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東京地方裁判所 平成8年(行ウ)259号 判決 1998年8月27日

主文

一  被告曽我部博及び被告山本憲一は、東京都に対し、連帯して、金一九万四〇〇〇円及びこれに対する平成八年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告山本憲一は、東京都に対し、金四四万五七七一円及びこれに対する平成八年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用のうち、原告と被告曽我部博との間に生じたものは、これを一〇分し、その一を被告曽我部博の負担とし、その余を原告の負担とし、原告と被告山本憲一との間に生じたものは、これを六分し、その一を被告山本憲一の負担とし、その余を原告の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

一  被告曽我部博及び被告山本憲一は、東京都に対し、連帯して、金三二一万八三二〇円及びこれに対する平成八年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告山本憲一は、東京都に対し、金四五万四九三一円及びこれに対する平成八年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、東京都(以下「都」という。)の住民である原告が、都が経営する地方公営企業である東京都下水道局(以下「都下水道局」という。)が主催した第九〇回大都市下水道会議に係る経費、具体的には、平成七年一〇月一九日から同月二〇日にかけて開催した主務者会議(以下「本件主務者会議」という。)及び同月三一日から同年一一月一日にかけて開催した局長会議(以下「本件局長会議」といい、本件主務者会議と併せて以下「本件各会議」という。)の各経費に係る支出の一部(右各経費の額から後記二5(二)記載の一部返還されたもの及び本件各会議において出席者に対して提供されたケーキ、コーヒー、紅茶、紙おしぼりの代金額を控除した金額の支出。以下「本件支出」という。なお、本件支出には、口座振替により支払われた分と資金前渡により支払われた分とがある。)につき、本件支出当時都下水道局長として都下水道局の管理者であった被告曽我部博(以下「被告曽我部」という。)及び都下水道局総務課長であった被告山本憲一(以下「被告山本」という。)に対し、本件支出は本件各会議の趣旨・目的等に照らし社会通念上相当な範囲を逸脱した違法なものであるなどとして、地方自治法(以下「法」という。)二四二条の二第一項四号に基づき、都に代位して、本件支出相当額(ただし、別紙一記載のとおり、被告曽我部に対しては、口座振替により支出された分についてのみ請求している。)の損害賠償を求める住民訴訟である。

一  関係法令の定め

都は、広域の地方公共団体として、広域にわたる下水道事業に係る企業の経営を行うものとされ(法二条二項、三項三号、六項一号)、地方公共団体の行う水道事業(簡易水道事業を除く。)に係る企業については、その経営に関して法の特例を定めた地方公営企業法(以下「地公企法」という。)の適用があるものとされている(地公企法二条一項一号、六条)。

地方公営企業の運営においては、常に企業の経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されるべきであるとされている(地公企法三条)。また、事業ごとに管理者を置くこととされ(地公企法七条)、管理者は、地方公営企業の業務を執行し、右業務執行に関し、当該地方公共団体を代表し、当該企業の用に供する資産の取得、管理及び処分並びに契約の締結並びに出納その他の会計事務を行うこととされている(地公企法八条一項、九条七号、八号、一一号、二七条、三三条)。管理者は、業務に関し管理規程を制定することができるとされており(地公企法一〇条)、都下水道局においては、事案の決定その他処務に関する規程として東京都下水道局処務規程(昭和三七年下水道局管理規程第三号。以下「処務規程」という。)が、会計事務に関する規程として東京都下水道局会計事務規程(昭和四一年下水道局管理規程第三〇号。以下「会計事務規程」という。)が定められている。

二  前提となる事実等(証拠を掲げた事実以外の事実は,当事者間に争いがない。)

1 当事者等

(一) 原告は、都内に住所を有する者である。

(二) 被告曽我部は、本件各会議の開催当時、都下水道局長として都下水道局の管理者の地位にあり、下水道事業の執行に関して都を代表していた者であり(地公企法七条及び八条)、本件支出に関する本来的権限を有していた者である。

(三) 被告山本は、本件各会議の開催当時、都下水道局総務課長の地位にあった者である。被告山本は、処務規程八条、別表「課長」の欄、二号により本件各会議に係る経費の支出についての事案決定権限を都下水道局長から委任されていたほか、本件支出のうち資金前渡により支払われた分については、会計事務規程七四条一項一一号により、前渡金受者とされていた者である。

東京都下水道局契約事務の委任等に関する規程(昭和四一年下水道管理規程第三四号)三一条により、資金前渡受者に対し、交付を受けた資金の範囲内において処理する契約締結権限が委任されているので、本件支出のうち、資金前渡により支払われたものについては、被告山本が契約を締結し、会計事務規程七六条に基づき支払をしたものである。

2 大都市下水道会議について

本件各会議は、都下水道局が主催した第九〇回大都市下水道会議としての主務者会議と局長会議であるところ、大都市下水道会議の概要は以下のとおりである。

(一) 会議開催の趣旨

大都市下水道会議は、都及び政令指定都市(現在は一二市)の下水道担当部局を構成員として、下水道事業全般に関する重要課題についての協議・検討や、各都市(都を含む。以下同じ。)の事業運営上の懸案事項についての情報交換を行なうこと等を目的として開催されている。

(二) 会議開催の方法

主催都市を各都市の輪番制として、春及び秋の年二回、それぞれ主務者会議と局長会議が開催されている。主務者会議は、各都市の抱える実務的な課題、問題点等を議題として討議するものであり、その出席者は、各都市の議題に関係する課長級以下の職員であるのに対し、局長会議は、主として次年度の国の下水道事業予算や下水道整備五か年計画に関しての意見交換と要望の集約、さらには下水道事業経営の基本的な課題、問題点等を議題として討議するものであり、その出席者は、各都市の局長及び主要部長である。

(三) 会議開催の内容

大都市下水道会議の開催内容は、主務者会議及び局長会議とも概ね次のとおりである。

(1) 日程は二日間

(2) 第一日目の午後には、予め設定されている協議事項及び報告事項について討議する。

(3) 第一日目午後六時ころからは、会議の一環として出席者相互間の親睦を図るとともに、率直な意見交換を行なうことを目的とする懇親会を開催する。

(4) 第二日目午前には、主催都市が選定した施設等の視察を行なう。

(四) 会議開催の経費

大都市下水道会議は、これに参加する各都市が輪番制で主催して開催されるものであることから、その経費については、各都市のうち主催都市を除いた都市(以下「参加各都市」という。)が参加負担金を支払い、主催都市がその他の大部分の経費を負担することにより運営されていた。この負担金は、参加各都市が会議開催経費の一部に充当される経費として主催都市に対し支払うものであり、その使途は特定されていない。その金額は各都市の合意により決められており、第九〇回大都市下水道会議までの数年間は、主務者会議が参加者一人につき八〇〇〇円、局長会議が同じく一万円とされていた。

3 本件主務者会議の開催及び経費の支出等

(一) 本件主務者会議の日程及び内容等は以下のとおりである。

(1) 開催日 平成七年一〇月一九日及び二〇日

(2) 会議の開催

各都市が提案した項目のうち「大地震時に伴う緊急初動体制等について」及び「下水道情報システムの整備について」を議題として、都庁舎内特別会議室において第一日目の午後一時三〇分から午後四時まで会議が行なわれた。右会議においては、被告山本が司会進行役を務めた。なお、国からの適切な助言・指導を得るため、関係省庁の担当官三名を外部講師として招請した。討議終了後、都庁舎内を約一時間にわたって見学した。

(3) 宿泊場所 ホテルセンチュリーハイアット

(4) 懇親会の開催 右ホテル内において開催された。

(5) 施設の視察

会議第二日目は、概ね以下の行程で住宅市街地総合整備事業実施地区の一つである恵比寿地区(恵比寿ガーデンプレイス)を視察した。

九時一五分 ホテル出発

九時四五分 恵比寿ガーデンプレイス到着

(恵比寿麦酒記念館において、現地に行ったことの記念として、参加者一人につき約二杯ずつビールを試飲した。)

一一時四五分 同出発

一二時一〇分 麻布十番「永坂更科布屋太兵衛」で昼食

(そば料理「太兵衛印」(五〇〇〇円)を食べたほか、酒等を飲んだ。)

一三時 同出発

一四時 東京駅にて解散

(6) 参加者

参加各都市 二九名(ただし、うち一名は第一日目の会議後に帰ったため、宿泊したのは二八名)

都 八名(宿泊したのは二名)

(二) 本件主務者会議に係る経費の支出は以下のとおりである。

(1) 合計 一九三万二四八五円

(2) 内訳

会議経費 三万一一二〇円

懇親会経費 八五万〇九一三円

(うち記念写真代 一〇万二〇〇〇円)

宿泊経費 四九万三五四三円

視察経費 三〇万二一九四円

(うち昼食代(三二名) 二一万五九四二円

ビール代(六〇杯) 一万二〇〇〇円)

土産代等 二五万四七一五円

(土産(御蔵島の箸セット、ホテルのクッキー)、講師記念品、関係者謝礼)

(三) 本件主務者会議に参加した各都市は、参加者一名につき八〇〇〇円の負担金を支払ったため、参加者負担金収入が合計二三万二〇〇〇円あった。

4 本件局長会議の開催及び経費の支出等

(一) 本件局長会議の日程及び内容等は以下のとおりである。

(1) 開催日 平成七年一〇月三一日及び同年一一月一日

(2) 会議の開催

都下水道局が提案した「第八次下水道整備五箇年計画へ向けた取組と事業費の確保について」を議題として会議が行なわれたほか、「下水道使用料の改定状況について」及び「阪神・淡路大震災における下水道復旧の記録」に関して報告がなされた。

右会議は、都庁舎内会議室において第一日目の午後一時三〇分から午後四時まで行なわれた。右会議においては、都下水道局総務部長が司会進行役を務め、被告山本はその補佐役を務めた。なお、国からの適切な助言・指導を得るため、関係省庁の担当官六名を外部講師として招請した。討議終了後、都庁舎内を見学した。

(3) 宿泊場所 東京ヒルトンホテル

(4) 懇親会等の開催 右ホテル内において開催された。懇親会終了後、同ホテル地下一階の個室カラオケクラブ「ヒルトップ」において二次会(以下「本件二次会」という。)が開催された。

(5) 施設の視察

会議第二日目は、本件主務者会議の場合と同様の行程で住宅市街地総合整備事業実施地区の一つである恵比寿地区(恵比寿ガーデンプレイス)を視察した。本件主務者会議同様、恵比寿麦酒記念館において、現地に行った記念として、参加者一人当たり約二杯ずつビールを試飲したほか、昼食は、「永坂更科布屋太兵衛」においてそば料理「麻布印」(六〇〇〇円)を食べ、酒等を飲んだ。

(6) 参加者

参加各都市 二五名

都 九名(ただし、宿泊したのは三名)

(二) 本件局長会議に係る経費の支出は以下のとおりである。

(1) 合計 二四七万九四九〇円

(2) 内訳

会議経費 三万四九六〇円

懇親会経費 九〇万九七九五円

(うち記念写真代 一二万二五〇〇円)

二次会経費 一九万四〇〇〇円

宿泊経費 六九万〇一六四円

視察経費 二九万三七五五円

(うち昼食代(二八名) 二一万一二四三円

ビール代(五〇杯) 一万円)

土産代等 三五万六八一六円

(土産(御蔵島のセット、ホテルのクッキー)、講師記念品、関係者謝礼)

(三) 本件局長会議に参加した各都市は、参加者一名につき一万円の負担金を支払ったため、参加者負担金収入が合計二五万円あった。

5 監査請求及び経費の一部返還

(一) 原告は、平成八年八月二一日、本件各会議に係る経費のうち会議のコーヒー代合計一万四四〇〇円を除いた四三九万七五六七円について、不当、違法な支出であり、これによって被告らは都に対し損害を与えたとして、都監査委員に対し、法二四二条一項に基づき、監査請求をした。

(二) 平成八年一〇月七日付八下総総第四六七号により、本件主務者会議及び本件局長会議の土産代等に係る経費のうち、以下のとおり合計一八万七七六〇円が返還された。

(1) 講師記念品(未使用商品券) 九万円

(本件主務者会議三万円、本件局長会議六万円)

(2) 関係者謝礼(ビール券) 四万三二〇〇円

(本件主務者会議二万一六〇〇円、本件局長会議二万一六〇〇円)

(3) 菓子代(ホテルのクッキー) 三万二九六〇円

(本件主務者会議三〇九〇円×四名分、本件局長会議五一五〇円×四名分)

(4) 箸代(御蔵島の箸) 二万一六〇〇円

(本件主務者会議二七〇〇円×四名分、本件局長会議二七〇〇円×四名分)

(三) 右(二)のうち、(1)については、所轄省庁などの外部講師の謝礼として、(2)については、視察先等の関係者への謝礼として購入されたものであるが、それぞれ相手方が受領を固辞したため、実際には渡されずに手元に残ったものであり、(3)及び(4)については、予め参加者数以上に多く購入していたため、多く購入した部分について返還をしたものである。

(四) 都監査委員は、同年一〇月二一日付けで、右監査請求に係る支出分のうち、前記(二)により返還された分については、既に監査請求の利益を喪失しているとして監査対象から除外し、その余の部分についてはこれを棄却する旨の決定をした。

6 本件支出の内訳

原告が本件において問題としている本件支出の内訳は別紙一記載のとおりであり、そのうち、宿泊に係る支出、懇親会に係る支出、昼食に係る支出、視察に係るバス代及び本件二次会に係る支出は、口座振替の方法により、総係費・雑費の中から支払われた。

別紙一のうち、その他の支出は、被告山本に対して資金前渡され、被告山本が契約の締結及び支払をした。

二  争点及び争点に関する当事者の主張

本件の争点は、本件支出が適法であるか否かであり、この点に関する当事者の主張は、次のとおりである。

1 原告の主張

(一) 懇親会費について

(1) 本件主務者会議

懇親会費八五万〇九一三円には記念写真代一〇万二〇〇〇円が含まれているから、純粋な飲食代は七四万八九一三円であり、一人当たり一万九二〇三円(参加者を三九名とする。)となる。これは、本来、参加者が負担すべきものであって主催都市(都)が負担すべきものではなく、金額的にみても、社会通念を著しく逸脱している。

(2) 本件局長会議

懇親会費九〇万九七九五円には記念写真代一二万二五〇〇円が含まれているから、純粋な飲食代は七八万七二九五円であり、一人当たり一万九六八二円(参加者を四〇名とする。)となる。これは、本来、参加者が負担すべきものであって主催都市(都)が負担すべきものではなく、金額的にみても、社会通念を著しく逸脱している。

(二)記念写真代について

本件は会議が目的であり、ホテル内の写真室における記念撮影は不必要であり、社会通念を逸脱しているばかりか、「地方自治体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最小の限度をこえて、これを支出してはならない。」旨定めた地方財政法四条、「地方自治体は、その事務を処理するにあたっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果をあげるようにしなければならない。」旨定めた法二条一三項に違反する。

(三) 本件二次会に係る経費について

個室カラオケクラブにおける本件二次会の費用を公金から支出することは、社会通念を逸脱しているばかりか、地方財政法四条、法二条一三項に違反するものである。

(四) 宿泊費について

本件各会議は地方公務員の会議であり、参加者は自分の所属する地方自治体から宿泊費の支払を受けており、当然宿泊費は参加者本人が負担すべきものである。

しかるに、参加者は、わずかな負担金(本件主務者会議で一人八〇〇〇円、本件局長会議で一人一万円)を支払っているのみで、宿泊費(本件主務者会議で一人一万六四五一円、本件局長会議で一人二万四六四九円)との差額(本件主務者会議で一人八四五一円、本件局長会議で一人一万四六五九円)を都が負担しており、その負担割合は、宿泊費の約六割に当たるものであり、本件各会議に係る費用の全体についてみれば、負担金の約四倍以上の利益を参加者に対し供与している。これは、都による各参加者に対する利益供与にほかならず、地方財政法四条、法二条一三項に違反する。

(五) 恵比寿ガーデンプレイスの視察に係る諸費用及び昼食代等について

(1) 本件各会議においては、二日目に恵比寿ガーデンプレイスを視察して別紙二記載のとおり公金が支出されているが、東京の観光名所を見て回り、朝っぱらから恵比寿ガーデンプレイスのビール・テイスティング・ラウンジでビールを飲み(小ジョッキでおかわりまでしている。)、昼食にまで酒を飲むとは、公務員の視察とは到底認められず、ただの観光であって、公金を支出する性格のものではない。右支出は、社会通念を逸脱しているばかりか、地方財政法四条、法二条一三項に違反するというべきである。

(2) しかも、昼食代は、本件主務者会議においては、一人当たりの料理代は五〇〇〇円、酒代は九六五円(酒二合徳利に相当する。サービス料等を含め合計一人当たり六七四八円)であり、本件局長会議においては、一人当たりの料理代は六〇〇〇円、酒代は六五九円(酒二合徳利の〇.七本に相当する。サービス料等を含め合計一人当たり七五四四円)である。これは、公務員の視察に係る昼食代としては、当然、社会通念を著しく逸脱している。

(六) 土産代等について

(1) 公務員同士の会議に土産を贈ることは、社会通念を逸脱しているばかりか、地方財政法四条、法二条一三項に違反する。

(2) 金額的に見ても、本件主務者会議の場合には、一人当たり、記念品(箸セット二七〇〇円。消費税込み)、土産(ホテルのクッキー三〇〇〇円。消費税別)の合計五七九〇円、本件局長会議の場合には、一人当たり、記念品(箸セット二七〇〇円。消費税込み)、土産(ホテルのクッキー五〇〇〇円。消費税別)の合計七八五〇円であり、当然社会通念を逸脱していると断言できる。

(3) 右記念品等を包装するための包装紙代として七二一円が、また、土産代の口座振込手数料として二一〇円が支出されているが、これらは、当然に返還されるべきものである。

(被告らの主張)

(一) 都の下水道事業は、地公企法二条三項及び東京都の下水道事業に地方公営企業法を適用する条例(昭和二七年東京都条例第八二号)に基づき、地公企法の規定が全部適用される地方公営企業であるところ、地方公営企業の経営は、地方公共団体の事務としての公共性を有するとともに(法二条三項三号)、その目的を効率的に達成するために企業経済性が求められるものであって、費用対効果という能率性(法二条一三項)の下に企業としての経済性を発揮することが経営の原則とされているのである(地公企法三条)。

そこでは、会議等に要した経費を支出することが社会通念上、当該地方公営企業の経営に係る事務に含まれないと認められるとき、あるいは右事務に含まれるとしても、当該支出がされた当時の地方公共団体及び地方公営企業の財務状況、一般の経済状態、国民の消費及び生活の水準等の諸事情を考慮したときに、当該会議等の目的、効果との均衡を著しく欠き、予算の執行権限を有する財務会計職員の裁量権の逸脱があると認められるときに限って、当該支出は違法となると解すべきである。

ところで、地方公共団体の事務である下水道事業について、複数の地方公共団体が、それぞれに共通する事項について会議を設定し、共通課題に関する協議や意見交換を行うことは、一般的に当該事業の運営に資するところが大きく有意義なものであり、当該会議は、当該地方公営企業の経営に係る事務というべきである。

次に述べることに照らせば、本件各会議の開催は、公営企業の経営の基本原則に反するものではなく、かつ、社会通念上、下水道事業の経営に係る事務に該当するというべきであり、右会議の開催に伴う本件支出は、右事務に係る経費の支出として、社会通念を逸脱するものではなく、適法というべきである。

(二) 本件各会議の日程及び経費について

本件各会議の日程・内容等は、これまでに行われてきた大都市下水道会議に準拠して決定されたものであり、本件各会議の開催に要する経費についても、これまでの例にならい、参加各都市より、使途は特定されていない負担金(参加者一人当たり、本件主務者会議においては八〇〇〇円、本件局長会議においては一万円)を経費の一部として受領したものである。

(三) 宿泊施設等について

(1) 宿泊施設は、討議会場が都庁舎内会議室であったことから、討議時間をできるだけ確保すること等のため、都庁舎周辺に用意することとし、いずれも都庁舎に近接するホテルセンチュリーハイアット(本件主務者会議)及び東京ヒルトンホテル(本件局長会議)を選定した。

(2) 宿泊費は、主催都市が負担するというこれまでの例にならい、都が負担した。

(3) 原告は、本件参加者が宿泊費、懇親会の経費を自己の負担で支払わなければならないのに、都は宿泊費の約六割を負担するなどしており、被告らは参加者に対し、負担金の四倍以上の利益供与をしている旨主張する。

しかしながら、大都市下水道会議は、各都市が輪番制で開催してきているものであるが、会議に要する費用その他本件各会議に要する経費は、各都市間の合意により、参加各都市がその一部を負担すること(参加者一人当たり主務者会議八〇〇〇円及び局長会議一万円)、不足額は主催都市が負担すること、及び参加各都市より受領した負担金の使途は特定せず主催都市に委ねるということであり、これにより従来から処理されてきている。

以上のことからして、都が参加各都市から受領した負担金では不足する懇親会等の経費を支出したからといって、そのことは社会通念上不相当に利益供与したことにはならないというべきである。

なお、都は、参加各都市から本件各会議の負担金として、本件主務者会議分二三万二〇〇〇円及び本件局長会議分二五万円の合計四八万二〇〇〇円を受領し、これを下水道事業会計に収入として計上している。

(四) 討議の状況について

(1) 本件主務者会議の議題は、「大地震時に伴う緊急初動体制について」及び「下水道情報システムの整備について」であって、会議は、議題提出都市からの説明があった後、議題に係る各都市の状況等について報告があり、最後に質疑、意見交換という順序で進められた。

(2) 本件局長会議の議題は、「第八次下水道整備五箇年計画へ向けた取組と事業費の確保について」、「下水道使用料の改定状況について(報告)」及び「阪神・淡路大地震における下水道復旧の記録(報告)」であって、その会議の進行状況は、本件主務者会議とほぼ同様であった。

(五) 懇親会について

懇親会は、これまでにも大都市下水道会議の一環として実施されてきたものであるが、会議の場所とは別に、日常各都市で抱えている懸案事項等について自由な意見交換を行うなど、各都市相互の交流を図る目的で設けられているものであり、本件各会議においても、これまでの開催内容に準じ、それなりの体裁と内容をもって開催したものであって、単なる接待、慰労を目的としたものではなく、現実にも活発な意見交換が行われたものである。

(六) 記念撮影について

記念撮影は、大都市下水道会議の開催ごとに出席者の一部が変わることもあって従来から行われてきたものであり、また、この種の会議において一般的に認められるものである上、各都市が相互の親睦を深め、将来にわたって意見交換を密にしていくという大都市下水道会議の開催目的に資するものであることからして、記念撮影が社会通念を逸脱し違法であるとする原告の主張は、失当というべきである。

(七) 本件二次会について

(1) 本件局長会議は、阪神・淡路大震災の支援活動が一段落し、被災した神戸市も安定を取り戻したという状況の中で開催したものであり、当日の会議においても、神戸市から下水道の復旧の記録についての報告がなされることになっていたこともあって、会議終了後の懇親会における懇談は、事業上の課題に加えて、今後の各都市間の相互支援をめぐる情報交換などで長時間に及ぶことが予想されるため、時間的制約のある懇親会場とは別の会場を確保する必要が生じた。そこで、参加者への利便性等にも配慮し、宿泊するホテル内で参加者の多数を収容することができ、かつ、可能な限り使用料の廉価な会場という観点から、個室カラオケクラブ「ヒルトップ」を本件二次会会場として設定したものである。

(2) 本件二次会は、懇親会を補完するものとして、あくまでも参加者相互の和やかな懇談を通して、昼間の討議内容を更に充実・発展させる場として設定したものであり、このような場での懇談は、各都市の意見や経験などの情報収集をより率直、かつ、細部にわたり行える利点を有しているのであって、このことにより、今後の各都市の重要課題や懸案事項への対応に有形無形の効果をもたらすということができるものである。

また、カラオケは、今日においては一定の社交的役割を果たすものとして、客観的にも認知されているものであり、本件二次会においても、参加者相互の親睦をより深める効果をもたらしたものである。

(3) なお、本件二次会会場の定員は三〇名であるところ、本件二次会には会議参加者のほぼ全員が出席したため、個室に入りきれない参加者も出たが、それらの参加者は、個室脇のテーブルを利用して懇談を行った。

(4) 以上のことからして、本件二次会の開催が社会通念を逸脱し違法であるとする原告の主張は、失当というべきである。

(八) 視察等について

(1) 視察先は、下水道事業の課題となっている資産の有効活用やまちづくりへの貢献という視点から、下水道、住宅、街路、公園などを計画的に整備した住宅市街地総合整備事業の成功例として、恵比寿地区(恵比寿ガーデンプレイス)を選定したものであり、意義のある視察であった。

視察地においては、まず、恵比寿麦酒記念館地下会議室においてビデオ放映等による事業内容の説明を受けた後、地域内のオフィスビル、ゴミの搬送システム、センター広場等の視察を行い、恵比寿麦酒記念館の展示を見学した後、入館記念として、同記念館のテイスティング・ラウンジにおいてビールを試飲した。

なお、視察経費の内訳は別紙二記載のとおりであり、その支出額からみても、いずれも社会通念上相当な範囲内にあり、違法と評価されるものではない。

(2) 昼食場所を永坂更科布屋太兵衛に選定した理由は、「そば」を前提として検討したところ、収容人員、所在等から適当であったことにある。

(九) 記念品(土産等)について

記念品は、これまでの大都市下水道会議において、主催都市が地場産業などの製品の宣伝を兼ねて提供してきたのであるが、本件各会議においては、都の特産品である御蔵島産の黄楊の箸セットと菓子を提供した。その額からしても、社会通念上相当な範囲内のものとみるべきであり、違法と評価されるものではない。

(一〇) まとめ

大都市下水道会議は、下水道事業全般に関する重要課題を協議、検討するとともに、それぞれの都市の事業運営上の懸案事項について、情報交換することを目的として開催してきたものであって、本件各会議も、下水道事業の適正かつ効率的な執行に資する役割を十分に果たしているものである。

本件各会議は、これまで各都市が開催してきた大都市下水道会議の方法及び内容に準拠して開催したものであり、本件各会議の開催に要した各経費は、社会通念上相当の範囲内にあるとみるべきであって、違法と評価されるべきものではない。

第三  当裁判所の判断

一  都の下水道事業は、地公企法二条三項及び東京都の下水道事業に地方公営企業法を適用する条例(昭和二七年東京都条例第八二号)に基づき、地公企法の規定が全部適用される地方公営企業であるところ、地方公営企業が、企業として活動し、その事務を遂行するため、対外的折衝や意見交換等を行うことは当然のことであり、また、地方公営企業も社会的実体を有するものとして活動している以上、その事務を遂行し対外的折衝や意見交換等を行う過程において、社会的儀礼に止まる程度の接遇を行うことは、右事務に随伴するものとして許容されるべきである(最高裁昭和六一年(行ツ)第一四四号平成元年九月五日第三小法廷判決・判例時報一三三七号四三頁参照)。

しかし、他方、地方公営企業の経営は、地方公共団体の事務としての公共性を有するとともに(法二条三項三号)、その目的を効率的に達成するために企業経済性が求められるものであって、費用対効果という能率性(法二条一三項)の下に企業としての経済性を発揮することが経営の原則とされているのであって(地公企法三条)、右の観点からすれば、地方公営企業が行う会議、接遇等が、当該地方公営企業の経営に係る事務又はこれと合理的な関連性を有する随伴行為といえないときには、これに要する費用の支出は当然に違法になるものというべきであり、また、右会議、接遇等が右事務又はこれと合理的な関連性を有する随伴行為といえるとしても、その費用の内容、金額が、当該支出がされた当時の地方公共団体及び地方公営企業の財務状況、一般の経済状態、民間企業社会における応接、接遇の水準、国民の消費及び生活の水準等の諸事情に照らして、当該会議等の目的、効果との均衡を著しく欠き、予算の執行権限を有する財務会計職員の裁量権の逸脱があると認められるときには、当該支出は違法となると解すべきである。

二  本件各支出の適法性について

1 本件各会議の趣旨・目的等について地方公共団体の事務である下水道事業について、複数の地方公共団体が、それぞれに共通する事項について会議を設定し、共通課題に関する協議や意見交換を行うことは、一般的に当該事業の運営に資するところが大きく有意義なものであり、当該会議は、当該地方公営企業の経営に係る事務というべきである。

本件についてみると、前記第二の二2(一)及び(二)記載のとおり、大都市下水道会議は、都及び政令指定都市(現在は一二市)の下水道担当部局を構成員として、下水道事業全般に関する重要課題についての協議・検討や、各都市の事業運営上の懸案事項についての情報交換を行なうこと等を目的として開催されており、主催都市を各都市の輪番制として春及び秋の年二回、それぞれ主務者会議と局長会議を開催しているものであって、そのうち主務者会議は、各都市の抱える実務的な課題、問題点等を議題として討議するものであり、その出席者は、各都市の議題に関係する課長級以下の職員であり、また、局長会議は、主として次年度の国の下水道事業予算や下水道整備五か年計画に関しての意見交換と要望の集約、さらには下水道事業経営の基本的な課題、問題点等を議題として討議するものであり、その出席者は、各都市の局長及び主要部長とされていること、前記第二の二3及び4記載のとおり、本件主務者会議においては「大地震時に伴う緊急初動体制等について」及び「下水道情報システムの整備について」を議題として討議が行われ、本件局長会議においては、「第八次下水道整備五箇年計画へ向けた取組と事業費の確保について」を議題として会議が行なわれたほか、「下水道使用料の改定状況について」及び「阪神・淡路大震災における下水道復旧の記録」に関して報告がなされたことからして、本件各会議は、公営企業たる下水道事業の運営に資するものであって、社会通念上、都下水道局が行う下水道事業の経営に係る事務に該当するものということができる(原告も、本件各会議の開催自体については、これを違法であるとは主張していない。)。

2 懇親会費、記念撮影費、宿泊費及び二日目の昼食代について

(一) 右1に認定した本件各会議の趣旨、目的からすれば、会議の後に懇親会を行うことや記念撮影をすることは、参加者相互の人間関係を円滑ならしめ、互いの意思疎通を容易にし、もって今後の会議等における活発な意見交換の促進と各都市の協力体制の確立等に貢献するものであると認められる。また、宿泊費及び会議二日目の昼食代については、全国各都市から一泊二日の日程で会議を開催する以上、宿泊及び食事を当然に伴うものである。右の点に加え、大都市下水道会議は、主催都市を各都市の輪番制として春及び秋の二回開催されるところ、各都市間において、右会議の開催に当たっては、参加各都市から参加者一人当たり八〇〇〇円(主務者会議の場合)ないし一万円(局長会議の場合に)の負担金(参加費)を拠出し、その余の経費は主催都市において負担するとの合意が存することを考え併せれば、本件各会議の主催都市たる都下水道局が懇親会、記念撮影を行い、本件各会議の趣旨、目的と著しく均衡を失することのない相当な範囲でその経費及び宿泊費及び会議二日目の昼食代を都の公金から支出することは、都下水道局の事務に係る経費の支出として許されるものというべきである。

(二) 前記第二の二3及び4記載の事実に《証拠略》を併せれば、以下の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1) 懇親会費

本件主務者会議においては、懇親会は、宿泊施設であるホテルセンチュリーハイアット内のレストランにおいて行われ、中華料理のコース料理が出された。写真代を除いた純粋の懇親会費は七四万八九三一円であり、参加各都市の参加者二九名分のほか、都側の参加者八名分の料理等が用意され、一人当たり二万〇二四一円であった。

また、本件局長会議においては、懇親会は、宿泊施設である東京ヒルトンホテル内のレストランにおいて行われ、中華料理のコース料理が出された。写真代を除いた純粋の懇親会費は七八万七二九五円であり、参加各都市の参加者二五名分のほか、都側の参加者九名及び外部講師六名分の料理等が用意され、一人当たり一万九六八二円であった。

(2) 記念撮影費

本件各会議においては、各宿泊施設内の撮影スタジオに依頼して記念写真を撮影した。それに係る費用は、本件主務者会議においては合計一〇万二〇〇〇円(一人当たり二七五七円)、本件局長会議においては一二万二五〇〇円(一人当たり三六〇三円)であった。

(3) 宿泊費

本件主務者会議においては、参加各都市の参加者二九名のうち一名は宿泊せずに帰っていることから、実際の宿泊者は、参加各都市の参加者二八名のほか、都側の参加者二名(世話係)の合計三〇名であり、宿泊代金は合計四九万三五四三円(一人当たり一万六四五一円)であった。

また、本件局長会議においては、宿泊者は、参加各都市の参加者二五名のほか、都側の参加者三名(世話係)の合計二八名であり、宿泊代金は合計六九万〇一六四円(一人当たり二万四六四九円)であった。

なお、本件主務者会議においてはホテルセンチュリーハイアットが、本件局長会議においては東京ヒルトンホテルがそれぞれ宿泊施設として選ばれたが、それは、都下水道局の担当者において、本件各会議における討議会場が都庁舎内会議室であったこと及び討議後に都庁舎を見学してもらう予定を組んでいた中で、討議時間をできるだけ確保すること等のため、都庁舎周辺に宿泊施設を用意することとし、これまでの各都市の開催例を参考にして選んだためであり、また、本件主務者会議と本件局長会議とで同一ホテルを利用することのないように配慮したためであった。

(4) 二日目の昼食代

本件主務者会議においては、二日目に昼食を食べたのは、参加各都市の参加者二八名のほか、都側の参加者四名の合計三二名であり、食事代金は合計二一万五九四二円(一人当たり六七四八円。料理代五〇〇〇円のほか、酒代、サービス料及び税を含む。)であった。

本件局長会議においては、二日目に昼食を食べたのは、参加各都市の参加者二三名のほか、都側の参加者五名の合計二八名であり、食事代金は合計二一万一二四三円(一人当たり七五四四円。料理代六〇〇〇円のほか、酒代、サービス料及び税を含む。)であった。

昼食会場は麻布にある「永坂更科布屋太兵衛」とされたが、それは、都下水道局において、以前同局が大都市下水道会議を主催したときに二日目の昼食にそば料理を食べていることから今回も同様にそば料理とし、同時に日程を考慮し、視察地と東京駅(解散場所)の間にある場所の中から選んだ結果である。

右に認定した事実によれば、懇親会費、宿泊費及び二日目の昼食代金は、いずれも、いささか高すぎるのではないかという感が否めないものの、右宿泊施設が選ばれた理由、右懇親会が右宿泊施設内で行われたこと、二日目の昼食は本件各会議の締めくくりとしての意味合いを持つこと等を総合的に考慮すれば、その費用の支出が本件各会議の趣旨、目的との均衡を著しく欠き、予算の執行権限を有する財務会計職員の裁量権の逸脱があると認めることはできない。

したがって、右各支出は、社会通念上相当な範囲内の適法なものというべきである。

(四) 原告は、参加者は、わずかな負担金を支払っているのみで、宿泊費との差額(宿泊費の約六割)を都が負担しており、都による各参加者に対する違法な利益供与である旨主張する。

しかしながら、各参加者は参加各都市の代表として公務として本件各会議に出席しているのであり、前記認定のとおり、大都市下水道会議は開催が輪番制であり、会議の開催費用の負担について各都市の合意が存することや本件各会議の趣旨、目的を併せて考えれば、宿泊費と負担金(これは各参加者ではなく参加各都市が負担するものである。)との差額を都が負担しているからといって、地方財政法四条や法二条一三項に違反するということはできない。

3 本件二次会費の支出について

(一) 前記第二の二4記載の事実に《証拠略》を併せると、以下の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1) 本件局長会議においては、懇親会の後に東京ヒルトンホテル地下一階の個室カラオケクラブ「ヒルトップ」において本件二次会が開催され、その経費として一九万四〇〇〇円が都の公金から支出された。

(2) ヒルトップ内の各部屋の定員は八名ないし三〇名で、歓送迎会等の各種パーティー、結婚式の二次会、クラス会等に利用できるカラオケスペースとして営業している。

(3) 当初、被告山本は、参加各都市の参加者二五名及び都側の参加者九名の中には、本件二次会に出席しない者もいるだろうと考えて個室の予約を入れていたが、実際には、参加者らのほぼ全員に当たる約三〇名が本件二次会に出席した。そのため、個室に入りきれない参加者が出た。そのような入りきれない者は、個室脇に置かれたテーブル席で懇談しており、被告山本がその世話をしていた。

(4) 本件二次会においては、食事のほか、ウイスキーの水割等のかなりの酒が飲食に供された。また、出席者の中には、カラオケを楽しむ者もいた。

(二) 以上のように、本件二次会においては、当初から全員の参加は予定していなかったこと、一つの部屋に入りきれず、部屋の外で懇談していた者もいたこと、そのような混雑した部屋の中でカラオケを楽しむ者もいたこと、ウイスキーの水割等、かなりの酒食が提供されたことが認められるが、次年度の国の下水道事業予算や下水道整備五か年計画に関しての意見交換と要望の集約、さらには下水道事業経営の基本的な課題、問題点等を議題として討議するという局長会議の性格に照らし、参加者相互の人間関係を円滑ならしめ、互いの意思疎通を容易にするなどの目的で懇親会後に更に公費によりカラオケクラブで右のような性格の会合を設定する必要性は認め難く、本件二次会は単なる私的な会合にすぎず、その費用は参加者個人の負担に帰すべきものと認めるのが相当である。

そうすると、本件二次会は、都下水道局の経営に係る事務又はこれと合理的な関連性を有する接遇等とはいえないから、そのための経費を都の公金から支出することは違法であるといわざるを得ない。

(三) これに対し、被告らは、本件二次会は、懇親会を補完するものとして、あくまでも参加者相互の和やかな懇談を通して、昼間の討議内容を更に充実・発展させる場として設定したものであり、このような場での懇談は、各都市の意見や経験などの情報収集をより率直、かつ、細部にわたり行える利点を有しているのであって、このことにより、今後の各都市の重要課題や懸案事項への対応に有形無形の効果をもたらすということができる、また、カラオケは、今日においては一定の社交的役割を果たすものとして、客観的にも認知されているものであり、本件二次会においても、参加者相互の親睦をより深める効果をもたらしたものである旨主張する。

しかしながら、「昼間の討議内容を更に充実・発展させる場」を設けるというのであれば、カラオケクラブなどでなく、それにふさわしい場所を選定するのが筋であり、本件二次会が開催された場所的性格及びかなりの酒食が提供されていることからして、本件二次会が昼間の討議を更に充実・発展させる場であったとは到底認められない。

また、カラオケは、今日においては一定の社交的役割を果たすものとして、客観的にも認知され、本件二次会においても、参加者相互の親睦をより深める効果をもたらしたとしても、そもそも懇親会の開催自体が参加者相互の親睦を図る趣旨を含んでいると認められるのであって、それに加えて、さらに公費で参加者相互の親睦を深める必要性は認められないというべきである。

したがって、被告らの右主張は採用することができない。

4 恵比寿ガーデンプレイスの視察等について

(一) 《証拠略》によれば、本件各会議の二日目の視察地については、下水道事業の課題となっている資産の有効活用やまちづくりへの貢献という観点から、下水道、住宅、街路、公園などを計画的に整備した再開発事業の成功例として、恵比寿ガーデンプレイスが選ばれたこと、また、現実の視察においては、最初に恵比寿麦酒記念館地下の会議室でビデオ等による当地の再開発の説明を受け、その後、地域内のオフィスビルやゴミの搬送システム、センター広場等の視察を行い、最後に恵比寿麦酒記念館の展示を見学したことが認められる。

右事実からすれば、本件各会議の二日目に行われた恵比寿ガーデンプレイスの視察についても、社会通念上、下水道事業の経営に係る事務と合理的な関連性を有する随伴行為ということができ、視察に要する相当な費用を都の公金から支出することは都下水道局の事務に係る経費の支出として許されるものというべきである。

本件主務会議後の視察費としてバス代六万七三六〇円、駐車場代一二〇〇円、缶ジュース代四二五〇円が、本件局長会議後の視察費としてバス代六万七三六〇円、缶ジュース代三七一〇円が支出されたことは当事者間に争いがないところ、これらはいずれも視察に要する相当な費用であると認められ、したがって、その支出は、社会通念上許容される範囲内の適法なものというべきである。

(二) これに対し、原告は、恵比寿ガーデンプレイスの視察は単なる観光である旨主張するが、右認定を覆し、原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

5 恵比寿麦酒記念館におけるビールの試飲料について

(一) 前記第二の二3及び4記載のとおり、本件各会議二日目の恵比寿ガーデンプレイスの視察に際し、各参加者は、恵比寿麦酒記念館において、現地に行ったことの記念として、それぞれ約二杯ずつビールを試飲したこと、その代金は、本件主務者会議においては合計一万二〇〇〇円(六〇杯)、本件局長会議においては合計一万円(五〇杯)であり、これらの費用が都の公金から支出されたことが認められる。

そして、《証拠略》によれば、当初はビール一杯ずつ試飲することを予定してビールを購入したが、ビールの種類が二種類あったため、参加者の中からもう一種類についても味見をしたいという声があがって、急きょ二杯目を購入したことが認められる。

(二) 右事実を基に検討するに、そもそも恵比寿ガーデンプレイスの視察については、前記4(一)で認定したとおり、下水道事業の課題となっている資産の有効活用やまちづくりへの貢献という観点から、下水道、住宅、街路、公園などを計画的に整備した再開発事業の成功例として、見学したものであり、その主眼はあくまでもまちづくりの見学であってビール工場等の見学ではないことは明らかである。

そうすると、現地に行ったことの記念としてビールを試飲することは、都の下水道事業の経営に係る事務又はこれと合理的な関連性を有する接遇等ということはできず、このことは、右(一)認定のビールを二杯試飲する者が出た経緯等に照らしても明らかというべきである。

したがって、右試飲に係る費用を都の公金から支出したことは、都下水道局の事務に無関係なものに対する支出として違法というべきである。

6 土産代等について

(一) 前記第二の二の3、4及び5(二)記載の事実に《証拠略》を併せると、本件各会議の土産等として御蔵島の箸及び各ホテルのクッキーが用意されたこと、その購入に係る費用としては、箸六二膳の代金として合計一六万七四〇〇円(一人当たり二七〇〇円)、右代金の口座振込手数料として二一〇円、ホテルのクッキー代として本件主務者会議においては合計九万五七九〇円(一人当たり三〇九〇円)、本件局長会議においては合計一五万九六五〇円(一人当たり五一五〇円)、箸を包装するための包装紙代として七二一円がそれぞれ都の公金から支出されたことが認められる(既に返還済みのものは除く。)。

(二) 本件各会議における参加者は、それぞれ公務として本件各会議に参加し、旅費等の支給を受けているものであり、また、宿泊費、食費等の経費は、参加各都市からの負担金のほか、都において負担しているのであって、各参加者に対し右(一)記載のような土産等を渡すことは、本件各会議の趣旨、目的と合理的な関連性があるとはいえず、都下水道局の事務又はこれと合理的な関連性を有する接遇等とは認められないというべきである。

(三) これに対し、被告らは、記念品(土産)は、これまでの大都市下水道会議において、主催都市が地場産業などの製品の宣伝を兼ねて提供してきたのであるが、本件各会議においては、都の特産品である御蔵島産の黄楊の箸セットと菓子を提供したものであり、その額からしても、社会通念上相当な範囲内のものとみるべきであり、違法と評価されるものではない旨主張する。

しかしながら、従前の大都市下水道会議において、主催都市が地場産業などの製品の宣伝を兼ねて土産等を提供してきたからといって、そのことをもって、右土産代等の支出と都下水道局の事務との関連性を肯定することはできず、そうである以上、金額が少ないことをもって右支出の適法性を基礎付けることもできないというべきである。

被告らの右主張は理由がない。

7 以上によれば、前記3記載の本件二次会費一九万四〇〇〇円、5記載のビール代合計二万二〇〇〇円、6記載の土産代等合計四二万三七七一円の支出(合計六三万九七七一円)はそれぞれ違法であり、その余の支出は適法であると認められる。

三  被告らの損害賠償責任の有無について

1 東京都は、前記二7記載の違法な支出により当該支出相当額の損害を被っているものというべきである。

本件において、原告は、被告山本に東京都が被った損害全額の賠償を求め、被告曽我部に対しては、右損害額のうち口座振替によって支払われた金額に係る分についてのみ賠償を求めているところ、右違法な支出のうち口座振替によって支払われたのは本件二次会費の一九万四〇〇〇円のみである。

2 そこで、被告らの損害賠償責任の有無について検討する。

前記第二の二1記載のとおり、本件各会議開催当時、被告曽我部は、都下水道局長として、本件支出に関し本来的権限を有していた者であり、また、被告山本は、都下水道局長から本件各会議に係る経費の支出についての事案決定権限を委任されていたほか、前渡金受者とされていた者であるところ、被告山本は本件各会議の事案決定権者として、また、本件各会議の出席者として、右各支出が違法なことは容易に理解できたはずであるのに、従来の慣行に従うということからその点に思いを致さず、安易に右支出について事案決定をし、あるいは前渡金受者として契約を締結し右支出をしたものであって、右の違法な支出について重大な過失があったといわざるを得ない。また、被告曽我部は、本件支出につき本来的権限を有する者として、被告山本を指揮、監督する立場にあり、特に大都市下水道会議は、都及び政令指定都市の下水道事業関係者が集って行われる重要な行事であると認められることからして、その経費の支出が適正になされるべきことにも十分に注意を払うべきであるのに、右注意義務を怠り、少なくとも本件二次会費の違法な支出については、これを漫然と看過したものであり、この点において過失責任を免れないといわざるを得ない。したがって、右1の損害額のうち、口座振替によって支払われた金額に係る分については被告曽我部及び被告山本が連帯して賠償責任を負い、その他の支出に係る分については被告山本が賠償責任を負うべきこととなる。

なお、前記第二の二3及び4記載のとおり、参加各都市から参加者一人につき八〇〇〇円ないし一万円の負担金が支払われているが、これは、あくまで、本件各会議に必要かつ有益な経費の一部を負担するという意味合いで支払われたものであることは明らかであり、本件各会議の趣旨、目的に照らし、合理的な関連性がなく、都下水道局の経営に係る事務又はこれと合理的な関連性を有する随伴行為に係る経費の支出に充てられるべきものではないから、右負担金の支払いがあることをもって、被告らの損害賠償責任が軽減されるものではないというべきである。

四  結論

以上の次第で、原告の請求のうち、被告曽我部及び被告山本に対する請求は、連帯して、金一九万四〇〇〇円及びこれに対する不法行為後であることが明らかな平成八年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を都に対し支払うことを求める限度で理由があり、また、被告山本に対する請求は、金四四万五七七一円及びこれに対する不法行為後であることが明らかな平成八年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を都に対し支払うことを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民訴法六一条、六四条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青柳 馨 裁判官 増田 稔 裁判官 篠田賢治)

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