大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成8年(ワ)13748号 判決 1997年12月17日

ベルギー国

二三四〇 ビールセ トウルンホウト セバーン三〇

原告

ジャンセン・ファーマシューチカ・ナームローゼ・フェンノートシャップ

右代表者

ダーク コーリエ

右訴訟代理人弁護士

品川澄雄

吉利靖雄

右訴訟復代理人弁護士

滝井朋子

東京都文京区本駒込二丁目一二番一二号

被告

日本薬品工業株式会社

右代表者代表取締役

舩木博

東京都千代田区東神田二丁目五番一二号

被告

株式会社龍角散

右代表者代表取締役

藤井隆太

埼玉県大宮市三條町五一番地

被告

太田製薬株式会社

右代表者代表取締役

松村眞良

右被告三名訴訟代理人弁護士

田倉整

島田康男

右被告三名輔佐人弁理士

高田修治

東京都中央区日本橋本町四丁目一五番九号

被告

メディサ新薬株式会社

右代表者代表取締役

山口博雄

右被告訴訟代理人弁護士

田倉整

島田康男

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告らは、別紙目録記載の物質を有効成分とする医薬品を製造し、該医薬品を販売してはならない。

二  被告らは、被告らの所有する別紙目録記載の物質及びこれを有効成分とする医薬品を廃棄せよ。

三  被告らは、厚生大臣に対し、被告らの申請によってなされた薬事法に基づく別紙目録記載の物質を有効成分とする医薬品に対する製造承認につき製造承認の整理届を提出せよ。

四  被告らは、厚生大臣に対し、前項の医薬品について健康保険法に基づく薬価基準収載からの削除願を提出せよ。

五  被告らは、原告に対し、被告らが別紙目録記載の物質を有効成分とする医薬品について、厚生大臣の製造承認を得るために同目録記載の物質を有効成分とする医薬品を用いて試験を行って得た試験データ及びその他の資料を返還せよ。

第二  事案の概要

一  本件は、存続期間の満了した後記特許権を有していた原告が、(一)被告らにおいて医薬品の製造承認の添付資料を作成するため存続期間満了前になした試験が原告の特許権の特許請求の範囲第一項ないし第六項及び第九項を侵害する行為であるとして、特許権妨害に対する妨害排除請求権に基づき、<1>侵害行為の差止め、<2>侵害物件の廃棄、<3>製造承認の整理届の提出、<4>薬価基準収載からの削除願の提出及び<5>試験データ等の資料の返還を求めるとともに、(二)被告らが原告の発明に対する独占的占有を侵奪して不当な利得を得たとして、不当利得返還請求権に基づき、右<1>ないし<5>の請求をする事案である。

二  基礎となる事実

1  当事者

(一) 原告は、医薬品の製造、販売を業とするベルギー国法人である。

(二) 被告日本薬品工業株式会社は医薬品等の製造、販売を業とする株式会社であり、被告株式会社龍角散、被告太田製薬株式会社及び被告メディサ新薬株式会社は、医薬品等の製造、輸入、販売を業とする株式会社である。

2  原告の特許権

原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件特許発明」という。)を有していた。

特許番号 第一三六四八九五号

発明の名称 新規な1-(ベンゾアゾリルアルキル)ピペリジン誘導体

出願年月日 昭和五一年七月一九日(特願昭五一-八五二一六号)

出願公告年月日 昭和六一年七月一七日(特公昭六一-三一一〇九号)

優先権主張 アメリカ合衆国 一九七五年七月二一日出願

登録年月日 昭和六二年二月九日

特許請求の範囲 本判決添付の特許公報該当欄記載のとおり

存続期間満了 平成八年七月一九日

3  被告らの行為

(一) 別紙目録の化学構造式をもって示される物質は、本件特許発明の特許請求の範囲第一項に記載された一般式において、R1、R2及びR3に水素を選び、Bに<省略>を選び、更にLに水素を選び、m及びnを各1とし、基<省略>の示す式中R7に水素、R8に5位クロール、YにO、Mに水素をそれぞれ選び、破線を単結合とした化合物(一般名を「ドンペリドン」と称し、以下では一般名を使用する。)であり、強い制吐活性を有する。

(二) 被告らは、本件特許権の存続期間満了後にドンペリドンを有効成分とする医薬品(以下「被告製剤」という。)を製造、販売するため、被告製剤につき薬事法一四条所定の医薬品製造承認を受け、平成八年七月五日、健康保険法に基づく薬価基準収載を受けた。

(三) 被告らが被告製剤について医薬品製造承認の申請をするにあたっては、以下の資料の添付が必要である(薬事法一四条三項、薬事法施行規則一八条の三、昭和五五年五月三〇日薬発第六九八号薬務局長通知)。

ア 規格及び試験方法に関する資料(物理的化学的性質並びに規格及び試験方法等に関する資料の一つ)

イ 加速試験に関する資料(安定性に関する資料の一つ)

ウ 生物学的同等性に関する資料(吸収、分布、代謝及び排泄に関する資料の一つ)

(四) 被告らは、右(三)の各資料を得るためにドンペリドンの原末を製造又は輸入し、被告製剤を製造又は輸入し、これを使用して各種試験を行った。

(五) 被告らは、本件特許権の存続期間満了後、被告製剤の製造、販売を行っている。

三  争点

1  特許権妨害に対する妨害排除請求権に基づく請求について

(一) 特許権者であった者は、特許権の存続期間満了後に、存続期間中に行われた製造承認申請の添付資料を作成するために行った試験が特許権の侵害ないし妨害にあたることを理由として、妨害排除請求権に基づき、<1>侵害行為の差止め、<2>侵害物件の廃棄、<3>製造承認の整理届の提出、<4>薬価基準収載からの削除願の提出及び<5>資料の返還を請求することができるか。

(二) 本件特許権の存続期間満了後に製造販売する被告製剤について、薬事法所定の製造承認申請の添付資料を作成するため、存続期間中に行った各種試験において、本件特許発明にかかるドンペリドン及び被告製剤を製造、使用する行為は、特許法六八条にいう「業として特許発明を実施する」行為に該当するか。

(三) 被告らの右(二)の行為は同法六九条一項にいう「試験又は研究」に該当するか。

2  不当利得返還請求について

被告らの行為は、原告の本件特許発明に対する独占的占有を侵奪する不当利得に当たるか。

四  争点に関する当事者の主張

1  争点1(一)について

(一) 原告の主張

(1) 被告らが適法に薬事法所定の製造承認の申請をするためには、本件特許権の存続期間満了後に、添付資料を作成するための各種試験を開始し、その結果が得られた後、初めて右製造承認の申請を行わなければならないが、被告製剤のようないわゆる後発医薬品の場合、右試験の開始から薬価基準の収載まで少なくとも二七か月間を要する。

したがって、医薬品を対象とする特許権者である原告は、その存続期間中、当然特許権本来の排他的全権能を享有し得るが、さらに現行法体系全体の中から生じてくる法的利益として、本件特許権の存続期間満了後も更に二七か月間は、本件特許発明の実施品である医薬品を独占的に製造販売することのできる法律上の地位を有する。

(2) 特許権は所有権に準ずる物権的権利であるから、その妨害に対しては妨害排除請求権を生ずる。

被告らが、本件特許権の侵害行為である試験の結果を資料としてなした製造承認の申請、製造承認の取得及びこれに基づく被告製剤の製造、販売は、本件特許権の侵害行為である試験に起因した本件特許権の妨害行為である。

したがって、原告が、本件特許権の存続期間中に特許法一〇〇条に基づき右妨害行為に対する妨害排除請求権を有することは当然であるが、本件特許権の存続期間満了後も一般法である民法の理念に従い、物権的請求権である右妨害排除請求権が、妨害状態が継続する限り、依然として存続するものと解するべきである。

被告らの妨害行為は、原告が存続期間満了後も少なくとも二七か月間享有できた本件特許発明の実施品を独占的に製造、販売しうる法的地位を害するものであるから、存続期間満了後も少なくとも二七か月間継続しており、これに対する妨害排除請求権も存続している。

(3) また、特許権の侵害、妨害の排除を求める訴えにおいては、貴重な技術を初めて社会に開示した特許権者の利益が重視されるべきことは当然として、さらに、産業的取引社会の公正な秩序の回復という視点から、この貴重な新規技術の開示の代償として、決して長期にすぎるとはいえない期間に限って存続を許される特許権が、欠けることなく尊重され守られなければならない。

この観点からは、特許権侵害とその結果である妨害の排除にあたっては、特許権侵害がなされなかったであろう状態、換言すれば、特許権が尊重されていたとすれば実現していたであろう状態が回復されることが肝要である。

(4) よって、原告は、妨害排除請求権に基づき、<1>被告製剤を製造し、販売することの差止め、<2>ドンペリドン及び被告製剤の廃棄、<3>製造承認の整理届の提出、<4>薬価基準収載の削除願及び<5>試験データその他の資料の返還を請求する。

(二) 被告らの主張

(1) 本件特許権は存続期間満了により消滅しているのであるから、特許権に基づく差止請求権(特許法一〇〇条)を行使し得ないことは明らかである。

原告の主張する妨害排除請求権は、特許法一〇〇条による差止請求権、除却請求権とは異なる物権的請求権をいうものであるが、特許権に基づく物権的請求権として特許法一〇〇条による差止請求権、除却請求権とは異なる物権的請求権を観念する余地はないから、原告の主張する妨害排除請求権は認められない。仮にこれが認められるとしても、その効力は特許法一〇〇条に定める差止請求権以上のものではあり得ないから、特許権が消滅した以上、原告の主張する妨害排除請求権の行使は認められない。

(2) 薬事法の規制上、医薬品の製造承認を得るために一定の期間を要するのは、薬事法所定の目的を達するための行政上の必要性に由来するもので、先発医薬品の製造販売業者の利益を図るためのものではない。したがって、薬事法による製造承認手続により、結果的に特許権の存続期間満了後においても一定期間後発医薬品の製造販売が開始されないことになり、先発医薬品の製造販売業者が事実上市場を独占できるという利益を享受しうることとなっているとしても、それは薬事法の規制に伴う事実上の反射的利益に過ぎず、先発医薬品の製造販売業者に法的に保護された利益であるとか法的に保護すべき利益であるとかいうことはできないし、それをもって特許権の効力ということもできない。

(3) 特許権の存続期間は、その重要性に鑑み、法律で定められている。したがって、制定法によらずして特許権の存続期間を延長することはできないというべきであり、この点からも、薬事法による医薬品製造上の規制により特許権の存続期間満了後においても一定期間後発医薬品の製造、販売が開始されないこととなる事実上の反射的利益を、法的に保護された利益であるとか法的に保護すべき利益であるとかいうことはできない。

2  争点1(二)について

(一)原告の主張

(1) 被告らは、医薬品を製造販売することを業とする会社である。したがって、医薬品を製造販売することは被告らの業としての行為であるが、医薬品の製造承認及び薬価基準収載を受けるための行為は、その医薬品り製造販売のみを目的とするもので、製造販売行為の端緒と評価されるべきものであるから、それ自体も業としての行為にほかならない。

被告らの右行為の内容は、本件特許発明にかかる医薬品を製造又は輸入し、使用することであるが、これらの行為は特許発明の実施であるから、結局、被告らの右行為は業としての特許発明の実施となる。

(2) 物の発明についての特許権者は、本来、特許法二条三項一号に定める六態様の実施行為全てについて全幅の権限を享有しているが、実施行為の態様中、例えば市販やそのための生産などが安全性の確保等の目的から許可あるまで禁じられる場合には、特許権者の本来享有すべき実施権限がその限度で制限される。特許法六七条二項は、この制限に対する救済規定である。したがって、同項の「その発明の実施をすることができなかった」とは、「その発明の実施を全幅の意味においてはすることができなかった」の趣旨である。

右許可あるまでの間であっても、特許発明にかかる物質を製造し又は輸入し、使用する行為は、特許法二条三項一号に規定する特許発明の実施行為であるから、被告らの右行為は当然に特許発明の実施行為である。

(3) 本件特許権の存続期間中に、業として本件特許発明にかかる物質を生産し、使用する行為は、それだけで直ちに本件特許権の侵害行為であって、即刻利益を得ようとしたか、又は特許権者の経済的利益を害する意思を有していたかということは、本件特許権の侵害にとって何の関係もない事柄である。

したがって、仮に被告らが本件特許権の存続期間中は被告製剤の製造販売をする意思を有さず、原告の経済的利益を侵害する意思がなかったとしても、被告らの行為を業としての本件特許発明の実施であると評価することに対し何の意味も有しない。

(二) 被告らの主張

(1) 特許法が特許権の付与により発明を保護するのは産業の発達の観点からであり、したがって、特許発明の実施を専有させることによって特許権者に付与する保護は市場における利益を独占させるというものである。私的実施及び試験又は研究のためにする特許発明の実施が特許権の侵害を構成しないとされる理由はまさにこの点にある。

薬事法の製造承認申請の添付資料を作成するための各種試験及び製造承認申請は特許発明の実施の準備であり、被告らは製造承認がなされる前に被告製剤の製造販売を開始することはなく、本件特許権の存続期間中に右製造販売をすることもない。したがって、被告らの右行為は、特許権者である原告の市場における利益独占とは無縁の行為であり、本件特許権を侵害するものではない。

(2) 平成六年法律第一一六号附則五条二項は、他人の特許権の存続期間が満了することを前提としてその満了前にその特許発明の実施である事業の準備をしている者を保護する規定であるが、同条項は特許権の存続期間満了後は特許発明を業として実施することが特許権の侵害に当たらないことを当然の前提としているものであるとともに、特許発明の「業として実施することの準備」が「業として実施すること」に当たらず、特許権を侵害するものではないことを明らかにするものである。

薬事法の製造承認申請の添付資料を作成するための各種試験及び製造承認申請は特許発明を「業として実施することの準備」であり、被告らは製造承認を得た後でなければ被告製剤を製造販売することはないから、被告らの右行為は、特許発明を「業として実施する」ものでないことは明らかであり、本件特許権を侵害しない。

(3) 特許法は、医薬品等の特許権について存続期間の延長登録制度を設けているが、同法六七条二項が「その特許発明の実施をすることが二年以上できなかった」ことを延長登録出願の要件としていることから明らかなとおり、薬事法に基づく製造承認手続期間中は「特許発明の実施」ができないと認めており、特許権者による製造承認申請のための特許発明の技術的範囲に属する臨床試験等及び製造承認申請が、業としての「特許発明の実施」に当たらないとしている。このように先発者(特許権者)が行う臨床試験等薬事法上の製造承認申請に必要とされる行為及び製造承認申請が業としての「特許発明の実施」に当たらない以上、後発者が行うそれをもって業としての「特許発明の実施」に当たらないというのは当然の帰結である。

3  争点1(三)について

(一) 原告の主張

(1) 特許法六九条一項の特許権の効力が及ばない試験又は研究とは、その特許発明の技術を更に技術的に進歩せしめるものでなければならず、したがって、その行為が技術を更に進歩させる目的を有することが不可欠である。

しかし、被告製剤の製造承認申請の添付資料を作成するために行う各種試験は、本件特許発明にかかる医薬品と同効のものとして販売するための行政上の許可を得るため、これと同一の薬効を有する医薬品であること、及びそれが必要最低期間は同一薬効を保持して変質しないことを証明する資料を得ることのみを目的とする行為であって、いかなる意味においてもその特許発明を更に技術的に進歩せしめる目的を有するものではあり得ない。

(2) したがって、被告らの右各種試験は、特許法六九条一項の試験又は研究に該当しないから、各種試験に基づき薬事法所定の製造承認申請、健康保険法所定の薬価基準の収載申請は違法である。

(二) 被告らの主張

(1) 試験又は研究のためにする実施に特許権の効力が及ばないとされるのは、特許法が発明を公開させることによって産業の発展を図ることを目的としているところにある。

つまり、公開された発明に基づいてさらなる技術が開発されていくことを予定しており、そのためには、試験又は研究のためにする実施を特許権の効力の範囲外として実施を許容しておく必要があり、一方、これを特許権の効力の範囲内であるとして特許権者に独占させることは、発明の公開の対価として市場における独占を認める特許法の趣旨に照らして、特許権者に必要以上の保護を与えることになり、かえって特許法の目的とする産業の発展に反するものとなるからである。

(2) 特許法六九条一項は「特許権の効力は、試験又は研究のためにする特許発明の実施には、及ばない。」と規定しているだけで、それ以上に格別の要件を規定していないことに鑑みると、同条項の「試験又は研究」は限定的に解するべきではなく、産業、技術の発達に直接間接に寄与する可能性のあるものであればよく、目的や結果(寄与の程度)によって限定されるべきではない。

被告らが製造承認申請のため行った生物学的同等性試験においては、ドンペリドン及び被告製剤を試作する際、本件特許発明の公報記載の技術を公報記載のとおり行っているものではなく、被告らのノウハウを動員し、種々の実験その他の試行錯誤を繰り返して行ったもので、「試験又は研究」にほかならない。また、ドンペリドンの医薬品としての利用については副作用など解明されていない問題が残されているが、被告らの行った右各種試験によって、被告らの製造方法によれば問題となるような副作用が生じないという新しい知見、技術的進歩が獲得されたのであり、右各種試験はドンペリドンの医薬品としての利用に寄与したものである。

(3) したがって、被告らの行った右各種試験は、科学技術の進歩に寄与し得る性質のものとして(現実に科学技術の進歩に寄与している。)、特許法六九条一項の「試験又は研究」に該当するというべきである。

4  争点2について

(一) 原告の主張

(1) 原告は、本件特許発明が完成すると同時にこれに対する独占的な占有を取得し、本件特許権の存続期間中は本件特許発明に対する法的な独占的占有権限を与えられ、独占的占有を継続しできた。

被告らは、被告製剤の製造承認申請の添付資料を作成する目的で本件特許発明の実施品である製品を製造又は輸入し、これを使用する等の実施をなすことにより、少なくとも本件特許権存続期間中の二七か月間にわたり、悪意で、法律上の原因なく、他人の財産である原告の本件特許発明に対する独占的占有を侵奪したものであり、これにより、原告に右二七か月間の独占的占有喪失という損失を生ぜしめ、その結果、製造承認、薬価基準収載とこれに基づく被告製剤の製造販売可能な地位という利益を得るとともに製造承認申請のための試験データ及びその他の資料を得て、もって不当な利得をなしたものである。

(2) したがって、被告らは、原告に対し悪意の不当利得者として不当に取得したすべての利得を返還すべきである。この場合に被告らが返還すべき利得とは、違法な占有侵奪がなされなければ生じていたはずの状態を再現すること、すなわち、右占有侵奪によって取得した製造承認及び薬価基準収載手続を白紙に戻し、被告らが被告製剤を製造販売することのできない地位に戻ること及び右試験データ及びその他の資料を返還することである。

(3) よって、原告は、不当利得返還請求権に基づき、<1>被告らが被告製剤を製造し、販売することの差止め、<2>ドンペリドン及び被告製剤の廃棄、<3>製造承認の整理届の提出、<4>薬価基準収載からの削除願の提出及び<5>試験データその他の資料の返還を請求する。

(二) 被告らの主張

(1) 発明について占有が認められること、占有権が成立すること及び原告が本件特許発明を占有してきたことは争う。

(2) 仮に「発明の占有」なる概念が認められるとしても、それは発明の占有者(発明者)が発明について特許権を取得するまでの過渡的な状況を説明するためのものであって、発明の占有者(発明者)が当該発明について特許権を取得すれば、その目的を達して同概念によって法的保護を図る必要はなくなるのであり、本件のように発明者が特許権を取得し、その特許権が存続期間満了により消滅した後において「発明の占有」なる概念を持ち出す理由はない。

第三  争点に対する判断

一  争点1(一)(特許権妨害に対する妨害排除請求権に基づく請求の可否)について

1  特許法一〇〇条一項は、「特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。」と規定し、侵害の停止又は予防を請求することができるのが「特許権者」又は「専用実施権者」であることを明示するとともに、同法六七条一項は、「特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもって終了する」と規定し、特許権の存続期間を明確に定めているから、特許法は、差止請求権を行使できるのが権利としての特許権の存続期間中に限られることを当然の前提としているものと解される。すなわち、特許法は、発明の保護及び利用を図ることによって発明を奨励し、もって産業の発達に寄与するという目的(特許法一条)を達成するために、どの程度の期間にわたって、発明の実施の独占を特許権者に認めることが必要かつ十分であるかという観点から特許権の存続期間を定め、これを延長し得る場合も法の定める場合に限定していると解され(同法六七条一項、二項)、特許法の定める存続期間を超えて、特許権者に実施を独占させることは、発明を実施しようとする者に実施許諾を得るという負担を課することになり、かえって産業の発達を妨げ、ひいては公益に反することにもなる。

したがって、存続期間の満了によって特許権は消滅し、存続期間満了後に特許権の効力を主張することはできないというべきである。原告の本件特許権は、既に存続期間の満了により消滅しているから、特許法に基づき、消滅した特許権に基づく差止請求を認める余地はない。

2(一)  原告は、医薬品の特許権者は、現行法体系全体の中から生じてくる法的利益として特許権の存続期間満了後、二七か月間は、実施品である医薬品を独占的に製造販売し得る法的利益を有する旨主張する(前記第二の四1(一)(1))。

しかしながら、医薬品の製造承認を取得するための試験を開始してから薬価基準収載に至るまで、最低限二七か月を要し、そのため、後発医薬品の製造会社が、存続期間満了後に製造承認のための試験を開始した場合には、薬価基準収載を受けるまでの二七か月間は、特許権者が独占的に実施品を製造販売することができ、市場の利益を独占することがあるとしても、これを法的利益ないし法的に保護すべき利益ということはできない。すなわち、薬事法は、医薬品等に関する事項を規制し、これらの品質、有効性及び安全性を確保することを目的とし(同法一条)、医薬品の製造販売について規制を設けているものであるが、右規制は、特許権者の利益を保護するためのものではない。したがって、このような、特許法とは別個の観点から法定された制度やそれに基づく具体的な薬事行政の運用の結果、後発医薬品の製造承認のための試験の開始から製造承認又は薬価基準収載まで二七か月を要することになったとしても、特許権者は、事実上、後発医薬品の製造承認又は薬価基準収載までの間、市場の利益を独占することができるにすぎない。特許法とはその趣旨を異にする薬事行政に関する制度及びその運用がもたらす特許権者による右独占をもって、特許法に基づく法的利益ないし現行法体系全体の中から生じてくる法的に保護すべき利益とはいえず、これをもって差止請求の根拠とすることはできない。

(二)  原告は、物権的権利の妨害に対し、妨害排除請求権が妨害の継続する間存続する旨主張する(前記第二の四1(一)(2))。

しかしながら、特許権の存続期間が満了した以上、特許権に対する妨害状態なるものは観念できないし、原告のいう二七か月間の独占的な地位も法的に保護すべき利益でないことは前記のとおりであるから、物権的な妨害排除請求権をもって差止請求の根拠となし得ない。

(三)  原告は、産業的取引社会の公正な秩序の維持の点をも存続期間満了後に差止請求が認められるべき理由として主張する(前記第二の四1(一)(3))。

しかしながら、特許権の存続期間の満了後、その発明の実施は自由であり、取引社会の秩序もそれを前提に構築されていると解されるから、原告の右主張も差止請求の根拠とすることはできない。

(四)  以上のとおり、原告の本件差止請求は、理由がない。

原告のその余の請求、すなわち<2>被告製剤等の廃棄、<3>被告製剤に対する製造承認の整理届の提出、<4>被告製剤についての薬価基準収載からの削除願の提出、<5>試験データ等の資料の返還は、いずれも特許権の侵害の予防に必要な行為として請求されているものと解されるところ、侵害の予防に必要な行為は、特許権に基づく差止請求をするに際して請求することができるにすぎないものであって(特許法一〇〇条二項)、差止請求が認められないことは前記のとおりであるから、右<2>ないし<5>の請求も理由がない。

二  争点1(三)(被告らの行為が特許法六九条一項の「試験又は研究」にあたるか)について

1  前記のとおり、特許権の存続期間満了後は、妨害排除請求権に基づく請求は理由がないものと解するが、原告は、被告らの行為が特許法六九条一項の「試験又は研究」にあたらず、薬事法所定の製造承認申請、健康保険法所定の薬価基準の収載申請等が違法である旨主張するので、この点について判断する。

2  被告らが医薬品等の製造販売を業とする株式会社であること、被告製剤について本件特許権の存続期間中に医薬品製造承認を受けたこと、被告らが、右製造承認申請の添付資料を作成するための各種試験において、本件特許発明にかかるドンペリドンの原末を製造又は輸入し、被告製剤を製造又は輸入し、これを使用したことは、前記認定のとおりである。

特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有し(特許法六八条本文)、特許権は、独占排他権であるから、特許権者の了解なくして特許発明を業として実施することは原則としてできない。他方、特許法の目的が、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する(特許法一条)ことにあることからすれば、独占権である特許権の効力も、特許権者の利益と発明を利用する第三者ないし社会一般の利益との調和を図るという産業政策上の見地から制限されることがある。

右の見地から特許権の効力が制限される場合として、特許法六九条一項は、「特許権の効力は、試験又は研究のためにする特許発明の実施には、及ばない。」旨を規定している。すなわち、右法条の立法趣旨は、特許権の効力を試験又は研究のためにする特許発明の実施にまで及ぼしめることは、かえって技術の進歩を阻害し、産業の発達を損なう結果になるため、これを制限すべきであるとの産業政策上の判断によるものと解される。

右のような立法趣旨に鑑みると、特許法六九条一項にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に該当するか否かについては、特許権者の利益と第三者ないし社会一般の利益の調整を図るという観点からこれを比較考量して決するべきものと解される。そうすると、特許発明にかかる技術を改良し、当該技術を次の段階に進歩させることを目的とする試験又は研究が同条項にいう「試験又は研究」に当たるものであることはいうまでもないが、同条項にいう「試験又は研究」がこのような技術の進歩を目的とする試験又は研究のみに限定されるとすることは相当でない。

したがって、薬事法に基づく後発品の製造承認申請の添付資料を作成する目的で行う試験が、同条項にいう「試験又は研究」に該当するか否かについては、特許法の解釈と薬事法による医薬品製造承認制度の整合性を考慮しつつ、特許権者の利益と第三者ないし社会一般の利益の調整を図るという観点に立って判断すべきものと解される。

3(一)  これを本件についてみると、前記認定のとおり、被告らは、原告の本件特許権の存続期間満了後に被告製剤を製造販売するため、医薬品の製造承認申請に必要な資料を得ようとして、ドンペリドンの原末及び被告製剤を製造又は輸入したうえ、規格及び試験方法に関する資料、加速試験に関する資料、生物学的同等性に関する資料を作成するための各種試験を行い、これによって作成した資料を添付して、いわゆる後発品の製造承認を申請し、医薬品製造承認を得たものである。

(二)  医薬品は、薬事法による規制を受けるものであるところ、同法によれば、医薬品等を製造しようとする者は厚生大臣の承認を受けることを要し(同法一二条一項、一三条一項、一四条)、厚生大臣は、医薬品等につき、これを製造しようとする者から申請があったときは、品目ごとにその製造についての承認を与え(同法一四条一項)、その承認は、申請に係る医薬品等の名称、成分、分量、構造、用法、用量、使用方法、効能、効果、性能、副作用等を審査して行う(同条二項)ものとされ、右承認を受けようとする者は、厚生省令で定めるところにより、申請書に臨床試験の試験成績に関する資料その他の資料を添付して申請しなければならない(同条三項)旨規定されている。

薬事法は、医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保のために必要な規制を行うとともに、医療上特にその必要性が高い医薬品等の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより保健衛生の向上を図ることを目的としており(同法一条)、同法に基づく医薬品の製造承認のための審査は、医薬品の有効性や安全性の確保を目的とする、極めて公益性の強いものであって、その承認申請に添付する審査資料を得るため、前記各種試験が要求されるのも、同様に医薬品の有効性や安全性を確保し、国民の保健衛生の向上を図るという目的を達成するためである。

(三)  後発品の製造業者としては、特許発明の明細書に開示された有効成分と同一の医薬品を製造しようとする場合であっても、自らの知識や技術、研究に基づいた製剤処方を検討したうえで製剤の安定性、均一性を確保しなければならないうえ、先発品と同程度以上の効能が認められるよう、技術を磨き、研究を重ねる必要があり、さらに、これらの試験の際には、医薬品の特性を生かし、有効性を十分発揮させるために、製剤の過程で独自の技術が必要であり、最適な安定性、均一性等が得られるように研究し、好ましくない生理活性を取り除いたりするなどして、特許権により開示された有効成分をそれに最も適するように製剤化するという、科学的研究の側面をも有するものであり、そこに用いられた製剤技術は、被告らにおいて研究開発したものと推認される(乙第一三号証)。

したがって、被告らが後発品の製造承認申請をするために行う試験におけるこれらの過程は、単に製造承認申請に添付するというだけでなく、医療用技術の進歩にも寄与する側面も有するものと解される。

(四)  薬事法が、後発品の製造業者に対し、医薬品製造承認にあたり、前記各種試験の実施及びその資料の添付を求め、審査を行うのは、前記のとおり、医薬品の有効性や安全性を確保し、国民の保健衛生の向上を図るという目的を達成するためであり、後発品が先発品と品質において同等であり、同様の有効性、安全性があることを担保するためであって、当該医薬品にかかる特許権者の独占的地位を保護することを目的とするものではない。

このように、医薬品の製造販売をする際に製造承認を要するのは、安全な医薬品の提供という行政目的に基づくものであり、薬事法の規制は特許法とその目的を異にするものである。また、製造承認が得られるまでにある程度の期間を要するのも、行政上の事務処理に一定の時間がかかるといった事実上の要因によるものであって、特許権者に対する独占権の付与という特許法の趣旨とは全く無関係の結果といわざるを得ない。そして、かかる薬事行政上の取扱いによって、結果的に特許権者が特許期間を延長したのと同様の利益を享受できることがあるとしても、それは右行政上の取扱いによって生じる事実上の利益にすぎず、いわば反射的利益であって、特許法が保護する利益には当たらない。

(五)  他方、特許権の存続期間は法律で定められ(特許法六七条一項)、一定の要件を具備した特許権については存続期間の延長も認められている(同条三項)が、存続期間が経過すれば、何人であっても特許されていた発明を自由に実施することができ、特許権者であった者は、それを差し止めることができない。

それは、発明を公開した者に対し、その代償として一定期間、業としてその発明を実施する権利を専有させるが、その期間の経過後は、第三者がその発明を実施することができるものとすることによって、特許権者の利益と一般社会の利益の調和を図り、技術の進歩と産業の発達に寄与するという、特許法の目的を具体化したものである。

仮に、後発品についての医薬品製造承認申請に添付する資料を作成するための試験が当該医薬品についての特許権の侵害に当たるとして、その特許権の存続期間終了後に試験を開始すべきものとすると、試験期間及び審査に要する期間、特許権者が、特許権の存続期間の終了後もなお、当該発明を独占的に実施できる結果となる。

(六)  被告らは、本件特許権の存続期間満了後に被告製剤を製造販売することを目的として前記各種試験を行ったもので、本件特許権の存続期間中は、前記各種試験によって収益を得たわけでもなく、特許権者であった原告ないしその実施権者と直接競業したものでもない。

4  以上認定のとおり、特許権の存続期間満了後に製造販売することを予定するいわゆる後発品について、薬事法に基づく製造承認申請を行うため、右承認申請の添付資料を作成する目的で必要な試験としてなされた被告らの行為は、医薬品の有効性や安全性の確保を目的とする極めて公益性の強いものであり、仮に被告らの行為を違法とした場合、本来存続期間が満了し、もはや特許発明を独占できないはずの特許権者が結果としてさらに一定期間特許発明を独占できるという利益を享受することになるが、これは特許法が保護する利益とはいえないことに加え、被告らが本件特許権の存続期間中収益を得たり原告と競業したりしていないことも合わせ考えれば、特許法六九条一項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に該当すると認めるのが相当である。

以上のとおり、被告らの行為は、いずれも特許法六九条一項に規定する「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に該当し、本件特許権の効力は及ばないものというべきである。

5  してみると、医薬品製造承認申請の添付資料を作成する目的でなされた試験の際の被告らの実施行為が本件特許権の侵害であることを前提とする原告の請求は、この点からも理由がない。

三  争点2(不当利得返還請求権に基づく請求の可否)について

原告は、本件特許権の存続期間中は本件特許発明に対する法的な独占的占有権限を有するところ、被告らは、少なくとも本件特許権存続期間満了前の二七か月間にわたり、法律上の原因なく、他人の財産である原告の本件特許発明に対する独占的占有を侵奪した旨主張する。

原告は、「特許発明に対する法的な独占的占有権限」なる概念を用いるが、少なくとも特許権の存続期間中は、それが、特許権者が業として特許発明の実施をする権利を専有する(特許法六八条)ことと表裏の関係にあるものと解さざるを得ない。すなわち、発明が特許権として登録されれば、当該特許権は、存続期間中業として特許発明を実施する権利を専有するという効力を有する以上、特許権の存続期間中は、特許発明そのものについて、登録された特許権と別個にあるいは独立して特許権の効力を超える効力を認める必要はない。このことは特許を受けていない発明が特許権の効力以上の効力を有し得ないことからすれば明らかである。

したがって、例えば「業として」行われない特許発明の実施が「特許発明に対する法的な独占的占有権限」を侵奪するとはいえないであろうし(特許法六八条参照)、特許発明の実施に特許権の効力が及ばないものとして列挙されている特許法六九条所定の行為も原告の主張する「特許発明に対する法的な独占的占有権限」の侵奪には当たらないといわざるを得ない。

そして、被告らが製造承認申請の添付資料を作成する目的で行った各種試験においてドンペリドン及び被告製剤を製造又は輸入し、使用することが特許法六九条一項の試験又は研究に当たり、特許権の効力が及ぼない行為であることは、前記二に判示したとおりである。したがって、被告らが右各種試験においてドンペリドン及び被告製剤を製造又は輸入し、使用したことは、原告の主張する「特許発明に対する法的な独占的占有権限」の侵奪に当たらない。加えて、特許権の存続期間が満了した以上、原告がもはや特許法一〇〇条所定の差止請求権を有しないことは、前記一認定のとおりであり、仮に原告に不当利得返還請求権として差止請求権等を認めるとすれば、特許法一〇〇条の規定の趣旨に反することとなる。

したがって、不当利得返還請求権に基づく請求も理由がない。

四  結論

以上のとおり、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 高部眞規子 裁判官 榎戸道也 裁判官 大西勝滋)

別紙

目録

左式で示す5-クロロ-1-〔1-〔3-(2-オキソ-1-ベンゾイミダゾリニル)プロピル〕-4-ピペリジル〕-2-ベンゾイミダゾリノン(一般名:ドンペリドン)

<省略>

<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告

<12>特許公報(B2) 昭61-31109

<31>Int.Cl.4C 07 D 401/14 A 61 K 31/44 31/445 C 07 D 413/14 417/14 //(C 07 D 401/14 211:00 235:00) (C 07 D 401/14 211:00 235:00 249:00) (C 07 D 413/14 211:00 235:00 263:00) (C 07 D 417/14 211:00 235:00 277:00) 識別記号 ACP 庁内整理番号 7431-4C 7431-4C 7431-4C <24><44>公告 昭和61年(1986)7月17日

発明の数 2

<34>発明の名称 新規な1-(ベンゾアゾリルアルキル)ピペリジン誘導体

<21>特願 昭51-85216 <35>公開 昭52-17475

<22>出頭 昭51(1976)7月19日 <43>昭52(1977)2月9日

優先権主張 <32>1975年7月21日<33>米国(US)<31>597793

<32>1976年5月17日<33>米国(US)<31>687139

<72>発明者 ジヤン・バンデンベルク ベルギー国2340ビールセ・ケンペンラーン15

<72>発明者 ルド・イー・ジエイ・ケニス ベルギー国2350フオゼラール・パークラーン5

<72>発明者 マルセル・ジエイ・エム・シー・フアン・デル・アー ベルギー国2350フオゼラール・メレラーン46

<72>発明者 アルベルト・エイ・エム・テイーエイチ・フアン・ヘールトウム ベルギー国2350フオゼラール・アルペルトストラート10

<71>出願人 ジヤンセン・フアーマシユー・チカ・ナームローゼ・フエンノートシヤツプ ベルギー国2340ビールセ・トウルンホウトセバーン30

<74>代理人 弁理士 小田島平吉

審査官 塚中直子

<57>特許請求の範囲

1 式

<省略>

(Ⅰ)

〔式中、

R1及びR2は水素、ハロ、低級アルキル及びトリフルオロメチルから成る群からそれぞれ独立的に選ばれ、

Bは二価の基<省略>、<省略>、<省略>、<省略>、-N=N-及び-N=CH-、から成る群から選ばれた一員であり、ここでLは水素、低級アルキル、低級アルキルカルボニル及び低級アルケニルから成る群から選ばれた一員でありそして該二価の基はそれらのヘテロ原子によりベンゼン核に結合しており、

R3は水素及びメチルから成る群から選ばれた一員であり、

m及びnはそれぞれ1乃至2の整数でありそして基<省略>は、

<省略>

(式中、R7及びR8は水素、ハロ、低級アルキル及びトリフルオロメチルから成る群よりそれぞれ独立的に選ばれ、YはO及びSから成る群より選ばれた一員であり、Mは水素、低級アルキル及び低級アルキルカルボニルから成る群よる選ばれた一員であり、そして破線はピペリジン核の3及び4位置の炭素原子間結合が適宜二重結合であつてもよいことを示し、ただしYがSである場合にはピペリジン核の3及び4炭素原子間は単結合でありそしてMは水素であるものとする)

を有する基である〕

で示される1-(ベンゾアゾリルアルキル)ピペリジン誘導体及びその医薬的に許容し得る酸付加塩から成る群より選ばれた化合物.

2 5-クロロ-1-{1-〔3-(1・3-ジヒドロ-2-オキソ-2H-ベンゾイミグゾール-1-イル)-プロピル〕-4-ピペリジニル}-1・3-ジヒドロ-2H-ベンゾイミダゾール-2-オン及びその医薬的に許容し得る酸付加塩から成る群より選ばれた特許請求の範囲第1項記載の化合物.

3 活性成分として式

<省略>

(Ⅰ)

〔式中、R1及びR2は水素、ハロ、低級アルキル及びトリフルオロメチルから成る群からそれぞれ独立的に選ばれ、

Bは二価の基<省略>、<省略>、<省略>、<省略>、-N=N-及び-N=CH-、から成る群から選ばれた一員であり、ここでLは水素、低級アルキル、低級アルキルカルボニル及び低級アルケニルから成る群から選ばれた一員でありそして該二価の基はそれらのヘテロ原子によりベンゼン核に結合しており、

R3は水素及びメチルから成る群から選ばれた一員であり、

m及びnはそれぞれ1乃至2の整数でありそして基<省略>は、

一式から成る群から選ばれた一員であり、ここで

<省略>

(式中、R7及びR8は水素、ハロ、低級アルキル及びトリフルオロメチルから成る群よりそれぞれ独立的に選ばれ、YはO及びSから成る群より選ばれた一員であり、Mは水素、低級アルキル及び低級アルキルカルボニルから成る群より選ばれた一員であり、そして破線はピペリジン核の3及び4位置の炭素原子間結合が適宜二重結合であつてもよいことを示し、ただしYがSである場合にはピペリジン核の3及び4炭素原子間は単結合でありそしてMは水素であるものとする)

を有する基である〕

で示される化合物又はその医薬的に許容し得る酸付加塩を含有することを特徴とする制吐剤.

4 該式(Ⅰ)化合物又はその医薬的に許容し得る酸付加塩の制吐的有効量と不活性担体物質とを含有して成る特許請求の範囲第3項記載の剤.

5 投与単位当り制吐的有効量の式(Ⅰ)化合物又はその医薬的に許容し得る酸付加塩を、医薬的担体との混合物として含有して成る投与単位形態の特許請求の範囲第3項記載の剤.

6 医薬的担体が固体の摂取可能な担体である特許請求の範囲第5項記載の剤.

7 医薬的担体が液体の摂取可能な担体である特許請求の範囲第5項記載の医薬的組成物.

8 医薬的担体が非経口的使用に適した無菌の液体である特許請求の範囲第5項記載の医薬的組成物.

9 投与単位当り制吐的有効量の5-クロロ-1-{1-〔3-(1・3-ジヒドロ-2-オキソ-2H-ベンゾイミダゾール-1-イル)プロピル〕-4-ピペリジニル}-1・3-ジヒドロ-2H-ベンゾイミダゾール-2-オン及びその医薬的に許容し得る酸付加塩を、医薬的担体との混合物として含有して成る投与単位形態の特許請求の範囲第5項記載の剤.

発明の詳細な説明

従来技術において多数のベンゾアゾリルアルキル及びインドリルアルキル置換ピペリジン誘導体並びに多数のアミノアルキル置換ベンゾアゾールが見出されており、それらのいくらかは薬理学的活性、たとえば抗抑制性(antidepressant)、鎮痙性(anticonvulsant)、抗ヒスタミン(antihistaminic)又は抗痙準性(antispasmogenic)活性を有する.

異なつている点の中でも特に、本発明の化合物はそれらの構造内のそれぞれベンゾアゾール及び/又は置換ピペリジン部分の性質によりかかる公知化合物とは異なつている.

多数の前記従来技術の化合物は下記の参考文献中に見出すことができる.

Int.Pharmacopsychait.1968(1)P.214:

C.A.、64、2093b(1966):

C.A.、72、111466(1970):

C.A.、81、120632b(1974):

フランス特許第2042321号(Derw.Fr.Week S16、Pharm.P.12):及び

ベルギー特許第753472号.

本発明の新規1-(ベンゾアゾリルアルキル)ピペリジン誘導体は、構造的には下記式により表わすことができる:

<省略>

(Ⅰ)

及びその医薬的に許容され得る酸付加塩.

上記式中、R1及びR2は水素、ハロ、低級アルキル及びトリフルオロメチルから成る群からそれぞれ独立的に選ばれ、

Bは二価の基<省略>、<省略>、<省略>、

特許公報

<省略>

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例