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東京地方裁判所 平成8年(行ウ)229号 判決 1998年2月26日

原告

金柱天

右訴訟代理人弁護士

梁英子

永田徹

永井光弘

被告

右代表者法務大臣

下稲葉耕吉

右指定代理人

加藤裕

外四名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告は、原告に対し、二万六六〇〇円を支払え。

第二  事案の概要

本件は、自己の所有する自家用乗用自動車について自ら一二か月の定期点検を実施した後、所轄の地方運輸局陸運支局の係官の指示に従って分解整備検査を受け、自動車重量税(以下「重量税」という。)及び検査手数料を納付した原告が、右重量税等の納付は、道路運送車両法(以下「法」という。)六四条一項(分解整備検査)の規定を受けて分解整備について定義した法施行規則三条五号の違法な解釈、運用に基づいてされたものであるから無効であるなどとして、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、右重量税等の返還を求めている事案である。

一  関係法令の定め

1  分解整備検査

(一) 登録自動車又は車両番号の指定を受けた検査対象軽自動車若しくは二輪の小型自動車の使用者は、当該自動車の分解整備(原動機、動力伝達装置、走行装置、操縦装置、制動装置、緩衝装置又は連結装置を取り外して行う自動車の整備又は改造であって運輸省令で定めるものをいう。以下同じ。)が行われたときは、原則として、その分解整備が完了した日から一五日以内に、当該自動車を指示して、運輸大臣の行う分解整備検査を受けなければならないとされている(法六四条一項)。

ただし、地方運輸局長から自動車分解整備事業の認証を受けた者(以下「自動車分解整備事業者」という。)が当該分解整備を実施し、かつ、当該自動車の分解整備に係る部分が保安基準に適合するかどうかについて検査をした場合については、分解整備検査を受ける必要はないものとされている(同条二項)。

(二) 法施行規則三条は、法六四条一項の規定を受けて、分解整備の定義を定めており、制動装置に関しては、制動装置のマスタ・シリンダ、バルブ類、ホース、パイプ、倍力装置、ブレーキ・チャンバ、ブレーキ・ドラム(二輪の小型自動車のブレーキ・ドラムを除く。)若しくはディスク・ブレーキのキャリパを取り外し、又は二輪の小型自動車のブレーキ・ライニングを交換するためにブレーキ・シューを取り外して行う自動車の整備又は改造に該当するものを分解整備という旨規定している(法施行規則三条五号)。

(三) なお、分解整備検査を受ける場合には、当該自動車の使用者は、当該自動車検査証を運輸大臣に提出しなければならず、運輸大臣は、分解整備検査の結果、当該自動車が保安基準に適合すると認めるときは、当該自動車検査証に有効期間を記入して、これを当該自動車の使用者に返付し、当該自動車が保安基準に適合しないと認めるときは、当該自動車検査証を当該自動車の使用者に返付しないものとされている(法六四条三項、六二条一項後段、同条二項)。

また、分解整備検査を申請する者は、実費を勘案して政令で定める額の手数料を自動車検査登録印紙をもって国(軽自動車検査協会にその申請をする場合には、同協会)に納付しなければならないとされている(法一〇二条一項七号、二項)。

2  重量税の納付義務等

(一) 自動車重量税法(以下「重量税法」という。)三条は、「検査自動車及び届出軽自動車には、この法律により、自動車重量税を課する。」と規定し、同法二条一項二号は、右の検査自動車とは、法六〇条一項(新規検査の場合の自動車検査証の交付)、六二条二項(同法六三条三項、六四条三項及び六七条四項において準用する場合を含む。)(継続検査、臨時検査、分解整備検査及び構造等変更検査の場合の自動車検査証の返付)又は七一条四項(予備検査の場合の自動車検査証の交付)の規定による自動車検査証の交付又は返付(以下「自動車検査証の交付等」という。)を受ける自動車をいう旨規定している。

(二) 自動車検査証の交付等を受ける者は、当該検査自動車につき重量税を納める義務があり(重量税法四条一項)、その自動車検査証の交付等を受ける時までに、当該検査自動車につき課されるべき重量税の額に相当する金額の重量税印紙を政令で定める書類にはり付けて、当該自動車検査証の交付等を行う運輸大臣若しくはその権限の委任を受けた地方運輸局長若しくは地方運輸局陸運支局長又は軽自動車検査協会に提出することにより、重量税を納付しなければならない(重量税法八条)。

(三) 重量税法一六条は、重量税について過誤納があった場合の還付の手続について次のとおり定めている。

(1) 自動車検査証の交付等又は車両番号の指定を受ける者は、次のア、イ記載の各号のいずれかに該当するときは、その該当することとなった日から一年を経過する日までに、当該自動車検査証の交付等又は車両番号の指定に係る運輸大臣等に申し出て、当該各号に掲げる重量税の額その他政令で定める事項について確認を求め、証明書の交付を請求することができる(同条一項)。

ア 一号

重量税を納付した後、自動車検査証の交付等又は車両番号の指定を受けることをやめたとき。

当該納付した重量税の額

イ 二号

過大に重量税を納付して自動車検査証の交付等又は車両番号の指定を受けたとき(国税通則法七五条一項五号の規定による審査請求に対する裁決により重量税法一二条一項の税額の認定に係る処分の全部又は一部が取り消されたときを除く。)。

当該過大に納付した重量税の額

(2) 運輸大臣等は、同条一項二号に該当する事実があることを知ったときは、同項の請求がされている場合を除き、当該過大に納付した重量税の額その他政令で定める事項を自動車検査証の交付等又は車両番号の指定を受けた者に書面をもって通知するものとする(同条二項)。

(3) 重量税に係る過誤納金の還付を受けようとする者は、同条一項の証明書又は同条二項の書面を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない(同条三項)。

二  前提となる事実

(以下の事実のうち、証拠を掲記したもの以外は、当事者間に争いがない事実である。)

1  法の改正等

(一) 平成六年七月、車検制度について規制緩和を図ることを内容とする法の改正(平成七年法律第八六号によるもの)が行われ、その後、右改正法及び法施行規則等の一部を改正する省令(平成七年運輸省令第八号)の施行に伴い、運輸大臣は、法五七条に基づき、「自動車の点検及び整備に関する手引」(平成七年運輸省告示第三四二号。以下「手引」という。)を公表し、同年七月一日からこれが適用されている。

(二) 手引は、自動車の使用者であるユーザーの自動車の点検整備についての理解を深めるため、一般的な自動車について標準的な使用を前提とした「日常点検」及び「定期点検」の実施の方法並びにこれらの点検に伴い必要となる整備の実施の方法の指針を示したものである。手引によれば、自家用乗用自動車については、一年ごとの定期点検(一年点検ないし一二か月点検といわれているもの)において、ブレーキ・ドラムを取り外し、ライニングの摩耗状況等を点検するものとされている(甲三)。

2  一二か月点検の実施

原告は、平成七年一〇月三一日、自己の所有する自家用乗用自動車(日産サニー。以下「本件自動車」という。)について、自ら一二か月点検を実施した。原告は、右点検において、手引に従い、ブレーキ・ドラムを取り外し、ライニングの摩耗状況等について点検し、異状がなかったので、内部には手を触れずに、取り外したブレーキ・ドラムを再度取り付けた(甲四、一三。以下、原告が行った右の作業を「本件作業」という。)。

3  分解整備検査に伴う重量税等の納付

(一) 原告は、右の一二か月点検実施後の平成七年一一月二日、近畿運輸局兵庫陸運支局(以下「兵庫陸運支局」という。)に対し、一二か月点検を自ら実施した旨を告げ、今後いかなる手続が必要であるかを照会したところ、同支局の係官から、「ブレーキ・ドラムを取り外し、再度組み付けているので、点検の実施日より一五日以内に分解整備検査を受けるように」と指示された。

(二) このため、原告は、平成七年一一月二日、兵庫陸運支局に対し、二万五二〇〇円の重量税印紙のほか検査手数料として一四〇〇円の自動車検査登録印紙をちょう付の上、重量税納付書、分解整備検査申請書等の必要書類を提出して、本件自動車について分解整備検査の申請をし、同支局において分解整備検査(以下「本件分解整備検査」という。)を受けた。右検査の結果、本件自動車は保安基準に適合するものと認められて、原告は、有効期間を平成九年一一月一日までとする自動車検査証の返付を受けた。なお、右申請の際にちょう付した重量税印紙及び自動車検査登録印紙については、これを消印され、原告は、結局、本件分解整備検査に伴い、重量税二万五二〇〇円及び検査手数料一四〇〇円の合計二万六六〇〇円を納付したことになった(以下、この納付した重量税を「本件重量税」といい、右の納付した検査手数料と併せて「本件重量税等」という。)。

三  争点及び争点に関する当事者の主張

本件の争点は、①重量税の納付につき法律上の原因を欠くことを理由として、当該誤納金について、重量税法一六条に規定する還付の手続によらずに、直接不当利得の返還を請求することができるかどうか、②本件重量税等の納付が法律上の原因を欠くものであるかどうかであり、このうち②の争点については、具体的には、本件作業が法六四条一項、法施行規則三条五号に規定する分解整備に該当するかどうか、仮に本件作業が右の分解整備に該当しないとしても、分解整備検査を受けて自動車検査証の返付を受けた以上重量税を納付する義務が生ずるのかどうか、さらには、本件分解整備検査に伴い重量税の納付義務を課することが憲法一四条一項、二九条、三〇条に違反するかどうかが問題となる。

これらの点に関する当事者の主張は、次のとおりである。

(原告の主張)

1 法施行規則の違法な解釈・運用に基づいてされた納付の無効

本件重量税等の納付は、本件作業が法施行規則三条五号の分解整備に該当するとの運輸省の解釈・運用に基づいてされたものであるが、右の運輸省の解釈・運用は、次のとおり、法に違反する違法なものであり、右の違法な解釈・運用に基づいてされた本件納付は無効であるから、本件重量税等は不当利得として返還されるべきである。

すなわち、運輸省は、ブレーキ・ドラムを取り外し不良箇所がないことを確認して再度取り付けるという簡単な作業である本件作業を法施行規則三条五号の分解整備に該当するものとしているが、このような解釈・運用は、右規定の文言からみて不合理であるのみならず、自動車の使用者による自主的な保守管理を促すという平成六年法律第八六号による法の改正の趣旨に明らかに反するものである。運輸省の解釈・運用を前提とすると、自動車の使用者が定期点検を行う際に手引に従ってブレーキ・ドラムを取り外して内部を目視点検すると、必ず一五日以内に検査場へ車を持参し、分解整備検査を受けて重量税を納付しなければならず、他方、自動車分解整備事業者に依頼して定期点検を行えば、分解整備検査を受ける必要はなく、重量税の納付義務も生じないということになり、自動車の使用者による自主的な保守管理に水を差す結果となるのである。車種によっては、ドラム・ブレーキの構造が非常に簡素化されており、タイヤ・ホイールをはずすと、自動的にブレーキ・ドラムまではずれるものがあり、このような車ではタイヤ交換をしただけでも、分解整備検査を受けなければならず、その都度重量税を徴収されるという不合理な結果になりかねないのである。

2 錯誤に基づく分解整備検査の申請の無効

(一) 本件分解整備検査の申請は、次のとおり、錯誤により無効と解すべきであり、無効な申請に基づく本件重量税の納付は法律上の原因を欠くものというべきである。

すなわち、分解整備検査に伴う重量税は、分解整備検査の申請に基づく一連の検査の後、合格が確認された時点で徴収されるものであり、事実上、分解整備検査の申請が重量税の納付申請を兼ねているものである。したがって、納付の前提となる分解整備検査の申請に錯誤があり、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、重量税法に定める是正方法以外にその是正を許さないとすると納税義務者の利益を著しく害すると認められる事情がある場合には、右申請は錯誤により無効と解すべきであり、無効な申請に基づく重量税の納付は、法律上の原因を欠くものというべきである。

本件作業は、前記のとおり、分解整備に該当しないものであるが、原告は、兵庫陸運支局の係官の指示を受けたことにより、本件作業が分解整備に該当するとの錯誤に陥り、分解整備検査を受ける必要があると誤信して、本件分解整備検査の申請をしたものである。また、本件分解整備検査の申請をした当時、本件自動車の自動車検査証は平成八年一〇月二〇日まで有効なものであったので、原告としては、右申請によって、重量税の納付義務が生ずるとは予測もしていなかった。

本件分解整備検査の申請に係る原告の右錯誤は、客観的に明白かつ重大なものである。重量税法には、このような錯誤があった場合の重量税の還付についての定めはないが、本件重量税の返還がされなければ原告の利益を著しく害することは明らかであり、本件重量税は、法律上の原因なくして納付されたものとして不当利得により返還されるべきである。

(二) 被告は、仮に本件作業が分解整備に該当しなくとも、原告は、本件分解整備検査を受け、新たな有効期間を記入された自動車検査証の返付を受けたことにより、新たな有効期間の存続する間、本件自動車を運行の用に供することができることとなったのであるから、重量税の課税を免れるべきことにはならない旨主張する。

しかしながら、本件分解整備検査における従前の自動車検査証の提出は、そもそも原告の錯誤に基づく申請によって開始された一連の手続としてされたものであり、その申請が無効である以上、提出された従前の自動車検査証はそのまま有効期限があるものとして返還されなければならないから、原告は、右提出により、本件自動車を運行の用に供する地位を失ったわけではない。本件自動車の自動車検査証は、本来二年間の有効期間があったにもかかわらず、一年目で提出を余儀なくされたものであって、原告には被告の主張するような利益は何ら生じておらず、被告の右主張は失当である。

3 本件重量税の課税の違憲性

仮に本件作業が分解整備に当たり、本件分解整備検査の申請に錯誤が認められないとしても、本件分解整備検査に伴い重量税の納付義務を課することは、憲法一四条一項、二九条、三〇条に違反するものである。

すなわち、重量税法は、本件自動車のような自家用乗用自動車について、自動車検査証の有効期間が二年であることを前提に、二年ごとの重量税の課税を予定しているものである(同法七条)。しかるに、法施行規則三条五号の分解整備に関する運輸省の解釈・運用を前提として、本件分解整備検査に伴い原告に対し重量税の納付義務を課することは、自動車分解整備事業者に依頼せずに自ら定期点検を行った者に対し、合理的な理由に基づかずに、年に一度の重量税の課税を行うものであり、平等原則を定めた憲法一四条一項に違反するものである。

また、本件分解整備検査に伴い重量税の納付義務を課することは、立法に基づかずに、法施行規則の解釈・運用により、重量税の課税するものであるから、憲法二九条、三〇条にも違反するものである。

(被告の主張)

1 重量税の過誤納金の不当利得返還請求が許されないことについて

原告は、本件重量税の納付が無効であるとして、不当利得を理由に納付金額の返還を求めているが、次のとおり、重量税法は、いったん納付した重量税を直接不当利得を理由として返還請求することを許容するものではない。

すなわち、重量税法一六条は、重量税の過誤納金について運輸大臣等による納付税額の証明書の交付等の手続を定めているが、これは、重量税の徴収が大量かつ回帰的になされるものであることにかんがみ、過誤納金の還付を含めたその徴収にかかわる一連の手続が迅速、円滑かつ適正になされるべく、重量税の過誤納の有無及び過誤納金の額いかんにつき迅速かつ的確な判断をなすことができる運輸大臣等にその第一次的判断の権限を留保することとしたものであると解される。そして、このことと、右証明書の交付を請求できる期間が一年以内と制限されていることを併せ考えれば、重量税の過誤納金については、重量税法一六条の定める還付の手続に排他性が認められ、この手続によってのみ返還を求め得るとするのが法の趣旨であると解される。したがって、重量税法一六条所定の手続にのっとり、右証明書の交付を請求し右証明書を納税地の所轄税務署長に提出して過誤納金の還付請求を行い、右証明書の交付が拒否されたときはその拒否処分の取消しを求めるという、法が本来予定する手続を経ずに、直接不当利得返還請求訴訟を提起することは許されないというべきである。

2 本件重量税等の納付について法律上の原因があることについて

右1の点をおくとしても、次のとおり、原告は、本件分解整備検査に伴い本件重量税等を納付すべき義務があったのであり、本件重量税等の納付に法律上の原因があることは明らかである。

(一) 本件作業のようにブレーキ・ドラムを取り外して点検を行い、内部に手を加えることなく取り外したブレーキ・ドラムを再度組み付ける行為であっても、法施行規則三条五号に規定する「制動装置のマスタ・シリンダ、バルブ類、ホース、パイプ、倍力装置、ブレーキ・チャンバ、ブレーキ・ドラム(二輪の小型自動車のブレーキ・ドラムを除く。)若しくはディスク・ブレーキのキャリパを取り外し、又は二輪の小型自動車のブレーキ・ライニングを交換するためにブレーキ・シューを取り外して行う自動車の整備又は改造」に当たり、したがって、法六四条一項の分解整備に当たるものである。

すなわち、法にいう「整備」とは、給油脂、調整、部品交換、修理その他の自動車の構造又は装置の機能を正常に保ち、又は正常に復するための行為一切を意味し、単にブレーキ・ドラムを取り外して点検を行い、内部に手を加えることなく再びブレーキ・ドラムを組み付けただけの場合であっても、いったん取り外したブレーキ・ドラムを再度「組み付ける」という作業は、機能回復又は機能を正常に保つという意味において「整備」に該当するものである。本件作業は、ブレーキ・ドラムの取り外しという「分解」を行った上これを再度組み付けるという「整備」を行ったものであるから、その一連の作業は分解整備に当たるものである。

したがって、原告は本件自動車について分解整備検査を受ける必要があったものである。

(二) 仮に本件作業が法六四条一項の分解整備に該当しないものと仮定しても、以下のとおり、原告は、本件自動車について分解整備検査を受け、自動車検査証の返付を受けているのであるから、原告は重量税を納付すべき義務を負うものである。

(1) 重量税は、自動車の検査を受け、又は軽自動車の使用の届出を行うことによって初めて、これらの自動車を運行の用に供することが可能になるという利益を受けることに着目して課税される一種の権利創設税である。すなわち、自動車(検査対象外軽自動車及び小型特殊自動車を除く。)は、安全の確保及び公害の防止(法一条)のため、運輸大臣の検査を受け、有効な自動車検査証の交付を受けて初めて運行の用に供することが許される(法五八条一項、一〇八条一号)ことから、重量税法は、自動車の検査を受ける者が右利益を受ける法的地位を得ることに担税力を認め、自動車検査証の交付等を受ける者にこれを課することとしたものである(同法四条)。したがって、重量税の課税の実質的な根拠は、有効な自動車検査証の交付を受けておらず、そのままでは運行の用に供することができなかった自動車につき、新たに自動車検査証の交付等がなされることにより、その有効期間の存続する間運行の用に供することができることになる点に求められる。

(2) これを分解整備検査の場合についてみれば、自動車の使用者は、分解整備検査を受けるとき、自動車検査証を運輸大臣に提出しなければならず(法六四条三項による同法六二条一項後段の準用)、右提出によりいったん当該自動車を運行の用に供することができる法的地位を失うが、分解整備検査を受け自動車検査証の返付を受けることにより右地位を回復し新たな有効期間の存続する間自動車を運行の用に供し得ることとなるから、この点に着目して重量税を課するものである。

(3) そして、分解整備検査を受けたときは、その検査を受けようとする者が仮に分解整備を行っていなかった場合にも、分解整備検査を受けたことの当然の効果として自動車検査証が返付されるところ、右返付に係る自動車検査証は、提出前の自動車検査証の残存有効期間のいかんにかかわらず、運輸大臣が分解整備検査を行った時点における当該自動車の安全性等を確認したことの効果として、新たな有効期間を与えられることとなる(同法六四条三項による同法六二条二項の準用)のであり、分解整備検査を受けた自動車の使用者は、分解整備を行ったか否かにかかわらず等しく新たな有効期間の利益を受けることになる。

(4) そうであれば、前記の重量税の課税の実質的根拠は、分解整備検査を行わずに分解整備検査を受けた場合にも当てはまるものであり、分解整備を行わなかったからといって、分解整備を受けたことに基づく重量税の課税を免れるべきことにはならないのである。

第三  当裁判所の判断

一  重量税の納付につき法律上の原因を欠くことを理由として、当該誤納金について、重量税法一六条に規定する還付の手続によらずに、直接不当利得の返還を請求することができるかどうかについて

1 重量税の納付義務は、自動車検査証の交付若しくは返付の時又は届出軽自動車についての車両番号の指定の時に成立し(国税通則法一五条二項一二号)、納付義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものである(同条三項四号)。そして、このように納付義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する、いわゆる自動確定の国税については、申告納税方式又は賦課課税方式をとる国税(同法一六条一項、二項参照)の場合と異なり、その納付が実体法上理由を欠くときには、納付された税額は当然に誤納金となり、当該納付をした者は、当該誤納金の還付請求権(その性質は、公法上の不当利得返還請求権である。)を取得するものである。

2  ところで、重量税法一六条は、前記第二の一2(三)記載のとおり、重量税について過誤納があった場合の還付の手続を定めているところ、被告は、重量税の過誤納金の還付請求は右の還付の手続のみによるべきであり、重量税の納付につき法律上の原因を欠くことを理由として、当該誤納金について直接不当利得としてその返還を求めることは許されない旨主張する。

しかしながら、重量税法一六条は、重量税がいわゆる自動確定の国税であり、その納付が実体法上理由を欠く場合には、納付された税額は当然に誤納金となり、不当利得として返還されるべきものであるとの考え方を当然の前提とした上で、同条一項各号所定の事由による過誤納金については、税務署長においてその還付請求権の発生を的確に知ることが困難であることから、税務署長が行う右過誤納金に係る還付の手続が円滑かつ的確に行われるようにするため、税務署長に対して還付を求める場合にとるべき手続として、運輸大臣等による納付税額の証明書の交付等の手続を定めたものであり、重量税の納付につき法律上の原因を欠くことを理由として、当該誤納金について、被告に対し、直接不当利得としてその返還を求めることを禁ずる趣旨のものではないと解するのが相当である。被告の前記主張は、運輸大臣等が行う納付税額の証明書の交付又は交付の拒否という行為は、当該重量税に係る過誤納金の有無ないしその金額を確定する公定力を有する行政庁の処分であるとの考え方に立つものであるが、このような考え方は、重量税が納付義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する、いわゆる自動確定の国税とされていることにそぐわないものというべきである。

3 原告が本訴において主張する不当利得返還請求権の発生原因事実は、重量税法一六条一項各号所定の事由に該当せず、そもそも同条の定める還付の手続によることはできないものであるが、右のとおり、重量税の納付につき法律上の原因を欠く場合には、当該誤納金について、被告に対し、直接不当利得としてその返還を求めることができると解すべきであるから、原告が、本件について、公法上の当事者訴訟により不当利得の返還を求めていることは、その請求の当否はともかくとして、訴訟形態の選択としては正当なものというべきである。

二  本件作業が分解整備に該当するかどうかについて

1  原告は、本件作業が法六四条一項、法施行規則三条五号の分解整備には該当しないものであるとして、本件作業が分解整備に該当するとの運輸省の同規則の解釈・運用に基づいてされた本件重量税等の納付が無効である旨、また、本件分解整備検査の申請には本件作業が分解整備に該当しないにもかかわらず、これに該当するものと誤信した点等において錯誤があり、右の錯誤による申請に基づく本件重量税の納付は無効である旨主張する。

ところで、重量税の納付義務の成立に関する一般論としては、被告の主張するとおり、分解整備を行ったか否かにかかわらず、分解整備検査を受け、新たな有効期間を記入された自動車検査証の返付を受けた時に納税義務が成立するものであるが、本件においては、原告は、自ら一二か月点検を実施した後、兵庫陸運支局に対し、今後いかなる手続が必要であるかを照会したところ、同支局の係官から本件作業が分解整備に該当するので分解整備検査を受ける必要がある旨指示され、その結果、本件分解整備検査を受けたものであるから、仮に右係官の指示が法六四条一項、法施行規則三条五号の解釈を誤ったものであるならば、原告のした本件分解整備検査の申請は錯誤に基づくものということになり、その場合には、正義公平の観点からみて、被告が本件重量税等を収納し、保有することは許されないと解する余地も十分にあるので、本件作業が分解整備に該当するか否かについて以下検討することとする。

2  前記第二の一1(二)記載のとおり、法施行規則三条五号は、制動装置のマスタ・シリンダ、バルブ類、ホース、パイプ、倍力装置、ブレーキ・チャンバ、ブレーキ・ドラム(二輪の小型自動車のブレーキ・ドラムを除く。)若しくはディスク・ブレーキのキャリパを取り外し、又は二輪の小型自動車のブレーキ・ライニングを交換するためにブレーキ・シューを取り外して行う自動車の整備又は改造に該当するものを分解整備の一類型として定義している。

ところで、法においては、「整備」の意義について特に定義規定は設けられていないが、その通常の用語例等に照らせば、右の「整備」とは、給油脂、調整、部品交換、修理その他の自動車の構造又は装置の機能を正常に保ち、又は正常に復するための行為をいうものと解される。本件作業は、ブレーキ・ドラムを取り外し、ライニングの摩耗状況等について点検し、異状がないことを確認して、内部には手を触れずに取り外したブレーキ・ドラムを再度取り付けたものであるが、本件作業のうち、いったん取り外したブレーキ・ドラムを再度取り付ける行為は、機能回復又は機能を正常に保つという意味において、右の整備に該当するものというべきである。

したがって、本件作業は、ブレーキ・ドラムを取り外して行った自動車の整備に当たり、法六四条一項、法施行規則三条五号に定める分解整備に該当するものというべきである。

3  原告は、本件作業を分解整備に該当するものと解することは、後述するような重量税の課税上の問題を生じさせ、自動車の使用者による自主的な保守管理を促すという平成六年法律第八六号による法の改正の趣旨に明らかに反する旨主張する。

しかしながら、法六四条一項による自動車の分解整備検査は、道路運送車両に関する安全性の確保と公害の防止を目的として(法一条参照)、分解整備が行われた自動車が保安基準に適合しているかどうかを検査するものであるから、当該自動車について行われた行為ないし作業が分解整備に該当するか否かを判断する場合においては、専ら道路運送車両に関する安全性の確保と公害の防止の観点からその判断が行われるべきであり、重量税の課税上の問題点を考慮して、分解整備に該当するか否かの判断をするのは相当でないというべきである。また、平成六年法律第八六号による法の改正の趣旨は車検制度の規制緩和にあり、これにより自動車の使用者による自主的な保守管理責任の明確化と点検整備項目の簡素化が図られたものであり、右改正の趣旨は法の各規定の解釈に当たって考慮されるべきであるとしても、各規定の解釈については文理上一定の制約があるのであって、右改正の趣旨を考慮に入れても、法六四条一項、法施行規則三条五号の文理に反し、本件作業が分解整備に該当しないものと解することはできない。

したがって、原告の右主張は採用することができない。

4  そうすると、本件作業が分解整備に該当しないことを前提とする原告の前記1の主張は、その前提を欠くものとしていずれも採用することができない。

三  本件分解整備検査に伴い重量税の納付義務を課することが憲法一四条一項、二九条、三〇条に違反するかどうかについて

1  憲法一四条一項違反について

(一) 制動装置としてドラム・ブレーキが用いられている自動車について、手引に従って定期点検を行うと、ブレーキ・ドラムを取り外して行う分解整備が常に行われることになるから、右定期点検を自動車の使用者が自ら行った場合には、分解整備検査を受けなければならず、それに伴い重量税の納付義務を課せられるのに対し、自動車分解整備事業者に依頼して定期点検を行った場合には、分解整備検査を受ける必要はなく、したがって、重量税の納付義務も課せられないこととなり、重量税の課税上異なる取扱いとなるところ、原告は、本件分解整備検査に伴い原告に対し重量税の納付義務を課することは、自動車分解整備事業者に依頼せずに自ら定期点検を行った者に対し、合理的な理由に基づかずに、年に一度の重量税の課税を行うものであって、平等原則を定めた憲法一四条一項に違反する旨主張する。

(二) しかしながら、原告の右憲法違反の主張は採用することができない。その理由は、次のとおりである。

(1) 分解整備検査は、前示のとおり、道路運送車両に関する安全性の確保と公害の防止を目的として、分解整備が行われた自動車が保安基準に適合しているかどうかを検査するものであるが、定期点検に付随して行われる作業であっても、その作業が分解整備に該当するものである以上、分解整備検査を受ける必要があるものである。そして、法は、地方運輸局長の認証を受けた自動車分解整備事業者が分解整備を実施し、保安基準適合性について自ら検査をした場合には分解整備検査の受検を免除し、自動車分解整備事業者が分解整備を実施した場合と自動車の使用者が自ら分解整備を実施した場合とで、分解整備検査の受検の要否について取扱いを異にしているが、自動車分解整備事業者として地方運輸局長の認証を受けるためには、事業所の設備や従業員の技術水準等に関する所定の認証基準に適合していることが要件とされているのであり(法八〇条一項)、分解整備検査の受検の要否について、両者の間で取扱いを異にすることに合理的な理由があることは明らかである。

(2) ところで、自動車(運輸省令で定める軽自動車及び小型特殊自動車を除く。)は、運輸大臣の行う検査を受け、有効な自動車検査証の交付を受けているものでなければ、これを運行の用に供することができず(法五八条一項)、その反面、自動車検査証の交付等を受けた者は、その有効期間の存続する間、当該自動車を運行の用に供し得る法的地位を取得することになるものである。分解整備検査についてこれをみれば、分解整備検査を受ける場合は、当該自動車の使用者は、当該自動車検査証を運輸大臣に提出しなければならず(法六四条三項、六二条一項後段)、当該自動車の使用者は、当該自動車を運行の用に供し得る法的地位をいったん失うことになるが、検査の結果、当該自動車が保安基準に適合するものと認められると、従前の自動車検査証の残存有効期間のいかんにかかわらず、新たな有効期間が記入された自動車検査証が返付され(法六四条三項、六二条二項、六一条)、これにより当該自動車の使用者は新たな有効期間の存続する間、これを運行の用に供し得る法的地位を取得するものである。

(3) 重量税法は、自動車検査証の交付等を受ける者が取得する右のような法的地位に伴う利益に着目し、自動車検査証の交付等を受けることを担税力の間接的な表現と考え、自動車検査証の交付等を受ける者に対し、当該自動車検査証の有効期間並びに当該自動車の種類及び重量に応じた重量税の納付義務を課することとしているものである(重量税法三条、四条一項、七条一項)。そして、立法府は、租税立法の定立についてその政策的、技術的判断に基づき広範な裁量権を有しているものであり、右のような自動車検査証の交付等を受ける者が取得する法的地位に伴う利益に着目して課税を行うことは、もとより、立法府の裁量の範囲内のことであって、何ら憲法上の問題を生じさせるものではない。

(4) 本件自動車のように、定期点検に付随して必然的に分解整備が行われる場合、定期点検を自ら実施した場合と自動車分解整備事業者に定期点検を依頼した場合とで、重量税の課税上差異が生ずることは確かである。しかしながら、前者の場合には、分解整備検査を受け、新たな有効期間の記入された自動車検査証の返付を受けることにより、新たな有効期間の存続する間、当該自動車を運行の用に供し得る法的地位を取得することになるのに対し、後者の場合には、従来の自動車検査証の有効期間がそのまま存続し、自動車検査証の返付による右のような新たな法的地位の取得がないという差異があるのであって、重量税の納付義務の有無につき両者の間で差異が生ずることは、自動車検査証の交付等を受ける者が取得する法的地位に伴う利益に着目して課税される重量税の性質上やむを得ないことというべきであり、(右の自動車検査証の交付等を受ける者が取得する法的地位に伴う利益に着目して課税を行うことが、憲法上の問題を生じさせるものでないことは、前示のとおりである。)、これをもって、憲法一四条一項が禁ずる不合理な差別的取扱いということはできない。

(5) したがって、重量税法の規定に従い、本件分解整備検査に伴い原告に対し重量税の納付義務を課することは、憲法一四条一項に違反するものということはできない。

2  憲法二九条、三〇条違反について

(一) 原告は、本件分解整備検査に伴い重量税の納付義務を課することは、立法に基づかずに、法施行規則の解釈・運用により、重量税を課税するものであるから、憲法二九条、三〇条に違反する旨主張する。

(二) 原告の右憲法違反の主張の趣旨は、必ずしも明らかでないが、本件分解整備検査に伴う原告の重量税の納付義務が、重量税法の関係各規定及び同法二条一項二号により引用されている法の関係各規定に基づいて課せられていることは、前記第二の一記載のとおりであり、また、本件作業が法施行規則三条五号に定める分解整備に該当するものであるとの解釈に誤りがないことは前示のとおりであるから、原告の右憲法違反の主張は、その前提を欠き失当である。

なお、法六四条一項は、分解整備の定義を運輸省令に委任しているが、その委任規定は「分解整備(原動機、動力伝達装置、走行装置、操縦装置、制動装置、緩衝装置又は連結装置を取り外して行う自動車の整備又は改造であって運輸省令で定めるものをいう。)」という具体的、個別的なものであり、かつ、右委任規定を受けて定められた法施行規則三条の規定内容は委任の趣旨に反するものではないから、右委任立法に関し憲法八四条が規定する租税法律主義に違反する点は存在しない。

四  以上によれば、原告は、本件分解整備検査に伴い本件重量税等を納付すべき義務を負うものというべきであるから、本件重量税等の納付が法律上の原因を欠くものということはできない。

第四  結論

よって、原告の本件請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官青栁馨 裁判官増田稔 裁判官篠田賢治)

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