東京地方裁判所 平成8年(行ウ)188号 判決 1998年8月27日
東京都狛江市西野川二丁目三番五号
原告
株式会社計測舎
右代表者代表取締役
大西武文
東京都府中市本町四丁目二番地
被告
武蔵府中税務署長 山田研治
右指定代理人
加島康宏
同
松原行宏
同
佐久間康良
同
石黒里花
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が、原告に対し、平成七年一一月二八日付けでした次の各処分を取り消す。
1 原告の平成三年九月一日から平成四年八月三一日までの事業年度(以下「平成四年八月期」という。)以後の法人税青色申告の承認の取消処分
2 原告の平成四年八月期の事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額四九万〇〇七一円を超える部分及び重加算税賦課決定処分
3 原告の平成四年九月一日から平成五年八月三一日までの事業年度(以下「平成五年八月期」をいう。)の法人税の更正処分のうち所得金額三三万七三八三円を超える部分及び重加算税賦課決定処分
4 原告の平成五年九月一日から平成六年八月三一日までの事業年度(以下「平成六年八月期」という。)の法人税の更正処分のうち所得金額三八万九九七四円を超える部分及び重加算税賦課決定処分
5 原告の平成五年八月期の消費税の更正処分のうち課税標準額一億九〇六九万八〇〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定処分
6 原告の平成五年七月分から平成六年一二月分までの源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分
第二事案の概要
被告は、(1)原告はその平成四年八月期の法人税の申告において、外注費を架空に計上しており、これは法人税一二七条一項三号に規定する「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し」たことに該当するとして、原告に対し、原告の平成四年八月期以後の法人税青色申告の承認を取り消す処分(以下「本件青色取消処分」という。)をし、(2)原告は平成四年八月期、平成五年八月期及び平成六年八月期(右の各期を併せて「本件係争各事業年度」という。)に係る法人税について、売上金額の一部を除外したり、あるいは外注費を架空に計上するなど所得金額を過少に申告しており、また、右の行為は国税通則法(以下「通則法」という。)六八条一項の「隠ぺい」、「仮装」に当たるとし、原告に対し、本件係争各事業年度の法人税に係る更正処分(以下「本件各法人税更正処分」という。)及び重加算税賦課決定処分(以下「本件各法人税賦課決定処分」といい、本件各法人税更正処分と併せて「本件各法人税更正処分等」という。)をするとともに、平成五年八月期の課税期間(以下「平成五年八月課税期間」という。)に係る消費税の更正処分(以下「本件消費税処分」という。)及び重加算税賦課決定処分(以下「本件消費税賦課決定処分」といい、本件消費税更正処分と併せて「本件消費税更正処分等」という。)をし、さらに、(3)平成五年八月、平成六年二月、同年八月において、原告の簿外預金から六回にわたり出金があるが、これらは原告の業務と関連のないものであり、原告代表者が個人的に消費したものと認められるとした上、これらの金額は原告の原告代表者に対する賞与に該当するにもかかわらず、原告は源泉所得税を納付していないとし、原告に対し、平成五年七月分から平成六年一二月分まで(以下「本件係争各期間」という。)に係る源泉所得税の納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税賦課決定処分(以下「本件源泉所得税賦課決定処分」といい、本件納税告知処分と併せて「本件納税告知処分等」という。)をした。本件は、原告が被告の右認定を争い、本件各法人税更正処分及び本件消費税更正処分は、税務職員の違法な調査に基づくものであり、かつ、原告の所得金額ないし課税標準額を過大に認定した点で違法であり、また、本件納税告知処分はその根拠を欠き違法であるなどと主張して、本件各法人税更正処分及び本件消費税更正処分のうち各申告に係る所得金額ないし課税標準額を超える部分並びに本件各法人税賦課決定処分及び本件消費税賦課決定処分、本件納税告知処分及び本件源泉所得賦課決定処分の各取消しを求めている事件である。
一 前提となる事実(当事者間に争いがない。)
1 原告は肩書地に本店を置き、東京都新宿区西新宿三丁目五番三号に営業所(以下西新宿営業所)という。)を有する計測測定及びシステム設計の請負等を業とする会社である。
2 原告は、本件係争各事業年度の法人税について別表一の1ないし3の確定申告欄記載のとおり申告をし、また、平成五年八月課税期間の消費税について別表二記載の確定申告欄記載のとおり申告をした。
3 被告は、原告がした本件係争各事業年度の法人税及び本件係争各事業年度に係る課税期間の消費税の確定申告の内容が適正であるか否かの調査(以下「本件調査」という。)をする必要があると認め、矢部明生統括国税調査官(以下「矢部統括官」という。)を通じて、阿部健也上席国税調査官(以下「阿部係官」という。)及び能渡洋一国税調査官(以下「能渡係官」という。)に調査を命じた。その後、阿部係官及び能渡係官は平成七年七月に配置換えとなったため、矢部統括官は、石川勝信上席国税調査官(以下「石川係官」という。)に本件調査を命じ、石川係官が本件調査を引き継いだ。
4 阿部係官らは、平成七年二月二〇日に本件調査を開始し、同年六月一三日ころまでの間、原告の本店、西新宿営業所、原告代表社宅に臨場し、原告代表者から事情聴取を行い、原告の帳簿書類を確認するなどして調査を行った。
また、阿部係官らが同年七月に配置換えとなった後は、矢部統括官及び石川係官が、本件調査を引き継ぎ、同年七月二八日から同年一〇月二五日ころまで、西新宿営業所、原告代表者宅に臨場し、原告代表者から事情聴取をするなどして調査を続行した。
5 被告は、本件調査の結果に基づき、平成七年一一月二八日付けで、原告の平成四年八月期以後について本件青色取消処分をするとともに、別表一の1ないし3の各更正・賦課決定欄記載のとおり、原告の本件係争各事業年度に係る本件各法人税更正処分等を、別表二の更正・賦課決定欄記載のとおり原告の平成五年八月課税期間に係る本件消費税更正処分等を、別表三の1ないし3の納税告知・賦課決定欄記載のとおり本件係争各期間に係る本件各納税告知処分等(以下、本件青色取消処分、本件各法人税更正処分等、本件消費税更正処分等及び本件各納税告知処分等を併せて「本件各処分」という。)をそれぞれ行った。
6 原告は、本件各処分を不服として、平成七年一二月一日に被告に対し、異議申立てをしたが、被告は平成八年二月二八日付けで右異議申立てを棄却する旨の決定をした。原告は、右決定を経た後の本件各処分になお不服があるとして、同年三月二九日に国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同所長は、平成九年一月二八日付けで右審査請求を棄却する旨の裁決をした。
7 原告は、国税不服審判所長が右審査請求について裁決をする前の平成八年九月二日、本件各処分の取消しを求めて本訴を提起した。
二 被告主張の本件各処分の根拠(当事者間に争いがない点についてはその旨を付記した。)
(本件青色取消処分の処分根拠)
1 原告は、平成四年八月期において、原告の帳簿書類(外注費補助元帳)に有限会社新計測エンジニア(以下「新計測エンジニア」という。)に対する外注費の額として合計一一〇四万円を計上し、損金の額に算入して法人税の申告をした(争いがない。)。
2 原告は、平成四年八月期における新計測エンジニアに対する外注費の額合計一一三七万一二〇〇円(消費税額三三万一二〇〇円を含む。)を同社の代表者とされる田中勇一名義の住友銀行新宿新都心支店の普通預金口座(口座番号四二三〇三八・開設日平成四年六月四日・解約日同年一〇月七日。以下「田中勇一名義甲預金口座」という。)に振り込んだ(争いがない。)。
3 しかし、外注費補助元帳に記載された新計測エンジニアの所在地「品川区大井一―二七―一カクタ第二ビル四五」には、同法人の登記はなく、その存在を確認できなかったし、また、田中勇一名義甲預金口座開設時の印鑑届及び領収書に記載された名義人である田中勇一の住所地「品川区大井一―二七―一カクタ第二ビル」には、同人の住民登録はなく、その居住の事実を確認できなかったこと(争いがない。)から、新計測エンジニアの実体は存在しないと認められた。また、原告から田中勇一名義甲預金口座に入金された合計一一三七万一二〇〇円を含めた一一三七万三三六八円が、その引出日と同じ日に原告代表者の長女である大西環名義の住友銀行新宿新都心支店の普通預金口座(口座番号四一一四四七・開設日平成四年一月二三日・解約日平成五年四月八日。以下「大西環名義甲預金口座」という。)に入金されていた(争いがない。)。
4 原告代表者は、新計測エンジニアに対し外注に出した仕事の内容について何ら具体的な説明をしなかった。
5 以上のことから、原告が新計測エンジニアに対する架空の外注費を計上したことは明らかであり、右行為は法人税法一二七条一項三号に規定する「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し」たことに該当するから、本件青色取消処分は適法である。
(本件各法人税更正処分等の課税根拠)
1 平成四年八月期
原告の平成四年八月期の所得金額は、別表四の1記載のとおり、一一八六万一二七一円であり、その内容は、次の(一)ないし(三)記載のとおりである。
(一) 申告所得金額 四九万〇〇七一円(争いがない。)
(一) 外注費否認 一一〇四万円
原告は、新計測エンジニアに新宿出路工事等を外注し、その対価として外注費を別表五の1記載のとおり支払ったとし、その旨を外注補助元帳に記載している(争いがない。)。
しかしながら、次の事実から判断して、新計測エンジニアなる法人が新宿出路工事等に係る外注の工事をした事実はなく、右は架空外注費と認められる。
(1) 右外注費の振込先である田中勇一名義甲預金口座の「印鑑(署名)届」の住所欄には「品川区大井町一―二七―一カクタ第二ビル」と記載されており、また、原告の外注費補助元帳には新計測エンジニアの所在地が「品川区大井町一―二七―一カクタ第二ビル四五」と記載されている(争いがない。)。
しかしながら、「品川区大井町一―二七―一カクタ第二ビル」には田中勇一の住民登録がなく、カクタ第二ビルの所有者(角田)は、新計測エンジニア及び田中勇一が同ビルに入居していた事実はない旨申し述べている上、「品川区大井町一―二七―一カクタ第二ビル四五」には新計測エンジニアの法人登記はない(争いがない。)。
(2) 右外注費の振込先である田中勇一名義甲預金口座に入金され、出金された金員は、別表六の1記載のとおり、出金日と同日に住友銀行新宿新都心支店の大西環名義甲預金口座にすべて振替入金されている(争いがない。)。
したがって、右外注費が架空計上されたものであることは明らかであるから、これを否認し、当期の所得金額に加算すべきである。
(3) 雑収入計上漏れ 三三万一二〇〇円
前記(二)の外注費否認に係る消費税については、雑収入除外と認められるので、当期の所得金額に加算すべきである。
2 平成五年八月期
原告の平成五年八月期の所得金額は、別表四の2記載のとおり、八七四万一三三八円であり、その内容は、次の(一)ないし(五)記載のとおりである。
(一) 申告所得金額 三三万七八三八円(争いがない。)
(二) 売上計上もれ 一八〇万円
御台橋電器商会に対する平成五年一月二〇日請求の青梅計測器設置工事一式八二万四〇〇〇円(消費税二万四〇〇〇円を含む。)及び平成五年四月二〇日請求の関町沈下計測器設置工事一式一〇三万円(消費税三万円を含む。)の合計金額一八五万四〇〇〇円(消費税五万四〇〇〇円を含む。)については、次の事実等から原告の売上げと認められるので、当期の所得金額に加算する。
(1) 平成五年三月一日に御台橋電器商会から大西環名義甲預金口座に八二万四〇〇〇円が、同年八月二日に住友銀行新宿新都心支店の大西環名義の別の普通預金口座(口座番号四四〇四八〇・開設日同年三月九日・解約日同年八月二五日。以下「大西環名義乙預金口座」という。)に一〇三万円がそれぞれ振り込まれている(争いがない。)。
(2) 右入金額は、御台橋電器商会に対する調査の結果、御台橋電器商会に対する原告の売上げに係る入金額と認められた。
(3) 右関町沈下計測器設置工事については、原告は、日高物産株式会社(以下「日高物産」という。)に外注し、原告の売上げ金額と同額を支払っている旨申し立てたが、日高物産の所在地(名古屋市東葵三―一四―二〇)に同社は存在しない。
(三) 外注費否認 七四二万七一八五円
原告は、中田和夫に浮島計測工事を外注し、その対価として別表五の2記載のとおり外注費を支払ったとし、その旨を外注費補助元帳に記載している(争いがない。)。
しかしながら、次の事実等から判断して、中田和夫(正しくは中田和男)が浮島計測工事に係る外注の工事をした事実はなく(中田和夫が浮島計測工事に係る外注の工事をした事実がないことは争いがない。)、架空外注費と認められる。
(1) 中田和夫の外注費に係る請求書には、住所として「千葉県鎌ヶ谷市富岡一―八―二一」と記載されており、また、その振込先である住友銀行新宿新都心支店の中田和男名義の普通預金口座(口座番号四四七五四九・開設日平成五年五月二一日・解約日同年八月二五日。以下「中田名義預金口座」という。)の「印鑑(署名)届」にも右と同一の住所が記載されている(争いがない。)。原告代表者は、「中田和夫は私の妻の兄であり、中田和男・千葉県鎌ヶ谷市富岡一―八―二七が正しい。」と申し立てている(争いがない。)。
しかしながら、中田和夫の住民税の課税年度平成六年分によれば、中田和男の所得は、株式会社もりやす靴店(市川市市川一―四―一〇)からの給与収入だけである。
(2) 外注費の振込先である中田名義預金口座に入金された金員(同口座開設時の入金額一〇〇〇円を除く。)が、別表六の2記載のとおり、入金日と同日に出金され、大西環名義乙預金口座にすべて振替入金されている。
したがって、右外注費が架空計上されたものであることは明らかであるから、これを否認し、当期の所得金額に加算すべきである。
(四) 雑収入計上もれ 二五万五二一五円
前記売上げ計上もれ(一八〇万円)に係る消費税三パーセントに相当する金額(五万四〇〇〇円)にみなし仕入れ率六〇パーセントを乗じて算出された金額三万二四〇〇円及び架空外注費に係る消費税額二二万二八一五円については、雑収入除外と認められるので、当期の所得金額に加算すべきである。
(五) 事業税認定損 一〇七万八九〇〇円
右金額は、平成四年八月期の法人税に係る更正処分の所得金額を基に法人税基本通達九―五―二の定めにより地方税法七二条の二二に規定する標準税率(以下「標準税率」という。)を適用して再計算した結果、右更正処分に伴い増加すると認められる事業税の額であり、所得金額から減算すべきものである。
3 平成六年八月期
原告の平成六年八月期の所得金額は、別表四の3記載のとおり、七四四万一八七四円であり、その内容は、次の(一)ないし(四)記載のとおりである。
(一) 申告所得金額 三八万九九七四円(争いがない。)
(二) 外注費否認 七五〇万円
原告は、新計測エンジニアに新宿出路高架橋撤去工事を外注し、その対価として外注費の額七五〇万円及びそれに係る消費税の額二二万五〇〇〇円を支払ったとし、その旨を外注費補助元帳に記載している(争いがない。)。
しかしながら、次の事実等から判断して、新計測エンジニアなる法人が新宿出路高架橋撤去工事に係る外注の工事をした事実はなく、右は架空外注費と認められる。
(1) 右外注費は、住友銀行新宿新都心支店の田中勇一名義普通預金口座(口座番号四五六八六八・開設日平成五年一一月二二日・解約日平成六年一月一二日。以下「田中勇一名義乙預金口座」という。)に振り込まれており、また、原告の外注費補助元帳には、新計測エンジニアの所在地が「品川区大井一―二七―一カクタ第二ビル四五」と記載されている(争いがない。)。
しかしながら、前記1(二)(1)で述べたとおり、「品川区大井一―二七―一カクタ第二ビル四五」には、新計測エンジニアの法人登記はない。また、カクタ第二ビルの所有者は、新計測エンジニア及び田中勇一が同ビルに入居していた事実はない旨申し述べている(争いがない。)。
(2) 右外注費の振込み先である田中勇一名義乙預金口座に入金された金員は、その後解約され、別表六の3記載のとおり、原告代表者の長男である大西孝明名義の住友銀行新宿新都心支店の普通預金口座(口座番号四五三四二七・開設日平成五年八月二五日。以下「大西孝明名義預金口座」という。)にすべて振替入金されている(争いがない。)。
したがって、右外注費が架空計上されたものであることは明らかであるから、これを否認し、当期の所得金額に加算すべきである。
(三) 雑収入計上もれ 二二万五〇〇〇円
前記(二)の外注費否認に係る消費税については、雑収入除外と認められるので、当期の所得金額に加算すべきである。
(四) 事業税認定損 六万三一〇〇円
右金額は、平成五年八月期の法人税に係る更正処分の所得金額を基に法人税基本通達九―五―二の定めにより標準税率を適用して再計算した結果、右更正処分に伴い増加すると認められる事業税の額であり、所得金額から減算すべきものである。
4 本件各法人税賦課決定処分
原告は、前記1ないし3記載のとおり、本件係争各事業年度において、売上金額の一部を除外したり、架空の外注費を計上したりしているが、これらの行為は、通則法六八条一項の「隠ぺい」、「仮装」に当たるから、被告は、同項の規定に基づき、本件各法人税更正処分により納付すべきこととなる法人税額(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てる。以下同じ。)を基に、過少申告加算税に代えて重加算税を次のとおり賦課決定したものである。
(一) 平成四年八月期
(1) 重加算税の対象となる法人税額 三五五万円
(2) 重加算税の額 一二四万二五〇〇円
(二) 平成五年八月期
(1) 重加算税の対象となる法人税額 二四二万円
(2) 重加算税の額 八四万七〇〇〇円
(三) 平成六年八月期
(1) 重加算税の対象となる法人税額 一九七万五〇〇円
(2) 重加算税の額 六八万九五〇〇円
(本件消費税更正処分等の課税根拠)
1 本件消費税更正処分
被告が主張する原告の平成五年八月課税期間の消費税の課税標準額及び納付すべき税額の算出過程は、別表七記載のとおりであり、その内容は、次の(一)ないし(四)記載のとおりである。
(一) 課税標準額 一億九二四九万八〇〇〇円
原告の右課税期間における課税資産の譲渡等の対価の額であり、原告の右課税期間の消費税の申告書に記載された金額一億九〇六九万八〇〇〇円(争いがない。)に前記(本件各法人税更正処分等の課税根拠)2(二)記載の売上計上もれからなる課税売上高一八〇万円を加算した金額である(消費税法二八条一項、通則法一一八条一項)
(二) 課税標準額に対する消費税額 五七七万四九四〇円
右課税標準額一億九二四九万八〇〇〇円に消費税率一〇〇分の三を乗じたものである(消費税法二九条(平成六年法律第一〇九号による改正前のもの。以下同じ。))。
(三) 控除対象仕入税額 三四六万四九六四円
原告は、簡易課税制度の選択事業者であることから、原告の右(二)記載の消費税額に原告のみなし仕入率六〇パーセントを乗じて算出した税額である(消費税法三七条)。
(四) 納付すべき税額 二三〇万九九〇〇円
前記(二)記載の消費税額から右(三)記載の控除対象仕入税額を差し引いた金額であり、通則法一一九条一項の規定により一〇〇円未満を切り捨てた後の金額である。
2 本件消費税賦課決定処分
被告は、前記1(一)記載の売上計上もれが、前記(本件各法人税更正処分等の課税根拠)2(二)記載のとおり、売上金額の一部除外によるものであり、通則法六八条一項の「隠ぺい」に当たることから、本件消費税更正処分により納付すべき消費税額(同法一一八条三項の規定により一万円未満切り捨て後の額)を基に、同法六八条一項の規定により算出した金額七〇〇〇円を重加算税として賦課決定したものである。
(本件納税告知処分等の課税根拠)
1 本件納税告知処分
(一) 平成五年八月四日に大西環名義乙預金口座からそれぞれ一五〇万〇七二一円、一〇〇万〇七二一円及び五〇万〇七二一円(七二一円はそれぞれ振込手数料の額である。)が別表八の1記載のとおり出金され、それぞれ中田和夫、田中ヤツノ及び大西隆雄の名義により富士銀行狛江支店の原告の別段預金口座(以下「原告の別段預金口座」という。)に振り込まれ、いずれも原告の増資のための資金に充てられている(争いがない。)。
(二) 平成五年八月四日、住友銀行新宿新都心支店の松本昇名義普通預金口座(口座番号四四九二五〇・開設日同年六月一五日・解約日同年八月四日。以下「松本昇名義預金口座」という。)に入金された五〇万〇一四四円は、右支店の松本昇名義の定期預金スーパーMMCを解約して入金されたものであり、右定期預金の原資は、大西環名義乙預金口座から同年六月一五日に出金された二〇〇万一〇〇〇円のうちの五〇万円である(争いがない。)。
そして、同年八月四日に松本昇名義預金口座から五〇万〇七二一円が出金され、薗頭平八郎名義で原告の別段預金口座に別表八の2の記載のとおり振り込まれているが、これは、原告の増資のための資金に充てられており、松本昇名義預金口座が解約された際の残高四七四円は、大西環名義乙預金口座に入金されている(争いがない。)。
(三) 大西環名義甲預金口座及び大西環名義乙預金口座二口から出金された金員の一部は、住友銀行新宿新都心支店の大西環名義の定期預金スーパーMMCの設定資金に充てられているところ、平成五年八月二五日に解約された右スーパーMMCの解約金のうち六〇〇万円は、大西孝明名義で第一勧業銀行新宿支店の「カンポウグルサロンジュソウ ヨネマルアキラ」名義普通預金口座(口座番号一三一二〇四一)に振り込まれており、右振込みに係る手数料七二一円にも右解約金の一部が充てられている(争いがない。)。米丸明は原告代表者の友人である(争いがない。)。
(四) 大西孝明名義預金口座から平成六年二月二一日に六〇万〇七二一円、同年二月二二日に一〇〇万円が別表八の3記載のとおりそれぞれ出金され、大西孝明の武蔵高校の入学金及び授業料に充てられている。
(五) 平成六年二月二八日に大西孝明名義預金口座から一三〇万〇七二一円が出金され、そのうち一三〇万円が第一勧業銀行調布仙川支店の宗教法人安養寺名義普通預金口座に振り込まれている(争いがない。)。
(六) 平成六年八月二五日に大西孝明名義預金口座から一〇〇万〇七二一円が出金され、そのうち一〇〇万円が第一勧業銀行衣笠支店の「アドベンチャーファミリー(株) 米丸明」名義預金口座(口座番号一七一二三〇一)に振り込まれている(争いがない。)。
(七) 前記(一)ないし(六)の原告の簿外預金口座からの出金は、次のとおり、原告の業務とは関連のないものであり、右出金に係る金員は、原告代表者が個人的に費消したものと認められる。
(1) 前記(一)及び(二)の原告の増資のための資金に充てられた金員三五〇万円は、振込名義人とは違う普通預金口座から出金された金額が充てられており、また、原告が振込名義人に対して同金額を貸し付けた事実も認められないことから、原告代表者が同金額を原告から取得した上、これを原告の増資のための資金として払い込んだものであり、右払込金に係る株式は原告代表者の名義株とみるのが相当である。なお、右増資に係る振込手数料合計二八八四円は、原告代表者が増資のために費消したものと認められる。
(2) 前記(三)及び(六)の原告の簿外預金口座から出金された金員のうち、六〇〇万円及び一〇〇万円は、それぞれ「カンポウグルサロンジュソウ ヨネマルアキラ」及び「アドベンチャーファミリー(株)米丸明」に対する貸付金であるが、これらの者は原告の取引先ではないことから、原告が貸付けを行ったものではなく、原告代表者が原告から取得した資金を原告代表者の友人である米丸明個人又は同人が経営する法人に貸し付けたものと認められる。なお、右各貸付金に係る振込手数料合計一四四二円は、原告代表者が右振込のため費消したと認められる。
(3) 前記(四)原告の簿外預金口座からの出金六〇万〇七二一円及び一〇〇万円は、原告代表者の長男である大西孝明の武蔵高校の入学金(七二一円は振込手数料である。)及び授業料にそれぞれ充てられているが、これは、原告代表者が長男の大西孝明のために費消したと認められる。
(4) 前記(五)の原告の簿外預金から出金した安養寺の普通預金口座に振り込まれた一三〇万円及び振込手数料七二一円は、永代使用料として振り込まれた金額及びその振込に要した手数料であることから、原告代表者が費消したものと認められる。
(5) 以上のとおり、原告代表者が費消した金額は、原告から取得した金額であるから、原告が原告代表者に対して臨時の給与(賞与)として支給したものと認められる。
そして、右金額は、原告代表者に対する賞与に該当するところ(法人税法三五条四項)、原告は、本件係争各期間の右賞与に係る源泉所得税を納付していなかったので、原告は、別表三の1ないし3記載のとおり、所得税法一八六条一項に基づいて算出した右賞与に対する源泉所得税の合計額四四五万三五三一円について、通則法三六条一項二号の規定により、原告に対し本件納税告知処分を行ったものである。
なお、原告は、本件係争各期間以前において、所得税法二一六条に規定する源泉所得税に係る所得税の納期の特例を受けている。
2 本件源泉所得税賦課決定処分
(一) 通則法六八条三項は、源泉徴収等による国税がその法定納期限までに完納されなかった場合において、納税者が事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき、その国税をその法定納期限までに納付しなかったときは、税務署長は、当該納税者から、不納付加算金の額の計算の基礎となるべき税額に係る不納付加算金に代え、当該基礎となるべき税額に一〇〇分の三五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を徴収するとしている。
(二) 原告は、売上げを隠ぺいし、又は架空外注費を仮装して、前記1記載のとおり、その一部を原告代表者に対する臨時の給与としたのであるから、通則法六八条三項にいう「納税者が事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき、その国税をその法定納期限までに納付しなかったとき」に該当する。
(三) 被告は、右給与に係る源泉所得税がその法定納期限までに納付されなかったため、前記1記載のとおり、原告に対し本件納税告知処分を行うとともに、同法六七条一項及び六八条三項の規定に基づき、次のとおり本件源泉所得税賦課決定処分を行った。なお、被告は、本件源泉所得税賦課決定処分においても、本来、重加算税を賦課すべきであるところ、原告の売上除外額及び架空外注費の額が本件各法人税更正処分の対象であったことから、本件各法人税賦課決定処分において重加算税の対象とされた額に係るものについては、本件源泉所得税賦課決定処分において重加算税の賦課の対象とせず、不納付加算税の賦課の対象としたものである。
(1) 平成五年七月分から同年一二月分まで
平成五年七月分から同年一二月分までに係る不納付加算税の額は、法定納期限までに納付されなかった三二〇万円(通則法一一八条三項により一万円未満切り捨て。以下同じ。)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した三二万円である。
(2) 平成六年一月分から同年六月分まで
平成六年一月分から同年六月分までに係る不納付加算税の額は、法定納期限までに納付されなかった九二万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した九万二〇〇〇円である。
(3) 平成六年七月分から同年一二月分まで
平成六年七月分から同年一二月分までに係る不納付加算税の額は、法定納期限までに納付されなかった三二万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した三万二〇〇〇円である。
三 本件の争点
本件の争点は、本件各所分の違法性の有無、具体的には、次の点が問題になる。
1 本件調査の手続に原告主張の違法があるかどうか、右手続が違法であるとして、本件調査に基づきされた本件各処分は違法であるか否か。
(原告の主張)
本件調査は次の点で違法であるから、この調査に基づきされた本件各処分も違法である。
(一) 阿部係官は、調査に当たり、同和発言(差別発言)をした。
(二) 阿部係官は、一人で調査のためとして原告代表者宅及び西新宿営業所を訪問しているが、このような調査の方法は、職権の濫用を招く危険のあるものであり、違法である。
(三) 税務調査が行われる際、税理士はこれに立ち会うことができるものであるが、平成七年二月二〇日の西新宿営業所における調査に関し、阿部係官は、あたかも税理士の立会いはできないかのような言動を行って、原告代表者をその旨誤信させ、右調査への原告の顧問税理士の立会いを妨げた。
(四) 阿部係官は、調査対象会社の代表者の机の引出しの中を強制的に調査する権限を有しているわけではないのに、平成七年二月二〇日の西新宿営業所における調査に際し、あたかもかかる権限があるかのような言動を行って、原告代表者をその旨誤信させ、その机の引出しの中を調査した(原告代表者は、阿部係官が右強制的な調査権限があるものと誤信したため、机の中を確認したい旨の同係官の申出に対し、「勝手にしろ」と言ったのである。)
(五) 矢部統括官は、本件調査において、職務上知り得た秘密を原告の取引先その他の第三者に漏洩し、また、平成七年七月二八日、西新宿営業所に臨場して調査を行おうとした際、調査は済んでいるはずであるから、同営業所から出ていってほしい旨原告代表者が申し向けたにもかかわらず、同統括官は任意に退出せず、執拗に調査を続行しようとするなど違法な調査を行った。
(被告の主張)
原告の主張は、すべて争う。
本件調査は適法に行われたものである。
2 原告が、本件係争各事業年度の帳簿書類(外注費補助元帳)に被告主張の架空外注費を計上した事実があるかどうか。
3 原告が平成五年八月期の帳簿書類の記載に当たり被告主張の売上金額を除外した事実があるかどうか。
(被告の主張)
前記二(本件各法人税更正処分等の課税根拠)2(二)記載のとおり
(原告の主張)
原告は、当初、御台橋電器商会に工事を発注したところ、その工事が遅れたため、日高物産に工事を請け負わせた。御台橋電器商会には原告から代金を支払済みであり、そのため原告から日高物産に代金を支払うことができず、大西環の預金口座に資金があったのでこれを日高物産に対する工事代金の支払に充てた。そして、御台橋電器商会から返還を受けた工事代金を右立替払金の償還として大西環の預金口座に入れたものである。
原告が御台橋電器商会に対する売上を除外した事実はない。
4 被告主張の大西環名義甲預金口座、大西環名義乙預金口座、大西孝明名義預金口座に係る預金が原告の簿外預金であり、それらから出金された金員を原告代表者個人が取得し個人的に費消したかどうか。
第三 本件調査の手続が違法であるかどうか、また、この手続が違法であるとして、本件調査に基づきされた本件各処分は違法であるか否か。
1 原告は、本件調査に際し、第二の三1(原告の主張)(一)ないし(五)記載の事実があったとして、本件調査の手続が違法である旨主張するが、右(一)の事実及び右(五)のうち、矢部統括官が本件調査において職務上知り得た秘密を原告の取引先その他の第三者に漏洩したとの事実があったことを認めるに足りる客観的証拠はない。
2 証人阿部健也の証言及び弁論の全趣旨によれば、阿部係官は、本件調査の過程で、一人で原告代表者宅及び西新宿営業所に臨場したことがあるが、いずれも税務調査のための臨場であると認められるのであって、阿部係官が税務調査の名のもとに他の目的をもって原告代表者宅や西新宿営業所を訪問し、その職権を濫用して原告及びその関係者に不当な要求をしたなどの事実があったことを認めるに足りる客観的な証拠はない。
ところで、税務調査のため相手方の事務所等に臨場するに際しては、調査の方法、調査の内容等に関し相手方との間で問題を生ずることがあるから、あらぬ疑いをかけられないようにし、税務調査の公正を確保する見地からは、出来る限り二人以上で事務所等に臨場するのが望ましいが、一人で税務調査のため事務所等に臨場することを禁じた法律の規定はなく、また、実際上も、被告が相当する事務量に比して配下の税務職員の数が限られていることを考慮すれば、各税務職員の事務遂行上の都合により一人で税務調査のため相手方の事務所等に臨場する場合が生ずることはやむを得ないことというべきであり、本件調査において、阿部係官が一人で原告代表者宅及び西新宿営業所に臨場したことをもって直ちに違法ということはできない。
3 証人阿部健也の証言及び弁論の全趣旨によれば、阿部係官らが平成七年二月二〇日に西新宿営業所において本件調査を行った際、原告の顧問税理士はこれに立ち会っていないこと、また、阿部係官は原告代表者の了解を得て原告代表者の机の引出しの中を調査したことが認められるが、阿部係官が原告代表者に対し、右の調査に税理士の立会いはできない旨、また、税務職員は強制的に机の引出し等の中を調査する権限を有している旨原告を誤信させるような言動を行ったことを認めるに足りる客観的な証拠はない。
4 原告は、矢部統括官が違法な調査を行った旨主張するところ、弁論の全趣旨によれば、同統括官らは、平成七年七月二八日、西新宿営業所に臨場して調査を行おうとしたこと、種々のやりとりがあった後、原告代表者は、同統括官らに対し、調査は済んでいるはずであるから、同営業所から出ていってほしい旨申し向けたこと、これに対し、同統括官は、なお確認したいことがあるので、原告に調査に応じてほしい旨要請したこと、しかし、原告はこれに応じず、警察官らを呼んで同統括官を同営業所の外に出すよう申し向けたこと、同統括官は、原告代表者に対し、調査に協力してもらえなかったので更正処分等を行うことになると思う旨告げて、警察官らとともに同営業所を退出したことが認められる。
しかしながら、同統括官らの右行為は、任意調査である質問検査権の行使として許容される範囲内に止まるものというべきであり、他に同統括官らが違法な調査を行ったと認めるに足りる客観的な証拠はない。
5 右のとおりであって、本件調査の手続に原告主張の違法はなく、この点に関する原告の主張は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。
二 原告が、本件係争各事業年度の帳簿書類(外注費補助元帳)に被告主張の架空外注費を計上した事実があるかどうか。
1 次の事実は、当事者間に争いがない。
(一) 平成四年八月期について
(1) 原告は、平成四年八月期において、新計測エンジニアに新宿出路工事等を外注し、その対価として外注費を別表五の1記載のとおり支払ったとし、その旨を外注補助元帳に記載し、これに基づき平成四年八月期の法人税の申告をしている。
(2) 右外注費の振込先である田中勇一名義甲預金口座の「印鑑(署名)届」の住所欄には「品川区大井町一―二七―一カクタ第二ビル」と記載されており、また、原告の外注費補助元帳には、新計測エンジニアの住所として「品川区大井町一―二七―一カクタ第二ビル」であると記載されている。田中勇一は、新計測エンジニアの代表者とされている者である。
(3) 右外注費の振込先である田中勇一名義甲預金口座に入金され、出金された金員は、別表六の1記載のとおり、出金日と同日に住友銀行新宿新都心支店の大西環名義甲預金口座にすべて振替入金されている。大西環は、原告代表者の長女である。
(二) 平成五年八月期について
(1) 原告は、中田和夫に浮島計測工事を外注し、その対価として別表五の2記載のとおり外注費を支払ったとし、その旨を外注費補助元帳に記載し、これに基づき平成五年八月期の法人税の申告をしている。
(2) 中田和夫の外注費に係る請求書には、住所地として「千葉県鎌ヶ谷市富岡一―八―二一」と記載されており、また、その振込先である中田名義預金口座の「印鑑(署名)届」にも右と同一の住所が記載されている。原告代表者は、「中田和夫は私の妻の兄であり、中田和男・千葉県鎌ヶ谷市富岡一―八―二七が正しい。」と申し立てている。
(3) 外注費の振込先である中田名義預金口座に入金された金員(同口座開設時の入金額一〇〇〇円を除く。)は、別表六の2記載のとおり、入金日と同日に出金され、大西環名義乙預金口座にすべて振替入金されている。
(三) 平成六年八月期について
(1) 原告は、新計測エンジニアに新宿出路高架橋撤去工事を外注し、その対価として外注費の額七五〇万円及びそれに係る消費税の額二二万五〇〇〇円を支払ったとし、その旨を外注費補助元帳に記載し、これに基づき平成六年八月期の法人税の申告をしている。
(2) 右外注費は、田中勇一名義乙預金口座に振り込まれており、また、原告の外注費補助元帳には、新計測エンジニアの所在地として「品川区大井一―二七―一カクタ第二ビル四五」と記載されている。
(3) 右外注費の振込先である田中勇一名義乙預金口座に入金された金員は、その後解約され、別表六の3記載のとおり、大西孝明名義預金口座にすべて振替入金されている。大西孝明は、原告代表者の長男である。
2(一) 当事者間に争いのない事実に証拠(乙九、三三、証人阿部健也の証言)及び弁論の全趣旨を併せれば、(1)原告が平成四年八月期及び平成六年八月期に新計測エンジニアに支払ったという外注費は、それぞれ田中勇一名義甲預金口座、田中勇一名義乙預金口座に振り込まれているが、田中勇一名義甲預金口座の開設時の「印鑑(署名)届」の住所欄に記載された「品川区大井町一―二七―一カクタ第二ビル」、田中勇一名義の領収書及び原告の外注費補助元帳に新計測エンジニアの住所として記載された「品川区大井町一―二七―一カクタ第二ビル四五」には、新計測エンジニアの法人登記は存在せず、田中勇一が住民登録をしている事実もなく、また、阿部係官らが同所に臨場し、カクタ第二ビル四五号室の入居者であるプロヴァンス観光事務所の田中秀樹に確認したところ、同人は「平成二年二月よりカクタビル三階を借りて、平成五年一月より同ビル一階四五号室に移ったが、田中勇一という人は知らない」旨答え、また、カクタ第二ビルの賃貸人ないしその関係人である角田という女性に確認したところ、同人は「カクタ第二ビル四五号室は、平成二年より平成四年九月ころまで大森という人が住んでいた。田中勇一という人は知らない。」旨答えており、同所に右法人が存在し又は田中勇一個人が居住していた形跡はなかったこと、他方、新計測エンジニアの平成五年一一月二〇日付けの原告あての外注費の請求書には、新計測エンジニアの住所として「世田谷区松原一―五六―三〇九」との記載があること、そして、この点に関し、原告代表者は、阿部係官らに対し、同所には原告会社又は原告代表者所有のマンションがあり、その一室を新計測エンジニア又は田中勇一に貸していたのではないかとの説明をしたが、新計測エンジニア又は田中勇一とは連絡を取ることができなかったこと、(2)原告が平成五年八月期に中田和夫(後記(三)認定のとおり中田和男が正しい。)に支払ったという外注費は中田名義預金口座に振り込まれているところ、中田和男の平成六年の課税年度の住民税における所得は、株式会社もりやす靴店からの給与収入だけとなっていることが認められる。
(二) 右外注費として田中勇一名義預金口座に振り込まれた金員が、その後に原告代表者の長女名義又は長男名義の預金口座に振り込まれていること、右外注費として中田名義預金口座に振り込まれた金員が、入金日と同日に出金され、原告代表者の長女名義の預金口座に振り込まれていることは、前記1に記載したとおりであり、また、右原告代表者の長女名義又は長男名義の預金口座から出金された金員が、富士銀行狛江支店の原告名義株式払込口座に振り込まれ、あるいは、原告の業務と関連性のない原告代表者の個人的な費用に充てられていることは、後記三に認定するとおりである。
(三) 証拠(乙一四、三三、阿部健也の証言)及び弁論の全趣旨によれば、阿部係官らは、<1>原告が外注費を支払ったとされる新計測エンジニアという法人も、その代表者とされる田中勇一個人もいずれもその存在が確認できないこと、田中勇一名義預金口座に振り込まれた金員が原告代表者の長女名義の預金口座に還流していること、<2>原告の申立てによれば、外注費を支払ったとされる中田和夫は原告代表者の妻の兄である中田和男であるというのであるが、中田和男は靴店に勤務していて、原告の仕事には関係していないと認められる上、外注費として中田名義預金口座に振り込まれた金員は、原告代表者の長女名義の預金口座に還流していることなどから、計上された外注費が架空のものではないかとの疑問を抱き、そこで、原告代表者に対し、右の各点に関して質問をしたところ、原告代表者は、右<1>の点に関しては、田中勇一は、今は連絡が取れないが、実在しており、実際に仕事をしてもらっている、右外注費は、自分が立替えて支払っていたので、原告から田中勇一名義預金口座に振り込まれた金員を右立替金の償還として原告代表者の長女名義の預金口座に移したものである旨説明をし、また、右<2>の点に関しては、浮島計測工事の仕事は実際には原告の元従業員である松本昇に外注に出したものであるが、当時、松本昇は骨折をして労災保険金を受給しており、同人に仕事をさせたということになると、右保険金を受給する関係で都合が悪いので、中田和夫名義で外注に出したものであり、右外注費の支払に関しては松本昇から領収書をもらっている、右外注費は、自分が立替えて支払っていたので、原告から松本昇名義預金口座に振り込まれた金員を右立替金の償還として原告代表者の長女名義の預金口座に移したものである旨説明をしたこと、右領収書には、松本昇の住所として「名古屋市緑区鳴丘二丁目一一〇一番」との記載があったので、阿部係官らが調査したところ、同所には松本昇名義の住所登録がされていたが、電話の登録はされておらず、連絡が取れなかったこと、さらに、阿部係官らは、原告代表者が外注先に外注費を立替払し、原告の外注費支払時に借名預金に入金し、それをその後に原告代表者の家族名義預金に戻したというのであれば、立替払の資金源がどうなっているのか、田中勇一や松本昇は実際にどのような作業をしたのかなど疑問となる点について、再三にわたり原告代表者から説明を求めようとしたが、原告代表者は事務所等に不在であることが多く、連絡をしてくれるよう原告の専務(原告代表者の妻)や原告従業員に依頼をしても連絡をもらえず、結局、原告代表者からは納得のいく説明は受けられなかったことが認められる。
3 以上によれば、原告が外注費を支払ったという新計測エンジニア及びその代表者という田中勇一の存在は確認できず、また、浮島計測工事の仕事を中田和夫に外注に出した事実のないことは原告の自認するところであり、この点に関し、原告代表者は、実際には松本昇に外注に出したものであるというが、松本昇作成名義の領収書に記載されたその住所には松本昇名義の住民登録があるものの、阿部係官らが電話で連絡を取ろうとしたが、連絡が取れなかったこと、しかるに、原告代表者らが阿部係官らに田中勇一や松本昇らの連絡先を教えるなど、阿部係官らが外注費に関して同人らに対する調査ができるような措置をとった形跡はないこと、また、外注費を原告代表者個人が立て替えたというのであるが、そのこと自体不自然であるし、阿部係官が立替払の資金源等や新計測エンジニアや松本昇が実際に行った作業が何かについて説明を受けようとしたにもかかわらず、原告代表者は納得のいく説明をしておらず、本訴においても、これらを客観的に裏付ける証拠は提出されていないこと等を考慮すれば、前記2(三)認定の原告代表者が阿部係官らにした回答はたやすく信用することができない。
前記2(一)及び(二)の各事実と右の事情を併せてみれば、平成四年八月期及び平成六年八月期に新計測エンジニアに、平成五年八月期に中田和夫名義にそれぞれ支払ったとして原告の外注費補助元帳に記載されている費用は、いずれも架空のものと認めるのが相当である。
三 原告が平成五年八月期の帳簿書類の記載に当たり被告主張の売上金額を除外した事実があるかどうか。
1 平成五年三月一日に御台橋電器商会から大西環名義甲預金口座に八二万四〇〇〇円が、同年八月二日に大西環名義乙預金口座に一〇三万円がそれぞれ振り込まれていることは、当事者間に争いがない。
2 証拠(乙三三、阿部健也の証言)及び弁論の全趣旨によれば、御台橋電器商会に対しては、大西環名義により、青梅計測器設置工事代金として八二万四〇〇〇円を請求する旨の平成五年一月二〇日付の請求書が発行されていること、阿部係官らは、御台橋電器商会から大西環名義預金に振り込まれている金員がいかなる性質のものかについて確認すべく、狛江市西野川二丁目一番三号所在の御台橋電器商会(浜木玄房)に照会したところ、右は御台橋電器商会が原告に発注した仕事の代金として支払ったものである旨の回答を得たこと、阿部係官らは、前記1の振込金について原告代表者に質問をしたところ、原告代表者は、「御台橋電器商会からの仕事は日高物産に下請けに出したが、利益が出ないので、簿外にした。日高物産の領収書もある。」旨述べたこと、しかし、阿部係官らが右領収書に記載された住所(名古屋市東区葵三丁目一四番二〇号)に郵便物を発送したが返戻されたこと、また、同所には日高物産という商号の法人登記は存在していなかったことが認められる。
3 前記1記載の事実及び右2認定の事実によれば、御台橋電器商会から大西環名義甲預金口座及び大西環名義乙預金口座に振り込まれた金員は、御台橋商会が原告に発注した代金であると認めるのが相当である。
原告は、本訴において、当初、原告は御台橋電器商会に工事を発注したところ、その工事が遅れたため、日高物産に工事を請け負わせた、御台橋電器商会には原告から代金を支払済みであり、そのため原告から日高物産に代金を支払うことができず、大西環の預金口座に資金があったのでこれを日高物産に対する工事代金の支払に充てた、そして、御台橋電器商会から返還を受けた工事代金を右立替払金の償還として大西環の預金口座に入れたものである旨主張している。
しかしながら、原告の右主張は、これを裏付ける客観的な証拠がないし、前掲各証拠に照らしても、たやすく採用することができない。
4 以上によれば、御台橋電器商会から大西環名義甲預金口座及び大西環名義乙預金口座に振り込まれた金員は、原告の売上金であり、原告は帳簿書類の記帳に当たり、右売上金を除外し、これに基づき平成五年八月期の法人税の申告及び平成五年八月課税期間の消費税の申告をしたものと認めるのが相当である。
四 被告主張の大西環名義甲預金口座、大西環名義乙預金口座、大西孝明名義預金口座に係る預金が原告の簿外預金であり、それから出金された金員を原告代表者が取得し個人的に費消したかどうか。
1 大西環名義甲預金口座、大西環名義乙預金口座及び大西孝明名義預金口座からの出金とその使途に関する次の事実は、当事者間に争いがない。
(一) 平成五年八月四日に大西環名義乙預金口座からそれぞれ一五〇万〇七二一円、一〇〇万〇七二一円及び五〇万〇七二一円(七二一円はそれぞれ振込手数料の額である。)が別表八の1記載のとおり出金され、それぞれ中田和夫、田中ヤツノ及び大西隆雄の名義により富士銀行狛江支店の原告の別段預金口座に振り込まれ、いずれも原告の増資のための資金に充てられている。
(二) 平成五年八月四日、住友銀行新宿新都心支店の松本昇名義預金口座に入金された五〇万〇一四四円は、右支店の松本昇名義の定期預金スーパーMMCを解約して入金されたものであり、右定期預金の原資は、大西環名義乙預金口座から同年六月一五日に出金された二〇〇万一〇〇〇円のうちの五〇万円である。
そして、右同日に松本昇名義預金口座から五〇万〇七二一円が出金され、薗頭平八郎名義で原告の別段預金口座に別表八の2記載のとおり振り込まれているが、これは、原告の増資のための資金に充てられており、松本昇名義預金口座が解約された際の残高四七四円は、大西環名義乙預金口座に入金されている。
(三) 大西環名義甲預金口座及び大西環乙預金口座二口から出金された金員の一部は、同銀行大西環名義の定期預金スーパーMMCの設定資金に充てられているところ、平成五年八月二五日に解約された右スーパーMMCの解約金のうち六〇〇万円は、大西孝明名義で第一勧業銀行新宿支店の「カンポウグルサロンジュソウ ヨネマルアキラ」名義普通預金口座(口座番号一三一二〇四一)に振り込まれており、右振込みに係る手数料七二一円にも右解約金の一部が充てられている。米丸明は原告代表者の友人である。
(四) 平成六年二月二八日に大西孝明名義預金口座から一三〇万〇七二一円が出金され、そのうち一三〇万円が第一勧業銀行調布仙川支店の宗教法人安養寺名義普通預金口座に振り込まれている。
(五) 平成六年八月二五日に大西孝明名義預金口座から一〇〇万〇七二一円が出金され、そのうち一〇〇万円が第一勧業銀行衣笠支店の「アドベンチャーファミリー(株) 米丸明」名義預金口座(口座番号一七一二三〇一)に振り込まれている。
2 証拠(乙二八の1、2、三三)によれば、大西孝明名義預金口座から平成六年二月二一日に六〇万〇七二一円、同年二月二二日に一〇〇万円が別表八の3記載のとおりそれぞれ出金され、大西孝明の武蔵高校の入学金及び授業料に充てられていることが認められる。
3(一) 大西環名義甲預金口座、大西孝明名義預金口座には、新計測エンジニアに対し支払ったものとして田中勇一名義甲預金口座および田中勇一乙預金口座に振り込まれた架空の外注費相当額が同預金口座から還流していること、大西環名義乙預金口座には、中田和夫に支払ったものとして中田名義預金口座に振り込まれた架空の外注費相当額が同預金口座から還流していること、原告代表者の長女や長男が原告の業務に関係しているとか、右大西環名義甲預金口座等に係る預金が原告の帳簿書類に記載されているとの、証拠はなく右大西環名義甲預金口座等からの出金の経過とその使途からしても、右各預金口座はいずれも原告の簿外預金であると認めるのが相当である。
(二) 大西環名義乙預金口座から出金された三〇〇万円が、中田和夫、中田ヤツノ及び大西隆雄の各名義で原告の別段預金口座に振り込まれ、前記1(一)記載のとおり原告の増資のための資金に充てられているが、大西環名義乙預金口座は、前記(一)記載のとおり、原告の借名預金であると認められるものであり、原告が右各振込名義人に対して同金額を貸し付けた事実をうかがわせる証拠はない。したがって、右の三〇〇万円は、原告代表者が原告から取得した上、原告の増資のための資金として払い込んだものであり、右増資に係る振込手数料合計二一六三円は、原告代表者が増資のために費消したものと認めるのが相当である。
(三) 松本昇名義預金口座から出金された五〇万円が、薗頭平八郎名義で原告の別段預金口座に振り込まれ、原告の増資のための資金に充てられていること、松本昇名義預金口座に入金された五〇万〇一四四円が、右支店の松本昇名義の定期預金を解約して入金されたものであり、右定期預金の原資が、大西環名義乙預金口座から平成五年六月一五日に出金された二〇〇万一〇〇〇円のうちの五〇万円であることは、前記1(二)に記載したとおりである。
大西環名義乙預金口座は、前記(一)記載のとおり、原告の簿外預金と認められるものである。また、証拠(乙二〇の1ないし4、三三)によれば、原告の帳簿上、仮受金勘定で出金された八八四万円(原告が元従業員である松本昇の労災保険金として受け取った金員等)が平成五年六月二九日に松本昇名義預金口座に入金され、同年三〇日、右預金口座から四五〇万円及び四三三万九二七九円が出金され、前者が東海銀行鳴子支店の松本昇名義普通預金口座に振り込まれ、また、後者が大西環名義乙預金口座に入金されていること、阿部係官らが、右四三三万九二七九円が、いったん松本昇名義預金口座に振り込まれた後、大西環名義乙預金口座に還流している経緯について原告代表者に質問したところ、原告代表者は、松本昇には平成四年九月から平成五年五月まで毎月五〇万円を自分の金から支払っていたという趣旨の回答をしていることが認められる。右認定の松本昇名義預金口座の入金、出金の状況等、平成五年六月に、原告が松本昇に対し五〇万円を貸し付けるなどして同額を支払うべき理由があったことをうかがわせる証拠はないことを考え併せると、松本昇名義預金口座も原告の単なる借名預金にすぎないものと推認される。そして、原告において薗頭平八郎に金員を貸し付けた事実をうかがわせる証拠もないから、右の五〇万円は、原告代表者が原告から取得した上、原告の増資のための資金として払い込んだものであり、右増資に係る振込手数料七二一円は、原告代表者が増資のために費消したものと認めるのが相当である。
(四) 大西環名義甲預金口座及び大西環名義乙預金口座二口から出金された金員の一部でもって、住友銀行新宿新都心支店において大西環名義の定期預金スーパーMMC預金が設定され、右スーパーMMCの解約金のうち六〇〇万円が、前記1(三)記載のとおり大西孝明名義で第一勧業銀行新宿支店の「カンポウグルサロンジュソウ ヨネマルアキラ」名義の預金口座に振り込まれており、また、大西孝明名義預金口座から平成六年八月二五日に出金された一〇〇万〇七二一円のうち一〇〇万円が、前記1(五)記載のとおり第一勧業銀行衣笠支店の「アドベンチャーファミリー(株) 米丸明」名義の預金口座に振り込まれ、残額の七二一円は振込手数料として支払われているが、大西環名義甲預金口座、大西環名義乙預金口座及び大西孝明名義預金口座は、前記(一)記載のとおり、原告の借名預金と認められるものである。
そして、「カンポウグルサロンジュソウ ヨネマルアキラ」、「アドベンチャーファミリー(株) 米丸明」は、原告の友人である米丸明の経営する会社ないし米丸明個人を指すものと解されるが、乙三三及び弁論の全趣旨によれば、原告は右のような会社ないし米丸明個人と何ら取引関係がないことが認められるのであって、そうすると、右の金員は、原告代表者が原告から取得した上、その友人である米丸明の経営する会社ないし同人個人に対し貸し付けたものであると認めるほかない。
(五) 大西孝明名義預金口座から平成六年二月二一日に出金された六〇万〇七二一円、同年二月二二日に出金された一〇〇万円が、前記2記載のとおり、大西孝明の武蔵高校の入学金、授業料の支払にそれぞれ充てられているが、大西孝明名義預金口座は、前記(一)記載のとおり、原告の借名預金と認められるものであり、また、原告代表者の長男である大西孝明の高校の入学金及び授業料をその保護者である原告代表者が負担すべきことは明らかである。
したがって、右の金額合計一六〇万〇七二一円は、原告代表者が原告から取得した上、原告代表者の個人的消費に充てたものと認めるのが相当である。
(六) 大西孝明名義預金口座から平成六年二月二八日に出金された一三〇万〇七二一円のうち一三〇万円が、前記1(四)記載のとおり、第一勧業銀行調布仙川支店の宗教法人安養寺名義普通預金口座に入金されているが、大西孝明名義預金口座は原告の借名預金と認められるものであり、また、乙三三及び弁論の全趣旨によれば、右安養寺名義普通預金口座に振り込まれた一三〇万円は、原告代表者が永代使用料として支払ったものであり、残額の七二一円はその振込みに要した手数料であると認められ、これらを原告代表者個人が負担すべきことは明らかである。
したがって、右の一三〇万〇七二一円は、原告代表者が原告から取得した上、原告代表者の個人的消費に充てられたものと認めるのが相当である。
4 以上のとおり、原告代表者は、原告の簿外預金から出金した金員を取得した上、これらを個人的に費消したものと認められるが、原告代表者が原告から取得したこれらの金員は、原告が原告代表者に対して臨時の給与として支給したものとみるべきである。したがって、右金額は、原告代表者に対する賞与に該当するところ(法人税法三五条四項)、原告が本件係争各期間の右賞与に係る源泉所得税を納付していなかったことは、原告において明らかに争わないところである。
なお、弁論の全趣旨によれば、原告が、本件係争各期間以前において、所得税法二一六条に規定する源泉所得税に係る特例を受けていることが認められる。
五 本件青色取消処分の適法性
前記二記載のとおり、原告は、平成四年八月期において帳簿書類に架空の外注費を計上したものと認められる。
右の行為は、法人税法一二七条一項三号にいう「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載した」ことに該当する。したがって、被告が同項に基づきした本件青色取消処分は適法というべきである。
六 本件各法人税更正処分等の適法性
1 本件各法人税更正処分について
(一) 前記二記載のとおり、原告は、本件係争各事業年度において次のとおり架空の外注費及び右架空の外注費に係る仮払受消費税を計上しているものと認められる。
事業年度 外注費 消費税
(1) 平成四年八月期 一一〇四万円 三三万一二〇〇円
(2) 平成五年八月期 七四二万七一八五円 二二万二八一五円
(3) 平成六年八月期 七五〇万円 二二万五〇〇〇円
したがって、右架空の外注費の額は、各期の所得金額に加算すべきである。
また、弁論の全趣旨によれば、原告は消費税について簡易課税制度を選択した事業であり、また、いわゆる税抜き経理をしていると認められるところ、仮受消費税の額から仮払消費税の額を控除した金額と納付すべき消費税額との間に差額が生ずる場合には、右差額を雑収入又は租税公課(雑損失)として計上すべきものであるから、右の架空の外注費に係る仮払消費税額に相当する金額は雑収入としてこれを所得金額に加算すべきである。
(二) 前記二記載のとおり、原告は、平成五年八月期において、帳簿書類の記載に当たり売上金額一八〇万円を除外したものと認められる。したがって、右売上除外金額は同期の所得金額に加算すべきである。
また、前記(一)に説示したのと同様の理由により、右売上除外に係る仮受消費税額五万四〇〇〇円(前記売上げ計上もれ一八〇万円に係る消費税率三パーセントを乗じたもの)から、仮受消費税額の増加により新たに消費税として納付すべきことになる金額(右仮受消費税額から右仮受消費税額に消費税法三七条に規定するみなし仕入率六〇パーセントを乗じて得られる金額を差し引いた金額)を差し引いた金額、すなわち右仮受消費税額に右みなし仕入率に相当する六〇パーセントを乗じて算出される金額三万二四〇〇円は、雑収入としてこれを所得金額に算入すべきである。
(三) 原告の本件係争事業年度につき、争いのない申告所得金額に右(一)、(二)の各加算を行い、また、平成四年八月期及び平成五年八月期の所得金額の変更に伴い増加することになる事業税の額を法人税基本通達九―五―二により計算し(右通達の定める取扱いは相当なものと認められる。)、これらの金額を事業税認定損として各翌事業年度の所得金額から控除して計算すると、右各事業年度の所得金額及び納付すべき税額は前記第二の二(本件各法人税更正処分等の課税根拠)記載の被告主張の金額のとおりとなる。
本件各法人税更正処分による本件係争各事業年度の所得金額及び納付すべき税額は、右の金額と同額であるから、右更正処分は適法である。
2 本件各法人税賦課決定処分について
前記二、三記載のとおり、原告は、本件係争各事業年度において、架空の外注費を計上し、また、平成五年八月期において帳簿書類を記載するに当たり売上金額の一部を除外し、これらに基づき法人税の申告をしているが、これらの行為は通則法六八条一項にいう「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出しているとき」に該当する。
したがって、原告に対しては、通則法六八条一項により、過少申告加算税の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に一〇〇分の三五を乗じて計算した金額に相当する重加算税が課されるべきことになるところ、本件各法人税賦課決定処分は、右に従い計算される重加算税の額を賦課したものであるから、適法というべきである。
七 本件消費税更正処分等の適法性
1 本件消費税更正処分について
前記三記載のとおり、原告は、平成五年八月期において、帳簿書類を記載するに当たり売上金額一八〇万円を除外していると認められるから、右課税期間の消費税の課税標準額(右課税期間における課税資産の譲渡等の対価の額)は、争いがない原告の右課税期間の消費税の申告書に記載された課税標準額一億九〇六九万八〇〇〇円に右売上除外額からなる課税売上高一八〇万円を加算した金額一億九二四九万八〇〇〇円となる。また、原告が簡易課税制度の選択事業者であることは、前記六で説示したとおりである。
そこで、右の各事実を前提に、消費税法二九条、三七条を適用して計算すると、課税標準に対する消費税額、控除対象仕入額、納付すべき税額は前記第二の二(本件消費税更正処分等の課税根拠)記載の被告主張の金額のとおりとなる。本件消費税更正処分による納付すべき税額は右と同額であるから、右更正処分は適法である。
2 本件消費税賦課決定処分について
原告は、前記三記載のとおり、平成五年八月課税期間において、帳簿書類を記載するに当たり売上金の一部を除外し、これらに基づき消費税の申告をしているが、この行為は通則法六八条一項にいう「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出しているとき」に該当する。
したがって、原告に対しては、通則法六八条一項により、過少申告加算税の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に一〇〇分の三五を乗じて計算した金額に相当する重加算税が課されるべきになるところ、本件消費税賦課決定処分は、右に従い計算される重加算税の額を賦課したものであるから、適法というべきである。
八 本件納税告知処分等の適法性
1 本件納税告知処分について
前記四記載のとおり、原告代表者は、原告の各借名預金から出金した各金員を所得した上、これらを同人の個人的費用に費消しているものと認められるところ、右金員は、原告が原告代表者に臨時の給与として支給したものであり、原告代表者に対する賞与に該当するというべきである。したがって、原告は、本件係争各期間において右賞与に係る源泉所得税を納付すべきところ、原告がこれを法定納期限を経過しても納付していないことは原告において明らかに争わないところである。そして、所得税法一八六条一項に基づいて、右賞与に係る源泉所得税を計算すると、別表三の1ないし3記載のとおりとなる。
本件納税告知処分による右賞与に係る源泉所得税の額は、右と同額であるから、通則法三六条一項一号に基づき行われた本件納税告知処分は適法である。
2 本件源泉所得税賦課決定処分について
前記四記載のとおり、原告は、本件係争各期間において、原告代表者に対し臨時の給与(賞与)を支払いながら、これに対する源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったものであり、右源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて通則法六七条一項に規定する正当な理由が存することの主張、立証はないから、同条一項により計算される不納付加算税を賦課した本件源泉所得税賦課決定処分は適法というべきである。
九 結論
以上の次第で、原告の本件請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 増田稔 裁判官 篠田賢治)
別表 一の1
(本件法人税更正処分等の経緯)
1 平成四年八月期
<省略>
別表 一の2
(本件法人税更正処分等の経緯)
2 平成五年八月期
<省略>
別表 一の3
(本件法人税更正処分等の経緯)
3 平成六年八月期
<省略>
別表 二
(本件消費税更正処分等の経緯)
平成五年八月課税期間
<省略>
別表 三の1
(本件納税告知処分等の経緯)
1 平成五年七月分から同年一二月分まで
<省略>
別表 三の2
(本件納税告知処分等の経緯)
2 平成六年一月分から同年七月分まで
<省略>
別表 三の3
(本件納税告知処分等の経緯)
3 平成六年七月分から同年一二月分まで
<省略>
別表 四の1
<省略>
別表 四の2
<省略>
別表 四の3
<省略>
別表 五の1
<省略>
別表 五の2
<省略>
別表 六の1
<省略>
別表 六の2
<省略>
別表 六の3
<省略>
別表 七
<省略>
別表 八の1
<省略>
別表 八の2
<省略>
別表 八の3
<省略>