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東京地方裁判所 平成8年(ワ)6617号 判決 1998年5月28日

原告

二豊基礎株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

田岡浩之

被告

Y1

右訴訟代理人弁護士

麦田浩一郎

被告

Y2

右訴訟代理人弁護士

長嶋憲一

右訴訟復代理人弁護士

世戸孝司

主文

一  被告Y2は、原告に対し、別紙物件目録≪省略≫(一)記載の建設機械を引き渡せ。

二  原告の被告Y2に対するその余の請求及び被告Y1に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告Y2との間で生じた分はこれを二分し、その一を原告の、その余を同被告の各負担とし、原告と被告Y1との間で生じた分は全部原告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行できる。

事実及び理由

第一請求

一  主文第一項と同旨

二  右建設機械の引渡しが執行不能のときは、被告らは、原告に対し、連帯して金四一七万八〇〇〇円及びこれに対する平成八年二月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告に対し、連帯して金九三万円及びこれに対する平成八年二月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告Y1(以下「被告Y1」という。)との間で別紙物件目録(二)記載の建設機械類(以下「本件担保物件」という。)について譲渡担保設定契約を締結したこと、あるいは本件担保物件のうち別紙物件目録(一)記載の建設機械類(以下「本件物件」という。)を即時取得によりその所有権を取得したと主張する原告が、本件物件を占有する被告Y2(以下「被告Y2」という。)に対し、不法行為ないし所有権に基づきその引渡しを求めるとともに、被告らが共謀して本件物件の占有を侵奪したとして、不法行為に基づき、本件物件の引渡しが執行不能のときに、その填補賠償を求めるほか、本件物件の移動に要した費用及び弁護士費用の損害賠償を求めた事案である。

一  原告の主張

1  本件担保物件の取得

(一) 原告は、平成七年一二月五日、被告Y1に対し、金五八五万を弁済期平成八年一月五日と定めて貸し渡した。

(二) 原告は、右同日、被告Y1との間で、右貸金及び今後発生する原告から被告Y1に対する貸金の担保として本件担保物件を譲渡担保とする旨約定してその所有権を取得し、その引渡しを受けた。

(三) その後被告Y1は、平成八年一月五日に借入金の弁済ができず、更なる借入れを希望したため、原告は金一三五万円を貸し渡して貸金を七二〇万円とし、その弁済期を同年二月五日と定めた。

(四) 仮に被告Y2(以下「被告Y2」という。)が被告Y1との間で本件物件につき譲渡担保設定契約を締結してその所有権を取得し、被告Y1が原告との間で譲渡担保設定契約を締結した当時本件物件についての所有権を失っていたとしても、本件物件を占有する被告Y1との間で本件物件につき譲渡担保設定契約を締結してその引渡しを受けたのであるから、原告は本件物件を即時取得した。

(五) 譲渡証明書に関する被告Y2の主張に対する反論

原告は、本件物件のうちアースドリル(以下「本件アースドリル」という。)につき被告Y1からその譲渡証明書の交付を受けていないけれども、次のような事情から即時取得が認められるべきである。

(1) 原告は、一〇年以上も前からa基礎こと被告Y1との間で、ほぼ専属的な請負契約を締結しており、被告Y1が平成二年に本件機械を代金約三三〇〇万円で購入した際にも、その相談を受け、その購入先、代金の支払条件等について熟知していた。そして、本件アースドリルは、原告の工事現場で稼働させることが購入当初から予定されていた。

(2) 本件アースドリルについては、原告と被告Y1が譲渡担保設定契約を締結した平成七年一二月五日頃には、既に売買代金が支払済みであり、譲渡証明書を保管していた京葉商行株式会社から交付を受けることには何らの問題がないことが明らかであった。京葉商行株式会社は、原告の取引先でもあり、仮に若干の修理代金の未払があっても立替払いして譲渡証明書の交付を受ければよいのである。

(3) 原告は、基礎工事の業者であって、金融業者や建設機械の販売業者ではなく、本件アースドリルについても転売の予定はなく、したがって、譲渡証明書を必要としていなかった。

すなわち、原告は、本件アースドリルについては、仮に被告Y1が約定どおり債務の弁済ができない場合でも、転売することはせず、原告の工事現場で使用していく予定であった。また、被告Y1についても、不況が終わり資金繰りが好転するまで可能な限り応援していく予定であった。

2  被告らの不法行為

(一) 被告Y1と被告Y2は、共謀して、原告が占有していた本件物件を窃取しようと企て、平成八年二月二二日午後二時頃、東京都港区<以下省略>所在の原告の私立b学園の工事現場から本件物件を搬出して窃取し、現在被告Y2がこれを占有している。

(二) 被告らは、共同不法行為者として、原告に生じた損害を賠償する責任がある。

3  原告の損害

(一) 本件物件の平成八年二月当時の価額は、金四一七万八〇〇〇円である。

(二) 原告は、本件物件の移動のため二度に渡り長島運輸株式会社に対し、トレーラー、ラフターによる移動を依頼したが、被告らの不法行為により移動は不可能となり、右会社から運搬費用相当額として金一三万円の請求を受け、同額の損害を被った。

(三) 原告は、本件訴訟の遂行を原告代理人弁護士に委任し、実費のほか着手金として金四〇万円を支払い、一審判決時に報酬として金四〇万円の支払を約した。

4  被告Y1の免責の主張に対する認否反論

平成八年九月一八日に被告Y1に対して東京地方裁判所で破産宣告及び同時廃止の決定がなされ、平成九年四月二二日に免責決定がなされ確定したことは認める。

しかし、被告Y1は、原告が本件物件を平穏、公然と占有し、稼働中であったことを承知の上で、原告の右権利を害することを知りながら敢えて本件物件を搬出したものであり、悪意による不法行為であるから、原告の損害賠償債権は破産法三六六条の一二第二号の非免責債権である。

二  被告Y1の主張

1  被告Y1が平成七年一二月の時点及び平成八年一月五日に原告よりそれぞれ金五八五万円及び金一三五万円の支払を受けていたことは認めるが、いずれも工事代金の前払いであり、貸付ではない。

2  原告主張の譲渡担保は否認する。

3  原告主張の不法行為は否認する。被告Y1は、原告主張の工事現場での工事が完了したので、被告Y2との売渡担保の約定に従って本件物件を被告Y2に引き渡すべく右現場より搬出したものである。

4(一)  被告Y1は、平成八年二月二七日、東京地方裁判所に自己破産の申立てをし(東京地方裁判所平成八年(フ)第六〇〇号)、同年九月一七日午後五時破産宣告及び同時廃止の決定がなされた。

(二)  被告Y1は、同年九月一八日、免責の申立てをした(東京地方裁判所平成八年(モ)第八二一四七号)ところ、原告から異議申立てがあったが、平成九年四月二二日免責の決定がなされ、同決定は確定した。

(三)  よって、原告の本訴請求が認められるとしても、被告Y1は、破産法三六六条の一二によりその責任を免れている。

三  被告Y2の主張

1  本件物件の取得について

(一) 被告Y2は、被告Y1との間で、平成七年七月一〇日、本件物件を含む建設機械類について、被告Y2の被告Y1に対する金銭消費貸借契約に基づく金八〇五万円の貸金債権を被告担保債権として譲渡担保(売渡担保)設定契約を締結してその所有権を取得し、占有改定の方法でその引渡しを受けた。

(二) 被告Y1は、被告Y2に対し、平成八年一月に本件アースドリルの譲渡証明書を交付した。

したがって、仮に原告が被告Y1との間で本件担保物件について譲渡担保設定契約を締結したとしても、被告Y1は被告Y2に本件物件を譲渡担保設定したことにより、その所有権を失ったものであるから、原告が被告Y1から本件物件の譲渡を受けたとしても、無権利者からの譲受であり、その所有権を取得できない。

2  原告による本件物件の即時取得について

原告は、本件物件について即時取得したと主張するけれども、被告Y1に対し譲渡担保設定時に譲渡証明書の存否を尋ねることもなく、その交付を要求しなかったばかりか、その代金の支払状況の確認、他に譲渡や担保設定の有無等の確認を一切しなかったのであるから、原告は被告Y1が本件物件の所有権を有しないことを知っていたか、少なくとも知らないことに過失があるといえる。したがって、本件物件について即時取得は成立しない。

3  不法行為について

(一) 被告Y2が本件物件を占有していることは認めるが、その搬出行為に被告Y1と共謀して関与したことは否認する。

被告Y1は、被告Y2に対する本件物件の引渡義務を履行すべく自己の判断に基づいて本件物件を搬出し、これを被告Y2に引き渡したものである。

(二) 損害については、不知ないし争う。

四  争点

1  原告と被告Y1との間の本件担保物件に関する譲渡担保設定契約の成否

2  被告Y2と被告Y1との間の本件物件に関する譲渡担保(売渡担保)設定契約の成否

3  原告による本件物件の即時取得の成否、すなわち、本件物件の取得につき原告が善意無過失といえるかどうか。

4  被告らの不法行為の成否

5  被告Y1の免責の成否

6  損害額

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(≪証拠省略≫、弁論の全趣旨)によると、被告Y1は、かねてよりa基礎の屋号で原告の下請けとして杭打ち業を営んでいたこと、昭和六二年から平成三年頃までは好況で、被告Y1は昭和六二年と平成二年に本件アースドリル(付属品込み)を含めアースドリル(株式会社加藤製作所製全油圧式シティドリル、型式KE一二〇〇)をそれぞれ代金約三〇〇〇万円で購入したこと、しかし、その後バブル経済の崩壊による不況により仕事量が減り、被告Y1は資金繰りに窮して原告あるいは原告の代表者であるAから借金をするようになったこと、そして、平成七年一月頃から原告の被告Y1に対する貸付金は徐々に増え、同年一二月当時には合計金五八五万円となったことから、原告は、被告Y1に対し、担保を差し入れるよう要請したこと、その結果、同年一二月五日、原告は、被告Y1との間で、右借入金を被担保債権として本件担保物件を譲渡する旨の譲渡担保設定契約を締結してその引渡しを受け、その旨の書面(≪証拠省略≫)を作成したが、本件アースドリルについて譲渡証明書の交付は受けなかったこと、ところで、本件物件は当時中丸重機興業株式会社と原告の共有の置場にあり、原告は、本件担保物件のうち付属品等の部材については中丸重機興業株式会社に調査を依頼して、その存在を確認した上で右書面を作成したこと、以上の事実が認められ、右認定に反する≪証拠省略≫(被告Y1作成の陳述書)及び≪証拠省略≫(別件である被告Y2を原告、原告の代表者であるAを被告とする東京地方裁判所平成八年(ワ)第二二一〇四号動産引渡等請求事件における被告Y1の証人尋問調書)の各記載部分はいずれも採用できない。

2  右の事実によると、その所有権の取得は暫く措き、原告は、平成七年一二月五日、被告Y1との間で、原告の被告Y1に対する貸付金五八五万円を被担保債権として本件担保物件を譲渡する旨の譲渡担保設定契約を締結し、その引渡しを受けたものというべきである(被告Y1は原告のもとで下請けとして稼働し、その所有に係る建設機械類である本件担保物件等を原告の工事現場で使用していたこと等からすると、遅くとも平成八年二月までには現実の引渡しを受けたものと認められる。)。

二  争点2について

1  証拠(≪証拠省略≫、弁論の全趣旨)によると、被告Y2は、昭和五四年頃、当時被告Y1が勤務していた開発基礎株式会社と取引があったことから被告Y1を知るようになり、その後個人的な付き合いをしていたこと、被告Y1は、平成七年頃には資金繰りに窮するようになり、被告Y2に金銭の借入れを申し入れる状況になったこと、そこで、被告Y2は、平成七年四月から同年五月にかけて合計金七〇〇万円を貸し付け、同年四月二八日、被告Y1との間で、右貸付金を被担保債権として本件アースドリルと同型のアースドリルやその付属品等について譲渡担保(売渡担保)設定契約を締結したこと、しかし、被告Y1は、その後も金銭の借入れを被告Y2に申し入れ、そのため被告Y2は、被告Y1に対し、同年七月一〇日金五三五万円を貸し付けたが、同日、被告Y1との間で、本件物件を含む建設機械類について、被告Y2の被告Y1に対する金銭消費貸借契約に基づく金八〇五万円の貸金債権を被担保債権として譲渡担保(売渡担保)設定契約を締結してその所有権を取得し、占有改定の方法でその引渡しを受けたこと、しかして、同日付で作成された売買契約(所有権留保条件付)証書(≪証拠省略≫)には、売主を被告Y1、買主を被告Y2として、本件物件を含む建設機械類について売買代金を金八〇五万円(売買代金の支払日は、同月一〇日金五三五万円、同月一二日金二七〇万円)、付帯条件として同年一二月三〇日までに金一〇〇〇万円で買戻しができる旨定められているけれども、その実体は右にみたように譲渡担保(売渡担保)と認められること、そして、被告Y2は、右金二七〇万円の売買代金の支払日とされている同年七月一二日、被告Y1に対し、金二七〇万円を貸し渡したこと、ところで、本件アースドリルは当時明和機械株式会社に整備に出され、その整備工場に存在し、その他の建設機械類である部材は千葉市<以下省略>所在の中丸重機興業株式会社と原告の共有する置場等に置かれており、被告Y2らはその存在を一応確認して右売買契約証書を作成したこと、被告Y1は右買戻期限までに金一〇〇〇万円を支払って本件物件を含む建設機械類の買戻しを実行しなかったこと、被告Y1は、本件アースドリルの代金の支払を完了していたが、その譲渡証明書は製造元である株式会社加藤製作所が保管したままであったが、被告Y2は、平成八年一月に被告Y1からその譲渡証明書の交付を受けたこと、以上の事実が認められる。

2  右の事実によると、被告Y2は、平成七年七月一〇日、被告Y1との間で、被告Y2の被告Y1に対する金銭消費貸借契約に基づく金八〇五万円の貸金債権を被担保債権として本件物件を含む建設機械類を売り渡す旨の譲渡担保(売渡担保)設定契約を締結してその所有権を取得し、占有改定の方法でその引渡しを受けたものというべきである。

もっとも、原告は、本件物件を含む建設機械類の時価、譲渡担保契約の対象とされた部材数の不合理、その耐用年数、被告Y2の出金と被告Y1の入金の問題や譲渡証明書の入手時期等を捉えて被告Y2と被告Y1間の譲渡担保設定契約が平成八年二月以降に作成されたものであり、架空、無効であると主張し、原告の指摘する疑問に沿う書証も存在するところ、確かに部材の数については不自然な点も身受けられるけれども、原告は、≪証拠省略≫(中丸重機興業株式会社作成に係る原告宛の平成九年五月一日付証明書)をもって、平成七年一〇月二四日に中丸重機興業株式会社が被告Y1と協議の上存在している部材数を確認して原告に報告した数量より被告Y2と被告Y1が譲渡担保としたと主張する部材数の合計がはるかに多いとしてその矛盾を指摘するのであるが、果たして被告Y2と被告Y1間で作成された本件売買契約証書が平成八年二月以降に作成されたものであるとするならば、当然原告が指摘する部材数と一致するか若しくは減りこそすれ増えることはない筈であるのに、それより多い数の部材が記載されていることからすると、その不自然さはともかく、原告が主張する平成八年二月以降に作成されたとまでは認めることができない。

これら原告の指摘する疑問点や原告提出に係る書証等をもってしても、右認定を左右するに至らない。

三  争点3について

1  原告による本件物件の即時取得に関し、被告Y2は、原告が被告Y1に対し譲渡担保設定時に譲渡証明書の存否を尋ねることもなく、その交付を要求しなかったばかりか、その代金の支払状況の確認、他に譲渡や担保設定の有無等の確認を一切しなかったのであるから、原告は被告Y1が本件物件の所有権を有しないことを知っていたか、少なくとも知らないことに過失があると主張するので検討するに、建設機械は代金が比較的高額であることもあって、所有権留保による割賦販売がなされることが多く、売主は売買代金が完済されたときに譲渡証明書を発行し、転売に際しては右の譲渡証明書が添付されることが多いことは確かであるが、証拠(≪証拠省略≫、弁論の全趣旨)によると、被告Y1は、平成二年に本件アースドリル(付属品込み)を代金約三〇〇〇万円で購入し、その支払は現金で既に支払済みであり、原告も購入した経緯や代金の支払状況を把握していたこと、原告は、かねてから被告Y1を下請けとして使用し、本件アースドリルは、原告の工事現場で稼働させることが購入当初から予定されていたし、実際そのように使用されていたこと、また、その修理代金も全て原告に請求がなされ、原告が立替払いをしていたこと、その他原告は、基礎工事の業者であって、金融業者や建設機械の販売業者ではなく、本件アースドリルについても転売の予定はなく、特段譲渡証明書を必要としていなかったことが認められる。

2  右の事実によれば、原告は、被告Y1との間で本件担保物件について譲渡担保設定契約を締結するに際し、被告Y1から本件アースドリルの譲渡証明書の交付を受けていないし、他に譲渡や担保設定の有無等を確認していないけれども、被告Y1が本件物件の所有権を有すると信じたことに過失はないというべきである。

そうすると、被告Y2の右主張は採用できない。

四  争点4について

1  原告は、被告Y1と被告Y2は、共謀して、原告が占有していた本件物件を窃取しようと企て、平成八年二月二二日午後二時頃、東京都港区<以下省略>所在の原告の私立b学園の工事現場から本件物件を搬出して窃取したと主張するけれども、証拠(≪証拠省略≫)によると、被告Y1は、被告Y2が運送屋や置場を手配した上で、平成八年二月二二日、私立b学園の工事現場から本件物件を搬出し、被告Y2の依頼した運送屋である常勝工業株式会社によって埼玉県北埼玉郡<以下省略>の置場に運搬されたことが認められるけれども、本件全証拠によるも、被告Y2が被告Y1と共謀して原告の占有する本件物件を原告の工事現場から搬出して窃取したとまでは認めることができない。

2  そうすると、被告Y1は、右搬出行為によって原告の被った損害につき不法行為上の賠償責任があることは明らかであるけれども、被告Y2に対する損害賠償請求は、その余について判断するまでもなく理由がない。

五  争点5について

平成八年九月一八日に被告Y1に対し東京地方裁判所で破産宣告及び同時廃止の決定がなされ、平成九年四月二二日に免責決定がなされ確定したことは当事者間に争いがないところ、被告Y1が、原告との間で譲渡担保設定契約の目的とされ、現に原告が占有する状態の本件物件を被告Y2に引き渡すべく原告の工事現場から搬出した行為は、破産法三六六条の一二第二号にいう破産者が悪意をもって加えた不法行為といえる。

そうすると、被告Y1の免責の主張は採用できない。

六  争点6について

1  原告は、本件物件の平成八年二月当時の価額は金四一七万八〇〇〇円であるとして、本件物件の引渡しが執行不能のときに、その損害の賠償を求めているけれども、右の請求は、不法行為に基づく損害賠償請求であって、将来の給付請求である、いわゆる判決確定後の給付不能によって発生する代償請求でないことは、被告ら両名に対して請求していることや原告の主張自体に照らし明らかであり、したがって、これを口頭弁論終結時における不能を条件に現在の給付請求として構成するならともかく、既に原告の本件物件に対する占有侵奪に基づき発生している損害賠償請求について執行不能を条件とする将来の給付請求として構成することはできないから、原告の右請求は、その余について判断するまでもなく理由がないというべきである。

2  次に、原告は、本件物件の移動のため二度に渡り長島運輸株式会社に対しトレーラー、ラフターによる移動を依頼したが、被告らの不法行為により移動は不可能となり、右会社から運搬費用相当額として金一三万円の請求を受け、同額の損害を被ったと主張するけれども、これを認めるに足りる証拠はない。

3  更に、原告は弁護士費用相当の損害金を請求するけれども、右にみたとおり被告Y1に対する請求はいずれも認められないから、右損害金の請求は理由がない。

七  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、被告Y2に対し、本件物件の所有権に基づきその引渡しを求める限度で理由があるからこれを認容し、被告Y2に対するその余の請求及び被告Y1に対する請求はいずれも失当であるから棄却することとする。

(裁判官 山﨑勉)

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