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東京地方裁判所 平成8年(ワ)7789号 決定 1997年5月08日

東京都中央区銀座4丁目5番11号

補助参加申立人

株式会社服部セイコー

右代表者代表取締役

関本昌弘

右訴訟代理人弁護士

堤淳一

安田彪

石田茂

石黒保雄

《住所略》

基本事件原告

久田義郎

右訴訟代理人弁護士

森川和彦

《住所略》

基本事件被告

服部〓次郎

右訴訟代理人弁護士

菅沼隆志

主文

補助参加申立人が基本事件被告を補助するために基本事件に参加することを許可する。

理由

一  基本事件の概要

一件記録によれば、基本事件は、補助参加申立人の株主である原告が、補助参加申立人の代表取締役であった被告に対し、補助参加申立人がその子会社であるCompagnie Generale Horlogere S.A.(以下「CGH」という。)に対し無担保で金員を貸し付けたこと(以下「本件貸付け」という。)につき、被告において取締役としての注意義務に違反したものであるとして、商法267条に基づき、本件貸付けにより補助参加申立人の被ったとする損害の賠償を求めたものであることが認められる。

基本事件原告は、一般に、会社が金員を貸し付ける場合には、その取締役において、貸付先の支払能力を充分に調査し、その支払能力に疑問があるときは確実な担保を徴求する等して貸付金の回収を確保すべき注意義務があるにもかかわらず、基本事件被告がこれに違反したと主張する。一方、基本事件被告は、本件貸付けについて、補助参加申立人の取締役会の決議により、窮状にある子会社を再建するために正当な経営判断として意思決定されたものであり、基本事件被告においては取締役としてその決議に参画して本件貸付けを承諾したものであるから、基本事件被告には基本事件原告の主張する注意義務違反はないと反論する。

二  申立ての理由

基本事件においては、本件貸付けについて、補助参加申立人の組織によってされた意思決定の適法性がその審理の対象とされ、判決理由中で、その判断が示されるから、その意思決定の適法性の判断は、補助参加申立人の子会社に対する財政支援、ひいては子会社の経営そのものにも著しい不利益を及ぼすものであり、したがって、補助参加申立人の経営にとって法的に重要な利害を有し、その法律上の地位に影響を及ぼすものである。右の意味において、補助参加申立人は訴えを提起した株主と対立する隠れた当事者とも言うべき立場にあり、補助参加申立人が基本事件被告に補助参加して提訴株主と対立する立場で訴訟活動をしたとしても、補助参加申立人が独自の法律上の利益を有する限り、代表訴訟制度の趣旨に反するものではなく、むしろ、補助参加申立人に、主張立証の機会を与えてその意思決定の適否、当否を判断することが充実した審理をもたらすことにもなる。

三  基本事件原告の反論

補助参加は、訴訟の結果につき利害関係を有する第三者について許され、右にいう訴訟の結果とは、判決理由中の判断ではなく、訴訟物に対する判決に他ならず、また利害関係とは、事実上のものでは足りず、法律上のものであることが必要であるから、結局、補助参加が許されるには、訴訟物について法律上の利害関係がなければならないことになる。

これを本件についてみると、基本事件の訴訟物は、補助参加申立人の被告に対する損害賠償請求権の存否であって、基本事件において原告が勝訴すれば、補助参加申立人は被告から損害の賠償を受ける関係にあるから、補助参加申立人は、基本事件原告に参加する利益こそあれ、基本事件被告に参加する利益はない。基本事件被告の主張する本件貸付けの意思決定の適法性は、基本事件の訴訟物ではなく、判決理由中において判断がされるにすぎず、その判断については、当事者はもとより、補助参加申立人も拘束されることもないから、たとえ補助参加申立人が、判決理由中の判断によって、自己に不利益を生じた場合であっても、当該判決理由中の判断を争えばよいのであって、個々の取締役の職務行為の是正を目的とする商法267条の趣旨に反してまで、基本事件被告に補助参加する必要はない。

四  当裁判所の判断

1  補助参加は、訴訟に参加して当事者の一方を補助する訴訟活動をすることによって被参加者に有利な判決を得させることを助け、併せて被参加人に対する敗訴判決がされることによって補助参加申立人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に不利益な影響を受けることを防止することを目的とするものということができる。

ところで、株主代表訴訟において、当該会社の意思決定又はそれに基づいてされた行為につき、それに関与し、又はそれに基づいてされた取締役の行為の適否が争われる場合に、当該会社が右意思決定を正当と認めるときにあっては、当該会社は、判決において右意思決定を違法又は不当と判断されないことにつき、独自の利益を有し、右判断が当該会社に及ぼしうる影響の内容によっては、右利益をもって法律上の利益と評価すべき場合があるといわなければならない。そして、右の場合には、当該会社が、基本事件の被告に補助参加し、提訴株主と対立する立場で訴訟活動をすることを肯認すべきであり、このことは、株主代表訴訟が株主による当該会社の業務執行を監督し、是正する制度である側面を有することにかんがみると、何ら、株主代表訴訟制度の趣旨に反するものではない。

2  これを本件についてみると、基本事件において、前記のとおり、原告は、被告に対し、本件貸付けについて、取締役としての注意義務違反があったと主張するが、これに対し、被告は、本件貸付けが、窮状にある子会社を再建するために補助参加申立人の正規の意思決定手続に基づいてされたものであって正当である旨反論し、また、記録によれば、補助参加申立人においても基本事件被告と同様、本件貸付けにつき補助参加申立人における正規の意思決定に基づきされた正当な経営判断に係る行為であるものと主張していることが認められる。したがって、基本事件においては、本件貸付けについて、補助参加申立人における取締役としての注意義務違反の存否の判断を通じて補助参加申立人の本件貸付けについての意思決定の正当性そのものが判断されることになり、右判断は、補助参加申立人のCGHに対する支援に係る補助参加申立人の経営判断の当否はもとより、ひいては補助参加申立人の他の子会社に対する同種の貸付け等財政支援に係る経営判断一般にも影響を及ぼし、その他補助参加申立人の私法上又は公法上の法的利益に関わるものと考えられる余地があるから、補助参加申立人にあっては、基本事件被告を補助して訴訟活動をすることによって基本事件被告が有利な判決を取得することを助け、もって補助参加人による本件貸付けが正当である旨の判断を得る必要があると思料され、したがって、補助参加申立人が、基本事件の訴訟の結果について法律上の利害関係を有し、基本事件被告を補助するために基本事件に参加することができるものというべきである。

五  以上によれば、補助参加申立人の補助参加の申立ては理由があるから、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 門口正人 裁判官 池田光宏 裁判官 鈴木芳胤)

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