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東京地方裁判所 平成8年(ワ)18727号 判決 1998年7月16日

原告

有限会社甲野ガーデン

右代表者代表取締役

甲野春夫

右訴訟代理人弁護士

大原誠三郎

田辺一男

被告

有限会社甲野ガーデン

右代表者代表取締役

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

宮崎治子

宮崎章

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

被告は「有限会社甲野ガーデン」の商号を使用してはならない。

第二  事案の概要

本件は、原告会社がその商号と同一の商号を有する被告会社に対し、被告会社は不正競争の目的(商法二〇条一項)ないし不正の目的(同法二一条一項)をもって右商号を使用しているとして、右商号の使用の差止めを求めている事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、昭和五九年二月一八日に生花、鉢物、苗木の仲卸及び販売等を目的として設立された有限会社であり、「有限会社甲野ガーデン」という商号を登記している。(争いがない。)

被告は、平成八年四月一五日に生花、鉢物小売業等を目的として設立された有限会社であり、その商号は原告と同一である。(甲第一号証)

2  甲野太郎(以下「太郎」という。)及び甲野花子(以下「花子」という。)は、昭和四九年一月七日に婚姻の届出をし、長男一郎及び二男二郎をもうけたが、平成元年八月三〇日に協議離婚の届出をした。(争いがない。)

3  原告会社が設立される以前にも、その本店所在地において、「甲野ガーデン」の名称で生花販売業が営まれていた。昭和五九年二月一八日に原告会社が設立され、その本店所在地において生花販売業を営み始めたが、右設立当時、太郎が駒込生花市場に勤務していたため、花子が代表取締役に、太郎が取締役にそれぞれ就任した。(争いがない。)

4  太郎及び花子は、平成元年八月に協議離婚していったん別居したものの、平成二年初めには再び同居するに至り、平成八年一月ころまで同居を続けた。この間、平成二年一二月には、原告会社の本店所在地にあった平家建ての居宅兼店舗を取り壊して新たに一階を原告会社の店舗、二階を右両名ら家族の住居とする建物(以下「本件建物」という。)を建築した。(同居期間等につき証人太郎。その余の事実は、争いがない。)

5  太郎は、平成元年一月二五日、生花店の経営等を目的とする有限会社○○を設立し、その代表取締役に就任した。花子は、同年一二月二三日、原告会社の代表取締役及び取締役を辞任し、翌二四日、太郎がその代表取締役に就任した。花子は、平成三年四月一日、再び原告会社の取締役に就任した。太郎は、平成四年一一月六日、生花の卸売業等を目的とする株式会社△△を設立し、その代表取締役に就任する一方、平成五年一月一七日、原告会社の代表取締役を辞任し、以来、太郎の実兄である甲野春夫が名義上原告会社の代表取締役となっている。(甲第四号証並びに乙第二号証及び第三号証)

6  花子は、平成五年四月二七日、太郎を相手方として、東京家庭裁判所に財産分与調停の申立てをした。(争いがない。)

右調停は、その後審判に移行し、平成九年一〇月二七日、本件建物の持分二分の一などを太郎から花子に財産分与する旨の審判がされ、花子及び太郎の双方が即時抗告をしたが、平成一〇年五月一三日、東京高等裁判所によって右抗告をいずれも棄却する旨の決定がされた。(乙第二二号証及び第三三号証)

7  原告会社は、平成七年一一月末日、原告会社の従業員を解雇して休業し、以来、営業活動をしていない。(争いがない。)

8  その後も、本件建物において「甲野ガーデン」の名称を用いて引き続き生花販売業が営まれており、花子は右営業に従事している。(争いがない。)

9  太郎は、平成八年一月ころ、本件建物を出て他所で生活するようになり、同年七月ころ、本件建物に居住している花子及び被告会社を相手方として本件建物の明渡しを求める訴訟(東京地方裁判所平成八年(ワ)第一二八二八号)を提起したが、その後、前記抗告棄却決定直後の平成一〇年五月二七日、右訴えを取り下げた。(乙第四六号証及び第四七号証)

10  平成八年三月一四日、原告会社の社員総会が開催され、花子について、原告会社の取締役を解任する旨の総会決議がされた。(争いがない。)

11  平成八年四月一五日、被告会社が設立され、太郎及び花子の長男である一郎が代表取締役に、花子が取締役にそれぞれ就任した。(甲第一号証)

二  争点

1  被告会社が本件建物において生花販売業を営んでいるか否か。

(原告の主張)

被告会社は、本件建物において生花販売業を営み、原告会社の商号と同一の商号を使用している。

(被告の主張)

本件建物において「甲野ガーデン」という名称で生花販売業を営んでいるのは、花子であって被告会社ではない。

2  被告会社が不正競争の目的(商法二〇条一項)ないし不正の目的(同法二一条一項)をもって商号を使用しているか否か。

(原告の主張)

(一) 原告会社は、本店所在地で一〇年以上にわたり生花販売業を営み、十分な信用を得て取引者及び需要者に広く認識されているところ、被告会社は、長年にわたって築き上げてきた原告会社の信用名声を自らの営業に有利に利用する目的で設立され、原告会社の本店所在地で生花販売業を営んでいるものであって、「有限会社甲野ガーデン」という商号を不正競争の目的ないし不正の目的をもって使用している。

(二) 被告は、原告会社が休業中であることを理由に被告会社に不正競争の目的ないし不正の目的がない旨を主張するが、原告会社の休業は一時的なものに過ぎず、それによって原告会社が商法二〇条一項ないし同法二一条一項によって保護されるべき利益を失うものではない。

(被告の主張)

(一) 商法二〇条一項の「不正の競争の目的」及び同法二一条一項の「不正の目的」とは、自己の営業を商号使用者の営業と混同誤認させ、その商号の有する信用等を自己の営業に利用しようとする意図をいうのであって、その前提として、両者の間に当該営業について実際に競争関係の存在することが必要である。ところが、本件では、原告会社は、平成七年一二月から一切の営業活動をしておらず、他方、従来原告会社の実体は太郎と花子の経営による個人企業であったもので、「有限会社甲野ガーデン」という商号の使用についても、花子が従前から営んでいた生花業を継続しているものにすぎず、原告会社と被告会社との間に競争関係は存在しない。したがって、被告会社に不正競争の目的ないし不正の目的はない。

(二) 仮に原告会社が一時的に休業しているだけであるとしても、休業中の登記商号の専用権は弱く解すべきであり、殊に原告会社のように周知性のない商号で休業中の場合は、同一市町村に属さない被告会社に対して、商号使用禁止の主張をすることはできない。

3  原告会社の請求が権利の濫用であるか否か。

(被告の主張)

(一) 花子は、太郎と婚姻後の昭和四九年秋ころから、二人の住まいであった原告会社の本店所在地において、単独で「甲野ガーデン」の屋号で生花販売業を始めた。太郎と花子は、昭和五九年二月一八日、各々二五〇万円を出資して原告会社を設立し、以来、花子がその日常販売業務を、太郎が経理業務をそれぞれ担当し、人手の足りない分を数名の従業員とアルバイトでまかなっていた。太郎が有限会社○○及び株式会社△△を設立した後も、従前と同様、花子が原告会社の日常販売業務を担当し、原告会社の経理業務については、太郎が税理士と相談して処理していた。原告会社の実体は、太郎と花子の個人企業にすぎず、世間的には、「甲野ガーデン」といえば、原告会社の日常販売業務を担当してきた花子を指すものと理解されている。

(二) 花子と太郎は、昭和五〇年ころから、太郎の女性問題のため不仲となり、平成元年八月、離婚届を提出した。右両名は、その後も同居を続け、内縁関係にあったが、平成四年に至り、花子は、太郎の女性問題から実質上も離婚を決意し、前記のとおり、東京家庭裁判所に財産分与の申立てをした。そして、太郎が、平成七年一一月末日で原告会社の店舗を閉鎖し、翌八年一月半ばには、住居である本件建物を出て他所で生活するようになったことから、花子は、その生活の基盤を維持するため、平成七年一二月以降、個人資金を投入して、本件建物の一階で長男の一郎と共に生花販売業を営むようになったものである、太郎は、自らは有限会社○○及び株式会社△△を経営して潤沢な収入を得ているのに、花子に対して本件建物の明渡請求訴訟をも提起しており、本件訴訟は、原告会社の実質的代表者である太郎が花子の収入を絶つ目的で提起したものであるといわざるを得ない。

(三) 以上からすれば、原告会社の請求は、権利の濫用である。

(原告の主張)

(一) 原告会社の前身である「甲野ガーデン」は、太郎と太郎の実父が昭和五〇年六月ころに始めたもので、花子が昭和四九年秋ころから一人で始めたものではないし、花子が中心となって営業していた事実もない。花子が行っていたことは、書類整理や伝票付け、太郎不在時の店番程度である。

(二) 花子は、平成五年に株式会社△△が設立され、太郎が原告会社の店舗を空けることが多くなったことを機会に、原告会社の経営に関与するようになったが、その後、原告会社の売上額が極端に減少するなど、その経営内容に不明朗な部分が発生するようになった。そこで、太郎は、花子の不正経営によって赤字が拡大する事態を避けるために、やむを得ず平成七年一一月末に原告会社の一時休業を決意し、従業員にも正式に退職してもらうとともに、得意先にも店舗をいったん閉鎖する旨を連絡した。その後、太郎が本件建物で残務整理をしていたところ、花子が太郎を泥棒呼ばわりして警察を呼んだり、泣きわめいて電話をかけるなどの行動に及んだので、太郎は、平成八年一月、身の安全のためにやむを得ず家を出た。ところが、花子は、一郎を代表取締役にして被告会社を設立し、何らの権原もないのに本件建物で生花販売業を営み始め、被告会社が本来負担すべき債務を原告会社が負担しかねない事態が生ずるようになった。そこで、原告会社は、本件訴訟を提起するとともに花子及び被告会社を相手方として本件建物の明渡請求訴訟を提起したものである。

花子は、被告会社本店所在地にアパートを所有し、その賃料を収受しているほか、不動産仲介業や損害保険代理店などの事業を行い、十分な収入を得ているのであって、本件訴訟の提起については、花子に対する嫌がらせなどの目的は全くない。

(三) したがって、原告会社の請求は、権利の濫用ではない。

第三  当裁判所の判断

一  前記の争いのない事実等に甲第五号証、第四三号証、乙第六号証、第七号証の一、二、第八号証、第一六号証の一ないし一二、第二〇号証、第二二号証、第二四号証の一、二、第二八号証、第三三号証、第三五号証の一、二、第三六号証の一、二、第三七号証の一、二、第三八号証ないし第四〇号証、第四四号証、第四五号証の一、二、第四六号証、第四七号証、証人太郎及び同花子の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  花子と太郎は、昭和四九年一月七日に婚姻の届出をし、昭和五一年一月一八日に長男一郎を、昭和五四年四月二三日に二男二郎をもうけた。花子と太郎は、婚姻後やがて二人の住まいであった原告会社の本店所在地において、「甲野ガーデン」の名称で生花販売業を始め、昭和五九年二月には、これを会社組織とすべく、原告会社を設立した。原告会社設立当時、太郎は駒込生花市場に勤務していたため、花子が代表取締役に、太郎が取締役にそれぞれ就任し、花子が原告会社の日常の販売業務を、太郎が右生花市場勤務の傍ら、仕入れ及び経理業務をそれぞれ担当することとなった。

2  ところで、太郎及び花子の夫婦関係は、昭和五〇年ころから太郎が度重なる女性問題を起こしたため不仲となり、花子も太郎に対抗するように男性関係を持ち、平成元年八月三〇日、ついに離婚するに至った。花子は、離婚後間もなく単身家を出て、太郎と数ヵ月間別居し、また、平成元年一二月二三日、原告会社の代表取締役及び取締役を辞任し、原告会社の業務から離れたが、平成二年初めには、太郎のもとに戻って同居を再開し(なお、同居は、平成八年一月ころまで続いた。)、内縁関係となり、原告会社の業務にも再び携わるようになった(再同居後の両名が内縁関係にあったことは、太郎が、マンションの賃貸借契約や全労済との間の共済契約において、花子を配偶者として取り扱っていること、太郎及び花子は、平成二年八月及び平成三年八月に一家四人で家族旅行をし、平成五年四月には結婚式の媒妁人をしたこと、花子は、太郎が再同居後の平成四年秋ころに男女関係を生じた女性に対して、慰謝料請求の訴訟を提起し、一二五万円の和解金を取得していることなどの事実から明らかというべきである。)。以来、原告会社の経営は、太郎と花子の二人によって行われていた。

3  太郎と花子は、平成二年一二月には、原告会社の本店所在地にあった居宅兼店舗を取り壊して新たに一階を原告会社の店舗、二階を右両名ら家族の住居とする本件建物(ただし、登記名義は太郎単独となっている。)を建築するなどし、原告会社の業務を拡張していった。花子は、平成三年四月、再び原告会社の取締役に就任し、他方、太郎は、平成四年、それまで勤めていた生花市場を退職し、同年一一月六日、株式会社△△という生花卸売会社を設立し、その代表取締役に就任して、自らの事業の展開を図った(なお、右会社設立後は、原告会社は、同社から生花を仕入れていた。)。平成五年一月一七日、太郎の実兄である甲野春夫が太郎に代わって原告会社の代表取締役に就任したが、同人は、名目上の代表者であり、原告会社の経営に携わることはなく、その後も依然として太郎及び花子が原告会社の経営に当たっていた。

4  ところが、平成四年ころ、再び太郎に女性問題が生じたため、花子は、太郎との関係を清算することを決意し、平成五年四月、東京家庭裁判所に財産分与の調停を申立て、以後、太郎と性的関係を持つこともなくなった。その後、右調停は、不調のため審判に移行したが、その審理における主たる争点の一つとして、本件建物が分与対象財産であるかどうかという点があった。

5  太郎は、右審判係属中の平成七年一一月、同月末日をもって原告会社を一時休業することとし、従業員二人を解雇するとともに、得意先にも店舗をいったん閉鎖する旨を連絡した。以来、原告会社は、営業活動を一切していない。しかし、花子は、同年一二月以降も本件建物に居住し、一郎らの手伝いを得ながら、本件建物において、従前と変わることなく、「甲野ガーデン」という名称で生花販売業を続けた。

6  太郎は、平成七年一二月、深夜に本件建物から花子が私費で仕入れた販売用の生花などをトラックを用いて勝手に運び出そうとして、これを阻止しようとした花子に対し、暴力を振るったことがあったことなどもあり、平成八年一月半ばには、本件建物を出て他所で生活するようになり、また、被告会社及び花子を相手方として本件建物の明渡しを求める訴訟(東京地方裁判所平成八年(ワ)第一二八二八号)を提起した。

7  平成八年三月一四日、原告会社の社員総会が開催され、花子を原告会社の取締役から解任する旨の総会決議がされた。花子は、同年四月一五日に被告会社を設立し、一郎がその代表取締役に就任し、花子自らはその取締役に就任した。その後も、本件建物においては、従前と同様、花子及び一郎らが生花販売業に携わっている。

8  平成九年一〇月二七日、東京家庭裁判所において、本件建物の持分二分の一を財産分与する旨の審判がされた。太郎及び花子の双方が右審判に対して即時抗告をしたが、平成一〇年五月一三日、東京高等裁判所において、抗告棄却の決定がされた。そして、その直後の同月二七日、太郎は、本件建物の明渡しを求める前記訴訟を取り下げた。

二  甲第六号証、第七号証、第二九号証ないし第三二号証、第三三号証の一、第三四号証の一、第三五号証、第三六号証、第四二号証、第五四号証及び第五五号証の一ないし三、乙第九号証、第一〇号証、第一四号証及び第一八号証、証人花子の証言並びに弁論の全趣旨によれば、花子が被告会社設立後、本件建物における生花販売業務に関して使用した伝票や名刺には、単に「甲野ガーデン」とするのではなく、「有限会社甲野ガーデン」という名称と共に本件建物の所在地が併せて記載されているものがあること、被告会社宛の請求書や納品書には、宛先住所として本件建物の所在地が記載されているものがあること、花子は、本件建物における生花販売業務に係る取引先からの請求書や領収書について、宛先が「有限会社甲野ガーデン」と記載されたものをそのまま受領していたこと、被告会社の本店所在地においては、生花販売業等の何らの営業も営まれていないこと、被告は、足立社会保険事務所において、足立区内を事業所在地として健康保険や厚生年金の手続をとっていることが認められる。

右認定の事実に前記一認定の事実、殊に花子の取締役解任決議の約一か月後に被告会社が設立されていることや、被告会社の代表者たる一郎が本件建物における生花販売業に直接携わっていることなどを総合すれば、本件建物において生花販売業を営んでいるのは、被告会社であると認められる。

証人花子は、相続税対策のために被告会社を設立した旨を証言するが、その内容は合理性を欠くものであり、直ちに信用することはできない。また、同証人は、本件建物における生花業の収入については、花子個人の所得として税務申告している旨を証言し、乙第三〇号証の一及び二、第三一号証(所得税確定申告書控)には、これを裏付けるかのごとき記載もあるが、右各確定申告書はいずれも平成九年一〇月以降に税務署長宛に提出されたものであって措信し難く、右証言も直ちに信用し得るものではない。したがって、本件建物での生花販売業の主体が花子であるとの被告主張は採用できない。

三 商法二〇条一項の「不正の競争の目的」とは、自己の営業を既登記商号権者の営業と混同誤認させ、当該商号の有する信用ないし経済的価値を自己の営業に利用しようとする意図をいうのであって、その前提として、両者の間に当該営業について現に競争関係の存在することを要するものというべきである。

前記一認定の事実を総合すれば、本件建物における生花販売業は、当初から太郎及び花子の夫婦によるものであって、原告会社設立の後においても、その実態は、太郎及び花子の経営による個人企業にほかならない。そして、本件建物においては、原告会社が平成七年一一月末日をもって休業した後においても、その実質的経営者の一人である花子によって、同一の場所で同一の形態により生花販売業が継続されていたものであり、その後に被告会社が設立された後も、花子による営業が単に法人成りしただけで、実質的には原告会社の営業をそのまま一貫して引き継ぐ形で生花販売業が営まれていたものというべきである。他方、原告会社のもう一方の実質的経営者である太郎は、平成八年一月半ばには住居たる本件建物から出て、他所で生活するようになり、平成七年一二月以降、原告会社の営業を再開させることもなく、今日に至っている。そうすると、原告会社は、約二年七か月余りの長期にわたって一切の営業活動をしておらず、その営業の実体を有していないものであり、原告会社と被告会社との間には、その営業に関し実際上何らの競争関係も存在しないといわざるを得ない。

原告は、原告会社は単に一時的に休業中であるにすぎない旨を主張し、証人太郎は、これに沿う供述をするが、原告会社の休業が右のような長期間に及んでいることに照らせば、原告会社が営業の実体を有していないことは明らかである(前記認定の経緯に照らせば、本件訴訟は、原告会社の実質的経営者である太郎が、花子との間で財産分与や本件建物の明渡しについて係争中であったことから、専らこれらの紛争を太郎に有利に推移させることを目的として提起したものというべきである。)。

したがって、被告会社に商法二〇条一項の「不正の競争の目的」があると認めることはできない。

四 商法二一条一項の「不正の目的」とは、他人の営業を表示する名称を自己の営業に使用することにより、自己の営業を当該名称によって表示される他人の営業と誤認混同させようとする意思をいうものと解するのが相当である。

本件においては、前判示のとおり、被告会社の実態は原告会社の実質的経営者の一人であった花子の営業活動が単に法人成りしたものであり、本件建物における被告会社の営業は、実質的には、従前の原告会社の営業がその実質的経営者の一人である花子により同一の形態でそのまま継続されているものにすぎないから、被告会社に商法二一条一項の「不正の目的」があると認めることはできない。

五  以上によれば、被告は不正競争の目的(商法二〇条一項)ないし不正の目的(同法二一条一項)をもって「有限会社甲野ガーデン」という商号を使用しているものとはいえず、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官三村量一 裁判官長谷川浩二 裁判官中吉徹郎)

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