東京地方裁判所 平成8年(行ウ)39号 判決 1997年9月25日
東京都新宿区新宿一丁目二五番一一-一〇二号
原告
日興電機産業株式会社
右代表者代表取締役
小原田定宏
右訴訟代理人弁護士
渡邊淳夫
同
鶴見祐策
東京都新宿区三栄町二四番地
被告
四谷税務署長 網野隆一
右指定代理人
湯川浩昭
右訴訟代理人弁護士
村重慶一
同
田部井敏雄
同
木村忠夫
同
上田幸穂
同
山本善春
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が、原告に対し、平成四年三月十九日付けでした平成二年三月一日から平成三年二月二十八日までの事業年度分の法人税の更正処分のうち、所得金額四億一七七八万六七五四円、納付すべき法人税額一億六六二三万四四〇〇円を超える部分及びこれに対する重加算税の賦課決定を取り消す。
第二事案の概要等
一 事案の概要
本件は、原告が、平成二年三月一日から平成三年二月二八日までの事業年度(以下「本件「本件事業年度」という。)分の法人税について、確定申告及び修正申告を行ったところ、被告から、平成四年三月一九日付けで右修正申告について重加算税の賦課決定処分を受け、さらに、同日付けで更正(以下「本件更正」という。)及び本件更正により原告が新たに納付すべきこととなった法人税額に対する重加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」といい、本件更正と併せて「本件各処分」という。)を受けたために本件各処分のうち請求の趣旨記載の部分の取消しを求める事案である。
二 関係法令の規定
法人税法(以下「法」という。)は、内国法人に対し、各事業年度(一三条一項、二項)の所得について法人税の納付義務を課し(四条一項、五条)、その課税標準を各事業年度の所得の金額と定める(二一条)。右各事業年度の所得の金額については、当該事業年度の益金の額から損金の額を控除したものとされるが(二二条)、税務署長が内国法人に係る法人税につき更正をする場合には、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合を除き、その内国法人の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその内国法人に係る法人税の課税標準を推計してこれをすることができる(一三一条)とされる。
三 争いのない事実等
1 当事者等
原告は、遊戯機器の輸入及び国内販売並びに遊戯場の経営等を目的とし、青色申告書以外の確定申告書を提出する株式会社であり、本件事業年度当時、東京都豊島区及び渋谷区において、池袋エース、アロー、渋谷エース及びダンと称する店舗(以下「本件店舗」と総称する。)にゲーム機を置いて顧客の遊戯に供する業務を営んでいた。
小原田宏定(以下「小原田」という。)は、本件事業年度当時、原告の代表取締役であり原告の業務全般を統括していた。
2 原告に対する課税等の経緯
原告に対する課税及びこれに対する原告の不服申立て等の経緯は、別表一記載のとおりであり、その具体的経緯は次のとおりである。
(一) 原告は、本件事業年度における本件店舗の経営により生じた売上げ、経費等を一切帳簿に記載せず、また、本件店舗の経営により生じた売上金を本件店舗の営業名義人又は仮名等の預金口座に入金した上、平成三年四月二六日、本件事業年度分の法人税の確定申告に当たって、事業種目についてゲーム機等修理業と記載した決算書を添付し、本件事業年度分の、所得の金額を一三六万〇八六九円の欠損、納付すべき法人税額を〇円と記載した申告書を提出した(以下「本件確定申告」という。)。
(二) 被告は、原告に対して、本件事業年度分の所得の金額について調査を行ったが、原告には、総勘定元帳等の帳簿の備付がなく、領収書等の証拠書類の保存もなかったため、原告の取引先に対して調査を行い、平成二年二月二八日(以下「前期末」という。)及び平成三年二月二八日(以下「当期末」という。)における各資産及び各負債の増減額から本件事業年度中の純資産額の増減額を求め、それに法人税法上の額に算入されない調整項目の額を加算して所得の金額を求める方法(以下「財産増減法」という。)により、本件事業年度分の所得の金額を推計することとした。
原告は、本件事業年度分の法人税について、原告が本件店舗及びゲーム機を一括して本件店舗の営業名義人にリースしているとして、平成四年三月一七日付けで、所得の金額を七二一六万一九三三円、法人税額を二九二七万九一〇〇円として修正申告をしたところ(以下「本件修正申告」という。)、被告は、本件確定申告書が課税標準等又は税額の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装したところに基づき提出されていたものと認定して、同月一九日付けで、国税通則法六八条一項の規定に基づき、本件修正申告により新たに原告が納付すべきこととなった法人税額二九二七万円(国税通則法一一八条三項)に一〇〇分の三五の割合を乗じて計算した金額一〇二四万四五〇〇円を本件修正申告に係る重加算税額とする賦課決定処分を行い、同日付けで、所得の金額を四億三六〇二万九九八四円として、右所得の金額に法六六、六七条の規定を適用して算出した一億八二〇二万一〇〇〇円を納付すべき法人税額とする本件更正を行い、国税通則法六八条一項の規定に基づき、本件更正により新たに原告が納付すべきこととなった法人税額一億五二七四万円(国税通則法一一八条三項)に一〇〇分の三五の割合を乗じて計算した五三四五万九〇〇〇円を本件更正に係る重加算税の額とする本件賦課決定を行った。
3 被告が主張する本件更正における所得の金額及び納付すべき法人税額の適法性の根拠
(一) 被告は、原告の取引先に対する調査に基づき、別表二、三記載のとおり、前期末における原告に帰属する資産の残高を一億三二八〇万九七一八円、負債の残高を一一八八万〇二〇〇円とし、当期末における原告に帰属する資産の残高を五億七二三〇万三八九二円、負債の残高を二〇六三万五九九一円とし、前期末から当期末にかけての資産の増加額を四億三九四九万四一七四円、負債の増加額を八七五万五七九一円として本件事業年度中の純資産額の増加額を四億三〇七三万八三八三円と計算し、右純資産額の増加額に別表四記載の法人税法上の損金の額に算入されない調整項目の加算額八四〇万九四二一円を加算する方法(財産増減法)により、別表五記載のとおり、原告の本件事業年度の所得の金額を四億三九一四万七八〇四円と算定した。
別表二ないし四記載の前期末及び当期末の資産及び負債の残高の詳細並びに調整項目の内訳のうち別表二記載の繰延資産の額、別表四記載の交際費損金不算入額を除くその余のものについては、当事者間に争いがない。
(二) 被告は、本件更正における所得の金額は、前記(一)で求められた所得の金額の額を下回っており、本件更正における納付すべき法人税額も、前記(一)で求められた所得の金額に基づき別表六ないし八に記載のとおり算出される法人税額一億八三三四万六五〇〇円を下回っているのであるから、本件更正における所得の金額及び納付すべき法人税額は適法であると主張する。
4 本件訴え提起までの経緯(甲第一号証、乙第一号証)
(一) 原告は、本件各処分を不服として、平成四年五月一九日に異議申立てをしたが、三か月を経過しても異議決定がなされなかったため、同年一二月一日、異議決定を経ないで国税不服審判所長に対して審査請求した。
(二) 平成七年一月九日、東京地方裁判所において、原告及び小原田に対する本件事業年度分の法人税法違反被告事件(同裁判所平成七年特(わ)第一四号)に関して、当該事業年度における益金から損金を控除して所得を算出する方法(以下「損益計算法」という。)により、本件事業年度の所得の金額を四億一七七八万六七五四円と算定し、右金額に基づいて法人税額を一億六六二三万四四〇〇円と認定した有罪判決が言い渡され、確定した(以下「本件刑事事件」という。)。
(三) 前記(一)の審査請求から三か月を経過しても裁決がなされなかったため、原告は、平成八年二月二七日、裁決を経ないで、本件更正のうち本件刑事事件において認定された所得の金額、法人税額を超える部分及び右部分に対応する本件賦課決定の取消しを求める本件訴えを提起した。なお、国税不服審判所長は、本訴提起後の平成八年四月一〇日、原告の審査請求を棄却する旨の裁決を行っている。
四 争点及びこれに対する当事者の主張
被告は、本件各処分は、前記のような推計に基づき算定された所得の金額及びそれに基づく法人税額の範囲内のものであるから適法であると主張するのに対し、原告は、推計の必要性については争わず、推計方法の合理性及び右推計に当たって、被告が採用した当期末の資産残高中の繰延資産の額(別表二参照)及び調整項目中の交際費損金不算入額(別表四参照)の基礎とされた渋谷エースに係る交際費の額を争っており、これを分説すると次のとおりである。
1 被告の行った推計方法が合理性を有するか否か(争点1)。
(一) 原告の主張
課税標準の推計を行う場合には、最も合理的な方法、すなわち想定できる推計方法の中で最も実額に近似する蓋然性が高い推計方法によらなければならない。そして、法二二条一項は、原則として損益計算法によって課税標準を計算すべきことを定めているところ、本件刑事事件に係る公判において、検察官は、本件事業年度の所得の金額を損益計算法により主張、立証しているのであるから、被告が、原告に対する本件各処分に先だって行った調査に際して、右と同様の適正な調査を行っていれば、本件刑事事件におけるのと同様に、損益計算法により本件事業年度の所得の金額を計算することができたはずである。にもかかわらず、適切な調査を怠り、財産増減法を採用してなされた本件の推計方法は合理性を欠く。
(二) 被告の主張
法二二条の規定は、所得計算の原則に関する規定にすぎない。また、法一三一条による推計課税を行う場合、最も合理的な方法によるべきであるとしても、採用が不可能ないし困難な方法までも含むものではない。そして、財産増減法は、当該事業年度の期首と期末の資産及び負債の額等、算定の基礎となる計算要素の正確性が担保されている限り、客観性を備えた合理的な方法である。また、本件事業年度の所得の金額の認定は、本件刑事事件において認定された犯則所得金額に拘束されるものではない。原告は、総勘定元帳等の帳簿を備え付けておらず、領収書等も保存していなかったため、被告は、原告の取引先を調査し、財産増減法より本件所得の金額を算定したものであって本件各処分は適法である。
2 当期末における資産の金額の内、繰延資産の金額をいくらと解すべきか(争点2)。
(一) 被告の主張
原告の当期末における資産には、次のとおり、繰延資産の金額二五五万円が含まれる。
(1) 平成三年一月一四日、株式会社大和速記文書処理センターに支払われた原告事務所の賃貸借に係る礼金七〇万円(以下「本件費用(1)」という。)
(2) 平成二年五月二九日、鶴切健市に支払われたダンの店舗の敷金のうち返還されない金額六〇万円(以下「本件費用(2)」という。)
(3) 平成二年四月二四日、ダンの店舗の元賃借人山中洋に支払われた店舗賃借に係る金額六五万円(以下「本件費用(3)」という。)
(4) 平成二年五月二四日、ダンの店舗の元賃借人山中洋に支払われた店舗賃借に係る金額六〇万円(以下「本件費用(4)」という。)
(二) 原告の主張
(1) 当期末における資産に繰延資産二五五万円が含まれるとの被告の主張は、原告が、右繰延資産を含めない当期末における資産額についての被告の当初の主張を認めると認定した後に追加されたものであり、自白の撤回に当たり、原告は、被告による右自白の撤回に異議がある。
(2) 被告が繰延資産であると主張する金額のうち、本件費用(1)、同(2)は賃借料に当たり、本件費用(3)、同(4)は雑費に当たる。
3 渋谷エースに係る交際費の額をいくらと解すべきか(争点3)。
(一) 原告の主張
本件各処分は、小原田が査察官に対し渋谷エース分の交際費の支払額を年額四八〇万円と供述している(乙第三号証)ことに基づいて、渋谷エース分の交際費の支払額を認定しているが、小原田の右供述は明らかな誤りであって、その後に行われた本件刑事事件の際に行われた調査によって、渋谷エース分の交際費の支払額は月額二〇万円であることが判明しており、小原田の右供述も検察官の取調べの段階で訂正されている(甲第二号証の二)。したがって、渋谷エース分の交際費の支払額は、甲第二号証の二に記載され、本件刑事事件においても認定された年額二四〇万円であるというべきである。
(二) 被告の主張
小原田の検察官に対する供述(甲第二号証の二)が、査察官に対する供述(乙第三号証)を訂正してなしたものであると認めることはできず、また、両供述の信用性についてみると、査察官に対する供述(乙第三号証)の信用性が優るから、渋谷エース分の交際費の支払額は年額四八〇万円となるというべきである。
五 証拠
本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第三争点に関する判断
一 争点1(被告の行った推計方法の合理性の有無)について
1 法二二条は、当該事業年度の所得の金額について、原則として取引実績額を基礎とする損益計算法によるべきことを定めたものであり、一方、法一三一条は、損益計算法を採ることが不可能若しくは著しく困難な場合において、財産の増減の状況その他の事実から、所得の金額を推計の方法により算定できることを定めたものである。右のような法の規定の仕方からすると、法二二条は、所得の金額を推計の方法により算定する場合についてまで損益計算の方法によるべきことを定めたのではないことは明らかである。そして、財産増減法は、事業年度の期首と期末の資産及び負債の変動によって当該事業年度の所得の金額を計算するものであり、会計法則上も是認されている合理的方法であり、右資産、負債及び調整項目の加算額の正確な算定と帰属主体の認定がなし得る限り、右方法により所得の金額の推計をなすことの合理性を否定すべき理由は存在しない。
2 本件においては、被告が原告に対して、本件事業年度の所得の金額の調査を行ったところ、原告には、総勘定元帳等の帳簿の備付がなく、領収書等の証拠書類の保存もなかったことは、前記第二、三、2、(二)のとおりであり、右事実によれば被告において、原告の本件事業年度の所得の金額を実際の取引実績額を基礎とする損益計算法により算定することができず、推計により原告の本件事業年度の所得の金額を算出して課税する必要があったというべきところ、被告において、、原告に帰属する資産及び負債の前期末及び当期末の残高並びに期中の増減金額並びに調整項目の加算額を別表二ないし四記載のとおり算定し、これらの金額を基に、原告の本件事業年度の所得の金額を推計する財産増減法により、別表五記載のとおり算定したことが認められる。そして、本件において、原告に帰属する資産及び負債の前期末及び当期末の残高並びに期中の増減額並びに調整項目の加算額については、当期末の繰延資産の額及び調整項目中の交際費損金不算入額を除いては、その額及び帰属について当事者間に争いがなく、当事者間に争いがあるものについても、後記のとおり被告主張のとおりと認められるのであって、原告に帰属する資産及び負債の前期末及び当期末の残高並びに期中の増減金額並びに調整項目の加算額を前記のとおり算定して原告の本件事業年度の所得の金額を財産増減法により推計した被告の推計方法は合理性を有するというべきである。
3 この点、原告は、本件刑事事件に係る公判において、検察官は、本件事業年度の所得の金額を損益計算法により主張、立証していたのであるから、被告が、適正な調査を行っていれば、損益計算法により本件事業年度の所得の金額を計算することができたはずであり、本件刑事事件の認定金額の方がより正確であると主張する。しかしながら、刑事手続において、刑罰権の行使という観点から捜査が行われ、また、公訴事実に係る金額は実額による立証を原則とするため、検察官は、刑罰権の行使という観点のみならず確実な実額立証という観点から公訴事実を更正するのであるから、刑事手続において実額による主張及び立証がされたことをもって、当然に、租税調査においても同様の調査が可能であるとか、公訴事実の立証のために提出された証拠が税額を確定するために必要なすべての資料であるということはできないのである。したがって、刑事手続において実額の資料が提出され、その実額が認定されたとしても、本件における推計方法の合理性を損なうものではない。
なお、前記のとおり、被告の推計の必要性及び合理性が認められる以上、本件刑事事件の認定金額による方がより正確であるとの原告の主張は、本件刑事事件の認定金額をもって、実額であるとするものと解されるが、刑事事件において立証責任を負う検察官としては、「少なくともこれだけの所得の金額が存する」ということを主張・立証するのに対し、原告がなすべき実額の主張においては、納税者は、その主張する益金の存在及びこれが当該事業年度の全益金であること並びにその主張する損金が存在することについての立証責任を負っているのであって、前記のような刑事事件における認定額をもって実額の主張に代置することはできないというべきである。
4 なお、原告は、平成四年三月一七日に、昭和六三年三月一日から平成元年二月二八日までの事業年度分(以下「平成元年二月期」という。)、平成元年三月一日から平成二年二月二八日までの事業年度分(以下「平成二年二月期」という。)及び本件事業年度分につき原告が修正申告を行ったところ、被告が、本件店舗を経営していたのは原告であると認定した上、財産増減法による推計に基づき、平成二年二月期分については減額更正処分をし、本件事業年度については増減更正をしたが、平成元年二月期分については、財産増減法を採用しておれば減額更正処分をすることになるはずであるのに、これをしなかったとして、被告の本件各処分は恣意的であって合理性を欠くと主張する。
しかしながら、原告の平成元年二月期の事業年度分に係る更正処分と本件各処分とは別個独立の処分であるから、平成元年二月期の事業年度分について被告により財産増減法に依拠した推計に基づく減額更正処分がなされなかったということのみでは、財産増減法を採用してなされた本件各処分が恣意的であって合理性を欠くとはいい得ないのであるから、この点についての原告の主張は採用できない。
二 争点2(繰延資産の金額)について
1 まず、繰延資産についての主張の追加が自白の撤回に該当するか否かにつき検討するに、被告による右主張の追加は、原告が当初の当期末資産の額に係る被告の主張を認めるとの認否をした後になされているものであることが認められるが、資産の残高に関して被告が主張すべき事実は、推計の基礎とすべき資産残高として少なくともその主張に係るものが存在するということであり、他に資産がないことまでを主張するものではない。したがって、被告の当初主張に対する原告の認否は、少なくとも当期末の資産が被告の当初主張の内訳による当初主張額が存在することにつき自白を成立させるものではあっても、右内訳及び金額を超えては存在しないという点についてまで自白を成立させるものということはできないのである。
2 次に本件費用(1)ないし(4)が繰延資産に該当するか否かにつき検討するに、繰延資産とは、法人が支出する費用で、その支出の効果がその支出の日以後一年以上に及ぶもので政令で定めるものであり(法二条二五号)、資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立退料その他の費用も繰延資金として政令で定められており(法人税法施行令一四条一項九号)、これらの費用については、繰延資産の償却費としての損金経理を要件として、支出の効果の及ぶ期間に応じた償却額を各事業年度の損金に算入することとされている(法三二条一項、法人税法施行令六四条一項二号)。
そして、証拠(乙第三、第四号証、第五号証の一ないし三、第六号証)によれば、本件費用(1)は、ルネ御苑プラザ六〇八号室の原告事務所の賃貸借に係る礼金として賃貸人に対して支払われたものであること、本件費用(2)は、ダンの店舗の賃貸借に係る敷金のうち返還されない部分の金額であること、本件費用(3)及び同(4)は、ダンの店舗の元賃借人である山中洋に対し、賃借権の取得代金又は立退料として支払われたものであることが認められ、右事実によれば、本件費用(1)ないし(4)はいずれも、本件事業年度における繰延資産に該当するというべきである(乙第七号証によれば、雑費と分類されているが、同号証によっても「営業権」の取得代金とされているのであるから、繰延資産に該当するものというべきである。)。
また、右各証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告が右繰延資産について、損金経理をした事実はないことが認められる。
三 争点3(交際費の損金不算入額)について
乙第三号証によれば、原告から高橋総業に対して、池袋エース分として一五万円、アロー分として五万円を毎月支払い、渋谷エース分として滝口興行に対して四〇万円、ダン分としてサエキ某に四〇万円を毎月支払っていたとされており(ただし、ダン分については本件事業年度における支払月数は一〇か月となる。)、右によれば、本件事業年度における交際費の支出額は、池袋エース分が一八〇万円、アロー分が六〇万円、渋谷エース分が四八〇万円、ダン分が四〇〇万円の合計一一二〇万円となり、本件事業年度における交際費損金不算入額は、右合計額のうち四〇〇万円を超える七二〇万円となる(平成六年法律第二二号による改正前の租税特別措置法六二条)。
これに対して原告は、本件事業年度の渋谷エースにおける支払金額は、二四〇万円であり、したがって交際費の支出額は八八〇万円である旨主張し、甲第四号証(小原田の検察官に対する供述調書)及び第二号証の二(検察事務官作成の接待交際費調査書)にはこれに沿う部分が存在し、本件刑事事件においても同様の認定がなされている。しかしながら、乙第三号証が本件事業年度終了後一年以内にノ作成されたものであるのに対し、甲第四号証は、本件事業年度終了後四年近い歳月を経た後に作成されたものであること、甲第四号証において先に供述した乙第三号証の記載内容と異なる供述がされているにもかかわらず、それについて格段の理由が述べられていないこと及び右作成時期に照らせば、公訴提起のため公訴事実の立証に必要な範囲で取調べ作成されたものと認められることに鑑みれば、甲第四号証は、渋谷エース分の毎月の支払金額が少なくとも二〇万円存在したことの証拠となるものであるとしても、前記認定を覆すものではない。また、甲第四号証に基づいて作成された甲第二号証の二の前記記載部分によっても前記認定を覆すものではない。
四 本件各処分の適法性
以上によれば、本件更正における所得の金額及び納付すべき法人税額(前記第二、三、2、(二))は、原告の本件事業年度の所得の金額を推計して、前記第二、三、3のとおりの計算により得られる所得の金額及び法人税額を下回るものであるから、本件更正は適法であり、本件更正を前提として前記第二、三、2、(二)のとおりの計算に基づく本件賦課決定もまた適法というべきである。
第四結論
以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判所裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 裁判官 水谷里枝子)
別表一
事業年度 自 平成二年三月一日 至 平成三年二月二八日
<省略>
別表二
資産の残高及び増減の内訳(平成3年2月期)
<省略>
別表三
負債の残高及び増減の内訳(平成3年2月期)
<省略>
別表四
調整項目の内訳(平成3年2月期)
<省略>
別表五
所得金額等の内訳(平成3年2月期)
<省略>
別表六
通常の法人税額(法66条)の計算
<省略>
別表七
課税留保金額及び税額(法67条)の計算
<省略>
別表八
合計法人税額の計算
<省略>