおり支持真柱建込み装置が三六〇度回転することを意味するということができ、支持真柱建込み装置がわずかな角度しか回転しないものは含まれないということができる。

4  しかるところ、イ号方法及びイ号装置では、構真柱建込機は、中心角±八度のわずかな角度範囲でしか回動しないから、これらが本件工法発明の構成要件<2>の「三六〇度回転調節自在」、本件装置発明<3>の「三六〇度回転自在」調節自在な構真柱建込機(イ号装置)を充足するとは認められない。

5  なお、イ号方法及びイ号装置では、イ号装置の支持架台上に設置された真柱ガイド装置に予め装着されたゲージ枠及び水糸を用いて、ゲージ枠の中心が芯墨の中心(イ号装置をセットすべき所定の位置)と一致するように芯合せをした後に支持真柱を吊り下げるのであるから、支持真柱を吊り下げた後に微調整のために構真柱建込機がわずかな角度回動すれば十分である。したがって、イ号方法及びイ号装置は、本件各発明に比して回動する角度が少ないからといって、本件各発明を改悪したものであるとか、その効果の一部を利用するものであるとかということはできないから、イ号方法及びイ号装置が、本件各発明の不完全利用であるということはできない。

右3のとおり、構真柱建込機がわずかな角度回動するのみでは、支持真柱建込み装置を貫通させて支持真柱を吊り下げる前に芯出しを行わず、吊り下げた後に芯出しを行うことはできないのであるから、イ号方法及びイ号装置の右回動部分を本件各発明の「三六〇度回転自在」に置き換えることが可能であるということはできないし、また、右1で述べたところからすると、イ号方法及びイ号装置のように、構真柱建込機がわずかな角度範囲でしか回動しないものは、特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものということができる。したがって、イ号方法及びイ号装置が、本件各発明と均等であるということもできない。

二  よって、その余の点について判断するまでもなく、イ号方法は、本件方法発明の、イ号装置は、本件装置発明の技術的範囲に属さない。

なお、原告は、(1)被告の従業員が、本訴提起に先立つ訴訟外の交渉において、イ号方法及びイ号装置について、本件特許権侵害を認めていたこと、(2)被告が出願した構真柱建込架台に関する特許について、特許庁審査官は、本件公報及び本件引用例2に記載された各発明及び慣用手段から容易に発明することができたものである旨の、特許異議に対する決定をしたこと、(3)イ号方法、イ号装置は、支持真柱を挟持するガイドローラを有し、支持真柱を左右、前後にスライドさせ、回転させるものであるから、イ号方法は、本件方法発明の、イ号装置は、本件装置発明の技術的範囲に属する旨の主張もしており、原告代表者の陳述書(甲四八、五二ないし五四等)には、同趣旨の記載がある。しかし、本件特許権が侵害されたかどうかは、本件各発明の構成要件とイ号方法、イ号装置の構成上の特徴を対比した上、イ号方法、イ号装置が本件各発明の技術的範囲に属するかどうかによって決すべきであって、被告の従業員が本訴提起に先立つ訴訟外の交渉において本件特許権侵害を認めていたかどうかということ(右(1))や本件特許権とは別の特許権に関する被告の出願が認められたかどうかということ(右(2))は、イ号方法は、本件方法発明の、イ号装置は、本件装置発明の技術的範囲に属さないとの右判断を何ら左右するものではないし、本件各発明の構成要件の一部(右(3))を備えているのみでは本件各発明の技術的範囲に属するということができないことも明らかである。したがって、原告の右主張は採用できない。

三  以上の次第で、本訴請求は、いずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)

物件目録

被告装置および被告工法

一 図面の説明

第1図(A)、(B)および(C)は『被告装置』(構真柱建込機)を三角正投像図法により作成した平面図、正面図および右側面図、第2図は第1図(A)の拡大平面図、第3図は第1図(B)の拡大正面図、第4図は第1図(C)の拡大右側面図、第5図は第2図のD部を拡大して示すもので、被告装置の真柱ガイド装置を示す平面図、第6図は第5図に示す真柱ガイド装置の側面図、第7図は被告装置の真柱ガイド装置の他の例を示す第5図に相当する平面図、第8図は第7図に示す真柱ガイド装置の側面図、第9図は『被告工法』(構真柱の建込み工法)を示す概略図である。

二 図面の符号

1 構真柱建込機(被告装置)

2 作業床

3 ベースフレーム

4 下部台車

5 上部台車

6 支持架台(調整台)

7 真柱ガイド装置

8 下部レール

9 下部調整油圧シリンダ

10 上部レール

11 上部調整油圧シリンダ

12 回動調整油圧シリンダ

13 ジャッキ(ジャーナルジャッキ)

14 ガイドアーム

14a 基部側アームブロック

14b 中間アームブロック

14b1 第1段アームブロック

14b2 第2段アームブロック

14c 先端側アームブロック

15 ガイドローラ

16 ゲージ枠(アングル枠)

17 操作盤

18 油圧ジャッキ

19、20 インジケータ(目盛板)

21 芯出しピン(ゲージ枠上部に5本植込み)

22 装置固定用ハンドル

23 スタンドパイプ(表層ケーシング)

24 掘削機

25 杭孔

26 測定器

27 鉄筋籠

28 トレミー管(コンクリート注入管)

29 打設コンクリート

30 クローラクレーン

31 構真柱(支持真柱)

32 構真柱仮固定部材

33 埋め戻し材料(再生砕石)

34 ヤットコ(構真柱建込み補助具)

35 取付ブラケット

36 支持軸

37 締結手段(締付ボルト・ナット)

38 軸受ボス

39 支持軸

三 被告装置の説明

(一)被告装置は構真柱(支持真柱)の建込みに用いる構真柱建込機1である。

(二)構真柱建込機1は、作業床に設置されるベースフレーム3と、下部台車4と、上部台車5と、回動可能な矩形の支持架台(調整台)6と、複数組の真柱ガイド装置7とを備える。〔第1図(B)・第3図〕

(三)<1> 下部台車4はベースフレーム3に敷設された下部レール8上を並設された一対の下部調整油圧シリンダ9で調整自在に設けられる。〔第2図・第3図〕

<2> 下部調整油圧シリンダ9はベースフレーム3と下部台車4との間に設けられる。〔第3図〕

(四)<1> 上部台車5は下部台車4上に敷設された上部レール10上を一対の上部調整油圧シリンダ11で調整自在に設けられる。〔第2図・第3図〕

<2> 上部レール10は下部レール8と直交している。〔第2図〕

<3> 上部調整油圧シリンダ11は下部台車4と上部台車5との間に設けられる。〔第3図〕

(五)<1> 矩形の支持架台(調整台)6は上部台車5上で一対の回動調整油圧シリンダ12により垂直軸線廻りを最大回動中心角±8度の範囲で回動可能に設けられる。〔第2図〕

<2> 回動調整油圧シリンダ12は上部台車5と支持架台(調整台)6との間に設けられる。〔第3図〕

<3> 支持架台6の両側に、構真柱(支持真柱)を支持可能なジャッキ(ジャーナルジャッキ)13が二台設置される。〔第2図ないし第4図〕

(六)<1> 真柱ガイド装置7は支持架台(調整台)6の四側辺部にそれぞれ設けられ、各側辺部にはガイドアーム14が二本づつ組をなして設けられている。〔第2図〕

<2> 各組のガイドアーム14は、アーム基部が取付ブラケット35により支持架台6に設けられる。ガイドアーム14は、取付ブラケット35に支持された支持軸36廻りに、第6図に実線で示す構真柱ガイド位置(作動位置)とこの位置から約180度回転した鎖線で示す不作動位置との間をほぼ180度回転自在になっている。〔第5図・第6図〕

<3> ガイドアーム14は基部側アームブロック14aとアーム長調整用の中間アームブロック14bと先端側アームブロック14cとから構成され、各アームブロック14a、14b、14cを締付ボルト・ナットの締結手段37で順次ボルト締めにより組み付けて一体的に構成される。〔第5図・第6図〕

<4> 基部側アームブロック14aは軸受ボス38を一体に備え、この軸受ボス38は取付ブラケット35に支持された支持軸36に回動自在に支持される。取付ブラケット35は支持架台6の上部にボルト締めにより放射方向に移動不可能に固定される。〔第5図・第6図〕

<5> 先端側アームブロック14cは、自由端側に固定支持された支持軸39にガイドローラ15が回転自在に支持されている。すなわち、ガイドアーム14の自由端側にガイドローラ15が回転自在に支持される。〔第5図・第6図〕

<6> 中間アームブロック14bは、ガイドアーム14のアーム長調整用ブロックを構成し、アームブロック長(軸方向の長さ)を異にする複数種のアームブロックが予め用意される。複数種のアームブロックの中から特定のアームブロックを選択してガイドアーム14に中間アームブロック14bとして組み付けることにより、ガイドアーム14は所定のアーム長が得られる。アームブロックの組付作業は、ガイドアーム14が作動位置から約180度回転した不作動位置で行なわれる。中間アームプブロック14bを選択して交換させることにより、ガイドアーム14のアーム長を調節でき、このアーム長の調整ができる点に真柱ガイド装置7は、一つの特色がある。〔第5図・第6図〕

<7> 4組の各ガイドアーム14のガイトローラ15によりゲージ枠(アングル枠)16が着脱自在に設置されており、このゲージ枠16は芯出し後に取り外される。〔第2図〕

<8> ゲージ枠16は角筒状をなし、頂部にフランジ16aが形成され、このフランジ16aには芯出しピン21が植込まれている。〔第2図〕

<9> さらに、ガイドアーム14は、第7図および第8図に示すように構成し、アーム長を調整してもよい。第7図および第8図に示すガイドアーム14では中間アームブロック14bを多段アームブロック構造としている。第1段アームブロック14b1と第2段アームブロック14b2をボルト締めで締結して一体化された中間アームブロック14bが構成される。ガイドアーム14のアーム長調整用の中間アームブロック14bを一段構造とするか、多段構造とするか否かは、構真柱との関係で適宜選択される。〔第7図・第8図〕

(七)上部および下部の調整油圧シリンダ9、11ならびに回動調整油圧シリンダ12はベースフレーム3の上部設置の操作盤17にて操作される。〔第3図〕

(八)ベースフレーム3の側方下部にそのフレーム水平レベル調整用の油圧ジャッキ18が四台設けられる。〔第3図・第4図〕

(九)ベースフレーム3の四側辺の中央上部および中央下部にベースフレーム3の設置誤差(±5cm)調整用のインジケータ(目盛板)19、20が設けられている。〔第3図・第4図〕

(十)<1> ゲージ枠16は構真柱を墨芯(構真柱を建込むべき所定の位置)に合致させるために、構真柱(支持真柱)の芯出し用に用いられ、複数種のゲージ枠の中から当該使用構真柱の横断面形状・寸法(外径寸法)と同じものが選択される。〔第2図〕

<2> ゲージ枠16のフランジ16aには各側辺中央部に芯出しピン21が植設されている。〔第2図〕

(十一) ベースフレーム3の四側部に装置固定用ハンドル22が設けられ、このハンドル操作によりベースフレーム3をスタンドパイプ(表層ケーシング)23に固定させ得るようになっている。〔第2図・第3図〕

四 被告工法(施工手順)の説明

構真柱の建込作業は、建設現場における準備作業と主作業に大別される。

(一)建設現場における準備作業

<1> 建設現場を整地し、全面をアスファルトまたはコンクリートで舗装し、補強する。

<2> アスファルトの作業床上に構真柱を建込むべき位置を墨出しする。

<3> 杭孔位置に対応するアスファルトを切断し、開口させる。

(二)建設現場における主作業(第9図参照)

(1)<1> 杭孔位置にスタンドパイプ(表層ケーシング)23を芯出して表層側のみに圧入する。スタンドパイプ23の先端は杭孔25の途中で終端している。

<2> 水を張った状態でリバース工法により、掘削機24を用いて杭孔25を支持層に当たるまで掘削する(第9図(イ)参照)。

(2)掘削後、杭孔25中の泥水による沈殿物(一次スライム)を除去する(第9図(ロ)参照)。

(3)超音波を利用した測定器26により、杭孔25の孔壁状態(垂直性、曲がり、崩落状態等)の測定を行なう(第9図(ハ)参照)。

(4)杭孔25内に鉄筋籠27を建込み(挿入)セットする(第9図(ニ)参照)。

(5)<1> 鉄筋籠27の建込み等に伴う沈殿物(二次スライム)を除去する。

<2> 杭孔25内にコンクリート打設用トレミー管28を挿入する(第9図(ホ)参照)。

(6)杭孔25に水を張った状態でトレミー管28を徐々に抜き上げつつコンクリート29を打設する(第9図(ヘ)参照)。

(7)杭孔25の作業床2にクローラクレーン30に吊設されて構真柱建込機1を吊設移動させ、芯合せしてセットする(第9図(ト)参照)。

(8)<1> クローラクレーン30を用いて構真柱(支持真柱)31を吊り上げ、構真柱建込機1内に案内させて構真柱31を吊り下げる。このとき、真柱ガイド装置7はガイドアーム14を不作動位置に位置させておき、開口を大きくとった状態で吊り下げて行き、構真柱31の下端が打設コンクリート29にどぶづけされる直前でガイドアーム14を倒してガイド位置に持ち来し、4組のガイドアーム14をガイド位置(作動位置)にセットする。このセット状態でガイドローラ15が構真柱31の側面に緩く接触して構真柱31の下動を案内する。このとき、構真柱31の両側に位置するガイドローラ15、15間の間隔は、構真柱31の両外側面間の幅より若干(例えば2mm程度)大きくなるように予め設定されているので、構真柱31はガイドアーム14のガイドローラ15により挟持されることはない。その後、構真柱31はガイドローラ15に案内されて下降し、構真柱31の下端を打設コンクリート29に所要の根入れ深さ(通常2~3m程度)だけそのまま挿入される(どぶづけする)。

<2> 打設コンクリート29に挿入された状態で、構真柱31をジャッキ13(第1図~第4図参照)で高さ位置を調整して保持し、コンクリート養生させる(第9図(チ)参照)。

(9)コンクリート養生期間経過後、建込まれた構真柱31の頭部側をスタンドパイプ23に構真柱仮固定部材32にて仮固定し、構真柱建込機1を撤去する(第9図(リ)参照)。

(10)撤去後、杭孔25に張られていた泥水を除去し、杭孔25に埋め戻し材料(再生砕石)または掘削土33により埋め戻し(一次埋め戻し)を行なう(第9図(ヌ)参照)。

(11)この埋め戻し後、杭孔25からスタンドパイプ23を抜き取り、撤去する(第9図(ル)参照)。

(12)スタンドパイプ23の撤去後、構真柱31の上部に取付けたヤットコ(吊具)34を取外し、撤去する(第9図(ヲ)参照)。構真柱31の建込時に、構真柱31の上部が作業床より上方に突出するタイプのものでは、ヤットコ34が不要なものもある。

(13)グランドレベル(GL)まで杭孔25に砕石または掘削土33を挿入し、埋め戻し(二次埋め戻し)を行ない、構真柱31の一本分の建込み作業が完了する(第9図(ワ)参照)。

五 被告工法の補足説明

(一)被告装置の構真柱建込機のセット作業(第9図(ト)参照)

(1)建設現場で構真柱建込機1を組立て、完成させる。

(2)組み立てられた構真柱建込機1をクローラクレーン30で吊設し、建設現場の作業床2に墨出しされた四方の芯墨に合うように「±50mmの精度」で吊り込み、設置する。

(3)構真柱建込機1のベースフレーム3の水平レベルを四台の油圧ジャッキ18を用いて図示しない水準器で確認しながらレベル調整する。

(4)装置固定用ハンドル22を操作して、ベースフレーム3を、杭孔25に建込まれたスタンドパイプ23に固定させる。

(5)<1> ベースフレーム3の下部インジケータ20の基準目盛と作業床2に画かれた芯墨とのずれ量を確認し、下部目盛のずれ量を上部インジケータ19の上部目盛に転換させる。

<2> 真柱ガイド装置7(第1図乃至第4図参照)に予め支持されたゲージ枠(アングル枠)16を利用し、支持架台6上部に張られた水糸および上部・下部のインジケータ19、20を用いて構真柱31のための芯出しを行なう。

<3> 構真柱用の芯出しは、上部および下部調整油圧シリンダ11、9を駆動させて上部台車5および下部台車4を駆動させ、矩形の支持架台6をX-Y方向にスライドさせることにより行なわれる。

(6)支持架台6の架台方向を回動調整油圧シリンダ12を用いて最大回動中心角度が±8度の範囲内で回動させ、微調整を行なう。

(7)構真柱用芯出し完了後、ゲージ枠16と水糸を取り除く。

(8)真柱ガイド装置7のセット状態およびジャッキ13の受けレベル(支持高さレベル)を確認する。

(二)構真柱の建込作業(第9図(チ)参照)

構真柱31はクローラクレーン30で吊設移動されて構真柱建込機1に案内されて吊り下げられ、杭孔25に打設されたコンクリート29内を自重で垂直方向に挿入され、建て込まれる。

(1)<1> クローラクレーン30により構真柱31を吊設する。

<2> 吊設された構真柱31に傾斜計が取付けられ、垂直度が監視される。

(2)吊設された構真柱31の下端を芯調整して真柱ガイド装置7に案内させる。真柱ガイド装置7に案内される構真柱31は芯出し状態で吊り下げられる。このとき、真柱ガイド装置7はガイドアーム14が立設状態に保持され、大きな開口が形成される。

(3)<1> 構真柱31は、できるだけ振れがないように振れ状態を傾斜計で確認しつつ、真柱ガイド装置7の大きな開口を通して案内され、芯出し状態が保たれて吊り下げられる。構真柱31の下端が打設コンクリート29内にどぶづけされる直前でガイドアーム14が倒されてガイドローラ15が構真柱31の側面に緩く接触し、その後はガイドローラ15に案内されて構真柱31の先端がどぶづけされる。

<2> 構真柱31の吊り下げは、構真柱31に固定のヤットコ(吊具)の耳部(取付ブラケット)がジャッキ(ジャーナルジャッキ)13に当接し、支持されるまで行なわれる。

<3> 構真柱31の吊り下げにより、その先端は打設コンクリート29に挿入される(どぶづけされる)が、構真柱31の挿入はコンクリート打設後コンクリートが硬化しない所要時間内に行なわれる。

(4)ジャッキ13を調整して構真柱31の高さ(保持)レベル位置が調整され、この構真柱吊設状態でコンクリート養生される。

(三)構真柱建込機の撤去作業(第9図(リ)参照)

(1)コンクリート養生期間経過後、構真柱31頭部側のヤットコ34上部が、スタンドパイプ23に仮固定部材32により四方向固定される。このとき、ガイドアーム14を不作動位置に回動させて真柱ガイド装置7を構真柱31から解放させる。

(2)支持架台6上のジャッキ13によるジャッキアップを解除する。

(3)装置固定用ハンドル22を操作してベースフレーム3のスタンドパイプ23への固定を解除し、ベースフレーム3をフリーにする。

(4)クローラクレーン30を用いて構真柱建込機1を吊上げ、スタンドパイプ23上に引き抜いて撤去する。

(5)構真柱31の高さレベル、芯位置を確認する。

1…構真柱建込機

2…作業床

3…ベースフレーム

4…下部台車

5…上部台車

6…支持架台(調整台)

7…真柱ガイド装置

8…下部レール

9…下部調整油圧シリンダ

10…上部レール

11…上部調整油圧シリンダ

12…回動調整油圧シリンダ

13…ジャッキ(ジャーナルジャッキ)

14…ガイドアーム

15…ガイドローラ

16…ゲージ枠(アングル枠)

17…操作盤

18…油圧ジャッキ

19、20…インジケータ(目盛板)

21…芯出しピン

22…装置固定用ハンドル

23…スタンドパイプ(表層ケーシング)

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

第5図

<省略>

第6図

<省略>

第7図

<省略>

第8図

<省略>

第9図

<省略>

別紙 謝罪広告目録

弊社は、貴社の特許第一二六六四三九号「支持真柱建込み工法及び支持真柱建込み装置」を侵害して、貴社の業務上の信用を害しました。

ここに謝罪の意を表しお詫び致します。

東京都港区元赤坂一丁目二番七号

鹿島建設株式会社

代表取締役 梅田貞夫

東京都渋谷区桜丘町二四番四号

北辰工業株式会社

代表取締役 北中克己殿

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