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東京地方裁判所 平成8年(ワ)9325号 判決 2000年3月17日

原告

日本電信電話株式会社

右代表者代表取締役

宮津純一郎

右訴訟代理人弁護士

内田晴康

末吉亙

清水真

横山経通

三好豊

被告

株式会社ダイケイ

右代表者代表取締役

中村弘治

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

主文

一  被告は、別紙イ号物件目録記載の物件を作成し又は頒布してはならない。

二  被告は、別紙イ号物件目録記載の物件を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金三二五二万〇四二五円及びこれに対する平成九年三月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、これを七分し、その二を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

六  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  主文第一項と同旨

二  主文第二項と同旨

三  被告は、原告に対し、金三億円並びに内金一億円に対する平成八年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員及び内金二億円に対する平成一〇年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が、自ら作成した別紙原告著作物目録一記載のデータベース(以下「タウンページデータベース」という。)及び同二記載の職業別電話帳(以下「タウンページ」という。)には、それぞれデータベースの著作権及び編集著作権が認められるところ、被告による別紙イ号物件目録記載のデータベース(以下「業種別データ」という。)の作成及び頒布が、原告の右各著作権を侵害するものであると主張して、被告に対し、業種別データの作成及び頒布の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めている事案である。

一  前提となる事実

1  タウンページのうち昭和六〇年四月一日以降に作成されたもの及びタウンページデータベースは、原告の発意により、原告の業務に従事する者が職務上作成したもので、原告の名義の下に公表されたものであり、タウンページのうち昭和六〇年四月一日より前に作成されたものは、日本電信電話公社の発意により、同公社の業務に従事する者が職務上作成したもので、同公社の名義の下に公表されたものであって、原告が昭和六〇年四月一日に同公社の一切の権利を承継した(甲一、二、甲三ないし七の各一ないし五、甲一九、検甲一ないし四、証人塩谷卓也、弁論の全趣旨)。

2   被告は、業種別データを作成し、頒布している(甲一一、一二、二〇、乙九、三四、検甲五、証人大久保真二、弁論の全趣旨)。

二  争点及び当事者の主張

1(一)  タウンページデータベースがデータベースの著作物といえるかどうか

(原告の主張)

(1) タウンページデータベースは、電話番号情報(電話番号、住所、掲載名、職業名・商品名等)を単純に羅列したものではなく、利用者が検索しやすいように独自の工夫を凝らして、素材となる電話番号情報を選択し、体系的に構成したものである。

① 電話番号情報の取捨選択

利用者と掲載者双方のメリットを考慮し、外部から電話がかかることを想定していない電話番号や、利用者からの問合せや注文に関係のない部署等の電話番号については掲載していない。

② 掲載名等の決定

契約者名をそのまま掲載するのではなく、必要に応じて、通称名による掲載、冠称名を省略した掲載、屋号による掲載を行うとともに、氏名と屋号の併記掲載、広告的要素の強い掲載名や五〇音順の掲載順位を意識した掲載名による掲載を行わないようにしている。また、同一社名や店名が連続して羅列されることを避けるために、例えば百貨店であれば、売り場ごとにまとめるなどしており、資格を要する職業については無資格者の掲載を排除している。

③ 職業分類体系

タウンページデータベースでは、次のようにして、契約者の営業内容に最も適合する職業分類に掲載している。

ア 職業分類体系の作成

職業分類の新設、改変に当たっては、業界や利用者の要望、検索時のサーチワード調査等の独自の調査の結果を様々な方向から検討している。この結果、タウンページデータベースの職業分類体系は、利用者が、求める商品やサービスを、思いついた言葉(職業)から探すことができるように構成されている。

職業分類の新設、改変に当たっては、職業分類の社会的認知度、他の職業分類との重複の有無、職業分類が大まかすぎないか、細かすぎないかなどを念頭におきながら作業を行うが、どのような場合に特定の職業分類を新設し、廃止するかという一義的な基準があるわけではなく、最終的には担当者の長年の経験によって判断されているものであるから、編集方針が決まれば機械的にできあがるものではなく、創作的な作業である。

わが国における代表的な職業分類体系として、日本標準産業分類があり、この職業分類体系をもとに職業別電話帳を作成することも可能であるが、日本標準産業分類とタウンページデータベースの職業分類体系は全く異なっている。

イ 電話番号情報の職業分類へのあてはめ

職業分類体系が利用者の思いつきやすいものになっていたとしても、その分類に個々の電話番号情報が正しく掲載されていないと利用者に使いやすいものとはならない。そこで、個々の電話番号情報を正しく分類するために、電話番号情報に異動が発生する都度、全ての契約者から十分なヒアリング等を行った上、原告がその事業内容に適合すると判断する一つ又は関連する複数の職業分類に掲載している。

右ヒアリングは、十分なスキル、ノウハウを持った担当者でなければ、うまく行うことができないものであり、創作的な作業である。

④ 電話番号情報の見直し

電話番号情報をアップトゥーデートなものにし、正しい職業分類に該当するように随時見直しを行っている。

(2) タウンページデータベースは、商品やサービスを求める利用者とこれらを提供したい掲載者を結びつけるという役割を果たすため、利用者が求める商品やサービスを、利用者が思いついた言葉(職業)から探すことができるように、独自の工夫を凝らしている。

① キーワードの設定

利用者の検索の利便のため、キーワードを入力すると必要な電話番号情報が検索できるようにしている。

② データ表記

コンピューターによる利用を考えて、独自の工夫を凝らしたデータ表記を行っている。

(3) タウンページデータベースには、右のとおり、情報の選択又は体系的な構成によって創作性が認められるから、タウンページデータベースはデータベースの著作物である。

(被告の主張)

タウンページデータベースが、情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有することは争う。

タウンページデータベースの職業分類は、世間に存在する職業を五〇音順に並べただけであるから、それには創作性はない。

また、個々の職業名が日本標準産業分類と若干異なっているからといって、創作性が認められるものではない。

(二)  業種別データがタウンページデータベースのデータベースの著作権を侵害しているかどうか

(原告の主張)

(1) 業種別データの電話番号情報は、全国を網羅しており、タウンページデータベースの改訂にあわせて改訂されている。

(2) タウンページデータベースにおいては、電話番号情報中にJIS規格にない文字(外字)が含まれる場合、JIS規格内の類似の文字、平仮名、片仮名に置き換えて表記している。

業種別データにおいても、右のような置き換えが行われているが、その置き換えのパターンが全く同じである。

したがって、業種別データはタウンページデータベースの電話番号情報をデッドコピーしたものである。

このことは職業分類についても同様であり、被告は、タウンページデータベースの職業分類の中身を何ら検討することなく、業種別データにデッドコピーしており、職業分類体系及びこれらへの電話番号情報の当てはめについて、タウンページデータベースにおける情報の体系的構成をそのまま模倣している。

(3) 以上のとおり、業種別データは、タウンページデータベースをデッドコピーしたものであり、業種別データの作成及び頒布は、タウンページデータベースのデータベースの著作権を侵害している。

(被告の主張)

業種別データは、タウンページを購入し、タウンページから業種名と電話番号を入力し、ハローページを使用して作成された被告のテレデータと突き合せて氏名と住所を取込み、日本標準産業分類によって職業を分類するという方法で作成しているから、タウンページデータベースをデッドコピーしたものではない。

2(一)  タウンページが編集著作物といえるかどうか

(原告の主張)

タウンページデータベースの創作性に関する右1(一)(原告の主張)(1)の①ないし④と同様であるほか、職業分類の配列、職業分類内の電話番号情報及び広告の配列、検索のための符号・略号の使用並びに検索に適した地域区分の設定について、利用者が検索しやすいように独自の工夫を凝らしており、これらの点にも、タウンページの創作性が認められる。

したがって、タウンページは編集著作物である。

(被告の主張)

タウンページが、素材の選択又は配列によって創作性を有することは争う。

タウンページの職業分類は、世間に存在する職業を五〇音順に並べただけであるから、それには創作性はない。

また、個々の職業名が日本標準産業分類と若干異なっているからといって、創作性が認められるものではない。

(二)  業種別データがタウンページの編集著作権を侵害しているかどうか

(原告の主張)

右1(二)(原告の主張)のとおり、業種別データはタウンページデータベースをデッドコピーしたものである。

タウンページの創作性は、タウンページデータベースの創作性と共通であるから、業種別データはタウンページを模倣したものでもある。

したがって、業種別データの作成及び頒布は、タウンページの編集著作権を侵害する。

(被告の主張)

業種別データは、タウンページを購入し、タウンページから業種名と電話番号を入力し、ハローページを使用して作成された被告のテレデータから氏名と住所を取り込み、日本標準産業分類によって職業を分類するという方法で作成しているから、タウンページを模倣したものではない。

3  原告の損害

(原告の主張)

(一) 主位的主張

原告がタウンページデータベースのライセンスをする際の実施料は、電話番号情報一件につき少なくとも三円である。

タウンページデータベースに収録されている電話番号情報は、全国版で一一〇〇万件であり、業種別データはタウンページデータベースと同様に全国を網羅しており、少なくとも一〇〇〇万件の電話番号情報が含まれている。

被告は、業種別データを少なくとも九本相当分は販売しており、その実施料相当額は(三円×一〇〇〇万件×九本=)二億七〇〇〇万円を下らない。

本訴のために要する弁護士費用は三〇〇〇万円を下らない。

したがって、被告の業種別データの作成及び頒布により、原告が被った損害は、三億円を下らない。

(二) 予備的主張

業種別データの平成四年四月から同九年三月までの売上高は三億二八〇〇万四七二八円であり、業種別データの利益率は九%を下回ることはないから、業種別データの作成及び頒布により被告が受けた利益の額は、(三億二八〇〇万四七二八円×九%=)二九五二万〇四二五円を下回ることはなく、右作成及び頒布により原告が被った損害額もこれを下回ることはない。

本訴のために要する弁護士費用は三〇〇〇万円を下らないから、原告が被告の業種別データの作成及び頒布により被った損害は、五九五二万〇四二五円を下らない。

(被告の主張)

(一) 主位的主張について

原告の主張を争う。

原告の情報の価格、数量については知らない。

被告の販売数は、否認する。

(二) 予備的主張について

原告の主張を争う。

原告の主張は、被告の全ての売上げを前提としているが、原告が証拠として提出しているタウンページ及びタウンページデータベースは、別紙原告著作物目録一記載のデータベース及び同二記載のタウンページデータベースの一部であるから、被告の全ての売上げを前提として被告に損害賠償を求めることはできない。

第三  争点に対する判断

一1  タウンページデータベース及びタウンページの作成について

前記第二(事案の概要)一(前提となる事実)1、証拠(甲三ないし七の各一ないし五、甲八、九、甲一七の一の一ないし三、甲一九、証人塩谷卓也)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。

(一) 日本電信電話公社では、職業別電話帳を発行してきたが、昭和五八年に職業分類を大幅に見直し、それまでは職業分類の数が約六〇〇であったのを約一八〇〇に増やすとともに、個々の職業分類についても検討を加えて、新たな職業分類体系を作成した。

右職業分類体系は、それまで日本電信電話公社が発行していた職業別電話帳、各種の情報誌、日本標準産業分類、外国の職業別電話帳等を参考にして作成されたものである。

右職業分類体系は、昭和五九年四月以降に発行されたタウンページに用いられ、タウンページデータベースにも用いられている。

右職業分類体系は、各業界の動向、原告において行う調査結果等に基づいて、各職業分類の社会的認知度、職業分類としての広狭、既存の職業分類との重複等を考慮して、数年に一度の割合で見直されている。

(二) タウンページデータベース及びタウンページの平成四年時点(タウンページデータベースについては平成四年九月版、タウンページについては平成四年三月一日発行分)の職業分類は、いずれも別紙日本標準産業分類―ダイケイ―NTT業種分類対比表の「NTT業種分類」欄記載のとおりである。

(三) 原告の担当者は、タウンページデータベース及びタウンページの職業分類に個々の電話番号情報を当てはめるために、掲載者から取扱商品や事業内容についての情報を聴取するとともに、利用者の検索の利便性の観点から、①事業所等の電話番号情報のうち、利用者からの問合せや注文に応じる部署以外のものを掲載しないようにする、②正式名称とは別に著名な通称がある場合には通称での掲載も認める、③契約者名ではなく、屋号で掲載するようにする、④業種を示す冠称名が付されている掲載名(「電気の……」、「すしの……」など)、広告的要素の強い掲載名(「安くてうまい……」、「早くて安全……」など)、五〇音順の掲載順序を意識した掲載名(「アアア……」など)を掲載しないようにする。⑤氏名と屋号又は屋号と屋号とを併記した掲載名は、併記した名でないと検索できないため、このような名では掲載しないようにし、氏名と屋号、屋号と屋号を別々に掲載するようにする、⑥同一社名や店名が連続して羅列されることを避けるために、例えば、百貨店であれば、初めに百貨店名を表示し、その後に売場ごとにまとめて電話番号を掲載する、⑦資格を要する職業については無資格者の掲載を排除するなどの配慮をしている。

しかし、顧客の意向等によって右の取扱いとは異なる掲載がされている場合がある。

(四) タウンページデータベースには、日本全国の電話番号情報が網羅されている。

タウンページは、各都道府県ごと又はさらに細分化された特定の地域ごとの電話番号情報を職業分類別に掲載した電話帳であって、当該地域内の電話番号情報が収録されており、地域によって異なる職業分類が採用されている。

2  業種別データの作成等について

前記第二(事案の概要)一(前提となる事実)2、証拠(甲一〇ないし一二、一四、一五、一八、二一、甲二二の三、六、六三、甲二四ないし二八、乙八、九、証人大久保真二)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。

(一) 業種別データは、タウンページデータベースが改訂される度に、被告において、これから、職業分類及び電話番号情報を取り込んで作成される。

業種別データの職業分類は、タウンページデータベースの職業分類及びそこに掲載されている電話番号情報を、職業分類名も含めてそのまま職業分類及び電話番号情報とするもの、タウンページデータベースの職業分類及びそこに掲載されている電話番号情報はそのままであるが、職業分類名の表現のみを変えたもの、タウンページデータベースの複数の職業分類をまとめて一つの職業分類とし、右の複数の職業分類に掲載されている電話番号情報を掲載して、複数の職業分類を包摂する職業分類名を付したものの三種類がある。ただし、タウンページデータベースにおいて複数の職業分類に掲載されている電話番号情報を、業種別データでは一つの職業分類のみに掲載しているものがある。

被告においては、タウンページデータベースから取り込んだ職業分類及び電話番号情報に、右のような三種類にそれぞれ応じた作業をした上、各職業分類に対して、日本標準産業分類に準じたコードを設定し、日本標準産業分類に存在しないものについては、被告において新たにコードを設定するという方法で、業種別データを作成している。

(二) 業種別データの職業分類は、別紙日本標準産業分類―ダイケイ―NTT業種分類対比表の「通番」欄に番号の記載がある行(ただし、16、17、20、183、251、255、262、326、335、394、397、600、682、688、710、756、804及び970は除く。これらの番号が掲載されている行の「ダイケイ業種分類」欄の職業分類が、業種別データの職業分類として設定されている証拠は存在しない。)の「ダイケイ業種分類」欄に記載されたとおりである(ただし、「ダイケイ業種分類」欄に網掛けが施されているものは、証拠上、職業分類が存在するが、その職業分類名が明らかでないものである。)。

(三) 業種別データに収録されている電話番号情報で、タウンページデータベースに収録されていないものは存在しない。また、右(一)以外に、被告が業種別データの作成に当たって独自に電話番号情報を職業別に分類するということもない。

(四) 業種別データには、日本全国の電話番号情報が網羅されており、都道府県ごとのデータは一つのファイルに分類されているが、被告は、業種別データのうち、特定の地域、業種など、顧客の要望する単位でデータを抽出し、販売している。

なお、被告は、「業種別データは、タウンページを購入し、タウンページから業種名と電話番号を入力し、ハローページを使用して作成された被告のテレデータから氏名と住所を取り込み、日本標準産業分類によって職業を分類するという方法で作成している。」と主張するところ、乙三四には、これに沿う記載があるほか、証人大久保真二は、これに沿う証言をする。しかし、証拠(甲二二及び二三の各一ないし一四〇、甲二四ないし二六、証人大久保真二)及び弁論の全趣旨によると、業種別データの氏名等の具体的な表記には、タウンページデータベースと合致し、かつ、ハローページと合致しないものが多数存在するものと認められこと、証拠(甲一六、一八、二〇、二一、乙七)によると、行政管理庁作成に係る平成五年一〇月改訂前の日本標準産業分類の分類項目は別紙日本標準産業分類―ダイケイ―NTT業種分類対比表の該当欄(大分類、中分類、小分類及び細分類)記載のとおりであるところ、業種別データの職業分類は、日本標準産業分類とは大きく異なっているものと認められること、その反面、右(一)認定のとおり、タウンページデータベースの職業分類と近似していること、被告が主張する業種別データの作成方法は、いかにも迂遠な方法であることからすると、乙三四の右記載及び証人大久保真二の右証言を採用することはできず、他に右(一)ないし(四)認定の事実に反する証拠はない。

二  争点(一)について

1(一)  前記一1(二)で認定した事実、証拠(甲八、九、一四ないし一六、一八、二〇、二七、二八、乙七、八、証人塩谷卓也)及び弁論の全趣旨によると、タウンページデータベースには、約一八〇〇の職業分類が存するところ、このうち、業種別データにおいても同一の職業範囲を包摂する職業分類として用いられている一〇〇の職業分類(ただし、タウンページデータベース上で「装てい」とされている職業分類は、書籍の装丁を行う業種を意味するものであるが、業種別データにおいては「装蹄業」とした上で、タウンページデータベースと同じ電話番号情報が分類されている。)が設定された理由は、別紙「タウンページデータベースにおける各職業分類が設けられた理由」記載のとおりであることが認められる。

(二)  証拠(甲一八、二一、乙七)によると、タウンページデータベースの職業分類は、日本標準産業分類の分類項目とは大きく異なっており、タウンページデータベースの特定の職業分類が、日本標準産業分類の分類項目中の一つの細分類と同一の職業範囲を包括することはほとんどないものと認められる。また、その他、タウンページデータベースの職業分類体系と同様の職業分類体系が存するとは認められない。

(三)  前記一1(二)のとおり、タウンページデータベースの職業分類は、右(一)記載の一〇〇の職業分類を含む職業分類を小分類として、複数の小分類を包摂する中分類、さらに複数の中分類を包摂する大分類の三層構造となっている(別紙タウンページデータベース職業分類一覧表参照。)。

前記一1の事実と右(一)ないし(三)の事実を総合すると、タウンページデータベースの職業分類体系は、検索の利便性の観点から、個々の職業を分類し、これらを階層的に積み重ねることによって、全職業を網羅するように構成されたものであり、原告独自の工夫が施されたものであって、これに類するものが存するとは認められないから、そのような職業分類体系によって電話番号情報を職業別に分類したタウンページデータベースは、全体として、体系的な構成によって創作性を有するデータベースの著作物であるということができる。

2  前記一1(三)のとおり、原告の担当者は、タウンページデータベースの職業分類に個々の電話番号情報を当てはめるために、掲載者から取扱商品や事業内容についての情報を聴取していることが認められ、証拠(甲一九、証人塩谷卓也)によると、右聴取には、一定の技術や経験が必要であると認められるが、右のあてはめの過程は掲載するかどうかを選択するものではないこと、タウンページデータベースの職業分類は、前記のとおり一八〇〇にわたって細かく分かれているから、いずれの職業分類に入れるかの選択の幅は小さいものと考えられ、右の技術や経験も主として個々の掲載者の事業の内容をいかに正確に把握するかという事実認定に関するものであると考えられることからすると、右のあてはめの過程に情報の選択又は体系的な構成について創作性が存するとは認められない。

また、前記一1(三)のとおり、原告は、利用者による検索の利便性の観点から、掲載名等について、前記一1(三)①ないし⑦のような配慮をしているものと認められるが、これらのものは、電話番号情報に関する職業別のデータベースとして利用者に提供する以上、当然にすべき配慮であると考えられるから、特に創作的なものとは認められない。したがって、右のような配慮をもって、情報の選択又は体系的な構成について創作性が存するとは認められない。

3  さらに、原告は、タウンページデータベースについて、随時見直しを行っていること及びキーワードの設定やデータの表記に関する工夫を、データベースの著作物としての創作性の根拠として主張するが、随時見直しを行っていることは、具体的な内容にかかわらずそのことのみでタウンページデータベースが情報の選択又は体系的な構成により創作性を有するということができないことは明らかであり、また、右のキーワードの設定やデータの表記に関する工夫については、これを具体的に示す証拠は存在しないから、このような工夫によって、タウンページデータベースが情報の選択又は体系的な構成により創作性を有するとも認められない。

4 以上のとおり、タウンページデータベースは、職業分類体系によって電話番号情報を職業別に分類した点において、データベースの著作物と認められるというべきである。

三  争点1(二)について

1(一)  前記一2認定のとおり、業種別データは、タウンページデータベースから職業分類及び電話番号情報を取り込んで作成されたもので、その職業分類は、タウンページデータベースの職業分類及びそこに掲載されている電話番号情報を、職業分類名も含めてそのまま職業分類及び電話番号情報とするもの、タウンページデータベースの職業分類及びそこに掲載されている電話番号情報はそのままであるが、職業分類名の表現のみを変えたもの、タウンページデータベースの複数の職業分類をまとめて一つの職業分類とし、右の複数の職業分類に掲載されている電話番号情報を掲載して、複数の職業分類を包摂する職業分類名を付したものの三種類であって、それ以外に独自の職業分類が用いられているということはない。

(二) 業種別データのうち、タウンページデータベースの職業分類及びそこに掲載されている電話番号情報を、職業分類名も含めてそのまま職業分類及び電話番号情報とする部分並びにタウンページデータベースの職業分類及びそこに掲載されている電話番号情報はそのままであるが、職業分類名の表現のみを変えた部分は、いずれも、タウンページデータベースの創作性を有する体系的な構成がそのまま再現されているということができる。タウンページデータベースの複数の職業分類をまとめて一つの職業分類とし、右の複数の職業分類に掲載されている電話番号情報を掲載して、複数の職業分類を包摂する職業分類名を付した部分は、タウンページデータベースの創作性を有する体系的な構成をもとにしており、複数の職業分類をまとめた点を除いては、独自に分類したというようなものではないから、この部分についても、タウンページデータベースの創作性を有する体系的な構成が再現されているということができる。

(三)  また、右(一)認定の事実からすると、業種別データは、タウンページデータベースに依拠して作成されたものであると認められる。

(四)  したがって、業種別データは、タウンページデータベースに依拠して作成されたものであり、その創作性を有する体系的な構成が再現されているということができる。

2  前記一2(四)のとおり、被告は、業種別データを作成し、その中から特定の地域、業種など、顧客の要望する単位でデータを抽出して頒布しているのであるから、このような業種別データの作成及び頒布は、タウンページデータベースの著作権を侵害するものであるということができる。

四  争点2(一)について

1  証拠(甲八、九、証人塩谷卓也)及び弁論の全趣旨によると、タウンページとタウンページデータベースの職業分類及び電話番号情報は、改訂時期のずれによるもの以外は、それぞれ同じ内容であると認められる。

2 右1の事実に前記二で述べたところを総合すると、タウンページの職業分類は、検索の利便性の観点から、個々の職業を分類し、これらを階層的に積み重ねることによって、全職業を網羅するように編集されたものであり、原告独自の工夫が施されたものであって、これに類するものが存するとは認められないから、そのような職業分類体系によって電話番号情報を職業別に分類したタウンページは、素材の配列によって創作性を有する編集著作物であるということができる。

3  前記一1(三)のとおり、原告の担当者は、タウンページの職業分類に個々の電話番号情報を当てはめるために、掲載者から取扱商品や事業内容についての情報を聴取していることが認められるが、前記二2で述べたのと同様の理由により、右のあてはめの過程に素材の選択又は配列について創作性が存するとは認められない。

また、前記一1(三)のとおり、原告は、利用者による検索の利便性の観点から、掲載名等について、前記一1(三)①ないし⑦のような配慮をしているものと認められるが、これらのものは、職業別電話帳として利用者に提供する以上、当然にすべき配慮であると考えられるから、特に創作的なものとは認められない。したがって、右のような配慮をもって、素材の選択又は配列について創作性が存するとは認められない。

4  さらに、原告は、タウンページについて、随時見直しを行っていること、タウンページ中の広告の配列、検索のための符号及び略号の使用並びに検索に適したタウンページの地域区分の設定について創作性があると主張するが、随時見直しを行っていることは、具体的な内容にかかわらずそのことのみでタウンページが素材の選択又は配列により創作性を有するということができないことは明らかであり、また、右の広告の配列、符号及び略号の使用並びに地域区分の設定については、これらの創作性に関する具体的な主張はないから、これらによって、タウンページが素材の選択又は配列について創作性を有するとも認められない。

5 以上のとおり、タウンページは、職業分類体系によって電話番号情報を職業別に分類した点において、編集著作物として認められるというべきである。

6  前記一1(四)のとおり、タウンページは、各都道府県ごと又はさらに細分化された特定の地域ごとの電話番号情報を職業分類別に掲載した電話帳であって、全国版のものは存在しないから、タウンページの編集著作権は、右地域ごとのタウンページを単位として認められるということができる。

そして、前記一1(四)のとおり、タウンページの職業分類は、地域によって異なる。

五  争点2(二)について

1 前記四6のとおり、タウンページの編集著作権は、各地域ごとのタウンページを単位として認められるものであるところ、前記一2のとおり、業種別データは、全国の電話番号情報を網羅したデータベースであり、その職業分類中には地域的特性を考慮した職業分類及び日本全国の電話番号情報が全て包含されている。

2  しかし、前記一2認定のとおり、業種別データは、タウンページデータベースから職業分類及び電話番号情報を取り込んで作成されたものであって、証拠(甲二二及び二三の各一ないし一四〇、甲二四ないし二六、証人大久保真二)及び弁論の全趣旨によると、業種別データの氏名等の具体的な表記には、タウンページと合致しないものが多数存在するものと認められるから、業種別データが、タウンページに依拠して作成されたとは認められない。(なお、タウンページデータベースが、タウンページの第二次著作物であれば、業種別データが、タウンページデータベースに依拠して作成されたことからタウンページにも依拠して作成されたという余地があるが、タウンページデータベースが、タウンページの第二次著作物である旨の主張立証はない。)

3  したがって、業種別データの作成及び頒布が、タウンページの編集著作権を侵害しているということはできない。

六  争点3について

1  原告は、主位的に、タウンページデータベースの電話番号情報一件についてのライセンス料による損害を主張するが、電話番号情報自体に著作物性が認められるものではないから、右のような損害計算方法を採用することはできない。

2  証拠(乙三四)によると、業種別データの平成四年四月から同九年三月までの売上高は三億二八〇〇万四七二八円であり、被告の業務全体の利益率は九%を下回ることはないと認められる。

前記一2で認定した業種別データの作成及び販売方法を考慮すると、業種別データの利益率が、被告の業務全体の利益率を下回るとは認められない。

3  したがって、業種別データの販売によって、被告が受けた利益の額は、(三億二八〇〇万四七二八円×九%=)二九五二万〇四二五円を下回ることはないものと認められ、原告は、右同額の損害を被ったものと推定される。

原告の損害としての弁護士費用は、三〇〇万円と認めるのが相当である。

4  以上のとおり、原告が被った損害は、右3の合計(二九五二万〇四二五円+三〇〇万円=)三二五二万〇四二五円であると認められる。

七  以上の次第で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官森義之 裁判官榎戸道也 裁判官杜下弘記)

別紙イ号物件目録<省略>

別紙原告著作物目録<省略>

別紙日本標準産業分類―ダイケイ―NTT業種分類対比表<省略>

別紙タウンページデータベースにおける各職業分類が設けられた理由<省略>

別紙タウンページデータベース職業分類一覧表<省略>

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