東京地方裁判所 平成8年(ワ)15146号 判決 1999年11月30日
原告
山平勝利
被告
佐藤哲広
主文
一 被告は、原告に対し、二五一七万三七四二円及びこれに対する平成五年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一事案の概要
本件は、原告が、普通乗用自動車を運転中、被告の運転する普通乗用自動車に追突され、外傷性頸部椎間板ヘルニア等の傷害を被ったと主張し、被告に対して、不法行為に基づき、その賠償を求める事案である。そして、主な争点は、原告の後遺障害の内容と程度、原告に本件事故以前から椎間板変性の素因が存在していたか否か、右の素因を理由とする損害の減額の許否などである。
第二当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、五三二〇万〇九六〇円及びこれに対する平成五年二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 1項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 仮執行免脱宣言
第三当事者の主張
一 請求原因
1 本件事故の発生
(一) 事故発生の日 平成五年二月一四日午後七時五五分ころ
(二) 事故発生の場所 神奈川県伊勢原市善波一四一二先の国道二四六号線のトンネル内
(三) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(相模七七と三一〇九。以下「被告車」という。)
(四) 被害車両 原告運転の普通乗用自動車(相模三三に三一六八。以下「原告車」という。)
(五) 事故の態様 被告は、右日時ころ、時速約二〇キロメートルで被告車を運転して、右事故発生場所にさしかかったところ、前方を注視し進路の安全を確認して走行すべき注意義務があるのに、これを怠り、脇見をして前方を注視せずに前記速度で漫然と走行した過失により、渋滞のためトンネル内で停車中の被告車に追突した(以下、右事故を「本件事故」という。)。
2 被告の責任
被告は、前記過失により本件事故を惹起したから、民法七〇九条及び自賠法三条により、被告が被った後記の損害を賠償する責任がある。
3 原告の受傷及び治療経過等
(一) 受傷
原告は、本件事故により、外傷性頸部椎間板ヘルニア等の傷害を受けた。
(二) 治療経過
原告は、前記受傷のため、次のとおりの入通院治療をした。
(1) 福島接骨院へ平成五年二月一四日から同年九月一日まで二一三日間通院(うち実治療日数六九日)
(2) 川崎市立井田病院へ平成五年二月一七日から同年一〇月六日まで二三二日間通院(うち実治療日数一七日)
(3) 同病院へ平成五年一〇月七日から同年一二月二八日まで八三日間入院
(4) 同病院へ平成五年一二月二九日から同六年一〇月二四日まで三〇〇日間通院(うち実治療日数一二日)
(三) 後遺障害
(1) 原告は、本件事故による受傷のため、平成五年一一月二日に骨盤骨から採骨して第四、第五頸椎間の頸椎前方固定術を受けたが、右上肢の各関節及び手指に可動域制限等の後遺障害が残り、平成六年一〇月二四日に、その症状が固定した。右の後遺障害は、自賠法施行令二条別表の後遺障害別等級表の併合六級に該当する。
(2) 被告の後記二3(三)(2)の相当因果関係の不存在の主張に対する反論
<1> 原告は、本件事故前の数年間にわたりトラック運転手をし、本件事故の約五年前に交通事故により頸椎捻挫の傷害を被っているが、その事故の際に椎間板損傷や椎間板変性は生じていなかった。
<2> 原告には、本件事故以前に椎間板変性は存在していなかった。また、仮に、本件事故以前から第四、第五頸椎間に椎間板変性が存在していたとしても、本件事故と椎間板ヘルニアの発症による後遺障害との間の相当因果関係を否定する要因とはならない。
4 損害
(一) 治療費 四二万三〇三〇円
(二) 入院雑費 一〇万七九〇〇円
(三) 通院交通費 七万三三二〇円
(四) 医師への謝礼 五万円
手術に際し、川崎市立井田病院の二名の医師に対し、五万円の謝礼を交付した。
(五) 装具及び器具の購入費 八万八五七〇円
(六) 休業損害 七三五万六二四二円
原告は、本件事故発生当時、訴外丸泉興行株式会社にトラック運転手として勤務し、日額一万〇六二六円の給与ほか、夏の賞与として三〇万円及び冬の賞与として二〇万円の収入(年収にして四三七万八四九〇円)を得ていた。原告は、本件事故発生の翌日である平成五年五月一五日から症状固定の同六年一〇月二四日までの六一七日間、休業を余儀なくされた。そのため、次のとおり、七三五万六二四二円の休業損害を被った。
(計算式)
10,626×617+300,000+200,000+300,000=7,356,242
(七) 逸失利益 四八五四万一四九八円
原告は、前記の後遺障害のため、症状固定時(三一歳)から六七歳までの三六年間、その労働能力を六七パーセント喪失した。原告は、前記のとおり四三七万八四九〇円の年収を得ていたので、原告の逸失利益の右症状固定時における現価を、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次のとおり四八五四万一四九八円となる。
(計算式)
4,378,490×0.67×16.5468=48,541,498
(八) 慰謝料 一三六〇万円
本件事故に基づく受傷によって原告が被った肉体的、精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、入通院分を一六〇万円、後遺障害分を一二〇〇万円、合計一三六〇万円とするのが相当である。
(九) 右(一)ないし(八)の合計 七〇二四万〇五六〇円
(一〇) 損害のてん補 二一九三万九六〇〇円
(一一) 小計 四八三〇万〇九六〇円
(一二) 弁護士費用 四九〇万円
(一三) 右(一一)及び(一二)の合計 五三二〇万〇九六〇円
6 要約
よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、五三二〇万〇九六〇円及びこれに対する本件事故の発生日である平成五年二月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する被告の認否及び主張
1 請求原因1の(一)ないし(五)の各事実は、認める。
2 同2の事実及び主張は、認める。
3(一) 同3(一)の事実は、知らない。
(二) 同3(二)の事実は、認める。
(三)(1) 同3(三)(1)の事実は、否認する。
(2) 以下の諸点に照らせば、本件事故と原告の主張する椎間板ヘルニアの発症による後遺障害との間には、相当因果関係が存在しない。
<1> 本件事故は、原告車の後部バンパーを中心として約一九万円の修理金額を要しただけの軽微な追突事故であった。
<2> 原告車の助手席に同乗していた原告の妻は、平成五年二月一七日から同年六月一六日までの間に八日間だけ病院に通院して、本件事故によって被った傷害が治癒している。
<3> 原告は、本件事故前の数年間にわたりトラック運転手をしており、かつ、本件事故の約五年前にも交通事故により頸椎捻挫の傷害を被っている。
<4> 原告には、第四、第五頸椎間に椎間板ヘルニアの発症が認められるが、それ以外の第三、第四頸椎間及び第五、第六頸椎間にも、椎間板変性の所見が認められることに照らし、本件事故以前から椎間板変性が存在し、椎間板が全体的に脆弱化していた。
<5> 本件事故によって椎間板が突出したのであれば、事故直後から極めて重い症状が発現するはずであるが、事故直後の原告の症状は軽く、本件事故の三日後の平成五年二月一七日には井田病院に歩いて通院しており、同病院における同日の診断では、約二週間の安静加療を要する見込みとの所見であったにすぎない。
4(一) 同4(一)の事実は、認める。
(二) 同4(二)の事実は、認める。
(三) 同4(三)の事実は、認める。
(四) 同4(四)の事実は、否認する。
(五) 同4(五)の事実は、認める。
(六) 同4(六)の事実は、認める。
(七)(1) 同4(七)の事実は、否認する。
(2) 仮に本件事故と原告の主張する後遺障害との間に相当因果関係が存在するとしても、以下の諸点に照らせば、原告の労働能力喪失率は五六パーセント程度にすぎない。
<1> 原告は、後遺障害が自賠法施行令二条別表の後遺障害別等級表の併合六級に該当すると主張する(前記一3(三)(1)参照)。
<2> しかしながら、右の併合六級の根拠は、第四、第五頸椎間の前方固定術による脊柱の変形を残すものとしての自賠法施行令二条別表の後遺障害別等級表の一一級七号の後遺障害、右の前方固定術のために骨盤骨から採骨したことによる体幹骨(骨盤骨)に著しい変形を残すものとしての一二級五号の後遺障害、右上肢の各関節及び手指に可動域制限の機能障害が残ったことによる七級の後遺障害に基づくものであるところ、右の脊柱の変形及び体幹骨(骨盤骨)の変形は、労働能力の喪失に影響を及ぼすものではない。
<3> したがって、原告の後遺障害による労働能力喪失率は、右上肢の各関節及び手指に可動域制限の機能障害が残ったことによる七級相当の五六パーセント程度にすぎない。
(八) 同4(八)の事実は、否認する。
(九) 同4(一〇)の事実は、認める。
(一〇) 同4(一二)の事実は、否認する。
三 被告の抗弁(素因減額)
1 原告には、前記二3(三)(2)<4>のとおり、本件事故以前から椎間板変性が存在し、椎間板が全体的に脆弱化していた。そして、原告の右の椎間板変性は、本件事故が軽微な追突事故であったこと及び事故直後の原告の症状は軽いものであったことなどに照らせば、疾患ということができる。
2 原告の右のような椎間板変性という素因が、本件事故による損害の発生及び拡大に極めて大きく寄与していることに照らせば、損害の公平な分担という観点から、民法七二二条二項の過失相殺の規定の類推適用により、原告に生じた損害の少なくとも五〇パーセントを減額すべきである。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実は否認し、主張は争う。
仮に原告には本件事故以前から椎間板変性が存在し椎間板が脆弱化していたとしても、これは経年によって生じたもので、疾患といことはできないから、損害額の減額要因として考慮すべきではない。また、仮に右の椎間板変性を損害額の減額要因として考慮するとしても、三〇パーセントを超えて減額すべきではない。
2 同2の主張は、争う。
第四証拠
本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 本件事故の発生について
請求原因1の(一)ないし(五)の各事実(本件事故の発生)は、当事者間に争いがない。
二 被告の責任について
請求原因2の事実及び主張(被告の責任)は、当事者間に争いがない。
三 原告の受傷及び治療経過等について
1 証拠(甲第七ないし第一五号証、乙第三ないし第六号証)によれば、請求原因3(一)(原告の受傷)の事実が認められる。
2 同3(二)の事実(原告の治療経過)は、当事者間に争いがない。
3 後遺障害(請求原因3(三))について
(一) 原告の後遺障害についての所見など
証拠(甲第五ないし第一八号証、乙第一ないし第九号証、自動車保険料率算定会に対する調査嘱託の結果、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
(1) 原告は、本件事故による受傷のため、平成五年一一月二日に骨盤骨から採骨して第四、第五頸椎間の頸椎前方固定術を受けたが、右上肢の各関節及び手指に可動域制限の後遺障害が残り、平成六年一〇月二四日に、その症状が固定した。
(2)<1> しかしながら、原告は、本件事故前の数年間にわたりトラック運転手をし、本件事故の約五年前の昭和六三年一二月六日ころ、交通事故により頸椎捻挫の傷害を被ったことがあった。
<2> 本件事故は、原告車の後部バンパーを中心として約一九万円の修理金額を要しただけの軽微な追突事故であった。
<3> 原告車の助手席に同乗していた原告の妻は、平成五年二月一七日から同年六月一六日までの間に八日間だけ病院に通院して、本件事故によって被った傷害が治癒している。
<4> 原告には、第四、第五頸椎間に椎間板ヘルニアの発症が認められるが、それ以外の第三、第四頸椎間及び第五、第六頸椎間にも、椎間板変性の所見が認められる。
<5> 本件事故によって椎間板が突出したのであれば、事故直後から極めて重い症状が発現するはずであるが、事故直後の原告の症状は軽く、本件事故の三日後の平成五年二月一七日には井田病院に歩いて通院しており、同病院における同日の診断では、約二週間の安静加療を要する見込みとの所見であったにすぎない。
(3)<1> なお、原告の右上肢の可動域値等について診断をした済生会病院の吉田医師は、「頸椎に骨棘が認められるので、今回の事故前から頸椎の椎間板にある程度の変性があったと考えられる。しかし、今回の事故前に症状がなかったことなどに照らせば、原告の第四、第五頸椎間の椎間板の後方突出は、本件事故によるものと推定される。椎間板の後方突出が、本件事故以前から生じていたと推定することはできない。」との見解を示している。
<2> また、本件事故の後に原告が入通院して加療を受けた井田病院の小林医師も、第四、第五頸椎間の椎間板ヘルニアの発症と本件事故との因果関係を否定してはいない。
<3> そして、原告の第四、第五頸椎間の椎間板ヘルニアの発症が本件事故以前から存在していたことを示す明確な証拠は存在しない。
(二) 本件事故による原告の椎間板ヘルニアの発症の可能性
(1) ところで、外力によって一箇所の椎間板が損傷すると、歪みが同所に集中して他の椎間板への外力が緩和されるため、一回の外力で同時に三箇所の椎間板に変性が生じることは、相当強い外力が加えられない限り、通常は考えられない。そして、一回の外力により椎間板が損傷する場合には、たとえ一箇所の椎間板の損傷であっても、損傷直後から頸椎可動域制限等の極めて強い局所症状固定を示すものであり、三箇所の椎間板を同時に損傷するような場合には、四肢麻痺に匹敵する極めて重い症状を呈することとなる。
(2) ところが、原告は、本人尋問において、「手足に異常を感じ始めたのは、本件事故の三日後からであった。腕や肩を動かし難いと感じたのは、手術近くになってからであり、明確に動きが悪いと感じたのは、手術後のことであった。手術以前には、水平に近い位に上がっていた右腕が、その半分も上がらなくなり、痺れもひどくなり、握力も一層低下した。指の動きがおかしいと感じたのは、手の痺れが出始めた本件事故の三日後位からであるが、それを明確に自覚するようになったのは、本件事故の三箇月後位からであった。」旨を供述しており、これによれば、原告の初期症状は明らかに軽症であったことに照らし、一回の外力により、一度に、第四、第五頸椎間の変性に加えて、第三、第四頸椎間及び第五、第六頸椎間にも椎間板変性が生じたものとは考えられない。
(三) 本件事故と後遺障害との間の相当因果関係の存在
(1) 以上の(一)及び(二)の諸点を総合的に考慮すると、原告には、本件事故以前から前記の昭和六三年の交通事故による受傷などを原因とする三箇所の椎間板変性が存在しており、椎間板が全体的に脆弱化していたところ、本件事故による外力が加わったことが契機となって、第四、第五頸椎間の椎間板ヘルニアが発症したものということができる。
(2) したがって、本件事故と原告に残存した第四、第五頸椎間の椎間板ヘルニアの発症による後遺障害との間には、相当因果関係が存在するものというべきである。
四 原告の損害について
1 治療費 四二万三〇三〇円
本件事故に基づく原告の治療費が四二万三〇三〇円である事実は、当事者間に争いがない。
2 入院雑費 一〇万七九〇〇円
本件事故に基づく原告の入院雑費が一〇万七九〇〇円である事実は、当事者間に争いがない。
3 通院交通費 七万三三二〇円
本件事故に基づく原告の通院交通費が七万三三二〇円である事実は、当事者間に争いがない。
4 医師への謝礼 五万円
証拠(甲第一八号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、手術に際し、川崎市立井田病院の二名の医師に対し、五万円の謝礼を交付したことが認められる。そして、右の謝礼は、本件事故と相当因果関係のある損害ということができる。
5 装具及び器具の購入費 八万八五七〇円
原告が、本件事故に基づく装具及び器具の購入費として八万八五七〇円を要した事実は、当事者間に争いがない。
6 休業損害 七三五万六二四二円
原告が、本件事故に基づく休業損害として七三五万六二四二円の損害を被った事実(請求原因4(六))は、当事者間に争いがない。
7 逸失利益 四三四六万九九九八円
(一) 原告に残存した後遺障害の内容
証拠(甲第七ないし第一八号証、乙第三ないし第六号証、自動車保険料率算定会に対する調査嘱託の結果、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告の後遺障害の内容は、以下のとおりであることが認められる。
(1) 第四、第五頸椎間の前方固定術による脊柱の変形を残すものとしての自賠法施行令二条別表の後遺障害別等級表の一一級七号の後遺障害
(2) 右の前方固定術のために骨盤骨から採骨したことによる体幹骨(骨盤骨)に著しい変形を残すものとしての右別表の一二級五号の後遺障害
(3) 右上肢の各関節及び手指に可動域制限の機能障害が残ったことによる右別表の七級の後遺障害
(二) 後遺障害の程度
右に認定の後遺障害の内容及び原告の職業(トラック運転手)などにかんがみれば、原告は本件事故による後遺障害のため、症状固定時(三一歳)から六七歳までの三六年間、その労働能力を六〇パーセント喪失したものと認めるのが相当である。そして、原告は四三七万八四九〇円の年収を得ていたので、原告の逸失利益の右症状固定時における現価を、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次のとおり四三四六万九九九八円となる。
(計算式)
4,378,490×0.60×16.5468=43,469,998
7 慰謝料 一二四五万円
原告の傷害の部位・程度、治療の経過、後遺障害の部位・程度、その他諸般の事情を総合すると、原告に対する慰謝料の額は、入通院分が一四五万円、後遺障害分が一一〇〇万円の合計一二四五万円とするのが相当である。
8 右1ないし7の合計 六四〇一万九〇六〇円
五 抗弁(素因減額)について
1 原告には、前記三3の(一)ないし(三)に認定説示のとおり、本件事故以前から、過去の交通事故による受傷などを原因とする推間板変性が存在しており、右のような推間板変性という素因が、原告の治療の長期化や後遺障害の程度に大きく寄与していることが明白であるから、本件事故によって原告に生じた損害の全部を被告に賠償させるのは公平を失するというべきであるから、損害賠償の額を定めるに当たり、民法七二二条二項の規定を類推適用して、原告の右素因を斟酌するのが相当である。
2 そして、前記三3の(一)ないし(三)に認定の諸事情にかんがみると、原告の右素因の寄与度を三割として、原告に生じた損害の七割を被告に賠償させることとするのが相当である。
3 そこで、前記四8の損害額の合計六四〇一万九〇六〇円から、その三割を減ずると、残損害額は、四四八一万三三四二円となる。
六 損害の填補
原告が本件事故による損害につき二一九三万九六〇〇円の支払を受けた事実は、当事者間に争いがない。
そこで、原告の前記五3の残損害額四四八一万三三四二円から、右損害の填補額二一九三万九六〇〇円を控除すると、原告の残損害額は、二二八七万三七四二円となる。
七 弁護士費用 二三〇万円
本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、二三〇万円とするのが相当である。
八 結論
よって、原告の本件請求は、被告に対し、二五一七万三七四二円及びこれに対する本件不法行為の日である平成五年二月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用し、なお仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。
(裁判官 井上繁規)