東京地方裁判所 平成9年(ワ)12484号 判決 1998年12月25日
第一事件原告・第二事件被告
株式会社ヒサキ
第一事件被告・第二事件原告
亡阿部允承継人阿部繁子
ほか一名
第二事件被告
戸栗秀樹
主文
一 第一事件被告らは、第一事件原告に対し、それぞれ、金四五万四九八八円及びこれに対する平成九年七月一六日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 第二事件被告らは、第二事件原告阿部繁子に対し、各自金七万九五七〇円及びこれに対する平成九年三月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 第二事件被告らは、第二事件原告阿部かほるに対し、各自金五万七一七〇円及びこれに対する平成九年三月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 第一事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。
五 第二事件原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用は、第一事件及び第二事件を通じてこれを五分し、その一を第一事件原告兼第二事件被告及び第二事件被告の負担とし、その余を第一事件被告兼第二事件原告らの負担とする。
七 この判決は、第一項ないし第三項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求(いずれも亡阿部允が死亡し相続がなされた後のものを表示する。)
一 第一事件
第一事件被告らは、第一事件原告に対し、それぞれ金七九万三七三五円及びこれに対する平成九年七月一六日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 第二事件
1 第二事件被告らは、各自、第二事件原告阿部繁子に対し、金六二万二八五二円及びこれに対する平成九年三月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 第二事件被告らは、各自、第二事件原告阿部かほるに対し、金三六万〇八五二円及びこれに対する平成九年三月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、以下に述べる交通事故につき、第一事件原告(以下、「原告会社」という。)が、第一事件被告らに対し、民法七〇九条に基づき損害賠償を求めた事案(第一事件)、及び、第二事件原告らが、右交通事故により被った損害につき、民法七〇九条、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項、自賠法三条に基づき、第二事件被告らに賠償を求めた事案(第二事件)である。
一 争いのない事実
交通事故(以下、「本件事故」という。)の発生
1 日時 平成九年三月二七日午後零時一五分ころ
2 場所 東京都杉並区松庵二丁目一五番五号先路上
3 第一当事者 普通乗用車(大宮三三め六五〇一、ポルシェ、以下、「戸栗車」という。)を運転していた第二事件被告戸栗(以下、「被告戸栗」という。)
4 第二当事者 普通乗用車(多摩三四と一五〇〇、トヨタセルシオ、以下、「阿部車」という。)を運転していた亡安保允(以下、「亡允」という。)
5 態様 亡允が第一事件被告兼第二事件原告阿部繁子(以下、「被告繁子」という。)を助手席に同乗させて、井の頭通りを吉祥寺方面から渋谷方面へ阿部車を直進させていたところ、交差道路左方から左折してきた戸栗車と接触事故を起こし、阿部車の左フェンダー部分と戸栗車の右前部が衝突した。
二 争点
本件の争点は以下の二点である。
1 本件事故に関して、亡允の過失の有無、被告戸栗の過失の有無、仮に両者に過失がある場合は、両者の過失の割合。特に、阿部車側の信号が青だったのか、戸栗車側の信号が青だったのかで双方の主張は厳しく対立している。
2 原告会社並びに亡允及び被告繁子の各損害の有無
第三当裁判所の判断
一 争点1について
1 双方の信号表示について
本件において、亡允及び被告戸栗の過失を検討するに当たっては、双方の従うべき信号表示がどうであったかを検討することが必要となる。
この点、被告戸栗は、戸栗車を、井の頭通りに交差する道路で赤信号により停止した後、青になったので進行左折を開始したところ、右側から進行してきた阿部車と接触してはじき飛ばされ、井の頭通りの進行方向の歩道側に停車していた訴外高木運輸の普通貨物自動車(以下「訴外貨物車」という。)の下に入り込む形で衝突して停止したと説明している(甲第九号証、被告戸栗本人)。
一方、亡允は、阿部車を青信号に従い本件事故現場を進行させていたが、当時は交通渋滞で一寸刻みの走行を余儀なくされていたところ、左方の交差道路から信号が赤であるのに、戸栗車が突然進行していたため、戸栗車が阿部車の左側面に激しく衝突したとしている(乙第三ないし第五号証)。
また、阿部車に同乗していた被告繁子は、本件事故現場の交差点を通過する際には渋滞中であったが、交差点を通り過ぎるくらいのときに、左斜め後方に停止してはいたが今にも発進しそうであった戸栗車を発見し、その後一度前を見た後再び左斜め後ろを見ると、戸栗車が阿部車めがけて飛び込んでくるようにして衝突し、それも二度にわたって衝突してきたと説明している(乙第二〇号証、被告繁子本人)。
乙第一一号証(実況見分調書)によれば、戸栗車は阿部車と衝突した後、進路前方左側に駐車していた訴外貨物車に衝突したことが明らかであり、この事実は、戸栗車は衝突により、進行方向を左方に替えられたことを意味し、一方、阿部車は、戸栗車と衝突した後も、進行方向をほとんど変えず戸栗車よりも先に前方に進行している(被告繁子も、衝突により減速したが、阿部車の向きは、変わっていない趣旨の供述をしている。)。
右の事実に照らせば、戸栗車の右前部と阿部車の左側面が衝突した時点では、戸栗車よりも阿部車の方が速度が大きかったものと推認できる。したがって、阿部車が停止していた、または低速で走行していた際に、戸栗車が相当の速度で激突してきたとする被告繁子らの主張は採用でききない。また、被告繁子は、停止していた戸栗車が突然信号を無視して二回も阿部車に衝突してきたと説明するが、停止していた戸栗車がなぜ信号を無視して突然発進走行してきたのか、なぜ、二回も衝突してきたのか説明することは困難である。亡允は、被告戸栗が、アクセルとブレーキを踏み間違えたものと推測している(乙第四号証等)が、被告戸栗は、外車の販売を業としており、自らもポルシェを運転していたことがあるのであるから、単にアクセルとブレーキを踏み間違うということは考えにくい。まして、被告繁子の説明では、戸栗車は交差点で停止していたのであるから、この時点でアクセルとブレーキの踏み間違いがなかったことは明らかである。
その他、戸栗車は、原告会社が顧客に販売した車であり、そのような車を運転する場合は自己の車両を運転する場合よりも一層注意深く運転するのが通常であると考えられる。
以上によれば、被告戸栗は、本件事故現場において、赤信号で停止した後、青信号で発進左折したところ、被告繁子らが供述するように折からの渋滞もあって、亡允が思うように本件交差点を直進進行できなかったために、阿部車の前方が空いたので既に信号表示は青ではなくなっていたのに、直進進行して本件事故が惹起されたと考えるのが最も合理的である。
2 双方の過失の有無
1で検討したとこによれば、亡允に信号表示に従わなかった過失があることは明白である。
他方、被告戸栗の方も、渋滞していた交差点を左折するにあたり、交差点内の安全確認が十分でなかったものと認められる。なぜならば、本件事故は、交差点に入る際の事故ではなく、かなり左折して中央よりの車線に入ろうとした際の事故であり、しかも、戸栗車は右前部で阿部車の左側面(助手席ドア付近)に衝突していることからみて、阿部車の方が交差点に先に入った可能性が高く、当時井の頭通りが交通渋滞であったことをも考慮すれば、被告戸栗としても、左折進行するにあたり交差道路右方の安全確認をすれば、阿部車の存在を認識し、その動静を注意すれば本件事故を回避できたものと考えられるからである。
よって、本件事故については、亡允及び被告戸栗の双方に過失があるものと認められ、その割合は、亡允側が八割、被告戸栗側が二割と考えるのが相当である。
二 争点二について
双方が主張する損害について判断する。
以下においては、双方が主張する損害ごとに、必要な限度で当事者の主張を簡潔に示しつつ、当裁判所の判断を表示すこととする。
なお、結論を明示するために、各損害ごとに裁判所の認定額を冒頭に記載し、併せて括弧内に原告の請求額を記載する。
1 原告会社の損害について
(一) 修理代金 金六三万七四七〇円(請求どおり)
本件事故により、戸栗車が損傷を受けたことは明らかであり、その修理代金は、甲第三号証により金六三万七四七〇円と認める。
(二) 代金減額分 金四〇万円(請求額金六五万円)
原告会社は、本件戸栗車を、平成九年三月二〇日、代金四八〇万円で訴外真壁製作所に売却する旨契約し、戸栗車の登録名儀を訴外会社に変更しに行く際に本件事故に遭ったものであり、事故車であること、納車が遅れたことを理由に、六五万円の減額を強いられたとしている。
証拠(甲第四、第五号証、被告戸栗本人)によれば、総額五一〇万円で売却する予定であったのに、実際には四四三万五〇五〇円しか受領していないことが認められる。
しかしながら、これら全額を損害と認めることは相当ではない。事故により車両を修理しても車両の時価が下落すること(評価損)はあり得ることであるし、本件の場合具体的に売却の合意まであったのであるから、これを認めることが相当であるが、事故車であること、納期の遅れという観点からの減額といえども、原告会社と買手の間の交渉等の問題を無視できない。本件車両の修理代金額等からみて、本件事故と相当因果関係のある代金減額分としては、金四〇万円と認めるのが相当である。
(三) 弁護士費用 金一〇万円(請求額金三〇万円)
原告会社が本件訴訟を弁護士である代理人に委任したことは当裁判所に顕著な事実であり、本件事案の内容、認容額、審理経過等を総合すれば、弁護士費用としては、金一〇万円をもって相当と認める。
(四) 合計額 金一一三万七四七〇円
2 亡允らの損害について
(一) 修理代金 金四〇万五三九四円(請求どおり)
本件事故により、阿部車が損傷を受けたことは明らかであり、その修理代金は、乙第一三号証により金四〇万五三九四円と認める。
(二) タクシー代 金五万〇二七〇円(請求どおり)
被告繁子は、亡允が運転する阿部車により東京医科歯科大学病院へ通院していたところ、本件事故のために阿部車が使用できなかった期間タクシーを使用し、その額は前記のとおりと認められる(乙第一二号証の一、二)。
(三) 治療費 亡允分 金一万三一〇〇円(請求どおり)
被告繁子分 金一万二〇〇〇円(請求どおり)
本件事故により、亡允及び被告繁子は頸部捻挫の傷害を負い治療を受け、その費用は前記のとおりであると認められる(乙第七ないし第一〇号証)
(四) 通院慰謝料
亡允分及び被告繁子分各一〇万円(請求額各二五万円)
亡允及び被告繁子の受傷の部位、程度並に通院状況(いずれも二二日間において実通院日数は三日)を総合勘案すれば、本件事故による通院に関する慰謝料としていずれも金一〇万円とするのが相当である。
(五) 医師への謝礼 金二九四〇円(請求どおり)
医師への謝礼として亡允が菓子を贈ったもの(乙第一二号証の一、二)であり、その金額から見て、社会通念上不相当とまでは言えないであろう。
(六) 合計額
亡允分 金五七万一七〇四円
被告繁子分 金一一万二〇〇〇円
三 結論
以上のとおり損害額を、前述した過失割合に従って処理する。
1 第一事件において原告会社が賠償を求められる額は、金九〇万九九七六円となり、亡允の死亡により賠償義務を承継した被告繁子及び被告かほるは、それぞれ金四五万四九八八円の支払義務を負う。
2 第二事件において亡允が賠償を求められる額は、亡允分として金一一万四三四〇円であり、亡允の死亡により被告繁子及び被告かほるが、それぞれ金五万七一七〇円を賠償請求できる。また、被告繁子は、自身の分として金二万二四〇〇円を請求できる。したがって、被告繁子の請求できる総額は金七万九五七〇円である。
3 訴訟費用の負担については、民事訴訟法六一条、六四条、六五条一項を適用する。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 村山浩昭)