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東京地方裁判所 平成8年(ワ)11360号 判決 1997年12月25日

原告 X1

原告 有限会社司建設

右代表者代表取締役 A

右両名訴訟代理人弁護士 黒瀬直秀

被告 国

右代表者法務大臣 下稲葉耕吉

右指定代理人 中垣内健治

右同 関澤節男

右同 加治屋豊

右同 井澤義昭

右同 小林正彦

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

一  請求の趣旨

被告は原告らに対し、別紙物件目録<省略>一の土地につき、別紙登記目録<省略>の差押登記の抹消登記手続をせよ。

二  事案の概要

本件は、原告らが前所有者から土地建物を買い受けたところ、第三者が前所有者に無断で売買を原因とする所有権移転登記をなし、その後、被告が第三者に対する滞納処分として右土地建物について無効な差押登記をしたとして、その差押登記の抹消登記手続を求める事案である。

三  争いのない事実

1  別紙物件目録一<省略>の土地(以下「本件土地」という。)及び同目録二<省略>の建物(以下「本件建物」といい、土地建物を合わせて「本件不動産」という。)について、昭和六三年六月二九日売買を原因とする同年七月六日付訴外有限会社時光(以下「時光」という。)への所有権移転登記(以下「本件登記」という。)が経由されている。

2  本件不動産について、平成元年九月四日、時光に対する滞納処分として、東山税務署差押を原因とする平成元年九月六日付差押登記(以下「本件差押登記」という。)が経由されている。

3  本件不動産について、平成二年六月一五日、訴外B(以下「B」という。)が真正な登記名義の回復を原因として所有権移転登記が経由されている。

その後、原告らが本件不動産につき、共有持分登記を経由している。

四  争点

本件差押登記の効力

(原告らの主張)

1  本件不動産は、もとBが所有し、原告らは平成二年六月五日、本件不動産を代金五五〇〇万円で買い受け、その各二分の一の持分を取得した。

2  Bが本件不動産を所有していたとき、時光はBに無断で、本件不動産につき、本件登記を経由したものである。

3  国などの公的機関が国税徴収法に基づく差押というような公権力の作用によって利害関係を有するに至った場合は、民法九四条二項の類推適用の余地は生じない。

(被告の主張)

1  本件登記の有効性

Bは、昭和六三年春ころ、時光の代表取締役であるC(以下「C」という。)に対し、東村山市<省略>所在の土地及び同土地上へのアパートの建築を依頼し、Bと時光との間で、右不動産の取得の仲介契約及び建築請負契約が締結された。Bは、土地の取得費用及びアパートの建築費用を本件不動産の売却代金をもって当て、不足分はローンを組むこととし、時光が本件不動産を買い受けた。時光は、本件不動産の代金の支払賃金等を借入金によって賄うため、訴外ファーストクレジット株式会社から四四〇〇万円を借り入れることとし、融資が実行されるとともに、本件不動産につき時光への所有権移転登記及びファーストクレジット株式会社を権利者とする抵当権の設定登記の各手続がなされたものであって、本件登記は実体に符号した有効な登記である。

2  民法九四条二項等の類推適用

(一) 仮に、Bと時光との間に本件不動産の売買契約が不存在あるいは無効であったとしても、Bは時光に対し、融資を受けさせるため本件登記を経由し、時光が不実の本件登記をなすにつき承諾していたものであるから、民法九四条二項の類推適用により、右登記が不実であることをもって善意の第三者である被告に対抗することができない。

(二) 仮に、Bが本件登記をなすことを事前に承諾していなかったとしても、Bは本件登記の存在を知った後も、その存続を明示又は黙示に承認していたのであるから、民法九四条二項の類推適用により、右登記が不実であることをもって善意の第三者である被告に対抗することができない。

(三) 仮に、Bが右不実の本件登記を事前事後を問わず何ら承諾又は承認していなかったとしても、Bは時光に対し、一旦は本件不動産の売買契約の代理権を授与するとともに、登記手続書類を交付し、右売買契約が成立に至らないことが確定した後、あるいは右契約が成立して解除された後も、右書類の返還を求めることをしなかったために、時光がそれを利用して自己に所有権移転登記を経由することを招いたのであるから、民法九四条二項、同一一〇条の類推適用により、善意無過失の被告に対し、時光が本件不動産の所有権を取得しなかったことを対抗することができないというべきである。

五  判断

1  本件不動産につき、本件登記及び本件差押登記がなされていることは当事者間に争いがなく、<証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、Bはもと本件不動産を所有していたこと、原告らは、平成二年六月五日、Bと本件不動産の売買契約を締結し、本件不動産の所有権を取得したことが認められる。

そこで、本件登記の有効性について判断するに、被告は、Bと時光との間において、本件不動産の売買契約が締結された旨主張し、<証拠省略>を援用する。しかしながら、右各証拠によっても、Bは、昭和六三年春ころ、時光の代表取締役であったCに対して、東村山所在の土地の取得及びその土地上のアパートの建築を依頼し、本件土地建物の売買契約申込書に署名、捺印をしていること、時光は基礎工事に着手し、資材の発注をしていること、Cは訴外ファーストクレジット株式会社(以下「ファーストクレジット」という。)新宿支店にBと同行して、時光に対する融資の申込みをしていることが認められるが、他方、甲第一〇号証、乙第三号証によれば、CはBに対し、本件不動産につき、所有権移転登記をするが、これは便宜上行うものであって、実際上の売買は不存在であり、後日真正な名義の回復をすることを確約する旨の確約書を交付していること、右アパートの建築工事及び土地の取得は結局取り止められたことが認められ、右事実に照らすと、前記各事実をもって、Bと時光との間において、本件不動産につき売買契約が締結されたものと認めるには足りない。他に右売買契約が締結されたことを認めるに足る的確な証拠はない。

したがって、右売買契約が存在するものとしてなされた本件登記は不実の登記であると言わざるをえない。

2  民法九四条二項の類推適用の有無について

<証拠省略>によれば、次の事実が認められる。

Bは、本件不動産と東村山市<省略>所在の土地を買換えるため本件不動産の所有権移転登記に必要な権利証、印鑑登録証明書、委任状等をCに交付していたところ、時光がファーストクレジットから金四四〇〇万円を借り入れるため、昭和六三年七月五日、BとCがファーストクレジットを訪れ、時光は本件不動産について、Bの承諾を得て、ファーストクレジットに対し、同月六日、Bから時光への所有権移転登記とともに抵当権設定登記を経由した。この点、別件訴訟において、Cは、Bに無断で本件所有権移転登記をなした旨供述し(甲第一〇号証)、証人Bはファーストクレジットへ行ったことはなく、登記移転についても承諾したことはない旨供述するが、乙第四号証によれば、ファーストクレジットの融資担当者であるDは、本件不動産の所有名義人が時光でなかったため、当時の所有名義人であったBの運転免許証でB本人を確認し、その場でBの自宅へ電話をかけB本人が不在であることを確認していること、また乙第三号証によれば、Bは、本件不動産について時光への所有権移転登記については便宜上である旨の確約書を時光及びCから受領していることが認められる。また、乙第五号証によれば、Bは、本件不動産について、平成元年九月一〇日、執行官に対し、電話で時光が債権者から融資を受けるために一時所有権を取得したものであり、近日中に問題を解決し所有権を元に戻すことになっている旨応答していることが認められ、右事実に照らすと、甲第一〇号証のCの供述部分及びBの前記供述は採用できない。

以上によれば、Bは本件不動産についての所有権移転登記が時光に移転していることについて、承諾していたものであるから、右登記が不実のものであったとしても、民法九四条二項の類推適用により、Bは、右不実登記について善意である(この点は弁論の全趣旨により認める。)被告に対抗することはできず、結局、原告らは被告に対し、右不実の登記をもって対抗することはできない。

なお、国税徴収法に基づく差押についても民法九四条二項の類推適用をすることはできると解する。

3  したがって、被告の主張は理由があり、原告らの本訴請求は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 玉越義雄)

<以下省略>

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