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東京地方裁判所 平成8年(ワ)24462号 判決 1997年5月06日

原告

福岡誠

ほか一名

被告

岩本孝博

主文

一  被告は原告らに対し、各一四九五万七五八〇円及び右各金員に対する平成七年一〇月一九日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は五分して、その四を被告の、その余を原告らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

被告は、原告らに対し、各金一八三三万八八五七円及びこれに対する平成七年一〇月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告

請求棄却

第二事案の概要

本件は、交通事故で死亡した訴外福岡英子(以下「亡英子」という。)の遺族である原告らが、被告に対し、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故の発生

(一) 日時 平成七年一〇月一九日午後一時三分ころ

(二) 場所 東京都大田区池上五丁目一六番地先路上

(三) 加害者 被告

(四) 加害車両 普通乗用自動車(品川三四め一八〇六)

(五) 被害者 亡英子

(六) 態様 被告は、一時停止義務に違反して、本件事故現場付近の交差点に進入し、同交差点内において、左方向から直進してきた訴外松崎勇夫運転の普通乗用自動車(品川五五く六七八〇、以下「松崎車」という。)に衝突した。被告は、松崎車との衝突により気が動転し、ブレーキとアクセルを踏み間違えて加害車両を付近のフエンス及びポールに衝突させた後、前方を歩行中の亡英子を轢過し、同人を死亡させた。

2  責任原因

被告は、普通乗用自動車を運転中、前方に歩行者がいる場合には、歩行者との衝突を回避するよう、ハンドル、アクセル及びブレーキを適切に操作すべき義務があるにもかかわらず、右義務に違反して、本件事故を起こした過失があり、民法七〇九条ないし自賠法三条に基づく責任がある。

二  争点

1  損害についての原告らの主張

(一) 亡英子の損害

(1) 逸失利益 九六八万一二二六円

亡英子は、大正一一年五月一四日生まれ(本件事故当時七三歳)であり、本件事故当時の平均余命は、一四・四〇である。同人は、<1>厚生年金通算老齢年金(一五万一一〇〇円)、<2>厚生年金遺族年金(九二万九六〇〇円)、<3>国民年金通算老齢年金(三一万六五〇〇円)の合計一三九万七二〇〇円の年金を受給していた(当事者間に争いがない。)。その逸失利益は、生活費の控除を三〇パーセントとすると、以下のとおりとなる。

1,397,200×(1-0.3)×9.8986=9,681,226

(2) 慰謝料 二〇〇〇万〇〇〇〇円

(二) 原告らの固有の損害

(1) 葬儀費用 三四九万六四八九円

(2) 弁護士費用 三五〇万〇〇〇〇円

(三) 相続

原告らは、亡英子の相続人であるので(相続分各二分の一、当事者間に争いがない。)、前記亡英子に生じた損害賠償請求権の各二分の一(各一四八四万〇六一三円)ずつ相続取得し、原告らに生じた損害賠償請求権(各三四九万八二四四円)と合わせると、各一八三三万八八五七円の損害賠償請求権を有する。

2  被告の認否

亡英子が死亡したことにより、遺族年金の受給権を失つたことについて、右は本件事故による損害に当たらない。

第三争点に対する判断

一  事故態様及び被告の責任については、当事者間に争いはない。

二  そこで、損害について判断する。甲三号証及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。

(一)  亡英子の損害 二六九一万五一六一円

(1) 逸失利益 六九一万五一六一円

亡英子は、大正一一年五月一四日生まれ(本件事故当時七三歳)であり、その平均余命は、一四・三八であり、本件事故当時、年金一三九万七二〇〇円(厚生年金通算老齢年金につき一五万一一〇〇円、厚生年金遺族年金につき九二万九六〇〇円、国民年金通算老齢年金につき三一万六五〇〇円)を受給していた。

右の事情に照らすならば、本件においては、亡英子が本件事故に遭わなければ得られたであろう利益の額は、基礎収入額を右合計金額、期間を一四年(そのライプニツツ係数は、九・八九八六)、生活費控除率を五〇パーセントとして算定して得た金額が相当である(なお、被告は、逸失利益の算定の基礎として遺族年金額を含めるのは相当でない旨主張する。しかし、<1>逸失利益の基礎となる亡英子の収入額について、家事労働分なども考えられるところ、原告らは、そのような収入額を一切主張していないこと、<2>本件全証拠によつても、仮に、亡英子が生存していたとした場合に、遺族年金の受給権が消滅する具体的な事情は窺われないことなどの点を考慮すると、本件においては、亡英子の逸失利益を算定する際の基礎収入額について、遺族年金額を含めた金額とすることは差し支えないというべきである。)。

1,397,200×(1-0.5)×9.8986=6,915,161

(2) 慰謝料 二〇〇〇万〇〇〇〇円

一切の事情を考慮して、亡英子が本件事故で死亡したことにより被つた精神的苦痛に対する慰謝料の額は、右金額が相当であると認められる。

(二)  原告らの損害

(1) 葬儀費用 一二〇万〇〇〇〇円

本件事故と相当因果関係のある損害は、右のとおりである。

(2) 弁護士費用 一八〇万〇〇〇〇円

(三)  相続

原告らは、亡英子の相続人であるので(相続分各二分の一)、前記亡英子に生じた損害賠償請求権の各二分の一(各一三四五万七五八〇円)ずつ相続取得し、これに原告らに生じた損害賠償請求権(各一五〇万〇〇〇〇円)を加算すると、原告らの被告に対する損害賠償請求権は、各一四九五万七五八〇円となる。

第四結論

以上によれば、原告らの請求は、それぞれ、一四九五万七五八〇円及びこれらに対する不法行為の日である平成七年一〇月一九日から支払い済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は、いずれも理由がない。

(裁判官 飯村敏明)

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