東京地方裁判所 平成8年(ワ)19445号 判決 1999年2月25日
原告
株式会社ウエスタン・アームス
右代表者代表取締役
国本圭一
右訴訟代理人弁護士
宗万秀和
川合順子
荒木和男
近藤良紹
早野貴文
川合晋太郎
被告
株式会社アングス精機販売
右代表者代表取締役
佐藤正彦
被告
有限会社ホビーショップフロンティア
右代表者代表取締役
山中彰
右被告両名訴訟代理人弁護士
河野玄逸
川村英二
同訴訟復代理人弁護士
曽我幸男
被告
株式会社三ツ星商店
右代表者代表取締役
錦織竝
右訴訟代理人弁護士
美村貞夫
土橋頼光
美村貞直
被告
CAROM SHOTこと
川本孝
右訴訟代理人弁護士
浅井正
被告
株式会社シェリフ
右代表者代表取締役
大西正道
右訴訟代理人弁護士
中島健仁
渡辺徹
八代紀彦
佐伯照道
天野勝介
森本宏
山本健司
滝口広子
児玉実史
生沼寿彦
飯島歩
中森亘
小瀧あや
奥田孝雄
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 原告の請求
一 被告株式会社アングス精機販売(以下「被告アングス」という。)は、原告に対し、一九二四万二〇〇〇円及びこれに対する平成九年四月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告有限会社ホビーショップフロンティア(以下「被告フロンティア」という。)は、原告に対し、六七一万五二〇〇円及びこれに対する平成九年四月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告株式会社三ツ星商店(以下「被告三ツ星」という。)は、原告に対し、六二〇万四〇〇〇円及びこれに対する平成九年四月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告CAROM SHOTこと川本孝(以下「被告川本」という。)は、原告に対し、八九八万円及びこれに対する平成九年四月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告株式会社シェリフ(以下「被告シェリフ」という。)は、原告に対し、三〇一四万円及びこれに対する平成九年四月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が被告らに対し、被告らが販売した商品は原告の商品の形態を模倣したものであり、被告らの行為は不正競争防止法(以下、単に「法」という。)二条一項三号に該当すると主張して、損害賠償(各被告の得た利益相当額及びこれに対する民法所定の遅延損害金)を請求している事案である(なお、原告は、本件訴訟において被告らによる商品の譲渡等の差止めも併せて求めていたが、本件訴訟係属中に原告の商品が最初に販売された日から三年を経過したことから、差止請求を取り下げた。)。
一 前提となる事実関係(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
1 当事者
(一) 原告は、遊戯銃の製造、販売及び輸出入を業とする株式会社である。
(二) 被告アングスは、遊戯銃及びその部品の小売業並びに部品の製造業を営む株式会社である。
(三) 被告フロンティアは、遊戯銃及びその部品の小売業を営む有限会社である。
(四) 被告三ツ星は、遊戯銃及びその部品等の卸売業を営む株式会社である。
(五) 被告川本は、遊戯銃の部品の製造及び販売を行う個人営業者である。
(六) 被告シェリフは、遊戯銃の部品の製造及び販売を業とする株式会社である。
2 原告の商品
(一) 原告は、平成六年九月ころから、別紙二「物件目録」の表一の①ないし⑦記載の各商品(以下「原告商品」と総称する。)を販売している。原告商品は、商品名を「コルト・ガバメント・ブローバック・モデル」という遊戯銃(以下「原告遊戯銃」という。)の部品である。
(二) 原告商品は、別紙三「展開図」に記載された原告遊戯銃の部品のうち①②④⑤で示されたものであり、その形態は、同「展開図」に記載されているとおりである。(甲一、検甲一ないし七)
3 被告らの商品
(一)(1) 被告アングスは、別紙二「物件目録」の表二の①ないし⑨記載の各商品(以下「被告アングス商品」と総称する。)を販売していた。
(2) 被告フロンティアは、同目録の表三の①ないし⑧記載の各商品(以下「被告フロンティア商品」と総称する。)を販売していた。
(3) 被告三ツ星は、同目録の表四の①ないし⑧記載の各商品(以下「被告三ツ星商品」と総称する。)を販売していた。
(4) 被告川本は、同目録の表五の①ないし③記載の各商品(以下「被告川本商品」と総称する。)を販売していた。
(5) 被告シェリフは、同目録の表六の①ないし⑪記載の各商品(以下「被告シェリフ商品」と総称する。)を販売していた。
(二) 被告アングス商品、被告フロンティア商品、被告三ツ星商品、被告川本商品及び被告シェリフ商品(以下「被告商品」と総称する。)は、いずれも遊戯銃の部品である。被告商品は、それぞれ、別紙二「物件目録」の表二ないし六の「該当する原告商品」欄に記載した原告商品と交換して、原告遊戯銃に組み込むことができる。それぞれの被告商品の形態は、別紙四「被告商品形態写真」のとおりである。(甲二ないし六、検甲八ないし三一、検戊二ないし五(枝番を含む。))
4 エアーソフトガン
原告遊戯銃は、エアーソフトガン又はエアガン(以下「エアーソフトガン」という。)と呼ばれる遊戯銃である。エアーソフトガンとは、ガスによってプラスチック製のBB弾と呼ばれる弾丸を発射する玩具銃(本物の銃器を模した玩具銃)であり、原告遊戯銃は、コルト社製の銃器である「コルトマークⅣシリーズ八〇ガバメントモデル」を模したものである。本物の銃器とエアーソフトガンでは、材質、構造等が全く異なり、本物の銃器においてはその材質が鋼鉄等で、火薬の爆発力により実弾を発射するのに対し、エアーソフトガンはプラスチック等を材質とし、ガスやスプリングによってBB弾を発射する。エアーソフトガンは、外観を実銃に似せつつ、全く独自の内部構造を研究し開発して商品化に至るものである。
二 争点及びこれに関する当事者の主張
1 原告商品について、その形態が「製作上不可避な形態」であることを理由として、法二条一項三号の適用が排除されるか。
(一) 被告らの主張
被告商品は、いずれも「カスタムパーツ」と呼ばれる原告遊戯銃の部品であり、原告遊戯銃に組み込まれて用をなさなければならないという本来的性質に伴い、その製作上不可避的に原告遊戯銃に取付け可能な形態にならざるを得ない。そして、互換性を維持するために他人の商品と必然的に同一の形態になる部品の形態までもが法によって規律されるとすれば、部品業者は窮地に追い込まれることになり、不正ないし不当な競争行為を規制するという同法の趣旨に反し、公正な競争を阻害することになる。したがって、原告商品については「製作上不可避な形態」として法二条一項三号の適用から除外されると解すべきである。
(二) 原告の反論
部品であっても、商品として独立して流通するものである限り、法二条一項三号の形態模倣禁止の対象となるのであり、現行法上その適用から除外されるのは「同種の商品が通常有する形態」のみである。なお、消耗部品及び修理用部品の市場保護並びに規格適合品の保護の必要性という市場政策的配慮を根拠に、形態模倣禁止の適用除外を認める見解もあるが、現行法が定める三年間という保護期間の制限に照らすと、部品の形態の開発のために資本と労力を投下した者を保護することが競争政策上不合理であるとは考えられない。部品であれば「製作上不可避な形態」として同号の適用から除外されるとの被告らの主張は、形態開発に向けられた労力と資本を保護するという立法趣旨から導き出せないものであり、解釈論としても妥当でない。
しかも、被告商品の市場性は、銃砲刀剣類所持等取締法及びこれに関連する日本遊戯銃協同組合の自主規制があるため、原告が原告遊戯銃の部品をプラスチック又は柔らかい金属で製造しなければならないことに依拠しているのであって、原告の開発努力にただ乗りして堅い金属製部品を製造し、法外な価格でマニアに販売するという被告らの行為を、原告の開発努力を犠牲にしてまで保護すべき実質的な理由はない。
したがって、原告商品につき「製作上不可避な形態」を理由に法二条一項三号の保護から除外すべきものとする被告らの主張は、失当である。
2 原告商品の形態が「同種の商品が通常有する形態」に当たるか。
(一) 被告シェリフの主張
原告は、被告シェリフが原告商品のうちアウターバレル、チェンバーカバー、ハンマー及びフローティングバルブの形態を模倣したと主張するが、アウターバレル、チェンバーカバー及びハンマーは、実銃に酷似されるべく製作されたモデルガンの部品であるから、これらの原告商品の形態に独自性はない。また、フローティングバルブは、空気の流れる方向をバルブによって切り換える基本方式であるポペット方式における方向制御弁にほかならず、被告シェリフは原告に先駆けてフローティングバルブを販売していた。
したがって、右の原告商品の形態は、法二条一項三号にいう「同種の商品が通常有する形態」に当たるから、その保護が及ばない。
(二) 被告川本の主張
原告は、原告商品のうちシアー及びハンマーの形態を被告川本が模倣したと主張するが、これらの原告商品の形態はMGC社製のモデルガンを模倣したものであり、被告川本商品は、原告商品だけでなく、MGC社製のモデルガンにも取り付けることができるものである。また、トリガーを引くとシアーが連動してハンマーが落ちるという機能及び構造は、実銃とエアーソフトガンとで同一であるから、原告商品及び被告川本商品は、実銃のシアー及びハンマーが通常有する形態を備えている。
したがって、原告商品の形態は「通常有する形態」というべきであるから、被告川本の行為は法二条一項三号に該当しない。
(三) 原告の反論
原告遊戯銃は、モデルガンではなく、エアーソフトガンである。モデルガンが、弾丸を発射できない点を除いては実銃を忠実に再現したものであって、その部品の形態も実銃の完全なコピーで独自性がないのに対し、エアーソフトガンは、外観は実銃に似せてあるものの、発射機構が実銃と全く異なっており、空気の圧力によってプラスチック弾を発射するという内部機構の作出のために開発努力が注がれ、部品の形態につき独自の工夫が凝らされている。そして、原告遊戯銃の部品である原告商品は、弾丸を発射した後にスライダ部が後方に押し下げられるという原告遊戯銃の特徴的な作動を実現すべき内部機構を構成するために独自に考案されたものであって、それぞれの形態は原告の長年の開発努力が結実したものであり、他の遊戯銃の部品の形態とは明らかに異なるものである。
原告遊戯銃は、玩具銃としての性格上、部分的には実銃の形態を援用している部分が含まれるが、原告は、かかる部分の模倣を問題にしているのではなく、原告が独自に資本と労力を投下して開発した商品形態を模倣する行為を問題にしているのである。
したがって、原告商品の形態は、「通常有する形態」に当たらない。
3 被告商品の形態は原告商品の形態を模倣したものか。
(一) 原告の主張
(1) 被告商品は、それぞれ原告商品のうち別紙二「物件目録」の表二ないし六の「該当する原告商品」欄に記載した原告商品の形態を模倣したものであるから、被告らによる被告商品の販売行為は、法二条一項三号に該当する。
(2) この点につき、被告シェリフは、被告シェリフ商品と原告商品の形態には実質的同一性がないと主張するが、原告遊戯銃は、実銃とも他社製遊戯銃とも異なる、原告が新規に開発した商品であり、実銃とそっくりの外観を実現しながら、小さな銃内部に実銃と全く相違する原理の発射機構を組み入れるという相反する課題を実現するために、原告が多大の労力と資本を投下して独自に考案したものである。その部品である原告商品の形状も、このような努力の成果であり、部品が相互に複雑に組み合わされるため、それぞれが独自の形状を有している。そして、被告シェリフ商品は原告遊戯銃に組み込むために作られた部品であり、これに組み込まれて正常に作動しなければならないものであるから、必然的に原告商品に依拠して製作され、これと実質的に同一の形態となっているといえる。被告シェリフが原告商品との相違点として指摘する部分は、色、質感、サイズ等の非本質的部分における取るに足らない相違であり(詳細は平成九年二月六日付け原告準備書面(二)の第二項記載のとおり)、独自の創作性もないのであって、材質や表面加工方法を変えて模様や質感を変更することは当業者にとって極めて容易なことであるから、全体としては原告が多大な労力をかけて開発した商品形態をそのまま採用しているものであり、原告商品の形態を模倣したものというべきである。
なお、被告シェリフは、被告シェリフ商品と原告商品との価格差を実質的同一性がないことの根拠とするが、これは被告シェリフが原告商品の形態を模倣することにより暴利を得ていることを示すものであり、不正な競争方法の端的な証拠である。
したがって、被告シェリフの主張は理由がない。
(二) 被告シェリフの主張
(1) 被告商品は、いずれも「カスタムパーツ」と呼ばれる原告遊戯銃の部品である。カスタムパーツは、原告の製造する部品では満足できず、自らの思うようなエアーソフトガンに改造したいという遊戯銃マニアの欲求に応えるための商品であるという性質上、原告商品と実質的に同一では存在し得ないものである。このことは、被告シェリフ商品が原告商品よりはるかに高額であることにも表れており、需要者が原告商品の二ないし九倍の代金を支払ってまで被告シェリフ商品を購入するのは、これが原告商品とは全く異なる商品と評価されているからである。
(2) 原告商品と被告シェリフ商品とを比較すると、両者は、質的形状(段差、突起物、小窓等の有無、ねじ部の形状等)、量的形状(全体の長さ、幅、重量等)、模様(研磨跡、砂粉の吹付け、刻印等)及び色(色彩、光沢等)の点において相違しており(詳細は、平成八年一二月一七日付け被告シェリフ準備書面の別表①ないし⑧記載のとおり)、右(1)に記載した遊戯銃の需要者は、右のような差異をもって、両者を全く異なった商品と認識している。
(3) さらに、被告シェリフ商品は原告遊戯銃のカスタムパーツであるところ、遊戯銃の需要者は部品をより良いものに交換して銃自体を自分の好みに改良したいという欲求を持っているので、多種類のカスタムパーツが発売されると遊戯銃自体の売上げも伸びるという相関関係があるのであり、原告代表者も、かつてはこのことを認めていた。このように、遊戯銃の製造業者とそのカスタムパーツの製造業者とは共存共栄の関係にあるのであって、模倣品であれば共存共栄の関係が成立することはあり得ないことからしても、被告シェリフ製品が原告商品の模倣でないことが裏付けられる。
(4) したがって、被告シェリフ商品の形態と原告商品の形態との間には実質的同一性がないから、被告シェリフ商品は原告商品の形態を模倣した商品に当たらない。
4 原告がかつて被告商品を販売していたことを理由に、その請求が信義則に反することになるか。
(一) 被告アングス、被告フロンティア及び被告三ツ星の主張
原告は、かつて(本件訴訟提起後もしばらくの間)、原告の経営する店舗において、被告商品を含めたカスタムパーツを被告らから購入し、販売していた。原告の右行為は、原告自身がカスタムパーツの製造販売を容認し、黙示の承諾を与えていたものであり、一方でこのような行動を取りながら、他方で被告商品が模倣品であってその販売が不正競争行為に当たるとして損害賠償を請求することは、信義則に反し許されない。
(二) 被告シェリフ、被告三ツ星及び被告川本の主張
原告は、平成五年法律第四七号による全部改正後の法が施行された平成六年五月一日以降も、更には本件訴訟の提起後も、その店舗で被告商品を販売しており、原告代表者もこのことを認識していた。したがって、仮に被告商品が原告商品の形態を模倣した商品であったとしても、被告らがこれを販売することを承諾していたものと評価できるから、被告らによる模倣行為の違法性は阻却される。また、原告が被告らに損害賠償請求をすることが右販売行為と矛盾することは論を待たないから、原告の本訴請求は、禁反言の原則に照らし許されない。
(三) 原告の反論
原告の小売店で被告商品が販売されていたことは認めるが、これは、知的財産権について十分な問題意識を持たない担当者が仕入れたり、被告三ツ星が原告の注文を待たずに商品を送付してきたためであり、原告代表者が気付いた時点で商品を撤去させている。原告は、形態模倣を不正競争と定めた現行の法が施行された直後から、原告商品の形態を模倣した部品は法に違反する旨を一貫して業界に対し訴えてきたものであり、被告川本、被告シェリフらに対しても個別に警告を行っている。
右のとおり、原告が被告商品の販売を承認していたことはないし、禁反言の法則も当てはまらない。
5 被告フロンティアにつき、法一一条一項五号所定の適用除外事由が認められるか。
(一) 被告フロンティアの主張
仮に、被告フロンティア商品が原告商品の形態を模倣したものであるとしても、被告フロンティアは、専門的知識を有しない小売店であり、これが模倣商品であることにつき善意であり、かつ、知らないことに重過失もなかったから、法一一条一項五号所定の適用除外事由があり、同被告は損害賠償義務を負わない。
(二) 原告の反論
被告フロンティアは、遊戯銃やカスタムパーツを扱う小売店として、商品につき深い知識を持っているから、被告フロンティア商品の形態が原告商品の形態を模倣したものであることを十分認識していたし、仮に認識していなかったとしても、知らなかったことに重大な過失があることは明らかである。
6 被告川本商品の販売につき、原告の許諾があったか。
(一) 被告川本の主張
被告川本は、原告代表者と面識があり、原告代表者自身が被告川本商品の精度を認め、その製造を推奨していた。したがって、被告川本商品の販売については、原告の同意があった。
(二) 原告の反論
原告は、被告川本に対し、原告商品を模倣した商品の製造販売を委託したり承諾したことはない。
7 損害の額
(一) 原告の主張
被告らは被告商品を販売したことにより、それぞれ以下のとおりの利益を得たので、法五条一項に基づき、原告は右金額相当の損害を被ったと推定される。
よって、原告は被告らに対し、以下の各金額及びこれに対する不法行為の後である平成九年四月一九日(損害賠償請求を追加した平成九年四月一八日付け請求の趣旨変更申立書の送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(1) 被告アングスは、別紙二「物件目録」の表二の「販売開始時期」欄記載の時期から平成八年一二月末日までの間に、「売上合計」欄記載の金額を下らない金額相当分の被告アングス商品を販売し、「得た利益」欄記載の金額(合計一九二四万二〇〇〇円)を下回らない利益を得た。
(2) 被告フロンティアは、別紙二「物件目録」の表三の「販売開始時期」欄記載の時期から平成八年一二月末日までの間に、「売上合計」欄記載の金額を下らない金額相当分の被告フロンティア商品を販売し、「得た利益」欄記載の金額(合計六七一万五二〇〇円)を下回らない利益を得た。
(3) 被告三ツ星は、別紙二「物件目録」の表四の「販売開始時期」欄記載の時期から平成八年一二月末日までの間に、「売上合計」欄記載の金額を下らない金額相当分の被告三ツ星商品を販売し、「得た利益」欄記載の金額(合計六二〇万四〇〇〇円)を下回らない利益を得た。
(4) 被告川本は、別紙二「物件目録」の表五の「販売開始時期」欄記載の時期から平成八年一二月末日までの間に、「売上合計」欄記載の金額を下らない金額相当分の被告川本商品を販売し、「得た利益」欄記載の金額(合計八九八万円)を下回らない利益を得た。
(5) 被告シェリフは、別紙二「物件目録」の表六の「販売開始時期」欄記載の時期から平成八年一二月末日までの間に、「売上合計」欄記載の金額を下らない金額相当分の被告シェリフ商品を販売し、「得た利益」欄記載の金額(合計三〇一四万円)を下回らない利益を得た。
(二) 被告らの主張
(1) 被告アングス商品の売上金額は七九一万七一〇〇円であり、これにより被告アングスが得た利益は一九万七九二八円である。
(2) 被告フロンティア商品の売上金額は二〇一万八九二〇円であり、これにより被告フロンティアが得た利益は一一万一〇四一円である。
(3) 被告三ツ星商品の売上金額は二一八万七一二〇円であり、これにより被告三ツ星が得た利益は二一万八七一二円である。
(4) 被告川本は、原告の主張をすべて否認し、争う。
(5) 被告シェリフ商品の売上金額は五九三万三六〇〇円であり、これにより被告シェリフが得た利益は六五万二〇二九円である。
第三 争点に対する判断
一 争点1(原告商品について、その形態が「製作上不可避な形態」であるとして、法二条一項三号の適用が排除されるか。)について検討する。
1(一) 法二条一項三号の趣旨につき考察するに、他人が資金・労力を投下して開発・商品化した商品の形態につき、他に選択肢があるにもかかわらずことさらこれを模倣して自らの商品として市場に置くことは、先行者の築いた開発成果にいわばただ乗りする行為であって、競争上不公正な行為と評価されるべきものであり、また、このような行為により模倣者が商品形態開発のための費用・労力を要することなく先行者と市場において競合することを許容するときは、新商品の開発に対する社会的意欲を減殺することとなる。このような観点から、模倣者の右のような行為を不正競争として規制することによって、先行者の開発利益を模倣者から保護することとしたのが、右規定の趣旨と解するのが相当である。
このように、法が商品形態の模倣行為を規制しているのが、先行者が商品形態開発のために投下した費用・労力を保護する趣旨のものであることに照らせば、当該商品の性質上その形態が一義的に決まるものについては、商品の形態について他の選択肢がないことから製造者の創意工夫の働く余地がなく、この点につき先行者が資金・労力を投下することが考えられないことからして、法二条一項三号による保護の対象とならないものと解される。すなわち、商品の形態とその機能とが不可分一体となっている場合、互換性保持のため一定の形態をとることが必要な場合や、特定の商品の形態が市場で事実上の標準となっている場合など、その形態をとらない限り商品として成立し得ない場合は、形態模倣の規制対象にならないものと解すべきである。法二条一項三号の条文において、括弧書きとして「当該他人の商品と同種の商品(同種の商品がない場合にあっては、当該他人の商品とその機能及び効用が同一又は類似の商品)が通常有する形態を除く。」と規定されているのは右の趣旨であって、同種の商品においてありふれた形態や、製作上回避不可能な形態等を、「通常有する形態」として形態模倣に対する保護の対象から除外したものである。
(二) 本件における原告商品及び被告商品は、いずれも原告遊戯銃の部品である。部品であっても、当該部品がその構成の一部として組み込まれる製品(以下「本体」という。)と別個の商品として独立して取引の対象となるものであれば、法二条一項三号の「商品」に当たるということができる。そして、ボルト、ナットなどに代表されるような製品の種類・範囲を問わず工業製品一般に利用される部品や本体の製造元を問わず同種製品に共通して使用することが可能な、いわゆる汎用部品においては、その形態について、同種の部品に共通する一般的形状に加えて工夫により何らかの特徴を付与することが十分考えられるところであり、そのような付加的特徴を含む形態が法二条一項三号による保護の対象となることは、明らかである。これに対して、特定の製品にのみ使用される部品については、右と同列に論ずることはできない。すなわち、特定の製品について、当初から本体に組み込まれている部品と同一の形態の部品を本体の製造者・販売者等が修理等の目的のために別個に独立した商品として販売している場合(以下、右の部品を「純正部品」という。)において、第三者が純正部品と互換性を有する部品を独立した商品として販売しているとき(以下、右の部品を「互換性部品」という。)には、純正部品の形態は、法二条一項三号による保護の対象とならないと解するのが相当である。けだし、純正部品は特定の製品のみを本体として使用するという性質上本体における取付部位や係合する他の部品との関係からその形状が一義的に決まるか、そうでないとしても本体に当初から取り付けられている部品と交換するという目的からその形状は右部品と同一又は極めて類似した形態となることが避けられないものであって、独立した商品としての純正部品自体にはその形態について創意工夫が働く余地がないというべきであり、他方、右事情は互換性部品についても同様に当てはまることから、両者の形態は必然的に同一又は極めて類似するものとならざるを得ないからである。
右のように解しても、本体の製造者は、本体に組み込まれる部品の形態の開発のために資金・労力を投下したとしても、本体の販売価格に反映させることによってその対価を回収することが可能であることに加え、右部品の形態が技術的見地ないし美感的見地から意義を有する場合には特許権・実用新案権ないし意匠権を通じて純正部品の製造・販売について法的保護を受けることが可能であるから(通常の場合、本体に組み込まれるべき部品の形態が開発され、右部品の組み込まれた本体が販売されてから一定の期間を経過した後に、修理等のための部品に対する需要が発生するから、純正部品が第三者の販売する互換性部品との競合を生ずるまでにある程度の期間を要するので、本体の製造者は部品の形態につき前記のような諸権利を通じての法的保護を受けることが時間的な面で困難とはいえない。)、本体の製造者にとって著しい不利益を与えることにはならない。
他方、仮に純正部品の形態が法二条一項三号による保護の対象となると解した場合には、純正部品の販売に先んじて第三者が互換性部品を販売したときには、先行して販売されている互換性部品の形態と同一の形態であるという理由から本体の製造者が互換性部品に遅れて純正部品を販売する行為が制限されることになりかねないが(当該形態の部品を組み込んだ本体が既に販売されているにしても、本体に組み込まれた部品の形態は「商品の形態」ではない。)、このような結果は極めて不合理であるし、また、本体を購入して使用する需要者としては、互換性部品の販売が純正部品の形態模倣を理由として制限されるときには、純正部品と互換性部品との間での選択により高品質ないし安価な部品を入手する可能性を閉ざされる不利益を被り、ひいては本体購入時に予期しなかった高額な出費をその後の修理等の時点において強いられることにもなりかねない。
右のとおり、純正部品の形態は法二条一項三号にいう「通常有する形態」に該当するものというべきであって、第三者がこれと同一の形態の商品を販売したとしても、不正競争行為とはならないと解するのが相当である。
2 これを本件についてみると、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実を認めることができる。
(一) 原告遊戯銃は、別紙三「展開図」に示されたとおり、その購入者が個々の部品に分解して組み立てることができるようになっており、原告は、原告遊戯銃とは別に、その部品も販売している。原告遊戯銃は、原告が開発し、「マグナ・ブローバック・システム」と呼んでいるエアーソフトガンの発射方式を採用したものであって、右方式を実現するため、本物の銃器や従来からある遊戯銃とは異なる独自の内部構造を有している。そのため部品の形態についても、右発射方式を実現することができるように、本物の銃器や従来の遊戯銃の部品の形態と相違する部分がある。なお、原告は、右発射方式に関して特許出願をし、既に特許査定を得ている。(甲七、一二、二三、二八)
(二) 被告商品は、いずれもカスタムパーツと呼ばれる原告遊戯銃の部品である。遊戯銃(エアーソフトガン)のカスタムパーツとは、遊戯銃本体の製造者が作り上げた遊戯銃に組み込まれている構成部品と交換することによって遊戯銃の性能、機能、外観等を変化させ、向上させることを目的に開発されているものであり、遊戯銃本体に当初から組み込まれている部品と互換性を有する必要があることから、基本的な寸法、形状がこれと一致するものである。(甲四〇、四一、戊二〇)
3 右に認定した事実及び前記第二、一記載の事実(前提となる事実関係)により検討すると、まず、原告商品は、原告が製造販売する原告遊戯銃のみに使用される部品である。そして、原告商品の形態については、これが原告遊戯銃に当初から組み込まれている部品の形態と相違するものであることをうかがわせる証拠はなく、両者の形態は同一であるものと認められるものであって、原告商品は原告遊戯銃の純正部品ということができる。したがって、右1(二)で説示したとおり、その形態は法二条一項三号にいう「通常有する形態」に該当するというべきである。そうすると、被告らによる被告商品の販売行為は、被告商品と原告商品の形態が実質的に同一であるといえるか否かについて判断するまでもなく、不正競争行為には該当しないというべきである。
4 この点につき、原告は前記第二、二1(二)のとおり主張するが、その主張は右1において説示した法の趣旨と相いれないものというべきである。なお、原告は、銃砲刀剣類所持等取締法及び日本遊戯銃協同組合の自主規制による材料の制限等を根拠に、被告らを保護すべき実質的な理由はないなどと主張し、これに沿う証拠(甲三〇ないし三二)を提出するが、原告の主張する事由は、法二条一項三号の解釈に当たり参酌すべきものではなく、原告の主張は採用することができない。
二 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく原告の請求はすべて理由がないから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官三村量一 裁判官長谷川浩二 裁判官中吉徹郎)