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東京地方裁判所 平成9年(ワ)10870号 判決 1998年11月16日

原告

冨田高啓

右訴訟代理人弁護士

白谷大吉

被告

高栄建設株式会社

右代表者代表取締役

佐藤省一

右訴訟代理人弁護士

澤田保夫

主文

一  被告は、原告に対し、金四六万五一三八円及び内金三一万二五六九円に対する平成九年六月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は五〇分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し金七七八万二九七〇円並びに内金七一二万二八二四円に対する平成九年六月八日から支払済みまで年五分の割合による金員及び内金六六万〇一四六円に対する平成一〇年七月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、被告に雇われていた原告が、被告に対し、時間外割増賃金二七三万二九八五円、賞与金六二万円、年次有給休暇相当分金五四万円、休業手当相当分金二一万六〇〇〇円、平成九年四月の賃金一六万円、昼勤を理由に賃金を控除した分二万五〇〇〇円がそれぞれ未払であった(ただし、後記第二の二3のとおり平成九年四月分の賃金一六万円が未払であることは当事者間に争いがない。)として、これらの合計四二九万三九八五円及び付加金三四八万八九八五円の総計金七七八万二九七〇円並びに内金七一二万二八二四円に対する訴状送達の日の翌日である平成九年六月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金及び内金六六万〇一四六円(時間外割増賃金及び付加金の請求の拡張分)に対する訴えの変更申立書の送達の日の翌日である平成一〇年七月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  前提となる事実

1  原告は平成四年五月被告に雇用され、平成九年五月被告を退職した。被告は上下水道管工事の設計、施行(ママ)及び請負などを業とする会社であるが、原告が従事していた業務は東京都水道局が発注する水道本管埋設工事及びこれに付随する工事であり、必然的に深夜にわたる工事となることが多かった(争いがない。)。

2  原告の賃金は被告に雇用されてからは日給月給制であったが、平成五年一二月から平成八年一〇月までは月給制となり、同年一一月以降再び日給月給制となっている。月給制における原告の賃金は一か月当たり金四一万円、平成八年一一月以降の日給月給制における原告の賃金は午後八時から翌日の午前五時までの勤務については一日当たり金二万円とされていた。原告の一か月の賃金は翌月の二五日払いであった(月給制の開始が平成五年一二月からであることは<証拠略>、原告本人。その余は争いがない。)。

3  原告は平成九年四月一日ないし三日、同月七日、同月八日、同月一〇日、同月一一日及び同月二四日は被告で就労したにもかかわらず、被告はこれらの賃金の合計金一六万円を支払っていない(争いがない。)。

4  原告は被告に対し、本件訴状により時間外割増賃金二四〇万二九一二円、賞与金六二万円、年次有給休暇相当分金五四万円、休業手当相当分金二一万六〇〇〇円、平成九年四月の賃金一六万円、昼勤を理由に賃金を控除した分二万五〇〇〇円の合計金三九六万三九一二円及び付加金三一五万八九一二円、総計金七一二万二八二四円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、訴えの変更申立書により時間外割増賃金二七三万二九八五円、賞与金六二万円、年次有給休暇相当分金五四万円、休業手当相当分金二一万六〇〇〇円、平成九年四月の賃金一六万円、昼勤を理由に賃金を控除した分二万五〇〇〇円の合計四二九万三九八五円及び付加金三四八万八九八五円の総計金七七八万二九七〇円並びに内金七一二万二八二四円に対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金及び内金六六万〇一四六円(時間外割増賃金及び付加金の請求の拡張分)に対する訴えの変更申立書の送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた。本件訴状は平成九年六月七日に送達され、訴え変更の申立書は平成一〇年七月二日に送達された(当裁判所に顕著である。)。

三  争点

1  時間外割増賃金の未払の有無について

(一) 原告の主張 金二七三万二九八五円

(1) 原告は被告で就労中に別紙<略>時間外割増賃金未払金額一覧と題する書面に記載したとおり時間外労働をしたが、これについての賃金が支払われていない。

なお、別紙時間外割増賃金未払金額一覧と題する書面に記載した労働時間には通勤時間が含まれているが、通勤時間とは、被告で就労する従業員は全員毎日寮からバスに乗って資材置場(埼玉県八潮市所在の被告の元請け会社である勝村建設株式会社の資材置場)に寄って当日必要な材料、保安器、必要車両などをそろえて作業現場に行くまでの時間及び帰りに右の資材置場に寄って後片付けを行ったりした後帰寮するまでの時間をいい、これらの時間が労働時間であることは明らかであるから、この通勤時間についても賃金を支払うべきである。また、原告は被告で就労中に毎日食事や休憩のための時間を一時間ずつ与えられたことはなかった。

また、原告が被告との間で原告の賃金を月給制とすることを合意した際(後記第二の三3(一))に時間外割増賃金を支払うことを確認している。

(2) 日給月給制における原告の賃金は昼夜の別なく一日当たり金二万円であるから、日給月給制における原告の一時間当たりの賃金は一日当たりの賃金二万円を所定労働時間数八時間で除した金二五〇〇円である。

月給制における原告の賃金は金四一万円であるが、被告の就業規則では従業員の休日は第一、第三日曜日又は雨天等により野外作業が困難な場合と定められていて労働基準法施行規則一九条一項四号に規定する「月における所定労働時間数」を計算することができないので、同号に規定する「月によって所定労働時間数が異なる場合」に当たるとして「一年間における一月平均所定労働時間数」により計算する。そして、被告の営む事業は労働基準法八条三号に該当するから、被告で就労する従業員の一週間の労働時間は労働基準法(平成五年法律第七九号による改正後のもの)附則一三一条一項により四四時間となり、一年間を三六五日としてこれを七日で割って得られた一年間における週の数に四四時間を乗じ、これを一二か月で除すと、一か月当たりの所定労働時間数一九一時間(一時間未満切捨て)が得られる。原告の一か月当たりの賃金四一万円を右の一九一時間で除して得られた金二一四七円が原告の一か月当たりの賃金であるから、これを二割五分増しした金二六八四円が原告の一時間当たりの時間外労働の賃金である。

(3) 割増賃金の計算において時間外労働時間数に三〇分未満の端数がある場合にはこれを切り捨て、三〇分以上の端数がある場合にはこれを一時間に切り上げることとされている(昭和二二年一一月二一日基発第三六六号、昭和三三年二月一三日基発第九〇号、平成六年三月三一日基発第一八一号)から、これに従って未払の原告の時間外割増賃金を計算すると、その合計は金二七三万二九八五円となる。

(二) 被告の主張

被告には原告の主張に係る勤務時間が正しいかどうかはわからないが、被告の行う工事は道路使用を規制する態様で行われるものであるから、所轄警察署の許可を要するところ、工事を行う場所をバスが通る場合には最終バスの通過時間以後にしか許可はされないから、通常、工事は最終バスの通過時間後の午後一〇時半ころから開始されることが多く、原告の主張するような午後六時ないし七時ころから勤務時間が始まることはなかった。仮に原告の主張に係る勤務時間が正しいとしても、原告の主張に係る勤務時間には通勤時間平均一時間、休憩時間一時間が含まれているから、その分を控除すべきである。通勤に使用していたバスは二台あり、原告が乗っているバスは大半は直接帰寮しており、帰りも資材置き場によって後片付けをしてから帰寮していたわけではない。そして、通勤時間と休憩時間を控除をした場合の原告の時間外割増賃金は、(証拠略)によると、金五五万四七二二円である。

なお、原告が被告との間で原告の賃金を月給制とすることを合意した際(後記第の二の三3(二))に時間外割増賃金を支払わないことを確認している。

2  消滅時効の成否について

(一) 被告の主張

被告は平成七年一月九日から同年四月二七日までの時間外割増賃金については消滅時効を援用する。

(二) 原告の主張

原告は月給制となったことによって時間外割増賃金が支払われなくなったことについて被告(佐藤修及び経理担当の桑原美代子)に対し時間外割増賃金を支払うよう求めていたのであり、被告が平成七年一月九日から同年四月二七日までの時間外割増賃金について消滅時効を援用することは援用権の濫用として許されない。

3  賞与の未(ママ)払義務の有無について

(一) 原告の主張 金六二万円

原告は平成五年一一月初旬ころ被告代表者との間で原告の賃金を月給制とすることを合意し、その翌日被告代表者の息子で被告の専務取締役である佐藤修との間で月給制の具体的な内容について話し合い、原告の賃金は原告の従前の一年間の収入である約金六〇〇万円を下回らない金額とすること、具体的には一か月の賃金を金四一万円、毎年七月と一二月に賞与として金四一万円及び残業代を支払うことを合意した。ところが、被告は平成八年七月及び同年一二月の賞与としてそれぞれ金一〇万円ずつしか支払わず、合計金六二万円が未払である。

(二) 被告の主張

原告は平成五年一一月初旬ころ被告代表者との間で原告の賃金を月給制とすることを合意し、その翌日佐藤修との間で月給制の具体的な内容について話し合い、その結果原告の月給を金四一万円とすることを合意したが、賞与として毎年七月と一二月にそれぞれ金四一万円ずつ支払うという合意はしていない。賞与については被告の景気により変動すると述べている。

4  年次有給休暇相当分の支払義務の有無について

(一) 原告の主張 金五四万円

原告は平成九年一月八日佐藤修に対し病気療養のために一か月に二日ないし三日有給扱いで休ませてほしいと申し入れてその了承を得たので、原告は現場監督らと相談して作業に支障がない同年一月一三日と同月二七日を休むこととし、同年二月一八日に念のため被告の経理担当者に同趣旨を記載したメモを渡して右の二日を有給休暇扱いにするよう話したところ、同年二月二五日に支給された同年一月分の賃金では同年一月一三日及び同月二七日が欠勤扱いとされていたので、原告が佐藤修に対し欠勤扱いとされていることを質したところ、佐藤修は「そんな話は聞いていない。うちの会社では有給休暇は出さない。」と答えて前言を翻した。原告は同年二月一〇日、同月二〇日及び同年三月一七日に被告に対し通院のため有給休暇を申し出て休んだにもかかわらず、被告は原告の有給休暇の申請を一切認めなかったばかりか、同月二五日には佐藤修が「有給休暇を出さないのなら労働基準監督局(ママ)へ行くと言っているそうだが、行くなら行け。」と怒鳴って帰っていった。原告は同年五月六日佐藤修に対し通院の必要があるので長期の有給休暇を認めるよう求めたが、佐藤修は「一か月以上の休暇(有給ではない。)は認めない。それ以上だと退職してもらう。」と言うので、原告は同月一二日被告を退職した。その際原告は労働基準法に基づき二週間は有給休暇とし、その翌日を退職として扱うように経理担当者に申し入れた。

以上のような次第で原告は有給休暇を申請したにもかかわらず欠勤扱いとされ、原告に支払われるべき賃金が不当に減額された。そのうち退職前二年間の年次有給休暇二七日分に限り一日当たり金二万円として請求する。

(二) 被告の主張

原告は仕事を休んで病院に行き、後からこれを有給休暇に切り替えてほしいと申し入れてきたことが一回だけあった。原告が退職届を提出したことは認める。

5  休業手当相当分の支払義務の有無について

(一) 原告の主張 金二一万六〇〇〇円

原告は被告の都合により平成九年三月三一日、同年四月四日、同月九日、同月一二日、同月一四日ないし一九日、同月二一日ないし二三日、同月二五日、同月二六日、同月二八日ないし三〇日を休業せざるを得なかったのであり、被告には右の合計一八日間の休業については日給金二万円の六〇パーセントに相当する金額の支払義務がある。

(二) 被告の主張

日給月給制の下では仕事がなければ賃金は支払われないのであり、原告の主張に係る休業の日は仕事がないため全社的に休んだ日であるから、被告には原告に休業手当を支払う義務はない。

6  昼勤を理由とする賃金の控除分の支払義務について

(一) 原告の主張 金二万五〇〇〇円

原告の平成八年一一月以降の賃金は、勤務が昼間であろうと夜間であろうと、一日当たり金二万円であるにもかかわらず、被告は平成八年一二月に八・五日分、平成九年一月には一日分、同年三月には三日分、合計一二・五日分について昼間の勤務を理由にそれぞれ一日当たり金二〇〇〇円を控除した。したがって、その合計金二万五〇〇〇円が未払である。

(二) 被告の主張

原告と被告は原告の平成八年一一月以降の賃金について昼間の勤務が一日当たり金一万八〇〇〇円、夜間の勤務が一日当たり金二万円であることを合意した。

7  付加金の支払義務について。

(一) 原告の主張 金三四八万八九八五円

時間外割増賃金(前記第二の三1)、年次有給休暇相当分(前記第二の三4)及び休業手当相当分(前記第二の三5)については労働基準法一一四条に定める付加金の支払の対象となるので、その支払を求める。

(二) 被告の主張

被告は原告の主張に係る時間外割増賃金、年次有給休暇相当分及び休業手当相当分について支払義務を負わないから、付加金の支払を命ずる必要はない。

第三当裁判所の判断

一  本件各争点を判断する前提となる事実関係として、前記第二の二1の事実、次に掲げる争いのない事実、証拠(<証拠・人証略>、原告本人(ただし、次の認定に反する部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  被告は上下水道管工事の設計、施行(ママ)及び請負などを業とする会社であるが、原告が従事していた業務は東京都水道局が発注する水道本管埋設工事及びこれに付随する工事であり、必然的に深夜にわたる工事となることが多かった(争いがない。)。水道本管埋設工事及びこれに付随する工事は道路使用を規制する態様で行われるものであることから、午後八時ないしは九時ころから開始されることもないではないが、その多くは午後一〇時すぎころから開始された(<証拠・人証略>、原告本人)。原告が従事した工事現場は、平成七年一月が雷内水道作業所、同年三月が荒川水道作業所、同年五月が蔵前水道作業所、同年六月ないし同年一二月が外神田水道作業所、荒川水道作業所、平成八年一月ないし同年一二月が竜泉作業所、東尾久作業所、赤羽水水(ママ)道作業所、竜泉作業所であった(争いがない。)。

2  被告で就労する従業員は全員毎日被告の肩書住所地に所在する被告の寮からバスに乗って工事現場まで行き、作業が終了すると、バスに乗って寮に帰っていた。工事現場によって従業員を乗せるバスの数は異なるが、少なくとも二台以上は出ており、そのうち一台が資材置場(埼玉県八潮市所在の被告の元請け会社である勝村建設株式会社の資材置場)に寄って当日必要な材料、保安器、必要車両などをそろえて工事現場に行き、帰りに右の資材置場に寄って後片付けを行ってから寮に帰るということがあったが、資材置場には毎日寄っていたわけではなく、必要なときに寄っていただけであった(<証拠・人証略>、原告本人)。

3  被告で就労する従業員は班ごとに分かれており、所属する班の従業員の出勤状況や時間外勤務時間(いわゆる残業時間)数についてはその斑(ママ)に所属する従業員の誰かが出勤簿と題する書面(<証拠略>)に毎日記載し、これを被告に提出し、被告はこれに基づいて斑(ママ)ごとに従業員の出勤状況や時間外勤務時間数を記載した出勤簿と題する書面(<証拠略>)を作成して従業員の出勤状況や時間外勤務時間数を把握していた。原告の所属する斑(ママ)の従業員の出勤の状況や時間外勤務時間数を記載した出勤簿と題する書面(<証拠略>)を作成したのは平成七年一〇月までは原告であった(<証拠・人証略>、原告本人)。被告で就労する従業員の勤務時間は、被告の就業規則(<証拠略>)によれば、昼間作業は午前八時から午後五時まで、夜間作業は午後八時から翌日の午前五時までとされているが、夜間作業については前記第三の一1のような理由で午後八時から工事現場で作業を開始することができないことが多かった(<証拠・人証略>、原告本人)。出勤簿と題する書面(<証拠略>の平成七年一〇月の分)では昼間作業に従事した日数は「出勤」欄に記載し、夜間作業に従事した日数は「早出」欄に記載し、時間外勤務時間数は、例えば一時間であれば、出勤した日の欄に押された出の上に「1H」と記載した上で「残業」欄に総時間外勤務時間数を記載していた(<証拠略>の平成七年一〇月の分)が、必ずしも右のような記載方法に統一されていたわけではなかった(<証拠略>)。また、被告で就労する従業員は昼間作業に引き続いて夜間作業に従事することもあったが、その場合、昼間作業に引き続いて行われた夜間作業が就業規則で定められた終了時間である翌日の午前五時まで行われたとすると、休憩時間一時間を除いた時間外勤務時間数は一一時間になるが、昼間作業に引き続いて夜間作業に従事する場合の時間外勤務時間数は出勤簿と題する書面(<証拠略>)の「残業」欄又はその外に時間外勤務時間数を記載することがある欄には記載されていない(<証拠略>、弁論の全趣旨)。出勤簿と題する書面(<証拠略>)によると、原告の平成七年一月から平成八年一二月までの時間外勤務時間数は、平成七年一月が八時間、同年二月が七時間、同年三月が〇時間、同年四月が五時間、同年五月が二時間、同年六月が七時間、同年七月が八時間、同年八月が〇時間、同年九月が四時間、同年一〇月が四時間、同年一一月が〇時間、同年一二月が一時間、平成八年一月が七時間、同年二月が四時間、同年三月が二時間、同年四月が四時間、同年五月が三時間、同年六月が一時間、同年七月が一時間、同年八月が三時間、同年九月が四時間、同年一〇月が二時間、同年一一月が一六時間、同年一二月が八時間である(<証拠略>)。また、平成八年一一月の原告の給料支払明細書(<証拠略>)には時間外勤務時間数の記載はないが、所定時間外賃金は金四万八〇〇〇円と記載されており、同年一二月の原告の給料支払明細書(<証拠略>)には時間外勤務時間数は一九時間(欄外の「19H」という記載)、所定時間外賃金は金五万七〇〇〇円と記載されており、平成九年一月の原告の給料支払明細書(<証拠略>)には時間外勤務時間数は二四時間(欄外の「24H」という記載)、所定時間外賃金は金七万二〇〇〇円と記載されており、同年二月の原告の給料支払明細書(<証拠略>)には所定時間外賃金は金〇円と記載されており、同年三月の原告の給料支払明細書(<証拠略>)には時間外勤務時間数は二時間(欄外の「2H」という記載)、所定時間外賃金は金六〇〇〇円と記載されている。また、被告の作成に係る原告の賃金台帳(<証拠略>)には所定時間外割増賃金の欄に平成八年一二月分が金五万七〇〇〇円、平成九年一月分が金七万二〇〇〇円、同年二月分が金〇円、同年三月分が金六〇〇〇円、同年四月分が金〇円と記載されている。なお、被告は原告の賃金が日給月給制であるときは原告の時間外勤務時間数一時間について金三〇〇〇円を支払うこととしていた(<証拠・人証略>)。

4  原告は平成五年一一月初旬ころ被告代表者との間で原告の賃金を月給制とすることを合意し、その翌日に被告代表者の息子で被告の専務取締役である佐藤修との間で月給制の具体的な内容について話し合った(争いがない。)。右の話合いの結果、原告と佐藤修は、被告は原告の月給として金四一万円を支払うこと、被告は毎年七月と一二月にそれぞれ賞与として被告の景気に応じた金額を原告に支払うことを合意したが、右の話合いの際に原告の賃金を月給制とした後も従前どおり時間外賃金を支払うという話は出なかった。原告の賃金が月給制とされていた期間(前記第二の二2)中も原告は時間外勤務(前記第三の一3)をしていたにもかかわらず、被告は原告の賃金を日給月給制から月給制に切り替えたことを理由にこの時間外勤務時間(前記第三の一3)について時間外賃金を支払わないことにしたが、原告からはその支払がないことについて格別異議は出なかった。被告は原告に対し平成八年七月及び同年一二月に賞与としてそれぞれ金一〇万円ずつを支払った(<証拠・人証略>)。

5  原告は平成九年一月一三日と同月二七日を病気治療のために休むこととし、同年二月一八日に被告の経理担当者に同趣旨を記載したメモを渡して右の二日を有給休暇扱いにするよう話したところ、同年二月二五日に支給された同年一月分の賃金では同年一月一三日及び同月二七日が欠勤扱いとされていた。原告は同年二月一〇日、同月二〇日及び同年三月一七日にも病気治療のために休んだが、いずれも欠勤扱いとされた。被告では月給制の従業員であれ日給月給制の従業員であれ事前に有給休暇の申請があればその取得を認めていたが、有給休暇の申請もなしに休んだ従業員から有給休暇に振り替えてほしいとの要請があっても有給休暇に振り替えるという取扱いはしていなかった(<証拠・人証略>、弁論の全趣旨)。

6  被告は仕事がなかったため平成九年三月三一日、同年四月四日、同月九日、同月一二日、同月一四日ないし一九日、同月二一日ないし二三日、同月二五日、同月二六日、同月二八日ないし三〇日に全社的に休業せざるを得なかった(<証拠・人証略>、弁論の全趣旨)。

7  原告の賃金は月給制になる前の日給月給制においては昼間作業については一日当たり金一万八〇〇〇円、夜間作業については一日当たり金二万一六〇〇円とされていたが、原告と被告は平成八年一一月以降の日給月給制において昼間作業については一日当たり金一万八〇〇〇円、夜間作業については金二万円とすることを合意した(<証拠・人証略>、原告本人)。

8  原告は平成九年五月一二日被告の経理担当者に退職届を提出し、その日から勤務には就かなかった。被告は原告から退職届が提出されたことを受けて原告が退職届を提出した日に退職したものとして取り扱うことにし、原告に対し同年四月分の未払賃金一六万円を取りにくるよう求めたが、原告はこれを取りに来なかった(<証拠略>、原告本人、弁論の全趣旨)。

二  争点1(時間外割増賃金の未払の有無)及び同2(消滅時効の成否)について

1  原告の時間外勤務時間数について

(一)(1) 原告は、原告が平成七年一月から平成九年四月までに被告で就労した日ごとの労働時間が別紙時間外割増賃金未払金額一覧と題する書面に記載したとおりであることを前提に時間外勤務時間数は労働時間が別紙時間外割増賃金未払金額一覧と題する書面のとおりであると主張している。

(2) しかし、原告が被告で就労中に従事していた業務の内容(前記第三の一1)に照らせば、原告が被告との間で締結した雇用契約は、原告は被告が指示する工事現場において水道本管埋設工事及びこれに付随する工事に従事し、被告はこの労務に対し賃金を支払うというものであるから、原告が労務を提供すべき場所は被告の指示に係る各工事現場であるというべきであるところ、被告の指示に係る工事現場まではバスで行くことになっていたのである(前記第三の一2)から、被告の寮から各工事現場までの往復の時間はいわゆる通勤の延長ないしは拘束時間中の自由時間ともいうべきものであり、原告の主張に係る労働時間にこの通勤の延長ないしは拘束時間中の自由時間ともいうべきものが含まれていることは原告の主張から明らかであること、夜間作業の多くは午後一〇時すぎころから開始されていたのであり(前記第三の一1)、原告が派遣されていた工事現場名(前記第三の一1)からうかがわれる工事現場の所在地からすれば、被告の寮の所在地から工事現場に行くのに要する時間が三時間以上になることは考えがたいのであって、被告の寮から各工事現場まで行くのに要する時間を差し引いても少なくとも午後六時台から原告の主張に係る労働時間が始まることが頻繁に見られることはいささか不自然であるといえること、被告の寮から各工事現場までの往復の時間が通勤時間の延長ないしは拘束時間中の自由時間ともいうべきものである以上、これについては原則として賃金を発生させる労働時間に当たらないものというべきである(もっとも、資材置場に立ち寄った場合については単なる通勤の延長ないしは拘束時間中の自由時間ともいうべきものであるということはできないが、かといって、資材置場に立ち寄ったというだけでは被告の寮から各工事現場までの往復が賃金を発生させる労働時間であるということもできない。)から、被告の寮から工事現場までの往復の時間を原告の主張に係る労働時間から差し引くべきであるところ、原告は一箇所の工事現場に派遣されていたわけではないのであり(前記第三の一1)、各工事現場ごとに被告の寮から工事現場までの往復に要する時間は異なるものと考えられるところ、被告の寮からそれぞれの工事現場までの往復の時間は本件全証拠に照らしても明らかではないこと、平成七年一月から平成九年四月までの原告の時間外勤務時間数(ただし、平成七年一月から平成八年一〇月までについては昼間作業から引き続いて行われた夜間作業に従事したことによる時間外勤務時間数は不明であるので、これを除いたその余の時間外勤務時間数)については原告又はその他の従業員の申告に基づいて被告は前記第三の二1で集計したとおりであると把握しているが、それにもかかわらず右の期間中の原告の時間外勤務時間数が本件訴訟において原告の主張するとおりであることの理由については原告からは何らの説明もないこと、以上の点を総合考慮すれば、原告の勤務状況を記したというカレンダー(<証拠略>)及びこれを説明する原告の陳述書(<証拠略>)及び本人尋問における供述を加えて考え合わせても、原告が平成七年一月から平成九年四月までに被告で就労した日ごとの労働時間が別紙時間外割増賃金未払金額一覧と題する書面に記載したとおりであることを認めるには足りないというべきである。

そして、(証拠略)は、仮に原告の主張する労働時間が正しいとしても、通勤時間と休憩時間は差し引くべきであることを明らかにする趣旨で被告が本件訴訟になってから作成した書面であるというのである(<人証略>)から、(証拠略)を考え合わせても、平成七年一月から平成九年四月までの原告の時間外労働時間数が原告の主張するとおりであると認めることはできない。

他に平成七年一月から平成九年四月までの原告の時間外労働時間数が原告の主張するとおりであることを認めるに足りる証拠はない。

(3) ところで、被告で就労する従業員は班ごとに分かれており、所属する班の従業員の出勤状況や昼間作業に引き続いて夜間作業に従事する場合の時間外勤務時間数を除いたその余の時間外勤務時間(いわゆる残業時間)数についてはその所属する班の従業員の誰かが出勤簿と題する書面(<証拠略>)に毎日記載し、これを被告に提出し、被告はこれに基づいてその班に所属する従業員の出勤状況や時間外勤務時間数を記載した出勤簿と題する書面(<証拠略>)を作成してその班に所属する従業員の出勤状況や時間外勤務時間数を把握していたのである(前記第三の一3)から、昼間作業に引き続いて夜間作業に従事する場合の時間外勤務時間数を除いたその余の原告の時間外勤務時間数は出勤簿と題する書面(<証拠略>)のとおりであるというべきである。

(二) 平成七年一月から同年四月まで

前記第三の二1(一)、第三の一3によれば、平成七年一月から同年四月までの、昼間作業に引き続いて夜間作業に従事する場合の時間外勤務時間数を除いたその余の時間外勤務時間数は二〇時間であり、平成七年一月から同年四月までの原告の時間外勤務時間数は少なくとも二〇時間であるというべきである。

(三) 平成七年五月から同年一二月まで

前記第三の二1(一)、第三の一3によれば、平成七年五月から同年一二月までの、昼間作業に引き続いて夜間作業に従事する場合の時間外勤務時間数を除いたその余の時間外勤務時間数は二六時間であり、平成七年五月から同年一二月までの原告の時間外勤務時間数は少なくとも二六時間であるというべきである。

(四) 平成八年一月から同年一〇月まで

前記第三の二1(一)、第三の一3によれば、平成八年一月から同年一〇月までの、昼間作業に引き続いて夜間作業に従事する場合の時間外勤務時間数を除いたその余の時間外勤務時間数は三一時間であり、平成八年一月から同年一〇月までの原告の時間外勤務時間数は少なくとも三一時間であるというべきである。

(五) 平成八年一一月及び同年一二月

(1) 前記第三の二1(一)、第三の一3によれば、平成八年一一月及び同年一二月の、昼間作業に引き続いて夜間作業に従事する場合の時間外勤務時間数を除いたその余の時間外勤務時間数は二四時間である。

(2) 原告の平成八年一二月の給料支払明細書(<証拠略>)には時間外勤務時間数は一九時間と記載されているのに対し、出勤簿と題する書面(<証拠略>)の平成八年一二月分には残業時間は八時間と記載されていること、昼間作業に引き続いて夜間作業が行われた場合に夜間作業が就業規則で定められた終了時間である翌日の午前五時まで行われたとすると、時間外勤務時間数は休憩時間一時間を除くと一一時間になること(前記第三の一3)に照らせば、原告が平成八年一二月に一回だけ昼間作業から引き続いて行われた夜間作業に従事したこと、その時間外勤務時間数は一一時間であることが認められる。

(3) そうすると、平成八年一一月及び号(ママ)年一二月の原告の時間外勤務時間数は三五時間であるというべきである。

(六) 平成九年一月から同年四月まで

前記第三の二1(一)、前記第三の二1(四)(2)によれば、出勤簿と題する書面(<証拠略>)に記載された時間外勤務時間数は昼間作業に引き続いて夜間作業に従事する場合の時間外勤務時間数を除いたその余の時間外勤務時間数であるが、給料支払明細書(<証拠略>)に記載された時間外勤務時間数は昼間作業に引き続いて夜間作業に従事する場合の時間外勤務時間数を含めた時間外勤務時間数であるということになる。そうすると、原告の一時間当たりの時間外賃金は金三〇〇〇円である(前記第三の一3)から、平成九年一月から同年四月までの原告の時間外勤務時間数は平成九年一月から同年四月までの原告の給料支払明細書(<証拠略>)に記載された時間外勤務時間数又は賃金台帳(<証拠略>)の所定時間外割増賃金欄に記載された賃金額を金三〇〇〇円で除して得られる時間数のとおりであるということになる。

そして、平成九年一月から同年三月までの原告の給料支払明細書(<証拠略>)に記載された時間外勤務時間数の合計は二六時間、原告の賃金台帳(<証拠略>)に記載された平成九年四月の所定時間外賃金割増賃金は金〇円である(前記第三の一3)から、平成九年一月から同年四月までの原告の時間外勤務時間数の合計は二六時間ということになる。

2  原告の時間外賃金の額について

(一) 平成七年一月から平成八年一〇月まで

(1) 原告は平成七年一月から同年四月までに少なくとも合計二〇時間の時間外勤務をし、同年五月から平成八年一〇月までの間に少なくとも合計五七時間の時間外勤務をしていること、これに対する賃金が支払われていないことは前記第三の一3、第三の二1のとおりであるが、原告が平成五年一一月初旬ころ佐藤修との間で月給制の具体的な内容について話し合った際に原告の賃金を月給制とした後も従前どおり時間外賃金を支払うという話は出なかったこと、原告が平成五年一二月から平成八年一〇月までの間も時間外勤務をしていたにもかかわらず、被告はこの時間外勤務時間数に相当する時間外賃金を支払っていなかったが、原告からはその支払がないことについて格別異議は出なかったこと(前記第三の一4)、佐藤修は、その証人尋問において、日給月給制を月給制に変更する利点について月給制では天候に左右されることなく一定額の給料の支払が保証されることになることを挙げていることからすると、原告は被告との間で原告の時間外勤務時間については賃金を支払わないことを合意したものと考えられないでもない。

(2) ところで、仮に原告と被告が右のような合意をしたとしても、右の合意が原告が幾ら時間外勤務をしても一か月当たり金四一万円の給料のほかには労働基準法三七条一項に規定する割増賃金を支払わないという趣旨の合意であるとすれば、右の合意は労働基準法三七条一項に違反するものとして同法一三条により無効であるというべきである。

しかし、右の合意が原告の時間外勤務に対する割増賃金分を含めて原告の一か月当たりの給料を金四一万円とすることを合意したというのであれば、右の合意は労働基準法三七条一項に違反していないといいうる余地がないではないが、右の合意が労働基準法三七条一項に違反しないといいうるのは、一か月当たりの原告の時間外勤務時間数が原、被告の合意で定められている場合であると解されるところ、原告の時間外勤務時間数が毎月何時間になるかは工事の内容や期間などによって左右され、毎月時間外勤務時間数が一定であることは考え難いこと、現に平成七年一月から平成八年一〇月までの原告の時間外勤務時間数(ただし、原告が昼間作業から引き続いて行われた夜間作業に従事したことによる時間外勤務時間数を除く。)は毎月一定していないこと(前記第三の一3)、以上の点に照らせば、仮に原告と被告が原告の時間外勤務時間については賃金を支払わないことを合意したとしても、原告と被告がそのような合意をするに当たって一か月当たりの原告の時間外勤務時間数を定めてその時間外勤務に対する割増賃金分を含めて原告の一か月当たりの給料を定めたとは到底考えられないのであって(現に右のように定めたことを認めるに足りるに証拠はない。)、そうすると、原告の時間外勤務については賃金を支払わないという原告と被告との間の合意が労働基準法三七条一項に違反しないといいうる余地はないものというべきである。

(3) 以上によれば、仮に原告と被告が右の(1)で述べたように原告の時間外勤務時間については賃金を支払わないという合意をしたとしても、その合意は労働基準法三七条一項に違反して無効であり、したがって、被告は平成七年一月から平成八年一〇月までの原告の時間外勤務に対する賃金を支払う義務を負っているものと認められる。

(4) そこで、月給制における原告の一時間当たりの時間外賃金を計算するに、

ア 一時間当たりの割増賃金は通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ命令で定める率以上の率で計算した金額であり(労働基準法(平成五年法律第七五号による改正後のもの)三七条一項。なお、労働基準法第三七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(平成六年一月四日政令第五号)は、労働基準法三七条一項の命令で定める率は時間外労働については二割五分とすると定めている。)、通常の労働時間とは当該事業所の所定労働時間であり、月によって定められた賃金の一時間当たりの割増賃金は、一月当たりの賃金額を月における所定労働時間数で除した金額である(労働基準法施行規則一九条一項四号)が、月給制においては月によって所定労働時間数が異なるのが通例であるから、月給制における一時間当たりの割増賃金は、一月当たりの賃金を一年間における一月平均所定労働時間で除した金額ということになる(労働基準法施行規則一九条一項四号)。

イ ところで、証拠(<証拠略>)によれば、次の事実が認められる。

被告の就業規則には、次の定めがある。

(ア) 第六条(勤務時間)

勤務時間は、休憩時間を除き、実働一日八時間とする。

(イ) 第一〇条(休日)

休日は原則的に次のとおりとする。

<イ> 第一日曜日、第三日曜日

<ロ> 雨天等により野外作業が困難な場合

(ウ) 第一一条(休日の振替)

業務の都合でやむを得ない場合は、前条の休日を一週間以内の他の日と振り替えることがある。

前述の場合、前日までに振替による休日を指定して作業員に通知する。

(エ) 第一四条(休日労働)

業務上必要がある場合は、第一〇条の休日に労働を命ずることがある。

ウ 右イの被告の就業規則における休日に関する規定に、労働基準法三五条一項が「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも一回の休日を与えなければならない。」と規定し、同条二項が「前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。」と規定していることも併せて考えれば、就業規則一〇条は労働基準法三五条により少なくとも週一回又は四週間を通じ四日以上は与えなければならないとされている休日について被告がその従業員に与える休日をいつにするかについて定めた規定であると解するのが相当であり、被告がその従業員に対し与える休日はあくまでも週一回又は四週間を通じ四日であるというべきである。そして、被告においては従業員は週一回又は四週間を通じ四日の休日しか与えられないとなると、被告の従業員の一週の所定労働時間数は四八時間ということになるが、被告の従業員数は原告が被告に雇用された当初は二五名、退職したときは一二名である(<証拠略>)から、労働基準法(平成五年法律第七五号による改正後のもの)附則一三一条一項、労働基準法第三二条一項の労働時間に係る経過措置に関する政令(平成六年一月四日政令第二号)一条二号、二条により被告の営む建設業(労働基準法八条三号)については平成六年四月一日以降の一週の法定労働時間数は週四四時間となり、一週の所定労働時間が一週の法定労働時間を上回ることになるから、被告の従業員の一週の所定労働時間数は四四時間ということになる。

ところで、一年間における一月平均所定労働時間の算出方法には、一年間の所定労働日数を算定しこれを一二で除して一か月の労働日数を算出しこれに一日の所定労働時間数を乗じて算出するという方法があり、被告の就業規則によれば、被告の従業員の一日の所定労働時間は八時間とされているから、右の算出方法に従って一月平均所定労働日数を算出することも考えられないでもないが、そのような算出方法では被告の従業員の一週の所定労働時間数が四四時間であることに抵触してしまう上、一日の所定労働時間を八時間とする就業規則の定めも労働基準法三二条二項に照らし有効であるから、一週の所定労働時間四四時間を六日で除した七時間二〇分をもって一日の所定労働時間とすることもできないから、結局のところ、一週の所定労働時間数が四四時間であることを前提に、一年間の日数を七日で除して得られた一年間の週の数に四四時間を乗じて一年間の所定労働時間数を算出し、これを一二か月で除して一月平均所定労働時間数を算出することとする。

そうすると、一年が三六五日の場合には三六五日を七日で除して得られた一年間の週の数に四四時間を乗じこれを一二か月で除して得られた

365(日)÷7(日)×44(時間)÷12(月)=16,060/84(時間)

八四分の一六〇六〇時間が被告の従業員の一月平均所定労働時間数ということになり、一年が三六六日の場合には三六六日を七日で除して得られた一年間の週の数に四四時間を乗じこれを一二か月で除して得られた

366(日)÷7(日)×44(時間)÷12(月)=16,104/84(時間)

八四分の一六一〇四時間が被告の従業員の一月平均所定労働時間数ということになる。

そして、平成七年一月から平成八年一〇月までの一か月当たりの原告の賃金は金四一万円である(前記第二の二2)から、これを右の各一月平均所定労働時間数で除して得られた金額(通常の労働時間の賃金)を二割五分増しにした

410,000(円)÷16,060/84(時間)×1.25=2,680.57(円)

410,000(円)÷16,104/84(時間)×1.25=2,673.24(円)

金二六八一円(一年が三六五日の場合)又は金二六七三円(一年が三六六日の場合)が原告の一時間当たりの割増賃金額ということになる(なお、右の割増賃金の端数計算に当たっては五〇銭未満は切り捨て、それ以上は一円に切り上げた(昭和六三年三月一四日基発第一五〇号)。)。

(5) 平成七年は年三六五日であったが、平成八年は年三六六日であったから、平成七年の原告の時間外賃金の計算においては一時間当たりの割増賃金は金二六八一円であり、平成八年の原告の時間外賃金の計算においては一時間当たりの割増賃金は金二六七三円であるということになるところ、平成七年一月から同年四月までの原告の時間外勤務時間数は二〇時間(前記第三の二1(二))であり、同年五月から同年一二月までの原告の時間外勤務時間数は二六時間(前記第三の二1(三))であり、平成八年一月から同年一〇月までの原告の時間外勤務時間数は三一時間(前記第三の二1(四))であるから、被告の未払時間外賃金は平成七年一月から同年四月までが金五万三六二〇円であり、同年五月から同年一二月までの分が金六万九七〇六円、平成八年一月から同年一〇月までの分が金八万二八六三円である。

(二) 平成八年一一月から平成九年四月まで

平成八年一一月、同年一二月、平成九年一月及び同年三月の時間外勤務時間数について賃金が支払われていることは前記第三の一3から明らかであり、また、平成九年二月及び同年四月には時間外勤務がなかったことは前記第三の一3から明らかである。

(三) 小括

被告の未払時間外賃金は、平成七年一月から同年四月までが金五万三六二〇円であり、同年五月から同年一二月までの分が金六万九七〇六円、平成八年一月から同年一〇月までの分が金八万二八六三円である。

3  消滅時効の成否について

(一) 原告の一か月分の賃金は翌月二五日に支払われていた(前記第二の二2)のであるから、平成七年四月分の賃金の支払時期は同年五月二五日ということになり、そうすると、平成七年四月分以前の賃金は平成七年四月分の賃金の支払日の翌日から起算して二年後である平成九年五月二五日の経過によって時効により消滅するところ、原告が本件訴訟を提起したのは同月三〇日であること、被告が平成七年一月から同年四月までの原告の時間外賃金債権について消滅時効を援用していることは当裁判所に顕著である。

(二) 右(一)によれば、平成七年一月から同年四月までの原告の時間外賃金債権(金五万三六二〇円)は時効により消滅しているというべきである。

(三) これに対し、原告は、日給月給制になってから被告が時間外賃金を支払わなくなったことについて時間外賃金を支払うよう被告に求めていたから、被告が消滅時効を援用することは援用権の濫用として許されないと主張するが、日給月給制になってから被告が時間外賃金を支払わなくなったことについて原告から格別異議は出なかったのである(前記第三の一4)から、原告の主張はその前提を欠いており、その余の点について判断するまでもなく、原告の主張は採用できない。

4  結論

以上によれば、原告の時間外賃金の請求は平成七年五月から平成八年一〇月までの賃金の合計金一五万二五六九円及びこれに対する支払日の後であることが明らかな平成九年六月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

三  争点3(賞与の未(ママ)払義務の有無)について

原告と被告が平成五年一一月初旬ころに原告の給料を月給制とすることを合意した際の話合いの内容(前記第三の一4)に照らせば、被告が原告との間で毎年七月と一二月に賞与として金四一万円を支払うことを合意したことを認めることはできない。

したがって、原告の未払賞与の請求は理由がない。

四  争点4(年次有給休暇相当分の支払義務の有無)について

1  平成九年一月一三日、同月二七日、同年二月一〇日、同月二〇日及び同年三月一七日の有給休暇について

(一)ア 使用者は労働基準法三九条一ないし三項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない(同条四項)が、労働者による有給休暇の請求は時季指定に係る労働日以前にされなければならないのであって、有給休暇の請求が時季指定に係る労働日以後にされた場合の有給休暇の請求とは、有給休暇の請求が事前にされなかったために当該労働者の指定に係る労働日の就労義務が消滅しておらず、したがって、当該労働日は欠勤と取り扱われたことについて、労働者が欠勤とされた日を有給休暇に振り替える措置(いわゆる年休の振替)を求めるものにすぎず、労働基準法三九条四項に規定する有給休暇の請求とは異なるものである。そして、使用者が年休の振替を認めるかどうかは使用者の裁量に委ねられているというべきである。

イ 被告では従業員から事後に有給休暇の請求があってもこれを認めない取扱いをしていたのであり、原告の平成九年一月一三日と同月二七日を有給休暇とする旨の請求は事後の請求であったこと(前記第三の一5)からすれば、被告が平成九年一月一三日と同月二七日に原告が欠勤したことについて有給休暇への振替を認めなかったことが違法であるということはできない。

ウ これに対し、原告は平成九年一月八日に佐藤修から病院に行くために有給休暇を取ることについて了解を得ていたので、現場監督らと相談の上作業に支障のない日に有給休暇を取ることにしたと主張し、その陳述書(<証拠略>)及び本人尋問においておおむね右の主張に沿う供述をしているが、右の主張や供述からすれば、佐藤修から了解を得たとされるときには有給休暇を取得する具体的な日にちを挙げて有給休暇の請求をしたわけではないというべきであり、したがって、仮に原告の主張するように平成九年一月八日に佐藤から了解を得たとしても、そのときに有給休暇を請求したということはできない。また、現場監督らと相談したからといって、それだけでは被告に対し有給休暇を請求したということはできない。

したがって、原告が被告に対し平成九年一月一三日と同月二七日に有給休暇を取ることを事前に請求したということはできない。

エ 以上によれば、原告は平成九年一月一三日と同月二七日に欠勤したというべきである。

(二) 原告は同年二月一〇日、同月二〇日及び同年三月一七日に病気治療のために休んで、いずれも欠勤扱いとされている(前記第三の一5)が、原告の陳述書(<証拠略>)及び本人尋問における供述だけでは、原告が被告に対し右の各日にちに有給休暇を取ることを事前に請求したことを認めるには足りないというべきであり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、原告は同年二月一〇日、同月二〇日及び同年三月一七日に欠勤したというべきである。

(三) 以上によれば、原告は平成九年一月一三日、同月二七日、同年二月一〇日、同月二〇日及び同年三月一七日に有給休暇を取らずに欠勤したのであるから、右の各日にちについて有給休暇であることを理由に賃金を請求することはできない。

2  退職届の提出から二週間の有給休暇について

(一) 原告が退職届を提出した際の状況及び退職届を提出した後の原告の出勤の状況(前記第三の一8)に照らせば、原告は退職届の提出をもって被告に対し原、被告間の雇用契約を合意解約することを申し入れたものと認められ、被告はそれを受けて原告が退職届を提出した日に退職したものと取り扱った(前記第三の一8)というのであるから、それによって原、被告間の合意解約が成立し、原、被告間の雇用契約は平成九年五月一二日をもって終了したというべきである。

これに対し、原告は退職届を提出する際に二週間の有給休暇を消化したいので退職する日を二週間の有給休暇が経過する日の翌日にするよう申し入れたと主張し、これに沿う陳述書(<証拠略>)及び本人尋問における原告の供述もあるが、右の原告の供述だけでは原告の主張に係る申入れをしたことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(二) そうすると、原告が被告に退職届を提出した後の一四日間について有給休暇であることを理由に賃金を請求することはできない。

3  その余の有給休暇について

原告は一日当たり金二万円と換算して右1及び2の各日にちを含む二七日分の有給休暇相当分合計金五四万円の支払を請求しているが、右1及び2の各日にちの外に有給休暇を申請したにもかかわらず欠勤扱いとされた日にちを具体的に特定しておらず、そもそもいつどのような状況で有給休暇が申請され、それにもかかわらず欠勤扱いとされたのかは一切不明であるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求に係る二七日分の有給休暇から右1及び2を除いたその余について有給休暇であることを理由に賃金を請求することはできない。

4  以上によれば、原告の有給休暇相当分の金員の請求は理由がない。

五  争点5(休業手当相当分の支払義務)について

被告が原告の主張に係る日にち(前記第二の三5(一))に原告を稼働させなかったのは被告に仕事がなかったからである(前記第三の一6)というのであるから、被告が原告の主張に係る日にちについて賃金の支払義務を負うことはない。原告の休業手当相当分の金員の請求は理由がない。

六  争点6(昼勤を理由とする賃金の控除分の支払義務)について

原告と被告は平成八年一一月以降の日給月給制において昼間作業については一日当たり金一万八〇〇〇円、夜間作業については金二万円とすることを合意したのである(前記第三の一7)から、被告が原告に対し原告の主張に係る昼勤を理由とする賃金の控除分について支払義務を負うことはない。右の認定に反する陳述書(<証拠略>)及び本人尋問における原告の供述は採用できない。

したがって、原告の昼勤を理由とする賃金の控除分の請求は理由がない。

七  争点7(付加金の支払義務)について

1  被告は原告に対し時間外賃金として金一五万二五六九円の支払義務を負っているにもかかわらず、原告の賃金を日給月給制から月給制に切り替えたことを理由に時間外賃金を支払わないことにしたのである(前記第三の二4)から、当裁判所は時間外賃金については原告の請求を相当と認め、労働基準法一一四条により、被告に対し右の時間外賃金と同額の付加金の支払を命ずる。

2  これに対し、被告は原告に対し平成九年四月分の賃金一六万円の支払義務を負っているにもかかわらず、これを支払っていないが、原告の一か月の賃金は翌月の二五日払いであったこと(前記第二の二2)、原告は平成九年四月分の賃金の支払日である平成九年五月二五日より前の同月一二日に被告に退職届を提出して被告を退職していること、被告は退職届の提出を受けて原告を退職届を提出した日に退職したものとして取り扱うこととし、平成九年四月分の賃金を取りにくるよう求めたが、原告はこれに応じなかったこと(前記第三の一8)、以上の経緯に照らせば、平成九年四月分の賃金については付加金の支払を命ずる必要はないとするのが相当である。

したがって、当裁判所は、平成九年四月分の賃金については被告に対する付加金の支払を命じないこととする。

3  原告は付加金の支払について遅延損害金の支払を求めているが、付加金支払義務は、その支払を命ずる裁判所の判決の確定によって初めて発生するものであるから、右判決確定前においては、右付加金支払義務は存せず、したがって、これに対する遅延損害金も発生する余地はない。したがって、原告の付加金の請求のうち遅延損害金の支払を求める部分は失当である。

4  以上によれば、原告の付加金の請求は金一五万二五六九円の支払を求める限度で理由がある。

第四結論

以上によれば、原告の本訴請求は、平成九年四月の未払賃金一六万円及びこれに対する支払日の後であることが明らかな同年六月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、時間外賃金一五万二五六九円及びこれに対する支払日の後であることが明らかな同年六月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに付加金一五万二五六九円の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 鈴木正紀)

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