大判例

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東京地方裁判所 平成8年(行ウ)242号 判決

原告

近鉄不動産株式会社(X1)

右代表者代表取締役

関根道彦

原告

明和地所株式会社(X2)

右代表者代表取締役

川邊達雄

右両名訴訟代理人弁護士

高澤嘉昭

林伸夫

中塚賀晴

右同訴訟復代理人弁護士

榮川和広

被告

東京都品川都税事務所長(Y) 内村修三

右指定代理人

松田英智

鈴木朗

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  令附則一六条の二の四の規定に基づく本件各処分の違憲、違法性について(争点1)

1  特別土地保有税は、土地の保有に伴う費用を増大させることにより、土地の投機的な取得等を抑制するとともに、土地の供給及び有効利用を促進することを目的とするものであり、法六〇三条の二が規定する納税義務の免除の制度は、社会通念上相当程度の水準の利用がされ、最終的な需要に供されていると認められる土地については、いったん発生した納税義務を免除することとするものである。そして、具体的な個々の土地について、最終的な需要に供されているか、将来の売買を見越して仮の利用に供されているにすぎないのかの判断の不平等を回避するため、令五四条の四七は最終的な需要に供されていると認められる土地を外観的に認定するための基準を設けたものである。しかし、〔証拠略〕及び関係法令の内容に照らせば、平成三年改正ころまでに、土地の時価に対する保有コストの低下、資産格差の拡大及びこれを背景とする投機目的による土地の取得、保有が指摘されるようになり、投機目的で取得された土地が一時的に青空駐車場等に利用されるといった事態も危惧されるようになったことから、右の傾向が顕著であった三大都市圏の特定市における時限的な制度として免除制度の特例が設けられたこと、その内容として、駐車場等の土地自体の利用を主たる目的とする特定施設については、特定施設の利用の恒久性に関する一般的な認定要件(令五四条の四七第二項)を充足していても、「建物又は構築物を伴わないもの」を納税義務免除の対象から除外することとし、さらに、仮設建物等の建築による平成三年改正の趣旨の潜脱を防止するため、「建物又は構築物を伴わないもの」の内容を政令に委任したことが認められる。

ところで、令附則一六条の二の四に従えば、検査済証の交付を受けていない建物は免除制度の特例の適用における「建物」ではないとして扱われることになるが、免除制度の特例における政令への委任の趣旨は、仮設的建物等の建築等による法の潜脱を防止することにあることからすれば、当該建物が少なくとも建築関係法規に従って建築されたものであることを要件とすることは右委任の趣旨に沿うものというべきである。そして、建築予定建物についての法規の適合性は建築確認(建築基準法六条)によって担保されるが、工事が完了した建物についての法規の適合性は、建築主に義務付けられた工事完了届けに応じた検査により確認され、右検査に基づき検査済証が交付されるのであるから(同法七条)、令附則一六条の二の四の定めは、法の委任の趣旨の範囲内にあるものということができる。

2  原告らは、法六〇三条の二第一項一号に規定する建物等敷地の建物等については、その恒久性の基準として、検査済証の交付を要件としていないにもかかわらず、同項二号に規定する特定施設供用地の建物等についてのみ検査済証の交付を要件とすることは、法の委任の範囲を超えていると主張するが、建物等敷地にあっては、まさに当該建物等の恒久性が敷地たる土地の利用状況を示すものであるから建物等の存在及びその構造自体が恒久性の基準とされているのに対し、特定施設供用地にあっては、当該建物等と一体的に利用されている土地により構成される特定施設としての恒久性が問題とされているのであり、しかも、令附則一六条の二の四は、特定施設一般に関するものではなく、そのうち法附則三一条の四の二が規定する「土地自体の利用を主たる目的とする特定施設のうち建物又は構築物を伴わないもの」の範囲を規定するものであって、そこで問題とされるべき建物等は、それ自体の構造又は存在に意味があるのではなく、あくまでも建物等を伴った特定施設と評価できるか否かという観点からその要件が規定されるべきものであるから、建物等敷地と特定施設供用地との間において、納税義務免除のための建物等の要件が異なる点をもって、令附則一六条の二の四が法の委任の範囲を逸脱したものということはできないものというべきである。

3  法附則三一条の四の二については、平成九年法律第九号により一部が改正され、市(東京都の特別区の存在する区域にあっては東京都。)が土地の状況を勘案して当該市の条例で定める地域を免除制度の特例の対象から除外することができることとなったことから、東京都においては、平成九年条例第五二号により条例を改正し、平成九年度から、特別区の存在する区域内の駐車場等については、検査済証の交付を受けている建物の存在は納税義務免除の要件とはされなくなった。また、〔証拠略〕によれば、本件各建物は、建築確認を得て、ほぼ建築確認のとおり建築されており、平成九年七月二日付けの大阪市財政局長からの回答によれば、大阪市においては、免除制度の特例が施行された後においても、平成三年三月三一日までに工事の完成した建物等については、例外的に建築確認通知をもって、検査済証に替えることができるとの取扱いをしていることが認められる。

しかし、平成四年における取扱いと土地価格の下落傾向が長期に継続してきた平成九年当時との状況を同一視すべきものではなく、また、建築物が建築関係法規に適合しているか否かは建築主事等の専門的判断に委ねることが合理的であり、だからこそ検査済証の交付が法定されているのであって、検査済証を交付されていない建物等につき、実質的に検査済証の交付を受け得るものであるかどうかを税務担当職員が審査することは、一定の期間内に多数の土地について審査し、特別土地保有税の納税義務免除の可否を決しなければならないという特別土地保有税の課税事務の持つ性質に照らし、不可能であるというべきであるから、令附則一六条の二の四第一項を実質的に検査済証の交付を受け得るものであれば足りると解釈することはできないものというべきであり、また、特別土地保有税は、市町村税の一つであり、その賦課徴収税は、各市町村長(特別区においては東京都知事。)において行われるものであることに照らせば、大阪市が前記のような例外的取扱いをしていることをもって、被告においても、大阪市と同様に取り扱わなければ平等原則に違反するというべきものでもないのであるから、右各事実は、前記判断を左右するものではないというべきである。

4  以上によれば、免除制度の特例における法の目的は合理的であり、令附則一六条の二の四の定めが法の委任によるものであることは形式上明らかであり、また、その内容も委任の趣旨の範囲において免除制度の特例の目的を達成する手段として合理性を有するものというべきであり、法附則三一条の四の二の規定、ひいては、令附則一六条の二の四の規定が憲法に反するということはできず、また、これを適用した本件各処分にも違憲、違法な点はないというべきである。たしかに、建築関係法規に適合していても検査済証の交付を受けていなかった建物等と一体的に利用されている駐車場等については納税義務の免除の利益を得ることができず、あるいは、より簡易な建物であっても検査済証の交付を受けたものが存在すれば納税義務の免除の利益を得ることができるという事態が想定され、かかる事態の当否は問題とし得るところであるが、平成三年改正の趣旨、検査済証の性質を勘案すれば、右事情をもって、平成三年改正が立法の裁量を逸脱したものということはできず、本件各処分をもって違法ということはできない。

二  本件各処分の信義則違反の有無(争点2)について

1  〔証拠略〕によれば、平成三年一〇月三日、原告明和地所の従業員であった谷井と原告近鉄不動産の課長であった中森の両名が、被告事務所を訪れ、当時、被告事務所において固定資産税課不動産取得税係長をしていた亀割と面会し、平成四年度以降における免除制度の特例のもとにおける特別土地保有税の納税義務免除の要件について、駐車場として利用している土地上に建築確認を受けた既存建物が存在すること及びその建物の規模、構造等を説明した上で、この建物を管理棟として使用した場合に、特別土地保有税の納税義務が免除になるかどうかの見通しについて尋ねたところ、亀割において、建築確認のある建物を駐車場の管理事務所として使用するのであれば、特別土地保有税の納税義務は免除となる見通しである旨回答したこと、右やりとりの際には、既に、被告事務所には、東京都主税局から、納税者に対する送付用として本件通知書が配付されていたが、亀割において、本件通知書を谷井、中森に示すことはせず、また、谷井、中森、亀割のいずれからも検査済証の要否についての発言はなかったことが認められ、亀割は、その作成に係る陳述書である〔証拠略〕において、「建築確認のある建物」という用語は、確認申請、確認通知、完成届及び検査済証交付の一連の手続が完了したものとして理解し、用いたものである旨供述している。

2  右事実に照らせば、亀割の対応は、谷井及び中森の質問の趣旨に照らし、必ずしも、適切なものであったとはいい得ないものと考えられるが、亀割において、ことさら、特別土地保有税の納税義務免除の要件として、検査済証の交付を受けていることが必要ではないとの説明を行ったものではなく、建築確認は建築工事に先立って取得すべきものであって、完成した建物の適法性を確認するものでないことも考えれば、亀割の発言が建築関係法規に適合した建物を意味することも了解できないものではないうえ、前記のように、平成三年改正に係る法、令は平成三年三月三一日に、条例は同年四月一日に、それぞれ公布されており、原告らにおいて、平成三年改正の内容及び免除制度の特例のもとにおける特別土地保有税の納税義務免除の要件が条文上どのように規定されているかということについては、十分調査可能な状態にあったというべきである。さらに、〔証拠略〕によれば、平成三年改正の内容及び免除制度の特例のもとにおける特別土地保有税の納税義務免除の要件が条文上どのように規定されているかということを明記した本件通知書が原告明和地所宛に同年一〇月一日発送されていること、また、原告近鉄不動産は、平成三年三月二九日に取得し駐車場として利用している別件土地について、その地上に、平成三年一一月八日、東京都品川区建築主事に対して建築確認申請を行い、新たに床面積四・九六平方メートルのプレハブ建物の管理施設を建築し、同年一二月一三日、同建築主事から検査済証の交付を受け、これらを証する書面等を添付して、平成四年五月三〇日付けで、東京都港都税事務所長に対して、特別土地保有税の納税申告書及び納税義務の免除認定申請書を提出し、平成四年一二月一五日、別件土地に係る特別土地保有税の納税義務免除認定を受けていること、谷井がそうであるように、原告近鉄不動産の従業員が原告明和地所の従業員として活動するなど、原告近鉄不動産と原告明和地所とは密接な関係にあることが認められる。なお、原告らは本件通知書の原告明和地所への送付の事実を争い、谷井も、証人尋問において、本件通知書が送付されたという話は聞いていない旨供述しているが、原告らの主張は、被告が本件通知書送付の裏付証拠として提出した乙第一六号証の二(送付先一覧)の体裁、記載方法等から、右書証をもって、原告明和地所への本件通知書の送付があったとは認められないとの証拠評価に係るものであるところ、免除制度の特例を含む平成三年改正の概要を、その施行に先立ち、納税者等に通知するという本件通知書の趣旨、目的に照らせば、送付先一覧に記載された者に対して一律かつ機械的に送付事務がされたことが推認されるのであって、原告らが指摘する点のみをもって、被告による本件通知書の原告明和地所宛の送付の事実自体が存しないものとまでいうことはできず、谷井も、証人尋問において、原告明和地所には複数の従業員がおり、特別土地保有税関係の通知等がすべて谷井のところに回されるわけではないと供述しているのであるから、前記谷井の供述をもって、前記認定を覆すことはできない。

右事実に照らせば、原告らにおいては、平成三年一一月上旬ころまでには、免除制度の特例のもとにおいて、本件各係争土地について特別土地保有税の納税義務の免除を受けるためには、本件各係争土地が検査済証を交付された建物等と一体として利用されるものでなければならないことについての認識を持っていたか、又は持ち得たものと推認することができる。

3  法に従った行政処分であっても、行政官庁において法とは異なる公的見解を表示し、国民がその責に帰するべき事由がなくその表示を信頼した場合に、行政処分によって信頼に基づく利益が害され、これを放置することが行政処分の公平等を考慮しても正義に反するといえる事情があるときは、信義則の適用があるものと解することができる。

この点を本件についてみると、亀割の発言をもって検査済証を不要とする旨の公的見解の表示ということはできず、右に認定した事実関係によれば、本件各処分を放置することが行政処分の公平等を考慮しても正義に反するといえる事情があるとはいえないから、亀割の対応が前記のとおり適切さを欠くものであったことをもって、本件各処分が信義則に違反する違法な処分となるものではないというべきである。

三  本件各処分の適法性

以上によれば、本件各係争土地については、特別土地保有税の納税義務免除の要件を欠くものというべきであり、原告らの本件各係争土地に係る特別土地保有税の納税義務の免除申請に対し、いずれも免除しないとした本件各処分に違法は存しないものというべきである。

第四 結論

以上の次第で、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 水谷里枝子)

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