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東京地方裁判所 平成8年(行ウ)201号 判決 1997年12月18日

主文

一  被告らは、東京都に対し、連帯して、三二万一〇二九円及びこれに対する平成八年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告らは、東京都に対し、連帯して、八一万八一四四円及びこれに対する平成八年一〇月九日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要等

一  本件は、東京都(以下「都」という。)の住民である原告が、平成七年一一月一四日から翌一五日にかけて、東京都水道局(以下「都水道局」という。)が主催した「大都市水道事業管理者会議」(以下、「本件会議」という。)に付随する一連の行事(以下、これらの行事を総称して「本件会議等」という。)の中で、本件会議に出席せずその後の懇親会(以下「本件懇親会」という。)及び視察にのみ出席した来賓について支出した費用は、本件会議の目的、効果と関連せずまたはその均衡を著しく欠き、また、その余の出席者に対して提供された飲食物の一部に本件会議等の趣旨に照らし社会通念を逸脱した不必要なものが含まれていたから、右支出はいずれも違法であるとしてその財務会計行為を行った被告らに対し、地方自治法二四二条の二第一項四号前段の規定に基づき、右に係る金額を都に返還するよう求める事案である。

二  法令の規定

都は、広域の地方公共団体として、広域にわたる上水道事業に係る企業の経営を行うものとされ(地方自治法二条二項、三項三号、六項一号)、地方公共団体の行う水道事業(簡易水道事業を除く。)に係る企業については、その経営に関して地方自治法の特例を定めた地方公営企業法(以下「法」という。)の適用があるものとされている(法二条一項一号、六条)。

地方公営企業の運営においては、常に企業の経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されるべきであるとされている(法三条)。また、事業ごとに管理者を置くこととされ(法七条)、管理者は、地方公営企業の業務を執行し、右業務執行に関し、当該地方公共団体を代表し、当該企業の用に供する資産の取得、管理及び処分並びに契約の締結並びに出納その他の会計事務を行うこととされている(法八条一項、九条七号、八号、一一号、二七条、三三条)。管理者は、業務に関し管理規程を制定することができるとされており(法一〇条)、都水道局においては、出納の方法及び手続等についての管理規程として、東京都水道局財務規程(昭和三五年一〇月一日東京都水道局管理規程第二二号。以下「財務規程」という。)が定められている。

三  当事者間に争いのない事実等

1  当事者

原告は、都の住民である。

被告川北和徳(以下「被告川北」という。)は、本件会議当時の都水道事業管理者(都水道局長)であり、本件会議等に参加し、これに要した費用に係る支出決定及び支出の権限を有していた。また、被告中村忠夫(以下「被告中村」という。)は、本件会議当時の都水道局総務部総務課長であり、本件会議に事務担当者として参加し、これに要した費用のすべてにつき、資金の前渡受者として、前渡された資金につき、本件会議の開催決定及び支出決定の範囲内において、契約相手の選定、契約価格及び数量の決定並びにこれらに基づく現金支払いをする権限を有していた(財務規程五二条)。

2  本件会議等の概要

都水道局は、平成七年一一月一四日(以下、「初日」という。)から翌一五日(以下「二日目」という。)にかけて、千葉市を除く政令指定都市及び都(以下「参加都市」という。)の水道事業管理者らの会議である本件会議を開催した。大都市水道事業管理者会議は、昭和三〇年ころ任意に設置され、各参加都市の持ち回りで春と秋の年二回、定期的に開催されており、その構成員は、参加都市の水道事業の代表者たる水道事業管理者であるが、来賓として以前に参加都市の水道事業管理者であった者で直近の退職者を招待することが以前からの慣例となっていた。なお、来賓の人数については、一回の会議に一ないし二名程度となるのが通常であったが、本件会議においては、同年の春の開催予定地であった神戸市が、阪神淡路大震災で開催不能になったこと及び同年三月と七月に水道事業管理者の退職者が多かったことの二点から来賓の人数七名と通常の場合より多くなった。本件会議の趣旨、目的は、地方公営企業として運営される水道事業について、参加都市が抱える課題である料金改定や渇水対策の問題について、地方自治体の枠を越えて協議、検討するとともに、各参加都市の懸案事項を率直に披露して、その対応についての情報交換をし、併せて広域的な調査、水道事業に対する国庫補助について協力して統一的な陳情を行う契機とすることである。

3  本件会議等の日程及び出席者

本件会議等の日程は、別紙一、表1記載のとおりであり、本件会議等の出席者は、別紙一、表2記載のとおりである。

(一) 初日の日程

都を除く参加都市の水道事業管理者及びその随行者合計二二名と開催都市である都の水道局長及び事務担当職員合計九名は、午前一一時三〇分に都庁に集合し、同四〇分から昼食会が設定され、東京都庁第二庁舎一四階の一四A会議室において、都が弁当を提供した。その後、午後〇時四〇分から午後二時二〇分までの間、都庁会議室において、「災害時の給水確保とその財源措置について」及び「営業所等の設置基準及び将来構想について」という議題の会議が開かれた。なお同会議において、都水道局から、本件会議について疑義が生ずることのないように、簡素な会議運営を行っていくこと及び本件会議の開催都市の負担が大きい旨の理由で参加費の値上げの提案があった。その後、本件会議が約二〇分延長されたため、当初予定されていた都庁展望台視察を取りやめ、午後二時三〇分から都防災センターの視察のみが行われた。なお、参加都市である札幌市及び北九州市から本件会議の開催地である東京都新宿区まで、航空機を利用した場合の所要時間は四時間三〇分であった。

この間、来賓七名は、別途、午後〇時四〇分に都庁を出発して都の水運用センター、水質センター及び歴史館を視察した。その後、午後三時一〇分に、参加都市の水道事業管理者ら、その随行者、都水道局の事務担当職員及び来賓(以下「参加者」という。)は、都庁を出発し、午後五時二〇分ころ、宿泊先である奥多摩町の旅館「水香園」に到着した。なお、来賓が本件会議等に参加するため要した往復の交通費は、来賓自身が各自で負担した。

午後六時から午後八時三〇分までの間、当日の夕食を兼ねて、水香園において、本件懇親会が行われた。なお、水香園の各居室内には、飲料を収納した冷蔵庫が設置されている。

(二) 二日目の日程

参加者は、水香園を午前八時一五分に出発し、同四五分に小河内貯水池管理事務所に到着した。同管理事務所において、昭和一三年から昭和三二年ころの小河内貯水池の建設当時の東京の水事情や建設に際しての技術的課題とその解決方法について説明があり、その後、参加者は、小河内貯水池やダム堤体の内部に作られた管理通路を視察し、午前一一時三〇分から午後〇時三〇分までの間は、村山山口貯水池を視察し、同所で、都が提供した弁当による昼食を取った。午後〇時四五分から午後一時までの間は、東村山浄水場を視察した。東村山浄水場は多摩川から取水した水の浄水場であり、管路により利根川から取水した水の浄水場である朝霞浄水場と結ばれて、両水源のいずれかからの取水が困難である場合に、両浄水場間で、水の融通が可能となっている。また、参加者は、東村山浄水場において、都水道局が開発実用化の研究に取り組んでいる太陽光発電システムも視察した。参加者は午後三時に新宿駅で解散した。

4  本件会議の実施までの経緯

本件会議等については、平成七年七月初旬ころから準備が開始され、各参加都市への連絡調整を経て、日程が同年一一月一三日から翌一四日と決定された。その後、都の重要な水源であり都水道局の基幹施設として小河内貯水池、村山山口貯水池を、また、都の渇水対策上重要な意義を有し、かつ省エネルギー対策として都が開発実験を実施している太陽光発電施設も浄水場内に有している東村山浄水場など奥多摩に所在する都水道局施設が視察先として選定された。視察先に近い奥多摩近辺の旅館で、同月一三日に参加一二都市毎に一部屋を割り当てるために一二部屋以上の部屋数があり、四〇人以上の宿泊が可能な旅館は、宿泊先を選定した同年八月中旬の時点では、水香園しかなかった。そこで、都水道局は、同年一一月一三日及び予備日として同月一四日を予約した。本件会議等は、その後、同年一一月一三日の実施に支障が生じ、同年九月中旬に、予定を変更して同年一一月一四日及び翌一五日の二日間にわたり開催されることが決定した。

5  本件会議等に係る支出

本件会議等に係る経費の詳細は別紙二のとおりである。すなわち、本件会議等に係る支出は、計一八三万一〇三二円であり、収入は、都を除く参加都市の参加者二二名が各一万五〇〇〇円支払った参加費合計三三万円であり、差額一五〇万一〇三二円は開催都市である都が負担した。なお、右支出のうち、宿泊に際して支払われた電話代等のうち四四〇〇円については、私的な費用であったとして、被告中村が平成八年八月一九日、都水道局に対して返還している。

6  本件訴訟に至るまで及び本件訴訟提起後の経緯

原告は、平成八年六月一八日付けで、被告らに対し本件会議等について支出された費用のうち本件会議中に提供されたコーヒーの代金五九四〇円を除く一四九万五〇九二円及び本件会議等に参加した都の職員に対し支払われた日当を都水道局に返還するよう求める監査請求を提起し、東京都監査委員は、同年八月一九日、これを棄却した。なお、同年六月二〇日に、右日当の一部が都に返還されている。

原告は、右監査請求の結果を不服として、同年九月一七日、本件訴訟を提起し、当初、本件会議の出席者に対して提供されたコーヒーの代金と本件会議の際に使用した事務用品に係る費用を除く本件会議等に支出された公金の返還を被告らに対し求めていたが、後に、その請求を減縮し、最終的には、来賓宿泊費用一三万三五六〇円、本件懇親会における酒類の代金のうち来賓以外の参加者につき相当とする金額を超過する一八万〇〇六六円、夜食及び持ち込みの酒類等の代金七万〇九五〇円、初日及び二日目の各昼食代のうち来賓以外の参加者につき相当とする金額を超過する二七万三五六八円、土産代一六万円の合計八一万八一四四円の返還を、被告らに対し求めている。

第三  争点及びこれに対する当事者の主張

一  原告の主張

退職した水道事業管理者は、単なる民間人にすぎず、また、関連の民間企業に天下る者も少なくない。これらの者が出席している懇親会の場で、現職の水道事業管理者らの率直な意見交換が行われるとしたら、水道事業管理者の情報が民間に筒抜けになるから、これらの者を本件会議等に招待すること自体、癒着の構造であり、悪の温床になりかねない。にもかかわらず、その費用を公費で支出することは社会通念を逸脱し、違法である。

後記のとおり、社会通念を逸脱した大量の酒が提供された本件懇親会のみに出席した来賓の宿泊費一二万六〇〇〇円に消費税及び特別地方税各三パーセントを加算した合計額である一三万三五六〇円を公費で支出することは、会議の目的、効果と関連せず、又社会通念に照らして目的、効果との均衡を著しく欠き、予算執行権限を有する被告らに与えられた裁量を逸脱し、違法である。

来賓については、前記のとおりその招待自体が違法であること、本件懇親会で参加者に提供された酒は、代金額にして合計一九万六五五〇円(参加者一人当たり五一七三円)、量にして二五八本(日本酒一合、ビール一本をそれぞれ一本として計算。参加者一人当たり約六・八本。)と多量であること、参加者の夜食等に供したとされる持ち込みの酒及びおつまみ並びに夜食分として水香園に支払われている分の飲食代については本件懇親会終了後の私的な時間に消費されたものであること、昼食の代金については高額に過ぎること、土産品の代金については公務員が出席者である会議において土産を配る必要性はないことから、以下の金額については、それぞれ、本件会議等の目的、効果と関連せず、または社会通念に照らして本件会議等の目的、効果との均衡を著しく欠き、予算執行権限を有する被告らに与えられた裁量を逸脱し、違法である。

1  本件懇親会で提供された酒の代金合計一九万六五五〇円のうち、来賓を除く参加者一人当たり酒及びビールそれぞれ一本を超える部分に相当する一五万九三五〇円にこれに係るサービス料及び消費税を加えた金額である一八万〇〇六六円。

2  参加者の夜食、持ち込みの酒及びおつまみの代金五万一九五六円と夜食分として水香園に支払われた一万九〇〇〇円の合計七万〇九五六円全額。

3  二回にわたり提供された弁当の代金については、合計額三五万〇二〇〇円から、来賓を除く参加者三一名につき、一回一人当たり一二〇〇円を越える部分とこれに係る消費税を除いた額である二七万三五六八円。

4  土産の代金一六万円全額。

二  被告らの主張

来賓を招待した目的は、来賓のそれまでの水道事業に対する貢献に対する感謝の趣旨のほかに、水道事業管理者として蓄積した経験を後継者に披露することを依頼し併せて本件会議の円滑な引継を可能にし、本件会議の充実と発展的継続を目的とするものであるから、本件会議等について来賓に係る費用を公費から支出したことは、社会通念に照らし妥当である。

本件会議の趣旨、目的は、地方公営企業として運営される水道事業について、参加都市が抱える課題について、地方自治体の枠を越えて協議、検討するとともに、各都市の懸案事項を率直に披露して、その対応についての情報交換をなし、併せて広域的な調査協力を行う契機とすることである。現に、緊急時における地方自治体間の広域的な相互協力体制が構築されてきたのも、本件会議のような長期間の継続的な任意的組織で検討を行ってきた成果である。また、本件会議は、通常の行政運営においても地方自治機能の強化という機能を有する点で重要な意義を持つ。

本件懇親会は、本件会議の補完充実をその目的とするものである。具体的には、くつろいだ雰囲気の中で水道事業に関する自由な意見交換と、それにより管理者間に醸成された有形無形の信頼関係により、各参加都市間の連携が円滑に進むという効果がもたらされることを目的とするものであるから、夕食を兼ねて本件懇親会において、酒類等が提供されたこと及びその金額は、本件懇親会の目的及び参加者の経歴に鑑み、社会通念上、合理的かつ相当な支出というべきである。

さらに、初日の昼食については、時間に制約のある本件会議を充実させるため、昼食時間を兼ねて事前説明の機会を確保するとともに、全国にわたる参加都市の事情を考慮し、都庁舎内の会議室で弁当を提供したものであり、二日目の昼食については、昼食時間が、奥多摩に所在する都水道局の施設の視察の途中であったという場所的、日程的な制約のために都水道局貯水池管理事務所内で昼食をとることとし、弁当の配達を依頼したものである。なお、昼食の単価については、本件会議等の参加者が各参加都市の水道事業管理者であり、来賓も直近まで同じく管理者であった者であることを考慮して社会通念の範囲内で決定したものである。

土産の代金については、その金額、内容及び提供された相手を考慮すれば社会通念上、儀礼の範囲内というべきであり、酒及びつまみの代金については、各自の居室で懇談するに際して、多少の飲食物を用意したとしても、その趣旨、金額及び内容からして社会通念の範囲内のものである。

三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  地方公営企業の経営は、地方公共団体の事務としての公共性を有するとともに(地方自治法二条三項三号)、その目的を効率的に達成するために企業経済性が求められるものであって、費用対効果という能率性(地方自治法二条一三項)の下に企業としての経済性を発揮することが経営の原則とされているのである(法三条)。したがって、会議、接遇等に要した経費を支出することが社会通念上、当該地方公営企業の経営に係る事務に含まれないと認められるときは、当該支出は違法というべきであり、さらに右事務に含まれるとしても、当該支出がされた当時の地方公共団体及び地方公営企業の財務状況、一般の経済状態、民間企業社会における応接、接遇の水準、国民の消費並びに生活水準等の諸事情を考慮したときに、当該会議等の目的、効果との均衡を著しく欠き、支出決定、支出又は支払の権限を有する者の裁量権の逸脱があると認められるときは、当該支出は違法となるというべきである。

二  本件会議等の趣旨、目的について

1  地方公共団体の事務である水道事業について、複数の地方公共団体が、それぞれに共通する事項について会議を設定し、共通課題に関する協議や情報交換を行うことは、一般的に当該事業の運営に資するところが大きく有意義なものといえる。そして、前記第二、三(当事者間に争いのない事実等)記載のとおり、本件会議の趣旨、目的が参加都市が抱える課題について、地方自治体の枠を越えて協議、検討するとともに、各地方公共団体の懸案事項を率直に披露して、その対応についての情報交換をなし、併せて広域的な調査協力を行う契機とすることにあり、現に本件会議において、災害時の給水確保とその財源措置について、また営業所等の設置基準及び将来構想について、参加都市の水道事業管理者間で検討されたこと、二日目の視察先である施設も開催都市である都水道局の基幹施設及びその渇水対策において重要な位置を占める施設であることが認められることからして、本件会議及びこれに付随する行事である都水道局の施設の視察は、公営企業の経営の基本原則に反するものではなく、かつ社会通念上水道事業の経営に係る事務に該当するものということができる。

2  そして、前記のとおり、本件会議等における二日目の視察先は都心から離れた奥多摩地域にあり、視察先に近接した奥多摩地区にある宿泊施設のうち、被告中村が、本件会議等のための宿泊先の選定を開始した平成七年八月中旬ころにおいて予約が可能であり、かつ、参加都市の数に対応する一二以上の客室を有し参加予定人数四〇名が宿泊可能な宿泊施設は、水香園のみであったことからすれば、本件において、宿泊先を水香園と決定したこと自体には合理的な理由が存するものということができる。そして、企業経営に関する会議の後にくつろいだ雰囲気の中で懇談し、事業に関する自由な意見交換を行うことにより事務担当者間に有形無形の信頼関係を醸成し、各地方公共団体相互間の連携を円滑ならしめることは当該会議を補完充実させるものということができ、夕食を兼ねた懇親会を宿泊先で開催することも一般的には社会通念の範囲内にあるものということができ、本件懇親会については後記のとおりその支出内容において裁量を逸脱した点があることが認められるものの、本件懇親会を地方公共団体の経営する企業の事務でないとする事情までは認められない。

3  また、前記第二、三記載のとおり、来賓全員が前水道事業管理者であり、来賓を招待した目的が、後任の水道事業管理者に対し蓄積された経験を披露するとともに、それまでに培ってきた人的関係を活用して後任者を参加都市の従来からの水道事業管理者に引き合わせるなど、各参加都市間の中継を円滑にならしめることにあることからすれば、往復旅費を自ら負担して参加した来賓を本件懇親会及び二日目の視察に招待したことは、本件会議等の趣旨、目的に照らし、意義を有するものであって、社会通念上儀礼の範囲を越えるものでもないというべきであるから、地方公共団体の経営する企業の事務に属するものと解することができるというべきであって、この点に関する原告の主張は採用することができない。

三  各支出の裁量逸脱の有無について

1  本件懇親会における酒類の代金について

<証拠略>によれば、三八名が参加した本件懇親会で提供された酒類は、酒一〇〇本(単価五五〇円、合計五万五〇〇〇円)、ビール八三本(単価六五〇円、合計五万三九五〇円)、焼酒三本(単価七〇〇円、合計二一〇〇円)、大吟醸酒(四号瓶)一五本(単価五三〇〇円、合計七万九五〇〇円)、吟醸酒(二号瓶)六本(単価一〇〇〇円、合計六〇〇〇円)である。このうち、大吟醸酒については、一合あたりの単価が約一三〇〇円と他と比較して高額であることが認められるが、右大吟醸酒が提供された趣旨は、東京の地酒を参加者に紹介するというもので、前述した本件会議等の一環として開催された本件懇親会の趣旨、目的に照らし、特別に単価の高い酒を出すことについて納得のできる説明とはいえず、右趣旨、目的との均衡を欠くというべきである。したがって、原告の請求のうち右に係る代金七万九五〇〇円に係るサービス料(一〇パーセント)及び消費税(三パーセント)を順次加算した金額である九万〇〇七三円については、被告らの裁量の範囲を逸脱した違法な支出というべきである。

なお、原告は、本件懇親会において許容されるのは、参加者(来賓を除く)一人当たり酒一本及びビール一本のみであると主張する。確かに、右の大吟醸酒を除いても酒類の一人当たり摂取量は多量であり、本件懇親会の趣旨、目的に沿った効果との均衡について疑問なしとしないが、本件懇親会において、参加者に対し、一定程度の酒類を提供することには合理的理由が存することは前述のとおりであり、提供する酒類の量の決定は被告らの裁量に委ねられているところ、原告主張の許容量を超える部分すべてにつき、本件会議等の趣旨、目的に照らして被告らの裁量の範囲を逸脱していることが明らかであると認める証拠はないというべきである。

2  参加者の夜食等の代金について

<証拠略>によれば、持込みの酒、つまみ類及び水香園に対し夜食分として支払われた金額に係る飲食物は、いずれも、参加者が各居室に戻ってから食することを予定して購入され、参加者に対して提供されたものであること、本件懇親会終了後、参加者は、参加都市ごとにそれぞれの各居室に戻っていたことが認められるところ、本件懇親会終了後の参加者の飲食に要する費用は、公務とは離れた私的な時間に費消され、本件会議等の趣旨、目的と関連しない費用であることが明らかである。したがって右に係る合計額七万〇九五六円の公金支出は被告らの裁量の範囲を逸脱した違法なものというべきである。

3  二回にわたり提供された昼食の代金について

前記第二、三記載のとおり、本件会議には遠方からの参加者が含まれており、本件会議等の日程に時間的な余裕が少なかったこと、初日の昼食の直後に本件会議が開催され昼食が提供された場所が都庁内部の会議室であること、二日目の昼食は視察中に視察先である都水道局の施設内で提供されていること、内容はいずれも、事前に用意ができて食事時間も比較的短時間ですむ弁当であることにかんがみれば、昼食を提供したこと自体は、社会通念に照らし、本件会議等の趣旨、目的に照らして、被告らの裁量の範囲内の行為であるということができ、金額が一食一人当たり四〇〇〇円であることについては、本件会議及びこれに付随する視察の趣旨、目的に照らして、やや高額であるとの感は否めないものの、著しく均衡を失し、被告らの裁量権の範囲を逸脱しているとまでは認められないというべきであるから、この点に関する原告の主張は理由がないというべきである。

4  土産の代金について

<証拠略>によれば、土産品として都を除く参加都市の参加者及び来賓に配られたのは、東京産の佃煮及び山梨県産のわさびであることが認められるところ、本件会議等に際して、水道事業と直接的な関連性がない土産品を配ることと本件会議の趣旨、目的とに合理的な関連性があるとは認められないというべきである。したがって、本件において、土産品の代金として支出された一六万円については、本件会議等の趣旨、目的と関連性が認められず、違法な支出というべきである。

5  以上によれば、前記三、1の大吟醸酒代金にこれに対するサービス料及び消費税を付加した九万〇〇七三円、前記三、2の参加者の夜食等の代金七万〇九五六円、前記三、4の土産代金一六万円の合計三二万一〇二九円の公金支出は違法というべきであり、被告川北は本件会議等の参加者として、被告中村は、事務担当者として右違法の内容を充分に認識しつつ、右各支出についてそれぞれ財務会計行為を行ったものというべきであるから、被告らは、連帯して、都に対して損害賠償の義務を負っているものというべきである。

第五  結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求のうち、被告らに対し、連帯して、三二万一〇二九円及びこれに対する平成八年一〇月九日(被告らに対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を都に支払うことを求める部分については、理由があるからこれを認め、その余は理由がないから棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九二条本文、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 裁判官 水谷里枝子)

別紙一

表1 日程

平成7年11月14日(火)

11:30 集合(都庁第二本庁舎)

11:40 昼食(同上)

〔会議出席者の日程〕

12:40 会議(都庁会議室)

議題:1 災害時の給水確保とその財源措置について

2 営業所等の設置基準及び将来構想について

14:20 会議終了

14:30 視察(東京都防災センター)

〔来賓の日程〕

12:40 視察(都庁→水運用センター→水質センター→歴史館→都庁)

15:10 出発(都庁)

17:20 到着(水香園:奥多摩町)

18:00 懇親会 宿泊

平成7年11月15日(水)

8:15 出発(水香園)

8:45 到着(小河内貯水池管理事務所)、視察

10:00 出発

11:30 到着(村山山口貯水池管理事務所)、視察及び昼食

12:30 出発

12:45 到着(東村山浄水管理事務所)、視察

13:00 出発

14:40 解散(新宿駅)

表2 参加者

政令指定都市11市の水道事業管理者及び随行者、22人

来賓(政令指定都市の水道事業管理者であった者で会議直近の退職者)、7人

東京都関係職員(水道局長及び事務担当者)、9人

計、38人

別紙二

表3 経費内訳

収入

項目、金額(円)

参加費(政令指定都市11市22人分、15,000円/人)、330,000

支出

宿泊費(懇親会費用を含む)、1,017,350内訳一泊二食18,000円×38人15,000円×2人(運転手、ガイド)小計714,000円懇親会酒代等200,450円夜食代19,000円電話代等144,000円税、サービス料69,500円

昼食代(2回分)、350,200内訳1日目4,000円×40人2日目4,500円×40人税10,200円

みやげ代、160,000内訳佃煮5,000円×29袋わさび500円×30袋

輸送費(バス代、有料道路代)、227,250

酒・つまみ(2次会用)、51,956

お茶代等、23,741

事務用品等、535

支出合計、1,831,032

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