大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成8年(ワ)8825号 判決 1998年11月27日

東京都港区赤坂二丁目八番一三号

原告

株式会社コンピュータ・ド・トウキョウ コーポレーション

右代表者代表取締役

山口武士

右訴訟代理人弁護士

中村弘

東京都千代田区麹町二丁目一番地

被告

雇用促進事業団

右代表者理事長

清水傳雄

右訴訟代理人弁護士

石井成一

小澤優一

岡田理樹

谷垣岳人

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金九三七五万円及びこれに対する平成四年一〇月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告に対し、別紙プログラム目録記載のコンピュータプログラムが入ったカセットテープを引き渡せ。

右引渡しができない場合は、被告は、原告に対し、金九三七五万円及びこれに対する平成八年七月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告は、別紙プログラム目録記載のコンピュータプログラムを、被告経営に係る小山職業訓練短期大学校(栃木県小山市横倉六一二番の一所在)内のコンピュータから抹消せよ。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、コンピュータのハードウェア及びソフトウェアの販売、これらに関する教育及びサービスを目的とする株式会社である。原告は、米国アデイナ社(以下「ARD」という。)のコンピュータプログラムについてのライセンス代理店業務を行っている。なお、原告がARD関連の業務を遂行するについては、プログラム価格はARDの決めた価格によること、グリーンシートにユーザーの署名をもらいARDに提出することが定められている外は、契約内容は、すべて原告にゆだねられている。

被告は、雇用促進事業団法に基づき設立された法人である。

2  訴外陣内望(以下「陣内」という。)は、被告のためにすることを示して、原告代表者山口武士との間で、平成四年九月一日、別紙プログラム目録記載のコンピュータプログラム(以下「本件プログラム」という。)について、次のとおりの内容の契約(以下「本件契約」という。)を締結した(甲一)。

(一) 原告は、被告に対し、本件プログラムの使用を許諾する。

(二) ライセンス料は、七五万ドルとする。

支払期限は、送り状を受け取った日から三〇日以内とする。

(三) 使用許諾期間は、二年とする。更新した場合の期間も同様とする。

(四) 被告は、本件プログラムを、被告経営に係る小山職業訓練短期大学校(栃木県小山市横倉六一二番の一所在)(以下「職業訓練大学校」という。)住居科内のコンピュータSUN四〇〇で使用するものとする。これに変更がある場合は、文書で直ちに原告に通知しなければならない。

(五) 使用許諾を受けた地位及び本件プログラムは、事前にARDの文書による同意がなければ譲渡することができない。

(六) 前記(三)の有効期間の終了時に、被告は、現行の更新料、契約条件で、本件契約を更新することができる。更新がない場合は、終了時のオブジェクトプログラムのみの使用が認められ、ソースプログラムはARDに返還し、設定してあるソースプログラムのコピーは、消去、破壊しなければならない。

(七) 被告の契約不履行により契約が終了させられた場合は、被告は、直ちにプログラムを返還し、すべてのコピーを抹消しなければならない。

3(一)  有権代理(主位的主張)

陣内は、右契約につき被告を代理する権限を有していた。

(二)  代理権授与の表示による表見代理(予備的主張)

陣内は、職業訓練大学校で、同校で使用するコンピュータの選定及び導入を決定する導入委員会の委員長を務めており、コンピュータ及び関連機器の納入に際しては、陣内を通して手続をするよう指示されていた。したがって、被告は、原告に対し、陣内が同校のコンピュータ購入についての代理権を有する旨を、右契約に先立って表示した。

(三)  権限踰越による表見代理(予備的主張)

(1) 陣内は、職業訓練大学校において、同校で使用するコンピュータの選定及び導入を決定する導入委員会の委員長を務めていた(基本代理権)。

(2) 原告代表者山口は、陣内が右契約を締結するについて代理権を有すると信じた。

(3) 原告が右のように信じたことには、次のとおり正当の理由がある。

前記のとおり、陣内は、職業訓練大学校で、同校で使用するコンピュータの選定及び導入を決定する導入委員会の委員長を務めており、コンピュータ及び関連機器の納入に際しては、陣内を通して手続をするよう指示されていた。

原告は、本件契約の締結に際し、ブルーシート(甲一)に代理権者の署名をもらう必要があるため、陣内に対し、右書面は被告を代表する者が署名することになっているから然るべき者が署名するように注意した上、これを交付し、後日、陣内から返還を受けた際にも、右の点を確認したところ、同人は、自分がかかる権限を有する者であるから署名した旨答えている。

4  原告は、平成四年九月一四日、職業訓練大学校のコンピュータSUN4ⅡGXに、本件プログラムをインストールして、これを被告に交付した。

そして、同日、原告は、被告に対し、本件プログラム使用許諾料七五万ドルを、そのころの為替レートである一ドル一二五円で換算した九三七五万円の支払を請求した。

5  平成六年九月には、本件契約の有効期間は経過し、本件契約は終了した。

6  平成八年一月一七日、原告が、本件プログラムの使用状況を調査したところ、被告は、本件プログラムを、前記コンピュータと富士通FMRコンピュータとを接続して使用していた。これは、前記2(四)及び(六)に違反するものである。

原告は、被告に対し、同月二二日、本件契約を解除する旨の意思表示をした(甲二)。原告は、予備的に、本訴において解除の意思表示をする。

7  よって、原告は、本件プログラム使用許諾料七五万ドルを円に換算した九三七五万円及びこれに対する支払請求日から三〇日を経過した平成四年一〇月一五日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払、交付した本件プログラムの返還及び抹消、仮に返還ができない場合は、これに代えて、本件プログラムの代金相当額九億七二〇〇万円(ロード・モジュール一本六〇〇万円、ソース・モジュール一本四億八〇〇〇万円)の内金九三七五万円の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、原告については不知、被告については認める。

2  同2は否認する。

陣内は、平成四年九月当時、職業訓練大学校の講師であり、同校の電子計算機運営委員会の書記であったが、原告の主張する注文書なる書類(甲一)を受領したこともこれに署名したこともない。職業訓練大学校では、原告との間で、コンピュータプログラムに関するいかなる契約も締結していない。

3  同3は否認する。

職業訓練大学校を含めて、被告の運営するどの職業能力開発短期大学校においても、契約を締結する権限を有する者は、被告本部の経理担当理事又は当該短大の校長であって、一講師に過ぎない陣内は、契約締結に関する何らの権限も有しない。

原告は、平成元年三月二四日と平成三年一〇月一七日に、ADINAプログラム等を被告の運営する東京職業訓練短期大学校に販売し、それぞれ被告の契約担当役である同短大の校長との間で契約書を締結しているから、被告における契約締結権限を有する者について十分承知している。

4  同4は否認する。

なお、被告は、職業訓練大学校に電子計算機システムを導入するに当たり、訴外株式会社センターシステム(以下「センターシステム」という。)から、平成四年六月一二日付「電子計算機の賃貸借およびプログラム・プロダクトの使用権許諾に関する契約書」(乙一)に基づいて、コンピュータハードウエアを賃借すると共に、他のソフトウエアと併せてADINAプログラムの使用許諾を受け、同年一〇月一日から右賃借したコンピュータ(S-4/2GX)で右ADINAプログラムを使用している。とのADINAプログラムは、センターシステムが職業訓練大学校に使用許諾するに当たり、訴外センチュリー・リーシング・システム株式会社が原告から購入して、センターシステムに使用許諾したものである。それゆえ、右ADINAプログラムの右コンピュータ(職業訓練大学校のEWS室所在)へのインストールは、原告代表者によって行われた。しかし、これと別のADINAプログラムが原告によって職業訓練大学校のコンピュータにインストールされた事実はない。

また、原告が被告に対し、ADINAプログラムに関する使用許諾料の請求を行ったのは、平成八年四月に原告代理人が被告に送付した内容証明郵便(乙二)が初めてであり、被告も陣内もそれまで一度もこのような請求を受けたことはない。

5  同5は否認する。

6  同6のうち、原告代表者が平成八年一月二二日に、契約を終了させる旨記載された通知書(甲二)を被告本部に提出したことは認め、その余は否認する。

理由

一  請求原因2について

原告は、陣内が、被告のためにすることを示して、原告代表者山口武士との間で、平成四年九月一日、本件プログラムについて、本件契約を締結した旨主張し、その証拠として、甲第一号証を挙げる。

しかし、同号証では、その最初の部分に、ユーザーがADINA R&D, Inc. (ARD)からコンピュータープログラム等のライセンスを受けるための契約書であることが明記されている。そして、その末尾の契約当事者欄には、<1>ユーザーとして、「Oyama Poleytech college」(小山職業短期大学校)と記載され、署名者欄に「Nozomu Jinnouchi」との署名があり、肩書欄に「Profesor」(教授)と記載され、<2>その相手方として、「ADINA R&D, Inc.」と記載され、署名者欄に「K.J. Bathe」と記載され、肩書欄に「Director」と記載され、<3>その後に、ARDの代理店と明記して、原告の名前が記載され、原告代表者山口武士との署名がある。

右記載によれば、同号証は、その体裁から、ARDを当事者とする契約が成立したことの根拠としてならばともかく、原告を当事者とする契約の根拠とはならない。同号証によっては、請求原因2の事実を認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

以上のとおり、原告に、本件契約の効果が帰属するものと認めることはできないので、右の点から原告の請求は理由がない。

二  請求原因3について

乙第三号証の一、二及び第九号証によれば、被告の運営する職業能力開発短期大学校において、会計機関として本件契約のような契約を締結する権限を有するのは、本部の経理担当理事ないし当該短大の校長であること、本件契約当時、陣内は職業訓練大学校において講師であったにすぎないことが認められるので、請求原因3(一)(有権代理)の事実は認められない。

請求原因3(二)(表示による表見代理)について、本件全証拠によっても、これを認めるに足りない。なお、そもそも原告主張の内容自体、陣内がコンピュータ購入についての代理権を有する旨の表示ということもできない。

請求原因3(三)(権限踰越による表見代理)について、乙第七、八号証によれば、原告は、平成元年三月二四日及び平成三年一〇月一七日に、ADINAプログラム等を被告の運営する東京職業訓練短期大学校に販売し、それぞれ原告代表者が被告の契約担当役である同短大の校長との間で契約書を締結した経験を有することが認められるので、原告代表者は、被告の運営する職業能力開発短期大学校において、会計機関として本件契約のような契約を締結する権限を有する者は、当該短大の校長等であることを十分認識することができたと解される。したがって、原告代表者において、契約締結についての陣内の代理権を信じたとしても、それに正当な理由があるとはいうことができない。請求原因3(三)の事実も認められない。

以上のとおり、被告に、本件契約の効果が帰属するものと認めることはできないので、この点からも、原告の請求は理由がない。

三  したがって、右一及び二のいずれの点においても、原告の本件請求はいずれも失当であるから、これを棄却する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 沖中康人)

別紙プログラム目録

アディナ、アディナT、アデイナーIN及びアデイナーPLOTそれぞれについてのロード・モジュール及びソース・モジュール

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例