東京地方裁判所 平成8年(ワ)23305号 判決
原告 東亜相互企業株式会社
右代表者代表取締役 町井久之
右訴訟代理人弁護士 樋口和博
同 宮澤征男
被告 株式会社韓国外換銀行
日本における代表者 玄雲錫
右訴訟代理人弁護士 野村宏治
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、一〇億円及びこれに対する平成八年一月一〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が被告及び西武不動産株式会社と三者間契約を締結し、三者による宅地開発事業を計画したところ、被告が原告に対する右契約に基づく協力義務に違反し、原告を相手に訴訟を提起したことなどによって右開発事業が不能になったと主張し、債務不履行に基づいて、右開発事業が不能になったことにより原告が被った五七三億六六八二万円余の損害の一部請求として、一〇億円の支払及びこれに対する損害発生日後の平成八年一月一〇日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を請求する事案である。
一 前提事実
1 当事者等
原告は、昭和三八年四月三日に設立され、土地建物の売買、斡旋、管理、その他これに関連する事業等を営むことを目的とする株式会社である。
被告は、外国為替業務及び銀行法による銀行業務等を営むことを目的とする外国銀行である。
西武不動産株式会社(以下「西武」という。)は、不動産の売買、土地開発等の事業を営むことを目的とする株式会社である。
2 原告の開発事業と手形不渡り事故の発生
原告は、昭和四〇年ころから、福島県西白河郡西郷村大字小田倉に所在する総面積約二二〇万坪の山林、農地等を土地開発事業を目的として買収し、これを明日香台と命名し(以下この土地を「明日香台の土地」という。)、住宅地その他の居住関連施設として開発分譲することを計画していたところ、昭和五二年五月三一日に手形不渡りを出し、銀行取引停止処分を受けた。
被告は、原告に対する大口債権者であり、明日香台の土地のうち、別紙(一)の物件目録記載の土地(四八三筆、合計約六〇万七〇〇〇坪。以下「本件土地」という。)等に根抵当権等の設定を受けていた。西武は、原告に対して一〇億円を貸し付けていた。
3 会社整理の申立てとその取下げ
原告の代表取締役である町井久之は、昭和五二年六月一八日、原告の株主として、他の四名の株主と共に、原告について、総債務三三三億四〇〇〇万円余のうち、被告に対する債務は元利合計一六五億三六一二万円余として、東京地方裁判所に商法に基づく会社整理の申立てをしたが、原告の債権者間において開発事業を続行し、明日香台の土地を分譲販売した利益により弁済原資を確保し、任意整理を行うことが最も有効な方法であるとする旨の話合いがされ、昭和五三年一月一四日、右申立てを取り下げた。
4 三者間契約締結までの経緯(乙一ないし三、弁論の全趣旨)
ところで、右開発事業の続行には、原告に代わってその事業主体となるべき者が必要であったところ、右事業主体としては西武をおいて他に適任者がなく、被告もこれを望んでいた。そこで、原告は、右開発事業について西武の協力を求めることとし、昭和五二年九月ころ、西武との間で、西武が担保権を有していた明日香台の土地の一部約一一万坪について、西武が右土地の農地転用許可及び開発許可申請をして開発を行い、原告がこれに協力すること、西武は開発後の右土地の売却代金のうち既に原告に貸付け済みの一〇億円及び開発諸費用等を控除した残額を原告に交付することなどを骨子とした契約を締結した。
他方、原告は、昭和五二年一二月ころ、被告に書簡を送り、その中で、明日香台の土地のうち、被告が根抵当権を有する本件土地について、開発及び分譲販売を西武に委託し、その販売代金のうちから原告が被告に対して弁済すべき債務を西武が被告に直接支払うことを条件とする三者間の契約を締結することで、西武と基本的合意を得た旨を述べ、合計一六二億三七八七万円を弁済するとの案を示した上、不渡発生時である同年五月三一日以降の手形貸付利息、同遅延損害金、代支給金利息、支払保証料、当座貸越利息(以下これを一括して「不渡金利等」という。)の免除及び本件土地と高清水地区一六万一三〇四坪以外について被告が有する担保権の解除を求めた。
右書簡の送付後、頻繁に三者間で協議が重ねられた。右協議においては、被告が開発事業によって回収する債権の額及び不渡金利等の免除並びに開発事業に要する期間の明示が主たる協議対象となっていた。
5 三者間契約の締結
右協議の結果、原告、被告及び西武は、昭和五三年七月二七日、本件土地の開発について、左記内容の契約(以下「三者間契約」という。)を締結した。(甲一)
記
(一) 西武は、資金を立て替えて本件土地の段階的な開発事業(以下「本件開発事業」という。)を行い、被告は、本件土地の根抵当権者として右開発事業に同意する(一、二条)。
(二) 本件開発事業に必要な許認可申請は西武と原告が行い、被告は必要に応じて協力する(三条)。
(三) 西武は、開発許認可後、可及的速やかに建設工事に着手し、開発許認可書に定めた事業終了時を開発最終期間とし、その都度原告と被告に提示するが、自然条件、経済情勢等による工事の遅れ、やむを得ない場合には、三者協議の上、工期を延長することができる(四条)。
(四) 本件土地の造成工事費用は、西武の自己資金において立て替え、造成土地の販売価格は西武と原告が協議し、原告の同意を得て西武が決定し、造成土地及び建物の分譲、販売は西武が行う(五条)。
(五) 右分譲代金はまず西武が受領し、原告に代わり、原告の被告に対する債務を直接支払うものとするが、その精算は、七条に定めた債務総額と開発面積の割合によるものとし、被告に対する支払金額を三段階に分け、第一段階は一〇万坪を開発して坪当たり二万円の割合で合計二〇億円、第二段階は二〇万坪を開発して坪当たり二万六〇〇〇円の割合で合計五二億円、第三段階は三〇万六九三六坪を開発して坪当たり三万二〇〇〇円の合計九八億五三七二万八〇〇〇円を支払う(六条)。
(六) 右開発により、西武が原告に代わり被告に支払うべき支払委託の債務総額は、一七〇億五三七二万八〇〇〇円とし、被告は、西武から六条による原告の債務の支払を受けたときは、その金額に応じ、本件土地の当該部分について有する権利を失い、根抵当権、所有権移転請求権仮登記の各抹消登記手続を行う(七条)。
(七) 本契約は、相互信頼に基づく約定であるから、開発工事が何らかの理由で中断されたり、延期した場合においても損害金の請求等をせず、建設的方向で友好裡に事態を処理する(八条)。
(八) 契約書に定めのない事項及び本契約に疑義が生じたときは、三者が誠実に協議調整し、必要に応じて新たな契約の追加又は覚書を取り交わし、解決する(九条)。
さらに、右同日、三者間において、右三者間契約の各条項を補充するものとして左記内容の合意がされ、覚書が取り交わされた。(甲二)
記
(一) 三者間契約に定める開発工事期間については、昭和五三年度中に着工し、昭和五七年度中に終了することを目途とした五か年計画とするが、許認可の時期及び造成工事、土地建物の販売状況、その他自然条件、経済情勢等による工事の遅れによりやむを得ない場合は三者協議の上、開発期間を延長することができる(一条)。
(二) 三者は、次の場合一か月の予告をもって三者間契約を解除することができる(三条)。
(1) 西武においては、本件開発事業及び販売が事実上困難になったと判断したとき。
(2) 原告においては、三者間契約の目的達成が事実上困難になったと判断したとき。
(3) 被告においては、三者間契約に基づき被告の債権回収が事実上困難になったと判断したとき。
(三) 三条による解除がされても損害賠償の請求をしない(四条)。
二 争点
1 被告の債務不履行の有無
(原告の主張)
(一) 三者間契約における被告の債務不履行
被告は、原告及び西武との間で三者間契約を締結し、覚書による合意をし、本件開発事業について必要な協力をすることを約したことにより、原告及び西武に対し、以下の義務を負ったが、以下のとおり、これに違反した。
(1) 被告は、開発行為を進めるための信頼関係を保持する義務を負うところ、本件土地に根抵当権を有する債権者であったから、担保土地について開発行為の妨げになるような債権回収行為、すなわち根抵当権を実行してはならない義務を負った。しかるに、原告及び西武が三者間契約に基づく開発準備行為に入ったにもかかわらず、被告は原告に対し、昭和五三年八月二日に同年七月三一日現在における貸付元利金残高通知書を送付し、その後も毎月のように支払請求をするなどして、その回収姿勢を示した上、昭和五八年三月一六日に原告に対して債権確認及び支払請求訴訟を提起し、その後も別訴を提起した。その結果、原告及び西武に対して、被告が本件土地の根抵当権の実行を意図しているのではないかとの重大な疑念・不信感を生じさせ、三者間契約に基づく信頼関係を破壊させ、右義務に違反した。
(2) 被告は、本件土地について、開発許認可を得るために必要な事項及び開発行為を行うために必要な事項について書面による同意をし、必要事項を記載した同意書を原告又は西武に対して必要に応じて速やかに交付する義務を負った。しかるに、被告は、明日香台の土地の東端部に位置する松ケ丘地区内の別紙(二)の物件目録記載の土地(二四筆、合計約五万二〇〇〇坪。以下「松ケ丘地区の土地」という。)の開発について、森林法に基づく開発行為同意書の提出には応じたものの、原告が昭和五四年五月ころから開発許可申請の前提としての保安林一部指定解除申請に対する同意書の提出を要請したにもかかわらず、その提出に応じず、右義務に違反した。その結果、西武及び原告は保安林指定の一部解除申請ができず、宅地開発の許可申請ができなかった。
(3) 被告は、前記同意義務のほか、三者間契約に定めた金額を、三者間契約をもって債務総額と定めた原告の被告に対する債務弁済金の一部として原告又は西武から支払を受けるのと引換えに、本件開発予定地内の土地のうち三者間契約に定めた割合の土地の根抵当権設定登記等の抹消登記手続を行う義務を負った。しかるに、原告は被告に対し、平成五年一一月以降、文書をもって明日香台の土地内のアルカディア地区の開発許可申請に関する同意書の提出を再三にわたって要請したが、被告はこれを拒絶し、原告が三者間契約に定める割合によって算定した金員の提供をしたにもかかわらず、被告は右土地の根抵当権等の抹消登記手続を拒否し、右義務に違反した。さらに平成七年一二月二八日に原告のいずれの要請をも拒絶する旨の意思表明を行った。
(二) 因果関係
本件開発事業は、被告の協力なしに実行することは不可能であるから、被告が平成七年一二月二八日に三者間契約に基づく協力義務を履行しない旨の意思表明を行い、三者間契約の効力を否定したことにより、本件開発事業は不能になった。
(三) 損害
原告は、被告が三者間契約に基づく協力義務の履行を拒否したことなどによって本件開発事業を不能にされ、これによって以下のとおり積極・消極両損害合計五七三億六六八二万円余の損害を被った。
(1) 積極損害
原告が、被告の協力義務の履行を前提として、本件開発事業のために支出した経費及び開発不能が確定した平成七年一二月二八日以降に原告が支出せざるを得なくなった開発予定地の維持管理費用は、いずれも被告の債務不履行によって現実に発生した損害であるから、被告にはこれらを賠償すべき責任がある。平成一〇年九月までの積極損害は別紙(三)のとおり合計一〇六億九一〇七万〇一九〇円である。
(2) 消極損害(逸失利益)
原告は、被告の協力義務が履行されたならば、明日香台の土地のうち本件土地以上の面積を順次開発して遅くとも平成二年中にはそれを完了し、平成四年中にはこれらの造成地を分譲できたから、別紙(四)2及び3のとおり、昭和五八年から平成四年にかけて別紙(四)3表の収益金累計欄のとおり合計四六六億七五七五万円余の収益をあげ得たことは確実であった。これは被告の債務不履行によって生じた原告の消極損害であるから、被告にはこれを賠償すべき責任がある。
(被告の主張)
(一)(1) 被告は、三者間契約により本件土地に対する担保権実行等をしないことを約したのみであり、原告・被告間の債権債務には変更はないから、本件土地の他に原告が被告に提供している担保物件を処分して貸付元利金の弁済を求めることは何ら義務違反とはならない。
(2) 被告が原告及び西武から保安林一部指定解除申請に必要な同意書の交付を求められたことも、これに応じなかったこともない。そもそも、被告は、三者間契約に基づき必要に応じて協力する旨の義務を負うにすぎず、原告主張のような具体的な同意義務等を負っていない。
(3) アルカディア地区の開発事業は、原告が被告に無断で選定した業者が工事する事業であり、西武が工事する事業ではない上、後記のとおり三者間契約が失効した後の開発事業であるから、三者間契約とは無関係である。
(二) 因果関係及び損害の主張は否認する。
2 損害賠償請求をしない旨の合意の有無
(被告の主張)
(一) 原告、被告及び西武は、覚書において、三者間契約が解除された場合には損害賠償を請求しない旨合意しており(四条)、右条項は三者間契約の期間満了による終了の場合にも適用されるところ、本件開発事業は昭和五三年度中に着工し、昭和五七年度中に終了することを目途とした五か年計画であり、延長の協議がされることなく五年の経過により平成五七年度末日に終了したから(一条)、原告は被告に対して損害賠償を請求できない。
(二) 仮に、三者間契約が現在も存続しているとしても、本件開発事業は三者間契約締結後一八年余も経過して未だ開発許可も得られていないので、被告は、三者間契約に基づく債権回収が事実上困難になったと判断し、三者間契約を解除する旨の意思表示をした(三条)。よって、原告は被告に対して損害賠償を請求できない(四条)。
(原告の主張)
(一) 三者間契約四条は、開発最終期間を開発許認可書に定めた事業終了時と定めているが、これは開発行為に着工できることになる所轄庁の許認可が得られた後のことを意味するのであって、未だ許認可が得られず、開発行為に着工できない段階においてのことを定めたものでないから、開発行為を行うために必要な許認可が得られていない段階では、開発最終期間は定まっていない。覚書一条では、開発工事期間について、昭和五七年度中に終了することを目途とした五か年計画とすることを定めているが、覚書は、三者間契約の締結と同時に取り交わされたもので三者間契約の各条項を補充するものであるから、右三者間契約の趣旨に則して覚書の意味を解釈すると、当事者の開発方針の一応の目途として、着工時及び終了時の努力目標を想定したものにすぎないと解される。よって、三者間契約の有効期限は合意されていないので、三者間契約は期間満了により終了していない。
(二) 覚書三条には三者が解除権を有する旨規定されているが、右条項は三者間に信頼関係が保持され、三者が相互に必要とされる義務を果たしても、いずれの責任にもよらない事由によって開発が著しく困難又は不能に陥った場合に、各当事者の判断に従い一か月の予告をもって三者間契約を解除できることとしたのであって、一方当事者が恣意的な判断によって解除できることを規定したものではない。よって、いずれの当事者も、自らの違背によって開発行為が困難になったことを理由に解除し得ないことはもとより、開発行為が未だ著しく困難又は不能の状態に陥っていない段階においては、他の当事者の不履行を理由とするほかは、一方的に解除することはできない。
また、覚書四条には解除の際に損害賠償を請求できない旨規定されているが、右規定は不履行当事者の損害賠償責任を免除した趣旨ではないから、ある当事者の不履行によって開発行為が著しく困難又は不能に陥ったときは、不履行当事者はそれによって他の当事者が被った損害を賠償すべき責任がある。
3 消滅時効の成否
(被告の主張)
本訴請求原因である被告の原告に対する訴訟提起は昭和五八年三月一六日であり、その第一回口頭弁論期日は同年四月二六日であるから、その一〇年後である平成五年四月二五日の経過により本訴請求である損害賠償請求権は時効により消滅した。被告は右消滅時効を援用する。
(原告の主張)
被告の最終的な債務不履行及び原告の損害の発生時は被告が協力義務を全面的に拒絶した平成七年一二月二八日であり、原告は平成八年一一月二七日に本件訴訟を提起しているのであるから、本件損害賠償請求権の消滅時効は完成しておらず、被告の消滅時効の主張は理由がない。
第三当裁判所の判断
一 争点1(被告の債務不履行の有無)について判断する。
1 まず、前提事実及び証拠(甲二五の1ないし12、三四の1ないし4、三六、四五の1ないし23、四六の1ないし6、五〇、五六、五七の1、六一の1ないし3、乙一ないし一〇、一一の1、2、一二、一三の1ないし3、一四、一五、一六、一七、一八の1、2、一九の1、2、二〇、二一の1、2、二二の1、2、二三、二四、二五の1、2、二六、二七、二八の1、2、二九の1ないし3、三六、証人坂井俊雄)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 原告は、被告から昭和五三年八月一八日付け書簡で本件開発事業の進捗状況を定期的に報告するよう指示され、それに応じて昭和五三年八月から昭和五五年五月ころまでの間、毎月一回、書面をもって開発事業の進捗状況を継続して報告するとともに、その後も昭和六一年四月ころまでの間、別書式の報告書をもって本件開発事業の現況を報告してきた。
また、被告は、三者間契約締結後の昭和五三年八月から昭和五四年七月までの間、原告に対して、前月末日現在の元利金額を通知してきたが、これに対して原告から特段の異議は出されなかった。
(二) 原告と西武は、まず松ケ丘地区の土地の開発を計画し、被告に対し、昭和五四年三月二八日付けの書簡で同意書用紙添付の上で森林法に基づく開発許可申請に必要な開発行為同意書の提出を要請したところ、被告は、同月三〇日に西武に対して右同意書を提出した。
(三) ところが、三者間契約から一年後の昭和五四年七月になっても、本件開発事業の着工の見通しは立たなかった。そこで、被告は、西武に対し、同年一〇月三〇日付けの書簡で本件開発事業の工事着手遅延の主要理由、今後の開発計画、推進予定、着工時期、及び三者間契約の早期完遂のために原告及び被告が協力すべき事項について問い合わせ、さらに原告に対し、同年一一月一五日付けの書簡で右事項について西武に問い合わせした旨を報告するとともに新たな債務弁済計画の提出を求めた。西武は、右問合せに対し、同年一二月四日付けの書簡で現時点での宅地開発造成は採算面及び顧客面において難点があり、長期展望に立って再検討しているので、着工時期については見合わせている旨回答したので、被告は、原告に対し、同年一二月一八日付けの書簡で西武からの回答では開発は困難となったので、原告から担保物件及び原告所有資産の処分を含む具体的な債務弁済計画を求める旨要請した。
これに対して、原告は、同月二五日付けの書簡で開発時期については情勢によっては融通性があるものと三者の間で了解している、三者間契約において被告に対する債務総額が確定した以上、他の担保は当然解除されるものと期待しているなどと述べてこれに応じない旨回答した。被告は、右回答に対して、昭和五五年一月二四日付けの書簡で、三者間契約は本件開発事業によって西武が支払うべき債務額を定めたものにすぎず、原告の全債務をこれに限定するものではなく、元金・金利等について猶予したものでも免除したものでもない旨反論し、三者間契約の解釈を巡って紛争が顕在化するに至った。
(四) その後、原告・被告間において金利等の免除の有無を巡って書簡が交換された末、被告は原告に対し、昭和五五年一一月二六日付けの書簡及び同年一二月一五日付けの書簡で債務承認書の提出を求めたが、原告はこれを拒否した。
さらに、被告は、昭和五六年以降、西武及び原告に対し、工事に着工できなかった理由と現況、今後の計画についての報告と早期の着工を要請したが、農業振興地域の整備に関する法律上の問題があるとか、西郷村による土地利用計画の確定がされないなどとの説明しかなく、具体的な計画の回答は得られなかった。そこで、被告は、原告に対し、昭和五七年九月一四日付け書簡で、利息債権等が消滅時効にかかるおそれがあるので、この存在を承認する旨の書面の提出を求め、その提出がないときは時効中断のために訴訟を提起する旨通知したが、原告はこれを拒否した。
そこで、被告は、原告に対して、時効中断のため、昭和五八年三月一六日に貸金等請求訴訟を提起し、昭和六二年三月四日に貸金請求訴訟を、さらに平成元年八月一四日に貸金請求訴訟を提起した。原告は、これらの訴訟において、被告の請求が三者間契約に反する旨主張して争ったが、いずれの訴訟でも原告の右主張は認められず、被告の勝訴が確定した。
(五) 原告は、被告に対し、平成五年一一月一六日付けの書簡で、明日香台の土地ではあるが、本件土地の範囲には含まれないアルカディア地区の開発事業についての開発同意書の提出を要請したが、被告からは平成七年一〇月四日付けの書簡で法律事務所に諮問中である旨の回答がされ、さらに、原告は、被告に対し、平成七年一〇月二三日付けの書簡でアルカディア地区内の被告が担保を設定している土地について、被告が指示する金額を弁済すると同時に担保権の抹消を要請したが、被告は、原告に対し、同年一二月二八日付け書簡で、担保土地相当額の貸出金弁済、原告・被告間のすべての訴訟の上訴の取下げ、あるいは三者間契約の失効を確認すること等を要求したため、原告のいずれの要請も同意されなかった。
(六) その後、本件開発事業は開発許可申請すらされず、三者間契約に基づく西武から被告への支払も全くされなかった。
2 右認定事実を前提に、争点1(一)(三者間契約における被告の債務不履行)について検討するに、まず、原告は、被告が開発行為を進めるための信頼関係を保持する義務を負っていたにもかかわらず、原告に対し毎月貸付元利金残高通知書を送付し、その後も債権確認訴訟等及び支払請求訴訟等を提起することにより、三者間契約に基づく信頼関係を破壊させたと主張する。
しかし、前記認定事実によれば、被告は、原告に対し、昭和五三年八月から毎月原告に対する貸付元利金額を通知しているが、これに対して原告から特段異議が出されたこともない上、被告が昭和五四年一一月と一二月に原告に対して債務弁済計画の提出を求めたのは、三者間契約の締結から一年が経過しているのに本件開発事業が進展しないばかりか、具体的な計画すら示されなかったためであるし、被告が訴訟を提起するに至ったのも、被告の再三の催促にも関わらず、原告らから具体的な計画が示されない状況の中で、時効中断の目的で原告に対して債務の承認を求めたのに原告がこれを拒んだためであったことが認められる。
しかも、被告は一貫して本件開発事業の実行を期待し、多数回にわたる書簡をもって原告らに対して具体的な計画の提示を求めていたのであるから、被告が本件土地について抵当権等を実行し、右計画を不可能にするに等しい行為をするとは考え難いし、原告及び西武においても被告が本件開発事業の進展を望んでいたことを十分認識していたものと推認することができる。
そうすると、仮に被告が三者間契約に基づいて開発行為を進めるための信頼関係を保持する義務を負うとしても、被告が貸付元利金額を通知するなどしたことをもって右義務に違反したと評価することはできないし、被告のこのような行為によって原告らが不信感を抱くことになったとも認めることはできないのであるから、被告が三者間契約に基づく信頼関係を破壊したということはできないのである。よって、原告の右主張は理由がない。
3 次に、原告は、松ケ丘地区の土地の開発について、原告が昭和五四年五月ころから保安林一部指定解除申請に対する同意書の提出を要請したにもかかわらず、被告がその提出に応じなかったと主張する。
しかし、前記認定事実によれば、被告は既に松ケ丘地区の土地の開発行為同意書を原告に交付していたのであるから、それにもかかわらず、原告の要請に反して保安林一部指定解除の同意書の提出のみを拒むとは考え難い上、被告は西武に対し、西武に協力すべき事項について問い合わせ、本件開発事業の進捗状況及び開発計画の報告を求めたほか、原告に対しても同旨の要請をしていたし、原告と被告との間ではいくつもの報告書や書簡がやり取りされていたのであるから、開発許可に必要な書類が交付されないということであれば、当然これらの書類上に何らかの記載がされてしかるべきであると考えられるにもかかわらず、原告が被告に対して保安林一部指定解除の同意書を要求した書面も、これについて触れられた書簡や報告書も全く存在しないし、しかも、前記1(三)及び(四)において認定したとおりの書簡の内容に照らせば、本件開発事業が進展しなかったのは、西武が採算面及び顧客面での難点があるとして長期的展望に立って事業内容等について再検討し、着工時期を見合わせていたことなど右合意書の提出問題とは異なる理由に基づくものであったことがうかがわれるのである。
そうすると、原告が昭和五四年五月ころから被告に対して右同意書を要求し、被告がこれを拒んだ事実を認めることはできないというべきであり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
なお、甲三八号証及び証人坂井俊雄の証言中には、原告らが被告に対して口頭で右同意書の提出を催促したなど原告の右主張に沿う部分があるが、前掲各証拠に照らして採用できない。
よって、原告の右主張は理由がない。
4 さらに、原告は、被告が平成五年一一月以降のアルカディア地区の開発許可申請に関する同意書の提出を拒絶し、さらに右土地の根抵当権等の抹消登記手続を拒否したため、本件開発事業は不能となったと主張する。
しかし、前記認定事実によれば、アルカディア地区の土地は三者間契約の対象となった本件土地には含まれないから、右アルカディア地区の開発計画は三者間契約とは無関係であると認められるところ、明日香台の土地に属する本件土地以外の部分についても三者間契約と同様に処理することに被告が同意したと認めるに足りる証拠はないし、原告もそのような主張をしないから、三者間契約に基づく協力義務の存在を前提とする原告の右主張は、そもそもその前提を欠いているといわざるを得ない。よって、原告の右主張は理由がない。
二 そうすると、その余の点を判断するまでもなく原告の請求は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 都築弘 裁判官 土田昭彦 裁判官 伊藤清隆)
別紙<省略>