東京地方裁判所 平成8年(行ウ)103号 判決
原告
後藤雄一(X)
被告
(東京都監査事務局総務課長) 鹿島博之(Y1)
同
(東京都監査事務局長) 髙村袈裟茂(Y2)
右両名訴訟代理人弁護士
山下一雄
"
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 本件監査請求が本件知事会見開催から一年経過後になされたことについて正当な理由が存するか否か(争点1)について
1 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告は、平成七年三月八日、監査委員に対して、平成六年四月一日から平成七年一月三一日までの間の会議、懇親会等の会合に係る支出命令書、起案文書、領収書等の公文書の開示請求をしたが、監査委員は、平成七年五月八日、全部非開示とする旨の決定を行ったため、原告は、同月一八日、右公文書非開示決定の取消しを求めて提訴した(東京地方裁判所平成七年(行ウ)第一〇三号事件)。
(二) 知事は、平成七年一〇月一三日、開示基準を定め、事業に関連する随時の協議、打合せの際の飲食に要する経費については、実施年月日、支出金額、支出内訳、出席者数については開示し、会議等の名称、会議開催の目的、都の出席者については原則開示するが、相手方の肩書・氏名、会議等の場所、債権者名、債権者の口座、権者の印影については非開示とすることとし、会議費について、過去に全面非開示決定としたもののうち、現に争訟中のものについて、開示基準により開示できる部分については開示することとした。
(三) 監査委員は、平成七年一二月二五日、前記(一)の訴訟の対象に含まれる別件知事会見に係る公文書の一部を開示したが、会議等の名称、開催の目的、開催場所、会議の内容及び出席者名を非開示とした。
(四) 別件知事会見は本件知事会見と同様、本件ホテルにおいて開催されたものであるが、別件知事会見については三四万七四六八円、本件知事会見については三一万二四八八円の支出がされ、これに合致する会計書類が作成されていたものの、実際の支払額は、別件知事会見については二八万五〇〇一円、本件知事会見については二七万九八一一円であり、その差額は、平成八年二月一四日に返還された。
(五) 監査委員は、平成八年二月一五日、監査事務局が行った平成六年度の会議費の支出につき不正経理、過大支出があったとして、謝罪会見を行い、その中で、別件知事会見の内容が明らかにされ、同月二三日、別件知事会見の会議件名、開催場所を開示した。
2 右のとおり、本件知事会見は別件知事会見と会議の名称、目的及び開催場所のみならず、会計処理に係る支出が現実の支払額を超えていたためその差額返還が行われた点でも共通するところ、平成七年一〇月一三日以降においても、開示基準によれば、会議等の場所、債権者名は非開示とされ、別件知事会見については、右事項に加えて、平成八年二月一五日の謝罪会見までの間は、開示基準において原則開示とされている会議等の名称、開催の目的、都の出席者についても非開示としていたのであるから、仮に、原告が、本件知事会見につき公文書開示請求をしたとしても、監査委員は、平成八年二月一五日の謝罪会見までの間は、会議等の場所、債権者名はもちろんのこと、本件知事会見の名称、開催の目的、出席者についても非開示としたものと推認することができる。
3 ところで、地方自治法二四二条二項本文は、監査請求の期間を同条一項に現定する財務会計行為のあった日又は終わった日から一年と規定する。しかし、当該財務会計行為の存在及び内容が地方公共団体の住民に秘匿され、監査請求期間内に監査請求することができない場合等にまで、右の規定を適用することは相当でない。そこで、同項ただし書は、「正当な理由」があるときに、その例外を認めたものである。したがって、右にいう「正当な理由」の有無は、特段の事情のない限り、地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該財務会計行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から監査請求をするために必要とされる相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断されるべきである。
そこで、この点を本件について検討するに、平成七年一〇月一三日から平成八年二月一五日までは、本件知事会見の開催日、これに係る支出内訳、出席者等を知ることは可能であったとしても、会議等の名称、開催の目的、開催場所を含む支出の内容の開示は拒絶されたであろうと推認されることは前記のとおりであり、これらが明らかにされたのは平成八年二月一五日というのである。そうすると、財務会計行為は日時と支出金額のみならず、使途との関係においてその当否、適否の判断が可能となるものであることからすれば、本件知事会見に係る支出負担行為、支出命令は平成八年二月一五日まで秘匿されていたものというほかなく、前記のとおり、原告は、その一か月以内である同年三月一三日に本件監査請求をしているのであるから、本件監査請求が本件知事会見開催から一年経過後になされたことについて正当な理由が存するものということができる。
二 本件経費の支出の違法性の有無(争点2)について
1 本件知事会見の目的について
〔証拠略〕によれば、本件知事会見と同種の会議は、年に二回ないし三回の頻度で、監査結果の中で特に重要な事項等を中心として、監査委員と知事とが意見交換することを目的として開催されているものであり、監査委員と知事とが、監査結果の円滑な実現を通じ、民主的・能率的行政の執行、都政の健全な発展という共通の目標を効果的に達成するため、相互に意志疎通を図る必要があることから実施されているものである。そして、本件知事会見は、財務監査などで監査委員が指摘した予算執行上の問題点等について意見交換を予定していたことから、予算案が審議される都議会の第一回定例会直前の時期に設定されたものであることが認められ、右事実に照らせば、監査委員と知事との意見交換の場を設けることは、その目的に照らし、地方自治体の事務に該当するものであるということができる。
2 本件知事会見における会食について
本件知事会見は、昼食時に設定され、参加者に対して食事と飲物が提供されているが、〔証拠略〕によれば、本件知事会見の時間帯が昼食時と設定されたのは、監査事務局総務課において、本件知事会見の開催候補日を都議会の第一回定例会開催日(平成七年二月七日)の前週である同年一月三〇日(月)から同年二月三日(金)までの一週間として、平成六年一二月中旬から、参加予定者の日程調整に入ったところ、右期間中の知事の出席可能日は、平成七年二月一日の昼食前後の時間帯のみであったことによるものであることが認められ、また、昼食をとりながら、知事と監査委員とが懇談を行い、忌憚のない意見交換をすることは、前記本件知事会見の目的にも反しないものということができる。
この点につき、原告は、昼食が単価一万円もするフランス料理のフルコースである必要はなく、また、公務員が公務中に飲酒することが社会通念を逸脱していることは明白であると主張する。たしかに、監査委員と知事との意見交換が目的の本件知事会見において、その時間帯が昼食時に設定されたからといって、昼食として、単価一万円のフランス料理のフルコースを提供することは、必ずしも適当であったとはいい得ないものと考えられるが、限られた時間内に、忌憚のない意見交換の時間をできるだけ多くとれるようにするという観点からは、コース料理による昼食としたことにも一応合理的な理由が存するものということができるところ、コース料理の単価を一万円としたことが被告らの裁量の範囲を逸脱するとは認められない。また、ワインについても、会食参加者一六人に対して四本という量であり、コース料理の一環と評価し得る程度のものであるから、被告らの裁量の範囲を逸脱するものとまではいい得ないものというべきである。
3 本件知事会見の会場について
次に、本件知事会見が、都庁舎内の会議室ではなく、本件ホテルの本件会場を用いて開催された点につき検討するに、〔証拠略〕によれば、都庁舎内には、業務遂行上必要な主として内部職員中心の会議及び都職員の福利厚生を図るための文化会、体育会等を主たる使用目的とする一般会議室が三六室(面積合計二四七二・二平方メートル、収容人員合計九七六人、収容人員一人当たりの面積約二・五平方メートル)、主たる構成員が外部の委員等で構成されている懇談会及び審議会等を主たる使用目的とする特別会議室Bが二〇室(面積合計二六一八・〇一平方メートル、収容人員合計六九四人、収容人員一人当たりの面積約三・八平方メートル)、外部の著名な学識経験者等が参加する懇談会及び審議会等を主たる使用目的とする特別会議室Aが四室(面積合計六六七・二七平方メートル、収容人員合計一八四人、収容人員一人当たりの面積約三・六平方メートル)があり、財務局所管会議室等管理運営要綱(平成三年三月二二日財務局長決定)によって、右の主たる使用目的の範囲が定められていること、特別会議室Aの隣にはパントリーが設置されているものの、そこには湯沸器、冷蔵ケース、コーヒー・メーカー等が置かれているのみであり、他の会議室にはパントリー自体設置されていないこと、本件知事会見においては、会議終了後速やかに懇談、会食に移行できるよう、別紙(二)記載のとおり、本件会場を会議用と懇談、会食用に区分し、会議中にあらかじめ配膳を済ませておいたことが認められるところ、別紙(二)記載のような配置としたことについては、限られた時間内に会議、懇談、会食を効率的、効果的に実施するという観点から理由がないわけではなく、昼食をコース料理としたことについても、その単価の点はともかくとして、限られた時間内に、忌憚のない意見交換の時間をできるだけ多くとれるようにするという観点からは、一応の合理性が認められることは前記のとおりであるから、知事と監査委員との会見を都庁舎内の会議室で開催することが可能であったとしても、本件知事会見の会場を本件ホテルに求めたことに直ちに裁量権の逸脱あるものとすることはできず、また、本件ホテルの宴会場で、本件会場よりも室料が安く、本件会場に次いで面積が広いものは、本館四階の「宴」であり、その面積は一一二平方メートル、料飲付き室料は三万五〇〇〇円であることが認められるが、別紙(二)記載のような配置とするためには、会議用として一九名、懇談、会食用として一六名の延べ三五名分のスペースが必要となるところ、パントリーが設置されている特別会議室Aの収容人員一人当たりの面積約三・六平方メートルを基準としても、これに右延べ人数の三五を乗じると一二六平方メートルとなるのであるから、本件知事会見が本件会場を用いて開催されたことについても、被告らの裁量の範囲を逸脱するものとはいい得ないものというべきである。
4 要人警備及び知事秘書の食事代について
原告は、要人警備二名及び知事秘書の食事代について、その食事場所が本件会場から離れていることをもって、本件知事会見とは関係ないものと主張するが、要人警備二名及び知事秘書の食事場所は知事が滞在している本件ホテル内であり、必要があれば駆け付けられる態勢にあったものと推認することができるのであるから、右食事代をもって、本件知事会見と無関係とする原告の主張は採用できない。
三 以上のとおり、本件経費が違法に支出されたと認めることはできない。
第四 結論
以上の次第で、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 水谷里枝子)