東京地方裁判所 平成8年(行ウ)130号 判決 2000年11月17日
原告
熊谷よ志子
右訴訟代理人弁護士
山田二郎
佐藤義行
後藤正幸
深山雅也
上原洋允
小杉茂雄
被告
東京都固定資産評価審査委員会
右代表者委員長
森田重夫
右訴訟代理人弁護士
川上俊宏
右指定代理人
越智功
外二名
主文
一 被告が原告に対し平成八年三月二二日付けでした別紙目録1記載の土地に係る平成六年度固定資産課税台帳の登録価格についての審査申出に対する決定を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 主文一項と同旨
二 被告が原告に対して平成八年三月二二日付けでした審査決定に係る別紙目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)に対する平成六年度固定資産課税台帳の登録価格のうち同目録2記載の平成五年度の登録価格を上回る部分を取り消す。
(なお、原告は、本訴請求の趣旨として、右一、二項のとおり申し立て、右各請求の関係は選択的併合であるとする。
しかし、後記のとおり、地方税法(以下「法」という。)は、二項の請求のように固定資産評価審査委員会のした決定のうちの価格の一部のみを取り上げて、その取消しを求めることを予定していないというべきであること、一項、二項の各請求において、原告が違法事由として主張するところは、いずれも、原告が平成六年一月一日における本件土地の適正な時価と考える価格(平成五年度固定資産課税台帳の登録価格と同一の価格)を、被告の決定した価格が上回るという点にあること、原告は、各請求の関係を選択的併合であるとして、違法事由が認められる場合に、いずれの請求を認容するかを裁判所にゆだね、二項の請求に固執するものではないことを明らかにしていることからすると、原告の右各請求は、平成五年度固定資産課税台帳の登録価格を上回る点において被告の審査申出に対する決定には違法があると主張して、右決定の取消しを求めているものと理解するのが相当であり、結局、これらの両請求は同一の請求と理解するのが相当である。
すなわち、法は、固定資産税の納税者が、その納付すべき固定資産税に係る資産について固定資産課税台帳に登録された一定の事項について不服がある場合には、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる(法四三二条一項)とする一方、同委員会は、右申出を受けた場合においては、直ちにその必要と認める調査、口頭審理その他の事実審査を行い、その申出を受けた日から三〇日以内に審査の決定をし、決定のあった日から一〇日以内に、申出人及び市町村長(東京都の特別区においては、法七三四条一項の規定により、東京都知事。以下同じ。)に文書をもって通知しなければならないとし(法四三三条一項、一二項(平成一一年法律第一五号による改正前の法においては同条八項。以下、同じ。))、右の決定に不服がある固定資産税の納税者は、その取消しの訴えを提起できるとしている(法四三四条一項)。右のとおり、取消訴訟の対象である固定資産評価審査委員会の決定は、固定資産課税台帳に登録された一定の事項についての審査申出人の不服申立てに対する同委員会の応答としてされるものであり、また、右決定において判断された価格は、後記のとおり、基準年度に係る賦課期日における当該固定資産の適正な時価という一個の評価的事実であるから、法は、右価格を可分なものであるとして、その一部に関する部分のみが取消訴訟において争われ、残部が別途に確定するという事態は予定していないというべきである。もし仮に同委員会の決定が可分なものであって、その一部のみの取消しを訴求することが認められるとすると、請求が認容された場合には、同委員会は審査申出に対して応答すべき義務の履行として改めて当該部分についての決定を行うべきこととなるが(行政事件訴訟法三三条二項)、その結果、右の新たな決定と訴訟の対象とならなかった決定の残部の両方が存在することとなり、これらの間の論理的な整合も期し難い結果を招来することとなり、実際上も不都合であると解される。
これに対し、判決において決定のうちの価格の一部又は全部を取り消した場合には、その部分については、固定資産評価審査委員会が改めて決定する義務は生ぜず、決定のうち取り消されなかった部分のみの効力が存続すると考える余地もなくはないが、右のような考え方は、行政事件訴訟法三三条二項の規定に反するうえ、審理の結果、係争部分の具体的な価格について真偽不明となれば、立証責任の原則に従い、右請求に係る部分の価格全部を取り消すべきこととなり、改めて同委員会の決定も行われないため、右の係争部分の価格は零円として確定することになると解さざるを得なくなるが、そのような結果が不合理であることは明らかであり、右の考え方を採用することはできない。
むしろ、法は、固定資産評価審査委員会の決定については、市町村長に対しても、右決定を文書をもって通知するものとし(法四三三条一二項)、市町村長は、その結果、既に固定資産課税台帳に登録された価格等を修正する必要があるときは、右通知を受けた日から一〇日以内にその価格等を修正して登録し、その旨を当該納税者に通知すべきものとしたほか(法四三五条一項)、同項の規定によって価格等を修正した場合においては、市町村長は、固定資産税の賦課後であっても、その修正した価格等に基づいて、既に決定した賦課額を更正すべきことを義務づけている(同条二項)が、判決の結果に基づいて、直ちに市町村長が固定資産課税台帳に登録された価格等を修正すべき事態が生じることを予定した規定は設けられていないことからすれば、法は、取消訴訟において固定資産評価審査委員会の決定のうち価格の認定に誤りがあると判断された場合には、改めて同委員会による決定がされることを前提としているというべきである。
ちなみに、固定資産評価審査委員会の決定が不可分であると解した場合、同委員会が認定した価格が「適正な時価」を上回るとして同委員会の決定を取り消す旨の判決がなされ、その理由中で「適正な時価」が具体的に認定判断されているときには、同委員会は、右判断の拘束を受けたうえで、改めて決定を行うべきこととなる。)
第二 事案の概要
本件は、原告がその所有に係る本件土地の平成六年度の土地課税台帳に登録された価格(原告の審査申出に対する被告の決定により変更されたもの)が「適正な時価」を上回ると主張して、被告の右決定の取消しを求めている事案である。
一 前提となる事実
1 原告は、本件土地の所有者であって、本件土地の固定資産税の納税義務者である。(争いがない事実)
2 本件土地の平成五年度土地課税台帳の登録価格は別紙目録2記載のとおりであったが、東京都知事は、本件土地の平成六年度の価格を別紙目録3記載のとおり決定し、東京都渋谷都税事務所長は、これを土地課税台帳に登録した。(甲一)
3 原告は、平成六年四月一八日、被告に対し、右平成六年度登録価格を不服として、審査の申出をしたのに対し、被告は、平成八年三月二二日、本件土地の平成六年度の価格を別紙目録4記載のとおり変更する旨決定した(以下「本件決定」という。)。(甲一)
二 法令の定め等
1 固定資産(土地)評価に関する法の規定等
(一) 土地に対して課する基準年度(本件では平成六年度である。)の固定資産税の課税標準は、当該固定資産の基準年度に係る賦課期日(当該年度の初日の属する年の一月一日、本件では平成六年一月である。法三五九条)における価格であり、右価格とは「適正な時価」(法三四一条五号)であって、土地課税台帳又は土地補充課税台帳(以下、これらを併せて「土地課税台帳」という。)に登録されたものである(法三四九条一項)。
(二) 土地課税台帳に登録される価格(以下、この価格を「登録価格」という。)の決定に際しての固定資産の評価については、自治大臣が、評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を定め、告示しなければならないものとされ(法三八八条一項前段)、固定資産評価基準(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号。以下「評価基準」という。)が告示されている。
そして、市町村長は評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならないとされ(法四〇三条一項)、固定資産の価格等を決定し、価格等を登録した場合には、その結果の概要調書を作成し、毎年四月中にこれを道府県知事に送付しなければならず(法四一八条)、道府県知事は右価格の決定が評価基準によって行われていないと認める場合においては、当該市町村長に対し、登録価格を修正して登録するよう勧告するものとされ、自治大臣は右勧告をするよう指示するものとされている(法四一九条一項、四二二条の二第一項)。
評価基準の取扱いに関しては、自治事務次官の依命通達(「固定資産評価基準の取扱いについて」昭和三八年一二月二五日自治乙固発第三〇号。以下「取扱通達」という。)が発せられている。
なお、自治大臣は、市町村長に対して、固定資産の評価に関する資料の作成又は助言による技術的援助を与えなければならず、また、道府県知事も、自治大臣の作成した資料の使用方法についての指導又は評価についての助言を与えなければならない(法三八八条三項、四〇一条)とされているが、これらは、自治大臣又は道府県知事に市町村の徴税吏員又は固定資産評価員に対する指揮権限を与えるものではない(法四〇二条)。
(三) 市町村長は、固定資産評価員から所定の手続による土地の評価に係る評価調書を受理したときは、毎年二月末日までに評価基準によって固定資産の価格等を決定し、これを土地課税台帳に登録しなければならない(法四一〇条、四一一条一項)。
2 評価基準が定めている宅地の評価方法の概要は、平成六年度においては、次のとおりである(評価基準第1章第3節)。
(一) 地目の現況が宅地である場合の土地の評価は、各筆の宅地について評点数を付設し、当該評点数を評点一点当たりの価額に乗じて各筆の宅地の価額を求める方法による。なお、本件土地での評点一点当たりの価額は一円である。
(二) 各筆の評点数は、市町村の宅地の状況に応じ、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については「市街地宅地評価法」によって、主として市街地的形態を形成するに至らない地域における宅地については「その他の宅地評価法」によって付設する。
(三) 「市街地宅地評価法」による宅地の評点数の付設
(1) 市町村の宅地を商業地区、住宅地区、工業地区、観光地区等に区分し、当該各地区について、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等からみて相当に相違する地域ごとに区分し(以下、右のとおり区分される状況が類似した地域を「状況類似地区」という。)、当該地域の主要な街路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等の状況が当該地域において標準的なものと認められる標準宅地を選定する。
(2) 右標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価を求め、これに基づいて当該標準宅地の沿接する主要な街路について路線価を付設し、これに比準して主要な街路以外のその他の街路の路線価を付設するものとする。その際には、主要な街路の路線価を基礎とし、主要な街路に沿接する標準宅地とその他の街路に沿接する土地との間における宅地利用上の便等の相違を総合的に考慮する。
(3) そして、各筆の宅地の評点数は、その沿接する路線価を基礎とし、各筆につき評価の対象とすべき画地を認定し、奥行のある画地、正面と側面あるいは裏面等に路線がある画地等の状況に従って、所定の補正を加える方式(画地計算法)を適用して付設する。
3 平成六年度の評価替えに関する通達等
(一) 自治事務次官は、平成六年度評価替えにあたり、取扱通達を一部改正する旨の通知(平成四年一月二二日自治固第三号。以下「七割評価通達」という。)を各都道府県知事あてに発した。
右通知の骨子は、土地の評価は、売買実例価額から求める正常売買価格に基づいて適正な時価を評定する方法によるものであるとしていた従前の通達に、宅地の評価に当たっては、地価公示法による地価公示価格、国土利用計画法施行令による都道府県地価調査価格及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格を活用することとし、これらの価格の一定割合(当分の間この割合を七割程度とする。)を目途とする、というものである。(乙一)
(二) そして、自治省税務局資産評価室長は、地価変動に伴う鑑定評価価格の修正について、「平成六年度評価替え(土地)に伴う取扱いについて」と題する通知(平成四年一一月二六日自治評第二八号。以下「時点修正通知」という。)を各都道府県総務部長、東京都主税局長あてに発した。
これは、平成六年度の評価替えは、平成四年七月一日を価格調査基準日として標準宅地について鑑定評価価格を求め、その価格の七割程度を目標に評価の均衡化・適正化を図ることとしているが、最近の地価の下落傾向に鑑み、平成五年一月一日時点における地価動向も勘案し、地価変動に伴う修正を行うこととする、というものである。(乙三)
4 東京都特別区における評価方法
東京都特別区においては、東京都知事が固定資産の価格を決定するものとされ(法七三四条一項、四一〇条)、評価の方法については、評価基準及び七割評価通達を取り込んだ東京都固定資産(土地)評価事務取扱要領(昭和三八年五月二二日主課固第一七四号主税局長決裁。以下「取扱要領」という。)及び東京都土地価格比準表(以下「比準表」という。)によることとされていた(以下、評価基準、取扱通達、七割評価通達、取扱要領及び比準表を「評価基準等」という。)。(乙四、同八)
三 本件決定の根拠(被告の主張。なお、当該事実について当事者間に争いがない事項は、その旨を末尾に記載した。)
1 本件土地の地目
本件土地の登記及び現況地目はいずれも宅地であり、主として市街地的形態を形成する地域における宅地に該当する。(争いがない事実)
そこで、被告は、本件決定に当たっては、市街地宅地評価法により評価した。
2 本件土地が属する地域の用途地区区分
本件土地の付近は、日常生活圏の中心地で、概して街路沿いのみに多種類の店舗が連なっているが、高度商業地区、繁華街に比べ資本投下量が少ない店舗が連なっている地区に該当する。(争いがない事実)
そこで、被告は、本件決定に当たっては、本件土地が属する地域の用途地区区分を普通商業地区として評価した。
3 標準宅地の選定
右の普通商業地区について、状況類似地区ごとに区分したうえで、本件土地の所在する地区の標準宅地を選定すると、右標準宅地は渋谷区宇田川町一二番五に所在する土地(以下「本件標準宅地」という。)となる。(争いがない事実)
4(一) 本件標準宅地に沿接する主要な街路の路線価
五八〇万〇〇〇〇点
本件標準宅地に係る適正な時価については、価格調査基準日である平成四年七月一日時点の不動産鑑定価格九八八万円を活用するとともに、平成五年一月一日までの六箇月の地価動向を勘案しマイナス16.0パーセントの時点修正を行い、その七割程度の価格をもって五八〇万円とし、右価格に基づいて路線価を付設した。
(二) 本件土地に沿接する正面路線の路線価 四五二万〇〇〇〇点
右主要な街路と本件土地に沿接する正面路線とを比較して、その格差を幅員、連続性等の街路条件八一パーセント、最寄駅への距離等の交通・接近条件一〇三パーセント、商業密度等の環境条件一〇〇パーセント、容積率等の行政的条件九四パーセントと算定し、これらを乗じた格差率七八パーセントを前記主要な街路の路線価五八〇万点に乗じて、正面路線の路線価を付設した。
(計算式)
4,520,000=5,800,000
主要な街路路線価
×(0.81×1.03×1.00×0.94)
街路 交通 環境 行政
格差率の補正処理は少数点第3位で四捨五入
路線価付設は有効数字上位3桁
5 画地計算法に基づく算定
(一) 正面路線から本件土地の奥行は15.5メートルである。(争いがない事実)
(二) 本件土地の単位地積当たりの評点 四五二万〇〇〇〇点
そこで、取扱要領付表1に基づき、奥行価格補正率1.00を正面路線の路線価四五二万点(前記4(二))に乗じて、単位地積当たりの評点を算出した。
(三) 本件土地の評価額
一〇億七五七六万〇〇〇〇円
右単位地積当たりの評点四五二万点に本件土地の地積238.00平方メートルを乗じて総評点を一〇億七五七六万点と算出し、これに評点一点当たりの価格一円を乗じて、本件土地の評価額を算定した。
四 当事者双方の主張<省略>
五 争点
本件の争点は、次の各点である。
1 時点修正通知に基づく本件土地の評価の適法性の有無 (争点1)
2 七割評価通達に基づく本件土地の評価の適法性の有無 (争点2)
3 評価基準等の合理性の有無
(争点3)
4 本件土地の評価の個別的違法の有無 (争点4)
第三 争点に対する判断
一 争点1及び2について
1 「適正な時価」の意義
固定資産税は、固定資産課税台帳に登録された固定資産の価格を課税標準とすることを原則として(法三四九条一項、三四九条の二)、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下同じ。)に対して(法三四三条一項)、資産の所有という事実に着目して課税される財産税であり、資産が土地の場合には、土地の所有という事実に担税力を認めて課税するのであって、原則として、個々の所有者が現実に土地から収益を得ているか否か、土地が用益権又は担保権の目的となっているか否か、収益の帰属が何人にあるかを問わず、賦課期日における所有者に対し、課税されるものである。
このような固定資産税の性質からすると、その課税標準又はその算定基礎となる土地の「適正な時価」(法三四一条五号)とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値(以下、これを「客観的時価」という。)をいうものと解すべきである。
2 「適正な時価」の算定基準日
そして、法は、土地課税台帳に登録すべき価格を基準年度に係る賦課期日における価格としているのであるから(法三四九条一項)、右登録価格は、賦課期日である当該年度の初日の属する年の一月一日(本件では、平成六年一月一日)時点を基準日として、同日における客観的時価をもって算定すべきであって、これと異なる時点における客観的時価をもって賦課期日における価格とみなすことは許されないというべきである。
ところで、法は、市町村長の価格決定は、毎年二月末日までに行うべきものとしている(法四一〇条)ところ、右の価格決定の作業に従事し得る人的資源には限りがあるのに対して、課税対象となる固定資産が極めて大量に存在することからすれば、前記の賦課期日において価格調査を行った上で、その後の二箇月間のうちに「適正な時価」を算定する諸手続を完了することは、実際上困難であり、法が、賦課期日における価格算定の資料とするための標準宅地等の価格評定について、賦課期日からこれらの評価事務に要する相当な期間をさかのぼった時点を「価格調査の基準日」としてこれを実施することを禁じていると解すべき根拠も見当たらないことからすれば、価格調査の基準日が賦課期日の一年半前であったとしても違法とはいえないというべきである。
しかしながら、土地課税台帳に登録すべき価格は、前記のとおり、あくまで賦課期日である当該年度の初日の属する年の一月一日における客観的時価であるから、右の調査結果に基づいて、賦課期日における客観的時価を算定するに当たっては、その間の時点修正を行うべき必要があることは当然である。
なお、自治省税務局資産評価室長が発した時点修正通知は、標準宅地の評価額を価格調査基準日のそれに固定するのではなく、時点修正を行うべき旨の技術的援助と解され、これによって、さらに賦課期日までの時点修正を行うべき必要性を否定する趣旨のものとは解されない。
3 評価基準による評価と客観的時価との関係
適正な時価の意義を前記のように解すると、土地の適正な時価の算定は、鑑定評価理論に従って個々の土地について個別的、具体的に鑑定評価することが最も正確な方法ということになる。
しかし、課税対象となる土地は極めて大量に存在することから、限りある人的資源により、時間的制約の下で、右のような評価を実施することが困難であることは明らかである。
そこで、法は、これらの諸制約の下における評価方法を自治大臣の定める評価基準によらしめることとし、併せて、極めて大量の固定資産について反復、継続的に実施される評価について、各市町村の評価の均衡を確保するとともに、評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消しようとしているものということができる。
もっとも、右の評価基準は、各筆の土地を個別評価することなく、諸制約の下において大量の土地について可及的に適正な時価を評価する技術的方法と基準を規定するものであり、宅地評価についてみれば、個別鑑定と同様の方法で標準宅地の客観的時価を算定し、価格形成要因の主要なものに関する補正等を加えて、対象土地の価格を比準評定するものであって、宅地の価格に影響を及ぼすべきすべての事項を網羅するものではないから、標準宅地の評定及び評価基準による比準の手続に過誤がないとしても、個別的な評価と同様の正確性を有しないことは制度上やむを得ないものというべきであり、評価基準による評価と客観的時価とが一致しない場合が生ずることも当然に予定されているものというべきである。
そして、このように、評価基準等による評価方法には誤差が生じるおそれがあることからすれば、少なくとも評価額が客観的時価を超えるという事態が生じないように、あらかじめ減額した数値をもって計算の基礎となる標準宅地の「適正な時価」として扱うことは合理的な方法というべきであり、また、評価手続上、賦課期日の時価が予測値にならざるを得ず、地価が下落する可能性も排除できないことに照らしても、課税標準の特例以外であっても一般的な負担軽減方法として「適正な時価」をあらかじめ控え目に評定することも、固定資産の価格を当該固定資産の「適正な時価」と定めた法の趣旨に反しない限度で許されるものというべきである。
したがって、その意味では、公示価格の算定と同様の方法で評価した標準宅地の価格のおよそ七割をもって、その適正な時価として扱うことも、法が禁ずるものではなく、右のような趣旨において七割評価通達には合理性が認められ、これに従った評価を行ったことには違法がないというべきである。
4 原告は、七割評価通達は、固定資産税の評価においては土地の通常の使用(収益価格)を前提とすべきであるにもかかわらず、地価公示価格や不動産鑑定士による鑑定評価額が土地の最有効使用を前提として行われることから、その開差を考慮したものであり、七割評価は土地評価の上限を示したものであって、基準年度の賦課期日の評価額(地価公示価格)の七割を超える部分は違法であると主張する。
しかし、固定資産税は、土地の所有という事実に着目して課税されるものであって、個々の具体的な収益に着目して課税されるものでないことは前述のとおりであり、七割評価通達の本来の趣旨が賦課期日までの時点修正を目的とするものではないとしても、評価基準を適用し、七割評価による修正を経て算定された価格が賦課期日における客観的時価を上回らない限り、この点で、固定資産評価審査委員会が行った決定に違法があるとはいえないというべきであるから、原告の右主張は採用できない。
また、従前の評価額が時価に比して著しく低額であったとしても、そのような低い価格をもって法及び評価基準の前提とする「適正な時価」であると解することができないことは既に説示したとおりであるから、七割評価通達に従った結果、評価額が従前の評価額を上回ることとなったとしても、この点をとらえて、租税条例主義に違反するとは解されない。
したがって、これらの点に関する原告の主張は採用することができない。
5 以上によれば、登録価格の違法に関する判断は、①評価方法の選定、標準宅地の選定、標準宅地の価格と基準宅地の価格との均衡及び標準宅地の評価額から対象土地への比準の方式が評価基準及び市町村長の補正に関する基準(取扱要領等)に従ったものであるかどうか(基準適合性)、②右評価基準等が一般的に合理性を有するかどうか(基準の一般的合理性)、③評価基準による評価の基礎となる数値、すなわち、標準宅地の価格が賦課期日における適正な時価であるかどうか(標準宅地の価額の適正さ)が審理されるべきこととなる。
なお、既に説示したとおり、評価基準による評価が複数の評価要素の積み重ねを通じて結論において「適正な時価」に接近する方法であることからすると、評価基準に定める個別的評価要素が具体的な土地の特殊性に照らして適切さを欠くとみえる場合があるとしても、一般的に合理的とされる評価基準による評価が客観的時価を超えないときは、これを違法とすることはできず、また、評価基準による評価が客観的時価との不一致の程度の個別的相違を許容していることに照らせば、右事情があるとしても、なお、評価基準等に合致した右評価は公平の原則に適合するものというべきである。
しかし、前記のような評価方法は、一定の期間内に限られた人的資源をもって、極めて大量に存在する課税対象土地の評価を遂げなければならないという制約の下で可及的に「適正な時価」に接近するための方法として許容されているものであり、登録価格が賦課期日における対象土地の客観的時価を上回ることまでも許容するものではないから、前記①ないし③の事由が立証されたとしても、結果としての登録価格が賦課期日における対象土地の客観的時価を上回るときは、その限度で登録価格の決定は違法になるというべきである。
二 争点3について
1 評価基準第1章第3節によれば、本件土地のように主として市街地的形態を形成する地域における宅地については、市街地宅地評価法によって評価する旨が定められている。
この評価法は、いわゆる路線価方式による評価法であるが、路線価方式は、大量の宅地を短期間に相互の均衡を考慮しながら評価する方法として使用できるものと一般に解されており、評価基準において路線価方式を採用したことには一般的な合理性があるということができる。
2 また、評価基準は、市街地宅地評価法における各街路の路線価は、売買実例価額を基礎として、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等及び各街路の路線価の均衡等を総合的に考慮して決める旨定めているが、右のような方法は鑑定評価の方法として不相当なものではなく、客観的時価への接近方法として合理性を有するものということができ、評価基準の定める画地計算法についても、宅地を評価する基準・方法として合理性を欠くという事情も見当たらない。
さらに、東京都特別区においては、前記第二の二4のとおり、取扱要領及び比準表を定めているが、証拠(乙四、同八)及び弁論の全趣旨によれば、取扱要領及び比準表は、評価基準に従ってより具体的に価格の算定方法を規定したものと認められ、宅地を評価する基準・方法として合理性を欠くといった事情は認められない。
なお、セットバックを要する土地の評価方法についての合理性は後記三2に記載のとおりである。
3 したがって、評価基準における市街地宅地評価法は、全体として「適正な時価」への接近方法として合理的であって、法の委任の趣旨に従ったものであるということができ、また、取扱要領及び比準表の定めも、全体として客観的時価への接近方法として合理性を有するものということができる。
三 争点4について
1 本件標準宅地の賦課期日における適正な時価について
(一) 証拠(乙六、同九、同一三)中に記載された各鑑定評価の根拠に照らせば、被告主張に係る本件標準宅地の平成四年七月一日における一平方メートル当たりの評価額九八八万円及び同日から平成五年一月一日までの時点修正率マイナス16.0パーセントは、それぞれ当時の客観的時価及び地価下落率であったことが推認され、右推認を覆すに足りる事情は本件全証拠によっても認めることはできない。
(二)平成五年一月一日から平成六年一月一日の間における本件標準宅地の地価下落について
証拠(乙六、同九)及び弁論の全趣旨によれば、本件標準宅地の鑑定評価に当たり、その公示価格に時点修正率、個別的要因の標準化補正率及び地域格差率を乗じて本件標準宅地に係る規準価格算定の基礎とされた渋谷五―九(渋谷区神山町七番九、住居表示は渋谷区神山町一六―四)の公示価格は、右期間において、四五〇万円から二七〇万円まで四〇パーセントの下落があったこと、本件標準宅地に沿接する正面路線の相続税路価は、右期間において、六六四万円から四三四万円まで34.6パーセントの下落があったことがそれぞれ認められる。
ところで、一般に、地価公示価格は、都市及びその周辺の地域等において、標準地を選定し、その正常な価格を公示することにより、一般の土地の取引価格に対して指標を与え、及び公共の利益となる事業の用に供する土地に対する適正な補償金の額の算定等に資し、もって地価の形成に寄与することを目的とするために、地価公示法により公示される(同法一条)ものであって、その算定に当たっては、土地鑑定委員会は、二人以上の不動産鑑定士又は不動産鑑定士補の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行って、自由な土地が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格を判定するものである(同法二条)から、地価公示価格は、当該土地の基準日における正常取引価格に極めて近似すると解される。
そして、地価公示の標準地が、土地の用途が同質と認められるまとまりのある地域において、土地の利用状況、環境、地積、形状等が当該地域において通常であると認められる一団の土地が選定されていること(地価公示法施行規則二条)、本件標準宅地と右公示地の状況が類似する程度、相続税路線価が地価公示価格の評価水準の原則として八〇パーセントとなるように決定されており、価格の正確性においては地価公示価格に劣るものの、地価の大まかな推移を示すものといえることに照らせば、本件標準宅地についても、右期間内に少なくとも三割を超える地価の下落があったことを推認することができる。
これに対し、被告は、不動産の価格に一定限度の許容範囲があることを斟酌すると、右公示地(渋谷五―九)の下落率はおよそ三〇パーセントであり、本件標準宅地に近接する地価公示地(渋谷五―二、渋谷区神南一丁目三九番三、住居表示は渋谷区神南一丁目一五番八号)の地価下落率を参酌すべきであると主張するところ、弁論の全趣旨によれば、同公示地の右期間における地価下落率は、一三五〇万円から九四五万円までの三〇パーセントにとどまっていることが認められ、また、証拠(乙二〇)によれば、本件標準宅地は、距離において公示地(渋谷五―九)よりも公示地(渋谷五―二)に近接し、用途地域も、本件標準宅地と公示地(渋谷五―二)が商業地域であるのに対し、公示地(渋谷五―九)は近接商業地域であることが認められる。
しかし、右の公示地(渋谷五―二)の下落率も三〇パーセントちょうどであるうえ、前記のとおり、本件標準宅地の鑑定評価に当たり、類似地域の公示地として選定されたのは公示地(渋谷五―九)であることからすれば、前記のとおり地価下落率が少なくとも三割を超えることの推認を覆すに足りるほどの、本件標準宅地と公示地(渋谷五―二)の価格形成要因の同質性を認めるに足りる証拠はない。
(三) そうすると、本件標準宅地の平成五年一月一日から平成六年一月一日までの地価下落率は、七割評価通達に従った場合に生ずる三割の評価誤差の許容範囲を超えるものというべきであり、平成六年一月一日における本件標準宅地の適正な時価は、少なくとも被告が認定した五八〇万円を下回ることは明らかである。
もっとも、平成五年一月一日から平成六年一月一日までの地価下落率について、公示地(渋谷五―九)の公示価格の下落率四〇パーセントや本件標準宅地に沿接する正面路線の相続税路線価の下落率34.6パーセントは、本件標準宅地近辺のおおよその下落傾向を示すものといえるが、右公示地と本件標準宅地の地域格差が五四ポイントとされていること(乙六、同九)、相続税路線価が価格の正確性において地価公示価格に劣ることからすれば、これらの下落率などから本件標準宅地の地価の具体的な下落率まで認定することは困難といわざるを得ず、他に、平成六年一月一日における本件標準宅地の適正な時価を認めるに足りる証拠はない。
2 セットバックを要する部分の評価について
(一) ある土地が二項道路に接する場合には、建築基準法上、道路の中心線からの水平距離二メートルの線等をその道路の境界線とみなされ(同法四二条二項)、その部分に建築物を建築することができなくなるため(同法四四条一項本文)、将来の建築物建替えの際にはみなし境界線まで後退(セットバック)を要することとなるところ、証拠(乙七)によれば、本件土地に沿接する正面路線は幅員2.7メートルの二項道路であるため、セットバックを要する部分が含まれていることが認められる。
(二) 二項道路と路線価の付設について
その他の街路(主要な街路以外の街路)の路線価について、評価基準第1章第3節二(一)3は、「近傍の主要な街路の路線価を基礎とし、主要な街路に沿接する評価基準とその他の街路に沿接する宅地との間における街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等の相違を総合的に考慮して付設するものとする。」と定め、これを受けて、取扱要領第二節第6の5(1)イは、主要な街路と当該その他の街路の価格形成要因の比較を通じ、その差異を比準表により格差に置き換え、それら格差を集計した格差率を主要な街路の路線価に乗じた数値により付設するものと定めるとともに、普通商業地区を含む商業系の基本的な価格形成要因として、次のものを掲げ、これを受けて、比準表において各要因ごとの格差率を定めている。
a 街路の条件 幅員、連続性、系統性及び種類
b 交通・接近条件 最寄駅への距離及び商業中心への距離
c 環境条件 土地区画整理事業等、商業密度及び商況
d 行政的条件 容積率及びその他公法上の規制
右取扱要領及び比準表の定めは、評価基準に沿うものとして一応の合理性を有するものといえるところ、これらの定めによれば、二項道路に沿接することにより、①街路条件の「種類」の格差、②二項道路が幅員四メートルに満たない狭い道路であることから、街路条件の「幅員」の格差、③当該建築物の前面道路の幅員が一二メートル未満である場合においては、右幅員に所定の数値を乗じて求められる容積率(基準容積率)とされ得ることから(建築基準法五二条一項)、行政的条件の「容積率」の格差に影響し、さらに、④二項道路が狭い道路であるために、商業地において歩行者の通行量を減少させ、繁華性を低めることもあり得るが、この場合には、環境条件の格差に影響するということができる。
そして、証拠(乙七)によれば、被告は、本件土地に沿接する正面路線と本件標準宅地に沿接する主要な街路との格差率を算定するに当たり、街路条件として、幅員による格差マイナス一二ポイント、連続性(通り抜け可か行き止まりか)による格差マイナス五ポイント、種類(一項道路か二項道路か)の格差マイナス二ポイントの合計マイナス一九ポイントとする減価を、行政的条件として、容積率による格差マイナス六ポイントとする減価を行っていることが認められるから、被告は、右格差率認定において、本件土地の正面路線が二項道路であることに関し、種類だけではなく、幅員及び容積率という価格形成要因においても考慮しているということができる。
これら街路条件等に反映される価格形成要因に対し、ある土地がセットバックを要する部分を含むか否かという事情は、同じ二項道路に沿接する土地であっても、個別の土地の間口と奥行きの比率等によってセットバックを要する部分の面積比は異なるものであること、現況においてはいまだセットバックしていない画地を実際にセットバック済みの画地と同様に取り扱うのは適当ではないことに照らせば、右事情は、路線価の付設においてではなく、個々の土地の画地計算において、どのように考慮すべきかが検討されるべき事項であるといえる。
以上によれば、被告の行った前記格差率の認定は、本件土地の正面路線が二項道路であることを考慮したものとして合理性を有するということができる。
(三) セットバックを要する部分と画地計算について
評価基準及び取扱要領には、画地計算において、セットバックを要する部分をどのように取り扱うかについての定めはない。
しかし、評価基準第1章第1節一は、土地の評価は、土地の地目別に評価基準の定める方法により行うものとし、右地目は土地の現況によるものとすることを定めている。また、取扱要領第一節第2の2は、地目の認定は賦課期日である一月一日の現況及び利用目的により行い、その認定の単位は原則として一筆ごととし、部分的に僅少の差異が存するときでも、土地全体としての利用状況を観察して認定するが、一筆の土地が相当の規模で二以上の全く別の用途に利用されているときは、これらの利用状況に応じて区分し、それぞれに地目を定めると規定している。
このように、評価基準及び取扱要領は、賦課期日の現況により評価対象土地を評価するものであるから、右土地が二項道路に沿接する場合に、既に現実にセットバックがなされ、現況も道路として利用されているときには、宅地部分と別個の評価がなされるべきであるが、セットバックを要する部分を含むとしても、賦課期日において、いまだセットバックがなされず、宅地(建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地。不動産登記事務取扱手続準則(昭和五二年九月三日付け法務省民第四四七三号民事局長通達)一一七条ハ、取扱要領第一節第2の3(1)参照。)として利用されている限り、宅地としての評価を受けるものというべきである。
ちなみに、セットバックを要する部分を含む土地を宅地として評価する場合に、建築基準法上、将来、その部分に建築物を建築できないことを考慮して、減価補正をするとの考え方も、宅地の評価方法としてはあり得るところである。しかし、その補正の方法について正確を期するとすれば、セットバックを要する部分について建築規則が現実化する建築物の建替え時期についての見込み、道路が土地の北側にあるか南側にあるかといった位置関係(道路が敷地の北側にあれば、日照確保等のため道路側に寄せて建築するのが一般的であるが、敷地の道路側が削られることにより南側隣地上の家屋との間隔が縮まり、日照確保等で条件が悪くなるなどのことが考えられる。)、周辺の土地についてのセットバックの見込み(将来周辺の土地も含めて道路の全面にわたってセットバックがなされれば、かえって街路条件がよくなり、増価要因となる。)等といった諸事情をも考慮すべきであり、単純にセットバックを要する部分の面積のみによって減価補正することが不動産鑑定手法に則った唯一の合理的な方法であるとはいえない。そして、前記のとおり、正面路線が二項道路であることに関連して街路条件等において一定の減価が行われることをも考え併せると、右特別の減価補正を行わないことが、短期間に大量の土地を評価することが求められる固定資産の評価方法として不合理なものということはできない。
なお、原告は、このような取扱いは、格差率の認定において、本件土地に沿接する正面路線が幅員四メートルの道路であるとして容積率を算定していることと矛盾すると主張するが、比準表が格差の比準項目として採用した建築基準法五二条一項に規定する基準容積率は、セットバック済みであるか否かにかかわらず、二項道路をすべて幅員四メートルとみなして算定されるものであるから、格差率の認定における右取扱いのゆえに、画地計算においてセットバックを要する部分を除外しなければ、土地の評価方法としての一貫性を欠くことになるものとはいえない。
以上によれば、本件土地は賦課期日においていまだセットバックがなされていなかったことは当事者間に争いがないから、被告が、セットバックを要する部分を除外せず、また、特別の減価補正を行わなかったことに違法はないというべきである。
3 不整形地の補正について
取扱要領は、不整形地(宅地として利用価値が減少する形状の画地)について、不整形の度合を、当該不整形地に近似する整形地を想定し、この整形地と比較し、その凹凸の状況から宅地としての利用価値を客観的に判断して(なお、画地の面積の大小は宅地としての利用価値に影響を及ぼすものであるから十分留意することとされている。)、「不整形のもの」、「相当に不整形のもの」及び「極端に不整形のもの」の三分類に認定し、これに応じた補正率(それぞれ0.90、0.80及び0.70)により不整形地の補正を行うことと定めている(取扱要領第九節第5の3(5)、第九節第8の11、付表10)。
そして、本件土地は、L字型の形状であると認められるが(甲五、乙一五)、不整形地補正は、画地の形状が悪いことによって画地の全部が宅地として十分に利用できないという利用価値の客観的減価要素となるべき場合の減価であり、ある程度不整形な画地であっても、建物の建築等が通常の状態で行い得るものは補正を要しないと解されるところ、本件土地の面積が二三八平方メートルと渋谷区内の普通商業地区としては比較的大きいこと、相続税評価に用いられる財産評価基本通達に定める蔭地割合を求める方式により算出した本件土地の不整形地補正率が0.98にすぎないこと(乙一四、同一五)からすると、本件土地に近似する想定整形地(間口21.5メートル、奥行き17.0メートルのほぼ長方形、乙一五)と比較した場合に、取扱要領の定める不整形地補正を行うべきほどの利用価値の減少はないとした被告の判断には合理性があり、取扱要領に適合したものということができる。
四 結論
以上によれば、本件決定は、本件土地に沿接する正面路線の路線価を付設するに当たり、主要な街路の路線価に乗ずる格差率を七八パーセントとした点、及び本件土地の単位当たりの評点を算出するに当たり、右正面路線の路線価に奥行価格補正率1.00を乗じただけである点には違法はないが、本件標準宅地に沿接する主要な街路の路線価が五八〇万点を下回るにもかかわらず、これを五八〇万点として本件土地の価格を算定した点において違法というべきである。
よって、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・市村陽典、裁判官・阪本勝、裁判官・村松秀樹)
別紙目録<省略>