東京地方裁判所 平成8年(ワ)15303号 判決 1997年5月27日
平成八年(ワ)第五四一〇号事件原告
X1
外二〇名
平成八年(ワ)第一五三〇三号事件原告
X22
外八名
右原告ら三〇名訴訟代理人弁護士
清水洋二
同
山口廣
同
森川真好
同
赤羽富士男
同
伊藤嘉章
同
宇都宮正治
同
遠藤憲一
同
大塚泰伸
同
紀藤正樹
同
犀川千代子
同
佐竹真之
同
高澤廣茂
同
竹内義則
同
千田賢
同
津村政男
同
鶴田忠雄
同
永井義人
同
中嶋一磨
同
中所克博
同
林和男
同
村上徹
同
森雅子
同
横塚章
原告X25からX30まで六名訴訟代理人弁護士
澤藤統一郎
右原告六名及び原告X21訴訟代理人弁護士
藤岡淳
被告
Y1
同
Y2
主文
一 被告らは連帯して、平成八年(ワ)第五四一〇号事件及び同年(ワ)第一五三〇三号事件各原告に対し、別紙損害表中の「合計額」欄記載の各金員(総額金一億〇六九二万七六八〇円)及びこれらに対する同表「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 原告らの請求
主文と同旨
第二 事案の概要
一 請求原因
1 被告Y1の治療行為
(一) 被告Y1は、昭和三九年に中国で生まれ、平成元年に来日し、平成三年ころから、夫である被告Y2と共に、京都で、気功治療に付随して、宇宙パワーによる治療と称する行為を行っていた。
被告Y1は、平成四年二月、東京で鍼灸治療院赤ひげ堂の経営者竹内信幸と出会い、同人の治療所において治療を始めた。なお、同被告は、昭和六三年から北京中医学院気功研究所を卒業し、同所で診断、指導を行っていたと称するが、そのような事実はない。
(二) 被告Y1は、その後、被告Y2の協力の下、口頭弁論分離前の共同被告である株式会社東阪企画(以下「東阪企画」という)の製作した番組に出演し、同じく口頭弁論分離前の共同被告である日本テレビ放送網株式会社(以下「日本テレビ」という)を通じて、自らを超能力者として売り出し、使者を用いる等して、治療困難な病気又は重度障害に苦しむ原告らに対し、「宇宙パワー」なるものを用いた難病の治療を行い、原告らから高額な治療費を徴収し、詐欺的に金銭を取得した。
(三) 宇宙パワーによる治療とは、被告Y1と患者が向かい合って、両者が双方の掌を左右に回す動作を一五ないし二〇分間続けると、被告Y1の手や身体から出る宇宙パワーが患者へと送られ、病気を治療するというものであるが、通常は、被告Y1が会場の一端にいて、原告らを含む数十人の患者を座布団の上などに座らせ、同人らに宇宙パワーなるものを送るしぐさをして治療した。
また、被告Y1は、患者が自宅にいても宇宙パワーを受信することができると称した。この場合、患者は、宇宙パワーの受信方法の指導を受けに、週一、二度被告Y1の事務所に通った。これを被告Y1は遠隔治療と称した。更に、被告Y1は、患者本人が会場に行けない場合、患者以外の者が代理して受信できると称して、家族、親族等が「代理治療コース」を申し込むことを勧め、その家族に治療を受けさせた。
(四) 被告らは、以下のとおり、多くの事務所を転々とし、またその運営する団体名称を頻繁に変更しながら、宇宙パワーによる治療を継続した。
(1) 平成五年一月二二日ころから同年七月八日ころまでは、東京都渋谷区代々木の那須ビルにおいて「日本Y1超能力研究協会」、「日本Y1超能力難病医療気功研究会」、「日本超能力大学院」の名称を、京都市中央区のたけうちビルにおいて、「日本Y1超能力研究所」、「世界Y1経営投資情報鑑定コンサルセンター」の名称を、また、東京都千代田区麹町のスカイマンションにおいて「東京都Y1事務所」の名称を掲げた。
(2) 平成五年七月八日ころから同年一一月一五日ころまでは、代々木の那須ビルにおいて「日本Y1超能力研究協会」、「日本Y1超能力難病医療研究会」の名称を、京都市中央区のたけうちビルにおいて、「日本Y1超能力研究所」、「世界Y1経営投資情報鑑定コンサルセンター」の名称を、麹町のスカイマンションにおいて「東京都Y1事務所」の名称を、また、東京都新宿区矢来町において「Y1宇宙パワー研究会」の名称を掲げた。
(3) 平成五年一一月一五日ころから平成六年一一月四日ころまでは、東京都新宿区高田馬場の荒井ビルにおいて「世界Y1超能力研究協会」、「世界Y1難病研究会」、「世界Y1宇宙パワー研究会」、「東京Y1事務所」の名称を、また、京都市中央区のたけうちビルにおいて「日本Y1超能力研究所」、「世界Y1経営投資情報鑑定コンサルセンター」の名称を、麹町のスカイマンションにおいて「日本Y1超能力研究協会」、「日本Y1超能力難病医療気功研究会」の名称を、また、東京都渋谷区神南の丸恵ビルにおいて「日本Y1難病研究会」、「日本Y1人体科学宇宙研究会」の名称を掲げた。
(4) 平成六年一一月四日ころから平成七年一〇月ころまでは、東京都渋谷区代々木のグランフォーレ代々木において「世界Y1超能力宇宙科学研究協会」、「世界Y1宇宙パワー特別研究会」、「世界Y1人生社会特別研究会」、「世界Y1経営管理特別研究会」、「世界Y1法律研究会」の名称を掲げた。
(5) 平成七年一〇月ころ以降は、代々木のグランフォーレ代々木において「特別経営管理センター」、「日本民益健康保険」の名称を掲げた。
2 被告らの不法行為
(一) 被告Y1の宇宙パワーによる治療は日本テレビ系列で放映された。その放映された番組は平成四年一一月一二日の「追跡」、平成五年四月一日の「ズームイン朝」、同月九日の「ズームイン夜」、同年一二月一九日の「日曜スペシャル、難病に挑戦する超能力、Y1パワーの秘密」である。本件テレビ放映の視聴率は、10.9パーセントから16.9パーセントにわたった。本件テレビ放映は、被告Y1が宇宙パワーを病気で悩む本人に対面して送ると、歩けなかった人たちがたちどころに歩けるようになる等の効能があった例を実験例として紹介し、それにアナウンサー等が感動を表すことによって、その結果があたかも被告Y1の超能力によって生じたかのごとき内容であった。更に、中国国内をロケーションした番組では、被告Y1の治療を希望する者が殺到し、日本国内の大学教授や医師等も被告Y1の超能力に感嘆するというものであった。結局、本件テレビ放映は、被告Y1の宇宙パワーに驚くべき効果と相当の科学的裏付けがあると視聴者に信じさせる内容となっていた。
他方、被告Y1は、日本テレビを介して、「宇宙パワーの奇跡」、「宇宙パワーと人間の秘密」、「超能力と秘法の実体」、「毒を薬に変える料理法」、「人間、人生成功の秘法」、「人間の性の秘密」の六冊の本を出版し、販売した。これらの本には、被告Y1の持つ難病治療の効果のみが宣伝されており、被告Y1はこれらを活用して、明確かつ誇大に、更に扇動的に、自分の能力を宣伝した。
(二) 難病に苦しむ原告ら患者は、被告Y1の超能力や宇宙パワーにすがり付きたいという気持ちになり、本件テレビ放映のテロップを見て又は日本テレビへ直接問い合わせるなどして、被告Y1の連絡先を知り、被告Y1の事務所と連絡を取った。
原告ら患者は、被告Y1の事務所へ電話するとその住所を尋ねられ、申込書が送付されたり、来場すべき日時を指定されたりした。そして、指定の場所に来場して申込後、入会手続から二ケ月体験コース、集中治療コース等へと進むのが代表的な治療、指導のパターンであった。料金は、入会金一万五〇〇〇円、二ケ月体験コースが五〇万五〇〇〇円、三ケ月体験コースが八〇万五〇〇〇円であった。多くの患者は、入会手続に伴って、会員証の交付と引き替えに右料金の領収証、振込証を取り上げられた。
二ケ月又は三ケ月体験コースの料金を支払った者は、合計八ないし一二回の受講資格を得る。この体験コースの途中に、被告Y1による病気の原因透視が行われ、多くの場合、別途一五万円の費用を徴収された。この透視鑑定において被告Y1が症状改善のために今後も治療を要するとの透視をすれば、被告Y2等事務所の運営者が、患者に特別集中指導コースを受講するよう勧めた。
原告ら患者は、このようにして、いわれるがまま特別集中指導コース(正会員コース)へと進んだ。同コースには、九ケ月コースと一一ケ月コースがあり、前者は三九〇万円、後者は四六八万円の指導料を支払うシステムであった。また、代理による集中コースには、一〇ケ月コースがあり、その料金は五〇三万五〇〇〇円であった。平成五年末ころには、一四ケ月コースが加えられ、その費用は五三九万円であった。
原告らは、当該治療コースの治療費全額を前払いさせられ、また一旦治療費を納付した後には治療契約の中途解約も治療費の返金も一切認められない会則であったので、治療の効果が得られなくても、自由な意思判断で受講を中止して支払済みの治療費の返金を求める等の措置を取ることはできなかった。
(三) 被告らは、赤ひげ堂及びファンジック株式会社(以下「ファンジック」という)を利用して、治療場所を提供させ、治療費又は指導料名目で多額の金員を原告らから徴収させ、その大半を自ら収受した。
(1) 被告Y1は、赤ひげ堂院長の竹内信幸に治療場所及び支払経費等を提供させ、平成四年八月ころから平成六年三月ころまでの間、渋谷区代々木の那須ビルにおい、宇宙パワーにより病気を治すとのふれこみのもと、患者に対する治療行為を反復継続した。
具体的には、まず、被告らは竹内に対し、治療場所の提供と患者の紹介を依頼し、自己の収入が増えた時点で、患者から受領する治療費の三分の一を支払うなどと申し入れた。竹内は、立替払いをする経費分程度が最終的に回収できれば良いと考え、被告らの依頼を聞き入れ、被告Y1が治療場所として使用する部屋を提供した上、家賃、水道光熱費及び人件費など一切の経費を立て替え払いする旨了承した。
被告Y1は、竹内から提供を受けた治療場所で、「日本Y1超能力研究協会」、「日本Y1超能力難病医療気功研究会」、「日本超能力大学院」など複数の名称を掲げ、竹内から患者の紹介を受け、口づてで来場する患者に対し治療行為を行い、次第に患者数を増やした。その際、患者から治療費を徴収する業務は、竹内でなく、被告らの専属助手である岩井が行った。
その後、被告らは、現実には、竹内に対して経営内容を全く開示せず、治療費の三分の一を支払うこともなかった。被告らは、竹内に対し、平成五年二月ころから約半年間、経費分として、月々五〇万円ないし一〇〇万円を支払ったにすぎない。他方、被告らは、この間極めて多額の透視鑑定料や治療費を徴収し、その大半を最終的に取得した。
(2) 被告Y1は、平成六年一月から同年八月までの間、右と同様の手口で当時日本テレビの下請会社として番組の制作等にあたっていたファンジックに治療場所と諸経費等の一切の提供をさせて、新宿区高田馬場の荒井ビルにおいて、患者に対する治療行為を行った。
具体的には、まず、ファンジックの代表者であった清野哲夫は、平成四年一〇月ころ、かねてから親しかった日本テレビの事業局出版部長広瀬嘉嗣らが被告Y1の著書を日本テレビから出版することを企画していたこと等から、被告らと頻繁に面談するようになった。清野は、被告らから受けた説明から、被告Y1には難病患者を治療できる特殊な能力があると信じ込み、被告らから求められるまま、被告らに対し、平成五年一月から千代田区麹町のファンジックの事務所の半分を提供したり、被告らが平成五年四月二九日に竹芝桟橋のニューピアホールで行った集団指導会的なイベントの会場確保を手伝う等協力した。
清野は、平成五年六月ころ、被告らから、日本テレビの特別番組が同年一〇月ころに予定されており、放送時に難病の患者が殺到し、その受け皿がないと混乱するとして、荒井ビルの所有者である荒井商店との交渉に立ち会うよう求められた。清野は、その際、被告らから、新しい場所にファンジックも一緒に引っ越す、荒井商店と共同事業を行い、高田馬場の会員数を二年間で四〇〇〇人にする等の甘言を聞かされた。その後、ファンジックが、荒井ビルから被告Y1のための治療場所を借り、開設のための設備投資費、治療事業を営むための運転資金を負担した。被告Y1は、右治療場所で、「世界Y1難病研究会」の名称を掲げ、日本テレビの番組を見て問い合わせをしてきた多数の患者に対し、宇宙パワーによる治療行為を継続した。その売上総額は、平成六年一月一三日から同年八月二五日までの間で、四億九一六九万五〇〇〇円に上った。被告らは、ファンジックに対し、当初、月々の売上げの三〇パーセントに相当する金額を経費分として支払う旨約していたが、実際に経費分として支払ったのは六〇七七万八〇〇〇円であった。したがって、被告らはそれを控除した四億三〇九一万七〇〇〇円を最終的に手中に収めた。
他方、ファンジックは、被告らの治療事業のため二億二〇四七万七四一一円を負担したので、同金員から、被告Y1から経費分として受領した右六〇七七万八〇〇〇円を控除した一億五九六九万九四一一円の経費等債務を最終的に負担した。
(3) 以上のとおり、被告らは、竹内信幸及びファンジックに対し、相次いで、事業が成功すれば総売上額の三分の一を支払う等の様々な甘言を弄して、治療場所及び諸経費等の一切を提供させた上、宇宙パワー治療事業が軌道に乗るや、言を翻して僅少額の経費しか支払わず、他方で、患者から徴収した金額の大部分を取得した。
3 被告らの責任原因
(一) 被告Y1は、医師にも見放された疾病を抱える原告ら患者に対し、本件テレビ放映及び被告Y1の著書を通じ、その絶大な影響力を巧みに利用して、虚偽又は著しく誇張した経歴を流布させた上、種々の疾病を治療するだけの技能及び能力を有していないにもかかわらず、自らの治療を受けても疾病が確実に軽快又は治癒するとは限らないこと、実際に施される治療がテレビ放映されたような個別治療ではないこと等、原告らが被告Y1との間で宇宙パワーによる治療を依頼するか否かを判断する上で必要不可欠な事項を十分告知せず、自らの治療を受けて「宇宙パワー」なる不可思議な力を受信しさえすれば、いかなる種類の疾病でも確実かつ即座に治療効果が得られて症状が軽快し又は治癒するかのごとき宣伝を行い、原告らにその旨誤信させ錯誤に陥いらせ、まず比較的料金が低額な「体験コース」を受講させ、その後は「表面的な症状が改善されることと病気が治ることとは別の次元の話になる。一〇年、二〇年と患ってきた身体を元に戻すには、異常な細胞が一つ一つ正常な細胞に置き換わるための時聞が必要となる」などの言辞を弄するなどして、長期かつ高額な出捐を伴う治療コースへと段階的に移行して治療を継続するように誘導し、多額の治療費等を交付させ、これを騙取した。
(二) 被告Y2は、自らを「日本Y1超能力研究協会最高顧問秘書長」等と称して、治療現場に常駐し、被告Y1が治療行為を行う際には原告ら患者に被告Y1の言葉を間接的に伝達する役割を担当したり、原告ら患者に治療のコースの内容や受講料等の説明を行ったりし、被告Y1と終始行動を共にした。
(三) 以上のとおり、被告Y1の行為は、その目的・手段・結果のいずれの点から見ても、極めて高度な違法性を有する詐欺的商法であり、医師法に違反する。他方、被告Y2は、被告Y1と共同して、医師法違反の右詐欺的商法を遂行した。したがって、被告らは、共同不法行為者として、民法第七〇九条及び第七一九条一項に基づき、原告らに対する損害賠償責任を連帯して負う。
4 原告らの損害
原告らは、本件テレビ放映を見、又は被告Y1の著書を読んで、効果のない被告Y1の宇宙パワー療法を受けたために、高額の治療費、指導料、交通費その他の費用の支払を強制された。原告らは、その他、多大の精神的苦痛を被ったが、これを金銭に換算すれば、その慰藉料の額は右治療費等の一〇パーセントに相当する。更に、原告らの本件訴訟提起に関して要した弁護士費用も、右治療費用等の一〇パーセントが相当である。原告ら各自の損害額は、別紙損害表記載のとおりである。
なお、原告X2及び原告X3は難病患者であったAの妻及び子であったが、Aが被告Y1の治療を受けたにもかかわらず平成七年一月一〇日に死亡したので、同人の不法行為に基づく損害賠償請求権を、法定相続分(各二分の一)に従い相続した。また、原告X27、原告X28及び原告X29は、難病患者であったGの子であったが、同人が被告Y1の治療を受けた(実際は原告X28が代理指導を受けた)にもかかわらず平成八年三月七日に死亡したので、Gの不法行為に基づく損害賠償請求権を、法定相続分(各三分の一)に従い相続した。
5 結論
よって、原告らは被告らに対して、不法行為による損害の賠償として、別紙損害表「合計額」欄記載の各金員及びこれらに対する同表「遅延損害金起算日」欄記載の起算日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実について
(一) 同(一)のうち、被告Y1が昭和三九年に中国で生まれ、平成元年に来日したこと、被告Y2が被告Y1の夫であること及び昭和六三年から北京中医学院気功学研究所において診断、指導していたと称していることは認め、その余は否認する。
(二) 同(二)のうち、被告Y1が東阪企画の製作した番組に出演し、日本テレビにより超能力者として紹介されたことは認め、その余は否認する。
(三) 同(三)のうち、被告Y1が患者を直接指導したこと、在宅者や代理人に対する指導をしたことは認め、その余は否認する。
(四) 同(四)のうち、(4)記載のグランフォーレ代々木の事務所が被告Y1の関連会社が賃借していた事務所であったこと並びに(4)及び(5)記載の団体名を被告Y1が掲示していたことは認め、その余は争う。
2 請求原因2の事実について
(一) 同(一)のうち、本件テレビ放映がなされたこと及び被告Y1の著書が出版されたことは認める。
(二) 同(二)のうち、被告Y1の事務所とある点は否認し、原告らの事情については知らない。
(三) 同(三)のうち、原告らが、その主張する治療費、指導料その他の一切の費用に相当する金員を支払ったことは認め、その余は争う。
3 請求原因3について
(一) 同(一)は争う。
(二) 同(二)のうち、被告Y2が被告Y1と日常の行動を共にしていたことが多かったことは認め、その余は否認する。
(三) 同(三)は争う。
4 請求原因4の事実のうち、原告らが、交通費を除いて、その主張する金員を支払ったこと自体は認め、交通費については知らず、その余は争う。
三 被告らの主張
1 被告Y1の経歴
被告Y1は、昭和三九年一〇月八日に中国湖南省で生まれた。被告Y1は、類いまれな直感力等の特殊な能力を高く評価され、天才の能力を遺憾なく発揮させようとする中国政府の英才教育方針により、昭和六〇年九月、湖南省出身者として初めて、北京民族大学芸術学部に入学し、映画監督科を専攻後、昭和六二年一一月に卒業した。
被告Y1は、その在学中、芸術よりも中国医学における気功術に天才的才能が有ると認められ、昭和六三年三月、中国において最も権威ある医科大学である北京中医学院(現在の北京中医薬大学)の中医外来部に特別招聘気功師として招聘され、第七診療治療室において、平成元年四月までの間、気功による診断、治療を行った。その間、被告Y1は、多くの成果を上げ、気功の天才能力者としてその力を発揮し、その評価を確立させた。
これと併せて、被告Y1は、昭和六三年四月より平成元年九月までの一年六ケ月の間、北京中医学院気功学研究所より特別招聘気功師として招聘され、気功の診断、指導にあたり、その研究に参加した。また、被告Y1は、昭和六三年七月には、北京中医学院針灸按摩学部針灸按摩育成科に入り、研修を受け、同年一〇月にこれを卒業し、昭和六三年一二月には、遼寧省気功科学研究会より顧問として招聘され、平成元年一月には、中国人体科学学会人体科学研究センターに医学気功学術顧問として招聘され、気功の研究に参加した。被告Y1は、中国では超能力者と呼ばれ絶大な尊敬を受けている。
2 被告らの役割
被告Y1は、赤ひげ堂又はその院長の竹内信幸及びファンジックが賃借するなどして開設し、運営する施術所に呼ばれ、能力の提供を懇願されたので、一気功能力者として気功指導を行い、その報酬を右の者から受けていたに過ぎず、原告ら患者を「治療」したことはない。したがって、原告らが「治療」費と称するものは気功指導料のことである。また、患者の募集、受付、入会、料金体系、徴収、指導、各種コースの手続、説明、賃借料及び施術所の宣伝広告費等費用の負担、宣伝広告物の作成等、同所における運営事項は全て赤ひげ堂又はファンジックが自ら決定して行い又はその従業員に行わせていたもので、被告Y1はそれらに関与しなかった。そして、原告らが主張する被告Y1の名を冠した各種団体も、赤ひげ堂又はファンジックが、その経営する右施術所の営業の利便のために使用したものであり、被告Y1が運営していたものではない。
被告Y2は、妻である被告Y1のために通訳としての役割等を果たし、妻を支えたにすぎない。
3 被告Y1と赤ひげ堂及びファンジックとの関係
(一) 被告Y1は、平成元年に来日後、一時帰国し、平成三年五月に再来日したが、同年四月に、竹内洋一から、その甥である竹内信幸が経営する赤ひげ堂において、気功指導を行う話を持ちかけられた。そして、被告Y1と赤ひげ堂は、赤ひげ堂が、施術所を使用して、会員の紹介、募集、受付、説明、料金の受領と資金の管理、会計処理、備品の調達や諸経費の支払いを全部行い、被告Y1は、月曜から金曜までの間、その施術所に通い、赤ひげ堂が受け付けた会員に対し気功の指導を行うこと、及び被告Y1の報酬を、赤ひげ堂が会員から受け取った金額の六八パーセントとすることを約束し、これは同年八月から実行された。被告Y1は、赤ひげ堂が右料金を一回四〇分で二万五〇〇〇円と決めたことに対し、高いのではないかと意見を言ったが、竹内信幸から、竹内洋一のいうとおりにするよう強制された。
被告Y1は、平成五年に入り、赤ひげ堂の運営が金儲けだけの発想によるものであることを知り、また、受け取った料金の報告を偽られたり、赤ひげ堂が被告Y1以外の気功師を使い出したりしたため、赤ひげ堂に対する信頼を失った。
(二) その頃、ファンジックの清野が、被告Y1に対し取り入ってきた。被告Y1は、知人から株式会社荒井商店を紹介され、同商店から、赤ひげ堂と同様に施術所を開設して、被告Y1が指導を行うことにしてはどうかという提案を受けた。清野は、この話を聞き、被告Y1にその交渉の手伝いを願い出て、これを任された。しかし、清野は、被告Y1を利用して金儲けをしようと企図し、被告Y1に対し、ファンジックが荒井商店から部屋を借り、赤ひげ堂と全く同じシステムで同額の報酬を支払うからと懇願してこの旨約束した。そして準備が整った平成六年三月から、ファンジックが荒井ビルに開設した施術所において、赤ひげ堂の施術所と同じシステムによる運営が始まった。
その後すぐ、ファンジックが会員から受け取った料金を正しく被告Y1に報告せず、その配分をごまかしている事実が露見した。また被告Y1は、清野の関係者から、清野が金銭的に全く信頼できない人物で、持ち逃げされないように注意するようアドバイスを受けた。このため、被告Y1は、ファンジックから受け取った料金を一旦自分で全額預かり、その後、自己の報酬分六八パーセントを控除した残りをファンジックに渡すこととした。
ファンジックは、荒井商店に対し家賃を支払わず、結局は金を稼ぐだけ稼いで後は素知らぬ振りをした。ファンジックの施術所は、平成六年八月、荒井商店から賃料不払いにより明渡を求められ閉鎖された。ファンジックは、荒井商店に預託する保証金として被告Y1から五〇〇〇万円を借り、また、施術所の造作等のため一〇〇〇万円程度を金融機関から借り入れたが、このいずれも返済していない。ファンジックは、右施術所における売上げ合計約二億五〇〇〇万円の三二パーセント相当の約七五〇〇万円を自ら得ながら、右のように賃料を支払わず、その他の経費を差し引いても相当の利益を受けながら、倒産した。
第三 当裁判所の判断
一 判断の基礎となる事実
証拠上認められる事実関係は、次のとおりである。
1 本件テレビ放映前の被告Y1及び被告Y2の行動
(一) 被告Y1の経歴及び能力
被告Y1は、一九六四年(昭和三九年)一〇月八日生まれの中国人女性であり、一九八五年(昭和六〇年)九月、北京民族大学芸術学部に入学し、一九八七年(昭和六二年)一一月、二年半の脚色演出専門コースを修了した後、どこで気功を学んだかは不明であるが、一九八八年(昭和六三年)三月から翌八九年四月までの約一年間、北京中医学院(現在の名称は北京中医薬大学)の中医外来部において、気功師として治療にあたった。被告Y1は、医師の資格は有しないものの、北京中医学院医学気功研究所から気功に関する能力があることを認められ、中医外来部を紹介されて、右期間中、患者に対し診療行為を行っていたものである。当時、被告Y1が得意とする分野は、胃の病気、神経系統及び気功糾偏(偏りを治すこと)であり、患者の評判も悪くはなかった。被告Y1を北京中医学院医学気功研究所に紹介したのは被告Y1のいとこである邵小東であり、同研究所は被告Y1に対し、特別招聘気功師としての招聘状を発行している。同研究所の張秀梅によると、被告Y1の気功の診療レベルは「まあまあ」であり、「ある程度の治療効果があった」とされている(丙第四及び第五号証の各一ないし五及び九並びに丁第三号証の一)。
被告Y1は、右のように気功師として治療にあたる傍ら、一九八八年(昭和六三年)七月から九月まで、北京中医学院の鍼灸指圧科の短期(三か月)訓練講座を受講した(丙第四及び第五号証の一、二)。また、被告Y1は、同年七月三〇日ころから約一か月間、北京龍潭飯店から招聘されて当該ホテルの宿泊客に対し、気功法で健康保全及び病気治療を行ったことがあり、右ホテルから気功医療顧問として招請した旨の招聘状を受けている(丙第四及び第五号証の各一六及び一七)。
しかし、被告Y1は、わが国において患者に治療行為を施した際には、自己の施術を気功とは説明せず、超能力に基づく「宇宙パワー」であると称していたことは、後に述べるとおりである(後記(三))。
なお、日本テレビ提出の書証(丙第五号証の五)によれば、北京中医学院医学気功研究所の張秀梅の説明中、「被告Y1には生まれつき病気を治す特異功能があるのでしょう」との説明の箇所において、「特異功能」の訳語として「超能力」の語をあてている。しかし、「超能力」とは「人間の力ではできないようなことをする能力」(広辞苑)のことであり、その前後の説明内容から見ても、同人の説明する「特異功能」とは、「普通の人にはできないような気功に関する特別の施術能力」というほどの意味であり、日本語においていうところの「超能力」、すなわち、「人間の力を超えた能力」を意味するものではない。右訳語は正確性に欠ける。また、日本テレビ提出の書証(丙第五号証の一三及び一四)によれば、被告Y1が予知能力を有するとの説明をする中国人がいることが認められるが、右説明者は、いずれも一般の事務職員であり、客観性の担保された観察結果を述べているものではなく、単に自己の主観的な印象を述べているにすぎず、証拠価値がない。わが国においても、人や動物の予知能力について研究がなされているが、その存在を肯定する科学的な裏付けはない。被告Y1の予知能力の有無について説明している医学関係者は、元北京中医学院中医外来部主任の王天俊のみであるが、同人は、「予知能力や遠隔から病気を察知することは、診療に属することではないので、彼女(被告Y1)から話を聞いていただけです」と答えており(丙第五号証の三)、被告Y1に予知能力があるとの判断を示しておらず、専門家にふさわしい冷静な分析をしている。
(二) 中国における気功の実情
気功は中国において古代から伝わる体術であり、硬気功と軟気功とに分かれる。硬気功は武術気功といわれるものであるのに対し、軟気功は医療気功といわれるものであり、伝統中国医療の一つである。軟気功は、さらに内気功と外気功とに分かれ、内気功は、気を身体内にめぐらせることにより病気を克服する自己治療であり、外気功は気功師が気を患者に照射することにより病気の治療を行うものである(丙第三号証の九)。本件で問題とされるのは、外気功であるので、以下、単に「気功」という場合には、外気功のことを指すものとする。
気功の効能は長い歴史の中で確認されており、また、現代医学の観点からも、最新の機器による効果の測定その他の様々な検査方法により、その効果の検証がなされており、気功師の能力の差異や患者の身体的・精神的状態による差異があり、検証困難な部分がありうるものの、気功が神経や内分泌系あるいは筋肉に作用し、鎮痛効果、血圧の低下その他の効果をもたらし、両下肢不随の患者が気功により筋肉の活動を始める現象や気功により血圧の低下や鎮痛効果が生ずることは、わが国医学界においても、専門の研究者の間では、一般的認識となっている。中国においては、気功の訓練及び研究に携わる者の層が厚く、訓練を受けた気功師は国家の認定を受けて治療行為に携わっている(丙第三号証の六中の一三〇頁、第三号証の二七中の九一頁及び一〇四頁、第三号証の二八中の三七八頁)。
このように、気功については、中国における長い歴史における実証及び現代医学の双方の観点から研究が進められており、その意味で、現在、気功による治療効果を「奇跡」と呼ぶことは、ペニシリンなどの薬剤の内服又は注射による治療効果を「奇跡」と呼ぶのと同様に、医学界の常識に反することといえる。また、気功による治療を「超能力医療」と呼ぶことも、同様に、医学界の常識に反することといえる。被告Y1は、テレビ放映のために取材を受けた東阪企画のディレクターである鎌倉由和に対し、解熱、痛み・高血圧を治すことができると説明していることが認められ(証人鎌倉由和の証言)、また、後に述べる日本テレビの番組(後記2)において、効果の裏付けがあったとして放映されている被告Y1の施術は、高血圧患者に対する血圧を低下させるための施術、脳内出血の後遺症やリウマチ等により歩行困難となった患者に対する歩行を促すための施術及び風邪により熱のある患者に対する解熱のための施術であり、いずれも気功師であれば行うことのできる施術の範囲内に属し、被告Y1の中国における気功術の経験からみても、同被告が有する能力は、気功に関する能力であると推認される。アトピー性皮膚炎患者については、五人のうち一人は変化がなく、一人は悪化し、三人は軽くなっているが、病院の専門家の意見では、被告Y1の施術による効果は確認できないとされている(丙第一号証の四)。これらの被告Y1の施術を目して、「超能力医療」と評価したり、あるいは「奇跡」であると驚嘆することは、およそ客観性、科学性を欠くものであるといわなければならない。
(三) 被告Y1のわが国における行動
被告Y1は、平成元年に来日し、それから暫くの間の行動は明らかでないが、平成三年八月二二日に被告Y2と結婚し、平成四年初め、渋谷区代々木の那須ビル二階においてあかひげ堂の名で針灸治療所を営む竹内信幸と知り合い、自分と組むと儲かる旨を繰り返し話して、治療場所の提供と費用の負担を求めた。この懇請を入れて、竹内は、あかひげ堂と同じフロアーの隣室が空いたのを機会に、被告Y1のために資金の借入れをした上、場所を借りてやることとした。被告Y1は、竹内の右協力により、あかひげ堂の治療所のある那須ビル二階に「日本Y1超能力難病医療気功研究会」の看板を掲げ、平成四年四月からは「日本Y1超能力研究所」の看板も掲げて治療行為を開始した。竹内は、家賃、水道光熱費、二名の従業員の人件費等を負担し、被告Y1が儲けたときは、せめて実費分は支払ってもらいたいと考えていた(甲第九号証の一、第三五号証)。
被告Y1は、前記(一)及び(二)記載のとおり、気功に関する能力を有するにすぎないのに、わが国において患者に施術をするに際し、超能力に基づく「宇宙パワー」により病気を治すと称しており、その施術は気功とは異なった法術に基づくものであると標榜し(甲第四六号証、丙第二号証の三中の一〇頁)、竹内から鍼灸では治療困難な癌や脳梗塞等の患者の紹介を受けて治療行為を行っていた(甲第三五号証)。
被告Y1の請求する治療費は高額で、料金は、九か月集中コースが約三八〇万円、本人が来ないで代理人が宇宙パワーを受ける代理人による一〇か月集中コースが約五〇〇万円、原因透視鑑定が約一〇万円であった(証人清野哲夫の証言)。被告Y1は、治療行為開始後の収入を自ら取得する一方、収入の三分の一を竹内に支払うと話していたが、当初の約六か月間は、竹内が立て替えて支払う毎月の経費分すら竹内に支払うことができなかった。しかし、その後、次第に患者を増やして、ほぼ実費に匹敵する月額五〇万円から一〇〇万円を竹内に支払うようになったが、自己の収入がどれだけあるかは竹内に明かさなかった(甲第三五号証)。
(四) 被告Y2と被告Y1の関係及び被告Y2の行動
被告Y2は被告Y1の夫であり、被告Y1が必ずしも日本語の能力が十分でないこともあり、被告Y1がわが国において右のような治療行為に従事する際に、被告Y1のパートナーとして常に行動を共にしていた(証人清野の証言)。
(五) ファンジック代表者清野哲夫と被告らの関係
ファンジックの代表者である清野哲夫は、平成四年三月ないし四月ころ、あかひげ堂の患者であった友人から、あかひげ堂に現代医学で治らない癌や脳梗塞の後遺症の人たちを治してしまう超能力者がいるという話を聞き、その約一か月後に、癌で苦しむ別の友人を被告Y1に紹介するため、先の友人を通じて被告Y1と連絡をとった。その際、清野は、被告Y1の料金について、病気の原因の鑑定料が一〇万円、治療が九か月コースで三〇〇万円以上であると聞いていた。癌に罹患した友人は、被告Y1の鑑定を受けたが、その際、被告Y1は、食道のあたりを図示して、ここに潰瘍があると診断した。これを聞いた清野と友人は、それが当たっていることに驚き、その後、清野は被告Y1の能力を信ずることとなった。もっとも、友人は被告Y1の治療を受ける方法を選択しなかった。
このようにして知り合った清野に対し、被告Y1及び被告Y2は、平成四年一一月ころ、千代田区麹町のスカイマンションにあるファンジックの事務所で、あかひげ堂とは別に、「東京Y1事務所」を開設したいとの話を持ち掛けた。これは、その当時、東阪企画の担当者等により進められていた日本テレビにおけるテレビ放映の企画によって、患者が増加することを見込んだ被告Y1が、事前に治療所の拡大を図ろうとしたものである。そのころ、日本テレビ事業局出版部の広瀬部長は、Y1に関する書籍の出版を企画しており、その結果、Y1の治療所における活動について、日本テレビのテレビ部門と出版部門の両者の企画が同時並行的に進められる状況となった(証人清野の証言)。清野が被告Y1及び被告Y2に対してファンジックの事務所を提供したのは、後述のとおり(後記5)、平成五年一月である。
2 テレビ放映
(一) 第一回放映 番組名「追跡」(平成四年一一月一二日放映)
被告Y1に関する日本テレビの第一回テレビ放映(丙第一号証の一)においては、気功による治療行為を施す者である被告Y1について、「不思議な力を操る人物」とのナレーションを入れ、北京中医学院の卒業者ではなく、単に同大学の鍼灸指圧科の短期(三か月)訓練講座の受講者であるにすぎないのに、「北京中医大学を首席で卒業した文句なしの才媛である」との紹介をしている(卒業した大学の学部、選択したコース、卒業年度を照会により把握することは容易であり、首席で卒業したとの本人の説明の真偽の確認も、緊急の報道を目的としない右番組では、さほど困難なことではない。東阪企画の鎌倉らは、「Y1のことを徹底的に疑い、経歴などが本当かどうかを確かめるために」平成五年三月上旬、中国に渡り、北京中医学院を訪ねながら(丁第一号証)、右調査すら行っていない)。また、被告Y1につき、中国においても、気功師として施術所に勤務し、胃の病気、神経系統及び気功糾偏の治療を得意とする以上には明瞭な難病の治療実績が確認されておらず(前記1の(一))、わが国の治療実績についても、被告Y1本人が解熱、痛み・高血圧を治すことができると説明し、取材の過程でもそのことが認められたにすぎず、それ以上の治療効果については、一部の患者又はその家族が難病に効果があった旨の主観を交えた経験談をする以外には、医師の診断その他の客観的事実の確認がなされていない(証人鎌倉の証言)にもかかわらず、「難病治療専門の彼女は、一日五〇人余りの患者をたった一人で治していく」として、あたかも難病の治療効果が確実に上がっているかのようなナレーションを流している。更に、気功その他の東洋医術は中国において長い歴史があり、最近では最新の医療機器による効果の測定も進められており、既にその効果が説明不能とはいえないものとなっている(前記1の(二))にもかかわらず、「現代医学では説明のできない事実」とのナレーションを被告Y1の治療行為の後に差し挟み、被告Y1が計り知れない治療能力を持つかのような印象を与えるものとなっている。
この番組の中では、座骨神経痛で歩行困難であり、また、高血圧でもある患者に対する被告Y1の治療が紹介されているが、気功が一般に神経や内分泌系に作用し、血圧の低下や鎮痛効果をもたらすことがありうることには触れず、難病一般の治療と奇蹟的回復という事実の裏付けのない観点から右患者に対する治療状況を放映し、その結果、視聴者に対し、難病一般に対する過度の期待を抱かせる内容となっている。しかも、この放映対象者は、被告Y1が高血圧を治すことができると説明したことから、高血圧である患者の中から選定したものであり、難病患者一般を選定対象として検討したわけではない(証人鎌倉の証言)。高血圧症については、その発症のメカニズムも発症の原因も現代医学で解明されており、高血圧を防ぎ又は改善するための食事療法その他の指導は広く行われており、血圧を下げるための減圧剤も多数の者が服用している実情にあるのであり、高血圧症が難病とはいえず、また、高血圧症患者の血圧を下げること自体は、現代医学の下では、もはや奇跡でも感動的なことでもないことは、国民の常識となっていることである。
この番組の中で紹介されている唯一の専門家のコメントは、血圧の低下に関し、「そういうことは普通の人であり得るんですか」という問に対する北里研究所の加藤正研究員の「そういうことは、まあ、ないとは言えないんですが、やはりおもしろい現象だというふうには言えますね」という発言のみである。この発言によれば、被告Y1に特殊な能力があるかどうかは不明であり、また、気功が血圧低下や神経・筋肉への作用をもたらすことは一般の医学研究において指摘されていることであるにもかかわらず、その直後のナレーションでは、「そして、この後、竹内さんに不思議なことが起こった」「Y1のパワーが竹内さんの腰にまで影響したのだろうか」とされており、専門家のコメントや気功に対する一般の医学研究の結果は全く考慮されていない。
この番組内で放映された被告Y1以外の多数の施術者については、全施術者について、一回につき三五〇〇円ないし二万円の料金がスーパー(スーパー・インポーズ=字幕の略。以下「スーパー」という)により表示されているが、被告Y1については、全く料金の表示がなされていない。この当時の被告Y1の治療行為の料金は、九か月コースが約三八〇万円、代理人による一〇か月コースが約五〇〇万円、原因透視鑑定が約一〇万円とされていたのであり、放映された他の施術者と比べて、極めて異質なものであった。
なお、この点について、第一回放映から第四回放映までの東阪企画の担当ディレクターである鎌倉は、「一回一万五〇〇〇円から二万五〇〇〇円位である」との被告Y2の説明を信じ、患者の取材の中でも、一回一万五〇〇〇円から二万円であるとの話しか聞かなかったのであり、スーパーにより料金を表示するのが可能な程度に調査はできていたが、演出上の都合から表示しなかったと述べている(証人鎌倉の証言)。しかし、後に述べる被告Y1及び被告Y2の原告らへの料金の説明(後記6)からしても、被告Y1は患者に対し、九か月コース約三八〇万円等の説明をしているのみであり、それを施術所に通う回数で割れば、理屈上一回について二万五〇〇〇円程度の計算になるにすぎず、患者自身は、取材の際の質問に対して、一回あたりの料金を即座に答えられる実情にはなかったと推認されること、この当時の被告Y1の料金体系は容易に照会可能であったこと(証人清野の証言)、証人鎌倉の供述においても、患者から、病気が治るなら普通の人から見て高額と思われる金額も高額とはいえない旨の発言があったとされていること、前記のとおり被告Y1以外の全施術者について、一回につき三五〇〇円ないし二万円との料金がスーパーにより表示されていること、被告Y2が「一回一万五〇〇〇円から二万五〇〇〇円位」と説明したことのみで、そのままスーパーの表示をするのは正確性の点で問題があること等の事実からすれば、証人鎌倉が被告Y1の高額な料金について全く知らなかったとする供述部分は信用することができない。
(二) 第二回放映 番組名「ズームイン朝」(平成五年四月一日放映)
この番組(丙第一号証の二)の中には、被告Y1の治療行為を紹介する際に、「超能力医療 Y1の奇跡」とのスーパーが、繰り返し、合計五回にわたって挿入されている。先に述べたとおり、気功は中国において長い歴史を有する東洋医術の一つであり、被告Y1はこれを学んだ気功師であり、気功により治療を「超能力医療」と呼ぶことは、現代医学のレベルからみて、明らかに不適当である。また、気功には鎮痛、血圧低下その他の一定程度の効果があることが広く認められているものであるにもかかわらず、それによる効果を「奇跡」と表現することにより、被告Y1の施術に劇的な治療効果があるかのような誤解を与える可能性がある番組となっている。第一回放映においては、被告Y1について、「不思議な力を操る人物」と紹介する程度の説明にとどめられていたが、第二回放映においては、右のとおり、被告Y1の施術に関し、「超能力医療」「奇跡」との形容を繰り返しており、これらによって、被告Y1があたかも人間の能力を超えた特別な力を有する人物であるかのような誤解を与えかねない内容となっている。
さらに、アルツハイマー型の痴呆症の患者の脳波を測定する場面においては、脳波に変化が生じたという事実しかなく、それが症状に何らかの影響があるとの事実は全くなく、医療に関連する事実といえるかどうかが不明であるにも関わらず、「超能力医療 Y1の奇跡」とのスーパーを用いており、被告Y1の施術がアルツハイマー型の痴呆症にも何らかの治療効果を有するのではないかとの憶測を招きかねない構成となっている。
(三) 第三回放映 番組名「ズームイン夜」(平成五年四月九日放映)
この番組(丙第一号証の三)の中にも、被告Y1の治療行為を紹介する際に、「奇跡 Y1パワー!」とのスーパーが合計二回、「Y1パワーの奇跡?!」とのスーパーが合計五回も用いられており、被告Y1があたかも人間の能力を超えた特別な力を有する人であるかのような誤解を与える可能性があり、また、被告Y1の治療行為に劇的な治療効果があるかのような誤解を与える可能性がある。
しかも、番組内のナレーションにおいて、「Y1さんの奇跡の超能力医療」「難病治療専門」「この生放送中に奇跡は起きるんでありましょうか」「奇跡です」との表現が相次ぎ、右誤解の可能性をより強めている。
(四) 第四回放映 番組名「日曜スペシャル」(平成五年一二月一九日放映)
この番組(丙第一号証の四)は、被告Y1の難病に対する施術を取り上げ、日曜日の午後二時から三時半までの時間帯において放映したものであり、九〇分間にわたって、もっぱら被告Y1の施術を取り上げており、番組内容の表示も、「難病に挑戦する超能力 Y1パワーの秘密 長期実験で徹底解明!!現代医学がその謎にせまる!!」というセンセーショナルなものであることから、一連のテレビ放映の中で最も情報伝達力が高く、現に、原告らのうちの多くの者が、この番組の影響により被告Y1の治療所を訪ねるに至っているものである(後記6)。この番組においては、ナレーションの中で、医師資格を有しない被告Y1のことを「中国で並外れた能力を持つ特選気功医師」として紹介し、「難病の数々をあるパワーをもって治していく」として、病状ないし病気の種類も特定せず、難病一般に対して効果の高い治療能力を有するかのような表現をし、スーパーでは、「難病に挑戦する超能力 Y1パワーの秘密」との表現を合計六回にわたって用いている。後に述べるとおり(後記4の(一))、平成五年一月には、既に「宇宙パワーの奇跡」と題する被告Y1の著書が、日本テレビから、同社出版部長の共同執筆に係る発刊の辞付きで出版されており、ここにいうY1パワーが、単に被告Y1の力というとどまらず、被告Y1の標榜する「宇宙パワー」を指すことが明らかである。
この番組の中では、第二回放映及び第三回放映の中で取り上げられた中国湖南省長沙紡績工場倶楽部での脳溢血患者への気功治療に関し、「集まった病気の人々から最も病の重い人一名を選び、Y1さんがパワーを送ることになった」との第二回放映及び第三回放映にはなかった説明をし、その者が歩行する様子を放映して、最も重い症状の難病患者にも被告Y1のいわゆる宇宙パワーが有効であるかのような誤解を与える解説をしている。しかし、一二〇〇人もの人数の中から、最も病の重い人を選定したというが、誰がどういう基準によって選定したのかは不明であり、また、何をもって最も重い病というのかも不明である。第一回放映の際に、被告Y1が高血圧を下げられるというので高血圧患者の中から放映対象者を選んだ、とする証人鎌倉の証言を合わせ考えると、右脳溢血患者も、気功による治療に適した患者として被告Y1又はその意を受けた者が選定した疑いが濃厚である。その意味で、最も病の重い人を被告Y1の施術の対象者として選んだ旨のナレーションは、事実に反するものといえる。
この番組の中では、被告Y1の難病治療の紹介をした後、難病とはいえない風邪による発熱患者に対する治療を放映し、風邪の患者の熱が下がったことを感動をもってコメントし、その直後に難病の治療に関する録画を挿入することにより、被告Y1の施術が難病にも高い治療効果があるかのような誤解を与えかねない内容となっている。解熱は気功の得意とする施術の一つであり、この施術も被告Y1の選択によって行われたものと推認される。
3 難病に対する治療効果に関する被告らの認識及び本件テレビ放映についての被告らの受け止め方
(一) 一般の照会者に対する説明と治療所を訪れる患者に対する説明の区別
被告Y1及び被告Y2は、本件テレビ放映がなされるつど、興奮状態になった患者からの問い合わせ電話が殺到することを認識し、病気が治らないとして後に問題視されることに対して防御の手段を尽くしつつ、多数の者が被告Y1の治療を受けに来るよう、極めて冷静な対応をしている。すなわち、被告Y1及び被告Y2は、被告Y1の行う治療に関し、治療を受けることを希望して電話などにより紹介してくる一般の患者に対しては対応マニュアルを作成し、その中で、「治療」ということばを使うことすら避けるように注意し、治すことを目的として指導をしているのではないと説明するよう、使用人に徹底を図っている。用語の使用についても、「治療」を「指導」に置き換え、「治る」を「改善される」に置き換えるように注意する徹底ぶりである(甲第四六及び第四七号証及び証人清野の証言)。しかし、一日体験コースや二か月体験コースを受講した後、料金の高い一〇か月集中コース等を受講するのをためらっている患者に対しては、密室内において口頭で、被告Y1の治療が難病に九〇パーセント以上の割合で有効であり、長く通えば治療がほぼ確実であるかのような説明をして、長期コースへの申込みを強力に勧めている(後記6)。
(二) テレビ放映における誤った説明の放置及び助長
テレビ放映における被告Y1の治療行為に対する「超能力医療」等の評価は、被告Y1及び被告Y2の一般の照会者に対する前記(一)の説明を超えるものであるが、被告Y1及び被告Y2は、これを修正させるような行動に出ていない。また、被告Y1の経歴について、北京中医学院を卒業したとか、その際の成績が首席であったとか、また、医師の資格がないのに気功医師と標榜するなど、テレビ放映を通じて、視聴者が、被告Y1のことを医師資格があり、かつ、極めて優秀な成績であるかのように誤信するような説明方法を用いている。気功による施術の効果が一時的効果にすぎず、治癒とはいえない場合が少なくない(甲第四六号証)ことについても、テレビ放映における取材の際に指摘していない。これらの事実からすると、被告Y1及び被告Y2は、テレビ放映において、被告Y1が難病の治療能力を有するかのような事実に反する説明がなされるように導いて、テレビ放映による絶大な宣伝効果を利用しようとしていたものであるといえる。
(三) テレビ放映を利用した収入増加方策の策定
被告Y1及び被告Y2は、後に述べるとおり(後記5)、第一回テレビ放映の直後である平成五年一月、従来の渋谷区代々木の那須ビルの治療所に加えて、千代田区麹町のスカイマンションに治療所を開設して患者の増加に備え、第四回のスペシャル番組放映の計画が出ると、さらに新宿区高田馬場の荒井ビルに治療所を開設するなど、テレビ放映を利用して、冷静に活動範囲の拡大を図っている。また、被告Y1の取り扱う病名について、テレビ放映では、必ずしも難病に限る取扱いをしていないことから、難病以外の相談者も訪れるが、被告Y1及び被告Y2は、被告Y1の治療が難病専門であるとして、高額の料金を請求しにくい病名の患者を排除する一方、難病については、その種類を問わず受け入れることとして受入患者の増加を図り、その際、被告Y1の施術がどのような難病にも効果が上がるとの誇大な説明をし、テレビ放映が収入増に直結するように図っている(甲第四六、第四七号証)。
4 テレビ放映を契機とした本の出版
(一) 超能力シリーズ①「宇宙パワーの奇跡」(平成五年一月二二日発行)
被告Y1は、平成五年一月二二日、日本テレビを出版者として、「宇宙パワーの奇跡」と題する本を出版した。被告Y1の日本語に関する能力が劣っていたことから、日本テレビ出版部が被告Y1に紹介した小林雄一がリライターとしてこの本の出版に密接に関わった(弁論の全趣旨)。この本には、超能力シリーズ①との表示がなされており、類似の本が続いて出版されることを表している。この本には、次のような問題点がある。
(1) 資格及び経歴の詐称
この本の冒頭には、北京龍潭飯店が被告Y1を当該ホテルの気功医療顧問として招請した招聘状を紹介したカラー写真が掲載されている(四頁)。本状には、被告Y1の資格について、「気功医師」と表示されているが、被告Y1は医師の資格を有しておらず、右記載は「気功師」と表示すべきところを「気功医師」と誤記したものであると認められる(丙第四及び第五号証の各一)。ところが、被告Y1は、右誤記のある本状をあえて掲載し、本書を含むシリーズ①ないし③の著者紹介欄において、自己のことを「気功医師」と標榜するに至っている。また、本状は気功師である被告Y1を当該ホテルの気功医療顧問として招聘する旨を記載しているものであるにすぎないのに、その内容が中国語で記載され、日本人には正確には読めないことを利用して、その説明として、「北京中医学院から超能力者として認められた認定証」であるとの虚偽の記載をしている。この写真の位置及び説明文の内容からみて、これらの虚偽記載等は見過ごすことのできない重要性を有する。
日本テレビは、この写真について、本来乙第二号証の二(丙第四号証の一の六枚目)の写真を掲載すべきところ、被告Y2が誤って龍潭飯店聘書を交付し、そのことに気づかないまま本書の出版となった旨弁解する(日本テレビの平成九年四月二二日付け準備書面・その三の四頁)。しかし、乙第二号証の二においては、被告Y1について、単に「気功師」と表示されているのに対し、龍潭飯店聘書には「気功医師」との不正確な記載がなされており、本書を含むシリーズ①ないし③の著者紹介欄において、被告Y1は自己のことを「気功医師」と表示しており、右龍潭飯店聘書以外に被告Y1の資格を気功医師と表示するものはないこと、及び後に述べるとおり(後記(二))、被告Y1は自己のことを「医学博士」とまで詐称していることに照らせば、被告Y1及び被告Y2は、龍潭飯店聘書の中の「気功医師」との不正確な記載を利用するために、これを本書にあえて写真掲載したことが明白であり、この写真が誤って掲載されたものであるとする日本テレビの主張は採用しがたい。
(2) 表紙における欺瞞的記載
本の表紙には、被告Y1の写真とともに、「この表紙の上に掌をかざしてみて下さい」との記載があり、本文の冒頭にゴシック文字で、「本の表紙と口絵に、私は宇宙に気を入れました」とする記載があり、表紙に手をかざして掌が熱く感応するかどうかによって、「掌がとても熱く感じた人は、体の調子が良くとても心も素直」などと、読者の健康状態を説明している。しかし、印刷所において多数部印刷され、何刷にもわたって印刷される可能性のある本の表紙に、著者が気を入れるなどということは、気功であっても、あるいはいかに内容が解明されていないその他の東洋医学であっても、およそありえないことであり、まやかしという以外に表現のしようがない記述である。これは、自己が超能力を有することを宣伝しようとする余りの常識外れの虚偽記載であるといわざるをえない。
(3) 事実に反する発刊の辞
この本の冒頭には、被告Y1自身による「まえがき」に続いて、「発刊にあたって」と題する文章が掲載されており、弁論の全趣旨によれば、右文章は、日本テレビの出版部長広瀬嘉嗣及び日本テレビが被告Y1に紹介したリライターである小林雄一が共同で執筆したことが認められる。
右文章の中には、被告Y1が先天的な超能力を備えた人物であること、いま日本で、その超能力を駆使し、難病に対する原因の透視・鑑定・解決方法の提示等に活躍していること、被告Y1が扱うのは「西洋医学では解決のつかない難病」であること、被告Y1は中国において、超能力を使って難病の診断、治療をしていたこと、祖母、母親とも超能力者であること、北里大学での検査の結果、被告Y1の身体の構造、血管、神経等が特殊であることが確認されたことが記載されている。しかし、被告Y1が気功師であるという事実は確認されているものの、被告Y1が難病の治療に関して超能力を有するとの事実は、被告Y1及び被告Y2が多数の患者を集める方便として述べたと認められる以外には、何の裏付けもない。中国において、超能力を使って難病の診断、治療をしていたとの事実も、気功による治療が超能力による治療とはいえないことからみて、事実に反する記載である。祖母、母親とも超能力者であるという記述に至っては、どのような裏付けを得てそこまで述べるのか全く不明である。また、被告Y1からも日本テレビからも、被告Y1の身体の構造、血管、神経等が北里大学での検査の結果、普通の人間のそれとは違っていることが判明したとの証拠は何ら提出されていない。常識的にみても、人の身体の構造、血管、神経等には人ごとに個体差があるのであり、人によっては通常人と著しく異なっている場合もありうるのであるが、それを超えて、被告Y1の身体の構造、血管、神経等が人として特殊であるなどということは、およそありえないことである。この記述も、被告Y1が人間離れした超能力者であることを誇示しようとする余りの、常識に外れた事実に反する記載であるといわざるをえない。北里大学を引き合いに出している点も、見過ごすことができない。
このような発刊の辞を、他の一名との共同執筆とはいえ、日本テレビの出版部長が付することにより、結果として、日本テレビがこの本の記載内容に関わっていることを読者に示唆するものとなっており、その内容が真実であろうとの誤信を増大させる効果を生んでいる。
(4) 説明文中の編集部の表示
<文責 編集部>(五一、五九頁)の表現は、小林の手によるものである(弁論の全趣旨)が、これらの表現は、この本の出版者である日本テレビの出版部門の編集部がこの本の記載内容に関わっていることを読者に示唆するものであり、その内容が真実であろうとの誤信を増大させる効果を生んでいる。
(5) テレビ放映後の迅速な出版
この本が出版されたのは、平成五年一月二二日であり、第一回テレビ放映がされたのが平成四年一一月一二日であったこと及びこの本の構成が右テレビ放映を中心とするものであり、テレビ放映に使用されたビデオの写真も掲載されていることを考えると、この本は、テレビ放映の直後に、テレビ放映による情報の広まりを利用し、かつ、それをより確実なものとするために出版されたものと認められ、テレビ放映の関係者がこの本の出版に関与したかどうかは別として、この本の出版にあたった日本テレビがこの本をテレビ放映と一体となったものとして出版したことは明らかであり、テレビ放映による情報伝搬効果を計算に入れた出版であるといえる。
(二) 超能力シリーズ③「超能力と秘法の実体」(平成五年一一月一五日発行)
被告Y1及び被告Y2は、平成五年一一月一五日、日本テレビを出版者として、「超能力と秘法の実体」と題する本を出版した。これは、平成五年七月八日発行の超能力シリーズ②に続いて発行されたものであり、超能力シリーズ③と表示されている。この本には、次のような問題点がある。
(1) 医学博士との経歴詐称
この本の特徴は、被告Y1のことを医学博士と表示し(末尾著者紹介欄)、北京中医学院での受講の話の箇所において、大学研究室内のような場所で撮影した被告Y1の肖像写真を、「医学博士号の学位取得」との説明を付して、三枚にわたり掲載していることである(一二一、一二二頁)。これらの記載によって、本書は、被告Y1が北京中医学院において医学博士の学位を取得したことを読者に強く印象づけている。しかし、説明文を読んでも、被告Y1が、どの国の、どの大学において、いつ、どのような専門分野に関して医学博士の学位を取得したのかの記述が全くない奇妙な内容である。医学博士の資格がシリーズ③において初めて表示されるのも奇妙なことである。
原告ら代理人が調査したところによれば、被告Y1は、シリーズ②発行後で、シリーズ③(本書)が出版される数か月前である平成五年八月一五日、日本に事務局を有するアメリカ・ハワイ州のパシフィック・ウエスタン大学において、「健康科学」に関して博士号を取得したことが認められる。パシフィック・ウエスタン大学は、実社会における経験・職歴・著書・業績等を習得単位に換算評価する方式により、博士・修士・学士号の取得希望者に対して学位を認定する「学外学位認定校」であり、被告Y1は、シリーズ③の出版直前に右博士号を取得し、写真撮影したものである(甲第一〇号証の一ないし三)。
右事実を注意深く見ると、医学博士の表示が経歴を詐称したものであることが判明するが、被告Y1が中国人であるだけに、この経歴詐称も発見しにくいものとなっている。この経歴詐称は、医学博士という学位の持つ重さからみて、極めて重大なものといえる。
この本においては、更に、北京中医学院の鍼灸指圧科の短期(三か月)訓練講座を受講したにすぎない被告Y1について、同学院を卒業したとの虚偽の経歴を説明するにあたり、「普通は五年かかるところを、私は免除されたのです」(一二〇頁)と記述しており、詐欺的記述が積み重ねられている。医師の資格がないのに、「超能力気功医師」との資格を表示している点(末尾の著者紹介欄)も、シリーズ①と同様に、資格の詐称である。
なお、この本に続いて日本テレビから出版された被告Y1の著書「毒を薬に変える料理法」(共著・平成六年一〇月一三日発行)、「人間、人生成功の秘法」(同年一一月四日発行)、「人間の性の秘密」(同年一二月一五日発行)においては、いずれも、被告Y1の肩書として、「医学博士」及び「超能力予言家」との表示がなされている(乙第二号証の四ないし六)。
(2) テレビ放映の内容に関する虚偽記載
この本の五二頁には、被告Y1の歩行困難者に対する施術により「一七人全員が車椅子から立ち上がった」との記述がなされている。これは、ゴシック見出しとしての記述であり、大いに読者の目を引くものとなっており、目次中にも表示されている。しかし、その後の日本テレビ及び東阪企画の調養によっても、一七人の歩行困難な患者全員が被告Y1の施術により立ち上がったとの事実は確認されておらず、この記述は虚偽であると認められる。
車椅子から上がった人数について、東阪企画の武井泉の陳述書(丁第二号証)においては一二人であるとされているが、その後、日本テレビから提出された準備書面(平成九年四月二二日付け・その三)によると、その人数は一四名であるとされている。しかし、仮にその人数が一二名ではなく、一四名が正しいとしても、これを全員と表示するところが本書の問題なのであり、本書の右記載が虚偽記載であることは明白である。
(3) 気功による治療を奇跡と表現
この本の三四頁には、ゴシックの見出しとして「スタジオ騒然 奇跡が起こった」との表示がなされている。これは、第三回テレビ放映の内容及びスーパーに基づく表現であるが、気功による治療を奇跡と表現することにより、被告Y1に人間離れした超能力があるかのような誤解を生じさせる効果を生んでいる。
(4) 説明文中の編集部の表示
(編集部・記)(三五頁)、(編集部・注)(一九〇頁)の表示のもとに、奇跡が起こったことを強調する記載がされており、また、「編集部の協力」(一九二頁)のもとに体験談を掲載しているが、これらの表現は、この本の出版者である日本テレビの出版部門の編集部がこの本の記載内容に関わっていることを読者に示唆するものであり、その内容が真実であろうとの誤信を増大させる効果を生んでいる。
5 第一回テレビ放映計画確定後の被告らの行動
被告Y1及び被告Y2は、被告Y1の施術についてのテレビ放映の企画が確定した平成四年一二月ころから、テレビ放映がされると難病患者が急増することを見越して、従来の治療所を拡大して患者の増加に対処することとし、平成四年一二月ころ、千代田区麹町のスカイマンションにあるファンジックの事務所の半分を貸してほしいと懇請した。これに対して、清野は、当時、被告Y1の治療能力を信じていたことから、右申し入れを承諾し、その結果、平成五年一月、右スカイマンション内に「東京Y1事務所」がオープンした。被告Y1及び被告Y2は、平成五年一月から同年九月まで、右事務所を治療所として使用した。
被告Y1及び被告Y2は、平成五年九月、新宿区高田馬場の荒井ビルに新たに治療所を開設し、同月以降、ここを中心として治療行為を行った。この治療所は、同年一〇月二八日に「木曜スペシャル」として予定されていた第四回のテレビ放映に合わせて急遽準備したものであり、右特別番組により患者が急増することを見越したものであった。この放映はその後延期され、一二月一九日に「日曜スペシャル」として放映されることとなったが、被告Y1及び被告Y2の目論見どおり、このテレビ放映後、患者が急増した(証人清野の証言及び後記6認定の事実)。
平成六年一月一三日から同年八月二五日まで高田馬場の荒井ビルで被告Y1の治療費の徴収にあたっていたファンジック従業員上坂和實のもとに残った日計表の集計結果によれば、被告Y1が患者から受け取った治療費の総額は、平成五年九月から平成六年九月までの間に、高田馬場治療所分のみで、四億九一六九万五〇〇〇円に上った。ファンジックがその間に被告Y1のために支出した経費の額は二億二〇四七万七四一一円であるが、被告Y1は、そのうち六〇七七万八〇〇〇円を支払ったにすぎない。したがって、被告Y1は、平成五年九月から平成六年九月までの間に、高田馬場治療所分のみで、四億三〇九一万七〇〇〇円を利益として取得したことになる。平成四年一二月ころ、被告Y1及び被告Y2がファンジックの代表者である清野に話を持ちかけた当初、被告Y1は、収受した治療費の三〇パーセントを経費としてファンジックに支払うと称していたが、その後、患者から受け取る治療費を勝手に二分し、「世界Y1難病研究会」名義で受け取る部分はファンジックとの共同事業であるが、「Y1宇宙パワー研究会」名義で受け取る部分はY1固有の事業であると称して、前者についての三〇パーセントのみを支払うとの手法で支払い経費の額を恣意的に減額し、その結果、右のような経費支払状況になったものである(甲第四〇号証の一、二及び証人清野の証言)。
その後、平成六年八月、被告Y1は、高田馬場治療所の賃料も負担しなくなったため、右治療所のある荒井ビルからの退去を通告されるに至り、平成六年八月下旬ないし九月、渋谷区代々木のグランフォーレ代々木に新たに治療所を開設した。
なお、被告Y1は、来日後、京都で行動していたことから、京都にも治療所を開設して患者に施術を行ってきた。
被告Y1は、治療費の収受の事務を担当する上坂らに対し、患者の名簿や金銭授受の証拠をできる限り残さないように指示するとともに、収受した金銭は、その日のうちに被告Y1の銀行口座に振り込ませ、厳重に金銭の管理をしていた(甲第三五号証、第四〇号証の一、二、証人清野の証言)が、本件訴訟においては、あかひげ堂やファンジックが金銭を管理し、その多くを被告Y1に渡さなかったかのような虚偽の主張をしている。
6 原告らの病状等
原告らの病状、受講、金銭支払等の状況は次のとおりである。
①原告X1 昭和一七年三月二八日生まれ。東京都八王子市在住。C型肝炎に罹病し、平成五年一二月一九日の日曜スペシャルで被告Y1のことを知った。その後、日本テレビに電話照会をし、連絡先の通知を受け、平成六年一月二〇日、高田馬場事務所で二万五〇〇〇円を支払い、一日体験コースを受講した。その後、五〇万五〇〇〇円を銀行振込の方法により支払い、同年一月下旬から三月まで毎週一度通って二か月体験コースを受講した。二か月体験コース終了時に九か月集中コースを勧められ、三九〇万円を支払って通うこととした。しかし、右コースが終わった後の平成七年一月一七日、病院で診察を受け、直ちに入院した。被告Y1の治療行為を受けた効果はまったく表れなかった(甲第一二号証の一)。
②原告X2及び原告X3 埼玉県新座市在住。原告X2の夫であるA(昭和三九年一一月二三日生まれ、平成七年一月一〇日死亡)は普通に歩けないくらいに体力が減退していた。病院で診察を受け、糖尿病ともいわれたが、体力減退の原因は不明であった。平成五年一二月一九日の日曜スペシャルで被告Y1を知り、日本テレビに電話照会をして連絡先を知らされた。平成六年一月一八日、渋谷区代々木の那須ビルにある治療所で二万五〇〇〇円を支払って一日体験コースを受講し、二月一日に五〇万五〇〇〇円を銀行振込の方法により支払い、二か月体験コースを受講し、平成六年二月から三月まで毎週一度通った。途中、三月一六日から新宿区高田馬場の荒井ビルにある治療所に会場が変更となった。平成六年四月六日に九か月集中コースを申し込み、三九〇万円を支払った。被告Y1は、右コースに勧誘するに際し、お金よりも体のほうが大事でしょう等と説明した。平成六年一一月六日、病状が悪化し、自宅近くの病院に緊急入院することとなり、その後は、原告X2が代理で治療に参加した。しかし、Aは、被告Y1の治療の効果が表れないまま、平成七年一月一〇日に死亡した。死亡後も被告Y1の事務所からパンフレットが送付され、原告X2らは、超能力者が患者の死亡も知らないことに疑問を感じた(甲第一二号証の二)。
③原告X4 昭和二五年一月一七日生まれ。渋谷区代々木在住。視力が悪く、手足の冷えでも悩む。平成四年一一月一二日、第一回テレビ放映である追跡を見て被告Y1を知り、日本テレビに電話照会をして被告Y1の連絡先の紹介を受けた。平成四年一二月二四日、代々木の那須ビルにある治療所で透視鑑定料一〇万五〇〇〇円を支払って透視鑑定を申し込み、一二月三〇日に透視鑑定を受けた。被告Y1に、「大丈夫だから通いなさい」といわれ、一〇か月集中コースを勧められた。平成四年一二月三〇日から一〇か月集中コースに通った。同コースの料金は、三六七万円であり、平成五年一月一一日に二〇〇万円、同年三月八日に一〇〇万円、同月三一日に六七万円を支払い、平成五年一一月二九日までの間に二〇〇回の指導を受けた。しかし、治療効果は出なかった。被告Y1は、「テレビは一時的なもの、皆さんは根本から治しているので時間がかかる。九七ないし九八パーセントの人が治っているから、続ければ治る」と説明したが、それ以上の治療は受けなかった(甲第一二号証の三)。
④原告X5 昭和一四年八月一四日生まれ。神奈川県湯河原在住。全身打撲による麻痺と原因不明の痛みに悩まされていたが、平成五年一二月一九日の日曜スペシャルを妹が録画したビデオで見て被告Y1のことを知り、日本テレビに電話で照会して連絡先の知らせを受けた。平成六年一月、高田馬場荒井ビルのY1事務所から、本人が受講できない事情がある場合には、母親や親族であれば本人に代わって受講することもできる旨説明を受け、同月一二日ころ、母親が二か月体験コースを受講することとし、五〇万五〇〇〇円を支払った。二か月体験コース終了後、集中コースへ進むようにいわれたが、効果がないので断った(甲第一二号証の四)。
⑤原告X6 昭和一八年四月二五日生まれ。千葉県市川市在住。原因不明の全身浮腫等の症状に悩む。平成五年一二月一九日の日曜スペシャルを見て被告Y1を知り、日本テレビに電話で照会し、連絡先の知らせを受けた。平成六年二月一六日、高田馬場荒井ビルの治療所を訪れ、一日体験コース二回分五万円を支払い、二回の指導を受けた後、三か月体験コースに申し込み、八〇万五〇〇〇円を支払った。その後、九か月集中コースを勧められ、三九〇万円を一括払いしたが、これが終わっても良くならないので、さらに一二万五〇〇〇円を支払い、五回の一日体験コースを追加受講した。しかし、効果は出なかった。このことについて、被告Y1は、良くならないのは宇宙パワーを受ける訓練が足りないからである、体調の悪いときは病院へ行って診てもらうようにとの説明をした(甲第一二号証の五)。
⑥原告X7 昭和一四年一月二三日生まれ。東京都八王子市在住。慢性関節リュウマチに悩む。全テレビ放映をみたが、平成五年一二月一九日の日曜スペシャルに感激し、日本テレビに手紙で照会し、連絡先の通知を受けた。平成六年一月一一日、二万五〇〇〇円を支払って高田馬場荒井ビルで一日体験コースを受講し、一月一六日、二か月体験コースの会費五〇万五〇〇〇円を支払い、一月一八日から同年三月一五日まで受講した。しかし、特に効果はなかった。二か月体験コースの終了間際である三月九日、原因透視鑑定を受け、九か月集中コースを勧められ、三月一〇日に三九〇万円を支払って、三月二三日から平成七年一月一四日まで週一度通った。しかし、特に効果は表れなかった。九か月集中コース終了後も二度、一日体験コースを受講し、五万円を支払ったが、これも効果はなかった(甲第一二号証の六)。
⑦原告X8 福島県須賀川市在住。昭和九年一月一八日生まれ。娘が昭和六二年(二〇歳)のころから脳下垂体の機能不全で生理がなく、消化不良で食べられず、病院で脳下垂体腫瘍の診断を受けた。平成元年一月(二二歳)の時手術を受け、再発防止のため放射線照射を行うが体調は良くならなかった。平成五年四月一日、ズームイン朝、九日、ズームイン夜を見て、被告Y1を知った。四月一〇日ころ日本テレビに電話をかけて連絡先を照会し、宇宙パワー講習会(浜松町)の案内を受けた。この講習会に二万円を支払って参加し、ここで申込用紙をもらい、特別コースの申込みをし、原因透視鑑定付の入会金一五万五〇〇〇円を支払った。平成五年五月、代々木那須ビルの治療所に妻、娘とともに出かけ、透視鑑定を受け、被告Y1から、一年ここでパワーを受ければ治る旨の話を受けた。その後、福島から上京して一泊しつつ通い、合計四回パワーを受けたが、改善は見られなかった。その後、一一か月集中コースを勧められ、分割で四五三万円といわれ、六月から八月までの間に三回に分割してこれを支払い、平成五年六月から平成六年四月まで福島から上京して通ったが、特に効果はなかった。治療所は、当初は代々木の那須ビルであったが、その後、高田馬場の荒井ビルに移った(甲第一二号証の七)。
⑧原告X9 昭和三八年一一月二五日生まれ。秋田市在住。甲状腺癌とその手術後遺症である声帯麻痺、両側反回神経麻痺の症状に悩む。平成五年四月の番組を見て被告Y1を知り、Y1事務所に電話をかけて問い合わせ、原因透視鑑定料一五万円、一〇か月集中コース三七七万円の案内を受けた。考慮の後、平成五年七月麹町スカイマンションの治療所を訪ね、透視鑑定を受けた。被告Y1は、「普通で治すのはとっても難しい」といい、一一か月集中コースの受講が必要と説明した。その数日後、一一か月集中コースの料金を訪ねると、事務員から四〇〇万円以上といわれ、一か月の違いで金額の差が大きいので一〇か月集中コースを申し込むこととした。これに対して事務員は、被告Y1と相談した後、一〇か月集中コースの申し込みも可能である旨答えた。平成五年八月六日、三七七万円を振込により送金し、八月七日以降、秋田から上京して一泊しつつ通った。結局、旅費も含めて五二四万円を支出したが、特に効果はなかった(第一二号証の八)。
⑨原告X10 昭和二一年八月一日生まれ。東京都江戸川区在住。進行性網膜色素変性症で、失明の危険がある。この病気は、発症のプロセスが解明されておらず、治療法も確立されていないものである。平成五年一二月末ころ、一二月一九日の日曜スペシャルを見た知人と母親から被告Y1のことを知らされ、日本テレビに電話で照会し、案内を受け、高田馬場の治療所に電話をした。平成六年一月一三日、二万五〇〇〇円を支払った上、一日体験コースを受講し、これを終えたところで、二か月体験コースの説明を受けた。平成六年一月中旬に二か月体験コースの受講料五〇万五〇〇〇円を振込により送金し、一月下旬から三月三日まで通った。受講の初日に振込送金票を回収された。途中、原因鑑定を受けたところ、被告Y1から「あなたは鼻と内臓が悪い」といわれ、「私の悪いのは目です」というと、「あなたの目は内臓から来ている」と答えた。また、「私の病気は治りますか」との問に対し、被告Y1は「治ります。しかし、病気が難しいから長くかかる」と答えた。被告Y2は九か月集中コースに三九〇万円かかると説明し、その内訳として、会場における受講料一二八万円、自宅でパワーを受信するための費用二六二万円と説明した。平成六年三月二一日、高田馬場の治療所で三九〇万円を支払い、同日から平成七年一月一二日まで六〇回通ったが、何の効果も表れなかった(甲第一二号証の九)。
⑩原告X11 大正一四年九月二〇日生まれ。横浜市在住。筋萎縮性側索硬化症で、咽喉部に異常があり、歩行も困難である。平成五年四月のテレビ放映で被告Y1を知り、更に一二月の日曜スペシャルを見て、平成六年初め、妻を通じて日本テレビに電話照会し、案内を受けた高田馬場の治療所に電話をした。ここで、一日体験コースを紹介され、本人でなくともよいといわれ、妻が二月一六日ころ高田馬場の治療所を訪ね、二万五〇〇〇円を支払って代人コースを受講した。そこで、二か月体験コースを勧められ、二月二三日に五〇万五〇〇〇円を支払った。妻はこのコースに休まず通ったが、効果は見られなかった。途中、透視鑑定が行われた。被告Y1は、病名はいわず、病状は必ずよくなるので、集中コースを受けるようにと勧めた。平成六年四月一四日ころ、勧めに従って、一〇か月集中コース代理受講の受講料五〇三万五〇〇〇円を振込送金により支払い、同コースを受講したが、症状はよくならなかった。その後、五月二三日に五万円、七月六日に二万五〇〇〇円を追加払いして特別指導を受講したが、効果は表れなかった。交通費に五万円を要した(甲第一二号証の一〇)。
⑪原告X12 昭和二年五月二六日生まれ。東京都杉並区在住。顔面神経痛に苦しむが、治療法はないといわれていた。平成五年一二月一九日の日曜スペシャルを見て被告Y1を知り、スーパーを見て事務所に電話をし、平成六年一月一八日、二万五〇〇〇円を持参して一日体験コース受講した。その日、勧誘を受けて二か月体験コースを申し込み、一月二一日、五〇万五〇〇〇円を振込送金し、一月二六日から三月一六日まで高田馬場の治療所に通って同コースを受講した。その間、一時、五日間くらいけいれんが止まったが、その後、元に戻り、以後、効果は表れなかった。途中透視鑑定を受け、二、三年かかるが治るとの説明を受けた。その後、九か月集中コースを勧められ、三九〇万円を振込送金し、三月三〇日から平成七年一月一二日まで同コースを受講した。八月二六日から会場が高田馬場の荒井ビルから代々木のグランフォーレ代々木に移転した。同コース受講による効果はなく、その後、さらに一五万円支払って六回通ったが、これも効果がなく終わった(甲第一二号証の一一)。
⑫原告X13 昭和五年三月二九日生まれ。群馬県桐生市在住。リュウマチに悩んでいた。平成五年一二月一九日の日曜スペシャルを見て被告Y1を知り、平成六年三月ころ、日本テレビに電話照会をし、高田馬場の治療所の紹介を受けた。平成六年五月一六日、二万五〇〇〇円を支払って一日体験コース受講し、五月二六日に、もう一度二万五〇〇〇円支払って一日体験コース受講した後、勧めを受けて、五月二七日、二か月体験コースを受講することとし、受講料五〇万五〇〇〇円を送金した。その領収書は会員証と引換えに提出させられ、戻されていない。五月三一日から七月一九日まで同コースを受講した。途中原因鑑定を受け、胃腸及び腎臓が悪いとされたが、リュウマチであるという説明はなかった。このこと等に疑問を持ち、それ以上の受講はしなかった(甲第一二号証の一二)。
⑬原告X14 昭和三六年六月生まれ。神奈川県藤沢市在住。右耳の真珠腫性中耳炎により、頭痛、めまい、耳垂れの症状があり、また、不妊症であった。平成四年一一月一二日の追跡の番組を見て被告Y1を知り、日本テレビに電話照会をして、代々木の那須ビルの治療所を紹介された。一一月二三日、鑑定料一五万円を支払い、透視鑑定を受けたところ、ホルモンの狂いからきた症状であり、宇宙パワーを吸収することにより治る旨説明を受け、四回分八万円を支払って四回の体験コースを受講した。平成四年一一月末ころ、両親とともに被告Y2の説明を受け、一〇か月集中コースを勧められ、平成四年一二月二四日から平成五年六月一六日までの間に三回に分けて合計三六二万円の受講料を支払った。平成四年一二月三日から同コースの治療が開始されたが、効果がないまま終わった(甲第一二号証の一三)。
⑭原告X15 昭和一八年一二月三日生まれ。東京都大田区在住。全盲であり、かつ、原因不明の重度の疲労・多汗症・冷え症及び自立神経失調症の症状があった。平成四年一一月ころ、友人から追跡の番組のことを知らされ、日本テレビに電話照会をして、代々木の治療所を案内された。一二月二四日、透視鑑定料一〇万五〇〇〇円を支払い、透視鑑定を受け、一〇か月集中コースを勧められて、一二月二四日に同コースを申し込んだ。その受講料は三六七万円であり、一括では支払えないため、一二月二四日から平成五年五月二四日までの間に一一回に分けて合計三七七万円を支払った。その後、一〇か月にわたり受講し、タクシー代も少なくとも九〇万円かかったが、効果はなかった(甲第一二号証の一四、原告X15本人尋問の結果)。
⑮原告X16 昭和一五年二月二八日生まれ。東京都品川区在住。昭和四五年八月一一日生まれの息子Bが原因不明の頭痛・痛みに悩んでおり、本人も目のかすみの症状があった。Bは平成五年一二月一九日の日曜スペシャルを見て録画し、それを原告X16も見て、平成六年一月三一日、本人及びBが二名分五万円を支払って一日体験コース受講した。ここで勧められて、Bについて二か月体験コース申し込むこととし、二月二四日に入会の上五〇万五〇〇〇円を支払った。このコースにはBが自ら通った。このコースの終わりころ、被告Y2から原告Y16に電話があり、一〇か月集中コースを勧められ、その際、「Y1事務所の中に東京女子医大白坂先生のクリニックを作り、治療経過を出して、厚生省から認可されれば、保険が使えるようになる。そうすれば、将来的には治療費の負担が少なくなる」との説明を受けた。同コースについては、Bの代理で原告X16が受講することを勧められ、五〇八万五〇〇〇円の受講料を支払って五月一九日から原告X16が代理受講をした。しかし、効果がないばかりか、Bの症状はかえって悪化した(甲第一二号証の一五)。
⑯原告X17 昭和二三年九月一六日生まれ。千葉県茂原市在住。昭和四八年九月九日生まれの娘Cが精神分裂病に罹患し、治療を受けていた。平成五年一二月一九日、原告X17は日曜スペシャルを見て被告Y1を知り、高田馬場の荒井ビルにあるY1難病研究所の電話番号を調べて電話をかけて案内を受けた。娘を連れて平成六年一月、一日体験コースを二回受講して五万円を支払い、二月上旬、二か月体験コースの料金五〇万五〇〇〇円を支払って、C自ら二月から四月まで同コースを受講した。その間に透視鑑定を受けたが、被告Y1は病気の原因には触れず、「二か月コースではとても治らないから集中コースを受けるように」と説明するのみであったため、これに不信感を抱き、また、二か月体験コースでの効果もなかったので、その後の集中コースの勧めは断った(甲第一二号証の一六)。
⑰原告X18 昭和二四年九月一七日生まれ。東京都練馬区在住。慢性胃炎 平成五年四月一日ズームイン朝、四月九日ズームイン夜を見て被告Y1を知り、高田馬場荒井ビルのY1事務所を直接訪ねて説明を受けた。平成五年五月二〇日ころ同事務所を再度訪れ、二万五〇〇〇円を支払って一日体験コースを受講し、更に、九月二六日、二か月体験コースの受講のため五〇万五〇〇〇円を支払い、同日から二か月間、同コースを受講した。同コース終了のころ、被告Y1による透視鑑定があり、一一か月集中コースを勧められたが、料金が五〇〇万円と高額であり、それまでの受講で何の効果もなかったため、受講を断った(甲第一二号証の一七)。
⑱原告X19 千葉県松戸市在住。娘D・昭和四三年九月三日生まれが自閉症であった。原告X19は平成五年一二月一九日の日曜スペシャルを見て被告Y1を知り、日本テレビに電話照会をしてY1事務所の紹介を受け、同事務所に電話をして案内書の送付を受け、平成六年一月中旬、二か月コースの料金五〇万五〇〇〇円を振込送金した。平成六年一月三一日から娘とともに高田馬場荒井ビルのY1事務所に通ったが、効果は表れなかった(甲第一二号証の一八)。
⑲原告X20 昭和三四年八月三〇日生まれ。大阪市阿倍野区在住。母Eがそううつ病を患っており、父も脳内出血で倒れて植物人間状態になっていた。友人から追跡やズームイン朝の番組について話を聞き、ビデオを見せてもらって被告Y1を知り、Y1京都事務所に電話をし、平成五年五月ころ、鑑定料一五万円を支払って透視鑑定を受けた。その際、脳内出血で倒れて植物人間状態になった父親の治療を依頼したところ、被告Y1の横にいた被告Y2は、父親の治療は難しく、特別会員でなければだめだといい、母親ならば代理指導の方法で治してあげることができると述べた。その後、一回五万円位の体験指導を受け、平成五年六月一二日、母の治療のため一〇か月集中コースを申し込むこととし、その分割金として一〇〇万円を支払い、その後、三九三万円支払って代理指導を受けたが、効果はなかった(甲第一二号証の一九)。
⑳原告X21 昭和四二年五月一五日生まれ。静岡県賀茂郡在住。デッド・マッド症候群による視神経萎縮症となり、失明状態となった。平成五年一二月一九日に母とともに日曜スペシャルを見て被告Y1を知り、母が日本テレビに照会をし、平成六年二月ころ、二万五〇〇〇円を支払って高田馬場の治療所で一日体験コースを受講した。その後、平成六年三月一四日、五〇万五〇〇〇円を支払って二か月体験コースを申し込み、自分で一回、弟が代理で七回受講した。途中で透視鑑定があり、病気は自分の性格のせいだといわれ、どこが悪いのかもよく分かっていないと感じ、その後は受講しなかった(甲第一二号証の二〇)。
原告X22 昭和三三年一月二日生まれ。横須賀市在住。昭和六二年七月二八日生まれの娘が脳性麻痺で歩行できず、車椅子生活をしていた。平成五年四月九日、ズームイン夜を見て被告Y1を知り、日本テレビに電話照会をして浜松町での講習会の案内を受け、同講習会に参加した。その後、同年六月、代々木のY1事務所に一週間コースを申し込み、一三万五〇〇〇円を支払って受講し、さらにその後、透視鑑定を受けた上、一〇か月集中コースを申し込み、一二月一三日、一六一万円を振込送金し、一二月一四日残金三一九万円を現金で支払った。当初は本人又は特定の代理人のみが受講できるとしていたが、数か月後には、その他の家族でも代理受講できることとなり、家族全員の応援で一〇か月集中コースに通った。その間、掴めなかったものが掴めるようになったということがあるが、それが被告Y1の治療の効果とは考えていない。その他には効果はなかった(甲第四二号証の一)。
原告X23 昭和三七年五月八日生まれ。富山県黒部市在住 長男F(昭和六一年四月三日生まれ)が進行性筋ジストロフィーとなり、確立した治療法がないといわれており、平成四年七月一〇日、一級の身体障害者の認定を受けた。平成五年一二月一九日の日曜スペシャルの内容を知人から聞いて被告Y1を知り、本を見て平成六年一月二〇日ころ、代々木那須ビルのY1事務所に電話をかけて案内を受け、二月九日、同事務所で二か月体験コースを申し込み、五〇万五〇〇〇円を現金で支払った。遠方であり、Fが通うのは困難であったため、代理指導によることとなり、母親である原告X23が代々木のY1事務所に通うこととなった。途中、一か月過ぎたころに高田馬場の荒井ビルに指導場所が変更され、三か月指導に変更となった。その指導終了前に原因透視鑑定が行われ、原因は骨髄にあり、もっと早く来ていればこれほど病気は進行しなかったといわれた。その後、一〇か月の特別集中コースを代理受講の方法で受講することとし、五〇三万五〇〇〇円を振込送金した。受講途中である平成六年九月ころ、指導場所が代々木グランフォーレ代々木に変更された。これらの受講による効果はなく、平成六年八月には車椅子に乗らなければ動けなくなった。本訴請求外の交通費も一一六万一〇〇〇円と多額に上っている(甲第四二号証の二)。
原告X24 昭和三六年六月一九日生まれ。千葉県旭市在住。体が弱く、体力もない。平成四年一一月一二日の追跡と平成五年四月九日のズームイン夜を見る。本を見て平成六年二月中旬ころ、高田馬場の事務所の紹介を受け、一日体験コースを申し込み、二万五〇〇〇円を支払って受講した。平成六年二月二一日、二か月体験コースの申込みをし、五〇万五〇〇〇円を支払った。しかし、四回通っても効果がないので、以後は通っていない(甲第四二号証の三)。
原告X25 昭和二九年二月一日生まれ。神奈川県秦野市在住。不妊症。平成五年一二月一九日の日曜スペシャルを見て被告Y1を知り、番組で紹介された住所に葉書を出してY1事務所からの案内を受けた。平成六年一月中旬ころ、高田馬場の治療所で一日体験コースを受講し、一月二六日に二か月体験コースを申し込み、五〇万五〇〇〇円を振込送金し、同日から三月二〇日まで通ったが効果がなかった。途中原因透視鑑定が行われ、神経が悪いなどと説明を受け、ミルクが悪いともいわれた。それ以上は受講しなかった(甲第四二号証の四)。
原告X26 昭和一九年二月一一日生まれ。東京都足立区在住。両腕と両足が自由に動かず、動かすと痛みが走るという症状にあり、原因は不明であった。平成四年一一月一二日の追跡を見て被告Y1を知り、当日、日本テレビに電話照会をし、Y1事務所の紹介を受けた。一一月一六日、代々木那須ビルのY1事務所を訪れ、透視鑑定を受け、一〇万五〇〇〇円を支払った。その際、神経症であり、このままだと五〇歳の時に脳梗塞で倒れ、右半身が完全に麻痺するといわれ、更に、一〇か月集中コースに入れば九八パーセントか九九パーセントの確率で治るが、三百数十万円かかるといわれ、二〇〇万円しか払えないというと、それに見合った回数にして一〇か月集中コースを受講できるといわれ、その場で申込みをし、平成四年一二月一七日に八九万円、平成五年二月一六日に一〇一万円の合計一九〇万円を支払い、右透視鑑定料も含めて二〇〇万五〇〇〇円を支払った。平成五年四月一日と四月九日に放映されたズームイン朝及びズームイン夜の番組を見るよう勧められ、ビデオ録画して何度も見た。しかし症状がよくならず、夫の反対もあって受講を中止した(甲第四二号証の五)。
原告X27 原告X28及び原告X29 栃木県在住の母G(平成八年三月七日死亡。当時八〇歳)が脳梗塞の後遺症で半身不随の状態にあった。平成五年一二月一九日の日曜スペシャルを母と原告X28が見て被告Y1を知り、日本テレビに照会をしてY1事務所の案内を受けた。母が動けないので原告X28が代理指導を受けることとし、平成六年四月五日高田馬場のY1難病研究会を訪れ、二か月代理体験コースの申込みをし、五〇万五〇〇〇円支払った。平成六年五月三日、透視鑑定を受けたところ、被告Y1は、患者が母であるのに、父と間違えて説明した。平成六年六月九日、一〇か月特別集中指導代理コースを申し込んだ。指導料のうち三〇〇万円をその場で現金で支払い、残金二〇三万五〇〇〇円は六月一六日に現金で支払った。平成六年九月に高田馬場の荒井ビルから代々木のグランフォーレ代々木に会場が移転した。平成七年三月三〇日に特別集中指導代理コースが終了したが症状の改善はなく、平成八年二月二九日、母は脳梗塞が再発して入院し、三月七日死亡した(甲第四二号証の六)。
原告X30 昭和二二年七月二五日生まれ。東京都渋谷区在住。母H(大正一〇年一〇月一四日生まれ)が脳梗塞後遺症で足の機能が悪化していた。友人から平成五年一二月一九日の日曜スペシャルの放映内容を知らされ、平成六年三月ころ、日本テレビに電話照会をし、Y1事務所の紹介を受けた。平成六年四月ころ、高田馬場の治療所を訪れ、五万円支払って母の代理受講ということで、一日体験コースを二回受講し、その後、二か月体験コースを申し込み、五〇万五〇〇〇円を同月ころ支払い、六月ころまで母の代理ということで同コースを受講した。途中、原因透視鑑定を受け、内臓などに病気があり、あぶないからすぐ病院に入院したほうがよいといわれ、被告Y1の治療能力に疑問を感じ、それ以上の受講は中止した(甲第四二号証の七)。
二 詐欺の事実の有無
前記一認定の事実に基づいて、被告Y1及び被告Y2が詐欺により原告らから治療費等の名目で金員を取得したといえるかどうかについて検討する。
1 資格及び経歴の詐称
被告Y1は、わが国において、気功を用いて治療行為を行うに際し、医師資格がないのに、中国の一ホテルの気功師として招聘された際の書状に「気功医師」と誤記されていたことを利用して、気功医師と称し、また、大学卒業歴もないのに、北京中医学院を首席で卒業したと称し、そのことが本件テレビ放映において全国に広く知られるように仕向け、更に、平成五年一一月以降は、医学博士とまで自称し、そのことを日本テレビが出版した本において誇示している。このように、テレビ及び出版物により、学歴・学位・医師資格の全てについて虚偽の事実を広く流布しているほか、平成五年一月に日本テレビから出版された本において、北里大学での検査の結果、身体の構造、血管、神経等が特殊であることが確認されたとの虚偽の記載をし、祖母、母親とも超能力者であり、自らも先天的超能力者であったとし、本件テレビ放映においても、超能力を有することを標榜している。
これらの資格及び経歴の詐称は、常軌を逸したものであるが、標榜されている資格・経歴が中国内での資格・経歴であるために、わが国においては露顕しにくいという特色があり、その結果、全国規模のテレビ放映及び出版により虚偽の資格及び経歴が国内に広く流布されたにもかかわらず、それが露顕するのが遅れ(本件訴訟における立証活動の中で初めて虚偽であることが確認された事項も少なくない)、これを信じて高額の治療費を支払う者が多数に上ったという事情がある。このような資格・経歴の詐称がなければ、これほどまでに被告Y1が高額の治療費を収受することはありえなかったものであり、その意味で、この資格・経歴の詐称は、重要な意味を有する。
2 治療行為に関する虚偽の説明
気功の効能は、中国における長い歴史と最新の医学機器により、その効果の検証がなされており、気功が神経や内分泌系あるいは筋肉に作用し、鎮痛効果、血圧の低下その他の効果をもたらすことは、わが国医学界においても、専門の研究者の間では一般的認識となっているにもかかわらず、被告Y1は、気功による治療行為の効果を超能力による治療効果であると称し、また、被告Y1は、中国において、気功により胃の病気、神経系統及び気功糾偏の治療をするのが得意であったにすぎないのに、あたかも難病一般について、気功とは異なった「宇宙パワー」という超能力により、相当程度の割合で治療効果があるかのように説明し(密室で患者自身又はその親族に対して説明する場合には、九〇パーセント以上の割合で治る旨話している)、高額の治療費の支払を受けたものである。これらの虚偽の説明は、「超能力医療」「奇跡」などの表現による修飾が加えられて、本件テレビ放映及び本の出版により広く流布され、これを信用する者がそれだけ多くなったものである。
被告Y1は、難病により同被告の治療所に通えない者に対し、代理受講において代理人に宇宙パワーを送って患者を治すことができるという説明をしている。しかし、講習会場で代理人に送った「宇宙パワー」が自宅にいる本人に作用するなどということは、いかに内容が解明されていない東洋医学といえども、およそありえないことであり、これは講習会場に来ることのできない者からも金銭を集めようとする方便にすぎない。また、気功による症状の回復は一時的なものである可能性があるのに、テレビ放映においては、そのような説明をしていない。このことも、虚偽の説明の一種といえる。Y1の著書において、「本の表紙と口絵に、私は宇宙の気を入れました」として、表紙に手をかざして掌が熱く感応するかどうかによって読者の健康状態を説明するという手法も、これと同様の手法である。これらの虚偽説明も、被告Y1が多額の治療費を収受するための重要な手段となっている。
3 問題の指摘に備える計画性
被告Y1の行為は、患者に手を触れるものではないので医事行為として摘発するのが困難であり、また、被告Y1は、本件テレビ放映を見て照会してくる一般の者に対しては、「治療」とか「治る」という用語を避け、それぞれ「指導」及び「改善される」という用語に置き換えて、その治療行為が問題とされた場合に備えている。しかし、その一方、一日体験コース、二か月体験コース等の短期コースを受講した者に対しては、一〇か月集中コースのような高額で長期のコースを受講すれば九〇パーセント以上の確率で「治る」旨を個別に、口頭で、しかも密室内で説明して受講を勧誘しており、法による摘発を予測し、これを免れるための計画的かつ巧妙な手法を用いている。また、治療効果が上がらないという不満に対しては、Y1を信用するかどうかにより効果が異なるとの説明をあらかじめ用意するなど、不服申立てに対処するための手口も巧妙である。
4 被告Y1の行為の評価
以上の行為は、いずれも巧妙に法律に基づく摘発をかいくぐろうとするものであるが、これらの行為を総体としてみると、被告Y1の行為は、難病又は回復困難な症状に悩み、治療効果が生ずることを願う患者から治療費ないし指導料名下に多額の金員をだまし取る詐欺行為であるということができる。
通常の精神状態の者であれば、被告Y1によるこれらの治療行為ないし指導がまやかしであることは見抜けるはずであるが、難病又は回復困難な症状に悩む者や、日々その近くにいて何とか治してやりたいと願っている近親者は、いわばワラにもすがりたい心理状態にあり、治癒の可能性があれば、たとえそれが高額であっても試みてみようとする気持ちが極めて強いものであり、そのような平常心でいられない難病又は回復困難な症状にある患者及び近親者の心理を巧みに利用し、しかも、テレビ放映及び出版を利用して収奪の拡大を図った点で、被告Y1の行為は、巧妙かつ悪質であるといえる。
5 被告Y2の共同不法行為
被告Y2は、被告Y1の夫であり、被告Y1が日本語の能力に十分でなかったこともあって、患者に対して治療行為を行う場合を含め、常に被告Y1と行動を共にし、被告Y1の不十分なところを補いつつ、被告Y1の右詐欺行為について、すべての事情を承知し、かつ、自らもその企てに積極的に関与してきたものであり、したがって、被告Y2は、被告Y1の詐欺行為を共同して遂行したものであり、被告Y1の不法行為につき、共同不法行為者の立場にあるものといえる。
三 原告らの損害額
原告らは、いずれも治療が困難な病気又は障害に悩む者であり、被告Y1及び被告Y2の巧妙な説明を受け、また、本件テレビ放映や出版物の内容に影響されて、被告Y1に難病の治療能力があるものと信じ、病気又は障害の回復を願う一心から、東京都や、千葉県、神奈川県、埼玉県等の近県のほか、秋田県、福島県、栃木県、群馬県、富山県、静岡県などの遠方からも東京都内にある被告Y1の治療所を訪ね(大阪市から京都の治療所に通った者一名を含む)多額の治療費又は指導料を支払い、治療効果の全くなかった者であり、原告らが治療費又は指導料(遠方から通った一部の者の交通費を含む)として支出した金員(別紙損害表中の「治療費他」欄記載のとおり。合計八九一〇万六四〇〇円)は、被告Y1及び被告Y2の詐欺による不法行為によって生じた損害であると認めることができる。また、原告らが本訴において求めている慰謝料(別紙損害表中の「慰謝料」欄記載のとおり。合計八九一万〇六四〇円)及び弁護士費用(別紙損害表中の「弁護士費用」欄記載のとおり。合計八九一万〇六四〇円)は、いずれも節度を持った控えめな請求であり、その全額を被告Y1及び被告Y2の右不法行為による損害と認めて差し支えない。
したがって、原告らが被告Y1及び被告Y2の不法行為によって被った損害の合計額は、一億〇六九二万七六八〇円となる。右被告らは右損害額について、治療費等の最終弁済日の後である別紙損害表中の「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
四 結論
以上のとおり、原告らの請求は、いずれも理由があるから認容することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官園尾隆司 裁判官青沼潔 裁判官井上正範)
(別紙)
損害表(平成八年(ワ)五四一〇号)
番号
氏名
治療費他
慰謝料
弁護士費用
合計額
遅延損害金起算日
一
X1
四五三万六〇〇〇円
四五万三六〇〇円
四五万三六〇〇円
五四四万三二〇〇円
九四年四月一日
二
X2
二二一万五〇〇〇円
二二万一五〇〇円
二二万一五〇〇円
二六五万八〇〇〇円
X3
二二一万五〇〇〇円
二二万一五〇〇円
二二万一五〇〇円
二六五万八〇〇〇円
(小計)
四四三万〇〇〇〇円
四四万三〇〇〇円
四四万三〇〇〇円
五三一万六〇〇〇円
九四年四月六日
三
X4
三七七万五〇〇〇円
三七万七五〇〇円
三七万七五〇〇円
四五三万〇〇〇円
九三年一一月二九日
四
X5
五〇万五〇〇〇円
五万五〇〇円
五万五〇〇円
六〇万六〇〇〇円
九四年二年一日
五
X6
四八八万〇〇〇〇円
四八万八〇〇〇円
四八万八〇〇〇円
五八五万六〇〇〇円
九五年八月二五日
六
X7
四四八万〇〇〇〇円
四四万八〇〇〇円
四四万八〇〇〇円
五三七万六〇〇〇円
九四年四月一日
七
X8
四七〇万五〇〇〇円
四七万〇五〇〇円
四七万〇五〇〇円
五六四万六〇〇〇円
九三年九月一日
八
X9
五二四万〇〇〇〇円
五二万四〇〇〇円
五二万四〇〇〇円
六二八万八〇〇〇円
九三年八月七日
九
X10
四四三万〇〇〇〇円
四四万三〇〇〇円
四四万三〇〇〇円
五三一万六〇〇〇円
九四年三月二一日
一〇
X11
五六九万〇〇〇〇円
五六万九〇〇〇円
五六万九〇〇〇円
六八二万八〇〇〇円
九四年四月一四日
一一
X12
四五八万〇〇〇〇円
四五万八〇〇〇円
四五万八〇〇〇円
五四九万六〇〇〇円
九五年九年七日
一二
X13
六〇万五四〇〇円
六万〇五四〇円
六万〇五四〇円
七二万六四八〇円
九四年五月二七日
一三
X14
三八五万〇〇〇〇円
三八万五〇〇〇円
三八万五〇〇〇円
四六二万〇〇〇〇円
九三年六月一六日
一四
X15
四七七万五〇〇〇円
四七万七五〇〇円
四七万七五〇〇円
五七三万〇〇〇円
九三年五月二四日
一五
X16
五六四万〇〇〇〇円
五六万円四〇〇〇円
五六四万四〇〇〇円
六七六万八〇〇〇円
九四年五月一九日
一六
X17
五五万五〇〇〇円
五万五五〇〇円
五万五五〇〇円
六六万六〇〇〇円
九四年二月七日
一七
X18
五三万〇〇〇〇円
五万三〇〇〇円
五万三〇〇〇円
六三万六〇〇〇円
九三年九月二七日
一八
X19
五〇万五〇〇〇円
五万五〇〇円
五万五〇〇円
六〇万六〇〇〇円
九四年二月一日
一九
X20
五二三万〇〇〇〇円
五二万三〇〇〇円
五二万三〇〇〇円
六二七万六〇〇〇円
九三年一〇月五日
二〇
X21
五三万〇〇〇〇円
五万三〇〇〇円
五万三〇〇〇円
六三万六〇〇〇円
九四年三月一四日
合計額
六九四七万一四〇〇円
六九四万七一四〇円
六九四万七一四〇円
八三三六万五六八〇円
(別紙)
損害表(平成八年(ワ)一五三〇三号)
番号
氏名
治療費他
慰謝料
弁護士費用
合計額
遅延損害金起算日
一
X22
四九三万五〇〇〇円
四九万三五〇〇円
四九万三五〇〇円
五九二万二〇〇〇円
九三年一二月一四日
二
X23
五五四万〇〇〇〇円
五五万四〇〇〇円
五五万四〇〇〇円
六六四万八〇〇〇円
九四年五月二六日
三
X24
五三万〇〇〇〇円
五万三〇〇〇円
五万三〇〇〇円
六三万六〇〇〇円
九四年二月二一日
四
X25
五三万〇〇〇〇円
五万三〇〇〇円
五万三〇〇〇円
六三万六〇〇〇円
九三年一月二六日
五
X26
二〇〇万五〇〇〇円
二〇万〇五〇〇円
二〇万〇五〇〇円
二四〇万六〇〇〇円
九三年二月一六日
六
X27
一八四万六六六六円
一八万四六六六円
一八万四六六六円
二二一万六〇〇〇円
九四年六月一六日
X28
一八四万六六六六円
一八万四六六六円
一八万四六六六円
二二一万六〇〇〇円
X29
一八四万六六六六円
一八万四六六六円
一八万四六六六円
二二一万六〇〇〇円
(小計)
五五四万〇〇〇〇円
五五万四〇〇〇円
五五万四〇〇〇円
六六四万八〇〇〇円
七
X30
五五万五〇〇〇円
五万五五〇〇円
五万五五〇〇円
六六万六〇〇〇円
九四年五月一日
合計額
一九六三万五〇〇〇円
一九六万三五〇〇円
一九六万三五〇〇円
二三五六万二〇〇〇円